以下、本発明の皮膚上層部への薬液注入用注射器を実施するための形態を、詳細に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施形態に限定されるものではない。
本発明の皮膚上層部への薬液注入用注射器1の一形態について、図1を参照して説明する。図1は、皮膚上層部への薬液注入用注射器1の使用前の状態を示す分解正面図である。皮膚上層部への薬液注入用注射器1は、プレフィルドシリンジを成すシリンジ体60と、注射針組立体10とを有している。
この皮膚上層部への薬液注入用注射器1は、シリンジ体60を注射針組立体10に着脱可能に装着して接続する直前の状態を示す模式的な部分断面図である図2を、さらに参照して、より具体的に説明する。
シリンジ体60は、円筒状の外筒80と、その外筒80の筒先側に設けられた薬液排出管70と、外筒80にその筒基端から挿入されるガスケット91及びそのガスケット91の基端側にプランジャ92を接続した押し子90とを、有し、ガスケット91と薬液排出管70との間に薬液81が封止されている。注射針組立体10は、針管からなる注射針20と、注射針20を注射針保持部36で保持する針ハブ30と、注射針20を挿通している上側窪み46を有した弾性体40と、弾性体40及び針ハブ30の注射針保持部36を収容しつつ雌型テーパー54を形成している嵌入孔57が基端58に開いた嵌入筒50とを、有している。
皮膚上層部への薬液注入用注射器1は、薬液81を投与すべき被投与者の皮膚100の皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aに針先21を穿刺し、そこへ極少量のインフルエンザワクチンのような生物製剤である薬液81を注入(図3参照)し膨隆を生じさせるのに用いられるものである。
先ず、注射針組立体10を説明する。
注射針20は、針ハブ30の中央に貫通して保持される。針ハブ30は、針元である針基端23側(図2中、上側)で注射針20を保持する略円柱状の注射針保持部36と、針先21側(図2中、下側)の先端部31cで注射針20からの薬液81の注入を助ける調整部31、それを取り巻く安定部32、及び調整部31と安定部32とを支え注射針保持部36へ繋がっている接続ガイド部33とを、一体成型されて、有している。注射針20は、注射針保持部36及び調整部31の中央を同軸に貫通し、調整部31から刃面22ごと針先21が露出し、逆方向で注射針保持部36から針基端23が突き出ているものである。略円筒状の注射針保持部36の胴部の中程に、軸心に向いて側壁を貫通した対称な接着剤充填横穴35と、注射針20を取り囲み接着剤充填横穴35に繋がる略円筒状の接着剤充填キャビティ34とが、設けられている。その接着剤充填横穴35と接着剤充填キャビティ34とに接着剤が充填されて硬化しており、注射針20を移動不能に固定している。注射針保持部36は、針基端23側の基端部38が、端面周辺で僅かに盛り上がりつつ端部外周で僅かに広径になっている。
注射針20は、中空の針管からなる。注射針20は、注射針組立体10の針ハブ30から露出し、皮膚100に穿刺されるために軸心に対し鋭角の刃面22が形成された針先21と、注射針組立体10内部に収まり軸心に対し略垂直に形成された針基端23とを有する。注射針20の刃面22に、その針管の針穴24の開口24aが開いている。
注射針20は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で26~33ゲージ(外径0.2~0.45mm)、好ましくは30~33ゲージのサイズの針管が挙げられる。
注射針20は、針先21が針ハブ30の先端部31cからの突出針長L1を1.15mm±0.10mmとするものである。この突出針長変動幅は、平均突出針長値の変動可能幅、又は目標の突出針長の範囲を示すものであり、さらに注射針20の作製時、及び注射針組立体10の組み立て時の公差を最大で0.2mmとするものである。また、注射針20は、軸方向における刃面22の長さ(刃面長)L2を0.60mm±0.15mmとするものである。この注射針20の刃面長変動幅は、平均刃面長値の変動可能幅、又は目標の刃面長を示すものであり、さらに注射針20の作製時、特に針管の軸心に対し鋭角の刃面22を付す時の公差を最大で0.3mmとするものである(図1参照)。
