JP2012014152A - X線導波路 - Google Patents
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Abstract
【課題】 X線の伝搬損失が少なく、酸化による劣化がなく、作成が容易なX線導波路を提供する。
【解決手段】 X線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコア201と、コア201にX線を閉じ込めるためのクラッド202,203と、を備える。クラッド202,203は、屈折率実部が異なる複数の物質を含む1次元周期構造を有する。複数の物質は、有機物または気体または真空と、無機物と、を含む。コア201とクラッド202,203は、コア201とクラッド202,203の界面での全反射臨界角が1次元周期構造の周期性に起因するブラッグ角よりも小さくなるように構成されている。
【選択図】 図2
【解決手段】 X線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコア201と、コア201にX線を閉じ込めるためのクラッド202,203と、を備える。クラッド202,203は、屈折率実部が異なる複数の物質を含む1次元周期構造を有する。複数の物質は、有機物または気体または真空と、無機物と、を含む。コア201とクラッド202,203は、コア201とクラッド202,203の界面での全反射臨界角が1次元周期構造の周期性に起因するブラッグ角よりも小さくなるように構成されている。
【選択図】 図2
Description
本発明はX線導波路に関し、特にX線分析技術、X線撮像技術、X線露光技術などにおけるX線光学系に用いられるX線導波路に関する。
数10nm以下の短い波長の電磁波を扱う際、異物質間における電磁波に対する屈折率差が10−4以下と非常に小さく、例えば全反射臨界角が非常に小さくなる。そのために、X線を含めたこのような電磁波をコントロールするために、大型の空間光学系が用いられ、今でもなお主流となっている。空間光学系を構成する主な部品には、異なる屈折率の材料を交互に積層した多層膜反射鏡があり、これはビーム整形、スポットサイズ変換、波長選択などの様々な役割を担っている。
主流であるこのような空間光学系に対し、従来のポリキャピラリのようなX線導波管は、その中にX線を閉じ込めて伝搬させるものである。近年では光学系の小型化、高性能化を目指し、薄膜や多層膜中にX線を閉じ込めて伝搬させる、X線導波路の研究が行われている。
具体的には二層の1次元の周期構造により導波層を挟み込んだ形の薄膜導波路(非特許文献1参照)や、真空状のコアを、重元素と軽元素が交互に積層されたクラッドが取り囲んだ構成のX線ファイバー(特許文献1参照)などの研究が行われている。
Physical Review B,Volume 67,Issue 23,p.233303(2003)
しかしながら、特許文献1では、X線の独立した導波モードを形成させるような径の小さいコア領域を作製することや、クラッドの積層膜をファイバの外周において均一に形成することが困難である。また、X線吸収の大きい無機物をクラッドに用いるためX線の伝搬損失が大きくなる。さらに、無機物が酸化されることにより劣化や構造変化が起こることもある。
さらに、非特許文献1は計算による検討であるが、モデルとしてクラッドとなる多層膜にNiとCを構成材料としており、NiによるX線の伝搬損失が大きくなるとともに、これらの材料を十分な反射率を呈するだけ積層する工程には手間と時間がかかる。
本発明は、従来の上記のような課題を鑑みてなされたものであり、X線の伝搬損失が少なく、酸化による劣化がなく、作成が容易なX線導波路を提供するものである。
本発明の一側面としてのX線導波路は、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、前記クラッドは、屈折率実部が異なる複数の物質を含む1次元周期構造を有し、前記複数の物質は、有機物または気体または真空と、無機物と、を含み、前記コアと前記クラッドは、前記コアと前記クラッドの界面での全反射臨界角が前記1次元周期構造の周期性に起因するブラッグ角よりも小さくなるように構成されていることを特徴とする。
本発明によれば、X線の伝搬損失が少なく、酸化による劣化が少なく、作成が容易なX線導波路を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるX線とは、物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域の電磁波である。具体的には、本発明におけるX線とは、極端紫外光(EUV光)を含む100nm以下の波長の電磁波を指す。このような短い波長の電磁波の周波数は非常に高く、物質の最外殻電子が応答できないため、紫外光の波長より長い波長をもつ電磁波(可視光や赤外線)の周波数帯域と異なり、X線に対しては物質の屈折率の実部が1より小さくなることが知られている。このようなX線に対する物質の屈折率nは一般的に、下記の式(1)で表されるように、実数部の1からのずれ量δ、吸収に関係する虚数部のβ’を用いて表される。
