JP2005507255A - バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌微生物 - Google Patents

バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌微生物 Download PDF

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Abstract

本発明は、バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌性微生物に関する。特に、本発明は、有用な生成物がペントースを含むバイオマスから産生されるバイオテクノロジー過程におけるレドックス補因子の再生の改良に関する。本発明によれば、微生物は、NADPに結合したグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードするDNA配列で形質転換される。本発明を用いて、例えば、農業および林業製品、局地的な廃棄物などの生物学的材料から人類に有用な生成物を提供することができる。このような有用な生成物の例は、エタノール、乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、アミノ酸、脂肪、ビタミン、ヌクレオチド、および広汎な種類の酵素および医薬品である。

Description

【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、(複数の)バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌微生物に関する。特に、本発明は、ペントースを含むバイオマスから有用生成物を生成するバイオテクノロジープロセスにおけるレドックス補因子の再生の改良に関する。
【0002】
背景技術
本出願は、微生物、特に酵母および他の真菌の代謝反応を用いて、農業および林業製品、局地的な廃棄物、および他のバイオマス源などの生物学的材料から、人類に有用な生成物を提供する工業的プロセスを意味するバイオテクノロジープロセスの効率化に関する。このような有用な生成物の例は、エタノール、乳酸、ポリヒドロキシアルカノエート、アミノ酸、脂肪、ビタミン、ヌクレオチド、および広汎な種類の酵素および医薬品である。
【0003】
幾つかの代謝反応は、レドックス補因子対であるニコチンアミドジヌクレオチドホスフェート/還元型ニコチンアミドジヌクレオチドホスフェート(NADP/NADPH)と結びついており、他のものはレドックス補因子対であるニコチンアミドジヌクレオチド/還元型ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD/NADH)と結びついている。一般的に、補因子NAD/NADHは主として異化反応に関係しており、補因子NADP/NADPHは主として同化反応に関係している。通常、バイオテクノロジープロセスの生産的経路は、過剰のNADPを生じる。ペントース醗酵はその一例である。ペントース醗酵では、L−アラビノースおよびD−キシロース経路を介して、幾つかの異化反応はNADP/NADPH補因子に結びついている(図1参照)。
【0004】
D−キシロースのエタノール(または乳酸)への醗酵は、レドックス中性であるが、異なるレドックス補因子を用いて、レドックス補因子不均衡を生じる。キシロースレダクターゼはNADPHを利用して、NADPを生成する。他のレドックス段階は、キシリトールデヒドロゲナーゼ、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ、およびアルコールデヒドロゲナーゼであり、それらのそれぞれはNAD/NADHレドックス補因子対を利用している。このレドックス補因子不均衡の結果、NADPHは他の反応、例えばCO生成に結びついているペントースリン酸経路の酸化的部分によって再生されなければならない。COは求められていない生成物であり、D−キシロースのエタノール(または乳酸)への転換は最早レドックス中性ではない(図2)。結果として、キシリトールのような他の求められていない生成物も生成する。
【0005】
従って、特に真菌性ペントース(D−キシロースおよびL−アラビトール)醗酵でのNADP(H)補因子を再生することができることが好都合である。NADP(H)補因子を再生するための効率的方法は、この工程を厳密な酸素制御によって余り影響されないようにし、酸素の必要性が減少しまたは嫌気性ペントース(D−キシロースおよびL−アラビノース)醗酵を促進するので、バイオテクノロジー上有益である。嫌気性ペントース醗酵は極めて遅く且つ望ましくない副生成物が生成するので、醗酵条件を最適にするには半嫌気性条件が必要である(Jeffries and Jin, 2000)。これには、実際には、制御された曝気、すなわち技術的に複雑な工程が必要である。ペントース醗酵の生成物は、一般に廉価なバルク生成物(エタノールなど)である。これには、嫌気性醗酵のような廉価な生産工程が必要である。嫌気性醗酵は技術的に容易であり、極めて大規模に行うことができる。しかしながら、現在行われている嫌気性D−キシロース醗酵では、主としてキシリトールとCOのような求められていない副生成物が生じる(Toivari et al. 2001)。D−キシロースからキシリトールとCOの生成は、レドックス中性である。レドックス中性転換の化学量論は、キシリトール10モルとCO5モルがD−キシロース11モルから生成することである。これは、D−キシロース還元において生成するNADPがCOを生成する反応において還元されてNADPHとなる場合には明らかにエタノールおよびCOの生成に関する好ましい反応である。NADPをCO生成に直接関連していない方法で還元することができるときには、キシリトールおよびCOからエタノールおよびCOへ生成物の方向を変えることによって、環境上有利な一層経済的(廉価な)工程とすることができる。
【0006】
特許出願WO99/46363号明細書(Aristidou et al.)では、エタノールおよびアミノ酸のような有用な生成物を更に効率的に生成する改良された特性を有するバイオテクノロジーで用いられる生成微生物が開示された。オキシドレダクターゼをコードする少なくとも一種類の組換えDNA分子で形質転換されている微生物が提供されており、NAD/NADHとNADP/NADPHに対して異なる補酵素特異性以外は少なくとも一種類の共通の基質を有する一対のオキシドレダクターゼをこの対の両方の構成員を同一の細胞区画、好ましくはサイトゾルで同時に発現させるやり方で発現させるようにした。これにより、異なる補因子を用いる環状酸化および還元反応を介してトランスヒドロゲナーゼ活性が導入される。
【0007】
環状酸化および還元反応は、下記の反応を引き起こすことができ、これらはNAD/NADHとNADP/NADPHの補酵素対を平衡させる傾向がある。
【化1】
Figure 2005507255
【0008】
