JP2003252905A - 架橋ヒアルロン酸 - Google Patents

架橋ヒアルロン酸

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ヒアルロン酸の分子構造の改変に起因する生
体適合性への悪影響が避けられ、実用可能な安定性と品
質管理上の優位性を有する生体適合性材料分野に有用で
ある架橋ヒアルロン酸を提供すること。 【解決手段】 (1)ヒアルロン酸のカルボキシル基が
同一のヒアルロン酸分子の水酸基に、及び/又は別のヒ
アルロン酸分子の水酸基にエステル結合によって架橋し
ていることを特徴とする架橋ヒアルロン酸、(2)ヒア
ルロン酸のカルボキシル基が同一のヒアルロン酸分子の
N−アセチル−D−グルコサミン単位の6位の1級水酸
基に、及び/又は別のヒアルロン酸分子のN−アセチル
−D−グルコサミン単位の6位の1級水酸基にエステル
結合によって架橋していることを特徴とする(1)記載
の架橋ヒアルロン酸を構成とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、新規な架橋ヒアル
ロン酸に関する。
【0002】
【従来の技術】ヒアルロン酸は、N−アセチル−D−グ
ルコサミンとD−グルクロン酸が交互にβ−1,4結合
とβ−1,3結合で結合した、二糖単位から形成された
直鎖状の高分子多糖である。ヒアルロン酸は哺乳動物の
結合組織に分布するほか、ニワトリのとさか、連鎖球菌
の夾膜などにも存在が知られている。ニワトリのとさ
か、臍帯等が抽出材料として用いられているほか、連鎖
球菌の培養物からも精製物が調製されている。
【0003】ヒアルロン酸は、分子量について多分散性
であるが、種及び臓器特異性をもたず、生体に移植また
は注入した場合であっても優れた生体適合性を示すこと
が知られている。さらに、新しい物性を有するヒアルロ
ン酸誘導体を得るために、多種多様な化学修飾、化学架
橋が提案されている。ヒアルロン酸の化学修飾、化学架
橋によってヒアルロン酸の水溶性を制御する技術が多く
報告されており、3次元架橋によるヒアルロン酸ゲルの
形成も知られている。
【0004】これらの代表的なものとしては、ジビニル
スルホン、ビスエポキシド類、ホルムアルデヒド等の二
官能性試薬を架橋剤に使用して、得られた高膨潤性の架
橋ヒアルロン酸ゲルを挙げることができる(米国特許第
4,582,865号明細書、特公平6−37575号
公報、特開平7−97401号公報、特開昭60−13
0601号公報参照)。
【0005】また、ヒアルロン酸のテトラブチルアンモ
ニウム塩がジメチルスルフォキシド等の有機溶媒に溶解
する特徴を利用したヒアルロン酸の化学的修飾方法が開
示されている(特開平3−105003号)。
【0006】また、共有結合を形成する化学的試薬を使
用しない方法として、ヒアルロン酸とアミノ基あるいは
イミノ基を有する高分子化合物とを、ヒアルロン酸のカ
ルボキシル基と高分子化合物のアミノ基あるいはイミノ
基をイオン複合体として結合させてヒアルロン酸高分子
複合体を調製する方法が開示されている(特開平6−7
3103号公報参照)。
【0007】二官能性試薬を使用してヒアルロン酸を架
橋する場合、ヒアルロン酸水溶液が低濃度であるため、
架橋効率は著しく低くなる。つまり二官能性試薬のひと
つの反応性基がヒアルロン酸と反応し、もうひとつの反
応性基が未反応のまま残留してしまう。二官能性試薬の
両方の反応性基がヒアルロン酸と反応して架橋が形成さ
れる効率は低くなる。最終的にヒアルロン酸の構造単位
に対する置換度が高い架橋物が得られる。このような架
橋ヒアルロン酸では、ヒアルロン酸の分子構造が持って
いる本来の性質が著しく減じるばかりではなく、化学的
反応性物質の結合量が多くなるため、毒性や生体不適合
