JP2004353045A - 硼化物系サーメット溶射用粉末 - Google Patents
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Abstract
【課題】高硬度で耐摩耗性、耐熱性、耐熱衝撃性および靭性に優れ、かつ、溶融金属に対する耐食性をさらに向上させたサーメット溶射被膜を形成しうる硼化物系サーメット溶射用粉末を提供する。
【解決手段】質量比にて、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなる。Wの含有量は75.0質量%以上である。WとBとの合計量が質量比にて80.0〜89.5%、CoとCrとMoとの合計量が質量比にて10.5〜20.0%となる。
【選択図】 なし
【解決手段】質量比にて、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなる。Wの含有量は75.0質量%以上である。WとBとの合計量が質量比にて80.0〜89.5%、CoとCrとMoとの合計量が質量比にて10.5〜20.0%となる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーメット溶射被膜を生成するためのサーメット溶射用粉末に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、産業の発展に伴って、産業用機械等の高性能化、高精度化、多様化およびエネルギーコストの低廉化が進むにつれて、溶射材料に金属とセラミックスを成分とする材料を用いてサーメット被膜を形成するサーメット溶射被覆層に対する要求性能はますます厳しくなり、以前にも増して優れた性能を必要とされている。
【0003】
従来、サーメット溶射被覆層(以下、「被覆層」または「溶射被膜」という。)として施されている材料は使用温度によって異なるが、常温から500℃までの温度範囲における代表的な材料は、タングステンカーバイド・コバルト(WC−Co)系やタングステンカーバイド・ニッケル(WC−Ni)系の材料であり、また、これより高い900℃までの高温域における代表的な材料は、クロムカーバイド・ニッケルクロム(Cr3 C2 −NiCr)系やクロムカーバイド・ニッケル(Cr3 C2 −Ni)系の材料である。
【0004】
これらの被覆層は、それぞれの目的に応じた硬度と、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性などを有している。
【0005】
しかし、最近の産業の発展に伴いサーメットの使用環境が多様化するにつれて、これらの特性がさらに優れた材料が望まれており、かつ、さらに耐熱衝撃性、靭性、耐溶融金属腐食性を兼ね備えた被膜材料の開発も望まれている。
【0006】
たとえば、自動車等の表面処理鋼板を製造するための高温溶融亜鉛メッキ浴(450〜500℃)や溶融アルミニウムメッキ浴(700〜800℃)に浸漬されて、連続的に通過する鋼板を支持し、案内して該鋼板の表面に均一な亜鉛メッキまたはアルミニウムメッキを被着させるために用いられるシンクロール、サポートロール等を被覆するための被覆層には、単に高い硬度や耐熱性、耐摩耗性を有するのみならず、メンテナンス時(1〜2日周期)の溶融金属浴中からの出し入れに耐えうる耐熱衝撃性、鋼板との摺動に耐えうる靭性、および溶融金属に対する耐食性が要求される。
【0007】
従来型のサーメット溶射被膜のうち、WC−Co系のものは、500℃までの乾燥雰囲気中では、硬度や耐摩耗性は優れているものの、耐食性や耐熱性が低く、特に500℃以上の酸化性雰囲気における耐食性や耐熱性に問題がある。また、Cr3 C2 −NiCr系のものは、900℃の高温域まで耐食性や耐熱性、耐酸化性は維持されるものの、硬度や耐摩耗性に劣る。さらに、これらの被膜は、一般に耐熱衝撃性、靭性および耐溶融金属腐食性が低いため、上述した自動車鋼板用のシンクロール、サポートロール等の被覆層としては剥離しやすく、寿命が短いという問題がある。
【0008】
これに対して、高硬度で、耐摩耗性、耐食性、耐熱性に優れ、かつ、耐熱衝撃性や靭性に対する要求特性をも同時に満足するサーメット溶射被膜を形成するための溶射用粉末として、特許第3134768号公報において、重量比にてB:2.5〜4.0%、Co:15.0〜30.0%、Cr:5.0〜10.0%、Mo:3.0〜6.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成された複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末が開示されている。
【0009】
しかし、この硼化物系サーメット溶射用粉末により形成された溶射被膜は、上述の溶融金属メッキ浴中で使用されるシンクロールやサポートロール等の被覆層として、硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性、靭性については従来のサーメット溶射被膜を凌駕する十分な性能を有しているものの、溶融金属に対する耐食性が短命化への要因となっており、耐溶融金属腐食性のさらなる向上が望まれている。