NAD/NADHとNADP/NADPHの比がほぼ同一になるまで反応(1)および(2)の同時操作を続行することが期待されるが、これら二対の酸化還元電位は極めて類似しているからである。
【0009】
特許公報US5,830,716号明細書では、微生物を用いるターゲット物質を製造する方法が開示されている。この方法では、微生物は、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)から還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドホスフェート(NADPH)を生成するその能力を増加することによって、L−アミノ酸のようなターゲット物質の生成が培地中で増加するように改質されている。微生物がNADHからNADPHを生成する能力は、微生物のニコチンアミドヌクレオチドトランスヒドロゲナーゼ活性を増加することによって増加する。
【0010】
NADPHを再生するための更に効率的な系が、基質から生成物への主要な代謝経路から真のNADPを生成する多くのバイオテクノロジープロセスを改良するために、依然として必要とされている。このようなプロセスは、ペントースのエタノール、ラクテートおよび他の生成物への醗酵、および炭水化物からポリアルカノエート、幾つかのアミノ酸、および脂質の産生を包含する。
【発明の概要】
【0011】
本発明の目的は、(複数の)バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌性微生物を提供することである。これは、本発明に従って、NADPに結合したグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ (NADP−GAPDH;EC1.2.1.13)をコードする遺伝子で真菌を形質転換することによって達成される。この遺伝子産物を用いれば、NADPHがペントース醗酵または他のプロセスで有益なカルボン酸反応で再生される。
【0012】
好ましくは、NADP−GAPDHは真菌由来であり、これをコードするDNA配列は配列番号1またはその機能性変異体(functional variant)を含んでなる。本発明は、形質転換した微生物がNADP/NADPH補酵素対の還元型であるNADPH形態を再生する新規な手段を有するように、NADPに結合したGAPDHをコードするDNA配列で形質転換した工業用微生物を提供する。酵母および他の真菌、およびほとんどの他の微生物では、GAPDHは主要な代謝経路での一段階であり、これにより、糖はピルベート、および更に細胞材料および醗酵最終生成物に転換される。本発明の形質転換微生物は二種類のGAPDH酵素であって、NADと共に働くものおよびNADPと共に働くもう一つのものを有している。形質転換生物はこれら二種類の酵素を介して相対フラックスを自動的に調節して、他の代謝段階で要求されるNADPHおよびNADHを再生する。
【0013】
遺伝子工学技術を用いれば、NADPおよびNADに結合したGAPDH酵素をコードする遺伝子の相対発現レベルを調節して、例えば、生成物形成に用いた条件では、NADに結合した酵素のレベルを減少させまたは実際に省略することにより、GAPDH反応におけるNADPの使用を増加するようにすることもできる。本発明の形質転換微生物により、所望する反応(例えば、ペントースのエタノールまたはラクテートへの転換、糖の脂質またはアミノ酸またはポリヒドロキシアルカノエートへの転換)がNADPHの真の消費体である場合、一層効率的なバイオテクノロジープロセスが得られる。形質転換微生物では、NADPHは導入したNADPに結合したGAPDHによって再生されることができる。これは所望するプロセス自身によって用いられる主要な代謝経路における一段階であり、炭素基質を消耗するか容量が限定されるかまたはその両方である副反応(例えば、ペントースリン酸経路の酸化的分岐)によってNADPHを再生する必要性を低下させるか、または必要性をなくす。「一層効率的なバイオテクノロジープロセス」という表現は、基質に対して所望生成物を一層の高収率で、一層大きな容量生産性で(単位時間当たり単位反応装置当たりの生成物の質量として測定)、一層大きな比速度で(単位時間当たり生産微生物の単位質量当たりの生成物の質量として測定)、かつ、望ましくない副生成物をより少量で産生し、一層安い費用で、例えば、一層単純な醗酵装置または少ない曝気で操作することができ、またはこれらの利点の2つ以上を有する、工業的過程を包含する。
【0014】
本発明は、本発明の実施に用いることができるKluyveromyces lactis由来のNADPに結合したGAPDHをコードするDNA配列を提供する。本発明は、NADPに結合したGAPDH活性を有するタンパク質をコードし且つ本発明の実施に用いることができる他のDNA配列を見出す方法も提供する。更に、NADPに結合したGAPDHのアミノ酸配列のある種の特徴であって、当業者が、本発明の実施に用いることができるNADPに結合したGAPDH活性を有するタンパク質をコードするDNA配列を認識し、またはこのようなDNA配列をNADに結合したGAPDH活性を有するタンパク質をコードするDNA配列から遺伝子工学処理より作製することができるものが開示される。
【0015】
本発明は、本発明の目的とするNADPに結合したGAPDHを発現させるのに用いることができる適当な構成的プロモーターを提供する。しかしながら、他のプロモーターを用いることができ、幾つかの宿主および生物学的過程については、誘導または抑制プロモーターからNADPに結合したGAPDHを発現するのが有利であることがある。
【0016】
本発明を、添付の図面および例を参照することによって詳細に説明する。これらの例は、態様の幾つかを示すのに用いられるだけであり、発明の範囲を制限しようとするものではない。
【発明の具体的説明】
【0017】
ペントース醗酵のような異化反応においてレドックス補因子NADP/NADPHを再生することができる考えられるタンパク質およびそれらの相当する遺伝子を見出すため、NADP/NADPHに結合したタンパク質およびそれらの相当する遺伝子を見出すための下記のスクリーニング法を用いることができる。このスクリーニング法では、ホスホグルコースイソメラーゼをコードするPGI1遺伝子に欠失を有するSaccharomyces cerevisiaeを用いた。この欠失により、S. cerevisiaeはグルコース上で増殖することができない(Boles et al., 1993)。グルコースについて致死表現型を生じるこの欠失は、ペントースリン酸経路の酸化的部分におけるNADPHの過剰産生に関係していると考えられる(Boles et al., 1993)。しかしながら、Kluyveromyces lactisはホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子を欠失していてもグルコース上で増殖することができ、すなわち、このNADPH過剰産生と対抗することができる(Gonzales Siso et al., 1996)。