【発明の詳細な説明】
ディーゼル内燃機関内のピストンリング及び/又はピストン並びにディーゼルエ
ンジンの慣らし運転方法
本発明は、全負荷時における最高燃焼圧力が135バール以上であり、ピストン
には、3乃至5つといった幾つかのピストンリングが設けられ、該ピストンが少
なくとも750mmの行程距離にてシリンダライナー内を往復運動することができ
、該ピストンリングの外径は少なくとも250mmであり、リングの高さよりも軸
方向に高い各々の環状溝内に組み立てたとき、ピストンリングの各々は、ライナ
ーの内面に沿って摺動する半径方向外面を有する、ディーゼル型内燃機関、特に
2行程ディーゼル内燃機関内のピストンリング及び/又はピストンのに関するも
のである。
2行程クロスヘッドディーゼルエンジンの最新型のものは、135バール以上の
極めて高圧の最高燃焼圧力にて作動し得る設計とされている。これらの高圧は、
ピストンリングに極めて大きい負荷を生じさせる。その1つの理由は、3乃至5
つのリングが燃焼室内の圧力がピストンの下方にて拡がるのを防止しなければな
らないとき、リングにおける差圧が必然的に大きくなるからである。また、もう
1つの理由は、圧縮及び燃焼によって生じた高圧に伴って、極めて高温度となり
、この高温度は摩擦状態に悪影響を与え、このためピストンリング及びライナー
は、より固着し易くなり、この固着によってピストンリング及びライナーは損傷
するからである。高圧に対して密封するため、ライナーの内面に対するピストン
リングの当接圧力は、高圧でなければならない。その結果、ピストンリングは潤
滑油膜を貫通し、領域において、ライナーの内面に対して無潤滑で作動する傾向
がより大きくなる。
環境上の理由のため、硫黄分が極めて少なく、また硫黄分を完全に含まない燃
料にてエンジンを運転することにより、この困難な潤滑状態は,一層、悪化した
ものとなる。従来、燃料及び潤滑油は、常に、硫黄を比較的多量に含んでおり、
硫黄は微細な潤滑剤であるため、このことは、良好な摩擦学状態を保つのに役立
っていた。
例えば、内燃機関のピストンリングに固体相の潤滑剤を含む被覆を付与するこ
とは小型の4行程エンジンから公知である。デンマーク国特許第A1 771 640号
では、ピストンリングに溶射したモリブデンの耐摩耗層をその耐摩耗層内にニッ
ケルで取り囲んだMoS2の粒子を含ませることにより改質して形成したモリブ
デンのみから成る耐摩耗層にて見られる、シリンダライナーに対する極めて大き
い耐摩耗効果に対抗することができることを教示している。米国特許第5,239,95
5号には、熱硬化エポキシのような樹脂中にグラファイト及びMoS2を含む固体
の膜潤滑剤を有するピストンスカート部が記載されている。エンジンの始動時、
固体膜潤滑剤の一部はシリンダ壁の内面に移され、エンジンの運転を続ける間に
、潤滑剤はピストン及びシリンダ壁の双方に残っている。日本国特許第A63−28
9374号には、金属基層中に窒化処理を施した硬質の耐摩耗層と、鉄又はNiのよ
うな金属基層中に固体状潤滑剤の極めて薄い外層とを有するピストンリングが記
載されている。この外層の厚さは、0.02mm以下であり、このため、ピストンの
数回の行程動作後に、この層は摩耗してしまう。英国特許第938,120号は、慣ら
し運転するピストンリングの問題点の1つの解決策として、ピストンリングの外
面に厚さが0.025乃至0.125mmの溶射被覆を設け、また、該被覆が接着剤と、樹
脂中に接着させた酸化アルミニウム及びグラファイトのような硬い減摩剤と、潤
滑剤とを含むことを記載している。慣らし層を摩耗させるには、1000時間の運
転時間が必要である、硬度及び摩耗抵抗性を有する慣らし層を備えるシリンダ部
材が欧州特許第A2 0 126 323号から公知である。この従来技術は、慣らし層中
に硬い耐摩耗性構成要素を含めるべきことを示唆している。
最高圧力が高圧である本発明に関連する大型エンジン内の状態は、4行程エン
ジン内の状態と著しく相違する。この4行程エンジンにおいて、石油エンジンの
場合、最高圧力は40バール程度であり、また、ディーゼルエンジンの場合、80バ
ール程度の最高圧力となる。更に、4行程エンジンのエンジンブロック、ピスト
ン及びピストンリングは、軽金属で出来ている一方、大型のエンジンのシリンダ