【0010】
【特許文献1】
特許第3134768号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高硬度で耐摩耗性、耐熱性、耐熱衝撃性および靭性に優れた硼化物系サーメット溶射用粉末による溶射被膜よりも、メッキ浴として使用される亜鉛やアルミニウム等の溶融金属に対する耐食性をさらに向上させたサーメット溶射被膜を形成しうる溶射用粉末を提供する。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による硼化物系サーメット溶射用粉末は、質量比にて、W:75.0〜86.0%、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%、および不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなることを特徴とする。
【0013】
また、質量比にて、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成され、かつ、WとBとの合計量が質量比にて80.0〜89.5%、CoとCrとMoとの合計量が質量比にて10.5〜20.0%である複合粉末組成物からなることを特徴とする。
【0014】
見かけ密度が3.0〜4.0g/cm3 の範囲にあることが好ましく、また、一次粒子用原料粉末としてのWB粒子の平均粒径が1.0〜1.5μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
プラズマ溶射法には、15〜53μm、15〜45μmの粒度範囲のいずれかに、高速ガス炎溶射法には、5〜30μm、5〜38μm、5〜45μmもしくは15〜45μm、15〜53μmの粒度範囲のいずれかに整粒することが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、WB一次粒子の金属結合相であり、CoやCrなどの融点が2000℃以下と低い元素からなるCo−Cr−Mo系合金相の比率を減らし、これに対して融点が3400℃以上と高いWを多く含むWB一次粒子の比率を増やすことにより、溶射被膜と溶融金属との融点の差を広げ、溶融金属との濡れ性を低下させることにより、溶融金属が溶射被膜に容易に付着することを防ぐため、耐食性が向上することを見出した。
【0017】
本発明による硼化物系サーメット溶射被覆層を得るためのサーメット溶射用粉末の構成成分は上記の通りであるが、以下にそれぞれの成分限定理由について説明する。
【0018】
Bは、WおよびCoと結合して複硼化物相を形成するために必要な元素であって、サーメット溶射用粉末におけるBの含有量が3.5質量%未満では、溶射被覆時の熱影響と酸化により溶射被覆層中のB量が2.5質量%未満にまで低下するため、得られた溶射被覆層に十分な硬度と耐摩耗性を付与することができない。一方、5.0質量%を超えると、硬度は高くなるが溶射被覆層の強度(靭性と耐熱衝撃性)が著しく低下する。したがって、溶射用粉末中のB含有量は、3.5〜5.0質量%の範囲が適当である。
【0019】
Wは、Bと同様に複硼化物相を形成するために必要な元素であり、該複硼化物相は、W2 CoB2 で表されるが、サーメット溶射用粉末におけるWの含有量が75.0質量%未満では、溶射被膜としての融点が未だ低く、濡れ性の低下による耐食性の向上が得られない。一方、86.0質量%を超えると濡れ性の低下により耐溶融金属腐食性は向上するが、金属結合相が不足し、靭性や耐熱衝撃性、さらに粉末の溶射付着効率(溶射時の歩留まり)が著しく低下する。したがって、溶射用粉末中のW含有量は、75.0〜86.0質量%の範囲が適当である。
【0020】
Coは、金属結合相形成の主体となる元素であるが、一方において複硼化物相の形成にも欠かせない元素であり、得られた溶射被覆層に高温強度、耐酸化性を付与する効果を有する。サーメット溶射用粉末におけるCoの含有量が8.0質量%未満では、形成される金属結合相と複硼化物相との相互固溶量が少なくなるためにその結合力が低下し、かつ、気孔等の欠陥が発生しやすくなる。一方、12.0質量%を超えると、金属結合相における耐食性を低下させるとともに、複硼化物中において脆弱なCoB等の硼化物が多量に形成するようになるので、溶射被覆層の靭性が低下してしまう。したがって、溶射用粉末中のCoの含有量は、8.0〜12.0質量%の範囲が適当である。
【0021】
Crは、耐食性、耐熱性および耐酸化性に寄与する元素であり、Coと結合して金属結合相を形成し、靭性を向上させる効果を有する。サーメット溶射用粉末におけるCrの含有量が2.0質量%未満では、上記の効果が十分に得られず、また、6.0質量%を超えると、得られた溶射被覆層における耐食性、耐熱性および耐酸化性をさらに向上させるものの、靭性を低下させるので好ましくない。したがって、溶射用粉末中のCrの含有量は、2.0〜6.0質量%の範囲が適当である。
【0022】
