JP2012136775A - 耐付着性に優れる被覆金型およびその製造方法 - Google Patents

耐付着性に優れる被覆金型およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】耐付着性に優れる被覆金型およびその製造方法を提供する。
【解決手段】表面に硬質皮膜を被覆した金型であって硬質皮膜はその金型基材側に被覆したTiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかからなるa層と、金型表面側に被覆したAlCrSiの窒化物(但し、x、y、zは原子比、x+y+z=100、x>y、3≦z<20)からなり硬度が35GPa以上であるb層と、a層とb層の間に配置され、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、前記a層側から前記b層側に向かって前記b層のSi比率に近づくように増加するSiとを含むAlCrの窒化物(但し、v、wは原子比、v>w)からなる中間層とを有し、
表面粗さがRa0.1μm以下、Rz0.8μm以下、ロックウエルを用いて押圧した場合に、圧痕の外周から径方向に生ずる剥離における最大サイズが50μm以下である耐付着性に優れる被覆金型。
【選択図】図1

Description

本発明は、耐付着性が必要とされる金型およびその製造方法に関するものである。
従来、鍛造、プレス加工といった加工には、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼といった工具鋼に代表される鋼や、超硬合金等を母材とする金型が用いられてきた。上記加工方法は、室温付近で加工を行う冷間加工と、被加工材が400℃以上に加熱される温間加工や熱間加工(以下、温熱間加工とも記す)に分類され、用いられる何れの金型も作業面には耐摩耗性が要求される。
近年、被加工材の高強度化、製品の高精度化、潤滑剤フリー、ならびに成形サイクルの高速化により、金型表面への負荷が増大していることから、その作業面にはTiCやTiNといった硬質材料を化学蒸着法(以下、CVD法とも記す)によって作業面に被覆した「被覆金型」が急速に増加してきた。最近、金型への要求特性は作業面の耐摩耗性のみに留まらず、金型自体の高精度化も要求されるようになったため、被覆温度が1000℃以上のCVD法では上記の被覆時に金型の変形が大きくなり、形状精度が低下するという問題が顕著化してきた。そして工具鋼に代表される鋼系型材の場合では、焼入れ焼戻し温度以上の高温で成膜するCVD法では熱処理歪みが問題となり、要求を十分に満たすことが困難となった。
このような背景から、上記の被覆作業を型材の焼戻し温度以下で行える物理蒸着法(以下、PVD法とも記す)の適用が提案されている。例えば、冷間加工用金型においては、特定成分範囲の金型母材の表面に窒化処理を施した後に、PVD法にてTiNの被覆層を適用する手法が提案されている(特許文献1)。また、熱間加工用金型においては、PVD法の前処理を規定し、窒化処理後にCrNもしくはTiAlNを被覆する手法が提案されている(特許文献2、3)。
1000℃以上でも高い耐摩耗性と耐熱性を示す硬質皮膜として、AlCrの窒化物皮膜やAlCrSiの窒化物皮膜をイオンプレーティング法で形成する手法が提案されている(特許文献4、5)。さらに、低摩擦係数の硬質皮膜として、表面にアモルファスカーボンを含有するAlCrの窒化物皮膜をスパッタリング法で形成する手法(特許文献6)が提案されている。
さらに、基材との密着性を改善するとして、アークイオンプレーティング法によって被覆した、表面層のAlCrSiの窒化物皮膜と下地層のTiNの間に、両層の組成成分が一様に混ざり合った中間皮膜を設けた皮膜構造が提案されている(特許文献7)。
特開昭58−031066号公報 特開平11−092909号公報 特開2003−245738号公報 特開平10−025566号公報 特開2003−321764号公報 特開2000−144378号公報 特開2005−42146号公報
鍛造およびプレス金型の使用環境は年々過酷化しており、成形時の面圧は高く皮膜への負荷も極めて大きくなっている。さらに、鍛造やプレス金型への用途以外も含めれば、被加工材の種類や形状、加工条件によっては被加工材が金型表面へ付着するため、被加工材の表面品位を低下させる場合があり、被加工材が金型表面に付着するのを防止する性質、すなわち耐付着性の改善が求められている。
負荷が大きな鍛造およびプレス金型では、特許文献7で記載されているような中間皮膜を有するAlCrSiの窒化物皮膜を採用すれば金型寿命の一定の改善が期待される。しかしながら、アークイオンプレーティング法で被覆した特許文献7の皮膜では、皮膜表面を平滑研磨しても、ドロップレットが除去された凹部は被加工材が付着する起点となり、耐付着性は改善できない。
また、特許文献7の皮膜構造を、ドロップレットの発生が極めて少なく皮膜表面が平滑となり易いスパッタリング法で被覆したとしても、スパッタリング法で被覆した皮膜は、密着性が極めて低いため、金型の耐久性および耐付着性を同時に改善するには至っていない。
