JP2009247263A - 脂質代謝異常の遺伝的リスク検出法 - Google Patents

脂質代謝異常の遺伝的リスク検出法 Download PDF

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Abstract

【課題】脂質代謝異常、遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための、日本人に適した遺伝子の検出法を提供する。
【解決手段】195個の候補遺伝子に関し258個の遺伝子多型をPCR、配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ、およびサスペンション・アレイ・テクノロジー(SAT)を用いて検出し、脂質代謝異常に有意に関連する遺伝子多型を検出する方法。この検出法は、特に日本人の脂質代謝異常の発症予測、およびその予防に有用である。
【選択図】なし

Description

本発明は、脂質代謝異常の遺伝的リスク検出法等に関するものである。
脂質代謝異常は、遺伝的要因および環境的要因の相互作用によって起こる多因子性疾患である。環境的要因としては、高脂肪および高カロリーの食事、運動不足などがある(非特許文献1)。遺伝子連鎖解析(非特許文献2−4)および候補遺伝子解析(非特許文献5−8)によって、脂質代謝異常との連鎖が示唆されるいくつかの染色体領域および候補遺伝子が特定されている。しかしながら、脂質代謝異常の遺伝要因については、未だ十分に解明されていない。更に、ライフスタイルおよび環境要因における集団間の相違と、遺伝的要因を考慮し、各集団において、脂質代謝異常に関連する遺伝子多型を精査することが重要である。
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脂質代謝異常について、遺伝的リスクを判断するための一材料を得るための遺伝子検出法等を提供することにある。
本発明は、脂質代謝異常に関し、5,421人の日本人について、195遺伝子中の258カ所の遺伝子多型に関する大規模研究である。
脂質代謝異常は、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症の状態を含むが、いずれの症状もアテローム性動脈硬化の重要なリスク因子である。我々は、これらの各状態のそれぞれと遺伝的変異との関係を調査した。本研究の目的は、脂質代謝異常に関与する遺伝子多型を同定し、この知見に基づいて、ある者に対して脂質代謝異常を予防するための有用な情報を与えることである。
上記課題を解決するための第1の発明に係る脂質代謝異常のリスク検出法は、ABCA1の1051G→A、ABCB1のT→G、ABCC6の3826G→A、ABCC8の3857G→A、ACAT2の41A→G、ADIPOQの62G→T、ADIPOR1のC→G、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、AKAP10の2073A→G、APOA5の−1131T→C、−3A→G、553G→T、APOBのC→T、T→C、APOC3の1100C→T、APOEの4070C→T、−219G→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPの−629C→A、C→T、CPB2のT→C、CYP3A5の6986A→G、CYP7A1の−204A→C、ENPP1の97A→C、EPHX2のG→A、FABP2の2445G→A、GJA4の1019C→T、ITGB2の1323C→T、LIPCの−250G→A、LPLの1595C→G、LTAの804C→A、MMP1の−519A→G、MTPの−493G→T、P2RY12の744T→C、PCSK9のA→G、PDE4DのTAAA→−、C→T、PSMA6の−8C→G、SERPINE1の668 4G→5G、THBDの2136C→T、THBS2の3949T→G、TNFの−238G→A、−850C→T、UTS2の347G→A、VAMP8のA→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型と、性別、BMIとを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする。
このとき、群を形成するときに使用する分散については、統計上の分散値、或いは標準偏差値(SD)、パーセントによる区分などを用いることができる。なお、遺伝子多型については、必ずしも上記46個には限られず、これら46個の多型のうちの任意の1個−45個、或いは本明細書中で示される上記46個の他の多型を含む47個以上で実施することもできる。
本明細書中において、多型の記載方法は、次の通りである。原則として、各遺伝子について、「多型が生じている位置、データベースに登録されている塩基(A:アデニン、G:グアニン、C:シトシン、T:チミン)→多型塩基」の順で記載する。例えば、「ABCA1の1051G→A」は、ABCA1の遺伝子について、1051位のGがAとなっている多型を意味している。また、場所の指定がない多型(例えば、ADIPOR1のC→G)については、表1−表6に記載のdbSNPのアクセス番号から、その内容を容易に理解することができる。
なお、ABCA1の1051G→Aについては、dbSNPのrs番号(rs2230806)を見ると、順方向(forward strand)に読んでG/A多型として記録されているが、逆方向(reverse strand)で読むとC/T多型となる。多くの文献について、このSNPは「1051G/A」多型として記載されているので、本明細書においても上記の通りに記載する。
一般に多型は、集団(例えば、日本人集団、西洋人集団など)が異なると、その種類・頻度が異なることが知られている。このため、日本人以外の集団において、脂質代謝異常との関係が指摘されている多型であっても、必ずしも日本人集団においてそのような関連が認められるわけではない。このため、従来の報告については、国または疾患が異なる場合には、必ずしも日本人における多型および脂質代謝異常との関連が裏付けられるわけではない。
また、上記発明において、脂質代謝異常が高コレステロール血症の場合には、ABCA1の1051G→A、ABCC8の3857G→A、AGTの−6G→A、APOA5の−1131T→C、APOBのT→C、APOEの4070C→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPのC→T、ENPP1の97A→C、EPHX2のG→A、GJA4の1019C→T、LIPCの−250G→A、LTAの804C→A、PDE4DのTAAA→−、SERPINE1の668 4G→5G、VAMP8のA→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