注射針20は、針ハブ30からの突出針長L1と、軸方向における刃面22の刃面長L2とをこの範囲に収めていると、年齢差・男女差・個人差に関わらず、皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aへ選択的に、極少量のワクチンのような薬液81を、確実に注入することができる(図3参照)。針ハブ30からの突出針長L1と、軸方向における刃面22の刃面長L2とが、共働して、刃面22を丁度適切に標的部位102aへ到達させつつ刃面22の針孔から薬液81を標的部位102aに排出させることにより、膨隆を形成させる。何れかがこの範囲から外れると、折角、皮膚100に刃面が到達していても、薬液注入後に皮膚100からの遺漏を生じる率が増えたり、膨隆を形成しない率が増えたり、皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aにインフルエンザワクチン等の生物製剤のような薬液81を注入できない率が増えたりする。その所為で、皮下投与や筋肉内投与の場合の1/2~1/5に低減した薬液81で、十分な免疫惹起能などの薬効を発現できなくなってしまう。
注射針20は、刃面22が針管の軸心に対し18~25°の鋭角をなすものである。このような鋭角であると、針先21が確実に皮膚表面に穿刺され表皮層103を貫通して所望の皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い薬液注入すべき標的部位102aへ到り、刃面22の針孔をその部位へ位置させることができる。
このような注射針20に調整された注射器1であると、針ハブ30からの突出針長L1、針管の軸方向における刃面22の刃面長L2、針管の軸心に対し鋭角の刃面22によって、薬液81を注入する際に皮膚表面から遺漏させない。また、極少量の薬液81であっても、標的部位102aで薬液81による膨隆を数mm径程度形成させ、薬液81を暫く滞留させることができることによって、薬液81を徐々に免疫担当細胞であるランゲルハンス細胞や真皮内樹状細胞へ拡散させ、十分な免疫惹起能などの薬効を獲得させたり発現させたりすることができる。この皮膚上層部への薬液注入用注射器1によれば、インフルエンザワクチンのような生物製剤である薬液81の投与量を、皮下投与や筋肉内投与の場合の1/2~1/5に低減しても免疫担当細胞へ十分量到達して、皮下投与や筋肉内投与と同等な免疫惹起能を獲得させることができる。それにより、成人・青少年・小児・乳幼児のような年齢差、男女差、個人差に関わりなく十分にウィルスに対する免疫が体内に構築でき感染症発症を予防できるようになる。
さらにこのような注射針20となるように調整された注射器1であると、皮膚上層部に薬液81を注入したときに疼痛を感じ難く、また注入後に注射針20の針管中空に薬液81が残存してしまうデッドボリュームを、極少なくすることができる。
注射針20は、注射針保持部36、及び調整部31を貫通し接着剤充填横穴35と接着剤充填キャビティ34にて、接着剤で固定されていることにより、薬液81の注入前後において、回動せず、針ハブ30からの突出針長L1を不変に維持されている。
注射針20の材料として、例えば、ステンレス鋼が好ましいが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金、その他の金属であってもよい。
注射針20は、0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗を荷重変動曲線の最大値で0.15N以下とするものであることが、好ましい。注射針20の外周にシリコーンオイルのような油滑剤を塗布していてもよい。シリコーンオイルは、例えばJIS3209に準拠したシリコーンオイル、より具体的には縮合した架橋反応したシリコーンオイルや、付加した架橋反応したシリコーンオイルのような架橋反応型シリコーンオイルが挙げられる。このような油滑剤によって、皮膚100への注射針20の穿刺がされ易くなると共に、被投与者の疼痛を軽減できる。
