JP2010071981A - 単位面積あたりのレーザー誘起蛍光量を指標とするアスベスト識別法 - Google Patents

単位面積あたりのレーザー誘起蛍光量を指標とするアスベスト識別法 Download PDF

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Abstract

【解決課題】一般には困難と考えられる環境試料中の多様な物質からアスベストを簡便に識別する方法を提供する。
【解決手段】検体試料に対してレーザー光を照射し、検体試料中の物質から物質固有のレーザー誘起蛍光を発生させる第一の工程、顕微鏡観察視野内で発生したレーザー誘起蛍光を照射レーザー波長よりも長波長域にある任意の波長域に光透過特性を有する光学ローパスフィルターを通して光検出し、微粒子からの蛍光を2次元光検出器で画像計測する第二の工程、画像計測した微粒子の蛍光画像から微粒子のレーザー誘起蛍光を発する面積とその面積から発生する積算蛍光量を求める第三の工程、微粒子が蛍光を発生する面積とその面積から発生する蛍光量から単位照射面積当たりの蛍光量を算出し、予め同計測条件で求めておいたアスベストの単位面積当たりの蛍光量と比較する第四の工程を具備する、単位面積あたりのレーザー誘起蛍光量を指標とするアスベスト識別法。
【選択図】なし

Description

本発明は、アスベストの識別法に関し、特に大気中に浮遊するアスベストまたは建築材料中に含まれるアスベストの簡易識別法に関する。
従来のアスベスト分析方法には、アスベスト粒子と他の物質粒子の屈折率の相違を利用する位相差顕微鏡による分散染色法、複屈折性をも確認できる手法を組み込んだ位相差顕微鏡による分散染色法(特許文献1)、アスベストの複屈折性を利用する偏光顕微鏡による消光角法、物質の結晶構造の相違を利用する基底標準吸収補正法等を利用したX線回折分析法、偏光顕微鏡による消光角法の改良型で暗視野落射照明を利用する偏光判定法(PVS)(非特許文献1)、呈色試薬を用いる方法(特許文献2及び3)、蛍光色素を吸着させて染色させる方法(特許文献4)、アスベスト繊維粒子によるレーザー散乱光の偏光特性を利用する方法(特許文献5)、レーザーラマン分光を用いる分析法(非特許文献2)、バイオ技術を用いる方法(非特許文献3)などがある。これらのうち、位相差顕微鏡による分散染色法及び偏光顕微鏡による消光角法並びに基底標準吸収補正法等を利用したX線回折分析法は、建材、吹き付け材中のアスベスト含有量を計測する定性分析手法として2006年のJIS A 1481に定められている手法である。また、大気汚染防止法で規制対象となる大気中の飛散アスベストの濃度測定法として、環境省 水・大気環境局大気環境課によるアスベストモニタリングマニュアル(第3版、平成19年5月)では、光学顕微鏡法が標準とされており、結果を補足する手段として電子顕微鏡による観察、または分散染色法が参考法として定められている。
しかし、これらの方法は、欠点として煩雑な前処理や分析結果を得るまでに長い期間、日数を要すること、顕微鏡法では目視観察のため人為的測定誤差が大きいという測定精度の問題がある。
位相差顕微鏡による分散染色法は、粒子の屈折率の違いによって生じる色の相違を顕微鏡で観察してアスベストの識別を行うものである。建材を含む多くの材料からなる検体試料中にはアスベストの屈折率と同様の屈折率を有するタルク等の多くの鉱物材料が存在するため、目視による色の相違のみによる識別は熟練の専門家でも困難な作業となる。
偏光顕微鏡による消光角法では、顕微鏡操作の熟練と消光角による判定法に関する高度な鉱物の光学物性の専門知識が必要で、非専門家にはアスベストの同定が困難であり、識別には経験者でも長い分析時間を要する。JIS A 1481には、位相差顕微鏡による分散染色法と偏光顕微鏡による消光角法とを併用することも参考として示されているが、これら二つの方法を両立できる専門家の数が極めて少ない。このため、これらの手法は現在標準的な計測技術であるが、結果としてアスベストの識別に煩雑な手間と長大な分析時間が必要となる。また、高精度の測定には高い専門知識及び技量が不可欠であることが、分析者による測定精度のばらつき(人為的な測定誤差)を大きくさせている原因となっている。
