JP2010077100A - シャロット由来抗糸状菌化合物 - Google Patents
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Abstract
【課題】
本発明は、植物由来でかつすぐれた抗糸状菌活性を有する化合物を提供することを目的とする
【解決手段】
上記課題の解決のため、本発明は、シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来し、アルコールに溶解性があり、かつ脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性であって、抗糸状菌活性を有することを特徴とする、化合物を提供する。
【選択図】図6
本発明は、植物由来でかつすぐれた抗糸状菌活性を有する化合物を提供することを目的とする
【解決手段】
上記課題の解決のため、本発明は、シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来し、アルコールに溶解性があり、かつ脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性であって、抗糸状菌活性を有することを特徴とする、化合物を提供する。
【選択図】図6
Description
本発明は、ネギ属植物の一種シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来する抗糸状菌化合物に関し、より詳しくは、シャロット植物体内で生産され、アルコールに溶解性があり、脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性で、抗糸状菌活性を有する化合物に関する。
本明細書及び特許請求の範囲において、シャロットとは、Allium属植物のうち、以下の特徴、すなわち染色体の基本数が8で、管状の葉身部を持ち、鱗茎が発達し、垂直方向に短い茎を有するもの(Subgenus Cepa)であって、花色は緑色がかった白色で、葉は出始めのうち扁平または半円筒状で主に4−9枚、広がりのある花被片を持ち、花被片の中肋に沿って緑色を呈する繊維が走り、蜜分泌腺はポケット状で、花茎の下半分には風船状の膨らみを有する(Cepa alliance)という特徴を持ち、かつ分球性を示す(aggregatum group)ネギ属植物をいう(非特許文献1)。
カビやキノコなど、菌糸によりその構造が成り立っている生物群は糸状菌と呼ばれ、土壌中や水中などに広く分布する生物として知られている。糸状菌には抗生物質を生産するものや麹として利用されるものなど、有用な種類もあるが、農業分野においては灰色カビ病、青カビ病、うどんこ病など、植物病害の原因生物として知られており、作物生産における驚異となっていた。これに対抗すべく、抗糸状菌活性を示す種々の化合物が開発され、農薬等として用いられてきているが、近年の食の安全、安心への意識の高まりから、植物など生物由来のものが注目されるようになってきた。そうした化合物や抗菌剤の例として、モッコク由来サポニン(特許文献1)、トリコデルマ属糸状菌を用いた殺菌剤(特許文献2)、渓流中の落ち葉などに生息するトリクラジウム属水生糸状菌に由来する化合物(特許文献3)、リンゴ由来ポリフェノール(特許文献4)、エンテロコッカス属微生物が産生する抗真菌剤(特許文献5)、ラブドシア抽出油を含む抗真菌剤(特許文献6)、ペニシリウム属糸状菌が産生する抗真菌化合物(特許文献7)、植物カルス細胞に糸状菌を接種することで生産される化合物(特許文献8)などが報告されているが、なかなか実用化には結びついていないのが現状であった。
高等植物のうちネギ属植物はフラボノイドや機能性の多糖類など有用成分を多く含んでいることが知られる植物種であり、特に独特の臭いの正体である硫化アリルには殺菌効果があることが知られている。ネギ属植物の持つ殺菌効果を利用する発明として、ニンニク、ラッキョウ、ネギ、タマネギ等のユリ科植物から抽出したエキス、好ましくはこれらの植物体の絞り汁、水抽出液、水蒸気蒸留による香気成分、液化炭酸ガスによる抽出物を含有し細菌やカビの胞子を殺菌する胞子殺菌剤(特許文献9)、タマネギの揮発成分、好ましくはタマネギの破砕物を水戻しして得られる揮発成分を有効成分とする抗菌剤(特許文献10)などが開示されている。しかしながら、これらの発明の多くは植物病原菌に対する活性を持つ化合物という観点ではなく、植物病原菌、特に植物病害の原因となる糸状菌に対して効果を有するネギ属由来の物質については、これまでに報告がなかった。食用のネギ属植物に由来し、安全性の高い新規な抗糸状菌活性を有する化合物が望まれていた。
特開2008−013520 新規サポニン及びその製造方法、並びに抗真菌剤、皮膚化粧料及び飲食品
特開2005−029477 農園芸用殺菌剤組成物
特開2005−218320 新規抗真菌物質FA424A(N)、FA424A(O)、FA424B、及びFA424D
特開2005−330274 植物糸状菌病防除剤、植物糸状菌病の防除方法および肥料
特開2003−306437 抗真菌剤及びその製造方法
特開2001−278803 広域スペクトルの皮膚糸状菌症に対して活性な新規抗真菌性粗生物
特開平9−031087 新規抗生物質p1151
特開平6−245778 抗菌・抗カビ・動物細胞増殖阻害剤の製造方法
特開平6−016514 胞子殺菌剤
特開2007−267639 タマネギの揮発成分及び/又はLF(催涙成分)を有効成分とする抗菌剤及びその利用方法
Fritsch R.M.&Friesen N.2002.Evolution,Domestication and taxonomy.in:Allium Crop Science:Recent Advances.5−30.CAB International.
