以下に、本発明にかかる無線局の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
ここで、各実施の形態の説明を開始するにあたり、まず本発明で重要となる伝搬路可逆性条件に関する理論展開を示す。本理論展開は従来には無く、本発明によって行われるものであり、発明の基本概念を形成するものである。
(伝送モデル)
無線通信機器では、アンテナとA/D変換(またはD/A変換)の間のアナログデバイス特性によって、デジタル領域で測定される伝搬路(測定伝搬路)の状態も異なる。通常、デジタル信号のみを扱う場合には、アナログデバイス特性と実伝搬路を含めて「測定伝搬路」として扱うのが一般的である。しかし、以下に示す各実施の形態の説明では、アナログ特性の議論を行うため、測定伝搬路を実伝搬路とアナログ特性に分離して表記する場合がある。そこで、無線機の送信系または受信系におけるアナログデバイスの複素利得をそれぞれT,Rとおく。
図1にTDD方式における基地局の1アンテナと端末kのアンテナmの間の伝送モデルを示す。基地局および端末kアンテナmの送信アナログ利得をそれぞれTBS,Tk,m、受信アナログ利得をそれぞれRBS,Rk,mとする。通常、無線通信システムにおいてTBS,Tk,m,RBS,Rk,mは伝送帯域内でほぼ一定となる場合が多く、パケット伝送またはフェージング周期に比べて十分長い時間単位tRF(例えば、10秒以上)でアナログデバイスの温度特性に応じて変動する。
このとき、基地局と端末kアンテナmの間のデジタル領域において測定される上りリンク測定伝搬路の利得hk,m (UL)および下りリンク測定伝搬路の利得hk,m (DL)はそれぞれ次式(1)で表される。
hk,m (UL)=Tk,m・gk,m (UL)・RBS
hk,m (DL)=TBS・gk,m (DL)・Rk,m …(1)
ここで、gk,m (UL),gk,m (DL)はそれぞれ上りリンクおよび下リンクにおける基地局と端末kアンテナmの間の実伝搬路の利得である。
電波伝搬理論によれば変動の無い実伝搬路では可逆性が成り立ちgk,m (UL)=gk,m (DL)となる。この関係は、アンテナのカップリングや種々の反射のある無線通信環境で成り立つ。一方、TBS,Tk,m,RBS,Rk,mは長周期で互いに独立に変動するため、測定伝搬利得は一般にhk,m (UL)≠hk,m (DL)となる。このように測定伝搬路では適切な補正を行わなければ可逆性が成り立たない。
(TDD方式における伝搬路可逆性の条件)
TDD方式において測定した伝搬路の可逆性が成り立つためにはキャリブレーションが必要となる。たとえば、後述する実施の形態1では、図1に示すように基地局のデジタル送信部および端末kアンテナmのデジタル送信部(端末kの各アンテナに対応するデジタル送信部)にそれぞれ複素補正係数uBS,uk,m(m=1,…,M)を乗じてキャリブレーションを行う。このとき、基地局と端末kアンテナmの間の補正を行った上りリンク測定伝搬路はuk,mhk,m (UL)、補正を行った下りリンクの測定伝搬路はuBShk,m (DL)と表される。従って、端末kのアンテナm(m=1,…,M)と基地局の間で可逆性を維持するためには次式(2)の条件が必要となる。
ここで、ηは複素係数であり、以下、η=1である場合を「狭義の可逆性」、η≠1の場合を「広義の可逆性」と呼ぶ。広義の可逆性であっても、上下リンクの測定伝搬利得に比例関係があれば、送信ビーム形成等を行える実用上の利点がある。しかし、後述する実施の形態で示すように、狭義の可逆性(η=1)ではさらに多くの利点がある。そして、式(1)を用いると、式(2)は次式(3)の形式に書き表せる。
この結果からわかるように、係数uk,mはTBS,Tk,m,RBS,Rk,mのみに依存し、実伝搬路の利得gk,m (UL),gk,m (DL)に依存しない。従って、式(3)を満たすuk,mを一旦設定すると、実伝搬路の利得gk,m (UL),gk,m (DL)が変動しても式(2)の測定伝搬路の可逆性は維持され、uk,mはアナログ特性の変動に合わせて長時間単位で更新すればよいことが分かる。したがって、キャリブレーションでは、式(2)を実現できる補正係数uk,mを簡易な手法で取得することが重要となる。特に、安価な端末でも可逆性を利用できる簡易なキャリブレーションが望まれる。
以上が、キャリブレーション技術を構築する上で重要となる本発明で導かれた基礎理論である。以降に、この理論的な関係を考慮して、本発明のキャリブレーション技術を詳細に説明する。なお、各実施の形態では、表現を簡単化するため、セルラシステムを想定して2つの無線機を「基地局」,「端末k」として説明する。しかし、実環境ではここで記述の「基地局」,「端末k」は基地局、リレー装置、端末を含むいかなる無線機器であっても構わない。
また、各実施の形態では広義の可逆性条件(η≠1)を満たすキャリブレーションと狭義の可逆性条件(η=1)を満たすキャリブレーションの双方を扱う。その中で、まず実施の形態1では、複数アンテナを持つ端末kにおいて広義の可逆性条件(η≠1)を満たす自己キャリブレーションについて示す。
以降の説明では、さまざまな実施の形態について述べるが、すべての実施の形態は「実伝搬路で可逆性が成り立つ(gk,m (UL)=gk,m (DL))という原理を用いる」という共通コンセプトに基づいて行われた一連の発明およびその発明から派生的に発生する実施の形態を示したものであり、一つの基本発明を具現化したものである。なお、実施の形態1〜3で述べる、複数アンテナを持つ無線機が単独でキャリブレーション(位相補正、位相振幅補正)を行う際に、実伝搬路の可逆性を用いる技術は、発明者の知る範囲においてこれまで存在していない。また、実施の形態4以降で述べる、1つの無線機が他の無線機とキャリブレーションを行う際に、実伝搬路の可逆性を用いて狭義の可逆性を維持する技術は発明者の知る範囲においてこれまで存在していない。さらに、実施の形態27以降では周波数補正についても述べるが、この実伝搬路の可逆性を用いた周波数補正も同様に、これまで存在していない。また、全実施の形態を通して実伝搬路の可逆性を用いて従来技術よりも効率的な制御を可能とする方法を開示する。本明細書では、実伝搬路で可逆性が成り立つことを用いることにより、従来技術と比較して位相補正、位相振幅補正、周波数補正の技術を飛躍的に進歩できることを示す。また、無線伝送技術のみならず無線システムにおいても大きな進展を可能とする技術であることを述べる。
実施の形態1.
本実施の形態では、TDD方式においてデジタル部で測定される伝搬路の可逆性が成り立つように信号の補正を行うキャリブレーション手法について説明する。
ここで、図2は、複数アンテナ間でキャリブレーションを行う端末装置の構成例を示す図である。また、図3は、端末の複数アンテナ間でキャリブレーションを行う際の信号伝送モデルを示す図であり、図4は、実施の形態1のキャリブレーション手順の一例を示すフローチャートである。
図2に示した端末kは、複数のアンテナm(m=1,…,M)と、信号送受信部11と、本発明にかかるキャリブレーション方法を実現するための制御を行うキャリブレーション制御部12と、各アンテナと1対1で対応し、複素補正係数を用いて信号送受信部11から出力されたデジタル送信信号に含まれる位相偏差/振幅偏差をキャンセルする複数の信号補正部(uk,m)13−m(m=1,…,M)と、信号補正部13−mからの出力信号をアナログ信号へ変換する複数のD/A変換部(D/A)14−mと、D/A変換部14−mからの出力信号に対して送信アナログ利得を乗算する複数の送信信号増幅部(Tk,m)15−mと、対応するアンテナで受信した信号に対して受信アナログ利得を乗算する複数の受信信号増幅部(Rk,m)16−mと、受信信号増幅部16−mからの出力信号をデジタル信号へ変換する複数のA/D変換部(A/D)17−mと、を備える。
以上の図2〜4を用いて本実施の形態の端末(通信装置)が実行するキャリブレーション動作を説明する。本実施の形態では以下の制御手順でキャリブレーションを行う。
(1−1)端末kは、各アンテナmからパイロット信号を送信し、さらに、これらのパイロット信号をアンテナ1で受信し、受信パイロット信号を用いてアンテナm(m=2,…,M)からのパイロット信号に対応するチャネルhk,m self,Fを測定する。具体的には、キャリブレーション制御部12がアンテナm(m=2,…,M)に対応する各D/A変換部へパイロット信号を入力し、各アンテナmからパイロット信号を送信する。そして、これらのパイロット信号をアンテナ1で受信し、アンテナ1に対応するA/D変換部17−1の出力信号を用いて、キャリブレーション制御部12がhk,m self,Fを測定する(図4、ステップS41)。この際、アンテナmからの各パイロット信号は、異なる時間または周波数でパイロット信号を送信しても構わないし、互いに直交するパイロット信号を同じ時間・周波数で送信しても構わない。なお、直交するパイロット信号を同じ時間・周波数で送信する場合には、少ない時間周波数領域で信号伝送できる格別の利点がある。
(1−2)端末kは、アンテナ1からパイロット信号を送信し、さらに、このパイロット信号をアンテナm(=2,…,M)で受信し、受信パイロット信号を用いてアンテナ1からのパイロット信号に対応する各チャネルhk,m self,Rを測定する。具体的には、キャリブレーション制御部12がアンテナ1に対応するD/A変換部(この場合、D/A変換部14−1)へパイロット信号を入力し、アンテナ1からパイロット信号を送信する。そして、このパイロット信号をアンテナmで受信し、アンテナmに対応したA/D変換部17−mからの出力信号を用いて、キャリブレーション制御部12がhk,m self,Rを測定する(ステップS42)。
(1−3)キャリブレーション制御部12は、上記手順(1−1)および(1−2)を実行して得られた測定チャネル情報hk,m self,F,hk,m self,R(m=2,…,M)を用いて、アンテナmの補正係数uk,m=uk,1(hk,m self,R/hk,m self,F)を算出する(ステップS43)。なお、uk,1は任意の値に設定可能である。
(1−4)端末kは、上記手順を実行して算出した補正係数uk,mを各アンテナm(m=1,…,M)に対応する送信部(信号送信部11から信号補正部13−m,D/A変換部14−m,送信信号増幅部15−mを経てアンテナmへ至る系に相当)で適用する(ステップS44)。なお、この制御はキャリブレーション制御部12が行う。
ここで、測定チャネル情報hk,m self,Fは、端末kのアンテナmからアンテナ1(基準アンテナ)への経路における測定伝搬路利得、測定チャネル情報hk,m self,Rは、アンテナ1からアンテナmへの経路における測定伝搬路利得を表す。また、上記手順(1−1)と(1−2)は順番が入れ替わってもよい。
図3−1および図3−2は、端末の複数アンテナ間でキャリブレーションを行う際の信号伝送モデルを示す図であり、測定伝搬路と実伝搬路の関係を示している。測定伝搬路には実伝搬路に加えて送受信系のアナログデバイス特性が含まれる。本実施の形態の手順により、デジタル領域で測定される測定伝搬路について、広義の可逆性が成り立つ。その結果、信号送受信部11では測定伝搬路で広義の可逆性が成り立つものとして、信号送受信および伝送制御を行うことができる。なお、図3−1は上記ステップS41(手順(1−1)に相当)の処理に対応し、図3−2は上記ステップS4−2(手順(1−2)に相当)に対応する。
以下、本実施の形態のキャリブレーションにより測定伝搬路で広義の可逆性が成り立つ理由を説明する。まず、図3−1および図3−2に示すように、測定伝搬路利得hk,m self,F,hk,m self,Rは、それぞれ次式(4),(5)で表される。
hk,m self,F=Tk,m・gk,m self,F・Rk,1 …(4)
hk,m self,R=Tk,l・gk,m self,R・Rk,m …(5)
ここで、gk,m self,Fは端末kのアンテナmからアンテナ1への実伝搬路の利得、gk,m self,Rは端末kのアンテナ1からアンテナmへの実伝搬路の利得を表す。実伝搬路では可逆性(gk,m self,R=gk,m self,F)が成り立つ。
測定伝搬路において広義の可逆性が成り立つためには、式(2)より次式(6)が成り立つ必要がある。
式(4),(5),(6)より、補正係数u
k,mに関して次式(7)が成り立つ。
式(6)ではM個の変数uk,1,…,uk,Mに対して、M−1個の条件式が存在し、uk,1,…,uk,Mは、スカラー倍の自由度を有する。従って、uk,1を非零の任意の値に設定してかまわない。例えば、uk,1=1と設定すると、uk,mは次式(8)で与えられる。
よって、uk,1=1,uk,m=hk,m self,R/hk,m self,F(m=2,…,M)と設定すれば、測定伝搬路における広義の可逆性が成り立つ。
このように、キャリブレーション制御部12が、特定の1つのアンテナから信号を送信してm番目のアンテナにおいてチャネルを測定し、さらに、m番目のアンテナから信号を送信して当該特定のアンテナでチャネルを測定し、前記2つのチャネル測定値の比を用いて送信信号または受信信号の振幅位相(振幅および位相)または位相を補正することとしたので、測定伝搬路において可逆性を保持できる。
なお、本実施の形態で示したキャリブレーションはデジタル領域で取得したパラメータのみから容易に補正係数uk,mを算出できる。この導出過程(式(4)(5)(6)から式(7)を導く過程)において、式(4)で示したhk,m self,Fと式(5)で示したhk,m self,Rに含まれる実伝搬路の利得gk,m self,F,gk,m self,Rが可逆(gk,m self,F=gk,m self,R)であることを用いて式(7)において分母と分子でgk,m self,F,gk,m self,Rを相殺している。このように、実伝搬路が可逆であるという点に着目することで、デジタル処理のみの簡易な構成で理論的に必要とされるパラメータuk,mを演算できる。また、式(7)からも明らかなように、パラメータuk,mの算出式では、アンテナ間の距離情報などを全く必要としない。
なお、ここでは端末kの送信信号を補正係数uk,mで調整する構成を示したが、本構成の代わりに受信信号の補正を行い、可逆性を維持する構成も可能である。例えば、各アンテナm(m=1,…,M)の受信信号を補正係数u'k,mで補正すると、可逆性を満たすために次式(9)の関係が必要となる。
そして、式(6)と式(9)を比較すると、受信信号の補正を行う場合にはu'k,m=1/uk,mとすればよいことが分かる。このように、本実施の形態は送信信号、受信信号のいずれの補正を行う場合にも適用可能である。同様に、以降の全ての実施の形態では、一例として送信信号の補正について説明を行うが、送信信号の補正は受信信号の補正に置き換えることができる。従って、全ての実施の形態は受信信号を補正する場合にも適用できる。
また、本実施の形態では全てをデジタル処理で行ったが、上述した補正処理をアナログ領域における等価的な処理に置き換えて行っても構わない。すなわち、本発明の特徴はアンテナから信号を放射する点、実伝搬路の利得gk,m self,Fおよびgk,m self,Rが可逆(gk,m self,F=gk,m self,R)であることを用いる点にあり、この性質を用いることにより、デジタル処理でも、アナログ処理でも従来技術より簡易な構成とできる。
なお、上記非特許文献1に記載の技術を使用するためにはスイッチング機能などのアナログ付加回路が必要となるのに対して、本実施の形態の構成ではスイッチング機能などの付加回路を必要としない。また、本実施の形態ではアンテナから実際に送信したパイロット信号を用いてチャネル測定を行う点で非特許文献1に記載された技術と異なる。さらに、上記特許文献1に記載の技術は3アンテナ以上でなければ適用できないが、本実施の形態は2アンテナの環境にも適用できる。また、特許文献1に記載の技術ではアンテナ間の距離データを事前に初得しておく必要があるが、本実施の形態の構成では必要としない。加えて、本実施の形態は、実伝搬路の可逆性を用いて、hk,m self,Fおよびhk,m self,Rに含まれるgk,m self,Fおよびgk,m self,Rを相殺するため、いかなる伝搬路に対しても適用可能である。特に、マルチパス環境、周辺環境が変化しやすい端末等においても精度よくキャリブレーションを行うことができる。また、アンテナ数Mが増加した場合にもチャネル測定用の信号数を従来技術よりも抑えつつキャリブレーションを行える。
さらに、重要な利点として、本実施の形態の手法はデジタル処理のみで容易に行うことができ、何らアナログの付加機能を必要としない。その結果、他のデジタル機能と共にチップ化し大量生産を行うと、極めて低コストで高精度なキャリブレーションを行うことができる。これは、無線通信機器の商用にあたり極めて重要な点である。上記非特許文献1に示すスイッチング機能等を付加する場合には余分なアナログ処理と無線機に応じた設計が必要となり、この低コストを実現することは困難である。また、上記特許文献1の手法では、出荷時に距離データ等を測定する必要があり、距離データ等を無線機ごとに測定する必要が生じるため高コストとなる。これに対して、本技術はアナログ付加回路、距離データ等を一切必要とせず、デジタル処理のチップ化によって市場で利用可能なレベルに大幅にコストダウンできる。このコストダウンの利点は実運用において極めて大きな効果を有する。
なお、従来の無線通信では、TDD方式においても可逆性を維持するために、高コストなキャリブレーションを行ってきた。その結果、無線機にキャリブレーションを搭載する無線機はまだ商用として普及していない。しかし、本実施の形態の方法を用いれば簡易なデジタル処理で伝搬路可逆性を容易に実現でき、無線機器での消費電力も低減できる。従って、本キャリブレーション技術を適用することによりTDD無線通信機器の大幅な簡易化が可能となる。
実施の形態2.
つづいて、実施の形態2について説明する。本実施の形態では、チャネル測定を行うためのパイロット信号の送信電力の設定について説明する。
実施の形態1で説明した手順(1−1)〜(1−4)すなわち図4に示したステップS41〜S44の処理において高いキャリブレーション精度を実現するためには、安定したチャネル測定精度を得る必要がある。そこで、本実施の形態ではアンテナに応じてチャネル測定用パイロット信号の送信電力を変化させることによりチャネル推定精度を安定化させる手法について説明する。なお、キャリブレーションを行う端末装置の構成例は、実施の形態1と同様(図2参照)である。
図5に示したように、たとえば、アンテナ1〜3について考えてみると、アンテナ1と3の間の伝搬利得(hk,3 self,Fまたはhk,3 self,R)はアンテナ1と2の間の利得(hk,2 self,Fまたはhk,2 self,R)よりも小さくなる。そこで、安定した精度でチャネル測定を行うために、キャリブレーション制御部12は、上記ステップS41でパイロット信号を送信する際に、アンテナ3からのパイロット信号がアンテナ2からのパイロット信号よりも強い送信電力を持つように設定する。すなわち、アンテナ2,3からのパイロット信号それぞれP2,P3とすると、P3>P2の関係となるように送信電力を設定する。
この場合の動作を以下で説明する。アンテナmから送信されるq0シンボルのチャネル測定用パイロット信号をsm(q)(q=1,…,q0)、送信電力をPmとすると、アンテナ1の受信部(アンテナ1から受信信号増幅部16−1,A/D変換部17−1を経てキャリブレーション制御部12へ至る系に相当)における受信信号x(q)は次式(10)で表される。
ここで、z1(q)はアンテナ1の受信部における雑音成分を表す。キャリブレーション制御部12は、次式(11−1)に従ってアンテナ1についての伝搬利得を測定する。
ここで、h'k,m self,Fは測定誤差を含めた測定値、*は複素共役を表す。式(11−1)内の変形においては、異なるアンテナからの送信信号は直交関係にあるとした。変形後の第1項は測定値、第2項は測定誤差であり、第1項と第2項の電力比によって測定精度が決まる。アンテナ3の伝搬利得hk,3 self,F(第1項)はアンテナ2の伝搬利得hk,2 self,F(第1項)よりも小さいので同等の測定精度を得るためには、アンテナ3の測定誤差(第2項)を小さくする必要がある。そこで、図5に示したようにアンテナ3からの送信電力P3を、アンテナ2からの送信電力P2より大きくし、アンテナ3の測定誤差を低減する。このように、アンテナ1から遠いアンテナからのパイロット信号の送信電力を上げることにより、全アンテナm(m=2,…,M)からの伝搬測定を同等の測定精度で行い、安定したキャリブレーションを実現できる。
なお、上記説明では、アンテナmからアンテナ1へチャネル測定用パイロット信号を送信する場合について述べたが、実施の形態1のステップS42においてアンテナ1からアンテナmへチャネル測定用パイロット信号を送信する際にも、同様に遠距離にあるアンテナへの送信信号を大きくする。
このように、チャネル測定用パイロット信号の送信電力をアンテナ位置に応じて調整することにより、安定したキャリブレーションを実現できる。
実施の形態3A.
つづいて、実施の形態3Aについて説明する。上述した実施の形態1のキャリブレーション手順では、位相と振幅を同時に補正したが、本実施の形態では、位相のみを補正する場合のキャリブレーション手順について説明する。
現実の各アンテナでのアナログ特性Tk,m,Rk,mは温度によって変動するが、通常、各アンテナの振幅特性は類似している。これに対して、位相特性は大きく変動し、通信品質に影響を及ぼす。従って、キャリブレーションでは特に位相特性の補正が重要となる。また、位相のみの補正は移相器のみで実現できるためハードウエア上さらに簡易となる。
そこで、本実施の形態では、以下に示す制御により位相補正のみを行う自己キャリブレーション手順について説明する。なお、キャリブレーションを行う端末装置の構成例は、実施の形態1と同様(図2参照)である。
(3−1)端末kは、各アンテナmからパイロット信号を送信し、さらに、これらのパイロット信号をアンテナ1で受信し、受信パイロット信号を用いてアンテナm(m=2,…,M)からのパイロット信号に対応するチャネルhk,m self,Fを測定する。なお、この手順は、実施の形態1で示した手順(1−1)と同じである。
(3−2)端末kは、アンテナ1からパイロット信号を送信し、さらに、このパイロット信号をアンテナm(=2,…,M)で受信し、受信パイロット信号を用いてアンテナ1からのパイロット信号に対応する各チャネルhk,m self,Rを測定する。なお、この手順は、実施の形態1で示した手順(1−2)と同じである。
(3−3)キャリブレーション制御部12は、上記測定チャネル情報hk,m self,F,hk,m self,R(m=2,…,M)を用い、アンテナ1の補正係数uk,1=1としてアンテナmの補正係数uk,m=(hk,m self,R/hk,m self,F)/|hk,m self,R/hk,m self,F|を算出する。
(3−4)端末k(キャリブレーション制御部12)は、上記手順を実行して算出した補正係数uk,mを各アンテナm(m=1,…,M)に対応する送信部で適用する。
このように、本実施の形態のキャリブレーション手順では、上記手順(3−3)において使用するアンテナmの補正係数算出式が上述した実施の形態1と異なる。この場合、常に|uk,1|=1であり、各アンテナの送信部では位相補正のみが行われる。そのため、アナログデバイスの位相偏差を補正でき、かつ振幅補正を行う場合より補正処理がさらに簡易となる。
実施の形態3B.
つづいて、本実施の形態では基地局のキャリア周波数fBSと端末のキャリア周波数fMTが完全に一致しない場合のキャリブレーションの動作について説明を行う。実環境では、fBSとfMTが完全に一致しない場合もあるが、アナログデバイス及び実伝搬路の利得が同じとみなせる程度にfBSとfMTの差を小さくすることは周波数引込み等により現在の一般的な技術で可能である。
仮に下りリンクにおいて、基地局が搬送周波数fBSでパイロット信号を送信し、端末において周波数fMTでダウンコンバートすると、測定伝搬路利得はhk,m (DL)exp{j2π(fBS−fMT)t+φDL}となる。また、上りリンクで端末から搬送周波数fMTでパイロット信号を送信し、基地局において周波数fBS'でダウンコンバートすると、測定伝搬路利得はhk,m (UL)exp{j2π(fMT−fBS')t+φUL}となる。ここで、φDL,φULは初期位相を表す。また、周波数fBS'は基地局が上りリンク信号の周波数引き込みを行うことで決定され、fBS'とfBSは異なっていても構わない。
基地局がNアンテナ、端末がMアンテナを持つTDD/MIMO方式において、測定伝搬路の可逆性を維持するためのキャリブレーションを検討する。ここでは、基地局のアンテナn(=1,…,N)及び端末のアンテナm(=1,…,M)のデジタル送信部にそれぞれ複素補正係数uBS,n,uk,mを乗じて補正を行う。このとき、基地局のn番目のアンテナと端末kのm番目のアンテナの間の上りリンク及び下りリンクの伝搬測定値はそれぞれak,m,n (UL)=uk,mhk,m,n (UL)exp{j2π(fMT−fBS')t+φUL},ak,m,n (DL)=uBS,nhk,m,n (DL)exp{j2π(fBS−fMT)t+φDL}と表される。従って、N×MのMIMOチャネルで測定伝搬路が広義の可逆性を維持する条件は次式(11−2)となる。
上式(11−2)では、上下リンクの測定伝搬路の比η(t)が各経路で同一となることを求めているが、上下リンクの位相が一致することは求めていない。また、η(t)は時間的に位相回転しても構わない。なお、η(t)が位相回転すると、端末からの送信信号に対して基地局では周波数及び位相オフセットが発生するが、周波数引き込み、位相同期によりその影響を補正できる。従って、端末と基地局の間に周波数オフセットが存在する場合にも、式(11−2)が満たされれば端末の複数アンテナ間での相対的な位相関係は保たれ、送信ビーム形成を行える。
式(1)を用いると式(11−2)は、以下の式(11−3)および(11−4)と等価となる。
ここで、式(11−3)は式(6)と同じであり、実施の形態1〜3のキャリブレーションによって(11−3)を満たすuk,m(m=1,…,M)を求めることもできる。同様に、基地局においても実施の形態1〜3のキャリブレーションを行うと、式(11−4)の状態を確立できる。このように、MIMOチャネルでは、基地局と端末が独立に実施の形態1〜3のキャリブレーションを行うことで、広義の伝搬路可逆性を維持できる。従って、実施の形態1〜3を適用することにより、基地局と端末のキャリア周波数fBSとfMTが完全に一致しない環境の場合でも広義の伝搬路可逆性を維持できる。
また、別の見方をすれば、式(11−3)は、次式(11−5)で示した基地局1アンテナと端末Mアンテナの間の可逆性条件と等価であり、式(11−4)は、次式(11−6)で示した基地局Nアンテナと端末1アンテナの間の可逆性条件と等価である。
この関係から、基地局と端末の複数アンテナが個別にMISO(Multi-Input Single Output)チャネルにおける可逆性条件の式(11−5),(11−6)を満たせば、MIMOチャネルにおける可逆性条件も達成されることが分かる。従って、非特許文献2ではN×M個の複素チャネル情報をフィードバックしているが、N×1(またはM×1)MISOチャネル情報のフィードバックにより端末(または基地局)でのキャリブレーションを行うことができ、フィードバック制御量を低減できる。また、式(11−5)は基地局と端末のキャリア周波数fBSとfMTが完全に一致しない場合でも、上下リンクの伝搬路測定値を一致させることにより、広義の可逆性を維持できることを示している。
このように、本実施の形態によると、基地局と端末のキャリア周波数が完全に一致しない環境でも広義の伝搬路可逆性を維持できる。また、その理論的条件が明らかにされた。
実施の形態4.
