JP2004307699A - 親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法 - Google Patents

親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法 Download PDF

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正勝 浦入
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茂 片山
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美華 堀池
Atsushi Hino
敦司 日野
Kazuyuki Hirao
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Abstract

【課題】マスクなしで、しかも低コストで容易に親水化された親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】親水性基含有樹脂構造体は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基が導入されている。レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材は、樹脂シート又はフィルムであってもよい。親水性基が、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基およびメルカプト基から選択された少なくとも1種の親水性基が好ましい。
親水性基含有樹脂構造体の製造方法は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基を導入して、親水性基含有樹脂構造体を製造する。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法に関し、更に詳細には、レーザー加工による表面の改質により、各種機能性が付与された親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
従来、疎水性のフィルムを親水性に改質する試みが多くなされている。例えばフッ素系樹脂を金属ナトリウムとナフタレンとの錯体で処理する方法、界面活性剤を塗布する方法、あるいは水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなど)を多孔体の細孔内に合浸させ、前記水溶性高分子に、熱処理、アセタール化処理、エステル化処理、重クロム酸処理、電離性放射線照射処理などの各種処理を施すことにより、多孔体を親水化する方法(特許文献1参照)が知られている。また、フッ素系樹脂に、ArFレーザーを照射して親水化することにより表面改質する方法(特許文献2参照)、無機ケイ素存在下で、エキシマレーザーを照射する方法(特許文献3参照)なども知られている。さらにまた、ポリプロピレンやポリエチレンに関しては、重クロム酸カリウムと硫酸の混酸で処理する方法が知られている。
【0003】
【特許文献1】
特開昭56−63772号公報
【特許文献2】
特開平2−196834号公報
【特許文献3】
特開平6−172560号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、例えば、前記界面活性剤を塗布する方法は、界面活性剤が樹脂に十分付着しないため脱落しやすく、親水性が保持されにくいという問題があった。また、水溶性高分子を多孔体の細孔内に合浸させて各種処理を施すことにより親水化する方法では、放射線照射により多孔体の分解劣化を生じ、機械的強度が著しく低下するという問題があり、さらに、熱処理、アセタール化処理、エステル化処理などの処理では、水溶性ポリマーが部分的に疎水化されるので、親水度合が低下するという問題があった。また、フッ素系樹脂に、ArFレーザーを照射して親水化する方法は、表面層の改質であり、多孔体の内部に至る全体の親水化は不十分であった。さらにまた、無機ケイ素存在下で、エキシマレーザーを照射する方法は、装置が高価なためコスト高になるという問題があった。
【0005】
従って、本発明の課題は、マスクなしで、しかも低コストで容易に親水化された親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、基材本来の機械的強度を保持しつつ、基材の任意の部位に目的とする親水性基が導入され、各種機能性が付与された親水性基含有樹脂構造体及びその製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、親水性基を有していないプラスチックフィルムに、パルス幅が10−9秒以下で且つ波長が可視光領域の超短パルスのレーザーを照射すると、多光子吸収が生じることにより、前記プラスチックフィルムに親水性基を導入することができることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基が導入されている親水性基含有樹脂構造体を提供する。
【0008】
前記レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材は、樹脂シート又はフィルムであることが好ましい。また、親水性基は、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基およびメルカプト基から選択された少なくとも1種の親水性基が好適である。さらにまた、レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材としては、素材として、ハロゲン原子含有樹脂を含有していることが好ましく、特に前記ハロゲン原子含有樹脂が、フッ素系樹脂であることが好適である。
【0009】
レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材は、多孔質基材であってもよく、該多孔質基材の表面部及び/又は孔表面部における樹脂成分に、親水性基が導入されていてもよい。
【0010】
多光子吸収過程を利用したレーザー加工としては、パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーを用いたレーザー加工であってもよく、該パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーとしては、紫外線波長領域〜近赤外線波長領域の波長を有する超短パルスのレーザーであってもよい。このようなパルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーは、多光束干渉で照射することができる。
【0011】