Ito S.−i et al.2007.FEBS Letters 581:3217−3222.
Hoagland&Amon.Calif.1950.Univ.Agr.Expt.Sta.Circ.,347:1.
Ebrahimzadeh H.&Niknam V.1998.Indian Drugs 35(6):379−381.
上記の現状に鑑み、本発明は、ネギ属植物由来でかつすぐれた抗糸状菌活性を有する化合物を提供することを目的とする。
上記課題の解決のため、本発明者らは、植物病原菌の病理機構の解析と植物自身が持つ抗菌、抗糸状菌物質の探索を行い、これまでにトマト由来のサポニンの一種トマチンなどについてその抗糸状菌活性等を明らかにしてきた(非特許文献2)。本発明者らはさらに、産業上利用可能な植物由来の抗糸状菌物質の探索を進め、その中で、熱帯地域原産のネギ属植物の一種で病害に強いシャロット(Allium cepa aggregatum group)に着目するに至った。本発明者らは、ネギ属植物へのフザリウム属糸状菌の感染実験から、特にシャロットがフザリウムの感染に強い特異的な抵抗性を有することを見いだし、更にシャロットの根の抽出物に抗糸状菌活性があること、シャロットの根組織と球根部に強い抗糸状菌活性を有する物質が含まれているという事実を見いだし、これを精製することに成功して、本発明を完成させた。
すなわち本発明の第1の態様は、シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来し、アルコールに溶解性があり、かつ脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性であって、抗糸状菌活性を有することを特徴とする、化合物を提供する。
本発明の第2の態様は、アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールのうち少なくとも1種類である、第1の態様に記載の化合物を提供する。
本発明の第3の態様は、脂肪族炭化水素溶媒がヘキサンである、第2の態様に記載の化合物を提供する。
本発明の第4の態様は、糸状菌がフザリウム属糸状菌である、第1から第3の態様のうちいずれか1つに記載の化合物を提供する。
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の化合物を有効成分とする、抗糸状菌剤を提供する。
本発明を実施することにより、植物由来の天然性抗糸状菌剤等の製造が可能となる。また本発明は、シャロットというこれまでわが国では利用の進んでこなかったネギ属植物種について、抗糸状菌作用を有する有用化合物の原料という新たな用途を加えるものである。
以下に本発明を実施するための最良の形態を示す。本発明の第1の態様は、シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来し、脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性であり、かつアルコールに溶解性であって、抗糸状菌活性を有することを特徴とする、化合物である。シャロットは上記に記載の形態的特徴を有する分球性のタマネギの一種であり、その栽培品種の別などが本発明を限定するものではない。また上記化合物はシャロットの植物体から抽出されるものであるが、下記実施例に示すとおり、根を含む球根部より抽出するのが好ましい。
上記のアルコールについては、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールのうち少なくとも1種類であり、好ましくはメタノールとエタノール、メタノールとプロパノール、メタノールとブタノールの組み合わせが適しており、より好ましくはメタノールとブタノールが適している。
また上記の脂肪族炭化水素溶媒とは、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒であり、水溶性が低いという性質(水溶成分を溶かしにくい性質)を有していれば良く、その炭素数、光学異性などが本発明を限定するものではないが、好ましくはアルカン、より好ましくは炭素数が6のアルカンすなわちヘキサンが適している。
