JP2014001446A - 耐水素割れ性に優れた鍛鋼品 - Google Patents

耐水素割れ性に優れた鍛鋼品 Download PDF

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Abstract

【課題】高価な合金元素を添加するという手段によらず、硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態及び数密度の制御によって炭素鋼からなる鍛鋼品の耐水素割れ性を向上できる技術を提供する。
【解決手段】所定の成分組成を満足すると共に、深さD/4(D:鍛鋼品断面の円相当直径)の位置における鋼断面を5cm×5cmの測定範囲にて観察したときに、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部と残部(以下、「マクロ偏析部」と記載する)で構成され、前記鋼断面に対する前記健全部の割合が90面積%以上であり、前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均円相当直径が200μm以下、平均アスペクト比が50以下、数密度が300個/cm2以下で、前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均円相当直径が100μm以下、平均アスペクト比が20以下、数密度が300個/cm2以下である鍛鋼品。
【選択図】なし

Description

本発明は、機械、船舶、発電機等の産業分野で広く利用されている鍛鋼品、特にクランクジャーナルおよびクランクスロー、並びにこれらから得られる組立型クランク軸に関するものである。
船舶や発電機等に使用されているディーゼル機関の駆動源の伝達部材であるクランク軸には、一体型クランク軸と組立型クランク軸がある。その中でも大型のディーゼル機関には組立型クランク軸が用いられ、そのクランクジャーナルおよびクランクスローには、主に鍛鋼品が用いられる。低コストで、且つ同製品に必要な500MPa以上の引張強度と鍛造性を得るために、従来では、低Cで、Mn、Cr等を微量添加した炭素鋼を用い、焼入れまたは焼ならし処理を行い、焼戻し処理を行って、フェライト−パーライト混合組織を主体とする鍛鋼品が用いられている。本来、引張強度が800MPaにも満たない炭素鋼では水素割れは生じにくいとされているが、熱処理等の温度低下時に常温付近の温度にて水素割れが発生することがある。そのため、溶鋼の精錬時における水素量の上限値を規制し、それを超えるときには脱水素処理することが実操業にて実施されているが、時間および処理費の点で、水素量の低減化に限界がある。一般的には1〜数ppmレベルで製造管理しているが、水素割れは微量の水素により発生することから不十分である場合がある。また、一般に、水素割れは、高疲労度化に伴って発生しやすくなるとされている。そのため高疲労強度の低合金鋼では、成分組成や介在物の制御技術が提案されている。
例えば、特許文献1のように、鋼中のS含有量を増加させることにより、MnS系介在物を鋼中に導入し、水素の濃化を防ぐことにより、耐水素割れ性を向上させる方法が提案されている。
また、特許文献2では、鋼中のTi、Zr、Hf、Nb含有量を増加させ、最大弦長が1μm以上の介在物の円形度の平均値、最大弦長が20μm以上の介在物の個数、平均円形度、最大弦長が1〜10μmの介在物の個数を規定することが提案されている。その結果、Ti、Zr、Hf、Nb化合物を鋼中に導入し、水素の濃化を防ぐことにより、耐水素割れ性が向上する。
また、特許文献3、4では、水素割れが問題となるマクロ偏析部の組織形態を制御することで大型鍛鋼品の耐水素割れ性を向上させる方法が提案されている。
具体的には、特許文献3には、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上であり、且つベイナイト組織が0.008〜5面積%であり、ベイナイト組織の平均粒径が10μm以下であり、ベイナイト組織の最大粒径が50μm以下であり、ベイナイト組織のラス間隔が1.0μm以下である鍛鋼品が開示されている。また、この文献では、ベイナイト組織で観察される最長介在物の長径を20μm以下とし、ベイナイト組織で観察される長径1〜10μmの介在物の密度を5〜500個/cm2としている。
