JP2009050183A - Pi3キナーゼ阻害剤の効果判定方法 - Google Patents

Pi3キナーゼ阻害剤の効果判定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の効果を判定するための新規なバイオマーカーを同定し、薬剤投与した患者に対するPI3キナーゼ阻害剤の効果を早期段階で確度高く判定する。
【解決手段】被験者から単離された試料中における4E-BP1のリン酸化を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析することにより、当該被験者に対する前記PI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、4E-BP1のリン酸化を指標としたPI3キナーゼ阻害剤の効果判定方法に関する。より詳しくは、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後における被験者の4E-BP1のリン酸化レベルを比較解析することにより、当該被験者におけるPI3キナーゼ阻害剤の効果判定を行なう方法に関する。
がん化学療法によるがん治療は、薬剤投与による腫瘍の縮小のような実際の効果を知るのには時間がかかる。そこで、投与する薬剤に対する適合性を早い段階で判定できるバイオマーカーがあれば、副作用や無駄なコストを回避して、より安全かつ有効に処方できることが期待される。
これまでに発明者らは、ヒトがん細胞株を用いて、ウエスタンブロット法やプロテインチップを利用した低プロテオームのタンパク質発現解析をすることで、新規ながん関連タンパク質の探索(非特許文献1)や、大腸癌(特許文献1)やがん悪液質(特許文献2)などの特定症状の指標となるタンパク質の同定、また特定の抗がん剤に対する感受性予測マーカー候補の同定(非特許文献2)を行ってきた。一方で発明者らは、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3キナーゼ)に対する分子標的薬を新規に開発し、目下、この薬剤を臨床試験へと移行中である。しかし、PI3キナーゼ阻害剤については、その効果判定のためのバイオマーカーはまだ知られていない。
PI3キナーゼは、生体膜に局在するイノシトールリン脂質の3位をリン酸化する酵素で、種々のシグナル伝達カスケードの活性化を介して、細胞の増殖・成長、細胞周期の促進、抗アポトーシス、細胞の運動性や形態変化、物質輸送・分泌調整など、生体内で様々な役割を担っている。最近、PI3キナーゼは発がんやがんの生存、増殖、転移などにも重要な役割を果たしていることから(非特許文献3及び4)、抗がん剤の有力な標的として注目を浴びている(非特許文献5及び6)。
ごく最近になって、PI3キナーゼ阻害剤の臨床試験が開始された。そのため、PI3キナーゼ阻害剤をより安全かつ有効に利用するために、その効果判定バイオマーカーの早急な開発が一層望まれている。
特開2004-254571号公報 特開2004-333274号公報 M. Shiwa, Y. Nishimura, R. Wakatabe, A. Fukawa, H. Arikuni, H. Ota, Y. Kato, T. Yamori, Rapid discovery and identification of a tissue-specific tumor biomarker from 39 human cancer cell lines using the SELDI ProteinChip platform, Biochem Biophys Res Commun 309, 18-25, 2003. T. Akashi, Y. Nishimura, R. Wakatabe, M. Shiwa, T. Yamori, Proteomics-based identification of biomarkers for predicting sensitivity to a PI3-kinase inhibitor in cancer, Biochem Biophys Res Commun 352, 514-521, 2007. I. Vivanco, C.L. Sawyers, The phosphatidylinositol 3-Kinase AKT pathway in human cancer, Nat Rev Cancer 2, 489-501, 2002. Y. Samuels, K. Ericson, Oncogenic PI3K and its role in cancer, Curr Opin Oncol 18, 77-82, 2006. J. Luo, B.D. Manning, L.C. Cantley, Targeting the PI3K-Akt pathway in human cancer: rationale and promise, Cancer Cell 4, 257-262, 2003. L. Stephens, R. Williams, P. Hawkins, Phosphoinositide 3-kinases as drug targets in cancer, Curr Opin Pharmacol 5, 357-365, 2005.