位相差顕微鏡による分散染色法及び偏光顕微鏡による消光角法の改良型である特許文献1に記載の方法や偏光判定法(PVS)は、測定手法に関する改善は見られるものの、やはり同様の問題をかかえている。特に偏光判定法(PVS)は、微細なアスベスト繊維粒子の識別が困難で、光学的倍率は位相差顕微鏡や偏光顕微鏡に及ばないとされている。
X線回折法によるアスベスト識別に関しては、分散染色法及び消光角法以上に高度な知識と経験が必要であることが指摘されている(非特許文献4)。
以上のように、顕微鏡観察、X線回折による従来方法で高精度な計測を行う際には、試料を準備し計測するまでに煩雑な手間や化学処理等が必要で、さらにアスベストの判定には高度な専門知識や熟達した技量が必要になる。アスベストをリアルタイムでその場で識別し計測することは困難で、結果を得るまでに長い時間と多くの労力が必要であり、測定精度は測定者の技量に依存するという問題点がある。
一方、呈色試薬による方法や蛍光色素を吸着させて染色させる手法、及びタンパク質を吸着させる手法等は、適用可能な建材材料等の範囲が不明な場合やクリソタイル以外には適用困難であるというような問題があるため、使用する際には対象範囲が限定されるという問題点がある。
また、レーザー散乱光の偏光特性を利用する方法やラマン分光を用いる分析法は、計測者の技量に関係なくアスベストをその場で計測することができる。しかし、前者は、繊維状粒子によるレーザー散乱光の偏光特性を利用することから、アスベスト以外の繊維粒子との識別が不十分であるという問題がある。また、後者は、ラマン散乱光が非常に微弱で小さいこと、また同様の波長域でラマン散乱光を発する建材、鉱物等が多数存在するためアスベストの識別が難しいという問題点がある。
これら従来技術を単独で用いる場合は、上記のような技術的問題点がありアスベストの識別を困難にしている。高精度で分析する場合には、高度な専門知識、経験、技量も要求され、上記の従来技術を単独ではなく複数併用しなくてはならない。結果として、従来技術で用いられている方法では、アスベスト繊維粒子のその場で迅速に識別計測することはできず、計測精度のばらつき、長い分析時間、及び煩雑な手間が不可欠という問題がある。
現在のアスベスト計測技術ではアスベストの厳密な判定が困難であるため、その場での迅速なリアルタイム計測が不可能である。よって、アスベストを含む建材を使用した老朽化した建物の解体工事現場などで建材中のアスベストの分析及び飛散するアスベストの環境調査のために長い日数と煩雑な作業を要している。
また、これまで計測対象は、クリソタイル、クロシドライト及びアモサイトの3種類であったが、アスベストの健康被害対策のため、厚生労働省通達(基安化発0206003号、平成20年2月6日付)によりクロシドライトと同じ各閃石族のアンソフィライト、トレモライトやアクチノライトの3種類のアスベストの分析も義務付けられることになった。しかしながら、現在、主流となっている分散染色法による位相差顕微鏡によるアスベスト計測法では、このような計測数の増加に対してある程度の計測精度を維持したまま対処することは大幅な作業時間の増加を招く。
一方、アスベスト計測に適用されてはいないが、蛍光寿命により物質の発光機構と化学種の関係等を分析する手法として時間分解蛍光分光(測光)法がある(非特許文献5)。この方法では、蛍光スペクトルを時間分解してスペクトルの変化や蛍光寿命を計測して2成分系試料の定量分析、物質の同定や分子の動的構造解析等を行う(特許文献6、7及び8)。また、代表的なものとしてバイオ分野で細胞内の微小環境評価、色素、抗体、アミノ酸の検出等に蛍光寿命顕微鏡が用いられている(特許文献9及び10、非特許文献6)。蛍光寿命は、蛍光強度と違って物質の濃度により影響を受けないため、バイオ、化学分析分野では、主に蛍光色素、特定物質等の画像検出または挙動解析に用いられている。蛍光寿命を検出するため、寿命計測装置や寿命解析装置が開発されてきた(特許文献11及び12)。しかしながら、蛍光寿命による物質同定または識別法は、これまで細胞内や化学溶液内等の非常に限られた条件下で使用されており、アスベストのような無機物質または有機物質など多様な物質が混在する試料を分析する環境分析の分野では一般に使用されていない。その理由として、同様の蛍光寿命を有する物質が多数混在していること、それら多様かつ多数の蛍光寿命の解析に膨大な分析時間と手間が必要になることが挙げられる。また、それら多様な試料には蛍光強度に大きな差があるため、微量かつ微弱な蛍光強度を有する物質の同定は実質的に不可能である。