特許文献4には、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部と残部(マクロ偏析部)で構成され、前記健全部の面積率が90%以上であり、前記マクロ偏析部における(パーライトの平均粒径)/(フェライトの平均粒径)が3.0以上である鍛鋼品が開示されている。また、この文献では、前記マクロ偏析部で観察される介在物を、いずれも長径20μm以下とし、かつ、長径1〜10μmの介在物の密度を5〜500個/cm2としている。
なお、鋼線の分野における水素脆化の抑制法として、腐食等の外的要因による水素の侵入の抑制、又は焼戻しによる析出炭窒化物を利用した水素拡散の抑制が知られている。しかしこれらは、冷却中又は常温放置中のように、腐食が生ずる場合よりも短時間に発生する水素割れとは水素の挙動において相異する。
特開2003−268438号公報 特開2006−336092号公報 特開2010−270390号公報 特開2011−149099号公報
上記特許文献1のようにS含有量を増加させた場合には、粗大な硫化物系介在物が形成され、この粗大な硫化物系介在物は、水素トラップサイトとならず逆に水素割れ起点になることが懸念される。また炭素鋼ではS含有量の増加は耐水素割れ性の向上にはあまり繋がらない。
また、上記特許文献2のようにTi、Zr、Hf、Nb含有量を増加させることによって、確かに耐水素割れ性が向上する。しかし、これらの元素の含有量増加は製品のコストアップを招く割には、コストアップに見合った耐水素割れ性の効果がでない。
また、上記特許文献3、4の技術では、介在物の長径と密度に着目しているが、水素割れに影響を与える介在物の種類や、その介在物の形態については考慮されていないため、耐水素割れ性の向上効果が充分ではない可能性がある。
本発明は上記のような事情に着目してなされたものであって、その目的は、高価な合金元素を添加するという手段によらず、硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態及び数密度の制御によって炭素鋼からなる鍛鋼品の耐水素割れ性を向上できる技術を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る耐水素割れ性に優れた鍛鋼品とは、C:0.15〜0.5%(質量%の意味。成分組成について以下同じ。)、Si:0.6%以下(0%を含まない)、Mn:0.5〜1.5%、Ni:0.01〜0.5%、Cr:0.01〜0.5%、Mo:0.01〜0.3%、Al:0.010〜0.1%、S:0.0002〜0.01%、O:0.002%以下(0%を含まない)を含有し、残部:鉄および不可避不純物からなるものである。
そして上記鍛鋼品は、深さD/4(D:鍛鋼品断面の円相当直径)の位置における鋼断面を5cm×5cmの測定範囲にて観察したときに、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部と残部(以下、「マクロ偏析部」と記載する)で構成され、前記鋼断面に対する前記健全部の割合が90面積%以上であり、前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均円相当直径が200μm以下、平均アスペクト比が50以下、数密度が300個/cm2以下で、前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均円相当直径が100μm以下、平均アスペクト比が20以下、数密度が300個/cm2以下である点に要旨を有する。
上記マクロ偏析部において、上記長径が1μm以上の酸化物系介在物の数密度は、上記長径が1μm以上の硫化物系介在物の数密度以上であることが好ましい。
上記鍛鋼品は、更に他の元素として、
(a)Cu:0.2%以下(0%を含まない)、
(b)V:0.2%以下(0%を含まない)、
(c)Ca:0.01%以下(0%を含まない)、
(d)Ti、Zr、およびHfよりなる群から選択されるいずれか1種以上の元素:合計で0.01%以下(0%を含まない)、
等を含有してもよい。
上記鍛鋼品は、例えば、クランクジャーナルまたはクランクスローとして用いることができる。本発明には、上記クランクジャーナルまたはクランクスローを有する組立型クランク軸も包含される。
本発明によれば、鍛鋼品のマクロ偏析部における硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態と数密度を夫々適切に制御することにより、割れの起点を減少させることができるため、耐水素割れ性に優れた鍛鋼品を提供できる。
図1は、鍛鋼品の断面に現れるマクロ偏析部を撮影した図面代用写真である。 図2は、鍛鋼品の断面における(a)マクロ偏析部と、(b)健全部を撮影した図面代用写真である。 図3は、水素割れ感受性の比較試験を行っている状態を示す概略説明図である。