ライナー、ピストン及びピストンリングは、高圧及び高温の影響に耐え得るよう
にするために、通常、鋳鉄、鋳鋼又は鋼で製造される。使用される材料の相違
は、溶射した被覆の性質を互いに比較することを困難にする。その理由は、摩擦
状態、溶着状態、熱の影響に対する反応等は、一方にて、鋳鉄と鋼との間にて、
また他方にて、鋳鉄とアルミニウムのような軽金属との間にて著しく相違するか
らである。
大型のクロスヘッドディーゼルエンジンの慣らし運転において、全負荷時の最
高燃焼圧力が135バール以上に達するとき、ライナーの内面及びピストンリング
の外面に対する固着という重大な問題が生じる。多くの事例において、慣らし運
転が完了する迄、ピストンリングを交換し、また、ライナーを後で機械加工する
ことが必要であった。ある場合には、エンジンを全負荷状態にする前に、ピスト
ンリングを数回も交換することが必要となる。時間及び費用を消費することは別
にして、かかる必要性は、また、慣らし運転中に行わなければならないエンジン
の初期調整の妨げともなる。
本発明の目的は、少なくともエンジンが全負荷状態となる迄、少なくともピス
トンリング、好ましくはピストンの固着を防止することにより、関連するエンジ
ンのより迅速で且つより支障の少ない慣らし運転を実現することを可能にする、
ピストンリング及び/又はピストンを提供することである。
この目的に鑑みて、本発明によるピストンリング及び/又はピストンは、新品
状態のとき、ピストンリングの半径方向外面及び/又はピストンの半径方向外面
の一部分には、固体状態の潤滑剤と金属系接着剤とを含む慣らし層が設けられる
ことと、この慣らし層は、半径方向に少なくとも0.1mmの厚さを有することと
、この慣らし層は、一般に生ずる不純物を別にして,重量比で表したとき、グラ
ファイトのような固体状態の潤滑剤5乃至60%と、Ni、Al、Siのような金
属系接着剤40乃至95%と、選択随意的に、有機系接着剤15%以内とを含むことと
、慣らし層のマクロ硬さが300HV30以下であることとを特徴としている。
ピストンリングの最初の慣らし運転中、該リングの半径方向外面は、摩耗して
切子面(tacetted shape)から成る形状となる。環状溝の高さはリングよりも高さ
が高いため、リングは、関連する環状溝内にて軸方向に動くことが自由となり、
リングにおける大きい差圧の影響を受けて、リングは、溝内にて傾き、又は僅か
に捩れて、このため、ピストンが往復運動する間に、ライナーの内面に対する該
リングの外面の角度を変化させる。リングが最初に何回も傾動するとき、リング
の頂部端縁又は底部端縁は極めて小さい面積にてライナーの内面に当接し、また
、極めて高い表面圧力が関係する結果、リングの材料は急速に摩耗する。その理
由は、多分、リングの端縁がライナーの内面の油膜に瞬間的に貫入するためであ
ると考えられる。リングが切子面から成る形状を保つのに伴い、当接面積は増大
し、表面圧力は降下して、油膜に貫入するときの限界値以下となる。
この慣らし運転中、ピストンリングの外面とライナーの内面との間の潤滑が極
めて不充分であり、互いに摺動する面の間の摩擦が高温度を発生させるならば、
ピストンリングがライナーに当接する領域内にて固着が生じ始める。局部的な領
域内にて固着が生じたならば、ピストンリング上に形成された極めて粗い面は、
摩擦を増大させ、このため過度の温度レベルが保たれて、完全な廃棄状態となる
迄、固着は、ピストンリングにおける大きい面積まで拡がる。また、このピスト
ンリングにおける粗い固着領域は、ライナーの内面にも固着を生じさせ、このこ
とが、また、温度レベルの上昇に寄与することになる。
エンジン負荷、従って、最高圧力が増大するとき、当接圧力も上昇するため、
リングの外面の切子面の研磨を完了することを許容する期間、エンジンが全負荷
にて運転される迄、この慣らし運転層が固着の発生を防止することは有意義なこ
とである。これを可能にするためには、慣らし層の厚さは、少なくとも0.1mm
でなければならない。0.13、0.15、0.19又は0.25mm更には1又は2mmの厚さ
の層のような、著しくより厚い慣らし層を使用することが可能である。その理由
は、最初の過程にて、切子面は慣らし層内に研磨され、その後、慣らし運転の最
後の段階にて、又はその慣らし運転の終了時に、切子面は、その下方にある、よ
