JP2004257534A - 転がり摺動部材およびその製造方法 - Google Patents

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将夫 後藤
Hisashi Harada
久 原田
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Abstract

【課題】白層剥離の発生が効果的に抑制された、長寿命で安価な転がり摺動部材を提供する。
【解決手段】本発明の転がり摺動部材(外輪)1は、表層部2のマトリックス中の炭素濃度を0.3〜0.5重量%の範囲に設定するようにした。また、表層部2中の球状炭化物の量を面積率で3.0〜6.0%の範囲に設定するようにした。さらに、表層部2の表面硬度をHRC56以上に設定するようにした。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、オルタネータ、サイクロ減速機等に用いられる転がり軸受や、トロイダル型無段変速機のディスクやローラのように、大きな振動・衝撃荷重下において、相手部材との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触または両接触を含む接触(以下「転がり摺動」ともいう)をする転がり摺動部材およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
大きな振動・衝撃荷重下で転がり摺動する転がり摺動部材においては、振動・衝撃荷重があまり作用しない転がり摺動部材では殆ど見られない、白層剥離が発生し、短寿命になるという特有の問題がある。
【0003】
かかる白層剥離は、つぎのようにして発生すると考えられている。すなわち、大きな振動・衝撃荷重下で転がり摺動をさせると、転がり摺動面下には振動・衝撃による繰り返し応力が作用することになる。これにより、炭素原子の応力誘起拡散が促進されるとともに、ミクロ的歪みが蓄積して炭素原子の固着が促進される。その結果、転がり摺動面下の大きなせん断応力が作用する部分に炭素原子が凝集することになり、マトリックス(母相)とは異なる組織である、腐食されにくく白く観察される異常組織(白層)が発生する。この白層は、硬くて脆いためにせん断応力が繰り返し作用すると、亀裂が発生し、この亀裂がマトリックスに伝播、進展することにより早期剥離に至る。こうして白層剥離が発生すると考えられている。
【0004】
このような白層剥離を効果的に抑制する手段として、炭素濃度:0.65〜0.90重量%、クロム濃度:2.0〜5.0重量%とした軸受用鋼を用いることが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平5−255809号公報(請求項1)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上記の軸受用鋼は、炭素濃度が低くてクロム濃度が高いので、白層の発生原因である炭素原子の拡散速度が抑制される結果、早期に剥離が生じるのを抑制することができる。ところが、特殊な軸受用鋼であることから、材料コストが高くつくという問題がある。このため、白層剥離を効果的に抑制する新たな技術の開発が嘱望されている。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、白層剥離の発生が効果的に抑制された、長寿命で安価な転がり摺動部材およびその製造方法の提供をその目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の転がり摺動部材は、相手部材との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触または両接触を含む接触をする鋼製の転がり摺動部材であって、前記相手部材との接触面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部のマトリックス中の炭素濃度が0.3〜0.5重量%の範囲に設定され、前記表層部中の球状炭化物の量が面積率で3.0〜6.0%の範囲に設定され、前記表層部の表面硬度がHRC56以上に設定されていることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、表層部のマトリックス中の炭素濃度を低くしており、また球状炭化物を残しているので、大きな振動・衝撃荷重が作用しても、炭素原子の拡散速度を抑制することができる。そのため、炭素原子の凝集に伴う白層の発生が効果的に抑制され、早期に剥離が生じるのを抑制することができる。また、表面硬度がHRC56以上としているので、表面起点剥離などの疲労損傷が発生するのも抑制できる。さらに、表層部のみの改質で済ますことができることから、コスト面で有利である。また、鋼として安価な汎用鋼を用いた場合には、コスト面で一層有利である。よって、大きな振動・衝撃荷重下で使用されても、炭素原子の凝集に起因する白層剥離の発生が効果的に抑制された、長寿命で安価な転がり摺動部材を提供できる。