本発明の課題は、ホスファチジルイノシトール3(PI3)キナーゼ阻害剤の効果を判定するための新規なバイオマーカーを同定し、薬剤投与した患者のPI3キナーゼ阻害剤に対する適合性を早期段階で判定することにより、より安全かつ有効な治療を可能にすることにある。
発明者らは、プロテインチップシステムを用いて低分子量域のリン酸化タンパク質を網羅的に探索し、PI3キナーゼ阻害剤に対して感受性を示す12.9kDaの分子を選別した。次いで、バイオインフォマティクスのためのデータ解析ツールであるTagIdent toolを用いて、この12.9kDa分子の有力候補として4E-BPIを同定した。同定された4E-BPIは、PI3キナーゼ阻害剤処理したサンプル(前立腺癌細胞株PC-3や肺癌細胞株A549)で、濃度依存的にそのリン酸化が抑制され、それは腫瘍の増殖抑制と相関することが確認された。
ところで、一般に、タンパク質のリン酸化修飾体はイオン化効率が低減するため、質量分析器による測定は比較的に困難とされている。実際、ペプチドサイズ(<5000 m/z)の分子については、リン酸化修飾体の質量分析器による測定報告が多数あるものの、タンパク質サイズ(>5000 m/z)の分子については、そのような報告はほとんどなかった。しかし、最近発明者らは、プロテインチップシステムでタンパク質サイズの分子のリン酸化修飾体を相対的定量できることを示した(Akashi, T. & Yamori, T., Proteomics 7, 2350-2354, 2007)。
リン酸化4E-BP1の発現量は、PI3キナーゼ阻害剤による抗腫瘍効果に伴ってドラスティックに変化し、それゆえ、PI3キナーゼ阻害剤の効果予測マーカーとして利用可能である。
すなわち、本発明は、被験者から単離された試料中における4E-BP1(translation initiation factor 4E-binding protein 1)のリン酸化レベルを、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析することにより、当該被験者に対する前記PI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する方法に関する。
前記方法においては、例えば、リン酸化4E-BP1の発現量を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析する。あるいは、リン酸化4E-BP1とリン酸化されていない4E-BP1の発現量を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析する。
判定は、4E-BP1のリン酸化レベルのみに基づいて行なってもよいが、他のタンパク質の発現解析とあわせて行なってもよい。そのような、他のタンパク質としては、Akt、TSC2、mTOR、p70S6K、GSK-3β、Cyclin D1、RB、p27、FOXO1、FOXO3、PTEN、Erk1/2、及びMEK1/2ならびにこれらのリン酸化フォームを挙げることができる。
マーカータンパク質の発現量は公知のいずれの方法によって測定してもよく、例えば、質量分析あるいは解析対象とするタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的方法よって測定できる。
本発明によれば、4E-BP1のリン酸化レベルを指標として、PI3キナーゼ阻害剤の作用効果を判定することができる。これにより、薬剤投与前後における患者において生検することで、当該薬剤に対する患者の適合性を的確に判断して、安全かつ有効な治療を行うことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果を期待できるため、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとなりうる。
1.4E-BP1
細胞内におけるタンパク質合成は、細胞骨格の材料や細胞内の種々の生化学反応に関わる因子、またその調節因子などを産出し、細胞の維持・成長・分裂増殖に欠くことのできない根幹的な営みである。タンパク質合成の過程は、主に翻訳開始と翻訳伸長の2過程から構成されており、鋳型となるmRNAにタンパク質合成装置に関与する因子を集積させる。