り著しく硬いピストンリング材料中にゆっくりと研磨されるためである。ライナ
ーに対するリングの当接面積が極めて大きく、このため、潤滑油膜に貫入するこ
とができないときに、慣らし層を除去すると同時に、この研磨が終了することに
なる。
慣らし層が柔軟であり、そのマクロ硬さが300HV30以下であることは、本発
明にとって有意義なことである。最高圧力が高い現在の大型のエンジンにおいて
、少なくともエンジン負荷が50%以上にまで増大する、慣らし運転期間の部分の
間にて、ピストンリングの外面は、硬い材料で出来たものでなければならないと
これまで強く信じられていた。本発明において、柔軟な慣らし層を有するピスト
ンリングは、エンジンに対する上方負荷領域内において生じる大きい影響力に十
分に耐えることができることと、切子面から成る形状となるようにより迅速に研
磨された柔軟な材料中にて切子面の研磨を有利に行うことができることとが判明
した。
5%乃至60%の固体状潤滑剤から成る慣らし層を有することは、ピストンリン
グが油膜に貫入するのを妨げるのに十分に大きい当接面積となる迄、初期の研磨
が行われる一方にて、十分な潤滑を保つことを確実にする。固体状潤滑剤が5%
以下であるならば、摩擦学的状態は極めて不充分となり、また、含有量が60%以
上であるならば、潤滑剤をピストンリングの外面に十分に接着させることが難し
くなる。固体状潤滑剤としてグラファイトを使用することが好ましいが、MoS2
、LiF、CaF2及びその混合体のような、その他の周知の潤滑剤を使用する
ことも可能である。金属系接着剤として、共に軟金属である、Ni又はAlを使
用することが好ましいが、Cu、Ag、Si及び/又はZnのようなその他の軟
金属を使用することもできる。
1つの好適な実施の形態において、慣らし層は、鋼、鋳鋼又は鋳鉄製の鋳造ピ
ストンリング、又はピストンブランクに熱溶射される。この熱溶射は、高性能な
極めて周知の方法であり、極めて多岐に亙る組成の被覆の施工に使用することが
できる。また、この熱溶射被覆は、鋼鉄又は鋳鉄の表面に適度に十分に接着させ
ることができる。熱溶射の1つの代替例として、所望の慣らし層の溶融浴中に浸
漬させることによって被覆を施工することもできるが、この施工方法において、
ピストンリング又はピストンにおける熱の影響を制御することはより難しくなる
。
リングの寿命を引き延ばすべく鋳造ピストンリングブランクに対し硬質の耐摩
耗層を付与することは周知のことである。1つの参考として、PM2、PM10又
はPM14という商品名の硬い摩耗被覆を有する、スウェーデン国の会社ダーロス
(DAR0S)ABにより提供される、鋳鉄製のピストンリングを挙げることが
できる。これらの被覆は、ミクロ硬さが1800HV以上の粒子を含んでおり、リン
グの外面に熱溶射される。これら極めて硬い粒子がシリンダライナーに固着する
のを防止するため、被覆の外面は研磨されている。シリンダライナー及びピスト
ンリングの製造許容公差のため、該新品のピストンリングは、通常、ライナーの
全周に完全には当接しない。硬い表面とし且つ研磨したリングの外面に銅又は純
粋なグラファイトの極めて薄い被覆を施すことにより、ピストンリングとライナ
ーとの間の密封を向上させることができる。ライナー及びピストンリングが互い
に当接する箇所にて、この薄い被覆は、数回のピストン行程動作の後に摩耗する
一方、リングとライナーとの嵌まり程度が完全に正確でない箇所にて多少、より
長時間留まり且つその個所を密接する。特定の個所にて1200HV以上のミクロ硬
さを有する材料の耐摩耗層で被覆された、鋼、鋳鋼、又は鋳鉄製の鋳造ピストン
リング部材にて、本発明による慣らし層を施すことが望ましいならば、その場合
、慣らし層が耐摩耗層に溶射される迄、耐摩耗層を溶射することによって形成さ
れたその表面粗さを維持することが好ましい。当然に、溶射した耐摩耗層の研磨
を省略することができるように製造過程を簡略化することが可能であることは有
利なことであるが、望ましい効果が得られるようにするため、ピストンリングの
外面に慣らし層がより確実に接着することはより重要なことである。慣らし層の
接着が不充分であるならば、切子面の望ましい研磨が行われる前に、その領域内
の慣らし層が薄片状に剥がれる可能性がある。
また、慣らし運転時にピストンが固着する可能性があることも周知のことであ