上記性質を併せ持つ化合物は、その化学的性質からシャロットに含まれる未知のサポニンを含むことが考えられる。サポニンは植物が産生するステロイドやトリテルペンの配糖体で、水に溶け発泡作用(界面活性作用)を示す物質を指す。多くの植物から単離精製されているが、その機能はサポニンの種類により様々であり、ある種のサポニンの存在が必ずしも他のサポニンの存在やその機能を予測させるものではない。
上記のアルコールについては、メタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールのうち少なくとも1種類であり、好ましくはメタノールとエタノール、メタノールとプロパノール、メタノールとブタノールの組み合わせが適しており、より好ましくはメタノールとブタノールが適している。
また上記の脂肪族炭化水素溶媒とは、脂肪族炭化水素を主成分とする溶媒であり、水溶性が低いという性質(水溶成分を溶かしにくい性質)を有していれば良く、その炭素数、光学異性などが本発明を限定するものではないが、好ましくはアルカン、より好ましくは炭素数が6のアルカンすなわちヘキサンが適している。
上記性質を併せ持つ化合物は、その化学的性質からシャロットに含まれる未知のサポニンを含むことが考えられる。サポニンは植物が産生するステロイドやトリテルペンの配糖体で、水に溶け発泡作用(界面活性作用)を示す物質を指す。多くの植物から単離精製されているが、その機能はサポニンの種類により様々であり、ある種のサポニンの存在が必ずしも他のサポニンの存在やその機能を予測させるものではない。
本発明の提供する化合物は、抗糸状菌剤として用いた場合、糸状菌に対してすぐれた抗活性を示すが、ここでいう糸状菌はカビやキノコの仲間であって、作物など有用植物に対して病原性を示すものであり、好ましくは分生子を形成する不完全菌、より好ましくはフザリウム属不完全菌、更に好ましくはFusarium(以下F.とも略す) oxysporum、F.pseudograminearum、F.solani、F.graminearum、F.cortaderiae、F.asiaticum、F.austroamericanum、F.meridionale、F.mesoamericanum、F.boothii、F.acaciae−mearnsii、F.poae、F.nygamai、F.proliferatum、F.sacchari、F.subglutinans、F.lichenicola、F.heterosporum、F.guttiforme、F.sporotrichioides、F.culmorum、F.cerealis、F.lunulosporum、F.venenatum、F.equiseti、F.nisikadoi、より選ばれるフザリウム属不完全菌が好適であり、下記実施例に示す通りF.oxysporumに対しては非常に強い効果を示すため好適である。
本発明はまた、シャロット植物体からの抗糸状菌活性成分の抽出・精製方法も含むものである。下記実施例に示すとおり、
(1):植物体の破砕または磨砕
(2):工程(1)で得られた破砕物に、脂肪族炭化水素溶媒、好ましくはヘキサンを加え、同溶媒に溶解性を有する物質を除去
(3):工程(2)で脂溶性物質を除去した後、残留物にアルコール溶媒A、好ましくはメタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を抽出
(4):工程(3)で得られた抽出物から乾燥等によりアルコール溶媒を除き、残留物を水に溶解し、ここにアルコール溶媒B、好ましくはブタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を水溶液から逆抽出。
(5):吸引乾燥等によりアルコール溶媒を除去し、目的とする化合物を得る
の各工程を行うことにより、シャロット植物体から目的の化合物を抽出・精製することが可能である。上記工程において、アルコール溶媒Aとアルコール溶媒Bは同じでも良いし、異なるものを組み合わせても良い。
(1):植物体の破砕または磨砕
(2):工程(1)で得られた破砕物に、脂肪族炭化水素溶媒、好ましくはヘキサンを加え、同溶媒に溶解性を有する物質を除去
