JP2000325085A - デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療剤 - Google Patents

デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療剤

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JP2000325085A
JP2000325085A JP11140930A JP14093099A JP2000325085A JP 2000325085 A JP2000325085 A JP 2000325085A JP 11140930 A JP11140930 A JP 11140930A JP 14093099 A JP14093099 A JP 14093099A JP 2000325085 A JP2000325085 A JP 2000325085A
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dystrophin
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Masafumi Matsuo
雅文 松尾
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JCR Pharmaceuticals Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ジストロフィン成熟mRNAにおいてエクソ
ン20の完全欠失を有するタイプのデュシェンヌ型筋ジス
トロフィー患者のための治療手段を提供すること。 【解決手段】 ジストロフィンの成熟mRNAの産生に
おけるエクソン20の完全欠損を伴うデュシェンヌ型筋ジ
ストロフィーの治療剤の製造のための、ジストロフィン
の前駆体mRNAのエクソン19に対する20〜50塩基の配
列よりなるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、遺伝子疾患治療薬
の製造におけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用
に関し、より具体的には、異常ジストロフィン遺伝子に
基づく前駆体mRNAにエクソンスキッピングを起こさ
せるための、デュシェンヌ(Duchenne)型筋ジストロフ
ィー治療薬に関する。
【0002】
【従来の技術】癌遺伝子やウイルス遺伝子の発現を阻害
する目的でアンチセンスオリゴヌクレオチドの研究が盛
んに行われている。アンチセンスオリゴヌクレオチド
は、標的タンパク質のde novo合成を有効に阻害するこ
とが知られている。例えば、IGF-I(Insulin-like Growt
h Factor-I)をコードするmRNAに対するアンチセン
スオリゴヌクレオチドが、ラットのグリオブラストーマ
細胞の増殖を阻害することが報告されている[Askari,
F.K., and McDonnell, W.M., N. Engl. J. Med, 334: 3
16-318 (1996), Trojan, et al., Science, 259: 94-97
(1933), Trojan, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.
S.A., 89: 4874-4878 (1992)]。
【0003】また、アンチセンスオリゴヌクレオチドを
用いて前駆体mRNA分子の異常スプライシングを阻害
する方法も報告されている[特表平8−510130
号]
【0004】今日、前駆体mRNA分子の異常スプライ
シングによる遺伝子疾患が診断可能となり、特に、難病
である筋ジストロフィーが注目されている。筋ジストロ
フィーはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD: Du
chenne Muscular Dystrophy)とベッカー(BMD:Bec
ker Muscular Dystrophy)とに大別される。DMDは、
最も頻度の高い遺伝子性筋疾患であり、出生男子3,500
人に1人の割合で発症する。本症の患者は、幼児期に筋
力低下症状を現し、その後一貫して筋萎縮が進行して、
20歳前後で死に至る。現在、DMDに対する有効な治療
薬はなく、全世界の患者から治療薬の開発が強く求めら
れている。1987年にDMDの原因遺伝子であるジストロ
フィン遺伝子が、逆行遺伝学の手法により発見され、ま
たBMBも同じジストロフィン遺伝子の異常から発症す
ることが明らかにされた[Koenig, M. et al., Cell, 5
0: 509-517 (1987)]。BMDでは、その発症年齢は成
人期と比較的遅く、発症後に軽度の筋力低下は見られる
ものの、ほぼ正常な生存が可能である。
【0005】ジストロフィン遺伝子はX染色体短腕21領
域に存在し、西尾等の研究により、その遺伝子サイズは
3,000kbであり、ヒトの最大の既知遺伝子であること
が明らかにされた[Nishio, H. et al., J. Clin. Inve
st., 94: 1037-1042 (1994)]。このように大きなサイ
ズであるが、ジストロフィン遺伝子中でジストロフィン
タンパク質をコードしている領域はわずか14kbに過ぎ
ず、しかもそのコード領域は79ものエクソンに分かれて
遺伝子内に分散して存在している[Roberts, RG., et a
l., Genomics, 16: 536-538 (1993)]。更に、この遺伝
子には7種の異なるプロモーター領域が遺伝子内にやは
り分散して存在し、それぞれが異なったmRNAを産生
している[Nishio, H., et al., J. Clin. Invest., 9
4: 1073-1042 (1994), Ann, AH. and Kunkel, LM., Nat
ure Genet., 3: 283-291 (1993),D'Souza, VN. et al.,
Hum. Mol. Genet., 4: 837-842 (1995)]。これらのこ
とから、ジストロフィン遺伝子及びその転写物は、非常
に複雑な構成になっている。
【0006】DMD及びBMDの遺伝子診断は、初期に
はジストロフィンの遺伝子断片を用い、次いで、cDN
Aをプローブとして用いたサザンブロット法により行わ
れ、約6割のDMD/BMD患者でジストロフィン遺伝
子に大きな欠失あるいは重複という異常の存在が明らか
にされた[Hoffman, EP. and Kunkel, LM., Neuron,2:
1019-1029 (1989)]。これらDMD/BMDで発見され
る遺伝子異常の殆どは遺伝子欠失であり、しかもそのサ
イズは数kbと大きなものであった。遺伝子診断に関し
ては、サザンブロット法で発見されたジストロフィン遺
伝子の異常が、遺伝子の2カ所のホットスポットに集中
していることから、このホットスポットの19個のエクソ
ンに的を絞り、2つのPCR(Polymerase Chain React
ion)反応系を用いて簡易に欠失を発見する、重複PC
R法が考案された[Chamberlain JS., et al., Nucleic
Acids Res., 16: 11141-11156 (1988), Beggs AH., et
al., Hum. Genet., 86: 45-48 (1990)]。この重複PC
R法は、短時間で結果を得ることができ、サザンブロッ
ト法で検出できる遺伝子異常の98%がこの方法で検出で
きることから、今日では最もポピュラーな遺伝子診断法
となっている。
【0007】ジストロフィン遺伝子という同一遺伝子
