JP2004353035A - 誘導加熱装置および薄肉部加熱方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】一括方式での誘導加熱でも入熱分布の調整が容易に行える誘導加熱装置および薄肉部加熱方法を実現する。
【解決手段】細長い良導体の誘導子34と、高周波電源32と、制御装置31とを備えた誘導加熱装置において、繰り返し反転曲折した形状のジグザグ電路部35を誘導子34に含ませる。これにより、多様な形状の被加熱部に対して入熱分布の均等化や微調整を容易に行うことができる。
【選択図】 図1
【解決手段】細長い良導体の誘導子34と、高周波電源32と、制御装置31とを備えた誘導加熱装置において、繰り返し反転曲折した形状のジグザグ電路部35を誘導子34に含ませる。これにより、多様な形状の被加熱部に対して入熱分布の均等化や微調整を容易に行うことができる。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属製部材の薄肉部を焼入れなどのために加熱するのに適した誘導加熱装置、ならびに、薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱する薄肉部加熱方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車ボディーに用いる鋼板のプレス成形品に対して、その一部領域に焼入れを施してその領域の強度を高めるという強化処理が適用され始めている。そして、上記焼入れのための薄肉の金属製部材の加熱にも、急速加熱の行える直接通電加熱と誘導加熱とがよく用いられる。
前者の直接通電により金属製部材の薄肉部を加熱する手法として、導電部材を二点で接触させて電極とし、高周波通電を行うものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
また、後者の誘導加熱方式により薄肉部材を加熱する手法としては、焼入れを施すべき領域が一端部から他端部にかけて連続的に延びているプレス成形品を対象にして中央領域から端部領域に向かうにつれて硬度が次第に低下するよう加熱するものや(例えば特許文献3参照)、自動車のフロントボデーを対象にしてロボットアーム装着の高周波焼入れコイルにより局部的に焼入れ処理を行うものが(例えば特許文献4参照)、知られている。
【0004】
さらに、後者の誘導加熱方式は、焼入領域(被加熱部)の一部の小領域を加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子を焼入れ領域に対してその全範囲に亘り相対移動させる走査方式(移動加熱方式)と、被加熱部の全域を全域同時に加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子を用いて被加熱部全域を一気に加熱する一括方式(一発加熱方式)とに分けられる。上述した二例(特許文献3,4参照)は走査方式に該当する。
一括方式では、被加熱部が例えば帯状に延びた形であれば、この被加熱部の形に合わせた、被加熱部とほぼ同じ幅,長さの帯状の誘導作用部を有する誘導子を臨ませる(対峙・対向させる)形態で誘導加熱が行われている。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−336425号公報 (第1頁)
【特許文献2】
特開平11−140537号公報 (第1頁)
【特許文献3】
特開平10−017933号公報 (第1頁)
【特許文献4】
特開平06−116630号公報 (第1頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このような手法には、それぞれ、一長一短がある。先ず、直接通電加熱方式の場合、電力の使用効率が良く、高周波電源やその通電制御を行う制御装置が比較的簡便なもので足りる、といった長所がある一方、通電電極の接触状態の確保や通電範囲(即ち加熱範囲)の規制に工夫を要するといった問題点がある。
【0007】
次に、走査方式の誘導加熱の場合、非接触で通電できるという長所に加えて、走査しながら通電条件や対峙距離を変化させるなどして走査方向の入熱分布を調整でき、しかも、誘導子や電源設備が小さくて済むという長所がある。一方、被加熱部の全域を加熱するのに時間を要するという問題点がある。
【0008】
また、一括方式の誘導加熱の場合、非接触で通電できる長所と、短時間で加熱を済ませることができるという長所がある一方、被加熱部の形によっては入熱密度(即ち昇温)の均一化が難しいという問題点がある。例えば、帯状の被加熱部の幅が長手方向で異なる場合、誘導加熱の入熱量を幅に合わせて加減するというわけにはいかず、このため、被加熱部の幅編成に制約が伴うといった問題点である。これは、被加熱部材が薄肉であるが故に、誘導電流(渦電流)が、板厚方向にではなく板面内に閉ループを描いて循環せざるを得ないことに起因している。すなわち、板面内に流れる誘導電流の板面面積当りの電流密度Iは、誘導電流の流路幅に反比例して小となり更にはその電流流路に沿った電位傾度dE/dlも小となるからI×dE/dlで決まる入熱密度は電流流路の幅の2乗に比例して小となる。すなわち、被加熱部の幅の大小に合わせて誘導電流の電流量を大にするという指向はかなえられないのである。一括方式では、この他、誘導加熱中に起る被加熱部材の一過的な熱歪変形に伴う誘導子−被加熱部間の対峙距離(クリアランス)の分布の変化(この変化によって誘導加熱の入熱分布に微妙な偏倚が生じる)に対して、これを補償するための部位別入熱量調整が前記走査方式とは違って不可能であるという問題点もある。
【0009】
しかしながら、上記問題点さえ解消できれば、非接触で通電できて而も短時間で加熱のできる一括方式誘導加熱の魅力は絶大である。
そこで、薄肉部を対象とした一括方式の誘導加熱を、所望の形状に画定された被加熱部を対象として、その形状に拘わりなく被加熱部内各部への入熱密度を調整でき、更には誘導加熱中の被加熱部材の熱歪変形にも影響されずに行うことのできる技術の提供が課題となる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく提供された本発明の請求項1記載の誘導加熱装置は、被加熱部の全域を全域同時に誘導加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子と、これに通電を行う高周波電源と、その通電制御を行う制御装置とを備えた誘導加熱装置において、前記誘導子が、繰り返し反転曲折した経路を以て細長い良導体を前記誘導作用部に行き亘るように配したジグザグ電路部を有するものであることを特徴とする。
【0011】
上記本発明装置にあっては、細長い良導体を繰返し曲折反転させて構成したジグザグ電路部が次のように作用する。
先ず、ジグザグ電路部の構成要素である1つのU字状電路は、これと向き合う被加熱部にU字の開口端を閉じたO(オー)字形の経路を以て局部渦電流(局部誘導電流)を誘起させる。また、このU字の両隣に連なる開口部が逆向きのU字状電路は、正向きU字とは逆極性の局部渦電流を誘起する。すなわち、右巻きと左巻きの局部渦電流が、その1辺を両隣の渦と共有する形で代わる代わる生じ、これらによって被加熱部全体が誘導加熱されることになる。
【0012】
そして、この状況における被加熱部内の各部(i番目)のU字状電路Ui に関して、入熱密度ηi =P/S(Pは電力、Sは面積),I∝Ic(Icはコイル(誘導子)電流),E∝La(Laは前記O字の高さ≒U字の高さ≒被加熱部の幅),S=La×Lb(Lbは被加熱部U字幅投影寸法)であるから、P∝Ic×Laとなって、
ηi = P/S ∝ Ic/Lb
すなわち、各部に共通するコイル電流Icの下で、被加熱部の各部位の入熱密度ηi は、被加熱部の幅Laには影響されず、ジグザグ電路部のジグザグのピッチ(前記U字の幅をピッチと定義)に反比例することとなる。
【0013】
よって、被加熱部の幅編成が如何様になされていようとも、一定のジグザグピッチ(即ち、Lai =La0 )とすることで各部入熱密度の均等化が大枠において確保され、更に、ジグザグピッチを自在な編成を以て不等にする(たとえば、加熱されにくい部位や他部よりも高温に加熱した部位のピッチを他部より小さくして入熱密度を高める)ことで、昇温分布の目的に合わせた微調整が行えるのである。
【0014】
更には、細長い良導体を、しかもジグザグに配したことでジグザグ電路部は可撓性を具えたものとなっている。そして、この可撓性は、下記のように前記誘導加熱中の被加熱部の熱歪変形に対し、入熱分布の偏倚を防ぐ対策にも有用なものとなる。
【0015】
すなわち、この発明の請求項6記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その際、前記誘導加熱の最中に生じる前記被加熱部の熱歪変形に追随して変形(撓み変形)しうるように構成した電気絶縁性のスペーサを前記誘導子のジグザグ電路部と前記被加熱部との間に介在させておくことを特徴とする。
【0016】
この場合、誘導加熱によって被加熱部が変形すると、その熱歪変形に追随してスペーサが変形するとともに、これに追随して誘導子のジグザグ電路部も変形して被加熱部との対峙間隔が一定に維持される。
これにより、誘導加熱中に被加熱部の熱歪変形が生じても、これに伴う入熱条件の変化が防止されて、前記入熱量の偏倚が避けられるのである。
【0017】
また、この発明の請求項7記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の位置を、前記被加熱部に対して相対的に、前記ジグザグ電路部における前記細長い良導体の反転曲折の繰り返し方向に変動(たとえば相対的な微小移動や微小位置替え或いは振動や揺動や往復寸動)させて前記誘導加熱による入熱位置を分散させることを特徴とする。
【0018】
この場合、ジグザグ電路部の存在によって入熱が縞状になっても、前記位置変動によって誘導子と被加熱部との相対位置がずれることで、入熱位置が分散して、被加熱部の加熱状態や温度分布が十分に平坦化される。なお、誘導子の相対移動距離は反転曲折の1ピッチ以下でも足りるので、誘導子および金属製部材の何れか一方または双方を動かすようにしても、入熱処理が短時間で済むといった一括方式の魅力が損なわれることは無い。
【0019】
また、この発明の請求項8記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の前記被加熱部に対する相対的な位置関係を実質的に固定しておくことで、前記誘導加熱による入熱位置を縞状に分布させることを特徴とする。
【0020】
なお、ここで云う「実質的に固定」とは、上記相対的な位置関係を全く変えないか、又は、上記位置関係の変動を、ジグザグ電路部由来の縞状入熱の位置が各縞相互間で干渉しない程度(即ち、入熱縞の太さが増す程度)に留める処置を指すものとする。