る。このため、頂部ピストンリングに対する環状溝とピストン頂部との間に配置
されるピストンの半径方向外面の上方部分において、鋼、鋳鋼又は鋳鉄製の鋳造
ピストンブランクには、合計層の厚さが0.1乃至5mmの熱溶射層が付与され、
その層の内、慣らし層が該層の最外側部分を構成する。慣らし層自体に必要とさ
れるよりも著しく厚い厚さとなるように溶射層を蓄積させることにより、頂部ピ
ストンリングの上方の領域内にてピストンとシリンダライナーの内面との間の環
状スペースには、自己潤滑性の潤滑材料が充填される。この自己潤滑性の潤滑材
料は、シリンダのライニングの内面と接触する個所にて固着を生じさせることは
ない。この環状スペースの充填により、燃焼室内の極めて高い温度レベルから頂
部ピストンリングを保護するという更なる利点が実現される。潤滑油膜は高温度
にて破れ易いため、この高温度は、潤滑状態に悪影響を及ぼす。このため、この
実施の形態は、頂部ピストンリングの周囲の潤滑状態を有利に改良することにな
る。このことは、慣らし運転時及びその後の通常のエンジン運転の双方における
、固着の虞れを軽減することにつながる。
更に別の実施の形態において、底部ピストンリングの環状溝とピストンの下端
との間に配置された半径方向外面の下方部分にて、鋼又は鋼鉄製の鋳造ピストン
ブランクに熱溶射した慣らし層が付与される。この点に関して、該ピストンは、
ピストンの下端にボルト止めされ且つ該下端まで下方に伸長するピストンの下方
部分である、ピストンスカート部を備えることができる。典型的に、ピストンス
カート部に配置されるこの下方部分内にて、ピストンは、シリンダライナーの内
面に接触することができる。この部分慣らし層を付与することにより、シリンダ
ライナーの内面が比較的粗いとき、慣らし運転中、ピストンの固着が防止される
。最も上方の点がシリンダライナーの内面から摩耗するのに伴い、ピストンの固
着による損傷の虞れは少なくなり、このため、下方ピストン部分の上に本来の慣
らし層を付与すれば十分である。
ピストンリングにのみ慣らし層を施すことが可能であるが、全てのピストンリ
ングに慣らし層を被覆し、また、ピストンには、底部ピストンリングに対する環
状溝の下方に配置された、少なくともその下方部分にて慣らし層が被覆されるこ
とが好ましい。その理由は、ピストン及びピストンリングの固着による損傷の虞
れが著しく軽減されるため、エンジンのより迅速な慣らし運転を行うことが可能
になるからである。それは、ピストン及びピストンリングの固着による損傷の虞
れが著しく軽減されるからである。
本発明は、その全負荷における最高燃焼圧力が100バール以上であり、少な
くとも1つのシリンダに関して、エンジンがシリンダライナーを有し、新品の幾
つかのピストンリングを備えるピストンが該シリンダライナー内にて、少なくと
も750mmの行程距離にて往復運動可能であり、ピストンリングの各々は、少な
くとも250mmの外径と、ライナーの内面に当接する半径方向外面とを有する、
ディーゼル型の2行程クロスヘッドエンジンの慣らし運転方法に更に関する。
かかるエンジンを慣らし運転する公知の方法は、典型的に、何時間にも亙り、
その間に、負荷が増大する前に、ピストンリングの固着の有無について検査する
ため、エンジンを途中で停止させて、エンジン負荷を段階的に徐々に増大させる
。通常、このエンジンは、約15%の負荷にて30分間の運転により始動させ、その
後に、ピストンリングを検査する。次に、エンジンを再始動させ、数時間に亙っ
て約40%の負荷まで段階的に増大させ、エンジンを30分間、再度、停止させた後
、エンジンを始動させて、少なくとも3時間に亙って90%の負荷まで段階的に運
転し、その後に、負荷を100%に増大させる。このようにして、エンジンは、少
なくとも6時間の合計運転時間の後に、初めて全負荷とされ、その後に、エンジ
ンを停止させ、再度の検査を行う。この遅い慣らし運転にも拘わらず、上述した
ように最も新品のエンジンでさえ、ピストンリングの固着という重大な問題点が
観察される。新品のピストンリングを取り付ける必要がある場合、慣らし運転方
法は、最初から繰り返さなければならなかった。
本発明による方法は、エンジンを始動させ、最大で3時間の合計の慣らし運転
期間内に全負荷にし、その3時間の間に、エンジンの始動の前に新品のピストン