つづいて、実施の形態4について説明する。本実施の形態では、実施の形態1〜3とは異なり、他の無線機との間の信号伝送を通してキャリブレーションを行う方法について説明する。
実施の形態3Bで述べたように、基地局及び端末のアンテナは個別にキャリブレーションを行えばよい。そこで、本実施の形態では、基地局の基準アンテナ(n=1)と端末のMアンテナのMISOチャネルの場合を例に取り上げ、広義の可逆性を保持するキャリブレーションを示す。図6は、実施の形態4の端末kおよび基地局の装置構成例を示す図である。また、図7は、実施の形態4のキャリブレーション手順の一例を示すフローチャートである。
図6に示した基地局は、アンテナ20と、信号送受信部21と、本実施の形態のキャリブレーション方法を実現するための制御を行うキャリブレーション制御部22と、複素補正係数を用いて信号送受信部21から出力されたデジタル送信信号に含まれる位相偏差/振幅偏差をキャンセルする信号補正部(uBS)23と、信号補正部23からの出力信号をアナログ信号へ変換するD/A変換部(D/A)24と、D/A変換部24からの出力信号に対して送信アナログ利得を乗算する送信信号増幅部(TBS)25と、アンテナ20で受信した信号に対して受信アナログ利得を乗算する受信信号増幅部(RBS)26と、受信信号増幅部26からの出力信号をデジタル信号へ変換するA/D変換部(A/D)27と、制御情報生成部28と、を備える。また、端末kは、実施の形態1の端末(図2参照)に対して制御情報受信部18が追加された構成をとる。
まず、基地局の基準アンテナでの補正係数uBSは既に決められているものとする(これは任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態では端末kアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下の制御手順に従い設定する。
(4−1)端末kは、アンテナm(m=1,…,M)からパイロット信号を送信する。具体的には、キャリブレーション制御部12がアンテナm(m=1,…,M)に対応するD/A変換部14−mの入力端へ入力したパイロット信号をアンテナmから送信する。つぎに、基地局は、端末kから送信されたパイロット信号を受信し、チャネルhk,m (UL)(m=1,…,M)を測定する。具体的には、A/D変換部27から出力された受信パイロット信号を用いてキャリブレーション制御部22がa'k,m (UL)=hk,m (UL)を測定する(図7、ステップS71)。ここで、a'k,m (UL)は補正係数uk,mを適用する前の伝搬測定値である。
(4−2)基地局は、パイロット信号uBSs(q)を送信する。具体的には、キャリブレーション制御部22がD/A変換部24の入力端へ入力したパイロット信号をアンテナ20から送信する。つぎに、端末kは、基地局から送信されたパイロット信号と既知のパイロット信号s(q)の相関検出によりチャネル利得ak,m (DL)=uBShk,m (DL)(m=1,…,M)を測定する。具体的には、パイロット信号をアンテナmで受信し、キャリブレーション制御部12が、A/D変換部17−mから出力された受信パイロット信号と既知パイロット信号の相関検出によりak,m (DL)=uBShk,m (DL)を測定する(ステップS72)。
(4−3)基地局は、上記手順(4−1)での測定結果a'k,m (UL)(m=1,…,M)を端末kへ通知する。具体的には、制御情報生成部28で生成したフォーマットに従い、信号送受信部がa'k,m (UL)を送信し、端末kの制御情報受信部18が、基地局から送信されたa'k,m (UL)を受信する(ステップS73)。
(4−4)端末kは、キャリブレーション制御部12で補正係数uk,m=ak,m (DL)/a'k,m (UL)(m=1,…,M)を設定する(ステップS74)。
ただし、手順(4−1)と(4−2)は伝搬路変動が少ない短時間内に行う。なお、図7に示したように手順(4−1)と(4−2)は逆であってもよい。また手順(4−2)と(4−3)が逆であってもかまわない。
本制御を行うと上式(11−5)の関係が成り立ち、測定伝搬路で広義の可逆性が維持される。なお、上記説明では簡単のため基地局と端末のキャリア周波数が同じとしたが、実施の形態3Bで述べたように基地局と端末のキャリア周波数が完全に一致しない環境でも適用できる。
上記手順(4−3)では基地局から端末kへ複素振幅hk,m (UL)を通知するが、図8,9に示すように電力|hk,m (UL)|2と位相ln(hk,m (UL)/|hk,m (UL)|)/j(jは単位虚数)に分けてビット化できる。例えば、図8,9に示すように電力情報と位相情報の個々に8ビット用いると16ビットが必要となるが、通知周期が10s以上と大きい場合には、1つの複素数hk,m (UL)のみであれば大きな制御量とはならない。
なお、上記非特許文献2ではN×MのMIMOチャネルにおいてN×M個の複素チャネル情報をフィードバックしているが、本実施の形態では基地局の複数アンテナの中から1つのアンテナのみを選定し、M×1のMISOチャネル情報のフィードバックにより端末のキャリブレーションを行うことができる。その結果、フィードバック制御量をN×M個からM個に低減できる。例えば、本実施の形態を用いると基地局の基準アンテナのみを用いて端末のキャリブレーションを行い、その後端末は基地局の複数アンテナに対応する下りリンクMIMOチャネルの伝搬測定値に基づき適切な上りリンク送信ビーム形成を行うことができる。
このように、本実施の形態のキャリブレーションでは基地局の基準アンテナのみを対象として制御量を低減し、送信ビーム形成時には基地局の複数アンテナを対象としてシステムの最適化を行う。その結果、キャリブレーションのフィードバック制御量を低減しながらMIMOチャネルでの可逆性を有効に活用できる構成が実現可能となる。
実施の形態5.
つづいて、実施の形態5について説明する。本実施の形態では、他の無線機との間の信号伝送を通してキャリブレーションを行う方法であって、上述した実施の形態4とは異なる手順で行うキャリブレーション方法について説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様(図6参照)である。
本実施の形態のキャリブレーション手順を図10に基づいて説明する。なお、図10は、実施の形態5のキャリブレーション手順の一例を示すフローチャートである。
(5−1)端末kは、アンテナm(m=1,…,M)からパイロット信号を送信し、基地局は、端末kから送信されたパイロット信号を受信し、チャネルa'k,m (UL)=hk,m (UL)を測定する(ステップS101)。なお、この手順は、実施の形態4で示した手順(4−1)と同じである。
(5−2)基地局は、上記hk,m (UL)測定結果を用い、端末kに対して、uBS/a'k,m (UL)またはuBSa'k,m (UL)*/|a'k,m (UL)|2で重み付けしたパイロット信号(uBS/a'k,m (UL))s(q)またはuBSa'k,m (UL)*/|a'k,m (UL)|2s(q)を送信する(ステップS102)。ここで、s(q)は、E[|s(q)|2]=1を満たす基準パイロット信号、*は複素共役を示す。なお、重み付けはキャリブレーション制御部22が行い、パイロット信号は、キャリブレーション制御部22からD/A変幹部24の入力端へ入力される。
(5−3)端末k(キャリブレーション制御部12)は、基地局から受信したパイロット信号と既知パイロット信号s(q)を用いてパイロット信号の複素振幅(uBS/a'k,m (UL))・hk,m (DL)=uBShk,m (DL)/a'k,m (UL)を測定し、uk,m=uBShk,m (DL)/hk,m (UL)=ak,m (DL)/a'k,m (UL)(m=1,…,M)として設定する(ステップS103)。
ただし、手順(5−1)および(5−2)は伝搬路変動が少ない短時間内に行う。
本実施の形態を用いても実施の形態4の場合と同様に、uk,m=uBShk,m (DL)/hk,m (UL)と設定することができる。なお、上記説明では簡単のため基地局と端末のキャリア周波数が同じとしたが、実施の形態3Bで述べたように基地局と端末のキャリア周波数が完全に一致しない環境でも適用できる。本実施の形態では、基地局からアンテナm(m=1,…,M)に対して個別にパイロット信号を送信する必要があるが、実施の形態4の手順(4−3)で行う情報hk,m (UL)のフィードバックは必要ない。
手順(4−3)ではa'k,m (UL)を情報ビットに変換するため量子化誤差が発生するが、本実施の形態では手順(5−2)においてuBS/a'k,m (UL)で重み付けしたパイロット信号を送信することによって量子化誤差は発生しない。このように、本実施の形態に従えば、情報ビットのフィードバックは必要なく、パイロット信号の送受信のみでキャリブレーションを行うことが可能となる。
このように、本実施の形態を適用することにより、端末は、基地局との間のパイロット信号の送受信のみでキャリブレーションを行える。
実施の形態6.
つづいて、実施の形態6について説明する。本実施の形態は、実施の形態4および5と同様に、他の無線機との間の信号伝送を通してキャリブレーションを行う方法に関するものであり、特に位相のみを補正するキャリブレーションに関するものである。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
実施の形態3Aで述べたように、各アンテナでのアナログ特性Tk,m,Rk,mについて、振幅特性は温度が変動しても類似しているが、位相特性は温度変動に伴い大きく変動して通信品質に影響を及ぼす。従って、簡易な位相器のみで実現できる位相補正はハードウエアと性能の両面から有効な手法である。
そこで、本実施の形態では、他の無線機との信号伝送を通して位相補正のみを行うキャリブレーションについて説明する。本実施の形態では基地局の補正係数uBSは既に決められている(任意の値で構わない)ものとし、端末kアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下の手順により設定する。
(6−1)端末kは、アンテナmから個別にパイロット信号を送信し、基地局は受信パイロット信号からチャネルa'k,m (UL)=hk,m (UL)(m=1,…,M)を測定する。なお、この手順は実施の形態4の手順(4−1)と同じである。
(6−2)基地局がパイロット信号uBSs(q)を送信し、端末kは、アンテナmでの受信パイロット信号から複素振幅ak,m (DL)=uBShk,m (DL)(m=1,…,M)を測定する。この手順は実施の形態4の手順(4−2)と同じである。
(6−3)基地局は、a'k,m (UL)の位相情報a'k,m (UL)/|a'k,m (UL)|(m=1,…,M)を端末kへ通知する。
(6−4)端末kはuk,m=(ak,m (DL)/|ak,m (DL)|)(a'k,m (UL)/|a'k,m (UL)|)(m=1,…,M)を設定する。
ただし、手順(6−1)と(6−2)は伝搬路変動が少ない短時間内に行う。なお(6−1)と(6−2)は手順が逆であってもよい。また(6−2)と(6−3)の手順が逆であってもかまわない。
以上の制御を実行することにより位相補正を行うことができる。本実施の形態のキャリブレーションでは、振幅補正を行わないが、端末の各アンテナにおけるアナログデバイスの振幅特性が同等である場合には、広義の可逆性に近い状態を実現できる。実際には、温度変化に対してアナログデバイスの振幅変動よりも位相変動が問題となる場合が多い。本実施の形態は、主に問題となる各アンテナでの位相誤差を補正できる。また、手順(6−3)のフィードバック情報は位相情報のみであるため、実施の形態4の場合よりも制御情報量を低減できる。
このように、本実施の形態では、端末から基地局へのデジタル領域で測定した伝搬路と基地局から端末へのデジタル領域で測定した伝搬路が同じ位相となるように、振幅補正値を1(|uk,m|=1)として、位相のみの補正を行う。その結果、フィードバック情報量を少なく抑えて端末の各アンテナにおける位相を補正できる。
また、図11−1に手順(6−3)でフィードバックする位相情報の通知フォーマットの一例を示す。本フォーマットでは基地局が受信したパイロット信号のパターン識別番号とその位相情報を下りリンクで通知する。この際、基地局は手順(6−1)でどの端末(k)のどのアンテナ(m)がパイロット信号を送信したか認識しなくても、到来したパイロットパターンを認識し、そのパイロットパターンの識別番号とその位相情報を下りリンクで通知する。また、手順(6−1)でパイロット信号を送信した端末は、送信したパイロット信号パターンを認識してその位相情報を受け取ることができる。このように、基地局はどの端末(k)のどのアンテナ(m)がパイロット信号を送信したか認識しなくても、位相情報を通知できる。
なお、これとは別に、端末のどのアンテナがパイロット信号を送信したか認識して位相情報を通知することもできる。一例として、端末から基地局へ図11−2に示す制御信号を送信する場合について述べる。本図では、端末はアンテナごとに使用するパイロット信号パターンの識別番号を制御信号として基地局に通知する。基地局では、下りリンクで図11−3に示す制御信号フォーマットを用いて、各アンテナの識別番号とそれに対応するパイロット信号パターンで測定した伝搬路の位相振幅情報を端末に通知する。このようなフォーマットを用いても基地局から端末へ測定伝搬情報を通知できる。
実施の形態7.
つづいて、実施の形態7について説明する。本実施の形態では、キャリブレーションを行う際に利用するパイロット信号について、その送信方法を説明する。
実施の形態4〜6で示したキャリブレーションでは、端末からのパイロット信号送信(例えば、手順(4−1),(5−1),(6−1))と基地局からのパイロット送信(例えば、手順(4−2),(5−2),(6−2))を伝搬路変動の少ない短時間のうちに行うことが重要である。これは、上下リンクの実伝搬路に変動が無い環境において実施の形態4〜6で示した手順を実行すれば、式(2),(3)を満たすuk,mを求められるためである。
そこで、本実施の形態ではこの2つのパイロット信号送信を短時間のうちに行うための手法について示す。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
図12−1〜3は、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing),OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)等のマルチキャリア伝送を想定した場合のパイロット信号送信フォーマット例を示した図であり、上りリンク(上り方向)では端末から基地局へ、下りリンクでは基地局から端末へパイロット信号伝送を行う。図12−1〜3に示したように、TDD方式のフレームでは、上りリンクと下りリンクの切り替わる直前と直後のシンボルを用いてパイロット信号を伝送することにより、短時間のうちに上下リンクでのパイロット信号送信を行うことができる。その結果、上下リンクでのパイロット信号送信の間に発生する伝搬路の変化を非常に小さく抑えることができる。
なお、実施の形態4〜6では上りリンクでパイロット信号を送信した後、下りリンクでパイロット信号を送信する場合について述べたが、実施の形態4,6では、それぞれ、手順(4−1)と手順(4−2),手順(6−1)と手順(6−2)を入れ替えることが可能であることを既に述べた。すなわち、これらの実施の形態では、下りリンクではじめにパイロット信号を送信し、その後上りリンクでパイロット信号を送信する構成も考えられる。この場合には、下りから上りリンクへ切り替わる直前のシンボルと直後のシンボルを用いて、下りリンクと上りリンクのパイロット信号伝送を行うことにより、伝搬路の変化を非常に小さく抑えることができる。
なお、端末の移動速度が小さい場合には、上下リンクの切り替わる直前、直後のシンボルでなくても、連続する上下リンクスロットにおいてパイロット信号を送信すれば、伝搬路の変動は少ない。従って、図12−2に示したように連続する上下リンクの与えられた適切な位置で上下リンクパイロット信号を送信する構成も可能である。
また、OFDM,OFDMAでは時間シンボルの長さをシンボルごとに変えることも可能である。そのため、より短い時間内で上下リンクのパイロット送信を行いたい場合は、図12−3に示したように上りリンクと下りリンクの切り替わる直前と直後のシンボルの時間幅を短くしてパイロット信号を送信する。特に、端末の移動速度が速い場合には、上下リンクパイロット送信時の伝搬路変動を極力小さく抑えるために、本構成は有効である。
また、図12−4に示したように、上下リンクの切り替わる直前または直後のシンボルの一方のみを用いる場合であっても、両方とも切り替わる直前・直後のシンボルを用いないパイロット信号送信に比べて伝搬路変動を小さくできる。
実施の形態8A.
つづいて、実施の形態8Aについて説明する。本実施の形態では、パイロット信号の送信方法であって、上述した実施の形態7とは異なるパイロット信号の送信方法について説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
実施の形態4〜6の上下リンクパイロット伝送において、伝搬路の変化を小さく抑えることが求められるのは、同じ経路の伝搬路であり、基地局と端末のキャリア周波数が同じとみなせる場合には、異なる経路の伝搬路は異なる環境で測定しても構わない。基地局と端末のキャリア周波数が同じとなる環境は、ルビジウム発振器など高精度な周波数発振器を用いる場合、後の実施の形態に述べる超高精度キャリア周波数制御を行う場合などに実現される。このとき、式(2),(3)を満たすuk,mを求めるにあたって、基地局と端末kのアンテナmの間の上下リンク伝搬路の差は小さくする必要があるが、基地局と端末kアンテナmの伝搬路と基地局と端末kアンテナm+1の伝搬路(たとえば基地局とアンテナ1の伝搬路と基地局とアンテナ2の伝搬路)は全く異なる時間・周波数で測定しても問題とならない。これは、経路ごとに個別に式(2),(3)が定義されているためである。
従って、図13に示すように、アンテナごとに異なる時間・周波数において、キャリブレーションを行う領域で上りリンクのパイロット信号を送信してキャリブレーションを行うこともできる。
図13に示した例では、まず上りリンクで端末kがアンテナ1からパイロット信号を送信し(ステップS131)、基地局はアンテナ1のキャリブレーションに必要な情報(振幅位相情報またはパイロット信号)を次の下りリンクで端末kへ通知する(ステップS132)。その結果をもとに、端末kはアンテナ1の補正係数uk,1を更新する。さらに、その次の時間スロットで他のアンテナ(この例ではアンテナ2)についても個別にキャリブレーションを行う(ステップS133,S134)。このように、アンテナごとに異なる時間スロットでキャリブレーションを行っても構わない。
同様に、ステップS136およびS137に示すように異なる周波数帯でキャリブレーションを行っても構わない。通常、アナログ特性は無線システムのある一定範囲の伝送帯域内で一様な特性を有するため、アンテナごとにシステム内の異なる周波数でキャリブレーションを行ったとしても、同様に送受信間のアナログ特性差を補償できる。
また、異なる時間または周波数で連続的にキャリブレーションを行う場合、キャリブレーションを行うアンテナの順番は固定的な順番でなくても構わない。例えば、端末は各時間スロットでランダムに1つのアンテナを選定して、選定したアンテナから特定のパイロット信号パターンを送信することにより、そのアンテナのキャリブレーションを行うこともできる。実施の形態6の後半部分で述べたように、基地局はどの端末のどのアンテナからパイロット信号が送信されたか認識できなくても、パイロット信号パターンに対応して、キャリブレーションに必要な情報を下りリンクで通知できる。従って、端末は時間スロットごとにランダムに選定したアンテナからパイロット信号を送信しても、適切なキャリブレーションの情報を下りリンクで受信して、選定したアンテナの補正係数を決定できる。
また、図14に示したように、端末は下りリンクのパイロット信号から各アンテナのチャネル状態を測定し、チャネル状態の良いアンテナに対して、次の時間スロットでのキャリブレーションを行うこともできる。この場合、選定したアンテナからパイロット信号を送信すると、良好なチャネル状態を有するため、基地局では強い電力でパイロット信号を受信できる。その結果、チャネル測定を高精度に行うことができるようになる。図14に示した例では、伝搬利得の高いアンテナ1がまずキャリブレーションを行い(ステップS141,S142)、次の時間スロットで伝搬利得の高いアンテナ3がキャリブレーションを行う(ステップS143,S144)。さらに次の時間スロットではアンテナ2がキャリブレーションを行う(ステップS145,S146)。チャネル測定精度がよいほど、キャリブレーションにおける補正係数も正確に設定できるので、チャネル状態のよいアンテナを選定して、その時間スロットでのキャリブレーションを行うことで、高精度な補正係数の設定が可能となる。
また、図15に示したように、端末は複数の上りリンクサブバンド(サブ周波数帯)#1〜#5をパイロット送信用に確保し、下りリンクのチャネル状態(伝搬状態)のよいサブバンドでチャネル測定用のパイロット信号を送信することもできる。この際、パイロット信号を送信する(キャリブレーションを行う)アンテナを決定する方法は種々存在するが、どのような方法を用いて決定してもかまわない。また、基地局は受信振幅を検出することにより各サブバンドでパイロット信号が到来したか否かを認識し、パイロット信号の到来を検出したサブバンドでキャリブレーションの手順を実行する。より具体的には、閾値以上の受信振幅を持つサブバンドにおいてキャリブレーションに必要な情報を下りリンクで通知する方法などがある。この場合にも、端末がチャネル状態のよいサブバンドを選定して、その時間スロットでのキャリブレーションを行うことで、高精度な補正係数を設定することができる。
また、図16に示すように、複数のアンテナをもつ端末は複数の上りリンクサブバンド(サブ周波数帯)#1〜#5をパイロット送信用にあらかじめ確保し、複数のアンテナが相互に下りリンクのチャネル状態のよいサブバンドでパイロット信号を送信することもできる。
このような方法でパイロット信号を送信する場合、まず、基地局と端末間はあらかじめ利用可能なサブバンドを認識する。例えば、図17に示すフォーマットで利用可能なサブバンド数とサブバンドIDを基地局から端末にあらかじめ通知することにより、利用可能なサブバンドを双方が認識する。端末はその利用可能なサブバンドの中から、伝搬状態のよいサブバンドを選定してパイロット信号を送信する。伝搬状態のよいサブバンドを選定する方法は種々存在するが、例えば、各アンテナを使用して下りリンクでチャネル状態を測定し、まずアンテナ1について最も適したサブバンドを選定し、その次にアンテナ2について残りのサブバンドの中から最も適したサブバンドを選定する。
このように、アンテナm(m=1,…,M)が順番にパイロット送信に適したサブバンドを選定する。なお、このサブバンド選定方法は一例であり、選定方法をこれに限定するものではない。アンテナと利用サブバンドの対応をスケジュールする方法は、既に数多く存在している。一方、基地局ではどのアンテナがどのサブバンドでパイロット信号を送信するかを知らなくても、単純に到来したパイロットパターンに対応して、キャリブレーションに必要な情報を端末に通知すればよい。すなわち、基地局では各サブバンドでパイロット信号の到来を受信振幅から検出し、パイロット信号の到来したサブバンドではキャリブレーションに必要な振幅・位相情報を端末に通知する。
なお、基地局がパイロット信号の送信される個数Zをあらかじめ認識している場合には、パイロット信号の送信される可能性のある全サブバンドに対してパイロット信号の受信振幅を算出し、受信振幅の大きいZ個のサブバンドにおいてパイロット信号が到来したと判定する方法もある。また、基地局がパイロット信号の送信される個数Zをあらかじめ認識するために、例えば端末は図18−1に示すフォーマットを用いてパイロット信号の送信される個数Zを基地局に通知することも可能である。逆に、基地局が図18−1に示すフォーマットを用いてあらかじめ送信パイロット信号数を端末に指示することも可能である。このように各アンテナが相互に伝搬状態の良いサブバンドを選定して送信することにより、高精度なチャネル測定および補正係数の設定が可能となる。
また、図18−2に示すように端末から基地局への制御信号として、各アンテナがパイロット信号を送信するサブバンドIDを通知し、基地局の各アンテナがパイロット信号を送信するサブバンドを認識する方法を用いても構わない。
以上、述べたように、キャリブレーションを実行するにあたって、端末は、時間または周波数ごとにアンテナを選定してキャリブレーションを行うことができる。また、選定するアンテナをチャネル状態に応じて決定することもできる。加えて、複数のサブバンドの中から伝搬状態の良いサブバンドを選定して、キャリブレーション用チャネル測定パイロット信号を送信することもできる。さらに、複数のアンテナについて相互に伝搬状態の良いサブバンドを選定して、キャリブレーション用チャネル測定パイロット信号を送信することもできる。
実施の形態8B.
つづいて、実施の形態8Bについて説明する。本実施の形態では、パイロット信号の送信方法であって、上述した実施の形態8Aとは異なるパイロット信号の送信方法について説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
実施の形態8Aとは異なり基地局と端末のキャリア周波数が異なる場合には、異なる時間で伝搬路を測定すると、伝搬測定値にキャリア周波数オフセットに応じた位相回転が加算される。その結果、伝搬路測定値及びそれに基づき計算される補正値uk,mは時刻に応じて異なる位相オフセットを含み、アンテナごとに異なる時刻で伝搬測定を行うと、アンテナ間の相対的な位相関係が適切に補正されない。
この現象を回避するためには、端末の全アンテナに対応する伝搬路測定を同じ時刻に行う構成が有効である。同じ時刻で伝搬路測定を行うと、全てのアンテナに対応する伝搬路測定値は同じ位相オフセットを含むため、補正値uk,mのアンテナ間での相対的な関係になんら影響を及ぼさない。また、実際の無線機では周波数オフセットに加えて時々刻々変化する位相雑音が存在する場合もあるが、同時刻での伝搬路測定値は全て同じ位相誤差の影響を受けるため、補正値uk,mのアンテナ間での相対的な関係になんら影響を及ぼさない利点もある。
このような全アンテナに対応する伝搬路測定を同時に行うためには、端末の各アンテナから基地局に向けて互いに直交するパイロット信号を同じ時間周波数領域で符号多重伝送する構成がよい。本構成を用いると、直交パイロット信号を用いて互いに干渉を及ぼすことなく同じ時刻に伝搬路測定を行うことができる。また、周波数オフセットの影響を受けない。
なお、OFDMにおいて各アンテナが異なるサブバンド又は周波数を用いて各アンテナからパイロット信号を送信する場合にも、その送信時刻が同じであれば同じ発振器により駆動されるので周波数オフセット及び位相雑音の影響は同じとなる。従って、実施の形態8Aにおいてパイロット信号の送信時刻が同一であれば、各アンテナが異なる周波数を用いてパイロット信号を送信しても、基地局と端末のキャリア周波数及び位相誤差の影響を排除できる利点を得られる。このように、各アンテナの伝搬路測定を同時に行う場合には、キャリア周波数及び位相誤差の影響を抑えられる特別な利点がある。
実施の形態8C.
つづいて、実施の形態8Cについて説明する。本実施の形態では、パイロット信号の送信方法であって、上述した実施の形態8A、8Bとは異なるパイロット信号の送信方法について説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
実施の形態8Bで述べたように基地局と端末のキャリア周波数が異なる場合には、異なる時間で伝搬路を測定すると、キャリア周波数オフセットに応じた位相回転が伝搬測定値に加算される。その結果、異なる時間で異なるアンテナに対応する伝搬測定を行うと、補正値uk,mは伝搬路測定時刻に応じて異なる位相オフセットを含み、アンテナ間の相対的な位相関係が適切に補正されない。しかし、実施の形態8Bで示したように、パイロット信号の送信時刻が同一であれば、各アンテナが異なる周波数を用いてパイロット信号を送信しても、基地局と端末のキャリア周波数の影響を排除できる。
この関係をさらに発展させた方法についてここでは説明する。図18−3に示すように、ある時刻tで端末の2アンテナ(例えばアンテナm1,m2)からパイロット信号を送信して基地局で伝搬路測定を行い、下りリンクでも伝搬路測定を行った後、アンテナm1,m2に関する補正値uk,m1(t),uk,m2(t)を計算する。次に、異なる時刻t’で同様の手順でアンテナm1,m3に対応する補正係数uk,m1(t'),uk,m3(t')を求める。この際、周波数オフセットの影響により、uk,m1(t)とuk,m1(t')の間には未知の位相回転が発生するが、uk,m1(t)とuk,m2(t)の比もしくはuk,m1(t')とuk,m3(t')の比は時刻によらず一定となる。これは、uk,m1(t)とuk,m2(t)もしくはuk,m1(t')とuk,m3(t')は同じ周波数オフセットと位相誤差を受けるためである。
この関係を用いると、図18−3に示すように、ある時刻に端末の少なくとも2つ以上のアンテナに対してキャリブレーションを実行し、得られた2アンテナ間の補正係数の比を導出する作業を2アンテナごとに繰り返す。この手順を2以上のアンテナを選んで異なる時刻で繰り返すと、全アンテナに対応する補正係数の比を得ることができる。より具体的には、アンテナ1と2のキャリブレーションを同時刻tでの伝搬路測定を用いて行い、アンテナ2と3のキャリブレーションを異なる時刻t’での伝搬路測定に基づき行う。その結果、時刻tでのキャリブレーションからアンテナ1と2の補正係数比を算出でき、時刻t’でのキャリブレーションからアンテナ2と3の補正係数比を算出できる。従って、アンテナ1,2,3の間の補正係数比を導出できる。
本実施の形態に基づけば、異なる時刻で異なるアンテナのキャリブレーションを行っても、補正係数は周波数オフセットの影響を受けない。このように、ある時刻で2以上のアンテナ間の補正係数比を算出し、その作業を異なる時刻で繰り返すことにより、周波数オフセットの影響を受けることなく、時間領域で伝搬状態の良いアンテナを選択してキャリブレーションを行うことが可能となる。
実施の形態8D.