上記構成によれば、最高温部が縞状に分布した加熱状態(縞状加熱)が実現される。この手法は、たとえば、プレス成形品に縞状の焼入を施して縞状の強度分布(圧潰エネルギー吸収能向上目的など)を得たいときに有用となる。上記縞状入熱の縞の方位を、目的に応じて縦/横いずれとしてもよいことは、云うまでもない。
【0021】
【発明の実施の形態】
このような本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら、幾つか説明する。なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、筐体パネルや,ベース,フレーム,ボルト等の締結具,ヒンジ等の連結具などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【0022】
図1〜図3に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の一実施形態について、先ず誘導加熱装置の構造を説明する。図1は、(a)が誘導加熱装置の模式図、(b)が焼き入れ対象の金属製部材の斜視図、(c)〜(e)が細長い良導体の断面斜視図、(f)が誘導子の斜視図である。また、図2は、誘導加熱装置の概要回路図である。なお、図1(a)において、誘導加熱装置の構成部材は実線で示し、それ以外の関連部材は二点鎖線や一点鎖線で示した。
【0023】
誘導加熱装置30は(図1(a),図2参照)、金属製部材10に対する誘導加熱を行うために、通電制御装置31と高周波電源32と給電ケーブル33と誘導子34とを具えている。ここでは(図1(a)参照)、誘導子34が給電ケーブル33を介して高周波電源32から給電を受け、その給電条件はLAN等を介してメインコントローラ20から指令を受けた通電制御装置31によって制御されるようになっている。
【0024】
金属製部材10は(図1(b)参照)、焼き入れ対象となる薄肉部を有し、その薄肉部に被加熱部11が帯状に画定されている。金属製部材10は、実際には成形品であることが多く、また被加熱部11以外の部位まで薄肉であるとは限らないが、ここでは、分かり易いよう、金属製部材10として矩形の薄板を例示し、被加熱部11として帯状(長方形状)の領域を図示した。薄肉部の厚さは、自動車ボディー部材への焼入れを例にとれば、0.6〜3.2mmである。金属製部材10の材質としては、炭素鋼や,低合金鋼,ステンレス鋼などが挙げられる。また、上記部材に、亜鉛めっき等の金属被覆あるいは母材との合金化処理が施されていてもよい。被加熱部11の寸法(mm)は、例えば、20×200 〜100×1000程度であるが、上記部材の用途、諸仕様ともに限定されない。
【0025】
誘導子34は、細長い良導体(細径導体)からなり、断面形状は丸形でも(図1(c)参照)角形(図1(d),(e)参照)でも良く、その何れについても等方状でも(図1(c),(d)参照)扁平状(図1(e)参照)でも良く、大抵、冷却水を通すため中空になっている。また、良導体としては、外径寸法(mm)が、等方状の場合で2×2 〜 15×15、扁平状の場合で2×10 〜8×30程度(可撓性を特に重視するときは2×2 〜 6×6、又は2×10 〜 6×30程度)の銅製や真ちゅう製のものが適している。ジグザグ形状への加工は、管材の曲げ加工や管材・板材切り出し片のろう接組立などによって行える。
誘導子34は(図1(f)参照)、繰り返し反転曲折した形状のジグザグ電路部35を主体とするものであり、それに給電端として一対の引出線部36も付いている。
【0026】
ジグザグ電路部35は(図1(f)参照)、ピッチLbで何回か反転曲折することで形成される。この例では、短手方向Cでの反転曲折を約15mmのピッチLbを以て長手方向Dに数十回(図示したのは数回の例)ほど繰り返して形成されている。ジグザグ電路部35の形状は、被加熱部11の形状に概ね対応しており、この例では、被加熱部11が細長い長方形なので、ジグザグ電路部35は、それに概ね対応した長方形状になっている。ピッチLbは、良導体の太さや材質さらには被加熱部11のサイズ等にもよるので一概には言えないが、例えば、6〜30mm程度に選定される。因に、前記ろう接組立方式によるならば、上記ピッチに占める良導体幅の比率を大にしたジグザグ電路部形態(即ち、前記U字の内寸を小とした形態)も実現しうる。
【0027】
こうして形成されたジグザグ電路部35は、上述のような形態で細長い良導体をジグザグ配置したことにより、被加熱部11のほぼ全域と対峙可能な形状になっている。そのため、このジグザグ電路部35は総てが誘導作用部として機能するものとなっている。
【0028】
誘導加熱装置30における他の部材は(図2,図1(a)参照)、基本的に公知のもので足りるので、ここでは概要を述べる。
通電制御装置31は、高周波電源32から誘導子34へ供給される高周波の通電制御をどのような状況にも柔軟に適応して適切に行うためにプログラマブルなコンピュータやシーケンサ等からなり、高周波電源32の出力段回路等を制御して、通電のパワーや時間スケジュールを調整する。
【0029】
高周波電源32からは、所期の通電周波数たとえば5kHz〜200kHz程度の高周波交流が通常はトランスを介して誘導子34に供給されるが、本発明装置のように細長い良導体をジグザグに配したことでインダクタンスが特に大きい誘導子を用いるケースでは、高周波トランス32cが不要となることもある。
給電ケーブル33は、一端が高周波トランス32cの二次側に接続され他端が誘導子34の引出線部36に接続された高周波用ケーブルであり、冷却のため図示しない給水ユニットから給水を受けるようになっていて、誘導子34への高周波通電に加えて給水も仲介するようになっている。
【0030】
このような誘導加熱装置30を使用して行う薄肉部加熱方法および誘導加熱装置30の動作等を説明する。図3は、誘導加熱装置30の使用状況を示し、(a)がジグザグ電路部35のコイル電流例、(b)が被加熱部11の拡大平面図である。
【0031】
誘導子34のジグザグ電路部35と金属製部材10の被加熱部11とを電磁誘導可能な距離(たとえば2〜10mm)を保って対峙・対向させ、その状態で誘導加熱装置30を作動させると、通電制御装置31の制御に従って所定時間だけ所定の高周波交流が高周波電源32から給電ケーブル33を介して誘導子34へ給電される。そして、この誘導子34のジグザグ電路部35への高周波通電に応じて(図3(a)参照)、金属製部材10に誘導電流が生じる。その誘導電流経路12は以下のようになる(図3(b)参照)。
【0032】
すなわち、ジグザグ電路部35の構成要素である1つのU字状電路は、これと向き合う被加熱部にU字の開口端を閉じたO(オー)字形の経路を以て局部渦電流(局部誘導電流)を誘起させる。また、このU字の両隣に連なる開口部が逆向きのU字状電路は、正向きU字とは逆極性の局部渦電流を誘起する。すなわち、右巻きと左巻きの局部渦電流が、その1辺を両隣の渦と共有する形で代わる代わる生じ、これらによって被加熱部11全体が誘導加熱されることになる。そして、この状況における被加熱部11内の各部位の入熱密度ηi は、上述したように、被加熱部の幅すなわちジグザグ電路部35の幅Laには影響されず、ジグザグ電路部35のジグザグのピッチLbに反比例することとなる。
【0033】
このように誘導子34を被加熱部11に臨ませてこれに高周波通電することで誘導加熱が行なわれると、前記局部渦電流に対応した誘導加熱入熱がなされて、被加熱部11には、誘導電流経路12に対応して複数条の昇温帯が縞条に並んだ発熱部が発現し、昇温帯間などの残部が非発熱部となる。そして、通電停止後、金属製部材10は、温度平坦化期間の経過を経て、被加熱部11における温度分布が十分に平坦化される。すなわち、非発熱部も発熱部からの伝熱によって焼入れ条件に適う目標加熱温度に達するので、被加熱部11の全域が焼入れ温度に達した状態となる。
【0034】
ここで、上記の温度平坦化期間は、前述したピッチLb(すなわち昇温帯間距離)の半分と被加熱部11(金属製部材10における薄肉部)の伝熱特性とに基づいて定まるものであり、発熱部と非発熱部とがそれぞれ温度の下降と上昇とを起こして焼入れ可能な目標加熱温度たとえば900±30℃に達する。そして、この温度差緩和の所要時間は、大抵1秒〜1分ほどの、さほど長くない時間で済む。特に、前記U字の内寸を小さく(例えば2〜4mmに)したジグザグ電路部の場合は、上記温度差緩和の所要時間は
1秒〜数秒程度で事足りる。
【0035】
また、そのような高周波通電を行う際の通電周波数は、2〜200kHz程度とすることが望ましい。これより低いと無駄な電力消費が多くなり、これより高いと設備コストが嵩んでくる他、入熱の集中度が大となり過ぎて前記縞状に並んだ発熱部が極く際立って現れる傾向となり、前記温度差の緩和が容易でなくなる。因に、ジグザグ電路部を構成する前記U字のピッチ(即ち、相互逆極性誘導電流間の芯−芯間隔)が大き目(たとえば20〜30mm)のときには2〜20kHzといった低目の周波数が適し、小さ目(たとえば10mm前後)のときには20〜200kHzといった高目の周波数が適する。但し、これらは目安であり、最適周波数は実験的に或いは経済性を総合して選定されることが望ましい。なお、特に高目の周波数を選定した際の、効率面等における要請として、誘導作用部−被加熱部間の間隔(クリアランス)をなるべく小さくするという要請がある。本発明においても、この要請は然りであり、本発明におけるジグザグ電路部35と被加熱部11の間隔は少なくとも前記ジグザグのピッチを超えない値に選定されることが望ましい。
【0036】
図4に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導加熱装置の構造を説明する。図4は、誘導子の構造を示し、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が斜視図、(d)は、この誘導子による誘導電流の経路を示す図である。
この図4の誘導子34が上述した図1のものと相違するのは、ジグザグ電路部35が長手方向Dでの反転曲折を短手方向Cに繰り返して形成されていることである。反転曲折の回数が減っているが、ピッチLbはほぼ同じに保たれている。縞模様をなす並走方向の縦横は異なっているが、ジグザグ電路部35の全体形状が、被加熱部11の形状に概ね対応していることや、ジグザグ電路部35がそのまま誘導作用部となっている点は同じである。
そのため、誘導電流経路12の縞模様や局部渦電流の向きや長さがジグザグ電路部35のジグザグ形状に対応して変わるものの、前記入熱密度の均等化が大枠確保される点は図1の形態と同じである。
【0037】
図5に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、先ず誘導加熱装置の構造を説明する。図5は、誘導子等の構造を示し、(a)が誘導子34の斜視図、(b)が誘導子34にスペーサ40及び移動機構50を加えたところの正面図である。
【0038】
この図5の誘導加熱装置が上述した図1のものと相違するのは、誘導子34にスペーサ40と移動機構50とが追加されていることである。
