JP2011502247A - 試料中の選択された種類の分子を検出するための方法 - Google Patents

試料中の選択された種類の分子を検出するための方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、マイクロカンチレバー装置の使用を基にした、試料中の分子および/または物質を検出するための方法に関する。本方法は、標的分子が検出器に結合する際、分析される機械的特性値が特徴的なパターンで変化するよう、湿度などのある特定の条件を変化させる工程を含む。本発明は、このような方法を行うために用いられる装置にも関連している。

Description

本発明は、マイクロまたはナノメカニカル構造体、例えば、マイクロまたはナノカンチレバー、マイクロまたはナノブリッジ、マイクロまたはナノメンブラン等を用いた、化学的および/または生物学的分析および検出の分野に関する。
マイクロメカニカルおよびナノメカニカル要素(element)を用いた装置および方法に関心が集まっている(H.G. Craighead, "Nanoelectromechanical systems", Science 290, pp. 1532-1535 (2000) および M. Li, H. X. Tang, M. L. Roukes, "Ultra-sensitive NEMS-based cantilevers for sensing, scanned probe and very high-frequency applications", Nature Nanotechnology 2, pp. 114-120 (2007))。このような種類の装置に関連した2つの例が、マイクロおよびナノメカニカル装置(MMS)と、マイクロカンチレバーを用いたデバイスである。
例えば、マイクロカンチレバーは、超高感度ナノメカニカル生物および化学センサに使用できる(B. Ilic. D. Czaplewski, H. G. Craighead, P. Neuzil, C. Campagnolo and C. Batt, "Mechanical resonant immunospecific biological detector", Applied Physics Letters 77, pp. 450-452 (2000))。形状、輪郭、動き、応力、および/またはひずみのリアルタイム測定は、例えば、MMSあるいはミクロまたはナノカンチレバーの形状、輪郭、動き、応力、またはひずみを利用した化学および生物センサの機械的応答の観測において非常に重要である。
MMSおよびマイクロカンチレバー装置としては、固定端と可動端とを備えたカンチレバーを利用した装置が挙げられる。通常、このような装置で検出されるのは“自由”端の変位および/または動きである。しかし、両端を固定し、中央部の動きを検出できるようにしたカンチレバーを用いる装置もある。更に、2カ所を止めたパドルであって、その動き“易い”向きが、パドルをフレームに止めているヒンジの軸に対し、パドルをねじる方向であるような(基本的に、軸に沿って延びた、ラケットの向かい合う2つのハンドルでフレームに固定した四角いラケットのように)、可動性でフレキシブルなマイクロおよびナノメカニカル構造体もある。2つの角度の自由度が得られるよう、2組のヒンジでフレームに止めたメンブランを利用した装置も知られている。
MMSおよびマイクロカンチレバーを用いた化学/生物センサにおいて、マイクロまたはナノメカニカル要素の表面は、標的物質を選択的に認識するレセプタまたは“プローブ”分子で感作(sensitised)されている。マイクロまたはナノメカニカル要素表面で固定化プローブと標的物質とが相互作用すると、機械的要素の形状、輪郭、ひずみ、応力、および動き(振動)に変化が生じる。一般にこの変化は、機械的要素の代表部分の変位を測定することで観測する(一般に、一方を固定したマイクロカンチレバーの自由端であるが、両端を固定したマイクロカンチレバーの中央部や、メンブランシートの一部などでも良い)。使用法によっては、この変位を、約1〜100ナノメートル(nm)程度にできるが、多くの場合、1nm以上の分解能を得る必要がある。変位の読み取りには、容量検出、トンネル電流を用いた検出、光干渉法、ピエゾ抵抗読み取り、光ビーム偏向法など、多くの手法がある。
MMSおよびマイクロカンチレバー装置の例は、例えば、次の文献に開示されている。
Engel et al, "Atomic force microscopy: a powerful tool to observe biomolecules at work", Trends in Cell Biology, Volume 9, pp. 77-80 (1999)
P. Vettiger et al, "The millipede-more than one thousand tips for future AFM storage", IBM J. Res. Develop., Volume 44, Number 3, pp. 323-339 (2000)
国際公開第2001/33226号
国際公開第2003/091458号
国際公開第2005/086172号
国際公開第2007/006834号
光ビーム偏向法は、最も感度の高いものと考えられ、容易に実施できるという長所がある。図1は、光ビーム偏向のための一般的な先行技術の構造を概略的に示したものである。光源(レーザ源など)は、その変位を測定すべき機械的要素の一部、例えば、マイクロメカニカルデバイスの一部を成すマイクロカンチレバーの端に収束(つまり、直接的に収束、または、例えば、1つ以上の鏡などを含む収束手段で収束)される光線(可視、紫外、または赤外スペクトルのレーザ光線など)を発生する。カンチレバーで反射されたビームの偏向を、位置敏感型検出器(光検出器、例えば、セグメント化光検出器、連続式位置敏感型光検出器、光検出器アレイ、CCDなど)で測定する。例えば、2つのセグメントに分かれたセグメント化光検出器が使用できる。カンチレバーの偏向は、光検出器上に反射されるレーザスポットに変位を生じる。このように、2つのセグメント間の光電流の差は、カンチレバーの偏向に比例する。同様に、この光ビーム偏向法は、2カ所を固定したカンチレバー、メンブランシート、マイクロパドルなど、別の種類の機械的要素にも応用できる。同様に、面外変位に代わる別の種類の変位、例えば、マイクロカンチレバーおよびマイクロパドルのねじれ運動などの読み取りに、これを用いても良い(G. Meyer and N.M. Amer, "Simultaneous measurement of lateral and normal forces with an optical-beam-deflection atomic force microscope", Applied Physics Letters, vol. 57, pp. 2089-2091 (1990))。
この装置は、カンチレバーなどの機械的要素の静的および動的挙動の両方、例えば、最大偏向、偏向の平均値、基準周波数での振幅(要素を、基準周波数で振動する加振力により外部から振動させることができる)、外部駆動信号に対する運動の位相、振動数などの測定に適している。次に、測定した静的変位、振幅、振動数などを、測定され、カンチレバーと相互作用する対象物、また、信号、および/または、対象物および/またはカンチレバーの刺激に用いられる手段と関連づけることができる。
