JP2005206894A - 刃物用白鋳鉄およびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 V炭化物の粒径や分布状態が十分に制御されており且つ組織が十分に安定しているために、刃先の加工特性に優れ、良好な切れ味を持つ刃物を形成可能な刃物用白鋳鉄を提供する。
【解決手段】 基地中にV炭化物を含み、刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物のサイズが28μm以下である刃物用白鋳鉄とした。
【選択図】 図1

Description

本発明は、刃物用白鋳鉄およびその製造方法に関する。
本発明に関連する先行技術文献情報として、基地中に球状のV炭化物を含む白鋳鉄の製造方法について記載した特許文献1がある。
この特許文献1に記された球状炭化物合金白鋳鉄は、V炭化物を確実に粒状化または球状化する制御方法に基づいて良好な耐磨耗性と耐衝撃性とを兼ね備えることで、過酷な使用条件に適する白鋳鉄を得ることを目指しており、この課題を解決するために当該白鋳鉄は、重量%にしてC:2.0〜4.0、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:6.0〜16.0、Mg:0.01〜0.1、Ni:0〜1.0、残りが実質的に不純物を含むFeよりなる。顕微鏡組織においてほぼパーライトの母相へMgの溶湯添加処理を行い球状化したV炭化物を晶出させることによって、無処理のほぼ同一成分の材料に比べてほぼ1.4倍以上の衝撃値を具えていると当該特許文献1には記されている。
特開2002−275573号公報(段落番号0009〜0010、図3(A))
ところでナイフや包丁、鋏、かみそり等、或いは、リューターの先端刃、その他印刷物・食品・化成品・鉄工用切断(裁断)刃や粉砕刃は、高い硬度のみならず、高い靭性を必要とすることから、鍛造工程を経て形成する必要があるとの考え方が古くから一般的となっている。実際に、刃先の加工特性に優れ、十分な切れ味を持つ刃物を白鋳鉄などの鋳造品によって作製する手法は未だ確立されていないと言える。例えば、前述した特許文献1の技術は、球状のV炭化物を確実に生じさせ、高い衝撃値を具えた球状炭化物合金白鋳鉄を提供することに成功したとしながらも、鋳造後の凝固速度や得られた白鋳鉄に対する熱処理の方法については議論がなされていない。このような白鋳鉄で刃物を形成した場合には、例えば、比重の軽いV炭化物がFe母材に対して浮上し易く、その結果、V炭化物の分布が不均一になるなど、組織が安定せず、粗大な結晶粒が局所的に生じることがある。その結果、研磨加工などによって刃先を付ける際や使用の際に刃先が欠け易く、十分な刃先特性を備えた刃物を作製するための白鋳鉄としては適用し難かった。
したがって、本発明の目的は、上に例示した従来技術による白鋳鉄の持つ欠点に鑑み、V炭化物の粒径や分布状態が十分に制御されており且つ組織が十分に安定しているために、刃先の加工特性に優れ、良好な切れ味を持つ刃物を形成可能な刃物用白鋳鉄を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係る刃物用白鋳鉄は、以下の特徴構成を備えている。
すなわち、本発明の第1の特徴構成は、基地中にV炭化物を含み、刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物のサイズが28μm以下である点にある。