性等の危険性を本質的に抱え込まざるをえなくなる。
【0008】二官能性試薬による架橋ブリッジを介さず
に架橋ヒアルロン酸を得る方法も提案されている。ヒア
ルロン酸のテトラブチルアンモニウム塩をジメチルスル
フォキシド中で、トリエチルアミンとヨウ化2−クロロ
−1−メチルピリジニウムを加え反応させ、ヒアルロン
酸のカルボキシル基と水酸基間でエステル結合を形成さ
せる方法も開示されている(欧州特許0341745A
1)。この方法では、ヒアルロン酸のカルボキシル基を
活性化剤と反応させ活性化エステル中間体を形成し、活
性化エステル中間体が無水環境下でヒアルロン酸の水酸
基と反応し、二官能性試薬による架橋ブリッジを介さな
い内部エステルが形成するとしている。しかし、ヒアル
ロン酸を構成する2糖単位の4種類の水酸基と、ラクト
ン結合を含めてどのような構造のエステル結合が形成さ
れるか明示されていない。
【0009】ヒアルロン酸のカルボキシル基を利用して
エステル結合によって架橋したヒアルロン酸架橋物の生
分解性が良好なことが知られている。活性化試薬として
二または多官能性エポキシドを使用し、ヒアルロン酸の
カルボキシル基とエポキシ基を反応させてエステル結合
を形成する。二官能性試薬による架橋ブリッジを介した
エステル結合による架橋ヒアルロン酸が得られる。この
方法で得られた架橋ヒアルロン酸のリン酸緩衝生理的食
塩水中での分解性が良好なこと、すなわちこのエステル
結合の加水分解性が良好なことが開示されている(特公
平7−116242公報、特表紹3−503551公報
参照)。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】ヒアルロン酸自体が本
来持っている優れた生体適合性の特徴を最大限生かすた
めに、ヒアルロン酸の構造単位に対する置換度が最小限
で、すなわち架橋効率が高く、生体適合性医用材料とし
て使用可能な安定性を有している、品質管理可能な分子
構造が制御されている架橋ヒアルロン酸は未だ開発され
ていない。
【0011】本発明者らは、上記目的を達成するため
に、ヒアルロン酸自体の物理化学的性質を鋭意検討して
きた。その結果、新規な(1)ヒアルロン酸のカルボキ
シル基と水酸基にエステル結合によって架橋している架
橋ヒアルロン酸、特に(2)ヒアルロン酸のカルボキシ
ル基が同一のヒアルロン酸分子のN−アセチル−D−グ
ルコサミン単位の6位の1級水酸基に、及び/又は別の
ヒアルロン酸分子のN−アセチル−D−グルコサミン単
位の6位の1級水酸基にエステル結合によって架橋して
いる架橋ヒアルロン酸が、ヒアルロン酸自体が本来持っ
ている優れた生体適合性の特徴を最大限生かすことので
きる架橋効率が高い、生体適合性医用材料として使用可
能な安定性を有している、品質管理可能な分子構造が制
御されている架橋ヒアルロン酸であることを見出した。
【0012】また、従来法による改質ヒアルロン酸は、
幾多の努力にもかかわらず化学的反応性物質を用いるた
め、新たな改質による毒性や生体不適合性等の危険性を
本質的に抱え込まざるをえないという課題があった。
【0013】例えば、化学的修飾・架橋、及び金属塩等
を用いるイオン的方法による、ヒアルロン酸誘導体は、
たとえ生体内の貯留性等を改善できても、改質されたヒ
アルロン酸は架橋物質や金属等を共有結合やイオン結合
でヒアルロン酸の分子中に内包するため、もはや天然ヒ
アルロン酸と構造が異なり、その生理作用や生体適合
性、毒性を含む安全性が本質的にヒアルロン酸と同等で
あるとは言い難く、さらにこれら架橋剤等の残留毒性
や、生体内に於ける分解産物に含まれる架橋剤の安全性
の問題を完全に回避することは難しかった。
【0014】二官能性試薬等の架橋剤を使用しないで、
ヒアルロン酸に架橋構造を導入する方法として、ヒアル
ロン酸自体が有する官能基、つまりカルボキシル基、水