従って、本発明者らは、ホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子に欠失を有するS. cerevisiae株をKluyveromyces lactis由来の遺伝子ライブラリーで形質転換し、グルコース上での増殖についてスクリーニングした。このスクリーニングにおいて、数個のオープンリーディングフレームを有するDNA断片を見出した。トランスポゾンをDNA断片にランダムに挿入し、グルコース上で増殖を回復しなかったトランスポゾン挿入を分析した。この手法を用いて、本発明者らは、グルコース上で増殖を回復することができたオープンリーディングフレームを同定した。このオープンリーディングフレームは、NAD−GAPDHに対して高い相同性を有していた。本発明者らは、更にこのオープンリーディングフレームを検討した。この目的のために、本発明者らはそれを過剰発現させ、酵素活性を分析して、これがNADPと共に活性を有することを見出した。本発明者らは、ヒスチジンタグを加えた後に酵素を更に精製し、オープンリーディングフレームがNADよりNADPに優先的であり、すなわち、これはNAD−GAPDH(EC1.2.1.12)ではなく、NADP−GAPDH(EC1.2.1.13)であることを見出した。植物を除く真核生物およびそこでは、酵母によっては行われない反応である光合成に関与しているものにおけるNADP−GAPDHについて文献に報告が見られないので、このことは驚くべきことである。NADP−GAPDHは、配列番号1を含んでなるDNA配列によってコードされる。
【0018】
グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)は、非リン酸化酵素(GAPN,EC1.2.1.8)およびリン酸化酵素として知られている。リン酸化酵素については、ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)依存性酵素(NAD−GAPDH,EC1.2.1.12)およびニコチンアミドジヌクレオチドホスフェート(NADP)依存性酵素(NADP−GAPDH,EC1.2.1.13)が知られている。NAD−GAPDHは解糖酵素であり、原核生物および真核生物で高度に保存される。NADP−GAPDHは、細菌で知られている(例えば、Koksharova et al. 1998, Fillinger et al., 2000)。植物については、光合成によるCO同化に関与し且つ葉緑体に存在しているNADP−GAPDHが知られている(Cerff 1982)。葉緑体のNADP−GAPDHは、2種類のサブユニットAおよびBを有する(Shih et al., 1991, Baalmann et al., 1996)。他の真核生物のNADP−GAPDHは知られていない。
【0019】
本発明において、本発明者らは、共通の基質を有するが補酵素特異性が反対である2種類のオキシドレダクターゼ、すなわちNAD−GAPDH(EC1.2.1.12)およびNADP−GAPDH(1.2.1.13)を有する。しかしながら、これは、必ずしも環状酸化−還元反応を生じない。D−キシロース醗酵について図3に示すように、D−キシロース3モルの還元に用いられるNADPH3モルはNADP−GAPDHを介して再生することができる。キシリトールデヒドロゲナーゼおよびNAD−GAPDHによって用いられるNADは、アルコールデヒドロゲナーゼによって再生される。D−キシロース3モルのエタノール5モルおよびCO5モルへの醗酵は、トランスヒドロゲナーゼ反応なしで行われ、この点で本発明が特許公報US5,830,716号明細書および特許出願WO99/46,363号明細書と異なっている。
【0020】
NADP−GAPDHは、CO産生と対になったNADPからNADPHへの還元を有することが望ましくないプロセスでは有益であることがある。一例はヘキソース醗酵である。微生物は醗酵中に増殖するので、過剰のNADHおよびNADPを産生する(Oura, 1972)。エタノール産生は、過剰のNADHの再酸化に必要なグリセロール産生、および過剰のNADPの還元に必要なエタノール1モル当たり1モルを上回るCOの産生を伴う。これらの反応により、醗酵可能な炭水化物でのエタノールの収率が減少する。NADP−GAPDHを用いると、NADPは余計にCOを産生することなくNADPを還元することができ、グリセルアルデヒド−3−リン酸プールを用いることによりNADPを還元することによって、NADHのNAD−GAPDHによる産生が減少し、従ってグリセロールの産生が減少し、すなわちNADP−GAPDHを導入することによってヘキソース醗酵におけるエタノールの収率を増加し且つ望ましくない副生成物であるグリセロールとCOの形成を減少させることができる。本発明は、この方法で、さらに一層効率的に且つ少ない汚染でヘキソース炭水化物から環境に優しい燃料アルコールの産生を行う。
【0021】
NADP−GAPDHは、ペントース醗酵で好都合に用いることもできる。本発明により、D−キシロースおよびL−アラビノースをレドックス中性な方法でレドックス補因子不均衡を生じることなく醗酵させてエタノールとすることができる。例3および5では、D−キシロースを一層効率的に醗酵させてエタノールとすることを示す。エタノールは、D−キシロースから一層高収率で産生され、キシリトールやCOのような望ましくない副生成物は少ない。
【0022】
これは例3に示されており、嫌気性キシロース醗酵に対するNADP−GAPDHの効果を示している。NADP−GAPDHを過剰発現する株は、モル比で約30%少ないキシリトールと約40%少ないCOを生成する。その結果、エタノールが一層高収率で生成し、すなわち同量のD−キシロースから約30%多くのエタノールが生成する。
【0023】
収率向上および副生成物形成の減少に加えて、組換え菌株がバイオテクノロジープロセスを実施する能力の増強が、生成物形成の速度向上、プロセス条件における代謝活性の延長、または酸素要求量の減少であって、これら総ての因子はプロセスの効率を増加させるものであるものとして見ることができる。
【0024】
エタノール収率を更に増加させ、COおよびキシリトール収率を減少させるために、追加の改良法を用いることができる。これらは、(1)NADPについて本発明のNADPに結合したGAPDHと競合する反応の減少、および(2)NADPについてNADP−GAPDHの容量または親和性の増加を含む。
【0025】
1) 競合反応の減少
NADP−GAPDHを介するNADPHの再生は、NADPHを再生するための唯一の方法ではない。ペントースリン酸経路酸化的部分を介するような他の経路が、NADPについて競合する。このNADPHの再生は、CO生成と対になっている。このまたは同様な経路を阻害しまたは欠失することも、有益である可能性がある。例5では、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼがNADPについて競合し、且つNADP−GAPDHの過剰発現と共に相当するZWF1遺伝子の欠失はエタノール生成に更に有益な効果を有し、すなわち、エタノールはキシリトールまたはCOのような望ましくない副生成物を犠牲にして一層高収率で生成することを示す。