そこで本発明は、冷間ならびに温熱間における鍛造およびプレス加工およびその他の金型において、耐摩耗性、耐熱性、密着性といった皮膜トータルの耐久性だけでなく、金型表面への被加工材の耐付着性も優れる被覆金型およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、金型の耐久性および耐付着性を向上させる手段について鋭意研究した。その結果、金型の作業面に被覆した皮膜は、その高い硬度と耐熱性を有すると同時に、表面が極めて緻密で平滑な状態であることが特に有効であることを突き止めた。そして、上記の要件を満たす具体的な皮膜構成および製造方法を明確にして本発明に至った。
すなわち本発明は、表面に硬質皮膜をスパッタリング法で被覆した被覆金型であって、前記硬質皮膜はその金型基材側に被覆したTiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかからなるa層と、金型表面側に被覆したAlCrSiの窒化物(但し、x、y、zは原子比を示し、x+y+z=100、かつx>y、かつ3≦z<20)からなり、硬度が35GPa以上であるb層と、前記a層と前記b層の間に配置され、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、前記a層側から前記b層側に向かって前記b層のSi比率に近づくように増加するSiと、を含むAlCrの窒化物(但し、v、wは原子比を示し、v>w)からなる中間層とを有し、
前記硬質皮膜は、JIS−B−0601(2001)による表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下、最大高さRzで0.8μm以下であり、
Cスケールロックウエル硬度計を用いて押圧した場合に、圧痕の外周から径方向に生ずる前記硬質皮膜の剥離における最大サイズが50μm以下である耐付着性に優れる被覆金型である。
さらに、b層の結晶構造が、六方晶であることが好ましい。
さらに、a層の膜厚が、0.001〜0.2μmであることが好ましい。
さらに、硬質皮中間層とb層の膜厚が、それぞれ0.2〜2μmであることが好ましい。
また本発明の製造方法は、金型基材の表面粗さを、JIS−B−0601(2001)による表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下、最大高さRzで0.8μm以下に調整し、次いで、金型基材に印加する負圧のバイアス電圧を90V以上とし、
(1)Tiターゲットに、平均電力が1kW以上、最大電力が0.1MW以上のスパッタ電力を投入し、TiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかからなるa層を被覆し、
(2)次に、前記a層を被覆した前記Tiターゲットの投入電力を減少させると共に、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに、平均電力の合計が1kW以上のスパッタ電力を投入して、a層側からb層側に向かって、Ti比率が減少するTiと、前記a層側から前記b層側に向かって、次に被覆するb層のSi比率に近づくように増加するSiと、を含むAlCrの窒化物(但し、v、wは原子比を示し、v>w)からなる中間層を被覆し、
(3)次に、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに平均電力の合計が1kW以上のスパッタ電力を投入して、前記中間層の上にAlCrSiの窒化物(但し、x、y、zは原子比を示し、x+y+z=100、かつx>y、かつ3≦z<20)からなる前記b層を被覆する耐付着性に優れる被覆金型の製造方法である。
本発明では、高い硬度と耐熱性を有する皮膜種が極めて緻密で平滑な状態でかつ、金型の損傷形態に対し最適な構造を有して被覆されていることから、金型作業面の耐久性および耐付着性を大幅に改善できる。そのため、耐摩耗性や耐熱性が必要な塑性加工用金型や樹脂や粉末等の耐付着性が特に要求される成形加工用金型等にとって欠くことのできない技術となる。
本発明例である試料No.1の皮膜表面の電子顕微鏡写真であり、本発明の被覆金型の一例を示す図である。 本発明例である試料No.1の皮膜破断面の電子顕微鏡写真であり、本発明の被覆金型の一例を示す図である。 本発明例である試料No.1のロックウェル圧痕試験後の皮膜表面写真であり、本発明の被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.5の皮膜表面の電子顕微鏡写真であり、比較例の被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.5の皮膜破断面の電子顕微鏡写真であり、比較例の被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.7の皮膜表面の電子顕微鏡写真であり、比較例の被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.7の皮膜破断面の電子顕微鏡写真であり、比較例の被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.8のロックウェル圧痕試験後の皮膜表面写真であり、通常のスパッタリング法で被覆した被覆金型の一例を示す図である。 比較例である試料No.10の皮膜表面の電子顕微鏡観察写真であり、アークイオンプレーティング法で被覆した皮膜表面を平滑に研磨した被覆金型の一例を示す図である。 本発明例である試料No.1の硬質皮膜の高周波グロー放電発光分析による濃度プロファイルであり、本発明の被覆金型の一例を示す図である。