したがって、本発明の第1の特徴構成による刃物用白鋳鉄では、刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物のサイズが28μm以下であるため、V炭化物の粒径や分布状態が十分に制御されており且つ組織が十分に安定しているために、刃先の加工特性に優れ、良好な切れ味を持つ刃物を形成可能となる。すなわち、基地中のV炭化物は鋳造後の凝固過程における成長のレベルに応じて様々な結晶形態を取ることができ、一般に粒径が5〜10μm程度の間は球状や粒状であるが、それより大きく成長するに連れて花びら状の結晶が少しずつ生じ、この花びら状の結晶がさらに成長してデンドライト状の結晶が組織内において支配的となると、組織が不安定となって靭性も低くなり、対象物の切断や刃付け加工の際に欠けなどが発生し易く刃物として使用するには不十分なものとなる。しかし、V炭化物のサイズが28μm程度に留まっていれば、デンドライト結晶は未だ組織内において支配的とはならず、組織が十分に安定すると考えられるのである。
特に、前記刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物が粒状であって、5μm以下の粒径を有する構成とすれば、研磨加工などによって刃先を付ける際や使用の際に刃先がさらに欠け難く、且つ、十分良好な切れ味を長期にわたって保持可能(長切れ性)な、例えばナイフや包丁等の刃物を形成可能な刃物用白鋳鉄となる。
また、V/C比が3.5〜4.5の範囲内にある構成とすることができる。
すなわち、先ず、刃物として使用するためには炭化物を球状化することが重要であるのでV/C比を3.5〜4.5とすべきであると考える。これは、V/C比が3.5未満では炭化物の球状化が不良となり、刃物としての使用に不利であり、他方、V/C比が大きいほど炭化物の球状化は良好となるが、V/C比が4.5を超えるとCの基地中への分配量が減少し、刃物として適した基地強度が得られないからである。尚、実用的に特に望ましいV/C比は4程度、例えば4.0〜4.2が好ましい。
さらに、重量%で、C:2.5〜7.5、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:10.0〜30.0、残部が主としてFeからなる組成を有する白鋳鉄とすることができる。
すなわち、Cの含有量を2.5重量%未満にすると炭化物の球状化が不良となるので、2.5重量%以上とした。また、Vの上限値30.0重量%とV/C比を4.0に近付けたいという条件からCの上限値を7.5重量%とする。
Vの含有量の下限値としての10.0重量%は、Cの下限値である2.5重量%に対して適切なV/C比である4.0を確保するべく、これらを乗ずることで割り出している。尚、Vの含有量が30.0重量%に近づくに連れて靭性が低下するという従来の知見に反して、或るレベルを超える急速凝固をさせることで、V炭化物の形状、粒径、及び分布状態が改善され、耐磨耗性(長切れ性能)が良好となるので、用途を限定することで有効と考え、Vの上限値を30.0重量%とした。
Siは合金の鋳造特性に大きく作用する重要な元素であり、0.5重量%未満では湯流れ不良と結晶粒の粗大化とを招くので、0.5重量%以上とした。Si含有量が大きいほど結晶粒が微細化するので望ましいが、3.0重量%を超えると鋳鉄の靭性が著しく損なわれるので、上限を3.0重量%とする。
Mnは合金溶解時の脱酸と脱硫作用を行わせるためにSとバランスする程度の量を含むことが必要であるが焼入れ後の残留オーステナイト量を増やす作用を有するので、完全焼入れを目指すに当たって含有量を抑制するべきである。これまでの実験結果に基づいて下限を0.06重量%、上限を1.5重量%とした。実用的に特に望ましいMn含有量は0.07〜0.3重量%と考える。
この他に、NiはMnと同様にオーステナイト安定化元素であるので、刃物用の素材には極力添加しないことが望ましいが、他方、V炭化物を球状化させる上で有効であるという傾向がある。よって5.0重量%程度を上限として添加しても良い。
さらに、Moの適量の添加は残留オーステナイトの量を増やすことなく焼入れ性を改善する効果と調質熱処理後の靭性を向上させる効果を有する。一方、V炭化物の形状に対しては好ましい作用を及ぼさないという知見を得たので、高級刃物鋼に一般的に採用されている添加量を参考にして0.8重量%程度までなら添加することとしても良い。
或いは、さらに、Mgを0.01〜0.1重量%含む合金の組成としても良い。