の、しかも同じ様な遺伝子異常から発症する2種の疾病
であるDMDとBMDの臨床的な病態における大きな相
違は謎とされていたが、いわゆるフレームシフト説[Mo
naco, AP., et al., Genomics,2: 90-95 (1988)]で説
明されるようになっている。すなわち、「DMDでは、
遺伝子内の部分的な欠失によりジストロフィンmRNA
にコードされるアミノ酸読みとり枠(リーディングフレ
ーム)にずれが生じ(アウトフレーム)、結果的にスト
ップコドンが出現しジストロフィンの合成が途中で停止
してしまう。これに対し、BMDでは、遺伝子に部分欠
失が存在してもリーディングフレームが維持され(イン
フレーム)て、本来のジストロフィンとはサイズが異な
るものの、ジストロフィンタンパク質が生成できる」と
するものである。実際、患者の筋肉中のジストロフィン
を調べると、DMDではジストロフィンが消失している
のに対して、BMDでは染色性を正常とは異にしたジス
トロフィンが存在している。またDMD/BMD患者で
ジストロフィン遺伝子異常から計算されたリーディング
フレームの型と患者の表現型とを比較すると、90%以上
の患者でこのフレームシフト説が当てはまっている。
【0008】遺伝子から転写された遺伝情報は、スプラ
イシングによりイントロン配列が除去される等の修飾を
受け、エクソン配列のみからなる成熟mRNAとなる。
更に、この成熟mRNAがそのリーディングフレームに
従って翻訳され、遺伝子にコードされた遺伝情報に忠実
に従ったタンパク質の合成が可能となる。mRNA前駆
体のスプライシング時には、mRNA前駆体の塩基配列
のうちでイントロン配列とエクソン配列を正確に決定す
る機構がある。そのためにイントロン・エクソン境界部
の配列は一定のルールで全ての遺伝子で保存されてお
り、コンセンサス配列として知られている。
【0009】このコンセンサス配列として、イントロン
の5’末端のスプライスドナーサイトと呼ばれるエクソ
ンからイントロンへまたがる部位、イントロンの3’末
端のスプライスアクセプターサイトと呼ばれる部位、そ
して、ブランチングポイントと呼ばれる部位の、3カ所
の配列が知られている。
【0010】これらのコンセンサス配列の中で、わずか
1塩基の置換でも発生すると、スプライシングの異常を
起こすことが各種の疾病で報告されいるように[Sakura
ba,H. et al., Genomics, 12: 643-650 (1992)]、コン
センサス配列は、スプライシングを進行させる鍵となっ
ている。
【0011】このような背景のもとで、本発明は、前駆
体mRNAのスプライシングの人為的制御を介して異常
遺伝子の発現を矯正するための薬剤の提供を目的として
研究を重ねた。
【0012】本発明者等は、DMD/BMD患者を対象
としたジストロフィン遺伝子異常の診断を日本で初めて
PCR法を用いて実施した。そして、ジストロフィン遺
伝子の異常型が欧米人と日本人とで大きな差がないこ
と、すなわち大きな人種差のないことを明らかにした。
こうした遺伝子診断で見出された遺伝子異常は、塩基数
において数kbから数百kbの巨大なものばかりであっ
たが、更に詳細な分析を重ねることにより、あるジスト
ロフィン遺伝子の欠失部位の塩基配列を決定することに
世界で初めて成功し、「ジストロフィン神戸」と命名し
て報告した[Matsuo, M, et al., Biochem. Biophys. R
es. Commun., 170: 963-967 (1990)]。
【0013】「ジストロフィン神戸」と命名した遺伝子
異常を有する症例は、DMDであり、重複PCR分析の
結果によれば、エクソン19に相当するゲノムDNAの増
幅産物のバンドが、本来存在すべき位置に認められず、
一見、エクソン19の欠失と考えられた。しかしながら、
ゲノムDNAについてエクソン19領域の単独増幅を試み
たところ、エクソン19が正常より小さいサイズの増幅産
物として検出され、ジストロフィン遺伝子によく見られ
る単純なエクソン欠失ではないことが判明した。この患
者の家系の構成員のジストロフィン19領域をPCR法で
増幅することにより、母親と妹のDNAから正常な増幅
産物と共に患者と同じサイズの増幅産物が得られ、両者
がこの遺伝子異常の保因者であることが判明した。
【0014】次いで、患者から得られた異常な増幅産物
の塩基配列を決定すると、88塩基からなるエクソン19の
配列のうち52塩基が欠失していることが判明した。この
52塩基の欠失がエクソン配列内に存在することは、この
患者のジストロフィンmRNAではリーディングフレー
ムにずれを生じて(アウトフレーム)、エクソン20内で
ストップコドンが出現することになる。この遺伝子診断
の結果は、DMDという臨床診断と一致するものであっ
た。
【0015】ジストロフィン神戸で発見されたエクソン
19の欠失部分がスプライシングに及ぼす影響を調べるた
めに、患者のジストロフィンmRNAを分析した[Mats
uo,M., et al., J. Clin. Invest., 87: 2127-2131 (19
91)]。
【0016】まず、患者白血球のmRNAを逆転写酵素
によりcDNAに変換し、これを入れ子型PCR(nest
ed-PCR)法を用いて増幅した。エクソン18から20にわた
る領域を増幅したところ、ゲノムで発見された異常を基
に計算されたサイズより更に短くなった増幅断片が得ら
れた。これはmRNAにゲノムDNAの異常とは異なっ
た異常が存在する可能性あるいは白血球と筋肉でmRN
Aが異なる可能性を示唆した。そこで、このmRNA異
常が疾病と関連する筋肉のmRNAにも存在することを
確認するため、筋肉のmRNAから合成したcDNAを
鋳型としてPCR法でエクソン18からエクソン20の領域
を増幅した。その結果得られた増幅産のサイズは、白血
球のエクソン18から20の増幅産物と全く同じであった。
【0017】次に、得られた小さな異常増幅産物の塩基
配列決定により、ジストロフィン神戸の患者のジストロ
フィンcDNAではエクソン18の配列が直接エクソン20
の配列につながっており、エクソン19の配列が完全に消
失していることが判明した。この結果は、ゲノムでは、
エクソン19内の52塩基のみが欠失し36塩基がエクソンと
して残存していたことと矛盾している。これらのことか
ら、ジストロフィン神戸では、前駆体mRNAの成熟過
程で36塩基のエクソン19がスプライスアウトされ、エク
ソンのスキッピングが起こったことが示された。
【0018】遺伝子の異常からエクソンのスキッピング
が生ずる例は少なからず報告されている。既に、本発明
者等はジストロフィン遺伝子の点突然変異例でエクソン
のスキッピングが生じることを世界で初めて発見してい
る[Hagiwara, Y., Am. J. Hum. Genet., 54: 53-61 (1
994)]。これらのエクソンのスキッピングを生じる生じ
る遺伝子変異は、いずれも、先に述べたスプライシング
部位を決定するコンセンサス配列内に生じた異常に起因
している。
【0019】これに対し、本発明者等が今回発見したジ
ストロフィン神戸では、エクソン「内」に52塩基の欠失
を認めたのみで、コンセンサス配列には異常がなく、こ
の例でエクソンのスキッピングが生じる原因は不明であ
った。
【0020】ジストロフィン神戸に見られたエクソンの
スキッピングの原因がDNA及びmRNA前駆体の一次
構造の異常には求められないことから、mRNA前駆体
の2次構造にエクソンスキッピングの原因が存在するも
のと推察され、その2次構造を解析した。解析には、2
次構造でエネルギー的に最も安定した塩基結合を算出す
るZuker等のアルゴリズムを用い、コンピュータを用い
て行った[Matsuo, M.et al., Biochem. Biophys. Res.