誘導子34は(図5(a)参照)、上述した図1のものと同様のものであり、長手方向Dの曲げ剛性が小さいため、ジグザグ電路部35が正面視で山なりに変形しやすくなっている。
スペーサ40は(図5参照(b))、例えばアルミナ繊維などの耐熱性に優れ而も変形容易な電気絶縁性素材からなり、厚さ一定のシート状あるいは網状あるいは暖簾状に形成されて、ジグザグ電路部35の下に装着される。その厚さはジグザグ電路部35と金属製部材10との対峙距離と同じにされて、ジグザグ電路部35と金属製部材10とに挟まれると、両者の間隙を埋め、さらにその状態で金属製部材10が変形すると、それに追随してスペーサ40が変形するとともにジグザグ電路部35も追随変形させるようになっている。その結果、ジグザグ電路部35による誘導作用が上記対峙間隔の狂いによって部位別に偏倚するという事態が避けられる。
【0039】
移動機構50は(図5参照(b))、加熱ユニットの天板等に固定された固定部材51と、これに装着され図示しない電動モータ等での駆動により長手方向DにピッチLbの半分以上水平移動しうる可動部材52と、可動部材52の両端に一組ずつ設けられた吊持部材基部53及び吊持部材進退部54とを具えている。吊持部材進退部54は、前進方向(図では下方へ突き出る方向)へバネ力等にて軽く付勢されており、反力を受けると吊持部材基部53側へ後退する。さらに図示しない電動モータ等での駆動によっても後退するようになっている。このような吊持部材進退部54の先端・下端がジグザグ電路部35の長手方向D両端に取り付けられて、移動機構50は、金属製部材10の間欠移動および挟持を可能にすべくジグザグ電路部35及びスペーサ40を昇降させるとともに、ジグザグ電路部35及びスペーサ40を金属製部材10に軽く押しつけながら長手方向Dに微小移動あるいは微小揺動させるものとなっている。
【0040】
なお、上例では、被加熱部に対する誘導子34の進退、あるいは、被加熱部に対するジグザグ電路部35の、長手方向Dに係る位置関係の相対的変動(移動,揺動等)を、誘導子34の方を動かして行っているが、逆に、金属製部材10(或いは、これを支持している支持手段23)の方を動かして行うようにしてもよい。
【0041】
このような誘導加熱装置を使用して行う薄肉部加熱方法および誘導加熱装置の動作等を説明する。図5(c)〜(e)は、誘導加熱装置の使用状況を示し、(c)が被加熱部11の平面図、(d)が加熱開始時における金属製部材10と誘導子34との正面図、(e)が加熱終了時における金属製部材10と誘導子34との正面図である。
【0042】
高周波通電の継続期間内にジグザグ電路部35を、被加熱部に対して、長手方向DにピッチLb相当距離程度の変位を以て相対移動あるいは相対揺動させると、被加熱部11のほぼ全域が誘導電流経路(図示12の何れか)上に在ったという履歴に当る(図5(c)参照)。このように誘導子34が動くことにより、入熱位置が分散して、被加熱部11の加熱状態や温度分布が十分に平坦化されるので、この場合は、温度平坦化期間の経過を待つ必要が無く、その算出を行う必要も無い。そのため、速やかに冷却することが可能となるうえ、目標加熱温度を超えて加熱する必要も無くなる。
【0043】
また、上記とは逆に、ジグザグ電路部35の被加熱部に対する位置関係を実質的に固定した状態で高周波通電して入熱位置を集中させた誘導加熱を行うとジグザグ電路部35の形態に対応した縞状加熱が実現される。この縞状加熱は、前述のように、圧潰エネルギー吸収能を向上させるための縞状の焼入れなどに有用なものとなる。
【0044】
図6に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図6は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図、(c)が金属製部材10の平面図である。
【0045】
この金属製部材10には帯状の被加熱部11が一本だけでなく二本も画定されている(図6(a)参照)。それに対応して、ジグザグ電路部35も、往路部分と復路部分との二本に分かれて形成され、それぞれの部分において細長い良導体が繰り返し反転曲折した形状になっている(図6(b)参照)。この例では、被加熱部11がほぼ等距離で並走する領域に完全分離されているのに対し、ジグザグ電路部35の往路部分と復路部分は直列に接続された状態となる。高周波通電なので何れが往路で何れが復路かは本質的でないが、誘導子34において一方を往路としたとき他方が復路になるよう往復路が接続されている。
【0046】
この場合(図6(c)参照)、並走する二本の誘導電流経路12が金属製部材10に発現し、いずれも開路となるが、一方の終端と他方の始端との間、及び他方の終端と一方の始端との間に、すなわち渡り区間に当る領域に、紡錘状に広がって明確な経路を持たない分散流12aが流れるので、全体としては閉路となって、この閉路に由来する誘導加熱作用も存在はする。しかしながら、何れの被加熱部11も前記局部渦電流の作用によって的確に誘導加熱されて目標加熱温度まで昇温する一方、上記全体的な閉路に由来する誘導加熱作用は、その受持ち領域が広大であるのに比して、上記誘導作用をもたらす電流量は各局部の渦電流の2倍の電流量に過ぎないため、金属製部材10における被加熱部11以外のところ(即ち加熱不所望部)は、分散流12aの通過部位(上記渡り区間)も含めて、低い温度にとどまる。
こうして、この場合も、被加熱部11だけが適切に加熱されて、焼入れ処理が適切に進行する。
【0047】
図7に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図7は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図、(c)が被加熱部11の拡大平面図である。
【0048】
この金属製部材10には細長い被加熱部11が一本しか画定されていないが(図7(a)参照)、ジグザグ電路部35は(図7(b)参照)、寄り添って並走する二本の往路部分と復路部分とからなる。何れの部分も、細長い良導体が繰り返し反転曲折した形状になっている。
この場合は(図7(c)参照)、往路部分と復路部分とが近接しているので、ジグザグ電路部35のうちU字の開口端が対向しているところでは、誘導電流経路12に関して、往路側と復路側の局部渦電流が繋がって長い局部渦電流になることもあるが、この場合も、上述したのと同様にして、やはり被加熱部11の全域が誘導加熱される。
【0049】
図8に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図8は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0050】
この金属製部材10が上述した図7のものと相違するのは、被加熱部11がテーパ状に画定されている点である。具体的には(図8(a)参照)、長手方向に見て、一方の幅(図では右端の幅)が他方の幅(図では左端の幅)より広くなっている。
このような被加熱部11に対応して、往復路からなるジグザグ電路部35も、平面で見た包絡線形状がほぼ同じテーパ状になるよう、幅を変えながら反転曲折を繰り返して形成される(図8(b)参照)。ピッチLbは同じままである。
この場合、被加熱部11がテーパ状であっても、被加熱部11のほぼ全域がカバーされる。それでいて、ピッチLbが一定に保たれているので、幅広のところも幅狭のところも含めて被加熱部11の全域が概ね均一に加熱される。
【0051】
図9に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図9は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0052】
この金属製部材10が上述した図8のものと相違するのは、テーパ状に画定されている被加熱部11において(図9(a)参照)幅狭のところ(図では左方)よりも幅広のところ(図では右方)を高温にしなければならないという点である。
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図9(b)参照)、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる(Lb=Lb1)一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる(Lb=Lb2。但し、Lb1>Lb2)。
【0053】
このようにジグザグ電路部35における反転曲折のピッチを不等にしたことにより、テーパ状の被加熱部11に対して、幅狭のところよりも幅広のところに高い密度で入熱が行われる。
こうして、ピッチの広狭に基づいて入熱分布が調整されるので、被加熱部11がテーパ状であっても矩形のときと同じく容易に、入熱分布を調整することができる。
【0054】
図10に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図10は、加熱位置における金属製部材10と誘導子34との縦断端面図である。
【0055】
このジグザグ電路部35は、後背側(すなわち金属製部材10と向き合わない側)に強磁性部材60が添えられている。強磁性部材60としては、例えば、フェライト(鉄系酸化物)あるいは珪素鋼板を用いる。この例では、ジグザグ電路部35のうち反転曲折ピッチの小さいところの後背側には強磁性部材60が添えられ反転曲折ピッチの大きいところの後背側には強磁性部材60が添えられていない。しかも、強磁性部材60は、ジグザグ電路部35のうち反転曲折ピッチの大きいところに近い方で(図では中間位置で)薄く、反転曲折ピッチの小さいところの端で(図では右端で)厚くなっている。
【0056】
この場合、ジグザグ電路部35のピッチが例え同じままであっても強磁性部材60の磁性に応じて誘導電流が増加するので、強磁性部材60の添付されているところは入熱が増強される。特に強磁性部材60が厚いところほど、入熱密度が高くなる。
これにより、ジグザグ電路部35を加工可能な最小ピッチで反転曲折して達しうる限界を超えて、被加熱部11への入熱分布を調整することができる。もちろん、ピッチの広狭に基づく入熱分布の調整と併用するのも可能である。
【0057】
図11に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図11は、加熱位置における金属製部材10と誘導子34との縦断端面図である。
【0058】
このジグザグ電路部35にも入熱分布調整のため強磁性部材60が添付されているが、上述のものとは添付の具体的態様が異なる。すなわち、強磁性部材60は、多数の小片に分かれており、それぞれの小片は、ジグザグ電路部35において多数並走する良導体の間隙に入り込んでいる。
この場合、ピッチの広いところには断面積の比較的小さな強磁性部材60片がセットされ、ピッチの狭いところには断面積の比較的大きな強磁性部材60片がセットされる。
