JP2009082005A - 収縮が抑制された細胞シートの製造方法 - Google Patents

収縮が抑制された細胞シートの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、細胞シートの製造において細胞培養担体から細胞シートを容易に剥離でき、なお且つ細胞シートの収縮を回避する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】静的水接触角が45°以下である表面を有する基材と、該基材表面上に剥離可能に積層された、細胞接着性を有する有機薄膜とを備えることを特徴とする細胞培養担体と、十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シートとを用いることにより上記課題を解決することができる。
【選択図】図1

Description

本発明は細胞組織利用医薬品に関する分野、たとえば再生医療などの治療分野、創薬分野、診断分野、検査分野などで用いることができる、収縮が抑制され寸法が保持された細胞シート、その製造方法、その製造のため細胞培養担体、及び、前記細胞シートを製造するためのキットに関する。
細胞シートを製造する技術はテッシュエンジニアリングの分野において重要な技術であるが、幾つかの問題点が存在する。
まず、細胞培養基板上で培養された細胞シートを基板から剥離することが困難であるという問題がある。また、細胞シートを基板から剥離することができたとしても、剥離後に細胞シートが収縮してしまい、以後の細胞シートの取り扱いが困難となるという問題もある。
例えば特許文献1には細胞シートの剥離を容易にするために細胞培養基材表面上に温度応答性ポリマーを配置し、細胞シート培養後に温度を変化させて細胞シートを剥離する技術が開示されている。しかしながらこの技術は全ての細胞種に適用できるわけではなく、剥離の困難な細胞種も存在する。また剥離後の細胞シートが収縮するという問題点は解決していない。また、この技術では厚い細胞シートを作ることが難しいという問題点もある。
特許文献2には、細胞シートの剥離を容易にする目的で、支持体表面をフィブリン糊でコーティングする技術が開示されている。特許文献2には、フィブリン糊は細胞の有する酵素により分解されて消失し、細胞がシート状に結合したまま宙吊り状態になり、容易に細胞シートを剥離できると記載されている。しかしながら特許文献2では細胞シートの剥離はスクレイパーを用いて行われていることから、十分な剥離性が達成されているとは言いがたい。また、細胞種によってはフィブリン糊を十分に分解できないものもあると考えられる。また、細胞シートが剥離後に収縮するという問題も解消されていない。
このほかにも、細胞シートと培養基板との接着力を制御することにより細胞シートの剥離を容易にする技術が開示されている(例えば特許文献3〜5参照)。しかしながらいずれの技術も全ての細胞種に適用できるとは限らない。また、細胞シートが収縮する問題点はこれらの技術では解決されない。
またより困難な技術として、細胞シートを多層化する技術がある。テッシュエンジニアリングの分野では、皮膚などの薄い組織や、軟骨などの細胞が占める割合の小さい組織を再生する技術は既に実用化されている。また治療に役立つ細胞を患部に注射する治療法も多く臨床試験がされている。しかしながら細胞が占める割合の大きい組織(多くの組織がそうである)についてはまだテッシュエンジニアリングの技術が確立していない。特に、酸素要求性が高い組織体(血管が張り巡らされた組織体)や、心臓や肝臓のような実質細胞からなる組織体を人工的に製造するには、細胞シートの厚みを200μm以上にする必要があるが、通常の細胞シートをこの厚さ以上に積層すると内部の細胞に酸素が行き渡らず壊死してしまう、という問題がある。
これまでに、細胞に酸素を供給する目的で、例えば生体吸収性材料からなる多孔性足場(担体)に細胞を播種し細胞組織体を形成する技術が多く検討されている。しかしながらこれらの技術は、細胞を均一に足場内部まで分布させることが難しく、また、移植組織が線維化しやすいという問題点がある。
また細胞シートを多層化すると単層の細胞シートと比較してより収縮が起こりやすい、という問題点もある。
更にまた、複数の細胞シートを重ねる場合に、隣接する細胞シート間の距離を短くすることができれば、細胞層間のネットワーク形成及び相互作用が容易になり、実際の生体組織により近い再生組織の製造が可能になると考えられる。