リングの半径方向外面及び/又はピストンの半径方向外面の一部分に配置された
、慣らし層の少なくとも一部がライナーの内面に移され、該慣らし層は、エンジ
ンの始動前に、半径方向への厚さが少なくとも0.1mmであり、300HV30以下の
マクロ硬さを有する材料で出来ていることを特徴とする。新品のピストンリング
が新品のシリンダライナーに取り付けられたならば、エンジンは、全負荷にする
ことができ、この場合、最高燃焼圧力は、最大で3時間の合計運転期間中に135
バール以上となる。
柔軟で適度に厚い慣らし層は、当該型式の公知のエンジンにおけるよりも固着
の問題が実質的に少ないと同時に、負荷をより迅速に全負荷まで増大させること
のできる、慣らし過程を可能にするものである。このより迅速で且つより安全な
慣らし運転はエンジンの準備時間を著しく節減することになる。これと同時に、
燃料及び過給器系統に対する噴射順序を調節するといった、当然に行わなければ
ならないエンジン構成要素の調節に慣らし運転の相当部分を集中することを可能
にする。
柔軟な慣らし層は、ピストンリングの外面の切子面をより迅速に研磨すること
を可能にすることに加えて、研磨された材料は、ライナー頂部、特にその頂部分
に蓄積する。その理由は、ピストンがクランク軸を最初に20°回転させるエンジ
ンサイクル部分の間、燃焼室内の圧力が最も高圧であり、この高圧力のときに研
磨されるからである。ライナーの内面に蓄積した材料は、固着を防止する潤滑状
態を可能にし、シリンダライナーの頂部領域の付着物は、高温度であるため、油
系の潤滑剤が適正に機能し難い箇所である、領域にて有用である。本発明は、そ
の内面が溶着した耐摩耗層からなるシリンダライナーを使用することを可能にす
るものである。また、このことは、硬い耐摩耗層の頂部に付与された柔軟な材料
で出来た慣らし層がライナーの内面に付与されたエンジンに本発明を適用するこ
とも可能にするものである。
このエンジンは、最大で90分の合計運転時間内に全負荷状態にすることが好ま
しい。この状態は、エンジンの軸受及びエンジンの構成要素の調節を考慮して必
要とされる運転時間に略対応するものである。このように、この慣らし過程は、
シリンダ構成要素の固着を防止することを考慮して決定されるものではない。
ディーゼルエンジンのピストンリングは、徐々に摩耗し、シリンダライナーよ
りも寿命が短い。公知のエンジンに装備されたシリンダ内のピストンリングを交
換しなければならないとき、6時間に以上といった、長時間に亙って負荷を徐々
に増大させる慣らし運転を行うことが必要である。このことは船舶にて行われる
が、船舶は典型的に所定の航海スケジュールを遵守しなければならず、遅れれる
ことによって船主が負担する費用は典型的に1日当り25,000乃至40,000米国ドル
といった多額になるといわれている。エンジン内のシリンダに新品の組のピ
ストンリングを取り付けた後に、必要な慣らし運転時間を短縮することができる
ことは、当然に、有利なことである。
本発明による方法は、新品の幾つかのピストンリングを有するピストンを以前
より使用されていたシリンダライナー内に取り付けたることを可能にし、また、
最大で1時間の合計運転時間内にてエンジンを作動させ且つ全負荷とすることを
可能にするものである。通常、極めて短い停泊期間内において新品のピストンリ
ングを交換するために慣らし運転時間を短くすることは、何ら問題を生ずるもの
ではない。エンジンを始動させ且つ全負荷航行の命令が出される迄に通常、費や
される時間よりも、その慣らし運転時間は著しく短くなる。
次に、極く概略図を参照しつつ、本発明の実施例に関して以下に詳細に説明す
る。添付図面において、
図1は、ピストンリングを有するピストンが上死点にある場合のシリンダライ
ナーの上方部分の縦断面図である。
図2は、鋳造リング材料上に直接、慣らし層を被覆したピストンリングの断面
図である。
図3は、鋳造したリング材料上の溶射した硬い耐摩耗層の外側にて慣らし層を
被覆したピストンリングの別の実施の形態の断面図である。
図4は、本発明によるピストンの部分側面図である。
図5は、エンジンを慣らし運転するための本発明による方法の一例の線図であ
る。
図1には、発電機を作動させる据え付け型エンジンとして、又は船の推進エン