本発明者らは、鍛鋼品(特に、大型の鍛鋼品)では、連鋳材とは異なり合金元素のマクロ偏析部が不可避的に存在すること、および一般的にマクロ偏析部では健全部よりも割れ起点となりうる粗大な介在物が多数存在することに着目し、マクロ偏析部における介在物と水素割れの関係について検討を進めた。その結果、マクロ偏析部に水素が濃化することによって粗大な介在物を起点として水素割れが生じやすいことが判明した。
この現象は以下のように生じると推定される。即ち、マクロ偏析部は、健全部よりも合金元素が濃化しているため、健全部よりも粗大な介在物(例えば、MnS等)が形成されやすく、また健全部よりも一般的に水素割れの観点では不利な方向に働く高硬度組織となりやすい。また、冷却時のフェライト変態後に、健全部はフェライト−オーステナイトの混合状態となるが、マクロ偏析部は変態速度の違いにより水素固溶度の高いオーステナイトとなる。フェライトとオーステナイトでは、水素固溶度および水素拡散速度に差があるため、水素はオーステナイト(即ち、マクロ偏析部)に濃化する。そしてオーステナイトがフェライト、パーライトまたはベイナイトに変態する際に、形成された粗大な介在物の周りや変態に伴う歪み部に水素が濃化し、その結果、水素割れが生じると推定される。従って鍛鋼品の耐水素割れ性を改善するにはこれらマクロ偏析部の生成を抑制することが有効と考えられる。
しかし大型鍛鋼品(特に、数十トン以上の鋼塊)では、全ての部分で冷却速度を均一にすることは事実上不可能であるため、鋼塊中のマクロ偏析部を無くすことはできず、マクロ偏析部を低減することにも限界がある。
そこで本発明者らは、マクロ偏析部における介在物に着目した。具体的には、水素割れの起点となる粗大な硫化物系介在物(例えば、MnS等)が生成するのを抑制して硫化物系介在物を微細化すると共に、低アスペクト比化し、更に長径が1μm以上の硫化物系介在物の数密度を小さくすることで水素割れの起点を減少させている。
本発明では、上記硫化物系介在物の形態および数密度を適切に制御するのに加えて、更に酸化物系介在物の形態および数密度を制御することが重要である。酸化物系介在物は、一般的に球状に近い形態を有しているため、鋼中に分散して存在していても水素割れの起点にはなり難いが、粗大化したり、凝集することにより、粗大な硫化物系介在物と同様の挙動を示す。具体的には、S含有量が多くなると、酸化物系介在物(例えば、Al23、MgO、MgOとAl23の複合酸化物など)を生成核として、その周囲に硫化物系介在物(例えば、MnSなど)が析出し、酸化物と硫化物の複合介在物を形成する。そして硫化物系介在物の部分が更に成長することにより、結果として、酸化物系介在物が粗大化し、伸展して高アスペクト比化する。そのため鋼中のS量のみならず、O量やAl量についても適切に制御することによって、酸化物系介在物の生成を抑制し、酸化物系介在物を微細化すると共に、低アスペクト比化し、更に長径が1μm以上の酸化物系介在物の数密度を小さくすることで鍛鋼品の耐水素割れ性を改善できることが判明した。
参考のため、鍛鋼品の断面に現れるマクロ偏析部の写真を図1に示す。図1の(a)は、顕微鏡を使わずに観察できる筋状のマクロ偏析部を示すものであり、図1の(b)は、一つのマクロ偏析部に着目した顕微鏡写真である。筋状のマクロ偏析部以外に白っぽく写っている部分は、健全部である。また、図2に、鍛鋼品の断面における(a)マクロ偏析部と、(b)健全部を撮影した図面代用写真を示す。
本発明に係る耐水素割れ性に優れた鍛鋼品は、所定の成分組成を有し、深さD/4(D:鍛鋼品断面の円相当直径)の位置における鋼断面を5cm×5cmの測定範囲にて観察したときに、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部と残部(マクロ偏析部)で構成され、前記鋼断面に対する前記健全部の割合が90面積%以上であり、マクロ偏析部(主要組織はパーライトで、ベイナイトを含むことも許容される)において、長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均円相当直径を200μm以下、平均アスペクト比を50以下、数密度を300個/cm2以下とし(0個/cm2を含む)、長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均円相当直径を100μm以下、平均アスペクト比を20以下、数密度を300個/cm2以下(0個/cm2を含まない)とすることにより、マクロ偏析部における水素割れを抑制でき、鍛鋼品の耐水素割れ性を改善できるようにした。以下、本発明に係る鍛鋼品の基本構成について説明する。