Commun., 182: 495-500 (1992)]。野生型のジストロ
フィンのエクソン19及びその両側のイントロンの塩基配
列を含む617塩基を対象にした解析結果では、mRNA
前駆体は比較的単純なステムループ構造を呈した。特徴
的な構造として、エクソン19の配列それ自体が塩基対を
なすイントラエクソンヘアピン構造が確認された。これ
に対し、52塩基のエクソン内欠失を有するジストロフィ
ン神戸のエクソンとその近傍のイントロンの塩基配列か
らmRNA前駆体の2次構造を演繹すると、野生型と大
きく異なっており、ジストロフィン神戸における最大の
特徴は、エクソンの配列がイントロンの配列のみと塩基
対をなす単純なステム構造を形成することであった。こ
の結果は野生株で見られたイントラエクソンヘアピン構
造が、ジストロフィン遺伝子のエクソン構造を特徴づけ
る要素である可能性を示唆した。
【0021】そこで、ジストロフィン遺伝子の79個のエ
クソンのうちから、近傍のイントロンの塩基配列の明ら
かにされている22個のエクソンを選び、そのmRNA前
駆体の2次構造を解析した。解析した全てのエクソン
は、イントラエクソンヘアピン構造を形成する結果とな
り、このイントラエクソンヘアピン構造が、エクソンの
機能の必須な要素と考えられた。これらのことは、ジス
トロフィン神戸に見出されたエクソンのスキッピングが
mRNA前駆体のイントラエクソンヘアピン構造の消失
により発生したことを強く示唆した。これはまた、エク
ソン自体の配列がスプライシング時のエクソン認識に重
要な役割を果たしていることをも示唆した。
【0022】最近、コンセンサス配列以外に、エクソン
内の配列の異常によってもエクソンのスキッピングが生
じ得ることが報告され[Dietz, HC., et al., Science,
259: 680-683 (1993)]、コンセンサス配列に加えてエ
クソンの配列もスプライシング部位決定要因として機能
しているとして注目を集めている。これらのことは、従
来の分子生物学のスプライシングに関する概念を崩すも
のとなっている。
【0023】エクソン19内の配列がスプライス部位の決
定に重要なことが示唆されたので、in vitro のスプラ
イシング反応系を構築し、このことを実験的に明らかに
する試みを行った[Takeshima, Y., et al., J. Clin.
Invest., 95: 515-520 (1995)]。まず、ジストロフィ
ン遺伝子のエクソン18と19並びにイントロン18からなる
ミニジーンを作成し、このミニジーンからラジオアイソ
トープでラベルしたmRNA前駆体を合成した。得られ
たmRNA前駆体をHela細胞の核抽出液と混合しスプラ
イシング反応を試験管内で進行させ、産生された成熟m
RNAを電気泳動により分離した。この反応系で正常の
エクソン19塩基配列を有するmRNA前駆体を用いると
スプライシングは正常に進行し、エクソン18と19が連続
した成熟mRNAを得ることができた。しかしエクソン
19の塩基配列をジストロフィンのそれと置換すると、成
熟mRNAは産生されなくなった。これは、ジストロフ
ィン神戸でエクソン19から欠失した52塩基がスプライシ
ングに重要な役割を果たしていることを示すものであっ
た。
【0024】しかしこのスプライシング異常が、エクソ
ン19の「サイズ」が36塩基と短くなった結果による可能
性もあるため、ジストロフィン神戸のエクソン19の欠失
部を補うものとして、欠失した遺伝子を逆方向に挿入
し、同様の実験を行った。このmRNA前駆体では、ス
プライシングは進行するものの、その効率は低かった。
この結果は、たとえエクソンが正常な長さを有しても、
エクソン内の塩基配列が異なるとスプライシング効率は
低下することを示し、エクソンの(サイズでなく)塩基
配列自体が重要であることを示すものであった。
【0025】 そこで、エクソン内の塩基配列自体のス
プライシングへの影響を更に解析するため、52塩基の欠
失配列に代わって、2種の異なる配列を挿入したmRN
A前駆体を作成し、そのスプライシング効率を調べた。
β−グロビン遺伝子の一部あるいはアンピシリン耐性遺
伝子の一部をそれぞれ挿入した2種のmRNA前駆体に
おいて、いずれもスプライシングは進行したが、ともに
極めて低い効率であった。しかし、β−グロビン遺伝子
を挿入した方が、アンピシリン耐性遺伝子を挿入した方
よりも相対的に高いスプライシング効率を示した。前者
の塩基配列には多くのプリン基が含まれており、エクソ
ン内のプリン配列がエクソン認識に関与していると考え
られている[Watanabe, A., et al., Genes Dev., 7:40
7-418 (1993)]。
【0026】これらの実験結果は、スプライシングに
は、コンセンサス配列のみならずその下流のエクソンの
配列が関与していることを実験的に明らかにしたもの
で、遺伝情報処理プロセスに新しい概念を導入するもの
である。
【0027】<アンチセンスオリゴヌクレオチドによる
スプライシング制御>ジストロフィン遺伝子のエクソン
19内の配列がスプライシングの進行に極めて重要である
という上記発見から、この配列を破壊することによりス
プライシングの異常が人為的に誘導できるのではないか
という可能性に着目し、続けて検討を行った。
【0028】すなわち、ジストロフィン神戸で欠失した
52塩基のうち配列表の配列番号1に示した塩基配列部分
を含んだ配列表の配列番号2に示した31塩基に対し、こ
れに相補的な2’−O−メチルオリゴRNAを合成し、
これが、エクソン18−イントロン18−エクソン19よりな
るmRNA前駆体のスプライシングに及ぼす影響を、前
述の試験管内スプライシング反応系で調べた。その結
果、スプライシング反応はアンチセンスオリゴヌクレオ
チドの添加量に、またその反応時間に依存して阻害され
た。これは、アンチセンスオリゴヌクレオチドによりジ
ストロフィンのイントロンのスプライシングが阻止でき
ることを実験的に初めて証明したものである。そして、
このことは核内でおこるスプライシング反応が人為的な
手段により制御できる可能性を示した[Takeshima, Y.