δは物質の電子密度ρeに比例するため、電子密度の大きい物質ほど屈折率の実部が小さくなることになる。また、屈折率実部n’は、1−δとなる。さらに、ρeは原子密度ρaと原子番号Zに比例する。このようにX線に対する物質の屈折率は複素数で表されるが、その実部を本明細書中では屈折率実部または屈折率の実部と称し、虚部を屈折率虚部または屈折率の虚部と称する。
X線に対して屈折率実部が最大となる場合は、X線が真空中を伝搬する場合であるが、一般的環境下では気体でないほぼすべての物質に対して空気の屈折率実部が最大となる。本明細書中においては、真空に対しても物質という文言を適用する。本発明において屈折率実部が異なる複数の物質であるとは、多くの場合電子密度が異なる二種以上の物質であるということもできる。周期構造をなしている最小の単位構造のことを本明細書中では要素構造と称することとする。
本発明では、クラッドを形成する1次元の周期構造を構成する複数の物質のうち、少なくとも一種の物質が有機物であり、少なくとも別の一種の物質が連続した無機物であることを特徴とする。
1次元の周期構造を構成する物質の一種がX線の吸収が少ない有機物であることにより、X線の吸収による伝搬損失を小さくすることができる。
また、連続した無機物とはSiO2、TiO2、SnO2などのようにSiやTiなどの無機元素が共有結合によりOなどを介して膜状に結合している物質や、AuやPtのように金属結合により膜状に結合している物質を表す。このような連続した無機物により1次元の周期構造自体の強度を強くすることができる。さらに、無機物としてSiO2やTiO2などの酸化物を用いると、酸化による劣化や構造変化をなくすことができ耐久性があがる。このような無機物と有機物が1次元方向に交互に積層された構成の1次元周期構造が本発明における多層膜である。1次元周期構造が多層膜である場合、周期構造をなす要素構造中の無機物は、多層膜の面内方向で連続して形成されているが、各要素構造間において連続している必要はない。
酸化物である無機物を積層する方法としては、蒸着やスパッタ法などがある。
さらにこのような物質により構成される多層膜として、ゾルゲル法を用いて作製されるラメラ構造のメソ構造体であるラメラ膜などが挙げられる。ここでいうラメラ膜とは、ラメラ構造を有するメソ構造体膜を指す。メソ構造体膜は、界面活性剤の自己集合によって形成される有機−無機ハイブリッド材料膜を指す。メソ構造体膜には、種々のメソスケールの構造周期性を有するものがあるが、本発明では有機物と無機物のシート(薄膜)が積層した、ラメラ構造のものが好適に用いられる。このようなメソ構造体膜の無機物としては、SiO2、TiO2、SnO2、ZrO2などの酸化物が代表的である。これらラメラ構造のメソ構造体膜はゾル−ゲル法などの手法で基板上に形成されることができる。ラメラ構造のメソ構造体膜の構造周期は、使用する界面活性剤の種類や濃度、反応条件などによって適宜所望の値に調整することが可能である。ラメラ構造メソ構造体膜は、一つの工程において自己組織的に1次元周期構造を形成するので、作製工程の時間と手間を大幅に削減できる。
本発明において、クラッドがメソ構造体であるラメラ構造のメソ構造体膜からなる多層膜からなることが好ましい。
また、周期的に積層された多層膜の周期数が20以上であることが好ましい。本発明において、メソ構造体膜は、2以上50nm以下の構造周期をもつ周期構造体である。
ラメラ構造は、異なる二種類の物質より構成される層状構造であり、この二種類の物質は無機成分を主とする無機物と、有機成分を主とする有機物により構成される。この無機成分を主とする無機物と有機成分を主とする有機物は、必要に応じて結合されていてよい。結合されたものの具体例としては、アルキル基の結合したシロキサン化合物から調製されるメソ構造体を挙げることができる。
無機成分を主とする無機物の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性、周期構造体を屈折率実部が異なる物質より構成するという観点から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
有機成分を主とする有機物は特に制限されるものではないが、その例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのこのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から50を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより構造周期を拡大することが可能である。この有機成分を主とする物質としては、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素が挙げられる。