また、本発明は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基を導入して、親水性基含有樹脂構造体を製造する親水性基含有樹脂構造体の製造方法を提供する。このような製造方法では、親水性基導入促進剤の存在下、レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材に、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を施すことができ、該親水性基導入促進剤が、金属系化合物、有機酸、非金属系無機酸、およびガス成分から選択された少なくとも1種の化合物を用いることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、必要に応じて図面を参照しつつ説明する。なお、同一の部位又は部材には同一の符号を付している場合がある。
(被加工樹脂基材)
本発明の親水性基含有樹脂構造体は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基が導入されている。レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材(単に「被加工樹脂基材」と称する場合がある)としては、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により親水性基を導入することが可能な樹脂基材であれば特に制限されず、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などの各種樹脂からなる樹脂組成物により構成された樹脂基材から適宜選択して用いることができる。なお、被加工樹脂基材としては、共重合体を含めた単一化学構造のポリマー材料からなるものだけでなく、異なる化学構造を有する複数のポリマー材料からなるポリマーアロイやポリマーブレンドも用いることができる。また、被加工樹脂基材としては、無機化合物や金属などの他の材料を分散状態で含んだ複合体であってもよく、異なるプラスチックや他の材料からなる層を含んだ2以上の層構造からなる積層体であってもよい。
【0013】
被加工樹脂基材は、疎水性、親水性のいずれの特性を有していてもよい。被加工樹脂基材が疎水性を有している場合、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基が導入され、一方、被加工樹脂基材が親水性を有している場合、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、同一又は異なる親水性基がさらに導入され、これにより、各種機能性が付与された親水性基含有樹脂構造体が得られる。
【0014】
被加工樹脂基材の素材としての樹脂(熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂など)としては、例えば、ポリスルホン(ポリサルホン)、ポリアミド、ポリイミド(PI)、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体など)、ハロゲン原子含有樹脂[ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリヘキサフルオロアセトン等のフッ素系樹脂など]などが挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、例えば、メタクリレート系樹脂[ポリメチルメタクリレート(PMMA)など]、スチレン系樹脂[ポリスチレン、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)など]、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール、ポリアリーレンエーテル(ポリフェニレンエーテルなど)、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアリール、ポリエーテルスルホン(PES)(ポリエーテルサルホン)、ポリウレタン類、ポリエステル系樹脂[ポリエチレンテレフタレート(PET)など]、ポリエーテルケトン類(ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンなど)、ポリアクリル酸エステル類(ポリアクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エチルなど)、ポリビニルエステル類(ポリブトオキシメチレンなど)、ポリシロキサン類、ポリサルファイド類、ポリフォスファゼン類、ポリトリアジン類、ポリカーボラン類、ポリノルボルネン、エポキシ系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリジエン類(ポリイソプレン、ポリブタジエンなど)、ポリアルケン類(ポリイソブチレンなど)などの各種樹脂も適宜用いることができる。このような樹脂は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0015】
被加工樹脂基材を構成する樹脂としては、親水性基含有樹脂構造体の用途等などに応じて適宜選択することができ、例えば、フィルター(例えば、濾過用フィルターなど)、セパレータ(隔膜)膜等の用途では、樹脂としては、化学安定性等を考慮すると、ハロゲン原子含有樹脂またはオレフィン系樹脂を好適に用いることができ、なかでもハロゲン原子含有樹脂(特に、フッ素系樹脂などのフッ素原子含有樹脂)が好適である。このように、本発明では、被加工樹脂基材は、素材として、ハロゲン原子含有樹脂(中でもフッ素原子含有樹脂、特にフッ素系樹脂)を含有していることが望ましい。
【0016】
また、被加工樹脂基材は、シート状又はフィルム状の形態を有していてもよい。すなわち、被加工樹脂基材は、樹脂シート又はフィルムであってもよい。
【0017】
さらにまた、被加工樹脂基材は、多孔質性を有していてもよい。被加工樹脂基材が多孔質であると、基材の表面部の樹脂成分のみならず、孔表面部(基材内部の孔組織表面部)における樹脂成分にも、親水性を導入することができる。なお、被加工樹脂基材が、多孔質で且つフィルム状の形態を有している場合(すなわち、多孔質樹脂フィルムである場合)、その製造方法は、特に制限されない。例えば、被加工樹脂基材がPTFEフィルムである場合、特公昭58−25332号公報、特公昭51−18991号公報、特公昭42−13560号公報等に記載された延伸法、あるいは特公昭42−4974号公報に記載された起泡剤を用いる方法等の公知乃至慣用の製造方法により得ることができる。
【0018】
