JP3884367B2 - 変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる燃料容器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる燃料容器に関する。また、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体と、それ以外の熱可塑性樹脂との樹脂組成物からなる燃料容器に関する。さらに、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなる層と、それ以外の熱可塑性樹脂からなる層を有する多層構造体からなる燃料容器に関する。
【0002】
【従来の技術】
プラスチック製燃料タンクとしては、ポリエチレン製単層型のものが使用されているが、比較的高いガソリン透過性を有するという欠点がある。これに対し、タンクを多層構造にし、バリア層にナイロンを用い、その両側に接着性樹脂層を介して高密度ポリエチレン層を設けた3種5層構造のものも提案されている。
【0003】
一方、近年の環境汚染に対する規制強化の実施や、大気汚染防止及びガソリンの消費節約の観点から、ガソリンのオクタン価改良や排気ガス中の未燃焼炭化水素量の削減のために、メタノール、エタノール、MTBE等の酸素元素含有化合物をブレンドしたガソリン(以下含酸素ガソリンと略記する)が米国を中心に使用されている。
【0004】
しかしながら、上記のようなポリエチレンとナイロンの多層構造にする方法や、ポリエチレンにナイロンを混合して同時に溶融押し出し、ポリエチレン層中にナイロンを不連続の薄層状に分散する方法等においては、含酸素ガソリンに対するバリア性に問題がある。かかる状況において、ガソリンバリア性に優れる容器としてポリエチレンとエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVOHと略称することがある。)の多層タンクが提案され、上述の各種燃料容器と比較してより良好なガソリンバリア性を得ることができるようになった。しかしながら、その多層タンクは耐衝撃性に問題を残している。
【0005】
EVOH樹脂を中間層とする燃料容器の耐衝撃性を改善するために、EVOH樹脂に各種の樹脂をブレンドする手法が提案されている。例えば、特開平10−24505号公報(特許文献1)には、EVOHにコアシェル構造を有する樹脂微粒子を配合した樹脂組成物層を有する多層構造体からなる燃料容器が記載されている。特開平10−128884号公報には、EVOHにエチレン−(メタ)アクリル酸共重合体を配合した樹脂組成物層を有する多層構造体からなる燃料容器が記載されている。また、特開2000−255537号公報には、EVOHにポリアミド樹脂、オレフィン−不飽和カルボン酸共重合体又はその金属塩、及び疎水性熱可塑性樹脂を配合した樹脂組成物層を有する多層構造体からなる燃料容器が記載されている。これらの手法によれば、いずれもガソリンバリア性の低下を抑えながら、耐衝撃性が改善される旨記載されている。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−24505号公報(特許請求の範囲、第2頁)
【特許文献2】
特開平10−128884号公報(特許請求の範囲、第2頁)
【特許文献3】
特開2000−255537号公報(特許請求の範囲、第2頁)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記方法によってもなお、燃料容器の耐衝撃性の改善が不十分な場合があった。さらに、近年では燃料容器、特に自動車用の燃料容器などにおいては、その形状が複雑になってきており、複雑な形状に対応できるような成形性の良好なバリア性樹脂あるいは樹脂組成物が望まれているところである。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、燃料のバリア性に優れ、耐衝撃性にも優れ、しかも成形性の良好な変性EVOHからなる燃料容器を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる燃料容器を提供することによって達成される。
【0010】
【化4】
【0011】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していても良い。またR1、R2、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0012】
また、上記課題は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)と、(C)以外の熱可塑性樹脂(T1)との樹脂組成物からなる燃料容器を提供することによっても達成される。
【0013】
【化5】
【0014】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していても良い。またR1、R2、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0015】
このとき、熱可塑性樹脂(T1)が前記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)であることが好適である。
【0016】
また、上記課題は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる層と(C)以外の熱可塑性樹脂(T2)からなる層を有する多層構造体からなる燃料容器を提供することによっても達成される。
【0017】
【化6】
【0018】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基又は炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でも良いし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していても良い。またR1、R2、R3及びR4は水酸基、カルボキシル基又はハロゲン原子を有していても良い。)
【0019】
このとき、熱可塑性樹脂(T2)がポリオレフィンであることが好適であり、さらに、中間層が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)であり、その両面に接着性樹脂層を介してポリオレフィンからなる内外層が積層された多層構造体からなることがより好適である。本発明の燃料容器は好適にはブロー成形してなるものであるか、熱成形してなるものである。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明で使用する変性EVOH(C)は、下記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)である。
【0021】
【化7】
【0022】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。R1、R2、R3及びR4は同じ基でもよいし、異なっていても良い。また、R3とR4とは結合していてもよい(ただし、R3及びR4がともに水素原子の場合は除かれる)。また上記のR1、R2、R3及びR4は他の基、例えば、水酸基、カルボキシル基、ハロゲン原子などを有していてもよい。)
【0023】
より好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子である。さらに好適な実施態様では、前記R1及びR2がともに水素原子であり、前記R3及びR4のうち、一方が炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基であって、かつ他方が水素原子である。好適には、前記脂肪族炭化水素基がアルキル基又はアルケニル基である。燃料バリア性、特にガソリンバリア性を重視する観点からは、前記R3及びR4のうち、一方がメチル基又はエチル基であり、他方が水素原子であることがより好ましい。
【0024】
また、燃料バリア性の観点からは、前記R3及びR4のうち、一方が(CH2)iOHで表される置換基(ただし、i=1〜8の整数)であり、他方が水素原子であることも好ましい。燃料バリア性、特にガソリンバリア性を重視する場合は、前記の(CH2)iOHで表される置換基において、i=1〜4の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。
【0025】
変性EVOH(C)に含まれる上述の構造単位(I)の量は0.3〜40モル%の範囲内であることが必要である。構造単位(I)の量の下限は、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。一方、構造単位(I)の量の上限は、35モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下であることがさらに好ましい。含まれる構造単位(I)の量が上記の範囲内にあることで、燃料バリア性、耐衝撃性、成形性及び延伸性を兼ね備えた変性EVOH(C)を得ることができる。
【0026】
変性EVOH(C)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。変性EVOH(C)のエチレン含有量が5モル%未満の場合は、耐衝撃性、成形性及び延伸性が悪化するおそれがある。より好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、変性EVOH(C)のエチレン含有量が55モル%を超えると燃料バリア性、特にガソリンバリア性が悪化するおそれがある。より好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。
【0027】
変性EVOH(C)を構成する、上記構造単位(I)及びエチレン単位以外の構成成分は、主としてビニルアルコール単位である。このビニルアルコール単位は、通常、原料のEVOH(A)に含まれるビニルアルコール単位のうち、一価エポキシ化合物(B)と反応しなかったビニルアルコール単位である。また、EVOH(A)に含まれることがある未ケン化の酢酸ビニル単位は、通常そのまま変性EVOH(C)に含有される。変性EVOH(C)は、これらの構成成分を含有するランダム共重合体であることが、NMRの測定や融点の測定結果からわかった。さらに、本発明の目的を阻害しない範囲内で、その他の構成成分を含むこともできる。
【0028】
変性EVOH(C)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。
【0029】
上記の変性EVOH(C)を製造する方法は特に限定されない。本発明者らが推奨する方法は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(C)を得る方法である。
【0030】
また、本発明が解決しようとする課題は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させて得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)からなる燃料容器を提供することによっても達成される。
【0031】
本発明で変性EVOH(C)の原料として用いられるEVOH(A)としては、エチレン−ビニルエステル共重合体をケン化して得られるものが好ましい。EVOHの製造時に用いるビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的なものとして挙げられるが、その他の脂肪酸ビニルエステル(プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなど)も使用できる。また、本発明の目的が阻害されない範囲であれば、他の共単量体、例えば、プロピレン、ブチレン、イソブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどのα−オレフィン;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの不飽和カルボン酸又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;N−ビニルピロリドンなどのビニルピロリドン等を共重合することもできる。
【0032】
EVOH(A)として、共重合成分としてビニルシラン化合物を共重合したEVOHを用いる場合、共重合量として0.0002〜0.2モル%を含有することが好ましい。かかる範囲でビニルシラン化合物を共重合成分として有することにより、共押出成形を行う際の、基材樹脂と変性EVOH(C)との溶融粘性の整合性が改善され、均質な共押出多層フィルム成形物の製造が可能となる場合がある。特に、溶融粘度の高い基材樹脂を用いる場合、均質な共押出多層フィルム成形物を得ることが容易となる。ここで、ビニルシラン系化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、γ−メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等が挙げられる。なかでも、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランが好適に用いられる。
【0033】
本発明に用いられるEVOH(A)のエチレン含有量は5〜55モル%であることが好ましい。EVOH(A)のエチレン含有量が5モル%未満の場合は、得られる変性EVOH(C)の耐衝撃性、成形性及び延伸性が悪化するおそれがある。より好適には10モル%以上であり、さらに好適には20モル%以上であり、特に好適には25モル%以上であり、さらに好適には31モル%以上である。一方、EVOH(A)のエチレン含有量が55モル%を超えると、得られる変性EVOH(C)の燃料バリア性、特にガソリンバリア性が悪化するおそれがある。より好適には50モル%以下であり、さらに好適には45モル%以下である。なおここで、EVOH(A)がエチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合重量比から算出される平均値をエチレン含有量とする。
【0034】
