JP2009078757A - 車両用路面変位推定装置 - Google Patents

車両用路面変位推定装置 Download PDF

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博志 内田
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真一郎 山下
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Abstract

【課題】車両のアクティブ・サスペンション・システムにおける既存のセンサを利用しながら、計算量が少なくて済み、十分な応答性が得られる路面変位の推定装置を提供する。
【解決手段】アクティブ・サスペンション・システムのアクチュエータの制御則として、少なくとも、該アクチュエータから制御対象である車体及び車輪への伝達エネルギを表す項と、該車体及び車輪の振動状態を表す項と、該車体及び車輪の全エネルギ収支を表す項とを、有する関数の積分を最小化するようなものを用いる。この場合、路面変位の推定誤差による悪影響が軽微なものになるので、そのための推定演算式を以下の簡易式(式A)に置き換える。 q = α・M・q″/K ・・・(式A)
但し、αは補正係数、Mはばね下部材3の質量、q″はばね下部材3の加速度、Kはばね下部材のばね定数である。
【選択図】 図2

Description

本発明は、アクチュエータによって車輪に少なくとも上下方向の制御力を付与するようにしたアクティブ・サスペンション・システムに関し、特に、車両の走行する路面の凹凸等の変位状態を推定する装置に係る。
従来より、この種のアクティブ・サスペンション・システムとしては、例えば特許文献1に開示される電磁サスペンション装置のように、車体と車輪との間に配置したアクチュエータ(リニアモータやボールねじ機構等)によってサスペンションをストロークさせるようにしたものが知られている。
また、特許文献2に記載のアクティブ・スタビライザ装置では、トーションバー式のスタビライザを左右に2分割し、それらの中間に設けたアクチュエータによって互いに逆向きに回転駆動することで、左右の車輪に逆相の制御力を付与するようにしており、これにより左右輪のバウンド、リバウンドを抑制する等、車両のロール剛性を可変制御することができる。
特開2007−083813号公報 特開2006−232023号公報
ところで、前記のようなアクティブ・サスペンション・システムにおいては、アクチュエータの制御のために路面の凹凸等を測定、或いは推定しなくてはならない場合があるが、そのためだけにセンサ(例えば超音波センサ等)を設けるのはコストアップに繋がり、好ましくない。
一方、システムに既存のセンサによって検出した車輪の挙動等に基づいて路面変位を推定する場合は、一般的に計算量がかなり多くなってしまい、応答遅れが大きくなったり、CPUの計算負荷が高くなり過ぎたりして問題がある。
また、カルマンフィルタを用いて路面凹凸を推定する手法も提案されているが、これは過去の走行データに基づいて現在の路面の凹凸を推定するものであり、或る程度以上の応答性が要求される制御には利用できない。
斯かる諸点に鑑みて本発明の目的は、車両のアクティブ・サスペンション・システムにおける既存のセンサを利用しながら、計算量が少なくて済み、十分な応答性が得られる路面変位の推定装置を提供することにある。
本発明の発明者は、アクティブ・サスペンション・システムのアクチュエータの制御則として或る種の最適制御則を用いる場合には、路面変位の推定誤差による悪影響が軽微なものになるという新規な知見を得て、そのための推定演算式を簡易式に置き換えることにより、前記の目的を達成した。
すなわち、請求項1の発明は、アクチュエータによって車輪に少なくとも上下方向の制御力を付与するようにした車両のアクティブ・サスペンション・システムにおいて、当該車両の走行する路面の変位を推定する車両用の路面変位推定装置が対象である。
そして、前記アクチュエータへの制御量を演算するための制御則が、少なくとも、当該アクチュエータから制御対象である車体及び車輪への伝達エネルギを表す項と、該車体及び車輪の振動状態を表す項と、該車体及び車輪の全エネルギ収支を表す項とを、有する関数の積分を最小化するような最適制御則である場合に、