現在のところ、前述の技術は、1つの機械的要素の1つの部分の変位/動きを測定する場合には実用的である。しかしこの技術は、複数の機械的要素を含み、そのそれぞれの要素の変位/動きの測定が必要な、アレイを用いたデバイスには応用できない。そのようなデバイスは、1つの機械的要素を用いたデバイスよりも、多機能で、より高速、および/または、より完全な情報を与えるものである。例えば、マイクロカンチレバーアレイを用いた化学および生物センサは、それぞれのカンチレバーを異なるレセプタで感化することで、多くの物質を検知することができる(R. McKendry R et al., "Multiple label-free biodetection and quantitative DNA-binding assays on a nanomechanical cantilever array", Proceedings of the National Academy Of Sciences of the United States Of America 99, pp. 9783-9788, (2002))。更に、測定される外部刺激について、または、機械的要素の別の部分と相互作用する別の刺激についてより多くの情報を得るため、機械的要素のいくつもの部位の変位に関する情報を得ることも有益である。
前述の国際公開第2005/086172号には、図2に示すような装置が開示されている。この装置は、1次元音声コイルアクチュエータ上に設けられた1つのレーザ光源で、マイクロカンチレバーのアレイを照射しており、入射レーザビームはマイクロカンチレバーの前後軸に対して垂直方向に、アレイを周期的にスキャンするようになっている。こうして、マイクロアレイの各マイクロカンチレバーの自由端を連続的に照射する。アレイのマイクロカンチレバーの表面でレーザビームが反射されると、位置敏感型検出器(カンチレバーで反射されたレーザビームを集めるよう設定されている)の全光電流の増加が検知され、これは検出された光電流のピークに応じて増加する。光電流の増加が検知されたら、反射されたレーザビームが当たった光検出器の対応する点の位置座標を、検出器で発生した光電流信号に基づいて決定する。次に、この座標を用いてカンチレバーの偏向を求めることができる。
一方で、カンチレバーや別の種類の機械的要素の特定部分の変位だけでなく、カンチレバーや同様の要素、またはその一部分の、曲りや一般的形状の全体的な変化の測定が必要になることがある。例えば、マイクロカンチレバーセンサに応用しているような、二層構造(例えば、ケイ素または窒化ケイ素上に金薄膜)を持つカンチレバーの曲がりを利用した技術が知られている。カンチレバーの曲率は、温度の変化や分子吸着による表面応力の違いに応じて変化する。曲率半径の変化を求めるため、金被覆ケイ素カンチレバーの様々な位置に焦点を合わせた8個の発光ダイオードを用いた測定装置が知られている。カンチレバー上の各点での偏向を、光ビーム偏向法を用いた位置敏感型検出器でサブナノメートルの精度で測定して、カンチレバーの曲率を求める。この方法は、Sangmin Jeon, et al., "Instant curvature measurement for microcantilever sensors", Applied Physics Letters, vol. 85, no. 6, pp. 1083-1084 (2004)に開示されている。
測定するものがカンチレバーの特定部分の変位である、または測定するものがカンチレバーの曲率であるようなカンチレバー装置に加え、異なる部位を異なる刺激に対して感化したメンブランシートなどの機械構造体もあり、このような構造体では、機械構造体の各感化部位の変位を測定するため、それぞれの刺激に関する情報を得る必要がある。
前述の国際公開第2007/006834号は、図3に示すような装置を開示している。この装置は、機械構造体の一部を成す、複数の要素内の複数の点の相対変位および/または振動特性を検出するよう設定されており、少なくとも1つの光線を発生するよう設定された光源と、機械構造体で反射された光線を受け、前記光線の受光に応じて少なくとも1つの出力信号を発生するよう設定された位置敏感型検出器と、電子制御系と、電子制御系からの指示に従って、前記光線を機械構造体に対して相対移動させ、前記機械構造体を光線でスキャンするためのスキャン手段とを含んでいる。電子制御系は、スキャン手段を制御し、光線が第1軌道(A)に沿って機械構造体上を移動して、前記第1軌道(A)に沿って複数の二次的な基準位置(C)を検出するよう設定されている。前記電子制御系は、前記位置敏感型検出器と連動して作動し、前記位置敏感型検出器からの少なくとも1つの出力信号の分析の結果として、前記基準位置Cを求める。更に、電子制御系はスキャン手段を制御し、光線が複数の第2軌道(B)に沿って機械構造体上を移動するよう設定されており、前記第2軌道(B)のそれぞれは、前記基準位置(C)の1つと結合している。電子制御系は更に、光線が前記第2軌道(B)のそれぞれに沿って移動する間に、前記位置敏感型検出器から複数の位置信号出力を得るよう設定されている。
この装置を用いて、機械構造体の選択された複数の位置の、またはその構造体の着目部位の変位および動きに関するリアルタイム測定値を得ることができる。これにより、測定対象物に関連して機械構造体がどのように変化するかについてより多くの情報が得られ、これはまた、より高い感度とより高い信号ノイズ比を示しているといえる。例えば、一部のマイクロカンチレバーセンサにおいて、マイクロカンチレバーの曲率は、マイクロカンチレバー表面に吸着した分子に関係している。その曲率を求めるため、マイクロカンチレバーに沿って何カ所かの変位を測定する必要がある。
化学センサまたはバイオセンサの場合、検出に用いられる機械的要素(ナノまたはマイクロカンチレバーなど)は、前述のように、検出される種類(または複数の種類)の分子と相互作用するよう設定された部分を備えており、前記部分と接触した試料中に前記分子が存在すると、その機械的性質、例えば、曲率、表面応力、および/または振動特性などに変化が起き、これを、例えば、前述の方法を用いて検出することができる。
例えば、カンチレバーの主要表面のひとつを、レセプタまたは“プローブ”として働く物質または分子の層で官能化することができる。官能化は、このような物質または分子とカンチレバー表面との化学的または物理的相互作用によって行うことができる。例えば、その末端のひとつがカンチレバー表面と共有結合を形成し、別の端がプローブ分子に対して強い親和性を持つような架橋分子が使用できる。最も広く使われている方法は、カンチレバー表面のシラン化、更に、カンチレバー表面へのプローブ分子の自己組織化単分子層の固定によるものである。レセプタまたはプローブは、他の標的物質または分子との相互作用を調べるために、最終的には、分析試料中の標的物質の濃度を求めるために選ぶことができる。この用途において、レセプタは標的と特異的に結合し、この特異的相互作用はしばしば分子認識と呼ばれる。レセプタまたはプローブ分子の例としては、核酸(DNA、RNA、PNAなど)、タンパク質(抗体、酵素など)、代替生体高分子などが挙げられる。標的分子または物質は、気体状試料または液状試料中に希釈されたものとして検出できる。生物学的標的は多くの場合、水溶液中で検出される(Briones, C. and Martin-Gago, J.A., "Nucleic acids and their analogs as nanomaterials for biosensor development", Current Nanoscience 2, 257-273 (2006))。