次に、メソ構造体膜の製造方法について説明する。
メソ構造体膜の製造方法は、特に制限されるものではないが、たとえば、集合体として機能する両親媒性物質(特に界面活性剤)の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させることによって製造される。
また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。
さらに、本発明における1次元周期構造の特別な例として、メソポーラス膜とその孔の中に有機物などが充填しているメソポーラス膜を挙げることができる。これらのメソポーラス膜は無機物中に、孔または有機物が充填された孔が2次元または3次元方向で配置されたものであるが、作製材料や条件により1次元方向に平均屈折率が周期的な分布をもつ、屈折率または密度に着目した場合に1次元周期構造となる。特に孔の中を空気などの気体または真空にすることにより、膜を構成する物質間の屈折率差を大きくできるとともに、X線の伝搬損失を小さくできる。このようなメソポーラス膜について以下説明する。
(A)孔の中が空洞なメソポーラス膜について
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
孔径が2から50nmの多孔質材料で、壁部の材料は特に限定されるものではないが、その例としては、製造可能性から、無機酸化物が挙げられる。この無機酸化物の例としては、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化ジルコニア、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化亜鉛を挙げることができる。壁部の表面は、必要に応じて修飾されていてよい。たとえば、水の吸着を抑制するために、疎水性の分子を修飾してもよい。
メソポーラス膜の調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、以下の方法で調製することができる。集合体が鋳型として機能する両親媒性物質の溶液に、無機酸化物の前駆体を加え、成膜を行い、無機酸化物の生成反応を進行させる。その後に、鋳型分子を除去することにより、多孔質材料とする。
この両親媒性物質は、特に限定されるものではないが、界面活性剤が適している。界面活性剤分子の例としては、イオン性、非イオン性の界面活性剤を挙げることができる。このイオン性界面活性剤の例としては、トリメチルアルキルアンモニウムイオンのハロゲン化物塩を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。非イオン性の界面活性剤の例としては、ポリエチレングリコールを親水基として含むものを挙げることができる。ポリエチレングリコールを親水基として含む界面活性剤の具体例としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール‐ポリプロピレングリコール‐ポリエチレングリコールのブロックコポリマーを挙げることができる。ポリエチレングリコールアルキルエーテルのこのアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22、ポリエチレングリコールの繰返し数の例としては、2から50を挙げることができる。この疎水基、親水基を変化させることにより構造周期を変化させることが可能である。一般的に疎水基、親水基を大きなものとすることにより孔径を拡大することが可能である。また、界面活性剤に加えて、構造周期を調整するための添加物を加えてもよい。この構造周期を調整するための添加物としては、疎水性物質が挙げられる。この疎水性物質の例としては、アルカン類、親水性基を含まない芳香族化合物が挙げられ、その具体的な例としては、オクタンが挙げられる。
無機酸化物の前駆体の例としては、ケイ素や金属元素のアルコキサイド、塩化物が挙げられる。さらに具体的な例としては、Si,Sn,Zr,Ti,Nb,Ta,Al,W,Hf,Znのアルコキサイド、塩化物が挙げられる。アルコキサイドの例としては、メトキサイド、エトキサイド、プロポキサイド、または、その一部がアルキル基に置換されたものが挙げられる。
製膜法の例としては、ディップコート法、スピンコート法、水熱合成法が挙げられる。鋳型分子の除去方法の例としては、焼成、抽出、紫外線照射、オゾン処理が挙げられる。
(B)メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものについて
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔を充填する物質については、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、または、壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