【0026】
例5では、NADPについての競合反応を減少させることにより、望ましくない副生成物の生成を更に減少させることができ、これによってエタノール収率を増加することができることを示す。遺伝子をグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼについて欠失させること、NADPについて競合し且つ同時にNADP−GAPDHを過剰発現する反応によって、望ましくないキシリトールの生成を更に20%だけ減少させることができた。NADPについて競合する他の反応は、NADP依存性アセトアルデヒドデヒドロゲナーゼALD6およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼIDPI−3を包含する。
【0027】
NADPについて競合するこれらおよび他の反応は、様々な方法で抑制することができる。反応を触媒する酵素をコードする遺伝子は、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼについて例5に記載する方法で欠失することができる。このような遺伝子を崩壊させて、最早機能的デヒドロゲナーゼを生成しないようにすることもできる。遺伝子のプロモーターを(例えば、オープンリーディングフレームの配列上流の部分の欠失によって)変更させ、酵素の発現レベルを減少するが、なくならないようにすることもできる。触媒される反応が微生物にとって有益であり、例えば、完全な抑制により微生物の増殖が防止されるようになる場合には、これは好都合である可能性がある。実際には、実験はほとんど必要でないが、完全な抑制により増殖が防止されると、これは直ちに明らかであり、明らかな利点を有する一層穏和な方法を用いることができるからである。同様に、突然変異を競合酵素の活性部位に導入して、その触媒効率を減少させるが、なくならないようにすることができる。例えば、競合酵素のNADPについてのKmを増加させた突然変異は十分であるが、このような突然変異の動力学的効果を特定する必要はない。デヒドロゲナーゼの活性部位配列は、当業者が確認することができる。
【0028】
2) NADP−GAPDHの容量の増加
NADP−GAPDHの容量または親和性を増加させるために、発現レベルを増加させることができ、またはNADPHに一層高い親和性を有するNADP−GAPDHを用いることができる。
【0029】
競合反応の減少またはNADP−GAPDHの容量増加はペントース醗酵だけでなく、NADP−GAPDHが正の効果を有する他の例についても有益である。
【0030】
ここでは、K. lactis由来のNADP−GAPDHのD−キシロース経路を含むS. cerevisiaeの菌株への導入を記載する。当業者にとって、別の真菌または他の真核生物由来の同様な酵素を見出すことは容易である。NADP−GAPDHの導入は、細菌性、真菌性または別の真核生物由来のものであろうと、その供給源には関わりなく有益である可能性がある。
【0031】
細菌および植物由来のNADP−GAPDHが知られている。本発明では、真菌由来のNADP−GAPDHを説明する。NADP−GAPDHは、例えば、NAD−GAPDHのアミノ酸配列の変更を介して、生成することができる。
【0032】
例えば、本明細書に開示されたNADP−GAPDHの配列を、既知のNADおよびNADP特異性およびある程度のアミノ酸同一性の他のデヒドロゲナーゼの配列および最良の場合には三次元構造が知られている配列と比較することにより、当業者は、補因子特異性に関与しているタンパク質配列中のアミノ酸を予測することができる。この知見により、位置指定突然変異誘発を用いて、補因子特異性を変化させることができ、すなわち、NADP−GAPDHを位置指定突然変異誘発によってNAD−GAPDHから作製することができる。異種NADP−GAPDHの発現が困難な場合には、突然変異誘発によってNADP−GAPDHを作製することが有利である可能性がある。所望の変化を、ランダム法を用いて行うこともできる。
【0033】
配列中で、酵素の補因子特異性に重要なアミノ酸を見出すことができる方法の一例は、下記の通りである。NADP−GAPDHのアミノ酸配列を、異なる特異性を有する異なる生物由来のグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列と共に整列し、これを既知の構造情報と比較すると、46アミノ酸であるアスパラギンが重要である可能性が示唆される(Fillinger et al., 2000も参照されたい)。総てのNAD−GAPDHにおいて、相当するアミノ酸は負に帯電したアスパラギン酸である。利用可能な構造情報から、NADPの負に帯電したリン酸は、NADPが活性部位に結合しているとき、すなわち負電荷間の好ましくない相互作用のためにNAD−GAPDHがNADPを用いないときには、この部分にあると予想される。負に帯電したアスパラギン酸を、K. lactisのNADP−GAPDHについて本明細書に開示したアスパラギンのような中性残基または正に帯電したアミノ酸に変化させることによって、NAD−GAPDHの特異性を変化させて、NADPを用いることもできるようにすることができる。
【0034】
L−アラビノース経路がD−キシロース経路と同様な補因子不均衡を生じるので、NADP−GAPDHはL−アラビノース醗酵においても有益であることができる。
【0035】
ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)は生物分解性プラスチックを製造するために商業的に製造されているが、法律により(例えば、ドイツ国で)使用が義務づけられている場合を除き、価格が高すぎて、広くは用いられていない。従って、PHAを生成する微生物プロセスの効率を改良することが望ましい。PHAの生合成では、グルコースを代謝してアセチル−CoAとし、2分子のNADH/アセチル−CoA分子を生成し、アセチル−CoAを次に縮合してアセトアセチル−CoAとし、これをNADPHによって還元して3−ヒドロキシブチリルCoAとする。従って、3−ヒドロキシブチリルCoAのそれぞれの分子の合成では、NADH4分子を生成し、且つNADPH1分子を必要とする。次に、3−ヒドロキシブチリルCoAを重合してポリヒドロキシブチレート(PHB)とし、またはプロピオニル−CoAのような他のアセチル−CoAと共重合して、混合PHAを形成する。モノマー単位当たり1分子のNADPHが必要であり且つ4分子のNADHが生成されることは、PHAを合成する微生物が、グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼまたはイソクエン酸デヒドロゲナーゼのような反応を介してそれらの炭素フラックスの一部を転用して、NADPHを生成し、その結果、上記で説明したように、過剰量のCOを生成し、炭素源を浪費することを意味している。同時に、NADHは再酸化しなければならず、更に炭素を損失しまたは酸素要求量が増加し、または両方を引き起こす。本発明に従って形質転換した生産微生物を用いることによって、NADHを犠牲にしてNADPHを生成する新しいメカニズムが提供される(総説について、例えば、Anderson and Dawes [1990]; Poirier et al. [1995]を参照されたい)。バイオマスのCOとしての浪費は減少し、酸素の要求量も減少し、結果として曝気費用が減少する。