前記路面変位推定装置は、車輪を含めたサスペンションのばね下部材の上下方向加速度を検出する加速度検出手段と、少なくとも、前記加速度検出手段により検出されたばね下部材の加速度、該ばね下部材の質量、及び該ばね下部材のばね定数に基づいて、路面変位を推定する路面変位推定手段と、を備えるものとする。
前記の構成では、例えばタイヤ及びホイール等、ばね下部材の質量は予め設定しておくことができ、そのタイヤのばね定数も比較的容易に求めることができるので、加速度検出手段によってばね下部材の加速度が検出されれば、複雑な演算を行うことなく、簡易な推定演算により比較的少ない計算量で、路面変位を推定することが可能になる。
例えば、ばね下部材の加速度q″、該ばね下部材の質量M、及び該ばね下部材のばね定数K に基づいて、以下の(式A)により路面変位qを推定演算することができる(請求項2)。この(式A)においてαは補正係数であり、その値を4〜6程度に設定することで、比較的高い推定精度の得られることが実験的に確かめられている。
=α・M・q″/K ・・・ (式A)
前記の(式A)は、アクティブ・サスペンション・システムに通常、設けられている加速度センサや変位センサ等によって検出可能な車体や車輪の挙動に基づいて、路面変位を求める演算式を簡略化したものであり、ばね下部材の加速度q″以外は路面状態に因らず略一定とみなすことができるから、計算量は非常に少なくて済む。
一方で、そのような簡易式による路面変位の推定誤差が比較的大きくなることは避けられないが、この推定結果を用いて行われるアクティブ・サスペンション・システムの制御が前記のような最適制御則に従うものであれば、路面変位の推定誤差による悪影響は軽微なものになるので、実用上、問題は生じない。
前記(式A)におけるばね下部材の質量M、ばね定数K、及び補正係数αは、予め車種毎に記憶手段に記憶させておくことができ(請求項3)、こうすれば、車種についての入力設定を行うだけでよいから、利便性が高い。尚、ばね下部材のばね定数K、即ちタイヤのばね定数は、空気圧によって変化するので、タイヤに付設した空気圧センサからの出力に応じて補正することが望ましい。
また、補正係数αの値を車両の走行状態に応じて変更するようにしてもよい(請求項4)。すなわち、前記(式A)は、路面の凹凸によってばね下部材に生じる上下方向加速度の大きさが、その路面の凹凸の大きさに略比例することを示しているが、実際には路面の凹凸によるばね下の上下加速度の大きさは、例えば車速によっても影響を受けるものであり、この点を考慮して補正係数αの値を例えば車速に応じて変更するようにすれば、その影響も加味した推定が行える。
以上、説明したように、本発明に係る車両用の路面変位推定装置によると、アクティブ・サスペンション・システムにおけるアクチュエータの制御を或る種の最適制御則に従って行う場合に、路面変位の推定誤差による悪影響が軽微なものになることに着目し、その推定演算式を前記(式A)のように簡略化することにより、既存のセンサを利用しながら推定演算のための計算量を少なくして、十分な制御応答性を得ることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(アクティブ・サスペンション・システムの概略構成)
図1には、本発明に係るアクティブ・サスペンション・システムSを搭載した自動車A(車両)を模式的に示し、この例では、図(a)に示すように、前後左右4車輪のサスペンション1FR,1FL,1RR,1RLにそれぞれ電磁アクチュエータ2,2,…を設けている。各輪のサスペンション1FR,1FL,…は、タイヤ3a、ホイール3b及びそれらを支持するホイールサポート等のサスペンション部材(図示せず)を含めた所謂ばね下部材3を、例えばコイルばね4(板ばねやトーションバー或いは空気ばね等でもよい)及びショックアブソーバ5を介して車体Bに連結するものであり、そのコイルばね4等と並列に車体Bとの間に設けた電磁アクチュエータ2によって、各輪に少なくとも上下方向の制御力を付与するようになっている。