壁部の材料については、(A)の項に記載したものと同様のものを使用することができる。孔を充填する物質については、有機化合物を主とするものであれば特に制限されるものではない。この「主」の意味としては、体積比で50%以上を意味する。この有機化合物の例としては、界面活性剤や、分子集合体の形成機能を有する部位が、壁部を形成する材料または壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料が挙げられる。この界面活性剤の例としては、(A)の項で記載した界面活性剤を挙げることができる。また分子集合体の形成機能を有する部位が壁部を形成する材料、または、壁部を形成する材料の前駆体と結合している材料の例としては、アルキル基を有するアルコキシシラン、アルキル基を有するオリゴシロキサン化合物を挙げることができる。このアルキル鎖の鎖長の例としては、炭素数で10から22が挙げられる。
孔の内部には、必要に応じて、または、使用する材料、工程の結果として水、有機溶媒、塩等が含まれていてよい。この有機溶媒の例としては、アルコール、エーテル、炭化水素が挙げられる。
メソポーラス膜の孔が主に有機化合物で充填されたものの調製法は、特に制限されるものではないが、たとえば、(A)の項に記載したメソポーラス膜の調製法の鋳型の除去以前の工程を挙げることができる。
コアを構成する物質としては、空気や、PMMA(ポリメタクリル酸メチル樹脂)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などの有機物、その他カーボン(C)、ホウ素(B)など電子密度の軽い、つまり屈折率実部が大きく吸収損失の低い物質が望ましい。またコアは一種の一様な物質からなるものに限らず、コア自体が多層膜などの周期構造を有する材料であっても本発明のX線導波路を形成できる。
X線の挙動は、基本的にマックスウェル方程式に従うため、異なる屈折率実部をもつ二つの物質界面においてX線の反射、屈折が起こる。異なる屈折率実部をもつ二つの物質の界面における、X線の界面から測った伝搬角度が界面での全反射臨界角より大きければ、これらの材料により周期構造を形成した場合も反射、屈折が各層の界面で繰り返し起こり、周期構造中で多重干渉が起こる。
特に本発明では、クラッドにおける多重干渉の結果ブラッグ反射が起こるが、このブラッグ反射によりX線をコアに閉じ込めることになる。クラッドとコアの界面での全反射臨界角θCと周期構造のブラッグ角θBとの間で、次の式(2)の関係が満たされていると、ブラッグ角付近の伝搬角度のX線は周期構造中での多重干渉の結果ブラッグ反射され、X線をコアに閉じ込められることとなる。
ここで、θCは相対的に屈折率実部の大きい(電子密度が低い)物質から屈折率実部の小さい(電子密度が高い)物質界面にX線が進入する際に、界面から測られる角度である。
1次元周期構造のブラッグ角θBは多層膜の周期性に起因するブラッグ角である。またクラッドの1次元周期構造の周期をd、クラッドである1次元周期構造の平均屈折率実部をnavgとした場合、1次元周期構造、この多層膜のおおよそのブラッグ角θBは、下記の式(3)で表わされる。
mは自然数、dは1次元周期構造の周期構造の周期、λはX線の波長を表す。
ブラッグ反射は周期構造が無限に続く場合に完全に成り立つものである。そのために、式(3)の左辺と右辺は完全な等号では結ばれておらず、実際の周期構造である1次元周期構造の周期数が増えるにしたがって、1次元周期構造中の多重干渉による反射帯域の角度は式(2)の右辺に近づくことになる。本発明のX線導波路における1次元周期構造の周期数はおよそ20周期以上であるとする。本明細書中ではこのような、無限に続かない現実的な周期構造中でのX線の多重干渉による反射も含めてブラッグ反射と称し、膜界面に平行な方向からの反射角度をブラッグ角と称する。
この結果、ブラッグ反射や、本発明1次元の周期構造を1次元のフォトニック結晶であるとした場合、フォトニックバンドギャップ(ストップバンド)効果が発現されることになる。1次元の周期構造の場合には、最低次のフォトニックバンドギャップが周期構造の周期性のある方向の周期性による1次(m=1)のブラッグ反射と同等である。つまり、最低次のフォトニックバンドギャップによる反射が1次のブラッグ反射である。
たとえば、図3は本発明のX線導波路を構成する1次元周期構造のクラッド301に入射角度θ(°)で特定の単一波長のX線が照射され、反射されたX線304を表す模式図である。入射角度は1次元周期構造の各界面に平行な方向から測られる角度とする。1次元周期構造であるクラッド301は有機物303と無機物302が交互に50層積層された多層膜として構成された1次元の周期構造体である。入射X線305と反射X線304から求められるX線の強度反射率の入射角度依存性を図1に示す。図1において、101は全反射角度領域、102は全反射臨界角、103はピークを示す。