酸基、アセトアミド基を直接結合させる方法がある。こ
の方法で得られる架橋構造はエステル結合とアミド結合
である。分子間エステル結合で形成した架橋構造は、生
体内において加水分解してヒアルロン酸自体の構造に戻
るため、生体適合性の面で有利である。
【0015】ヒアルロン酸を構成する二糖単位に存在す
る官能基は、N−アセチル−D−グルコサミンのアセト
アミド基、C−4に結合した2級水酸基とC−6に結合
した1級水酸基、D−グルクロン酸のカルボキシル基、
C−2に結合した2級水酸基とC−3に結合した2級水
酸基である。エステル結合は1種類のカルボキシル基と
4種類の水酸基間で形成することができる。糖環に直接
結合した2級水酸基とカルボキシル基間のエステル結合
は、糖環に直接結合していない1級水酸基間のエステル
結合に比べて不安定である。
【0016】加水分解等に対して不安定な分子間エステ
ル結合によって架橋した架橋ヒアルロン酸は、最終製品
である医用材料の貯蔵安定性が乏しく、実用上の大きな
障害となる。また安定性の異なる4種類の分子間エステ
ル結合が混在していることは、品質管理上に致命的な問
題を生起し、実用上の大きな障害となる。
【0017】本発明者らは、本発明で得られた架橋ヒア
ルロン酸が医用材料として理想的な生体適合性を有し、
しかも生体適合性医用材料として使用可能な安定性と、
品質管理可能に分子構造が制御されていることを見出
し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
【課題を解決するための手段】即ち、本発明は、(1)
ヒアルロン酸のカルボキシル基が同一のヒアルロン酸分
子の水酸基に、及び/又は別のヒアルロン酸分子の水酸
基にエステル結合によって架橋していることを特徴とす
る架橋ヒアルロン酸、(2)ヒアルロン酸のカルボキシ
ル基が同一のヒアルロン酸分子のN−アセチル−D−グ
ルコサミン単位の6位の1級水酸基に、及び/又は別の
ヒアルロン酸分子のN−アセチル−D−グルコサミン単
位の6位の1級水酸基にエステル結合によって架橋して
いることを特徴とする(1)記載の架橋ヒアルロン酸で
ある。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いられるヒアルロン酸は、動物組織から抽出
したものでも、また発酵法で製造したものでもその起源
を問うことなく使用できる。発酵法で使用する菌株は自
然界から分離されるストレプトコッカス属等のヒアルロ
ン酸生産能を有する微生物、又は特開昭63−1233
92号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM
−100(微工研菌寄第9027号) 、特開平2−2346
89号公報に記載したストレプトコッカス・エクイFM
−300(微工研菌寄第2319号) のような高収率で安定
にヒアルロン酸を生産する変異株が望ましい。上記の変
異株を用いて培養、精製されたものが用いられる。
【0020】本発明でいう架橋ヒアルロン酸は、ヒアル
ロン酸が架橋構造を保持し、溶媒に可溶性であれば、原
料となるヒアルロン酸よりも分子量が増大している。分
子量は一般的にGPCを使って測定することができる
が、架橋構造を保持している、すなわち分岐構造を有し
ているヒアルロン酸の分子量はGPC−MALLS(多
角度光散乱)を用いて測定する方が正確である。原料と
して使用するヒアルロン酸の分子量と架橋度を制御する
ことにより、溶媒に対して不溶性の架橋ヒアルロン酸も
得られる。
【0021】本発明でいう架橋ヒアルロン酸の架橋度、
すなわち導入する分子間エステル結合量は、架橋ヒアル
ロン酸の使用目的や要求特性に合わせて任意に制御する
ことができる。エステル結合量は、ヒアルロン酸中のカ