特開2005−338567号公報 特開2000−88838号公報 特開平9−105743号公報 特表2004−519445号公報 特開平10−267828号公報 特許第3318019号公報 特開2004−294105号公報 特表2003−522946号公報 特開2002−286639号公報 特開平9−43146号公報 特表2006−519395号公報 特開平8−334464号公報
亀和田俊一、和田哲、石井啓慈、南和明、許成基、境谷浩一、亀元宏宣、西田道夫、「建材中アスベストの偏光判定装置(PVS)とこれを用いた現場判定法」、産業と環境、vol.35,No.3,2006 立石和男、古谷圭一、菊池正、石田英之、石谷炯、「ラマンマイクロプローブによる環境中のアスベストの分析」、BUNSEKI KAGAKU、vol.30、pp.774−779,1981 黒田章夫、野村和孝、西村智基、「アスベスト結合タンパク質を利用したアスベスト簡易検出」、オーム、12月号、pp.4−5,2006 佐々木一弘、中倉隆雄、藤巻宏和、「位相差顕微鏡を用いた分散染色法によるアスベスト同定の問題点」、ぶんせき、4、pp.177−184,2007 南茂夫、合志陽一編集、「分光技術ハンドブック」、pp.533−535,1990 Bernard Valeur, "Molecular Fluorescence: Principal and Applications", Weinheim: Wiley-VCH, 2002 諫早典夫、中江茂、平沢紘介編集:「空気清浄のための浮遊微粒子の計測・制御総合技術」、R&Dプラニング、1987年発行
したがって、本発明は、従来法の欠点を解消し、単位面積あたりのレーザー誘起蛍光量を指標として、一般には困難と考えられる環境試料中の多様な物質からアスベストを簡便に識別する方法を提供することを目的とする。
本発明によれば、アスベストを識別する指標として物質固有のレーザー誘起蛍光の単位面積あたりの蛍光量を用いることにより、従来技術でのアスベスト判定の困難さ、計測に係る煩雑な処理または手間、及び測定精度等の問題点を解消する。
具体的には、検査対象の検体試料にレーザー光を照射して物質から発生する任意波長のレーザー誘起蛍光の蛍光量と当該レーザー誘起蛍光を発する物質の面積を計測し、単位面積あたりの蛍光量を検出して、あらかじめ作成しておいた基準アスベストの単位面積あたりの蛍光量とその場で比較し、検体試料がアスベストを含むか否かを識別する。
一般に物質にレーザー光が照射されると、その物質表面から物質の組成に依存する物質特有のレーザー誘起蛍光が発生する。その蛍光の発生波長域は、照射するレーザー光の波長域よりも広く、数ナノメートルから数百ナノメートルに及ぶことがある。蛍光スペクトルの発生特性は、同じ物質でも照射するレーザーの波長によっても異なる。同一波長のレーザー光で様々な物質を照射すると、発生する蛍光量、蛍光スペクトルのピークを示す波長、蛍光スペクトル形状、及びその蛍光寿命は物質によって様々異なる。この物質によって異なる蛍光量の差異を利用して、予め任意の波長域でのアスベストの蛍光発生特性を調査して単位面積当たりの蛍光量を把握しておき、それを基準として同条件での物質からの単位面積当たりの蛍光量と比較することでアスベストの識別が可能となる。
一般には蛍光から物質の詳細な識別は困難とされている。しかし、本発明においては、特定波長域のレーザー誘起蛍光を検出し、当該特定波長域のレーザー誘起蛍光を発している物質の面積を顕微鏡観察により求めて、単位面積当たりレーザー誘起蛍光の量を簡易かつ厳密に検出することによって、環境試料中の多様な物質からアスベストを高精度で識別する方法を提供する。