これにより、ピッチの広狭に基づく入熱分布の調整と強磁性部材添付に基づく入熱分布の調整とが併用されて、入熱分布の調整機能が向上する。なお、図示のようにスペーサ40を併用すると、強磁性部材60の保持や位置合わせも、容易かつ正確に行える。
【0059】
図12に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図12は、(a)が誘導子34の簡略斜視図、(b)が金属製部材10の平面図、(c)が被加熱部11の拡大平面図である。
この誘導子34が上述した図1や図5のものと相違するのは、引出線部36だけでなくジグザグ電路部35における折返し部分35cも誘導作用喪失側(すなわち金属製部材10から遠ざかる方)に迂回するよう曲がっている点である(図12(a)参照)。
【0060】
この場合、金属製部材10の被加熱部11と対峙するジグザグ電路部35のうち誘導作用部として有効に電磁誘導の役割を果たすのは(図12(b)参照)、短手方向に走る短い直線部分であり、これがピッチLbで離れた状態で長手方向に多数並ぶこととなる。そのため(図12(c)参照)、主たる誘導電流経路12が短手方向に多数並走する短線状の開路群になるが、それらの開路で電流の向きが交互に反転するので、隣り合う開路の間では局部渦電流相当の局所循環流12bが分散して流れる。この局所循環流12bは、誘導電流経路12の電流のほぼ半分であり、両側の電流を合わせると帰還分に相当する。これにより、被加熱部11が薄肉部材に画定された細長い一塊りの領域であっても、明確な電流閉路は形成されないが、被加熱部11のほぼ全域に分散して誘導電流か帰還電流が流れるので、やはり適切な誘導加熱が行われる。
【0061】
図13に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図13は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
この金属製部材10が上述した図12のものと相違するのは(図13(a)参照)、被加熱部11がテーパ状に画定されている点と、テーパ状に画定されている被加熱部11において幅狭のところよりも幅広のところを高温にすることが求められている点である。
【0062】
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図13(b)参照)、並走する多数の短直線部分が、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる(Lb=Lb1)一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる(Lb=Lb2)。
この場合、折返し部分35cが誘導作用喪失側に曲がって迂回しているので、被加熱部11にはジグザグ電路部35の反転曲折の不等ピッチに対応した分布で入熱が行われ、図9の場合と同様に被加熱部11がテーパ状であっても適切な誘導加熱がなされる。しかも、被加熱部11が図9のときより細くても、容易に適合させることが出来、被加熱部11の全域を的確にカバーする。
【0063】
図14に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図14は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0064】
この金属製部材10が上述した図1や図5のものと相違するのは(図14(a)参照)、被加熱部11がテーパ状に画定されている点と、テーパ状に画定されている被加熱部11において幅狭のところよりも幅広のところを高温にすることが求められている点である。
【0065】
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図14(b)参照)、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる。
【0066】
【その他】
なお、上記の各実施形態では、ジグザグ電路部35が平面状になっていたが、ジグザグ電路部35の形状は、これに限られる訳では無い。ジグザグ電路部35は被加熱部11に適合して形成されるので、図示等は割愛したが、被加熱部11が曲折面や湾曲面の場合、ジグザグ電路部35も曲折面や湾曲面に形成される。平面の場合でも、上述した矩形状かテーパ状に限られるものでなく、例えば中太り形状やS字状など他の形状もあるうる。
また、本発明の適用は焼入れのための加熱に限らず、焼戻しや整粒調質など他の熱処理のための加熱、あるいは、歪取りなどのための加熱にも、本発明を適用することができる。
【0067】
さらに、上記の各実施形態では、通電時間を一定の固定期間にしたが、これは説明の簡明化のためであり、通電時間は可変であっても良い。例えば、目標加熱温度と気温等との温度差に基づいて通電時間を算定するようにしても良く、発熱部13の温度等を計測して通電を停止するようにしても良い。
また、移動機構50も、上述した一例に限られる訳でなく、誘導加熱による入熱位置を分散させるのに足りるだけジグザグ電路部35を相対移動させうるものであれば良く、例えば、往復動しても良く、振動しても良い。
【0068】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の誘導加熱装置にあっては、細長い良導体を繰り返し反転曲折させて誘導子を形成することにより、能率重視の一括方式の誘導加熱であるにも拘わらず被加熱部内各部への入熱密度を被加熱部の形状に関係なく概ね均等化した誘導加熱が可能となる。たとえば、短手方向での反転曲折を長手方向に繰り返すようにもしたことにより、帯状被加熱部の幅不同への対応が容易かつ適切に行えるようになる。さらには、ピッチを加減することで被加熱部の各部に対する入熱密度の微調整(即ち、入熱分布の微調整)が容易かつ適切に行える。この他、複数の被加熱部の渡り区間などの加熱不所望部が不本意に加熱されてしまうといった事態も容易かつ確実に避けられる。そして、これらの効果は、被加熱部が薄肉の場合に特に有用となるものである。
【0069】
また、これらの誘導加熱装置を使用して行う本発明の薄肉部加熱方法にあっては、誘導加熱を行う際に、被加熱部の熱歪変形に追随してスペーサが変形し更に誘導子も追随して変形するようにもしたことにより、被加熱部の誘導加熱中の歪み変形に対しても的確に適合して部位別に入熱の狂いを生じない安定した誘導加熱が行えるようになる。さらには、誘導加熱を行う際に、誘導子等を反転曲折の繰り返し方向へ限定的に動かして、入熱位置を分散させるようにもしたことにより、入熱が縞状であっても、被加熱部の加熱状態や温度分布が十分に平坦化される。更に又、上記とは逆に誘導子を実質的に固定した状態で用いる手法を積極的に採用して縞状焼入れなどに有用な縞状加熱を行うこともできる。
したがって、本発明によれば、一括方式での誘導加熱でも多様に適合しうる誘導加熱装置および薄肉部加熱方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の一実施形態について、(a)が誘導加熱装置の模式図、(b)が焼き入れ対象の金属製部材の斜視図、(c)〜(e)が細長い良導体の断面斜視図、(f)が誘導子の斜視図である。
【図2】誘導加熱装置の概要回路図である。
【図3】その使用状況を示し、(a)がジグザグ電路部の電流例、(b)が被加熱部の拡大平面図である。
【図4】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導子の構造を示し、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が斜視図、(d)が誘導電流の経路を示す図である。
【図5】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導子等の構造を示し、(a)が誘導子34の斜視図、(b)が誘導子34にスペーサ40及び移動機構50を加えたところの正面図、(c)が被加熱部の平面図、(d)が加熱開始時における金属製部材と誘導子との正面図、(e)が加熱終了時における金属製部材と誘導子との正面図である。
【図6】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図、(c)が金属製部材の平面図である。
【図7】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図、(c)が被加熱部の拡大平面図である。
【図8】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図9】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図10】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、加熱位置における金属製部材と誘導子との縦断端面図である。
【図11】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、加熱位置における金属製部材と誘導子との縦断端面図である。
【図12】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が誘導子の簡略斜視図、(b)が金属製部材の平面図、(c)が被加熱部の平面図である。
【図13】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図14】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【符号の説明】
10…金属製部材、
11…被加熱部、12…誘導電流経路、
12a…分散流、12b…局所循環流、
13…発熱部、14…非発熱部、
20…メインコントローラ、23…支持手段、
30…誘導加熱装置、31…通電制御装置、
32…高周波電源、33…給電ケーブル、
34…誘導子、35…ジグザグ電路部、
35a…往路部分、35b…復路部分、
35c…折返し部分、36…引出線部、
40…スペーサ、
50…移動機構、51…固定部材、52…可動部材、
53…吊持部材基部、54…吊持部材進退部、
55…帰還ケーブル、56…電極金具、
60…強磁性部材、
Lb…ピッチ、C…短手方向、D…長手方向
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属製部材の薄肉部を焼入れなどのために加熱するのに適した誘導加熱装置、ならびに、薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱する薄肉部加熱方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車ボディーに用いる鋼板のプレス成形品に対して、その一部領域に焼入れを施してその領域の強度を高めるという強化処理が適用され始めている。そして、上記焼入れのための薄肉の金属製部材の加熱にも、急速加熱の行える直接通電加熱と誘導加熱とがよく用いられる。