例えば、機械的要素は、少なくとも1つのレセプタ表面を備えることができ(例えば、一方の側を、DNA、抗体などの分子レセプタで官能化したカンチレバー)、このレセプタ表面は、表面と接した試料中に少なくとも1種類の分子が存在しているならば、それと相互作用するよう設定されている(例えば、標的分子を含む緩衝液を注入するための吸入および排出路を備えた、微小流体セル内の緩衝液に浸したカンチレバー)。機械的要素は、前記レセプタ表面が前記標的分子と相互作用すると、前記要素の少なくとも1つの検出可能な機械的特性値(要素の一部の曲率、要素の表面部分の位置、および/または、振動特性など)が変化し、次に、測定プロセスを行って、前記機械的特性値が変化したかどうかと、その変化の程度とを求めるよう設定することができる。変化が起きたならば(ある程度まで)、固定化プローブ分子と特異的に相互作用するような種類の分子が試料中に含まれていると推測される。しばしば、機械的特性値の変化を経時的に観測し、つまり、要素を試料と接触させて機械的特性値(カンチレバーの曲率など)を測定し、それが時間内に変化するかどうかを調べる。このような変化が検出されれば、試料中に標的分子が存在すると推測される。
国際公開第2001/033226号パンフレット 国際公開第2003/091458号パンフレット 国際公開第2005/086172号パンフレット 国際公開第2007/006834号パンフレット
H.G. Craighead, "Nanoelectromechanical systems", Science 290, pp. 1532-1535 (2000) M. Li, H. X. Tang, M. L. Roukes, "Ultra-sensitive NEMS-based cantilevers for sensing, scanned probe and very high-frequency applications", Nature Nanotechnology 2, pp. 114-120 (2007) B. Ilic. D. Czaplewski, H. G. Craighead, P. Neuzil, C. Campagnolo and C. Batt, "Mechanical resonant immunospecific biological detector", Applied Physics Letters 77, pp. 450-452 (2000) Engel et al, "Atomic force microscopy: a powerful tool to observe biomolecules at work", Trends in Cell Biology, Volume 9, pp. 77-80 (1999) P. Vettiger et al, "The millipede-more than one thousand tips for future AFM storage", IBM J. Res. Develop., Volume 44, Number 3, pp. 323-339 (2000) G. Meyer and N.M. Amer, "Simultaneous measurement of lateral and normal forces with an optical-beam-deflection atomic force microscope", Applied Physics Letters, vol. 57, pp. 2089-2091 (1990) R. McKendry R et al., "Multiple label-free biodetection and quantitative DNA-binding assays on a nanomechanical cantilever array", Proceedings of the National Academy Of Sciences of the United States Of America 99, pp. 9783-9788, (2002) Sangmin Jeon, et al., "Instant curvature measurement for microcantilever sensors", Applied Physics Letters, vol. 85, no. 6, pp. 1083-1084 (2004) Briones, C. and Martin-Gago, J.A., "Nucleic acids and their analogs as nanomaterials for biosensor development", Current Nanoscience 2, 257-273 (2006)
しかし、現在までに開発された技術には、いくつかの問題点が考えられる。
しばしば、検出される“変化”が、レセプタ表面と標的分子との相互作用によるものでなく、他の要因によって生じる。例えば、標的と機械的要素との非特異的な相互作用、温度の小さな変動、溶液中のイオンのわずかなゆらぎ、流体乱流、屈折率変化、機械的要素の動きを検出する光学素子の位置の時間に伴うゆっくりとした変動などにより、変化が生じることがある。
更に、変化を検出するには、変化が起きている間に必ず変化を検出するよう(変化が起きる前と後の特性値に関するデータを入手しなければならないため)、機械的要素をリアイルタイムで、つまり、基本的に、それが試料と接触した瞬間から観測する必要がある。
更に、変化の大きさ(曲率の変化など)は極めて小さく、このため検出がより困難な課題となることは明らかである。
[定義]
抗体:細菌、ウイルス、寄生虫、または移植器官などの抗原刺激に応答して、血液またはリンパ液中に分泌され、抗原と特異的に結合することでこれを無効化する、B細胞表面のY型タンパク質(免疫グロブリン)。抗体−抗原ペアの形成の検出は、多くの方法で追跡可能であり、これが多くのバイオセンサの基本である。
抗原:抗体の産生または可動化を刺激する物質。異種タンパク質、毒素、細菌、その他の物質が抗原と成り得る。
アプタマ:リガンド分子と特異的に相互作用するよう、in vitroで設計した核酸分子。アプタマ−リガンドペアの特異性は、抗体−抗原ペアの特異性と同程度に高くすることができる。アプタマ−リガンドペアの形成は、多くの方法で追跡可能である。
バイオセンサ:化学的性質の分析または定量を行う、電気化学的、光学的、熱的、または音響信号トランスデューサと密接させた、生物的認識要素(例えば、酵素、レセプタ、DNA、抗体、または微生物)を含む分析用デバイス。環境モニタリングなど、いくつかの分野において発展の可能性が示されている。
バイオチップ:一度に数千の遺伝子を迅速に認識(ハイブリダイゼーション)する、固体表面(ガラス、ケイ素など)に結合させた一本鎖DNA分子の高密度アレイ。同時に数千の遺伝子の高スループット分析を容易にする。
カンチレバー:一端を支持した、ビームなどの機械構造体。端の偏向(たわみ)は、荷重や作用する外力に比例する。カンチレバーは、センサとして使用するため、シリコン技術を用いて広く微細加工される。
DNA:リン酸と五炭糖デオキシリボースとの介在ユニットを経て結合した、4種の窒素含有塩基−アデニン、チミン、シトシン、グアニンから成る高分子の有機酸。DNAは殆どの生物の遺伝物質であって、一般に二本鎖分子として存在し、2つの逆平行鎖は、アデニン−チミン、シトシン−グアニン間の水素結合で結び合わされている。