ルボキシル基の全数に対する割合として定義できる。関
節注入剤等ではヒアルロン酸は水溶液として使用され
る。ヒアルロン酸水溶液の粘弾性特性を改善する目的で
水溶性の架橋ヒアルロン酸を調製する場合、原料として
使用するヒアルロン酸の分子量にも左右されるが、導入
する分子間エステル結合量は0.5%未満が好ましい。
【0022】溶媒に不溶性の架橋ヒアルロン酸の場合、
原料として使用するヒアルロン酸の分子量にも左右され
るが、導入する分子間エステル結合量は1%未満が好ま
しい。導入する分子間エステル結合量が1%以上では、
不十分な膨潤特性の架橋ヒアルロン酸となり、ヒアルロ
ン酸本来の特性が発現し難くなる。
【0023】本発明でいう架橋ヒアルロン酸の分子構造
はNMRを使って確かめることができる。ヒアルロン酸
自体の分子構造はNMRを使って、その末端基まで含め
て詳しく解析されている(Carbohydr.Res.Vol245,p113-
128,1993、Macromolecules Vol29,p2894-2902,1996)。
ヒアルロン酸の修飾や架橋によってヒアルロン酸の構造
が改変された場合、スペクトル上の新規のピークを、多
次元NMR等の各種手法を用いて帰属し、構造を決定す
ることができる。構造が改変された割合が小さく、その
検出が難しい場合、酵素分解等の分子構造に対する認識
性の大きい分解反応を利用して、検出目的の構造を濃縮
してから解析することもできる。
【0024】ヒアルロン酸を分解する酵素は、放線菌由
来ヒアルロニダーゼや羊睾丸由来ヒアルロンダーゼ等多
種類存在する。ヒアルロン酸の主鎖の分解部位が使用す
る酵素の種類によって異なることが知られている。羊睾
丸由来ヒアルロンダーゼで分解したヒアルロン酸オリゴ
糖では、生成する末端基の構造まで含めて構造が解析さ
れている。ヒアルロン酸の酵素分解では、分解条件によ
ってトランスグリコシレーションが起こることが知られ
ている。トランスグリコシレーションを避けるために、
ヒアルロン酸水溶液のpHを低く調製する必要がある(T
he Journal Biological Chemistry.Vol. 270 ,p3741-37
47,1995)。
【0025】本発明でいう架橋ヒアルロン酸はラクトン
結合を含まない。ラクトン結合はエステル結合の一種で
ある。ラクトン結合は閉環によるひずみを持ったエステ
ル結合であり、赤外線吸収スペクトルで観測されるカル
ボニルの伸縮振動が、ひずみを持たないエステル結合に
比べて高波数側へシフトしていることが知られている。
本発明でいう架橋ヒアルロン酸では、ひずみを持ったエ
ステル結合は、赤外線吸収スペクトルで観測されない。
【0026】本発明に用いられるヒアルロン酸は、動物
組織抽出又は発酵法で得られた高分子精製品でも、更に
加水分解処理等をして得た低分子量のものでも同様に好
ましく使用できる。なお、本発明にいうヒアルロン酸
は、そのアルカリ金属塩、例えば、ナトリウム、カリウ
ム、リチウムの塩をも包含する概念で使用される。
【0027】本発明に用いられるヒアルロン酸の水溶液
は、ヒアルロン酸の粉末と水を混合し、撹拌して得られ
る。
【0028】本発明では、温和な反応条件でエステル化
することにより、エステル化反応の選択性を向上させて
いる。ヨウ化2−クロロ−1−メチルピリジニウム等の
活性化剤を使用した活性化エステル中間体は反応性が強
いため、ヒアルロン酸を構成する2糖単位の4種類の水
酸基に対する反応の選択性がない。よって、ひずみを持
ったエステル結合まで形成されてしまう。
【0029】温和な反応条件でエステル化することによ
り、エステル化反応以外の副反応を抑制することができ
る。ヒアルロン酸は容易に主鎖切断反応によって低分子
量化する。加水分解による主鎖切断反応は、中性と比較
して酸性やアルカリ性で著しく促進される。ラジカル分