前者の直接通電により金属製部材の薄肉部を加熱する手法として、導電部材を二点で接触させて電極とし、高周波通電を行うものが知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
また、後者の誘導加熱方式により薄肉部材を加熱する手法としては、焼入れを施すべき領域が一端部から他端部にかけて連続的に延びているプレス成形品を対象にして中央領域から端部領域に向かうにつれて硬度が次第に低下するよう加熱するものや(例えば特許文献3参照)、自動車のフロントボデーを対象にしてロボットアーム装着の高周波焼入れコイルにより局部的に焼入れ処理を行うものが(例えば特許文献4参照)、知られている。
【0004】
さらに、後者の誘導加熱方式は、焼入領域(被加熱部)の一部の小領域を加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子を焼入れ領域に対してその全範囲に亘り相対移動させる走査方式(移動加熱方式)と、被加熱部の全域を全域同時に加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子を用いて被加熱部全域を一気に加熱する一括方式(一発加熱方式)とに分けられる。上述した二例(特許文献3,4参照)は走査方式に該当する。
一括方式では、被加熱部が例えば帯状に延びた形であれば、この被加熱部の形に合わせた、被加熱部とほぼ同じ幅,長さの帯状の誘導作用部を有する誘導子を臨ませる(対峙・対向させる)形態で誘導加熱が行われている。
【0005】
【特許文献1】
特開2000−336425号公報 (第1頁)
【特許文献2】
特開平11−140537号公報 (第1頁)
【特許文献3】
特開平10−017933号公報 (第1頁)
【特許文献4】
特開平06−116630号公報 (第1頁)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、このような手法には、それぞれ、一長一短がある。先ず、直接通電加熱方式の場合、電力の使用効率が良く、高周波電源やその通電制御を行う制御装置が比較的簡便なもので足りる、といった長所がある一方、通電電極の接触状態の確保や通電範囲(即ち加熱範囲)の規制に工夫を要するといった問題点がある。
【0007】
次に、走査方式の誘導加熱の場合、非接触で通電できるという長所に加えて、走査しながら通電条件や対峙距離を変化させるなどして走査方向の入熱分布を調整でき、しかも、誘導子や電源設備が小さくて済むという長所がある。一方、被加熱部の全域を加熱するのに時間を要するという問題点がある。
【0008】
また、一括方式の誘導加熱の場合、非接触で通電できる長所と、短時間で加熱を済ませることができるという長所がある一方、被加熱部の形によっては入熱密度(即ち昇温)の均一化が難しいという問題点がある。例えば、帯状の被加熱部の幅が長手方向で異なる場合、誘導加熱の入熱量を幅に合わせて加減するというわけにはいかず、このため、被加熱部の幅編成に制約が伴うといった問題点である。これは、被加熱部材が薄肉であるが故に、誘導電流(渦電流)が、板厚方向にではなく板面内に閉ループを描いて循環せざるを得ないことに起因している。すなわち、板面内に流れる誘導電流の板面面積当りの電流密度Iは、誘導電流の流路幅に反比例して小となり更にはその電流流路に沿った電位傾度dE/dlも小となるからI×dE/dlで決まる入熱密度は電流流路の幅の2乗に比例して小となる。すなわち、被加熱部の幅の大小に合わせて誘導電流の電流量を大にするという指向はかなえられないのである。一括方式では、この他、誘導加熱中に起る被加熱部材の一過的な熱歪変形に伴う誘導子−被加熱部間の対峙距離(クリアランス)の分布の変化(この変化によって誘導加熱の入熱分布に微妙な偏倚が生じる)に対して、これを補償するための部位別入熱量調整が前記走査方式とは違って不可能であるという問題点もある。
【0009】
しかしながら、上記問題点さえ解消できれば、非接触で通電できて而も短時間で加熱のできる一括方式誘導加熱の魅力は絶大である。
そこで、薄肉部を対象とした一括方式の誘導加熱を、所望の形状に画定された被加熱部を対象として、その形状に拘わりなく被加熱部内各部への入熱密度を調整でき、更には誘導加熱中の被加熱部材の熱歪変形にも影響されずに行うことのできる技術の提供が課題となる。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく提供された本発明の請求項1記載の誘導加熱装置は、被加熱部の全域を全域同時に誘導加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子と、これに通電を行う高周波電源と、その通電制御を行う制御装置とを備えた誘導加熱装置において、前記誘導子が、繰り返し反転曲折した経路を以て細長い良導体を前記誘導作用部に行き亘るように配したジグザグ電路部を有するものであることを特徴とする。
【0011】
上記本発明装置にあっては、細長い良導体を繰返し曲折反転させて構成したジグザグ電路部が次のように作用する。
先ず、ジグザグ電路部の構成要素である1つのU字状電路は、これと向き合う被加熱部にU字の開口端を閉じたO(オー)字形の経路を以て局部渦電流(局部誘導電流)を誘起させる。また、このU字の両隣に連なる開口部が逆向きのU字状電路は、正向きU字とは逆極性の局部渦電流を誘起する。すなわち、右巻きと左巻きの局部渦電流が、その1辺を両隣の渦と共有する形で代わる代わる生じ、これらによって被加熱部全体が誘導加熱されることになる。
【0012】
そして、この状況における被加熱部内の各部(i番目)のU字状電路Ui に関して、入熱密度ηi =P/S(Pは電力、Sは面積),I∝Ic(Icはコイル(誘導子)電流),E∝La(Laは前記O字の高さ≒U字の高さ≒被加熱部の幅),S=La×Lb(Lbは被加熱部U字幅投影寸法)であるから、P∝Ic×Laとなって、
ηi = P/S ∝ Ic/Lb
すなわち、各部に共通するコイル電流Icの下で、被加熱部の各部位の入熱密度ηi は、被加熱部の幅Laには影響されず、ジグザグ電路部のジグザグのピッチ(前記U字の幅をピッチと定義)に反比例することとなる。
【0013】
よって、被加熱部の幅編成が如何様になされていようとも、一定のジグザグピッチ(即ち、Lai =La0 )とすることで各部入熱密度の均等化が大枠において確保され、更に、ジグザグピッチを自在な編成を以て不等にする(たとえば、加熱されにくい部位や他部よりも高温に加熱した部位のピッチを他部より小さくして入熱密度を高める)ことで、昇温分布の目的に合わせた微調整が行えるのである。
【0014】
更には、細長い良導体を、しかもジグザグに配したことでジグザグ電路部は可撓性を具えたものとなっている。そして、この可撓性は、下記のように前記誘導加熱中の被加熱部の熱歪変形に対し、入熱分布の偏倚を防ぐ対策にも有用なものとなる。
【0015】
すなわち、この発明の請求項6記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その際、前記誘導加熱の最中に生じる前記被加熱部の熱歪変形に追随して変形(撓み変形)しうるように構成した電気絶縁性のスペーサを前記誘導子のジグザグ電路部と前記被加熱部との間に介在させておくことを特徴とする。
【0016】
この場合、誘導加熱によって被加熱部が変形すると、その熱歪変形に追随してスペーサが変形するとともに、これに追随して誘導子のジグザグ電路部も変形して被加熱部との対峙間隔が一定に維持される。
これにより、誘導加熱中に被加熱部の熱歪変形が生じても、これに伴う入熱条件の変化が防止されて、前記入熱量の偏倚が避けられるのである。
【0017】
また、この発明の請求項7記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の位置を、前記被加熱部に対して相対的に、前記ジグザグ電路部における前記細長い良導体の反転曲折の繰り返し方向に変動(たとえば相対的な微小移動や微小位置替え或いは振動や揺動や往復寸動)させて前記誘導加熱による入熱位置を分散させることを特徴とする。
【0018】
この場合、ジグザグ電路部の存在によって入熱が縞状になっても、前記位置変動によって誘導子と被加熱部との相対位置がずれることで、入熱位置が分散して、被加熱部の加熱状態や温度分布が十分に平坦化される。なお、誘導子の相対移動距離は反転曲折の1ピッチ以下でも足りるので、誘導子および金属製部材の何れか一方または双方を動かすようにしても、入熱処理が短時間で済むといった一括方式の魅力が損なわれることは無い。
【0019】
また、この発明の請求項8記載の薄肉部加熱方法は、薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の前記被加熱部に対する相対的な位置関係を実質的に固定しておくことで、前記誘導加熱による入熱位置を縞状に分布させることを特徴とする。
【0020】
なお、ここで云う「実質的に固定」とは、上記相対的な位置関係を全く変えないか、又は、上記位置関係の変動を、ジグザグ電路部由来の縞状入熱の位置が各縞相互間で干渉しない程度(即ち、入熱縞の太さが増す程度)に留める処置を指すものとする。
上記構成によれば、最高温部が縞状に分布した加熱状態(縞状加熱)が実現される。この手法は、たとえば、プレス成形品に縞状の焼入を施して縞状の強度分布(圧潰エネルギー吸収能向上目的など)を得たいときに有用となる。上記縞状入熱の縞の方位を、目的に応じて縦/横いずれとしてもよいことは、云うまでもない。
【0021】
【発明の実施の形態】
このような本発明の具体的な実施形態を、図面を参照しながら、幾つか説明する。なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、筐体パネルや,ベース,フレーム,ボルト等の締結具,ヒンジ等の連結具などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心に図示した。
【0022】
図1〜図3に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の一実施形態について、先ず誘導加熱装置の構造を説明する。図1は、(a)が誘導加熱装置の模式図、(b)が焼き入れ対象の金属製部材の斜視図、(c)〜(e)が細長い良導体の断面斜視図、(f)が誘導子の斜視図である。また、図2は、誘導加熱装置の概要回路図である。なお、図1(a)において、誘導加熱装置の構成部材は実線で示し、それ以外の関連部材は二点鎖線や一点鎖線で示した。
【0023】
誘導加熱装置30は(図1(a),図2参照)、金属製部材10に対する誘導加熱を行うために、通電制御装置31と高周波電源32と給電ケーブル33と誘導子34とを具えている。ここでは(図1(a)参照)、誘導子34が給電ケーブル33を介して高周波電源32から給電を受け、その給電条件はLAN等を介してメインコントローラ20から指令を受けた通電制御装置31によって制御されるようになっている。
【0024】