つづいて、本実施の形態では、広帯域を有するOFMDA/TDD方式における周波数選択型キャリブレーションについて説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
広帯域を有するOFDMA/TDDでは、アナログ特性Tk,m,Rk,m,TBS,n,RBS,nは信号の周波数に応じて徐々に変化する。このとき、周波数fに対応するサブキャリアで可逆性条件を満たすために、次式(11−7)で示される補正係数uk,m(f)(m=1,…,M)を得ることが必要となる。
ここで、∠xは複素数xの位相、ak,m (DL)(f),a'k,m (UL)(f),Tk,m(f),Rk,m(f),TBS,n(f),RBS,n(f)は周波数fにおけるak,m (DL),a'k,m (DL),Tk,m,Rk,m,TBS,n,RBS,nを表す。また、ζ(t)はfを含まず全サブキャリアで同じとなる。式(11−7)では、実施の形態3Bにおいてa'k,m (UL)(f)=hk,m (UL)exp{j2π(fMT−fBS')t+φUL},ak,m (DL)=uBS,mhk,m (DL)exp{j2π(fBS−fMT)t+φDL}が成り立つことを用いた。
アナログ特性Tk,m(f),Rk,m(f),TBS,n(f),RBS,n(f)は搬送周波数によっても変化するが、比帯域(=伝送帯域/搬送周波数)が小さい場合には通常周波数に応じて非常にゆっくりと変化する。この場合、アナログ経路遅延が周波数領域での特性変化の支配的要因となり、振幅比|(TBS,n(f)/RBS,n(f))/(Tk,m(f)/Rk,m(f))|はほぼ一定のまま、位相θ(f)のみが周波数fに比例して変化する。基地局及び端末における送受信系RF経路長差が小さい場合には位相θ(f)の変化は非常に緩やかとなり、式(11−7)のuk,m(f)は広い帯域で相関を有する。この場合、全ての周波数でキャリブレーションを行わなくても、離散的なL個の周波数fm (l)(l=1,…,L)を選定してキャリブレーションを行い、得られたuk,m(fm (l))(l=1,…,L)から補間により全伝送帯域でのuk,m(f)を決定できる。
このような新たな概念に基づき、以下にOFDMA/TDD用キャリブレーションを開示する。
[OFDMA/TDD用キャリブレーション]
(8D−1)アンテナm(=1,…,M)ごとにキャリブレーションに利用するL個の周波数fm (1),fm (2),…,fm (L)(fm (l)<fm (l+1))を選定する。
(8D−2)端末kはアンテナごとに選定された周波数で相対キャリブレーションを実行し、アンテナmでの補正係数uk,m(fm (1)),uk,m(fm (2)),…,uk,m(fm (L))(m=1,…,M)を得る。
(8D−3)周波数領域での補正係数の補間により全伝送帯域でのuk,m(fm)を決定する。
(8D−4)手順(8D−1)〜(8D−3)をアナログ特性が同じとみなせる異なる時刻でT回繰り返し、T個分の補正係数uk,m(fm)を用いて補正係数の精度を改善する。
以上の制御により、全伝送帯域で伝搬路可逆性の利用できる状態を維持できる。なお、手順(8D−1)、(8D−3)および(8D−4)の詳細はさらに以降で説明する。
まず、手順(8D−1)において、周波数fm (l)の選定を行う2つの方法例をCAL1,CAL2として以下に示す。
<選定法1(CAL1)>
選定法(CAL1)では、アンテナmごとに次式(11−8)に従い、等間隔な周波数fm (l)(l=1,…,L)を選定する。
fm (l)=F0+(l-1)MB+(m-1)B (l=1,…,L) …(11−8)
ここで、F0はアンテナm=1がキャリブレーションを開始する周波数、Bは基準帯域を表す。図18−4にCAL1で利用するOFDMAの周波数を示す。Lは伝送帯域をカバーできるように設定される。
<選定法2(CAL2)>
CAL1ではフェージング状態が劣悪な周波数では、チャネル測定精度が劣化する可能性がある。そこで、CAL2では各アンテナでの伝搬状態がよくなるように次式(11−9)で示されるM個の周波数の中からf1 (l),f2 (l),…,fM (l)に1つずつ割り当てる。
C(l)={F0+(l-1)MB,F0+(l-1)MB+B,…,F0+(l-1)MB+(M-1)B}
…(11−9)
具体的に、まず端末は下りリンク共通パイロット信号を用いて各アンテナの伝搬路ak,m (DL)(f)をC(l)に含まれる全ての周波数fで観測する。次に、M個の周波数f∈C(l)をf1 (l),f2 (l),…,fM (l)に割り当てるM!通りの組合せのうち、次式(11−10)の評価関数J1、J2またはJ3が最大となる組合せを選定する。
ここでは、評価関数J1,J2,J3は振幅|ak,m (DL)(fm (l))|が高い場合に高い評価を与えるため、伝搬環境の良い周波数の組合せがアンテナごとに選定される。なお、3種類の評価関数J1,J2,J3を示したが、それ以外にも振幅|ak,m (DL)(fm (l))|が高い場合に高い評価を与えるさまざまな評価関数Jが考えられる。このように、振幅に応じた評価関数の導入により、良好な伝搬路をもつ周波数を選定してキャリブレーションを行うことが可能となる。
次に、手順(8D−3)として、以下の3つの周波数領域における具体的な補間法を示す。
<補間法I>
次式(11−11)により複素数に対する線形補間を行う。
<補間法II>
次式(11−13)により位相に対する線形補間を行う。
ここで、lは上式(11−12)で与えられる。
<補間法III>
最小2乗誤差基準に基づく線形位相推定を行う。具体的には、手順(8D−2)において、∠uk,m(fm (1)),…,∠uk,m(fm (L))(|∠uk,m(fm (l-1))−∠uk,m(fm (l))|<π,l=2,…,L)を得ると、∠uk,m(fm)=αf+βとなることを想定して、最小2乗誤差基準に基づき定数α,βを決定する。また、全周波数f(fm (l)を含む)での補正係数をuk,m(f)=exp{j(αf+β)}とする。
このような補間を行うと、伝搬路の良好な周波数でのキャリブレーションによりまず補正係数uk,m(fm (l))を算出し、それ以外の周波数での補正係数を周波数領域での補正係数の補間により円滑に求めることが可能となる。このように、広帯域なOFDMA/TDD方式では周波数に応じて変化するキャリブレーションの補正係数を決定することができる。さらに、キャリブレーションを行う周波数の選定と周波数領域での補正係数の補間を行うことにより、全帯域で周波数に応じて変化する補正係数を効率的に決定できる。
次に、手順(8D−4)における制御の詳細を示す。図18−5に本制御において上下リンクで送信されるパイロット信号の配置とそれを用いて補正係数の高精度化を行う形態を示す。本制御にあたって、基地局と端末の間では複数(T個)の異なる時刻tにおいて上下リンクでパイロット信号を相互に送信し、個々の時刻で得た補正係数uk,m|t(fm)(t=t1,t2,…,tT)を用いて補正係数の精度を改善する。この際、時刻t=t1,t2,…,tTにおける伝搬状態は互いに異なっていて構わない。これは、各時刻では個別に補正係数を算出するためである。
この制御を行うにあたって、基地局と端末の間では一方から他方へ事前にパイロットを送信する時刻を制御情報として通知する。例えば、パイロット信号を送信する時間パターンを以下のようにあらかじめ規格として決定し、対応する制御ビットを他方に通知する方法がある。
制御ビット 時間パターン
00 ti+1−ti= 5ms (i=1,2,…)
01 ti+1−ti= 10ms (i=1,2,…)
10 ti+1−ti= 50ms (i=1,2,…)
11 ti+1−ti=100ms (i=1,2,…)
なお、ここでは一定時刻単位でパイロット信号を送信する場合を述べたが、必ずしも一定時間間隔でなくても構わない。さらに、基地局と端末の間では一方から他方へ1番目のパイロット信号の送信開始時刻又はフレームを通知し、パイロット信号の送信回数(T)も制御信号として通知する。このような制御信号の通知によって、基地局と端末は互いにパイロット信号を送信するタイミングを認識できる。
本制御に従い、T個の時刻で上下リンクのパイロット信号送信を行い、T回独立に(例えば、10ms又は100ms周期で)算出した補正係数をuk,m|t(fm)(t=t1,t2,…,tT)とする。このとき、端末は次式(11−14)または(11−15)により補正係数の精度改善を行える。
又は
ここで、Hは複素共役転置、eig(X)は行列Xの最大固有値に対応する固有ベクトルを表す。また、uk|t(f)=[uk,1|t(f),…,uk,M|t(f)]T,uk(f)=[uk,1(f),…,uk,M(f)]Tである。ベクトルuk|t(f)では異なるtで送受信機のキャリア周波数差による位相回転が生じるが、ベクトル内の要素の相対的位相関係は変化せず、その関係を用いて精度改善を行うことができる。このように、複数回のキャリブレーションを独立に行い、各回で得られた補正係数を適切に合成することにより、さらに精度の高い補正係数を算出することができる。
なお、従来技術では複数の時間でのパイロット送信に基づき、キャリブレーションの補正精度を向上させる方法は示されていない。これは、uk|t(f)では異なるtで送受信機のキャリア周波数差による位相回転が生じるため、異なる時刻での補正係数を用いて精度向上を行うことが困難であったためである。これに対して、本実施の形態ではベクトル内の要素の相対的位相関係は変化しないことに着目し、その原理を用いた式(11−14),式(11−15)によって補正係数の精度向上が行えることを示している。本構成によって複数の時刻でのチャネル測定に基づき補正係数を向上できる。特に、基地局と端末の間の信号対雑音電力比(SNR)が低い環境では1回のチャネル測定では補正係数の精度が十分でない場合も発生するが、本実施の形態で示すように複数の時間でのチャネル測定により補正係数の精度改善を行うことができる。また、このような精度改善を行うにあたり、基地局と端末の間でキャリブレーション用に複数時刻でパイロット信号を送信するための制御信号を新たに示しており、本制御信号によってキャリブレーション精度の向上が可能となる。従って、複数時刻でパイロット信号を送信する制御信号及び送信回数Tを通知するフォーマットも本発明独自のものである。
図18−6にOFDMA/TDDにおいて複数時刻(T=10)でのチャネル測定に基づきキャリブレーションを行った場合と1回(T=1)のチャネル測定に基づきキャリブレーションを行った場合の性能評価結果の一例を示す。図において、τは伝搬路の遅延広がり、SNRは1シンボルあたりの信号対雑音電力比、縦軸はキャリブレーション後のアンテナ間での位相誤差(0の場合に完全に位相が一致し、理想的な可逆性を利用できる)を示している。本図に見られるように、複数時刻でのチャネル測定に基づくキャリブレーションによってキャリブレーション精度を大きく改善できる。
なお、本実施の形態で選択された周波数を用いてキャリブレーションを行う際、基地局は各周波数をどのアンテナで用いているか把握したい場合がある。その場合、端末は基地局に各周波数でパイロット信号を送信するアンテナ番号をあらかじめ通知する。図18−7はその通知方法の一例を示しており、各サブバンドでパイロット送信を行うアンテナ番号の系列をサブバンドl=1,2,3,…の順でデータとして端末から基地局へ通知する。ここで、図18−7のアンテナ番号系列は図18−4のCAL2においてサブバンドl=1,2,3,…の順に選定されたアンテナ番号を表している。このように、各サブバンドに対応づけたフォーマットでキャリブレーションを行うアンテナ番号を送信することにより、効率的な通知が可能となる。
実施の形態8E.
本実施の形態では、基地局との信号送受信時の信号対雑音電力比(SNR)が低い端末に対して、高精度なキャリブレーションを行う協力的アンテナアレーキャリブレーション制御を開示する。本実施の形態では、基地局の代わりに周辺の無線機が端末のキャリブレーションをサポートする。その結果、端末と基地局の距離が遠い場合にも、近距離にある無線機とキャリブレーションを行うことで円滑に複数アンテナの位相補正を行える。また、キャリブレーションをサポートする無線機を適応的に選定するシステム制御についても示す。
これまでキャリブレーションにより補正係数uk,mを決定する方法を示したが、キャリブレーション後の位相誤差は通常次式(11−16)で定義される。
ここで、<・>はアンテナm1,m2の全ての組合せとキャリブレーションの対象とする全周波数帯での平均を表す。OFDMA/TDDでは基地局と端末の間でチャネル測定用パイロット信号の平均SNRが低くなるにつれ、位相誤差Δφが増大する。特に、基地局から遠隔のセル境界付近では伝搬損失の大きい端末が多く、キャリブレーション精度が劣化しやすい。
これまでの実施の形態では、端末が基地局を介してキャリブレーションを行う構成を示したが、端末は基地局とは異なる他の無線機Sを介して同じキャリブレーションを行うこともできる。ここで、他の無線機Sとしては固定局、周辺端末、周辺の小型基地局、リレー無線機などが考えられる。
この場合、無線機Sは選定された周波数fにおいて端末のm番目のアンテナからuk,m(f)(m=1,…,M)を適用せずに送信されたパイロット信号を用いてチャネルb'm|S(f)を測定し、そのチャネル情報を端末に通知する。同様に、端末は無線機Sから送信されたパイロット信号を用いてチャネルbm|k(f)を測定する。さらに、無線機Sは端末に測定値b'm|S(f)を通知し、端末はm番目のアンテナに対応する補正係数をuk,m(f)=bm|k(f)/b'm|S(f)と決定する。このキャリブレーションを行うと、基地局よりも良好なSNRを確保できる無線機Sを介して端末は位相誤差Δφを小さく保つことができる。
従って、端末は無線機Sとキャリブレーションを行っても、基地局と上下リンクの可逆性を利用できる状態を構築できる。加えて、端末が基地局よりも無線機Sと良好なSNRを有する場合には、小さな位相誤差Δφを実現でき、特にセル境界付近に存在する端末のキャリブレーション精度改善が期待できる。なお、端末は無線機Sと可逆性を維持できれば、基地局とも可逆性を維持できる状態となる。これは次式(11−17)が成り立てば次式(11−18)も成り立つためである。
本実施の形態では、効率的な無線通信システムに向けて、端末が基地局との直接キャリブレーション、又は周辺無線機Sとの協力的キャリブレーションのいずれかを状況に応じて選定する制御方法を開示する。図18−8は、本実施の形態におけるキャリブレーション制御の一例を示す図である。本制御では、端末及び周辺無線機の状態に応じて適応的に直接又は協力的キャリブレーションを行う。制御方法を以下に示す。
[キャリブレーション用システム制御]
(8E−1)キャリブレーションを希望する端末は各アンテナからパイロット信号を含むキャリブレーション(CAL)要求信号を基地局へ通知する。
(8E−2)基地局はCAL要求信号を受信すると、信号の平均受信SNRΓBSを測定する。また、周辺無線機SもCAL要求信号を受信し、平均受信SNRΓSを測定する。
(8E−3)基地局はΓBSが所定レベルΓth以下の場合、図18−9に構成例を示したCALサポート依頼信号を下りリンクで送信する。本信号では、サポート依頼を表すビットとΓBSが通知される。
(8E−4)無線機Sはサポート依頼信号を受信すると、ΓS>ΓBSの場合には図18−10に示すCALサポート可能信号を基地局へ通知する。本信号では、サポート可能を表すビットと端末ID及びΓSが通知される。
(8E−5)基地局はCALサポート可能信号を受信すると最大のΓSを有する無線機Sに無線リソース(時間フレームと利用周波数)を指定して、キャリブレーションのサポートを要求する。無線機Sと端末は指定された無線リソースを用いてキャリブレーションを行う。
(8E−6)手順(8E−5)において、基地局がCALサポート信号を受信しなかった場合、基地局と端末の間でキャリブレーションを行う。
なお、無線機Sはその時間フレームで信号送信を行っていないがキャリブレーションをサポート可能な無線機である。例えば、間欠的にデータ送信を行う周辺端末、リレー無線機、小型基地局等がこれに相当する。(8E−5)では上りリンクもしくは下りリンクの無線リソースのいずれを用いてチャネル測定を行っても、キャリブレーションを行うことは可能である。但し、無線機Sは上りリンクでSNRΓSを測定しており、上りリンクの無線リソースを用いて端末と無線機Sが双方向のチャネル測定を行うと、無線機Sが上りリンクで測定したSNRΓSと同じチャネル状態を確保できる特別な利点がある。従って、(8E−5)では上りリンクで端末と無線機Sが双方向のチャネル測定を行うことにより、安定したチャネル状態でチャネル測定を行える利点がある。
また、OFDMA方式に適用する場合には、上りリンクでは異なる端末からの信号到達時刻が基地局で一致するようタイミング制御が行われる。この際、キャリブレーション時にも端末及び無線機Sは他の通信に干渉を与えないよう基地局とのタイミング制御を維持することが望まれる。この際、無線機Sは基地局と位置が異なるため、タイミングずれによって他の周波数帯を利用する上りリンク信号から干渉を受ける場合もある。また、他セルから干渉を受ける場合もある。しかし、測定したSNRΓSはこの影響を含んでおり、キャリブレーション時にもSNRΓSを確保できる。また、端末は通常無線機Sと位置関係が近く、無線機Sと同様のSNRを確保できる。加えて、本実施の形態の制御では、端末及び無線機Sの位置に応じて直接又は協力的キャリブレーションを適切に選定できる。
図18−11に半径Dのセル内でキャリブレーションの希望端末が基地局からdの距離に位置する場合に、本実施の形態の方法と常に基地局とキャリブレーションを行う方法で得られる位相誤差Δφを評価した結果を示す。ここで、他の無線機Sは半径Dのエリア内に平均10局がポアソン生起に基づき存在するとした。図に示すように、常に基地局とキャリブレーションを行う方法では端末が基地局から離れるにつれ平均SNRが低下し、キャリブレーション精度が劣化する。これに対し、本実施の形態の手法では端末の近くに存在する無線機Sを介して高い平均受信SNRでのキャリブレーションを行うことができる。その結果、端末の位置によらず位相誤差を5°以下とでき、キャリブレーション精度を大きく改善できる。
実施の形態9.
つづいて、実施の形態9について説明する。本実施の形態では、ランダムアクセスチャネルで端末がアクセスする際の信号を用いてキャリブレーションを行う方法について説明する。なお、本実施の形態の端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
端末は、初期アクセス時または無線リソースの予約を行わずに基地局へアクセスする際に、スロットアロハ等に見られるランダムアクセスチャネルを利用する。この際、端末は、まだアクセスが完了していないため、キャリブレーションも行われていない場合が多い。本実施の形態では、このような場合に、端末がランダムアクセスとキャリブレーションを同時に行うことにより、効率的に無線制御を行う方法について説明する。
図19は、ランダムアクセスチャネルにアクセスする際の信号フォーマット(上りリンクランダムアクセス信号フォーマット)の一例を示す図である。図19に示したように、端末からの送信信号(上りリンクランダムアクセス信号)はパイロット信号を含んでいる。基地局では端末からランダムアクセスチャネルで送信された信号を受信すると、その伝搬路利得a'k,m (UL)=hk,m (UL)を受信信号に含まれているパイロット信号を用いて測定する。次に、基地局は、端末からの信号の受信状態によって次に端末の行うべき処理を通知する。この通知内容はさまざまであるが、例えば初期アクセス時には詳細な端末情報を基地局に通知する指示が行われたり、次に通信を行う無線リソースの割当を行ったりする。図20に基地局から端末へ通知する信号のフォーマット(下りリンク通知信号フォーマット)の一例を示す。図20に示したように、下りリンク通知信号にはパイロット信号および他の情報を乗せるためのフィールド(通知情報と記したフィールド)が存在するが、本実施の形態では基地局から端末への通知信号を利用してキャリブレーションを同時に行う。
一例として、実施の形態4に示した手順でキャリブレーションを行う場合には、基地局が、uBSで重み付けしたパイロット信号uBSs(q)を下りリンク通知信号のパイロット信号として送信する。またこのときフィードバック情報a'k,m (UL)=hk,m (UL)を通知情報として一緒に送信する。端末は、受信した下りリンク通知信号の通知情報を確認して次の指示を認識すると同時に、端末kアンテナmで受信したパイロット信号を用いてチャネルak,m (DL)=uBShk,m (DL)(m=1,…,M)を測定し、フィードバック情報a'k,m (UL)を用いて補正係数uk,mの設定を行う。このように、ランダムアクセスチャネルで用いる信号の一部を利用してキャリブレーションを行うことにより、他の制御とあわせて効率的にキャリブレーションを行うことができる。この場合、基地局から端末への下りリンク通知信号の一部にフィードバック情報a'k,m (UL)を記述するフィールドが必要とされる。なお、フィードバック情報a'k,m (UL)を位相情報a'k,m (UL)/|a'k,m (UL)|に変更することにより、実施の形態6に対しても同様の処理を適用できる。
また、端末の1つのアンテナを対象として、実施の形態5のキャリブレーションを行う場合には、下りリンクのパイロット信号を(uBS/a'k,m (UL))s(q)として送信することにより、フィードバック情報を必要とせずにキャリブレーションを行うこともできる。
また、ここでは初期アクセス段階を想定して、アクセスとキャリブレーションを同時に行う手法を示したが、上述の方法はランダムアクセス時のみでなく、通信中に上下リンクパケット伝送を行う際にも適用できる。すなわち、図19を上りリンクパケット、図20を下りリンクパケットとして扱えば通信パケットを利用してもキャリブレーションを行える。これは、通信中にキャリブレーションの設定を更新する上で有効である。本実施の形態で示したように、キャリブレーションに特別なパイロット信号を用いなくても、ランダムアクセス時の信号または通信パケットに含まれるパイロット信号を用いてキャリブレーションを行うことができる。
実施の形態10.
つづいて、実施の形態10について説明する。本実施の形態では、キャリブレーションにより設定された補正値を用いると、伝搬路が変動した場合でも測定伝搬路の可逆性が保持されることについて説明する。なお、以下の説明で使用する端末kおよび基地局の装置構成は実施の形態4と同様である。
まず、時刻tでのhk,m (UL),hk,m (DL),gk,m (UL),gk,m (DL)をそれぞれhk,m (UL)(t),hk,m (DL)(t),gk,m (UL)(t),gk,m (DL)(t)とすると、hk,m (UL)(t),hk,m (DL)は次式(12)で表される。
hk,m (UL)(t)=Tk,m・gk,m (UL)(t)・RBS
hk,m (DL)(t)=TBS・gk,m (DL)(t)・Rk,m …(12)
ここで、Tk,m,TBSは、それぞれ端末k,基地局の送信アナログ利得であり、RBS,Rk,mは、それぞれ基地局,端末kの受信アナログ利得である。
実施の形態4などで示した手順でキャリブレーションを行うと、アナログ特性TBS,Tk,m,RBS,Rk,mを一定とみなせる時間範囲(仮に0<t<t0とする)では次式(13)が成り立つ。
これは、伝搬路hk,m (UL)(t),hk,m (DL)(t)が変動してもその中の実質的な変動成分である実伝搬路利得gk,m (UL)(t),gk,m (DL)(t)の間に可逆性が成り立ち(gk,m (UL)(t)=gk,m (DL)(t))、式(13)の分母と分子で相殺されるためである。
式(13)より、時間範囲0<t<t0で伝搬路利得gk,m (UL)(t),gk,m (DL)(t)が変動してもキャリブレーションの効果は保持される。従って、端末の補正係数uk,mはアナログデバイスの温度特性に合わせて長周期で更新すればよい。図21にパケット伝送の時間単位、伝搬路変動(マルチパスフェージング)の時間単位、アナログデバイス特性の変動時間単位の関係を一般的な例として示す。図21で示されるように、アナログデバイス特性の変動は伝搬路変動(フェージング周期)に比べて十分長い。このように、キャリブレーションを行う周期は無線通信の制御時間単位またはフェージング周期よりも長い時間単位で行っても動作可能である(勿論、短い時間単位で行っても動作可能である)。具体的に、キャリブレーションを無線通信の制御時間単位またはフェージング周期よりも長い時間単位で行う場合には、基地局と端末の間でのキャリブレーションに用いるパイロット信号およびチャネル測定情報の送信周期は制御時間単位またはフェージング周期よりも長くなる。
以上のように、無線通信の制御時間単位またはフェージング周期よりも長い時間単位でパイロット信号およびチャネル測定情報を送信し、キャリブレーションを行うことも可能である。この特徴を用いると制御に必要な信号量を低減できる。
実施の形態11.
つづいて、実施の形態11について説明する。本実施の形態では、実施の形態1で述べた自己キャリブレーションと、実施の形態4,5で述べた他の無線機との間の信号伝送を通して行うキャリブレーションと、を使い分けることにより、効率的にキャリブレーションを実行する方法について説明する。ここでは、基地局と端末がルビジウム発振器など高精度発振器に基づき同一のキャリア周波数を持つ場合を想定して、狭義の可逆性を実現する場合について述べる。
図22は、実施の形態11のキャリブレーション手順を示すフローチャートである。ここで、基地局の基準アンテナでの補正係数uBSは既に決められているものとする(任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態のキャリブレーションでは端末kアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下に示した手順を実行して設定する。
(11−1)端末kと基地局は、端末kのアンテナ1を対象として、実施の形態4〜6で示したいずれかのキャリブレーションを実行する(図22、ステップS221)。
(11−2)端末kは、アンテナmとアンテナ1を対象として、実施の形態1〜3で示したいずれかの自己キャリブレーションを実行する(ステップS222)。
以上の制御において、手順(11−1)として実施の形態4または5に示した手順を実行した場合には、次式(14)が成り立つ。
さらに、手順(11−2)として実施の形態1または2に示した手順を実行した場合には、次式(15)が成り立つ。
よって、上述した式(2)の状態(η=1)が実現され、狭義の伝搬路可逆性が保持される。
上述したように、本実施の形態のキャリブレーション手順では、端末は基地局との間の信号伝送を利用したキャリブレーション(手順(11−1))を一部のアンテナ(この例ではアンテナ1)についてのみ実行する。そのため、基地局とのキャリブレーションを行う際に使用するパイロット信号数をアンテナ数Mより小さくできる。なお、手順(11−2)において別途自己キャリブレーションを行うが、自己キャリブレーションで放射される送信電力は受信アンプの許容範囲で設定されるため非常に小さい。従って、他の周辺端末に及ぼす干渉も小さい。
このように、本実施の形態では、Mアンテナを持つ端末が、基地局との間で信号伝送を利用したキャリブレーションを一部のアンテナを用いて行った後に、自己キャリブレーションを行う。その結果、基地局とのキャリブレーションに用いるパイロット信号数を端末のアンテナ数Mより低減し、周辺の無線機器に与える干渉電力を低減できる。同時に、測定伝搬路において狭義の可逆性を実現することができる。
なお、本実施の形態の手順(11−1)では実施の形態6のキャリブレーション手順を適用可能であり、同様に、手順(11−2)では実施の形態3Aのキャリブレーション手順を適用可能である。これらを適用した場合は位相補正のみが行われるため、狭義の可逆性は実現されないが、各アンテナの位相関係は整合性が保たれる。また、実施の形態6のキャリブレーション手順を適用した場合よりも必要なパイロット信号数を低減できる。
実施の形態12.
つづいて、実施の形態12について説明する。本実施の形態では、実施の形態1で述べた自己キャリブレーションと、実施の形態4,5で述べた他の無線機との間の信号伝送を通して行うキャリブレーションと、を使い分けることにより、効率的にキャリブレーションを実行する方法であって、実施の形態11で示した方法とは異なる方法について説明する。本実施の形態では、基地局と端末がルビジウム発振器など高精度発振器に基づき同一のキャリア周波数を持つ場合を想定して、狭義の可逆性を実現する場合について述べる。
図23は、実施の形態12のキャリブレーション手順を示すフローチャートである。ここで、基地局の基準アンテナでの補正係数uBSは既に決められているものとする(任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態のキャリブレーションでは端末kアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下に示した手順を実行して設定する。
(12−1)端末kは、アンテナm(m=2,…,M)とアンテナ1を対象として、実施の形態1〜3で示したいずれかの自己キャリブレーションを実行する(図23、ステップS231)。このとき、uk,m(m=2,…,M)は、uk,1に依存するパラメータとなる(例えば、実施の形態1であればuk,m=uk,1(hk,m self,R/hk,m self,F))。
(12−2)端末kと基地局は、端末kのアンテナ1を対象として、実施の形態4〜6で示したいずれかのキャリブレーションを実行してアンテナ1の補正係数uk,1を決定し、さらに、他のアンテナの補正係数uk,m(m=2,…,M)を、手順(12−1)で導き出した関係から決定する(ステップS232)。
以上の制御において、手順(12−1)では実施の形態11で示した式(15)が成立し、手順(12−2)では式(14)が成立する。従って、手順(12−2)において全アンテナの補正係数uk,m(m=1,…,M)が確定したときには、次式(16)が成立し、上述した式(2)の状態(η=1)が実現され、狭義の伝搬路可逆性が保持される。
このように、本実施の形態ではMアンテナを持つ端末が、自己キャリブレーションを行った後に、基地局との間で信号伝送を利用したキャリブレーションを一部のアンテナを用いて行うこととした。これにより、上述した実施の形態11と同等の効果が得られる。
実施の形態13.