【0036】
NADP−GAPDHの導入は、S. cerevisiaeの菌株で有益であるだけでなく、天然でペントースを使用する酵母種のような他の真菌でも有益である。いずれの真菌種でも、これは、D−キシロース醗酵およびL−アラビノース醗酵において、またはレドックス補因子の不均衡が障害になる任意のバイオテクノロジープロセスにおいて、有益である。醗酵生成物は、エタノール、ラクテート/乳酸、または他の生成物であることができる。
【0037】
酵素のアミノ酸配列を故意にまたは偶然に(例えば、PCRクローニングで)変化させ(例えば、部分を欠失または付加しまたはアミノ酸変化を導入)、変化した酵素が元の酵素と同じ反応を触媒することができるようにすることができることは、当業者に周知である。本発明は、このようなNADP−GAPDHの「機能活性」変異体をコードする組換えDNA配列を用いて実施することもできる。
【0038】
本発明は、実施例で用いたプロモーターとは異なるプロモーターを有する組換えDNA分子で微生物を形質転換することによって実施することもできる。組換えDNA分子が完全な機能性酵素をコードするヌクレオチド配列を含むことは、必要でない。例えば、有益な効果は、NADP−GAPDHの天然宿主を、天然プロモーターを修飾するDNA分子で形質転換することによって得て、NADP−GAPDHの発現レベルを高めることができる。
【0039】
宿主に遺伝子を形質導入または形質転換するための当該技術分野で知られているいずれの方法も、本発明に適しており、自律複製プラスミドベクターまたは人工染色体など様々な種類のベクターを用いることができる。形質転換遺伝子の単一または複数のコピーを染色体に機能的な発現可能な形態で組込むための当該技術分野で報告されている方法も、本発明に好適である。
【0040】
本発明では、幾つかの場合には、形質転換遺伝子の発現を特異的な培養条件下でのみ引き起こすのが有利であることがあると思われる。例えば、最初に生物を所定の細胞密度まで増殖させ、次に形質転換遺伝子を発現させるのが有効であることができる。温度またはpHの変化、炭素または窒素源、またはホスフェートまたは銅のようなある種の有機または無機物質の培地での存在または非存在によって誘導することができるプロモーターが、知られている。
【0041】
本発明を下記の例によって更に説明するが、これらの例は単に例示のためのものであり、どのような点においても発明の制限を意味するものではない。特に断らない限り、総ての生物工学的な手順は当該技術分野で慣用の方法を用いて行う。
【実施例】
【0042】
例1: 適当なレドックス酵素のスクリーニング
S. cerevisiaeにおけるホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子の欠失に基づいているNADP(H)関連のレドックス酵素のスクリーニング系を用いた。このような欠失を有する菌株(Δpgi1)はグルコース上で増殖することができず、これはNADPHの致死過剰産生に関係している(Boles et al., 1993)。Kluyveromyces lactisでは、このような欠失は同様な表現型を生じない(Gonzales Siso et al. 1996)。ホスホグルコースイソメラーゼ欠失を有するS. cerevisiaeを用い、Δpgi1突然変異体をグルコース上で増殖させるK. lactis遺伝子を見出す目的で、K. lactisゲノムライブラリーをグルコース上での増殖についてスクリーニングした。上記のようにして、NADPに結合したGAPDHを見出した。従って、このスクリーニング法は、本発明の実施に適する遺伝子を提供する。
【0043】
ライブラリースクリーニングのための宿主菌株の構築; S. cerevisiae におけるPGI1遺伝子の欠失:
S. cerevisiaeハプロイドの菌株CEN.PK2のPGI1遺伝子を欠失した。プライマー3645および3646を用いるPCRによって、S. cerevisiaePGI1断片を得た。プライマー3646(5'-CGACCGGTCGACTACCAGCCTAAAAATGTC-3')は、クローニングを促進するためのSalI消化部位(下線部)を有し、プライマー3645(5'-GGCACGCTGCAGAGAGCGATTTGTTCACAT-3')は、PstI消化部位を有した。PGI1断片をSalIおよびPstIで消化し、pBluescript SK-ベクター(Stratagene)に連結した。生成するプラスミド(B1186)をEcoRIおよびBstBIで消化し、PGI1遺伝子の中央から715bpの断片を除いた。
【0044】
HIS3遺伝子は、酵母発現ベクターpRS423からDrdI消化によって得た。HIS3断片をT4 DNAポリメラーゼによって平滑化し、pBluescript SK-EcoRV部位に連結した。このプラスミド(B1185)をEcoRIとClaIで消化し、HIS3遺伝子を有する1.5kbの断片をEcoRIおよびBstBIで消化したB1186プラスミドに連結した。生成するプラスミドを、B1187と命名した。
【0045】
PGIl+HIS3断片を、B1187プラスミドからSalIおよびMunI消化によって放出し、S. cerevisiae株CEN.PK2をこの断片で形質転換した。Li−アセテート法(Hill et al., 1991; Gietz al., 1992)を用いて、酵母形質転換を行った。酵母形質転換体を、S. cerevisiae PGI1遺伝子由来の断片をプローブとして用いてサザンブロット法によって確認した。次に、生成する菌株CEN.PK2Δpgi1を用いて、スクリーニングした。
【0046】
K. lactis ゲノムライブラリーの構築およびスクリーニング
K. lactisゲノムライブラリーを、Brummer et al., 2001によって報告された方法によってLEU2マーカー遺伝子を有する酵母マルチコピーベクター中に構築した。このライブラリーを、CEN.PK2Δpgi1酵母株に形質転換した。形質転換体をSC−leu+2%フルクトース+0.1%グルコースを含む培地で培養した。2日間の培養後、1.3×10個の形質転換体をプレートから0.9%NaClにプールした。
【0047】
酵母ライブラリースクリーニングのために、ライブラリーからの6000個の独立したクローンを、SC−leu+2%フルクトース+0.1%グルコースを含む培地で培養した。3日間の培養後、プレートのコロニーをSC−leu+0.1%グルコースプレートに複製した。複製プレートを、9日間培養した。72個の増殖の遅いコロニーを、SC−leu+0.1%グルコースプレートにストリークした。