(3):工程(2)で脂溶性物質を除去した後、残留物にアルコール溶媒A、好ましくはメタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を抽出
(4):工程(3)で得られた抽出物から乾燥等によりアルコール溶媒を除き、残留物を水に溶解し、ここにアルコール溶媒B、好ましくはブタノールを加えて、同溶媒に溶解性の物質を水溶液から逆抽出。
(5):吸引乾燥等によりアルコール溶媒を除去し、目的とする化合物を得る
の各工程を行うことにより、シャロット植物体から目的の化合物を抽出・精製することが可能である。上記工程において、アルコール溶媒Aとアルコール溶媒Bは同じでも良いし、異なるものを組み合わせても良い。
さらに本発明は、上記化合物を含み抗糸状菌効果を有する殺生物剤もまた含むものである。本発明の提供する化合物は吸引乾燥などで粉末状にすることができ、またこの粉末は水やジメチルスルホキシド(DMSO)によく溶けるため、これを含んだ殺生物剤の態様としても利用可能である。化合物の量としては、下記実施例に示すとおり、10μg/ml〜100μg/mlの範囲内、好ましくは20μg/ml〜30μg/mlの範囲内で含まれていれば、糸状菌、好ましくはフザリウム属糸状菌の感染に対して良好な結果が得られると期待される。上記殺生物剤は本発明の化合物を単独で含んでいても良いし、他の化合物と組み合わせても良い。また下記実施例に示すとおり、本発明の提供する化合物を有効成分とする抗糸状菌剤を、作物に対して対症的にまたは予防的に用いることも可能である。以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例にのみ限定されるものではない。
(材料)植物材料として、シャロット(Allium cepa aggregatum group)タイ株を用いた。またシャロット抽出物の効果検証実験に供するために、ネギ(A.fistulosum)Y14株を用いた。
(シャロットのフザリウム属糸状菌に対する抵抗性の検証)ネギ及びシャロット水耕栽培系を用い、両植物のフザリウム属糸状菌に対する抵抗性を検証した。20−30cm長に成長したネギ及びシャロットの球根部分を次亜塩素酸ナトリウム溶液(1%)で洗い、次いで80%エタノールで洗い、最後に蒸留水でリンスして表面を滅菌した。滅菌した球根を予め滅菌した広口試験管内の水耕栽培用円形ペレット(ハイドロボール;ダイソー社製)の上部に置き、10mlの2倍希釈Hoagland水耕栽培溶液(非特許文献3)を加えた。試験管を28℃、16時間明期/8時間暗期の光条件下で栽培し、1週間に2回程度の割合で水耕栽培溶液を加え、10mlのレベルを保つようにした。20日後、病原性糸状菌として、タマネギ乾腐病の原因菌であるF.oxysporum(以下FOとも略す)21株を用い、感染実験を行った。同株由来の胞子(1x107 個)を1mlの蒸留水に懸濁したものを水耕栽培溶液に加え、対照としては1mlの蒸留水のみを添加したものを用意した。FO添加後も上記と同様の条件下で栽培を継続し、1,3,8,16,28日後にシャロットを収穫して植物体の状態及びFOの生育状況などを検証した。FOの生育状況はトリパンブルー染色の後に光学顕微鏡観察を行うことで検証した。
図1に、シャロット水耕栽培試験の結果を示す。aが対照を、bがFO添加のそれぞれの(〜28日後)の様子であり、FOを添加したシャロットも対照と同様によく成長していることを示している。図2は栽培終了時における対照とFO添加の植物体をその根に着目して比較したものであり、左側Cが対照を、右側TがFOを添加したものをそれぞれ示している。図から明らかな通り、FOの添加によってもシャロットの成長に影響は見られず、シャロットがFOに対して高い抵抗性を有していることが示された。
図3は、FO添加後のネギ及びシャロットの根組織を光学顕微鏡(オリンパスBH−2)で観察したものであり、A−Dはシャロットのサンプル、E,Fはネギのサンプルである。図が示すとおり、シャロット根組織においてはFOの増殖が少なく、FOが発芽してもその菌糸が表面のみにとどまっており(A,C,D)、発芽していないもの(B)も観察された。一方、ネギでは根表面での増殖が顕著であり(E、F)、FOの組織内への侵入も観察された(E)。この結果から、ネギ属植物の中でも特にシャロットが、FOに対して強い抵抗性を持つことが示された。