つづいて、実施の形態13について説明する。本実施の形態では、自己キャリブレーションと、他の無線機との間の信号伝送を通して行うキャリブレーションと、を使い分けることにより、効率的にキャリブレーションを実行する方法であって、実施の形態11,12で示した方法とは異なる方法について説明する。本実施の形態では、基地局と端末がルビジウム発振器など高精度発振器に基づき同一のキャリア周波数を持つ場合を想定して、狭義の可逆性を実現する場合について述べる。
図24は、実施の形態13のキャリブレーション手順を示すフローチャートである。また、図25は、実施の形態13の端末および基地局の装置構成例を示す図である。本実施の形態の基地局の構成は、図6に示した実施の形態4の基地局と同一である。また、端末の構成は、送信ビームおよび受信ビームを形成して信号を送受信するように、実施の形態4の端末を変形させたものである。
ここで、基地局の基準アンテナでの補正係数uBSは既に決められているものとする(任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態のキャリブレーションでは端末kアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下に示した手順を実行して設定する。
(13−1)端末kは、アンテナm(m=2,…,M)とアンテナ1を対象として、実施の形態1〜3で示したいずれかの自己キャリブレーションを実行する(図24、ステップS241)。このとき、uk,m(m=2,…,M)は、uk,1に依存するパラメータとなる(例えば、実施の形態1であればuk,m=uk,1(hk,m self,R/hk,m self,F))。
(13−2)端末kは、非零の任意の値をuk,1に一時的に設定してuk,m(m=2,…,M)を確定し、uk,m(m=1,…,M)によって補正された伝搬路に対して送信ビームを形成してパイロット信号を送信する。基地局では、端末kから受信したパイロット信号の複素振幅hk (UL)を測定する(ステップS242)。
(13−3)基地局は、下りリンクで測定値hk (UL)を端末kへ通知する(ステップS243)。さらに、基地局がパイロット信号を送信し、端末kは、手順(13−2)で形成した送信ビームと同じウエイトの受信ビームを形成して基地局からの下りリンクパイロット信号を受信し、受信したパイロット信号の複素振幅hk (DL)を測定する(ステップS244)。
(13−4)端末kは、アンテナ1の補正係数uk,1をuk,1=hk (DL)/hk (UL)と設定する。さらに、他のアンテナの補正係数uk,m(m=2,…,M)を、手順(13−1)を実行して導いたuk,1との関係から決定する(ステップS245)。
以上の制御を行うと、手順(13−1)において測定伝搬路で広義の可逆性が成り立つ状態を設定できる。すなわち、式(15)が成り立つ。
次に、端末kのアンテナm(m=1,…,M)で任意の送信ウエイトvmを用いて信号送信した場合(すなわち、送信ビームを用いて信号送信した場合)の基地局における受信信号の複素振幅は、次式(17)で表される。
一方、基地局から送信されたパイロット信号に対して、端末kのアンテナm(m=1,…,M)で受信ウエイトvmを用いて重み付け合成した(すなわち、受信ビームを用いて受信した)とすると、その受信信号の複素振幅は、次式(18)で表される。
手順(13−4)において、端末がフィードバック情報を用いて補正係数uk,1をuk,1=hk (DL)/hk (UL)と設定すると、式(15),(17),(18)より次式(19)が導き出され、測定伝搬路において狭義の可逆性が保持される。
なお、手順(13−3),(13−4)では、基地局がチャネル測定値hk (UL)を端末へ通知し、下りリンクでパイロット信号を送信したが、これに代えて基地局がuBS/hk (UL)で重み付けしたパイロット信号(uBS/hk (UL))s(q)を送信するようにしても構わない。この場合、端末はパイロット信号の複素振幅hk (DL)/hk (UL)を測定する。この値をアンテナ1の補正係数とすると(すなわちuk,1=hk (DL)/hk (UL)とすると)、手順(13−3),(13−4)と同じ状態を実現できる。この場合、基地局からのフィードバック情報を必要としないので、手順(13−3),(13−4)よりも制御量を低減できる。
なお、本実施の形態の関係はいかなる送受信ビーム形成、すなわちウエイトvmに対しても成り立つ。但し、送信ビームが基地局と異なる方向となる場合には、基地局においてパイロット信号の受信電力が低減し、チャネル測定精度が悪くなる。同様に、下りリンクで基地局が送信したパイロット信号の端末における受信電力も弱くなるため下りリンクのチャネル測定精度も悪くなる。従って、基地局方向に送信ビームを向けることがより好ましい。一例として、上りリンクにおいて最大比合成型の送信ビームを形成する(ウエイトvmを下りリンクのアンテナmで測定した複素チャネル利得の複素共役として与える)方法などがある。
このように、適切なウエイトvmを用いれば、送受信ビーム利得を利用しながらチャネル測定を行える。その結果、アンテナ1のみからパイロット信号を送信する場合に比べて、送信電力は同じであっても基地局で強い受信電力のパイロット信号を受信できる。従って、送受信ビーム形成を行うと、より高精度なチャネル測定を行える。
上述した手順を適用することにより、端末と基地局間で少ないパイロット信号数を用いつつ、送受信ビームを形成して高精度なキャリブレーションを実現できる。
実施の形態14.
つづいて、実施の形態14について説明する。本実施の形態では、端末と基地局がともに複数アンテナを持つMIMO(Multi-Input Multi Output)システムにおいて、自己キャリブレーションと、他の無線機との間の信号伝送を通して行うキャリブレーションと、を使い分けることにより、効率的にキャリブレーションを実行する方法について説明する。ここでは、基地局と端末がルビジウム発振器など高精度発振器に基づき同一のキャリア周波数を持つ場合を想定して、狭義の可逆性を実現する場合について述べる。
図26は、実施の形態14のキャリブレーション手順を示すフローチャートである。また、図27は、実施の形態14の端末および基地局の装置構成例を示す図である。ここで、基地局はNアンテナを備え、各アンテナnでは送信部で補正係数uBS,nを有し、キャリブレーションにより測定伝搬路において可逆性が成り立つように補正係数uBS,nを設定する。
本実施の形態の端末kの構成は、実施の形態13の端末と同一である(図25参照)。また、基地局は、複数のアンテナを備え、送信ビームおよび受信ビームを形成して信号を送受信するように変形されたものであり、図27からもわかるように、構成自体は端末kと同様である。また、本実施の形態の基地局は、端末kと同様に自己キャリブレーション(実施の形態1などで示したキャリブレーション)が可能であるものとする。
ここで、基地局の基準アンテナ(アンテナB1とする)での補正係数uBS,1は既に決められているものとする(任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態のキャリブレーションでは、基地局のアンテナnでの補正係数uBS,n(n=2,…,N)および端末kのアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下に示した手順を実行して設定する。
(14−1)端末kは、アンテナm(m=2,…,M)とアンテナ1を対象として、実施の形態1、2で示したいずれかの自己キャリブレーションを実行する(図26、ステップS261)。このとき、uk,m(m=2,…,M)は、uk,1に依存するパラメータとなる(例えば、実施の形態1であればuk,m=uk,1(hk,m self,R/hk,m self,F))。
(14−2)基地局は、アンテナBn(n=2,…,N)とアンテナB1を対象として、実施の形態1、2のいずれかの端末kと同様の手順に従い、自己キャリブレーションを実行する(図26、ステップS262)。このとき、uBS,n(n=2,…,N)は、uBS,1に依存して決定される(例えば、実施の形態1であればuBS,n=uBS,1(hBS,n self,R/hBS,n self,F))。
(14−3)端末kは、任意の値をuk,1に一時的に設定してuk,m(m=2,…,M)を確定し、uk,m(m=1,…,M)によって補正された伝搬路に対して送信ビームを形成してパイロット信号を送信する。基地局では、端末kから送信されたパイロット信号を、受信ビームを用いて受信し、受信パイロット信号の複素振幅hk (UL)を測定する(ステップS263)。
(14−4)基地局は、下りリンクで測定値hk (UL)を端末kへ通知する(ステップS264)。さらに、基地局は、手順(14−3)で形成した受信ビームと同じウエイトで送信ビームを形成してパイロット信号を送信する(ステップS255)。
(14−5)端末kは、手順(14−3)で形成した送信ビームと同じウエイトの受信ビームを形成して基地局からの下りリンクパイロット信号を受信し、受信したパイロット信号の複素振幅hk (DL)を測定する(ステップS256)。
(14−6)端末kは、アンテナ1の補正係数uk,1をuk,1=hk (DL)/hk (UL)と設定する。さらに、他のアンテナの補正係数uk,m(m=2,…,M)を、手順(14−1)を実行して導いたuk,1との関係から決定する(ステップS267)。
以上の制御を適用すると、基地局アンテナと端末アンテナの任意の経路において狭義の可逆性が成り立つ。なお、手順(14−1)と(14−2)は順番が逆であってもかまわない。
以下、上記制御によって狭義の可逆性が成り立つ理由を説明する。まず、手順(14−1)および(14−2)を実行すると、端末と基地局間の全て(M×N個)の測定伝搬路で広義の可逆性が成り立つ状態を設定できる。すなわち、次式(20)が成り立つ。
式(20)において、hBS,n,k,m (UL)は端末kのアンテナmから基地局のアンテナBnに至る上りリンク経路における測定伝搬路の利得であり、hBS,n,k,m (DL)は基地局アンテナBnから端末kアンテナmに至る下りリンク経路における測定伝搬路の利得である。
ここで、(n,m)要素に[HBS,k (UL)]n,m=uk,mhBS,n,k,m (UL),[HBS,k (DL)]n,m=uBS,nhBS,n,k,m (DL)をもつN×M行列HBS,k (UL)およびHBS,k (DL)を定義すると、式(20)は次式(21)で表される。
HBS,k (UL)=η・HBS,k (DL) …(21)
次に、端末kのアンテナm(=1,…,M)で任意の送信ウエイトvmを用いて信号送信し(すなわち、送信ビームを用いて信号送信し)、基地局のアンテナBn(n=1,…,N)で任意のウエイトwnを用いて信号受信した場合の基地局における受信ビーム出力での受信信号のチャネル測定値hk (UL)は次式(22)となる。
hk (UL)=wTHBS,k (UL)v …(22)
ここで、v=[v1,…,vM]T,w=[w1,…,wN]Tであり、Tは転置を表す。
一方、基地局がウエイトwの送信ビームを用いてパイロット信号を送信し、端末kがウエイトvの受信ビームを用いて信号受信したときの受信ビーム出力におけるチャネル測定値は次式(23)となる。
hk (DL)=wTHBS,k (DL)v …(23)
端末が、基地局からのフィードバック情報を用いて補正係数(uk,1)をuk,1=hk (DL)/hk (UL)と設定すると、式(20)は次式(24)となり、測定伝搬路において狭義の可逆性が保持される。ただし、この狭義の可逆性は基地局と端末が同一のキャリア周波数を持つ場合に成り立つ関係である。
なお、手順(14−4)、(14−5)および(14−6)では、基地局がチャネル測定値hk (UL)を端末へ通知し、下りリンクでパイロット信号を送信したが、これに代えて、基地局が1/hk (UL)で重み付けしたパイロット信号(1/hk (UL))s(q)を送信するようにしても構わない。
また、図27に示すように、基地局はパイロット信号(1/hk (UL))s(q)を送信ウエイトwでN本のアンテナに分けた後、各アンテナBnで補正係数uBS,nを乗じて送信する。このとき、端末の受信ビーム出力ではパイロット信号s(q)の複素振幅hk (DL)/hk (UL)が得られる。この測定値をそのまま端末のアンテナ1の補正係数uk,1=hk (DL)/hk (UL)とすることにより、手順(14−4)、(14−5)および(14−6)と同じ状態を実現できる。この場合、基地局からのフィードバック情報を必要としないので、手順(14−4)、(14−5)および(14−6)を実行する場合よりもさらに制御量を低減できる。
なお、本実施の形態の関係は端末および基地局でのいかなる送受信ビーム形成、すなわちウエイトベクトルv,wに対しても成り立つ。但し、基地局および端末の送信ビームが受信機と異なる方向となる場合には、受信側においてパイロット信号の受信電力が低減し、チャネル測定精度が悪くなる。従って、受信機方向に送信ビームを向けることがより好ましい。一例として、端末が下りリンクにおいてチャネル測定を行い、上りリンクで固有送信ビームを形成する方法などがある。また、基地局では端末が上りリンクで送信したパイロット信号の各アンテナでの応答を用いて最大比合成またはMMSE合成受信ビーム形成を行う方法などがある。
このように、端末および基地局がそれぞれ適切なウエイトベクトルv,wを用いれば、MIMOチャネルにおいて送受信ビーム利得を利用しながらチャネル測定を行える。その結果、アンテナ1のみからパイロット信号を送信する場合に比べて、送信電力は同じであっても基地局では強い受信電力でパイロット信号を受信できる。従って、送受信ビーム形成を行うと、より高精度なチャネル測定を行える。
実施の形態15.
つづいて、実施の形態15について説明する。本実施の形態では、他の無線機との間の信号伝送を通してキャリブレーションを行う方法であって、特に、基地局以外の無線機を用いて間接的にキャリブレーションを行う方法について説明する。ここでは、基地局と端末がルビジウム発振器など高精度発振器に基づき同一のキャリア周波数を持つ場合を想定して、狭義の可逆性を実現する場合について述べる。
図28は、実施の形態15で行うキャリブレーションの概要を示す図である。図29は、実施の形態15のキャリブレーション手順を示すフローチャートである。
基地局と端末が直接信号を送受信できる場合には、実施の形態4〜6のキャリブレーションを適用できる。しかし、両者の距離が遠く、互いに信号を直接送受信することが困難な場合も起こり得る。このような環境においても他の無線機との信号伝送を通したキャリブレーションを可能とするために、本実施の形態では基地局と端末の間に他の無線機(無線機Aとする)が介在して双方とキャリブレーションを行う間接キャリブレーション手法を示す。以下に、間接キャリブレーションの手順を示す。
(15−1)無線機Aが基地局と実施の形態4および5で示したキャリブレーションのいずれかを実行し、無線機Aのアンテナの複素補正係数uAを設定する(図29、ステップS291)。
(15−2)無線機Aのアンテナの補正係数uAは既に決定されたものとし、端末は無線機Aのアンテナとキャリブレーションを行いuk,mを設定する(ステップS292)。
なお、手順(15−1),(15−2)で実行する具体的なキャリブレーションの方法は実施の形態4,5で示したものと同じである。このとき、手順(15−1)を実行すると式(3)と同様に次式(25)が成り立つ。
ここで、TAは送信アナログ利得、RAは受信アナログ利得を表す。また、手順(15−2)を実行すると次式(26)が成り立ち、この式(26)と上式(25)から次式(27)も成り立つ。
したがって、上述の間接キャリブレーションが理想的に行われると端末は基地局と直接キャリブレーションを行った場合と同じ状態となる。この際、実施の形態10で述べたように、キャリブレーションの設定は伝搬路が変動しても保持されるので、手順(15−1)の後に伝搬路の変動が生じてから手順(15−2)を行っても構わない。
このように、端末kが基地局から遠距離にある場合には、図28に示したように、端末kが基地局とキャリブレーションを行った他の無線機(無線機A)を介してキャリブレーションを行うことで基地局とキャリブレーションを行った場合と同等の設定を行える。特に、無線機Aが基地局と端末の中間的な位置に存在する場合には、円滑に間接キャリブレーションを進められる。
また、ここでは1つの無線機Aを介する場合を示したが、2つ以上の無線機を介して間接キャリブレーションを行うことも可能である。例えば、無線機Aが基地局と、無線機Bが無線機Aと、端末が無線機Bと順番にキャリブレーションを行っても、端末は基地局とキャリブレーションを行った場合と同じ設定を行える。このように、多くの無線機が間接キャリブレーションを行うと、システム内の多くの無線機が互いにキャリブレーションを行った状態となる。その結果、キャリブレーションを行ったさまざまな送受信機間で伝搬路可逆性を用いて通信を行うことが可能となる。
実施の形態16.
つづいて、実施の形態16について説明する。本実施の形態では、本実施の形態では、端末と基地局がともに複数アンテナを持つMIMOチャネルにおいて、キャリブレーションに必要となる信号数を従来よりも少なく抑えつつ無線機間でキャリブレーションを実行する方法について説明する。
上記非特許文献2に記載された技術では、Nアンテナを持つ基地局とMアンテナを持つ端末がキャリブレーションを行うためには、N×M個のチャネル測定情報を一方の無線機から他方の無線機へ通知する必要があった。これに対して、本実施の形態では以下の手順に従いキャリブレーションを行うことにより、2つの無線機間で通知に必要となるチャネル情報を低減する。
ここで、本実施の形態では、端末kが複数のアンテナm(m=1,…,M)を備え、基地局が複数のアンテナn(n=1,…,N)を備えているものとして説明を行う。また、基地局の基準アンテナ(n=1)での補正係数uBS,1は既に決められているものとする(任意の値で構わない)。このとき、本実施の形態のキャリブレーションでは基地局のアンテナnでの補正係数uBS,n(n=1,…,N)および端末kのアンテナmでの補正係数uk,m(m=1,…,M)を以下に示した手順を実行して設定する。なお、図30は、実施の形態16のキャリブレーション動作での基地局と端末のアンテナ間の経路を示す図である。
(16−1)端末kと基地局は、基地局のアンテナ1(基準アンテナ)を対象として、実施の形態4または5で示したキャリブレーションを実行し、補正係数uk,m(m=1,…,M)を決定する。すなわちこの手順では、端末kが使用する補正係数を決定する。
(16−2)端末kと基地局は、手順(16−1)で決定した補正係数の一つであるuk,1を使用し、端末kのアンテナ1を対象として、実施の形態4または5で示したキャリブレーションを実行して補正係数uBS,n(n=1,…,N)を決定する。すなわちこの手順では、基地局が使用する補正係数を決定する。
なお、実施の形態4,5の「基地局」,「端末」は説明上の簡易表現であり、同じ方法は「基地局」と「端末」の語句を入れ替えることで基地局が複数アンテナ、端末が単一のアンテナの場合にも適用できる。
以上の手順により、キャリブレーションを完了する。本手順により、基地局アンテナと端末アンテナの全ての経路の測定伝搬路において狭義の可逆性を維持できる。
以下、本実施の形態によって、狭義の可逆性を維持できる理由を説明する。本実施の形態では、基地局のアンテナn(n=2,…,N)は端末のアンテナm(m=2,…,M)と直接キャリブレーションを行っていない。しかし、手順(16−2)において基地局のアンテナn(n=2,…,N)は端末のアンテナ1とキャリブレーションを行い、端末のアンテナ1は基地局のアンテナ1とキャリブレーションを行い、手順(16−1)において基地局のアンテナ1は端末のアンテナm(m=2,…,M)とキャリブレーションを行っている。従って、実施の形態15で述べた間接キャリブレーションの原理に基づけば、本実施の形態において、基地局のアンテナn(n=2,…,N)と端末のアンテナm(m=2,…,M)は直接キャリブレーションを行った場合と同じ設定状態となる。
このように、本実施の形態では複数のアンテナを持つ端末が複数のアンテナを持つ基地局とキャリブレーションを行う際に、基地局の基準アンテナに対して端末の複数アンテナがキャイブレーションを行い、端末の基準アンテナに対して基地局の複数アンテナがキャリブレーションを行う。その結果、基地局アンテナと端末アンテナの間の全ての測定伝搬路に対してキャリブレーションを行った場合と同じ設定とできる。
なお、手順(16−1),(16−2)を実行するにあたり、実施の形態4の方法を用いると、通知する必要のあるチャネル測定情報はN+M個となる。また、実施の形態5の方法を用いると、パイロット信号のみで制御できる。一方、非特許文献2に記載の技術ではN×M個のチャネル測定情報を一方の無線機から他方の無線機へ通知する必要があったことを考えると、N>=2かつM>=2のMIMOチャネル(すなわち、想定されるすべてのMIMOチャネル)について、本実施の形態の手順により必要とする制御情報量を低減させることができる。
実施の形態17.
つづいて、実施の形態17について説明する。本実施の形態では、基地局が複数の端末に対して個別にキャリブレーションを適用した場合に得られる状態について説明する。ここでは、複数の端末を端末k,端末lとして説明を行う。
端末kおよびlに対して個別に実施の形態4または5のキャリブレーションを適用すると、次式(28)が成り立つ。ここで、Mk,Mlはそれぞれ端末k,lのもつアンテナ数を表す。
式(28)に示したように、複数の端末k,lは基地局に対して個々に狭義の可逆性を満足するキャリブレーションを行うと、複数の端末kと端末lの間で狭義の可逆性を満足するキャリブレーションを行った場合と同じ状態となる。このように、複数の端末k,lは基地局を介して相互に狭義の可逆性を満足する状態の設定を行える。従って、複数の端末k,lが直接通信を行う場合、新たにキャリブレーションを行わなくても、可逆性を用いた信号の送受信および伝送制御を行うことができる。
この手法に従うと、基地局での設定値を基準として、セル内の端末が基地局とキャリブレーションを行い、セル内の端末が相互に伝搬路可逆性を保持できる無線通信システムを構築できる。
実施の形態18.
つづいて、実施の形態18について説明する。本実施の形態では、端末の位置に応じて直接キャリブレーションを行うか実施の形態15で示した間接キャリブレーションを行うかを適応的に選択決定してキャリブレーションを実行する手順について説明する。図31に本実施の形態のキャリブレーション手順実行時の信号伝送の概要を示す。
実施の形態15で述べたように、基地局と端末の伝搬損失に応じて、端末は基地局と直接キャリブレーションを行う場合もあれば、間接キャリブレーションを行う場合もある。このような制御を行うにあたり、さまざまな制御方法が考えられる。
一例として、基地局は端末との伝搬損失を測定し、端末の伝搬損失が大きい場合には、図31に示すように間接キャリブレーションを勧告する信号を送信する。その勧告信号に基づいて、端末は間接キャリブレーションの可能な他の無線機を探して、キャリブレーションを行う。この際、間接キャリブレーションをサポートできる他の無線機(無線機A)は、間接キャリブレーションが可能であることを「間接キャリブレーションサポート信号」として周囲に通知する。端末は「間接キャリブレーションサポート信号」をサーチして間接キャリブレーションが可能な無線機Aを検出し、その無線機に「間接キャリブレーション要求信号」を送信して無線機Aが許諾すると、間接キャリブレーションを実行する。
この際、キャリブレーションにもいくつかのレベルを設ける。レベル分けとしては、狭義の可逆性を実現するキャリブレーション、広義の可逆性を実現するキャリブレーション、などがある。狭義の可逆性を間接キャリブレーションによりサポートする無線機は、その無線機が一旦基地局とキャリブレーションを行っている必要がある。従って、基地局とキャリブレーションを行った設定を持つ無線機は狭義の可逆性を実現するキャリブレーションをサポートできる信号を周辺に通知できる。一方、広義の可逆性を満足するキャリブレーションは、基地局とキャリブレーションを行っていない無線機であってもサポートできる。従って、このような無線機は広義のキャリブレーションをサポートする信号を周辺端末に通知する。
図32は、「間接キャリブレーションサポート信号」の一例を示す図である。本信号には間接キャリブレーションサポートビットが含まれ、「0」の場合はサポート不可、「1」の場合はサポート可能を示す。また、キャリブレーションのカテゴリとして、カテゴリAはキャリブレーションのタイプを示し「0」の場合は広義の可逆性「1」の場合は狭義の可逆性をサポートする。また、カテゴリBにおいて「0」は位相補正のみのキャリブレーションをサポートし、「1」は位相振幅補正を行うキャリブレーションをサポートする。このように、カテゴリに分類することで、端末は無線機Aがサポート可能なキャリブレーションを把握できる。
また、端末が必要とするキャリブレーションも狭義の可逆性を実現するキャリブレーション、広義の可逆性を実現するキャリブレーション、キャリブレーションを必要としない端末に分類できる。端末は、基地局へアクセスする際に、どのキャリブレーションレベルが必要であるか、またどのレベルに対応した機種であるかを基地局に通知する。図33は、基地局が端末に通知するキャリブレーション信号のフォーマットの一例を示す図である。本フォーマットは端末がキャリブレーションの対応機種であるか否かを示すビットを含み、この例では、そのビットが「0」であればキャリブレーション不可能な機種、「1」であればキャリブレーション対応機種であることを示す。また、カテゴリA、カテゴリBはキャリブレーションの種類を示すが、内容は図32と同じである。基地局は端末の機種および要求するキャリブレーションレベルに応じて、適切なキャリブレーション手順を選択して実行する。
図34は、端末が無線機Aに送信する間接キャリブレーション要求信号のフォーマットの一例を示す図である。無線機Aは端末の要求するキャリブレーションの種類に応じて、さまざまなタイプのキャリブレーションをサポートする場合もある。
このように、本実施の形態では、端末と基地局との間の伝搬状態に応じて直接キャリブレーションを行うか、間接的にキャリブレーションを行うかを適応的に選定するようにした。これにより、端末はよい伝搬状態を確保できる無線機を選定して、高精度なきゃリブレーションを行うことができる。また、本実施の形態では端末および無線機のキャリブレーション能力に応じて、実行するキャリブレーションのタイプを変更することとしたので、さまざまな機種の混在する環境にも適応的に対応できる。
実施の形態19.