【0048】
PCR分析を行い、グルコース上で増殖したクローンがホスホグルコースイソメラーゼをコードするK. lactisRAG2遺伝子を有するかどうかを決定した。PCRは、K. lactis RAG2について特異的プライマー4719および4720を用いて行った。5′−プライマー4719はATGから320bp下流であり(5'-CACTGAAGGACGTGCTGTGT-3')、3′−プライマー4720はATGから1150bp下流である(5'-AGCTGGGAATCTGTGCAAGT-3')。
【0049】
PCR分析を、18種類のコロニーについて行った。K. lactis RAG2遺伝子を持たない6個のクローンを、PCR分析によって見出した。プラスミド−DNAをこれらの6個のクローンから抽出し、E. coliで形質転換し、更に分析を行った。
【0050】
プラスミドをCEN.PK2 Δpgi1酵母株に再形質転換し、形質転換体をグルコース上での増殖について試験した。2個のクローンが、グルコース上での増殖を回復することができた。インサートの部分シークエンシングは、2個のクローンが同一であることを示唆していた。プラスミドの一つをB1513と呼んだ。
【0051】
スクリーニングの生成物の同定
回収したプラスミドは、10kbと予想されるインサートを有していた。トランスポゾンを、「鋳型生成系(Template generation system)」(Finnzymes)によりプラスミドにランダムに挿入した。10種類の異なるトランスポゾン挿入(トランスポゾンおよびベクターからのプライマーを用いるPCRによって判定)を選択した。次に、それらを、0.1%D−グルコース上での増殖について試験したCEN.PK2Δpgi1株に再形質転換した。2%D−フルクトース+0.05%D−グルコース上に保持されているが、0.1%D−グルコース上で増殖を示さない株から、プラスミドを回収し、トランスポゾン配列のプライマーで配列決定した。D−グルコース上で増殖を回復することができなかったプラスミドは、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に高い相同性を有するオープンリーディングフレームに挿入されたトランスポゾンを有した。後でNADP−GAPDHであることが明らかになる酵素のアミノ酸配列は、配列番号:2によって示される。これは、分子質量が39030Daである356アミノ酸のタンパク質である。これは、ヌクレオチド配列の配列番号1のヌクレオチド384〜1451のヌクレオチド配列におけるオープンリーディングフレームによってコードされる。
【0052】
例2: GAPDH同族体のクローニングおよび発現、NADPH−GAPDH活性の試験
K. laclis GAPDH同族体の酵母発現ベクターpYES2へのクローニング:
GAPDH同族体を、下記のプライマー:GAPBAMH:AAGGATCCAAGCGTCTCCTTAAACACCAGCおよびGAPHIND:ATAAAGCTTAAGATGCCCGATATGACAAACGAATCTTCを用いることによって例1からのプラスミドB1513からPCRによって増幅した。PCRにおけるアニーリング温度は65℃であった。PCR生成物をBamHIおよびHindIIIで消化し、pYES2ベクター(Invitrogen)の多重クローニング部位の相当する部位に連結した。pYES2は、ガラクトース誘導プロモーターとターミネーターとの間に多重クローニング部位を有する酵母発現ベクターである。生成するベクターを、B1612と命名した。
【0053】
S. cerevisiae での K. lactis GAPDH同族体の発現
上記からのプラスミドB1612およびコントロールとしてのpYES2を、S. cerevisiae菌株CEN.PK2に形質転換した。生成する株を、20g/l D−グルコースおよび20g/l D−ガラクトースを含む選択培地上で増殖させた。光学密度1で細胞を回収し、細胞抽出物を調製した。細胞抽出物は、0.5g細胞(新鮮重量)、500mgガラスビーズ(0.4mm直径)、および1ml緩衝液(10mMリン酸ナトリウム,pH7.0にプロテアーゼ阻害剤を加えたもの)を混合することによって調製した。次に、抽出物を用いて、酵素活性分析を行った。NADP−GAPDH酵素活性は、500mMトリエタノールアミン,pH7.8、1mMATP、2mMMgCl、0.2mMNADPH、3−ホスホグリセレートキナーゼを含む緩衝液中で測定した。反応を開始するため、グリセレート−3−リン酸を5mMの最終濃度で加えた。活性は、340nmでのNADPH吸光度の減少から計算した。NADPH−GAPDH活性は、0.05nkat/mg抽出タンパク質であった。エンプティーpYES2プラスミドを形質転換したコントロールでは、0.006nkat/mgであった。
【0054】
例3: S. cerevisiae 株における K. lactis GAPDH同族体のD−キシロース醗酵に対する効果
D−キシロース醗酵のため、NADP−GAPDH遺伝子を、ADHIプロモーターにより酵母発現ベクターに連結した。従って、NADP−GAPDHを、下記のプライマーであって、それぞれがBamHI部位を含むもの(BamHI部位に下線を付している) AAGGATCCAAGATGCCCGATATGACAAACGAATCTTCおよびAAGGATCCAAGCGTCTCCTTAAACACCAGCを用いたこと以外は例2に記載の通りにPCRによって増幅した。次に、PCR生成物をTOPOベクター(Invitrogen)にクローニングし、生成するベクターからの1kbBamHI断片をpVT102UのBamHI部位に連結した(Vernet et al., 1987)。生成するベクター(B1731)を、次にS. cerevisiae株(H2217,Aristidou et al 1999)に形質転換し、キシロース経路の酵素を過剰発現し、すなわちキシロースレダクターゼ(XR)、キシリトールデヒドロゲナーゼ(XDH)およびキシルロキナーゼ(XK)をゲノムに組込んだ。コントロールとして、NADP−GAPDHを欠いていることを除き、同じ株を用いた。代わりに、これは、エンプティーベクターpVT102Uを含んでいた。両株を用いて、純粋なD−キシロースを嫌気性条件下で醗酵した。最初に、細胞を、酵母窒素ベース(Difco)およびウラシルを除く総てのアミノ酸、および1.6lの容量中に炭素源としての30g/l D−グルコースを含む培地中で、30℃、pH5.0および2l/分のエンプティー気流速で増殖させた。48時間後、D−キシロース溶液0.4lを加えてD−キシロースの最終濃度が50g/lとなるようにしたとき、バイオマスは3〜4g/lであり、エタノール濃度は0.5〜1g/lであった。気体流を、流速が0.1l/分の窒素に代えた。液体試料を採取し、乾燥重量についてHPLCによってエタノール、キシロースおよびキシリトール、および他成分について分析した。