ハイブリダイゼーション:DNAの2本の相補鎖、またはそれぞれ1本のDNAとRNAとを水素結合させて、二本鎖分子を形成するプロセス。
分子認識:相補的形状を持つ別の分子と特異的に結びつく、生体分子の能力。分子認識は、生物全般、例えば、ホルモンとレセプタ、または抗体−抗原相互作用、あるいはより大きな生物的活性体への分子の組織化を動かすものである。
MEMS:微小電気機械装置(microelectromechanical systems)。一般に、機械部品と電気部品とを組み合わせ、半導体製造技術を用いて製造した、マイクロメートルスケールの装置を指す。MEMSは、刺激に応答するか、物理的力を生じる(センサおよびアクチュエータ)。小型加速度計はこの分野で最も成功した製品であって、自動車のエアバッグのトリガーとして用いられている。このような装置をナノスケールの大きさで作れるならば、NEMSに分類される。
ミスマッチ(または非対合(despairing)):二本鎖核酸の少なくとも1つの位置で、両方の鎖が、ハイブリダイズしない2つの非相補性ヌクレオチドを持つ場合に起こる。
変異:“単一ヌクレオチド多型”(SNP)としても知られ、一方の参照配列に対する、核酸のヌクレオチド配列の改変である。この改変は、1つのヌクレオチドを別のもので置換、1つ以上のヌクレオチドの挿入または欠失に対応させることができる。
NEMS:MEMSを参照。
オリゴヌクレオチド:相補的核酸配列とハイブリダイズ可能な、3から250nt長さの一本鎖核酸分子。
ペプチド核酸(PNA):糖リン酸骨格をペプチド様構造体で置き換えた、核酸分子の人工種。PNAの各モノマは、メチレンカルボニルユニットを経て、A、G、C、およびTから成る核酸塩基の群に結合した、N−(2−アミノエチル)グリシン分子で構成されている。PNAは、特有の物理化学的性質(生物的および化学的安定性が高く、荷電せず、アキラルで、比較的硬いポリマ)を示す。
プローブ:特定の条件下で、相補的標的配列と、完全または部分ハイブリダイゼーションが可能な、特定のヌクレオチド配列を含む長さのオリゴヌクレオチドを指す。本発明において、プローブオリゴヌクレオチドはマイクロまたはナノメカニカル構造体に固定されており、ある特定の状況下で、その上に自己組織化単分子層を形成することができる。
タンパク質:1つ以上のポリペプチド鎖から成る分子であって、それぞれのポリペプチド鎖は、ペプチド結合で共有結合したアミノ酸の直鎖から成る。
共鳴:交互に変化する駆動力に対して、最大振幅で応答する振動系の状態。この状態は、駆動力の振動数と系の非減衰固有振動周波数とが合致している場合に存在する。
自己組織化単分子層(SAM):界面に、共有結合によって配列した1分子の厚さの2次元薄膜。典型的な試薬は、チオールと金の、またはトリクロロシランとSiOH基の反応を利用したものである。
感作:表面官能化および自己組織化単分子層を参照。
表面官能化:化学官能基を表面へ導入する方法または技術。バイオセンサでは、生体分子レセプタをセンサ上に固定するために用いられる。
ひずみ:物体への応力の作用によって起こる変形の幾何学的発現をいう。
応力:物体内部の単位面積当たりの力の指標をいう。
表面応力:全自由表面エネルギを表面積で除した、ひずみの導関数。
標的配列:分析試料中に存在する、固定化オリゴヌクレオチドプローブとハイブリダイズ可能な分子または核酸配列。
本発明の第1の目的は、試料中の選択された種類の分子または物質を検出するための方法であり、この方法は、a)機械的要素のレセプタ表面を試料と接触させる工程であって、前記レセプタ表面は、前記分子または物質が前記試料中に存在する場合、前記分子または物質と相互作用するよう設定されており、機械的要素は、前記レセプタ表面が前記分子または物質と相互作用した場合、前記要素の少なくとも1つの検出可能な機械的特性値が変化するよう設定されている工程と、b)前記機械的特性値を測定して、前記機械的特性値に関するデータを得る工程と、c)前記データに基づいて、試料が前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうかを決定する工程と、を含み、機械的要素の少なくともレセプタ表面が曝される少なくとも1つの条件を変えて、前記機械的特性値を複数回測定し、異なる前記条件値における前記機械的特性値に関するデータを得、前記データと前記条件値との関係を用いて、試料が前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうかを求め、あるいは、レセプタ表面と被検出分子または物質との会合現象を測定することを特徴とする。
機械的特性値の“絶対”値は小さく、機械的要素も影響を受ける外部パラメータの変化によって、あるいは測定装置の較正における変化によって隠されてしまうことがある。このため本発明の方法では、機械的特性値の“絶対”値だけを測定する(例えば、曲率の“絶対”変化を検出するため)代わりに、条件を変えて機械的特性値を測定する。このように、これらの条件下で機械的特性値が変化する様子を用いて、試料中に関連標的分子または物質が存在するかどうかを求めることができる。
検出される分子または物質と機械的要素自体との、および/または、前記分子とレセプタ表面に結合させたプローブ分子との相互作用が、レセプタ表面の曝されている条件によって変わるという事実により、これが可能である。また、分子がレセプタに結合すると、条件に対する機械的特性値が変わる。変えることのできる条件の例は、温度、相対湿度、機械的要素が浸されている液体または溶媒のpHおよびイオン強度、カンチレバーが置かれている気体または液体混合物の相対含量(例えば、水和物とエタノール脱水物との混合物においても、湿度効果は同様に得られる)、レセプタ表面に照射される放射線、電界、磁界などである。
試料中の分子の存在を検出するこの方法は、感度が高く(もはや分子がレセプタとペアになったときに起こる変化の絶対的“大きさ”だけに依存しない)、更に、センサ要素を試料と接触させる前後で、関連する機械的特性値を比較しなくても、存在の確認が可能となるため、有益である。測定するものは、条件が変化したときの前記機械的特性値の変わり方であって、機械的要素を試料と接触させた後の変わり方ではないため、機械的要素を試料と接触させた後に測定を行うだけで十分である。
このように、本発明において、機械的特性値の変化を経時的に測定する代わりに、機械的特性値の変化を、異なる条件値、例えば、異なる温度、異なる相対湿度値などについて測定する。
つまり、被検出分子とレセプタ表面との“相互作用”は、もはやリアルタイムで“測定”しなくても良い。代わりに、本発明の方法を用いて、機械的要素(例えば、マイクロカンチレバーアレイの一部を成すマイクロカンチレバー)を試料と接触させ、より遅い段階で本発明の方法を用いて分析すれば良い。レセプタ表面と被検出分子との相互作用があるときとないときとで、条件(相対湿度など)が変化した際の、要素の関連する機械的特性値(その曲率など)の挙動に関する予備知識に基づいて、前記分子が存在するか(つまり、レセプタ表面と相互作用し、基本的に、それとペアになるか)否か、決定することが可能である。このように、被検出分子が存在するか否かによって、条件が変化した際の機械的特性値の“挙動”に違いがあることは、前記分子の“指紋”とも呼べるものを意味しており、これによって、本発明の方法を用いてその存在を求めることができる。