つづいて、実施の形態19について説明する。本実施の形態では、端末が無変調信号(キャリア)を送信する際に、基地局においてその信号の位相(キャリア位相)が特定の値となるように制御する方法について説明する。ここでは、この制御をキャリア位相送信制御と呼んで説明を行う。なお、本実施の形態ではルビジウム発振器など高精度な周波数発振器を用いる場合、後の実施の形態に述べる超高精度キャリア周波数制御を行う場合などに実現される基地局と端末のキャリア周波数が同じまたは非常に近い環境を想定する。図35は、本実施の形態の端末の装置構成例と、基地局との間で伝送される信号を示す図である。また、図36は、本実施の形態の位相伝送制御一例を示すフローチャートである。
端末の1本のアンテナmを対象とすると、キャリア位相送信制御手順は以下のように示される。
(19−1)基地局と端末は、狭義の可逆性を維持するキャリブレーションを実行する(ステップS361)。なお、上述した直接および間接キャリブレーションのいずれであっても構わない。
(19−2)基地局は、パイロット信号d(q)に補正係数uBSを乗じて生成したパイロット信号uBSd(q)を送信する(ステップS362)。
(19−3)端末は、下りリンクチャネル測定部において下りリンク時間スロットで基地局からのパイロット信号の複素振幅uBShk,m (DL)を測定する(ステップS363)。
(19−4)端末は、ウエイト決定部で送信ウエイトvk,m=1/(uBShk,m (DL))を決定し、送信信号生成部で送信信号s(q)を生成する。さらに、次の上りリンク時間スロットでウエイト乗算部が送信ウエイトvk,mを乗じて生成したデータ信号vk,ms(q)を送信する(ステップS364)。
このとき、基地局での受信信号xBS(q)は次式(29)で表される。
ここで、端末の移動速度が遅く、下りリンクでの伝搬路測定と上りリンクのデータ送信の間で伝搬路変動が無視できる場合には、xBS(q)=s(q)+zBS(q)が成り立つので、基地局では信号s(q)をキャリア位相0で受取ることができる。
ここで、キャリア位相とは信号s(q)が無変調信号であると仮定した場合の位相である(ただし、実際にs(q)が無変調信号である必要は無い)。本手法では、端末が移動しても連続する下りリンクと上りリンクの間の伝搬路変動が無視できる場合には、基地局における信号の複素振幅の位相が一定となるよう制御できる。すなわち、キャリア位相を保持できる。これは、上りリンク伝搬路の位相変動を下りリンクチャネル情報を用いて補償できることで可能となる。また、本実施の形態のキャリア位相制御は、狭義の可逆性を維持するキャリブレーションを行うことで、下りリンク伝搬路の絶対位相から上りリンク伝搬路の絶対位相を推定できるため可能となる。さらに、本実施の形態では、基地局において受信される信号電力も伝搬路に拠らす一定となる。従って、位相制御と送信電力制御を同時に行っている。
なお、手順(19−4)では送信信号にウエイトvk,m=1/(uBShk,m (DL))を乗じたが、実数スカラー倍異なるウエイトを用いても位相は変化せず、絶対位相の制御を行える。例えば、端末の送信電力を一定としたいときには、ウエイトをvk,m=uBS *hk,m (DL)*/|uBShk,m (DL)|としてもよい(*は複素共役)。このように、本制御では送信電力制御を行わずに、絶対位相の送信制御のみを行うことも可能である。
このように、本実施の形態では、端末と基地局がキャリブレーションを行った後、基地局からパイロット信号を送信して、端末でパイロット信号を用いてチャネル測定を行い、端末はチャネル測定値に応じて信号の振幅位相または位相を調整して送信することにより、基地局における受信信号のキャリア位相または位相振幅を特定の値となるように制御する。
なお、従来の移動通信では受信側でのキャリア位相が特定の値となるように送信機が制御する方法はこれまで行われてこなかった。これは、無線通信においてキャリア位相送信制御を行う必要性がこれまで低かったためでもある。しかし、キャリア位相送信制御を行うことにより、多くの利点がある。
例えば、受信機(基地局)では上りリンク信号のキャリア位相をあらかじめ予測できるため、キャリア位相の存在範囲を絞って位相同期を行うことができる。具体的には、基地局におけるキャリアの複素振幅(位相を含む)aをあらかじめ予測できる。基地局の予測した値a(pre)と上りリンクパイロット信号を用いたチャネル推定によって得られる値a(est)の2つを適切なウエイトで重み付けすることにより、キャリアの振幅位相成分をより高い推定精度で推定できる。図37は、このチャネル推定の高精度化処理プロセスを示す図である。図37では、重み付け後の複素振幅a'は次式(30)で表される。
a'=ra(pre)+(1−r)a(est) …(30)
ここで、rは重み付け係数を表す。重み付け係数の設定方法は種々存在している。例えば、さまざまな移動環境を想定した上で、統計的にa'の推定精度が高くなる固定値とする方法がある。
また、伝搬路の変動速度もしくはドップラー周波数を基地局で測定するか端末で測定して基地局へフィードバックし、基地局が変動速度に応じて適応的にrを決定する方法がある。例えば、ドップラー周波数が20Hzであればr=0.8とし、20〜100Hzであればr=0.5とし、100〜1kHzであればr=0.1と設定する。
本実施の形態では、伝搬路の移動速度が高くなるにつれ、端末の測定した下りリンク伝搬路と端末が信号を送信する上りリンク伝搬路の差が生じるため、基地局における上りリンク信号のキャリア位相は目標状態から差が生じる。従って、伝搬路変動が大きい場合には、上りリンクパイロット信号を用いたチャネル推定への依存度を大きくする。このように、rを適応的に設定することにより常に良好なチャネル推定を行うことができる。
また、この重み付けによって従来の上りリンクパイロット信号のみを用いたチャネル推定よりもチャネル推定精度を向上できる。なお、従来技術ではこのようなチャネル推定の高精度化は行われておらず、キャリア位相送信制御によってチャネル推定精度を向上できることも知られていない。しかし、本実施の形態で示すように、一旦キャリブレーションを完了すると他の制御情報を必要とすることなくキャリア位相送信制御を行うことにより上りリンクのチャネル推定精度を向上できる。これは、従来技術ではチャネル推定にあたり上りリンクの信号伝送のみに着目していたのに対し、端末が下りリンクのチャネルを把握して伝搬路可逆性を利用できるという新たな要素を取り入れることにより実現されている。このように、本処理はキャリア位相の送信制御情報を利用することを特徴としてチャネル推定を行い、上りリンクにおけるチャネル推定精度を向上する。
また、本実施の形態のキャリア位相の送信制御を行うと、基地局でのチャネル推定精度を向上できるため、従来の無線通信よりも上りリンク信号に含むパイロット信号数を減らすこともできる。同様に、パイロット信号の送信電力を低減することもできる。その結果、上りリンクでのデータ伝送効率を改善できる。また、パイロット信号の送信電力を低減する場合には、周辺への干渉電力を低減できる。
なお、実際の無線システムでは端末の機種によってキャリア位相送信制御に対応する機種と対応しない機種が混在する環境が考えられる。その際、端末は基地局にキャリア位相送信制御に対応可能な機種か否かを通知する。図38に端末が基地局へキャリア位相送信制御に対応する機種か否かを通知するための信号フォーマット例を示す。図38のフォーマット例では、ビット「0」はキャリア位相送信制御が不可能、「1」は制御可能であることを通知する。
また、基地局はキャリア位相送信制御に対応可能な機種か否かに応じて端末の用いる信号フォーマットを適応的に選定することも可能である。図39に示すようにキャリア位相送信制御対応端末にはパイロット信号数の少ない信号フォーマットで信号伝送するよう指示する。また、キャリア位相送信制御に対応していない端末にはパイロット信号数の多い信号フォーマットで信号伝送するように指示する。この指示は下りリンクの制御信号によって行われる。また、事前に規格として機種と信号フォーマットの対応を規定することによって、指示することなく端末が信号フォーマットを選定することもできる。
基地局では、信号受信に際し、図40に示したように、上りリンク信号がキャリア位相送信制御されている場合には(ステップS401,Yes)、目標キャリア位相振幅情報を用いた高精度チャネル推定を行う(ステップS402)。一方、キャリア位相送信制御されていない場合には(ステップS401,No)、従来の上りリンク信号を用いたチャネル推定を行う(ステップS403)。このように、端末がキャリア位相送信制御に対応可能な機種か否かに応じて、適応的に信号フォーマットおよびチャネル推定方法を変更することにより、さまざまな機種の存在する環境で効率的に信号伝送およびチャネル推定を行うことができる。
さらに、異なる例として、本実施の形態のキャリア位相の送信制御を行うと、連続する下りリンクと上りリンクでの伝搬路変動が小さい環境では、基地局は上りリンク信号のキャリア位相および振幅を把握できるため、図41に示すように端末からの上りリンク信号がパイロット信号を含まなくても信号受信できる。具体的には、基地局の予測するキャリア振幅位相a(pre)のみを用い、その値をチャネル推定値として信号受信できる。
さらに、基地局は予測するキャリア振幅位相a(pre)を用いて、上りリンク信号に含まれる変調されたデータまたは制御シンボルの一部を判定し、その判定したシンボルを用いてチャネル推定を行うことでチャネル推定精度を高めることもできる。図41に本処理における制御プロセスを示す。具体的には、判定したシンボルのチャネル推定値a(blind_est)と予測キャリア振幅位相a(pre)を適切なウエイトrで重み付けし、次式(31)を算出する。
a'=ra(pre)+(1−r)a(blind_est) …(31)
式(31)で示したa'をチャネル推定値として用いることで、高い精度で信号受信できる。この際、基地局は上りリンク信号のキャリア位相を把握しているので、データシンボルの判定を行う際に、目標キャリア位相情報を用いることにより、データシンボルの判定成功率を向上できる。従って、キャリア位相を把握せずにデータシンボルからキャリア再生を行う通常のブラインド検波に比べて、データまたは制御シンボルの判定を高性能に行うことができる。その結果、高精度なチャネル推定精度を得ることができる。
さらに、変調されたデータまたは制御シンボルの一部をBPSKまたはQPSK変調とすると、多値変調(16QAM,64QAM)の場合よりも高い精度でデータまたは制御シンボルを判定できる。これは、キャリア位相送信制御により、上りリンクの無変調信号の受信位相は把握できているため、BPSKまたはQPSK信号では位相判定を容易に行えるためである。なお、本実施の形態のキャリア位相送信制御では、上りリンク無変調信号の振幅レベルも同時に調整することが可能である。従って、16QAM,64QAMも判定可能である。しかし、BPSK、QPSKを判定する場合と比べると、16QAM,64QAMでは振幅方向での正しい判定が要求され、誤り確率はやや高くなる。従って、チャネル推定用に判定するシンボルはBPSK,QPSKのほうがより好ましい。
なお、上りリンク信号の一部のシンボルを用いて判定を行い、上式(31)のチャネル推定値a'を導いた後は、高い精度のチャネル推定を用いて信号受信できる。従って、図42の信号フォーマットに示したように、チャネル推定の判定に用いる一部のシンボルのみをBPSKまたはQPSKとし、チャネル推定の判定に用いない他のシンボルを16QAM,64QAMなどの多値変調とすることにより、高精度なチャネル推定を行いつつ、データ伝送効率を向上することができる。
さらに、図43に示したように、チャネル推定の判定に用いる一部のシンボルのみを制御信号とする構成も可能である。例えば、判定に用いる一部のシンボルがパケットシリアル番号によって構成されていれば、基地局は当該シンボルの判定と同時にパケットのシリアル番号を認識できる。また、再送パケットか初送パケットを表す制御信号であれば、再送(または初送)パケットであることを認識できる。
また、ここでは上りリンクでキャリア位相の送信制御を行う例を示したが、これは単なる一例であり、上記表現の基地局と端末を入れ替えることにより、下りリンクにおいても同様の制御を実現できる。例えば、基地局が下りリンクで端末kへ送信する信号は端末kにおいて特定の位相となるように送信信号のキャリア位相制御を行うこととする。
さらに、図44に示したように、その下りリンク信号のうちチャネル推定のために判定するシンボルに信号のあて先である端末IDを含む構成を用いることも可能である。この場合、端末は、下りリンク信号の端末IDを含むシンボルをはじめに判定し、その端末IDが自分宛であれば、判定したシンボルをチャネル推定用に用いてチャネル推定精度を向上させた後、その他の信号(パケット)を受信する。また、そのIDが自分宛でなければ、その他の信号を受信しない。このように、端末IDの判定値に応じてその下り信号を受信するか否かを判定できる。ここで、判定するシンボルを通常のデータとした場合には、チャネル推定を行った後に制御信号を読むため処理ステップが多くなる。これに対して、制御信号を含むシンボルを判定した場合には、不必要なパケットである場合にチャネル推定を含む全ての処理を早く停止できる格別な利点がある。
なお、上述の下りリンクでのキャリア位相送信制御では、基地局は各端末へ送信する際に、信号の受信対象となる端末において特定のキャリア位相となるように送信制御する。したがって、信号の受信対象とならない端末では下りリンク信号のキャリア位相は特定の値とはならない。その結果、信号の受信対象で無い端末では予測したチャネル推定値とは全く異なる振幅・位相で下りリンク信号を受信するため、端末IDを含むシンボルの判定を正確に行えない。その結果、意味の無いランダムな判定値となり、結果として自分の端末IDではないためその下りリンク信号を受信しない。このように、受信対象以外の端末では、キャリア位相が分からなくても、受信対象である端末でシンボルを正確に判定できれば問題は生じない。逆に、下りリンクでキャリア位相の送信制御を行うと、受信対象である端末ではキャリア位相を把握できてシンボルの判定を正確に行えるのに対し、受信対象でない他の端末では正確なデータシンボルの判定が容易に行えないため、秘匿性を確保する上でも有効となる。
以上のように、キャリア位相を送信制御する利点は多くあるが、上述の利点のみでなく他にも多くの利点がある。他の利点については以降の実施の形態で順次説明する。
実施の形態20.
つづいて、実施の形態20について説明する。本実施の形態では、複数のアンテナを持つ端末が各アンテナから無変調信号(キャリア)を送信すると仮定した場合に、基地局において端末の各アンテナからの複数の信号のキャリア位相が同じ値となるように制御する方法について説明する。なお、端末の構成は、実施の形態19と同様である。
複数アンテナを持つ端末のキャリア位相送信制御は以下の手順(20−1)〜(20−4)を実行することにより行う。
(20−1)基地局と端末の複数アンテナm(m=1,…,M)の間で狭義の可逆性を維持するキャリブレーションを行う。なお、キャリブレーションは直接、間接キャリブレーションのいずれであっても構わない(例えば、実施の形態4,5で示した方法によって行う)。
(20−2)基地局は、パイロット信号d(q)に補正係数uBSを乗じて生成したパイロット信号uBSd(q)を送信する。
(20−3)端末の各アンテナm(m=1,…,M)では下りリンク時間スロットで基地局からのパイロット信号を受信し、受信信号から伝搬路uBShk,m (DL)を測定する。
(20−4)次の上りリンク時間スロットで端末のアンテナm(m=1,…,M)から送信ウエイトvk,m=1/(uBShk,m (DL))を乗じて信号vk,ms(q)を同時に送信する。
上記手順(20−1)を実行することにより、基地局と端末kのアンテナm(m=1,…,M)はそれぞれ可逆性を満足する状態となる。また、手順(20−4)の信号送信を行うと、端末の各アンテナからの信号は基地局において同じキャリア位相をもつので、基地局において同相となり強めあう。このように端末は複数のアンテナの位相関係を利用して受信信号強度を強くする送信ビーム形成を行える。なお、本実施の形態では一般に基地局と端末のキャリア周波数が同じまたは非常に近い環境でなくても適用できる。キャリア周波数がある程度異なる環境では、基地局での受信信号は時間とともに位相回転するが複数アンテナからの複数の信号間での相対的な位相は保たれる。
これとは別に、ルビジウム発振器など高精度な周波数発振器を用いたり、後の実施の形態に述べる超高精度キャリア周波数制御などにより基地局と端末のキャリア周波数が同じまたは非常に近い環境が実現されると、送信ビーム形成を行えるのみでなく、送信ビームを用いて送信した無変調信号(キャリア)の基地局における受信信号の位相を特定の値に制御できる。従って、従来の送信ビームとは異なり、受信局(基地局)において受信信号が特定の位相となるように送信制御しつつ送信ビーム形成することができる。
実施の形態21.
つづいて、実施の形態21について説明する。本実施の形態では、複数(少なくとも2つ)の端末がそれぞれ無変調信号(キャリア)を送信すると仮定した場合に、基地局においてその複数の信号の相対的なキャリア位相が特定の値となるように制御する方法について説明する。なお、本実施の形態ではルビジウム発振器など高精度な周波数発振器を用いる場合、または後の実施の形態に述べる超高精度キャリア周波数制御などにより実現可能な複数の端末のキャリア周波数が同じまたは非常に近い環境を想定する。但し、基地局と端末のキャリア周波数はある程度異なっていても構わない。図45に実施の形態21の各端末(端末k,l)の装置構成を示す。また、図46に制御手順のフローチャートを示す。
上述した実施の形態19では一つの端末が基地局における受信信号の位相を特定の位相に合わせるように制御したが、2つの端末が無変調信号(キャリア)を送信すると仮定した場合に、基地局においてその2つの受信信号の相対位相が特定の値となるように制御を行うこともできる。本制御は以下の手順で行われる。
(21−1)基地局と2つの端末k,lは、各端末の各アンテナがそれぞれ基地局と狭義の可逆性を維持するキャリブレーションを実行し、補正係数を設定する(ステップS461)。なお、キャリブレーションは直接、間接キャリブレーションのいずれであっても構わない(例えば、実施の形態4,5で示した方法によって行う)。
(21−2)基地局は、パイロット信号パイロット信号d(q)に補正係数uBSを乗じて生成したパイロット信号uBSd(q)を送信する(ステップS462)。
(21−3)端末kは、下りリンク時間スロットで基地局から送信されたパイロット信号を各アンテナm(m=1,…,Mk)で受信し、受信信号から伝搬路uBShk,m (DL)を測定する。同様に、端末lは、各アンテナm(m=1,…,Ml)で受信したパイロット信号から伝搬路uBShl,m (DL)を測定する(ステップS463)。
(21−4)次の上りリンク時間スロットにおいて、端末kは、送信ウエイトvk,m=1/(uBShk,m (DL))を乗じて生成した信号sk(q)をアンテナm(m=1,…,Mk)から同時に送信する。同様に、端末lは、送信ウエイトvl,m=1/(uBShl,m (DL))を乗じて生成した信号sl(q)をアンテナm(m=1,…,Ml)から同時に送信する(ステップS464)。
手順(21−1)のキャリブレーションによって、基地局と端末k,lはそれぞれ狭義の可逆性を満足する状態となる。従って、手順(21−4)において、複数の端末が各アンテナでキャリア位相送信制御を行うと、複数の端末のアンテナからの信号は基地局で同相となり強めあう。このように、本実施の形態の方法を用いれば、複数の端末のアンテナからの信号を基地局において同相とすることができる。なお、この状態は伝搬路に変動が生じても保持される。これは、各端末が下りリンクチャネル変動に応じて上りリンクのチャネル変動を補償することにより実現される。
本実施の形態を端末の複数アンテナに適用すると、複数端末の複数アンテナからの信号が全て基地局において同じキャリア位相を持つように設定できる。なお、ここでは複数の端末のアンテナからの信号を基地局において同相とする方法を述べたが、端末ごとに位相オフセットを通知すれば、複数の端末のアンテナからの信号を基地局において特定の相対位相とすることも可能である。
このように、本実施の形態に従えば、複数の端末が基地局において同じキャリア位相または特定の相対位相を保持できる。その結果、複数の端末が基地局において同相となるように制御して同じ信号を送信する場合には、基地局において複数の端末からの信号は同位相となり強めあうことができる。なお、端末の送信信号が変調信号であっても、複数の端末の信号は同位相を保つので、基地局において2つの端末からの信号は互いに強めあう。
ただし、本実施の形態において、端末と基地局間の距離が2端末で大きく異なる場合には、基地局に到達する変調信号のタイミングが同じとなるようにタイミング制御を行う。このタイミング制御は各端末からの信号の基地局におけるシンボル開始タイミングを測定し、基地局から端末へ送信タイミングを調整する制御信号を送信することで実現される。例えば、OFDMAでは異なる端末からの信号の基地局における受信タイミング誤差がガードインターバル内の時間差となるように制御される。このタイミング制御技術は、例えば文献「3GPP RAN, 3G TR25.814 V1.2.1, “Physical layer aspects for evolved UTRA (Release 7)”, Feb. 2006」などで従来から使用されている技術である。このタイミング制御と本実施の形態のキャリア位相送信制御を併用する場合には、まずタイミング制御によって異なる端末からの信号が基地局において同じ受信タイミングとなるように制御し、その後にキャリア位相送信制御を行うことが望ましい。これは、キャリア位相送信制御を先に行っても、タイミング制御によって送信タイミングを調整するとキャリア位相も同時に変化してしまうためである。
従って、図47に示したように、まず基地局と各端末間で送信タイミング制御を実行し(ステップS471)、つぎにキャリア位相送信制御を実行する(ステップS472)。このような手順とすることにより、異なる端末からの変調信号が基地局において同じ受信タイミングかつ同位相となるように円滑に制御することができる。
なお、図48に示すように2つの端末からの信号は基地局では強めあうものの、他の地点では相互の位相関係は保持されないため、信号電力は基地局ほど大きくならない。すなわち、本制御に基づくと、受信機である基地局において受信電力を大きくしつつ、受信機ではない周辺の他の無線機に与える干渉を低減することができる。言い換えれば、これは複数の端末のアンテナを利用して、協力的に送信ビーム形成を行っている状態に相当する。このように、複数の端末が信号をコヒーレントな状態で送信することにより受信機で位相を同相として強い受信電力とすることができる。
また、従来の無線通信では、キャリア位相の送信制御が行われていなかったため、本実施の形態で示す複数の端末が協力的に送信ビーム制御を行うことは技術的に困難であった。しかし、本実施の形態で示すように、適切なキャリブレーションを行い、その可逆性を用いて各端末が適切な送信信号を送信することにより、協力的な送信ビーム形成が可能となる。
実施の形態22.
つづいて、実施の形態22について説明する。本実施の形態では、キャリア位相の送信制御を行う複数のリレー無線機が協力的に送信ビーム形成を行う方法について説明する。なお、本実施の形態ではルビジウム発振器など高精度な周波数発振器を用いる場合、後の実施の形態に述べる超高精度キャリア周波数制御などを用いて複数のリレー無線機が同じ又は非常に近いキャリア周波数を有する環境を想定する。また、図49は、実施の形態22の制御を実行する際の信号伝送の様子を示す図である。
近年,無線通信では高速伝送への要求が高く、高効率に高速無線伝送を実現できるシステム構成が求められている。高速伝送を行うにつれ、多くのビット情報を通知するため送信機からの送信電力は増加する。しかし、移動端末など電力源に常時接続されていない送信機ではバッテリーに充電できる電力も限られるため、送信電力を低減できる技術が求められている。また、電力源に常時接続されている送信機であっても、消費電力を低減するため、電力を低減する技術は重要である。
このような要求への解決策としてし、近年リレー伝送方式を用いた無線通信方式が多く研究されている。リレー伝送方式では、端末(または基地局)がリレー無線機へ信号を伝送し、リレー無線機が基地局(または端末)に信号をリレー伝送する。このようなリレー伝送によって、要求通信品質を満たしつつ必要な送信電力の総和を低減できることが期待されている。
そこで、本実施の形態では、端末から信号を受信した複数のリレー無線機k,lが基地局に向けて信号伝送する際に、協力的に送信ビーム形成を行う。以下に、端末から基地局への信号伝送手順を示す。
(22−1)基地局と2つのリレー無線機k,lは、各端末の各アンテナがそれぞれ基地局と狭義の可逆性を維持するキャリブレーションを実行し、補正係数を設定する。
(22−2)基地局は、パイロット信号パイロット信号d(q)に補正係数uBSを乗じて生成したパイロット信号uBSd(q)を送信する。
(22−3)リレー無線機kは、下りリンク時間スロットで基地局から送信されたパイロット信号を各アンテナm(m=1,…,Mk)で受信し、受信信号から伝搬路uBShk,m (DL)を測定する。同様に、リレー無線機lは、各アンテナm(m=1,…,Ml)で受信したパイロット信号から伝搬路uBShl,m (DL)を測定する。
(22−4)端末は信号491を送信し、リレー無線機k,lは、信号491を受信して、一旦受信信号のキャリア位相が0となるように位相補正を行う。
(22−5)上りリンク時間スロットにおいて、リレー無線機kは、手順(22−4)で補正した受信信号に対して送信ウエイトvk,m=fk,m/(uBShk,m (DL))を乗じて、アンテナm(m=1,…,Mk)から同時に送信する。同様に、リレー無線機lは、手順(22−4)で補正した受信信号に対して送信ウエイトvl,m=fl,m/(uBShl,m (DL))を乗じて、アンテナm(m=1,…,Ml)から同時に送信する。
なお、上記手順(22−4)は、手順(22−1),(22−2),(22−3)の途中で行っても構わず、手順の順番が変化した場合にも本実施の形態は動作する。
ここで、手順(22−4)においてリレー無線機k,lが受信する信号は、通常、キャリア位相が0〜2πの間でランダムな値となっている。これは、端末からリレー無線機k,lに至る間にさまざまな伝搬路を通過するためである。そのためリレー無線機k,lでは、受信信号491のチャネル推定を行い、チャネル推定で得られた位相回転分を補正することで受信信号のキャリア位相を0とする。また、振幅が一定値となるように振幅方向に補正を行っても構わない。位相振幅の補正を行うと、リレー無線機k,lで補正後の信号がほぼ同じとなるため、実施の形態21で示した複数の無線機が同じ信号を送信して協力的な送信ビーム形成を行う状態に近くなる。また、リレー無線機k,lでは受信信号を復号して復号した情報を送信信号として構築する再生中継を行っても構わないし、復号を行わずにリレー伝送する非再生中継を行っても構わない。
また、上記手順(22−1)〜(22−5)において、fk,m,fl,mはそれぞれ、リレー無線機kアンテナmでのウエイトを決定するためのパラメータ,リレー無線機lアンテナmでのウエイトを決定するためのパラメータあり、これらのパラメータは、通常、0または正の実数となる。実施の形態21で示した手順(21−1)〜(21−4)と比較すれば分かるように、本実施の形態は基本的に実施の形態21をリレー無線機に応用した例であるが、新たに送信ウエイトにパラメータfk,m,fl,mを用いている。以下では、リレー無線機kを例としてその意味を説明する。
パラメータfk,m,fl,mが実数である場合、その設定によって各端末(リレー無線機)のアンテナから送信される信号の送信電力に変化が生じるが、基地局において同相となることに変わりはなく、本発明の効果が得られる。すなわち、さまざまな実数パラメータfk,m,fl,mを設定しても複数の信号をコヒーレントに位相合成する本発明の効果は得られる。
また、適切な複素数のfk,m,fl,mを設定した場合にも、基地局において各端末からの信号のキャリア位相は完全に同相とならないものの類似した位相関係を持てば互いに強めあうことは可能である。従って、適切な複素パラメータfk,m,fl,mを設定した場合にも、複数の信号をコヒーレントに位相合成する本発明の効果は得られる。
このように、複数のリレー無線機がパラメータ(fk,m,fl,m)を用いて送信ウエイト(vk,m=fk,m/(uBShk,m (DL)),vl,m=fl,m/(uBShl,m (DL)))を適切に設定して送信することにより、基地局では強い受信信号を得ることができる。言い換えれば、これは複数のリレー無線機が協力して送信ビーム形成を行い、基地局へ信号伝送を行う状態に相当する。全アンテナが一つの無線機に属している場合と同様に送信ビーム形成を行うことができ、送信ビーム利得を得ることができる。その結果、協力的な送信ビームにより基地局においてのみ高い電力で信号を受信でき、周辺の無線機へ与える干渉を低減する。
また、送信ウエイトvk,m=fk,m/(uBShk,m (DL))において任意の実数パラメータfk,mを設定するとした場合、vk,mは等価的に以下の形式(32),(33)でも記述しても構わない。
vk,m=fk,m(uBShk,m (DL))*/|uBShk,m (DL)|2 …(32)
vk,m=fk,m(uBShk,m (DL)) …(33)
これらは全て実数スカラー倍の違いのみであるので、fk,mを任意の実数パラメータとしたとき、式(32),(33)の送信ウエイトを用いることもできる。vl,mについても同様である。
なお、実際の無線システムではキャリア位相同期に対応可能な端末(リレー無線機)と対応不可能な端末が混在する。このような環境において、既に述べたように図38のフォーマットに従って端末は基地局にキャリア位相同期に対応可能な機種か否かを通知する。基地局はその機種の能力に応じて、伝送制御方法を適応的に変更する。具体的には、キャリア位相送信制御に対応可能な端末に対しては、協力的送信ビーム形成制御を行う。一方、キャリア位相送信制御に対応不可能な端末については、通常のリレー伝送制御を行う。このように、適応的に、リレー伝送方式を切り替えることにより、ざまざまな機種の混在する環境において円滑な信号伝送が可能となる。
実施の形態23A.
つづいて、実施の形態23Aについて説明する。本実施の形態では、キャリア位相の送信制御を行う複数のリレー無線機が協力的に送信ビーム形成を行う際の送信ウエイトの決定方法について説明する。なお、図50−1は、実施の形態23Aの制御手順の一例を示す図である。
これまでの実施の形態で示したように、狭義の可逆性を実現するキャリブレーションを行えば、全ての無線機間で測定伝搬路の位相を含む可逆性が成り立つ。そこで、説明を簡単化するため、本実施の形態では、既にキャリブレーションにより送受信機間で狭義の可逆性が成り立った後の測定伝搬路hk,m=uBShk,m (DL)=uk,mhk,m (UL)に対してリレー無線機の送信ウエイトを制御する方法について述べる。
リレー無線機kのアンテナmの送信ウエイトをvk,mとし、信号vk,ms(q)(E[|s(q)|2]=1)を送信する。このとき、基地局における受信信号xBS(q)は次式(34)で表される。
ここで、zBS(q)は基地局における干渉雑音成分であり、PBS,z=E[|zBS(q)|2]を満たす。また、Mkはリレー無線機kのアンテナ数であり、Tは転置を表す。基地局における信号xBS(q)の受信SINRγは次式(35)で表される。
ここで、h'=h/||h||,v1=(h'Tv)h'*,v2=v−v1とすると、次式(36)が成り立つ。
ここで、PS=||v||2は全端末の全アンテナからの総送信電力を表す。従って、総送信電力PSが一定のもとで基地局の受信SINRが最大となるのはv2=0、v=PSh*/||h||のときであり、その最大受信SINRは次式(37)で与えられる。
逆に、基地局で要求される受信SINRをγreqとすると、PSおよびvは次式(38)で与えられる。
ここで、式(38)は最適状態を表しているが、この最適状態は以下の制御により協力的送信ビーム形成を行えることを開示する。
(23−1)各リレー無線機は上りリンクでパイロット信号を送信し(ステップS501)、基地局は伝搬ベクトルhを測定する(ステップS502)。
(23−2)基地局は次式(39)で表されるパラメータξを下りリンクで全リレー無線機に通知する(ステップS503)。
(23−3)リレー無線機は、端末からの信号s(q)を受信する(ステップS504)。
(23−4)各リレー無線機は、下りリンクでチャネルhk,mを測定して、上りリンクでウエイトvk,m=ξhk,m *を用いて信号ξhk,m *s(q)を送信する(ステップS505)。
このように、本実施の形態では複数のリレー無線機が基地局から送信されたパイロット信号を用いて基地局との下りリンクチャネル状態を測定し、そのチャネル測定値に基づいて各リレー無線機における送信信号の位相または位相振幅を決定することにより、協力的に送信ビーム形成を行う。リレー伝送により、複数のリレー無線機が適切な協力送信ビーム形成を行うことができ、基地局では必要な受信SINRγreqを得ることができる。
なお、上述した制御は、リレー無線機が協力的に送信ビーム形成することにより、最小の送信電力で要求受信SINRγreqを達成する最適状態を実現する制御であるが、最適な制御でなくても協力的送信ビーム形成の効果は得られる。
例えば、各リレー無線機がパラメータξを基地局から通知されずに、各リレー無線機kが独自の実数パラメータξkを設定し、下りリンクでチャネルhk,mを測定して、上りリンクでウエイトvk,m=ξkhk,m *を用いて信号hk,m *s(q)を送信しても構わない。このとき、基地局での受信信号は次式(40−1)となり、各リレー無線機kが独自の実数パラメータξkを設定しても、各リレー無線機からの信号は同相となる。
従って、各リレー無線機からの信号は基地局において強めあい協力的送信ビーム形成の効果を得ることができる。また、各リレー無線機kのパラメータξkが実数でなくても適切な複素数であれば、基地局における受信信号xBS(q)は同相に近い状態となる。従って、各リレー無線機において適切な複素数のパラメータξkを用いても協力的送信ビーム形成の効果を得ることができる。
なお、上述の説明とは別に基地局が各リレー無線機kに個別にパラメータξkを通知して、各リレー無線機kが個別に送信電力を設定しても構わない。また、上記説明では各リレー無線機kが下りリンクでチャネルhk,mを測定して、上りリンクでウエイトvk,m=ξkhk,m *を用いて信号hk,m *s(q)を送信するが、このように下りチャネル測定値の複素共役を用いて送信ウエイトを決定することにより、協力的送信ビーム形成の効果を得ることができる。
また、上記手順(23−2)で示したように、基地局がパラメータξを通知する場合には、リレー無線機はそのパラメータξに応じてウエイトを決定する。この際、ウエイトには位相のみならず振幅レベルも含まれており、リレー無線機の送信電力はパラメータξに応じて決定される。従って、1つのパラメータをリレー無線機に通知することで、リレー無線機の送信電力を制御することも本発明の特徴である。
さらに、パラメータξをチャネル測定値hまたは要求SINRγreqまたは基地局の干渉雑音電力PBS,zまたは要求通信品質に応じて決定することにより、基地局では要求受信SINRγreqを達成し、要求状態を満足できる。このように、チャネル測定値h、要求SINRγreq、基地局の干渉雑音電力PBS,zまたは要求通信品質に応じて、複数のリレー無線機の送信電力を制御することも本発明の特徴である。
実施の形態23B.