出口気体を、マススペクトル分析法によって分析した。結果を、図3および4に示す。このような醗酵の主生成物は、キシリトール、エタノールおよびCOである。NADP−GAPDHを導入すると、生成したエタノール対キシリトールのモル比が増加した。NADP−GAPDHなしでは、キシリトールとエタノールのモル濃度は同様である。NADP−GAPDHを導入すると、キシリトールの生成は約30%だけ減少する(図4)。D−キシロースについてのエタノール収率も、影響を受ける。最大理論収率は、1.67モルエタノール/1モルD−キシロースである。コントロールでは、生成エタノール対消費D−キシロースモル比は0.44であり、これは理論収率の26%であり、NADP−GAPDHを用いると、消費D−キシロース対生成エタノールのモル比は0.57であり、これは理論収率の34%であった(図4)。CO収率も影響を受ける。30〜90時間の期間におけるCO生成を分析し、これを同じ期間のエタノール生成と比較した。NADP−GAPDHを用いると、CO対エタノールのモル比は、コントロールでは1.91であったのに比較して、1.15である。
【0055】
例4: NADP−GAPDH精製物
NADPH−GAPDHを精製するため、タンパク質のN−末端における6ヒスチジンの付加タグを用いて酵母で過剰発現させた。これを、例2および3と同様に、PCRによってクローニングした。プライマーは、BamHI制限部位を有する遺伝子の開始についてはAAGGATCCAAGATGCCCGATATGACAAACGAATCTTCであり、6ヒスチジンの導入を有する遺伝子の終了についてはAAGGATCCTTAATGATGATGATGATGATGAACACCAGCTTCGAAGTCCTTTTGAGCCであり、BamHI制限部位には下線を付した。PCR生成物を最初にTOPOベクター(Invitrogen)にクローニングし、TOPOベクター由来のBamHI断片を次にPGK1プロモーターを有する酵母発現ベクター(B1181)のBglII部位に連結した。この酵母発現ベクターは、酵母発現ベクターpMA91(Mellor et al., 1983)をHindIIIで消化し、BglIIクローニング部位を有するPGK1プロモーター/ターミネーターを含む生成する1.8kb断片をYEplacl95ベクター(Gietz and Sugino, 1988)のHindIII部位に連結した。次に、プラスミドを、ホスホグルコースイソメラーゼ遺伝子に突然変異を有する酵母菌株に形質転換した。プラスミドはグルコース上で増殖を回復することができ、ヒスチジンタグが酵素活性に影響しないことを示していた。次に、Hisタグ付きタンパク質をNiNTAカラム(Qiagen)で精製した。このようにして精製したタンパク質を、次に図6に示すように、SDS−PAGEにかけた。酵素はほとんど純粋である。SDS−PAGEにおけるタンパク質のほぼ80〜90%は、約40kDaの単一バンドである。活性は、例2に記載した通り、200μMNADPHまたは200μMNADHを用いて測定した。NADPHを用いると、活性は140nkat/mgであり、NADHを用いると、活性は47nkat/mgであった。
【0056】
例5: D−キシロース醗酵についてのNADP−GAPDHの存在下でのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼの欠失の効果
Δzwfl欠失株の構築
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)をコードするZWF1遺伝子は、S. cerevisiaeゲノムDNAを鋳型として用いるPCRによって得た。特異的プライマー3994 (5'-GCTATCGGATCCAAGCTTAGGCAAGATGAGTGAAGGTT-3')および4006(5'-GCTATCGGATCCAAGCTTAGTGACTTAGCCGATAAATG-3')を用いた。両プライマーは、クローニングを促進するためのBamHIおよびHindIII部位を有した。制限部位には、下線を付している。PCRから得たZWF1断片をBamHIで消化し、pBluescript SK−プラスミド(Stratagene)に連結した。生成するプラスミドB1768を、BglIIで消化した。消化において、1063bp断片がZWF1遺伝子の中央から放出された。消化したベクターを、Mung Bean Nucleaseで平滑化した。HIS3マーカー遺伝子は、pRS423プラスミド(Christianson et al., 1992)からBsmBIおよびDraIII消化によって得た。HIS3遺伝子を含む1591bp断片をMung Bean Nucleaseで平滑化し、BglIIで消化して平滑化したB1768ベクターに連結した。生成するプラスミドを、B1769と命名した。ZWF1欠失カセットをB1769プラスミドからBamHI消化によって放出し、S. cerevisiae株H2217(例3参照)をLi−アセテート法により断片を用いて形質転換した。ZWF1遺伝子の欠失は、PCR分析、サザンブロット分析、およびG6PDH酵素活性分析によって確かめた。
【0057】
G6PDH酵素活性測定のための細胞抽出物は、ガラスビーズを用いて酵母細胞を10mMNa−リン酸,pH7.0緩衝液中で粉砕することによって調整した。プロテアーゼ阻害剤PMSF(最終濃度1mM)およびペプスタチンA(0.01mg/ml)を、抽出緩衝液に加えた。活性は、Cobas Miraアナライザー(Roche)で測定した。活性は、10mMNa−リン酸,pH7.0および1mMNADPを含む緩衝液中で測定し、10mMG6PDHを出発試薬として用いた。G6PDH活性は、Δzwfl欠失株では見られなかった。
【0058】
グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼをコードするZWF1遺伝子を、キシロースレダクターゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼおよびキシルロキナーゼの遺伝子が例3に記載の通りにゲノムに組込まれているS. cerevisiaeで欠失させた。
【0059】
次に、生成する菌株を、PGK1プロモーター下でNADP−GAPDHを有する多重コピー発現ベクターで形質転換した。この発現ベクターを作製するため、例3に記載されているようにNADP−GAPDHを有する1kbBamHI断片を、例4に記載されているようにB1181ベクターのBglII部位に連結した。コントロール株は、zwfl欠失株におけるエンプティーベクターB1181で作製した。4個の株、株1:GDP1,GAPDHについての遺伝子を発現する株; 株2:コントロール,エンプティーベクターを有する株; 株3:GDP1Δzwfl, zwfl欠失のバックグラウンドにおけるGAPDHについての遺伝子を発現する株;および株4:Δzwfl,zwfl欠失およびエンプティープラスミドを有する株、を比較した。総ての株は、ゲノムに組込まれたD−キシロースレダクターゼ、キシリトールデヒドロゲナーゼおよびキシルロキナーゼをコードする遺伝子も有している。次に、これらの株を用いて、例3に記載されているようにD−キシロースを嫌気性条件下で醗酵させた。結果は、表1および2、および図8、9および10にまとめてある。