Moは、金属結合相を形成するCoとCrとを結合して、該金属結合相の耐食性と強度とをいっそう高めるとともに、さらにはMo2 CoB2 で表される複硼化物を形成するために必要な元素である。サーメット溶射用粉末におけるMoの含有量が0.5質量%未満では、上記の効果が得られず、また、4.0質量%を超えると金属結合相の強度がかえって低下してしまう。したがって、溶射用粉末中のMoの含有量は、0.5〜4.0質量%の範囲が適当である。
【0023】
さらに、本発明の溶射用粉末組成物においては、WとBとの合計量を80.0〜89.5質量%に、また、CoとCrとMoの合計量を10.5〜20.0質量%に規制する。これにより、溶融金属との濡れ性を低下させ、耐食性を向上させることができる。また、上記した本発明の溶射用粉末を製造する場合には、Co、CrおよびMoをそれぞれ単体金属粉末として用いることが肝要である。これらの元素を合金粉末の形態、たとえばステライト合金粉末等の形態で用いた場合には、合金粉末中のCoはWB等の硼化物と結合しがたく、W2 CoB2 複硼化物が形成されにくくなるからである。
【0024】
また、一次粒子用原料粉末として使用されるWB粉末の粒径は、溶射被膜の硬度および耐摩耗性に寄与する。本発明のサーメット溶射用粉末の粒子は、WB粉末をこれらのバインダー的役割を担うCo、Cr、Mo粉末とともに整粒し、焼結することにより、複硼化物としてのW2 CoB2 粒子と、金属結合相であるCo−Cr−Mo系合金相を晶出させたものである。このW2 CoB2 粒子はWB粉末の粒径に比例して大きくなる。そして、その溶射被膜は、W2 CoB2 粒子の一つ一つの表面に均一にCo−Cr−Mo系合金相が被覆されたものとなるのが理想である。WB粒子の平均粒径が1.5μmより大きいとW2 CoB2 粒子間の空孔部が大きくなり、部分的にCo−Cr−Mo系合金相が過多となり、耐熱性、耐摩耗性、耐食性の低下を生じる。一方、1.0μm未満では、W2 CoB2 粒子の比表面積が大きく、Co、Cr、Moの必要添加量が増加し、Co−Cr−Mo系合金相の不足による耐熱衝撃性と靭性の低下を生じる。したがって、一次粒子用原料として使用されるWB粒子の粒径は、1.0〜1.5μmの範囲が適当である。なお、かかるWB粒子の粒径は、空気分級により、粒度範囲を2.0μm以下とすることにより規制することができる。
【0025】
さらに、サーメット粉末の見かけ密度は、W2 CoB2 粒子間の結合力と、サーメット粒子内部の空孔率に影響するものであり、その値が3.0g/cm3 未満であると、W2 CoB2 粒子間の結合力が低く、内部の空孔率も大きいため、母材との衝突時に扁平状にはならずに砕けて周囲に飛散しやすく、形成された被膜もサーメット粒子内部の空孔が残存したものとなるため、耐熱衝撃性の低下を生じる。一方、4.0g/cm3 より高い値であると、その緻密化には2000℃以上の焼結温度が必要となり、WO3 等の脆弱な酸化物が晶出し、さらにはW2 CoB2 が晶出せずにWBがそのまま残存するため、耐熱衝撃性と靭性が低下することから、サーメット粒子としての見かけ密度は、3.0〜4.0g/cm3 の範囲が適当である。なお、かかる見かけ密度は、焼結温度の上昇に伴い高くなり、1350〜1400℃の間で焼結することにより規制できる。
【0026】
本発明の溶射用粉末を用いて基板上にサーメット溶射被膜を形成する方法としては、従来から使用されている、溶射ガンを使用した大気または減圧プラズマ溶射法、もしくは高速ガス炎溶射法を適用できる。通常、プラズマ溶射法には、15〜53μm、15〜45μmの粒径の溶射用粉末が、高速ガス炎溶射法には、5〜30μm、5〜38μm、5〜45μmもしくは15〜45μm、15〜53μmの粒径の溶射用粉末が使用される。これらの粉末が上記の粒度範囲よりも粗い場合には、緻密な溶射被覆層を形成することが困難となり、かつ、加熱不足による溶射粉末の付着歩留まりが低下する。したがって、低硬度および低付着歩留まりの溶射被覆層しか得られず、品質低下やコスト高を招く。また、上記範囲よりも粒度が微細であると、粉末の流動性が低下するとともに、受熱効率の高い微細粉末が溶融して、溶射ガンのノズル内面に堆積するために、溶射作業性が著しく損なわれる。
【0027】
以下に、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
【実施例】
[実施例1]
Bを5.6質量%含有するWB粉末(平均粒径1.2μm)、Co粉末(平均粒径1.5μm)、Cr粉末(平均粒径1.5μm)およびMo粉末(平均粒径1.5μm)をそれぞれ85質量%、10質量%、3質量%および2質量%採取し、ステンレス鋼製容器に入れて振動ボールミル内で24時間湿式にて粉砕混合した。
【0029】
該容器から取り出したスラリーを非酸化性雰囲気中において噴霧乾燥して、造粒した後、真空中で焼結して得られた粉末を回収し、これを空気分級機によって5〜45μmの粉末に整流して溶射用粉末を調整した。なお、見かけ密度は、焼結温度を1360℃とすることにより調整し、JISZ2504と記載の金属粉末の見かけ密度測定方法により測定した結果、3.6g/cm3 であった。また、WB粒子の平均粒径は、粉砕粉を空気分級により2.0μm以下とすることにより調整し、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した結果、1.2μm以下であった。得られた溶射用粉末の化学組成、WB粉末の平均粒径、サーメット粒子としての見かけ密度、分級粒度範囲を表1に示す。