金属製部材10は(図1(b)参照)、焼き入れ対象となる薄肉部を有し、その薄肉部に被加熱部11が帯状に画定されている。金属製部材10は、実際には成形品であることが多く、また被加熱部11以外の部位まで薄肉であるとは限らないが、ここでは、分かり易いよう、金属製部材10として矩形の薄板を例示し、被加熱部11として帯状(長方形状)の領域を図示した。薄肉部の厚さは、自動車ボディー部材への焼入れを例にとれば、0.6〜3.2mmである。金属製部材10の材質としては、炭素鋼や,低合金鋼,ステンレス鋼などが挙げられる。また、上記部材に、亜鉛めっき等の金属被覆あるいは母材との合金化処理が施されていてもよい。被加熱部11の寸法(mm)は、例えば、20×200 〜100×1000程度であるが、上記部材の用途、諸仕様ともに限定されない。
【0025】
誘導子34は、細長い良導体(細径導体)からなり、断面形状は丸形でも(図1(c)参照)角形(図1(d),(e)参照)でも良く、その何れについても等方状でも(図1(c),(d)参照)扁平状(図1(e)参照)でも良く、大抵、冷却水を通すため中空になっている。また、良導体としては、外径寸法(mm)が、等方状の場合で2×2 〜 15×15、扁平状の場合で2×10 〜8×30程度(可撓性を特に重視するときは2×2 〜 6×6、又は2×10 〜 6×30程度)の銅製や真ちゅう製のものが適している。ジグザグ形状への加工は、管材の曲げ加工や管材・板材切り出し片のろう接組立などによって行える。
誘導子34は(図1(f)参照)、繰り返し反転曲折した形状のジグザグ電路部35を主体とするものであり、それに給電端として一対の引出線部36も付いている。
【0026】
ジグザグ電路部35は(図1(f)参照)、ピッチLbで何回か反転曲折することで形成される。この例では、短手方向Cでの反転曲折を約15mmのピッチLbを以て長手方向Dに数十回(図示したのは数回の例)ほど繰り返して形成されている。ジグザグ電路部35の形状は、被加熱部11の形状に概ね対応しており、この例では、被加熱部11が細長い長方形なので、ジグザグ電路部35は、それに概ね対応した長方形状になっている。ピッチLbは、良導体の太さや材質さらには被加熱部11のサイズ等にもよるので一概には言えないが、例えば、6〜30mm程度に選定される。因に、前記ろう接組立方式によるならば、上記ピッチに占める良導体幅の比率を大にしたジグザグ電路部形態(即ち、前記U字の内寸を小とした形態)も実現しうる。
【0027】
こうして形成されたジグザグ電路部35は、上述のような形態で細長い良導体をジグザグ配置したことにより、被加熱部11のほぼ全域と対峙可能な形状になっている。そのため、このジグザグ電路部35は総てが誘導作用部として機能するものとなっている。
【0028】
誘導加熱装置30における他の部材は(図2,図1(a)参照)、基本的に公知のもので足りるので、ここでは概要を述べる。
通電制御装置31は、高周波電源32から誘導子34へ供給される高周波の通電制御をどのような状況にも柔軟に適応して適切に行うためにプログラマブルなコンピュータやシーケンサ等からなり、高周波電源32の出力段回路等を制御して、通電のパワーや時間スケジュールを調整する。
【0029】
高周波電源32からは、所期の通電周波数たとえば5kHz〜200kHz程度の高周波交流が通常はトランスを介して誘導子34に供給されるが、本発明装置のように細長い良導体をジグザグに配したことでインダクタンスが特に大きい誘導子を用いるケースでは、高周波トランス32cが不要となることもある。
給電ケーブル33は、一端が高周波トランス32cの二次側に接続され他端が誘導子34の引出線部36に接続された高周波用ケーブルであり、冷却のため図示しない給水ユニットから給水を受けるようになっていて、誘導子34への高周波通電に加えて給水も仲介するようになっている。
【0030】
このような誘導加熱装置30を使用して行う薄肉部加熱方法および誘導加熱装置30の動作等を説明する。図3は、誘導加熱装置30の使用状況を示し、(a)がジグザグ電路部35のコイル電流例、(b)が被加熱部11の拡大平面図である。
【0031】
誘導子34のジグザグ電路部35と金属製部材10の被加熱部11とを電磁誘導可能な距離(たとえば2〜10mm)を保って対峙・対向させ、その状態で誘導加熱装置30を作動させると、通電制御装置31の制御に従って所定時間だけ所定の高周波交流が高周波電源32から給電ケーブル33を介して誘導子34へ給電される。そして、この誘導子34のジグザグ電路部35への高周波通電に応じて(図3(a)参照)、金属製部材10に誘導電流が生じる。その誘導電流経路12は以下のようになる(図3(b)参照)。
【0032】
すなわち、ジグザグ電路部35の構成要素である1つのU字状電路は、これと向き合う被加熱部にU字の開口端を閉じたO(オー)字形の経路を以て局部渦電流(局部誘導電流)を誘起させる。また、このU字の両隣に連なる開口部が逆向きのU字状電路は、正向きU字とは逆極性の局部渦電流を誘起する。すなわち、右巻きと左巻きの局部渦電流が、その1辺を両隣の渦と共有する形で代わる代わる生じ、これらによって被加熱部11全体が誘導加熱されることになる。そして、この状況における被加熱部11内の各部位の入熱密度ηi は、上述したように、被加熱部の幅すなわちジグザグ電路部35の幅Laには影響されず、ジグザグ電路部35のジグザグのピッチLbに反比例することとなる。
【0033】
このように誘導子34を被加熱部11に臨ませてこれに高周波通電することで誘導加熱が行なわれると、前記局部渦電流に対応した誘導加熱入熱がなされて、被加熱部11には、誘導電流経路12に対応して複数条の昇温帯が縞条に並んだ発熱部が発現し、昇温帯間などの残部が非発熱部となる。そして、通電停止後、金属製部材10は、温度平坦化期間の経過を経て、被加熱部11における温度分布が十分に平坦化される。すなわち、非発熱部も発熱部からの伝熱によって焼入れ条件に適う目標加熱温度に達するので、被加熱部11の全域が焼入れ温度に達した状態となる。
【0034】
ここで、上記の温度平坦化期間は、前述したピッチLb(すなわち昇温帯間距離)の半分と被加熱部11(金属製部材10における薄肉部)の伝熱特性とに基づいて定まるものであり、発熱部と非発熱部とがそれぞれ温度の下降と上昇とを起こして焼入れ可能な目標加熱温度たとえば900±30℃に達する。そして、この温度差緩和の所要時間は、大抵1秒〜1分ほどの、さほど長くない時間で済む。特に、前記U字の内寸を小さく(例えば2〜4mmに)したジグザグ電路部の場合は、上記温度差緩和の所要時間は
1秒〜数秒程度で事足りる。
【0035】
また、そのような高周波通電を行う際の通電周波数は、2〜200kHz程度とすることが望ましい。これより低いと無駄な電力消費が多くなり、これより高いと設備コストが嵩んでくる他、入熱の集中度が大となり過ぎて前記縞状に並んだ発熱部が極く際立って現れる傾向となり、前記温度差の緩和が容易でなくなる。因に、ジグザグ電路部を構成する前記U字のピッチ(即ち、相互逆極性誘導電流間の芯−芯間隔)が大き目(たとえば20〜30mm)のときには2〜20kHzといった低目の周波数が適し、小さ目(たとえば10mm前後)のときには20〜200kHzといった高目の周波数が適する。但し、これらは目安であり、最適周波数は実験的に或いは経済性を総合して選定されることが望ましい。なお、特に高目の周波数を選定した際の、効率面等における要請として、誘導作用部−被加熱部間の間隔(クリアランス)をなるべく小さくするという要請がある。本発明においても、この要請は然りであり、本発明におけるジグザグ電路部35と被加熱部11の間隔は少なくとも前記ジグザグのピッチを超えない値に選定されることが望ましい。
【0036】
図4に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導加熱装置の構造を説明する。図4は、誘導子の構造を示し、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が斜視図、(d)は、この誘導子による誘導電流の経路を示す図である。
この図4の誘導子34が上述した図1のものと相違するのは、ジグザグ電路部35が長手方向Dでの反転曲折を短手方向Cに繰り返して形成されていることである。反転曲折の回数が減っているが、ピッチLbはほぼ同じに保たれている。縞模様をなす並走方向の縦横は異なっているが、ジグザグ電路部35の全体形状が、被加熱部11の形状に概ね対応していることや、ジグザグ電路部35がそのまま誘導作用部となっている点は同じである。
そのため、誘導電流経路12の縞模様や局部渦電流の向きや長さがジグザグ電路部35のジグザグ形状に対応して変わるものの、前記入熱密度の均等化が大枠確保される点は図1の形態と同じである。
【0037】
図5に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、先ず誘導加熱装置の構造を説明する。図5は、誘導子等の構造を示し、(a)が誘導子34の斜視図、(b)が誘導子34にスペーサ40及び移動機構50を加えたところの正面図である。
【0038】
この図5の誘導加熱装置が上述した図1のものと相違するのは、誘導子34にスペーサ40と移動機構50とが追加されていることである。
誘導子34は(図5(a)参照)、上述した図1のものと同様のものであり、長手方向Dの曲げ剛性が小さいため、ジグザグ電路部35が正面視で山なりに変形しやすくなっている。
スペーサ40は(図5参照(b))、例えばアルミナ繊維などの耐熱性に優れ而も変形容易な電気絶縁性素材からなり、厚さ一定のシート状あるいは網状あるいは暖簾状に形成されて、ジグザグ電路部35の下に装着される。その厚さはジグザグ電路部35と金属製部材10との対峙距離と同じにされて、ジグザグ電路部35と金属製部材10とに挟まれると、両者の間隙を埋め、さらにその状態で金属製部材10が変形すると、それに追随してスペーサ40が変形するとともにジグザグ電路部35も追随変形させるようになっている。その結果、ジグザグ電路部35による誘導作用が上記対峙間隔の狂いによって部位別に偏倚するという事態が避けられる。
【0039】
移動機構50は(図5参照(b))、加熱ユニットの天板等に固定された固定部材51と、これに装着され図示しない電動モータ等での駆動により長手方向DにピッチLbの半分以上水平移動しうる可動部材52と、可動部材52の両端に一組ずつ設けられた吊持部材基部53及び吊持部材進退部54とを具えている。吊持部材進退部54は、前進方向(図では下方へ突き出る方向)へバネ力等にて軽く付勢されており、反力を受けると吊持部材基部53側へ後退する。さらに図示しない電動モータ等での駆動によっても後退するようになっている。このような吊持部材進退部54の先端・下端がジグザグ電路部35の長手方向D両端に取り付けられて、移動機構50は、金属製部材10の間欠移動および挟持を可能にすべくジグザグ電路部35及びスペーサ40を昇降させるとともに、ジグザグ電路部35及びスペーサ40を金属製部材10に軽く押しつけながら長手方向Dに微小移動あるいは微小揺動させるものとなっている。