本発明は、アスベストが混在する試料中にレーザー照射を施し、そこに発生するレーザー誘起蛍光の特定波長域での積算蛍光量又はピーク値と当該レーザー誘起蛍光を発する物質の面積を検出して求めた単位面積あたりの蛍光量を比較するだけの簡単な手法である。また、従来技術で用いられている識別法よりも数値で評価できるため簡易かつ精度の高いアスベストの識別法となる。このため、本発明は、従来技術の問題点である目視によるアスベスト判定に伴う人為的な誤差や煩雑な顕微鏡の操作、試料の前処理等を解決する有力な手段となる。
次に、単位面積あたりの蛍光量を指標とするアスベストの識別原理について説明する。
天然または人為的に生成された化学物質、有機物、無機物等の物質に単色のレーザー光が照射されると、物質表面からレーザー誘起蛍光を発生する。この蛍光は、一般に照射したレーザー波長よりも長い波長域に幅広く発生し、同一波長のレーザー照射条件では、物質ごとに異なる発生特性を示し、発生するスペクトルの波長域、強度、及び蛍光の寿命が異なる。図1には、異なる物質A、B及びCのレーザー誘起蛍光のスペクトル概念図を示す。レーザー誘起蛍光スペクトルは、基本的に物質の組成が異なれば、蛍光の発生波長域、スペクトル形状及び蛍光寿命なども異なる。蛍光スペクトルの蛍光量(積算蛍光量)は、各波長での蛍光強度をスペクトルの発生波長域にわたって積算したものであり、その量は図1における蛍光スペクトルの線と蛍光強度0の基準線とによって囲まれた領域の面積に相当する。レーザーの照射面積は同一なので、その面積すなわち単位面積当たりの蛍光スペクトルの量が物質によって異なる。したがって、検体試料中の物質の単位面積あたりの蛍光量を求めて、予め求めておいたアスベストの単位面積あたりの蛍光量(基準アスベスト蛍光量)と比較することによって、その物質がアスベストか否かを識別することができる。また、図1に示すように物質A、B及びCの蛍光スペクトル形状が顕著に異なる特定ピークを有する場合には、この特定ピーク(図1に示す波長λ1)の単位面積当たりの蛍光強度だけを比較するだけでも物質の識別が可能である。
単位面積あたりの蛍光量という数値によってアスベストの識別が可能となるため、目視によって観測、識別する顕微鏡観察法等の従来技術よりも簡易かつ迅速なアスベスト計測が可能となる。本発明では、様々な種類のアスベストの単位面積あたりの蛍光量を予め測定しておいて既知のデータ(基準アスベスト蛍光量)として、計測対象物質の単位面積あたりの蛍光量を計測して比較する。したがって、アスベスト以外の物質との識別が容易となるばかりでなく、計測すべきアスベストの種類が増加してもアスベストの種類別識別も容易であり、従来方法のように特段の作業時間の増加(検体試料数の増加、前処理の増加など)を招くことはない。
図6に本発明のアスベスト識別装置の概念図を示す。アスベスト識別装置は、パルス発振のレーザー光源(d)と、対物レンズの光路中に任意波長域に光透過特性を有するローパスフィルター又はバンドパスフィルター(b)と、当該ローパスフィルター又はバンドバスフィルター(b)により分離されたレーザー誘起蛍光を観察する高速ゲート付高感度CCDカメラ(a)と、を具備する蛍光顕微鏡、及び当該高速ゲート付高感度CCDカメラの画像から、レーザー誘起蛍光を発する微粒子の面積と、その面積から発生する蛍光量から単位照射面積当たりの蛍光量を算出し、当該面積あたりの蛍光量を求める計測制御装置(g)を具備する。