本発明の特徴は、耐久性だけでなく耐付着性も優れる被覆金型を実現する具体的な皮膜構造および製造方法を発見したことにある。以下、本発明の被覆金型について、その構成要件毎に説明していく。
硬質皮膜の金型基材側(以下、a層)は、TiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかとすることで、その上に被覆する高硬度なAlCrSiの窒化物からなる硬質皮膜の上層側(以下、b層)との応力を緩和できるので密着性を向上させることができる。
a層の膜厚は、0.001〜0.2μmとすることが好ましい。これよりも薄くなると十分な密着力を得られない傾向にある。また、これよりも厚くなると剥離が発生し易くなる。
続いて中間層について説明する。皮膜の密着性を向上させるため、a層とb層の間に中間層として、a層とb層の組成混合層を設けることは重要である。しかしながら、単なる均一組成の混合層を設けるだけでは、皮膜全体の密着性および耐付着性までもトータルに改善するには十分でない場合がある。
そこで本発明では、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、a層側からb層側に向かってb層のSi比率に近づくように増加するSiを含む傾斜構造のAlCrの窒化物からなる中間層を設けることが重要である。
中間層のa層側では、Tiを含有することで、a層との密着性が向上する。さらに、Tiを含有することで、耐摩耗性が向上するが、中間層全体に過多のTiが含有されると耐熱性が低下する。そのため、中間層のTiは、a層側からb層側に向けてTi比率が減少するTiとすることで、耐摩耗性と耐熱性を維持したまま、Tiを含有するa層との密着強度を高めることができる。
また、中間層のb層側では、Siを含有することで組織が微細化し、b層との密着性が向上する。しかし、中間層のSi含有量が過多になるとa層との密着性が低下し、硬質皮膜全体の靭性も低下する。そのため、a層側からb層側に向かってb層のSi比率に近づくように増加するSiとすることで、靭性を低下させずに、Siを含有しないa層と、Siを含有するb層との密着強度が高くなり、皮膜本来の耐摩耗性と耐熱性が十分に発揮され、耐久性に優れた硬質皮膜とできる。
このような、TiとSiが互いに傾斜した中間層を設けることで、中間層とその上のb層の組織形態が連続するため、皮膜表面が細部に至るまで緻密で平滑になり易く、通常の算術平均粗さであるRaやRzの値には影響し難い、皮膜表面の微細な凹凸や空隙が減少し易い。そのため、被加工材が付着する起点が極めて少ない表面状態となり、付着が発生し易い樹脂および/または粉末の形成においても耐付着性を向上させることができる。
本発明の中間層は全体に亘ってはAlCrSiTiの窒化物の成分構成である。そして、耐摩耗性と耐熱性をより高めるためAl含有量をCr含有量よりも多くする。Alの含有量は、金属(半金属を含む)部分の原子比率で60%以上であることが好ましい。
本発明の中間層は、結晶性が優れ耐摩耗性が良好な立方晶構造であることが好ましい。本発明において中間層が立方晶構造であるとは、表層側からのX線回折において、最大強度を示す結晶構造が立方晶構造であることを示し、六方晶構造を一部に混在しても良い。
中間層の膜厚は、0.2〜2μmであることが好ましい。中間層はb層の密着性を最大限に発揮する機能ための硬質層であり、耐摩耗性も補完する。これよりも薄いと密着性と耐摩耗性が劣化する傾向にある。これよりも厚いと、皮膜の成長に伴い結晶粒径の幅が広がり易くなるため、b層の結晶粒径が粗大化し易く、耐付着性が低下する傾向にある。
本発明の硬質皮膜の傾斜構造は、例えば高周波グロー放電発光分析によって得られる、その深さ方向の濃度プロファイルによって特定することができる。
続いてb層について説明する。表面側にあるb層は、高い硬度と優れた耐熱性を備え得るAlCrSiの窒化物を基本とし、耐摩耗性と耐熱性をより高めるためAl含有量をCr含有量よりも多くする。Alの含有量は、金属(半金属を含む)部分の原子比率で60%以上であることが好ましい。そして、結晶粒径を微細化させる効果があるSiの含有量を3≦z<20とすることで、硬質皮膜の靭性を阻害せずに高硬度となり、耐摩耗性が向上する。
さらに、Siの含有量が原子比率で3%以上であることで、皮膜組織が極めて緻密となるため、通常の算術平均粗さであるRaやRzの値には影響し難い、皮膜表面の微細な空隙、凹凸が減少して極めて平滑になる。そのため、被加工材が付着し易い樹脂および/または粉末の形成においても、耐付着性を向上させることができる。より好ましくは原子比率で5%以上、6%以上である。
b層の組成を上記範囲に制御しても、低硬度の皮膜では緻密化が十分でなく空隙が多いため、耐摩耗性および耐付着性が十分でない。そのため、ナノインデンテーション装置を用いたb層の硬度を35GPa以上の高硬度とすることで、b層自体に十分な硬度が付与され耐摩耗性が向上する。さらに、皮膜内部の空隙が減少して緻密化するため耐付着性も向上する。より好ましい皮膜硬度は、38GPa以上である。さらには40GPa以上である。