【0040】
なお、上例では、被加熱部に対する誘導子34の進退、あるいは、被加熱部に対するジグザグ電路部35の、長手方向Dに係る位置関係の相対的変動(移動,揺動等)を、誘導子34の方を動かして行っているが、逆に、金属製部材10(或いは、これを支持している支持手段23)の方を動かして行うようにしてもよい。
【0041】
このような誘導加熱装置を使用して行う薄肉部加熱方法および誘導加熱装置の動作等を説明する。図5(c)〜(e)は、誘導加熱装置の使用状況を示し、(c)が被加熱部11の平面図、(d)が加熱開始時における金属製部材10と誘導子34との正面図、(e)が加熱終了時における金属製部材10と誘導子34との正面図である。
【0042】
高周波通電の継続期間内にジグザグ電路部35を、被加熱部に対して、長手方向DにピッチLb相当距離程度の変位を以て相対移動あるいは相対揺動させると、被加熱部11のほぼ全域が誘導電流経路(図示12の何れか)上に在ったという履歴に当る(図5(c)参照)。このように誘導子34が動くことにより、入熱位置が分散して、被加熱部11の加熱状態や温度分布が十分に平坦化されるので、この場合は、温度平坦化期間の経過を待つ必要が無く、その算出を行う必要も無い。そのため、速やかに冷却することが可能となるうえ、目標加熱温度を超えて加熱する必要も無くなる。
【0043】
また、上記とは逆に、ジグザグ電路部35の被加熱部に対する位置関係を実質的に固定した状態で高周波通電して入熱位置を集中させた誘導加熱を行うとジグザグ電路部35の形態に対応した縞状加熱が実現される。この縞状加熱は、前述のように、圧潰エネルギー吸収能を向上させるための縞状の焼入れなどに有用なものとなる。
【0044】
図6に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図6は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図、(c)が金属製部材10の平面図である。
【0045】
この金属製部材10には帯状の被加熱部11が一本だけでなく二本も画定されている(図6(a)参照)。それに対応して、ジグザグ電路部35も、往路部分と復路部分との二本に分かれて形成され、それぞれの部分において細長い良導体が繰り返し反転曲折した形状になっている(図6(b)参照)。この例では、被加熱部11がほぼ等距離で並走する領域に完全分離されているのに対し、ジグザグ電路部35の往路部分と復路部分は直列に接続された状態となる。高周波通電なので何れが往路で何れが復路かは本質的でないが、誘導子34において一方を往路としたとき他方が復路になるよう往復路が接続されている。
【0046】
この場合(図6(c)参照)、並走する二本の誘導電流経路12が金属製部材10に発現し、いずれも開路となるが、一方の終端と他方の始端との間、及び他方の終端と一方の始端との間に、すなわち渡り区間に当る領域に、紡錘状に広がって明確な経路を持たない分散流12aが流れるので、全体としては閉路となって、この閉路に由来する誘導加熱作用も存在はする。しかしながら、何れの被加熱部11も前記局部渦電流の作用によって的確に誘導加熱されて目標加熱温度まで昇温する一方、上記全体的な閉路に由来する誘導加熱作用は、その受持ち領域が広大であるのに比して、上記誘導作用をもたらす電流量は各局部の渦電流の2倍の電流量に過ぎないため、金属製部材10における被加熱部11以外のところ(即ち加熱不所望部)は、分散流12aの通過部位(上記渡り区間)も含めて、低い温度にとどまる。
こうして、この場合も、被加熱部11だけが適切に加熱されて、焼入れ処理が適切に進行する。
【0047】
図7に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図7は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図、(c)が被加熱部11の拡大平面図である。
【0048】
この金属製部材10には細長い被加熱部11が一本しか画定されていないが(図7(a)参照)、ジグザグ電路部35は(図7(b)参照)、寄り添って並走する二本の往路部分と復路部分とからなる。何れの部分も、細長い良導体が繰り返し反転曲折した形状になっている。
この場合は(図7(c)参照)、往路部分と復路部分とが近接しているので、ジグザグ電路部35のうちU字の開口端が対向しているところでは、誘導電流経路12に関して、往路側と復路側の局部渦電流が繋がって長い局部渦電流になることもあるが、この場合も、上述したのと同様にして、やはり被加熱部11の全域が誘導加熱される。
【0049】
図8に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図8は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0050】
この金属製部材10が上述した図7のものと相違するのは、被加熱部11がテーパ状に画定されている点である。具体的には(図8(a)参照)、長手方向に見て、一方の幅(図では右端の幅)が他方の幅(図では左端の幅)より広くなっている。
このような被加熱部11に対応して、往復路からなるジグザグ電路部35も、平面で見た包絡線形状がほぼ同じテーパ状になるよう、幅を変えながら反転曲折を繰り返して形成される(図8(b)参照)。ピッチLbは同じままである。
この場合、被加熱部11がテーパ状であっても、被加熱部11のほぼ全域がカバーされる。それでいて、ピッチLbが一定に保たれているので、幅広のところも幅狭のところも含めて被加熱部11の全域が概ね均一に加熱される。
【0051】
図9に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図9は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0052】
この金属製部材10が上述した図8のものと相違するのは、テーパ状に画定されている被加熱部11において(図9(a)参照)幅狭のところ(図では左方)よりも幅広のところ(図では右方)を高温にしなければならないという点である。
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図9(b)参照)、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる(Lb=Lb1)一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる(Lb=Lb2。但し、Lb1>Lb2)。
【0053】
このようにジグザグ電路部35における反転曲折のピッチを不等にしたことにより、テーパ状の被加熱部11に対して、幅狭のところよりも幅広のところに高い密度で入熱が行われる。
こうして、ピッチの広狭に基づいて入熱分布が調整されるので、被加熱部11がテーパ状であっても矩形のときと同じく容易に、入熱分布を調整することができる。
【0054】
図10に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図10は、加熱位置における金属製部材10と誘導子34との縦断端面図である。
【0055】
このジグザグ電路部35は、後背側(すなわち金属製部材10と向き合わない側)に強磁性部材60が添えられている。強磁性部材60としては、例えば、フェライト(鉄系酸化物)あるいは珪素鋼板を用いる。この例では、ジグザグ電路部35のうち反転曲折ピッチの小さいところの後背側には強磁性部材60が添えられ反転曲折ピッチの大きいところの後背側には強磁性部材60が添えられていない。しかも、強磁性部材60は、ジグザグ電路部35のうち反転曲折ピッチの大きいところに近い方で(図では中間位置で)薄く、反転曲折ピッチの小さいところの端で(図では右端で)厚くなっている。
【0056】
この場合、ジグザグ電路部35のピッチが例え同じままであっても強磁性部材60の磁性に応じて誘導電流が増加するので、強磁性部材60の添付されているところは入熱が増強される。特に強磁性部材60が厚いところほど、入熱密度が高くなる。
これにより、ジグザグ電路部35を加工可能な最小ピッチで反転曲折して達しうる限界を超えて、被加熱部11への入熱分布を調整することができる。もちろん、ピッチの広狭に基づく入熱分布の調整と併用するのも可能である。
【0057】
図11に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図11は、加熱位置における金属製部材10と誘導子34との縦断端面図である。
【0058】
このジグザグ電路部35にも入熱分布調整のため強磁性部材60が添付されているが、上述のものとは添付の具体的態様が異なる。すなわち、強磁性部材60は、多数の小片に分かれており、それぞれの小片は、ジグザグ電路部35において多数並走する良導体の間隙に入り込んでいる。
この場合、ピッチの広いところには断面積の比較的小さな強磁性部材60片がセットされ、ピッチの狭いところには断面積の比較的大きな強磁性部材60片がセットされる。
これにより、ピッチの広狭に基づく入熱分布の調整と強磁性部材添付に基づく入熱分布の調整とが併用されて、入熱分布の調整機能が向上する。なお、図示のようにスペーサ40を併用すると、強磁性部材60の保持や位置合わせも、容易かつ正確に行える。
【0059】
図12に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図12は、(a)が誘導子34の簡略斜視図、(b)が金属製部材10の平面図、(c)が被加熱部11の拡大平面図である。
この誘導子34が上述した図1や図5のものと相違するのは、引出線部36だけでなくジグザグ電路部35における折返し部分35cも誘導作用喪失側(すなわち金属製部材10から遠ざかる方)に迂回するよう曲がっている点である(図12(a)参照)。
【0060】
この場合、金属製部材10の被加熱部11と対峙するジグザグ電路部35のうち誘導作用部として有効に電磁誘導の役割を果たすのは(図12(b)参照)、短手方向に走る短い直線部分であり、これがピッチLbで離れた状態で長手方向に多数並ぶこととなる。そのため(図12(c)参照)、主たる誘導電流経路12が短手方向に多数並走する短線状の開路群になるが、それらの開路で電流の向きが交互に反転するので、隣り合う開路の間では局部渦電流相当の局所循環流12bが分散して流れる。この局所循環流12bは、誘導電流経路12の電流のほぼ半分であり、両側の電流を合わせると帰還分に相当する。これにより、被加熱部11が薄肉部材に画定された細長い一塊りの領域であっても、明確な電流閉路は形成されないが、被加熱部11のほぼ全域に分散して誘導電流か帰還電流が流れるので、やはり適切な誘導加熱が行われる。
【0061】
図13に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図13は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