図3は、FO添加後のネギ及びシャロットの根組織を光学顕微鏡(オリンパスBH−2)で観察したものであり、A−Dはシャロットのサンプル、E,Fはネギのサンプルである。図が示すとおり、シャロット根組織においてはFOの増殖が少なく、FOが発芽してもその菌糸が表面のみにとどまっており(A,C,D)、発芽していないもの(B)も観察された。一方、ネギでは根表面での増殖が顕著であり(E、F)、FOの組織内への侵入も観察された(E)。この結果から、ネギ属植物の中でも特にシャロットが、FOに対して強い抵抗性を持つことが示された。
(シャロット根組織からの浸出物のFOに対する効果)シャロットにFOに対する高い抵抗性が見いだされたため、その抵抗性に寄与する物質の特定を試みた。植物体からの成分の抽出は以下の手順で行った。
植物体のすり潰し→n−ヘキサンによる非極性画分の抽出→ヘキサン添加後の残留物にメタノールを加え抽出→抽出物を乾燥し蒸留水に懸濁させ、水−ブタノールで分画→ブタノール画分、水溶性画分を得る
この手順により非極性画分、ブタノール画分、水溶性画分(極性画分)の3種類を得た。ただし根組織からの浸出成分についてはn−ヘキサンによる抽出を省略している。
シャロットがFOの根からの感染を阻害したため、根組織の浸出物にFOに対する抵抗性を担う物質が含まれていることが考えられた。この可能性を検証するため、水耕栽培終了後の培養液を回収し、一部は凍結乾燥させて水溶性画分を得、一部はブタノールによる抽出を行ってブタノール画分を得た。他の植物での研究から、ブタノール画分には抗菌・抗真菌活性があるサポニン(Saponin)が含まれていることが予測され、ブタノール画分を仮に「サポニン様物質画分」としてこの画分の機能を中心に検討した。以後この画分に含まれる化合物を、サポニン様物質ともいう。
植物体のすり潰し→n−ヘキサンによる非極性画分の抽出→ヘキサン添加後の残留物にメタノールを加え抽出→抽出物を乾燥し蒸留水に懸濁させ、水−ブタノールで分画→ブタノール画分、水溶性画分を得る
この手順により非極性画分、ブタノール画分、水溶性画分(極性画分)の3種類を得た。ただし根組織からの浸出成分についてはn−ヘキサンによる抽出を省略している。
シャロットがFOの根からの感染を阻害したため、根組織の浸出物にFOに対する抵抗性を担う物質が含まれていることが考えられた。この可能性を検証するため、水耕栽培終了後の培養液を回収し、一部は凍結乾燥させて水溶性画分を得、一部はブタノールによる抽出を行ってブタノール画分を得た。他の植物での研究から、ブタノール画分には抗菌・抗真菌活性があるサポニン(Saponin)が含まれていることが予測され、ブタノール画分を仮に「サポニン様物質画分」としてこの画分の機能を中心に検討した。以後この画分に含まれる化合物を、サポニン様物質ともいう。
それぞれの画分に含まれる成分を明らかにするため、薄層クロマトグラフィー(TLC)による分析、及び分光光度分析(非特許文献4)を行った。クロマトグラフィーの概要は以下の通りである:対象とする画分のDMSO溶解液をTLC板上にスポットして乾燥させ、クロロホルム:メタノール:水=6:3:1の展開溶液を用いて展開させた。展開後のTLC板にEhrlich試薬またはp−アニスアルデヒド試薬を加え、100℃で10分間加熱して対象画分に含まれる化合物を検出した。
図4に、FO処理したシャロットと対照のシャロットの根組織浸出物のブタノール画分のクロマトグラフィーの結果を示す。各レーンは以下のサンプルを流したものである:レーン1、菌接種培溶液(接種直後);2、菌接種培溶液(28日後);3、非接種対照区(1日);4、接種区(1日);5、非接種対照区(3日);6、接種区(3日);7、非接種対照区(8日);8、接種区(8日);9、非接種対照区(16日);10、接種区(16日);11、非接種対照区(28日);12、非接種対照区(28日);13、シャロット根組織抽出物。
この結果から、根組織浸出物中に含まれるサポニン様物質は、FO処理後に時間とともに増加しており、この化合物がFOの感染に対する防御機構として働いていることが示唆された。