【0030】
次に、この溶射用粉末を使用して、高速ガス炎溶射法(燃料:水素−酸素)により、SS400製基板上に0.4mm厚さの溶射被覆層を形成した。その後、機械加工および表面研磨により、該被覆層表面の凹凸を取り除き、試験片を得た。
【0031】
上記の基板表面に形成された溶射被覆層をCu−καX線回折法により同定した結果、主としてW2 CoB2 の三元系複硼化物相が認められた。また、EPMA定量分析による被覆層の組成分析を行った結果を表2に示す。
【0032】
また、試験片表面のビッカース硬度(荷重:0.3kgf)は1610、往復運動摩耗試験機を用いてJISH8503第9項に規定された試験方法に従って、相手材にSiC研磨紙320番を使用し、試験荷重を3.0kgf、往復荷重回数を1600回として、試験片の耐摩耗試験を行った結果、摩耗減量は0.45mg/cm2 であった。
【0033】
一方、試験片を600℃の電気炉中に30分間保持した後、水中で急冷する熱サイクルを繰返し30回行い、1回ごとに被覆層に生ずる亀裂や剥離の有無を目視およびカラーチェックにより観察して、耐熱衝撃性の評価を行った結果、該熱サイクル中に異常が認められた時の反復回数は27回目であり、高い耐熱衝撃性を有することがわかった。
【0034】
次に、試験片を900℃の電気炉中に2時間保持して被覆層の酸化増量の測定を行ったところ、その値は3.8mg/cm2 であり、高い耐酸化性を有することが確認された。900℃の高温下で測定した試験片表面のビッカーズ硬度(荷重:0.3kgf)は845であった。さらに、470℃で溶融しているZn−0.15%Al中へ120時間(5日間)の浸漬試験を行ったところ、腐食減量は78.2mg/cm2 であり、被膜残存率は94.9%であって、高い耐溶融金属腐食性を有することが確認された。以上の諸特性試験結果を総括して表3に示す。
【0035】
以上の結果より、本発明による溶射用粉末を使用したサーメット溶射被膜は、硬度、耐摩耗性、耐高温酸化性、耐熱衝撃性、高温硬度(耐熱性)、および耐溶融金属腐食性に優れていることが十分に立証された。
【0036】
[実施例2〜5、比較例1〜8]
混合する粉末の添加量、WB粉末の平均粒径、および分級粒度範囲を変え、それ以外は実施例1と同様にして原料粉末を作製し、その所定量を粉砕混合し、造粒後焼結して見かけ密度を調整し、実施例2〜5、および公知の組成である比較例1を含む比較例1〜5の溶射用粉末を得た。
【0037】
また、W粉末、Co粉末およびC粉末(比較例6、7)、Cr粉末、Ni粉末およびC粉末(比較例8)の所定量を用いて、それぞれ従来法によるWC−Co系サーメット溶射被膜形成用粉末(比較例6、7)およびCr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜形成用粉末(比較例8)を作製した。
【0038】
得られた溶射用粉末の化学組成、WB粉末の平均粒径、サーメット粒子としての見かけ密度、分級粒度範囲を表1にそれぞれ示す。
【0039】
次に、これらの溶射用粉末を用いて、実施例1と同様にして、SS基板上に高速ガス炎溶射法により溶射被覆層を形成した試験片を得て、各試験片について、実施例1と同様にして、溶射被覆層の組成分析および諸特性試験を行い、それらの結果を表2および表3に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
以上の結果によれば、本発明によるサーメット溶射用粉末を使用して得られた硼化物系サーメット溶射被膜は、従来使用されてきたWC−Co系サーメット溶射被膜に匹敵する硬度と耐摩耗性を有し、また、Cr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜を凌駕する耐酸化性と耐熱性を備えるとともに、これら従来のサーメット溶射被膜(比較例6〜8)に比べて著しく高い耐熱衝撃性を有することが明らかになった。そして、公知の組成によるWB−CoCrMo系サーメット溶射用粉末による溶射被膜(比較例1)よりも、WとBの合計量を増加させることにより、高い耐溶融金属腐食性が得られ、また、同様の組成範囲においてもWB粉末の平均粒径を微細とし、サーメット粉末の見かけ密度を向上させることにより、より優れた特性が得られた。
【0044】
【発明の効果】
本発明のサーメット溶射用粉末により、WC−Co系サーメット溶射被膜に匹敵する硬度および耐摩耗性を備え、また、Cr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜を凌駕する耐熱性および耐酸化性とを有し、かつ、公知のWB−CoCrMo系サーメット溶射被膜より高い溶融金属腐食性を有するサーメット溶射被膜を得られる。
【発明の属する技術分野】