次に、図6に示すアスベスト識別装置を用いるアスベスト識別手法を説明する。まず、顕微鏡システムで検体試料(f)にパルスレーザーを照射する。検体試料中の微粒子から発生するレーザー誘起蛍光を照射するレーザー波長よりも長い波長域に透過特性のあるローパス光学フィルターまたはレーザー誘起蛍光の発生波長域に任意の狭い波長域に透過特性を有するバンドパス(干渉)光学フィルター(波長λ)(b)を通して高感度CCDカメラ(a)で顕微鏡観察する。高感度CCDカメラ(a)により、光学フィルター(b)を通した蛍光顕微鏡画像(図中右下)が得られる。この画像を計測制御装置(g)であるパーソナルコンピュータ等に取り込み、画像処理を行い、蛍光を発している微粒子の面積を算出し、この微粒子画像からCCD信号を基にしてこの微粒子から発生する所定波長域での積算蛍光量を導出する。蛍光を発している微粒子の面積と積算蛍光量から単位面積当たりの蛍光量を求め、予め調査済みの同計測条件下でのアスベストの単位面積当たりの積算蛍光量と比較する。この処理によりアスベストと識別された微粒子をアスベスト繊維粒子1個と計数する。この画像中の1個の微粒子に対するアスベスト識別に関する画像識別処理を画像中に写る全ての微粒子に繰り返し施すことにより画像中の全てのアスベスト粒子を計数する。
図1は、異なる物質A、B及びCのレーザー誘起蛍光のスペクトル概念図を示す。 図2は蛍光スペクトル計測のタイムシーケンスを示す。(a)は照射レーザーパルス、(b)はレーザー誘起蛍光、(c)は分光器の光検出器のゲート露出時間である。 図3は、アスベスト3種類(クリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アンソフィライト)のレーザー誘起蛍光スペクトルを示す 図4は、繊維状物質であるガラスウール、ロックウール及びロックファイバーのレーザー誘起蛍光スペクトルを示す。 図5は、非繊維状物質であるタルク、石膏及びセメントのレーザー誘起蛍光スペクトルを示す。 図6は、本発明のアスベスト識別装置の一実施形態を示す。 図7は、図6に示す本発明のアスベスト識別装置の一実施形態である顕微鏡システムにおいて紫外(波長266nm)レーザー照射によりアスベスト粒子及びガラスウール粒子から発生したレーザー誘起蛍光を観測したそれら粒子の蛍光画像を示す。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
紫外パルスレーザー(Nd:YAGレーザー4倍波、波長266nm、パルス時間幅〜4ns)を試料(照射面積〜0.8cm)に照射して、レーザー誘起蛍光を発生させた。図2に、パルスレーザーと発生するレーザー誘起蛍光、及びCCDカメラのゲート時間の時間的相関を表すタイムシーケンスを示す。レーザー誘起蛍光は、レーザー照射直後より物質から発生する経過時間によって図2のように減衰する。その蛍光をマルチチャンネル分光器で200nsの露出(ゲート)時間で100回積算して平均し、波長350〜700nmの蛍光スペクトルを計測した。レーザー散乱光を除去するため分光器にカットオフ波長360nmのローパス光学フィルターを使用した。なお、使用するローパスフィルターの透過特性により蛍光スペクトルの形状が変化し、計測する蛍光量も変化する。
図3に代表的なアスベストである5種類のクリソタイル、クロシドライト、アモサイト、トレモライト、及びアンソフィライトの繊維粒子を固めたバルク試料からの同一のレーザー照射面積から発生した波長350nm付近から700nmのレーザー誘起蛍光スペクトルをそれぞれ示す。これらの蛍光スペクトルは、物質表面の同一のレーザー照射面積から発生したレーザー誘起蛍光を同一の計測条件で計測したものである。クリソタイルの蛍光スペクトルは、ピーク強度においてアンソフィライトの0.5倍程度、クロシドライ及びアモサイトの10倍程度、トレモライトの1.5倍程度の強度を示すが、スペクトル形状は非常に酷似している。これら5種類のアスベストの種類間で蛍光量に顕著な差異があり、識別できる程度の差があること、及びピーク強度に明確な差があることがわかった。各アスベストのピーク波長の強度差でもこれらアスベストの識別が可能であることがわかる。
図4には、アスベストと誤認されやすいアスベストと同様の繊維状物質であるガラスウール、ロックウール及びガラスウールの蛍光スペクトルを示す。これら繊維状物質の蛍光スペクトルは、アスベストのものとは異なるスペクトル形状を示し、ピーク位置も50nmから100nmほど長波長側にあることがわかった。また、ピークの蛍光強度においても、特にガラスウールはクリソタイルよりも30倍以上程度高く、ロックウールとロックファイバーは、5〜7倍程度高いことがわかった。このようにガラスウール、ロックウール及びロックファイバー等のアスベストと誤認されやすい繊維状物質はアスベストよりも格段に多い蛍光量を発することが観測された。