まず、本発明の鍛鋼品の成分組成について説明する。
1.鍛鋼品の成分組成
[C:0.15〜0.5%]
Cは、鍛鋼品の強度向上に寄与する元素である。鍛鋼品に充分な強度を確保するには、Cを0.15%以上含有させる必要があり、好ましくは0.2%以上、より好ましくは0.3%以上である。しかしC量が多過ぎると鍛鋼品の靭性を劣化させるので、0.5%以下とする必要がある。C量は、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.42%以下である。
[Si:0.6%以下(0%を含まない)]
Siは、脱酸元素であるとともに、鍛鋼品の強度向上元素として作用するため、含有することが許容される。しかしSi量が多過ぎると鍛鋼品の逆V偏析が著しくなり、マクロ偏析部に粗大な介在物が形成されるので、耐水素割れ性を改善できない。従ってSi量は、0.6%以下とする必要があり、好ましくは0.45%以下、より好ましくは0.35%以下とする。
[Mn:0.5〜1.5%]
Mnは、鍛鋼品の焼入れ性を高めると共に、強度向上に寄与する元素である。充分な強度と焼入れ性を確保するには、Mnは0.5%以上含有させる必要があり、好ましくは0.7%以上、より好ましくは0.9%以上である。しかし、Mn量が過剰になると、ベイナイトの形成が促進され、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部を確保し難くなる。また、Mn量が多過ぎると逆V偏析を助長し、マクロ偏析部に粗大な硫化物系介在物を形成するので、耐水素割れ性を改善できない。従ってMn量は1.5%以下とする必要があり、好ましくは1.45%以下、より好ましくは1.4%以下である。
[Ni:0.01〜0.5%]
Niは、鍛鋼品の靭性向上元素として有用な元素であり、0.01%以上含有させる必要がある。Ni量は、好ましくは0.03%以上、更に好ましくは0.1%以上である。しかし、Ni量が過剰になるとコストアップとなるので、0.5%以下とする必要がある。Ni量は、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.3%以下である。
[Cr:0.01〜0.5%]
Crは、鍛鋼品の焼入れ性を高めると共に、靭性を向上させる元素であり、それらの作用は0.01%以上含有させることによって発揮される。Cr量は、好ましくは0.03%以上、更に好ましくは0.1%以上である。しかし、Cr量が過剰になると、ベイナイト形成が促進され、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部を確保し難くなる。また、Cr量が多過ぎると逆V偏析を助長し、マクロ偏析部に粗大な炭化物[例えば、(Fe,Cr)236など]が形成されるので、耐水素割れ性を改善できない。従ってCr量は0.5%以下とする必要があり、好ましくは0.4%以下、より好ましくは0.35%以下である。
[Mo:0.01〜0.3%]
Moは、鍛鋼品の焼入れ性、強度および靭性の向上に作用する元素であり、それらの作用を発揮させるには、0.01%以上含有させる必要がある。Mo量は、好ましくは0.05%以上である。しかし、Moは平衡分配係数が小さいので、Mo量が過剰になるとミクロ偏析(正常偏析)を生じ易くなる。また、Mo量が過剰になるとコストアップにつながる。そこでMo量は0.3%以下とする必要があり、好ましくは0.2%以下である。
[Al:0.010〜0.1%]
Alは、製鋼工程において脱酸元素として作用し、酸素量低減に必要な元素である。また、Alは、鍛鋼品の耐割れ性を向上させる作用も有している。従って、Alは、0.010%以上含有させる必要があり、好ましくは0.012%以上である。しかし、Al量が過剰になると、Al23の形成量が増加したり、生成したAl23が凝集しやすくなり、耐水素割れ性に悪影響を及ぼす。従ってAl量は、0.1%以下とする必要があり、好ましくは0.05%以下、より好ましくは0.04%以下とする。
[S:0.0002〜0.01%]