ジンとして使用することのできる大型の2行程クロスヘッドエンジン用のシリン
ダライナーの上方部分が全体として参照番号1で示してある。エンジンの寸法に
対応して、シリンダライナーを異なる寸法にて製造することができ、シリンダボ
アは、典型的に、250mm乃至1000mmであり、それに対応する典型的な長さは
、1000mm乃至4500mmである。ライナーは、通常、鋳鉄又は鋼若しくは鋳鋼に
て製造され、ライナーの内面には、溶射した耐摩耗層が付与されている。ライナ
ーは、一体化するか又は互いの伸長部内にて接続した少なくとも2つの部分
に分割することができる。分割したライナーの場合、下方部分と異なる別の基部
材料にて上方部分を製造することも可能である。
周知の方法にて、ライナーは、エンジンのフレームボックス又はシリンダブロ
ック内にて頂部板4上に配置される環状の下向き面3によって、部分的にのみ図
示したエンジン内に取り付けられる。その後、ピストン5は、シリンダライナー
内に取り付け、シリンダカバー6は、その環状の上向き面上にてライナーの頂部
に配置し、図示しないカバースタッドによって頂部板にクランプ止めする。
シリンダライナーの下方部分は、図示しない、環状列の掃気ポートを有してい
る。ピストンは、ピストン上面9がシリンダカバー6のボア内に配置される上死
点と、ピストン上面9が掃気ポートの下端の真下に配置される下死点との間にて
ライナーの長手方向に可動である。
ピストンロッド10、クロスヘッド及び接続ロッドを介して、ピストンは周知
の方法にてエンジンのクランク軸と接続されている。クランク軸が360°回転す
る毎に、ピストンは、下死点から上死点まで移動し、再度、その逆に戻る。
面3、7の間に配置された上方部分において、シリンダライナー1は、より大
きい外径にて形成されており、この部分の頂部にて、長い冷却穴14が多数、外
側凹所15からライナーの壁内部に穿孔されており、このため、直線状の冷却穴
の長手方向軸線は、ライナーの長手方向軸線に対して斜めに又は傾斜して伸長す
る。各冷却穴内において、パイプ又はバッフル板が挿入されて、流入する冷却液
を凹所15から穴の上方デッドエンドまで上方に案内し、この上方デッドエンド
から冷却液は下方に流れ、チャンバ16内に入り、そこから、冷却液はパイプ1
7を介してシリンダカバー内に流れる。冷却穴は、実際には、切断面に対して斜
めに伸長するが、その長手方向軸線が切断面内にて伸長するかのように図示して
あることに留意すべきである。凹所15は、環状のカバー板18により取り巻か
れている。ライナーの壁に埋め込まれ且つライナーの外面の頂部にてチャンバ内
に開口する湾曲した導管のような、冷却穴のその他の設計とすることは周知のこ
とである。
シリンダライナーの内面13には、硬質の熱溶射した耐摩耗層を1つ以上、付
与することができる。この硬質の耐摩耗層は、セラミック、セラミックと金属と
の混合体、いわゆるサーメット、又は比較的柔軟な金属マトリックス内に埋め込
んだ極めて硬い粒子から成る耐摩耗層とすることができる。このマトリックスは
、例えば、Cr、Ni及び/又はMoを含むことができ、硬質粒子は、例えば、
炭化物、窒化物、ホウ化物及び/又は酸化物とすることができる。また、耐摩耗
層の1つは、モリブデン及びモリブデン酸化物の混合体とすることもできる。更
に、Ni,Mo、Al又はAgの接着剤中に固定したグラファイトを含むことの
できる柔軟な最内側の慣らし層をライナーに付与することも可能である。また、
ライナーの内面から柔軟な慣らし層を省くことも可能であり、その場合、ピスト
ンリングは、ライナーの硬質の耐摩耗層、又はライナーの鋳造した基部材料の上
にて直接、摺動するから、その結果、ピストンリングはより急速に研磨される。
シリンダライナーは、その内面に波形のパターンを有するように製造し、そのパ
ターンの波形の頂部を除去することができる。内面の全体に沿って上記のパター
ンを有するライナーを製造することも可能である。また、ピストンの下降行程の
最初の40%の間、ピストンリングが拭き払う部分のような、ライナーの上方部分
のみにこのパターンを機械加工することもできる。また、この部分は、20%、25
%、30%又は35%若しくはその中間の値のようなその他の相対的寸法を有するよ
うにすることもできる。波形のパターンは、ピストンリングとライナーの内面と