注射針20は、注射針保持部36及び調整部31の軸心上に存することにより、薬液81の投与時に、皮膚100表面へ略垂直に穿刺できるようになっている。そのため、年齢差、男女差、個人差のような個体差に関わらず、ヒトの皮膚上層部、特に表皮層103を貫通して真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aへ、必ず到達し、薬液81を所期量だけ注入し膨隆を確実に形成させることができる(図3参照)。
針ハブ30の注射針保持部36は、針先21側で円盤状に延びて形成された接続ガイド部33に、接続している。接続ガイド部33は、注射針保持部36よりも広径である。注射針保持部36と円柱状の調整部31とは何れも同軸であり、注射針20はそれらを貫通し調整部31の針先側端面31bへ突出している。調整部31は、薬液注入の際に表皮層103を押し広げ注射針20からの薬液81の注入を助けるために、針先21側で窪み、その窪み31aの中央から注射針20の針先21が突き出ている。調整部31の針先側端面31bは、皮膚上層部への薬液81の注入の際に水泡として形成される膨隆よりも十分に大きな面積を有している。調整部31は、針先側端面31bが内径W1を0.5~0.7mmとし外径W2を1.7~1.9mmとしていることが好ましい。この範囲であると、個体差に関わらず、ヒトの皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aへ、薬液81を所期量だけ注入し、皮膚100からの遺漏を防ぎ、膨隆を確実に形成させることができる。
安定部32は、調整部31を取り巻く中空円筒状であって、調整部31や注射針保持部36より広径で、接続ガイド部33よりも細径である。安定部32は、接続ガイド部33から針先21の側へ突き出ている。薬液注入の際、皮膚表面に、注射針20の刃面22が先ず接触し、次いで調整部31の針先側端面31bが接触し、安定部32が接触するが、そのとき、皮膚100表面を押し広げ、皮膚上層部に注射針20が略垂直に穿刺できるように、調整部31と安定部32との間が開いている。安定部32は、その先端面で内径半径W3を5.8~6.2mmとし、外径半径W4を6.53~6.57mmとしていることが好ましい。調整部31の外周と安定部32の内周との幅L4は、4.9~5.3mmとしていることが好ましい。調整部31の針先側端面31bが、安定部32の先端面よりも、0.2~0.4mmとする距離L3だけ突出していることが好ましい。この範囲であると、調整部31・安定部32への押圧により皮膚100表面が引っ張られ、年齢差、男女差、個人差のような個体差に関わらず、ヒトの皮膚上層部、特に真皮層102中の表皮層103寄りの比較的浅い標的部位102aへ、薬液81を所期量だけ注入し、膨隆を確実に形成させる。
安定部32は、安定部32の先端面から接続ガイド部33までの高さL5を2.9~3.1mmとすることが好ましい。接続ガイド部33は、安定部32の外表面から接続ガイド部33の縁までの長さ(幅)W5を2.9~3.1mmとすることが好ましい。これにより、皮膚100表面に接触した場合、注射針20の針先21が真皮層102に達したことの目安となる。
また、接続ガイド部33は、安定部32よりも広径となっている分、薬液81注入の際に、皮膚100表面に十分な面積で接触して、皮膚上層部への薬液注入用注射器1のずれを防止することができる。
針ハブ30の注射針保持部36の上に、その針基端23側端部周辺での盛り上った縁の内縁に納まるように、弾性体40が載置されている。注射針20は、針基端23側で、弾性体40の軸心に挿通されている。弾性体40は、針先21側で、端部に鍔41を有している。弾性体40は、注射針20を取り巻いて略円錐状に窪んだ下側窪み42を有している。弾性体40は、針基端23側で、注射針20を取り巻いて擂り鉢状に窪んだ上側窪み46を有している。上側窪み46を取り巻く周縁を成す突出部45の上端面47は、略平坦になっている。突出部45の上端面47は、薬液排出管70の筒先端73aでの先端面73と、十分に面接触し合うだけの面積を有している。