図5に、非繊維状物質でアスベスト検査時に検査試料によく混入される建材試料のタルク、石膏及びセメントの図3と図4と同条件で計測したレーザー誘起蛍光スペクトルを示す。タルクと石膏は、ほぼ同様のスペクトル形状である。ピーク値における蛍光強度は、クリソタイル(1.95×10)と比較して、タルク(2.0×10)の場合は約10倍、石膏(7.8×10)の場合は約4倍、高いことがわかった。一方、セメントはタルク及び石膏とスペクトル形状が酷似しているものの、強度はピークにおいてタルクに対して40分の1以下と低かった。
表1に図3、図4及び図5に示す全ての物質の蛍光スペクトルの波長350〜700nmの積算蛍光量をクリソタイルの値を基準(1)としてまとめたものを示す。これらの値は、試料表面の同一のレーザー照射面積から発生した蛍光量を同一の計測条件でまとめたものであり、粒子の単位面積当たりの蛍光量の比に相当する。
Figure 2010071981
表1に示すように、積算蛍光量の比は、物質間で大きく異なることがわかる。アスベストはこれら物質の中で蛍光量が小さいほうに分類される。セメントがクリソタイルの約1/5であり、クロシドライトは約1/8、アモサイトは約1/20、トレモライトは約2/3と低い値を示し、アンソフィライトは約1.8倍であった。また、アスベストと誤認されやすい繊維状物質であるガラスウールがクリソタイルの25倍以上、ロックウールやロックファイバーは6〜8倍程度の高い値を示した。セメント以外の非繊維状物質のタルクと石膏もクリソタイルに対してそれぞれ9倍、3倍以上の積算蛍光量を発生することがわかった。よって、アスベストと他の物質間の単位面積当たりの蛍光量でこのような顕著な数値上の顕著な差異があるため、これらの数値を用いれば高精度なアスベストの識別が可能になる。
また、表1では波長350〜700nmの積算蛍光量を比較したが、図3、図4、図5に示す各スペクトル波形のピーク値の単位面積当たりの蛍光強度比較でもアスベストの識別が可能であることを上述した。しかし、この場合には物質ごとに蛍光スペクトル波形を取得してピーク値を検出する煩雑な解析作業が不可欠となる。この手間を省いて容易に蛍光強度からアスベストを識別できる方法として、狭い波長域に透過特性のあるバンドパスフィルターで任意の波長域の蛍光強度で識別する方法を以下に示す。表2に波長522nm付近での各物質の蛍光強度を表1と同様にクリソタイルを基準にしてまとめた結果を示す。この方法では、面倒なスペクトル解析作業が不要で一つのバンドパスフィルターで同様の計測条件で任意の狭い波長域での蛍光強度を容易に求めることができる。
Figure 2010071981
単位面積あたりの波長522nmでの蛍光強度からでもアスベストと他の物質間、及びアスベストの種類間でも顕著な差異があり、これらの数値からでもアスベストの識別が可能であることがわかる。しかし、狭い波長域の蛍光強度で識別する場合、選択する波長域によってはアスベストと同様の蛍光強度を示す物質があるので、蛍光強度を比較する波長域の選定には注意を要する。表2のように物質間で蛍光強度の差異が顕著である波長域を選択しなければならない。
このように長い波長域での積算蛍光量や一つの任意の狭い波長域での単位面積当たりの蛍光量は、アスベストと他の物質間で大きな差があるため、アスベストのこれらの値を予め求めておいて顕微鏡観察により物質の単位面積当たりのこれらの積算蛍光量または蛍光強度を検出しアスベストのものと比較することでアスベストの識別を容易かつ迅速に行うことができる。顕微鏡での蛍光観察により得られる蛍光顕微画像をパーソナルコンピュータ等で画像処理を行えば、人為的な目視計測によらずアスベストの自動識別、計数が可能となる。
[実施例2]