さらに、本発明に用いられるEVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は好ましくは90%以上である。ビニルエステル成分のケン化度は、より好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、最適には99%以上である。ケン化度が90%未満では、燃料バリア性、特にガソリンバリア性が低下するおそれがあるだけでなく、熱安定性が不十分となり、成形物にゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。なおここで、EVOH(A)がケン化度の異なる2種類以上のEVOHの配合物からなる場合には、配合重量比から算出される平均値をケン化度とする。
【0035】
なお、EVOH(A)のエチレン含有量及びケン化度は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0036】
さらに、EVOH(A)として、本発明の目的を阻外しない範囲内で、ホウ素化合物をブレンドしたEVOHを用いることもできる。ここでホウ素化合物としては、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては上記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。
【0037】
EVOH(A)として、ホウ素化合物をブレンドしたEVOH(A)を用いる場合、ホウ素化合物の含有量は好ましくはホウ素元素換算で20〜2000ppm、より好ましくは50〜1000ppmである。この範囲内でホウ素化合物をブレンドすることで加熱溶融時のトルク変動が抑制されたEVOH(A)を得ることができる。20ppm未満ではそのような効果が小さく、2000ppmを超えるとゲル化しやすく、成形性不良となる場合がある。
【0038】
また、EVOH(A)として、リン酸化合物を配合したEVOH(A)を用いてもよい。これにより樹脂の品質(着色等)を安定させることができる場合がある。本発明に用いられるリン酸化合物としては特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩のいずれの形で含まれていても良いが、第一リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩であることが好ましい。これらの中でもリン酸二水素ナトリウム及びリン酸二水素カリウムが好ましい。リン酸化合物を配合したEVOH(A)を用いる場合の、リン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には5〜100ppmであり、最適には5〜50ppmである。
【0039】
ただし、後述のように周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)の存在下にEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させる場合には、リン酸塩が触媒を失活させるのでできるだけ少ないことが好ましい。その場合のEVOH(A)のリン酸化合物の含有量は、好適にはリン酸根換算で200ppm以下であり、より好適には100ppm以下であり、最適には50ppm以下である。
【0040】
また、後述する通り、変性EVOH(C)は、好適にはEVOH(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)との反応を、押出機内で行わせることによって得られるが、その際に、EVOHは加熱条件下に晒される。この時に、EVOH(A)が過剰にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含有していると、得られる変性EVOH(C)に着色が生じるおそれがある。また、変性EVOH(C)の粘度低下等の問題が生じ、成形性が低下するおそれがある。また、後述のように触媒(D)を使用する場合には、触媒(D)を失活させるため、それらの添加量はできるだけ少ないことが好ましい。
【0041】
上記の問題を回避するためには、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で50ppm以下であることが好ましい。より好ましい実施態様では、EVOH(A)が含有するアルカリ金属塩が金属元素換算値で30ppm以下であり、さらに好ましくは20ppm以下である。また、同様な観点から、EVOH(A)が含有するアルカリ土類金属塩が金属元素換算値で20ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましく、5ppm以下であることがさらに好ましく、EVOH(A)にアルカリ土類金属塩が実質的に含まれていないことが最も好ましい。
【0042】
また、本発明の目的を阻外しない範囲内であれば、EVOH(A)として、熱安定剤、酸化防止剤を配合したものを用いることもできる。
【0043】
本発明に用いられるEVOH(A)の固有粘度は0.06L/g以上であることが好ましい。EVOH(A)の固有粘度はより好ましくは0.07〜0.2L/gの範囲内であり、さらに好ましくは0.075〜0.15L/gであり、特に好ましくは0.080〜0.12L/gである。EVOH(A)の固有粘度が0.06L/g未満の場合、機械的強度、耐衝撃性、成形性及び延伸性が低下するおそれがある。また、EVOH(A)の固有粘度が0.2L/gを越える場合、変性EVOH(C)を含む成形物においてゲル・ブツが発生しやすくなるおそれがある。
【0044】
本発明に用いられるEVOH(A)の好適なメルトフローレート(MFR)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜30g/10分であり、より好適には0.3〜25g/10分、更に好適には0.5〜20g/10分である。但し、融点が190℃付近あるいは190℃を超えるものは2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿した値で表す。MFRの異なる2種以上のEVOHを混合して用いることもできる。
【0045】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は、一価のエポキシ化合物であることが必須である。すなわち、分子内にエポキシ基を一つだけ有するエポキシ化合物でなければならない。二価又はそれ以上の、多価のエポキシ化合物を用いた場合は、本発明の効果を奏することができない。ただし、一価エポキシ化合物の製造工程において、ごく微量に多価エポキシ化合物が含まれることがある。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ごく微量の多価エポキシ化合物が含まれる一価のエポキシ化合物を、本発明における分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)として使用することも可能である。
【0046】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は特に限定されない。具体的には、下記式(III)〜(IX)で示される化合物が、好適に用いられる。
【0047】
【化8】
【0048】
【化9】
【0051】
【化12】
【0052】
【化13】
【0053】
【化14】
【0054】
(式中、R5、R 6 、R 8 及びR9は、水素原子、炭素数1〜10の脂肪族炭化水素基(アルキル基又はアルケニル基など)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基(シクロアルキル基、シクロアルケニル基など)、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基(フェニル基など)を表す。R 7 は水素原子を表す。また、i、l及びmは、1〜8の整数を表す。)
【0055】
上記式(III)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、エポキシエタン(エチレンオキサイド)、エポキシプロパン、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、3−メチル−1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、2,3−エポキシペンタン、3−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−1,2−エポキシペンタン、4−メチル−2,3−エポキシペンタン、3−エチル−1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、2,3−エポキシヘキサン、3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、3−エチル−1,2−エポキシヘキサン、3−プロピル−1,2−エポキシヘキサン、4−エチル−1,2−エポキシヘキサン、5−メチル−1,2−エポキシヘキサン、4−メチル−2,3−エポキシヘキサン、4−エチル−2,3−エポキシヘキサン、2−メチル−3,4−エポキシヘキサン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシヘキサン、3−メチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−1,2−エポキシへプタン、5−メチル−1,2−エポキシへプタン、6−メチル−1,2−エポキシへプタン、3−エチル−1,2−エポキシへプタン、3−プロピル−1,2−エポキシへプタン、3−ブチル−1,2−エポキシへプタン、4−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−プロピル−1,2−エポキシへプタン、5−エチル−1,2−エポキシへプタン、4−メチル−2,3−エポキシへプタン、4−エチル−2,3−エポキシへプタン、4−プロピル−2,3−エポキシへプタン、2−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−メチル−3,4−エポキシへプタン、5−エチル−3,4−エポキシへプタン、2,5−ジメチル−3,4−エポキシへプタン、2−メチル−5−エチル−3,4−エポキシへプタン、1,2−エポキシヘプタン、2,3−エポキシヘプタン、3,4−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、2,3−エポキシオクタン、3,4−エポキシオクタン、4,5−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、2,3−エポキシノナン、3,4−エポキシノナン、4,5−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、2,3−エポキシデカン、3,4−エポキシデカン、4,5−エポキシデカン、5,6−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、2,3−エポキシウンデカン、3,4−エポキシウンデカン、4,5−エポキシウンデカン、5,6−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、2,3−エポキシドデカン、3,4−エポキシドデカン、4,5−エポキシドデカン、5,6−エポキシドデカン、6,7−エポキシドデカン、エポキシエチルベンゼン、1−フェニル−1,2−エポキシプロパン、3−フェニル−1,2−エポキシプロパン、1−フェニル−1,2−エポキシブタン、3−フェニル−1,2−エポキシブタン、4−フェニル−1,2−エポキシブタン、1−フェニル−1,2−エポキシペンタン、3−フェニル−1,2−エポキシペンタン、4−フェニル−1,2−エポキシペンタン、5−フェニル−1,2−エポキシペンタン、1−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、3−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、4−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、5−フェニル−1,2−エポキシヘキサン、6−フェニル−1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。
【0056】
上記式(IV)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、グリシドール、3,4−エポキシ−1−ブタノール、4,5−エポキシ−1−ペンタノール、5,6−エポキシ−1−ヘキサノール、6,7−エポキシ−1−へプタノール、7,8−エポキシ−1−オクタノール、8,9−エポキシ−1−ノナノール、9,10−エポキシ−1−デカノール、10,11−エポキシ−1−ウンデカノール等が挙げられる。
【0059】
上記式(VII)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、3,4−エポキシ−2−ブタノール、2,3−エポキシ−1−ブタノール、3,4−エポキシ−2−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ペンタノール、1,2−エポキシ−3−ペンタノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ペンタノール、2,3−エポキシ−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘキサノール、4,5−エポキシ−3−ヘキサノール、1,2−エポキシ−3−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−エチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジメチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4,4−ジエチル−1−ヘキサノール、2,3−エポキシ−4−メチル−4−エチル−1−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5−メチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−5,5−ジメチル−2−ヘキサノール、3,4−エポキシ−2−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−ヘプタノール、4,5−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−4−ヘプタノール、1,2−エポキシ−3−ヘプタノール、2,3−エポキシ−1−オクタノール、3,4−エポキシ−2−オクタノール、4,5−エポキシ−3−オクタノール、5,6−エポキシ−4−オクタノール、2,3−エポキシ−4−オクタノール、1,2−エポキシ−3−オクタノール、2,3−エポキシ−1−ノナノール、3,4−エポキシ−2−ノナノール、4,5−エポキシ−3−ノナノール、5,6−エポキシ−4−ノナノール、3,4−エポキシ−5−ノナノール、2,3−エポキシ−4−ノナノール、1,2−エポキシ−3−ノナノール、2,3−エポキシ−1−デカノール、3,4−エポキシ−2−デカノール、4,5−エポキシ−3−デカノール、5,6−エポキシ−4−デカノール、6,7−エポキシ−5−デカノール、3,4−エポキシ−5−デカノール、2,3−エポキシ−4−デカノール、1,2−エポキシ−3−デカノール等が挙げられる。