Sは、鋼中のMn、Mg、Ca等と結合して硫化物系介在物を形成する元素であり、特にCaを添加した鋼ではマクロ偏析部中に微細な硫化物系介在物が形成される。微細な硫化物系介在物は、応力場を形成して余剰水素を捕捉し、耐水素割れ性を改善する効果がある。このような微細な硫化物系介在物を確保するために、S量は0.0002%以上含有させる必要があり、好ましくは0.0003%以上、より好ましくは0.0004%以上とする。しかし、Sは、逆V偏析を助長して硫化物系介在物を形成し、特に、細長い形状をした硫化物系介在物は長径が大きな粗大介在物となり易く、水素割れの起点となる。従って粗大な硫化物系介在物を減少させるために、S量は0.01%以下とする必要があり、好ましくは0.009%以下、より好ましくは0.0060%以下、更に好ましくは0.0030%以下とする。
[O:0.002%以下(0%を含まない)]
O(酸素)は、SiO2、Al23、MgO、CaO等の酸化物系介在物を形成する元素である。Oは極力低減することによって粗大介在物の生成を抑制し、微細な介在物を析出させることができる。そのためO量は0.002%以下とする必要があり、好ましくは0.0010%以下とする。但し、工業生産上、Oを0%とすることは困難である。
本発明に係る鍛鋼品の成分組成は上記の通りであり、残部成分は実質的に鉄であるが、不可避不純物の混入はもちろん許容される。
上記鍛鋼品に含まれるMn量、S量、Al量、およびO(酸素)量は、下記式(1)を満足していることが好ましい。下記式(1)中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示している。
([Mn]×[S])/([Al]×[O])≦600 ・・・(1)
MnとSの積は、硫化物系介在物の生成のし易さを意味しており、AlとOの積は、酸化物系介在物の生成のし易さを意味しており、本発明では、([Mn]×[S])/([Al]×[O])の値を600以下に好ましく制御することによって、硫化物系介在物と酸化物系介在物の生成量のバランスを適切に制御でき、硫化物系介在物と酸化物系介在物の大きさも適切に調整できる。上記鍛鋼品に含まれるMn量、S量、Al量、およびO(酸素)量は、下記式(1a)を満足していることがより好ましく、下記式(1b)を満足していることが更に好ましく、下記式(1c)を満足することが最も推奨される。
([Mn]×[S])/([Al]×[O])≦500 ・・・(1a)
([Mn]×[S])/([Al]×[O])≦400 ・・・(1b)
([Mn]×[S])/([Al]×[O])≦200 ・・・(1c)
本発明の鍛鋼品には、上述した本発明の効果に悪影響を与えない範囲で、以下に示す更に他の元素(選択元素)を積極的に含有させても良い。
[Cu:0.2%以下(0%を含まない)]
Cuは、鍛鋼品の靭性向上および組織の微細化作用を有する元素であり、この様な作用を有効に発揮させるには、Cuは、0.01%以上含有させることが好ましい。Cuは、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Cu量が過剰になるとコストアップとなるので、Cuは0.2%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.15%以下とする。
[V:0.2%以下(0%を含まない)]
Vは、鍛鋼品の析出強化および組織微細化の作用を有し、鍛鋼品の高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、Vは0.01%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.02%以上含有させることが推奨される。しかし、Vを過剰に含有させても上記作用は飽和し、経済的に無駄であるので、V量は0.2%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.15%以下である。
[Ca:0.01%以下(0%を含まない)]
Caは、鍛鋼品における硫化物系介在物の延伸を抑制し、耐水素割れ性を改善するのに寄与する元素である。この作用を有効に発揮させるには、Caは0.0001%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.001%以上である。しかしCa量が過剰になってもこの作用は飽和するため、Ca量は0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.008%以下である。
[Ti、Zr、およびHfよりなる群から選択されるいずれか1種以上の元素:合計0.01%以下(0%を含まない)]