また、脂質代謝異常が高トリグリセリド血症の場合には、ACAT2の41A→G、APOA5の−1131T→C、553G→T、APOC3の1100C→T、APOEの3932T→C、CYP3A5の6986A→G、CYP7A1の−204A→C、ITGB2の1323C→T、LPLの1595C→G、MMP1の−519A→G、MTPの−493G→T、PCSK9のA→G、PDE4DのC→T、SERPINE1の6684G→5G、THBDの2136C→Tのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
また、脂質代謝異常が低HDLコレステロール血症の場合には、ABCB1のT→G、ADIPOQの62G→T、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、APOA5の−3A→G、−1131T→C、553G→T、APOBのC→T、APOEの−219G→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPの−629C→A、LIPCの−250G→A、LPLの1595C→G、PSMA6の−8C→G、SERPINE1の668 4G→5G、TNFの−850C→T、UTS2の347G→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
また、脂質代謝異常が高LDLコレステロール血症の場合には、ABCC8の3857G→A、ADIPOR1のC→G、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、AKAP10の2073A→G、APOBのT→C、APOEの4070C→T、3932T→C、CPB2のT→C、FABP2の2445G→A、LPLの1595C→G、P2RY12の744T→C、THBS2の3949T→G、TNFの−238G→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することが好ましい。
本発明によれば、脂質代謝異常について、遺伝的リスクおよび発症リスクを判断するための検出法等が提供される。この発明を用いることにより、脂質代謝異常に対する予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・寝たきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
<試験方法>
研究対象
研究対象は、2つの独立な母集団からなる5,421名であった。集団Aは4,002名から構成され、研究参加施設(岐阜県立岐阜病院、岐阜県立多治見病院、岐阜県立下呂温泉病院、弘前大学病院、黎明郷リハビリテーション病院)に、2002年10月から2007年3月までに、様々な症状または毎年の健康診断のために来院した者であった。集団Bは1,419名から構成され、群馬県における人口に基づく将来の老化および加齢障害の研究のため地域社会に暮らす高齢者であった。
研究プロトコールはヘルシンキ宣言に従い、三重大学医学部、弘前大学医学部、岐阜県国際バイオ研究所、東京都老人総合研究、および参加病院の倫理委員会によって承認された。各参加者に対しては書面によるインフォームドコンセントを得た。
血中脂質濃度の測定
静脈血の採取は、早朝において各患者が一晩に渡って絶食し、脂質濃度低下のための適当な治療を受ける前に行った。血液サンプルは、4℃にて、1600×g、5分間遠心し、血清を分離した。血清は、脂質濃度を測定するまで−30℃にて保存した。血清中の全コレステロール(非特許文献36)、トリグリセリド(非特許文献37)、HDLコレステロール(非特許文献38)の濃度を周知方法によって測定した。LDLコレステロール濃度についても周知の方法(非特許文献39)、すなわちフリーデワルドの公式(Friedewald formula)に基づき、「血中LDLコレステロール濃度=血中全コレステロール濃度−血中HDLコレステロール濃度−(0.2×血中トリグリセリド濃度)。但し、血中トリグリセリド濃度が4.4mmol/L以下の場合」として求めた(非特許文献40、41)。
多型の選択
公開データベースの使用、および本発明者の鋭意検討により、195個の候補遺伝子を選択した。本発明者は、従来の知見およびデータベースに基づき、これら195個の遺伝子について、258個の多型を選択した。これらの多型の多くは、プロモーター領域、エクソン、イントロンのスプライシングの供与部位或いは受容部位に多く位置しており、多型の結果として、コードされたタンパク質の機能または発現に変化を与える可能性があるものであった。これら258個の多型は、下記表1−表6に示した。なお、表中においては、左欄から順に、座位(Locus)、遺伝子名(Gene)、簡易記載(Symbol)、多型(Polymorphism)、多型データベース登録番号(dbSNP)を示している。なお、多型データベース登録番号が無い場合には、NCBI遺伝子バンクに登録されている番号を示した。各多型の野生型および変異型対立遺伝子は、情報源のものを用いた。
遺伝子多型の検出方法
7mLの静脈血を50mmol/L EDTA(ジナトリウム塩)を含むチューブに採取し、ゲノムDNAをキット(ゲノミックス社製)によって分離した。258個の多型の遺伝子型は、PCRと配列特異的オリゴヌクレオチドプローブをサスペンジョン・アレイ・テクノロジー(SAT:Luminex 100)と組み合わせて使用する方法によって決定した(G&Gサイエンス株式会社)。プライマー、プローブ、その他の条件は、下表7に示した。表7は左から順に、遺伝子記(Gene Symbol)、多型(Polymorphism)、センスプライマー(Sense primer)、アンチセンスプライマー(Antisense primer)、プローブ1(Probe 1)、プローブ2(Probe 2)、アニーリング温度(Annealing)、およびサイクル数(Cycles)を示した。また、詳細な方法については、既報のもの(非特許文献42)を基本として、適宜に増幅条件を変えて行った。なお、脂質代謝異常との関連が認められなかった多型を検出するための条件については記載を省略した。
PCR−SSOP−Luminex法
方法の詳細については、非特許文献42に記載の通りである。以下には、この方法の概要について説明する。
図1には、Luminex100フローサイトメトリーで検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示した。マイクロビーズ(図中の符号(A))は、直径が約5.5μm程度であり、ポリスチレン製である。ビーズ表面には、特異的な塩基配列を認識するプローブが結合されている。各ビーズには、一種類のプローブが結合されている。このマイクロビーズには、赤色色素と赤外色素との割合を変化させることにより、図中の符号(B)に示すように、最大で100種類のものを混合した状態で、各ビーズの同定が行えるようになっている。複数種類のプローブを備えたマイクロビーズ(但し、各マイクロビーズには一種類のプローブのみ)を適当な割合で混合し、100ビーズ/μLとなるようにしたビーズミックスを調製した(図中の符号(C))。