【0060】
上記式(VIII)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、1,2−エポキシシクロペンタン、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロヘプタン、1,2−エポキシシクロオクタン、1,2−エポキシシクロノナン、1,2−エポキシシクロデカン、1,2−エポキシシクロウンデカン、1,2−エポキシシクロドデカン等が挙げられる。
【0061】
上記式(IX)で表される分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、3,4−エポキシシクロペンテン、3,4−エポキシシクロヘキセン、3,4−エポキシシクロヘプテン、3,4−エポキシシクロオクテン、3,4−エポキシシクロノネン、1,2−エポキシシクロデセン、1,2−エポキシシクロウンデセン、1,2−エポキシシクロドデセン等が挙げられる。
【0062】
本発明に用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、炭素数が2〜8のエポキシ化合物が特に好ましい。化合物の取り扱いの容易さ、及びEVOH(A)との反応性の観点からは、一価エポキシ化合物(B)の炭素数は好適には2〜6であり、より好適には2〜4である。また、一価エポキシ化合物(B)が、上記式(III)又は(IV)で表される化合物であることが好ましい。EVOH(A)との反応性、及び得られる変性EVOH(C)の燃料バリア性の観点からは、1,2−エポキシブタン、2,3−エポキシブタン、エポキシプロパン、エポキシエタン及びグリシドールが特に好ましく、なかでもエポキシプロパン及びエポキシブタンが好ましい。
【0063】
上記EVOH(A)と上記一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより変性EVOH(C)が得られる。このときの、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)の好適な混合比は、(A)100重量部に対して(B)1〜50重量部であり、さらに好適には(A)100重量部に対して(B)2〜40重量部であり、特に好適には(A)100重量部に対して(B)5〜35重量部である。
【0064】
EVOH(A)と分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、変性EVOH(C)を製造する方法は特に限定されないが、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを溶液で反応させる製造法、及びEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる製造法などが好適な方法として挙げられる。
【0065】
溶液反応による製造法では、EVOH(A)の溶液に酸触媒あるいはアルカリ触媒存在下で一価エポキシ化合物(B)を反応させることによって変性EVOH(C)が得られる。また、EVOH(A)及び一価エポキシ化合物(B)を反応溶媒に溶解させ、加熱処理を行うことによっても変性EVOH(C)を製造することができる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN−メチルピロリドン等のEVOH(A)の良溶媒である極性非プロトン性溶媒が好ましい。
【0066】
反応触媒としては、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸及び3フッ化ホウ素等の酸触媒や水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキサイド等のアルカリ触媒が挙げられる。これらの内、酸触媒を用いることが好ましい。触媒量としては、EVOH(A)100重量部に対し、0.0001〜10重量部程度が適当である。反応温度としては室温から150℃の範囲が適当である。
【0067】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを押出機内で反応させる製造法では、使用する押出機としては特に制限はないが、一軸押出機、二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を使用し、180℃〜300℃程度の温度でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることが好ましい。後述のように、押出機内で反応させる際に触媒(D)を存在させる場合には、低めの溶融温度とすることが好ましいが、触媒(D)を使用しない場合の好適な温度は200℃〜300℃程度である。
【0068】
二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を用いた場合、スクリュー構成の変更により、反応部の圧力を高めることが容易であり、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を効率的に行えるようになる。一軸押出機では2台以上の押出機を連結し、その間の樹脂流路にバルブを配置することにより、反応部の圧力を高めることが可能である。また同様に二軸押出機又は二軸以上の多軸押出機を2台以上連結して製造してもよい。
【0069】
押出機内で反応させる製造法と、溶液反応による製造法を比較した場合、溶液反応の場合は、EVOH(A)を溶解させる溶媒が必要であり、反応終了後に該溶媒を反応系から回収・除去する必要があり、工程が煩雑なものとなる。また、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性を高めるためには、反応系を加熱及び/又は加圧条件下に維持することが好ましいが、溶液反応の場合と比較して、押出機内での反応ではかかる反応系の加熱及び/又は加圧条件の維持が容易であり、その観点からも押出機内での反応のメリットは大きい。
【0070】
さらに、溶液反応によってEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行った場合、反応の制御が必ずしも容易ではなく、過剰に反応が進行してしまうおそれがある。すなわち、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応の結果、上述の構造単位(I)を有する変性EVOH(C)が得られるが、前記構造単位(I)に含まれる水酸基に、さらに一価エポキシ化合物(B)が反応することにより、本発明で特定する構造単位とは異なるものが得られるおそれがあった。具体的には、一価エポキシ化合物(B)がエチレンオキサイドである場合、上述した過剰な反応の進行により、下記に示す構造単位(II)を含有するEVOHが生じることになる。
【0071】
【化15】
【0072】
(式中、nは1以上の自然数を表す。)
【0073】
本発明者らが検討を行った結果、本発明で特定する構造単位(I)とは異なる、上記に示した構造単位(II)を含有する割合が多くなることにより、得られる変性EVOH(C)のバリア性が低下することが明らかになった。さらに、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行った場合は、このような副反応の発生を効果的に抑制可能であることを見出した。かかる観点からも、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応を行うことにより、変性EVOH(C)を製造する方法が好ましい。
【0074】
また、本発明で用いられる分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)は、必ずしも沸点の高いものばかりではないため、溶液反応による製造法では、反応系を加熱した場合、系外に一価エポキシ化合物(B)が揮散するおそれがある。しかしながら、押出機内でEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることにより、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制することが可能である。特に、押出機内に一価エポキシ化合物(B)を添加する際に、加圧下で圧入することにより、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応性を高め、かつ一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を顕著に抑制することが可能である。
【0075】
押出機内での反応の際の、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の混合方法は特に限定されず、押出機にフィードする前のEVOH(A)に一価エポキシ化合物(B)をスプレー等を行う方法や、押出機にEVOH(A)をフィードし、押出機内で一価エポキシ化合物(B)と接触させる方法などが好適なものとして例示される。この中でも、一価エポキシ化合物(B)の系外への揮散を抑制できる観点から、押出機にEVOH(A)をフィードした後、押出機内で一価エポキシ化合物(B)と接触させる方法が好ましい。また、押出機内への一価エポキシ化合物(B)の添加位置も任意であるが、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応性の観点からは、溶融したEVOH(A)に対して一価エポキシ化合物(B)を添加することが好ましい。
【0076】
本発明者が推奨する、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との、押出機内での反応による製造法は、(1)EVOH(A)の溶融工程、(2)一価エポキシ化合物(B)の添加工程及び(3)ベント等による、未反応の一価エポキシ化合物(B)の除去工程、からなる。反応を円滑に行う観点からは、系内から水分及び酸素を除去することが好適である。このため、押出機内へ一価エポキシ化合物(B)を添加するより前に、ベント等を用いて水分及び酸素を除去してもよい。
【0077】
また、前述の通り、一価エポキシ化合物(B)の添加工程においては、一価エポキシ化合物(B)を加圧下で圧入することが好ましい。この際に、この圧力が不十分な場合、反応率が下がり、吐出量が変動する等の問題が発生する。必要な圧力は一価エポキシ化合物(B)の沸点や押出温度によって大きく異なるが、通常0.5〜30MPaの範囲が好ましく、1〜20MPaの範囲がより好ましい。
【0078】
本発明の製造方法では、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)の存在下に押出機中で溶融混練することが好適である。周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)を存在させることによって、より低い温度で溶融混練しても効率良くEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させることができる。すなわち、比較的低温での溶融混練によっても、変性量の大きい変性EVOH(C)を容易に得ることができる。EVOHは高温での溶融安定性が必ずしも良好な樹脂ではないことから、このように低温で溶融混練できることは、樹脂の劣化を防止できる点から好ましい。触媒(D)を使用せずにEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを反応させた場合には、得られる変性EVOH(C)のMFRが原料のEVOH(A)のMFRよりも低下する傾向があるが、触媒(D)を使用した場合には、MFRはほとんど変化しない。
【0079】
本発明で使用される触媒(D)は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含むものである。触媒(D)に使用される金属イオンとして最も重要なことは適度のルイス酸性を有することであり、この点から周期律表第3〜12族に属する金属のイオンが使用される。これらの中でも、周期律表第3族又は第12族に属する金属のイオンが適度なルイス酸性を有していて好適であり、亜鉛、イットリウム及びガドリニウムのイオンがより好適なものとして挙げられる。なかでも、亜鉛のイオンを含む触媒(D)が、触媒活性が極めて高く、かつ得られる変性EVOH(C)の熱安定性が優れていて、最適である。
【0080】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの添加量はEVOH(A)の重量に対する金属イオンのモル数で0.1〜20μmol/gであることが好適である。多すぎる場合には、溶融混練中にEVOHがゲル化するおそれがあり、より好適には10μmol/g以下である。一方、少なすぎる場合には、触媒(D)の添加効果が十分に奏されないおそれがあり、より好適には0.5μmol/g以上である。なお、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの好適な添加量は、使用する金属の種類や後述のアニオンの種類によっても変動するので、それらの点も考慮した上で、適宜調整されるべきものである。