本発明は、サーメット溶射被膜を生成するためのサーメット溶射用粉末に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、産業の発展に伴って、産業用機械等の高性能化、高精度化、多様化およびエネルギーコストの低廉化が進むにつれて、溶射材料に金属とセラミックスを成分とする材料を用いてサーメット被膜を形成するサーメット溶射被覆層に対する要求性能はますます厳しくなり、以前にも増して優れた性能を必要とされている。
【0003】
従来、サーメット溶射被覆層(以下、「被覆層」または「溶射被膜」という。)として施されている材料は使用温度によって異なるが、常温から500℃までの温度範囲における代表的な材料は、タングステンカーバイド・コバルト(WC−Co)系やタングステンカーバイド・ニッケル(WC−Ni)系の材料であり、また、これより高い900℃までの高温域における代表的な材料は、クロムカーバイド・ニッケルクロム(Cr3 C2 −NiCr)系やクロムカーバイド・ニッケル(Cr3 C2 −Ni)系の材料である。
【0004】
これらの被覆層は、それぞれの目的に応じた硬度と、耐熱性、耐摩耗性、耐酸化性などを有している。
【0005】
しかし、最近の産業の発展に伴いサーメットの使用環境が多様化するにつれて、これらの特性がさらに優れた材料が望まれており、かつ、さらに耐熱衝撃性、靭性、耐溶融金属腐食性を兼ね備えた被膜材料の開発も望まれている。
【0006】
たとえば、自動車等の表面処理鋼板を製造するための高温溶融亜鉛メッキ浴(450〜500℃)や溶融アルミニウムメッキ浴(700〜800℃)に浸漬されて、連続的に通過する鋼板を支持し、案内して該鋼板の表面に均一な亜鉛メッキまたはアルミニウムメッキを被着させるために用いられるシンクロール、サポートロール等を被覆するための被覆層には、単に高い硬度や耐熱性、耐摩耗性を有するのみならず、メンテナンス時(1〜2日周期)の溶融金属浴中からの出し入れに耐えうる耐熱衝撃性、鋼板との摺動に耐えうる靭性、および溶融金属に対する耐食性が要求される。
【0007】
従来型のサーメット溶射被膜のうち、WC−Co系のものは、500℃までの乾燥雰囲気中では、硬度や耐摩耗性は優れているものの、耐食性や耐熱性が低く、特に500℃以上の酸化性雰囲気における耐食性や耐熱性に問題がある。また、Cr3 C2 −NiCr系のものは、900℃の高温域まで耐食性や耐熱性、耐酸化性は維持されるものの、硬度や耐摩耗性に劣る。さらに、これらの被膜は、一般に耐熱衝撃性、靭性および耐溶融金属腐食性が低いため、上述した自動車鋼板用のシンクロール、サポートロール等の被覆層としては剥離しやすく、寿命が短いという問題がある。
【0008】
これに対して、高硬度で、耐摩耗性、耐食性、耐熱性に優れ、かつ、耐熱衝撃性や靭性に対する要求特性をも同時に満足するサーメット溶射被膜を形成するための溶射用粉末として、特許第3134768号公報において、重量比にてB:2.5〜4.0%、Co:15.0〜30.0%、Cr:5.0〜10.0%、Mo:3.0〜6.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成された複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末が開示されている。
【0009】
しかし、この硼化物系サーメット溶射用粉末により形成された溶射被膜は、上述の溶融金属メッキ浴中で使用されるシンクロールやサポートロール等の被覆層として、硬度、耐摩耗性、耐熱衝撃性、靭性については従来のサーメット溶射被膜を凌駕する十分な性能を有しているものの、溶融金属に対する耐食性が短命化への要因となっており、耐溶融金属腐食性のさらなる向上が望まれている。
【0010】
【特許文献1】
特許第3134768号公報
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、高硬度で耐摩耗性、耐熱性、耐熱衝撃性および靭性に優れた硼化物系サーメット溶射用粉末による溶射被膜よりも、メッキ浴として使用される亜鉛やアルミニウム等の溶融金属に対する耐食性をさらに向上させたサーメット溶射被膜を形成しうる溶射用粉末を提供する。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明による硼化物系サーメット溶射用粉末は、質量比にて、W:75.0〜86.0%、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%、および不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなることを特徴とする。
【0013】
また、質量比にて、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成され、かつ、WとBとの合計量が質量比にて80.0〜89.5%、CoとCrとMoとの合計量が質量比にて10.5〜20.0%である複合粉末組成物からなることを特徴とする。
【0014】
見かけ密度が3.0〜4.0g/cm3 の範囲にあることが好ましく、また、一次粒子用原料粉末としてのWB粒子の平均粒径が1.0〜1.5μmの範囲にあることが好ましい。