解によって、主鎖切断が著しく促進されることも知られ
ている。加熱によってこれらの反応は更に促進される。
副反応による低分子量化は結果的に架橋効率の低下を引
き起こす。
【0030】本発明では、ヒアルロン酸水溶液を酸性に
調整し、解離しているカルボキシル基を酸型に変換して
架橋ヒアルロン酸を得る。ヒアルロン酸水溶液を酸性に
調製し加熱する方法が、低分子量ヒアルロン酸の調製方
法として開示されている。(特開平1−266102公
報参照)ヒアルロン酸水溶液を酸性で加熱すると、N−
アセチル−D−グルコサミン単位の脱アセチル化反応も
起こることが記載されている。
【0031】分子間エステル化反応による架橋形成と競
争する、酸加水分解による低分子量化を抑制するために
は、反応温度を低くすることが必要になる。架橋形成を
優先させる反応温度としては、室温以下が好ましく、更
に好ましい反応温度は10℃以下である。
【0032】分子間エステル化反応を促進するために
は、ヒアルロン酸濃度を高くする必要がある。脱水縮合
によるエステル化反応が平衡反応であることからも、反
応系中に存在する水の量を減ずるため、ヒアルロン酸濃
度を高くする必要がある。ヒアルロン酸濃度は5質量%
以上が好ましく、更に好ましくは10質量%以上であ
る。
【0033】反応系に脱水縮合反応を触媒する物質を添
加することは、分子間エステル化反応を促進するために
重要である。脱水縮合反応を促進する触媒としては、酸
性触媒が一般的であり、硫酸、塩酸や芳香族スルホン酸
誘導体等が使用できる。
【0034】架橋度は、反応温度、ヒアルロン酸濃度、
添加する脱水縮合触媒の種類及び量と共に、反応時間で
制御できる。
【0035】得られた架橋ヒアルロン酸は、ヒアルロン
酸の酸加水分解を避けるために、酸性に調整するために
用いた酸等の成分を除く必要がある。酸等の成分を除く
ためには、通常は水性溶媒による洗浄もしくは透析を行
う。架橋ヒアルロン酸の機能を損なわないものであれば
特に制限はないが、例えば、水、生理食塩水、リン酸緩
衝液等が用いられるが、好ましくは、生理食塩水、リン
酸緩衝液等が用いられる。
【0036】洗浄された架橋ヒアルロン酸に酸型のカル
ボキシル基が残っている場合には、ヒアルロン酸の酸加
水分解を避けるために、ナトリウム型等に塩化する必要
がある。水酸化ナトリウム水溶液で架橋ヒアルロン酸水
溶液のpHを7に調製するか、架橋ヒアルロン酸を生理
的食塩水やリン酸緩衝生理的食塩水に浸漬することで塩
化することができる。
【0037】この洗浄、塩化された架橋ヒアルロン酸
は、その使用目的に応じて、溶液状、溶媒中に浸漬した
状態、溶媒を含ませた湿潤状態、風乾、減圧乾燥あるい
は凍結乾燥等の処理を経た乾燥状態で医用材料として供
される。
【0038】医用材料として用いるためには、生体適合
性が高いことが必須であり、一般的に細胞毒性がないこ
とを証明する必要がある。本発明の架橋ヒアルロン酸
は、これらの条件を十分に満たすものであり、生体分解
性医用材料としてまたヒアルロン酸が用いられる分野で
あれば特に制限なく使用することができる。例えば、癒
着防止材、関節注入剤、軟質組織注入剤、代用硝子体、
化粧料、診断・治療に用いる医療器具・医療用具等の生
物医学的製品又は医薬組成物への使用が挙げられる。
【0039】架橋ヒアルロン酸及びその成形加工品は、
単一形態での使用は当然ながら、異なる架橋ヒアルロン
酸の形態との混合又は併用、更にヒアルロン酸溶液との
混合又は併用による組合せ処方により効果の増強が期待
できる。
【0040】医用材料として用いるために、ヒアルロン
酸と同様に生体適合性に優れる材料、例えば、コンドロ
イチン硫酸、カルボキシメチルセルロース等を架橋ヒア
ルロン酸に添加することができる。これらの材料を架橋
ヒアルロン酸を形成させる反応中で、混合、複合化する