ナノインデンテーション装置を用いた皮膜の硬度測定では、基材の影響を受けないよう、試験片を5度傾けて、鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さがb層の略1/10未満となる領域を選定する。そして、10点測定してその平均値を皮膜硬度とする。
b層の結晶構造を六方晶とすることで、結晶粒子が微細な粒状(又はガラス状)破断面組織を示すため、粗大な粒界を起点とする付着型の損耗に対して有効で好ましい。
耐付着性をより重視すれば、b層は結晶粒界のない非晶質であってもよいが、耐摩耗性と耐付着性のバランスが優れる六方晶構造とするのが好ましい。
本発明においてb層の結晶構造が六方晶とは、表層側からのX線回折において、最大強度を示す結晶構造が六方晶構造であることを示し、立方晶構造、非晶質を混在しても良い。
b層の膜厚は、0.2〜2μmであることが好ましい。b層は本発明の効果を発揮する重要な硬質層であり、耐摩耗性と耐付着性の改善効果を発揮する。しかし、これよりも薄くなると耐摩耗性に乏しくなる。また、これよりも厚く被覆すると結晶粒径が粗大化する傾向にあり、耐付着性がやや低下する傾向にある。
本発明の被覆金型は、過酷化する鍛造およびプレス金型等の耐久性を格段に向上させ、さらに耐付着性も改善するためには、その作業面に被覆した硬質皮膜のJIS−B−0601(2001)による表面粗さがRaで0.1μm以下に、そしてRzで0.8μm以下に制御することが重要である。
本発明の被覆金型が上述した構成要件を満たしても、皮膜の密着性が不十分では、金型の使用中に十分な耐久性および耐付着性を発揮することができない場合がある。そこで本発明では皮膜の密着性を評価するために、Cスケールロックウエル硬度計を用いて、圧痕の外周から発生する硬質皮膜の剥離の発生状況を確認する。
皮膜表面を圧痕試験することで、基材の変形に対する皮膜の追従性が確認でき、追従性の高い皮膜、つまり基材との密着性に優れた皮膜は、圧痕の外周から発生する剥離のサイズが極めて小さい。逆に基材の変形に対する追従性の低い皮膜、つまり基材との密着性が低い皮膜は、剥離のサイズが大きくなる。
金型基材と硬質皮膜の密着性を高めるためには、圧痕試験において、硬質皮膜の剥離が生じないことが最も好ましい。しかしながら、剥離が生ずる場合であっても、圧痕の外周から生ずる剥離が微小であれば、密着性の低下を抑制することができる。つまり、Cスケールロックウエル硬度計を用いて押圧した場合に、圧痕の外周から径方向に生ずる前記硬質皮膜の剥離において最大サイズが50μm以下であれば優れた密着性を保つことができる。より好ましくは30μm以下であり、さらには20μm以下である。
圧痕の外周から生ずる剥離を確認するには、例えば、倍率が100倍の光学顕微鏡観察で確認することができる。
以上、本発明の被覆金型について説明した。本発明の被覆金型は、その基材となる金属材質について特段に定めるものではない。そして、例えば上記の通りの、冷間ダイス鋼、熱間ダイス鋼、高速度鋼および超硬合金等が使用できる。これについては、JIS等による規格金属種(鋼種)を含め、従来金型への使用が可能な鋼種として提案のされてきた改良金属種も適用できる。基材は、窒化処理、浸炭処理等といった拡散を利用した表面硬化処理を予め適用してもよい。
その他、b層の上には、本発明の表面粗さを満たした上で、極薄い機能層を被覆してもよい。そして、本発明の中間層とb層は、窒化物が主体であることでその効果が発揮され、窒化物中の窒素に対しては、酸素、硼素、硫黄、炭素等を、その合計で、10%以下の原子比の範囲で添加しても、本発明の効果は発揮される。
次に、本発明の被覆金型の製造方法について述べる。本発明の被覆金型は、金型基材の表面粗さを、JIS−B−0601(2001)による表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下、最大高さRzで0.8μm以下に調整しておくことで、スパッタリング法で被覆する硬質皮膜の表面粗さを適正に制御することができる。
本発明の被覆金型は、PVD法のうち、皮膜表面を平滑に研磨しなくても平滑な表面状態となり易いスパッタリング法で被覆する。一方、PVD法のうち、アークイオンプレーティング法で被覆すると、皮膜内部や表面に多量のドロップレットが発生するため、表面粗さが低下して耐付着性が低下する。この場合、皮膜表面を本発明の表面粗さに平滑研磨したとしても、皮膜表面のドロップレットが除去した凹部には被加工材が入り込み易く、特に樹脂や粉末といった付着が発生し易い被加工材の場合には、耐付着性を改善することは困難となる。
上述した通り、本発明の被覆金型を達成する上では、その被覆に用いるPVD法には、平滑な皮膜表面が得られ易いスパッタリング法を適用する。しかし一方で従来のスパッタリング法では、本発明の皮膜構造であっても、過酷な使用環境下において基材との密着強度を十分に保つには困難であった。そこで、本発明では、この密着強度を大幅に改善し得る好ましいスパッタリング法をも確立した。
本発明の製造方法においては、スパッタ中の金型基材に印加するバイアス電圧が重要である。すなわち、表面に被覆された硬質皮膜は、負圧に印加したバイアス電圧によって、成膜と同時にスパッタガスイオンでボンバードされる。このとき、バイアス電圧が−90V未満(−90Vよりもプラス側)では、ボンバード効果が弱く、AlCrSiの窒化物の皮膜粒子は針状に成長し、皮膜が緻密化せずに隙間が多く耐摩耗性および耐付着性が低下する。そこで、本発明においては、このバイアス電圧を−90V以上のマイナス側に大きくすることで、緻密で微細な組織形態となり、ナノインデンテーション装置を用いた皮膜硬度が35GPa以上もの高硬度に達し、耐摩耗性および耐付着性を向上させることができる。より好ましくは−100V以上のマイナス側に大きくする。