et al., J. Clin. Invest., 95: 515-520 (1995)]。
【0029】<細胞核内でのスプライシング制御>生き
た細胞の核内でもアンチセンスオリゴヌクレオチドによ
りジストロフィンmRNA前駆体のスプライシングが制
御できることを明らかにするため、本発明者等は、正常
なヒトリンパ芽球細胞を用い、配列表の配列番号1に示
した塩基配列部分を含んだ配列表の配列番号2に示され
た塩基配列に対し、これに相補的な塩基配列を有するア
ンチセンスオリゴDNAの導入を行って、その存在下に
産生されるジストロフィン成熟mRNAについて解析を
行った[Zacharias A. DP. et al., B.B.R.C., 226: 44
5-449 (1996)]。すなわち、アンチセンスオリゴDNA
の核内への導入は、リポフェクタミンと混合後、これを
リンパ芽球培養液に加えることにより行った。その結
果、先に試験管内スプライシング反応系で得られた結果
とは異なって、ジストロフィンのエクソン19の塩基配列
に対するアンチセンスオリゴDNAはヒトリンパ芽球細
胞においてエクソン19のスキッピングを誘導し、mRN
Aにおいてエクソン18がエクソン20に直接つながったも
のが得られることが確認された。また培養時間を延長す
ることにより、このエクソンスキッピング誘導効果は完
全なものとなり、全てのmRNAがエクソン19を欠失し
たものとして認められるようになった。更に、用いたア
ンチセンスオリゴDNAは、他のエクソンのスプライシ
ングには問題を起こさなかったことも確認された。
【0030】<人為的エクソンスキッピングの治療への
応用>先述のように、DMDでは、ジストロフィンmR
NAのアミノ酸読みとり枠がずれてアウトフレームとな
るような遺伝子異常を有している。もしこの読みとり枠
の異常をインフレームに転換できるとすれば、それによ
りDMDはBMDとなり、症状の改善が期待できる筈で
ある。例えば、仮に、エクソン20のみが単独で欠失して
いる患者を想定すると、エクソン20は242塩基からなっ
ており、当然ながらその単独欠失はフレームシフトを起
こして翻訳途中で停止コドンが出現してジストロフィン
合成が途中で停止し、その結果DMDの表現型となる。
しかしながら、この症例に対し、前記の実験で用いたよ
うなエクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチ
ドを投与してエクソン19のスキッピングを人為的に誘発
できたとすると、エクソン20の242塩基に加えエクソン1
9の88塩基が前駆体mRNAから欠失することとなり、
合計330塩基の欠失となって、リーディングフレームは
一転してインフレームとなる可能性が、すなわちアンチ
センスオリゴヌクレオチドの使用によりDMDの表現型
をBMDに転換できる可能性が、理論上はある。
【0031】しかしながら、ジストロフィン遺伝子は前
述の通り非常に複雑な構造をしており、そのmRNA前
駆体も、スプライスアウトされるべき多数の長いイント
ロンを含んだ複雑な2次構造をなしておりそれがスプラ
イシングの正常な進行を制御している。従って、正常な
ヒトのリンパ球芽細胞でなく、エクソン20の単独欠失を
有する患者の筋芽細胞においても、エクソン19に対する
アンチセンスオリゴヌクレオチドによって期待通りエク
ソン19のスキッピングを起こすことができるか否か、ま
たエクソン19のスキッピングにうまく成功したとして
も、元々エクソン20のスプライスアウトを引き起こす異
常を有するmRNA前駆体において、エクソン20のスプ
ライスアウトや他の部位のスプライシングに対して影響
を及ぼすことなくmRNAのリーディングフレームをア
ウトフレームからインフレームへと転換することができ
るか否か、そして更には、インフレームへと転換できた
としてもそのmRNAがジストロフィンに近似のタンパ
ク質を有効に産生できるか否か、という現実の可能性は
不明であった。
【0032】
【発明が解決しようとする課題】このような背景のも
と、本発明者等は、ジストロフィン成熟mRNAにおい
てエクソン20の完全欠失を有するDMD患者の細胞で、
エクソン19に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを
用いてそのスプライスアウトを誘導できるか、そしてそ
れによりジストロフィン成熟mRNAの読みとり枠を修
正でき、ジストロフィン陰性細胞を陽性細胞に転換でき
るかどうかを明らかにし、その結果に基づきDMDに対
する治療薬を提供することを目的とする。
【0033】本明細書において後で詳細に述べる通り、
本発明者等は上記目的に基づいて研究を進め、ジストロ
フィンのエクソン19に対するアンチセンスオリゴリボヌ
クレオチドをエクソン20の単独欠失を有するDMD患者
の筋芽細胞の培養液中に投与することにより、これが筋
芽細胞内へ、次いで核内へと取り込まれ、その結果、エ
クソン19とエクソン20とを完全欠失はするもののアミノ
酸読み取り枠はアウトフレームからインフレームになる
よう回復されて、エクソン19とエクソン20がコードする
部分以外は完全長のジストロフィンを産生できるように
なることが確認された。このことは、エクソン20の単独
欠失に基づくDMD患者に対して、エクソン19に対する
アンチセンスオリゴヌクレオチドを投与することによ
り、極めて重篤な疾患であるDMDを比較的軽い疾患で
あるBMDへと転換させ得るという可能性を強く支持し
ている。本発明は、この発見に基づきなされたものであ
る。
【0034】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、ジ
ストロフィンの成熟mRNAの産生におけるエクソン20
の完全欠損を伴うデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治
療剤の製造のための、ジストロフィンの前駆体mRNA
のエクソン19に対する20〜50塩基の配列よりなるアンチ
センスオリゴヌクレオチドの使用を提供する。このよう
なアンチセンスオリゴヌクレオチドを治療剤の薬効成分
として用いることにより、エクソン20の完全欠損を伴う
デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて、mRNAの
アミノ酸読みとりフレームを異常なアウトフレームから
インフレームへと転換させることが可能となり、それに
よって、より重篤度が低いBecker型筋ジストロフィーへ
と病態を転換することが可能となる。
【0035】本明細書において、「ヌクレオチド」とい
うときは、通常の意味におけるDNA及びRNAのみな
らず、それらのホスホロチオエート類似体も包含する。
ホスホロチオエートDNA及びホスホロチオエートRN
Aは、通常のDNA及びRNAと同様に塩基対を形成す
るが、各種分解酵素に対して抵抗性が大きく本発明にお
いて用いるのに特に有利である。ここに、「ホスホロチ
オエート類似体」は、通常のDNA又はRNAのヌクレ
オチド間のホスホロジエステル基の1個以上がホスホロ
チオエート基に置き換えられている構造のものである。