図1中θcはクラッドと空気との界面での全反射臨界角を表し、θc以下の入射角度で入射した場合は全反射により高い反射率が得られ、101がその様子を示す。θc以上の入射角度になるとX線はほとんど反射しないが、クラッドの周期性によるブラッグ角θBにおいて、高い反射率が得られピーク103としてグラフ上に現れている。ピーク103は角度において幅をもち、この幅がクラッドをなす周期構造の呈するフォトニックバンドギャップに相当する。
本発明のX線導波路は、そのクラッドが上記のような1次元の周期構造からなり、このクラッドによりコアにX線を閉じ込めるものである。図2のように、このような1次元周期構造である二つのクラッドによりコアが挟まれている構成の場合、コア内に導入された特定の波長のX線は両クラッドにおいて多重反射を起こす。その結果、ブラッグ反射されて(フォトニックバンドギャップにより反射されて)コア中に導波モードを形成する。この導波モードの伝搬定数はクラッドである1次元周期構造の周期性に依存するものとなり、導波モードの位相も1次元周期構造の周期性の影響を受け、導波方向に垂直かつ周期性の高い方向においてそろう。本発明において導波モードの位相がそろうということは、導波方向に垂直な面内での電磁場の位相差が0であるということだけではなく、周期構造の空間的な屈折率分布に対応して電磁場の位相差が周期的に−πと+πの間で変化していることをも意味する。
1次元周期構造のブラッグ角θBがクラッドとコアの界面における全反射臨界角θCより大きい場合、図1のように、1次元周期構造のブラッグ角(フォトニックバンドギャップに相当する角度)付近だけに起因した導波モードだけをコア中に独立して形成できる。逆に、1次元周期構造のブラッグ角がクラッドとコアの界面における全反射臨界角より小さい場合は、クラッドとコアの界面における全反射臨界角以下の広い角度範囲に起因する複数の導波モードが形成される。そのために、ブラッグ角に起因する導波モードはそれらと区別されにくくなる。
本発明におけるコアとクラッドの界面における全反射臨界角は1次元周期構造のブラッグ角よりも小さくなるものとする。ただし式(3)で表わされるように、ブラッグ角θBは、構造パラメータと物性パラメータに基づき、正の整数mに対応して存在することになる。本発明のX線導波路の構成の場合、実際の導波モードに寄与するブラッグ角はコアの物性や厚さ、その他クラッドや基板の構造と特性まで含めた関係において決定される。そのため、コアに閉じ込められる最低次の導波モードの有効伝搬角度が必ずm=1のブラッグ角付近に一致するわけではない。であるから、本発明においてコアとクラッドの界面における全反射臨界角がブラッグ角より小さいという条件におけるブラッグ角は、コアに閉じ込められる最低次の導波モードの有効伝搬角度に影響を与えるものであるとする。
図2は本発明のX線導波路の実施例1を表す図である。Si基板204上にクラッドとなる多層膜として構成されているであるラメラ膜202を形成し、その上にスピンコートにより厚さ約32ナノメートルのPDMSをコア201として形成し、さらにその上にラメラ膜203を形成したものである。このラメラ膜の無機物はSiO2である。本実施例のラメラ膜202、203は以下の方法により作製される。
(a)溶液の調製
ラメラ構造を持つメソ構造体膜は、スピンコート法で調製される。前駆体溶液は、テトラヒドロフラン溶媒にn−デシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、水、塩酸を溶解し、25℃で3時間攪拌することで調製される。混合比(モル比)は、n−デシルトリメトキシシラン:1、テトラメトキシシラン:4、水:19、塩酸:0.01、テトラヒドロフラン:20とする。
ラメラ構造を持つメソ構造体膜は、スピンコート法で調製される。前駆体溶液は、テトラヒドロフラン溶媒にn−デシルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、水、塩酸を溶解し、25℃で3時間攪拌することで調製される。混合比(モル比)は、n−デシルトリメトキシシラン:1、テトラメトキシシラン:4、水:19、塩酸:0.01、テトラヒドロフラン:20とする。
(b)製膜
基板を洗浄した後に、スピンコート装置を用いて3000rpm、10秒の条件でコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で4週間保持される。
基板を洗浄した後に、スピンコート装置を用いて3000rpm、10秒の条件でコートを行う。このときの温度は、25℃、相対湿度は、40%である。製膜後、膜は、25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽で4週間保持される。
(c)評価
このメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔は、3.56nmであることが確認される。