特許文献6及び7にはガラス化して形状維持力を高めたハイドロゲル薄膜上に細胞を培養する技術が開示されている。特許文献6及び7に記載のコラーゲン等のハイドロゲル薄膜は周囲に支持体を付与することにより、この薄膜上で培養された細胞シートの収縮を抑制することができる。また力学的に細胞シートを基板から剥離することができるため、特許文献1のように温度を下げたり特許文献5のように消化酵素を必要とせず細胞に低侵襲で細胞シートを回収できる。しかしながら、特許文献6及び7に記載のハイドロゲル薄膜を基材上に載置した状態で、該薄膜上で細胞を培養し細胞シートを形成した場合、ハイドロゲル薄膜を間に介しながらも細胞シートと前記基材とが接着する傾向があり、またハイドロゲル薄膜と基材が強く接着していると、細胞シートが形成された状態のハイドロゲル薄膜を基材から剥離回収することが困難であるという問題があった。この問題を解決するためには、基材表面への細胞シートの接着を抑制する目的と細胞シートを剥離する際に細胞シートが破れないようにするためにハイドロゲル薄膜の強度を上げる目的でハイドロゲル薄膜を厚くする必要があった。ところが、厚さの厚いハイドロゲル薄膜上に細胞シートを形成したものを複数積層して得られる多層化細胞シートは、隣接する細胞シート間の距離が長いため、再生組織として適当なものではなかった。
国際公開WO2002/008387号パンフレット 国際公開WO2005/028638号パンフレット 特開2006−346292号公報 特開2006−94799号公報 特開2005−261292号公報 国際公開WO2005/014774号パンフレット 特開平8−228768号公報
上記のように、細胞シートの製造において細胞培養担体から細胞シートを容易に剥離でき、なお且つ細胞シートの収縮を回避する技術として満足できるものは未だ確立されていない。また、細胞シートを多層化するのに適した技術も未だ提供されていない。
本発明はこれらの課題を解決することを目的とする。
本発明は以下の発明を包含する。
(1)静的水接触角が45°以下である表面を有する基材と、該基材表面上に剥離可能に積層された、細胞接着性を有する有機薄膜とを備えることを特徴とする細胞培養担体。
(2)前記有機薄膜の単位面積当たりの乾燥重量が5μg/cm未満である、(1)記載の細胞培養担体。
(3)前記有機薄膜の乾燥時の厚さが1μm以下である、(1)記載の細胞培養担体。
(4)前記基材表面が細胞接着阻害性である、(1)〜(3)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(5)前記有機薄膜が生体由来材料により構成される、(1)〜(4)のいずれかに項記載の細胞培養担体。
(6)前記有機薄膜が、人工的に合成された生体由来材料模倣材料により構成される、(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(7)前記有機薄膜が、人工的に合成された生体由来材料模倣材料と生体由来材料との混合物により構成される、(1)〜(4)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(8)前記有機薄膜がパターニングされたものである、(1)〜(7)のいずれかに記載の細胞培養担体。
(9)シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート上に、シート状の細胞層と、細胞接着性を有する有機薄膜の層とが少なくとも各1層交互に積層されてなる収縮抑制細胞シートの製造方法であって、前記形状保持用シートを、(1)〜(8)のいずれかに記載の細胞培養担体の有機薄膜上にシート状に形成された細胞層に、前記形状保持用シートの積層方向が前記細胞層に接するように積層し接着させて、前記形状保持用シートの表面に細胞層と有機薄膜とが交互に積層接着された積層体を得た後、該積層体を前記細胞培養担体の基材から剥離する積層工程を1回以上繰り返すことを特徴とする、前記方法。
(10)(9)記載の方法により製造された、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート上に、シート状の細胞層と、細胞接着性を有する有機薄膜の層とが少なくとも各1層交互に積層されてなる収縮抑制細胞シート。
(11)(1)〜(8)のいずれかに記載の細胞培養担体と、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シートとを少なくとも備える、収縮抑制細胞シートを製造するためのキット。
本発明により、細胞培養担体からの剥離が容易であり、なお且つ剥離後の収縮が抑制された細胞シートが提供される。本発明による細胞シートの剥離は細胞と基材との結合性の変化を利用していないため、細胞種を選ばず適用可能である。また本発明の細胞培養担体において有機薄膜を適宜パターニングすれば、細胞の分布を容易に制御することができ、厚い組織体を形成することが可能である。また、本発明により得られる、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート上に、シート状の細胞層と、細胞接着性を有する有機薄膜の層とがそれぞれ複数交互に積層されてなる多層化された収縮抑制細胞シートは、有機薄膜の厚みが非常に薄いので隣接する細胞層間がネットワークを形成し易いと考えられ、またパラクライン的な細胞層間相互作用を期待することもできる。