【0036】該アンチセンスオリゴヌクレオチドとして
は、配列表において配列番号1で示したエクソン19にお
けるエクソン認識配列に対するアンチセンスオリゴヌク
レオチドが取り分け好ましい。従って、本発明は、特に
好ましくは、該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配
列表において配列番号1で示した塩基配列に相補的な塩
基配列を含むものである、上記エクソン20の完全欠損を
伴うデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤の製造の
ための、アンチセンスオリゴヌクレオチドの使用を提供
する。
【0037】該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、オ
リゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA及びホス
ホロチオエートオリゴRNAであってよい。
【0038】また該アンチセンスオリゴヌクレオチドと
して特に好ましいものの一例は、配列表において配列番
号2で示した塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリ
ゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA又はホスホ
ロチオエートオリゴRNAである。
【0039】更に、上記アンチセンスオリゴヌクレオチ
ドは、静脈内投与するのに適した媒質に適当な量含有さ
せた形で、ジストロフィンの成熟mRNAの産生に際し
たエクソン20の完全欠損を伴うデュシェンヌ型筋ジスト
ロフィー治療剤として具体化することができる。
【0040】すなわち、本発明は、更に、薬剤学的に許
容し得る注射可能な媒質中に、ジストロフィンの前駆体
mRNAのエクソン19に対する20〜50塩基の配列よりな
るアンチセンスオリゴヌクレオチドを含有することを特
徴とする、ジストロフィンの成熟mRNAの産生に際し
たエクソン20の完全欠損を伴うデュシェンヌ型筋ジスト
ロフィーの治療剤をも提供する。
【0041】該アンチセンスオリゴヌクレオチドとして
は、配列表において配列番号1で示したエクソン19にお
けるエクソン認識配列に対するアンチセンスオリゴヌク
レオチドが取り分け好ましい。従って本発明は、該アン
チセンスオリゴヌクレオチドが、配列表において配列番
号1で示した塩基配列に相補的な塩基配列を含むもので
ある、上記デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤を
も提供する。
【0042】該アンチセンスオリゴヌクレオチドは、オ
リゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA及びホス
ホロチオエートオリゴRNAであってよい。
【0043】また該アンチセンスオリゴヌクレオチドと
して特に好ましいものの一例は、配列表において配列番
号2で示した塩基配列に相補的な塩基配列を有するオリ
ゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA又はホスホ
ロチオエートオリゴRNAである。
【0044】本発明の治療剤は、好ましくは、0.05〜5
μmoles/mlの該アンチセンスオリゴヌクレオチド、
0.02〜10%w/vの炭水化物又は多価アルコール及び0.
01〜0.4%w/vの薬剤学的に許容し得る界面活性剤を
含有する、該アンチセンスオリゴヌクレオチドの更に好
ましい範囲は、0.1〜1μmoles/mlである。
【0045】該炭水化物としては、担当類及び/又は2
糖類が特にこのましい。これら炭水化物及び多価アルコ
ールの例としては、グルコース、ガラクトース、マンノ
ース、ラクトース、マルトース、マンニトール及びソル
ビトールが挙げられる。これらは、単独で用いても、併
用してもよい。
【0046】また、界面活性剤の好ましい例としては、
ポリオキシエチレンソルビタンモノ〜トリ−エステル、
アルキルフェニルポリオキシエチレン、ナトリウムタウ
ロコラート、ナトリウムコラート、及び多価アルコール
エステルが挙げられる。このうち特に好ましいのは、ポ
リオキシエチレンソルビタンモノ〜トリ−エステルであ
り、ここにおいてエステルとして特に好ましいのは、オ
レエート、ラウレート、ステアレート及びパルミテート
である。これらは単独で用いても、併用してもよい。
【0047】また本発明の治療剤は、更に好ましくは、
0.03〜0.09Mの薬剤学的に許容し得る中性塩、例えば、
塩化ナトリウム、塩化カリウム及び/又は塩化カルシウ
ムを、含有する。
【0048】また本発明の治療剤は、更に好ましくは、
0.002〜0.05Mの薬剤学的に許容し得る緩衝剤を含有す
ることができる。好ましい緩衝剤の例としては、クエン
酸ナトリウム、ナトリウムグリシネート、リン酸ナトリ
ウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンが挙げ
られる。これらの緩衝剤は、単独で用いても、併用して
もよい。
【0049】更に、上記の治療剤は、溶液状態で供給し
てもよい。しかし、ある期間保存する必要がある場合等
のために、アンチセンスオリゴヌクレオチドを安定化し
て治療効果の低下を防止する目的で通常は凍結乾燥して
おくことが好ましく、その場合は用時に溶解液(注射用
蒸留水など)で再構成(reconstruction)して、即ち投
与される液体状態にして用いればよい。従って、本発明
の治療剤は、各成分が所定の濃度範囲になるよう溶解液
で再構成して使用するための、凍結乾燥された状態のも
のも包含する。凍結乾燥物の溶解性を促進する目的で、
アルブミン、グリシン等のアミノ酸を更に含有させてお
いてもよい。
【0050】
【発明の実施の形態】以下、各種の試験に基づいて本発
明を更に詳細に説明する。
【0051】1. 患者由来のリンパ芽球細胞における
エクソンスキッピングの誘導 前述の通り、正常のジストロフィン遺伝子構造を持つ遺
伝子から転写されたmRNA前駆体のスプライシング反
応において、本発明者等のデザインしたアンチセンスオ
リゴヌクレオチドがエクソン19のスキッピングを有効に
誘導することが確認された。一方、エクソン20を欠失し
たDMD患者では、正常とは遺伝子構造を異にするた
め、ジストロフィンのmRNA前駆体の2次構造あるい
は3次構造が正常とは異なると予想される。そのような
エクソン20を欠失したDMD患者でも、前記31塩基のア
ンチセンスオリゴヌクレオチドが有効か否かを検討し
た。すなわち、以下に詳述するように、ジストロフィン
のエクソン20を欠失したDMD患者2名からEBウイル
スでトランスフォームしたリンパ芽球細胞株を樹立し、
これを用いてアンチセンスオリゴヌクレオチドによりエ
クソンスキッピングを誘導できること確認した。
【0052】(a) DMD患者由来リンパ球芽細胞株
の樹立 ジストロフィンのエクソン20を欠失したDMD患者2名
から、EBウイルスで形質転換したリンパ芽球細胞株を
次のようにして樹立した。すなわち、患者より採取した