つづいて、実施の形態23Bについて説明する。本実施の形態では、リレー無線機kが基地局に向けて信号s(q)を送信するとしたが、リレー無線機kが送信する信号は雑音を含む場合もある。一般に、リレー無線機が受信信号を一旦復号する(再生中継と呼ぶ)か信号が有線ネットワークで供給される場合にはリレー無線機の送信信号は雑音を含まず、リレー無線機が受信した信号をそのまま増幅送信する場合(非再生中継と呼ぶ)には雑音を含む。本実施の形態では、リレー無線機からの送信信号が雑音成分を含む場合の制御方法の一例を開示する。なお、実施の形態23Aはリレー無線機の送信信号が雑音を含む場合にも準最適状態を与える制御として適用可能であるが、本実施の形態ではさらに高精度な伝送制御を開示する。
実施の形態23Aと同様の表記に従い、リレー無線機kのアンテナmの送信ウエイトをvk,mとする。また、リレー無線機kが端末から受信した信号を次式(40−2)とする。ただし、E[|s(q)|2]=1。
ここでzk(q)はリレー無線機kで信号を受信する際の雑音成分を表す。このとき、基地局における受信信号xBS(q)は次式(40−3)で表される。
ここで、zBS(q)は雑音電力E[|zBS(q)|2]=PBS (z)をもつ基地局のガウス雑音、zk,m (norm)(q)は互いに独立な分散1(E[|zk,m (norm)(q)|2]=PBS (z))の複素ガウス変数を表す。上式(40−3)におけるxBS(q)の変形では、zBS(q)は互いに独立なガウス変数zk,m (norm)(q)(k=1,…,K、m=1,…,M)を用いて等価的に次式(40−4)で表現できることを用いた。
信号xk,m(q)はリレー無線機kがアンテナmのみを用いて送信電力||ν||で非再生信号を基地局へリレー伝送した場合の基地局での受信信号に相当する。また、xBS(q)は信号xk,m(q)の重み付け和であり、ウエイトνk,mが次式(40−5)の最大比合成ウエイトの場合にSNRΓは最大となる。
ここで、Γk,mはxk,m(q)のSNR、μはスカラーを表す。また、γk,m (2)は端末からリレー無線機kの経路における受信SNR、γk,m (l)はリレー無線機kアンテナmから基地局への経路における受信SNR(但し、リレー無線機が雑音を含まない信号を送信した場合)を表す。このとき、基地局のSNRΓは次式(40−6)の最大値となる。
すなわち、リレー無線機からの送信信号が雑音成分を含む場合には、上式(40−5)のウエイトνk,mを設定することにより、最適状態とすることができる。この状態を実現するために、本実施の形態では以下の制御方法を示す。なお、図50−2に本制御手順を図として示す。
(23B−1)リレー無線局k(=1,…,K)は各アンテナからそれぞれ個別に送信電力||ν||2の上りリンクパイロット信号送信する。同時にリレー無線局k(=1,…,K)は端末からの信号のSINRを測定し、情報γk,m (2)=pk (s)/pk (z)を基地局へ通知する。
(23B−2)基地局はγk,m (1)とγk,m (2)を把握し、上式(40−5)のμを決定する。
(23B−3)基地局はパラメータη1=μ・||ν||と送信電力||ν||2/PBS (z)のパイロット信号を下りリンクで全リレー無線局に送信する。
(23B−4)各リレー無線局はパイロット受信電力からγk,m (1)=||ν||2|hk,m|2/PBS (z)を計算する。さらに、γk,m (1)、γk,m (2)、η1を用いて、上式(40−5)よりウエイトνk,mを決定する。
このように、本実施の形態では複数のリレー無線機が端末から受信した(又は受信する)信号の受信状態又は受信SNRγk,m (2)を基地局へ通知する。その結果、基地局はリレー無線機における信号の受信状態を把握することができ、その状態を考慮した上で各リレー無線機が良好な送信ウエイトを決定できるように伝送制御を行うことができる。このように、リレー無線機が受信信号の状態を基地局へ通知することにより、リレー無線機での受信信号に含まれる雑音を考慮したより高精度な伝送制御が可能となる。
また、上記手順(23B−4)において各リレー無線機は基地局からの下りリンクパイロット信号を用いて基地局での上り受信状態又はSNRγk,m (1)=||ν||2|hk,m|2/PBS (z)を計測できる。このように、基地局が下りリンクパイロット信号の送信電力を基地局での雑音電力PBS (z)に応じて調整することにより、リレー無線機ではリレー無線機から基地局へ至る経路における上りリンク受信SINRγk,m (1)を把握できる。さらに、リレー無線機は端末から受信する信号のSNRγk,m (2)と基地局への経路におけるSNRγk,m (1)の双方を考慮したうえで、適した送信ウエイトを決定できる。
なお、本実施の形態で示した(23B−1)から(23B−4)の制御手順は単なる一例に過ぎず、上述のSNRの通知及びSNRを用いたウエイト決定法にはさまざまな方法がある。
実施の形態23C.
つづいて、実施の形態23Cについて説明する。本実施の形態では、実施の形態23Aの手法をさらにOFDMA/TDDなどのマルチキャリア伝送に適用した場合の協力的送信ビーム制御についてを示す。
マルチキャリア伝送でも各サブキャリア又は周波数において実施の形態23Aと同等のウエイト決定を行える。この場合には、各サブキャリアlに対応するパラメータξlが個別に通知される。なお、図50−3に本制御手順を図として示す。
(23C−1)各リレー無線機は上りリンクのサブキャリアl(l=1,…,L)でパイロット信号を送信し、基地局はサブキャリアlでの伝搬ベクトルhlを測定する。
(23C−2)基地局はサブキャリアl(l=1,…,L)に対応するパラメータξlを下りリンクで全リレー無線機に通知する。
(23C−3)リレー無線機は、端末からサブキャリアl(l=1,…,L)ごとに信号sl(q)を受信する。
(23C−4)各リレー無線機は、下りリンクのサブキャリアl(l=1,…,L)ごとにチャネルhk,m,lを測定して、上りリンクでウエイトvk,m,l=ξhk,m,l *を用いて信号ξhk,m,l *sl(q)を送信する。
このように、本実施の形態では複数のリレー無線機が基地局から送信されたパイロット信号を用いて基地局との下りリンクチャネル状態をサブキャリアごとに測定し、そのチャネル測定値に基づいて各リレー無線機における送信信号の位相または位相振幅を決定することにより、各サブキャリアで協力的に送信ビーム形成を行う。リレー伝送により、複数のリレー無線機が適切な協力送信ビーム形成を行うことができ、基地局では各信号の位相合成により高い受信SINRを得ることができる。
また、上述とは異なる構成として、基地局から通知するパラメータを複数のサブキャリアで共通とすることもできる。この場合、基地局はξ1=…=ξL=ξとなるように1つの共通のパラメータξを設定し、手順(23C−2)で基地局は共通パラメータξを下りリンクで全リレー無線機に通知する。本構成に従うと、下りリンクで通知するパラメータをサブキャリア数よりも少なくすることが可能であり、制御量の低減により効率的な伝送制御が可能となる。また、要求品質に応じてパラメータξを適切に設定することも可能である。このように、要求通信品質に応じて、OFDMA/TDDなどのマルチキャリア伝送において複数のリレー無線機の送信電力を制御することも本発明の特徴である。
実施の形態24.
つづいて、実施の形態24について説明する。本実施の形態では、キャリア位相の送信制御を行う複数のリレー無線機が協力的に送信ビーム形成を行う際の送信ウエイトの決定方法について説明する。ここでは、特に基地局が複数アンテナを持つ場合の動作について説明する。図51は、実施の形態24の制御を実行する際の信号伝送の様子を示す図である。なお、基地局の装置構成は、上述した実施の形態14で示した基地局(図27参照)と同様である。
なお、これまでの実施の形態で示したように、狭義の可逆性を実現するキャリブレーションを行えば、全てのリレー無線機および複数の基地局間で測定伝搬路の位相を含む可逆性が成り立つ。そこで、説明を簡単化するため、本実施の形態では既にキャリブレーションにより送受信機間で狭義の可逆性が成り立った後の基地局のアンテナn(=1,…,N)とリレー無線機のアンテナm(=1,…,Mk)の間の測定伝搬路(hBS,n,k,m=uBS,nhBS,n,k,m (DL)=uk,mhBS,n,k,m (UL))に対してリレー無線機の送信ウエイトを制御する方法について述べる。ここで、Nは基地局のアンテナ数であり、uBS,n,hBS,n,k,m (DL),hBS,n,k,m (UL)は上述した実施の形態14で定義したものと同じパラメータである。また、(n,m)要素に[HBS,k]n,m=hBS,n,k,mをもつN×M行列HBS,kを定義する。
リレー無線機kアンテナmの送信ウエイトをvk,mとし、信号vk,ms(p)(E[|s(q)|2]=1)を送信する。このとき、基地局のNアンテナにおけるN×1受信信号ベクトルxBS(q)=[xBS,1(q),…,xBS,N(q)]Tは次式(41)で表される。
xBS(q)=H・v・s(q)+zBS(q)
v=[v1,1,…,v1,M1,v2,1…,v2,M2,vk,1,…,vk,Mk]T
H=[HBS,1,…,HBS,K]
…(41)
ここで、xBS,n(q)は基地局アンテナnにおける受信信号、zBS(q)=[xBS,1(q),…,xBS,N(q)]Tは基地局における干渉雑音ベクトル、zBS,n(q)は基地局アンテナnにおける干渉雑音成分を表す。さらに、基地局のアンテナnでの受信ウエイトwnを用いて信号を合成する。このとき、基地局における合成出力y(q)は次式(42)で与えられる。
y(q)=wTxBS(q)=wTH・v・s(q)+wTzBS(q) …(42)
ここで、w=[w1,…,wN]Tである。リレー無線機からの送信ウエイトvおよび基地局での受信ウエイトwを適切に決定すれば、高品質な受信ビーム出力y(q)を得ることができる。
このような高品質な受信ビーム出力y(q)を得ることのできるウエイトv,wはこれまでリレー無線機に対してはほとんど研究されていないが、複数のアンテナをもつ1対の送信機と受信機により構成されるMIMOチャネルに対して多く研究が行われている。そこでは、ウエイトv,wを行列HHHまたはH*HHの固有ベクトルとして与えることにより、良好な受信品質を得られることが知られている。ここで、Hは複素共役転置を表す。
ここで、一対の送受信機によるMIMO伝送では、送信機がチャネル情報Hを取得して送信ウエイトvを生成することは、TDDにおいて可逆性を用いて伝搬路測定を行えば可能である。しかし、複数のリレー無線機kが信号送信する場合、リレー無線機kがウエイトvk,1,…,vk,Mkを生成するためにチャネル情報Hを測定することは容易でない。これは、チャネル情報Hには基地局とリレー無線機kの間のチャネル情報のみでなく、基地局と他の無線機lとの間のチャネル情報も含まれるためである。
この点を解決できる技術として、本実施の形態では以下の手順に従い送受信ビーム形成を行う。
(24−1)各リレー無線機は上りリンクでパイロット信号を送信し(ステップS511)、基地局は伝搬行列Hを測定する(ステップS512)。
(24−2)基地局はH*HHの固有値に対応する固有ベクトルをN×1送信ウエイトwとして(送信ビーム形成して)パイロット信号d(q)を送信する(ステップS513)。
(24−3)各リレー無線機kは、下りリンクでパイロット信号をMkアンテナで受信し、MkアンテナにおけるMk×1伝搬ベクトルhk=HT BS,kwを測定する(ステップS514)。
(24−4)各リレー無線機kは、上りリンクでMk×1ウエイトベクトルξ・hk *を用いてMkアンテナから信号ξ・hk,m *s(q)を送信する(ステップS515)。ここで、ξはあらかじめ基地局とリレー無線機間で決定されたパラメータである。
(24−5)基地局では、複数リレー無線機が同時に送信した信号を受信ビームを用いて受信する(ステップS516)。
以上が本実施の形態における制御手順であり、その内容の説明を以下に行う。
上記手順(24−2)において、送信ウエイトwは、H*HTw=ρnwの関係を満たす。ここで、ρnはn番目の固有値を表す。送信ウエイトw(||w||=1)はn番目の固有値に対応する固有ベクトルとして決定され、通常は最大固有値に対応するものを用いる。この送信ウエイトwを用いて形成される送信ビームを一般に固有送信ビームと呼ぶ。また、手順(24−4)において、リレー無線機kからの信号は基地局が受信する際には、HBS,k・ξ・hk,m *s(q)=ξ・(HBS,k *HBS,k Tw)*s(q)となる。基地局は全リレー無線機k(k=1,…,K)からの信号を同時に受信するので、基地局におけるN×1受信信号ベクトルxBS(q)は次式(43)で表される。
この信号をNアンテナ間での最大比合成により受信すると、その受信ウエイトはwとなる。すなわち、基地局は手順(24−2)においてパイロット送信に用いたのと同じウエイトwを用いて合成受信すると、最大比合成受信となる。このとき、合成出力y(q)は次式(44)となる。
y(q)=wTxBS(q)=(ξ・ρn)s(q)+wTzBS(q) …(44)
ここで、||w||=1であり、zBS(q)が白色雑音である場合には合成出力における雑音成分は一定となる。
式(44)では基地局での受信信号レベルは(ξ・ρn)に比例して決定されている。従って、大きい固有値に対応するウエイトwを用いて送信するほど、上りリンク受信信号において大きな受信信号利得を得られる。このように、複数のリレー無線機がそれぞれ基地局が送信ビーム形成を用いて送信した下りリンクパイロット信号のチャネル測定結果に基づいて、上りリンク信号送信を行う。その結果、基地局の複数アンテナと複数リレー無線機により構成されるMIMOチャネルにおいてその固有値に相当する大きな利得を得ることができる。
また、基地局は高い受信電力または要求する受信SINRに応じて、パラメータξをリレー無線機に通知することもできる。その場合、リレー無線機は基地局から通知されたξをウエイトに用いて上りリンク信号送信を行う。このように、基地局の要求に応じてパラメータξを適応的に制御することにより、さまざまな要求受信電力、要求受信SINRを効率的に扱える。
以上のように、本実施の形態では、基地局が送信ビーム形成を行い下りリンクパイロット信号を送信する。そして、リレー無線機では、基地局が送信ビーム形成を用いて送信したパイロット信号の応答に基づいて、上りリンクの送信信号ウエイトまたは送信電力を決定することとした。
実施の形態25.
つづいて、実施の形態25について説明する。本実施の形態では、キャリア位相の送信制御を行う複数のリレー無線機が協力的に送信ビーム形成を行う際の送信ウエイトの決定方法について説明する。ここでは、特に基地局が複数アンテナを持つ場合に、リレー無線機が複数の信号を同時に送信し、基地局において複数の信号を空間分離受信する動作について述べる。図52は、実施の形態25の制御を実行する際の信号伝送の様子を示す図である。なお、基地局およびリレー無線機の装置構成は、上述した実施の形態14で示した基地局および端末の装置構成(図27参照)と同様である。
上記実施の形態24では複数のリレー無線機は1つの信号を協力的に送信したが、複数の信号を同時に送信することもできる。一方、基地局では複数アンテナを用いて複数の信号を空間的に分離受信する。その結果、信号の伝送効率を向上できる。
以下に、本実施の形態の制御手順について説明する。ただし、基本構成は実施の形態24と類似しているので、実施の形態24と異なる部分を中心に説明を行う。本実施の形態では以下の手順に従い送受信ビーム形成を行う。
(25−1)各リレー無線機(リレー無線機k,l)は上りリンクでパイロット信号を送信し(ステップS521)、基地局は伝搬行列Hを測定する(ステップS522)。
(25−2)基地局は複数(2つ以上N以下)のN×1ウエイトw1,w2をH*HTの異なる固有値に対応する異なる固有ベクトルとして決定する。さらに、複数のパイロット信号d1(q),d2(q)をそれぞれ複数ウエイトw1,w2で重み付けして(送信ビーム形成して)下りリンクで送信する(ステップS523)。異なるパイロット信号は同じ時間・周波数で送信しても異なる時間・周波数で送信しても構わない。同じ時間・周波数で送信する場合には、複数のパイロット信号パターンが互いに直交関係にあることが強く望まれる。
(25−3)各リレー無線機は下りリンクで複数のパイロット信号をパイロット信号ごとに個別にMkアンテナにおいて受信し、Mkアンテナに対応するMk×1伝搬ベクトルhk (1)=HBS,k Tw1,hk (2)=HBS,k Tw2を測定する(ステップS524)。
(25−4)各リレー無線機は上りリンクで複数のMk×1ウエイトベクトルξ・hk (1)*,ξ・hk (2)*に対応して、個別にMkアンテナから異なる信号ξ・hk (1)*s1(q),ξ・hk (2)*s2(q)を送信する(ステップS525)。ここで、ξはあらかじめ決定されたパラメータである。
(25−5)基地局では複数のリレー無線機が同時に送信した複数の信号を異なる受信ビームを用いて個別に空間分離受信する(ステップS526)。
なお、本実施の形態は実施の形態24で示した送受信構成において複数の信号を空間多重伝送するものであるが、各リレー無線機が複数の送信信号に対してそれぞれ個別の送信ウエイトを用いることにより実現されている。この場合、上りリンクで送信される複数の信号はそれぞれ異なる空間的な方向を有している。その結果、基地局においても空間方向の違いを利用して円滑に分離受信できる。
この状態の詳細を以下に説明する。上記手順(25−2)において基地局からの複数の下りリンクパイロット信号が互いに干渉無く送信されると、本質的に上りリンクの各信号に関して実施の形態24と同じ状態が維持される。そこで、基地局の2つのウエイトw1,w2がそれぞれH*HTのn1,n2番目の固有値に対応する異なる固有ベクトルとする。このとき、複数ウエイトw1,w2からのパイロット信号に対応して端末が上りリンクで送信する信号をs1(q),s2(q)とすると、基地局におけるN×1受信信号ベクトルxBS(q)は次のように表される。
xBS(q)=(ξ・ρn1w1 *)s1(q)+(ξ・ρn2w2 *)s2(q)+zBS(q)
ここで、2つのウエイトw1,w2はH*HTの異なる固有ベクトルであるのでw1 Hw2=0が成り立つ。従って、2つの信号の応答ベクトル(ξ・ρn1w1 *),(ξ・ρn2w2 *)はそれぞれ直交関係にある。
そこで、基地局は信号s1(q),s2(q)をそれぞれ受信ウエイトw1,w2を用いて受信すると、信号s1(q),s2(q)に対する合成出力y1(q),y2(q)はそれぞれ次式となる。
y1(q)=w1 TxBS(q)=(ξ・ρn1)s1(q)+w1 TzBS(q)
y2(q)=w2 TxBS(q)=(ξ・ρn2)s2(q)+w2 TzBS(q)
すなわち、空間多重された他方の信号を除去できる。このように、基地局では複数の空間多重された信号を空間分離受信できる。
なお、空間多重できる最大信号数はH*HTの固有値の数によって決定される。また、本実施の形態では2つの上りリンク信号が同じパラメータξを用いて送信制御したが、個々の信号ごとに異なるパラメータξを基地局からリレー無線機に通知して用いることも可能である。このとき、空間多重される信号ごとに要求受信品質に基づいて送信電力を制御できる。
以上のように、本実施の形態では、基地局が複数の送信ビーム形成を行い、複数の下りリンクパイロット信号を送信する。またリレー無線機では、基地局が送信ビーム形成を用いて送信した複数のパイロット信号の応答に基づき、複数の上りリンクの送信信号ウエイトまたは送信電力を決定し、複数の信号を送信する。また基地局では空間多重伝送された信号を複数アンテナを用いて分離受信することとした。その結果、空間多重伝送効果によって、限られた無線リソースを利用してより効率的な無線信号伝送が可能となる。
実施の形態26.
つづいて、実施の形態26について説明する。上述した実施の形態22〜25で示したように、2つのリレー無線機間の相対位相を制御する方法にはさまざまな方法があり、必ずしも基地局と直接キャリブレーションを行う必要は無い。例えば、上記図49に示した例では、リレー無線機と基地局の位置関係が遠く、伝搬減衰が大きい場合に、リレー無線機k,lが基地局では無く、信号の送信元である端末とキャリブレーションを行うことにより、相対位相の送信制御を行うこともできる。
この際、端末は基地局とキャリブレーションを行っていなくても構わない。この場合、端末と基地局との絶対位相の補正は行われていないので、端末とキャリブレーションを行ったリレー無線機k,lも基地局との絶対位相制御を行うことはできない。しかし、リレー無線機k,lがともに同じ端末とキャリブレーションを行うと、リレー無線機k,lの相対位相は一定の関係とすることができる。この関係は、基地局に送信する際にも保持できる。
すなわち、リレー無線機k,lが端末とキャリブレーションを行った後、基地局に信号送信すると2つの信号の基地局における受信位相を制御することはできないが、2信号間の相対位相は制御できる。絶対位相が制御できなくても、リレー無線機間の相対位相を制御できれば、協力的送信ビーム形成を行うことができるので、この場合にも協力的送信ビーム形成は円滑に行うことができる。
また、リレー無線機k,lは端末と位置的に近い場合が多く、キャリブレーションを行いやすい環境にある。従って、リレー無線機k,lは信号の送信元である端末または近辺に存在する特定の端末とキャリブレーションを行うことにより、基地局における信号の相対位相を特定の値に制御することができる。
実施の形態27.
つづいて、実施の形態27について説明する。本実施の形態では、基地局と端末が無変調信号(キャリア)を同じ周波数で信号送信できるように送信周波数の補正を行う方法について説明する。
これまでの実施の形態では同じ周波数で信号送信する基地局と端末を用いることを前提とする場合もあったが、ここでは高精度な周波数発振器を用いなくても基地局と端末がキャリア周波数を同一とできるように高精度に調整する制御方法を示す。
一例として、端末の周波数発振器精度はよくなく、基地局からの下りリンク信号に対して、端末が周波数引き込みを行う環境を取り上げる。従来技術では、端末は周波数発振器の周波数を用いて一旦下りリンク信号を低周波数帯に落とし、低周波数帯の信号に含まれるキャリア周波数を自動周波数制御(AFC:Automatic Frequency Control)による周波数引き込みによって把握する。その結果、周波数発振器の精度が悪い場合にも、周波数の補正を行うことで下りリンク周波数を把握できる。また、把握した周波数に合わせて上りリンクの信号を送信することにより、上りリンクの送信周波数を下りリンクに合わせることもできる。但し、AFCにおいて周波数を精度よく把握するためには、長時間にわたる周波数の測定が必要となる。通常、周波数の測定分解能は1/(測定時間)で与えられ、数Hzレベルの分解能を得るためには、1秒以上の測定時間が必要となる。また、測定時間内で伝搬路変動が無い環境が求められる。これは、測定時間内で伝搬路変動が生じると、ドップラー周波数がキャリア周波数に加わるため、キャリア周波数のみの測定が困難となるためである。
このような従来技術に対して、本実施の形態では、ドップラー周波数のある環境においても基地局と端末間で同じキャリア周波数を高精度に保持できる制御法を開示する。図53に本実施の形態における送受信機構成(基地局および端末の構成)を示す。本実施の形態では、以下の手順に従い周波数の制御を行う。
(27−1)基地局がパイロット信号を端末へ送信し、端末が基地局からの受信パイロット信号を用いてチャネル推定を行う。具体的には、時刻tの下りリンクにおいて、基地局はベースバンド信号d(q)を備えている発振器または従来技術により制御を行った周波数fBSでアップコンバートして次式(45)に示した信号を送信する。
端末は、備えている発振器または従来技術により制御した周波数fMTでダウンコンバートして次式(46)で示された受信信号を得る。
端末は、さらに、受信信号に対して信号d(q)の相関検出を行い、次式(47)で示されるチャネル測定値を得る。
ここで、信号d(q)の送信時間内(例えば、数十〜百μs程度)において周波数差fMT−fBS(例えば、0〜数100Hz程度)による変動は十分遅く、ほぼ一定値としてみなせる環境を想定している。
(27−2)端末が上記チャネル推定結果(チャネル推定値)を用いて位相または振幅位相を調整したパイロット信号を基地局へ送信し、基地局が端末からの受信パイロット信号を用いてチャネル推定を行う。具体的には、時刻t+Δtの上りリンクにおいて端末は信号(1/h'k,m (DL))s(q)を周波数fMTでアップコンバートした信号を送信する。基地局では、周波数fBSでダウンコンバートした後、次式(48)に示した受信信号を得る。
ここで、式(48)内の変形を行うにあたって上式(1)と上下リンクにおける実伝搬路の可逆性の関係を用いた。基地局と端末の周波数fBS,fMTには小さな違いは存在するが、フェージングのコヒーレント帯域(通常、数10kHz〜数100Hz)と比較して、その周波数差は十分小さく、実伝搬路をほぼ同一とみなすことができる。具体的には、周波数差|fBS−fMT|が1kHz以内の場合にこの関係は成り立つ。基地局では、受信信号に対して信号s(q)の相関検出を行い、次式(49)に示したチャネル測定結果を得る。
(27−3)上記手順(27−1)と(27−2)を複数回の時刻t=t'1,t'2,…で繰り返し、基地局はチャネル測定値α(t'1),α(t'2),…を保持しておく。
(27−4)基地局は観測した複数回のチャネル測定値(複素数)α(t'1),α(t'2),…から、その周波数オフセット(位相回転速度)Δf=(fMT−fBS)を計算する。なお、この位相回転速度は基地局と端末の周波数差の2倍を表す。基地局は算出したΔfを端末へ通知する。
(27−5)端末では、ダウンコンバートまたはアップコンバートする周波数をfMTからfMT−Δfに変更する。
以上の処理によって、端末がダウンコンバートまたはアップコンバートに用いるキャリア周波数を基地局と同じfBSに合わせることができる。
この際、上記手順(27−1)において基地局から端末へ送信する信号d(q)と手順(27−2)において端末から基地局へ送信する信号s(q)の間のチャネル変動が小さければ、関係式(48)(49)は保持される。この条件の下で、チャネル測定値α(t)はドップラー周波数および伝搬路に依存しない値であり、手順(27−3)の時刻t=t'1,t'2,…において伝搬路変動が生じてもドップラー周波数および伝搬路に依存せずに、周波数オフセットΔf=(fMT−fBS)を測定できる。これに対して、従来の周波数測定では全測定時間t=t'1,t'2,…において伝搬路変動が生じると、ドップラー周波数の影響が周波数測定に含まれてしまうため精度が劣化する。
なお、式(49)内のチャネル測定値α(t)はアナログ特性Tk,m,Rk,m,TBS,RBSを含むが、アナログ特性の時間変化は通常非常に遅い。従って、手順(27−4)において長時間位相回転速度を測定することにより、基地局は極めて高精度に基地局と端末の周波数差を測定できる。
このように本実施の形態では、基地局と端末がパイロット信号を相互に送信することにより、ドップラー周波数の影響を受けることなく、高精度に基地局と端末の周波数を同じとすることができる。
また、位相回転速度の測定周期および手順(27−5)でキャリア周波数の補正を行う周期をドップラー周波数の周期よりも遅くすることができる。
また、同様の周波数補正処理を以下に示すように端末から開始することもできる。以下に、具体的な手順を示す。なお、図54−1は、この場合の本制御における送受信機構成を示す図である。
(27B−1)時刻tの上りリンクにおいて、端末はベースバンド信号s(q)を周波数fMTでアップコンバートして次式(50)に示した信号を送信する。
基地局は周波数fBSでダウンコンバートして次式(51)で示された受信信号を得る。
さらに、受信信号に対して信号s(q)の相関検出を行い、次式(52)で示されるチャネル測定値を得る。
(27B−2)時刻t+Δtの上りリンクにおいて端末は信号(1/h'k,m (UL))d(q)を周波数fBSでアップコンバートした信号を送信する。基地局では、周波数fMTでダウンコンバートした後、次式(53)に示した受信信号を得る。
端末では、受信信号に対して信号d(q)の相関検出を行い、次式(54)に示したチャネル測定結果を得る。
また、その逆数をα(t)とする。なおα(t)は次式(55)で表され、上記の式(49)と同じものとなる。
(27B−3)上記手順(27B−1)と(27B−2)を複数回の時刻t=t'1,t'2,…で繰り返し、端末は処理を実行して得られたチャネル測定値を保存する。
(27B−4)端末はα(t'1),α(t'2),…から、その周波数オフセットΔf=(fMT−fBS)を計算する。この位相回転速度は基地局と端末の周波数差の2倍を表す。基地局は端末にΔfを通知する。また、ダウンコンバートまたはアップコンバートする周波数をfMTからfMT−Δfに変更する。
以上の処理によっても、端末は周波数補正を行うことができる。なお、端末からパイロット信号の送信を開始する(27B−1)〜(27B−4)では(27−1)〜(27−5)で必要とする基地局から端末へ周波数オフセットΔf=(fMT−fBS)を通知する処理を削除できる。その結果、(27−1)〜(27−5)の制御よりもさらに効率的な制御を実現できる。
このように、本実施の形態では、端末から基地局へパイロット信号を送信し、基地局は受信パイロット信号に基づいてチャネル測定を行い、基地局はチャネル測定結果により位相または振幅位相を調整して端末へパイロット信号を送信する。また端末では基地局からのパイロット信号のチャネル測定値を用いて送信信号の周波数補正を行うこととした。これにより、端末のキャリア周波数を基地局のキャリア周波数に高精度に合わせることができる。
実施の形態28.