(細胞培養担体の構造)
本発明の細胞培養担体の構造を図1に基づいて説明する。図1は本発明の細胞培養担体1の断面図である。細胞培養担体1は、細胞接着性を有する有機薄膜2と、静的水接触角が45°以下である表面3を有する基材4を備える。有機薄膜2は、基材6の表面5上に剥離可能に設置されている。
(細胞培養担体の使用方法)
細胞培養担体1の使用方法の例を図2に基づいて説明する。
まず図2(a)に示すように所望の細胞を有機薄膜2上で培養してシート状の細胞層5を形成する。次に、図2(b)に示すように、細胞層5に、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート6を、形状保持用シート6の積層方向が細胞層5に接するように積層し、インキュベートして、細胞層5を形状保持用シート6に接着させ、形状保持用シート6に細胞層5と有機薄膜2とが交互に積層接着されてなる積層体7を形成する。次に、図2(c)に示すように、積層体7を基材4から剥離する。こうして得られる積層体7は、形状保持用シート6上に、シート状の細胞層5と、有機薄膜の層2とが各1層交互に積層されてなる収縮抑制細胞シートである。
細胞層を多層化するには図2(a)〜(c)で示す積層工程を二回以上繰り返して行う。n回目(nは2以上の整数)の積層工程では、n−1回目の積層工程で得られた積層体を、1回目の積層工程における形状保持用シートに代えて用いる。すなわち、n回目(nは2以上の整数)の積層工程は、n−1回目の積層工程で得られた、細胞層と有機薄膜とが形状保持用シートの表面にn−1層交互に積層接着された第n−1積層体を、本発明の細胞培養担体の有機薄膜上にシート状に形成された細胞層に、前記第n−1積層体の積層方向が前記細胞層に接するように積層し接着させて、形状保持用シートの表面に細胞層と有機薄膜とがn層交互に積層接着された第n積層体を得た後、該第n積層体を前記細胞培養担体の基材から剥離する工程である。
具体的には、積層体7を、更なる細胞培養担体1’の有機薄膜2’上にシート状に形成された細胞層5’に、積層体7の積層方向が細胞層5’に接するように積層し、インキュベートして接着させることにより、積層体7上に更なる細胞層5’と有機薄膜の層2’を積層した後(図2(d)〜(e))、得られた第2積層体7’を基材4’から剥離する(図2(f))。こうして得られた第2積層体7’は、形状保持用シート6上に、シート状の細胞層5及び5’と、有機薄膜の層2及び2’とが交互に積層されてなる収縮抑制細胞シートである。
更に第2積層体7’を、更なる細胞培養担体1’’の有機薄膜2’’上にシート状に形成された細胞層5’’に、第2積層体7’の積層方向が細胞層5’’に接するように積層し、インキュベートして接着させることにより、第2積層体7’上に更なる細胞層5’’と有機薄膜の層2’’を積層した後(図2(g)〜(h))、得られた第3積層体7’’を基材4’’から剥離する(図2(i))。
図2(a)〜(c)で示す積層工程をn回繰り返すことにより、形状保持用シート6上にn枚の細胞層と、n枚の有機薄膜の層とが交互に積層されてなる収縮抑制細胞シートが形成される。図2では上記工程を3回繰り返した例を示したが、繰り返し回数は特に限定されない。
有機薄膜はパターニングされていてもよい。図3には、その一例として、基材の表面13にパターニングされた有機薄膜12が剥離可能に配置された細胞培養担体11を示す。有機薄膜12は開口部を二箇所有するようにパターニングされており、基材の表面13が露出している。基材の表面13は静的水接触角が45°以下であり親水性であるため細胞は接着せず、有機薄膜12のパターンに沿った細胞層(図示せず)が形成される。このようにパターニングされた有機薄膜12を有する細胞培養担体11を用いて製造された本発明の細胞シートは所望の位置に孔を有するものとなる。かかる細胞シートを複数積層して得られる多層化された本発明の細胞シートは所望の位置に空隙を有しているため、厚みのある細胞シート内部にまで酸素等を供給することができ、細胞が壊死するなどの問題点を解消することができると期待される。
次に本発明の構成について詳細に説明する。
(有機薄膜)