被加工樹脂基材としては、その厚みは特に制限されず、親水性基含有樹脂構造体の用途等に応じて適宜選択することができ、例えば、0.1μm以上(例えば、0.1μm〜10mm)であってもよい。すなわち、親水性基含有樹脂構造体は、前述のように、樹脂シート又はフィルムであってもよく、樹脂板であってもよい。なお、被加工樹脂基材が樹脂フィルムである場合、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基含有樹脂が得られる。本発明では、被加工樹脂基材が樹脂フィルムであっても(すなわち、その厚みが薄くても)、優れた精度でレーザー加工を行うことができる。被加工樹脂基材が樹脂フィルムである場合、その厚みは、例えば、0.1〜500μm(好ましくは1〜300μm、さらに好ましくは10〜150μm)であってもよい。
【0019】
なお、被加工樹脂基材が多孔質である場合、孔の大きさや形状などは特に制限されないが、孔径(平均孔径)としては、例えば、0.01〜5μm(特に0.05〜3μm)程度の範囲から選択することができる。前記孔径は、被加工樹脂基材の表面における孔径の平均値として求めることができる。また、孔の形状(例えば、被加工樹脂基材の表面における孔の形状)は特に制限されず、定形性、不定形性のいずれであってもよい。なお、孔としては、独立孔、連続孔のいずれであってもよいが、表面から内部又は他の表面に達する連続孔であることが望ましい。
【0020】
(親水性基含有樹脂構造体)
被加工樹脂基材に、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を施すことにより、親水性基が導入された親水性基導入部(光改質部)を有する親水性基含有樹脂構造体が得られる。レーザー加工により導入される親水性基としては、親水性を有する基であれば特に制限されないが、例えば、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基、メルカプト基、スルホ基、ヒドロキシ−チオカルボニル基、メルカプト−カルボニル基などが挙げられる。親水性基は、1種のみが導入されていてもよく、2種以上が組み合わされて導入されていてもよい。好ましい親水性基としては、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基およびメルカプト基から選択された少なくとも1種の親水性基であり、特にヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基が好適である。
【0021】
導入される親水性基は、例えば、FT−IR(フーリエ変換型赤外吸収スペクトル測定方法)を利用して、検知することができる。具体的には、例えば、親水性基含有樹脂構造体の表面に導入されている親水性基がヒドロキシル基(OH基)である場合、3400〜3500cm−1付近に、赤外吸収スペクトルの吸収ピークが観測される。また、親水性基含有樹脂構造体の表面に導入されている親水性基がカルボキシル基(COOH基)である場合、1700cm−1付近に、赤外吸収スペクトルの吸収ピークが観測される。もちろん、導入される親水性基の検知方法は、FT−IR以外の方法[例えば、核磁気共鳴スペクトル法(NMR)、X線光電子分光法(XPS)など]を利用してもよい。
【0022】
親水性基の導入割合としては、特に制限されず、親水性基含有樹脂構造体の用途等に応じて適宜選択することができ、この導入割合により、親水性の程度をコントロールすることができる。
【0023】
本発明では、親水性基の種類やその導入割合により、親水性基含有樹脂構造体に付与する機能性を制御することができる。
【0024】
被加工樹脂基材において、親水性基を導入する部位としては、特に制限されないが、通常、被加工樹脂基材の表面部(外気と接触可能な面の部位)である。すなわち、親水性基は、被加工樹脂基材の表面部における樹脂成分に導入される。なお、内部における樹脂成分にも親水性基を導入することは可能である。被加工樹脂基材が、例えば、多孔質である場合、親水性基は、該多孔質基材の表面部及び/又は孔表面部における樹脂成分に好適に導入することができる。
【0025】
このような被加工樹脂基材の表面部や、被加工樹脂基材が多孔質である場合の孔表面部としては、例えば、表面から内部に約10μm以内(例えば、0.001〜10μm)の深さまでの部位であってもよく、好ましくは表面から内部に0.01〜5μm(特に、0.1〜3μm)の深さまでの部位である。
【0026】
なお、親水性基含有樹脂構造体の形状としては、特に制限されず、シート状やフィルム状であってもよく、板状や棒状などであってもよい。また、親水性基含有樹脂構造体は、そのまま部材(例えば、フィルム部材など)として用いてもよく、他の部材と組み合わせて用いてもよい。親水性基含有樹脂構造体には、任意の加工や処理を施すことができ、例えば、延伸や収縮などの加工処理や、さらに必要に応じて後処理を行うこともできる。
【0027】
(多光子吸収過程を利用したレーザー加工)
本発明の親水性基含有樹脂構造体は、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を用いることにより製造される。多光子吸収過程を利用することにより、使用するレーザー光の波長が、被加工樹脂基材の素材(ポリマー成分)による吸収波長よりも長くても、前記被加工樹脂基材に親水性基を導入するレーザー加工を行うことができる。すなわち、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、効率よく、しかも優れた精度で親水性基を導入することができる。特に、多孔質の被加工樹脂基材については、その内部まで光が透過するために、さらに高い効率で、親水性基を導入することができる。
【0028】
なお、多光子吸収過程を利用したレーザー加工とは、高密度の光子が存在する場合に、複数の光子が物質に同時に吸収され、本来、その1光子のエネルギーでは生じ得なかった現象を利用する加工を意味している。また、非線形現象を利用した加工であるので、光を用いているにもかかわらず、照射波長の回折限界を超える加工も可能である。
【0029】
具体的には、被加工樹脂基材が、例えば、改質が困難な多孔質のフッ素系樹脂フィルムである場合、多孔質のフッ素系樹脂フィルムの炭素−フッ素結合(C−F結合;結合エネルギー539kJ/mol)は、可視光波長領域の光では、1光子で切断することができないが、多光子吸収過程を利用することにより、前記C−F結合(結合エネルギー539kJ/mol)を切断できるようになる。この際、フッ素原子との結合エネルギーが、C−F結合の結合エネルギー(539kJ/mol)よりも大きく、遊離したフッ素原子を捕捉する(トラップする)ことが可能な原子(「トラップ原子」と称する場合がある)を、系内に存在させることにより、切断により遊離されたフッ素原子を前記トラップ原子と結合させてトラップさせることにより、炭素原子とフッ素原子との間の再結合を阻むことができる。C−F結合のフッ素原子に対して用いられるトラップ原子としては、フッ素原子の電気陰性度は4.0であり、炭素原子の電気陰性度は2.5であり、フッ素原子の電気陰性度の方が大きいので、炭素原子(電気陰性度:2.5)より小さな電気陰性度を有する原子を用いることができる。また、該トラップ原子とフッ素原子との結合の結合エネルギーは、C−F結合の結合エネルギーより高いので、トラップ原子とフッ素原子との結合は再切断されにくい。従って、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、改質が困難なフッ素系樹脂フィルム(特に、多孔質のフッ素系樹脂フィルム)であっても、フッ素原子の一部を親水性基に置換することができるようになる。なお、このような多光子吸収過程を利用したレーザー加工による原理は、フッ素系樹脂フィルム以外の他の樹脂基材に対しても同様に適用することができる。