図2には、PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示した。
<増幅反応(Amplification)>
目的とするDNAを増幅するPCR反応には、5’末端をビオチンでラベルしたプライマーを用いた。1.5mM塩化マグネシウムを含む1xPCR溶液(50mM KCl、10mM Tris−HCl、pH8.3)、2%DMSO、0.2mM dNTPs、及び0.1μM−10μMプライマーセットを混合し、Taq DNAポリメラーゼ(50U/mL)と50ng−100ngのゲノムDNAを加えて25μLとした。PCR反応は、95℃で10分間処理の後、94℃で20秒間の変性、60℃で30秒間のアニーリング、及び72℃で30秒間の伸長を1サイクルとし、これを50サイクル繰り返した。機器としてGeneAmp9700サーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズ社製)を用いた。
<ハイブリダイゼーション(Hybridization)>
増幅したDNAを変性した後、ビーズミックスとハイブリダイズさせた。96ウエルプレートの各ウエルに、5μLの増幅反応後のPCR増幅液、5μLのビーズミックス、及び40μLのハイブリダイズ用緩衝液(3.75M TMAC、62.5mM TB(pH8.0)、0.5mM EDTA、0.125% N−ラウロイルザルコシン)を添加し、全量50μLとした。この混合液を添加した96ウエルプレートについて、95℃で2分間の変性、及び52℃で30分間のハイブリダイゼーションを行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、増幅したDNAを認識するプローブを有するビーズ(1)のみが、DNAと結合する様子が示されている。
<ストレプトアビジン−フィコエリスリン反応(SA−PE Reaction)>
次に、上記ビーズミックス−DNAをSA−PEと反応させた。ハイブリダイゼーション反応の後、各ウエルに100μLのPBS−Tween(1xPBS(pH7.5)、0.01% Tween−20)を添加し、1000xgで5分間の遠心を行い、上清を取り去ることで、マイクロビーズを洗浄した。各ウエルに残ったマイクロビーズに、それぞれ70μLのSA−PE溶液(PBS−Tweenにより、市販品(G&Gサイエンス株式会社製)を100倍希釈したもの)を添加し混合した後、52℃で15分間の反応を行った(GeneAmp9700サーマルサイクラーを用いた。)。
図2中には、ビーズ(1)のプローブにのみビオチン化DNAが結合しているので、そのビオチンにSA−PEが結合する様子が示されている。
<測定(Measurement)>
次に、反応後のサンプルはLuminex100を用いて、ビーズ種類の同定と、そのビーズにPEが結合しているか否かを判定した。測定は2種類のレーザを使用して行い、ビーズの種類は635nmレーザにより同定し、PE蛍光は532nmレーザを用いて定量した。オリゴビーズに結合したDNAは1測定あたり各々のビーズを最低50個ずつ測定し、定量されたPEの蛍光強度の中央値(MFI)を使用した。
図2中には、各ビーズ(1)−(3)が同定され、かつビーズ(1)にのみPEが測定されたことから、ビーズ(1)に結合させたプローブが認識するDNAが増幅された様子が示されている。
統計解析
臨床データは、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症の患者群とコントロール群との間で、対応のないスチューデントt検定により比較した。質的データは、カイ二乗検定によって比較した。対立遺伝子頻度は遺伝子カウント法によって概算し、ハーディ・ワインベルク平衡にあてはまるかどうかを判断するためにカイ二乗検定を使った。遺伝子型分布は、2つの群から構成される遺伝モデルと高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症の患者群とコントロール群との間でカイ二乗検定(2x2)によって比較した。遺伝モデルは、優性モデルは「変異型のホモ接合体とヘテロ接合体の結合群」対「野生型のホモ接合体」(BB+AB対AA)、劣性モデルは「変異型のホモ接合体」対「野生型のホモ接合体とヘテロ接合体の結合群」(BB対AA+AB)である。
危険率(p値)が5%未満(p<0.05)で脂質代謝異常の各疾患と関連した多型の遺伝モデルは、疾患の発症に関係があると思われる要因(交絡因子)として、他の背景因子(年齢(age:連続値)、性別(sex:女性=0、男性=1))とともに、強制投入法による多項ロジスティック回帰分析により解析した。このとき、背景因子および各遺伝子型を独立変数とし、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症を従属変数とした。各遺伝子型は、優性、劣性遺伝モデルに従って評価し、p値、オッズ比、および95%信頼区間を計算した。
上記多項ロジスティック回帰分析により、危険率(p値)が5%未満(p<0.05)で脂質代謝異常の各疾患と関連した多型の遺伝モデルまたは他の背景因子の効果を確認するために、ステップワイズ変数増加法により解析を行った。このとき、背景因子に関しては、さらに肥満指数(body mass index:BMI:連続値)、喫煙状態(smoking:非喫煙者=0、喫煙者=1)を独立変数として追加し、解析を行った。対象の選択基準は組み入れ規準(inclusion criteria)を0.25とし、除外規準(external validity)を0.1とした。
上記解析の結果、危険率(p値)が3%未満(p<0.03)であった背景因子および多型の遺伝モデルを脂質代謝異常の各疾患と有意に関連する因子として選択した。同じ多型で優性モデル(BB+AB対AA)と劣性モデル(BB対AA+AB)の両者のp値が3%未満であった場合は、優性モデルを採用した。
脂質代謝異常と遺伝モデルまたは他の背景因子の多重比較の結果を得る際は、危険率5%未満(p<0.05)は統計的に有意であると見なし、ステップワイズ変数増加法による解析では危険率3%未満(p<0.03)を統計的に有意であると見なした。統計的有意性は、両側検定によって試験した。統計解析は、SPSS 13.0(エス・ピー・エス・エス株式会社製)によって実行した。
<試験結果>