上記の組成の合金溶湯にMgを適量添加(添加時の爆発的な燃焼による酸化消耗を見越して凝固後の分析においてなお0.01〜0.1重量%の残留が確認できるだけの添加量)すると、砂型に鋳込まれた溶湯の凝固過程で晶出するV炭化物の球状化がより安定して確保できるという効果をもたらす。他方、Mgの添加は溶湯の酸化を促進する傾向もあるので、必要最小限の添加量として上限を0.1重量%とする。
また、本発明による刃物用白鋳鉄では、所定の条件で急冷凝固させることによって、前記刃先に相当する部分をHRC60以上のロックウエル硬さとすることができ、これだけの硬度があれば、切れ味の良好な刃物として十分な耐磨耗性が得られる。
次に、本発明に係る刃物用白鋳鉄の製造方法は以下の特徴構成を備えている。
すなわち、本製造方法の特徴構成は、重量%で、C:2.5〜7.5、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:10.0〜30.0、残部が主としてFeからなる組成を有する合金の溶融物を1650℃を超える温度に加熱する工程と、その後、1500〜1720℃の温度範囲に前記溶融物を保持しつつ当該温度範囲内の所定温度で型内に鋳込む工程とを有する点にある。このように1650℃を超える温度に一度加熱することで、白鋳鉄が略完全に溶融し、鋳込む前の組織を一定の状態に整えることができる。さらに、鋳込みに際して1500〜1720℃の温度範囲に維持することで、晶出し始めたV炭化物のサイズを小さく維持することができる。特に1500℃以上に維持することで、V炭化物のサイズを28μm以下に抑えることができる。
尚、例えば、本製造方法では、上記の組成の溶融合金を上記の条件に基づいて珪砂の砂型内に鋳込み、厚さが1mm乃至3mmの平板を鋳造することによって、粒径が5μm以下で球状のV炭化物を有する刃物用白鋳鉄を得ることができる。この白鋳鉄は、研磨加工などによって刃先を付ける際や使用の際に刃先が欠け難く、且つ、十分良好な切れ味を持つ刃物を形成可能である。
さらに、前記加熱工程と前記鋳込み工程との間に0.1重量%以下のMgを添加する工程を有する刃物用白鋳鉄の製造方法とすることができる。
このような工程を設けることによって、溶湯中に発生する気泡の作用から、砂型に鋳込まれた溶湯の凝固過程で晶出するV炭化物の球状化がより安定して確保できるという効果が得られる。
(鋳造条件について)
先ず、切れ味の良い刃物の先端は2〜3μmの幅を有するので、刃先の組織に含まれる球状のV炭化物のサイズを28μm以下に、好ましくは5μm以下に抑えることが必要である。
出願人は、このような要件を備えた組織は、重量%で、C:2.5〜7.5、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:10.0〜30.0、残部が主としてFeからなる組成を有する白鋳鉄合金を、例えば以下の鋳造条件A1で鋳造することで得られるという知見を得た。ここで最低降下温度は1500〜1720℃の範囲としているが、1570〜1720℃の範囲がより好ましく、さらには1570〜1600℃の範囲が最も好ましい。
但し、刃元部については、必ずしも28μm以下でなくても良く、所期の強度、衝撃特性を備えていれば良い。この場合必ずしも上記の鋳造条件A1を満たさなくても良い。因みに溶湯の温度管理は、黒鉛坩堝内の溶湯表面温度の放射温度計による測定に基づいて行うことができる。