安定して成膜するためには、金型基材に印加するバイアス電圧は−200V以下(−200Vよりもプラス側)とすることが好ましい。
本発明のスパッタリング法では、基材に印加する負圧のバイアス電圧を制御することに加えて、ターゲットに投入する平均のスパッタ電力を1kW以上とする。例えば、特許文献6に記載されるように、従来のAlCr系の窒化物皮膜を被覆するときの、ターゲットに投入されるスパッタ電力は300W程度である。これに対し、本発明では1kW以上、好ましくは2kW以上、さらに好ましくは3kW以上、さらに好ましくは4kW以上という高電力値に設定することで、皮膜の基材との密着強度および微細な表面平滑度が格段に向上し、被覆金型に要求される諸特性を満足する。
例えば、AlCrSi合金ターゲットに投入する平均電力が高いと、AlCrSiの窒化物の皮膜粒子の成長方向が変わり、粒子形態が粒状または柱状へと変化して緻密な皮膜組織が得られ高硬度となり易い。逆に、スパッタ電力が低い場合では、その成膜時のエネルギーは低いことから、粒子が縦方向に成長する傾向となり、得られる皮膜表面は個々の粒子の凹凸、すなわち針状の表面形態となり易い。そのため、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに投入する平均電力を1kW以上とすることで微細で緻密な組織構造となり、耐摩耗性と耐付着性の抑制にも効果を発揮することができる。
安定して成膜するために、硬質皮膜の成膜時には、各ターゲットへの平均出力は最大で10kW以下とすることが好ましい。
さらに、基材側にあるa層の被覆では、Tiターゲットへ投入する平均電力を1kW以上とするだけでなく、ターゲットへ投入する最大電力を0.1MW以上と極めて高くすることが重要である。このようにターゲットに極めて高い最大電力を投入して基材側にあるa層を設けることで、a層が極めて微細で緻密になり、さらにその上に被覆される中間層およびb層も緻密で微細となって、皮膜全体の密着強度が向上するだけでなく、皮膜表面の微細な凹凸や空隙が減少することで極めて平滑になり、耐付着性が向上する。より好ましくは0.15MW以上である。
ターゲットへ極めて高い最大電力を投入するには、HIPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)やHPPMS(High Power Pulse Magnetron Sputtering)等のターゲットのイオン化率が高い、いわゆる高出力パルススパッタリング法が好ましい。
また、極めて高い電力を投入すると装置への負荷が大きくなるため、パルス状に電力を投入して、1周期あたりの放電時間が20μ秒程度の間に、ターゲットへ投入する最大電力を0.1MW以上にすることが好ましい。
中間層の成膜では、スパッタリング装置内に設置された複数個のターゲットに投入する平均電力を調整することで、TiとSiの比率を基材側から表面側に向けて変化させる傾斜構造とする。つまり、a層を被覆した次には、a層を被覆したTiターゲットに投入する電力を減少させ、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに電力を投入することで、a層側からb層側に向けてTi比率が減少するTiと、a層側からb層側に向けてb層のSi比率に近づくように増加するSiと、を含むAlCrの窒化物とする。
このような中間層を設けることで、皮膜全体の密着強度が向上するだけでなく、中間層の上に設けるb層が緻密で微細となるため、皮膜表面の微細な凹凸や空隙が減少して平滑になるため、耐付着性も向上する。
傾斜構造とするには、中間層の成膜初期からTiターゲットの電力を減少させるだけでなく、Tiターゲットに投入する電力を一定として、AlCrSi合金ターゲットに印加する電力を増加させることで、TiとSiの比率を傾斜させてもよい。AlCrSi合金ターゲットを複数個用いることで、傾斜構造を制御し易く好ましい。
皮膜組成を調節するために、AlCrSi合金ターゲット以外のターゲット、例えばAlCr合金ターゲット等を同時に稼動させてもよい。
本発明のb層は、1個のAlCrSi合金ターゲットでも成膜可能だが、複数個のターゲットを用いても成膜できる。複数のターゲットを用いて成膜した場合、ナノレベルで観察すると積層構造となる。そのため、複数のターゲットの一部に、AlCrSi合金ターゲット以外の軟質な皮膜組成となる合金ターゲットを用いると、皮膜全体の平均組成は本発明の組成範囲を満たすとしても、硬度が低くなる傾向にある。そのため、複数個のターゲットを用いる場合はいずれも、耐摩耗性と耐熱性が優れる皮膜種であるAlCrSi合金ターゲットを用いることが好ましい。
<評価用試料の作製>
基材にはJISに規定される高速度鋼SKH51を用意した。これを真空中1180℃の加熱保持から窒素ガス冷却により焼入れ後、560℃での焼戻しにより64HRCに調質したものを用いた。基材は、厚さ5mm、直径20mmの円筒状とした。