有機薄膜は、細胞接着性を有するものであれば特に限定されないが、好ましくは生体由来材料からなるものである。有機薄膜は生体適合性を有するもの、とりわけ生分解性を有するものが好ましい。具体的な材料としては各種コラーゲン、ペプチドハイドロゲル、ラミニン、コンドロネクチン、グリコサミノグリカン、ヒアルロン酸、プロテオグリカン、上記記載以外の細胞外マトリックス成分タンパク質、マウスEHS腫瘍抽出物より再構成された基底膜成分( 商品名: マトリゲル)、ゼラチン、アガロース、オリゴ核酸、ポリ核酸などの高分子化合物によるゲルが挙げられる。特許文献6及び7において「ハイドロゲル薄膜」と呼ばれている、水和ゲルを十分乾燥させる工程を経てガラス化した後に、再水和して作成されるシートもまた本発明の有機薄膜として使用できる。また有機薄膜としてゼラチンの薄膜を用いる場合、紫外線照射により架橋されたゼラチンの薄膜を用いることが好ましい。
有機薄膜の周縁部には、有機薄膜の寸法を保持するための枠状の支持体が固定されていてもよいが、本発明ではこのような支持体が有機薄膜の周縁部に存在しないことが好ましい。
また、将来、動物由来の生体由来材料の治療的使用が制限される可能性を考慮すると、生体から抽出したものではなく、人工的に合成された生体由来材料模倣材料も有機薄膜を構成する材料として好ましい。例えば、各種の人工ペプチド及びその誘導体、人工オリゴペプチド及びその誘導体、人工ポリペプチド及びその誘導体、人工多糖類及びその誘導体等の高分子化合物によるゲルが挙げられる。
更にまた、人工的に合成された生体由来材料模倣材料と生体由来材料との混合物も有機薄膜を構成する材料として好ましい。例えば、生体由来材料模倣材料である人工ペプチドと、生体由来材料であるゼラチンとを混合して使用することが好ましい。
有機薄膜の厚さは、単位面積当たりの乾燥重量が例えば100μg/cm以下、好ましくは40μg/cm以下、より好ましくは5μg/cm未満となる厚さである。 また有機薄膜の厚さの下限は特に限定されないが、単位面積当たりの乾燥重量が2.5μg/cm以上である厚さが好ましい。
有機薄膜の乾燥時の厚さはまた、1μm以下であることが好ましい。また有機薄膜の厚さの下限は特に限定されないが、例えば100nm以上であることが好ましい。ここで有機薄膜の厚みの数値は、触針式表面形状測定器(Dektak FPD−650、日本真空技術)を用い厚みの平均を測定して得られる数値である。
本発明の方法によれば、このように非常に薄い有機薄膜の層を使用できる。このため、本発明の方法により得られる収縮抑制細胞シートは細胞層間にネットワークが形成され易いと考えられ、またパラクライン的な細胞層間相互作用を期待することもできる。本発明で得られる収縮抑制細胞シートは、十分な強度を有する形状保持用シートによって収縮による寸法変化が抑制されるため、このように有利な効果が期待できる薄い有機薄膜を用いても取り扱いが容易である。また本発明で用いられる、静的水接触角が45°以下である表面を有する基材は有機薄膜との接着力が十分に弱い(ただし、通常の細胞培養条件では自然に剥がれることはない程度の接着力はある)ため、非常に薄い有機薄膜であっても、基材表面からの剥離時に損傷することなく回収することができる。
有機薄膜は所望の形状にパターニングされたものであってよい。パターニング方法としては有機薄膜を作製後に有機薄膜を特定の領域のみ溶解剤によりエッチングする、液状の有機物をインクジェットなどで直接基板上にパターン状に塗布し乾燥させる、予めレジストをパターン状に基板に接着させておきその後有機薄膜を作製しレジストを除去する、穴の開いたマスクを介して基板に液状の有機物を塗布し乾燥させるなどの方法がある。
(基材)
基材は、静的水接触角が45°以下である表面を有し、この表面上に上記有機薄膜が剥離可能に積層されている。このような静的水接触角を有する基材表面は一般に細胞接着阻害性を有する傾向がある。基材表面が細胞接着性であると、有機薄膜を上述のように非常に薄くした場合には培養された細胞が有機薄膜を介して基材表面に接着してしまったり、細胞が有機薄膜を酵素で分解して基材表面に接着してしまい、形成された収縮抑制細胞シートの基材からの剥離が困難となるが、基材表面が細胞接着阻害性であればこのような問題が無く、有機薄膜を上述のように非常に薄くした場合であっても収縮抑制細胞シートを基材から容易に剥離することができる。このような細胞接着阻害性の表面は、炭素酸素結合を有する有機化合物の皮膜を基材の表面上に形成することにより得ることができる。