ところで、Mgを添加しない鋳造方法において、最高溶解温度1800℃から溶湯温度を緩慢に降下させて各温度で採取した試料を急速凝固させた場合におけるV炭化物の生成と成長を観察したところ、鋳造後の最初の段階(1600〜1580℃の温度領域)で適当な時間だけ保持すれば非常に微細な球状の初晶のV炭化物(粒径が1μm以下)が晶出し、溶湯温度の低下(1580〜1500℃の温度領域)に従いV炭化物は球状若しくは粒状のまま20μm程度まで成長する。さらに溶湯温度が低下すると(1500〜1380℃の温度領域)、炭化物は6方向へ優先的に成長し始めてV炭化物の球状若しくは粒状の状態は崩れ、初期の段階では6枚の花弁を持つ直径が20〜50μm程度の花びら状に成長し、次に、優先的に成長の早い方向が現われ、最終的に長手方向のサイズが50μm以上のデンドライト状に成長することが判った(その後、1380〜1330℃の温度領域で残液が共晶組成となり、共晶凝固の完了によって凝固が完了する)。そこで、1600〜1500℃の範囲内の適当な温度において適当な時間、溶湯を保持し、V炭化物が球状若しくは粒状に晶出した状態から(形状を崩す前に)急速凝固させれば、初晶のV炭化物形状である球状若しくは粒状のままで、花びら状やデンドライト状に成長することなく凝固し、その結果、刃物材料として理想的なV炭化物の形状とサイズ及びV炭化物の十分に均一な分布が得られることになる。
この3〜5秒の急速凝固は、適切な熱伝導率の砂型(例えば珪砂の砂型)に、適切な鋳込み温度(例えば1600〜1570℃)で、肉厚を適度に薄く(3mmt)して鋳造することによって可能であるという知見を得た。鋳込み温度がこれより高かったり、肉厚がこれより明らかに厚くなると、凝固が緩慢になり、所定の急速凝固が達成されない。
以上のように、溶湯を急冷することにより、微細なV炭化物が形成されると共に、これらV炭化物を強固に保持する硬く且つ粘靭な基地組織を形成することができる。
尚、溶湯にMgを0.05%程度添加処理することは、球状で微細なV炭化物を確実に得るための有効な手法である。これはMgの添加によって溶湯温度が1600〜1550℃の温度領域まで急激に低下するためと考えられる。溶湯にMgを添加処理することで、炭化物は最大サイズが5μm未満の球状の炭化物となる(後述の図4を参照)。
(熱処理条件について)
上記の鋳造条件で鋳放したままで得た材料でも、V炭化物の粒径が小さく制御された白鋳鉄となるが、刃物としての最高の長切れ性能を得るためには、基地組織に高硬度で粘靭な性質を付与し、同時に、残留応力を小さくする必要がある。そのために、得られた鋳造品に適切な熱処理を施すことが不可欠となる。
熱処理の方法は、刃物製品として想定される仕様に応じて以下の3つの熱処理パターンから選択することができる。
(1)低原価熱処理
すなわち、前述の条件で急速凝固させた鋳放しの鋳造物がロックウェル硬度でHRC65程度の硬さを有するので、これを直接焼戻しするだけでも十分な硬度の刃物が得られる。さらに高硬度を追求する場合には焼戻しの前にサブゼロ処理を施す。いずれにしても、熱処理費用が安く、急速凝固の利点を十分に生かした製法である。
(2)最高性能熱処理
刃物としての最高性能を追求する場合、焼入れを実施する必要がある。何故ならば、鋳放しと比較して油焼入れ又は水焼入れによれば冷却速度が高まり、最終焼入れ温度も低下するので、マルテンサイト量が増加して硬度がさらに増すからである。その後、焼戻しを実施することによって熱処理時に発生する歪応力が除去され、更に耐久性に優れた刃物用材料が得られる。これよりも更に高硬度を追求する場合には焼戻しの前にサブゼロ処理を施すことができる。
(3)加工性の付与
刃物の用途によって鋳造品を機械加工する場合も考えられる。機械加工性を付与するために、前述した最高性能熱処理の調質熱処理を実施する前に、焼鈍を実施すると良い。これによりロックウェル硬度をHRC25〜30に調整することができる。
尚、上記の各熱処理は鋳造品の全体を熱処理する方法の他に、硬さが必要とされる刃先部のみを高周波焼入れ等によって局部的に熱処理する方法も可能である。
(実施例)
本発明による前述した組成の合金溶湯を上記のA1の鋳造条件で鋳込んで得られた白鋳鉄について、炭化物の形状と最大寸法、硬さを調査した結果を図4に実施例1〜11として示す。
鋳造には丸形の天然珪砂をバインダーで固めた砂型を用いた。因みに、用いられた珪砂の物性は、嵩密度:1.58(g/cm3)、密度:2.32(g/cm3)、耐火度:SK33(1730℃)、溶融点:1713℃、組成:SiO2の純度99%、生型の熱伝導率:0.62(kcal/m・h・℃)、比熱0.27(cal/g・℃)である。