2mlの全血を2mlのRPMI1640培地(10%FBSを補
充)と混和し、3mlのFicoll Paque(Pharmacia社)
上に重層し、濃度勾配遠心した。その後、リンパ球層の
みを回収し、RPMI1640培地(10%FBSを補充)にて2回
洗浄し、最後に0.5mlのRPMI1640培地(10%FBSを補
充)に浮遊させ、リンパ浮遊液とした。この液と、予め
用意しておいたEBウイルス液0.5mlを混和し、混和
液を37℃にて1週間培養した。1週間後にEBウイルス
を除くためRPMI1640培地(10%FBSを補充)にて洗浄
し、その後同じ培養液を使用して培養を継続した。こう
して、EBウイルスが患者リンパ球に感染し、形態的に
大きな、リンパ芽球となった細胞を得た。
【0053】(b) アンチセンスオリゴDNAの導入 上記により得られたリンパ芽球細胞株の細胞培養液を遠
心し、細胞成分のみに分離した。そして、配列表におい
て配列番号2で示した塩基配列に相補的な配列よりなる
31塩基のアンチセンスオリゴDNAを約200nM(200pm
oles/ml)と2%胎仔牛血清(FBS)を含む維持培地
で、この細胞を36℃にて5時間培養した。次いで血清培
地に交換した後に、引き続き12時間培養した。培養終了
後に、常法により細胞を集めて全RNAを抽出した。
【0054】(c) ジストロフィンcDNAの解析 得られた全RNAを基質とし、ヘキサオリゴヌクレオチ
ドからなるランダムオリゴヌクレオチドをプライマーと
して、常法に従い逆転写酵素の作用によりcDNAを合
成した。合成したcDNAよりジストロフィンのエクソ
ン18から21にわたる領域をnested PCR法を用いて増
幅した。まず、プライマーをエクソン18と21にデザイン
したもので1回増幅した。この増幅産物をテンプレート
として、1回目に用いたプライマーの内側に位置する領
域にマッチするプライマーをデザインして2回目のPC
R増幅を行った。この増幅は、アニーリング温度を60℃
に設定して行った。
【0055】(d) エクソン19のスキッピングの確
認 こうして、ジストロフィンcDNAのエクソン18〜21の
領域を増幅したところ、アンチセンスの無添加では384
塩基対のきれいなバンドが得られた。この増幅産物の塩
基配列を常法により決定したところ、これがエクソン1
8、19、21からなることが示された。これは患者の遺伝
子解析結果とよく一致していた。
【0056】一方、アンチセンスオリゴDNA添加細胞
のcDNAでは、アンチセンスオリゴDNAを導入しな
い細胞から得られた産物と同じサイズの増幅産物が得ら
れたのみならず、培養4日目から小さなサイズの、アミ
ノ酸読み取り枠の維持された産物が得られた。また、症
例2より確立したリンパ芽球細胞でも、同様の処理によ
り2種類のバンドが得られた。これらのうち小さなサイ
ズの増幅産物の塩基配列を決定したところ、エクソン18
の配列が直接エクソン21の配列につながっており、エク
ソン19と20とは欠失していることが判明した。このこと
は、アンチセンス処理によりエクソン19がスキッピング
したことを示している。一方、正常者から確立したリン
パ芽球細胞では、この条件で小さなサイズの転写物、す
なわちエクソン19のスキッピングを有するもののみが得
られた。また、ジストロフィンcDNAの全領域を10抗
体に分けて増幅して調べたが、スプライシングの異常を
示す断片は得られなかった。
【0057】(e) 考 察 このアンチセンスオリゴヌクレオチドのエクソンスキッ
ピング誘導効果が正常とDMD患者で異なっている原因
は、エクソン19近辺のmRNA前駆体の2次構造あるい
は3次構造の差に由来するものと考えられた。アンチセ
ンスオリゴヌクレオチドの濃度を変えることにより、更
にDMD患者におけるエクソンスキッピング誘導効率を
調べた。しかし、正常患者由来細胞で見られたような、
全ての転写産物がエクソンスキッピングを示すような条
件は得られなかった。なお、このアンチセンス誘導は、
センスオリゴヌクレオチドでも、また他の領域に対する
アンチセンスオリゴヌクレオチドでも、見られなかっ
た。
【0058】これらの結果は、ジストロフィンmRNA
前駆体のスプライシングを制御することによりエクソン
のスキッピングを誘導し、その結果アミノ酸読みとり枠
の修正ができることを示している。しかし、筋細胞にお
いてもこうしたmRNAの修正でアミノ酸読み取り枠が
維持できるようになったmRNAが有効にタンパク質を
合成できるか否かは依然として不明であった。
【0059】2. DMD患者由来筋細胞におけるジス
トロフィン近似タンパク質の発現 そこで、次に、エクソン20の欠失したDMD患者の筋芽
細胞を用いて、ジストロフィン近似のタンパク質が発現
するか否かにつき検討した。
【0060】(a)DMD患者由来筋細胞株の樹立 ジストロフィン遺伝子のエクソン20を欠失した患者よ
り、無菌的に筋組織を取り出し、細切した後、トリプシ
ンにて遊離細胞を得た。これを洗浄した後、生育培地
(Growth medium: 20% FCS、0.5% chicken胚抽出物を
補充したHam-F10)中にて培養した。継代に際し細胞培
養用のシャーレの中にカバーグラスをおき、その上で筋
細胞の培養を行った。筋芽細胞の割合が80%程度になる
まで増殖したとき、培養液をFusion培地(2%HSを補
充したDMEM)に交換して分化を誘導し、筋細胞とした。
【0061】(b)アンチセンスオリゴDNAの導入 分化誘導して4日目に、アンチセンスオリゴDNA(20
0 pmol)をリポフェクタミン(6μl)によって細胞内
に導入し、更に3、7、及び10日間培養した。
【0062】(c)ジストロフィン免疫染色 上記培養後のそれぞれの細胞につき、ジストロフィンの
C末端に対する抗体を用いたジストロフィン免疫染色を
行った。その結果、当初全くジストロフィンの染色のな
かった細胞で、ジストロフィンが染色されるようになっ
た。何れにおいても、ジストロフィン陽性細胞が確認さ
れた。また、ジストロフィンのN末端領域を認識する抗
体を用いてもC末端領域の染色と同様な染色結果が得ら
れ、この産生されたジストロフィンがN末端からC末端
に及ぶものであることが確認された。
【0063】このように、アンチセンスオリゴDNAを
添加した筋芽細胞には、ジストロフィンの染色が認めら
れたのに対し、同様の方法でアンチセンスオリゴDNA
無添加の筋芽細胞を検討したところでは、ジストロフィ
ンの染色は全く認められていない。
【0064】(d)ジストロフィンcDNAの解析 続いて、上記アンチセンスオリゴDNA添加培養筋芽細
胞から、常法によりRNAを抽出した。得られたRNA
よりcDNAを合成し、リンパ芽球細胞からのRNAに
ついて上記したのと同様にして、ジストロフィンのエク
ソン18〜21の領域を増幅した。
【0065】得られた増幅産物につき、常法により塩基
配列決定した。その結果、培養4日目から、エクソン18
の塩基配列がエクソン21の塩基配列に直接つながってア
ミノ酸読み取り枠がインフレームとなった増幅産物が得
られた。
【0066】次いで、アンチセンスオリゴDNA添加培
養筋芽細胞から作成したcDNAにつき、その全領域を