表1に示す積算蛍光量比は、繊維状或いは粉末状のアスベスト及び建材試料を固めたバルク試料を用いた分光試験で計測したバルク試料からの蛍光量に基づくものである。実際に表1に示す積算蛍光量比に相当する蛍光量比の差異が図6に例示した顕微鏡システムで観察する粒子でも得られることを確認するため粒子からの蛍光量の顕微鏡観察試験を行った。
観察した試料は、クリソタイル(アスベスト)とガラスウール(アスベスト代替建材試料)の繊維状粒子である。石英ガラス製の顕微鏡観察用のスライドガラス2枚の内側にそれらの粒子を各々区別して挟んだものを顕微鏡で観測した。図7は、図3と同様に波長266nmのパルスレーザー光を照射して、顕微鏡の対物レンズに図3の場合とは異なる透過特性を有するローパスフィルター(カットオフ波長:363.8nm)を使用して観察したクリソタイルとガラスウール粒子の実際の蛍光画像である。図7では、粒子からのレーザー誘起蛍光をパルスレーザー照射直後からカメラ露出時間200nsで計測した。図中左の粒子はクリソタイル、右はガラスウールである。画像中同程度の粒子面積でありながらガラスウール粒子の輝度がクリソタイルのものよりも顕著に高いことから、この粒子の輝度の違いからでも容易にアスベストとガラスウールを識別できることがわかる。それぞれの粒子画像の鮮明な部分の単位面積当たりの蛍光量比を求めるとガラスウールの蛍光量比はクリソタイルに対して表1に示した27倍に近い23倍程度であった。実際に図6に例示した顕微鏡システムでも表1に示す蛍光量比に相当する単位面積あたりの蛍光量比の大きな差異が確認された。顕微鏡観察でもクリソタイルとガラスウール間で蛍光量比の顕著な差が実際に観察されたことにより、レーザー誘起蛍光の蛍光量からアスベストを識別する手法を実現する一例として例示した顕微鏡観察でも蛍光量比を指標として明確にアスベストを識別できることの確証が得られた。
表1に示したガラスウールのクリソタイルに対する蛍光量比27倍は、分光試験で分光器にカットオフ波長360nmのローパスフィルターを使用して得られた蛍光スペクトルを波長350から700nmにかけて積算した結果である。顕微鏡試験では、波長363.8nm以上の蛍光量を全部積算したものだが、表1の分光試験の結果とほぼ同程度の蛍光量比を確認することができた。表1の分光試験と図7の顕微鏡観察の蛍光量比のずれは、上述の蛍光スペクトルを積算する波長領域の差もあるが、さらにそれぞれの試験で使用した計測器の装置関数(ローパスフィルターの透過特性、光検出器の感度特性等)の違いにもよる。表1の分光試験で使用したローパルフィルターと図7の顕微鏡観察で使用したものの透過特性は、カットオフ波長は同じ波長域だがカットオフ波長付近での波長に対する透過特性が大きく異なる。さらに、表1の分光試験で使用した光検出器と図7の顕微鏡観察で使用した光検出器(光増倍管付きCCDカメラ)の波長に対する感度特性も異なる。顕微鏡観察試験でも表1の分光試験と同様のローパスフィルターの透過特性、光検出器の感度特性を有するものを使用すれば表1の蛍光量比とほぼ同様の値が顕微鏡観察でも得られると考えられる。表1のバルク試料を用いる分光試験と実際の粒子を観察する顕微鏡システムから得られるそれぞれの蛍光量比には、装置関数が異なるためずれが生じることが予想される。このため、本手法を図6に示す顕微鏡システムに適用する場合には、アスベスト識別の指標とするアスベストとその他の物質の単位面積あたりの蛍光量比は、実際に使用する顕微鏡システムで校正した蛍光量比を使用することが推奨される。
産業上の利用分野
本発明により、従来の方法で困難であったアスベスト識別計測が簡便かつ迅速化される。本発明を従来の顕微鏡によるアスベスト計測技術に組み込むことにより数値でアスベストの判定が可能になるため従来の大きな問題点の一つである人為的な誤差を回避することができ判定精度が向上する。さらに計測時間の大幅な短縮が期待できる。例えば、本発明では一つの試料でアスベスト種類の識別が可能なため従来技術の位相差顕微鏡による分析で不可欠となる計測するアスベスト種類別の検体試料の作成等の準備が不要になり、分析作業に係る時間を短縮することができる。