基材の材料は、その表面に炭素酸素結合を有する有機化合物の皮膜を形成することが可能な材料であることが好ましい。具体的には、金属、ガラス、セラミック、シリコン等の無機材料、エラストマー、プラスチック(例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ABS樹脂、ナイロン、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、メチルペンテン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂)で代表される有機材料を挙げることができる。その形状も限定されず、例えば、平板、平膜、フィルム、多孔質膜等の平坦な形状や、シリンダ、スタンプ、マルチウェルプレート、マイクロ流路等の立体的な形状が挙げられる。フィルムを使用する場合、その厚さは特に制限されないが、通常0.1〜1000μm、好ましくは1〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。
細胞接着阻害性表面は、炭素酸素結合を有する有機化合物により形成される、静的水接触角が45°以下である親水性膜により形成することができる。
本発明において炭素酸素結合とは、炭素と酸素との間に形成される結合を意味し、単結合に限らず二重結合であってもよい。炭素酸素結合としてはC−O結合、C(=O)−O結合、C=O結合が挙げられる。
親水性膜の主原料としては、水溶性高分子、水溶性オリゴマー、水溶性有機化合物、界面活性物質、両親媒性物質等の親水性有機化合物が挙げられる。これらが相互に物理的または化学的に架橋し、基材と物理的または化学的に結合することにより親水性膜となる。
具体的な水溶性高分子材料としては、ポリアルキレングリコールおよびその誘導体、ポリアクリル酸およびその誘導体、ポリメタクリル酸およびその誘導体、ポリアクリルアミドおよびその誘導体、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、双性イオン型高分子、多糖類、等を挙げることができる。分子形状は、直鎖状、分岐を有するもの、デンドリマー等を挙げることができる。より具体的には、ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体、例えば、Pluronic F108、Pluronic F127、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリ(2−ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリン)、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンとアクリルモノマーの共重合体、デキストラン、およびヘパリンが挙げられるがこれらには限定されない。
具体的な水溶性オリゴマー材料や水溶性低分子化合物としては、アルキレングリコールオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、メタクリル酸オリゴマーおよびその誘導体、アクリルアミドオリゴマーおよびその誘導体、酢酸ビニルオリゴマーの鹸化物およびその誘導体、双性イオンモノマーからなるオリゴマーおよびその誘導体、アクリル酸およびその誘導体、メタクリル酸およびその誘導体、アクリルアミドおよびその誘導体、双性イオン化合物、水溶性シランカップリング剤、水溶性チオール化合物等を挙げることができる。より具体的には、エチレングリコールオリゴマー、(N−イソプロピルアクリルアミド)オリゴマー、メタクリロイルオキシエチルフォスフォリルコリンオリゴマー、低分子量デキストラン、低分子量ヘパリン、オリゴエチレングリコールチオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−〔メトキシ(ポリエチレンオキシ)−プロピルトリメトキシシラン、およびトリエチレングリコール−ターミネーティッド−チオールが挙げられるがこれらには限定されない。
親水性膜の平均厚さは、0.8nm〜500μmが好ましく、0.8nm〜100μmがより好ましく、1nm〜10μmがより好ましく、1.5nm〜1μmが最も好ましい。平均厚さが0.8nm以上であれば、タンパク質の吸着や細胞の接着において、基板表面の親水性膜で覆われていない領域の影響を受けにくいため好ましい。また、平均厚さが500μm以下であればコーティングが比較的容易である。
基材表面への親水性膜の形成方法としては、基材へ親水性有機化合物を直接吸着させる方法、基材へ親水性有機化合物を直接コーティングする方法、基材へ親水性有機化合物をコーティングした後に架橋処理を施す方法、基材への密着性を高めるために多段階式に親水性膜を形成させる方法、基材との密着性を高めるために基材上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法、基板表面に重合開始点を形成し、次いで親水性ポリマーブラシを重合する方法等を挙げることができる。