同図(b)に簡略化して示すように、サスペンション1は、力学的には、タイヤ3a及びホイール3b等からなるばね下部材3と、これにコイルばね4及びショックアブソーバ5によって連結されたばね上部材6(主に車体Bの分担質量分)とからなる2自由度の振動系とみなすことができる。この場合、図示のように、ばね下部材3の質量をM、そのばね定数をK、コイルばね4のばね定数をK、ショックアブソーバ5の減衰係数をCとし、ばね上部材6の質量をMとする。
また、タイヤ3aの接地する路面の凹凸、即ち上下方向変位をq、ばね下部材3の上下方向変位をq、ばね上部材6の上下方向変位をqとし、電磁アクチュエータ2に入力される制御量をu、これにより駆動される電磁アクチュエータ2の発生する力をf(図には示さず)とする。尚、電磁アクチュエータ2の発生力fは、ばね下部材3及びばね上部材6を互いに押し離す向きを正値とし、両者を引き寄せる向きを負値とする。
尚、電磁アクチュエータ2としては、一例としてリニアモータが用いられ、ばね下部材3に連結したロッドには永久磁石が、また、それを囲むようにばね上部材6側には駆動用コイルが、それぞれ配置されている。駆動用コイルへの給電制御によってロッドの進退駆動力が制御されて、ばね下部材3、ばね上部材6へそれぞれ制御力が付与される。勿論、ロッドをばね上に連結してもよい。
そして、各サスペンション1FR,1FL,…毎の電磁アクチュエータ2,2,…の駆動制御がコントローラ10によって行われる。図2に模式的に示すように、自動車Aの車体Bには、各車輪毎のサスペンション1FR,1FL,…の取付部位(ばね上)に対応して上下方向の加速度q″を検出する加速度センサ11,11,…と、サスペンション1のストロークq(=q−q)を検出するストロークセンサ12,12,…とが備えられ、さらに、所定の車両状態量を検出するための車両状態検出センサ13も配設されている。
コントローラ10は、前記の各センサ11〜13からの信号を受けて各サスペンション1FR,1FL,…毎の電磁アクチュエータ2,2,…を制御し、それらの発生する制御力によってサスペンション1のストロークを積極的に変更する。具体的には路面の凹凸等による入力を吸収して、車体への振動伝達を軽減するとともに、慣性力による車体の姿勢変化を抑えるようにして、乗り心地及び運動性能を高次元で両立させる。
より具体的に、コントローラ10には、加速度センサ11,11,…及びストロークセンサ12,12,…からの信号に基づいて各サスペンション1FR,1FL,…毎のばね下部材3の上下方向変位q、その速度q′及び加速度q″、並びにばね上部材6の上下方向変位q及びその速度q′、即ちサスペンション1の作動状態を表すサスペンション状態量を演算するサスペンション状態量検出部10aと、車両状態検出センサ13からの信号を受けて例えば車速やその変化、即ち急加速や急制動、或いは急操舵等、種々の走行状態を検出する走行状態検出部10bと、が備えられている。
また、コントローラ10には、前記サスペンション状態量検出部10aにより算出されたばね下部材3の加速度q″等に基づいて、自動車Aの走行する路面の変位qを推定する路面変位推定部10c(路面変位推定手段)と、この路面変位qや前記サスペンション状態量(q、q′、q″、q、q′)等に基づいて、電磁アクチュエータ2,2,…への制御出力uを演算する制御量演算部10dと、が備えられ、さらに、車両の走行状態に応じて路面変位推定部10cや制御量演算部10dにおける演算の仕方を補正する補正制御部10e(補正手段)も備えられている。
前記サスペンション状態量検出部10a、走行状態検出部10b、路面変位推定部10c、制御量演算部10d、補正制御部10eのそれぞれの機能は、コントローラ10のCPUによって所定のプログラムが実行されることにより、実現するものであり、その意味でコントローラ10は、前記各部10a〜10eをソフトウエア・プログラムの態様で備えている。
特に制御量演算部10dには、前記の如く電磁アクチュエータ2,2,…の作動によりサスペンション1FR,1FL,…を積極的にストロークさせて、路面の凹凸等による入力を吸収し、車輪や車体Bの振動を抑えるとともに、そのためのエネルギ消費が最小となるように電磁アクチュエータ2,2,…を制御する、制御出力uの演算式が設定されている。言い換えると、前記制御出力uの演算式は、以下に詳述するような最適制御則に則ったものとされている。
(最適制御則の求め方)
