JP2012187727A - 射出成形品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱変形温度が140℃未満のPAS系樹脂組成物を原料として成形品を製造する場合に、上記の熱処理を行なわなくても、成形品の結晶化度を充分高めることができる技術を提供する。
【解決手段】熱変形温度が140℃未満のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を、金型内表面に断熱層が形成された金型を用い、上記熱変形温度以下の金型温度で射出成形する。金型温度の条件は100℃以下であることが好ましい。また、多孔質ジルコニアから構成される断熱層を、溶射により金型内表面に形成する方法で製造された金型を使用することが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、射出成形品の製造方法に関する。
ポリフェニレンサルファイド(以下PPSと略す)樹脂に代表されるポリアリーレンサルファイド(以下PASと略す)樹脂は、高い耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性を有している。このため、PAS樹脂は、電気・電子機器部品材料、自動車機器部品材料、化学機器部品材料等に広く使用され、特に使用環境温度の高い用途に使用されている。
しかしながら、PAS樹脂は、結晶化速度が遅く、またガラス転移温度が高いことから、成形品表面の結晶化度が高まりにくく、局部的に不均一な結晶構造となりやすい。このため、PAS樹脂を含む成形品表面は外観的にも構造的にもムラを生じやすい。
そして、成形品表面の結晶化度が高まらない場合、表面硬度が上がらず金型からの突き出しが困難になる問題や、後収縮が大きくなるため、成形品の使用環境によっては表面荒れや寸法変化・反り等の問題が起きる。そこで、射出成形により成形品を製造する場合、射出成形品表面の結晶化度を高める方法として、金型温度の条件を140℃以上にする方法が知られている。
ところで、PAS樹脂を含む樹脂組成物(以下、PAS系樹脂組成物という場合がある)の中には熱変形温度が140℃未満のものもある。熱変形温度が140℃未満の樹脂組成物を原料として、金型温度が140℃以上の条件で射出成形品を製造すると、金型から射出成形品を取り出す際に、射出成形品の変形や離型不良等の問題を生じる場合がある。
そこで、熱変形温度が140℃未満の樹脂組成物を原料として射出成形品を製造する場合、先ず、金型温度を上記熱変形温度以下の温度に設定して成形品を製造する。このような条件で得られた射出成形品は、結晶化度が低い。そこで、この結晶化度が低い射出成形品に熱処理を施し、射出成形品の結晶化度を高める。このような射出成形品に熱処理を施して結晶化度を高める技術は、一般的な技術であり、例えば特許文献1に記載されている。
特開2010−110892号公報
上記のような、熱変形温度が140℃未満のPAS系樹脂組成物を原料として射出成形品を製造する場合、射出成形品の結晶化度を高めようとすると、射出成形品の製造後に当該射出成形品に熱処理を施すことが必要になる。熱処理を行う分だけ射出成形品の生産性は低下する。
本発明は、以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、熱変形温度が140℃未満のPAS系樹脂組成物を原料として成形品を製造する場合に、上記射出成形品の変形等の問題が生じないように金型温度の条件を低くしつつ、且つ上記の熱処理を行なわなくても、成形品の結晶化度を充分高めることができる技術を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、熱変形温度が140℃未満のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を、金型内表面に断熱層が形成された金型を用い、上記熱変形温度以下の金型温度で射出成形することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
(1) 金型内表面に断熱層が形成された金型を用い、熱変形温度が140℃未満のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を、前記熱変形温度以下の金型温度で射出成形する射出成形品の製造方法。
(2) 前記射出成形を、前記金型温度が100℃以下の条件で行なう(1)に記載の射出成形品の製造方法。
(3) 前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、実質的にポリアリーレンサルファイド系樹脂から構成されるか、又は実質的にポリアリーレンサルファイド系樹脂とエラストマー樹脂とから構成される(1)又は(2)に記載の射出成形品の製造方法。
(4) 前記断熱層は、多孔質ジルコニアから構成される(1)から(3)のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