このメソ構造体膜をブラッグ−ブレンターノ配置のエックス線回折分析を行う。その結果、このメソ構造体膜は,基板面の法線方向に高い秩序性をもち、その面間隔は、3.56nmであることが確認される。
本実施例のX線導波路はラメラ膜中でのX線の多重干渉の結果発現されるブラッグ反射つまりフォトニックバンドギャップ効果により、コア201にX線を閉じ込める構造となっている。X線の伝搬方向は図中のz方向である。図5は本実施例中のX線導波路中に存在する最低次の導波モードの電場強度プロファイルを示すグラフである。計算におけるX線のエネルギーは12.4キロエレクトロンボルトである。ここで、本明細書中において有効伝搬角度θ’(°)は、膜の面に平行な方向からの角度であり、導波モードの伝搬方向の波数ベクトル(伝搬定数)kZ、真空中の波数ベクトルk0を用いて、下記の式(4)で表されるものとする。
連続条件によりkZは各層の界面で一定なので、図6に示すように、導波モードの基本波の伝搬定数kZと真空中の波数ベクトルk0との間で定義される角度で、導波モードの基本波が真空中で進行する角度を、有効伝搬角度θ’(°)は表している。これは近似的にコア中での導波モードの基本波の伝搬角度を表すと考えることができる。
図5のグラフ中、501の領域が本実施例のX線導波路におけるコア、502と503の領域が本実施例のX線導波路におけるクラッドに相当する。この導波モードの有効伝搬角度は約0.82°ブラッグ角付近に相当している。さらに広い角度領域において、ブラッグ角に起因する導波モードだけが閉じ込められて存在できることにより、特定の角度範囲において他の導波モードが存在できない。そのために、この導波モードは広い角度範囲において独立した導波モードとなり、別のモードと混ざったりすることなくX線を伝搬させることができる。また、ラメラ膜のブラッグ反射の影響を受けているためこの導波モードの位相も基本的にはそろったものとなる。またグラフからわかるように、この導波モードはコア501の領域に強く閉じ込められていることがわかる。
図4は本発明のX線導波路の実施例2を表す図である。本実施例のクラッドは無機物がシリカ(SiO2)であるメソポーラスシリカ(メソポーラス材料)の膜であり、その孔の内部は空気である。X線は図中のz方向に伝搬する。本実施例のX線導波路は、メソポーラスシリカの膜をクラッド402、403として構成したものであるが、コア401は空気よりなる。このメソポーラスシリカ膜は、図中y方向において、1次元周期性を持つ構造となっており、その周期は約6ナノメートルである。Si基板404、405上にそれぞれラメラ膜を形成し、一方のSi基板の表面にスパッタによりAuを50ナノメートルパターニングした後、両者のSi基板をそれぞれのメソポーラスシリカ膜が対向するように貼り合わせたものである。Au膜406が存在することにより50ナノメートルの空気のギャップが得られ、これがコア401である。本実施例のAu部分は、コアとなる空気のギャップを形成するためだけに存在するものである。
本実施例のX線導波路では、メソポーラスシリカ膜の周期性に起因するブラッグ反射のブラッグ角はおよそ0.47°付近に一致する有効伝搬角度をもつ導波モードが形成される。
本発明のX線導波路は、シンクロトロンなどから出力されるX線を操作するためのX線光学系、X線撮像技術、X線露光技術などに用いられる部品などのX線光学技術分野に利用することができる。
201 コア
202 クラッド
203 クラッド
204 Si基板
202 クラッド
203 クラッド
204 Si基板
Claims (5)
- 物質の屈折率実部が1以下となる波長帯域のX線を導波させるためのコアと、
前記コアに前記X線を閉じ込めるためのクラッドと、を備えるX線導波路であって、
前記クラッドは、屈折率実部が異なる複数の物質を含む1次元周期構造を有し、
前記複数の物質は、有機物または気体または真空と、無機物と、を含み、
前記コアと前記クラッドは、前記コアと前記クラッドの界面での全反射臨界角が前記1次元周期構造の周期性に起因するブラッグ角よりも小さくなるように構成されていることを特徴とするX線導波路。 - 前記1次元周期構造は、前記クラッドと前記コアとの界面に垂直な方向において1次元周期性を持つメソポーラス材料を含み、
前記メソポーラス材料には、導波方向に延びる孔が開いていることを特徴とする請求項1に記載のX線導波路。 - 前記無機物は、酸化物であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線導波路。
- 前記1次元周期構造は、ラメラ構造のメソ構造体膜を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のX線導波路。
- 前記1次元周期構造の周期数は、20以上であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかの1項に記載のX線導波路。
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