次に、前記のようにコントローラ10の制御量演算部10dに設定されている制御出力uの演算式について、特に、前記のような最適制御のための演算式を導く手法、つまり、最適制御問題の解法について詳細に説明する。
−基本的な考え方−
まず、基本的な考え方から説明する。一般的に最適制御問題では、制御対象の特性を運動方程式で記述し、これを制御する系について種々の観点から定義した評価関数を最大、或いは最小にするような制御則を求めるものであるが、通常、そのような制御則を解析的に導くことは容易ではない。
この点につき本願の発明者らは、機械力学系システムの非線形系を含む比較的広範囲の最適制御問題を解析的に解く方法として、制御対象のエネルギ収支に着目し、システムを漸近安定させる制御則を簡単に導くことのできる手法を考案している。
この手法では、制御対象の特性を運動方程式で記述するのではなく、以下のように制御対象の全入出力パワーの収支の式(1)を用いる。この式(1)は、システムの各自由度毎の運動方程式をベクトル表示し、これに速度ベクトルを乗じたものである。入力パワーには制御入力だけでなく外乱入力も含まれる。尚、制御対象は受動要素だけとは限らないため、内部にエネルギ源があり、これが運動に影響を与えていれば、外乱入力として取り扱う。
Figure 2009078757
前記式(1)において、d,e,q,u,ν,z∈R、M∈Rn×nは正定対称な慣性マトリックス、nは制御対象の自由度である。qは一般化座標、uは制御入力で、独立なアクチュエータの数はnとする。νは力入力の外乱、zは変位入力の外乱である。uとνは直接、慣性に作用し、zはばね下を介して慣性に作用するものとする。dはコリオリ力や遠心力やダンピング力等、eはポテンシャル力である。
制御対象が非線形であっても、制御装置を合理的に設計すれば、式(1)のようにuを直接、Mに作用させることができる。このように合理的に設計された機械力学系システムを想定し、このシステムに対して次の評価関数Jを考える。
Figure 2009078757
前記式(2)においてgは、制御性能の評価を与えるスカラー関数であり、uq′は、制御装置のアクチュエータから制御対象に加えられるパワー、即ちアクチュエータから伝達されるエネルギである。rは重み係数で正定値である。また、この手法では実時間制御を対象とし、有限評価区間を前提としている。前記式(2)を最小化する制御量u(t)を求めることが最適制御問題である。
まず、最適制御の必要条件を求めるために、以下のようなスカラー関数Lを定義する。
Figure 2009078757
前記式(3)においてκは未定定数である。右辺の{}内は、式(1)の左辺と同じで制御対象の全パワー収支であるから、エネルギ保存則を満たし常にゼロである。従って、式(3)で表される関数Lの積分(汎関数)を最小化する条件は、式(2)をも最小化する条件を与える。
よって、Lの積分にqを変数とする変分原理を適用した次式(4)は、制御入力uに関する最適制御のための必要条件を与える。Lはuに関して1次式であるから、∂L/∂uには意味がなく、次式(4)に制御に関する全ての情報が含まれることになる。
Figure 2009078757
但し、Lにはqの2回の導関数が含まれるため、一般的なオイラーの方程式に第3項が追加されている。
前記式(4)を積分し、積分定数をゼロとすると、次式(5)が得られる。この式(5)に前記式(3)を代入して左辺第1〜3項を順に第1〜3行として記すと、以下の式(6)のようになる。
Figure 2009078757
Figure 2009078757
そして、前記式(6)から以下の式(7)のように制御則が求まる。
Figure 2009078757
こうして、評価関数Jを最小化するqとuとの関係を直接、導くことができるため、従来一般的な手法のように2点境界値問題を最適性の原理を用いて解くプロセスは不用になる。κは未定定数であるが、κ=0のときにuは、評価関数のパラメータのみで定まることになり、一方、κ=∞のときにuは、制御対象のパラメータのみで定まることになるから、uが最適であるためのκはゼロでない有限値でなければならない。
前記式(7)の第1行は外力ν及び慣性のq依存性に対する制御、第2行はコリオリ力や遠心力やダンピング力に対する制御、第3行はポテンシャル力とそのq依存性及び外力zに対する制御、第4行は評価関数を低減させる制御である。式(7)には未実行の微積分項が含まれているが、全ての外力及び状態量の検出或いは推定が可能とすれば、これらの実時間での実行は可能である。