本発明に関わる4E-BP1(translation initiation factor 4E-binding protein 1)は、翻訳開始因子の1つのeIF4E(eukaryotic translation initiation factor 4E)と結合し、その機能を抑制するタンパク質である。eIF4Eは、mRNAの5’末端キャップ構造を認識し結合するが、これに伴い種々の翻訳開始因子がリクルートされ、タンパク質の合成を開始させる。よって、4E-BP1は、タンパク質合成の起点を制御する因子として働き、細胞の成長・増殖に重要な役割を担っている。
ヒト4E-BP1では、少なくも37-Thr、46-Thr、65-Ser、70-Thrがリン酸化修飾部位であり、PI3キナーゼのシグナル伝達経路の下流に位置するmTORがそれらのリン酸化に関与しているとされている。リン酸化されていない4E-BP1は、eIF4Eと結合してタンパク質合成を抑制するが、リン酸化された4E-BP1は、eIF4Eから解離し、その結果、タンパク質合成が開始される(Averous & Proud, 2006, Oncogene 25, 6423-6435)。
ちなみに、ヒトの4E-BP1の遺伝子はGenBank Accession No. L36055(Human 4E-binding protein 1 mRNA, complete cds.)として、またそのアミノ酸配列はUniProt Accession No. Q13541として登録されている。
2.4E-BP1とPI3キナーゼ阻害剤感受性
発明者らは、4E-BP1のリン酸化とPI3キナーゼ阻害剤(ZSTK474)による抗腫瘍効果の間には相関関係があることを確認した。すなわち、PI3キナーゼ阻害剤(ZSTK474)の濃度依存的抗腫瘍効果に伴い、4E-BP1のリン酸化も抑制されることが確認された。
同様の4E-BP1のリン酸化に対する相関関係は、後述するPI3キナーゼ阻害剤であるLY294002においても存在する。このことは、4E-BP1のリン酸化レベル、すなわちリン酸化4E-BP1(以下、p-4E-BP1と記載する)の発現量、あるいはp-4E-BP1と非リン酸化4E-BP1(以下、単に4E-BP1と記載する)との発現比率が、PI3キナーゼ阻害剤の抗腫瘍効果の普遍的な指標となりうることを示唆するものである。
3.PI3キナーゼ阻害剤
既に記載したように、PI3キナーゼは、発がんやがんの生存、増殖、転移などがんにとって重要な役割を果たすことからがん治療の有力な標的とされており、したがって、PI3キナーゼ阻害剤は、がんの治療薬として非常に期待されている。
現在知られているPI3キナーゼ阻害剤としては、たとえば、wortmannin、LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]、ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine] (Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 98, 545-556, 2006)、SF-1126 [N2-[4-Oxo-4-[4-(4-oxo-8-phenyl-4H-1-benzopyran-2-yl)morpholin-4-ium-4-ylmethoxy]butyryl]-L-arginyl-glycyl-L-aspartyl-L-serine acetate]、BEZ-235 [2-Methyl-2-[4-[3-methyl-2-oxo-8-(3-quinolinyl)-2,3-dihydro-1H-imidazo[4,5-c]quinolin-1-yl]phenyl]propanenitrile]などが挙げられる。
Figure 2009050183
1)Wortmannin
細胞浸透性の真菌代謝産物である。PI3キナーゼの精製調整品及び細胞質画分に対し、選択的、非可逆的かつ強力な細胞浸透性阻害作用を有する。
2)LY294002 [2-(4-morpholinyl)-8-phenyl-4H-1-benzopyran-4-one]
天然フラボノイドであるケラセチンのアナログである。PI3キナーゼ阻害効果に加えて、カゼインキナーゼII阻害効果も有する。
3)ZSTK474 [2-(2-difluoromethylbenzimidazol-1-yl)-4,6-dimorpholino-1,3,5-triazine]