実施例1〜3は溶湯へのMg処理を施しておらず、実施例4〜8は溶湯へのMg処理を施している。また、図4に記された比較例1〜2は上記のA1に当て嵌まらない鋳造条件で得られた鋳造品である。
また、鋳造後の熱処理はいずれの実施例及び比較例とも、鋳放しの鋳造物を直接180℃にて焼戻しする低原価熱処理とした。従って、最高性能熱処理を施すことによって更に卓越した性能(硬度、切れ味試験)が得られることが予測される。
実施例1は、最低降下温度が1550〜1600℃と、前述した鋳造条件A1にて鋳込んでいるため、鋳込み時までに適度な温度降下が得られ、その結果、凝固過程で1μm前後の球状炭化物が多数晶出し、最終的に生成する炭化物も最大粒径が5μm、平均粒径2〜3μmと十分に細かい球状の炭化物となっており、基地の硬さも最も高い値を示している。
実施例2は、やはり鋳造条件A1に当て嵌まるが実施例1に比して温度降下が小さいためか、最終的に生成する炭化物の最大粒径が8μmと若干大きくなっているが、それでも10μm以下の最大粒径となっている。
実施例3は、最低降下温度が1500〜1550℃と、前述した鋳造条件A1にて鋳込んでいるため、鋳込み時までに比較的適度な温度降下が得られ、その結果、凝固過程で1μm前後の球状炭化物が多数晶出し、最終的に生成する炭化物も花びら状ではあるが最大粒径が10μmと十分に細かい炭化物となっている。但し、実施例3は実施例1と比較すると最低降下温度がやや低いので、炭化物サイズは少し大きくなっている。
実施例4は、ほぼ鋳造条件A1に則した条件にてMgの添加操作を含む鋳造方法で鋳込んでおり、凝固過程で1μm前後の球状炭化物が多数晶出し、最終的に生成する炭化物も最大粒径が5μm、平均粒径2〜3μmと十分に細かい球状の炭化物となり、基地の硬さも十分に高く、最も良好な結果が得られた(試料断面の顕微鏡写真を示す図1を参照のこと)。
尚、実施例5も実施例4に準じた良好な結果が得られた(試料断面の顕微鏡写真を示す図2を参照のこと)。両者の組織を比較すると、実施例4の方が初晶のV炭化物が支配的でその分布も均一であった。
実施例6、7及び8も実施例4に準じた良好な結果が得られたが、鋳造条件が互いに等しい実施例7と8を比較すると、炭化物のサイズは同等であるが、Ni含有量の多い実施例8の方が炭化物の分布が均一であった。
実施例9は、鋳造条件A1に類した条件にて鋳込んではいるが、鋳込温度が1650℃と高く、鋳造後の冷却速度が遅かった。その結果、最大直径が28μm程度のデンドライトに成長した炭化物が見られるが、未だデンドライトが支配的ではない状態を保持している(試料断面の顕微鏡写真を示す図3を参照のこと)。
実施例10は、鋳込み温度が1720℃と高いために鋳造後に徐冷され、その結果、炭化物は最大直径が20μmにまで成長している。尚、実施例10は実施例9に比べて、鋳込温度が高いにも拘わらず花びら状で炭化物サイズが小さい。これは、実施例10の方が最高溶解温度が高いからと考えられる。
実施例11では、炭化物は最大直径が20μmに達する花びら状に成長しており、これも最低降下温度及び鋳込温度が高過ぎるためと考えられる。
比較例1では、炭化物は最大直径が50μmに達するデンドライトに成長しており、デンドライトが組織中で支配的となっており、これは鋳込み前までの最低降下温度が1450〜1500℃と低くその間に粒が成長したためと考えられる。
比較例2では、炭化物は最大直径が80μmに達するデンドライトに成長しており、これは最低降下温度及び鋳込温度が共に高過ぎるためと、最高溶解温度が低いことやMn含有量が多いことも影響していると考えられる。
(刃物性能試験結果)
上記の実施例4、実施例5及び実施例9の試料について切れ味試験を行った結果を図4に示す。