尚、前記式(5)においては積分定数をゼロとしたが、前記の結果より積分定数は制御則に一定のバイアスを与えることになるため、ゼロとすることが妥当であることが分かる。これは式(7)中の積分についても同様である。
また、前記式(7)ではアクチュエータの数と系の自由度とが同じであることを想定しており、アクチュエータの数が少ない場合には次のような処理が必要となる。例えばアクチュエータが2つの独立な慣性の間に置かれるような場合は、制御ベクトルにその拘束条件を含めておき、最適制御則は、2つの制御則にそれぞれ重み付けをして加算したものとすればよい。
すなわち、u,ui+1を、それぞれが独立な制御として導いた場合の最適制御則とし、ρ,ρi+1を重み係数とすれば、制御出力 uopt = ρ+ρi+1i+1 となる。尚、重み係数ρ,ρi+1の値は理論的に導かれるものではなく、制御対象の構造的特徴に依るものである。
−サスペンション・システムの場合−
以上のような考え方に従って、この実施形態のアクティブ・サスペンション・システムSにおける電磁アクチュエータ2の制御出力uの演算式、即ち最適制御則uを導出する。まず、前記した図2のモデルで表されるサスペンション・システムにおいて、式(2)の評価関数Jは、以下の式(8)のように変数qを用いて記述される。
Figure 2009078757
前記式(8)において、r,rは重み係数であって、重みrは、ばね下質量の制振が従来一般的な自動車と略同じになるような値(例えば5×10−3)とし、重みrは、振動状態の評価とエネルギの評価とが同程度になるような値(例えば10×10−5)とする。
また、前記式(3)の関数Lは、以下の式(9)のように記述される。
Figure 2009078757
そして、前記式(9)を式(5)に代入すると、qについて以下の式(10)が得られ、これにより以下の式(11)の制御則が得られる。
Figure 2009078757
同様に、qについて以下の式(12)が得られ、これにより式(13)の制御則が得られる。
Figure 2009078757
まとめると、最終的な制御則は以下のようになる。
opt = ρ+ρ ・・・(14)
ここで、重み係数ρ,ρの値の和を ρ+ρ = 2 として、評価関数の重みを考慮した慣性M,Mへの制御出力uの感度を等しいと考えると、以下の式(15)のようになり、以上より、最適な制御出力u=uoptは、以下の式(16)として求まる。
Figure 2009078757
尚、式(16)においてρ =2M/(M+r)、ρ =2r/(M+rM)である。
本手法による制御則の導出は前記式(16)までであり、これは最適制御の必要条件を与える。式(16)における未定定数κについては、評価関数Jが最小となるような値を探索的手法により決定する。例えば、ランダムな路面入力のシミュレーションによって、評価関数Jが最小となるようなκの値を求めることができる。
以上のように導出した演算式(16)は、式(3)、(9)の関数L、即ち、電磁アクチュエータ2から制御対象(ばね上部材6及びばね下部材3)への伝達エネルギを表す項と、それらの振動状態を表す項と、該制御対象の全エネルギ収支を表す項とを、有する関数Lの積分を最小化するような最適制御則に則うものであり、この演算式(16)によって求めた制御出力uによって電磁アクチュエータ2を制御することにより、エネルギ消費を抑えつつ、サスペンション1FR,1FL,…を最適に動作させて、車輪や車体Bの振動を効果的に抑えることができる。
(路面の変位状態の推定)
次に、本発明の特徴として、前記コントローラ10の路面変位推定部10cにおける路面変位qの推定について説明する。上述したように、この実施形態のシステムSでは、式(16)による電磁アクチュエータ2,2,…への制御出力uの演算において路面変位qを用いており、これは一般的に超音波センサ等によって測定することもできるが、新たなセンサの追加はシステムのコストアップに繋がり、好ましくない。