ZSTK474は、アロマターゼ(アンドロゲンをエストロゲンに変換する酵素)阻害剤であるトリアジン誘導体として作製された化合物であるが、アロマターゼ阻害剤は全くなく、強いPI3キナーゼ阻害活性を有することが確認された。ZSTK474は既知のPI3キナーゼ阻害剤LY294002やWortmanninと構造は異なるが、計算機による分子モデル解析からPI3キナーゼのATP結合部位へ配位しうることが判明している。ZSTK474は、動物がんモデルにおいて経口投与で強力な抗がん作用を示し、かつ低毒性であるため、安全かつ有効な抗がん剤として現在、開発が進められている(Yaguchi et al., J Natl Cancer Inst. 98, 545-556, 2006)。
4)SF-1126 [N2-[4-Oxo-4-[4-(4-oxo-8-phenyl-4H-1-benzopyran-2-yl)morpholin-4-ium-4- ylmethoxy]butyryl]-L-arginyl-glycyl-L-aspartyl-L-serine acetate]
SF-1126は、既知のPI3キナーゼ阻害剤LY294002にペプチド(Arg-Gly-Asp)を付加した誘導体で、LY294002と異なり水溶性である。現在、第I相試験が行われている。
5)BEZ-235 [2-Methyl-2-[4-[3-methyl-2-oxo-8-(3-quinolinyl)-2,3-dihydro-1H-imidazo [4,5-c]quinolin-1-yl]phenyl]propanenitrile]
BEZ-235は、経口投与可能なPI3キナーゼ阻害剤である。現在、進行した乳がん、前立腺がん、グリオーマを中心とした第I相試験が行われている。
4.PI3キナーゼ阻害剤の効果判定
発明者らの研究結果は、被験者から単離した試料中の4E-BP1のリン酸化レベルを、PI3キナーゼ阻害剤投与前後において比較解析することにより、当該被験者におけるPI3キナーゼ阻害剤の効果判定が可能なことを示す。
PI3キナーゼ阻害剤の効果判定は、PI3キナーゼ阻害剤投与前後におけるp-4E-BP1の発現量を比較解析することにより行なってもよいし、PI3キナーゼ阻害剤投与前後におけるp-4E-BP1と4E-BP1の発現量を比較解析することにより行なってもよい。
4.1 試料の調製
解析に用いる試料としては、被験者から採取した末梢血(血球)、あるいは標的部位の組織細胞等を使用することができる。
末梢血を用いる場合、被験者から採取した血液は、抗凝固処理をした後、比重遠心法や免疫磁気ビーズ法などによる分離を行うことで血液中の血球系がん細胞を回収し、その後の検出方法に応じて適宜調製される。質量分析用の試料は、例えば、回収した血球系がん細胞から細胞抽出液を調製して使用する。ELISA/RIA(あるいはこれらの変法)用試料は、例えば、前記細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈したものを用いる。ウエスタンブロット用(電気泳動用)試料は、例えば、細胞抽出液をそのまま使用するか、緩衝液で適宜希釈して、SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動用の2−メルカプトエタノールを含むサンプル緩衝液(シグマ社製等)と混合したものを用いる。ドット/スロットブロット用試料は、例えば、回収した細胞抽出液そのもの、又は緩衝液で適宜希釈したものを、ブロッティング装置を使用するなどして、直接メンブレンへ吸着させたものを用いる。
試料として標的部位の組織細胞を使用する場合は、採取した組織細胞から細胞抽出液を調製して使用する。たとえば、採取した組織細胞を細胞破砕液で溶解し、遠心後の上清(細胞質・膜分画)に、尿素, CHAPS, DTT等を添加して、タンパク質を変性させて細胞抽出液を調製する。
4.2 p-4E-BP1および4E-BP1の発現量の解析
本発明の方法では、p-4E-BP1および4E-BP1の発現量を測定する。測定は、各分子種を質量差によって分離可能な質量分析を用いて、その発現量を定量するか、あるいはリン酸化状態の違いを区別可能な各分子種特異的抗体を用いて、その発現量を免疫学的に定量する。
(1) 質量分析による解析