【0081】
周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを含む触媒(D)のアニオン種は特に限定されるものではないが、その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むことが好ましい。共役酸が強酸であるアニオンは、通常求核性が低いので一価エポキシ化合物(B)と反応しにくく、求核反応によってアニオン種が消費されて、触媒活性が失われることを防止できるからである。また、そのようなアニオンを対イオンに有することで、触媒(D)のルイス酸性が向上して触媒活性が向上するからである。
【0082】
共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンとしては、メタンスルホン酸イオン、エタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン等のスルホン酸イオン;塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;過塩素酸イオン;テトラフルオロボレートイオン(BF4 −)、ヘキサフルオロホスフェートイオン(PF6 −)、ヘキサフルオロアルシネートイオン(AsF6 −)、ヘキサフルオロアンチモネートイオン等の4個以上のフッ素原子を持つアニオン;テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートイオン等のテトラフェニルボレート誘導体イオン;テトラキス(3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル)ボレート、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)コバルト(III)イオン、ビス(ウンデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート)鉄(III)イオン等のカルボラン誘導体イオンなどが例示される。
【0083】
上記例示したアニオン種のうち、ヘキサフルオロホスフェートやテトラフルオロボレート等のアニオン種を含む触媒(D)を使用した場合には、アニオン種そのものは熱的に安定で求核性も非常に低いものの、当該アニオン種がEVOH中の水酸基と反応してフッ化水素が発生し、樹脂の熱安定性に悪影響を与えるおそれがある。また、コバルトのカルボラン誘導体イオン等はEVOHと反応することがなく、アニオン種自体も熱的に安定ではあるが、非常に高価である。
【0084】
EVOHと反応することがなく、アニオン種自体も熱的に安定であり、かつ価格も適切なものであることから、触媒(D)のアニオン種としてはスルホン酸イオンが好ましい。好適なスルホン酸イオンとしては、メタンスルホン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオンが例示され、トリフルオロメタンスルホン酸イオンが最適である。
【0085】
触媒(D)のカチオン種として亜鉛イオンを、アニオン種としてトリフルオロメタンスルホン酸イオンをそれぞれ使用した場合の、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)との反応の推定メカニズムを下記式(X)に示す。
【0086】
【化16】
【0087】
すなわち、EVOHの水酸基と金属アルコキシドの形で結合した亜鉛イオンに一価エポキシ化合物(B)のエポキシ基の酸素原子が配位し、6員環遷移状態を経て、エポキシ基が開環すると推定している。ここで、遷移状態における亜鉛イオンの対イオンであるトリフルオロメタンスルホン酸イオンの共役酸が強酸であることによって、亜鉛イオンのルイス酸性が大きくなり、触媒活性が向上する。一方、対イオンとして存在するトリフルオロメタンスルホン酸イオン自体は、EVOHの水酸基あるいは一価エポキシ化合物(B)のエポキシ基と反応することがなく、それ自体熱的に安定であるから、副反応を生じることなく円滑に開環反応が進行する。
【0088】
上述のように、本発明で使用される触媒(D)はその共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含むものであることが好適であるが、触媒(D)中の全てのアニオン種が同一のアニオン種である必要はない。むしろ、その共役酸が弱酸であるアニオンを同時に含有するものであることが好ましい。前記式(X)で示されたような反応メカニズムであれば、EVOHが触媒(D)と反応して金属アルコキシドを形成する際にアニオンの一つが共役酸として系内に遊離する。これが強酸であった場合には、一価エポキシ化合物(B)と反応するおそれがあるとともに、EVOHの溶融安定性にも悪影響を及ぼすおそれがある。
【0089】
共役酸が弱酸であるアニオンの例としては、アルキルアニオン、アリールアニオン、アルコキシド、アリールオキシアニオン、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が例示される。なかでもアルコキシド、カルボキシレート並びにアセチルアセトナート及びその誘導体が好適に使用される。
【0090】
触媒(D)中の金属イオンのモル数に対する、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数は、0.2〜1.5倍であることが好ましい。上記モル比が0.2倍未満である場合には触媒活性が不十分となるおそれがあり、より好適には0.3倍以上であり、さらに好適には0.4倍以上である。一方、上記モル比が1.5倍を超えるとEVOHがゲル化するおそれがあり、より好適には1.2倍以下である。前記モル比は最適には1倍である。なお、原料のEVOH(A)が酢酸ナトリウムなどのアルカリ金属塩を含む場合には、それと中和されて消費される分だけ、共役酸が硫酸と同等以上の強酸であるアニオンのモル数を増やしておくことができる。
【0091】
触媒(D)の調製方法は特に限定されるものではないが、好適な方法として、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶媒に溶解又は分散させ、得られた溶液又は懸濁液に、共役酸が硫酸と同等以上の強酸(スルホン酸等)を添加する方法が挙げられる。原料として用いる周期律表第3〜12族に属する金属の化合物としては、アルキル金属、アリール金属、金属アルコキシド、金属アリールオキシド、金属カルボキシレート、金属アセチルアセトナート等が挙げられる。ここで、周期律表第3〜12族に属する金属の化合物の溶液又は懸濁液に、強酸を加える際には、少量ずつ添加することが好ましい。こうして得られた触媒(D)を含有する溶液は押出機に直接導入することができる。
【0092】
周期律表第3〜12族に属する金属の化合物を溶解又は分散させる溶媒としては有機溶媒、特にエーテル系溶媒が好ましい。押出機内の温度でも反応しにくく、金属化合物の溶解性も良好だからである。エーテル系溶媒の例としては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル等が例示される。使用される溶媒としては、金属化合物の溶解性に優れ、沸点が比較的低くて押出機のベントでほぼ完全に除去可能なものが好ましい。その点においてジエチレングリコールジメチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランが特に好ましい。
【0093】
また、上述の触媒(D)の調整方法において、添加する強酸の代わりに強酸のエステル(スルホン酸エステル等)を用いても良い。強酸のエステルは、通常強酸そのものより反応性が低いために、常温では金属化合物と反応しないことがあるが、200℃前後に保った高温の押出機内に投入することにより、押出機内において活性を有する触媒(D)を生成することができる。
【0094】
触媒(D)の調製方法としては、以下に説明する別法も採用可能である。まず、水溶性の周期律表第3〜12族に属する金属の化合物と、共役酸が硫酸と同等以上の強酸(スルホン酸等)とを、水溶液中で混合して触媒水溶液を調製する。なおこのとき、当該水溶液が適量のアルコールを含んでいても構わない。得られた触媒水溶液をEVOH(A)と接触させた後、乾燥することによって触媒(D)が配合されたEVOH(A)を得ることができる。具体的には、EVOH(A)ペレット、特に多孔質の含水ペレットを前記触媒水溶液に浸漬する方法が好適なものとして挙げられる。この場合には、このようにして得られた乾燥ペレットを押出機に導入することができる。
【0095】
触媒(D)を使用する場合には、押出機内の温度は180〜250℃とすることが好ましい。この場合、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)を反応させる際に触媒(D)が存在するために、比較的低温で溶融混練しても、効率良くEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の反応を進行させることができる。温度が250℃を超える場合にはEVOHが劣化するおそれがあり、より好適には240℃以下である。一方、温度が180℃未満の場合にはEVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)の反応が十分に進行しないおそれがあり、より好適には190℃以上である。
【0096】
EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)を反応させる際に触媒(D)を存在させる方法は特に限定されない。好適な方法として、触媒(D)の溶液を調製し、その溶液を押出機内に添加する方法が挙げられる。触媒(D)の溶液の調製方法は前述したとおりである。この方法によれば、後述の別法に比べて生産性が高く、触媒(D)を安定的に供給できるために製品の品質を安定化することもできる。触媒(D)の溶液を押出機に導入する位置は特に限定されないが、EVOH(A)が完全に溶融している場所で添加することが、均一に配合できて好ましい。特に、一価エポキシ化合物(B)を添加する場所と同じ場所又はその近傍で添加することが好ましい。触媒(D)と一価エポキシ化合物(B)をほぼ同時に配合することにより、ルイス酸である触媒(D)の影響によるEVOH(A)の劣化を最小限に抑制することができるとともに、十分な反応時間を確保できるからである。したがって、触媒(D)の溶液と一価エポキシ化合物(B)とを混合した液を予め作成しておいて、それを一箇所から押出機中に添加することが最適である。
【0097】
溶融混練時に触媒(D)を存在させる別の方法として、EVOH(A)の含水ペレットを触媒(D)の溶液に浸漬した後、乾燥させる方法が挙げられる。この方法については、触媒(D)の調製方法の別法として前述したとおりである。この場合には、得られた乾燥ペレットがホッパーから押出機内に導入されることになる。但し、高価な触媒が廃液として処理されることになりコストアップに繋がりやすい点が問題である。また更に別の方法としては、乾燥後のペレットに、液体状態の触媒を含浸させるか、固体状態の触媒を混合するかした後、必要に応じて乾燥させる方法が挙げられる。この方法においては、工程数が増えることからコストアップに繋がりやすい点が問題であるとともに、触媒を均一に配合することも必ずしも容易ではない。また、上記いずれの別法においても、一価エポキシ化合物(B)が存在せず、ルイス酸である触媒(D)のみが存在する状態で溶融混練される際に、EVOH(A)が劣化するおそれがある。
【0098】
上述のように、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に押出機中で溶融混練することが好適であるが、その後で触媒失活剤(E)を添加して更に溶融混練することがより好ましい。触媒(D)を失活させなかった場合には、得られる変性EVOH(C)の熱安定性が悪くなるおそれがあり、用途によっては使用に問題をきたす可能性がある。
【0099】
使用される触媒失活剤(E)は、触媒(D)のルイス酸としての働きを低下させるものであればよく、その種類は特に限定されない。好適にはアルカリ金属塩が使用される。その共役酸が硫酸と同等以上の強酸である1価のアニオンを含む触媒(D)を失活させるには、当該アニオンの共役酸よりも弱い酸のアニオンのアルカリ金属塩を使用することが必要である。こうすることによって、触媒(D)を構成する周期律表第3〜12族に属する金属のイオンの対イオンが弱い酸のアニオンに交換され、結果として触媒(D)のルイス酸性が低下するからである。触媒失活剤(E)に使用されるアルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されず、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩が好適なものとして例示される。またアニオン種も特に限定されず、カルボン酸塩、リン酸塩及びホスホン酸塩が好適なものとして例示される。
【0100】
触媒失活剤(E)として、例えば酢酸ナトリウムやリン酸一水素二カリウムのような塩を使用しても熱安定性はかなり改善されるが、用途によっては未だ不十分である場合がある。この原因は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンにルイス酸としての働きがある程度残存しているため、変性EVOH(C)の分解及びゲル化に対して触媒として働くためであると考えられる。この点をさらに改善する方法として、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンに強く配位するキレート化剤を添加することが好ましい。このようなキレート化剤は当該金属のイオンに強く配位できる結果、そのルイス酸性をほぼ完全に失わせることができ、熱安定性に優れた変性EVOH(C)を与えることができる。また、当該キレート化剤がアルカリ金属塩であることによって、前述のように触媒(D)に含まれるアニオンの共役酸である強酸を中和することもできる。
【0101】