の間に可能な限り最良の潤滑状態を保つのに役立つ。潤滑油は、波の樋状部分の
底部に溜まり、このため、その樋状部分の間の平坦面に潤滑油を提供する。新品
のピストンリングを新品のライナー内にて慣らし運転するとき、ピストンリング
の外面は、略平面状の平坦領域上を摺動する。
図1において、ピストン5は、上死点にある状態で示してある。該ピストンに
は、全体として参照番号19で示した4つのピストンリングが設けられている。
その内、頂部のピストンリングは、標準型の斜めに切ったリングであり、又は気
密の型式である、すなわちリングの仕切り部分は、気体がリング仕切り部分を通
って流れるのを略防止されるような設計とされている。このことは、例えば、リ
ングの他端の対応する凹所内に突き出す平坦な突起を有するリングの一端によ
って行うことができる。頂部から二番目及び三番目のピストンリング、及び底部
ピストンリングは、従来のリングとすることのでき、この場合、リング仕切り部
分は、リングの上面から下面まで周方向に斜めに伸長する空隙のように形成され
、又は略気密の型式のものとすることができる。本発明の説明上、ピストンリン
グという表現は、ピストンの圧縮リングに関して使用する。
図2のピストンリング19は、鋳鉄製の鋳造ピストンリングブランク30を備
えている。該部材は、半径方向外面31にて、慣らし層32により少なくとも0.
1mmの厚さにて熱溶射により被覆されている。図3のピストンリング19は、
鋼又は鋳鋼から成る鋳造ピストンリング部材34を備えている。該部材は鋳鉄製
ではないため、鋼の半径方向外面35には、スウェーデン国の会社のダーロスA
Bが製造する材料PM2、PM10、PM14、PM20、PM28又はL1の1つのよ
うな満足し得る摺動特性を有する材料の耐摩耗層36を施す必要がある。少なく
とも0.1mmの厚さの慣らし層37が熱溶射により耐摩耗層の半径方向外面33
に施されている。また、ピストンリングにおける慣らし層は、0.13乃至3.0mm
の範囲、好ましくは最大で2.0mmの厚さのような、0.1mm以上の厚さの層とす
ることも可能である。
図4には、ピストンの中間部分を省略したピストン5の一部分が図示されてい
る。ピストンの半径方向外面にて、0.1mm乃至5mmの厚さの柔軟な層40が
上方部分38に施されており、該上方部分は、ピストンの持ち上げ工具を取り付
け得るように頂部ピストンリングに対する環状溝からスリット39まで上方に伸
長している。この層の最外側部分は、慣らし層として機能し、該層は、ピストン
リングに使用される慣らし層と同一の組成から成っている。該ピストンの下方部
分は、ピストンの上方部分にボルト止めしたピストンスカート部41から成って
いる。2つの部分の間の分割面は破線で標識してある。ピストンスカート部の外
面には、少なくとも0.1mmの厚さにて慣らし層42が熱溶射により被覆されて
いる。
丸い物の周りに材料層を熱溶射により溶射することは極めて周知のことである
。このことは、例えば、炎溶射、プラズマ溶射、HVOF溶射又はアーク溶射と
することができる。溶射方法は、例えば、欧州特許第B‐0341672号、欧州特許
第A‐0203556号、国際特許出願第95/21994号及び国際特許出願第95/02023号
に記載されている。溶射時、一般に生ずる不純物以外に、重量比で表した次の組
成物の1つを含むフィラーを使用することができる。
(a)5乃至60%のグラファイト及び40乃至95%のNi、
(b)5乃至60%のグラファイト及び40乃至95%のAl、
(c)5乃至60%のグラファイト及び40乃至95%のSi及び/又はAl又は、
(d)5乃至60%のグラファイト、20乃至90%のSi及び/又はAl、及び5
乃至15%の有機系接着剤。
フィラーが20乃至25%のグラファイトと75乃至80%のNi及び/又はAlとか
ら成る組成物であるか、又はフィラーが15乃至25%のグラファイトと75乃至85%
のNi及び/又はAlとから成る組成物であることが好ましい。実施例1
鋳鉄製で且つ外径が丁度600mm以下である4つのピストンリングが互いに並
べて固定されている。また、これらのピストンリングには、METCO製の標準
的なプラズマ溶射装置により慣らし層が被覆されている。溶射ヘッドとピストン
リングの外面との間の距離は115mmに設定し、500Aの電流を使用した。溶射ヘ