次に、上記の基材表面を♯1000、♯1500の研磨紙により磨いた後、電解研磨を行い、最後にエアロラップ処理(株式会社ヤマシタワークス製エアロラップ装置(AERO LAP YT−300)使用)により平滑化して、表面粗さをRaで0.02μm、Rzで0.2μmに整えた。そして、炭化水素系の溶剤中で超音波洗浄し、脱脂したものにつき、以下の表面処理を施して、皮膜構成および特性を評価するための試料をそれぞれ作製した。
試料No.1〜9の成膜手段にはスパッタリング法を採用し、a層、中間層、b層を同一チャンバー内で連続して成膜するために、成膜装置はスパッタ蒸発源を5機搭載した。表1に使用したターゲットを示す。数値は原子による比率である。なお、スパッタターゲットのサイズは500mm×88mmである。
試料No.10は、表1に示す2種類のターゲットを用いたアークイオンプレーティング法で成膜した。
バイアス電源は、基材に接続され、独立して基材に負圧のバイアス電圧を印加する。基材は、毎分2回転で自転しかつ、固定冶具とサンプルホルダーを介して公転する。基材とターゲット表面間の距離は50mmとした。導入ガスは、Ar、Nを用い、ガス供給ポートから導入した。
まず成膜装置内のヒーターにより基材温度が500℃になった状態で90分間の加熱を行い、真空容器(チャンバー)内の圧力が4×10−3Paに達した後、Arガスを真空容器内に導入し、炉内の圧力を0.2Paとした。そして、基材に−200Vの直流バイアス電圧を印加し、Arイオンによる基材のクリーニングを10分間実施した。
容器内の圧力を1×10−3Paに真空排気して、基材の温度を450℃の一定とし、一定流量のArガス500mlのもとで、容器内の圧力が650mPaになるようにNガスを導入した。そして、バイアス電圧を−100V、アノード電圧を−90Vに設定し、a層の膜厚は約0.1μm、中間層の膜厚は約1.5μm、b層の膜厚は約0.5μmになるよう成膜した。
以下、各試料の成膜条件の詳細を示す。表2には、a層の成膜方法および中間層とb層の成膜時に金型基材に印加した負圧のバイアス電圧を示す。
本発明例の試料No.1は、ターゲットへ高い電力を投入できる高出力パルスマグネトロンスパッタリング法で成膜した。a層の成膜では、カソード1に、パルスモジュールを設置し、平均電力2kW、1周期あたりの放電時間20μ秒と一定とし、周波数を600Hz、このときの最大電力を0.16MWとして5分間電力を供給し被覆した。
中間層の成膜では、バイアス電圧を−120V、アノード電圧を−110Vに設定した。引き続いて、カソード2に、直流4kWの電力を供給し、5分間中間層を被覆した。このときカソード1は稼動している。
引き続いて、カソード3に、直流4kWの電力を供給し、5分間中間層を被覆した。このときカソード1とカソード2は稼動している。
引き続いて、カソード1への電力供給を停止したのち、カソード4に、直流4kWの電力を供給し、5分間中間層を被覆した。このときカソード2とカソード3は稼動している。引き続いて、カソード5に、直流0.5kWの電力を供給し、10秒で50Wずつ最終的に4kWに達するまで電力を上昇させながら60分間中間層を被覆した。このときカソード2とカソード3とカソード4は稼動している。
b層の成膜では、カソード2とカソード3の電力供給を停止して、45分間、カソード4とカソード5で被覆した。
被覆試料は200℃以下に冷却後、容器内から取り出し皮膜特性を評価した。
本発明例の試料No.2は、中間層およびb層の成膜時に印加するバイアス電圧を−100Vと変更した以外は、本発明例の試料No.1と同一の製造方法で成膜した。
本発明例の試料No.3、4は、カソードに設置するターゲット組成を変更した以外は、本発明例1と同一の製造方法で成膜した。
比較例の試料No.5は、本発明例の試料No.1の製造方法に対して、Tiターゲットを設置せず成膜した。
比較例の試料No.6は、カソードに設置するターゲット組成を変更した以外は、本発明例の試料No.1と同一の製造方法で成膜した。
比較例の試料No.7は、中間層およびb層の成膜時に印加するバイアス電圧を−80Vと変更した以外は、本発明例の試料No.1と同一の製造方法で成膜した。
比較例の試料No.8は、a層の成膜に通常のスパッタリング法を用い、カソードに設置するターゲット組成を変更した以外は、本発明例の試料No.1と同じ製造方法で成膜した。
比較例の試料No.9は、a層の成膜に通常のスパッタリング法を用いた以外は、本発明例の試料No.1と同一の製造方法で成膜した。
比較例の試料No.10は、アークイオンプレーティング法で成膜した。
a層の成膜では、基材に印加するバイアス電圧を−150Vと設定し、カソード1に150Aの電流を供給して成膜した。
中間層の成膜では、バイアス電圧を−100Vに設定した。そして、カソード1の電流を徐々に減少させ、カソード5の電流を増加させていった。
b層の成膜では、カソード1への電力供給を停止して、カソード5に150Aの電流を供給して成膜した。
成膜後、試料を装置から取り出し、皮膜表面のドロップレットを除去するために、皮膜表面をエアロラップ処理(株式会社ヤマシタワークス製エアロラップ装置(AERO LAP YT−300)使用)により平滑化した。