【0015】
プラズマ溶射法には、15〜53μm、15〜45μmの粒度範囲のいずれかに、高速ガス炎溶射法には、5〜30μm、5〜38μm、5〜45μmもしくは15〜45μm、15〜53μmの粒度範囲のいずれかに整粒することが好ましい。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、WB一次粒子の金属結合相であり、CoやCrなどの融点が2000℃以下と低い元素からなるCo−Cr−Mo系合金相の比率を減らし、これに対して融点が3400℃以上と高いWを多く含むWB一次粒子の比率を増やすことにより、溶射被膜と溶融金属との融点の差を広げ、溶融金属との濡れ性を低下させることにより、溶融金属が溶射被膜に容易に付着することを防ぐため、耐食性が向上することを見出した。
【0017】
本発明による硼化物系サーメット溶射被覆層を得るためのサーメット溶射用粉末の構成成分は上記の通りであるが、以下にそれぞれの成分限定理由について説明する。
【0018】
Bは、WおよびCoと結合して複硼化物相を形成するために必要な元素であって、サーメット溶射用粉末におけるBの含有量が3.5質量%未満では、溶射被覆時の熱影響と酸化により溶射被覆層中のB量が2.5質量%未満にまで低下するため、得られた溶射被覆層に十分な硬度と耐摩耗性を付与することができない。一方、5.0質量%を超えると、硬度は高くなるが溶射被覆層の強度(靭性と耐熱衝撃性)が著しく低下する。したがって、溶射用粉末中のB含有量は、3.5〜5.0質量%の範囲が適当である。
【0019】
Wは、Bと同様に複硼化物相を形成するために必要な元素であり、該複硼化物相は、W2 CoB2 で表されるが、サーメット溶射用粉末におけるWの含有量が75.0質量%未満では、溶射被膜としての融点が未だ低く、濡れ性の低下による耐食性の向上が得られない。一方、86.0質量%を超えると濡れ性の低下により耐溶融金属腐食性は向上するが、金属結合相が不足し、靭性や耐熱衝撃性、さらに粉末の溶射付着効率(溶射時の歩留まり)が著しく低下する。したがって、溶射用粉末中のW含有量は、75.0〜86.0質量%の範囲が適当である。
【0020】
Coは、金属結合相形成の主体となる元素であるが、一方において複硼化物相の形成にも欠かせない元素であり、得られた溶射被覆層に高温強度、耐酸化性を付与する効果を有する。サーメット溶射用粉末におけるCoの含有量が8.0質量%未満では、形成される金属結合相と複硼化物相との相互固溶量が少なくなるためにその結合力が低下し、かつ、気孔等の欠陥が発生しやすくなる。一方、12.0質量%を超えると、金属結合相における耐食性を低下させるとともに、複硼化物中において脆弱なCoB等の硼化物が多量に形成するようになるので、溶射被覆層の靭性が低下してしまう。したがって、溶射用粉末中のCoの含有量は、8.0〜12.0質量%の範囲が適当である。
【0021】
Crは、耐食性、耐熱性および耐酸化性に寄与する元素であり、Coと結合して金属結合相を形成し、靭性を向上させる効果を有する。サーメット溶射用粉末におけるCrの含有量が2.0質量%未満では、上記の効果が十分に得られず、また、6.0質量%を超えると、得られた溶射被覆層における耐食性、耐熱性および耐酸化性をさらに向上させるものの、靭性を低下させるので好ましくない。したがって、溶射用粉末中のCrの含有量は、2.0〜6.0質量%の範囲が適当である。
【0022】
Moは、金属結合相を形成するCoとCrとを結合して、該金属結合相の耐食性と強度とをいっそう高めるとともに、さらにはMo2 CoB2 で表される複硼化物を形成するために必要な元素である。サーメット溶射用粉末におけるMoの含有量が0.5質量%未満では、上記の効果が得られず、また、4.0質量%を超えると金属結合相の強度がかえって低下してしまう。したがって、溶射用粉末中のMoの含有量は、0.5〜4.0質量%の範囲が適当である。
【0023】
さらに、本発明の溶射用粉末組成物においては、WとBとの合計量を80.0〜89.5質量%に、また、CoとCrとMoの合計量を10.5〜20.0質量%に規制する。これにより、溶融金属との濡れ性を低下させ、耐食性を向上させることができる。また、上記した本発明の溶射用粉末を製造する場合には、Co、CrおよびMoをそれぞれ単体金属粉末として用いることが肝要である。これらの元素を合金粉末の形態、たとえばステライト合金粉末等の形態で用いた場合には、合金粉末中のCoはWB等の硼化物と結合しがたく、W2 CoB2 複硼化物が形成されにくくなるからである。
【0024】