(5) 前記断熱層は、熱伝導率が2W/m・K以下である(1)から(4)のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
(6) 前記断熱層は、溶射法で形成された(1)から(5)のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
(7) 前記断熱層は、厚みが200μm以上である(1)から(6)のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
(8) 前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物がポリフェニレンサルファイド樹脂を含む(1)から(7)のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
本発明によれば、熱変形温度が140℃未満のPAS樹脂を含む樹脂組成物を原料として成形品を製造する場合に、成形品に対して成形後の熱処理を行なわなくても、成形品の結晶化度を充分高めることができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
本発明の製造方法は、金型内表面に断熱層が形成された金型を用い、熱変形温度が140℃未満のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を、上記熱変形温度以下の条件で射出成形する。
<ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物>
本発明の製造方法において、ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、熱変形温度が140℃未満である。熱変形温度は、ISO75−1,2に準拠し、荷重1.8MPaの条件で測定した値を採用する。
ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、ポリアリーレンサルファイド系樹脂を含む。ポリアリーレンサルファイド樹脂は、繰り返し単位として、−(Ar−S)−(Arはアリーレン基)を主として構成されたものである。本発明では一般的に知られている分子構造のPAS樹脂を使用することができる。
アリーレン基は特に限定されないが、例えばp−フェニレン基、m−フェニレン基、o−フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’−ジフェニレンスルフォン基、p,p’−ビフェニレン基、p,p’−ジフェニレンエーテル基、p,p’−ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等が挙げられる。上記アリーレン基から構成されるアリーレンサルファイド基の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、用途によっては異種のアリーレンサルファイド基の繰り返しを含んだポリマーが好ましい。
用途にもよるが、ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位とするホモポリマーは極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える射出成形品を得ることができる。
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンサルファイド基の中で相異なる2種以上のアリーレンサルファイド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p−フェニレンサルファイド基とm−フェニレンサルファイド基を含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える射出成形品を得るという観点から好ましい。p−フェニレンサルファイド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。
上記のようなp−フェニレンサルファイド基、m−フェニレンサルファイド基を繰り返し単位として有するPAS樹脂は、特に、成形品の結晶化度の向上等が求められている材料である。本願発明の射出成形品の製造方法を用いることで、成形品の高結晶化度を実現できる。また、本願発明の射出成形品の製造方法は、作業性、生産性の問題も無い。なお、フェニレンサルファイド基を有するPAS樹脂はPPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂である。
ところで、本発明で用いるポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、熱変形温度が140℃未満である。PAS系樹脂組成物が、実質的に上記のようなPAS樹脂からなる場合に、熱変形温度が低くなりやすい。具体的には、PAS樹脂の含有量が95質量%以上になると、熱変形温度が100℃以下になりやすい。