また図5に、FO処理したシャロットと対照のシャロットの根組織浸出物由来のサポニン様物質の分光光度分析の結果を示す。グラフ横軸「Control」は対照を、「FO treat」はFO処理を示し、1d、3d・・・はそれぞれ処理後の経過日数を示す。またグラフ縦軸はブタノール画分に含まれるサポニン様物質量(μg/10ml)を表す。グラフ中の矢印(↓)で示す通り、FO処理後3日後にサポニン様物質量は対照の5−6倍のレベルを示し、このレベルでシャロットがFOへの抵抗性を有していることから、本発明の化合物は20μg/ml(200μg/10ml)〜30μg/ml(300μg/10ml)の範囲内の濃度であれば十分な効果を有することが示された。
図4に、FO処理したシャロットと対照のシャロットの根組織浸出物のブタノール画分のクロマトグラフィーの結果を示す。各レーンは以下のサンプルを流したものである:レーン1、菌接種培溶液(接種直後);2、菌接種培溶液(28日後);3、非接種対照区(1日);4、接種区(1日);5、非接種対照区(3日);6、接種区(3日);7、非接種対照区(8日);8、接種区(8日);9、非接種対照区(16日);10、接種区(16日);11、非接種対照区(28日);12、非接種対照区(28日);13、シャロット根組織抽出物。
この結果から、根組織浸出物中に含まれるサポニン様物質は、FO処理後に時間とともに増加しており、この化合物がFOの感染に対する防御機構として働いていることが示唆された。
また図5に、FO処理したシャロットと対照のシャロットの根組織浸出物由来のサポニン様物質の分光光度分析の結果を示す。グラフ横軸「Control」は対照を、「FO treat」はFO処理を示し、1d、3d・・・はそれぞれ処理後の経過日数を示す。またグラフ縦軸はブタノール画分に含まれるサポニン様物質量(μg/10ml)を表す。グラフ中の矢印(↓)で示す通り、FO処理後3日後にサポニン様物質量は対照の5−6倍のレベルを示し、このレベルでシャロットがFOへの抵抗性を有していることから、本発明の化合物は20μg/ml(200μg/10ml)〜30μg/ml(300μg/10ml)の範囲内の濃度であれば十分な効果を有することが示された。
(シャロット根組織浸出物のネギに対する効果)シャロット根組織浸出物中にサポニンと考えられる化合物が含まれていたことから、この化合物の植物病害に対する抗活性を検証した。材料としてネギ(A.fistulosum)及びネギに感染性のあるFO22株を用い、以下の検討を行った:
ネギ種子の表面を予め滅菌(方法)し、感染区として一部をFO22株の胞子が含まれる懸濁液(106個/ml)に2時間浸し、残りを対照とした。感染区、対照のそれぞれの種子をプラスチックトレイ中の土に蒔いた(1セルあたり5〜8個、3反復)。感染区については更に2つに分割し、一方には1mlのシャロット根組織浸出物の凍結乾燥物を蒸留水で溶かしたもの(サポニン様物質;50μg/ml)を滴下し感染−サポニン区とし、もう一方には1mlの蒸留水を加えた。播種後、トレイを30℃、16時間明期/8時間暗記の光条件下においてネギを栽培し、2日後〜60日後にそれぞれの条件における生き残りや生育状況を調べた。
ネギ種子の表面を予め滅菌(方法)し、感染区として一部をFO22株の胞子が含まれる懸濁液(106個/ml)に2時間浸し、残りを対照とした。感染区、対照のそれぞれの種子をプラスチックトレイ中の土に蒔いた(1セルあたり5〜8個、3反復)。感染区については更に2つに分割し、一方には1mlのシャロット根組織浸出物の凍結乾燥物を蒸留水で溶かしたもの(サポニン様物質;50μg/ml)を滴下し感染−サポニン区とし、もう一方には1mlの蒸留水を加えた。播種後、トレイを30℃、16時間明期/8時間暗記の光条件下においてネギを栽培し、2日後〜60日後にそれぞれの条件における生き残りや生育状況を調べた。