触媒失活剤(E)として使用されるキレート化剤として、好適なものとしては、オキシカルボン酸塩、アミノカルボン酸塩、アミノホスホン酸塩などが挙げられる。具体的には、オキシカルボン酸塩としては、クエン酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム等が例示される。アミノカルボン酸塩としては、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸三カリウム、ジエチレントリアミン五酢酸三ナトリウム、1,2−シクロヘキサンジアミン四酢酸三ナトリウム、エチレンジアミン二酢酸一ナトリウム、N−(ヒドロキシエチル)イミノ二酢酸一ナトリウム等が例示される。アミノホスホン酸塩としては、ニトリロトリスメチレンホスホン酸六ナトリウム、エチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)八ナトリウム等が例示される。なかでもポリアミノポリカルボン酸が好適であり、性能やコストの面からエチレンジアミン四酢酸のアルカリ金属塩が最適である。エチレンジアミン四酢酸三ナトリウムを使用した場合の推定反応メカニズムを下記式(XI)に示す。
【0102】
【化17】
【0103】
触媒失活剤(E)の添加量は特に限定されず、触媒(D)に含まれる金属イオンの種類や、キレート剤の配位座の数等により適宜調整されるが、触媒(D)に含まれる金属イオンのモル数に対する触媒失活剤(E)のモル数の比(E/D)が0.2〜10となるようにすることが好適である。比(E/D)が0.2未満の場合には、触媒(D)が十分に失活されないおそれがあり、より好適には0.5以上、さらに好適には1以上である。一方、比(E/D)が10を超える場合には、得られる変性EVOH(C)が着色するおそれがあるとともに、製造コストが上昇するおそれがあり、より好適には5以下であり、さらに好適には3以下である。
【0104】
触媒失活剤(E)を押出機へ導入する方法は特に限定されないが、均一に分散させるためには、溶融状態の変性EVOH(C)に対して、触媒失活剤(E)の溶液として導入することが好ましい。触媒失活剤(E)の溶解性や、周辺環境への影響などを考慮すれば、水溶液として添加することが好ましい。
【0105】
触媒失活剤(E)の押出機への添加位置は、EVOH(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に溶融混練した後であればよい。しかしながら、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と一価エポキシ化合物(B)とを、触媒(D)の存在下に溶融混練し、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去した後に触媒失活剤(E)を添加することが好ましい。前述のように、触媒失活剤(E)を水溶液として添加する場合には、未反応の一価エポキシ化合物(B)を除去する前に触媒失活剤(E)を添加したのでは、ベント等で除去して回収使用する一価エポキシ化合物(B)の中に水が混入することになり、分離操作に手間がかかるからである。なお、触媒失活剤(E)の水溶液を添加した後で、ベント等によって水分を除去することも好ましい。
【0106】
本発明の製造方法において、触媒失活剤(E)を使用する場合の好適な製造プロセスとしては、
(1)EVOH(A)の溶融工程;
(2)一価エポキシ化合物(B)と触媒(D)の混合物の添加工程;
(3)未反応の一価エポキシ化合物(B)の除去工程;
(4)触媒失活剤(E)水溶液の添加工程;
(5)水分の減圧除去工程;
の各工程からなるものが例示される。
【0107】
変性EVOH(C)は、周期律表第3〜12族に属する金属のイオンを0.1〜20μmol/g含有することが好ましい。かかる金属のイオンは、前述の製造方法において触媒(D)を使用した際の触媒残渣として含有され得るものであり、その好適な金属のイオンの種類については、前述の触媒(D)の説明のところで述べたとおりである。より好適には0.5μmol/g以上である。また、より好適には10μmol/g以下である。
【0108】
また、変性EVOH(C)は、スルホン酸イオンを含有することが好適である。かかるスルホン酸イオンは、前述の製造方法において触媒(D)を使用した際の触媒残渣として含有され得るものであり、その好適なスルホン酸イオンの種類については、前述の触媒(D)の説明のところで述べたとおりである。スルホン酸イオンの含有量は0.1〜20μmol/gであることが好適である。より好適には0.5μmol/g以上である。また、より好適には10μmol/g以下である。
【0109】
さらに、変性EVOH(C)中のアルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の1〜50倍(モル比)であることが好適である。アルカリ金属イオンは、前述の製造方法において触媒失活剤(E)を使用した際の残渣として含有され得るとともに、原料のEVOH(A)に由来して含有され得るものである。当該アルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の1倍未満である場合には、製造工程において、触媒(D)の失活が十分に行われておらず、変性EVOH(C)の熱安定性に問題を生じる場合があり、より好適には2倍以上である。一方、アルカリ金属イオンの含有量がスルホン酸イオンの含有量の50倍を超える場合には、変性EVOH(C)が着色するおそれがあり、好適には30倍以下である。
【0110】
変性EVOH(C)には、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応によって変性EVOH(C)が得られた後に添加することもできる。一般に、接着性の改善や着色の抑制など、EVOHの各種物性を改善するために、EVOHには必要に応じてアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種が添加されることが多い。しかしながら、上記に示した各種化合物の添加は、前述の通り、押出機によるEVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応の際に、着色や粘度低下等の原因となるおそれがある。このため、EVOH(A)とエポキシ化合物(B)との反応後に、残存するエポキシ化合物(B)をベントで除去した後、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、カルボン酸及びリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも一種を、得られた変性EVOH(C)に添加することが好ましい。この添加方法を採用することにより、着色や粘度低下等の問題を生じることなく、変性EVOH(C)が得られる。
【0111】
こうして得られた変性EVOH(C)の融点は160℃以下であることが好ましい。これによって、ポリオレフィン(G)など融点の低い樹脂との融点の差を小さくすることができ、樹脂組成物を溶融成形する際の成形温度を低くすることができる。より好適には150℃以下であり、さらに好適には140℃以下である。
【0112】
本発明の燃料容器は、上記変性EVOH(C)と、(C)以外の熱可塑性樹脂(T1)との樹脂組成物からなるものであっても良い。すなわち、本発明の課題は、前記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性EVOH(C)と、(C)以外の熱可塑性樹脂(T1)との樹脂組成物からなる燃料容器を提供することによっても達成される。
【0113】
このとき、変性EVOH(C)と、(C)以外の熱可塑性樹脂(T1)とからなる樹脂組成物は、好適には、変性EVOH(C)1〜99重量%と熱可塑性樹脂(T1)1〜99重量%とからなるものである。
【0114】
ここで、変性EVOH(C)と配合される熱可塑性樹脂(T1)は特に限定されず、前記構造単位(I)を含有しないEVOH、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリケトンなどが挙げられる。また、各種の共重合体を使用することもできる。
【0115】
なかでも、熱可塑性樹脂(T1)として、前記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のEVOH(F)を使用することが好ましい。EVOH(F)が有する燃料バリア性を大きく低下させることなく、透明性、耐衝撃性、成形性及び延伸性を改善することが可能だからである。EVOH(F)としては、変性EVOH(C)の原料として使用される前述のEVOH(A)と同じものが使用できるが、配合する変性EVOH(C)の組成や、多層構造体の用途によって適宜選択される。
【0116】
例えば、熱安定性、耐衝撃性、成形性及び延伸性の観点からはEVOH(F)のエチレン含有量は20モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、27モル%以上であることがさらに好ましい。燃料バリア性の観点からは、50モル%以下であることが好ましく、45モル%以下であることがより好ましく、38モル%以下であることがさらに好ましい。また、EVOH(F)のケン化度は99%以上であることが好ましく、99.5%以上であることがより好ましい。
【0117】
変性EVOH(C)とEVOH(F)のそれぞれのエチレン含有量の組み合わせは、目的に対応して調整される。
【0118】
変性EVOH(C)とEVOH(F)とからなる樹脂組成物は、通常変性EVOH(C)1〜99重量%とEVOH(F)1〜99重量%とからなるものである。このとき、当該樹脂組成物が変性EVOH(C)1〜50重量%とEVOH(F)50〜99重量%とからなることが好ましい。すなわち、未変性のEVOH(F)が主たる成分であって、変性EVOH(C)が従たる成分であることが好ましい。こうすることによって、EVOH(F)が本来有する燃料バリア性を大きく損なうことなく、樹脂組成物に耐衝撃性、成形性及び延伸性を付与することができる。また、変性EVOH(C)は未変性のEVOH(F)に比べて製造コストが高いことから、経済的にも有利である。より好適な変性EVOH(C)の含有量は2重量%以上であり、さらに好適には5重量%以上である。このとき、より好適なEVOH(F)の含有量は98重量%以下であり、さらに好適には95重量%以下である。一方、より好適な変性EVOH(C)の含有量は40重量%以下であり、さらに好適には30重量%以下である。このとき、より好適なEVOH(F)の含有量は60重量%以上であり、さらに好適には70重量%以上である。
【0119】
また、熱可塑性樹脂(T1)として、ポリオレフィン(G)を使用することも好ましい。ポリオレフィン(G)は力学特性や加工性に優れ、コストも低いことからその有用性が大きいものであるが、燃料バリア性は低い。これに、変性EVOH(C)を配合することによって、耐衝撃性、成形性、延伸性などを大きく損なうことなく、燃料バリア性を向上させることができる。この場合には、単層構成で燃料容器を構成することも好適である。
【0120】
ここで使用されるポリオレフィン(G)は特に限定されるものではない。これらのポリオレフィン(G)はそれぞれ単独で用いることもできるし、また2種以上を混合して用いることもできる。なかでも、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく用いられ、ポリエチレン及びポリプロピレンが特に好ましく用いられる。
【0121】
変性EVOH(C)とポリオレフィン(G)とからなる樹脂組成物は、変性EVOH(C)1〜99重量%とポリオレフィン(G)1〜99重量%とからなるものである。このとき、当該樹脂組成物が変性EVOH(C)10〜60重量%とポリオレフィン(G)40〜90重量%とからなることが好ましい。すなわち、ポリオレフィン(G)が半量程度以上含まれた樹脂組成物であることが好ましい。こうすることによって、ポリオレフィン(G)が本来有する力学性能や加工性を大きく損なうことなく、樹脂組成物に燃料バリア性を付与することができるからである。また、変性EVOH(C)はポリオレフィン(G)に比べて格段に製造コストが高いことから、経済的にも有利な配合比率である。より好適な変性EVOH(C)の含有量は20重量%以上であり、このときポリオレフィン(G)の含有量は80重量%以下である。一方、より好適な変性EVOH(C)の含有量は50重量%以下であり、このときより好適なポリオレフィン(G)の含有量は50重量%以上である。
【0122】
また、熱可塑性樹脂(T1)として、相溶化剤(H)を使用することも好ましい。この場合には、変性EVOH(C)及び相溶化剤(H)以外の熱可塑性樹脂をも同時に含有して、その熱可塑性樹脂と変性EVOH(C)との相容性を相溶化剤(H)が改善することになる。相溶化剤(H)によってEVOH(C)との相容性が改善される熱可塑性樹脂は特に限定されないが、ポリオレフィン(G)、ポリスチレンなどが好適である。特に好適なのは、相容性が改善される熱可塑性樹脂がポリオレフィン(G)である場合である。すなわち、熱可塑性樹脂(T1)がポリオレフィン(G)及び相溶化剤(H)からなる樹脂組成物が好適である。
【0123】
好適に使用される相溶化剤(H)は、カルボキシル基(酸無水物基を含む)、ホウ素含有置換基、エポキシ基、アミノ基などを有する、ポリオレフィン、ポリスチレン、ジエン重合体あるいはこれらの共重合体である。なかでもカルボキシル基やホウ素含有置換基を有するものが好適であり、無水マレイン酸で変性したもの、(メタ)アクリル酸を共重合したもの、ボロン酸(エステル)基を導入したものなどが例示される。また、これらの置換基が導入されるベースポリマーとしてはポリオレフィンが好適であり、ポリエチレンやポリプロピレンが特に好ましい。また、スチレンとジエンとのブロック共重合体やその水添物も好適なベースポリマーとして挙げられる。具体的にはカルボン酸変性ポリオレフィンやボロン酸変性ポリオレフィンなどが例示される。
【0124】
配合される相溶化剤(H)の量は、好適には1〜20重量%である。より好適には2重量%以上であり、10重量%以下である。
【0125】
また、熱可塑性樹脂(T1)として使用する好適な樹脂を、複数種類併用した場合には、その相乗効果が得られる場合がある。例えば、変性EVOH(C)とEVOH(F)とポリオレフィン(G)とからなる樹脂組成物は、前述の変性EVOH(C)とポリオレフィン(G)とからなる樹脂組成物に類似した性能を有するが、製造コストがより低くなる点で有利である。また、それら3種類の樹脂に加えてさらに相溶化剤(H)を配合することも好ましい。