上記成膜方法のうち特に好ましい方法としては、多段階式に親水性膜を形成させる方法、並びに、基材との密着性を高めるために基材上に下地層を形成し、次いで親水性有機化合物をコーティングする方法を挙げることができる。これらの方法を用いると、親水性有機化合物の基材へ密着性を高めることが容易だからである。本明細書では「結合層」という用語を用いる。結合層とは、多段階式に親水性有機化合物の皮膜を形成する場合には最表面の親水性膜層と基板との間に存在する層を意味し、基材表面に下地層を設け当該下地層の上に親水性膜層を形成する場合には当該下地層を意味する。結合層は、結合部分(リンカー)を有する材料を含む層であることが好ましい。リンカーとリンカーに結合させる材料の末端の官能基の組み合わせとしては、エポキシ基と水酸基、フタル酸無水物と水酸基、カルボキシル基とN−ハイドロキシスクシイミド、カルボキシル基とカルボジイミド、アミノ基とグルタルアルデヒド等が挙げられる。それぞれの組み合わせにおいて、いずれがリンカーであっても良い。これらの方法においては、親水性材料によるコーティングを行う前に、基板上にリンカーを有する材料により結合層を形成する。結合層における前記材料の密度は結合力を規定する重要な因子である。前記密度は、結合層の表面における水の接触角を指標として簡便に評価することができる。例えば、エポキシ基を末端に有するシランカップリング剤(エポキシシラン)を例にとると、エポキシシランを付加した基板表面の水接触角が典型的には45°以上、望ましくは47°以上であれば、次に酸触媒存在下エチレングリコール系材料等を付加することによって十分な細胞接着阻害性を有する基板を作ることができる。
(形状保持用シート)
収縮抑制細胞シートを製造するための形状保持用シートは、細胞接着性を有するものであって、該形状保持用シートの一方の面に細胞シートが接着した場合に該細胞シートの収縮力によっては変形しない強度(本発明では「細胞シートの収縮を抑制するのに十分な強度」と呼ぶ)を有するものであれば特に限定されない。形状保持用シートは生体適合性を有するもの、とりわけ生分解性を有するものが好ましい。たとえばポリ乳酸、ポリ(乳酸−酪酸)共重合体、ポリ酪酸、ポリグリコール酸、コラーゲンやその架橋体、ゼラチンやその架橋体、人工ポリペプチドやその架橋体などの生分解性高分子材料のゲルからなるシートであって細胞シートの収縮を抑制するのに十分な強度を有するもの(典型的には、ゲルを構成する高分子材料の単位面積当たりの乾燥重量が100μg/cm〜1mg/cm、好ましくは200μg/cm〜500μg/cmであるシート、或いは、乾燥時の厚さが0.5mm〜5mmであるシート)が挙げられる。特許文献6及び7において「ハイドロゲル薄膜」と呼ばれている、水和ゲルを十分乾燥させる工程を経てガラス化した後に、再水和して作成されるシートは、上述のような、細胞シートの収縮を抑制するのに十分な強度を有する限り、本発明における形状保持用シートとして用いることができる。形状保持用シートを、本発明の細胞培養担体の有機薄膜上にシート状に形成された細胞層に積層し接着させるときは、通常、形状保持用シートには、細胞培養液などの、細胞培養に悪影響を与えない液体が吸収されている。
(細胞培養担体の製造方法)
本発明の細胞培養担体の製造方法は特に限定されないが、例えば、前記基材の表面上に前記有機薄膜を形成するための溶液を塗布した状態でゲル化等の有機薄膜の形成工程を完了させることにより製造することができる。
(細胞)
本発明の細胞培養担体を用いて培養する細胞としては、血球系細胞やリンパ系細胞などの浮遊細胞でもよいし接着性細胞でもよいが、本発明は、接着性を有する細胞に対して好適に使用される。そのような細胞としては、例えば、肝臓の実質細胞である肝細胞、クッパー細胞、血管内皮細胞や角膜内皮細胞などの内皮細胞、繊維芽細胞、骨芽細胞、砕骨細胞、歯根膜由来細胞、表皮角化細胞などの表皮細胞、気管上皮細胞、消化管上皮細胞、子宮頸部上皮細胞、角膜上皮細胞などの上皮細胞、乳腺細胞、ペリサイト、平滑筋細胞や心筋細胞などの筋細胞、腎細胞、膵ランゲルハンス島細胞、末梢神経細胞や視神経細胞などの神経細胞、軟骨細胞、骨細胞などが挙げられる。これらの細胞は、組織や器官から直接採取した初代細胞でもよく、あるいは、それらを何代か継代させたものでもよい。さらにこれら細胞は、未分化細胞である胚性幹細胞、多分化能を有する間葉系幹細胞などの多能性幹細胞、単分化能を有する血管内皮前駆細胞などの単能性幹細胞、分化が終了した細胞の何れであっても良い。また、細胞は単一種を培養してもよいし二種以上の細胞を共培養してもよい。
(培養)