ここで、表層部のマトリックス中の炭素濃度が0.3重量%未満であると、炭素量が少なすぎて充分な表面硬度を確保できなくなるからであり、逆に0.5重量%を超えると炭素原子が多すぎて白層剥離の発生を効果的に抑制することができなくなるからである。また、表層部中の球状炭化物の量が面積率で3.0%未満であると、球状炭化物が少なすぎて炭素原子の拡散・固着を抑制する作用を発揮せず、白層剥離の発生を効果的に抑制できなくなるからであり、逆に6.0%を超えると、球状炭化物が多すぎてこの球状炭化物を起点とした疲労亀裂が発生しやすくなるなどの不具合が生ずるからである。さらに、表層部の表面硬度がHRC56未満であると、疲労強度が足りず、表面起点剥離などの疲労損傷を発生させるからである。
【0010】
本発明の転がり摺動部材の製造方法は、上記した転がり摺動部材を製造する方法であって、所定形状に形成された高炭素鋼製の中間素材を作製した後、カーボンポテンシャルが0.3〜0.5%に設定された雰囲気中において820〜850℃の温度にて加熱保持する工程を含むことを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、炭素濃度が高い高炭素鋼に対し、カーボンポテンシャル濃度が低い雰囲気中で熱処理を行うので、高炭素鋼の脱炭が行われ、簡単に上記した転がり摺動部材を製造することができる。また、上記の製造方法により得られた転がり摺動部材は、表層部以外の部分の炭素濃度が高いために、転がり摺動部材全体の剛性強度を確保したものになるという利点がある。
ここで、本発明において「高炭素鋼」とは、炭素濃度が0.5重量%を超える炭素鋼のことをいう。
【0012】
【発明の実施の形態】
つぎに、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本発明の転がり摺動部材の一実施形態に係る深溝玉軸受の外輪(JIS−6203)を模式的に示す断面図である。この外輪1は、軸受鋼(高炭素クロム軸受鋼)であるJIS SUJ2を用いて作製したものであり、その相手部材との接触面(転がり摺動面)である軌道面1aには、研磨による超仕上げ加工が施されている。
【0013】
そして、外輪1の軌道面1aから最大せん断応力が作用する深さまでの表層部2は、そのマトリックス中の炭素濃度が0.3〜0.5重量%という低濃度に設定されている。すなわち、表層部2以外の部分は、そのマトリックス中の炭素濃度が0.9〜1.1重量%程度で、素材であるSUJ2と略同様であるが、前記表層部2は、それよりも低く設定されている。白層の発生原因である炭素原子の数を少なくしたことから、炭素原子の凝集に伴う白層の発生が効果的に抑制される。
ここで、表層部2は、図2に示すように、軌道面1aとその相手部材であるボールとの接触部Aが平面上において接触楕円を形成しているが、この接触楕円の短径をDとした場合に、軌道面1aから1.5D程度までの部分である。具体的には、軌道面1aから0.1〜0.5mm程度、好ましくは0.1〜0.2mm程度の深さまでの部分である。なお、表層部2の深さは、主に振動・衝撃荷重や静荷重の大きさ等の力学的条件、外輪1やボールの大きさや形状等の幾何学的条件等に応じて適宜変動するのは勿論である。
【0014】
また、表層部2は、その表層部2内に存在する球状炭化物の量が面積率で3.0〜6.0%の範囲に設定されている。未固溶の球状炭化物は、通常、粒径が0.1〜3.0μm程度であって、炭素原子に比べかなり大きい粒子である。そのため、大きな振動・衝撃荷重下で転がり摺動をさせても、球状炭化物自体が拡散・固着することはない。また、このような球状炭化物は、炭素原子の拡散・固着を抑制する働きをする。よって、球状炭化物は、炭素原子の凝集に伴う白層の発生を防止するのに有利に働くことになるが、球状炭化物が多すぎるとこの球状炭化物を起点とした疲労亀裂が発生しやすくなるなどの理由から、上記した範囲内に設定するのがよい。なお、球状炭化物は、粒径の揃っているものが表層部2中に均一に分散していてもよいが、様々な粒径のものが適度に存在し、それらが表層部2中に均一に分散している方が高振動・高衝撃荷重下で使用される転がり摺動部材として好適である。
【0015】
さらに、表層部2の表面硬度はHRC56以上に設定されている。より好ましくはHRC57〜62である。従来の外輪1の軌道面1aの表面硬度より若干低く設定されているが、HRC56以上であれば、表面起点剥離などの疲労損傷の発生を効果的に抑制することができる。
【0016】
このような外輪は、例えばつぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、図3に示すように、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)からなる環状素材3(図3(a)参照)に旋削加工を施して、軌道面1a、端面1b、内周面1c、外周面1dを所定形状に加工する(図3(b)参照)。ついで、得られた所定形状に加工された中間素材4に対し、熱処理を施す(図3(c)参照)。この熱処理は、カーボンポテンシャル(以下「Cp」ともいう)が低く設定された雰囲気(例えば、Cp:0.3〜0.5重量%)において、820〜850℃で20〜40分間の条件で加熱保持した後、油冷することにより行う(焼入れ処理)。従来はCpが0.8〜0.9%程度の雰囲気下で焼入れ処理を行っていたが、Cpを低くすることで脱炭を行い、高炭素鋼の1種であるSUJ2中の炭素濃度を小さくする。ここで、上記熱処理は、軌道面1aのみから脱炭を行うために、例えば、端面1b、内周面1c、外周面1dを熱伝導性が良好なマスク材で被覆した状態で行う。その後、例えば、160〜250℃の温度にて焼戻し処理を行う。そして、熱処理が完了した中間素材4の軌道面1a、端面1b、内周面1c、外周面1dを、研削等によって所定精度に仕上げる(図3(d)参照)。こうして、目的とする外輪1が得られる。