10個の部分に分けてPCR法により増幅し、増幅産物
として得られた各断片のサイズを常法により電気泳動し
て検討した。その結果、エクソン19及び20のスキッピン
グ以外、スプライシングの異常を示唆するような断片は
認めらなかった。これらの結果は、得られたジストロフ
ィン成熟mRNAが、エクソン19とエクソン20とを完全
欠失していること以外は、読みとり枠の維持された完全
長のmRNAであることを示すものである。
【0067】3. アンチセンスオリゴDNAの核内へ
の移行 次いで、アンチセンスオリゴDNAが実際に核内に移行
して作用していることの裏付けを得るために、蛍光標識
したアンチセンスオリゴDNAを用いて、その核内への
移行の様子を観察した。
【0068】上で用いたアンチセンスオリゴDNAを常
法によりFITC(フルオレセインイソチオシアネー
ト)標識して、アンチセンスオリゴDNAの核内への移
行について検討した。すなわち、DMD患者から採取し
た筋細胞を生育培地(Growth medium: 20% FCS、0.5%
chicken胚抽出物を補充したHam-F10)中にて培養し
た。培養は、細胞培養用のシャーレ内においたカバーグ
ラス上で行い、細胞がセミコンフルエントになったとき
Fusion培地(2%HSを補充したDMEM)に置換して分化
を誘導し、筋細胞とした。分化誘導して4日目にFIT
C標識したアンチセンスオリゴDNA(200 pmol)をリ
ポフェクタン(6μl)によって細胞内に導入し、1、
2、3、7及び10日後に蛍光顕微鏡にてFITCの局在
を確認した。
【0069】その結果、核に一致して蛍光シグナルが検
出された。このことは、アンチセンスオリゴDNAが実
際に核内に移行してエクソン19のスプライシングをスキ
ップさせたことを裏付けるものである。
【0070】以上の試験結果が示すように、本発明によ
り、DMD患者の筋芽細胞において、アミノ酸読み取り
枠をインフレームへと転換させることによって、ジスト
ロフィンに対応するタンパク質を合成させることができ
る。これは、従来極めて重篤な不治の疾患であったDM
Dにおいて、特にエクソン20の単独欠失を有する患者
を、比較的穏やかなBMDへと転換させる可能性を示す
ものである。
【0071】本発明において、アンチセンスオリゴヌク
レオチドとしては、オリゴDNA又はホスホロチオエー
トオリゴRNA、ホスホロチオエートオリゴDNAを用
いることができる。ここに、ホスホロチオエートヌクレ
オチドは、リン酸基の酸素原子がイオウ原子で置換され
たヌクレオチドであり、各種の核酸分解酵素に対して耐
性があること等から、部位特異的な遺伝子の置換その他
で遺伝子工学の分野において汎用されているヌクレオチ
ド類似体であり、その製法及び性質、及び種々の用途は
当業者に周知である。アンチセンスホスホロチオエート
オリゴDNAはアンチセンスDNAよりも安定性が高い
ため、本発明において使用するのに特に有利である。
【0072】エクソン20の単独欠失を有するDMD患者
への本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与
は、例えば次の通りに行うことができる。すなわち、配
列表において配列番号2に示された塩基配列に対して相
補的な塩基配列よりなるアンチセンスオリゴDNA、ア
ンチセンスホスホロチオエートオリゴDNA又はアンチ
センスホスホロチオエートオリゴRNAを当業者に周知
の方法で製造し、これを常法により滅菌処理し、例えば
1200μg/mlの注射用溶液を調製する。この溶液を、
患者静脈内にアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与量
が体重1kg当たり例えば20mgとなるように、例えば
輸液の形で点滴投与する。投与は、例えば2週間の間隔
で4回繰り返し、その後も、筋生検組織におけるジスト
ロフィンタンパク質の発現、血清クレアチンキナーゼ
値、臨床症状を指標とした治療効果の確認をしながら、
適宜この治療を繰り返す。治療効果があり明らかな副作
用が見られない限り、治療を継続し、原則として生涯投
与が行われる。
【0073】以下、代表的な実施例を挙げて本発明を更
に具体的に説明するが、本発明が該実施例に限定される
ことは意図しない。
【0074】
【実施例】1. アンチセンスオリゴDNA、ホスホロ
チオエートオリゴDNA、ホスホロチオエートオリゴR
NAの調製 配列表において配列番号2で示されたヌクレオチド配列
に相補的なヌクレオチド配列を有するDNA、ホスホロ
チオエートオリゴDNA、ホスホロチオエートオリゴR
NAの製造は、Applied Biosystems Model 1380B等のよ
うな市販のDNA合成装置を用いて、また、Zon et a
l., 「Oligonucleotides and Analogues」:A Practica
l Approach, F. Eckstein, Ed., p. 87-108, Oxford Un
iversity Press, Oxford, England、米国特許第5,151,5
10号に記載された方法を用いて、行うことができる。
【0075】<製剤実施例1>下記の処方に従って必要
量の基剤成分を混合して溶解し、これにアンチセンスオ
リゴヌクレオチドを溶解させ、所定液量とし、ポアサイ
ズ0.22μmのメンブランフィルターにより濾過して、静
脈内投与用製剤とする。 アンチセンスオリゴヌクレオチド(注1)・・・500mg 塩化ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・8.6g 塩化カリウム・・・・・・・・・・・・・・・・0.3g 塩化カルシウム・・・・・・・・・・・・・・・0.33g 注射用蒸留水・・・・・・・・・・・・・全量 1000ml 注1: 配列表の配列番号2に示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を有 するホスホロチオエートオリゴDNA
【0076】<製剤実施例2>下記の処方に従って必要
量の基剤成分を混合して溶解し、これにアンチセンスオ
リゴヌクレオチドを溶解させ、所定液量とし、ポアサイ
ズ15nmのフィルター(PLANOVE 15:旭化成)により濾
過して、静脈内投与用製剤とする。 アンチセンスオリゴヌクレオチド(注2)・・・100mg 塩化ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・8.3g 塩化カリウム・・・・・・・・・・・・・・・・0.3g 塩化カルシウム・・・・・・・・・・・・・・・0.33g リン酸水素ナトリウム・12水塩・・・・・・・・1.8g 1N塩酸・・・・・・・・・・・・・適量(pH7.4) 注射用蒸留水・・・・・・・・・・・・・全量 1000ml 注2: 配列表の配列番号2に示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を有 するホスホロチオエートオリゴDNA
【0077】<製剤実施例3>下記の処方に従って必要
量の基剤成分を混合して溶解し、これにアンチセンスオ
リゴヌクレオチドを溶解させ、所定液量とし、ポアサイ