ある特定の標的分子または物質を高感度で検出するほか、本発明では、標的DNAの検出限界を1fM以下にすることができ、本発明の方法により、被検出分子とレセプタとの間で起きる様々な現象、すなわち、分子(レセプタと標的)が互いに会合または結合する様相に関する現象を測定することができる。
これは、具体的なケース、例えば、試料中のDNA分子の検出に本方法を応用した場合を参照しながら容易に説明することができる。このようなケースでは、レセプタ表面を、試料から検出される分子(完全な分子またはその配列の特定部分)に対して相補的なプローブ核酸(一般的には、DNA)分子で官能化することができる。プローブと標的の間で100%配列相補性があると、カンチレバー表面で完全なハイブリダイゼーションが起こると考えられる。その後、先に説明したように、本方法では、ある特定の条件(例えば、湿度)の値が変化する際の分子の“指紋”を得るため、前記条件(相対湿度など)を変えることを示している。しかし、100%相補性でなくとも、例えば、標的分子が1個のヌクレオチドで異なっている場合でも(あるいは、異なるミスマッチング位置で2つ以上のヌクレオチドが異なっている場合でさえも)、ハイブリダイゼーションは起こる可能性があるが(実験条件による)、プローブ−標的ペアの挙動が違うため“指紋”は異なると考えられる。この応用法は、ある特定の遺伝子または遺伝子群中に存在する変異またはSNP(単一ヌクレオチド多型)を、簡単かつ効率良く分析できるため、分子生物学およびゲノミクスの分野において非常に重要である。
本発明のこの具体的な実施例は、より明確で有意な例であると言えるが、本方法は、抗体−抗原またはアプタマ−リガンド相互作用などの分子間の別の会合現象や、細胞間、細胞−表面間、ウイルス−細胞間などの接着現象の測定にも応用することができる。
核酸検出に応用した場合、本発明の方法で高い感度が得られる(フェムトモルの感度)ため、試料の予備増幅を省くことが可能である。試料の標識化も行わなくて良い。つまり、本発明の方法は、コストと時間のかかる複雑な試料処理を行わずに、バイオテクノロジに直接使用できるものである。
本発明の望ましい実施の形態において、変化させる条件は相対湿度(RH)である。機械的要素のレセプタ表面が曝されるRHを変えて、異なるRH値における前記機械的特性値を測定し、異なる湿度値における前記機械的特性値に関するデータを得て、前記データと前記湿度値との関係を用いて、試料が、前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうか、核酸分子の場合には、固定化プローブとそれが完全相補性であるか部分相補性であるかを求める。
相対湿度の変化は、表面に結合させた多くの種類の分子間の相互作用に大きく影響を与えることができるため、このような状況において、相対湿度は特に有用なパラメータとなることが分かった。相対湿度の変化は、分子を取り巻く水分子の数を調節する。生体分子の水和パターンは、その生物的機能と構造において重大な役割を果たしている。更に、分子の水和は、それらの間の相互作用、例えば、水和力、双極子間力、静電気力、ファン・デル・ワールス力、溶媒和力などを変化させる。
このように、相対湿度が変化するとレセプタに結合した分子層の機械的性質が変化し、これが機械的要素の機械的特性値を変化させる。例えば、機械的要素上に配列したレセプタに結合した分子間のカップリングが変化するため、湿度を変化させてカンチレバーの曲率を変えることができる。
発明の方法において、試料中に標的分子が存在する、あるいはレセプタと被検出分子との間にある種の会合現象が存在するという推論が、本発明の文中で機械的特性値と呼ばれているものの測定から得られる。機械的特性値とは、バイオセンサの機械的要素の機械的性質の多少の変化が、レセプタ表面への分子の結合によって引き起こされる場合、機械的要素で測定されるある特定の特性値を指す。測定される機械的特性値は、機械的要素の一部の位置、または機械的要素の少なくとも1つの振動特性、あるいは、望ましくは、機械的要素の一部での表面応力より選ばれる。
本発明の望ましい実施の形態において、機械的特性値の測定工程は、前記機械的要素の表面に光線を当てる工程と、前記機械的要素で反射された光線を、前記光線の受光に応答して少なくとも1つの出力信号を発生するよう設定された位置敏感型検出器(図8の2)で受ける工程と、を含んでいる。また、当業者ならば容易に理解されるように、機械的特性値の測定に合った他の手段も、当然のことながら本発明の範囲に含まれる。
一般に、物質はそれぞれ典型的な“指紋”を持っているため、本発明の方法は、ほぼ全種類の物質の検出に適用できるが、本方法は特に生物学的分野、バイオテクノロジおよび生物医薬の分野に有用である。検出される様々な分子の中でも、DNA、RNA、タンパク質、およびペプチドは、相対湿度などの実験条件を変えると、大きく変動する挙動を示すため、特に望ましい標的分子である。本方法は、この種の分子間の会合現象、例えば、核酸ハイブリダイゼーション現象や抗原−抗体結合現象の測定および分析にも適している。DNAまたはRNAハイブリダイゼーション現象の場合、プローブと標的との間の1つ以上のヌクレオチドのミスマッチを分析および同定することができる。このように本方法は、単一ヌクレオチド多型(SNP)の分析と同定を容易かつ効果的に行う、強力なツールである。抗原−抗体結合現象に関しては、抗体−エピトープ会合が分析可能である。
一方、本方法は、細菌、ウイルス、真核細胞原虫など、より複雑な物質の検出にも応用できる。更に、細胞−細胞接着現象やウイルス−細胞または細菌−細胞接着などの会合現象も分析および同定できる。
本発明の望ましい実施の形態において、機械的要素はカンチレバーであり、前記カンチレバーはカンチレバーアレイの一部であって、本方法を、試料中の複数の異なる種類の分子の存在を検出するため、前記カンチレバーアレイ上で行い、前記の異なる種類の分子は、前記カンチレバーアレイの異なるカンチレバーに結合する。
本発明の第2の目的は、本発明の方法を行うための装置を示す、図8に図示されている。これは、機械構造体(5)の一部を成す、複数の要素(51)の複数の点の相対変位および/または振動特性を検出するよう設定された、表面検査用装置である。前記装置は、
少なくとも1つの光線(11)を発生するよう設定された光源(1)と、
機械構造体(5)で反射された光線を受け、前記光線の受光に応答して少なくとも1つの出力信号を発生するよう設定された位置敏感型検出器(2)と、
電子制御系(3)と、
電子制御系(3)からの指示に従って、前記光線を機械構造体(5)に対して相対的に移動させ、前記機械構造体を光線でスキャンするためのスキャン手段(4)と、
を含んでいる。
前記電子制御系(3)は、スキャン手段(4)を制御し、光線が第1軌道(図8Bの矢印A)に沿って機械構造体上を移動して、前記第1軌道(A)に沿って複数の二次的な基準位置(C)を検出するよう設定されており、前記電子制御系(3)は、前記位置敏感型検出器(2)と連動して作動し、前記位置敏感型検出器(2)からの少なくとも1つの出力信号の分析の結果として、前記基準位置(C)を求める。
前記電子制御系(3)は更に、スキャン手段(4)を制御し、光線が複数の第2軌道(B)に沿って機械構造体上を移動するよう設定されており、前記第2軌道のそれぞれは、前記基準位置(C)の1つと結合している。
前記電子制御系は更に、光線が前記第2軌道(B)のそれぞれに沿って移動する間に、前記位置敏感型検出器(2)から複数の位置信号出力を得るよう設定されている。この機械構造体は、条件を変更および制御するための手段(7)を備えたチャンバ(6)内に設置されていることを特徴とする。