4E-BP1はpI=5の酸性タンパク質であるため、前記のようにして調製した血清あるいは細胞抽出液は、適宜希釈した後、まず陰イオン交換クロマトグラフィーにかけてその吸着画分を集める。陰イオン交換体は、強陰イオン交換体(例えばQuaternary ammonium(Q)、Quaternary aminoethyl(QAE)等)、及び弱陰イオン交換体(例えばDiethylaminoethyl(DEAE)等)に分類されるが、本発明の解析方法にはいずれを用いてもよい。より好ましくは強陰イオン交換体を用いる。使用するバッファーのpHは、目的タンパク質である4E-BP1のpI値と特性(安定性)によって適宜決定され、本発明の場合はpH5〜8程度が好ましい。溶出バッファーの塩濃度勾配は、目的タンパク質の溶出するイオン強度に応じて決定される。吸着画分は、必要に応じて、さらに逆相クロマトグラフィーにかけて精製した後、質量分析器にかけ、4E-BP1のリン酸化修飾体および非修飾体のピークを定量する。
(2) 免疫学的方法による解析
p-4E-BP1および4E-BP1の発現量は、抗原抗体反応を利用した免疫学的方法を用いて検出することもできる。ここで「発現量」とは当該蛋白質の量に限定されず、これを間接的に示す力価(抗体価等)も含む。
免疫学的方法としては、たとえば、免疫沈降法や、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、スロットブロット法、ELISA法、及びRIA法を含む固相免疫法あるいはこれらに改変を加えた公知の変法等を挙げることができる。
検出に用いられる抗体は、より検出感度の高いものを得るために、公知の方法にしたがって調製できる。抗体は、常法により、抗原となる4E-BP1各分子種、あるいはその断片を用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、特異的抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、これよりモノクローナル抗体を得てもよい。
抗体作製用の抗原は、リン酸付加状態の相違を反映するp-4E-BP1および4E-BP1の部分断片(エピトープ)、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、N末端付加するキーホールリンペットヘモシアニン)が付加された誘導体を挙げることができる。前記抗原ポリペプチドは、遺伝子操作によって産生させたポリペプチドを適宜リン酸化して得てもよい。
抗体は、それを直接標識するか、又は該抗体を一次抗体とし、該一次抗体を特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と協同で検出に用いられる。
前記標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼ)又はビオチン(ただし二次抗体のビオチンにさらに酵素標識ストレプトアビジンを結合させる操作が加わる)であるが、これらに限定されない。標識二次抗体(又は標識ストレプトアビジン)としては、予め標識された抗体(又はストレプトアビジン)が、各種市販されている。なお、RIAの場合は125I等の放射性同位元素で標識された抗体を用い、測定は液体シンチレーションカウンター等を用いて行う。
これら標識された酵素の活性を検出することにより、抗原の発現量が測定される。アルカリホスファターゼ又は西洋ワサビペルオキシダーゼで標識する場合、これら酵素の触媒により発色する基質や発光する基質が市販されている。
発色する基質を用いた場合、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法を利用すれば、目視で検出できる。ELISA法では、市販のマイクロプレートリーダーを用いて各ウェルの吸光度(測定波長は基質により異なる)を測定し、定量することが好ましい。また上述の抗体作製に使用した抗原の希釈系列を調製し、これを標準抗原試料として他の試料と同時に検出操作を行い、標準抗原濃度と測定値をプロットした標準曲線を作成することにより、他の試料中の抗原濃度を定量することも可能である。
一方、発光する基質を使用した場合は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法においては、X線フィルム又はイメージングプレートを用いたオートラジオグラフィーや、インスタントカメラを用いた写真撮影により検出することができる。また、デンシトメトリーやモレキュラー・イメージャーFxシステム(バイオラッド社製)等を利用した定量も可能である。さらに、ELISA法で発光基質を用いる場合は、発光マイクロプレートリーダー(例えば、バイオラッド社製等)を用いて酵素活性を測定する。
4.3 評価(PI3キナーゼ阻害剤の効果判定)