5,421名の研究対象、集団Aおよび集団Bに関する背景データを表8に示した。表には、左欄より順に、特徴(Characteristic)、被験者集団A(Subject panel A)、および被験者集団B(Subject panel B)を示している。また、特徴欄は、上より順に、者数(No. of subjects)、年齢(Age)、性別(男性/女性)(Sex(male/female))、肥満指数(Body mass index)、血中総コレステロール(Serum total cholesterol)、高コレステロール者率(Hypercholesterolemia)血中トリグリセリド(Serum triglycerides)、高トリグリセリド者率(Hypertriglyceridemia)、血中HDL−コレステロール(Serum HDL-cholesterol)、低HDLコレステロール者率(Low HDL-cholesterol)、血中LDL−コレステロール(Serum LDL-cholesterol)、及び高LDLコレステロール者率(High LDL-cholesterol)を示している。
年齢、BMI、および血中脂質濃度に関するデータは、平均±SDで示した。喫煙率については、一日あたり10本以上を吸った場合を喫煙とした。高コレステロール血症については、血中総コレステロール濃度が5.69mmol(220mg/dL)以上の者とした。高トリグリセリド血症については、血清トリグリセリド値が1.65mmol/L(150mg/dL)以上の者とした。低HDLコレステロール血症については、血清HDLコレステロール値が1.04mmol/L(40mg/dL)未満の者とした。高LDLコレステロール血症については、血清LDLコレステロール値が3.64mmol/L(140mg/dL)以上の者7した。
高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、高LDLコレステロール血症、Lコレステロール血症のリスク診断を行うために必要な因子を抽出するため、前記対象集団において検査した遺伝子多型結果を優性、劣性モデルとしてカイ二乗宇検定により評価し、さらに年齢、性別、BMI、喫煙状態を含む多項ロジスティック回帰分析を行った(詳細については後述する)。その結果、次に説明するように、脂質代謝異常に関するリスク診断を行えることが分かった。
<脂質代謝異常のリスク診断システム>
表9−表12には、ステップワイズ変数増加法で各疾患の発生に有意(に関連した遺伝子多型群および他の背景因子(年齢、性別、BMI)に関する詳細を示した。これらの因子は独立したものであり、オッズ比の積(かけ算)により総合的な高血圧発症リスクを予測することができる。表には、左欄より順に、因子(Variable)、p値(P value)、オッズ比(95%信頼区間)(OR(95%CI))を示した。また、最下段には、従来の危険因子(Conventional risk factors)と、今回の研究で見出された遺伝因子(Genetic risk factors)のオッズ比を乗じた総合リスク(Total risk)を示した。
<高コレステロール血症>
多項ロジスティック回帰分析の結果、従来の危険因子としては性別とBMIが、遺伝因子としては、ABCA、ABCC8、AGT、APOA5、APOB、APOE、CD14、CETP、ENPP1、EPHX2、GJA4、LIPC、LTA、PDE4D、SERPINE1、VAMP8の各遺伝子多型が高コレステロール血症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が0.472で最大オッズ比が1.062、遺伝因子では最小オッズ比が0.168で最大オッズ比が97.935であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.079で最大オッズ比が104.007であり、1316倍の差が認められた。
<高トリグリセリド血症>
多項ロジスティック回帰分析の結果、従来の危険因子としては性別とBMIが、遺伝因子としては、ACAT2、APOA5、APOC3、APOE、CYP3A5、CYP7A1、ITGB2、LPL、MMP1、MTP、PCSK9、PDE4D、SERPINE1、THBDの各遺伝子多型が高トリグリセリド血症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が0.981で最大オッズ比が1.061、遺伝因子では最小オッズ比が0.395で最大オッズ比が4.023であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.387で最大オッズ比が4.268であり、11倍の差が認められた。
<低HDLコレステロール血症>
多項ロジスティック回帰分析の結果、従来の危険因子としては性別とBMIが、遺伝因子としては、ABCB1、ADIPOQ、AGT、AGTR2、APOA5、APOB、APOE、CD14、CETP、LIPC、LPL、PSMA6、SERPINE1、TNF、UTS2の各遺伝子多型が高トリグリセリド血症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が0.978で最大オッズ比が4.089、遺伝因子では最小オッズ比が0.230で最大オッズ比が4.887であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.225で最大オッズ比が19.983であり、88倍の差が認められた。
<高LDLコレステロール血症>
多項ロジスティック回帰分析の結果、従来の危険因子としては性別が、遺伝因子としては、ABCC8、ADIPOR1、AGT、AGTR2、AKAP10、APOB、APOE、CPB2、FABP2、LPL、P2RY12、THBS2、TNFの各遺伝子多型が高LDLコレステロール血症に関連した。従来の危険因子では最小オッズ比が0.632で最大オッズ比が1.044、遺伝因子では最小オッズ比が0.235で最大オッズ比が108.862であった。したがって、従来の危険因子と遺伝因子を総合すると、最小オッズ比が0.149で最大オッズ比が113.652であり、762倍の差が認められた。
ステップワイズ変数増加法で各疾患の発生に有意に関連した遺伝子多型群および性別、BMIに関しては、再度強制投入法による多項ロジスティック回帰分析を行い、リスク診断を行うために必要な因子を抽出した(後の表25−表28に示す)。
本研究成果の臨床的な意義について以下に述べる。病院、クリニックまたは健診センターにおいて希望者に対して従来の危険因子と今回の遺伝因子に関する検査を行い、脂質代謝異常の発症リスクの予測を行う。多項ロジスティック回帰分析により疾患の発症に関連が認められた遺伝因子および他の交絡因子(性別、BMI)についての検査結果から、受診者の発症確率のロジットを推定し、その分布からリスクの程度を3段階以上(例えば、5段階)に分ける。コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。