【0060】
表1
例5に記載の醗酵のまとめ。嫌気性醗酵の120時間中のD−キシロース消費を、同じ期間中のエタノール、キシリトールおよびCOの生成と比較する。
【表1】
Figure 2005507255
【0061】
【表2】
Figure 2005507255
【0062】
例6:
14C標識したD−キシロースを有するD−グルコースD−キシロース混合物上での嫌気性振盪フラスコ培養。初期のバイオマスは、乾燥重量が0.365g/lであった。上記のようなD−グルコースD−キシロース混合物中で酵母懸濁液100mlを、30℃での嫌気生活を確保するためのウォーターロック(waterlock)を有する100ml三角フラスコ中でマグネティックスターラー攪拌を行った。醗酵は75時間であった。醗酵後、エタノールを培地50mlから蒸留し、50mlの容積まで満たした。次に、全エタノールを、Anton-Paar DMA58密度計を用いて蒸留物の密度を測定することによって測定した。D−キシロース由来のエタノールは、蒸留物の放射能から推定した。
【0063】
総ての株は、XR、XDHおよびXKを組込んだ株から誘導され、前例に記載されている。
【0064】
表3
例6の結果のまとめ。醗酵時間後の乾燥重量、総エタノールおよびD−キシロースからのエタノールを、様々な株および初期糖組成について示す。「キシロースからの理論量の%」とは、総てのD−キシロースが消費された場合のキシロースのモル数当たりのエタノール5/3モルである理論収率と比較した%で示したキシロース由来のエタノールの画分である。
【表3】
Figure 2005507255
【0065】
参考文献
【表4】
Figure 2005507255
Figure 2005507255
Figure 2005507255

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】L−アラビノースおよびD−キシロースについての真菌性経路を示す。L−アラビノースを、2還元および2酸化段階を含む経路でD−キシルロース−5−ホスフェートに転換する。還元段階はNADPHの酸化と対になっており、酸化段階はNADの還元と対になっている。D−キシロースを、1還元および1酸化を含む同様な方法で異化する。ここでもまた、還元はNADPHの酸化と対になっており、酸化はNADの還元と対になっている。
【図2】D−キシロース醗酵におけるレドックス補因子を示す。D−キシロース3モルのエタノール5モルおよびCO5モルへの醗酵はレドックス中性である。しかしながら、異なるレドックス補因子が用いられ、すなわちNADPおよびNADHは十分には再生されず、レドックス補因子の不均衡を生じる。NADPは、例えば、ペントースリン酸経路の酸化的部分によって再生することができる。これによって余剰COが生成し、全体的プロセスは最早レドックス中性ではなくなる。
【図3】NADP−GAPDHを用いるD−キシロース醗酵におけるレドックス補因子を示す。D−キシロース3モルのD−キシルロース3モルへの転換では、NADP3モルおよびNADH3モルを生成する。D−キシルロース3モルから、グリセルアルデヒド−3−リン酸(GAP)を生成することができる。GAP3モルは、NADP3モルを再生処理してNADPHとすることができる。他のGAP2モルを用いて、NAD2モルをNADHに還元する。全部で5モルのNADHを生成し、これはアルコールデヒドロゲナーゼによって再生して、エタノールを生成することができた。エタノール5モルおよびCO5モルの生成は補因子中性である。
【図4】NADP−GAPDHを過剰発現する菌株(黒塗り記号)およびNADP−GAPDH活性を持たない相当するコントロール(白抜き記号)での嫌気性D−キシロース醗酵の際のエタノールおよびキシリトール生成を示す。濃度は、mM/g乾燥重量で示す。
【図5】NADP−GAPDHを過剰発現する菌株(黒塗り記号)およびNADP−GAPDH活性を持たない相当するコントロール(白抜き記号)での嫌気性D−キシロース醗酵の際のエタノール生成およびD−キシロース消費を示す。濃度は、mM/g乾燥重量で示す。
【図6】ヒスチジンタグを有する精製NADP−GAPDHのSDS−PAGEを示す。
【図7】ZWF1欠失を有し且つNADP−GAPDHを過剰発現する菌株での嫌気性D−キシロース醗酵の際のエタノールおよびキシリトール生成(三角形)を示す。詳細は、例5で説明する。比較のため、図4からのエタノールおよびキシリトール生成を含めている。黒塗り記号はエタノール生成を表し、白抜き記号はキシリトールを表している。四角形はコントロール菌株についてのものであり、黒塗り丸は例3に記載した通りのNADP−GAPDHを過剰発現する菌株についてのものである。
【図8】例5に記載の菌株を用いる嫌気性D−キシロース醗酵の際のエタノール生成を示す。
【図9】例5に記載の菌株における嫌気性D−キシロース醗酵の際のキシリトール生成を示す。
【図10】例5に記載の菌株における嫌気性D−キシロース醗酵の際のD−キシロース消費を示す。

Claims (9)

  1. バイオテクノロジープロセスを実施する能力が増強された真菌微生物であって、NADPに結合したグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼをコードするDNA配列で形質転換されていることを特徴とする、真菌微生物。
  2. NADP−グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼが真菌由来である、請求項1に記載の真菌微生物。
  3. DNA配列が配列番号1またはその機能性変異体を含んでなる、請求項1または2に記載の真菌微生物。
  4. バイオテクノロジープロセスがL−アラビノースまたはD−キシロースを炭素源として包含する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の真菌微生物。
  5. 生物を更に操作して、他のNADP/NADPHに関連した反応を抑制する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の真菌微生物。
  6. 有用生成物が、請求項1〜5のいずれか一項に記載の真菌微生物によって炭素源から生成される、炭素源から有用な工業用生成物を製造する方法。
  7. 炭素源がペントースを含む、請求項6に記載の炭素源から有用な工業用生成物を製造する方法。
  8. 有用な工業用生成物がエタノールである、請求項6または7に記載の方法。
  9. 請求項1〜5のいずれか一項に記載の真菌微生物を用いることを特徴とする、グルコースを含む炭素源からポリヒドロキシブチレートを製造する方法。
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