また、弾性体40の上側窪み46の開口径は、薬液排出管70の先端の開口71の径と同じかそれより小さくなっている。突出部45の上端面47は、薬液排出管70の先端面73と面接触し、薬液排出管70を嵌入筒50の嵌入孔57へ押し込む嵌入によって、突出部45を圧縮変形させて薬液排出管70と注射針20とを液密に接続させるよう、作用する(図3参照)。このため、極少量の薬液81の注入量のばらつきを軽減し、所期量の薬液81で所望の膨隆を形成することができる。上側窪み46の中央は、注射針20の周囲で針基端23側へ盛り上がっており、それによって注射針20の周囲を均等に押し付ける弁体44を形成している。注射針20は、これら上側窪み46と下側窪み42とに挟まれて、弾性体40によって支持されている。注射針20の針基端23は、上側窪み46内に収まり、突出部45の上端面47より僅かに針先21側へ寄っている。これによって、注射針20の針基端23が、薬液注入時に、薬液排出管70の先端73に当接しないので、針ハブ30からの突出針長L1を不変に維持できる。
弾性体40と針ハブ30の注射針保持部36とを取り巻いて収容するように、嵌入筒50がそれらを覆っている。嵌入筒50は、下端に鍔51を有し、そこで針ハブ30の接続ガイド部33と接着し若しくは溶着し又は予め一体成型されて一体化している。嵌入筒50は、中程で、下側半分よりも縮径し、段差52を有している。嵌入筒50は、下側半分に、針ハブ30の注射針保持部36を収容している。針ハブ30の注射針保持部36の針基端23側端部外周での僅かな広径部位37が、嵌入筒50の下側半分に存する内壁に当接し、がたつきを防止している。嵌入筒50は、段差52で弾性体40の鍔41を、包み込み又は押さえ付けている。
挿入筒50は、嵌入孔57を有している。嵌入孔57は、針先側に雌型テーパー54を有している。雌型テーパー54のテーパー率は、100mm当たり直径がAmm細くなるときにA/100とする分数表記に従うと、雌型テーパー54は15/100となっている。これは、前記の通り、この薬液注入用注射器が、針ハブを有する注射針組立体と外筒との取り付けの際に、0.05~0.1N・m程度の弱い力で薬液排出管が嵌入孔へ押し込まれたとしても、外筒と注射針組立体とを3MPa以上の耐圧で液密に接続させるため、雌型テーパー54に雄型テーパー74の少なくとも先端面73の縁が接触するように嵌入させるためである。
薬液排出管70を嵌入孔57へ強く押し込むほど、プラスチック製の薬液排出管70の筒先端73aと嵌入孔57の雌型テーパー54とが僅かに変形し合い、深く嵌入できる。
図2に示すように、注射針組立体10中、嵌入筒50の雌型テーパー54と薬液排出管70の雄型テーパー74との嵌合位置H1(図3参照)は、弾性体40の突出部45の上端面47よりも、高低差H(図3参照)だけ下方側即ち針先21側へ到るように、雌型テーパー54と雄型テーパー74が調整されている。そのため、シリンジ体60を注射針組立体10に装着する以前では、図2に示すように、弾性体40は、突出部45の上端面47を、雌型テーパー54と雄型テーパー74との嵌合位置H1(図3参照)よりも、嵌入孔57の開口側に高低差Hだけ予め延ばし、未嵌合状態での上端面位置H0(図3参照)に、存在させている。嵌入筒50内の弾性体40は、薬液排出管70を嵌入孔57へ押し込む嵌入によって、突出部45の上端面47が、薬液排出管70の先端面73に接触することによって圧縮変形され、嵌入孔57の内壁へ突出部45が押し拡げられ気密となるように、突出部45の容量・高さ・形状を適切に調整されている。その嵌入によって、突出部45が圧縮変形され、嵌入孔57の内壁のみならず上側窪み46にも押し拡げられ気密となるように、突出部45が調整されていると一層好ましい。
嵌入筒50の外周には、シリンジ体60に付されているロック機構76の雌螺子75に螺合する雄螺子55が、付されている。
また、注射針組立体10には、薬液81注入直前にシリンジ体60へ装着されるまで、注射針30の針先21及び刃面22ごと覆う注射針組立体キャップ11(図1参照)が取り付けられている。