実際に本研究における高コレステロール血症の分布は、リスクが高い群は11.8%(コントロール群は4.9%)、リスクがやや高い群は31.2%(コントロール群は21.3%)、平均的リスクの群は44.2%(コントロール群は49.2%)、リスクがやや低い群は10.8%(コントロール群は19.3%)、リスクが低い群は1.1%(コントロール群は5.3%)であった。高トリグリセリド血症の分布は、リスクが高い群は11.9%(コントロール群は4.7%)、リスクがやや高い群は46.5%(コントロール群は20.6%)、平均的リスクの群は44.3%(コントロール群は52.2%)、リスクがやや低い群は10.0%(コントロール群は18.5%)、リスクが低い群は1.4%(コントロール群は5.0%)であった。低HDLコレステロール血症の分布は、リスクが高い群は20.1%(コントロール群は5.0%)、リスクがやや高い群は39.2%(コントロール群は20.0%)、平均的リスクの群は34.8%(コントロール群は50.0%)、リスクがやや低い群は5.5%(コントロール群は19.9%)、リスクが低い群は0.5%(コントロール群は5.0%)であった。高LDLコレステロール血症の分布は、リスクが高い群は4.3%(コントロール群は4.3%)、リスクがやや高い群は23.2%(コントロール群は20.7%)、平均的リスクの群は49.5%(コントロール群は50.5%)、リスクがやや低い群は18.2%(コントロール群は19.7%)、リスクが低い群は4.8%(コントロール群は4.9%)であった。
結果については、医師等の有資格者の判断を含めてカウンセリングを行い、とりわけ高リスク群またはやや高リスク群に属する場合には生活習慣の改善(禁煙・飲酒の減量・食事療法即ちカロリー制限・運動療法・ストレス解消・睡眠不足解消など)を行うことにより脂質代謝異常群の一次・二次予防を積極的に推進する。特に多量の飲酒、高カロリー・高脂肪食、運動不足などの生活習慣は、一般的に脂質代謝異常群の原因と考えられているため、遺伝的に脂質代謝異常のリスクが平均より高いと予測された場合は、生活習慣の改善により脂質代謝異常のリスクを減少させるようにクライアントに説明する。特に脂質代謝異常の家族歴のある人への適用が有効である。本システムにより脂質代謝異常のオーダーメイド予防が可能になり、脂質代謝異常に起因する種々の疾患、即ち心筋梗塞、脳梗塞、腎臓病、閉塞性動脈硬化症などの予防につながる。ひいては、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止や今後の医療費削減などにつながり、医学的・社会的に大きく貢献できる。
<リスク判断システム>
次に、上記リスク判断システムを開発するに至った統計解析の結果について説明する。
カイ二乗検定により、高コレステロール血症で47個、高トリグリセリド血症で38個、低HDLコレステロール血症で61個、高LDLコレステロール血症で29個の遺伝モデルが疾患との関連を示した(p<0.05)。詳細を表13−表16に示した。表においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、遺伝モデル(Dominant/Recessive)、および危険率(p)を示している。
これらの遺伝モデルについては、各疾患との関連について更に詳細に分析した。年齢、性別を補正した多項ロジスティック回帰分析を行ったところ、次の多型において、各疾患の発生に有意に関連した(p<0.05)。詳細を表17−表20に示した。表においては、左欄より順に、遺伝子表記(Gene symbol)、多型(Polymorphism)、遺伝モデル(Dominant/Recessive)、危険率(p)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(95% CI)をそれぞれ示している。
次に、各疾患に対する遺伝子型、年齢、性別に加え、背景因子としてさらにBMI、喫煙状況の影響について、ステップワイズ変数増加法により解析した。
対象の選択基準は組み入れ規準(inclusion criteria)を0.25とし、除外規準(external validity)を0.1とした。結果を表21−表24に示す。表中には、左欄より順に、因子(Variable)、多型(Polymorphism)、遺伝モデル(Dominant/Recessive)、p値(p value)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(95% CI)をそれぞれ示している。
上記ステップワイズ変数増加法によるロジスティック回帰分析により、危険率3%(p<0.03)で各疾患と有意に関連した因子をリスク判断のための最終的な因子として採用した。ただし、高トリグリセリド血症におけるAPOC3の1100C→T多型(優性モデル:p=0.048)、低HDLコレステロール血症におけるAPOA5の−3A→G多型(劣性モデル:p=0.040)、高LDLコレステロール血症におけるFABP2の2445G→A多型(優性モデル:p=0.031)、LPLの1595C→G多型(劣性モデル:p=0.044)に関しては、p値が0.03を超えるものの0.05以下であり、かつ脂質代謝異常との関連が示唆されているため、解析に使用した。また、優性モデル、劣性モデルの両者がp<0.03で有意に関連した多型に関しては、変異型ホモBB、ヘテロ接合体ABの両者を含む優性モデルを採用した。これらの因子に関しては、強制投入法によるロジスティック回帰分析を行い、リスク判断システムに必要な数値を決定した。このとき、優性モデル、劣性モデルの両者がp<0.03で有意に関連した多型に関しては、対象者の遺伝子型が変異型ホモBBである場合の疾患発症リスクをより正確に判断するために、変異型ホモBBの(0,1)情報をダミー変数として投入した。これにより、この多型が優性モデルである対象者の場合、BBの多型を持つか、ABの多型を持つかにより疾患発症の確率にどの程度違いがあるかを確認することが可能となる。結果を表25−表28に示す。表中には、左欄より順に、因子(Variable)、多型(Polymorphism)、偏回帰係数(β)、p値(p value)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(95% CI)をそれぞれ示している。