そこで、この実施形態では、システムSに既存のセンサ11〜13によって検出したサスペンション状態量(q、q′、q″、q、q′)のうち、主にばね下部材3の加速度q″に基づいて、路面からの入力による車輪や車体Bの挙動から路面変位qを推定する演算を行うようにしている。
すなわち、まず、各サスペンション1FR,1FL,…毎に接地力fによる車輪の挙動は以下の式(17)にて表され、一方、コイルばね4のばね力fsusと車輪の挙動との関係は、以下の式(18)にて表される。但し、タイヤ3aの減衰係数をCtireとする。
Figure 2009078757
前記式(17)、(18)から接地力fは以下の式(19)で表される。尚、qは、ストロークセンサ12により検出されるサスペンション・ストロークである(q=q−q)。
Figure 2009078757
前記の式(19)を式(17)に代入して常微分方程式として解けば、路面変位qを推定する演算式を求めることができるが、こうして求めた演算式は複雑なものとなり計算量も多くなってしまうから、これによる路面変位qの推定演算ではCPUの計算負荷が高くなってしまう上に、計算時間が長くなって電磁アクチュエータ2の制御応答遅れが大きくなる懸念がある。しかも、式(17)にはタイヤ3aの減衰係数Ctireのようにばらつきの大きな値が含まれており、本来、精度のよい推定ができるものとは言い難い。
そこで、式(17)からは左辺第2項を、また、式(19)からは右辺第4項を、というようにそれぞれ減衰力の項を削除して簡略化した上で、その式(19)を式(17)に代入すると、以下の式(20)が得られ、これをqについて整理すると式(21)が得られる。
Figure 2009078757
式(21)は、減衰の影響を省略し、主にばね下部材3の加速度から路面変位qを推定するものであり、この演算式を用いて路面変位qを推定するようにすれば、計算量はかなり少なくなる。さらに、その式(21)の右辺{}内の第1項(ばね下の加速度q″の項)以外を削除し、補正係数αを乗じれば、 q = αM″/K ・・・ (22) となる。
この式(22)は、実質的にばね下部材3の加速度q″のみに基づいて路面の変位状態を推定するものであり、計算量が非常に少ないから、こうして推定した路面変位qに基づくサスペンション制御の応答性を高める上では非常に有利になる。一方で、このような簡易な演算式によれば路面変位qの推定誤差は大きくなってしまうが、この推定値を用いて上述の如きサスペンション制御を行った結果、路面変位qの推定誤差による悪影響は軽微なものであり、実用上、問題はないことが分かっている。
図3には、前記式(21)、(22)を用いて推定した路面変位qに基づいて、前記式(16)の制御出力uによる本発明の最適制御を行った場合と、同じ推定値を用いて従来周知の最適制御であるLQ制御を行った場合とで、それぞれ、制御の結果をシミュレーションにより比較したものである。同図(a)は、上述した評価関数Jによって制御結果を比較した結果を示し、また、同図(b)は、LQ制御において一般的な評価関数JLQによって比較した結果を示す。
図(a)から、式(21)の路面変位qの推定値を用いれば、本発明の最適制御でも従来のLQ制御でも評価関数Jが非常に小さな値になっており、いずれの場合も同等の最適制御を行えることが分かる。一方、式(22)の路面変位qの推定値を用いると、本発明の最適制御では評価関数Jが非常に小さな値になるものの、LQ制御では評価関数Jの値がかなり大きくなってしまう。このことから、式(22)の推定値には無視できない誤差が含まれているが、本発明の最適制御を行う場合には、それによる悪影響は軽微なものとなり、実質、問題ないことが分かる。
同様の傾向は同図(b)からも読み取ることができ、式(21)の推定値を用いれば、本発明の最適制御とLQ制御とで評価関数JLQの値が概ね同じになる一方、式(22)の推定値を用いると、LQ制御の場合のみ評価関数JLQの値がかなり大きくなってしまうことが分かる。尚、式(21)の推定値を用いたときに評価関数JLQの値が本発明の最適制御よりもLQ制御の方で小さくなっているのは、この評価関数JLQがLQ制御に最適化されているからである。