次に、図2を参照しながらシリンジ体60を説明する。シリンジ体60の外筒80は、薬液81を充填するために中空の円筒状になっている。薬液排出管70が、外筒80の筒先側の中央で、同軸上に、設けられている。薬液81を押し出して薬液排出管70から排出するために、外筒80にガスケット91が挿入されている。ガスケット91と薬液排出管70との間に、薬液81が充填されている。薬液81は、ガスケット91により液密に封止され液漏れしないようになっている。ガスケット91の基端側にプランジャ92が接続され、押し子90を形成している。外筒80の基端でフランジ82が外周から二方向へ延びて設けられている(図1参照)。薬液排出管70は、中空孔72を有し、その中空孔72から、外筒80内の薬液81を、外筒80外へ排出し得る。薬液排出管70の外周には、ISO594-1やISO594-2に準拠して筒先端に向かうにつれ外径を縮径しておりテーパー率を6/100とする雄型テーパー74が、形成されている。
薬液排出管70の先端には、軸心方向に直交する平坦な先端面73が形成され、その先端面73の軸心部分には、薬液81を排出するための中空孔72の開口71が形成されている。この開口71は、中空孔72の径よりも幾分広がっている。薬液排出管70の筒先端73aの先端面73の外形、即ち薬液排出管70の先端外縁は、円形に形成されている。薬液排出管70の先端面73と、薬液排出管70の雄型テーパー74の面とが、薬液排出管70の先端外縁で繋がっている。薬液排出管70の先端面73は、嵌入筒50内で弾性体40に接触してこの弾性体40を確実に圧縮変形させるのに十分な面積を有している。薬液排出管70の先端面73は、弾性体40の上側窪み46の周縁を成す突出部45の上端面47と、面接触して、薬液排出管70と注射針20とを液密に接続させるよう、作用する。薬液排出管70は、薬液81が漏れ出さず外界の雑菌で汚染されないように、薬液注入直前まで薬液排出管キャップ61(図1参照)で封鎖されている。
薬液排出管70は、その後端側に、薬液排出管70を同軸で取り囲む筒状のロック機構76を有している。ロック機構76の筒の横断面は、内周が円形であり、外周が一例として摘んで回しやすいように六角形状で形成されている。ロック機構76は、外筒80及び薬液排出管70と別部材で形成されて、薬液排出管70よりも基端側に、接着、嵌め込み、螺子止めなどにより取り付けられており、又は外筒80及び薬液排出管70と一体成型で形成されている。薬液排出管70を嵌入筒50の嵌入孔57へ嵌入する際、ロック機構76は、深く螺合するほど、薬液排出管70を嵌入筒50の嵌入孔57へ強く嵌入させることができる。従って、ロック機構76が深く螺合するほど、薬液排出管70の先端面73が弾性体40の突出部45を、強く押し込む。ただし、薬液排出管70が嵌入筒50の嵌入孔57へ強く嵌入しても雄型テーパー74と雌型テーパー54との変形に限度があるので嵌合位置H1(図3参照)は、テーパー率や寸法公差、薬液排出管70・嵌入筒50の材質、ロック機構76の締め込み程度に応じ、定まる。
シリンジ体60及びそれのロック機構76と、注射針組立体10の嵌入筒50及び針ハブ30と、押し子90のプランジャ92とは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のようなプラスチック、及び/又は金属で形成されている。このようなプラスチックとして、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリエチレン、シクロオレフィンポリマーが挙げられる。このような金属として、ステンレス、アルミニウムが挙げられる。弾性体40とガスケット91とは、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム;ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エストラマー;又はそれらの混合物からなる弾性材料で形成されている。