下記表1に、対照区、感染区、感染−サポニン区の種子の生存状況を、%で示した。ここで生存は対象区と同様の外観を、死亡は地上部の乾燥・消失を指標とした。対照区では8日後までは100%が生存し、18日後には84.4%が、60日後には79.5%が生存していた。一方感染区では、2日後に既に13%が死亡し、その後も死亡個体数が増えて、60日後にはわずかに4.2%しか生存していなかった。これに対して、FO処理後にサポニン様物質で処理をしたものについては、18日後でも対照区とほぼ同じ84.1%が生存しており、60日後でも68.3%が生存していた。これによりシャロット根組織浸出物がFOの感染とそれに起因する実生の生育障害にきわめて高い効果を有することが示された。
図6は、上記の試験の60日後における実生の生育状況を示すものである。図中対照区、感染区、感染−サポニン区は上記の条件と一致しており、FO感染区の生育が著しく悪い一方で、FOを感染させてもシャロット根組織浸出物を添加することで、対照区にも劣らない生育を示すという効果が明らかとなった。
図6は、上記の試験の60日後における実生の生育状況を示すものである。図中対照区、感染区、感染−サポニン区は上記の条件と一致しており、FO感染区の生育が著しく悪い一方で、FOを感染させてもシャロット根組織浸出物を添加することで、対照区にも劣らない生育を示すという効果が明らかとなった。
(シャロット球根部からのサポニン様物質の抽出)シャロット根組織からの浸出物に有用なサポニン様物質が含まれていたことから、スケールアップのためシャロット植物体からのサポニン様物質の抽出を検討した。湿重量20gのシャロット球根部を液体窒素中ですり潰し、粉状にしたものに100mlのn−ヘキサン(3×)を加え、十分に撹拌した後にヘキサン画分を吸引乾燥にて濃縮して、非極性の代謝物(脂肪画分)を得た。残留物(シャロット球根部の脱脂物)に、100mlの70%メタノール(3×)を加え、これをろ過してメタノール画分を得た。ろ過物を吸引乾燥し、100mlの蒸留水に懸濁させ、懸濁物を水と100mlのn−ブタノールの間で分画した。このうちブタノール画分を分液漏斗で更に分画し、この操作を3回くり返した。こうして得られたブタノール画分を吸引乾燥し、3回分を合わせてサポニン様物質画分(S)とした。水画分については凍結乾燥を行い、極性代謝物を含む水溶性画分(P)を得た。
(抗糸状菌活性の検討−寒天培地上)上記方法にて得られた脂肪画分、サポニン様物質画分、水溶性画分のそれぞれについて、ジメチルスルホキシド(DMSO)に懸濁し、100μg相当量を直径0.6cmの円形ろ紙にしみ込ませた。糸状菌としては植物病原性糸状菌として知られるF.oxysporumに着目し、宿主(感染する植物)が異なる36種類の株を用いた。PDA寒天培地(potato extract 4g/l、Dextrose 20g/l、agar 15g/l、pH 5.5)を含むペトリ皿中において、FOの各株を25℃で終夜培養し、胞子形成させた。この状態で各画分をしみ込ませた上記円形ろ紙及び対照として蒸留水をしみ込ませた円形ろ紙を生育したカビの上に置き、カビの生育阻害効果を検討した。効果はろ紙を置いてから1日後〜4日後まで観察した。
(抗糸状菌活性の検討−液体培地中)FO株の胞子を1mlの液体培地に懸濁させ、1晩培養した後、DMSOで溶解したサポニン様物質画分を100μgまたは200μg加えてその生育に対する影響を検討した。対照としては20μlのDMSOを加えたものを用いた。添加後1時間後、6時間における抗糸状菌活性の指標としてEvans blueによる染色を行い、光学顕微鏡を用いて生細胞、死細胞を観察した。これはEvans blueにより死細胞が青色に染色されるという性質を利用したものである。
更に別に調整した上記のセット(100,200,対照)を12時間培養して培養液を観察した。正常なFOは赤色色素を生産するため培養液は濃い赤色を呈する。一方死細胞は赤色色素を生産しないため、培養液の赤色の度合いが生細胞と死細胞の割合を示す指標となる。
更に別に調整した上記のセット(100,200,対照)を12時間培養して培養液を観察した。正常なFOは赤色色素を生産するため培養液は濃い赤色を呈する。一方死細胞は赤色色素を生産しないため、培養液の赤色の度合いが生細胞と死細胞の割合を示す指標となる。