本発明によれば、原料となるPAS系樹脂組成物の決定後、PAS系樹脂組成物の熱変形温度が上記のような低い値になったとしても、射出成形品の製造時に射出成形品の結晶化度を充分に高めることができる。その結果、結晶化度を高めるために必要となる熱処理工程を行なわなくても、結晶化度の高い射出成形品を得ることができる。
[その他の成分]
本発明で用いるPAS系樹脂組成物は、本発明の効果を害さない範囲でエラストマー樹脂等の他の樹脂を含んでもよい。また、成形品に所望の特性を付与するために、核剤、カーボンブラック、無機焼成顔料等の顔料、ガラス繊維等の無機充填剤、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与した組成物も本発明で用いるPAS系樹脂組成物に含まれる。
PAS系樹脂組成物に対して、他の樹脂、添加剤等を加えると、その添加剤の種類や配合量によって、PAS系樹脂組成物の熱変形温度は変化する場合がある。例えば、ガラス繊維等の繊維状充填材、タルク等の板状充填材等は、PAS系樹脂組成物の熱変形温度を高める傾向にある。
また、例えば、エラストマー樹脂をPAS系樹脂組成物に添加すると、PAS系樹脂組成物の熱変形温度は下がる傾向にある。したがって、このような添加剤とPAS樹脂とから構成されるPAS系樹脂組成物は熱変形温度が140℃未満、特に100℃以下になりやすい。
なお、エラストマー樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系エラストマー樹脂、ポリエステル系エラストマー樹脂、フッ素系エラストマー樹脂、シリコーン系エラストマー樹脂、ブタジエン系エラストマー樹脂、ポリアミド系エラストマー樹脂、ポリスチレン系エラストマー樹脂、ウレタン系エラストマー樹脂、中心に架橋構造を持つ各種粒子系エラストマー樹脂等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。
上述の通り、本発明の製造方法によれば、PAS系樹脂組成物の熱変形温度が上記のような低い温度であっても、成形時に射出成形品の結晶化度を充分に高めることができる。
[PAS系樹脂組成物の物性]
後述する通り、金型温度を特定の範囲に調整することで、溶融状態のPAS系樹脂組成物が金型合わせ面に入り込むことで形成されるバリの量を少なく抑えることができる。PAS系樹脂組成物の溶融粘度が300Pa・s以下の場合には、特にバリが発生しやすい傾向にあるが、このようなバリを発生しやすい原料を用いてもバリの発生量を抑えることができる。なお、溶融粘度の測定はISO11443に準拠して行い得られた値を採用するものとする。具体的には、キャピラリーとして1mmφ×20mmLのフラットダイを使用し、バレル温度310℃、せん断速度1000sec−1の条件で測定した値を採用する。
<金型>
本発明の製造方法に用いる金型は、金型内表面に断熱層が形成されている。断熱層が形成されているため、金型内に流れ込んだPAS系樹脂組成物の持つ熱が金型外に放出されにくくなる。その結果、金型の内表面に接するPAS系樹脂組成物が急冷されにくくなり、射出成形品表面の結晶化度も充分に高めることができる。
射出成形品の表面の結晶化度の低下は、上記表面のいずれの位置においても生じる可能性があるから、金型内表面全体に断熱層が形成されていることが好ましい。なお、本発明の効果を害さない範囲であれば、断熱層が形成されていない部分があってもよい。また、射出成形品に、結晶化度を特に高める必要が無い部分がある場合には、成形時にその部分と接する金型の内表面には、断熱層を形成する必要は無い。
断熱層としては、熱伝導率が低く、高温のPAS系樹脂組成物が接しても不具合を生じない程度の耐熱性を有するものであればよく、断熱層を構成する材料は特に限定されない。
断熱層に求められる耐熱性及び熱伝導率を満たす材料としては、ポリイミド樹脂等の耐熱性が高く熱伝導率が低い樹脂、多孔質ジルコニア等の多孔質セラミックを挙げることができる。以下、これらの材料について説明する。
ポリイミド樹脂の具体例としては、ピロメリット酸(PMDA)系ポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸系ポリイミド、トリメリット酸を用いたポリアミドイミド、ビスマレイミド系樹脂(ビスマレイミド/トリアジン系等)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸系ポリイミド、アセチレン末端ポリイミド、熱可塑性ポリイミド等が挙げられる。なお、ポリイミド樹脂から構成される断熱層であることが特に好ましい。ポリイミド樹脂以外の好ましい材料としては、例えば、テトラフルオロエチレン樹脂等が挙げられる。また、断熱層は、本発明の効果を害さない範囲で、ポリイミド樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂以外の樹脂、添加剤等を含んでもよい。
金型の内表面に断熱層を形成する方法は、特に限定されない。例えば、以下の方法で断熱層を金型の内表面に形成することが好ましい。