皮膚上層部への薬液注入用注射器1は、以下のように製造される。先ず、注射針組立体10を次のようにして製造する。針ハブ30及び嵌入筒50を、それぞれプラスチック材料で成型し、弾性体40を、ゴム材料で成型する。針ハブ30の注射針保持部36及び調整部31の同軸の貫通孔に注射針20を差し込む。注射針20の針先21を、皮膚100に穿刺する所望の長さだけ調整部31の先端部31cから突出させた状態で、注射針保持部36に形成された接着剤充填横穴35から接着剤を流し込み、注射剤保持部36と注射針20とを接着固定する。嵌入筒50に弾性体40を挿入し、嵌入筒50の段差52に弾性体40の鍔41を係止する。嵌入筒50の鍔51と針ハブ30の接続ガイド部33との接触部分に接着剤を塗布する。次に、嵌入筒50に、注射針20ごと針ハブ30を挿入して、注射針20の針基端23側から弾性体40を突き刺してから、嵌入筒50の鍔51と針ハブ30の接続ガイド部33とを接着固定して、注射針組立体10とする。注射針組立体10を注射針組立体キャップ11に収め、蓋で熱溶着シールして密閉し、必要に応じ滅菌する。
一方、シリンジ体60を次のようにして製造する。外筒80及び薬液排出管70と、ロック機構76を、プラスチック材料で、それぞれ一体に成型する。ガスケット91をゴム材料で成型し、プランジャ92をプラスチック材料で成型した後、ガスケット91をプランジャ92に接続して、押し子90を作製する。シリンジ体60を、薬液排出管キャップ61で封鎖してから、シリンジ体60の外筒に、薬液81を充填する。薬液81の充填量は、例えば所望の皮膚上層部注入量(例えば100~200μL)に、僅かながら生じるデッドボリューム容量だけ増量した用量の薬液81を充填し、押し子90のガスケット91をプランジャ92ごと挿入して、プレフィルドシリンジであるシリンジ体60とする。シリンジ体60を滅菌袋に収めて密閉し、必要に応じ滅菌する。
次に、薬液排出管70を嵌入筒50の嵌入孔57へ押し込む嵌入によって、シリンジ体60を注射針組立体10に接続し、皮膚上層部へ薬液81を注入する使用方法について、図3を参照しながら、説明する。
シリンジ体60と注射針組立体10とを開封する(図1参照)。シリンジ体60の薬液排出管70を注射針組立体10の嵌入筒50へ軽く押し込んだ後、薬液排出管70を取り囲む筒状のロック機構76の雌螺子75を、注射針組立体10の嵌入筒50の雄螺子55に螺合させ、0.05~0.4N・m程度の嵌合トルクで、締め付け始める。すると、薬液排出管70が、更に嵌入筒50の奥へ、挿入されていく。
ロック機構76を締め込んでいくと、先ず、薬液排出管70の先端面73が、弾性体40の突出部45の上端面47に、未嵌合状態での上端面位置H0で、丁度当接する。さらにロック機構76を締め込むと、それらの雌螺子75と雄螺子55とが一層深く螺合し、薬液排出管70の先端面73が、弾性体40の突出部45に強く接触しながらその突出部45を圧縮変形させ始める。もっとロック機構76を締め込むと、その突出部45が、上端面47で、一層強く押し込まれ、薬液排出管70の雄型テーパー74が、嵌入筒50の嵌入孔57の雌型テーパー54に丁度嵌合し、それ以上締め込めなくなる。すると、弾性体40の突出部45が、雄型テーパー74と雌型テーパー54との嵌合位置H1にまで、圧縮変形される。
その後、注射針組立体キャップ11を外す。注射針組立体10の針先21側を皮膚100に向ける。皮膚上層部への薬液注入用注射器1を、注射針20が皮膚100に垂直となるように押し付ける。針先21を皮膚100に穿刺すると共に、安定部32を皮膚100の表皮層103に押し当てる。調整部31が皮膚100の表皮層103に接触し、安定部32と調整部31とで表皮層103表面を引っ張る。接続ガイド部33が皮膚100に接触して、薬液注入用注射器1がぶれないように安定化する。注射針20がその針先21の鋭角な刃面22により表皮層103を貫通し、刃面22の針孔が丁度皮膚上層部の真皮層102の表皮層103寄りの比較的浅い注入すべき標的部位102aに達するが、皮下組織101に達しないので、押し子90を押し切って、薬液81を注入する。このとき、弾性体40は既に十分に圧縮変形されているので、押し子90で薬液81に掛ける圧力でそれ以上圧縮変形しない。薬液81は、注入すべき標的部位102aに停留し、表皮層103へ遺漏しない。その後、注射針20を抜いて、皮膚上層部への薬液注入用注射器1を皮膚100から離す。すると、注入すべき標的部位102aに滞留している薬液81により、数mmの赤斑状で僅かに外界へ膨らんだ膨隆が、形成される。皮膚上層部への薬液注入用注射器1を、注射針組立体キャップ11(図1参照)で再度封鎖してから、医療廃棄物として、廃棄する。