図7に、寒天培地での検討結果の一例を示す。図中Aは非極性画分を、Pは水溶性画分を、Sはサポニン様物質画分を、Cは対照の円形ろ紙をそれぞれ表している。図中囲みで示す通り、Sのサポニン様物質画分において明瞭な抗糸状菌効果(糸状菌の気中菌糸及び胞子形成抑制効果)が観察され、この画分に抗糸状菌活性を有する化合物が含まれることが示された。Aの非極性画分にもSとは抑制の形態は異なるものの抗糸状菌効果(生育抑制効果)が観察され、シャロットにはサポニン様物質以外の抗糸状菌物質が含まれることも示された。水溶性画分、対照では抗糸状菌活性は観察されなかった。
図8に、液体培地での検討(Evans blue染色)の結果の一例を示す。図中A,Bは対照、C,Dはサポニン様物質100μgを加えたもの、E,Fはサポニン様物質200μgを加えたものをそれぞれ表し、左側の列は添加後1時間、右側の列は添加後6時間後の培養液からのサンプルをそれぞれ表している。対照では6時間後でも青色に染色される死細胞が観察されないのに対して、サポニン様物質を添加した系では図中矢印で示す死細胞が6時間後に観察され、200μgでは特にその割合が高かった。この結果から、添加したサポニン様物質が濃度依存的にFOに対して抗活性を示すことが明らかとなった。
図9に、液体培地での検討(赤色色素生産能)の結果の一例を示す。図は試験管中の培養液の外観を示すものであり、左から対照、100μg、200μgの結果である。対照が濃い赤色を呈するのに対して、サポニン様物質添加の培養液では淡い色調を示し、このことはEvans blue染色での検討と同様、サポニン様物質の添加により生細胞の活性が低下したことを表している。また下記表2に、シャロット由来の上記3画分のFOに対する効果(寒天培地での検討の結果)をまとめて示す。表中Aは非極性画分を、Sはサポニン様物質画分を、Pは極性画分を表し、−、+、++、および+++は対照区と比較したときの抗糸状菌効果(気中菌糸、胞子形成抑制、および生育抑制)の強さを表している。表2で示すとおり、本発明の提供するサポニン様物質は複数のFOの株に対して強い抗活性を有しており、この化合物が多くの植物病害の原因となる糸状菌に対して有効であることを示している。
図9に、液体培地での検討(赤色色素生産能)の結果の一例を示す。図は試験管中の培養液の外観を示すものであり、左から対照、100μg、200μgの結果である。対照が濃い赤色を呈するのに対して、サポニン様物質添加の培養液では淡い色調を示し、このことはEvans blue染色での検討と同様、サポニン様物質の添加により生細胞の活性が低下したことを表している。また下記表2に、シャロット由来の上記3画分のFOに対する効果(寒天培地での検討の結果)をまとめて示す。表中Aは非極性画分を、Sはサポニン様物質画分を、Pは極性画分を表し、−、+、++、および+++は対照区と比較したときの抗糸状菌効果(気中菌糸、胞子形成抑制、および生育抑制)の強さを表している。表2で示すとおり、本発明の提供するサポニン様物質は複数のFOの株に対して強い抗活性を有しており、この化合物が多くの植物病害の原因となる糸状菌に対して有効であることを示している。
本発明の提供する化合物(サポニン様物質)を利用することにより、食用の植物に由来する安全な抗糸状菌剤を製造することが可能となる。前記化合物はその効果において広いレンジをもっており、種々の作物に適用可能な汎用的な抗糸状菌剤の開発を可能とするものである。
Claims (5)
- シャロット(Allium cepa aggregatum group)に由来し、アルコールに溶解性があり、かつ脂肪族炭化水素溶媒に非溶解性であって、抗糸状菌活性を有することを特徴とする、化合物。
- アルコールがメタノール、エタノール、プロパノール及びブタノールのうち少なくとも1種類である、請求項1に記載の化合物。
- 脂肪族炭化水素溶媒がヘキサンである、請求項2に記載の化合物。
- 糸状菌がフザリウム属糸状菌である、請求項1から請求項3のうちいずれか1項に記載の化合物。
- 請求項4に記載の化合物を有効成分とする、抗糸状菌剤
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2008
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