断熱層を形成しうるポリイミド前駆体等のポリマー前駆体の溶液を金型表面に塗布し、加熱して溶媒を蒸発させ、さらに加熱してポリマー化することによりポリイミド膜等の断熱層を形成する方法、耐熱性高分子のモノマー、例えばピロメリット酸無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを蒸着重合させる方法、又は、平面形状の金型に関しては、高分子断熱フィルムを用い適切な接着方法又は粘着テープ状の高分子断熱フィルムを用いて金型の所望部分に貼付し断熱層を形成する方法が挙げられる。また、ポリイミド膜を形成させ、さらにその表面に金属系硬膜としてのクローム(Cr)膜や窒化チタン(TiN)膜を形成させることも可能である。
樹脂から構成される上記断熱層に求められる熱伝導率は、用途等によっても異なるが、2W/m・K以下であることが特に好ましい。断熱層の熱伝導率を上記の範囲に調整することで、100℃以下の金型温度で射出成形品を成形しても、結晶化度の高い射出成形品がさらに得られやすくなる。なお、上記熱伝導率は実施例に記載の方法で測定した熱伝導率を指す。
樹脂から構成される上記断熱層の厚みは、特に限定されず、使用する材料、成形品の形状等によって適宜好ましい厚みに設定することができる。断熱層がポリイミド樹脂から構成される場合、断熱層の厚みが、20μm以上であれば、充分高い断熱効果が得られるため好ましい。上記金型内表面に形成される断熱層の厚みは均一でもよいし、厚みの異なる箇所を含むものであってもよい。
多孔質ジルコニアに含まれるジルコニアとしては、特に限定されず、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、未安定化ジルコニアのいずれでもよい。安定化ジルコニアとは、立方晶ジルコニアが室温でも安定化されているものであり、強度及び靱性等の機械的特性や耐磨耗性に優れている。また、部分安定化ジルコニアとは、正方晶ジルコニアが室温でも一部残存した状態を指し、外部応力を受けると正方晶から単斜晶へのマルテンサイト変態が生じ、特に引張応力の作用によって進展する亀裂の成長を抑制し、高い破壊靭性を持つ。また、未安定化ジルコニアとは安定化剤で安定化されていないジルコニアを指す。なお、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、及び未安定化ジルコニアから選択される少なくとも2種以上を組み合わせて使用してもよい。
安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニアに含まれる安定化剤としては、従来公知の一般的なものを採用することができる。例えば、イットリア,セリア,マグネシア等が挙げられる。安定化剤の使用量も特に限定されず、その使用量は、用途、使用材料等に応じて適宜設定できる。
なお、多孔質ジルコニア以外の多孔質セラミックも使用することができるが、多孔質ジルコニアはその他の多孔質セラミックと比較して耐久性が高い。このため、多孔質ジルコニアから構成される断熱層を形成した金型を用いれば、断熱層の変形等の不具合が生じ難いため、連続して射出成形できる射出成形品の数が多く、射出成形品の生産性が非常に高まる。
断熱層を形成するための原料は、本発明の効果を害さない範囲で、上記のジルコニア、安定化剤以外に従来公知の添加剤等をさらに含んでもよい。
上記の原料を用いて断熱層を形成する方法は特に限定されないが、溶射法を採用することが好ましい。溶射法を採用することで、多孔質ジルコニアの熱伝導率が所望の範囲に調整されやすくなる。また、多孔質ジルコニアの内部に気泡が形成され過ぎることにより断熱層の機械的強度が大幅に低下する等の問題も生じない。このように溶射により断熱層を形成することで、断熱層の構造は本発明の用途に適したものになる。
溶射による断熱層の形成は、例えば以下のようにして行なうことができる。先ず、原料を溶融させて液体とする。この液体を加速させキャビティの内表面に衝突させる。最後に、キャビティの内表面に衝突し付着した原料を固化させる。このようにすることで、非常に薄い断熱層が金型の内表面に形成される。この非常に薄い断熱層上にさらに溶融した原料を衝突させ固化させることで、断熱層の厚みを調整することができる。なお、原料を固化させる方法は、従来公知の冷却手段を用いてもよいし、単に放置することで固化させてもよい。なお、溶射方法は特に限定されず、アーク溶射、プラズマ溶射、フレーム溶射等の従来公知の方法から好ましい方法を適宜選択することができる。
多孔質セラミックから構成される上記断熱層の熱伝導率は、成形品の用途、PAS系樹脂の種類等に応じて適宜調整可能である。本発明においては、2W/m・K以下であることが好ましく、より好ましくは0.3W/m・K以上2W/m・K以下である。熱伝導率が2W/m・K以下であれば、100℃以下の金型温度で射出成形品を成形しても、結晶化度の高い射出成形品が得られやすい傾向にあるため好ましい。熱伝導率が0.3W/m・K以上であれば、断熱層内の気泡が多くなり過ぎることによる断熱層の強度の低下によって、射出成形品の生産性を大きく低下させることがほとんど無いため好ましい。特に、断熱層の熱伝導率が0.7W/m・K以上であれば、断熱層内の気泡が多くなり過ぎることによる断熱層の強度の低下を非常に小さい範囲に抑えられる傾向にあるため好ましい。なお、上記熱伝導率は実施例に記載の測定方法で得られた値を採用する。