高コレステロール血症の罹患率に対し、統計的有意性が高い順に、性別(Sex)、APOEの4070C→T多型(優性モデル)、AGTの−6G→A多型(優性モデル)、BMI、APOEの3932T→C多型(優性モデル)、CETPのC→T多型(劣性モデル)、APOA5の−1131T→C多型(劣性モデル)が有意であり(p<0.001)、各要因が独立して高コレステロール血症に影響を与えることが分かった。同様に、高トリグリセリド血症の罹患率に対し、BMI、性別、LPLの1595C→G多型(優性モデル)、APOA5の−1131T→C多型(優性モデル)APOA5の553G→T多型(優性モデル)、ACAT2の41A→G多型(劣性モデル)が、低HDLコレステロール血症の罹患率に対し、性別、BMI、AGTの−6G→A多型(優性モデル)、LPLの1595C→G多型(優性モデル)、APOA5の553G→T多型(優性モデル)、CETPの−629C→T多型(劣性モデル)、LIPCの−250G→A多型(優性モデル)、APOEの−219G→T多型(劣性モデル)が、高LDLコレステロール血症の罹患率に対し、APOEの4070C→T多型(優性モデル)、性別、AGTRの3132C→A多型(優性モデル)、APOEの3932T→C多型(優性モデル)、AGTの−6G→A多型(優性モデル)が有意であり(p<0.001)、各要因が独立して疾患に影響を与えることが分かった。
各因子の偏回帰係数により得られるロジスティック回帰モデルより、対象集団における疾患発症確率のロジットの推定が可能となる。受診者ごとに予測されたロジットの値を低い順に並べた場合、値が大きいほど対象集団における発症リスクは高くなる。したがって、疾患との関連が示された遺伝因子およびその他の因子の検査結果から本モデルにおける順位を解析することで、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症の発症リスクを推定することが可能となる。
<考察>
本発明者は、5,421名の日本人からなる2つの独立した集団において、195個の候補遺伝子中の258個の多型と、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、および高LDLコレステロール血症との関連を調べた。今回の大規模研究によって、(1)ABCA1の1051G→A多型、ABCC8の3857G→A多型、AGTの−6G→A多型、APOA5の−1131T→C多型、553G→T多型、APOBのT→C多型、APOEの4070C→T多型、3932T→C多型、CD14の−260C→T多型、CETPの−629C→A多型、ENPP1の97A→C多型、EPHX2のG→A多型、GJA4の1019C→T多型、LIPCの−250G→A多型、LTAの804C→A多型、PDE4DのTAAA→−多型、SERPINE1の668 4G→5G多型、VAMP8のA→G多型が高コレステロール血症と有意に関連すること、(2)ACAT2の41A→G多型、APOA5の−1131T→C多型、553G→T多型、APOC3の1100C→T多型、APOEの3932T→C多型、CYP3A5の6986A→G多型、CYP7A1の−204A→C多型、ITGB2の1323C→T多型、LPLの1595C→G多型、MMP1の−519A→G多型、MTPの−493G→T多型、PCSK9のA→G多型、PDE4DのC→T多型、SERPINE1の6684G→5G多型、THBDの2136C→T多型が高トリグリセリド血症と有意に関連すること、(3)ABCB1のT→G多型、ADIPOQの62G→T多型、AGTの−6G→A多型、AGTR2の3123C→A多型、APOA5の−3A→G多型、−1131T→C多型、APOBのC→T多型、APOEの−219G→T多型、3932T→C多型、CD14の−260C→T多型、CETPの−629C→A多型、LIPCの−250G→A多型、LPLの1595C→G多型、PSMA6の−8C→G多型、SERPINE1の668 4G→5G多型、TNFの−850C→T多型、UTS2の347G→A多型が、低HDLコレステロール血症と有意に関連すること、および(4)ABCC8の3857G→A多型、ADIPOR1のC→G多型、AGTの−6G→A多型、AGTR2の3123C→A多型、AKAP10の2073A→G多型、APOBのT→C多型、APOEの4070C→T多型、3932T→C多型、CPB2のT→C多型、FABP2の2445G→A多型、LPLの1595C→G多型、P2RY12の744T→C多型、THBS2の3949T→G多型、TNFの−238G→A多型が高LDLコレステロール血症と有意に関連することがわかった。
最後に、高コレステロール血症では上記17個の多型と性別、BMI、高トリグリセリド血症では上記15個の多型と性別、BMI、低HDLコレステロール血症では上記18個の多型と性別、BMI、高LDLコレステロール血症では上記14個の多型と性別の情報をロジスティック回帰式に投入し、これらの遺伝子型の組み合わせによる遺伝的リスクをA−Eの5段階で評価した。結果を表29−表32に示す。表中においては、左より順に、各多型の遺伝子名、遺伝子型、年齢、性別、ロジット、5段階評価を示す。5段階評価は、受診者の発症確率のロジットを推定し、その分布からリスクの程度を5段階に分ける。コントロール群のリスク値の大きい順に全体を5%、20%、50%、20%、5%に区分し、リスク値の最も大きい5%の群をリスクが高い群、次の20%の群をリスクがやや高い群、次の50%の群を平均的リスクの群、次の20%の群をリスクがやや低い群、リスク値が最も小さい5%の群をリスクが低い群とする。本発明においては、遺伝的リスクを5段階評価で提示することにより、発症リスクが容易に推定可能となる。
APOA5、APOA1、およびAPOC3について
染色体11q23上のアポリポプロテイン遺伝子クラスター(APOA5−APOA1−APOC3−APOA4)は、血中脂質濃度と定量的に相関する遺伝子領域である。APOA5は、良く知られているAPOA1−APOC3−APOA4遺伝子クラスター(非特許文献9)の約27kb上流に位置しており、血中トリグリセリド濃度と強く相関することが知られている(非特許文献10)。ヒトAPOA5は、4個のエクソンによって構成されており、369個のアミノ酸からなるタンパク質である(非特許文献10)。マウスを用いた実験によれば、APOA5の発現量は、血中トリグリセリド濃度に大きな影響を与えることが知られている。ヒトAPOA5を発現するトランスジェニックマウスの血中トリグリセリド濃度は、コントロール動物の血中トリグリセリド濃度の1/3であるのに対し、APOA5をノックアウトしたマウスでは、血中トリグリセリド濃度はコントロールの4倍であった(非特許文献10)。