【0030】
本発明では、多光子吸収過程を利用したレーザー加工において用いられるレーザーとしては、集光されたレーザーを好適に用いることができる。集光されたレーザーを用いることにより、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を容易に行うことができるようになる。例えば、集光されたレーザーを、被加工樹脂基材の外部から照射することにより、被加工樹脂基材の集光されたレーザーが照射された照射部及びその周辺部の樹脂成分に、親水性基を導入させることができる。具体的には、例えば、照射するレーザーの波長を800nmとすると、集光していないレーザーを照射した際には、被加工樹脂基材には何の変化も生じない場合であっても、集光されたレーザーを照射することにより、多光子の吸収(例えば、2光子の吸収、3光子の吸収、4光子の吸収、5光子の吸収など)が生じて、被加工樹脂基材の表面部を構成する樹脂成分に、親水性基を導入することが可能となる。この際、レーザー光の強度やその集光の程度を適宜調整することにより、多光子吸収過程を制御することができる。なお、多光子吸収の起こる確率は、光の強度に比例して増加し、また、強度が強くなる程、多光子の吸収が起こりやすくなる。
【0031】
なお、レーザーを集光させる方法としては、特に制限されず、例えば、集光レンズを用いる方法を好適に採用することができる。このような集光レンズとしては、特に制限されず、被加工樹脂基材の材質、導入する親水性基の種類、下記に示される親水性基導入促進剤の種類、目的とする親水性基導入部(光改質部)の大きさなどに応じて適宜選択することができる。
【0032】
このような多光子吸収過程を利用したレーザー加工方法としては、レーザーを照射して加工する際に、多光子吸収過程を利用して加工する方法であれば特に制限されず、例えば、パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザー(「超短パルスレーザー」又は「レーザー」と称する場合がある)を用いたレーザー加工方法を好適に採用することができる。このような超短パルスレーザーとしては、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10−9秒以下のパルスレーザー、エキシマレーザーやYAGレーザー(Nd−YAGレーザー等)の倍波によるパルス幅が10−9秒以下のパルスレーザーなどを用いることができ、特に、チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10−12秒〜10−15秒のフェムト秒のオーダーのパルスレーザー(フェムト秒パルスレーザー)を好適に用いることができる。もちろん、超短パルスレーザーにおけるパルス幅は、10−9秒以下であれば特に制限されず、例えば、10−9秒から10−12秒のピコ秒オーダーや、10−12秒から10−15秒のフェムト秒のオーダー(好ましくは10−12秒から10−15秒のフェムト秒のオーダー)であり、なかでも10×10−15秒〜500×10−15秒(特に50×10−15秒〜300×10−15秒)が好ましい。超短パルスレーザーとしては、パルス幅が小さいものほど、容易に高い光強度が得られる点で好ましい。
【0033】
このようなチタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10−9秒以下のパルスレーザーや、エキシマレーザーやYAGレーザー(Nd−YAGレーザー等)の倍波によるパルス幅が10−9秒以下のパルスレーザーなどの超短パルスレーザー(特に、パルス幅が1×10−12秒〜1×10−15秒である超短パルスレーザー)を用いると、パルスエネルギーが高いので、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を行うことができ、その尖塔のパワーにより波長より狭い幅の微細加工を行うことができるようになる。従って、超短パルスレーザー(特に、パルス幅が1×10−12秒〜1×10−15秒である超短パルスレーザー)を用いて多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、より一層微細な親水性基導入部(光改質部;レーザー加工により親水性基が導入されて改質された部位)を形成することも可能となる。
【0034】
超短パルスレーザーの波長は、特に制限されず、多光子吸収過程を利用しているので、被加工樹脂基材の樹脂成分の吸収波長(吸収のピーク波長又はその領域)よりも長い波長であってもよく、被加工樹脂基材の樹脂成分の種類又はその吸収波長[吸収のピーク波長(特に、吸収のメインピーク波長)又はその領域]に応じて適宜選択することができる。具体的には、超短パルスレーザーの波長としては、例えば、紫外線領域〜近赤外線領域の領域内の波長であってもよく、従って、200nmから1000nmの範囲内から適宜選択することができる。超短パルスレーザーの好ましい波長としては、可視光波長領域又は該波長領域よりも長い波長領域(可視光波長領域〜近赤外波長領域)が挙げられる。すなわち、超短パルスレーザーの波長としては、400nmから1000nmが好ましい。
【0035】
なお、超短パルスレーザーの波長としては、被加工樹脂基材の樹脂成分(特に、被加工樹脂基材の表面を構成する樹脂成分)の吸収波長(吸収のピーク波長)の倍波(2倍波、3倍波など)となる波長であることが好ましい。
【0036】
また、超短パルスレーザーとして、可視光波長領域又は該波長領域よりも長い波長領域のレーザー光を用いると、被加工樹脂基材が透明樹脂基材である場合、その内部や、照射裏面(照射側の面に対して反対側に位置する面)に対する加工が可能になる。
【0037】
超短パルスレーザーの繰り返しとしては、1Hzから100MHzの範囲で、通常は10Hzから500kHz程度である。
【0038】
被加工樹脂基材に対して、内部における単位体積当たりに照射されるエネルギーは、超短パルスレーザーの照射エネルギー、被加工樹脂基材に照射する際に用いられる対物レンズの開口数(光源の絞り込み)、被加工樹脂基材への照射位置又は焦点の深さ、レーザーの焦点の移動速度などに応じて適宜決めることができる。
【0039】
本発明では、超短パルスレーザーの平均出力又は照射エネルギーとしては、特に制限されず、適宜選択することができ、例えば、10000mW以下(例えば、1〜1000mW)、好ましくは5〜500mW、さらに好ましくは10〜300mW程度の範囲から選択することができる。