効果判定は、試料中の4E-BP1のリン酸化レベル、すなわち試料中に含まれるp-4E-BP1あるいはp-4E-BP1と4E-BP1の発現量を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後において比較解析することで行う。4E-BP1のリン酸化レベルとPI3キナーゼ阻害剤の効果の間には、以下の負の相関関係が存在する。
前述のとおり、評価はPI3キナーゼ阻害剤の効果判定は、PI3キナーゼ阻害剤投与前後におけるp-4E-BP1の発現量を比較解析することにより行なってもよいし、PI3キナーゼ阻害剤投与前後におけるp-4E-BP1と4E-BP1の発現量を比較解析することにより行なってもよい。
データの解析方法は、上記のような単純な比率計算でもよいし、クラスタ解析、サポートベクターマシン等の機械学習のアルゴリズム等、当該技術分野で知られた任意の解析方法を用いてもよい。被験者におけるp-4E-BP1と4E-BP1の発現量とPI3キナーゼ阻害剤による抗腫瘍効果との相関データをデータベースに蓄えておけば、当該データベースを参照することにより、治療の進行状況のモニタリング等、より正確な効果判定が可能になる。
判定は、4E-BP1のリン酸化レベルのみに基づいて行なってもよいが、他のタンパク質の発現量とあわせて判定してもよい。そのような、他のマーカータンパク質としては、Akt、TSC2、mTOR、p70S6K、GSK-3β、Cyclin D1、RB、p27、FOXO1、FOXO3、PTEN、Erk1/2、及びMEK1/2あるいはこれらのリン酸化フォームを挙げることができる。
Akt、TSC2、mTOR、p70S6K、GSK-3β、Cyclin D1、RB、p27、FOXO1、FOXO3、PTEN、は、PI3キナーゼの下流のシグナル伝達経路因子であるため(図7参照)、効果判定のバイオマーカーとなりうる可能性があり、かつ4EBP1による判定結果を補強する可能性がある。Erk1/2やMEK1/2は、PI3キナーゼ系ではなくMAPK系のシグナル伝達経路に含まれるが、この経路に強く依存している細胞では、PI3キナーゼ阻害剤の効果があまりない可能性があり、上述のマーカーとは逆の意味で薬剤効果判定のためのマーカーとなりうる(薬剤効果がないという判定マーカーになりうる)。
したがって、上述のデータベースには、これら第2のマーカーの発現量や背景情報(対象者の性別、年齢、各種検査値等)も蓄積しておき、これらのデータもあわせて解析すれば、より実用的かつ正確な予測が可能となる。
5.診断用キット
本発明の方法で用いられる、各種試薬(抗体、バッファー、標識試薬等)、器具(クロマトグラフィー等)等は、PI3キナーゼ阻害剤の効果判定のためのキットとして、医療機関等に供することが可能である。
以下、実施例により本願発明をより詳細に説明するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
プロテインチップシステム(Bio-Rad Laboratories, Inc.)では、無修飾のタンパク質のみならず、リン酸化修飾を受けたタンパク質をも相対的に定量できること(Akashi, T. & Yamori, T., Proteomics 7, 2350-2354, 2007)を踏まえて、このシステムとリン酸化タンパク質を濃縮できるIMACカラムを組み合わせることで、低分子量域のリン酸化タンパク質を網羅的に解析し、その中からPI3キナーゼ阻害剤に対して感受性のリン酸化タンパク質を探索した。
(1)リン酸化タンパク質プロファイルの作成
EGF処理(10分間)したヒトがん細胞PC-3株を回収した後、NP-40(最終濃度0.5%)を添加したPhosphoProtein Purification Kit (QIAGEN K.K.)のLysis Bufferで細胞破砕し、遠心後の上清(細胞質・膜分画)を、CHAPS(最終濃度0.25%)添加したLysis Bufferでタンパク質濃度が0.1 mg/mlになるように希釈した。上記Kitのプロトコールに従い、希釈した細胞抽出液をLysis Buffer (QIAGEN)で平衡化したIMACカラムに供し、カラム樹脂に吸着したタンパク質をElution Buffer (QIAGEN)で溶出させた。この溶出液を限外ろ過スピンカラムで濃縮脱塩した後、プロテインチップ(陰イオン交換性のQ10 chip)に吸着させ、エネルギー吸収剤(シナピン酸)を添加し、質量分析器(SELDI-TOF MS)にかけて、タンパク質プロファイルを得た(図1)。