こともできるものであり、何ら制限されないものであ
る。また、架橋ヒアルロン酸に、薬学的又は生理学的に
活性な物質を添加して、これらを含有する架橋ヒアルロ
ン酸を調製させることもできるものであり、何ら制限さ
れないものである。
【0041】
【実施例】以下、実施例により本発明を更に詳しく説明
する。なお、本発明はこれにより限定されるものではな
い。
【0042】実施例1 分子量が2.8×104 ダルトンのヒアルロン酸ナトリ
ウムを蒸留水に溶解し、6.0質量%のヒアルロン酸の
水溶液を調整した。調整されたヒアルロン酸の水溶液の
pHは、6.0であった。この水溶液のpHを、1N塩
酸でpH1.2に調整した。ヒアルロン酸の酸性水溶液
50mlを−20℃に設定した冷凍庫に入れた。150
日間凍結した後、25℃で解凍した。その結果、架橋ヒ
アルロン酸が得られた。架橋ヒアルロン酸の酸性水溶液
を0.2NのNaOH水溶液でpH7.0に中和した。
中和したヒアルロン酸水溶液を凍結乾燥し、架橋ヒアル
ロン酸を回収した。分子量は8.7×104であった。
【0043】実施例2 分子量が2.0×106ダルトンのヒアルロン酸ナトリ
ウムを蒸留水に溶解し、1.0質量%のヒアルロン酸の
水溶液を調整した。調整されたヒアルロン酸の水溶液の
pHは、6.0であった。この水溶液のpHを、1N硝
酸でpH1.5に調整した。ヒアルロン酸の酸性水溶液
50mlを凍結乾燥した。得られた乾燥体を冷蔵庫に一
晩放置した。溶媒に不溶化した架橋ヒアルロン酸が得ら
れていた。得られた架橋ヒアルロン酸を蒸留水で水洗
し、続いて生理的食塩水に50mM濃度でリン酸緩衝成
分を加えてpH7に調整したリン酸緩衝生理的食塩水に
浸漬、洗浄し、続いて蒸留水で洗浄した。乾燥して架橋
ヒアルロン酸を回収した。
【0044】実施例3 実施例1で得られた架橋ヒアルロン酸と原料として使用
したヒアルロン酸ナトリウムのH1−NMRとC13−N
MRを測定した。NMRの測定は日本電子社製JNMα
−500を使用して行った。測定溶媒は0.15MのN
aClと20mMのリン酸緩衝成分(pD=6.5)を
溶解した重水を使用した。
【0045】架橋ヒアルロン酸のH1−NMRとC13−
NMRのスペクトルは、原料として使用したヒアルロン
酸ナトリウムのスペクトルと完全に一致した。すなわち
架橋ヒアルロン酸の架橋点の構造と架橋ヒアルロン酸を
調製する反応中の副反応に起因する構造変化は検出され
ていない。ヒアルロン酸を対象とするNMR測定の検出
感度は、ヒアルロン酸の2糖構造単位に対して約1モル
%である。架橋ヒアルロン酸に存在する微量の架橋点の
構造を検出するため、架橋点を濃縮する必要がある。
【0046】実施例4 架橋ヒアルロン酸の酵素分解 実施例1で得られた架橋ヒアルロン酸2.0gを0.1
M酢酸緩衝液(pH5.0、NaCl0.15M)40
mlに溶解した。この溶液を無菌的に0.2μmのメン
ブランフィルターでろ過した。ヒアルロニダーゼ(シグ
マ、タイプ5、約3000単位/mg)80mgを0.
1M酢酸緩衝液に溶解し、無菌的に加えた。40℃で4
0時間攪拌後、冷却し、酵素分解物溶液を得た。
【0047】比較例1 ヒアルロン酸の酵素分解 分子量が2.8×104 ダルトンのヒアルロン酸ナトリ
ウムを0.2gを0.1M酢酸緩衝液(pH5.0、N
aCl0.15M)4mlに溶解した。この溶液を無菌
的に0.2μmのメンブランフィルターでろ過した。ヒ
アルロニダーゼ(シグマ、タイプ5、約3000単位/
mg)8mgを0.1M酢酸緩衝液に溶解し、無菌的に
加えた。40℃で40時間攪拌後、冷却し、酵素分解物
溶液を得た。
【0048】実施例5 架橋ヒアルロン酸の加水分解 実施例1で得られた架橋ヒアルロン酸25mgを0.1
M酢酸緩衝液(pH5.0、NaCl0.15M)0.