これらの細胞を播種した細胞培養担体を培養液中で培養することにより、シート状の細胞層を形成することができる。培養液としては、当技術分野で通常用いられる細胞培養用培地であれば特に制限なく用いることができる。例えば、用いる細胞の種類に応じて、MEM培地、BME培地、DME培地、αMEM培地、IMDM培地、ES培地、DM−160培地、Fisher培地、F12培地、WE培地およびRPMI1640培地等、朝倉書店発行「日本組織培養学会編 組織培養の技術第三版」581頁に記載されているような基礎培地を用いることができる。さらに、基礎培地に血清(ウシ胎児血清等)、各種増殖因子、抗生物質、アミノ酸などを加えてもよい。また、Gibco無血清培地(インビトロジェン社)等の市販の無血清培地等を用いることができる。最終的に得られる細胞組織体の臨床応用を考えると動物由来成分を含まない培地を使用することが好ましい。
以下に実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明の内容は実施例の内容には限定されない。
基材作製と細胞シートの回収
1−1.静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材の作製
トルエン39.0g、TSL8350(GE東芝シリコーン製)0.8gを混合し、攪拌しながらトリエチルアミンを450μl添加した。そのまま室温で数分間攪拌した後、全量をガラス皿へ移した。ここにUV洗浄済みの10cm角のガラス基板を浸漬し、室温で16時間放置した。その後、ガラス基板をエタノールと水で洗浄し、窒素ブローで乾燥させた。次に50gのテトラエチレングリコール(TEG)を攪拌しながら25μlの濃硫酸を一滴ずつ添加した。そのまま数分間攪拌してから、全量をガラス皿に移した。ここに上記の基板を浸漬し、80℃で20分間反応させた。反応後、基板をよく水洗し、窒素ブローで乾燥させた。これにより、ガラス基板表面にTEGを含む皮膜が形成された。表面の静的水接触角はおよそ30°であった。この基板を25mm×15mmの大きさに切断し、静的水接触角が45°以下でかつ細胞接着阻害性である基材として使用した。基材をオートクレーブ滅菌後、5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加し、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種しインキュベーター内(37℃、5%CO)で24時間培養したところ基材表面には細胞がまったくに接着しなかった。
1−2.コラーゲン薄膜の作製と厚み測定
コラーゲンゲル培養キット(Cellmatrix I−A、新田ゼラチン)を用いて氷上でコラーゲン溶液を最終濃度2.4mg/mlに調製した。このうち4μlを1−1で作製した基材上に加え37℃で1時間ゲル化させ、その後クリーンベンチ内で3時間乾燥させコラーゲン薄膜を作製した(基材単位面積あたりのコラーゲン含有量:2.6μg/cm)。触針式表面形状測定器(Dektak FPD−650、日本真空技術)によりコラーゲン薄膜の平均厚みを測定した結果100nmであった。この様に作製したコラーゲン薄膜はPBSを加え水和させた後も基材に接着していた。
1−3.細胞シートの回収
1−2で作製したコラーゲン薄膜に5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ,細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。コンフルエントになった細胞の上に予め用意しておいた厚みが1mm程度で強度のあるコラーゲンゲルを重ね、細胞がわずかに培地に漬かる程度に培地を吸い取り細胞とコラーゲンゲルを表面張力で接触させそのまま4時間培養し細胞とコラーゲンゲルを接着させた。その後、ピペット等で培地に水流を発生させ細胞に物理的な力を加えることで細胞シートを基材から脱着回収することができた。また細胞シートを剥離した後の基材には細胞がまったく接着していなかった。このように作製した細胞シートを位相差顕微鏡(IX71、オリンパス)により観測した結果(図4)、細胞シートは細胞収縮を起こさずそのままの形状を維持したままであった。
なお上記で用いたコラーゲンゲルは、コラーゲンゲル培養キット(Cellmatrix I−A、新田ゼラチン)を用いて氷上でコラーゲン溶液を最終濃度2.4mg/mlに調製しておき、溶液の高さが1mm程度になるような量を37℃で1時間ゲル化させたものである。
細胞シートの積層
実施例1−2で作製したコラーゲン薄膜に5%ウシ胎児血清入りMEM培地を適量添加した。ここに、基材一枚あたり2.0×10個のウシ大動脈血管内皮細胞を播種した。インキュベーター内で24時間培養したところ、細胞はコラーゲン薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになっていた。コンフルエントになった細胞の上に実施例1で作製した細胞シートを重ね、細胞シートがわずかに培地に漬かる程度に培地を吸い取り細胞シートを表面張力でコンフルエントになった細胞に接触させそのまま4時間重ね細胞シートとコンフルエントになった細胞を接着させた。その後、ピペット等で培地に水流を発生させ細胞に物理的な力を加えることで多層細胞シートを基材から脱着回収することができた。同様の方法でこの多層細胞シートを上記のコンフルエントになった細胞の上に重ねて基板から脱着回収することで積層数を増やしていき4層積層することができた。