【0040】
また、超短パルスレーザーの照射スポット径としては、特に制限されず、適宜選択することができ、例えば、0.1〜10μm程度の範囲から選択することができる。
【0041】
なお、レーザーの光線の焦点を絞って合わせるためにレンズを用いることができる。すなわち、レーザーの焦点を絞って合わせる必要が無い場合は、レンズを用いる必要はない。このようなレンズの開口数(NA)は、特に制限されず、対物レンズの倍率に応じて変更することができ、通常は、倍率としては2.5〜100倍、開口数としては0.05〜0.95程度の範囲から選択される。
【0042】
(親水性基導入促進剤)
多光子吸収過程を利用したレーザー加工に際しては、被加工樹脂基材への親水性基の導入の反応性を促進させることが可能な親水性基導入促進剤(親水性化補助剤または親水性化補助化合物)を用いることができる。該親水性基導入促進剤を用いることにより、被加工樹脂基材への親水性基の導入を容易に行うことができ、しかも、その親水性基の導入割合も制御することができる場合もある。このように、本発明では、親水性基導入促進剤の存在下、被加工樹脂基材に、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を施すことにより、効率よく親水性基含有樹脂構造体を製造することができる。なお、親水性基導入促進剤は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0043】
親水性基導入促進剤としては、被加工樹脂基材中の基や原子を遊離させた際に、この遊離された基や原子を捕捉する(トラップする)ことが可能な原子(トラップ原子)を有する化合物を好適に用いることができる。このようなトラップ原子において、例えば、炭素と結合している原子に対して用いられるトラップ原子(特に、炭素−フッ素結合のフッ素原子に対して用いられるトラップ原子)としては、炭素原子の電気陰性度(2.5)よりも小さい電気陰性度を有する原子が挙げられる。従って、このような場合、親水性基導入促進剤としては、電気陰性度が、2.5未満(好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、特に1.0以下)の原子を含有する化合物を好適に用いることができる。このような原子の電気陰性度については、「化学便覧 基礎編、改訂4版(社団法人日本化学会編,平成5年9月30日発行)」の第II分冊の631ページの「ポーリングの電気陰性度」の表(表14・149)などに記載されている。
【0044】
また、親水性基導入促進剤としては、遊離原子のトラップ機能以外の機能を有していてもよく、例えば、親水性基導入促進剤自体が有している基に由来する親水性基を、被加工樹脂基材に導入させる機能や、系内に存在する他の化合物が有している基に由来する親水性基を、被加工樹脂基材に導入させる機能などの機能を有していてもよい。このように、被加工樹脂基材に導入される親水性基は、親水性基導入促進剤や系内に存在する他の化合物が有している親水性基であってもよく、親水性基の導入に際して何らかの反応等により生成される親水性基であってもよい。
【0045】
具体的には、親水性基導入促進剤としては、金属系化合物や、非金属系化合物(非金属系無機化合物や有機化合物など)を用いることができる。金属系化合物としては、金属系原子を含む化合物であれば特に制限されないが、金属系原子とともに、酸素原子、硫黄原子、窒素原子などを含む金属系化合物(例えば、金属水酸化物、金属アルコキシドの他、金属酸化物、金属硫化物、金属窒化物など)を好適に用いることができる。このような金属系化合物において、金属系原子としては、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子等の周期表1族元素(アルカリ金属原子);マグネシウム原子、カルシウム原子、バリウム原子等の周期表2族元素(アルカリ土類金属原子);スカンジウム原子、イットリウム原子、ランタノイド元素(ランタン、セリウムなど)、アクチノイド元素(アクチニウムなど)等の周期表3族元素;チタン原子、ジルコニウム原子等の周期表4族元素;バナジウム原子等の周期表5族元素;クロム原子等の周期表6族元素;マンガン原子等の周期表7族元素;鉄原子等の周期表8族元素;コバルト原子等の周期表9族元素;ニッケル原子、パラジウム原子、白金原子等の周期表10族元素;銅原子、銀原子、金原子等の周期表11族元素;亜鉛原子等の周期表12族元素;アルミニウム原子等の周期表13族元素;スズ原子等の周期表14族元素などが挙げられる。金属系原子としては、アルカリ金属原子(特に、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子)、アルカリ土類金属原子(特に、マグネシウム原子、カルシウム原子、バリウム原子)、アルミニウム原子が好適である。なお、ほとんどの金属系原子は、電気陰性度が2.5未満となっている。
【0046】
金属系化合物としては、水溶性を有する金属系化合物が好ましい。水溶性の金属系化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等の金属水酸化物;アルミニウムアルコキシド(アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド等)の他、リチウムアルコキシド(リチウムメトキシド、リチウムエトキシド等)、ナトリウムアルコキシド(ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等)、カリウムアルコキシド(カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等)などの金属アルコキシドなどが好適である。
【0047】
また、非金属系化合物としては、非金属系無機化合物であってもよく、有機化合物であってもよい。具体的には、非金属系化合物としては、例えば、無機酸又はその塩(例えば、炭酸、硫酸、硝酸、塩酸、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなど);有機酸又はその塩(例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸;スルホン酸や、これらの塩など);アミン類(例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン;ジメチルアミン、ジエチルアミン等のジアルキルアミン;メチルアミン、エチルアミン等のモノアルキルアミン;トリメタノールアミン、トリエタノールアミン等のトリアルコールアミン;ジメタノールアミン、ジエタノールアミン等のジアルコールアミン;メタノールアミン、エタノールアミン等のモノアルコールアミンなどの他、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなど);アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなど);アルデヒド類(ホルムアルデヒドなど);硫黄酸化物(二酸化硫黄、酸化硫黄など)、窒素酸化物(二酸化窒素、酸化窒素など)、一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、窒素、アンモニア、硫化水素、ボラン系化合物(ジボランなど)等のガス成分(特に、活性を有するガス成分)などが挙げられる。なお、ガス成分は、水などの各種溶媒に溶解させた溶液の形態で用いることもできる。