【0126】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤の例としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、あるいは他の高分子化合物を挙げることができ、これらを本発明の作用効果が阻害されない範囲でブレンドすることができる。添加剤の具体的な例としては次のようなものが挙げられる。
【0127】
酸化防止剤:2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)等。
紫外線吸収剤:エチレン−2−シアノ−3,3’−ジフェニルアクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)5−クロロベンゾトリアゾール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等。
可塑剤:フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等。
帯電防止剤:ペンタエリスリットモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド、カーボワックス等。
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等。
着色剤:カーボンブラック、フタロシアニン、キナクリドン、インドリン、アゾ系顔料、ベンガラ等。
充填剤:グラスファイバー、アスベスト、バラストナイト、ケイ酸カルシウム等。
【0128】
また、本発明の樹脂組成物には、溶融安定性等を改善するために、本発明の作用効果が阻害されない程度に、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(たとえば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)の一種又は二種以上を樹脂組成物に対し本発明の作用効果が阻害されない程度(0.001〜1重量%)添加することもできる。
【0129】
本発明の樹脂組成物を得るために、変性EVOH(C)と熱可塑性樹脂(T1)とをブレンドする方法は、特に限定されるものではない。樹脂ペレットをドライブレンドしてそのまま溶融成形に供することもできるし、より好適にはバンバリーミキサー、単軸又は二軸押出機などで溶融混練し、ペレット化してから溶融成形に供することもできる。ブレンド操作時に樹脂の劣化が進行するのを防止するためには、ホッパー口を窒素シールし、低温で押出すことが望ましい。また、混練度の高い押出機を使用し、分散状態を細かく均一なものとすることが、燃料バリア性、耐衝撃性及び透明性を良好にすると共に、ゲル、ブツの発生や混入を防止できる点で好ましい。
【0130】
樹脂組成物中の各樹脂成分が良好に分散されるために、本発明における混練操作は重要である。高度な分散を有する組成物を得るための混練機としては、連続式インテンシブミキサー、ニーディングタイプ二軸押出機(同方向、あるいは異方向)などの連続型混練機が最適であるが、バンバリーミキサー、インテンシブミキサー、加圧ニーダーなどのバッチ型混練機を用いることもできる。また別の連続混練装置としては石臼のような摩砕機構を有する回転円板を使用したもの、たとえば(株)KCK製のKCK混練押出機を用いることもできる。混練機として通常に使用されるもののなかには、一軸押出機に混練部(ダルメージ、CTM等)を設けたもの、あるいはブラベンダーミキサーなどの簡易型の混練機もあげることができる。
【0131】
この中で、本発明の目的に最も好ましいものとしては連続式インテンシブミキサーを挙げることができる。市販されている機種としてはFarrel社製FCM、(株)日本製鋼所製CIMあるいは(株)神戸製鋼所製KCM、LCMあるいはACM等がある。実際にはこれらの混練機の下に一軸押出機を有する、混練と押出ペレット化を同時に実施する装置を採用するのが好ましい。また、ニーディングディスクあるいは混練用ローターを有する二軸混練押出機、例えば(株)日本製鋼所製のTEX、Werner&Pfleiderer社のZSK、東芝機械(株)製のTEM、池貝鉄工(株)製のPCM等も本発明の混練の目的に用いられる。
【0132】
これらの連続型混練機を用いるにあたっては、ローター、ディスクの形状が重要な役割を果たす。特にミキシングチャンバとローターチップあるいはディスクチップとの隙間(チップクリアランス)は重要で狭すぎても広すぎても良好な分散性を有する樹脂組成物は得られない。チップクリアランスとしては1〜5mmが最適である。
【0133】
また、混練機のローターの回転数は100〜1200rpm、望ましくは150〜1000rpm、さらに望ましくは200〜800rpmの範囲が採用される。混練機チャンバー内径(D)は30mm以上、望ましくは50〜400mmの範囲のものが挙げられる。混練機のチャンバー長さ(L)との比L/Dは4〜30が好適である。また混練機はひとつでもよいし、また2以上を連結して用いることもできる。混練時間は長い方が良い結果を得られるが、樹脂の劣化防止あるいは経済性の点から10〜600秒、好適には15〜200秒の範囲であり、最適には15〜150秒である。
【0134】
上記変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物を成形して、本発明の燃料容器が得られる。本発明の燃料容器は、変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物からなる単層容器であってもよいし、さらに、その他の材料の層を積層した多層容器であってもよい。高度な燃料バリア性と、力学的強度を両立するためには、多層容器とすることが好適である。すなわち、前記構造単位(I)を0.3〜40モル%含有するエチレン含有量5〜55モル%の変性EVOH(C)からなる層と(C)以外の熱可塑性樹脂(T2)からなる層を有する多層構造体からなる燃料容器を提供することによって、本発明の課題は効果的に解決される。
【0135】
ここで、変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物と積層される熱可塑性樹脂(T2)は特に限定されず、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリケトンなどが挙げられる。また、各種の共重合体を使用することもできる。
【0136】
なかでも熱可塑性樹脂(T2)がポリオレフィンであることが好適である。樹脂組成物を単層で用いる場合に比べて高湿度下でのガソリンバリア性や、強度等の改善がはかれることになる。
【0137】
なかでも、高密度ポリエチレンが特に好適に使用される。本発明における高密度ポリエチレンとは、たとえばチグラー触媒を用い、低圧法又は中圧法により得られるもので、密度0.93g/cm3以上、好適には0.94g/cm3以上のものである。密度は、通常0.965g/cm3以下である。本発明において高密度ポリエチレンの好適なメルトインデックス(MI)は、(190℃、2160g荷重下で測定した値)は、0.001〜0.6g/10分、好適には0.005〜0.1g/10分である。
【0138】
このような高密度ポリエチレン層を、変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物層の片面又は両面に積層することにより、燃料バリア性の優れた、しかも耐衝撃性にも優れた燃料容器を得ることができる。高密度ポリエチレン層は、最内層、又は最内層−最外層にあることが好適な態様であるが、他の樹脂層が最内層、又は最内層−最外層に積層されることは、本発明の目的が阻害されないかぎり自由である。また、高密度ポリエチレン層に他の樹脂などを配合することは、本発明の目的が阻害されない限り自由である。したがって、高密度ポリエチレンを主成分とするのであれば、後述する回収物層も本発明でいう高密度ポリエチレン層とみなされる。
【0139】
変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物と、熱可塑性樹脂(T2)とを積層するに際しては、両層の間に接着性樹脂層を配置することが好ましい。熱可塑性樹脂(T2)がポリオレフィンである場合には、変性EVOH(C)との接着性がほとんどないので、接着性樹脂層を配置することが特に好適である。
【0140】
接着性樹脂層に使用される樹脂は特に限定されるものではないが、ポリウレタン系、ポリエステル系一液型あるいは二液型硬化性接着剤、不飽和カルボン酸又はその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体又は共重合体[ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(SLDPE)}、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、又はエチルエステル)共重合体]にグラフトしたものが、好適に用いられる。このような接着性樹脂層を設けることにより、層間接着性の優れた、しかも本発明の目的とするバリア性及び耐衝撃性の優れた燃料タンクを得ることができる。
【0141】
さらに、接着性樹脂がカルボン酸変性ポリエチレン系樹脂であることが、高密度ポリエチレン樹脂あるいはポリアミド樹脂との接着性、あるいはスクラップ回収時の相溶性の観点からより好ましい。かかるカルボン酸変性ポリエチレン系樹脂の例としては、ポリエチレン{低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(SLDPE)}、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、又はエチルエステル)共重合体等をカルボン酸変性したものが挙げられる。
【0142】
本発明においては、スクラップ回収物層を必要に応じ設けることができる。ここでスクラップ回収物としては、成形品を製造する場合に発生する成形ロス部分や、一般消費者に使用された後のスクラップ回収品の粉砕物等がある。また、スクラップを熱可塑性樹脂(T2)層に混合することもできる。
【0143】
変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物層をEVOH、高密度ポリエチレンに代表される熱可塑性樹脂(T2)層をPE、接着性樹脂層をAD、及びスクラップ回収物層をREGと表すとき、次のような層構成が代表例としてあげられる。
【0144】
3層:EVOH/AD/PE;
4層:EVOH/AD/REG/PE、EVOH/AD/PE/REG;
5層:PE/AD/EVOH/AD/PE、REG/AD/EVOH/AD/PE、PE/AD/EVOH/AD/REG;
6層:PE/REG/AD/EVOH/AD/PE、REG/PE/AD/EVOH/AD/PE、PE/REG/AD/EVOH/AD/REG、REG/PE/AD/EVOH/AD/REG;
7層:PE/REG/AD/EVOH/AD/REG/PE、PE/REG/AD/EVOH/AD/PE/REG、REG/PE/AD/EVOH/AD/PE/REG、REG/PE/AD/EVOH/AD/REG/PE;
ただし、層構成は、上記に限定されるものではない。これらのうち、好適な層構成としては、EVOH/AD/PE、PE/AD/EVOH/AD/PE、PE/REG/AD/EVOH/AD/PE等が示される。
【0145】
これらの各層の厚みはとくに限定されるものではないが、燃料容器として用いる場合の好適な厚みは、熱可塑性樹脂(T2)層300〜10000μm、より好適には500〜8000μm、さらに好適には1000〜6000μm、接着性樹脂層5〜1000μm、より好適には10〜500μm、さらに好適には20〜300μm、変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物層5〜1000μm、より好適には20〜800μm、さらに好適には50〜600μmである。また全体厚みは好適には300〜10000μm、より好適には500〜8500μm、さらに好適には1000〜7000μmである。なお、これらの厚みは燃料容器の胴部における平均厚みをいう。全体厚みが大きすぎると重量が大きくなりすぎ、自動車等の燃費に悪影響を及ぼし、燃料容器のコストも上昇する。一方全体厚みが小さすぎると剛性が保てず、容易に破壊されてしまう問題がある。したがって、容量や用途に対応した厚みを設定することが重要である。
【0146】
なお、本発明において多層構造体を形成する各層に各種の添加剤を配合することもできる。このような添加剤としては、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー等が挙げられ、具体的には、組成物層に添加することができるものとして前述したようなものが挙げられる。
【0147】
本発明の燃料容器を成形する方法は、特に限定されるものではない。例えば、一般のポリオレフィンの分野において実施されている成形方法、例えば、押出成形、ブロー成形、射出成形、熱成形等を挙げることができる。なかでも、ブロー成形法及び熱成形法が好適であり、特に共押出ブロー成形法あるいは共押出シート熱成形法が好適である。
【0148】
これまで、共押出ブロー成形法あるいは共押出シート熱成形法によって燃料容器を成形する場合においては、通常中間層として用いられるEVOH層に対して容器成形中に延展効果が働き、EVOH層の容器内における厚みが均一とならないことがあった。特に容器の角部などにおいてEVOH層にネッキング現象が起こった場合には、その部位におけるEVOH層の厚みが容器全体のEVOH層厚みの平均値に対して著しく薄くなり、容器全体のバリア性を損なうことがあった。この現象に関しては、特に共押出シート熱成形法の場合に、角部のEVOH厚みの低下に伴うバリア低下が顕著となることが多かった。本発明で使用する変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物は、成形性及び延伸性に優れるので、このような問題を低減することができる。したがって、共押出ブロー成形法あるいは共押出シート熱成形法によって燃料容器を成形する場合に、本発明の構成とする実益が大きいものである。
【0149】