また、一次粒子用原料粉末として使用されるWB粉末の粒径は、溶射被膜の硬度および耐摩耗性に寄与する。本発明のサーメット溶射用粉末の粒子は、WB粉末をこれらのバインダー的役割を担うCo、Cr、Mo粉末とともに整粒し、焼結することにより、複硼化物としてのW2 CoB2 粒子と、金属結合相であるCo−Cr−Mo系合金相を晶出させたものである。このW2 CoB2 粒子はWB粉末の粒径に比例して大きくなる。そして、その溶射被膜は、W2 CoB2 粒子の一つ一つの表面に均一にCo−Cr−Mo系合金相が被覆されたものとなるのが理想である。WB粒子の平均粒径が1.5μmより大きいとW2 CoB2 粒子間の空孔部が大きくなり、部分的にCo−Cr−Mo系合金相が過多となり、耐熱性、耐摩耗性、耐食性の低下を生じる。一方、1.0μm未満では、W2 CoB2 粒子の比表面積が大きく、Co、Cr、Moの必要添加量が増加し、Co−Cr−Mo系合金相の不足による耐熱衝撃性と靭性の低下を生じる。したがって、一次粒子用原料として使用されるWB粒子の粒径は、1.0〜1.5μmの範囲が適当である。なお、かかるWB粒子の粒径は、空気分級により、粒度範囲を2.0μm以下とすることにより規制することができる。
【0025】
さらに、サーメット粉末の見かけ密度は、W2 CoB2 粒子間の結合力と、サーメット粒子内部の空孔率に影響するものであり、その値が3.0g/cm3 未満であると、W2 CoB2 粒子間の結合力が低く、内部の空孔率も大きいため、母材との衝突時に扁平状にはならずに砕けて周囲に飛散しやすく、形成された被膜もサーメット粒子内部の空孔が残存したものとなるため、耐熱衝撃性の低下を生じる。一方、4.0g/cm3 より高い値であると、その緻密化には2000℃以上の焼結温度が必要となり、WO3 等の脆弱な酸化物が晶出し、さらにはW2 CoB2 が晶出せずにWBがそのまま残存するため、耐熱衝撃性と靭性が低下することから、サーメット粒子としての見かけ密度は、3.0〜4.0g/cm3 の範囲が適当である。なお、かかる見かけ密度は、焼結温度の上昇に伴い高くなり、1350〜1400℃の間で焼結することにより規制できる。
【0026】
本発明の溶射用粉末を用いて基板上にサーメット溶射被膜を形成する方法としては、従来から使用されている、溶射ガンを使用した大気または減圧プラズマ溶射法、もしくは高速ガス炎溶射法を適用できる。通常、プラズマ溶射法には、15〜53μm、15〜45μmの粒径の溶射用粉末が、高速ガス炎溶射法には、5〜30μm、5〜38μm、5〜45μmもしくは15〜45μm、15〜53μmの粒径の溶射用粉末が使用される。これらの粉末が上記の粒度範囲よりも粗い場合には、緻密な溶射被覆層を形成することが困難となり、かつ、加熱不足による溶射粉末の付着歩留まりが低下する。したがって、低硬度および低付着歩留まりの溶射被覆層しか得られず、品質低下やコスト高を招く。また、上記範囲よりも粒度が微細であると、粉末の流動性が低下するとともに、受熱効率の高い微細粉末が溶融して、溶射ガンのノズル内面に堆積するために、溶射作業性が著しく損なわれる。
【0027】
以下に、本発明の実施例を比較例と対比しつつ説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0028】
【実施例】
[実施例1]
Bを5.6質量%含有するWB粉末(平均粒径1.2μm)、Co粉末(平均粒径1.5μm)、Cr粉末(平均粒径1.5μm)およびMo粉末(平均粒径1.5μm)をそれぞれ85質量%、10質量%、3質量%および2質量%採取し、ステンレス鋼製容器に入れて振動ボールミル内で24時間湿式にて粉砕混合した。
【0029】
該容器から取り出したスラリーを非酸化性雰囲気中において噴霧乾燥して、造粒した後、真空中で焼結して得られた粉末を回収し、これを空気分級機によって5〜45μmの粉末に整流して溶射用粉末を調整した。なお、見かけ密度は、焼結温度を1360℃とすることにより調整し、JISZ2504と記載の金属粉末の見かけ密度測定方法により測定した結果、3.6g/cm3 であった。また、WB粒子の平均粒径は、粉砕粉を空気分級により2.0μm以下とすることにより調整し、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した結果、1.2μm以下であった。得られた溶射用粉末の化学組成、WB粉末の平均粒径、サーメット粒子としての見かけ密度、分級粒度範囲を表1に示す。
【0030】
次に、この溶射用粉末を使用して、高速ガス炎溶射法(燃料:水素−酸素)により、SS400製基板上に0.4mm厚さの溶射被覆層を形成した。その後、機械加工および表面研磨により、該被覆層表面の凹凸を取り除き、試験片を得た。
【0031】
上記の基板表面に形成された溶射被覆層をCu−καX線回折法により同定した結果、主としてW2 CoB2 の三元系複硼化物相が認められた。また、EPMA定量分析による被覆層の組成分析を行った結果を表2に示す。
【0032】
また、試験片表面のビッカース硬度(荷重:0.3kgf)は1610、往復運動摩耗試験機を用いてJISH8503第9項に規定された試験方法に従って、相手材にSiC研磨紙320番を使用し、試験荷重を3.0kgf、往復荷重回数を1600回として、試験片の耐摩耗試験を行った結果、摩耗減量は0.45mg/cm2 であった。
【0033】
一方、試験片を600℃の電気炉中に30分間保持した後、水中で急冷する熱サイクルを繰返し30回行い、1回ごとに被覆層に生ずる亀裂や剥離の有無を目視およびカラーチェックにより観察して、耐熱衝撃性の評価を行った結果、該熱サイクル中に異常が認められた時の反復回数は27回目であり、高い耐熱衝撃性を有することがわかった。