このプロファイルと、チップに載せる前に予め脱リン酸化酵素(λ-phosphatase)処理をしたサンプルのタンパク質プロファイルとを比較することで、リン酸化タンパク質候補を探索し、11.8 kDa、12.9 kDaのピークを含む複数のリン酸化タンパク質候補を見出した(図1)。何れのリン酸化タンパク質候補のピークについても、脱リン酸化によるピークの消失と、リン酸基1個の分子量に相当する80 Daの整数倍分の分子量の小さいピークの出現(またはピーク高の増加)を観察することができた(図1)。これらのうち、11.8 kDaのピークは、以前の実験で見出されたリボソームP2タンパク質の2個リン酸化体と考えられ(Akashi, T., BBRC 352, 514-521, 2007)、脱リン酸化処理でこのピークは消失し、160 Da(80 Da x 2)小さい11.6 kDaのピーク高が増大した。このことは、この実験系により目的とするリン酸化タンパク質の選別が可能であることを示す。
(2)PI3キナーゼ阻害剤感受性のリン酸化タンパク質の選別
次に、EGF刺激を与える前にPI3キナーゼ阻害剤のZSTK474 (Yaguchi, S., Yamori, T. et al., Antitumor activity of ZSTK474, a new phosphatidylinositol 3-kinase inhibitor, J Natl Cancer Inst. 98, 545-556, 2006)処理を予め行った細胞株を用意し、前項と同様の手順に従ってタンパク質プロファイルを作成し、リン酸化タンパク質プロファイルと比較した。
Figure 2009050183
リン酸化タンパク質候補の中で、ZSTK474処理で減少もしくは消失するようなピークを、ZSTK474感受性シグナル伝達因子として選別した。その結果、12.9 kDaのピークのみが、ZSTK474処理により薬剤濃度依存して消失した。同時に、このZSTK474処理によって得られるタンパク質プロファイルでは、12.9 kDaのピークより80 Daの整数倍分の分子量の小さいピークが複数観察され、12.9 kDaのタンパク質は複数個所のリン酸化修飾部位を持つことが示唆された(図2)。
(3)選別したタンパク質の候補
選別した12.9 kDaのタンパク質を同定するために、バイオインフォマティクスのツールの一つであり、web上で公開されているTagIdent tool(http://us.expasy.org/tools/tagident.html)を利用した。TagIdent toolでは、候補タンパク質の予測される等電点(pI値)と修飾を受けていない状態の候補タンパク質の分子量(MW)を入力すると、タンパク質データベース(Swiss-Prot)から相当するタンパク質を検索することができる。このツールにより、pI=6, MW=12425と、それぞれの誤差許容範囲条件を設定すると、これらの条件に適合する8つの候補タンパク質が抽出された(図3)。さらに、a) リン酸化修飾部位を複数持つ、b) PI3キナーゼ系に関与する、という注釈をつけることで、8つの候補タンパク質から、Eukaryotic translation initiation factor 4E-binding protein 1 (4E-BP1)が12.9 kDaタンパク質の有力な候補として見出された。
(4)候補タンパク質の検証
12.9 kDaタンパク質が4E-BP1であるかを実験的に確かめるために、抗4E-BP1抗体を利用して検証した。すなわち、4E-BP1を強制発現させた細胞株(A549)から免疫沈降により回収したサンプルを、前述と同様に質量分析器で解析した結果、12.9 kDaとこれより80 Da整数倍だけ分子量の小さいピークが複数観察された(図4B)。この回収サンプルを脱リン酸化処理すると、12.5 kDaのピークのみが観察できた(図4C)。これらのことから、12.9 kDaのピークは、分子量約12.5 kDaの4E-BP1が5つのリン酸化修飾を受けた分子に由来することが示唆された。
また、予めZSTK474処理した細胞株(A549)から同様に免疫沈降により回収したサンプルでも、12.5 kDaのピークのみが観察されたことから、ZSTK474は、4E-BP1の全てのリン酸化修飾を阻害することが示唆された(図4E)。