断熱層が多孔質ジルコニアから構成される場合の、断熱層の厚みは特に限定されないが200μm以上であることが好ましく、より好ましくは500μm以上1000μm以下である。500μm以上であれば、ジルコニア断熱層の強度が高くなるという理由で好ましい。また、断熱層の厚みが1000μm以下であれば、成形サイクルが長くならないという理由で好ましい。
<射出成形品の製造方法>
本発明の製造方法は、上述のPAS系樹脂組成物、金型を用い、金型温度が上記熱変形温度以下の条件で射出成形を行う。本発明によれば、金型に断熱層が形成されているため140℃未満の金型温度の条件で射出成形品を製造しても、射出成形品の結晶化度を充分に高めることができる。
上記の本発明の効果は、上述の通り、金型内に流れ込んだPAS系樹脂組成物の持つ熱が金型外に放出されにくいために起きるものである。つまり、金型内に流れ込んだPAS系樹脂組成物の持つ熱が断熱層と接しても、断熱層が熱の金型外への放出を抑えるため、樹脂組成物は金型内で結晶化に必要な程度の高温を維持することができる。
上述の通り、PAS系樹脂組成物に含まれるPAS樹脂は、金型内に流れ込むPAS系樹脂組成物の有する熱で結晶化するため、金型の内表面に断熱層が形成されていれば、金型温度をPAS系樹脂組成物の熱変形温度以下に調整しても、PAS樹脂の結晶化度を充分に高めることができる。したがって、射出成形品を金型から離型する際の金型の温度も上記熱変形温度以下であり、射出成形品を金型から取り出す際の変形や離型不良を抑えることができる。「結晶化度を充分に高められる」とは、金型温度の条件を100℃以下に設定しているにもかかわらず、成形品の結晶化度が、金型温度を140℃の条件に設定して断熱層を形成していない金型を用いて作製した成形品の結晶化度と比較して、同程度以上であることを指す。
即ち、PAS系樹脂組成物を、断熱層が形成されていない金型を用い、金型温度が140℃の条件で射出成形してなる成形品の、X線回折法により測定された結晶化度を100とした場合、本発明の製造方法で得られた射出成形品の、X線回折法により測定された結晶化度(相対結晶化度)は95以上である。ここで、「断熱層を形成していない金型」とは、具体的には積層物が全く形成されていない金型を用いればよく、その金型を用いて射出成形品を製造し、その射出成形品の結晶化度を導出して100とすればよい。
上記の通り、本発明の製造方法によれば、射出成形品を金型から取り出す際の、射出成形品の変形や離型不良を抑えることができる。したがって、上記変形や離型不良が生じやすい形状の射出成形品であっても、本発明の製造方法を採用することで、上記変形や離型不良を生じにくくすることができる。ここで、「変形や離型不良が生じやすい形状」とは、長尺状であり、例えば、角棒状、丸棒状、円筒状、角筒状、中空の直方体状、中空の円柱状のいずれであっても変形や離型不良を生じやすい。特に長尺状の射出成形品の中でも、射出成形品が延びる方向の最大長さと、上記延びる方向に垂直な方向における射出成形品の最大長さとの比が1以上の場合に、上記変形や離型不良が生じやすい。
特に、本発明の製造方法によれば、金型温度を100℃以下に調整しても、射出成形品中のPAS樹脂の結晶化度を充分に高めることができる。金型温度の条件を100℃以下に調整することで以下の効果が得られる。
先ず、金型温度が100℃以下の条件であれば、金型の併せ面等に溶融状態のPAS系樹脂組成物が流れ込んだとしても、金型温度が低いため直ちに固化する。このため、バリの発生量を大幅に抑えることができる。
また、金型温度を100℃以下に調整することにより、金型の温度調節を水で行うことができる。したがって、金型温度を100℃以下に調整することで、高結晶化度の成形品を容易に得ることができる。特に、本発明においては、金型温度を40℃以上80℃以下に設定することが好ましい。成形品の結晶化度を充分高めつつ、バリの発生量を大幅に抑えることができるからである。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
<材料>
PAS系樹脂組成物:ポリフェニレンサルファイド樹脂組成物(「フォートロン0220A9」、ポリプラスチックス社製)、ISO75−1,2に準拠し、荷重1.8MPaの条件で測定した熱変形温度100℃(なお、熱変形温度は表中の「荷重たわみ温度」にあたる)
断熱層の原料:ジルコニア又はポリイミド樹脂
金型1(結晶化度測定用):幅40mm×長さ40mm×厚さ2mmの金型
金型2(離型性評価用):内径12mm、外径15mm×長さ30mmの円筒状の金型
<断熱層の形成>
金型の内表面にポリイミド前駆体を塗布し加熱固化させ断熱層の厚みを150μmとし金型1を作製した。また、主としてジルコニアから構成される原料を、溶射法にて金型の内表面に溶射した。断熱層の表面は密度が高くなるように調整し、多層構造の断熱層を金型内表面に形成した。断熱層の厚みが500μmになるまで溶射を続けた。このようにして、実施例の製造方法で用いる金型2に断熱層を形成した。なお、比較例で用いた金型は、断熱層が形成されていない以外は実施例と同様である。