5mlに溶解した。この溶液に酵素を添加せず、40℃
で40時間放置し、冷却した。この溶液中の架橋ヒアル
ロン酸の分子量は8.4×104であった。すなわち、
架橋ヒアルロン酸の加水分解は、実施例4の酵素分解条
件下ではほとんど起こらないことがわかる。
【0049】実施例6 酵素分解物の分子サイズ測定 実施例4と比較例1で得られた酵素分解物の分子サイズ
は、GPCを使って測定した。GPCカラムとして昭和
電工社製SB802.5HQを1本使用し、示差屈折率
検出器として日本分光社製830−RIを使用して、溶
媒硝酸ナトリウムの0.2M水溶液、測定温度40℃、
流速0.6ml/分で測定した。測定結果を図1に示
す。
【0050】図1の結果から、ヒアルロン酸の酵素分解
物では6糖、4糖、2糖単位のオリゴ糖の混合物が生成
しているのに対して、架橋ヒアルロン酸の酵素分解物で
は6糖単位よりも分子サイズの大きいオリゴ糖が存在し
ていることがわかる。架橋ヒアルロン酸の架橋点の立体
的構造は、直鎖構造を有するヒアルロン酸の立体的構造
と異なるため、ヒアルロニダーゼによる分解が6糖単位
以下の分子サイズまで進行しない。
【0051】実施例7 架橋ヒアルロン酸由来の分子サイズの大きいオリゴ糖の
精製 実施例4で得られた酵素分解物溶液を0.2μmメンブ
ランフィルターで濾過した。この溶液約40mlに、塩
化ナトリウム1.2gを加え、更にエタノール約150
mlを攪拌下で滴下した。得られた析出物をろ別し、硝
酸ナトリウムの0.2M水溶液30mlに溶解した。不
溶化したヒアルロニダーゼをろ別し、溶液を回収した。
GPCカラムとして昭和電工社製SB2002.5HQ
を1本使用し、日本分析工業社製LC−908を使用し
て、溶媒硝酸ナトリウムの0.5M水溶液、室温、流速
2.0ml/分、サンプル注入量1mlで分取精製し
た。分取GPCクロマトグラムを図2に示す。19.0
〜20.5分を分子サイズの大きいオリゴ糖として分取
した。分取溶液は0.2μmメンブランフィルターでろ
過した。分取溶液に対して、5倍容積のエタノールを加
えて、分子サイズの大きいオリゴ糖を析出させた。析出
物を重水に溶解し、凍結乾燥して回収した。
【0052】比較例2 ヒアルロン酸オリゴ糖の精製 実施例7で分取GPCクロマトグラムの23.0〜2
3.5分をヒアルロン酸オリゴ糖として分取した。分取
溶液は0.2μmメンブランフィルターでろ過した。分
取溶液に対して、5倍容積のエタノールを加えて、ヒア
ルロン酸オリゴ糖を析出させた。析出物を重水に溶解
し、凍結乾燥して回収した。
【0053】実施例8 架橋点成分のNMR測定 実施例7で回収した分子サイズの大きいオリゴ糖と比較
例2で回収したヒアルロン酸オリゴ糖を、実施例2で使
用した溶媒に溶解してNMRの測定を行った。化学シフ
トはTSPを基準物質とした。測定結果を図3及び図4
に示す。すなわち、分子サイズの大きいオリゴ糖のC13
−NMRスペクトルを図3に、ヒアルロン酸オリゴ糖の
C13−NMRスペクトルを図4に示した。
【0054】図3と図4のC13−NMRスペクトルの結
果から、分子サイズの大きいオリゴ糖ではヒアルロン酸
オリゴ糖に見られない小強度のピークが多数存在してい
る。ここで主ピークから大きくシフトしているピークは
171ppmと67ppmのピークである。この両者の
ピークは、ヒアルロン酸のD−グルクロン酸単位のカル
ボキシル基とN−アセチル−D−グルコサミン単位の1
級水酸基間のエステル結合の形成により主ピークからシ
フトし、それぞれエステル結合したD−グルクロン酸単
位のC−6とN−アセチル−D−グルコサミン単位のC
−6に帰属される。171ppmと67ppm以外の小