本発明を適用する皮膚上層部への薬液注入用注射器と、本発明を適用外の薬液注入用注射器とを試作し、皮膚上層部への薬液注入を試みた例を、以下に示す。
(実施例及び比較例)
図1~3に示す本発明の皮膚上層部への薬液注入用注射器を、試作した。その注射針は、表1に示すような針ハブからの突出針長L1と軸方向における刃面の刃面長L2とを、有するものである。注射針は、0.5mmのシリコーンゴムシートに10mm/分で穿刺した際の穿刺抵抗を荷重変動曲線の最大値で0.15N以下とする33ゲージのものである。薬液として生理食塩水を用いた。
なお、調整部31の針先側端面31bが安定部32の先端面よりも突出している距離L3は、0.3mmである。調整部31の外周と安定部32の内周との幅L4は、5.1mmである。安定部32の先端面から接続ガイド部33までの高さL5は、3.0mmである。安定部32は、その先端面で内径半径W3は、6.0mmである。安定部32の外径半径W4は、6.55mmである。安定部32の外表面から接続ガイド部33の縁までの長さ(幅)W5は、3.0mmである。
成人男女80名のボランティアに、皮膚上層部への薬液注入用注射器で薬液100μLを注入した。その手順は以下の通りである。上腕の肩部の投与すべき部位を、消毒用エタノールで消毒し、その部位の周りの皮膚を引っ張った。シリンジ体を注射針組立体に嵌め合った後、注射針組立体キャップを外し、親指で押し子を押さえ得るようにしながら薬液注入用注射器を握った。薬液注入用注射器の針ハブで投与すべき部位を軽く叩くようにして、接続ガイド部が皮膚に触れるまで、皮膚に垂直に押し付けた。すると、針先が皮膚に穿刺されるので、親指で押し子を押し、ゆっくりと薬液を皮膚上層部に注入した。押し子を押し切ってから、約2秒間保持した後、注射針を抜き出すように、薬液注入用注射器を皮膚から引き離した。目視で、皮膚表面からの薬液の遺漏の有無と、目視で膨隆形成の有無とを確認し、膨隆が形成された場合、膨隆の縦方向と横方向の長さをノギスで測定し、[円周率×縦方向長さ/2×横方向長さ/2]から膨隆面積を算出した。さらに、成人での真皮層中の表皮層寄りの比較的浅い標的部位への投与につき、遺漏せずに投与が成功したか、投与したが遺漏したかまた標的部位よりも深い部位への投与であったかについても、検討した。その結果を纏めて表1に示す。なお、薬液注入用注射器の押圧力は、何れも3~35Nであった。
実施例1及び実施例2は、膨隆の面積が比較例1及び比較例2と同等の大きさでありながら皮膚からの遺漏がなかった。つまり、皮膚上層部の真皮層の表皮寄りに投与することができた。
これに対し、比較例1及び比較例2は、膨隆の面積が実施例1及び実施例2と同等の大きさでありながら皮膚からの遺漏が2~10%認められた。つまり、皮膚上層部の真皮層の表皮寄りに投与した場合に、真皮層に十分投与されない可能性がある。
比較例3及び比較例4は、皮膚からの遺漏が認められなかったものの、膨隆の面積が実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2と比べ小さいものであった。つまり、真皮層の深い部分に投与されるものであることがわかった。
即ち、実施例1及び実施例2は、皮膚からの遺漏が発生せずに真皮層中の表皮層寄りの浅い標的部位へ投与が成功する最適な針突出長L1及び刃面長L2であることを見出したものである。
本発明の皮膚上層部への薬液注入用注射器によれば、薬液注入後に皮膚からの遺漏が認められず、皮膚上層部特に真皮層中の表皮層寄りの比較的浅い標的部位に確実に投与でき、成人の年齢差・男女差・個人差のような個体差に関わらず、皮膚上層部、特に真皮層中の表皮層寄りの比較的浅い標的部位へ選択的に、極少量のワクチンのような薬液を、確実に注入することができる。