微粒子の単位面積当たりの蛍光量をアスベスト識別の指標とすることを特徴とする本発明の最適な適用法として顕微鏡観察に適用した例を示した。しかし、本発明の特徴である単位面積当たりの蛍光量を容易に検出できうるものであれば顕微鏡以外の計測システムにも本発明の手法は適用できる。計測装置としては複雑なシステムになるが、原理的には蛍光量と蛍光を発生する微粒子の面積または大きさが計測できれば光散乱式の微粒子計測器(パーティクルカウンター)などにも適用可能である。
本発明は、アスベスト計測に係る作業効率と計測精度を飛躍的に向上させる。結果として、本発明を用いることにより従来よりも正確にアスベストの迅速識別が可能となるめ、本発明はアスベストに係る環境汚染問題の解決に役立てることのできる有効な一つの手段となりうるものと考えられる。

Claims (6)

  1. 検体試料にレーザー光を照射して検体試料中の物質の微粒子表面から発生する物質固有のレーザー誘起蛍光の単位面積当たりの蛍光量を指標とするアスベスト識別法。
  2. 検体試料中の微粒子の面積の計測は、顕微鏡観察により行う、請求項1に記載のアスベスト識別法。
  3. 検体試料に対してレーザー光を照射し、検体試料中の物質から物質固有のレーザー誘起蛍光を発生させる第一の工程、
    顕微鏡観察視野内で発生したレーザー誘起蛍光を照射レーザー波長よりも長波長域にある任意の波長域に光透過特性を有する光学ローパスフィルターを通して光検出し、微粒子からの蛍光を2次元光検出器で画像計測する第二の工程、
    画像計測した微粒子の蛍光画像から微粒子のレーザー誘起蛍光を発する面積と、その面積から発生する積算蛍光量と、を求める第三の工程、
    微粒子が蛍光を発生する面積と、その面積から発生する蛍光量から単位照射面積当たりの蛍光量とを算出し、予め同計測条件で求めておいたアスベストの単位面積当たりの蛍光量と比較する第四の工程、
    を具備する、アスベスト識別法。
  4. 前記第四の工程において、識別したアスベストの微粒子数を計測することをさらに含む、請求項3のアスベスト識別法。
  5. 検体試料に対してレーザー光を照射し、検体試料中の物質から物質固有のレーザー誘起蛍光を発生させる第一の工程、
    顕微鏡観察視野内で発生したレーザー誘起蛍光を照射レーザー波長よりも長波長域にある特定波長域に光透過特性を有するバンドパスフィルターを通して光検出し、微粒子からの蛍光を2次元光検出器で画像計測する第二の工程、
    画像計測した微粒子の蛍光画像から微粒子のレーザー誘起蛍光を発する面積とその面積から発生する特定波長の蛍光量を求める第三の工程、
    微粒子が蛍光を発生する面積とその面積から発生する蛍光量から単位照射面積当たりの蛍光量を算出し、予め同計測条件で求めておいたアスベストの単位面積当たりの蛍光量と比較する第四の工程、
    を具備する、アスベスト識別法。
  6. レーザー光源と、
    対物レンズの光路中に任意波長域に光透過特性を有するローパスフィルター又はバンドパスフィルターと、
    当該ローパスフィルター又はバンドバスフィルターにより分離されたレーザー誘起蛍光を観察する高速ゲート付高感度CCDカメラと、
    を具備する蛍光顕微鏡、及び
    当該高感度CCDカメラの画像から、レーザー誘起蛍光を発する微粒子の面積と、その面積から発生する蛍光量から単位照射面積当たりの蛍光量とを算出し、当該面積あたりの蛍光量を求める計測制御装置
    を具備するアスベスト識別装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2017049150A (ja) * 2015-09-02 2017-03-09 アズビル株式会社 蛍光粒子の計測方法
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CN115494045A (zh) * 2022-09-01 2022-12-20 广东省药品检验所(广东省药品质量研究所、广东省口岸药品检验所) 一种利用激光拉曼光谱识别滑石粉中石棉的方法

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