【0048】
親水性基導入促進剤としては、被加工樹脂基材の種類、導入する親水性基の種類などに応じて適宜選択すればよく、金属系化合物(なかでも、金属水酸化物、金属アルコキシド等の水溶性金属系化合物など)、有機酸(なかでも、ギ酸、酢酸などのカルボン酸)、非金属系無機酸(なかでも、硫酸、硝酸、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなど)、ガス成分(なかでも、二酸化硫黄、酸化硫黄等の硫黄酸化物;二酸化窒素、酸化窒素等の窒素酸化物;アンモニア;ジボラン等のボラン系化合物などの活性ガス成分)を好適に用いることができる。また、親水性基導入促進剤としては、金属系化合物、ホウ素系化合物が好ましく、特に、アルミニウム系化合物(水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコキシドなど)、ホウ素系化合物(ホウ酸、ホウ酸アンモニウム、ジボランなど)、リチウム系化合物(水酸化リチウムなど)が好適である。
【0049】
また、親水性基導入促進剤として有機酸(ギ酸、酢酸等のカルボン酸など)、非金属系無機酸(硫酸、硝酸、ホウ酸、ホウ酸アンモニウムなど)、アミン類、ガス成分(二酸化硫黄、酸化硫黄、硫化水素等の硫黄系ガス;二酸化窒素、酸化窒素、アンモニア等の窒素系ガス;ジボラン等のボラン系ガスなど)などの非金属系化合物を用いることにより、被加工樹脂基材への親水性基の導入を容易に行うことができるようになる場合もある。
【0050】
なお、親水性基導入促進剤としては、単体(固体、液体や気体など)の形態で用いてもよいが、溶液(特に水溶液)の形態で用いることが好ましい。親水性基導入促進剤を溶液(水溶液など)の形態で用いる場合、該溶液中の親水性基導入促進剤の濃度としては、特に制限されず、被加工樹脂基材の種類、導入する親水性基の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、5〜50重量%(好ましくは10〜40重量%)程度の範囲から選択してもよい。なお、この際、溶質(親水性基導入促進剤など)の水への溶解度を高めるために、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を添加してもよい。
【0051】
親水性基導入促進剤は、通常、多光子吸収過程を利用したレーザー加工に際しては、被加工樹脂基材に接触させた状態で用いられる。なお、被加工樹脂基材が多孔質基材である場合、親水性基導入促進剤を含む水溶液を、含浸や塗布等の各種手段により、多孔質の内部の孔表面(孔組織表面)にも接触するように、浸透させて用いることが好ましい。
【0052】
(レーザー加工による親水性基含有樹脂構造体の形成方法)
多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基含有樹脂構造体を製造する方法の一例として、パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーを用いてレーザー加工する方法の例を下記に示すが、もちろん、このレーザー加工方法に限定されない。パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーを用いたレーザー加工方法としては、例えば、図1で示されているように、被加工樹脂基材の表面及び/又は内部に、外部からパルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザー(超短パルスレーザー)を照射することにより、被加工樹脂基材に親水性基を導入して、親水性基導入部を形成する方法が挙げられる。図1は、親水性基含有樹脂構造体の製造方法の一例を示す概略鳥瞰図である。図1において、1は樹脂フィルム、2は親水性基導入促進剤の溶液、3は親水性基導入部(光改質部)、4は親水性基非導入部(光非改質部)、5はレンズ、6はパルス幅が10−9秒以下の超短パルスレーザー(単に「レーザー」と称する場合がある)、Lはレーザー6の照射方向である。
【0053】
なお、親水性基導入部3は、樹脂フィルム1において、レーザー6の照射による影響を受けて、親水性基が導入された部位である。一方、親水性基非導入部4は、樹脂フィルム1において、レーザー6の照射による影響を受けておらず、元の状態を保持している部位である。
【0054】
レーザー6は、樹脂フィルム1に向けて、照射方向Lの向きで、すなわちZ軸と平行な方向で、照射している。なお、レーザー6はレンズ5を用いることにより焦点を絞って合わせることができる。従って、レーザーの焦点を絞って合わせる必要が無い場合等では、レンズを用いる必要はない。
【0055】
7aはレーザー6の照射をし始めたときの焦点を合わせた最初の位置又はその中心位置(「照射開始位置」と称する場合がある)、7bはレーザー6の照射を終えたときの焦点を合わせた最終の位置又はその中心位置(「照射終了位置」と称する場合がある)であり、7cはレーザー6の照射の焦点又はその中心位置(単に「焦点位置」と称する場合がある)が照射開始位置7aから照射終了位置7bに移動する移動方向である。7はレーザー6の照射の焦点位置又は焦点の中心位置が移動した軌跡(「焦点位置軌跡」と称する場合がある)である。すなわち、図1では、レーザー6の焦点位置を、照射開始位置7aから照射終了位置7bにかけて、焦点位置の移動方向7cの方向で、連続的に直線的に移動させており、該移動した焦点位置の軌跡が焦点位置軌跡7である。該焦点位置軌跡7において、焦点位置が移動した方向7cは、レーザー6の照射方向Lと垂直な方向(図1では、X軸と平行な方向)となっている。
【0056】
また、レーザー6の照射に際して、その焦点の位置を連続的に移動させているので、樹脂フィルム1の誘起構造が形成される部位も焦点位置の移動に応じて連続的に移動して、移動方向に延びて誘起構造が形成された部位からなる親水性基導入部3が形成されている。図1に示すように、レーザー6の焦点位置を、移動方向7cの方向に、照射開始位置7aから照射終了位置7bに移動させた場合、移動方向7cの方向に沿って形成された親水性基導入部3を形成することができる。従って、親水性基導入部3の長手方向は、移動方向7cの方向である。
【0057】
このように、本発明では、レーザー6の焦点の位置を移動させることにより、焦点位置の移動方向に連続的に誘起構造が形成された形態の親水性基導入部3を形成させることができる。
【0058】