さらに、図4には、前記式(22)において補正係数αの値を変更しつつ、これによる路面変位qの推定値を用いて本発明の最適制御とLQ制御とをそれぞれ実行したときの、評価結果を対比して示す。尚、本発明の最適制御の評価は評価関数Jにより、また、LQ制御の評価は評価関数JLQにより行った。同図からは、補正係数αの値に依らずLQ制御の評価関数JLQが大きな値になってしまう一方、本発明の制御に係る評価関数Jの値は、α=4〜10、特に4〜6のときに非常に小さな値になることが分かる。
−路面変位の推定手順−
次に、コントローラ10における路面変位qの推定演算の手順を図5のフローチャートに沿って具体的に説明する。まず、図示のフローのスタート後のステップS1では、センサ11〜13からの信号を入力してばね上加速度q″やサスペンションストロークqを検出し、続くステップS2ではサスペンション・ストロークqを2階微分して、ストローク加速度q″を算出する。
続いてステップS3において、前記ばね上加速度q″からストローク加速度q″を減算して、ばね下部材3の加速度q″を計算し(q″=q″−q″)し、ステップS4では、そうして求めたばね下の加速度q″を式(22)に代入して、路面変位qを推定した後に、リターンする。
ここで、前記式(22)に含まれる補正係数α、ばね下質量M、ばね下のばね定数Kは、それぞれ予め車種毎に実験等により設定されて、コントローラ10のメモリ等(記憶手段)に記憶されている。特にばね下のばね定数Kは、即ちタイヤ3aのばね定数であり、こえは空気圧によって変化するので、例えばホイール3bに空気圧センサが付設されている場合には、その出力に応じてばね定数Kを補正するのが好ましい。
また、補正係数αの値は、図4を参照して上述したようにα=4〜6の範囲で実験等により設定されるが、さらに、この実施形態では自動車Aの走行状態に応じて補正される。すなわち、コントローラ10の補正制御部10eによって、例えば車速の高いときほど、補正係数αの値が小さくなるように補正される。これにより、ばね下の加速度q″に車速による影響を加味して、路面変位qの推定が行われることになる。
前記ステップS1〜S3の手順は、コントローラ10のサスペンション状態量検出部10aによって行われ、ステップS4の手順は同路面変位推定部10cによって行われる。このサスペンション状態量検出部10aと路面変位推定部10cとによって、自動車Aの走行する路面の変位状態を推定する車両用の路面変位推定装置が構成される。
したがって、この実施形態に係る車両用の路面変位推定装置によると、自動車Aのアクティブ・サスペンション・システムSに既存のセンサ11〜13により検出したばね下部材3の加速度q″と、ばね下部材3の質量M及びばね定数Kとのみに基づき、簡略化した演算式(22)によって路面変位qを推定演算するようにしたので、計算量が非常に少なくて済み、この推定結果を用いるサスペンション制御の応答性を十分に高くすることができる。
そうして簡略化した演算式による路面変位qの推定結果には比較的大きな誤差が含まれることになるが、この実施形態のようなサスペンションの最適制御、即ち、制御対象への伝達エネルギを表す項と、制御対象の振動状態(制振性能)を表す項と、該制御対象の全エネルギ収支を表す項とを、有する関数Lの積分を最小化するような最適制御が行われる場合には、路面変位qの推定誤差による悪影響は軽微なものとなり、実用上、問題は生じない。
つまり、システムSに既存のセンサ11〜13を利用し、徒にコスト上昇を招くことなく、実用上、十分な精度及び応答性を有するアクティブ・サスペンション制御を行って、電磁アクチュエータ2,2,…の作動にかかるエネルギ消費を抑制しつつ、自動車Aの乗り心地を向上し、且つ車輪の接地性を高めることができる。
また、この実施形態では、前記路面変位推定の演算式(22)におけるばね下部材3の質量M、ばね定数K、及び補正係数αを、予め車種毎にコントローラ10のメモリ等に記憶させるようにしており、自動車Aの生産ラインでは一々、ばね下部材3の質量Mやばね定数Kを測定する必要はなく、車種についての入力設定を行うだけでよいから、利便性も高い。
その上さらに、前記演算式(22)における補正係数αの値は車速等、自動車Aの走行状態に応じて補正するようにしており、走行状態による影響を加味して路面変位qを推定することができる。
(他の実施形態)