ヒトAPOA5のプロモータ領域にある−1131T→C多型は、多くの民族において、血中トリグリセリド濃度と独立して相関しており、このとき変異型のCアレルは、トリグリセリド濃度を上昇させる危険因子である(非特許文献7、10−14)。この多型は、アジア人および白人において、トリグリセリド濃度およびHDLコレステロール濃度とも関連しており、Cアレルを持つとHDLコレステロール濃度が減少することが知られている(非特許文献7、12−14)。APOA5の−3A→G多型(非特許文献7、15)と553G→T(Gly185Cys)多型(非特許文献16)は、−1131T→C多型と連鎖不平衡の関係にあり、トリグリセリド濃度の変化と関係している。これらの知見によれば、APOA5は、ヒトにおいて、トリグリセリドおよびHDLコレステロールの調節に重要な役割を果たしていることがわかる。我々の研究によれば、APOA5の−1131T→C多型、−3A→G多型、および553G→T(Gly185Cys)多型が高トリグリセリド血症と低HDLコレステロール血症に関連しており、このとき変異型のC、G、およびTアレルは、リスク因子であることが示された。これらのデータは、従来の知見と矛盾するものではない(非特許文献7、12−16)。
トリグリセリド代謝において、アポリポプロテインA−Vが果たす役割については、未だにわかっていない。アポリポプロテインA−Vは、疎水的表面では、高活性、低弾性、および遅結合活性を示し(非特許文献17)、トリグリセリドが多い粒子の集合を妨害する活性を示す。APOA5トランスジェニックマウスでは、VLDL−トリグリセリド濃度が顕著に減少するという知見(非特許文献10)に加え、インビトロ実験の結果では、組換えアポリポプロテインA−Vがリポプロテインリパーゼの活性に関与し、これを増加することが知られている(非特許文献18)。アポリポプロテインA−Vは、肝VLDL合成を減少させ、VLDL除去を増加することにより、VLDL−トリグリセリド濃度を減少させるのかも知れない。
79個のアミノ酸から構成される糖タンパクのアポリポプロテインC−IIIは、肝臓と小腸で合成され、トリグリセリドに富むリポプロテインとHDLの主要な要素である。このタンパク質は、血中トリグリセリド濃度の調節に重要である(非特許文献19)。すなわち、リポプロテインリパーゼの阻害、肝トリグリセリドリパーゼ活性の阻害、および細胞膜のグリコサミノグリカンとリポプロテインの結合を阻害することにより、VLDLの脂質分解を阻害する(非特許文献20)。APOC3中の多型、またはAPOC3の近傍のいくつかの多型が、高トリグリセリド血症と関連している。APOC3の3’非翻訳領域の多様型SstI部位(3238C→G)は、様々な民族において高トリグリセリド血症に関連していることが知られている(非特許文献6、9)。APOC3の1100C→T多型は、血中トリグリセリド濃度と関連していることが知られている(非特許文献21)。今回の研究では、APOC3の1100C→T多型が高トリグリセリド血症に関連し、Tアリルが危険因子であることがわかった。
アポリポプロテインA−Iは、肝臓と、小腸で合成され、HDLの主要構成要素である(非特許文献9)。このタンパク質は、細胞のコレステロールの恒常性に重要な役割を果たしている。また、このタンパク質は、酵素レシチン(コレステロールアシルトランスフェラーゼ)の共同因子であり、末梢組織から肝臓にコレステロールを運搬する際に主要な役割を果たす(非特許文献9)。この経路は、アテローム性動脈硬化に対向するものであると考えられている。実際に、ヒトAPOA1を発現するトランスジェニックマウスでは、食餌由来のアテローム性動脈硬化の発達を阻害することが知られている(非特許文献22)。APOA1の84T→C多型は、血中トリグリセリドおよびHDLコレステロール濃度に関連することが知られている(非特許文献23)。今回の研究では、APOA1の84T→C多型が、高トリグリセリド血症に関連し、Cアレルが保護因子であることが明らかとなった。
LPL
リポプロテインリパーゼ(LPL)は、血中のトリグリセリドに富むリポタンパク質の脂質分解を行う律速酵素である。このタンパク質は、脂肪組織の実質細胞、骨格筋、および心筋で合成され、血管内皮のヘパラン硫酸結合部位に運ばれる(非特許文献24)。LPLの加水分解機能は、トリグリセリドに富むカイロミクロンやVLDLをレムナント粒子にするための処理、およびリン脂質とアポリポプロテインをHDLに運搬するために重要である。また、LPLは、血中のリポプロテインを受容体を介して除去するために重要な働きを果たしている(非特許文献25)。LPLは多様型であり、アミノ酸の置換によって、トリグリセリドおよびHDLコレステロール濃度に影響を与える。これらの濃度は、アテローム性動脈硬化の発生について影響を与えている(非特許文献26)。
LPLの1595C→G(Ser447Stop)多型は、LPLのC末端の2個のアミノ酸を除去する。この変化は、このタンパク質と受容体との結合活性を上昇または促進させるか、ダイマーの形成に影響を与えると考えられている(非特許文献26)。1595C→G(Ser447Stop)多型のGアレルは、血中トリグリセリド濃度を減少させるか、HDLコレステロール濃度を上昇させる(或いは、両方の作用)と言われている(非特許文献5、25、26)。過去の知見によれば、2個のアミノ酸が除去されたLPL変異体の酵素活性と安定性とは、ほとんど野生型と同じであるが、血中のLPL濃度が上昇することにより、LPL活性が増加するようである(非特許文献25、27)。今回の研究では、LPLの1595C→G(Ser447Stop)多型が高トリグリセリド血症に関連しており、このときG(Stop)アレルが保護因子であることがわかった。この知見は、従来の知見と矛盾しない(非特許文献5、25、26)。
APOE
アポリポプロテインEは、脂質運搬と脂質代謝に重要な役割を果たしている。APOEの3つの一般的なアレル(ε2、ε3、ε4)は、三つの主要なアイソフォーム(E2、E3、E4)をコードしている。これらのアイソフォームは、112位と158位のアミノ酸が異なっている。ε4ではLDLコレステロール濃度が高く、ε2では低いというデータに基づき、APOEのアレル変異によって、総コレステロール濃度およびLDLコレステロール濃度の個体差が説明される(非特許文献28−30)。各種のアポリポプロテインEアイソフォームは、特異的なリポプロテイン受容体と異なった相互作用を示し、最終的に血中コレステロール濃度に影響を与える(非特許文献31)。
VLDL、カイロミクロン、およびカイロミクロンレムナントのアポリポプロテインEは、肝臓において、特異的な受容体と結合する。ε2アレルを持つ者は、ApoE2アイソフォームの結合特性の結果として、VLDLとカイロミクロンの合成能力、およびそれらを血中から肝臓に運搬する能力に劣る。これに対し、ε3とε4アレルを持つ者では、これらの処理能力は優れている。このため、ε3とε4アレルを持つ者と比べると、ε2アレルを持つ者では、血中から食事に含まれる脂質を代謝するまでの時間が遅い(非特許文献32)。食後のリポプロテイン粒子の取り込みの相違は、肝LDL受容体の制御の相違に基づくが、これは、血中全コレステロール濃度およびLDLコレステロール濃度が、遺伝子型の相違によるものであることに依る(非特許文献33−35)。