なお、図1に係るレーザー加工方法において、横方向から見た概略断面図を図2に示す。図2で示されるように、樹脂フィルム1の下流側の面と、親水性基導入促進剤の溶液2の上流側の面とは接触しており、レーザー6の焦点は、樹脂フィルム1における親水性基導入促進剤の溶液2と接触する面に合わせられている。このように、照射するレーザーの焦点は、被加工樹脂基材と、親水性基導入促進剤との界面(被加工樹脂基材における親水性基導入促進剤が接触している表面)若しくはその近傍が好ましく、これにより、被加工樹脂基材の表面部における樹脂成分に、親水性基を導入することができる。また、レーザーは、前記界面を任意に走査することができる。
【0059】
また、被加工樹脂基材と親水性基導入促進剤との位置関係は、図1で示される方法では、被加工樹脂基材としての樹脂フィルム1の下流側(すなわち、レーザーが配置されている側の面に対して反対側の面側)に、親水性基導入促進剤の溶液2が配置されたような位置関係となっているが、図3で示されるように、被加工樹脂基材としての樹脂フィルム1の上流側(すなわち、レーザーが配置されている側)に親水性基導入促進剤又はその溶液2が配置されたような位置関係であってもよく、または、被加工樹脂基材が親水性基導入促進剤又はその溶液に挟まれたような位置関係や、親水性基導入促進剤又はその溶液を含む溶液中に被加工樹脂基材が浸漬されたような位置関係など、いずれの位置関係であってもよい。従って、レーザーは、親水性基導入促進剤又はその溶液を透過させた状態で、被加工樹脂基材に焦点を合わせて照射してもよい。
【0060】
なお、例えば、被加工樹脂基材の上流側に、親水性基導入促進剤又はその溶液が配置されている場合、親水性基導入促進剤又はその溶液の上面側に、図4で示されるように、ガラス板8などを設置してもよい。このように、ガラス板などを設置することにより、親水性基導入促進剤が溶液状態である場合、その溶液の蒸発や乾燥などを防ぐことができる。
【0061】
さらにまた、被加工樹脂基材が多孔質である場合、図4で示されるように、該多孔質基材の表面のみならず、内部の孔表面にも親水性基導入促進剤又はその溶液が接触するように、被加工樹脂基材としての多孔質基材の内部に、親水性基導入促進剤又はその溶液を含浸させることが望ましい。この場合、レーザーの焦点は、被加工樹脂基材の内部にも合わせることができる。具体的には、レーザーの焦点は、多孔質基材の内部の孔と、親水性基導入促進剤との界面(多孔質基材の孔における親水性基導入促進剤と接触している孔表面)に合わせることができ、これにより、多孔質基材の孔表面部における樹脂成分に、親水性基を導入することができる。もちろん、この場合も、レーザーの焦点は、多孔質基材における親水性基導入促進剤と接触している表面に合わせることもできる。なお、図5において、8はガラス板、9は親水性基導入促進剤の溶液を含浸している多孔質基材である。
【0062】
レーザー6の焦点位置の移動方向は、特に制限されず、如何なる方向であってもよい。例えば、レーザー6の照射方向Lに対して、垂直な方向、平行な方向(レーザー6の照射方向と同一の方向又は反対の方向)、斜めの方向などが挙げられる。レーザー6の焦点位置は、何れかの方向のみに直線的に移動させることもでき、種々の方向に曲線的に移動させることもできる。また、レーザー6の焦点位置は、連続的又は間欠的に移動させることもできる。
【0063】
レーザー6の焦点位置を移動させる速度(移動速度)は、特に制限されず、被加工樹脂基材の材質や、レーザー6の照射エネルギーの大きさ等に応じて適宜選択することができる。なお、前記移動速度をコントロールすることにより、親水性基導入部の大きさ等をコントロールすることも可能である。
【0064】
なお、1つの被加工樹脂基材において、親水性基導入部の数は、特に制限されず、単数であってもよく、複数であってもよい。親水性基導入部が複数設けられている場合、適度な間隔を隔てて形成することができる。この親水性基導入部の間隔は、任意に選択することができる。前記親水性基導入部の間隔は、例えば、3μm以上であることが好ましい。親水性基導入部間の間隔が3μm未満であると、親水性基導入部の作製時に親水性基導入部同士が融合して、独立した複数の親水性基導入部とすることができない場合がある。
【0065】
また、親水性基導入部の大きさや形状、親水性基の導入割合などは、レーザーの照射時間、レーザーの焦点位置の移動方向やその速度、被加工樹脂基材の材質の種類、親水性基導入促進剤の種類、レーザーのパルス幅の大きさや照射エネルギーの大きさ、レンズの開口数や倍率などにより適宜調整することができる。
【0066】
また、超短パルスレーザーは、単数で用いてもよく、複数で用いてもよい。すなわち、超短パルスレーザーを照射する際には、1光束で照射する方法や、多光束干渉で照射する方法を採用することができる。なお、多光束干渉で照射する方法とは、複数のレーザーを多方向から照射して、その交点又はその近傍に親水性基導入部を形成するような光の干渉を利用して照射する方法を意味しており、一光束で照射する方法とは、前記のような光の干渉を利用せずに、単一のレーザー(単光源)で照射する方法を意味している。例えば、2光束干渉でレーザーを照射する方法としては、2台のレーザーを用いて照射する方法や、ビームスプリッター(例えば、ハーフミラー、プリズム、グレーティングなど)を用いて1台のレーザーによる光を分光して照射する方法などを採用することができる。
【0067】
なお、超短パルスレーザーの照射装置にシャッターを設けることにより、超短パルスレーザーのレーザー光の光路や照射を精密に且つ容易に制御することができ、超短パルスレーザーによるレーザー加工性を高めることができる。
【0068】
本発明の方法により製造された親水性基含有樹脂構造体は、表面部(特に、多孔質性を有している場合は、表面部や孔表面部)に、精密に制御された親水性基導入部(光改質部)を有しているので、前記精密に制御して形成された親水性基導入部を利用した各種機能(新たな機能や改善された機能)を効果的に発揮することができる。特に、元来疎水性であったものに親水性を付与することによって、新たな機能を発現させることも可能である。特に、本来の物性を保持しつつ、表面のみの光改質により、新たな機能を発現させることができる。このような、親水性基の導入により発揮される機能(新たな機能や改善された機能)としては、例えば、親水性基含有樹脂構造体が多孔質である場合、濾過用フィルターや隔膜等としての機能(フィルター機能、メンブレン機能、セパレータ機能など)などが挙げられる。また、表面に親水性基が導入されることにより、接着性が向上する接着性向上機能も発揮され、この場合、表面のみの光改質により、被加工樹脂基材本来の物性(例えば、機械的強度、柔軟性、熱的特性など)を効果的に保持することができる。従って、本発明の親水性基含有樹脂構造体は、濾過用フィルター、隔膜等のメンブレンなどとして用いることができる。また、表面のみの光改質により、本来の物性を保持している易接着性基材、易染色性基材、易印刷性基材、易書き込み性基材などとして用いることができる。