この装置は、本発明の方法を行うために有用である。本発明の望ましい実施の形態において、この装置は、チャンバ内の相対湿度を変更または制御するための手段を備えているが、温度、機械的要素が浸されている液体のpHおよびイオン強度、カンチレバーが置かれている気体または液体混合物の相対含量、レセプタ表面に照射される放射線、電界、磁界など、他の条件を制御する手段も本発明の一部である。
十分に説明するため、また本発明をより理解し易くするため、一連の図面を示した。前記図面は、説明する上で欠くことのできない部分を成しており、本発明の望ましい実施の形態を示している。これは本発明の範囲を制限するものと解釈すべきではなく、本発明をどのように具体化できるかの例と見るべきである。図面には以下の図が含まれる。
光ビーム偏向技術を用いてカンチレバーを読み取るための、様々な先行技術の装置を示す概略図である。 光ビーム偏向技術を用いてカンチレバーを読み取るための、様々な先行技術の装置を示す概略図である。 光ビーム偏向技術を用いてカンチレバーを読み取るための、様々な先行技術の装置を示す概略図である。 光ビーム偏向技術を用いてカンチレバーを読み取るための、様々な先行技術の装置を示す概略図である。 本発明の望ましい実施の形態の、実験用装置を示す図である。 水和−脱水サイクルにかけている間の、ssDNA感化カンチレバーの大きなヒステリシスを示すグラフである。これに比べ、dsDNAの付いたカンチレバー(完全相補性プローブ−標的ハイブリダイゼーション後)を同じ水和−脱水サイクルにかけると、ヒステリシスは著しく減少した。 左:様々な時間および標的濃度1pMでの、dsDNAに関する、水和サイクルの間の表面応力変化を示すグラフである。右:異なる濃度(1fMから1000fM)の完全相補性DNA標的に関する、RH=5%での、表面応力の経時的変化を示すグラフである。 3種の異なるミスマッチDNA標的配列に関する、水和の際のカンチレバー表面の表面応力変化を示すグラフである。 本発明による、表面検査用装置の器械装置全体を示す図である。 本発明による、表面検査用装置の機械的要素を示す図である。
<DNAバイオセンサ>
DNAマイクロアレイは、ポストゲノム時代において最も重要なバイオテクノロジツールのひとつである。これにより、多くの核酸分子の同時、高スループット検出および定量が可能となるが、このような分析には、ハイブリダイゼーション工程の前に、標的試料を増幅および蛍光標識化するための、コストと時間がかかり、感度を制限するおそれのある多くの工程が必要である。更に、標的DNAの標識化は、その分子認識能を混乱させ、同時に、分析試料中において検出可能な標的分子の相対組成に偏りを生じることがある(Levicky, R., Horgan, A. "Physicochemical perspectives on DNA microarray and biosensor technologies", Trends Biochem. 23, 143 (2005))。
それに代わるものとして、本研究は、相対湿度を調節できる系中で、マイクロカンチレバー表面に固定した核酸の分子間相互作用から生じる表面応力を測定することにより、マーカーまたは予備増幅工程を行うことなく、核酸ハイブリダイゼーションを迅速かつ感度良く測定できることを示した。
本発明の方法は、標的分子とのハイブリダイゼーションの前後で、マイクロカンチレバー表面に固定したプローブ核酸の分子間相互作用に対する水和の影響を測定することで、マーカーまたは標的DNAの予備増幅を行うことなく、核酸ハイブリダイゼーションを迅速かつ感度良く測定できることを示している。この提案された手法により、ほんの数マイクロリットルの試料体積でサブフェムトモルの感度が得られ、これは、バイオテクノロジおよび生物医薬の分野で使用されている現在標準的なDNAマイクロアレイの感度に比べて3桁以上高い感度を保証するものである。更に、DNA生体層の水和の際に発生する分子間力をナノメカニカル転写することで、完全に一致したdsDNAと、1個のヌクレオチドがミスマッチであるdsDNAとを、室温で判別することができる。
[I:本手法の記述]
実験用装置を図4および図8に示す。ナノメカニカルDNAセンサの感度を高めるもうひとつの方法として、カンチレバーに固定した隣り合うDNA分子間の相互作用を外部から調節しながら、どのように表面応力が変化するかを観測することとした。一本鎖DNAプローブを、マイクロカンチレバーの金被覆側にチオール結合基で固定した。本発明の具体的な実施例では、配列5’−HS−CTACCTTTTTTTTCTG−3’を持つ、長さ16ntのssDNAプローブを使用した。長時間(12〜24時間)固定化した後、X線光電子分光法(XPS)で分析したところ、ssDNAは、1013cm−2程の表面密度の、高充填層を形成していた。この密度は、0.3nm以下のDNA間距離に相当する。この分離幅では、分子間力はDNA分子周囲の水素結合網目の摂動から生じる水和斥力によって支配されている。水和力は0.25〜0.35nmの特性距離で指数関数的に増大する。第1水和殻(primary hydration shell)は、ヌクレオチド対当たり30個の水分子から形成され、水層は、液状の水と氷の中間の状態にある(M. Rovere & P. Gallo, "Effects of confinement on static and dynamical properties of water", Eur. Phys. J. E. 12, 77-81 (2003)、および、N. Floquet, J. P. Coulomb, N. Dufau, G. Andre, & R. Kahn, "Structural and dynamic properties of confined water in nanometric porous materials", Physica B 350, 265-269 (2004))。この第1水和殻は、生化学的機能および分子間相互作用において主要な役割を果たしている。この知見に基づき、表面結合DNAの水和の物理化学的特性をより詳らかとし、同時に、マイクロカンチレバーを用いたバイオセンサの感度を向上させる、新たな手法を開発した。まず、DNA被覆マイクロカンチレバーを乾燥窒素雰囲気中に置き、その後、流入窒素の相対湿度を調節することで水和の程度を制御して、水和力を外部から調節することが可能であることが示された。この方法を本発明に従って表面検査用装置に用いると、水和によって起こる表面応力の変化を、ヌクレオチドあたり1個の水分子という前例のない感度で観測することができる。
分析における実験手順は次のとおりである。
i)RH(相対湿度)を0から100%に、またはその逆方向に変えて、ssDNAで官能化したカンチレバーの水和/脱水によって起こる表面応力を測定する。
ii)a)完全相補性の標的ssDNA分子、b)(1個から3個の)ミスマッチを含むssDNA標的、c)非相補性のssDNA(陰性対照)を含むことのできる核酸試料溶液に官能化カンチレバーを曝露した後、このカンチレバーを濯ぎ、乾燥する。
iii)装置を第2の水和/脱水サイクルにかけながら、表面応力を測定する。