さらに、ZSTK474処理した培養細胞株(A549)の細胞質抽出液をSDSゲルに供し、種々の抗リン酸化特異的抗体(Akt:473-Ser, p70S6K:389-Thr,4EBP1:65-Ser, 70-Thr, 37/46-Thr; Cell Signaling Technology社)でウエスタンブロット解析したところ、PI3キナーゼの下流因子であるAktを始め、p70S6Kや4E-BP1のリン酸化は、ZSTK474濃度依存的に阻害された(図5)。他のPI3キナーゼ阻害剤であるLY294002で処理した培養細胞株(A549)についても実験を行なったところ、同様の結果が得られた(図5)。
(5)効果判定バイオマーカーとしての利用の可能性
ZSTK474を経口投与したヌードマウスのヒト細胞株(PC-3)移植片において、薬剤濃度依存的に腫瘍の増殖を抑制させたサンプルでは、4E-BP1のリン酸化も、薬剤濃度依存的に阻害されることがウエスタンブロット解析で確認された(図6)。このことから、リン酸化された4E-BP1は、PI3キナーゼ阻害剤の作用効果を判定するバイオマーカーとして利用可能であることが示された。
本発明は、リン酸化4E-BP1の発現量を指標とした、PI3キナーゼ阻害剤の効果判定方法を提供する。これにより、薬剤投与した患者の適合性を早期に判断して、より安全かつ有効な治療を行うことができる。PI3キナーゼ阻害剤は抗がん剤としての効果が期待でき、したがって、本発明はがんの治療と診断のための新規なツールとして利用できる。
図1は、6種類のリン酸化タンパク質候補(A-F)の脱リン酸化酵素処理前(上段カラム)と後(下段カラム)の質量分析データを比較したものである。BとCは、それぞれ11.8と12.9 kDaのタンパク質プロファイルを示している。 両端矢印は、80 Daの質量差を示す。 図2は、ZSTK474処理(A: 0 μM, B: 0.5 μM, C: 1.5 μM)した細胞株における12.9 kDaのタンパク質の質量分析データを示す。 図3は、TagIdent toolによって抽出された12.9 kDaタンパク質の候補を示す。 図4は、抗4E-BP1抗体を利用して免疫沈降した結果を示す。図4Aは免疫沈降前のコントロールサンプル、図4Bは免疫沈降後のサンプル、図4Cは免疫沈降後に脱リン酸化酵素処理したサンプル、図4Dは脱リン酸化酵素のみの質量分析データを示す。図4Eは、予めZSTK474処理した細胞の抽出液からの免疫沈降後サンプルの質量分析データを示す。両端矢印は、80 Daの質量差を示す。 図5は、ZSTK474及びLY294002処理した細胞の抽出液について、種々の抗リン酸化特異的抗体でウエスタンブロット解析結果を示す。 図6は、ZSTK474を経口投与したヌードマウスのヒト細胞株移植片の結果を示す。図6Aでは、ZSTK474処理(+ZSTK474)および無処理(control)のヌードマウスの移植片を比較している。図6Bは、移植片の抽出液について、種々の抗リン酸化特異的抗体でウエスタンブロット解析結果を示す。 図7は、PI3キナーゼシグナル伝達経路を模式的に示す。

Claims (5)

  1. 被験者から単離された試料中における4E-BP1(translation initiation factor 4E-binding protein 1)のリン酸化レベルを、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析することにより、当該被験者に対する前記PI3キナーゼ阻害剤の効果を判定する方法。
  2. リン酸化4E-BP1の発現量を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析することを特徴とする、請求項1記載の方法。
  3. リン酸化4E-BP1とリン酸化されていない4E-BP1の発現量を、PI3キナーゼ阻害剤の投与前後について比較解析することを特徴とする、請求項1記載の方法。
  4. さらに、Akt、TSC2、mTOR、p70S6K、GSK-3β、Cyclin D1、RB、p27、FOXO1、FOXO3、PTEN、Erk1/2、及びMEK1/2からなる群から選ばれる1つ以上のタンパク質および/またはそのリン酸化フォームの発現量を比較解析することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 前記発現量が質量分析あるいは解析対象とするタンパク質に特異的な抗体を用いた免疫学的方法よって測定される、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
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