被覆した各試料の皮膜組成を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA;日本電子(株)製JXA−8900R)を用いて分析した。皮膜の最表面に対し試験片を5度傾けた皮膜断面を鏡面研磨後、その研磨面にある中間層、b層を分析した。分析は、加速電圧15kV、試料電流0.2μA、プローブ直径0.1μm、計数時間10秒で行い、その測定を5回実施した平均値を皮膜組成とした。表3に皮膜組成の分析結果を示す。数値は原子比を示す。尚、傾斜組成である中間層は、b層の直下付近を5箇所測定した参考値である。
[表面粗さの評価]
東京精密製SURFCOM480Aの接触式面粗さ測定器で、皮膜表面のRa、Rzを測定した。測定条件は、下記とした。
評価長さ :2mm又は4mm、
測定速度 :0.3mm/s、
カットオフ値 :0.8mm、
フィルター種別:ガウシアン、
測定レンジ :±40μm、
傾斜補正 :直線、
カットオフ比 :300、
そして、得られたプロファイルからRa、Rzを測定した。測定値は、3回測定した平均値とした。結果を表3に示す。
[硬度測定]
エリオニクス製のナノインデンテーション装置を用い、b層の硬度を測定した。皮膜の硬度を測定するために、試験片を5度傾けて、鏡面研磨後、皮膜の研磨面内で最大押し込み深さがb層の略1/10未満となる領域を選定した。このとき略1/5程度でも基材の影響はなかった。押込み荷重49mN、最大荷重保持時間1秒、荷重負荷後の除去速度0.49mN/秒の測定条件で10点測定し、その平均値を求めた。
本測定方法における皮膜硬度は、圧子の微細形状、測定時の温度、湿度、試料の表面状態に左右され易く、得られる数値は必ずしもビッカース硬さと一致しない。そのため、標準試料である単結晶Siを測定した。そのときの単結晶Siの皮膜硬さは12GPaであり、本測定結果をもとに相対比較することができる。測定結果を表3に示す。
[結晶性の評価]
各試料の硬質皮膜の表面からX線回折を行い、b層の最大強度を示す結晶構造を同定した。使用した設備はリガク社製X線回折装置であり、管電圧120kV、管電流40μm、X線源Cukα、X線入射角5度、X線入射スリット0.4mm、2θを20〜90度の条件で測定した。表3に測定結果を示す。
[耐酸化性の評価]
耐酸化性の評価は、大気炉を用い、大気中1000℃で3時間保持した後の酸化状態を観察した。本評価では、本発明例と比較例の何れの試料も基材の酸化は確認できず、優れた耐酸化性を示した。
[密着性の評価]
密着性の評価は、ミツトヨ製AR−100を用いて、コーティング表面からロックウェ
ルCスケースで圧痕を形成して評価した。曲率半径0.2mm、円錐角120°のダイヤモンド圧子を1471Nで押しつけてできた圧痕の外周から径方向に生ずる剥離を確認し、その最大サイズが50μm未満の場合は(○)、50μm以上である場合は(×)で密着性を評価した。測定結果を表3に示す。
[耐付着性の評価]
本検討では実金型の耐付着性を簡易評価するため、被加工材として金型表面への付着が発生し易い樹脂を用いて評価した。樹脂にはポリフッ化ビニリデンを用いて、皮膜表面への付着状態を観察した。ポリフッ化ビニリデン粉末をアセトンで溶解させた10%溶液を、銅フィルム上へ均一に塗布し、直径20mmの円筒状の基材に被覆した試料No.1〜10を、5kg、10kgの荷重で30秒間おしつけて徐荷した後、各試料の表面を実体顕微鏡で観察して、ポリフッ化ビニリデンが付着した面積率を求めた。試験は常温で行った。その結果を表3に示す。
本発明例のNo.1〜4はいずれも優れた密着性および耐付着性を示した。
図1、2に試料No.1の走査電子顕微鏡による表面観察写真および断面写真を示す。本発明の皮膜を高倍観察すると、極めて平滑で緻密であり、結晶粒界も滑らかであることが確認される。また、断面観察からも、b層が極めて微細で緻密であることが確認される。
本発明例はいずれも、図1、2に示すような組織形態で、b層は微細部でも極めて緻密で平滑であるため、被加工材が付着する起点がほとんど無く、付着が発生しなかったと推定される。
図3に本発明例の試料No.1のロックウェル圧痕試験の結果を示す。皮膜剥離が無いことが確認される。本発明例の試料No.1〜4はいずれも、圧痕外周からの剥離は確認されなかった。
比較例である試料No.5は、本発明例の皮膜構造とは異なり、密着性と耐付着性が低下している。図4、5に試料No.5の走査電子顕微鏡による表面観察写真および断面写真を示す。本発明例と比較して、皮膜表面を高倍で観察した微細部分に凹凸が多い。そして、b層の結晶粒径が本発明例よりも粗大であることが確認される。よって、被加工材が付着する凹凸や空隙が多いため、付着が発生したと考えられる。
比較例である試料No.6は、b層のSi含有量が少なく、耐付着性が低下している。図6、7に試料No.6の走査電子顕微鏡による表面観察写真および断面写真を示す。皮膜表面の凹凸が多く、個々の結晶粒界が明確に確認できる。そして、断面観察からb層の結晶粒径が極めて粗大であることが確認される。よって、被加工材が付着する起点が極めて多いため、付着が多く発生したと考えられる。密着性試験では、圧痕外周からの剥離は確認されなかった。
比較例の試料No.7は、中間層とb層の被覆時に、基材に印加する負圧のバイアス電圧が低い。そのため、皮膜硬度が低く、皮膜の緻密化が不十分であるため、付着が発生したと考えられる。密着性試験では、圧痕外周からの剥離は確認されなかった。
比較例の試料No.8、9は、a層を通常スパッタリング法で成膜したため、本発明と比較してa層の緻密化と微細化が不十分であり、その上で成長する中間層とb層も、緻密化と微細化が不十分であるため、密着性および耐付着性が低下したと考えられる。