今回の研究においては、我々は、APOEの4070C→T(Arg158Cys)と3932T→C(Cys112Arg)が高LDLコレステロール血症に関連し、4070TアレルとE2アイソフォームをコードするハプロタイプが保護因子であること、および3932CアレルとE4アイソフォームをコードするハプロタイプがリスク因子であることを明らかとした。この結果は、従来の知見と矛盾しない(非特許文献8、28−30、33−35)。
脂肪酸結合タンパク質2(FABP2)は、小腸の円柱状の吸収上皮細胞においてのみ発現される細胞内タンパク質である。このタンパク質は、飽和および不飽和脂肪酸に対して高い親和性を持つ単一の結合部位を持っており、長鎖脂肪酸の吸収および細胞内輸送に寄与している。FABP2の2445G→A(Ala54Thr)多型においてA対立遺伝子産物は、G対立遺伝子産物に比べると、インビトロ試験系で長鎖脂肪酸に対して大きな親和性を示した(非特許文献44)。また、A対立遺伝子は、血漿中LDLコレステロール濃度がより高く(非特許文献17)、メタボリック症候群と脂質代謝異常に関連することが認められている(非特許文献45)。
<結論>
我々の研究によれば、日本人においては、APOA5、APOC3、APOA1、およびLPLは高トリグリセリド血症に関連し、APOA5とAPOEは低HDLコレステロール血症と高LDLコレステロール血症に、FABP2は高LDLコレステロール血症に関連していた。この結果に基づき、遺伝子多型を調べることにより、脂質代謝異常の危険性を知ることができる。
このように本実施形態によれば、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、低HDLコレステロール血症、高LDLコレステロール血症を含む脂質代謝異常について、遺伝的リスクを判断するための検出法を提供することができる。この実施形態を用いることにより、脂質代謝異常の予防が可能となり、高齢者の健康寿命延長・QOL向上・ねたきり防止ならびに今後の医療費削減など、医学的・社会的に大きく貢献できる。
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Luminex100で検出するマイクロビーズの微細構造と特徴を示す図である。 PCR−SSOP−Luminex法の手順の概要を示す図である。

Claims (5)

  1. ABCA1の1051G→A、ABCB1のT→G、ABCC6の3826G→A、ABCC8の3857G→A、ACAT2の41A→G、ADIPOQの62G→T、ADIPOR1のC→G、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、AKAP10の2073A→G、APOA5の−1131T→C、−3A→G、553G→T、APOBのC→T、T→C、APOC3の1100C→T、APOEの4070C→T、−219G→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPの−629C→A、C→T、CPB2のT→C、CYP3A5の6986A→G、CYP7A1の−204A→C、ENPP1の97A→C、EPHX2のG→A、FABP2の2445G→A、GJA4の1019C→T、ITGB2の1323C→T、LIPCの−250G→A、LPLの1595C→G、LTAの804C→A、MMP1の−519A→G、MTPの−493G→T、P2RY12の744T→C、PCSK9のA→G、PDE4DのTAAA→−、C→T、PSMA6の−8C→G、SERPINE1の668 4G→5G、THBDの2136C→T、THBS2の3949T→G、TNFの−238G→A、−850C→T、UTS2の347G→A、VAMP8のA→Gの遺伝子多型と、性別、肥満指数(body mass index:BMI)とを評価因子とし、各評価因子のオッズ比を乗じた発症リスクを計算し、この発症リスクを平均と分散またはパーセント区分に応じて3つ以上の複数の群を作成し、各群に応じて発症のリスクを検出することを特徴とする脂質代謝異常のリスク検出法。
  2. 脂質代謝異常が高コレステロール血症であり、ABCA1の1051G→A、ABCC8の3857G→A、AGTの−6G→A、APOA5の−1131T→C、APOBのT→C、APOEの4070C→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPのC→T、ENPP1の97A→C、EPHX2のG→A、GJA4の1019C→T、LIPCの−250G→A、LTAの804C→A、PDE4DのTAAA→−、SERPINE1の668 4G→5G、VAMP8のA→Gのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする脂質代謝異常のリスク検出法。
  3. 脂質代謝異常が高トリグリセリド血症であり、ACAT2の41A→G、APOA5の−1131T→C、553G→T、APOC3の1100C→T、APOEの3932T→C、CYP3A5の6986A→G、CYP7A1の−204A→C、ITGB2の1323C→T、LPLの1595C→G、MMP1の−519A→G、MTPの−493G→T、PCSK9のA→G、PDE4DのC→T、SERPINE1の6684G→5G、THBDの2136C→Tのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする脂質代謝異常のリスク検出法。
  4. 脂質代謝異常が低HDLコレステロール血症であり、ABCB1のT→G、ADIPOQの62G→T、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、APOA5の−3A→G、−1131T→C、553G→T、APOBのC→T、APOEの−219G→T、3932T→C、CD14の−260C→T、CETPの−629C→A、LIPCの−250G→A、LPLの1595C→G、PSMA6の−8C→G、SERPINE1の668 4G→5G、TNFの−850C→T、UTS2の347G→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする脂質代謝異常のリスク検出法。
  5. 脂質代謝異常が高LDLコレステロール血症であり、ABCC8の3857G→A、ADIPOR1のC→G、AGTの−6G→A、AGTR2の3123C→A、AKAP10の2073A→G、APOBのT→C、APOEの4070C→T、3932T→C、CPB2のT→C、FABP2の2445G→A、LPLの1595C→G、P2RY12の744T→C、THBS2の3949T→G、TNFの−238G→Aのうちの少なくとも1個または2個以上の遺伝子多型を検出することを特徴とする脂質代謝異常のリスク検出法。
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