Ti、Zr、およびHfは、鍛鋼品の靭性向上および組織微細化の作用を有し、鍛鋼品の高強度化に有用な元素である。これらの作用を有効に発揮させるために、いずれか1種または2種以上の元素を鋼に含有させても良い。これらの作用を発揮させるには、合計(1種の場合は単独の含有量)で、0.001%以上含有させることが好ましく、より好ましくは0.003%以上である。しかしTi、Zr、およびHf量が過剰になると、これらの元素が鋼中のCやNと結合して粗大な炭化物、窒化物、炭窒化物として析出し、機械的特性や耐水素割れ性が劣化することがある。従って上記元素は、合計(1種の場合は単独の含有量)で、0.01%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.008%以下とする。
積極添加が許容される他の元素の例としては、(1)焼入れ性改善効果を有するB(ホウ素)、(2)固溶強化元素または析出強化元素であるW、Nb、Ta、Ce、およびTeなどが挙げられる。これらの添加元素は、単独で、または2種以上を組み合わせて含有させることができる。これらの添加元素は、例えば合計で0.1%程度以下とすることが望ましい。
2.鍛鋼品の組織分率
(1)基本組織
深さD/4の位置における鋼断面を5cm×5cmの測定範囲にて観察したときに、鋼組織は、鍛鋼品に必要な引張強度と必要な鍛造性を得るため、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織が90面積%以上(好ましくは95面積%以上、さらに好ましくは97面積%以上)である。フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織に該当する部分では、水素割れが発生することは少ないため、以下この部分を「健全部」と記載する。残部組織は、「マクロ偏析部」と記載し、詳しくは後述するが、パーライト組織が主体で、ベイナイトを含有していてもよい組織である。
本発明では、深さD/4の位置は、鍛鋼品の側表面からの距離をいうものとする。上記「D」は、鍛鋼品断面(鍛鋼品の長手方向に垂直な断面)の円相当直径(断面積と同じ面積を有する円の直径)を意味する。従って、鍛鋼品が円柱状のものであれば、Dは該円柱状の鍛鋼品の直径である。
(2)健全部とマクロ偏析部との判別
健全部とマクロ偏析部とを判別する方法について説明する。まず、鋼断面の5cm×5cmの領域を写真撮影し、グレースケールのデータとして電子機器に取り込む。マクロ偏析部は、パーライト組織が主体(パーライト組織が概ね70面積%超)であるため、健全部(フェライト組織または、フェライトとパーライト混合組織の場合はパーライト組織が概ね50〜70面積%)よりも暗めに写る。このことを利用して、{(健全部の平均明度)+(マクロ偏析部の平均明度)}/2の値を閾値とし、画像処理により、この閾値よりも明度の高い(白い)部分を健全部と定め、逆に閾値よりも明度の低い(黒い)部分は、マクロ偏析部と定める。
上記健全部の平均明度は、次のようにして定める。まず、鋼断面の5cm×5cmの領域で比較的明度が高く(白く)写っている領域が健全部であることを確認するため、後述のFE−SEM(Field Emission type Scanning Electron Microscope;電解放出型走査電子顕微鏡)を用いて組織観察を行う。金属組織が健全部(フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織)であること確認した後、健全部の任意の10点について明度を測定し、これを平均した値を健全部の平均明度とする。
上記マクロ偏析部の平均明度についても同様に、マクロ偏析部の任意の10点について明度を測定し、これを平均した値をマクロ偏析部の平均明度とする。
このような手法により、健全部とマクロ偏析部との区別をして鋼断面(金属組織全体)に対する健全部の割合(面積%)を求める。
以上の手法を用いて別の観察領域(5cm×5cm)において上記の画像処理を行い、これら2視野の平均値を最終的な健全部の割合(面積%)とする。
本発明では、鍛鋼品に必要な引張強度と鍛造性を得るため、健全部(フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織)の割合を上述のように90面積%以上とする。
一方、100面積%から健全部の割合(面積%)を差し引いた値をマクロ偏析部の割合(面積%)とする。
3.マクロ偏析部における介在物
上記マクロ偏析部における介在物(硫化物系介在物および酸化物系介在物)は、水素割れの起点や伝播経路となり、鍛鋼品の耐水素割れ性に悪影響を及ぼす。そこで、本発明の鍛鋼品では、マクロ偏析部における硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態(円相当直径およびアスペクト比)、並びに硫化物系介在物および酸化物系介在物の数密度を適切に制御している。