図8に比較例の試料No.9のロックウェル圧痕試験の結果を示す。皮膜剥離が確認される。比較例の試料No.5、8、9はいずれも、圧痕の外周から剥離が生じており、外周から径方向の最大サイズが500μm程度であった。
比較例の試料No.10は、アークイオンプレーティング法で成膜したため、付着性が低下している。図9に試料No.10の走査電子顕微鏡による表面観察写真を示す。
表面を平滑に研磨してドロップレットを除去しても、ドロップレットの除去された部分が凹部となっているのが確認される。そのため、被加工材が付着する起点が多く、付着が発生したと考えられる。密着性試験では、圧痕外周からの剥離は確認されなかった。
高周波グロー放電発光分析によって、その深さ方向の組成分析を行った本発明例の試料No.1の結果を図10に示す。a層とb層の間には、Ti及びSiが傾斜した中間層があり、b層(スパッタリング時間0秒)より基材側に向かって、b層、中間層、a層の存在が確認される。そして、中間層は、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、a層側からb層側に向かってb層のSi比率に近づくように増加するSiを含むAlCrの窒化物であることが確認される。
本発明例である試料No.2〜4も同様に、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、a層側からb層側に向かってb層のSi比率に近づくように増加するSiを含むAlCrの窒化物であった。
本発明は、耐久性および耐付着性が必要とされる被覆金型について述べたものである。そして、その優れた耐摩耗性、耐酸化性、密着性を考慮すると、使用条件によっては、鉄系に限らず、チタニウム、アルミニウム、ならびにそれらの合金の塑性加工にも適用が可能である。また、本発明の被覆金型は、ダイカストおよび鋳造に使用される金型、もしくは鋳抜きピンや、ダイカストの射出機に使用されるピストンリング等の、溶融金属に接して使用される鋳造用部材に有効である。そして優れた耐付着性を考慮すると、樹脂材だけでなく各種粉末成形用の金型としても、適用が可能である。

Claims (5)

  1. 表面に硬質皮膜をスパッタリング法で被覆した被覆金型であって、前記硬質皮膜はその金型基材側に被覆したTiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかからなるa層と、金型表面側に被覆したAlCrSiの窒化物(但し、x、y、zは原子比を示し、x+y+z=100、かつx>y、かつ3≦z<20)からなり、硬度が35GPa以上であるb層と、前記a層と前記b層の間に配置され、a層側からb層側に向かってTi比率が減少するTiと、前記a層側から前記b層側に向かって前記b層のSi比率に近づくように増加するSiと、を含むAlCrの窒化物(但し、v、wは原子比を示し、v>w)からなる中間層とを有し、
    前記硬質皮膜は、JIS−B−0601(2001)による表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下、最大高さRzで0.8μm以下であり、
    Cスケールロックウエル硬度計を用いて押圧した場合に、圧痕の外周から径方向に生ずる前記硬質皮膜の剥離における最大サイズが50μm以下であることを特徴とする耐付着性に優れる被覆金型。
  2. b層の結晶構造が、六方晶であることを特徴とする請求項1に記載の耐付着性に優れる被覆金型。
  3. a層の膜厚が、0.001〜0.2μmであることを特徴とする請求項1または2に記載の耐付着性に優れる被覆金型。
  4. 中間層とb層の膜厚が、それぞれ0.2〜2μmであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の耐付着性に優れる被覆金型。
  5. 金型基材の表面粗さを、JIS−B−0601(2001)による表面粗さが算術平均粗さRaで0.1μm以下、最大高さRzで0.8μm以下に調整し、次いで、金型基材に印加する負圧のバイアス電圧を90V以上とし、
    (1)Tiターゲットに、平均電力が1kW以上、最大電力が0.1MW以上のスパッタ電力を投入し、TiまたはTiの窒化物、炭化物、炭窒化物の何れかからなるa層を被覆し、
    (2)次に、前記a層を被覆した前記Tiターゲットの投入電力を減少させると共に、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに、平均電力の合計が1kW以上のスパッタ電力を投入して、a層側からb層側に向かって、Ti比率が減少するTiと、前記a層側から前記b層側に向かって、次に被覆するb層のSi比率に近づくように増加するSiと、を含むAlCrの窒化物(但し、v、wは原子比を示し、v>w)からなる中間層を被覆し、
    (3)次に、1または複数個のAlCrSi合金ターゲットに、平均電力の合計が1kW以上のスパッタ電力を投入して、前記中間層の上にAlCrSiの窒化物(但し、x、y、zは原子比を示し、x+y+z=100、かつx>y、かつ3≦z<20)からなる前記b層を被覆することを特徴とする耐付着性に優れる被覆金型の製造方法。
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