【0034】
次に、試験片を900℃の電気炉中に2時間保持して被覆層の酸化増量の測定を行ったところ、その値は3.8mg/cm2 であり、高い耐酸化性を有することが確認された。900℃の高温下で測定した試験片表面のビッカーズ硬度(荷重:0.3kgf)は845であった。さらに、470℃で溶融しているZn−0.15%Al中へ120時間(5日間)の浸漬試験を行ったところ、腐食減量は78.2mg/cm2 であり、被膜残存率は94.9%であって、高い耐溶融金属腐食性を有することが確認された。以上の諸特性試験結果を総括して表3に示す。
【0035】
以上の結果より、本発明による溶射用粉末を使用したサーメット溶射被膜は、硬度、耐摩耗性、耐高温酸化性、耐熱衝撃性、高温硬度(耐熱性)、および耐溶融金属腐食性に優れていることが十分に立証された。
【0036】
[実施例2〜5、比較例1〜8]
混合する粉末の添加量、WB粉末の平均粒径、および分級粒度範囲を変え、それ以外は実施例1と同様にして原料粉末を作製し、その所定量を粉砕混合し、造粒後焼結して見かけ密度を調整し、実施例2〜5、および公知の組成である比較例1を含む比較例1〜5の溶射用粉末を得た。
【0037】
また、W粉末、Co粉末およびC粉末(比較例6、7)、Cr粉末、Ni粉末およびC粉末(比較例8)の所定量を用いて、それぞれ従来法によるWC−Co系サーメット溶射被膜形成用粉末(比較例6、7)およびCr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜形成用粉末(比較例8)を作製した。
【0038】
得られた溶射用粉末の化学組成、WB粉末の平均粒径、サーメット粒子としての見かけ密度、分級粒度範囲を表1にそれぞれ示す。
【0039】
次に、これらの溶射用粉末を用いて、実施例1と同様にして、SS基板上に高速ガス炎溶射法により溶射被覆層を形成した試験片を得て、各試験片について、実施例1と同様にして、溶射被覆層の組成分析および諸特性試験を行い、それらの結果を表2および表3に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
以上の結果によれば、本発明によるサーメット溶射用粉末を使用して得られた硼化物系サーメット溶射被膜は、従来使用されてきたWC−Co系サーメット溶射被膜に匹敵する硬度と耐摩耗性を有し、また、Cr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜を凌駕する耐酸化性と耐熱性を備えるとともに、これら従来のサーメット溶射被膜(比較例6〜8)に比べて著しく高い耐熱衝撃性を有することが明らかになった。そして、公知の組成によるWB−CoCrMo系サーメット溶射用粉末による溶射被膜(比較例1)よりも、WとBの合計量を増加させることにより、高い耐溶融金属腐食性が得られ、また、同様の組成範囲においてもWB粉末の平均粒径を微細とし、サーメット粉末の見かけ密度を向上させることにより、より優れた特性が得られた。
【0044】
【発明の効果】
本発明のサーメット溶射用粉末により、WC−Co系サーメット溶射被膜に匹敵する硬度および耐摩耗性を備え、また、Cr3 C2 −NiCr系サーメット溶射被膜を凌駕する耐熱性および耐酸化性とを有し、かつ、公知のWB−CoCrMo系サーメット溶射被膜より高い溶融金属腐食性を有するサーメット溶射被膜を得られる。
Claims (5)
- 質量比にて、W:75.0〜86.0%、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%、および不可避的不純物から構成される複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 質量比にて、B:3.5〜5.0%、Co:8.0〜12.0%、Cr:2.0〜6.0%、Mo:0.5〜4.0%を含み、残部Wと不可避的不純物から構成され、かつ、WとBとの合計量が質量比にて80.0〜89.5%、CoとCrとMoとの合計量が質量比にて10.5〜20.0%である複合粉末組成物からなる硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 見かけ密度が3.0〜4.0g/cm3 である請求項1〜2に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 一次粒子用原料粉末としてのWB粒子の平均粒径が1.0〜1.5μmである請求項1〜3に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
- 5〜30μm、5〜38μm、5〜45μm、15〜45μmまたは15〜53μmのいずれかから選択される粒度範囲に整粒した請求項1〜4に記載の硼化物系サーメット溶射用粉末。
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2003
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