なお、上記マクロ偏析部に比べて、上記健全部には硫化物系介在物および酸化物系介在物は少ないため、健全部における硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態と数密度は考慮する必要はない。
(硫化物系介在物)
上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物について、平均円相当直径が200μmを超えると、硫化物系介在物と鋼組織の界面で水素割れが発生しやすくなる。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均円相当直径を200μm以下とし、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下、更に好ましくは100μm以下とする。
上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物について、平均アスペクト比が50を超えると、鋼塊を冷却するときに硫化物系介在物と鋼組織との線膨張係数の差により、硫化物系介在物と鋼組織の界面が大きく剥離し、その空隙に水素が凝集して水素割れを発生する原因となる。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均アスペクト比を50以下とし、好ましくは40以下、より好ましくは30以下とする。上記硫化物系介在物の平均アスペクト比の下限は、測定した領域で、通常、3程度である。
上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物について、数密度が300個/cm2を超えると、靭性等の機械的特性に悪影響を及ぼす。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、数密度を300個/cm2以下とし、好ましくは200個/cm2以下、より好ましくは150個/cm2以下、更に好ましくは100個/cm2以下、特に好ましくは50個/cm2以下とする。上記硫化物系介在物の数密度の下限は特に限定されず0個/cm2でも構わない。しかしマクロ偏析部における硫化物系介在物は、通常、酸化物系介在物よりもアスペクト比が高く、大きな応力場を形成するため、固溶限を超えた余剰水素を捕捉しやすくなり、歪み部への水素濃化を抑制でき、耐水素割れ性を改善できる。従って上記硫化物系介在物の数密度は、5個/cm2以上であることが好ましく、より好ましくは10個/cm2以上、更に好ましくは20個/cm2以上とする。
(酸化物系介在物)
酸化物系介在物は、上述した硫化物系介在物とは異なり、通常、微細で、低アスペクト比(円形に近い形状)であるため、耐水素割れ性には悪影響を及ぼさないと考えられている。しかし上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物について、平均円相当直径が100μmを超えると、酸化物系介在物同士が凝集し、上記硫化物系介在物と同様、酸化物系介在物と鋼組織の界面で水素割れが発生しやすくなる。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均円相当直径を100μm以下とし、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下とする。
上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物について、平均アスペクト比が20を超えると、上記硫化物系介在物と同様、鋼塊を冷却するときに酸化物系介在物と鋼組織との線膨張係数の差により、酸化物系介在物と鋼組織の界面が大きく剥離し、その空隙に水素が凝集して水素割れを発生する原因となる。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均アスペクト比を20以下とし、好ましくは15以下、より好ましくは10以下とする。上記酸化物系介在物の平均アスペクト比の下限は、測定した領域で、通常、1程度である。