尚、本発明に係る路面変位推定装置の構成は前記の実施形態には限定されず、それ以外の種々の構成も包含する。すなわち、例えば前記の実施形態では、サスペンション1FR,1FL,…のそれぞれに電磁アクチュエータ2,2,…を設けているが、これに限らず、例えば前2輪、後2輪のいずれか一方のみに電磁アクチュエータ2,2を設けてもよい。
また、アクチュエータとして例示したリニアモータ以外にも例えば、油空圧シリンダや圧電素子等を用いることもでき、電動モータとボールねじ機構とを組み合わせてアクチュエータとすることも可能である。
また、アクティブ・サスペンション・システムSにおけるセンサとしては、例示した車体Bの加速度センサ11、サスペンションストロークセンサ12に限定されず、種々の加速度センサ、速度センサ乃至変位センサを組み合わせて用いることができる。
さらに、アクティブ・サスペンション制御についても前記の実施形態は一例に過ぎず、例示した評価関数J以外にも種々の観点から定義した評価関数を最小化するような制御則に従うものとすればよいが、そういった制御則は、前記実施形態と同様に、評価関数の項に制御対象の全エネルギ収支を表す項を加えた関数(式(3)、(9)の関すL)の積分を最小化するようなものとしなくてはならない。
さらにまた、本発明に係る路面変位推定装置は、自動車以外の車両にも適用することができる。
本発明に係る路面変位推定装置は、車両用のアクティブ・サスペンション・システムに既存のセンサを利用しつつ、簡略化した演算式によって路面変位を推定演算できるので、低コストで十分な制御応答性を得ることができ、自動車への搭載に好適である。
本発明に係るアクティブ・サスペンション・システムを搭載した自動車(a)と、サスペンション(b)とを模式的に示す図である。 アクティブ・サスペンション・システムの概略構成を示すブロック図である。 路面変位の2つの推定演算式を切換えて、それぞれについて本発明の最適制御とLQ制御との評価結果を対比して示すグラフ図である。 補正係数の値を変更しながら、本発明の最適制御とLQ制御との評価結果を対比して示すグラフ図である。 路面変位の推定演算の手順を示すフローチャート図である。
符号の説明
A 自動車(車両)
B 車体
S アクティブ・サスペンション・システム
1 サスペンション
2 電磁アクチュエータ
3 ばね下部材
3a タイヤ
3b ホイール
4 コイルばね
5 ショックアブソーバ
6 ばね上部材
10 コントローラ
10a サスペンション状態量検出部(加速度検出手段)
10b 走行状態検出部
10c 路面変位推定部(路面変位推定手段)
10d 制御量演算部
10e 補正制御部(補正手段)
11 加速度センサ
12 ストロークセンサ

Claims (4)

  1. アクチュエータによって車輪に少なくとも上下方向の制御力を付与するようにした車両のアクティブ・サスペンション・システムにおいて、当該車両の走行する路面の変位を推定する車両用の路面変位推定装置であって、
    前記アクチュエータへの制御量の演算は、少なくとも、該アクチュエータから制御対象である車体及び車輪への伝達エネルギを表す項と、該車体及び車輪の振動状態を表す項と、該車体及び車輪の全エネルギ収支を表す項とを、有する関数の積分を最小化するような最適制御則に従って行われるものであり、
    前記車輪を含めたサスペンションのばね下部材の上下方向加速度を検出する加速度検出手段と、
    少なくとも、前記加速度検出手段により検出されたばね下部材の加速度、該ばね下部材の質量、及び該ばね下部材のばね定数に基づいて、路面変位を推定する路面変位推定手段と、を備えることを特徴とする車両用路面変位推定装置。
  2. 路面変位推定手段は、ばね下部材の加速度q″、ばね下部材の質量M、及び該ばね下部材のばね定数K に基づいて、以下の(式A)により路面変位qを演算する
    = α・M・q″/K ・・・ (式A)
    但し、αは予め設定する補正係数である、請求項1に記載の車両用路面変位推定装置。
  3. ばね下部材の質量M、ばね下部材のばね定数K、及び補正係数αが、予め車種毎に記憶された記憶手段を備える、請求項2に記載の車両用路面変位推定装置。
  4. 車両の走行状態に応じて補正係数αの値を変更する補正手段を備える、請求項2又は3のいずれかに記載の車両用路面変位推定装置。
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