この金属製部材10が上述した図12のものと相違するのは(図13(a)参照)、被加熱部11がテーパ状に画定されている点と、テーパ状に画定されている被加熱部11において幅狭のところよりも幅広のところを高温にすることが求められている点である。
【0062】
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図13(b)参照)、並走する多数の短直線部分が、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる(Lb=Lb1)一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる(Lb=Lb2)。
この場合、折返し部分35cが誘導作用喪失側に曲がって迂回しているので、被加熱部11にはジグザグ電路部35の反転曲折の不等ピッチに対応した分布で入熱が行われ、図9の場合と同様に被加熱部11がテーパ状であっても適切な誘導加熱がなされる。しかも、被加熱部11が図9のときより細くても、容易に適合させることが出来、被加熱部11の全域を的確にカバーする。
【0063】
図14に示した本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態を説明する。図14は、(a)が金属製部材10の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材10と誘導子34との平面図である。
【0064】
この金属製部材10が上述した図1や図5のものと相違するのは(図14(a)参照)、被加熱部11がテーパ状に画定されている点と、テーパ状に画定されている被加熱部11において幅狭のところよりも幅広のところを高温にすることが求められている点である。
【0065】
このような被加熱部11に対応して、ジグザグ電路部35は(図14(b)参照)、幅狭のところ(図では左方)でピッチLbが広げられる一方、幅広のところ(図では右方)でピッチLbが狭められる。
【0066】
【その他】
なお、上記の各実施形態では、ジグザグ電路部35が平面状になっていたが、ジグザグ電路部35の形状は、これに限られる訳では無い。ジグザグ電路部35は被加熱部11に適合して形成されるので、図示等は割愛したが、被加熱部11が曲折面や湾曲面の場合、ジグザグ電路部35も曲折面や湾曲面に形成される。平面の場合でも、上述した矩形状かテーパ状に限られるものでなく、例えば中太り形状やS字状など他の形状もあるうる。
また、本発明の適用は焼入れのための加熱に限らず、焼戻しや整粒調質など他の熱処理のための加熱、あるいは、歪取りなどのための加熱にも、本発明を適用することができる。
【0067】
さらに、上記の各実施形態では、通電時間を一定の固定期間にしたが、これは説明の簡明化のためであり、通電時間は可変であっても良い。例えば、目標加熱温度と気温等との温度差に基づいて通電時間を算定するようにしても良く、発熱部13の温度等を計測して通電を停止するようにしても良い。
また、移動機構50も、上述した一例に限られる訳でなく、誘導加熱による入熱位置を分散させるのに足りるだけジグザグ電路部35を相対移動させうるものであれば良く、例えば、往復動しても良く、振動しても良い。
【0068】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明の誘導加熱装置にあっては、細長い良導体を繰り返し反転曲折させて誘導子を形成することにより、能率重視の一括方式の誘導加熱であるにも拘わらず被加熱部内各部への入熱密度を被加熱部の形状に関係なく概ね均等化した誘導加熱が可能となる。たとえば、短手方向での反転曲折を長手方向に繰り返すようにもしたことにより、帯状被加熱部の幅不同への対応が容易かつ適切に行えるようになる。さらには、ピッチを加減することで被加熱部の各部に対する入熱密度の微調整(即ち、入熱分布の微調整)が容易かつ適切に行える。この他、複数の被加熱部の渡り区間などの加熱不所望部が不本意に加熱されてしまうといった事態も容易かつ確実に避けられる。そして、これらの効果は、被加熱部が薄肉の場合に特に有用となるものである。
【0069】
また、これらの誘導加熱装置を使用して行う本発明の薄肉部加熱方法にあっては、誘導加熱を行う際に、被加熱部の熱歪変形に追随してスペーサが変形し更に誘導子も追随して変形するようにもしたことにより、被加熱部の誘導加熱中の歪み変形に対しても的確に適合して部位別に入熱の狂いを生じない安定した誘導加熱が行えるようになる。さらには、誘導加熱を行う際に、誘導子等を反転曲折の繰り返し方向へ限定的に動かして、入熱位置を分散させるようにもしたことにより、入熱が縞状であっても、被加熱部の加熱状態や温度分布が十分に平坦化される。更に又、上記とは逆に誘導子を実質的に固定した状態で用いる手法を積極的に採用して縞状焼入れなどに有用な縞状加熱を行うこともできる。
したがって、本発明によれば、一括方式での誘導加熱でも多様に適合しうる誘導加熱装置および薄肉部加熱方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の一実施形態について、(a)が誘導加熱装置の模式図、(b)が焼き入れ対象の金属製部材の斜視図、(c)〜(e)が細長い良導体の断面斜視図、(f)が誘導子の斜視図である。
【図2】誘導加熱装置の概要回路図である。
【図3】その使用状況を示し、(a)がジグザグ電路部の電流例、(b)が被加熱部の拡大平面図である。
【図4】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導子の構造を示し、(a)が平面図、(b)が正面図、(c)が斜視図、(d)が誘導電流の経路を示す図である。
【図5】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の他の実施形態について、誘導子等の構造を示し、(a)が誘導子34の斜視図、(b)が誘導子34にスペーサ40及び移動機構50を加えたところの正面図、(c)が被加熱部の平面図、(d)が加熱開始時における金属製部材と誘導子との正面図、(e)が加熱終了時における金属製部材と誘導子との正面図である。
【図6】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図、(c)が金属製部材の平面図である。
【図7】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図、(c)が被加熱部の拡大平面図である。
【図8】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図9】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図10】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、加熱位置における金属製部材と誘導子との縦断端面図である。
【図11】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、加熱位置における金属製部材と誘導子との縦断端面図である。
【図12】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が誘導子の簡略斜視図、(b)が金属製部材の平面図、(c)が被加熱部の平面図である。
【図13】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【図14】本発明の誘導加熱装置および薄肉部加熱方法の更に他の実施形態について、(a)が金属製部材の平面図、(b)が加熱位置における金属製部材と誘導子との平面図である。
【符号の説明】
10…金属製部材、
11…被加熱部、12…誘導電流経路、
12a…分散流、12b…局所循環流、
13…発熱部、14…非発熱部、
20…メインコントローラ、23…支持手段、
30…誘導加熱装置、31…通電制御装置、
32…高周波電源、33…給電ケーブル、
34…誘導子、35…ジグザグ電路部、
35a…往路部分、35b…復路部分、
35c…折返し部分、36…引出線部、
40…スペーサ、
50…移動機構、51…固定部材、52…可動部材、
53…吊持部材基部、54…吊持部材進退部、
55…帰還ケーブル、56…電極金具、
60…強磁性部材、
Lb…ピッチ、C…短手方向、D…長手方向
Claims (8)
- 被加熱部の全域を全域同時に誘導加熱できる大きさの誘導作用部を有する誘導子と、これに通電を行う高周波電源と、その通電制御を行う制御装置とを備えた誘導加熱装置において、前記誘導子が、繰り返し反転曲折した経路を以て細長い良導体を前記誘導作用部に行き亘るように配したジグザグ電路部を有するものであることを特徴とする誘導加熱装置。
- 前記細長い良導体が、前記誘導作用部短手方向での反転曲折を長手方向に繰り返していることを特徴とする請求項1記載の誘導加熱装置。
- 前記細長い良導体の反転曲折のピッチが不等であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の誘導加熱装置。
- 前記ジグザグ電路部が、往路部分と復路部分とに分かれていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の誘導加熱装置。
- 前記ジグザグ電路部における前記細長い良導体の折返し部分が誘導作用喪失側に迂回していることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の誘導加熱装置。
- 薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その際、前記誘導加熱の最中に生じる前記被加熱部の熱歪変形に追随して変形しうるように構成した電気絶縁性のスペーサを前記誘導子のジグザグ電路部と前記被加熱部との間に介在させておくことを特徴とする薄肉部加熱方法。
- 薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の位置を、前記被加熱部に対して相対的に、前記ジグザグ電路部における前記細長い良導体の反転曲折の繰り返し方向に変動させて前記誘導加熱による入熱位置を分散させることを特徴とする薄肉部加熱方法。
- 薄肉部を有する金属製部材の前記薄肉部に細長く画定された被加熱部を誘導加熱により入熱して加熱する薄肉部加熱方法において、請求項1乃至請求項5の何れかに記載の誘導加熱装置の前記誘導子を前記被加熱部に臨ませてこれに高周波通電することで前記誘導加熱を行い、その間、前記誘導子の前記被加熱部に対する相対的な位置関係を実質的に固定しておくことで、前記誘導加熱による入熱位置を縞状に分布させることを特徴とする薄肉部加熱方法。
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