実施した切れ味試験は、岐阜県製品技術研究所研究報告No.4、2003の「切れ味の耐久性を高める2次刃の加工技術研究(第1報)」に提案されている試験方法に準じて行い、一度に切れる紙の枚数の平均値を示す切れ味性能(KNP)、及び、一度に切れる紙の枚数が15枚になる迄の刃物の往復運動回数を示す耐久性(TNP)について評価した。耐久性(TNP)の評価には包丁の耐久試験機を用い、その試験途中で試験対象刃物を外して本多式切れ味試験機で切れ味性能(KNP)を測定した。より具体的には、包丁の耐久試験機による耐久性(TNP)の評価の途中で一定の耐久性操作回数ごとに本多式切れ味試験機で切れ味性能(KNP)を測定し、累積の耐久性操作回数とそれに対応する時点での切断枚数との関係を式1に示す指数関数で近似し、このようにして得られた切れ味曲線を式2に定義するように積分した値を、切れ味総枚数すなわち耐久性(TNP)とした。切れ味性能(KNP)は式3の値で評価した。
尚、試験片は高さが30mm、幅が30mmで厚さが全体に亘って3mmのものと、一方の辺が3mm厚で他方の辺が1mm厚のテーパ状のものとを用いた。これらの試験片の一辺に刃先角度30°の刃(断面は左右対称形)を付け、この刃の付いた部位が上縁部(この長さは前述の幅に相当する)となるようにほぼ水平に保持した。刃付加工は、最初に#200の砥石(砥粒の平均径は約75μm)で研磨加工し、次に、#400の砥石(砥粒の平均径は約35μm)で研磨加工し、さらに、#1500の砥石(砥粒の平均径は約8μm)で研磨加工し、最後に、バフ仕上げを行うという加工条件で統一した。尚、バフ仕上げのレベルは前工程の研磨で刃先に生じる返りを無くす程度に抑えた。
但し、yは切れ味枚数、xは耐久性操作回数、a,bは係数。

但し、Ntは一度に切れる紙の枚数が15枚の時の操作回数。

但し、Ntは一度に切れる紙の枚数が15枚の時の操作回数。
図5に、実施例4、実施例5及び実施例9の試験結果を公知の素材の試験結果と共にグラフで示す。
実施例4はグラフ中で「◇」にて示し、実施例5はグラフ中で「□」にて示し、実施例9はグラフ中で「▽」にて示している。
公知の素材としては、SUS420J2をサブゼロ処理した試験片(グラフ中では「●」にて示す)、Cを0.5%、Crを10.5%含有するSUSをサブゼロ処理し、1030℃にて焼入れ、150℃にて焼戻し処理した試験片(グラフ中では「☆」にて示す)、Cを3%、Crを20%、Moを1%、Vを0.3%含有する粉末SKDから得た合金工具鋼を1030℃にて焼入れ、250℃にて焼戻し処理した試験片(グラフ中では「◆」にて示す)、及び、ジルコニアからなるセラミックス刃の試験片(グラフ中では「△」にて示す)を用いた。
図5から理解されるように、実施例4、実施例5及び実施例9の試験片はいずれも、切れ味性能(KNP)と耐久性(TNP)の双方において、各公知の素材を凌駕する成績を示しており、中でも実施例4は耐久性(TNP)において公知の素材を著しく上回る特性を示した。
ところで、図6から図8は、実施例4の試験片に付けた刃先を斜め上から観察した電子顕微鏡写真である。図6はNt=0回、すなわち切れ味試験開始前の状態、図7はNt=15,000回後の状態、図8はNt=60,000回後の状態を示す。尚、Ntは木片に対して刃先を摺動させた時の耐久操作回数である。図6の写真から理解されるように、試験開始前の試験片の刃先には約1〜3μmの周期で凹凸状のエッジが形成されており、この凹凸の状態は刃先の先端のみに存在するのではなく、刃先から刃元に向かって長く連続している傾向が見られる。また、切れ味試験がNt=15,000回まで進行した図7の写真でも、凹凸が刃先から刃元に向かって長く連続している傾向が未だ残存しており、刃先にも凹凸状のエッジが残されていて、切れ味の高さが推察できる。しかも、刃先には炭化物粒の抜け落ちによる孔状の欠損は全く観察されない。そして、切れ味試験がNt=60,000回まで進行した図8の写真において初めて、刃先から凹凸状のエッジが消失している。これらの事実は、本発明の実施例4による刃物では、刃先に相当する部分に形成されるV炭化物の粒径が十分に小さくしかも球状であるために、刃付加工時の最終工程近くで行われる平均径が約8μmの#1500の砥石による研磨加工(加工の過程では8μm以下になった砥粒が刃先と砥石の間に介在することが予測される)によって、球状のV炭化物の先端付近のみが突出して理想的な刃先面が形成されることを示している。特に、凹凸の状態が刃先から刃元に向かって長く連続しているために、対象物を多量に切断することで刃先が磨耗しても、内部から新たな凹凸が表出するので、切れ味の良さを保証する刃先の凹凸状のエッジが長く保たれる。