ブロー成形法によって多層容器を製造する場合には、共射出ブロー成形と共押出ブロー成形のいずれの方法も採用可能であるが、複雑な容器形状に対応することが容易な共押出ブロー成形が好適である。共押出ブロー成形においては、溶融押出によりパリソンを形成し、このパリソンを一対のブロー成形用金型で挟持し、パリソンの喰切を行うと共に対向する喰切部を融着させる。ついで喰切が行われたパリソンを前記金型内で膨張させることにより容器の形に成形する。ただし、自動車用燃料タンクなど、容器の大きさが大きくなる場合は金型によりパリソンを挟持し、圧着を行うが、金型で喰切は行わず、容器表面からからはみ出た部分を任意の高さでカッターなどで切断することが多い。
【0150】
また、本発明の燃料容器をブロー成形する際の金型温度は、5〜30℃であることが好適であり、10〜30℃であることがより好ましく、10〜20℃であることがさらに好ましい。金型温度が5℃未満の場合は、金型表面が結露しやすくなり、成形後の製品の外観が不良となるおそれがある。また、金型温度が30℃を超える場合は、樹脂の冷却時間が長くなるために生産性が低下する虞があり、樹脂が充分に冷却できない場合は、成形品にひずみが発生するおそれがある。
【0151】
また、熱成形法によって製造する場合には、シートを熱成形し、二つの成形品の端部同士をヒートシールすることによって接合して燃料容器を製造する。このとき、多層シートを使用すれば、多層容器を製造することができる。
【0152】
前記熱成形多層シートを作製する方法は特に限定されず、一般のポリオレフィン等の分野において実施されている成形方法により多層シートを作製し、得られた多層シートを熱成形することにより、熱成形多層シートが得られる。前記多層シートを製造するための方法としては、例えばTダイ成形、共押出成形、ドライラミネート成形等を採用することができ、特に共押出成形が好適である。
【0153】
本発明でいう熱成形とは、シート等を加熱して軟化させた後に、金型形状に成形することをいう。成形方法としては、真空あるいは圧空を用い、必要により更にプラグを併せて用いて金型形状に成形する方法(ストレート法、ドレープ法、エアスリップ法、スナップバック法、プラグアシスト法など)やプレス成形する方法などが好適なものとして挙げられる。成形温度、真空度、圧空の圧力又は成形速度等の各種成形条件は、プラグ形状や金型形状又は原料シートの性質等により適当に設定される。
【0154】
前記多層シートを熱成形する際の成形温度は特に限定されるものではなく、成形するのに十分なだけ樹脂が軟化する温度であればよいが、前記多層シートの構成によってその好適な温度範囲は異なる。例えば、前記多層シートを熱成形する際には、加熱によるシートの溶解が生じたり、ヒーター板の金属面の凹凸がフィルムに転写したりするほど高温にはせず、一方賦形が十分でないほど低温にしないことが望ましい。具体的な成形温度としては、130〜200℃であることが好ましく、135〜195℃であることがより好ましく、140〜190℃であることがさらに好ましい。
【0155】
なお、上記熱成形の作業性を向上させる観点からは、ヒートシール部分が多少大きめになるような条件で熱成形を行い、熱成形を行った後に、不要な部分をカッターなどで切断することが好ましい。このようにして得られた熱成形多層シートからなる上底面及び下底面を、前記熱成形多層シートの端部同士をヒートシールして接合することによって、本発明の燃料容器が得られる。
【0156】
本発明における燃料容器とは、自動車、オートバイ、船舶、航空機、発電機及び工業用、農業用機器に搭載された燃料容器、もしくは、これら燃料容器に燃料を補給するための携帯用容器、さらには、これらを稼動するために用いる燃料を保管するための容器を意味する。また燃料としてはレギュラーガソリン、メタノール又はMTBE等をブレンドしたガソリンが代表例としてあげられるが、その他の重油、軽油、灯油なども例示される。このうち、本発明の燃料容器は、メタノール及び/又はMTBE等をブレンドしたガソリン用として特に効果がみられる。
【0157】
【実施例】
以下、実施例にて本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例によって本発明は何ら限定されるものではない。EVOH(A)、変性EVOH(C)、EVOH(F)、及び樹脂組成物に関する分析は以下の方法に従って行った。
【0158】
(1)EVOH(A)及びEVOH(F)のエチレン含有量及びケン化度
重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H−NMR(核磁気共鳴)測定(日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用)により得られたスペクトルから算出した。
【0159】
(2)EVOH(A)の固有粘度
試料とする乾燥EVOH(A)からなる乾燥ペレット0.20gを精秤し、これを含水フェノール(水/フェノール=15/85:重量比)40mlに60℃にて3〜4時間加熱溶解させ、温度30℃にて、オストワルド型粘度計にて測定し(t0=90秒)、下式により固有粘度[η]を求めた。
[η]=(2×(ηsp−lnηrel))1/2/C (L/g)
ηsp= t/ t0−1 (specific viscosity)
ηrel= t/ t0 (relative viscosity)
C ;EVOH濃度(g/L)
t0:ブランク(含水フェノール)が粘度計を通過する時間
t:サンプルを溶解させた含水フェノール溶液が粘度計を通過する時間
【0160】
(3)EVOH(A)及びEVOH(F)中の酢酸の含有量の定量
試料とするEVOHの乾燥ペレット20gをイオン交換水100mlに投入し、95℃で6時間加熱抽出した。抽出液をフェノールフタレインを指示薬として、1/50規定のNaOHで中和滴定し、酢酸の含有量を定量した。
【0161】
(4)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)中のNaイオン、Kイオン、Mgイオン及びCaイオンの定量
試料とするEVOH又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をイオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、Na、K、Mg、Caイオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS−C25を使用し、溶離液は5.0mMの酒石酸と1.0mMの2,6−ピリジンジカルボン酸を含む水溶液とした。なお、定量に際してはそれぞれ塩化ナトリウム水溶液、塩化カリウム水溶液、塩化マグネシウム水溶液及び塩化カルシウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0162】
(5)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)中のリン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンの定量
試料とするEVOH又は変性EVOH(C)の乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をイオンクロマトグラフィーを用いて定量分析し、リン酸イオン及びトリフルオロメタンスルホン酸イオンの量を定量した。カラムは、(株)横河電機製のICS−A23を使用し、溶離液は2.5mMの炭酸ナトリウムと1.0mMの炭酸水素ナトリウムを含む水溶液とした。なお、定量に際してはリン酸二水素ナトリウム水溶液及びトリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム水溶液で作成した検量線を用いた。
【0163】
(6)変性EVOH(C)中の亜鉛イオン及びイットリウムイオンの定量
試料とする変性EVOH(C)乾燥ペレット10gを0.01規定の塩酸水溶液50mlに投入し、95℃で6時間撹拌した。撹拌後の水溶液をICP発光分析により分析した。装置はパーキンエルマー社のOptima4300DVを用いた。測定波長は亜鉛イオンの測定においては206.20nmを、イットリウムイオンの測定においては360.07nmをそれぞれ用いた。なお、定量に際しては市販の亜鉛標準液及びイットリウム標準液をそれぞれ使用して作成した検量線を用いた。
【0164】
(7)EVOH(A)、変性EVOH(C)及びEVOH(F)の融点
EVOH及び変性EVOH(C)の融点は、セイコー電子工業(株)製示差走査熱量計(DSC)RDC220/SSC5200H型を用い、JIS K7121に基づいて測定した。但し、温度の校正にはインジウムと鉛を用いた。
【0165】
(8)EVOH(A)、変性EVOH(C)、EVOH(F)、及び樹脂組成物のメルトフローレート(MFR):
メルトインデクサーL244(宝工業株式会社製)を用いて測定した。具体的には、測定する樹脂{EVOH(A)、変性EVOH(C)、EVOH(F)、あるいは樹脂組成物}のチップを、内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーに充填し、190℃で溶融した後(実施例10は210℃で溶融)、溶融した樹脂に対して、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーによって均等に荷重をかけ、シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより押出された樹脂の流出速度(g/10分)を測定し、これをメルトフローレート(MFR)とした。
【0166】
合成例1
エチレン含有量27モル%、ケン化度99.6%、固有粘度0.11L/gのエチレン−ビニルアルコール共重合体からなる含水ペレット(含水率:130%(ドライベース))100重量部を、酢酸0.1g/L、リン酸二水素カリウム0.044g/Lを含有する水溶液370重量部に、25℃で6時間浸漬・攪拌した。得られたペレットを105℃で20時間乾燥し、乾燥EVOHペレットを得た。前記乾燥EVOHペレットのカリウム含有量は9ppm(金属元素換算)、酢酸含有量は56ppm、リン酸化合物含有量は23ppm(リン酸根換算値)であり、アルカリ土類金属塩含有量は0ppmであった。また、前記乾燥ぺレットのMFRは3.5g/10分(210℃、2160g荷重下)であった。このようにして得られたEVOHを、EVOH(A)として用いた。また、分子量500以下の一価エポキシ化合物(B)としては、1,2−エポキシブタンを使用した。
【0167】
東芝機械社製TEM−35BS押出機(37mmφ、L/D=52.5)を使用し、図1に示すようにスクリュー構成及びベント及び圧入口を設置した。バレルC1を水冷し、バレルC2〜C3を200℃、バレルC4〜C15を240℃に設定し、スクリュー回転数400rpmで運転した。C1の樹脂フィード口から上記EVOH(A)を11kg/hrの割合でフィードし、溶融した後、ベント1から水及び酸素を除去し、C9の圧入口から1,2−エポキシブタンを2.5kg/hrの割合でフィードした(フィード時の圧力:6MPa)。その後、ベント2から未反応の1,2−エポキシブタンを除去し、変性EVOH(C)を得た。得られた変性EVOH(C)のMFRは、2.0g/10分(190℃、2160g荷重下)で、融点は149℃であった。
【0168】
こうして得られた、1,2−エポキシブタンで変性された変性EVOH(C)の化学構造については、以下の手順に従って変性EVOH(C)をトリフルオロアセチル化した後にNMR測定を行うことによって求めた。このとき、下記のモデル化合物を合成し、それらモデル化合物のNMR測定チャートと対比することによって、変性EVOH(C)中のNMR測定チャート中のピークを帰属した。
【0169】
(1)変性EVOH(C)のトリフルオロアセチル化及びNMR測定
上記作製した変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を粒子径0.2mm以下に粉砕後、この粉末1gを100mlナスフラスコに入れ、塩化メチレン20g及び無水トリフルオロ酢酸10gを添加し、室温で攪拌した。攪拌開始から1時間後、ポリマーは完全に溶解した。ポリマーが完全に溶解してからさらに1時間攪拌した後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を除去した。得られたトリフルオロアセチル化された変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)を2g/Lの濃度で重クロロホルムと無水トリフルオロ酢酸の混合溶媒(重クロロホルム/無水トリフルオロ酢酸=2/1(重量比))に溶解し、テトラメチルシランを内部標準として500MHz1H-NMRを測定した。
【0170】
(2)1−イソプロポキシ−2−ブタノール及び1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−ブタノールの合成
攪拌機及び冷却器を備えた1Lセパラブルフラスコにイソプロパノール180g及びエポキシブタン216g仕込み、窒素置換後、ナトリウム1.6gを添加し、16時間還流を行った。これにリン酸5gを添加後、減圧蒸留により、1−イソプロポキシ−2−ブタノール(沸点:100℃/120mmHg)及び1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−ブタノール(沸点:105℃/50mmHg)を分留して得た。こうして得られた1−イソプロポキシ−2−ブタノールは、EVOHの水酸基に1,2−エポキシブタンが1分子反応した時のモデル化合物であり、1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−ブタノールは、EVOHの水酸基に1,2−エポキシブタンが2分子以上反応した時のモデル化合物である。
【0171】
(3)1−イソプロポキシ−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンの合成及びNMR測定
上記作製した1−イソプロポキシ−2−ブタノール530mg及び塩化メチレン5gを20mlナスフラスコに仕込んだ後、無水トリフルオロ酢酸1.7gを添加した。室温で1時間攪拌後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を除去した。得られた1−イソプロポキシ−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンについて重クロロホルムと無水トリフルオロ酢酸の混合溶媒(重クロロホルム/無水トリフルオロ酢酸=2/1(重量比))を溶媒とし、500MHz1H-NMRを測定した。