【0017】
上記のようにして得られた本形態に係る深溝玉軸受の外輪1は、白層が生じる部分である表層部2の炭素濃度、球状炭化物の面積率を特定の範囲に設定したので、大きな振動・衝撃荷重下において使用されても、炭素原子の凝集に起因する白層剥離の発生を効果的に抑制することができる。また、表層部2の表面硬度を高く確保しているので、表面起点剥離などの疲労損傷の発生も抑制することができる。さらに、大量生産されている安価なSUJ2を用い、表層部2の改質のみで済ませていることから、安価なものとなる。
【0018】
ここで、本発明者らが行った確認試験について以下に説明する。まず、SUJ2(組成:炭素1.01重量%、珪素0.24重量%、マンガン0.36重量%、ニッケル0.04重量%、クロム1.46重量%、モリブデン0.01重量%、残部は鉄および不可避不純物)を用いて深溝玉軸受(JIS−6203)の外輪用中間素材を作製した。ついで、この中間素材をCp0.35%の雰囲気中において830℃で30分間の条件で加熱保持した後、80℃に油冷して焼入れ処理を行った。その後、160℃で2時間加熱する焼戻し処理を行い、さらに軌道面、内周面、端面、外周面に研磨等の公知の仕上げ処理、軌道面にはさらに超仕上げ処理を行った。こうして、軌道面から最大せん断応力が作用する深さ0.3mmまでの表層部において、マトリックス中の炭素濃度が0.4重量%、球状炭化物の量が面積率で3.5%、表面硬度がHRC57に設定された外輪(実施例品)を得た。一方、上記外輪用中間素材を用い、常法に従って熱処理(Cp1.0%)した以外は、実施例品と同様にして、深溝玉軸受用の外輪(比較例品、マトリックス中の炭素濃度0.6重量%、球状炭化物面積率5.8%、表面硬度HRC62)を得た。そして、これら実施例および比較例の外輪と、通常の焼入れ焼戻しを行うことで製造した内輪およびボールとを用いて、それぞれ深溝玉軸受を作製した後、静的荷重を加えながら寿命試験機を加振することで寿命試験(動的荷重寿命試験)を行った。その結果、実施例の外輪の方が、比較例の外輪に比べ、白層剥離の発生が効果的に抑制され、長寿命であったことが確認された。
【0019】
なお、上記実施形態では、SUJ2を用いているが、他の高炭素クロム軸受鋼(SUJ3等)、肌焼き鋼(SAE5120、SCr420等)等の軸受用鋼等を用いて実施することができる。素材として炭素濃度が低い鋼を用いた場合は、カーボンポテンシャル(Cp)が高い雰囲気中において加熱保持し浸炭を行うことで表層部を形成することができる。
また、本発明の転がり摺動部材は、深溝玉軸受の外輪に限らず、大きな振動・衝撃荷重下において転がり摺動することにより白層剥離が発生する各種の部品、例えば、オルタネータ、サイクロ減速機等に用いられる転がり軸受の内外輪や転動体、トロイダル型無段変速機のディスクやローラに好適に適用することができる。
【0020】
【発明の効果】
以上のように、本発明の転がり摺動部材によれば、白層剥離の発生が効果的に抑制された、長寿命で安価なものを提供できる。また、本発明の転がり摺動部材の製造方法によれば、簡単に上記した転がり摺動部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の転がり摺動部材の一実施形態に係る深溝玉軸受の外輪を示す断面図である。
【図2】外輪と転動体としてのボールとの接触部における接触楕円を示す図である。
【図3】本発明の転がり摺動部材の製造方法の一実施形態を説明するための工程図である。
【符号の説明】
1 外輪(転がり摺動部材)
1a 軌道面(相手部材との接触面)
2 表層部

Claims (2)

  1. 相手部材との間で相対的に転がり接触若しくは滑り接触または両接触を含む接触をする鋼製の転がり摺動部材であって、
    前記相手部材との接触面から最大せん断応力が作用する深さまでの表層部のマトリックス中の炭素濃度が0.3〜0.5重量%の範囲に設定され、
    前記表層部中の球状炭化物の量が面積率で3.0〜6.0%の範囲に設定され、
    前記表層部の表面硬度がHRC56以上に設定されていることを特徴とする転がり摺動部材。
  2. 請求項1に記載された転がり摺動部材を製造する方法であって、所定形状に形成された高炭素鋼製の中間素材を作製した後、カーボンポテンシャルが0.3〜0.5%に設定された雰囲気中において820〜850℃の温度にて加熱保持する工程を含むことを特徴とする転がり摺動部材の製造方法。
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