コラーゲン以外の有機薄膜による細胞シート回収
10mg/mlのペプチドハイドロゲルのゲル化する前の溶液と20mg/mlのゼラチン溶液を10:1の割合で混合した溶液40μlを1−1で作製した基材上に加えクリーンベンチ内で3時間乾燥させ有機薄膜を作製した。この有機薄膜に実施例1−3と同様の方法でウシ大動脈血管内皮細胞を播種したところ細胞は有機薄膜に接着・増殖を起こしコンフルエントになった。その後、ピペット等で培地に水流を発生させ細胞に物理的な力を加えることで細胞シートを基材から脱着回収することができた。また細胞シートを剥離した後の基材には細胞がまったく接着していなかった。このように作製した細胞シートを位相差顕微鏡(IX71、オリンパス)により観測した結果(図5)、細胞シートは細胞収縮を起こさずそのままの形状を維持したままであった。
図1は本発明の細胞培養担体の断面図を示す。 図2は本発明の収縮抑制細胞シートの製造方法の手順を示す。 本発明の収縮抑制細胞シートの製造方法の手順を示す図2Aに続く図である。 図3は本発明の細胞培養担体であって、有機薄膜がパターニングされた実施形態の平面図を示す。 図4は実施例1−3の観察結果を示す。 図5は実施例3の観察結果を示す。
符号の説明
1、1’、1’’、11・・・細胞培養担体
2、2’、2’’、12・・・有機薄膜
3、13・・・静的水接触角が45°以下である表面
4、4’、4’’・・・基材
5、5’、5’’・・・細胞層
6・・・形状保持用シート
7、7’、7’’・・・積層体(収縮抑制細胞シート)

Claims (11)

  1. 静的水接触角が45°以下である表面を有する基材と、該基材表面上に剥離可能に積層された、細胞接着性を有する有機薄膜とを備えることを特徴とする細胞培養担体。
  2. 前記有機薄膜の単位面積当たりの乾燥重量が5μg/cm未満である、請求項1記載の細胞培養担体。
  3. 前記有機薄膜の乾燥時の厚さが1μm以下である、請求項1記載の細胞培養担体。
  4. 前記基材表面が細胞接着阻害性である、請求項1〜3のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  5. 前記有機薄膜が生体由来材料により構成される、請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  6. 前記有機薄膜が、人工的に合成された生体由来材料模倣材料により構成される、請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  7. 前記有機薄膜が、人工的に合成された生体由来材料模倣材料と生体由来材料との混合物により構成される、請求項1〜4のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  8. 前記有機薄膜がパターニングされたものである、請求項1〜7のいずれか1項記載の細胞培養担体。
  9. シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート上に、シート状の細胞層と、細胞接着性を有する有機薄膜の層とが少なくとも各1層交互に積層されてなる収縮抑制細胞シートの製造方法であって、
    前記形状保持用シートを、請求項1〜8のいずれか1項記載の細胞培養担体の有機薄膜上にシート状に形成された細胞層に、前記形状保持用シートの積層方向が前記細胞層に接するように積層し接着させて、前記形状保持用シートの表面に細胞層と有機薄膜とが交互に積層接着された積層体を得た後、該積層体を前記細胞培養担体の基材から剥離する積層工程を1回以上繰り返すことを特徴とする、前記方法。
  10. 請求項9記載の方法により製造された、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シート上に、シート状の細胞層と、細胞接着性を有する有機薄膜の層とが少なくとも各1層交互に積層されてなる収縮抑制細胞シート。
  11. 請求項1〜8のいずれか1項記載の細胞培養担体と、シート状の細胞層の収縮を抑制するのに十分な強度を有し且つ細胞接着性である形状保持用シートとを少なくとも備える、収縮抑制細胞シートを製造するためのキット。
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