【0069】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の多孔質フィルム(日東電工株式会社製、商品名「NTF1033」、公称孔径3μm)を、メタノール中、水中に順次10分ずつ浸漬し、さらに4.1重量%のホウ酸水溶液に10分間浸漬して、細孔内にホウ酸水溶液を含浸させた。このホウ酸水溶液含浸フィルムに、ガラスの覆いをかぶせ、図1に示されるような方法で、チタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザー装置及び対物レンズ(倍率:10倍)を使用して、超短パルスレーザー(照射波長:800nm、パルス幅:150×10−15秒、繰り返し:200kHz)を、照射エネルギー(平均出力):20mW、照射スポット径:約10μmの条件で、ホウ酸水溶液含浸フィルムを照射方向に垂直な方向に移動速度:約500μm/秒で移動させ、順次、10μm間隔で照射し、全体として10mm角の範囲で照射を行った。照射終了後、装置より、PTFE製の多孔質フィルムを取り出した後、純水で洗浄し、さらに風乾して、光改質されたPTFE製の多孔質フィルムを得た。この光改質されたPTFE製の多孔質フィルムについて、FT−IR分析(フーリエ変換型赤外吸収スペクトル測定による分析)を行ったところ、3400〜3500cm−1付近と、1700cm−1付近に、赤外吸収スペクトルの吸収ピークが観測された。これらの吸収ピークは、それぞれ、ヒドロキシル基、カルボキシル基に関する吸収ピークに相当している。なお、レーザー加工を行う前のサンプルは、PTFE製の多孔質フィルムであるので、ヒドロキシル基やカルボキシル基を有していない。従って、多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、ヒドロキシル基やカルボキシル基等の親水性基を導入することができることが確認された。
【0071】
(実施例2)
ポリエチレン製のフィルムを、水酸化アルミニウム1molおよび水酸化ナトリウム5molを水1Lに溶解させたアルカリ水溶液の上に接液状態で覆うような形態で配置し、ポリエチレン製のフィルムの上方より、実施例1と同様の方法により、超短パルスレーザーを照射した。照射終了後、装置より、ポリエチレン製のフィルムを取り出した後、純水で洗浄し、さらに風乾して、光改質されたポリエチレン製のフィルムを得た。この光改質されたポリエチレン製のフィルムについて、FT−IR分析を行ったところ、3400〜3500cm−1付近と、1700cm−1付近に、赤外吸収スペクトルの吸収ピークが観測された。
【0072】
【発明の効果】
本発明の親水性基含有樹脂構造体の製造方法によれば、マスクなしで、しかも低コストで容易に親水化された親水性基含有樹脂構造体が得られる。特に、基材本来の機械的強度を保持しつつ、基材の任意の部位に目的とする親水性基が導入され、各種機能性が付与された親水性基含有樹脂構造体を得ることができる。
【0073】
前記親水性基含有樹脂構造体は、新たな機能や改善された機能が発揮され、特に、元来疎水性であったものに親水性を付与することにより、新たな機能を発現させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】親水性基含有樹脂構造体の製造方法の一例を示す概略鳥瞰図である。
【図2】図1に係るレーザー加工方法において、横方向から見た概略断面図である。
【図3】レーザー加工方法において、横方向から見た概略断面図である。
【図4】レーザー加工方法において、横方向から見た概略断面図である。
【図5】レーザー加工方法において、横方向から見た概略断面図である。
【符号の説明】
1 樹脂フィルム
2 親水性基導入促進剤の溶液
3 親水性基導入部(光改質部)
4 親水性基非導入部(光非改質部)
5 レンズ
6 パルス幅が10−9秒以下の超短パルスレーザー
L レーザー6の照射方向
7a レーザー6の照射開始位置
7b レーザー6の照射終了位置
7c レーザー6の焦点位置の移動方向
7 レーザー6の焦点位置軌跡
8 ガラス板
9 親水性基導入促進剤の溶液を含浸している多孔質基材

Claims (13)

  1. 多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基が導入されている親水性基含有樹脂構造体。
  2. レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材が、樹脂シート又はフィルムである請求項1記載の親水性基含有樹脂構造体。
  3. 親水性基が、ヒドロキシル基、オキソ基、カルボキシル基、ホルミル基、アミノ基、ニトロ基およびメルカプト基から選択された少なくとも1種の親水性基である請求項1又は2記載の親水性基含有樹脂構造体。
  4. レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材が、素材として、ハロゲン原子含有樹脂を含有している請求項1〜3の何れかの項に記載の親水性基含有樹脂構造体。
  5. ハロゲン原子含有樹脂が、フッ素系樹脂である請求項4記載の親水性基含有樹脂構造体。
  6. レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材が、多孔質基材である請求項1〜5の何れかの項に記載の親水性基含有樹脂構造体。
  7. 多孔質基材の表面部及び/又は孔表面部における樹脂成分に、親水性基が導入されている請求項6記載の親水性基含有樹脂構造体。
  8. 多光子吸収過程を利用したレーザー加工が、パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーを用いたレーザー加工である請求項1〜7の何れかの項に記載の親水性基含有樹脂構造体。
  9. パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーが、紫外線波長領域〜近赤外線波長領域の波長を有する超短パルスのレーザーである請求項8記載の親水性基含有樹脂構造体。
  10. パルス幅が10−9秒以下の超短パルスのレーザーを、多光束干渉で照射する請求項8又は9記載の親水性基含有樹脂構造体。
  11. 多光子吸収過程を利用したレーザー加工により、親水性基を導入して、親水性基含有樹脂構造体を製造する親水性基含有樹脂構造体の製造方法。
  12. 親水性基導入促進剤の存在下、レーザー加工により親水性基を導入する前の被加工樹脂基材に、多光子吸収過程を利用したレーザー加工を施している請求項11記載の親水性基含有樹脂構造体の製造方法。
  13. 親水性基導入促進剤が、金属系化合物、有機酸、非金属系無機酸、およびガス成分から選択された少なくとも1種の化合物である請求項12記載の親水性基含有樹脂構造体の製造方法。
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