強度のピークは、エステル結合の導入に伴う遠隔効果に
より主ピークから分離したピークである。すなわち、本
発明の架橋ヒアルロン酸はヒアルロン酸のD−グルクロ
ン酸単位のカルボキシル基とN−アセチル−D−グルコ
サミン単位の1級水酸基間の選択的なエステル結合の形
成により架橋していることがわかる。図4のC13−NM
Rスペクトルの結果は、Carbohydr. Res. Vol245,p113-
128,1993記載のヒアルロン酸オリゴ糖のC13−NMRス
ペクトルと一致している。
【0055】実施例9 実施例2で得られた架橋ヒアルロン酸を実施例2記載の
リン酸緩衝生理的食塩水に入れ、室温で2日間放置し、
十分膨潤させた。膨潤した架橋ヒアルロン酸を蒸留水で
洗浄し、実施例4記載の溶媒50mlに膨潤させた。ア
ジ化ナトリウムを10mg加えた。実施例4記載のヒア
ルロニダーゼ30mgを加え、40℃で40時間攪拌
後、冷却し、酵素分解物溶液を得た。この溶液から実施
例7と同じ方法で分子サイズの大きいオリゴ糖を回収
し、実施例8と同様にC13−NMRを測定した。図3と
同じパターンのスペクトルが得られた。すなわち、実施
例2で得られた架橋ヒアルロン酸もヒアルロン酸のD−
グルクロン酸単位のカルボキシル基とD−N−アセチル
グルコサミン単位の1級水酸基間の選択的なエステル結
合の形成により架橋していることがわかる。
【0056】
【発明の効果】以上、本発明によって得られた架橋ヒア
ルロン酸は、ヒアルロン酸の分子構造の改変に起因する
生体適合性への悪影響が避けられ、実用可能な安定性と
品質管理上の優位性を有するため、生体適合性材料分野
に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例4記載の架橋ヒアルロン酸の酵素分解物
と比較例1記載のヒアルロン酸の酵素分解物のGPCク
ロマトグラムである。
【図2】実施例4記載の架橋ヒアルロン酸の酵素分解物
の分取GPCクロマトグラムである。
【図3】実施例7で回収した分子サイズの大きいオリゴ
糖のC13−NMRスペクトルである。
【図4】比較例2で回収したヒアルロン酸オリゴ糖のC
13−NMRスペクトルである。
【符号の説明】
1 実施例4記載の架橋ヒアルロン酸の酵素分解物のG
PCクロマトグラム 2 比較例1記載のヒアルロン酸の酵素分解物のGPC
クロマトグラム
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4C081 AB05 AB11 AB22 BA03 BA12 BA13 BA16 BB01 BB05 BB06 BB07 CC05 CD082 DC03 EA05 EA12 4C090 AA02 BA67 BB05 BB18 BB22 BB53 BB94 BD04 BD10 BD18 BD36 BD37

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒアルロン酸のカルボキシル基が同一の
    ヒアルロン酸分子の水酸基に、及び/又は別のヒアルロ
    ン酸分子の水酸基にエステル結合によって架橋している
    ことを特徴とする架橋ヒアルロン酸。
  2. 【請求項2】 ヒアルロン酸のカルボキシル基が同一の
    ヒアルロン酸分子のN−アセチル−D−グルコサミン単
    位の6位の1級水酸基に、及び/又は別のヒアルロン酸
    分子のN−アセチル−D−グルコサミン単位の6位の1
    級水酸基にエステル結合によって架橋していることを特
    徴とする請求項1記載の架橋ヒアルロン酸。
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