【0172】
(4)1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンの合成及びNMR測定
上記作製した1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−ブタノール820mg及び塩化メチレン5gを20mLナスフラスコに仕込んだ後、無水トリフルオロ酢酸1.7gを添加した。室温で1時間攪拌後、ロータリーエバポレーターにより溶媒を除去した。得られた、1−イソプロポキシ−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンについて重クロロホルムと無水トリフルオロ酢酸の混合溶媒(重クロロホルム/無水トリフルオロ酢酸=2/1(重量比))を溶媒とし、500MHz1H-NMRを測定した。
【0173】
(5)NMR測定チャートの解析
1−イソプロポキシ−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンの1H-NMRでは、δ0.8〜1.1ppmにメチルプロトンに由来するシグナルが1つ存在していた。そして、1−(1−イソプロポキシ−2−ブトキシ)−2−トリフルオロアセトキシ−ブタンの1H-NMRでは、δ0.8〜1.1ppmにメチルプロトンに由来するシグナルが2つ存在していた。一方、本合成例1で作製された変性EVOH(C)は、δ0.8〜1.1ppmにメチルプロトンに由来するシグナルが1つ存在しており、本合成例1で得られた変性EVOH(C)は、下記構造単位(XII)を有していることが明らかであった。
【0174】
【化18】
【0175】
1,2−エポキシブタンで変性された変性EVOH(C)中の化学構造について、以下の各構造単位の含有量を求めた。
w:エチレン含有量(モル%)
x:未変性のビニルアルコール単位の含有量(モル%)
y:上記式(XII)で表される構造単位(モル%)
z:下記式(XIII)で表される構造単位(モル%)
【0176】
【化19】
【0177】
上記w〜zの間で、下記式(1)〜(4)で示される関係が成り立つ。
4w+2x+4y+4z=A (1)
3y+2z=B (2)
2z=C (3)
x+y=D (4)
ただし、上記式(1)〜(4)中、A〜Dは、それぞれ変性EVOH(C)の1H-NMR測定における下記範囲のシグナルの積分値である。
A:δ1.1〜2.4ppmのシグナルの積分値
B:δ3.1〜3.8ppmのシグナルの積分値
C:δ4.1〜4.5ppmのシグナルの積分値
D:δ4.8〜5.5ppmのシグナルの積分値
【0178】
上記式(1)〜(4)から、変性EVOH(C)のエチレン含有量が以下のように求められる。
変性EVOH(C)のエチレン含有量(モル%)
={w/(w+x+y+z)}×100
={(3A−2B−4C−6D)/(3A−2B+2C+6D)}×100
同様に、変性EVOH(C)の構造単位(I)の含有量が以下のように求められる。
変性EVOH(C)の構造単位(I)の含有量(モル%)
={(y+z)/(w+x+y+z)}×100
={(4B+2C)/(3A−2B+2C+6D)}×100
合成例1で作製した変性EVOH(C)のエチレン含有量は27モル%であり、構造単位(I)の含有量は4.5モル%であった。
【0179】
実施例1
高密度ポリエチレン(HDPE)として三井石油化学製「HZ8200B」(190℃、2160g荷重におけるMFR=0.01g/10分)、接着性樹脂として三井化学製「アドマーGT4」(190℃、2160g荷重下におけるMFR=0.2g/10分)を、バリア材として合成例1で作製した変性EVOH(C)を用いた。鈴木製工所製ブロー成形機TB−ST−6Pにて各樹脂の押出温度及びダイス温度を210℃に設定し、HDPE/接着性樹脂/バリア材/接着性樹脂/HDPEの層構成を有する3種5層パリソンを押し出し、15℃の金型内でブローし、20秒冷却して、多層ブロー成形物からなる500mLボトルを得た。前記ボトルの全層厚みは2175μmであり、その層構成は、(内側)HDPE/接着性樹脂/バリア材/接着性樹脂/HDPE(外側)=1000/50/75/50/1000μmであった。ボトルは特に問題なく成形できた。また、ボトルの外観は良好であった。
【0180】
この多層ボトル容器にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}300mlを入れ、アルミホイルを用いて漏れがないように完全に栓をしたうえで40℃、65%RHの雰囲気下に放置して、14日後のボトル重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.50gであった。
【0181】
次に、前記と同一の多層容器に、エチレングリコールを内容積に対して60%充填し、40℃の冷凍室に3日間放置した後コンクリート上に落下させ、ボトルの破壊(容器内部のエチレングリコールが漏れる)する落下高さを求めた。破壊高さは、n=30の試験結果を用いて、JIS試験法(K7211の「8.計算」の部分)に示される計算方法を用いて、50%破壊高さを求めた。破壊高さは8.0mであった。評価結果を表1にまとめて示す。
【0182】
実施例2
エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9%、メルトフローレート(190℃、2160g荷重)1.6g/10分、融点183℃のEVOH(F)90重量部、及び合成例1で得られた変性EVOH(C)10重量部をドライブレンドし、30mmφ二軸押出機((株)日本製鋼所TEX−30SS−30CRW−2V)を用い、押出温度200℃でスクリュー回転数300rpm、押出樹脂量25kg/時間の条件で押出し、ペレット化した後、80℃、16時間熱風乾燥を行い樹脂組成物を得た。EVOH(F)のリン酸化合物含有量(リン酸根換算値)、酢酸含有量及びNaイオン含有量(金属元素換算)を測定したところ、それぞれ52ppm,290ppm,205ppmであった。樹脂組成物のメルトフローレート(190℃、2160g荷重)は1.7g/10分であった。
【0183】
合成例1で得られた変性EVOH(C)の代わりに、上記樹脂組成物を用いた以外、実施例1と同様の方法で多層ボトル容器を得た。この多層容器にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}300mlを入れて、実施例1と同一の方法でボトル重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.42gであった。また、前記と同一の多層ボトルを用いて、実施例1と同一の方法で−40℃のボトル破壊高さを求めた。破壊高さは6.8mであった。評価結果を表1にまとめて示す。
【0184】
比較例1
合成例1で得られた変性EVOH(C)の代わりに、エチレン含有量32モル%、ケン化度99.9%、メルトフローレート(190℃−2160g荷重)1.6g/10分、融点183℃の未変性のEVOH(F)を用いた以外、実施例1と同様の方法で多層ボトル容器を得た。この多層ボトル容器にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}300mlを入れて、実施例1と同一の方法でボトル重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.40gであった。また、前記と同一の多層ボトルを用いて、実施例1と同一の方法で−40℃のボトル破壊高さを求めた。破壊高さは4.2mであった。評価結果を表1にまとめて示す。
【0185】
【表1】
【0186】
実施例1及び2に示されるように、本発明の変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物を使用した場合、ガソリンバリア性を大きく損なうことなく、燃料容器の耐衝撃性を大幅に改良することが可能となる。これに対し、未変性のEVOH(F)のみを使用した比較例1では、ボトル重量減少率、すなわちガソリンバリア性においては実施例1及び2よりも優れるものの、容器の耐衝撃性が大きく劣る。また、本発明の変性EVOH(C)を単独で使用した実施例1の容器は、変性EVOH(C)と未変性のEVOH(F)の混合物をバリア層に用いた実施例2の容器に比べて、耐衝撃性の改善効果に優れることがわかる。一方、変性EVOH(C)と未変性のEVOH(F)の混合物をバリア層に用いた実施例2の容器は、変性EVOH(C)を単独で使用した実施例1の容器に比べてガソリンバリア性に優れる。
【0187】
実施例3
バリア材として合成例1で作製した変性EVOHを用い、3種5層共押出装置を用いて、多層シート(i)(HDPE/接着性樹脂/バリア材/接着性樹脂/HDPE)を作製した。フィルムの層構成は、内外層のHDPE樹脂(三井化学製「HZ8200B」)が450μm、接着性樹脂(三井化学製「アドマーGT4」)が各50μm、中間層のバリア材が75μmであった。
【0188】
得られた多層シートを熱成形機(浅野製作所製:真空圧空深絞り成形機FX−0431−3型)にて、シート温度を160℃にして、圧縮空気(気圧5kgf/cm2)により丸カップ形状(金型形状:上部75mmφ、下部60mmφ、深さ75mm、絞り比S=1.0)に熱成形することにより、熱成形容器を得た。成形条件を以下に示す。
ヒーター温度:400℃
プラグ :45φ×65mm
プラグ温度 :150℃
金型温度 :70℃
【0189】
得られた熱成形容器は内容積約150mlのカップ型容器(ii)であり、このカップ型容器(ii)の底部付近を切断し、カップの底の角部における変性EVOH(C)からなる中間層の厚みを光学顕微鏡による断面観察により測定した(n=5の平均値)。カップ角部における中間層の厚みは35μmであった。
【0190】
この多層容器にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}140mlを入れて、前記と同一の共押出シート(i)を円形に切断したものをカップ上部にのせたのち、内容物が漏れないように完全にふたをした状態で熱板溶着法により成形し、内部にモデルガソリンを封入したカップ型容器を得た。これを40℃、65%RHの雰囲気下に放置して、14日後のカップ重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.32gであった。評価結果を表2にまとめて示す。
【0191】
実施例4
合成例1で得られた変性EVOH(C)の代わりに、実施例2で記載した樹脂組成物を用いた以外、実施例3と同様の方法で共押出シート(i')ならびにカップ型容器(ii')を得た。前記実施例3に記載したものと同一の方法でカップ角部における中間層の厚みを測定したところ、カップ型容器(ii')における角部中間層厚みは34μmであった。
【0192】
共押出シート(i')ならびにカップ型容器(ii')を使用し、実施例3に記載したものと同一の方法で内部にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}140mlを封入したカップ型容器を得た。これを40℃、65%RHの雰囲気下に放置して、14日後のカップ重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.30gであった。評価結果を表2にまとめて示す。
【0193】
比較例2
合成例1で得られた変性EVOH(C)の代わりにエチレン含有量32モル%、ケン化度99.9%、メルトフローレート(190℃−2160g荷重)1.6g/10分、融点183℃の未変性EVOH(F)を用いた以外、実施例3と同様の方法で共押出シート(i'')ならびにカップ型容器(ii'')を得た。また、前記実施例3に記載したものと同一の方法でカップ角部における中間層の厚みを測定したところ、カップ型容器(ii'')における角部中間層厚みは12μmであった。
【0194】
共押出シート(i'')ならびにカップ型容器(ii'')を使用し、実施例3に記載したものと同一の方法で内部にモデルガソリン{トルエン(45重量%):イソオクタン(45重量%):メタノール(10重量%)の比の混合物}140mlを封入したカップ型容器を得た。これを40℃、65%RHの雰囲気下に放置して、14日後のカップ重量減少量(n=6の平均値)を求めた。重量減少量は0.40gであった。評価結果を表2にまとめて示す。
【0195】
【表2】
【0196】
実施例3及び4に示されるように、本発明の変性EVOH(C)あるいはそれを含有する樹脂組成物を使用した場合、未変性のEVOH(F)のみを使用した比較例2よりも、容器角部のバリア層厚みを厚くでき、容器全体からのガソリン透過量を小さく抑えることが可能となる。すなわち、実施例3及び4では、延伸性が良好である結果、多層容器内でのバリア層厚みが均一であるために、容器全体からのガソリン透過量が比較例2よりも少なくなっているものである。また、変性EVOH(C)と未変性のEVOH(F)の混合物をバリア層に用いた実施例4の容器は、変性EVOH(C)を単独で使用した実施例3の容器に比べてガソリンバリア性に優れる。
【0197】
【発明の効果】
本発明の燃料容器は、燃料のバリア性に優れ、耐衝撃性にも優れ、しかも成形性が良好である。これにより、ガソリン、特にアルコール含有ガソリンやMTBE含有ガソリン等の含酸素ガソリンに対する透過防止性能及び耐衝撃性に優れた燃料容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】合成例1において変性EVOH(C)を製造するために使用した押出機の構成の模式図である。
Claims (8)
- 熱可塑性樹脂(T1)が前記構造単位(I)を含有しないエチレン含有量5〜55モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(F)である請求項2記載の燃料容器。
- 熱可塑性樹脂(T2)がポリオレフィンである請求項4記載の燃料容器。
- 中間層が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(C)であり、その両面に接着性樹脂層を介してポリオレフィンからなる内外層が積層された多層構造体からなる請求項5記載の燃料容器。
- ブロー成形してなる請求項1〜6のいずれか記載の燃料容器。
- 熱成形してなる請求項1〜6のいずれか記載の燃料容器。
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