ッドとピストンリングとの間の相互の回転速度は27rpm設定し、リングの軸方
向への送り込み量は、7mm/一回転に設定した。20%のグラファイト及び80%
のニッケルから成る組成物のニッケル被覆グラファイトボールの粉状の開始材料
を95g/分の量にて供給した。該粉体は、内面を通過する毎に0.02mmの層を析
出した。使用した担体ガスは窒素とした。この層は、0.15mmの厚さまで蓄積さ
せた。該層の平均硬度の測定値は、140HV30であった。ピストンリングを分離
させ、更なる後加工を行うことなく、2行程クロスヘッドエンジン内の標準的な
シリンダライナー内のピストンに取り付けた。このエンジンの通常の最高燃焼圧
力は、145バールとした。15%の負荷にて、30分間、最初に運転した後、負荷を1
5分間に亙って100%に増大させ、その後、1.5時間運転を続
行し、エンジンを停止させ、シリンダライナーを検査した。ピストンリングの外
面又はライナーの内面の何れにも実際の固着の兆候は何ら観察されなかった。ピ
ストンリングの外面に研磨した切子面が観察され、このことは、固着を生ずるこ
となく、ピストンリングの連続的な運転が可能であることを示す。また、ピスト
ンリングからの慣らし層部分は、ピストンリングが拭き払う領域の頂部の四半分
にて、シリンダライナー内面に析出することが観察された。実施例2
シリンダボアが350mmの2行程クロスヘッドエンジン用のピストンスカート
部の円筒状外面には、上述したものと同一型式の慣らし層にて炎溶射により1m
mの厚さに被覆した。その被覆後、層の平均硬度の測定値は、75HV30であった
。ピストンスカート部を含むピストンを従来のシリンダライナー内のエンジンに
取り付け、従来の方法にてシリンダを運転した。慣らし運転後、ピストンスカー
ト部の固着は全く観察されなかった。
図5には、クロスヘッド型の新品のディーゼルエンジンの慣らし運転方法の一
例が示してあり、この場合、エンジンのピストンリングは上記型式の柔軟な慣ら
し層で被覆されている。エンジンを組み立てた後、15%の負荷にて30分間運転す
ることにより運転を開始し、その後、エンジンを停止し、ピストンリングの状態
を検査する。30分の停止後、負荷は15%から25%、40%及び50%まで5分間の間
隔にて増加させ、その後、50%の負荷にてエンジンを30分間、運転する。次に、
エンジンを停止させずに、60%、75%、85%、90%及び最終的に100%の負荷ま
で5分間の間隔にて増加させる。このように、合計運転時間が僅かに1.5時間を
超えた後、全エンジン負荷に達した。この全負荷までの迅速な慣らし運転は、ピ
ストンリングに柔軟な慣らし層があることにより可能となる。また、漸進的な負
荷変化により慣らし運転を行うことも可能である。
シリンダ寸法が350mmであり、通常の最高燃焼圧力が145バールである現在の
型式のエンジンに対する特別な実験において、主軸受の慣らし運転のため、15%
の負荷にて30分間、最初の運転を行い、その後、負荷は15分間に亙って徐々に10
0%まで増加させた。全負荷を1時間保ち、その後、エンジンを停止さ
せ、ピストンリングの状態を検査した。驚くべきことに、極めて急激な慣らし運
転にも拘わらず、ピストンリングの外面に固着は全く観察されなかった。
慣らし層のマクロ硬さは、層の組成及び施工方法によって決まる。マクロ硬さ
は、個々の成分のミクロ硬さにより決まる。グラファイト自体は、測定可能なミ
クロ硬さは全くなく、このことは、慣らし層のミクロ硬さは、グラファイト含有
量の増加に伴って低下することを意味する。金属系接着剤のミクロ硬さは、施工
方法によって決まり、例えば、層を炎溶射したとき、ニッケルグラファイト層に
おいて、ニッケル相のミクロ硬さの測定値は100HVであり、層をプラズマ溶射
したとき、ミクロ硬さは600HV以内であった。このように、慣らし層のマクロ
硬さは、グラファイトの含有量を変化させ、また、極めて柔軟な層が所望である
とき、炎溶射を選択することにより、40HV乃至300HVの範囲にて所望通りに
変更することができる。アーク溶射を選択するならば、その層はより硬くなり、
プラズマ溶射を選択すれば更に硬くなり、HVOF溶射により最も硬いものとな
る。
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