本発明の詳細な実施の形態において、完全相補性のssDNA分子は、配列5'−CAGAAAAAAAAGGTAG−3’を示すが、ミスマッチ配列は、1)二本鎖の中央部付近に1個の単一T/Tミスマッチを持つ標的“T”(配列5'−CAGAAAATAAAGGTAG−3’)、2)中央部に3個の連続したT/Tミスマッチを持つ標的“TTT”(配列5'−CAGAAATTTAAGGTAG−3')、3)3個の塩基対で隔てられた3個の単一ミスマッチT/T、T/T、およびC/Cを持つ標的“T...T...C”(配列5’−CAGTAAATAAACGTAG−3’)である。これらの配列の理論ハイブリダイゼーション温度はそれぞれ、34±1℃、15±1℃、および11±4℃であり、完全相補性標的配列では43±1℃である。非相補性ssDNA(陰性対照)は、配列5’−AGCTTCCGTACTCGAT−3’を持つ。
[II:固定化およびハイブリダイゼーション]
ssDNA感化カンチレバーの水和−脱水サイクルに対する応答は大きなヒステリシスを示すが、完全相補性のハイブリダイゼーションを受けたカンチレバーではヒステリシスが著しく小さくなる(図5参照)。完全にハイブリダイズしたDNA層は、層中に密に詰まった分子による立体障害のため不浸透化する性質を示すことが知られているが、ssDNA層は、生体高分子の中に水分子を取り込む傾向があり、これが層を水和したときに見られる大きな引張応力の原因と考えられる(J. Mao, S. Chang, S. Yang, Q. Ouyang & L. Jian, "Tunable non-equilibrium gating of flexible DNA nanochannels in response to transport flux", Nature Nanotechnology 2, 366-371 (2007) および B. Schneider & H. M. Berman, "Hydration of the DNA bases is local", Biophys. J. 69, 2661-2669 (1995))。感化カンチレバー(ssDNA)では、相対湿度5%までの初期の水和の間に、表面応力の急激な上昇(張力)が起こる。その後、この表面応力は、水和があまり影響しないRH>60%まで減少する。
相補性ssDNAの非常に希薄な溶液にssDNA層を浸した際の経時的応答を観測することは興味深い。図6Aに、プローブssDNAで感化したケイ素カンチレバー(点線)と、同じ感化カンチレバーを、PBS緩衝液(137mM NaCl、2.7mM KCl、8mM NaHPO、2mM KHPO;pH=7.5)中、21℃のハイブリダイゼーション温度で様々な曝露時間(0〜8時間)、1pM濃度の相補性標的DNAに曝露した後の、表面応力とRHとの関係を示す。ハイブリダイズしたカンチレバーでは、6時間以上のプローブ−標的曝露で漸近的応答が得られる。脱水状態から水和状態へ、表面応力は、約0.2N/mまで単調に低下し(圧縮的)、低下の殆どは、RH=0%〜25%で起こる。より短い曝露時間で相補性ssDNAを付着させたssDNAプローブの応答は中間的な挙動を示し、RHが10〜20%と30〜40%の時に、2つのピークが見られる。このピークは、DNA二重らせん内の構造転移(A形からB形)に対応すると考えられる。
完全にハイブリダイズした相補性DNA(dsDNA)層は、水和−脱水サイクルの際に全く異なる挙動を示す。水和サイクルの低RHでは圧縮応力がないため、ヒステリシスは著しく低下する。この根本的な違いは、DNAがインターカレートした水分子と相互作用し、DNA骨格および核酸塩基と安定化構造を形成することから生じる。更に、低RH(0〜5%の範囲)でのdsDNAの圧縮応答(非ハイブリダイズssDNA層内の引張応力とは逆に)を、ssDNAプローブと標的分子とのハイブリダイゼーションに定性的に関連させることができる。この効果は、バイオセンシング用途における本装置の高いパフォーマンスを物語るものである。
[III:本装置の感度および選択性]
水和−脱水サイクル内で測定可能な様々なパラメータの中でも、初期の水和の間の表面応力が、DNAの形、即ち、非ハイブリダイズssDNAまたはハイブリダイズdsDNAに対して非常に感度が高いことが分かった。このため、バイオセンサの測定パラメータとしてこれを選んだ。図6Bに、様々な標的濃度でのハイブリダイゼーション時間の関数として、感化カンチレバーの応答と同じである、完全に非相補性のssDNA陰性対照の応答について、RH=5%での表面応力変化をプロットした。全ての曲線において、相補性配列への曝露の最初の3時間のうちに、表面応力は急激に低下した。より重要なことに、この手法は、1時間の曝露時間、100mN/mの信号検出で、1fMの濃度の標的DNAを検出できることが分かった。これは、本装置の検出ノイズ1mN/mよりも遙かに高い。我々はこのかつてない感度を、物理的、立体的混み合いに関連づける。水和力は指数関数的に協同する性質を持つため、高充填ssDNA単分子層において、比較的少数の二本鎖の形成は、DNA薄膜の集団的性質に大きな影響力を持つことができる。最後に、開発したバイオセンサの特異性を示すため、感作したカンチレバーを、より高い濃度(1μM)で、3種のミスマッチ標的配列に曝露した(図7)。前述のように、3種のミスマッチ標的ssDNAは、中央に単一ミスマッチT/Tを持つ標的“T”と、中央部に3つ連続したT/Tミスマッチを持つ標的“TTT”と、3個のA/T塩基対で隔てられた3個の単一ミスマッチT/T、T/T、C/Cを持つ標的“T...T...C”とに設計した。
この実験において、完全相補性DNAでは、表面応力が相対湿度と共に低下するのに対し、全てのミスマッチDNAでは、表面応力の初期増加(引張)が見られた。興味深いことに、この引張表面応力のピークは、試験した全てのミスマッチ配列で見られるが、ピーク位置のRHは異なっている。全ての実験において、ハイブリダイゼーションは、21℃で行ったため、完全相補性および単一ミスマッチ配列のハイブリダイゼーション収率に大きな変動はないと考えられる(理論計算によれば、これらの標的の識別温度は34〜43℃の範囲にあると予想される)。この初期の水和によって生じる引張応力は、ミスマッチが発生させた二重鎖中の“泡(bubble)”を水素結合が安定化することによるものではないかと考えられる。結論として、開発した本方法の関連する特長は、DNAマイクロアレイや他の今日のバイオセンサ中で起きているものとは異なり、ミスマッチ標的の異なる挙動が、最適化、微調整した作動温度でのそのデハイブリダイズし易さによるものではなく、ミスマッチが発生させた“泡”と水分子との、その融解温度より遙かに低い温度での特徴的な相互作用に起因するということである。
結論として、核酸単分子層内の分子間力は、水和の程度に決定的に依存している。ssDNA単分子層の浸透性が小さいため、100万のプローブ当たり約1個の標的分子のハイブリダイゼーションが、水和に対する張力のパターンに劇的に影響を与える。この原理によって1個の変異の識別や、更に、異なるミスマッチ配列の判別も可能である。非標識の標的試料の検出ができるいかなるバイオセンサでも到達できなかった前例のない感度が、DNA層の水和によって達成された。この実験は、試料の増幅と標識化を必要としない、室温における迅速で直接的な遺伝子型決定またはSNPマッピングの出発点となると予想される。更に、これらの新たな現象は、ナノ流体工学、ドラッグデリバリ、および検出において、独自の潜在的用途に有効利用することができる。

Claims (21)

  1. 試料中の選択された種類の分子または物質を検出するための方法であって、
    前記方法は、
    a)機械的要素のレセプタ表面を前記試料と接触させる工程であって、前記レセプタ表面は、前記標的分子または物質が前記試料中に存在する場合、前記分子または物質と相互作用するよう設定されており、前記機械的要素は、前記レセプタ表面が前記分子または物質と相互作用した場合、前記要素の少なくとも1つの検出可能な機械的特性値が変化するよう設定されている工程と、