ズ35nmのフィルター(PLANOVE 35:旭化成)により濾
過して、静脈内投与用製剤とする。 アンチセンスオリゴヌクレオチド(注3)・・・100mg 塩化ナトリウム・・・・・・・・・・・・・・・8.3g 塩化カリウム・・・・・・・・・・・・・・・・0.3g 塩化カルシウム・・・・・・・・・・・・・・・0.33g グルコース・・・・・・・・・・・・・・・・・0.4g リン酸水素ナトリウム・12水塩・・・・・・・・1.8g 1N塩酸・・・・・・・・・・・・・適量(pH7.4) 注射用蒸留水・・・・・・・・・・・・・全量 1000ml 注3: 配列表の配列番号2に示された塩基配列に対して相補的な塩基配列を有 するホスホロチオエートオリゴDNA
【0078】
【配列表】 Sequence Listing <110> JCR Pharmaceuticals Co., Ltd. <120> Pharmaceutical Composition for Treatment of Duchenne Muscular Dyst rophy <130> P55-99 <160> 2 <210> 1 <211> 16 <212> DNA <213> Homo sapience <400> 1 gcaagatgcc agcaga 16 <210> 2 <211> 31 <212> DNA <213> Homo sapience <400> 2 aactgcaaga tgccagcaga tcagctcagg c 31
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4B024 AA01 BA80 CA01 GA11 GA13 HA17 4C084 AA13 AA27 ZA942 4C086 AA01 AA02 EA16 MA01 MA02 MA04 MA05 ZA94

Claims (18)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ジストロフィンの成熟mRNAの産生にお
    けるエクソン20の完全欠損を伴うデュシェンヌ型筋ジス
    トロフィーの治療剤の製造のための、ジストロフィンの
    前駆体mRNAのエクソン19に対する20〜50塩基の配列
    よりなるアンチセンスオリゴヌクレオチドの使用。
  2. 【請求項2】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配
    列表において配列番号1で示した塩基配列に相補的な塩
    基配列を含むものである、請求項1の使用。
  3. 【請求項3】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、オ
    リゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA又はホス
    ホロチオエートオリゴRNAである、請求項1又は2の
    使用。
  4. 【請求項4】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配
    列表において配列番号2で示した塩基配列に相補的な塩
    基配列を有するオリゴDNA、ホスホロチオエートオリ
    ゴDNA又はホスホロチオエートオリゴRNAである、
    請求項1の使用
  5. 【請求項5】薬剤学的に許容し得る注射可能な媒質中
    に、ジストロフィンの前駆体mRNAのエクソン19に対
    する20〜50塩基の配列よりなるアンチセンスオリゴヌク
    レオチドを含有することを特徴とする、ジストロフィン
    の成熟mRNAの産生に際したエクソン20の完全欠損を
    伴うデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療剤。
  6. 【請求項6】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配
    列表において配列番号1で示した塩基配列に相補的な塩
    基配列を含むものである、請求項5の治療剤。
  7. 【請求項7】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、オ
    リゴDNA、ホスホロチオエートオリゴDNA又はホス
    ホロチオエートオリゴRNAである、請求項5又は6の
    治療剤。
  8. 【請求項8】該アンチセンスオリゴヌクレオチドが、配
    列表において配列番号2で示した塩基配列に相補的な塩
    基配列を有するオリゴDNA、ホスホロチオエートオリ
    ゴDNA又はホスホロチオエートオリゴRNAである、
    請求項5の治療剤。
  9. 【請求項9】0.05〜5μmoles/mlの該アンチセンス
    オリゴヌクレオチド、0.02〜10%w/vの炭水化物又は
    多価アルコール及び0.01〜0.4%w/vの薬剤学的に許
    容し得る界面活性剤を含有する、請求項5ないし8の何
    れかの治療剤。
  10. 【請求項10】0.03〜0.09Mの薬剤学的に許容し得る中
    性塩を含有する、請求項5ないし9の何れかの治療剤。
  11. 【請求項11】該中性塩が塩化ナトリウム、塩化カリウ
    ム、及び塩化カルシウムよりなる群より選ばれるもので
    ある、請求項10の治療剤。
  12. 【請求項12】0.002〜0.05Mの薬剤学的に許容し得る
    緩衝剤を含有する、請求項5ないし11の何れかの治療
    剤。
  13. 【請求項13】該緩衝剤が、クエン酸ナトリウム、ナト
    リウムグリシネート、リン酸ナトリウム、トリス(ヒド
    ロキシメチル)アミノメタンよりなる群より選ばれるも
    のである、請求項12の治療剤。
  14. 【請求項14】該炭水化物が単糖類及び2糖類よりなる
    群より選ばれるものである、請求項9ないし13の何れ
    かの治療剤。
  15. 【請求項15】該炭水化物又は多価アルコールが、グル
    コース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、マル
    トース、マンニトール及びソルビトールよりなる群より
    選ばれるものである、請求項9ないし13の何れかの治
    療剤。
  16. 【請求項16】該界面活性剤が、ポリオキシエチレンソ
    ルビタンモノ〜トリ−エステル、アルキルフェニルポリ
    オキシエチレン、ナトリウムタウロコラート、ナトリウ
    ムコラート、及び多価アルコールエステルである、請求
    項9ないし15の治療剤。
  17. 【請求項17】該ポリオキシエチレンソルビタンエステ
    ルが、オレエート、ラウレート、ステアレート及びパル
    ミテートよりなる群より選ばれるエステルである、請求
    項15の治療剤。
  18. 【請求項18】凍結乾燥された状態の、請求項9ないし
    17の何れかの治療剤。
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