つづいて、実施の形態28について説明する。本実施の形態では、基地局と端末が無変調信号(キャリア)を同じ周波数で信号送信できるように送信周波数の補正を行う方法であって、上述した実施の形態27とは異なる方法について説明する。
本実施の形態の基地局および端末の装置構成は実施の形態27と同様である。以下に、本実施の形態の周波数制御手順を示す。
(28−1)時刻tの下りリンクにおいて、基地局はベースバンド信号d(q)を周波数fBSでアップコンバートして実施の形態27で示した式(45)の信号を送信する。端末は周波数fMTでダウンコンバートして実施の形態27で示した式(46)の受信信号を得る。端末は、さらに、受信信号に対して信号d(q)の相関検出を行い、実施の形態27で示した式(47)のチャネル測定値を得る。
(28−2)時刻t+Δtの上りリンクにおいて端末は上りリンクで信号s(q)を周波数fMTでアップコンバートし、送信する。基地局では、周波数fBSでダウンコンバートした後、次式(56)に示した受信信号を得る。
さらに、受信信号に対して信号s(q)の相関検出を行い、次式(57)に示したチャネル測定結果を得る。
(28−3)基地局はチャネル測定結果h'k,m (UL)を端末に通知し、端末は次式(58)に示したα(t)を得る。
(28−4)上記手順(28−1),(28−2),(28−3)を複数回の時刻t=t'1,t'2,…で繰り返し、端末は基地局から通知されたチャネル測定結果α(t)を保持しておく。
(28−5)端末は、複数回のチャネル測定値(複素数)α(t'1),α(t'2),…から、その位相回転速度Δf=(fMT−fBS)を計算する。さらに、ダウンコンバートまたはアップコンバートする周波数をfMTからfMT−Δfに変更する。
以上の処理により、上述した実施の形態27と同様に、ドップラー周波数の影響を受けることなく、高精度に基地局と端末の周波数を一致させることができる。なお、手順(28−3)におけるチャネル測定値の通知は手順(28−4)において複数回の時刻t=t'1,t'2,…でチャネル測定を行った後、まとめて端末に通知することもできる。この場合には、基地局から端末への通知回数を低減できる。また、手順(28−1)と手順(28−2)は順序が逆であっても構わない。
このように本実施の形態では、基地局が端末から送信されたパイロット信号のチャネル測定値を端末側に通知して、端末が高精度に周波数調整を行うことができる。
実施の形態29A.
つづいて、実施の形態29Aについて説明する。本実施の形態では、実施の形態27、28で示した送信周波数の補正手順に関して、この処理手順に含まれるチャネル測定処理の実行時刻について説明する。
上述したように、実施の形態27、28では、上記の式(49)で示された、複数回の時刻t=t'1,t'2,…,t'Nにおけるチャネル測定結果α(t)から位相回転速度Δf=(fMT−fBS)を求める。位相回転速度の求め方にはさまざまな方法があるが、ここでは一つの有効な演算方法について示す。
まず、式(49)より次式(59)が成り立つ。なお、本実施の形態で使用する変数n,Nは、以前の実施の形態で使用した基地局アンテナ数とは無関係であり、チャネル測定を行う時刻の番号を表している。
従って、補正可能な周波数オフセットは全ての測定時刻の中で最小の時間幅t'2−t'1に対して、「|Δf|<1/4(t'2−t'1)」を満たすことが条件となる。よって、広範囲な周波数オフセットΔfを補正するためには、時刻t=t'1,t'2,…,t'Nの最小時間幅を小さくし、高精度に周波数オフセットΔfを測定するためには、時刻t=t'1,t'2,…,t'Nの最大時間幅を大きくすることが重要となる。
これらの条件をともに満足する方法として、上記手順(27−1),(27−2)または(28−1),(28−2)のチャネル測定を最初の数回は短い時間間隔で実行し、その後のチャネル測定を長時間間隔で実行する。また、徐々にチャネル測定の時間間隔を長くするようにしてもよい。その結果、チャネル測定の時間間隔を変更することで、広い周波数範囲の補正と高い周波数分解能を実現し、かつチャネル測定に必要となるパイロット信号数を低減できる。
このように、本実施の形態では、固定間隔ではない時刻においてチャネル測定用パイロット信号を送信することで、パイロット信号数を低減しつつ、良好な周波数補正特性を実現する。
また、異なる一例として、次式(60)の時刻t'nmsに基地局が下りリンクでパイロット信号を送信し、端末は時刻t'n+1msに上りリンクでパイロット信号を送信する。
t'n=0(n=1),2n-1(n=2,…,N) …(60)
図54−2にこの場合の上下リンクパイロット信号の構成を示す。なお、本図に示す時間経過とともにパイロット信号を送信する時間間隔が長くなる構成は本発明により始めて開示される構成である。
時刻t'1とt'nの周波数オフセットFnを次式(61)により推定する。
ここで,arg(x)は複素数xの位相を[−π,π)の範囲で返す関数である。F1は低精度広範囲であり、nが大きくなるにつれFnは高精度で狭い範囲の周波数オフセット推定を行う。
また、文献「H.Kubo, K.Murakami, M.Miyake, and T.Fujino, “A multiple open-loop frequency estimation based on differential detection for MPSK”, IEICE Trans. on Commun., Vol.E82-B, No.1, pp.136--143, Jan. 1999.」に従うと、次式(62)により高精度広範囲な周波数オフセット推定が可能となる。
ここで、mod(x1,x2)はx1のx2による剰余であり、[−x2/2,x2/2)の範囲で値を返す関数である。本測定法では最終的に周波数オフセットをΔf=Δf[N]とする。
本例において式(60)に示すように、周波数キャリブレーション用パイロット信号の送信時間間隔を徐々に大きくすることにより、広範囲、高精度な周波数オフセット測定が可能となる。特に、式(60)に示すように、開始時刻を起点として累乗の時間間隔で周波数キャリブレーション用パイロット信号の送信時間間隔を徐々に大きくすることにより、円滑に広範囲、高精度な周波数オフセット測定を行える。
また、式(60)を用いた場合のnとtn[秒]の関係を以下に示す。
n=1 tn=0.000秒
n=2 tn=0.002秒
n=6 tn=0.032秒
n=11 tn=1.024秒
n=16 tn=32.766秒
n=21 tn=1048.574秒≒17.4分
n=26 tn=33554430秒≒559.2分
このように、測定時刻が増えるにつれて、パイロット信号の伝送時間間隔は長期化する。また、時間の長期化にともない高精度な周波数オフセット測定が可能となる。具体的には、n=11回のチャネル測定を行うと、1秒間の測定時間を用いて1(=1/tn)Hz程度の周波数オフセット分解能が得られる。また、21回のチャネル測定を行うと、約17.4分の測定時間を用いて0.001(=1/tn)Hz程度の周波数オフセット分解能が得られる。
このように、本発明で開示された図54−2に示す時間経過と共にパイロット信号の送信頻度を低減する構成では、キャリア周波数誤差の大きい状態でパイロット信号を多く送信し、キャリア周波数誤差が減少すると共にパイロット信号の送信頻度を低減する。本構成により、不必要なパイロット信号の送信を控え、データ伝送に利用する無線リソースを増やすことが可能となる。
また、このように時間と共にパイロット信号の送信頻度が減少するパターンを無線通信規格として決定し、制御信号においてパイロットパターンを通知することにより、基地局と端末の間でパイロット信号を送信するタイミングを互いに認識することもできる。特に望ましい構成として、要求される周波数オフセットの分解能に応じてパイロットを送信する総合時間tn-t1、またはパイロット送信回数n、またはパイロット信号間の最小時間間隔(例えば、t2-t1)を制御することもできる。このように、要求される周波数誤差分解能に応じて異なるパイロットパターンを基地局が選定し、そのパイロットパターンに対応する制御ビットを端末に通知することにより、状況に応じて適応的にパイロットパターンを制御することもできる。また、制御信号として、総合時間tn-t1、またはパイロット送信回数n、またはパイロット信号間の最小時間間隔(例えば、t2-t1)などのパラメータを基地局から端末に通知することでパイロット信号の送信パターンを決定する方法も考えられる。
従来技術では長時間測定を行うと、ドップラー周波数の影響でその精度には限界が生じた。これに対して、本発明で示した手法を用いると、ドップラー周波数の影響を受けずに周波数オフセットを測定できるため、0.001Hz程度の極めて小さい周波数オフセットを測定して、補正することも可能である。その結果、極めて高精度に端末と基地局のキャリア周波数を一致させることができる。
一例として、図54−3に示す評価環境で本実施の形態の方法を用いて性能評価を行った例を示す。図54−3に示すように、チャネル測定用パイロット信号をOFDMのサブキャリア上に配置し、パイロット信号は時間方向3シンボル,周波数方向15シンボルの領域で囲まれた計45シンボルに配置される。なお、受信側で従来技術による時間・周波数同期は既に確立しており、FFT後の受信信号を用いて本願の発明によりさらに高精度なキャリア周波数制御を行う。ここでは、次式(63)で表される時刻tnに端末からパイロット信号の送信を開始し、終了直後に基地局からのパイロット信号が送信される。
基地局と端末の間はライスファクタ10のライスフェージング環境であり、直接波成分は50Hzのドップラー周波数シフトを有し、散乱波成分はドップラー広がり50Hzをもつとした。
無線機A,Bはパイロット信号1シンボルを同じSNRのもとで受信するとし、性能を制御後の基地局と端末の間の周波数差により評価する。なお、従来技術では無線機Aは無線機Bからの信号の受信周波数を理想的に取得するとする。
図54−4にN=20のもとで本発明にかかる方法及び従来技術においてキャリア周波数制御を行った場合のキャリア周波数誤差とSNR[dB]の関係を示す。キャリア周波数制御はt20=2.048秒の時間内で行われる。図より、発明法を用いると従来法と比較して極めて精度よく無線機Bのキャリア周波数に合わせることができる。具体的には、従来法が50Hz程度のキャリア周波数誤差を有するのに対して、提案法では0.01Hz以下のキャリア周波数誤差となる。これは、従来法では平均ドップラー周波数分の誤差が残存するのに対して、提案法では可逆性の利用によって伝搬変動の影響を打ち消すことができ、平均ドップラー周波数が誤差要因とならないためである。
図54−5にSNR=6[dB]のもとで提案法(制御法I)におけるキャリア周波数誤差と制御時間tN(N=1,2,…,25)の関係を示す。提案法では雑音及び双方向パイロット信号送信時のチャネル変化によって推定にある程度の誤差が生じても、より長い時間での高精度な推定値によってその誤差を補正できる。その結果、双方向でのチャネル変化があっても、周波数オフセットΔfを極めて高精度に推定できる。このように、本発明の方法では従来技術と比較して極めて高精度に2つの無線機の間のキャリア周波数を合わせることが可能となる。
実施の形態29B.
つづいて、実施の形態29Bについて説明する。本実施の形態では、実施の形態29Aで示した手法が広範に適用できることを示し、なおかつ従来技術に対するその位置づけをより明確化する。
現在多くの無線システムが運用されているが、その中で無線機間でキャリア周波数を完全に一致させる無線システムは宇宙関連を除くと極めて稀である。多くの無線システムでは無線機間のキャリア周波数を従来技術によって数Hz程度の誤差で合わせる方法は行われてきたが、1Hz以下とりわけ0.01Hz以下のキャリア周波数差を保証することは行われなかった。これは、各無線機が独立に超高精度なキャリア周波数を持つためには、0.01Hz以下の周波数精度をもつ極めて高価な発振器が必要であったことが主な要因と考えられる。
これに対して、本発明のキャリア周波数制御では高価な発振器を用いなくとも周波数発振に安定性があれば、低コストで異なる無線機のキャリア周波数を合わせることができる。例えば、2つの無線機間のキャリア周波数が1kHzずれていたとしても周波数オフセットを高精度に推定できる。この制御はデジタル部でのチャネル測定とそれを用いた演算のみで実現できるため、他のデジタル機能とともにチップ化及び大量生産を行うと極めて安価に構築することができる。その結果、従来極めて高価な発振器を用いる必要のあったものと同等の状態を極めて低廉な価格で提供でき、広く無線通信方式で用いることができる。この大幅なコストダウンを可能とするのが本発明であり、無線通信に新たな展開をもたらすことができる画期的方式である。
具体的な新展開の一つとしては、既に示したように複数の無線機がコヒーレントに信号送信する状態を構築でき、大幅な送信電力低減が可能となる。この状態は本発明のキャリア周波数制御を用いてはじめて安価に行えるものである。しかし、本発明のキャリア周波数制御は複数無線機がコヒーレントに信号送信する場合のみならず、以下に示すような状況においても幅広く適用できる。
(1)他の無線機の発する信号のドップラー周波数を高精度に測定でき、無線機間の相対速度を高精度に測定できる。
(2)2つの無線機が互いに応答する現在のUWB等で用いられている測距方式では、2つの無線機間のキャリア周波数を高精度に一致させると、より高精度な測距が可能となる。
(3)OFDMA方式上りリンクでは、異なる無線機が隣接サブキャリアを用いて信号伝送する場合にキャリア周波数のずれによって信号間で干渉が生じる。本発明のキャリア周波数制御法を用いて複数無線機間で高精度なキャリア周波数制御を行うと、この信号間で干渉を緩和できる。なお、基地局が各無線機と高精度なキャリア周波数制御を行うことで、無線機間のキャリア周波数を合わせることもできる。
(4)従来、複数無線機では無線機が内部に有するクロック速度に差が生じている。しかし、本発明のキャリア周波数制御を用いて無線機間で極めて高精度なキャリア周波数を持つ状態を構築すると、キャリア周波数の1周期(又は分周期)をクロックタイミングとすることで、無線機間でのクロック速度を極めて高精度に合わせることができる。その結果、無線機間での高精度なクロック速度の同期を保つことができる。クロック速度は無線機を動作させる上で最も基本となる技術の一つであり、高精度に一致したクロック速度を用いて将来の新たな技術展開も可能となる。このように、本発明の技術は将来の新技術の創出に重要となる基本技術である。
(5)上記(4)と関連するが、クロック速度の同期を必要とする電子機器は無線通信機器以外にも多く存在する。たとえば、工場内の製造ラインの機器を同期して運用させる際にも高精度なクロックタイミングによって正確な時刻に相互の機器を運用することができる。その結果、より精密なライン作業が可能となる。従って、本発明の制御は無線通信機器に限定されるものではなく、無線通信以外の分野においても広範に適用可能である。
本実施の形態で示したように、本発明の高精度キャリア周波数制御は無線機間でのコヒーレントな信号送信への適用に限定されるものではなく、幅広い用途において適用できる。このように本発明は多くの用途において性能改善を可能とする技術である。
なお、キャリア周波数又はクロックを合わせる別の従来技術として、有線系で周波数を他の機器に送信する方法があるが、この手法では有線接続が必要となる。また、有線系であっても途中にルータ等を含む有線ネットワークではトラヒック状況に応じた時間分散(ジッタ)が生じるため正確なキャリア周波数又はクロックの取得が困難となる。そのため、正確なキャリア周波数又はクロックを得るためには専用線が必要となるが専用線は一般に高価である。これに対して、本発明の技術は低コストで高精度にキャリア周波数を合わせることを可能とする。
実施の形態30.
つづいて、実施の形態30について説明する。本実施の形態では、実施の形態27、28で示した送信周波数の補正手順に関し、この手順内で使用するパイロット信号の伝送方法について説明する。
周波数補正用のチャネル測定を行うパイロット信号伝送(実施の形態27、28)に対しても、測定伝搬路の可逆性を保持するキャリブレーションと同様に、チャネル変動が少ない上下リンクでパイロット信号伝送を行うことが重要となる。すなわち、上記手順(26−1)と(26−2)または手順(27−1)と(27−2)では、上下リンクパイロット信号伝送時の伝搬路変動が小さいことが求められる。
また、実施の形態27、28で示した周波数補正法はキャリア周波数差fMT−fBSさえ同じであれば、測定時刻t=t'1,t'2,…,t'Nごとに異なる周波数を利用する場合にも適用できる。従って、基地局および端末がOFDM(またはOFDMA)信号伝送を行う際、時刻t=t'1,t'2,…,t'Nごとにパイロット信号を伝送するサブキャリアを時間的に変更して手順(26−1)と(26−2)または(27−1)と(27−2)の処理を行うことも可能である。よって、上述した実施の形態7と同様に、伝搬路の良い時間、または周波数を選んでパイロット信号伝送を行うことも可能である。このように、実施の形態7で示した全てのパイロット信号伝送方法は周波数補正用のチャネル測定に対しても有効である。
例えば、多くのサブキャリアの中からチャネル状態の良いサブキャリアを選定して、パイロット信号を伝送することもできる。また、基地局が他の端末の使用するサブキャリアも考慮したうえで、使用可能なサブキャリアを通知して、通知されたサブキャリアを用いて端末が周波数補正用のパイロット信号を送信することも可能である。
また、周波数補正用のチャネル測定を行うパイロット信号伝送(実施の形態27、28)をランダムアクセス時の信号または通信パケットに含まれるパイロット信号を用いて行うことも可能である。従って、上述した実施の形態9で示した全てのパイロット信号伝送方法は周波数補正チャネル測定用のパイロット信号伝送に対しても有効であり、周波数補正に必要なパイロット信号数を削減できる。
また、さらに円滑に通信と周波数補正を進めるために、図55に示すように、通信開始初期は基地局と端末が自動周波数制御(AFC)により周波数引き込みを行い、従来の周波数補正による通信を行う(ステップS551)。また、通信を行う中で、実施の形態9で示した通信パケットのパイロット信号を用いて実施の形態27、28に示す周波数補正を行い、端末の送信周波数を基地局の送信周波数に合わせることができる(ステップS552)。さらに、基地局と端末の周波数が一致した後に、実施の形態4〜6に示す補正を行い、基地局と端末の位相関係を合わせることができる(ステップS553)。このように、初期の通信は従来の周波数補正で開始し、通信中に端末が基地局と同じキャリア周波数へ調整し、その後に位相補正も行うことで、通信を行いながら測定伝搬路の可逆性を満足できる状態を円滑に構築できる。
このように、端末が通信と周波数補正または位相振幅補正または振幅補正を同時に行うことも本発明の特徴である。また、周波数補正を行った後に、位相補正または位相振幅補正を行うことも本発明の特徴である。さらに、周波数補正の行われていない状態と行われている状態で通信モードを変更することも可能である。例えば、周波数補正の行われていない場合には、協力的送信ビーム形成等からは除外されたモードで動作を行い、周波数補正が行われた後に、協力的送信ビーム形成を行うモードに移行する。
また、複数アンテナをもつ基地局または端末はダウンコンバートまたはアップコンバートを行う際に複数アンテナ間では同じキャリア周波数を用いるのが通常である。従って、複数のアンテナが存在する場合にも、実施の形態27、28の周波数補正方法を基地局または端末の1つのアンテナに対して適用し、補正されたキャリア周波数を全てのアンテナで用いることも可能である。
また、図56に示すような情報フォーマットを定義しておき、端末は通信開始時に基地局に端末の機種情報を通知する。ここでは、本実施の形態の周波数補正に対応する機種か否か、高精度または低精度周波数補正への対応性、位相キャリブレーションへの対応性、協力的送信ビーム形成への対応性を基地局へ通知する。そして基地局はその通知された情報に基づいて端末への制御方法(実行する処理)を適応的に選定する。また、図57に示した情報フォーマットを使用して、要求周波数精度情報、周波数測定可能時間情報、要求測定時間パターン情報(時刻tのパターン、固定間隔時間パターン、累乗時間パターンなど)を端末から基地局へ通知しても構わない。逆に、基地局から端末へ周波数補正を行うにあたっての周波数精度情報、周波数測定時間情報、測定時間パターン情報を図57に類似したフォーマットで通知しても構わない。
また、実施の形態1〜3で述べたキャリブレーションは1つの無線機内で行われ、補正係数はアナログ特性のみに依存する。従って、実施の形態1〜3で述べたキャリブレーションは実施の形態27、28の周波数補正と独立に行える。従って、例えば、実施の形態1〜3で述べたキャリブレーションを基地局および端末が行い、その後に基地局および端末が送受信ビームを形成して、周波数補正チャネル測定用のパイロット信号の送受信を行う構成も可能である。この場合には、複数アンテナでのビーム利得を利用してパイロット信号の送受信を行うことができ、良好なチャネル測定状態のものとで、周波数補正を行うことができる。
また、実施の形態15では、測定伝搬路の可逆性を維持する間接キャリブレーションについて述べたが、実施の形態27、28の周波数補正方法に関しても間接的に行う構成が適用できる。具体的には、端末および基地局と通信可能な無線機が基地局と周波数補正処理を行い、基地局のキャリア周波数と一致するように制御し、その後に、端末が当該無線機と周波数補正処理を行うことで、キャリア周波数の調整を行う。その結果、端末では、基地局と直接周波数補正処理を行わなくても基地局と同じキャリア周波数となるように高精度に制御できる。
また、実施の形態18では、端末がキャリブレーションを行う無線機を適応的に選定する方法を述べたが、同様に実施の形態27、28の周波数補正方法に関しても間接的に行う構成が適用できる。具体的には、基地局は端末との伝搬損失を測定し、端末の伝搬損失が大きい場合には、端末に間接周波数補正勧告信号を送信する。その勧告信号に基づき、端末は周波数補正をサポート可能な他の無線機を探して、周波数補正を行う。この際、周波数補正をサポートできる他の無線機Aは、「周波数補正サポート信号」として周囲に通知する。端末は「周波数補正サポート信号」をサーチして周波数補正が可能な無線機を検出し、その無線機に「周波数補正要求信号」を送信して無線機が許諾すると、間接周波数補正間接を実行する。図58に「周波数補正サポート信号」の一例を示す。無線機は間接周波数補正のサポート情報、周波数補正精度情報(何Hzの分解能か等の数値を含めても良い)、位相補正サポート情報を周囲に通知し、その情報に従って、端末が周波数補正を要求することもできる。
また、端末は周波数補正を必要とする端末と必要としない端末に分類できる。端末は、基地局へアクセスする際に、周波数補正を必要とするか否かを通知する。また、基地局に関しても周波数補正を要求する基地局と要求しない基地局に分類でき、その分類を下りリンクで端末に通知することもできる。また、基地局は特定の端末に周波数補正を行うように要求信号を送信し、端末が基地局の要求に従い周波数補正を行う場合もある。これらの信号は図33、34と類似した信号フォーマットによって上下リンクで通知できる。
このように、本実施の形態では、端末と基地局との間の伝搬状態に応じて直接周波数補正を行うか、間接周波数補正を行うかを適応的に選定する。その結果、端末はよい伝搬状態を確保できる無線機を選定して、高精度な周波数補正を行うことができる。
また、本実施の形態では端末および無線機の周波数補正能力に応じて、実行する周波数補正タイプ(従来のキャリア周波数補正、本実施の形態のキャリア周波数補正など)を変更する。その結果、さまざまな機種の混在する環境にも適応的に対応できる。
なお、実施の形態27、28の周波数補正を行った後に、実施の形態19のキャリア位相送信制御を行うと、基地局では端末からの信号s(q)を特定のキャリア位相で受取ることができる。実施の形態19で述べたように、キャリア位相送信制御では下りリンクで基地局がパイロット信号を送信して端末が伝搬路測定を行い、上りリンクのデータ送信にその伝搬路測定結果を反映するが、その制御時間内で伝搬路変動がほぼ無視できる場合に基地局での受信位相を特定の値とできる。現在の無線通信技術では下りリンクの伝搬路測定と上りリンクのデータ送信を極めて短い時間(例えば、0.1ms以下)で行うことが可能である。この場合、端末の移動速度が速く、仮にドップラー周波数が500Hzである環境においても、上下リンクにおける伝搬路変動はフェージングの0.05周期分に過ぎない。従って、端末の移動速度が速い場合でも、キャリア位相同期を保持できる。
また、端末が移動する環境においても、実施の形態27、28の周波数補正を行った後に、実施の形態19のキャリア位相送信制御を適用すると、基地局では特定の周波数の特定の位相で信号を受信できる。これは、端末が下りリンクでドップラー広がりに従い変動するチャネルhk,m (DL)を測定し、上りリンクで送信ウエイトvk,m=1/(uBShk,m (DL))で信号送信することで、下りリンクのドップラー周波数の影響を上りリンクで補償するためである。その結果、基地局ではドップラー周波数の影響を感じることなく信号受信できる。従って、基地局における周波数オフセット推定、自動周波数制御(AFC)の処理も従来よりも軽減できる。
また、端末の周波数発振器の精度が良くない場合にも、実施の形態27、28の周波数補正を行った後に、キャリア位相送信制御を適用することにより、実施の形態20〜26の協力的送信ビーム形成を行うことが可能である。
実施の形態31.