    b)前記機械的特性値を測定して、前記機械的特性値に関するデータを得る工程と、
    c)前記データに基づいて、前記試料が、前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうかを決定する工程と、
    を含み、
    前記機械的要素の少なくとも前記レセプタ表面が曝される少なくとも1つの条件を変えて、前記機械的特性値を複数回測定し、異なる前記条件値における前記機械的特性値に関するデータを得、前記データと前記条件値との関係を用いて、前記試料が前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうかを求め、あるいは、前記レセプタ表面と前記被検出分子または物質との会合現象を測定することを特徴とする方法。
  2. 請求項1に記載の方法であって、前記条件は、温度、相対湿度、前記機械的要素が浸されている液体のpHおよびイオン強度、前記機械的要素が置かれている気体または液体混合物の相対含量、前記レセプタ表面に照射される放射線、電界、または磁界から選ばれることを特徴とする方法。
  3. 請求項2に記載の方法であって、前記条件は湿度または相対湿度であり、前記機械的要素の前記レセプタ表面が曝される湿度を変えて、異なる湿度値における前記機械的特性値を測定し、異なる湿度値における前記機械的特性値に関するデータを得て、前記データと前記湿度値との関係を用いて、前記試料が前記の種類の分子または物質を含んでいるかどうかを求めることを特徴とする方法。
  4. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的特性値は、前記機械的要素の一部の曲率であることを特徴とする方法。
  5. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的特性値は、前記機械的要素の一部の位置であることを特徴とする方法。
  6. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的特性値は、前記機械的要素の、少なくとも1つの振動特性であることを特徴とする方法。
  7. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的特性値は、前記機械的要素の一部での表面応力であることを特徴とする方法。
  8. 請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的要素はカンチレバーであり、前記カンチレバーの1つの表面は前記レセプタ表面であることを特徴とする方法。
  9. 請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の方法であって、前記被検出標的分子は、核酸(DNA、RNA、またはPNA)分子であることを特徴とする方法。
  10. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記被検出分子は、タンパク質またはペプチドであることを特徴とする方法。
  11. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、前記被検出物質は、真核細胞、細菌、ウイルス、またはウイロイドであることを特徴とする方法。
  12. 請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法であって、測定される前記会合現象は、DNA−DNAハイブリダイゼーション現象、DNA−PNAハイブリダイゼーション、DNA−RNAハイブリダイゼーション、PNA−RNAハイブリダイゼーション、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体の関与する抗体−抗原相互作用、アプタマ−リガンド相互作用、酵素−基質相互作用、リボザイム−基質相互作用、タンパク質−リガンド相互作用、細胞−細胞接着現象、ウイルス−細胞接着現象、ウイロイド−細胞接着現象、または細菌−真核細胞接着現象であることを特徴とする方法。
  13. 請求項12に記載の方法であって、測定される前記DNAハイブリダイゼーション現象は、プローブと標的との間に1つ以上のヌクレオチドミスマッチを含むという特徴を備えていることを特徴とする方法。
  14. 請求項12に記載の方法であって、測定される前記抗体−抗原現象は、抗体−エピトープ会合であることを特徴とする方法。
  15. 請求項8に記載の方法であって、前記カンチレバーは、カンチレバーアレイの一部であり、前記方法は、前記試料中の複数の異なる種類の分子の存在を検出するため、前記カンチレバーアレイ上で行われ、前記の異なる種類の分子は、前記カンチレバーアレイの異なるカンチレバーに結合することを特徴とする方法。
  16. 請求項1から請求項15のいずれか1項に記載の方法であって、前記機械的特性値の前記測定工程は、前記機械的要素の表面に光線を当てる工程と、前記機械的要素で反射された光線を、前記光線の受光に応答して少なくとも1つの出力信号を発生するよう設定された位置敏感型検出器(2)で受ける工程と、を含むことを特徴とする方法。
  17. 機械構造体(5)の一部を成す、複数の要素(51)の複数の点の相対変位および/または振動特性を検出するよう設定された、表面検査用装置であって、
    前記装置は、
    少なくとも1つの光線(11)を発生するよう設定された光源(1)と、
    機械構造体(5)で反射された光線を受け、前記光線の受光に応答して少なくとも1つの出力信号を発生するよう設定された位置敏感型検出器(2)と、
    電子制御系(3)と、
    前記電子制御系(3)からの指示に従って、前記光線を前記機械構造体(5)に対して相対移動させ、前記機械構造体を前記光線でスキャンするためのスキャン手段(4)と、
    を含むことを特徴とする装置。
  18. 請求項17に記載の装置であって、前記電子制御系(3)は、前記スキャン手段(4)を制御し、前記光線が第1軌道(A)に沿って前記機械構造体上を移動して、前記第1軌道(A)に沿って複数の二次的な基準位置(C)を検出するよう設定されており、前記電子制御系(3)は、前記位置敏感型検出器(2)と連動して作動し、前記位置敏感型検出器(2)からの少なくとも1つの出力信号の分析の結果として、前記基準位置(C)を求めることを特徴とする装置。
  19. 請求項17に記載の装置であって、前記電子制御系(3)は更に、スキャン手段(4)を制御し、前記光線が複数の第2軌道(B)に沿って前記機械構造上を移動するよう設定されており、前記第2軌道(B)のそれぞれは、前記基準位置(C)の1つと結合していることを特徴とする装置。
  20. 請求項17に記載の装置であって、前記電子制御系は更に、前記光線が前記第2軌道(B)のそれぞれに沿って移動する間に、前記位置敏感型検出器(2)から複数の位置信号出力を得るよう設定されており、前記機械構造体は、条件を変更および制御するための手段(7)を備えたチャンバ(6)内に設置されていることを特徴とする装置。
  21. 請求項17に記載の表面検査用装置であって、前記チャンバは、前記チャンバ内の相対湿度条件を制御するための手段を備えていることを特徴とする装置。
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