<断熱層の熱伝導率の算出方法>
断熱層の熱伝導率はレーザーフラッシュ法にて熱拡散率、DSCにて比熱、水中置換法(JIS Z8807固体比重測定方法に準拠)にて比重を測定し、[熱伝導率]=[熱拡散率×比熱×比重]により算出した。熱伝導率の値は表1に示した。なお、多層構造の断熱層の熱伝導率(λ)は密度の低い層と高い層のそれぞれの熱伝導率を求め、密度の低い層の熱伝導率(λl)、密度の高い層の熱伝導率(λh)、断熱層全体の厚さに対する密度の低い層の厚さ割合(t)とした場合、[1/λ]=[t/λl]+[(1−t)/λh]の式を用い計算により求めた。
<実施例1>
成形用材料としてPAS樹脂組成物を用い、金型1を用い下記の成形条件で射出成形品を製造した。エジェクトピンを用いた突き出しによって、金型から射出成形品を取り出した。
[成形条件]
スクリュー回転数:100rpm
射出速度:100mm/sec
金型温度:80℃
樹脂温度:320℃
<実施例2>
金型1を金型2に変更し、金型温度の条件を80℃から90℃に変更した以外は、実施例1と同様の方法で射出成形品を作製した。
<比較例1>
金型温度の条件を140℃に変更した以外は、実施例1と同様の条件で射出成形品を作製した。
<比較例2>
金型を断熱層が形成されていない金型に変更し、金型温度を60℃に設定した以外は実施例1と同様の条件で射出成形品を作製した。
<比較例3>
金型温度の条件を80℃に変更した以外は、比較例2と同様の方法で射出成形品を作製した。
<比較例4>
金型温度の条件を140℃に変更した以外は、比較例2と同様の方法で射出成形品を作製した。
<評価1>
[相対結晶化度の評価]
先ず、実施例の射出成形品及び比較例の射出成形品の結晶化度をX線回折法により測定した。比較例4の結晶化度を100として、実施例1〜2の射出成形品、比較例1〜3の射出成形品の相対結晶化度を算出した。
なお、X線回折法による結晶化度の測定は、広角X線回折(反射法)を用いて行なった。具体的には、Ruland法により結晶化度を求めた。
<評価2>
金型2を用い、エジェクトピン(EP)痕凹み量、及び離型性の評価を実施した。EP痕凹み量の評価としては、射出成形品のエジェクトピンによる突き出しで、射出成形品が凹んだか否かを確認し、凹んだものについては、凹み量(EP痕凹み量)を測定した。また、離型性については、エジェクトピンによる突き出し時に変形せず金型から離型したか否かを確認し、離型したものは○、離型しなかったものは×として評価した。
Figure 2012187727
表1の実施例1及び2の結果と比較例2〜4の結果とから、断熱層を形成した金型を用いることで、射出成形品の結晶化度を充分に高めることができ、射出成形品の変形や離型不良の問題も生じないことが確認された。
実施例1の結果と比較例1の結果とから、金型温度を低い条件に設定すれば、射出成形品の変形や離型不良等の問題が生じないことに加え、金型温度を低い条件に設定しても大幅な結晶化度の低下が無いことが確認された。

Claims (8)

  1. 金型内表面に断熱層が形成された金型を用い、熱変形温度が140℃未満のポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物を、前記熱変形温度以下の金型温度で射出成形する射出成形品の製造方法。
  2. 前記射出成形を、前記金型温度が100℃以下の条件で行なう請求項1に記載の射出成形品の製造方法。
  3. 前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物は、実質的にポリアリーレンサルファイド系樹脂から構成されるか、又は実質的にポリアリーレンサルファイド系樹脂とエラストマー樹脂とから構成される請求項1又は2に記載の射出成形品の製造方法。
  4. 前記断熱層は、多孔質ジルコニアから構成される請求項1から3のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
  5. 前記断熱層は、熱伝導率が2W/m・K以下である請求項1から4のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
  6. 前記断熱層は、溶射法で形成された請求項1から5のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
  7. 前記断熱層は、厚みが200μm以上である請求項1から6のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
  8. 前記ポリアリーレンサルファイド系樹脂組成物がポリフェニレンサルファイド樹脂を含む請求項1から7のいずれかに記載の射出成形品の製造方法。
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