このように本発明による刃物用白鋳鉄から形成した刃物は、公知の刃物材料の中でも一般に最も優れた切れ味性能を保有するとされる粉末SKDと比較しても、これを凌駕する切れ味性能を示すことが判った。すなわち、本発明による白鋳鉄は、今まで世の中では可能性がないと考えられていた、白鋳鉄の刃物への適用の道を開いたと言える。しかも本発明による白鋳鉄では、鋳造という殆ど全ての金属材料が成形過程で必ず通過する工程で9割方の成形過程を終えてしまうので、複雑で多数の段階からなる製造プロセスを必要とする粉末SKDなどに比して製造コストが格段に安く、この点でも甚大な産業上の効果が予測される。
実施例4の試料断面の顕微鏡写真 実施例5の試料断面の顕微鏡写真 実施例9の試料断面の顕微鏡写真 本発明による実施例と比較例に関する調査結果を示す図表 切れ味試験結果を示すグラフ 実施例4の試験片に付けた刃先のNt=0回における電子顕微鏡写真 実施例4の試験片に付けた刃先のNt=15,000回における電子顕微鏡写真 実施例4の試験片に付けた刃先のNt=60,000回における電子顕微鏡写真

Claims (8)

  1. 基地中にV炭化物を含み、刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物のサイズが28μm以下である刃物用白鋳鉄。
  2. 前記刃先に相当する部分に含まれる前記V炭化物が粒状であって、5μm以下の粒径を有する請求項1に記載の刃物用白鋳鉄。
  3. V/C比が3.5〜4.5の範囲内にある請求項1又は2に記載の刃物用白鋳鉄。
  4. 重量%で、C:2.5〜7.5、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:10.0〜30.0、残部が主としてFeからなる組成を有する請求項1から3のいずれか一項に記載の刃物用白鋳鉄。
  5. さらにMgを0.01〜0.1重量%含む請求項1から4のいずれか一項に記載の刃物用白鋳鉄。
  6. 前記刃先に相当する部分がHRC60以上のロックウエル硬さを示す請求項1から5のいずれか一項に記載の刃物用白鋳鉄。
  7. 重量%で、C:2.5〜7.5、Si:0.5〜3.0、Mn:0.06〜1.5、V:10.0〜30.0、残部が主としてFeからなる組成を有する合金の溶融物を1650℃を超える温度に加熱する工程と、その後、1500〜1720℃の温度範囲に前記溶融物を維持しつつ当該温度範囲内の所定温度で型内に鋳込む工程とを有する刃物用白鋳鉄の製造方法。
  8. 前記加熱工程と前記鋳込み工程との間に0.01〜0.1重量%のMgを添加する工程を有する請求項7に記載の刃物用白鋳鉄の製造方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2008174788A (ja) * 2007-01-18 2008-07-31 Osaka Prefecture 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法
CN103194565A (zh) * 2013-04-28 2013-07-10 攀钢集团攀枝花钢铁研究院有限公司 一种对含钒铁水同时进行脱磷和提钒的方法
JP2017186660A (ja) * 2016-04-05 2017-10-12 新日鐵住金株式会社 板幅方向のヤング率に優れた高剛性鋼板及びその製造方法

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