つづいて、実施の形態31について説明する。本実施の形態では、広帯域なOFDMA/TDD方式における送信周波数の補正手順に関するものである。
実施の形態27〜29Bではシングルキャリア伝送時の周波数補正を示したが、この場合には伝搬路のフェージングによって伝搬測定精度が劣化する場合も考えられる。また、近年広く用いられているOFDMA/TDDではフェージング環境で広帯域のキャリア周波数制御が求められる。また、協力的送信ビーム形成を実現するためには、キャリア周波数のみならず上下リンクのチャネル測定値の位相を合わせる技術も求められる。
そこで、本実施の形態ではOFDMA/TDD方式において基地局と端末のキャリア周波数を0.01Hz以下の誤差とする超高精度キャリア周波数御を開示する。本実施の形態ではOFDMAの複数サブバンドにおいてチャネル測定を行い、良好なチャネル測定結果を用いて周波数オフセットを推定する。本実施の形態を用いると、フェージング環境においても基地局と端末の間で極めて高精度なキャリア周波数を維持できる。また、本実施の形態では上りと下りリンクでのチャネル測定値を位相レベルまで合わせるキャリア位相制御の発明についても示す。本制御を用いると、上下リンクでのチャネル測定値の位相を高精度で合わせることができ、協力的送信ビーム形成に有効な技術であることを示す。
図61にOFDMA/TDDにおいてチャネル測定を行うサブバンドを示す。ここで、1つのサブバンドは一定数のサブキャリア群により構成される。上下リンクでは同一の周波数を持つLサブバンドでチャネル測定を行い、サブバンド間は一定の周波数間隔Bを有する。1番目のチャネル測定用サブバンドl=1に対応する基地局のキャリア周波数をfBS,1、端末のキャリア周波数をfMT,1 (n)とすると、l番目のサブバンドに対応するキャリア周波数fBS,1、fMT,1 (n)は、fBS,1=fBS,1+(l−1)B、fMT,1 (n)=fMT,1 (n)+(l−1)B、を満たす。
ここで、キャリア周波数にはアナログ及びデジタル領域での全ての周波数変換処理により決定される等価的な周波数である。基地局及び端末におけるキャリア信号(無変調信号)の初期位相をそれぞれφBS、φMTとすると、サブバンドlでの基地局及び端末の等価キャリア信号の複素表記はそれぞれexp{j(2πfBS,lt+φBS)},exp{j(2πfMT,l (n)t+φMT)}となる。
なお、通常の無線機では周波数発振器は一つであり、サブバンドによる周波数の違いはデジタル部の周波数変換で行われる。この場合、ある時刻t=0において異なるサブバンドlで等価キャリア信号が同じ位相φBSを持つように設定できる。
制御開始時(n=0)にfBS,1−fMT,1 (0)がフェージングのコヒーレント帯域よりも十分小さい状態(例えば|fBS,1−fMT,1 (0)|<<100Hz)は既に得られているとする。これは、従来の周波数引き込み技術等で実現できる。この環境において、基地局と端末のキャリア周波数誤差を1Hz以下とする高精度キャリア周波数制御法を開示する。
本実施の形態では、OFDMAにおいて複数サブバンドでチャネル測定を行い、高精度にキャリア周波数制御を以下の手法により行う。
[OFDMA用キャリア周波数制御法]
(31−1)n=0、fMT,1 (0)=fMTとし、t=t0,t1,…,tNを定める。
(31−2)時刻tNの上りリンクにおいて、端末はLサブバンドでそれぞれパイロット信号sl(p)(l=1,…,L)をキャリア信号exp{j(2πfMT,l (n)t+φMT)}でアップコンバートして送信を開始し、基地局ではキャリア信号exp{j(2πfBS,lt+φBS)}でダウンコンバートした受信信号と信号sl(p)の相関検出によりチャネル測定値aUL,1 (n)を得る。
(31−3)時刻tN+Δtの下りリンクにおいて、基地局はLサブバンドでそれぞれパイロット信号dl(p)(l=1,…,L)をキャリア信号exp{j(2πfBS,lt+φBS)}でアップコンバートして送信を開始し、端末はキャリア信号exp{j(2πfMT,l (n)t+φMT)}でダウンコンバートした受信信号と信号dl(p)の相関検出によりチャネル測定値aDL,1 (n)を得る。
(31−4)基地局はaUL,1 (n)(l=1,…,L)を端末に通知し、端末はrl (n)=aDL,l (n)/aUL,l (n)を算出する。
(31−5)端末はrl (i)(l=1,…,L、i=0,…,n)からキャリア周波数オフセットΔf(n)=fMT,1 (n)−fBS,1の推定値Δf(n)'を計算し、キャリア周波数をfMT,l (n+1)=fMT,l (n)−Δf(n)'(l=1,…,L)に変更する。具体的なΔf(n)'の計算法は後で示す。
(31−6)n<Nの場合にはnを1増加して手順(31−2)に戻り、n=Nの場合にはfMT,l (last)=fMT,l (N+1)として終了する。
以下では、手順(31−2)および(31−3)の詳細について説明する。手順(31−2)および(31−3)では、OFDMAの1サブバンド内のq0サブキャリアでそれぞれp0時間シンボルのパイロット信号を送信し、時間周波数領域で平均化による相関検出を行う。このとき、上下リンクでのチャネル測定値aUL,l (n),aDL,l (n)は次式(64)で与えられる。
ここで、ξUL,ξDL,Δφは次式(65)である。
また、z'BSはチャネル測定結果に付随する基地局での雑音成分、z'MTはチャネル測定結果に付随する端末での雑音成分、fscはサブキャリアの周波数間隔、hUL(f,t)及びhDL(f,t)はそれぞれ上下リンクにおける周波数f時刻tでの測定伝搬路利得を表す。基地局が雑音電力PBS,z、端末が雑音電力PMT,zを有する環境では、E[|z'BS|2]=PBS,z/(p0q0),E[|z'MT|2]=PMT,z/(p0q0)となる。従って、伝搬路可逆性の成り立つTDD方式では、手順(31−4)においてrl (n)=aDL,l (n)/aUL,l (n)は次式(66)で表される。
ここで、z'BS (n),z'MT (n)はどちらも分散1の複素ガウス分布に従う確率変数であり、TMT,l,RMT,l,TBS,lRBS,lはそれぞれサブバンドlにおけるアナログ特性TMT,RMT,TBSRBSを表す。また、ΓUL,l (n),ΓDL,l (n)はそれぞれ上下リンクにおけるサブバンドlでのチャネル測定値に含まれる伝搬路測定電力と残余雑音電力の比を表す。アナログ特性TMT,l,RMT,l,TBS,lRBS,lはRF経路長の影響により周波数に応じて位相がほぼ線形に変化する。一方、時間的な変動は極めて遅く、ここでは制御時間内でTMT,l,RMT,l,TBS,lRBS,lを一定として扱う。
手順(31−5)において、rl (i)(l=1,…,L、i=0,…,n)を用いて周波数オフセットΔf(n)(n≠1)を推定する方法を説明する。なお、n=0の場合は推定値をΔf(n)=0とし、以下ではn≠1の場合を扱う。
時刻ti(i=0,…,n)では可変周波数オフセットΔf(i)のもとで上下リンクのチャネル測定値aDL,l (i),aUL,l (i)を得る。ここで、一旦仮想的に全時刻ti(i=0,…,n)で常に一定の周波数オフセットΔf(i)である状態を想定し、仮想状態での上下リンクのチャネル測定値をa'UL,l i|n,a'DL,l i|n,と定義する。このとき、上式(64)より、r'l (i|n)≡a'DL,l i|n/a'UL,l i|nに関して次式(67)が成り立つ。
ここで、r'l (0|n),r'l (1|n),…,r'l (n|n)は一定の周波数オフセットΔf(n)のもとで得られる値であるので、周波数オフセットの推定を行うにあたり次式(68)の関係を用いる。
ここで、ζl (i)/ζl (i0)は雑音から生じる誤差要因であり、ΓUL,l (0),ΓDL,l (0),ΓUL,l (i),ΓDL,l (i)が高い場合にその分散は小さい。
周波数オフセットΔf(i)を高精度に推定するためには、ν(i)=exp(-j4πΔf(n)・(ti−t0))若しくは∠ν(i)を高精度に推定することが求められる。ここで、∠xは複素数xの位相を[-π,π)の範囲で返す関数を表す。そこで、∠ν(i)の推定にあたり、以下の方法を検討する。
[方法A1]固定の1サブバンド(l=1)のr'l (i|n),r'l (0|n)と次式(69)から推定する。
[方法A2]チャネル状態の良いサブバンドlを選定し、次式(70)から推定する。
ここでは、|aDL,l (0)aDL,l (i)|が最大となるサブバンドlを時刻ti(i=1,…,n)ごとに選定する。上式(68)において、時刻ti(i=1,…,n)ごとに異なるサブバンドlを選定しても、∠ν(i)の推定は問題なく行うことができる。
[方法A3]Lサブバンドの∠(r'l (i|n)/r'l (0|n))を次式(71)を用いて重み付け加算する。
上式(68)では、|aDL,l (0)|と|aDL,l (i)|がともに良好な測定値である場合に∠ν(i)をよい精度で推定できる。そこで、|aDL,l (0)|と|aDL,l (i)|がともに大きい場合に高い評価値を与える|aDL,l (0)aDL,l (i)|を重み付け係数wl (i)とした。
上記手順(31−5)では、上記方法A1〜A3によって推定値∠ν'(i)(i=0,…,n)を得ると、次式(72)により広範囲かつ高精度な周波数オフセット推定値Δf'(i)を計算する。
ここで、mods(x1,x2)=mod(x1+x2/2,x2)-x2/2であり、mod(x1,x2)はx1のx2による剰余を表す。
本実施の形態では、複数のサブバンドでチャネル測定を行い、よいチャネル状態で得た測定値に高い信頼度を与えることで、∠ν(i)を精度よく推定する。もしくは、チャネル状態の良好なサブバンドのチャネル測定値を用いて∠ν(i)を精度よく推定する。その結果、サブバンド数Lが多くなるにつれチャネル状態がよいサブバンドの存在確率が高くなり、フェージング環境においても高精度なキャリア周波数制御を行える。また、実施の形態27〜29Aで示したシングルキャリア伝送の場合に比べて、フェージング環境で高精度なキャリア周波数の補正を行うことが可能となる。
実施の形態32.
つづいて、実施の形態32について説明する。本実施の形態では、広帯域なOFDMA/TDD方式においてキャリア周波数の補正を行った後に、基地局と端末が上下リンクの伝搬路測定結果を位相レベルで一致させる高精度キャリア位相制御を行う方法について開示する。
上下リンクの伝搬路測定値が位相レベルで一致すれば、端末は下りリンクチャネル測定値を用いて、上りリンクにおいて基地局で特定の位相となるよう信号送信できる。さらに、複数のリレー端末が基地局で特定の位相となるように上りリンク信号を送信すると、コヒーレントな信号送信によって協力的送信ビーム形成が可能となる。このように、適切なキャリア位相制御を行うと協力的送信ビーム形成によって送信ビーム利得を得ることができ、大幅な送信電力の低下が可能となる。
まず、基地局と端末のキャリア周波数補正により完全に一致し(fMT=fBS)、チャネル測定が理想的に行える環境を想定して、本実施の形態におけるキャリア位相制御の基本原理を説明する。
これまでにもある周波数を対象として図1などで示したのと同じく、キャリア位相制御ではサブバンドlに対応する端末のデジタル送信部に複素定数ulを乗じることで位相補正する。具体的には、ul=1として上下リンクのチャネル測定値aUL,l,aDL,lを取得し、その後に補正係数をul=aDL,l/aUL,lと決定する。この補正係数を適用すると、基地局で測定される上りリンクのチャネル測定値はulaUL,l=aDL,lとなり、下りリンクのチャネル測定値と一致する。この際、ulaUL,l,aDL,lは次式(73)によって表される。
ここで、gUL,l(f,t),gDL,l(f,t)はそれぞれ上り及び下りリンクにおけるサブバンドlでの実伝搬路係数を表す。TDD方式における伝搬路可逆性(gUL,l(f,t)=gDL,l(f,t))に基づけば、一旦補正係数ulを設定した後に伝搬路が変化しても、常に上下リンクチャネル測定値は位相を含めて一致(ulaUL,l=aDL,l)する。
以上は基本原理であるが、実環境ではフェージング及び雑音の影響、基地局と端末のキャリア周波数が完全に同一でない点などを考慮する必要がある。
そこで、次に実環境での利用に耐えうるキャリア位相制御法を開示する。実環境では、基地局キャリア周波数fBSと端末のキャリア周波数fMTが完全には一致しない環境が多いが、|fMT−fBS|が小さい場合には限られた時間内で上下リンクのチャネル測定値をほぼ同相とできる。例えば、基地局と端末の間で|fMT−fBS|が0.1Hzの場合、100msでのキャリア位相の相対的な変化は3.6°であり、その時間内で上下リンクの測定位相をほぼ同相とできる。
このような状態を実現するため、端末が高精度なキャリア周波数制御とキャリア位相制御を同時に行う方法を以下に開示する。
[OFDMA用キャリア周波数・位相制御]
(32−1)実施の形態31のキャリア周波数制御法で示した手順(31−1)を実行する。
(32−1’)ul (0)=1(l=1,…,L)とする。
(32−2)〜(32−5)実施の形態31のキャリア周波数制御法で示した手順(31−2)〜(31−5)を実行する。
(32−5’)端末はrl (i)(l=1,…,L、i=1,…,n)から補正係数ul (n+1)を決定し、l番目のサブバンドでデジタル送信部にul (n+1)を乗じて全ての信号(パイロット信号、データ信号等)を送信する。
(32−6)実施の形態31のキャリア周波数制御法で示した手順(31−6)を実行する。
以上の制御を実行することにより、上下リンクのチャネル測定値における位相を高精度で一致させる。手順(32−5’)の詳しい手順は以下で述べる。
ここで、手順(32−5’)を詳細に説明する。上記手順(32−2)および(32−3)では、時刻ti(i=0,…,n)において周波数オフセットΔfMT,l (i)が存在し、補正係数ul (i)を適用した状態で上下リンクチャネルaDL,l (i),aUL,l (i)を測定する(aUL,l (i)にはul (i)が含まれる)。ここで、仮想的に全時刻ti(i=0,…,n)において周波数オフセットΔf(n+1)と補正係数ul=1の状態を想定し、その場合の時刻tiでの上下りリンクのチャネル測定値をそれぞれa”DL,l (i|n+1),a”UL,l (i|n+1)とすると、r”l (i|n+1)≡a”DL,l (i|n+1)/a”UL,l (i|n+1)に関して次式(74)の関係が成り立つ。
そこで、手順(32−5’)では、キャリア周波数fMT,l (n+1)のもとでの補正係数ul (n+1)(l=0,…,L)として、以下の計算法を検討する。
[方法B1]時刻tnでの測定値を用いて次式(75)より補正係数を決定する。
ul (n+1)=r”l (n|n+1) l=0,…,L …(75)
[方法B2]時刻t0,t1,…tnでの測定値のうちチャネル状態の良い時刻を選定し、次式(76)より補正係数を決定する。
ul (n+1)=r”l (i|n+1) i=argmax|aDL,l (i)| …(76)
ここで、iはサブバンドl=1,…,Lに対して個別に選定される。
方法B2ではフェージング状態のよい時刻でのチャネル測定値を選定することで、高精度な補正係数の算出が期待される。なお、チャネル測定用サブバンドで計算された補正係数と補間により、全サブキャリアでの補正係数を決定する。
なお、実施の形態31のキャリア周波数制御ではチャネル状態のよいサブバンドを選定する周波数ダイバーシチ効果を用いたのに対し、本実施の形態のキャリア位相制御ではチャネル状態の良い時刻を選定する時間ダイバーシチ効果を用いている。実環境ではキャリア周波数オフセットの影響によって、位相補正を行っても時間経過とともに上下リンクの位相に差が生じる。そのため、適切な時刻tn+1に位相補正を更新する必要がある。基本的に処理回数nが大きくなるにつれ、キャリア周波数オフセットは小さくなり、同相状態を保持できる時間tn+1−tnも大きくなる。
実施の形態33.
つづいて、実施の形態33について説明する。本実施の形態では、複数リレー無線機がキャリア周波数補正、位相補正、協力的送信ビーム形成を行う構成について述べる。
これまで、複数リレー無線機間で行うキャリア周波数補正、位相補正、協力的送信ビーム形成を個別に示したが、異なるキャリア周波数をもつ複数のリレー無線機が協力的送信ビーム形成を行う際には、以下のステップに基づいて行う。
(33−1)複数リレー無線機間でのキャリア周波数補正を行う(ステップS621)。
(33−2)複数リレー無線機間でのキャリア位相補正を行う(ステップS622)。
(33−3)複数リレー無線機間での協力的送信ビーム形成を行う(ステップS623)。
図62に上記各ステップをフローチャートとして示す。なお、手順(33−1)としては実施の形態27〜29A、31に示した実現手法、手順(33−2)としては実施の形態32などで示した実現手法、(手順33−3)としては実施の形態23A、23Bなどの実現手法があるが、その他のいかなる手法であっても構わない。
このように、まずリレー無線機間でキャリア周波数同期を確立し、その後に可逆性を利用できる位相となるように補正を行い、その後に伝搬路可逆性を用いて協力的送信ビーム形成を行うことにより、円滑に協力送信ビームを行うことが可能となる。なお、このような制御手順は従来技術では開示されておらず、本実施の形態において開示される手順である。
実施の形態34.
つづいて、実施の形態34について説明する。これまでに示した実施の形態では便宜的に「基地局」「端末」「リレー無線機」の語句を用いて説明したが、当然複数の基地局がキャリア周波数補正、位相補正を行い、協力的送信ビームを行う場合にも適用される。
この場合、特別な利点として複数基地局が有線ネットワークで結ばれている場合には、周波数補正、キャリア位相補正において必要となる伝搬測定値の通知を有線ネットワークを介して行うことが可能となる。この関係を図63に示す。本図において基地局Aと基地局Bがキャリア周波数又は位相を補正する際には、基地局A→基地局B及び基地局B→基地局Aの各経路について伝搬測定を行うが、その測定値を有線ネットワークでデータとして通知することにより、無線リソースの消費を抑えることができる。その結果、少ない無線リソースの消費量で複数基地局間でのキャリア周波数及び位相を合わせることができる特別な利点がある。
また、複数基地局が端末に対して協力的送信ビーム形成を行う際には、有線ネットワークを介して同じ信号が基地局A及びBに供給される。従って、実施の形態23A、23Bで示した協力的送信ビーム系制御では2回の無線伝送により協力的送信ビーム形成を行ったが、有線ネットワークから信号の供給を受けた後1回の無線伝送により協力的送信ビーム形成を行う構成も可能である。
このように、複数基地局が協力的送信ビーム形成を行う際には、測定伝搬路情報を有線ネットワークを介して他の基地局へ通知できる利点がある。また、同じ信号が有線ネットワークから複数基地局へ供給されることで協力的送信ビーム形成を行う際の無線伝送を1回とすることができる。
実施の形態35A.
つづいて、実施の形態35Aについて説明する。本実施の形態は複数の基地局間でチャネル測定を行いキャリア周波数補正、位相補正を行う際に用いる無線リソースに関するものである。
基地局Aと基地局Bは、基地局A→基地局B及び基地局B→基地局Aの各経路について伝搬測定を行うことで、キャリア周波数補正又は位相補正を行うことができるが、その際には相互にパイロット信号の送信が必要となる。通常、TDD方式では複数の基地局間で相互の干渉を低減するため、上りリンク及び下りリンクの時間同期が取られ、複数基地局は同じ時刻に上下リンクを有する。このような環境で、複数基地局間でのキャリア周波数及び位相制御を円滑に行う方法を本実施の形態で開示する。
図64に本実施の形態におけるチャネル測定用パイロット信号を送信するフレーム構成例を示す。本図において、基地局A,Bは同じ時間に上りリンク時間スロット、下りリンク時間スロットを有しており、下りリンク時間スロットの中で基地局A→基地局B及び基地局B→基地局Aの各経路について伝搬測定を行う。この伝搬測定を円滑に行うために、基地局A,Bは下りリンク時間スロット内の異なる時間的な位置でパイロット信号を互いに送信する。また、基地局A,Bはチャネル測定を行うために、下りリンクで信号を送信しないある時間帯を設ける。
図64の例では、基地局Aがパイロット信号を送信する時間的な位置で基地局Bは信号送信を停止し、基地局Aからのパイロット信号を受信してその伝搬測定を行う。また、基地局Bがパイロット信号を送信する時間的な位置で基地局Aは信号送信を停止し、基地局Bからのパイロット信号を受信してその伝搬測定を行う。このように、一方の基地局がある時間位置での下りリンク信号を停止し、一方の基地局がパイロット信号を送信することで、相互に下りリンク時間スロットを用いてチャネル測定を円滑に行うことができる。また、基地局A→B及びB→Aへパイロット信号を送信する時刻は近いことが好ましく、図64に示すように連続する2つの時間シンボルの一方でパイロット信号を送信し、他方で送信を停止して伝搬測定を行う構成がより好ましい。
なお、本制御に先立って、基地局Aと基地局Bではどのような信号フォーマットに基づきチャネル測定を行うかを事前に制御信号を通して取り決める。この制御を行うために、あらかじめいくつかの信号フォーマットを規定しておき、その中から適したフォーマットを基地局A,B間での制御により決定する。
図65は信号フォーマット及び制御信号構成の一例を示している。本図では、メインとなる基地局が他の基地局に本信号フォーマットを通知し、他の基地局は通知された信号フォーマットに従いパイロット信号の送信及び信号停止を行う場合の制御信号を示している。なお、この制御信号は基地局A,B間の有線系ネットワークを介して通知してもよいし、無線系で通知してもよい。
また、このキャリブレーションを行うフレームでは通常の下りリンク時間スロットは異なるフレーム構成となるため、そのフレーム構成を制御信号として下りリンクで各端末に通知する。端末はその下りリンクフレームを認識して、それに見合った動作を行う。
さらに、追加的な発明として、基地局A,Bが図65に示すようにある時間シンボルで送信を停止する場合には、本来データシンボルの存在する時間シンボルで停止することがより望ましい。その場合には、下りリンク時間スロットでのデータの時間シンボル数を本来のフォーマットより1つ減らす簡易フォーマットとすることで、通常の制御信号部に影響を与えることなく、キャリブレーション用のフレームフォーマットを用いることができる。なお、図64ではOFDMAのフレームフォーマットを一例として示したが、マルチキャリア伝送に限らずさまざまな伝送方式において同等の手法を用いることができる。
また、ここでは基地局間でのチャネル測定用フォーマットについて主に示したが、複数無線機間でも同様にフォーマットに関する制御信号を事前に交信することで、円滑に相互のチャネル測定を行うことができる。
実施の形態35B.
つづいて、実施の形態35Bについて説明する。本実施の形態では、複数の基地局でキャリア周波数補正及び位相補正を行うこれまでの実施の形態とは異なる方法について開示する。本実地の形態ではGPS(Global Positioning System)を用いて基地局間のキャリア周波数を高精度に一致させることを特徴とする。また、本構成により、複数基地局間でのコヒーレント信号送信を用意とする。
本実施の形態の基地局および端末の構成例を図66に、動作フローチャートの一例を図67に示す。図66に示した基地局100−1〜100−nは、同じ構成をとっており、GPS受信部101、周波数ロック部102、振幅・位相制御部103、下り信号送信部104および上りパイロット信号受信部105を備えている。なお、振幅・位相制御部103がキャリブレーション部(キャリブレーションを実行する構成)に相当する。また、端末200は、下り信号受信部201および上りパイロット信号送信部202を備えている。
図66に示した各基地局はGPS受信機能を備えており、これを用いて周波数ロックを行う。具体的に周波数ロック部102では、自動周波数引き込みなどによりGPS受信部101が受信したGPSからの信号の周波数を検出し、その周波数を逓倍することにより信号送信時の搬送波周波数として用いる。他の基地局もGPSを用いて同様に周波数ロックを行えば、各基地局がGPSからの信号と同じ周波数を保有でき、基地局間での周波数同期を容易に行うことができる。
本手法に基づき基地局間で同一キャリア周波数を保有する状態を確立した後、実施の形態32等で示したキャリア位相制御を行うと、複数の基地局間で伝搬路可逆性を利用できる状態を確立できる。また、同一のキャリア周波数を有する複数基地局で伝搬路可逆性を用いる環境は無線機の複数アンテナでのキャリブレーションと何ら技術的に変わりない。従って、実施の形態1等で示したアンテナ間のキャリブレーションと同じ手法に従い、基地局間で双方向の伝搬路測定を行い、双方向伝搬路測定値の位相が一致するよう補正することによって基地局間で伝搬路可逆性を利用可能な状態を構築できる。
このように、基地局間で同一のキャリア周波数を有し、伝搬路可逆性を利用できる位相制御を行うと、実施の形態21、22、23、23B等で示したコヒーレント信号送信を行える。具体的な一例として、端末は周辺基地局に対して上りリンクでパイロット信号を送信する。GPS信号を用いて同一のキャリア周波数を維持し、位相制御を行った少なくとも2つ以上の基地局は上りリンク信号を用いた伝搬路係数に基づき下りリンクの送信ウエイトを決定する。この2つ以上の基地局が同一の信号をそれぞれ決定した送信ウエイトで送信すると、端末では各基地局からの信号が同位相となり強い電力で受信できる。
このように、GPS信号を用いると複数基地局間で同一のキャリア周波数を保有する状態をより容易に実現できる。また、その同一のキャリア周波数を有する状態と伝搬路可逆性を用いて複数の基地局がコヒーレントに信号送信することが可能となる。このように、GPS信号を用いることにより、より簡易な構成で複数の基地局を用いたコヒーレント通信を実現できる。
実施の形態35C.
つづいて、実施の形態35Cについて説明する。本実施の形態では、複数の基地局でキャリア周波数補正及び位相補正を行う方法について、実施の形態35Bとは異なる方法を開示する。
本実施の形態の基地局および端末の構成例を図68に、動作フローチャートの一例を図69に示す。図68に示した基地局100a−1〜100a−nは、同じ構成をとっており、上述した基地局100−1〜100−nと同様に、GPS受信部101、周波数ロック部102および振幅・位相制御部103を備え、さらに、下りフレーム送信部106および上り制御信号受信部107を備えている。なお、振幅・位相制御部103および上り制御信号受信部107がキャリブレーション部(キャリブレーションを実行する構成)に相当する。また、端末200aは、同期検波部203、合成部204、相対位相情報測定部205および上り制御信号送信部206を備えている。
図68に示した各基地局は、上述した実施の形態35Bの基地局と同様にGPS受信機能を備えており、これを用いて周波数ロックを行う。他の基地局もGPSを用いて同様に周波数ロックを行っているため、基地局間では周波数同期状態にある。
端末200aは、各基地局からの下りフレーム受信により同期検波を行う。ここで下りフレームにはパイロット信号が含まれており、端末200aはこのパイロット信号を用いて、相対位相情報を測定する。この相対位相情報は、例えば端末200aが自身で有する位相基準からの前記同期検波における位相回転量である。
そして端末200aは、測定した相対位相情報を各基地局への上りフレームに含めて制御信号として送信する。各基地局は端末200aからの上りフレームに含まれている相対位相情報を抽出し、現送信フレームの振幅・位相を制御する。この制御は、端末受信において、他の基地局を含めて位相が揃った状態になるように、例えば前記端末200aが自身で有する位相基準となるように制御を行う。各基地局は端末200aからの制御情報に基づき振幅・位相を調整して送信する。
この様にして、端末に高度なチャネル推定・合成手段を持つことなく、簡単に複数の基地局を用いたコヒーレント通信を実現できる。
実施の形態35D.
つづいて、実施の形態35Dについて説明する。実施の形態35B,35Cでは複数の基地局間で同一のキャリア周波数を保持する方法を述べたが、GPS信号の位相をトラッキングすることにより、複数の基地局では同じ位相関係を保持できる。通常、複数の基地局が独立な発振器を用いると、独立な位相雑音が発生する。位相雑音は時間に応じて変化するため、コヒーレント信号送信における誤差要因となる。しかし、GPSの位相をトラッキングして、その位相をもとに位相加算制御等を行い基地局からの信号送信位相を決定する場合には、全ての基地局がGPS信号と同一の位相雑音を有する。その結果、仮にGPS信号が位相雑音を有したとしても、各基地局は同じ位相雑音を保有する状態となるためコヒーレント送信状態を維持できる。このように、各基地局がGPS信号の位相トラッキングを行い、その位相を活用することにより、基地局が独立な発振器を持つ場合に問題となった独立な位相雑音の問題を解消できる格別の利点がある。
実施の形態35E.
つづいて、実施の形態35Eについて説明する。本実施の形態では、複数の基地局でキャリア周波数補正及び位相補正を行う方法について実施の形態35B,35Cとは異なる方法を開示する。
本実施の形態の基地局および端末の構成例を図70に示す。図70に示した基地局100b−1〜100b−nは、同じ構成をとっており、上述した基地局100−1〜100−nと同様に、GPS受信部101、周波数ロック部102および振幅・位相制御部103を備え、さらに、位相制御用フレーム送信部108、データ用フレーム送信部109、上りフレーム受信部110およびスイッチ111を備えている。なお、振幅・位相制御部103および上りフレーム受信部110がキャリブレーション部(キャリブレーションを実行する構成)に相当する。また、端末200bは、上述した端末200aと同様に同期検波部203を備え、さらに、合成部204bおよび上りフレーム送信部207を備えている。
本実施の形態と実施の形態35B,35Cとの違いは,基地局の下りフレーム送信部に代えて位相制御用フレーム送信部108があること,上り制御信号受信部1−7に代えて上りフレーム受信部110があること,データ用フレーム送信部109およびスイッチが追加されていることのみである。端末200bおよび各基地局は実施の形態35B,35Cと同様に動作を行うが,1フレーム目のみ位相制御用フレームが送信され、2フレーム目以降はデータ用フレームが送信される点が異なる。
位相制御用フレームは例えばパイロット信号が多く含まれるフレーム構成を持つフレームであり、データ用フレームは例えばパイロット信号がゼロ若しくは極めて少ないフレーム構成を持つフレームである。端末200bでは位相制御用フレームを用いて実施の形態35B,35Cで述べた上りフレーム送信を実行し、上りフレームを受信した基地局はこの上りフレームを用いて振幅・位相制御を実行する。これ以降、基地局はデータ用フレームのみを伝送し、端末は対応する上りフレーム送信を極端に減らす。
この様にして、下りリンクのパイロット伝送量および上りリンク量を大幅に減らすことができるため、システム伝送効率を向上させることができる。
なお、基地局における位相制御用フレーム送信は上記では1フレーム目のみと記述したが、例えば周期的(100フレームに1回)や非周期的に実施しても良い。
また、実施の形態35B,35C,35Dの「基地局」、「端末」は説明情報簡易表現であり、同じ方法は「基地局」と「端末」の語句を入れ替えることで複数の基地局、単一の端末の場合にも適用できる。また、GPSとは衛星からの信号を意味する簡易表現に過ぎず、いかなる衛星からの信号であっても構わない。また、上述したGPS信号を用いた実施の形態は原理的には衛星からの信号に限らず地上の放送信号など広範囲をカバーする信号で代用することもできる。従って、原理的には衛星からの信号に限らず陸上で広範囲をカバーする信号を用いて実施の形態35B,35C,35D、35Eを実行できる。
実施の形態35F.
つづいて、実施の形態35Fについて説明する。本実施の形態では、複数の基地局でキャリア周波数補正を行う方法に関するものであり、GPS信号を用いる実施の形態35B,35Cと基地局間での伝搬路測定によりキャリア周波数制御を行う実施の形態27、28、29等の使い分けに関する一例を示す。
上記の実施の形態27、28、29等では基地局間での伝搬路測定により基地局間でのキャリア周波数を高精度に一致させる方法を示した。一方、実施の形態35B,35CではGPS信号を用いる方法を示した。
これらの使い分けの一例として、GPSの見える屋外ではGPSからの信号を用いて各基地局がキャリア周波数を設定し、GPSの見えない場所(都市部、屋内、地下など)では実施の形態27、28、29等で示す基地局間での双方向伝搬路測定に基づきキャリア周波数制御を行う構成が有効である。この場合、GPSの見える屋外の基地局では制御信号を必要とすることなくキャリア周波数を高い精度で一致させることができる。また、GPSの見えない基地局では、周辺基地局との制御信号のやり取りによりキャリア周波数を高精度に合わせることができる。
さらに、好ましい構成として、まずGPS信号によって屋外の基地局がキャリア周波数を決定し、そのキャリア周波数を決定した基地局がGPSの見えない基地局とのキャリア周波数制御を行う。本手法では、GPSの見えない基地局であってもGPSの見える基地局と同じキャリア周波数を保持できる。実施の形態27、28、29等で示すキャリア周波数制御では、数少ない基地局間で同一のキャリア周波数を保持できるもののそのほかの基地局とのキャリア周波数の一致は補償されない。これに対して、GPSの見える基地局のキャリア周波数を基準にGPSの見えない基地局がキャリア周波数を決定する場合には、広範囲に位置する全ての基地局のキャリア周波数を同じとできる。その結果、直接キャリア周波数制御を行っていない基地局間であっても同一のキャリア周波数を維持でき、多くの基地局間でコヒーレント送信等を行う際に有効なシステム構成となる。
このように、基地局の位置に応じてキャリア周波数制御法を適応的に選定することにより、少ない制御信号量で効率的に基地局間のキャリア周波数を一致させることができる。さらに好ましくは、GPSを用いて得られるキャリア周波数を基準として各基地局がキャリア周波数制御を行うことにより、広範囲に位置する多くの基地局間のキャリア周波数を同一とすることができる。
なお、上記の各実施の形態では、伝搬路可逆性を保持するキャリブレーション方法、高精度なキャリア周波数制御方法、さらに本技術を用いて複数の無線機が信号をコヒーレントに送信する場合について記述したが、これらの技術のいかなる組合せを用いた構成も可能である。