上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物について、数密度が300個/cm2を超えると、靭性等の機械的特性に悪影響を及ぼす。従って上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、数密度を300個/cm2以下とし、好ましくは200個/cm2以下、より好ましくは100個/cm2以下とする。上記酸化物系介在物の数密度の下限は特に限定されないが、マクロ偏析部に酸化物系介在物が形成されると多数の応力場が分散して形成されるため、固溶限を超えた余剰水素を捕捉しやすくなり、歪み部への水素濃化を抑制でき、耐水素割れ性を改善できる。従って上記酸化物系介在物の数密度は、5個/cm2以上であることが好ましく、より好ましくは10個/cm2以上、更に好ましくは20個/cm2以上とする。
上記マクロ偏析部における、上記硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態(円相当直径およびアスペクト比)、並びに硫化物系介在物および酸化物系介在物の数密度は、次の手順で測定できる。即ち、鍛鋼品の深さD/4の位置に存在するマクロ偏析部から試験片を採取し、試験片の表面について、SEM−EPMA(例えば、日本電子株式会社製「JXA−8900RL」、「XM−Z0043T」、「XM−87562」)による画像解析を行い、観察される介在物の成分組成をEDXで分析する。成分組成の分析は、長径が1μm以上の介在物を対象として行い、EDXによる分析は、介在物の重心位置を1点につき10秒程度で自動分析すればよい。長径が1μm未満の硫化物系介在物および酸化物系介在物も耐水素割れ性を向上させる作用を有しているが、測定効率を向上させるために、本発明では、長径が1μm未満の介在物は測定対象から除外する。
成分組成を分析した介在物のうち、硫黄(S)含有率が30質量%以上で、且つ酸素(O)含有率が1質量%未満のものを本明細書では硫化物系介在物と定義する。
また、成分組成を分析した介在物のうち、酸素(O)含有率が1質量%以上のものを本明細書では酸化物系介在物と定義する。
成分組成を分析して同定された硫化物系介在物および酸化物系介在物について、円相当直径とアスペクト比(長径/短径)を測定し、平均値を求めればよい。
観察視野数は、5箇所以上とすることが好ましい。
また、硫化物系介在物および酸化物系介在物の数密度は、成分組成を分析して同定された硫化物系介在物および酸化物系介在物のうち、長径が1μm以上の硫化物系介在物および酸化物系介在物の数を測定し、単位観察視野面積あたりの数密度(個/cm2)を算出する。上述したように、長径が1μm未満の硫化物系介在物および酸化物系介在物も、耐水素割れ性を向上させる作用を有しているが、微細過ぎる介在物を測定すると測定効率が低下する。従って本発明では、長径が1μm未満の介在物については測定対象から外している。
(硫化物系介在物および酸化物系介在物の数密度)
本発明の鍛鋼品は、上記マクロ偏析部において酸化物系介在物と硫化物系介在物の両方が存在している場合には、酸化物系介在物の数密度が、硫化物系介在物の数密度以上になっていることが好ましい。即ち、酸化物系介在物の数密度が、硫化物系介在物の数密度と同じであるか、酸化物系介在物の数密度が、硫化物系介在物の数密度を超えていることで、割れの起点が減少し、水素トラップ能を向上させることができるため、耐水素割れ性を改善できる。従って、上記酸化物系介在物の数密度/硫化物系介在物の数密度の値は、1.0以上であることが好ましく、より好ましくは1.1以上である。上記酸化物系介在物の数密度/硫化物系介在物の数密度の値の上限は特に限定されない。なお、上述したように、上記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、数密度が0個/cm2でも構わない。
4.製造方法
(1)組織の制御
本発明の鍛鋼品は、例えば以下のように鋼組織および介在物を制御して製造できる。鍛鋼品の金属組織をフェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織とするには、熱間鍛造後の供試材を、Ac3点+120℃以上の温度で加熱した後、室温まで自然冷却(平均冷却速度は、例えば、5℃/分以下)すればよい。Ac3点+120℃以上に加熱することによって、後述するように、マクロ偏析部における硫化物系介在物も微細化できる。
上記鍛鋼品のマクロ偏析部における硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態と数密度を所定の範囲に制御するには、上記熱間鍛造に供する供試材を製造する際に、溶鋼中のS量およびO量を低減しておけばよい。即ち、鋼中のSは、Mn、Mg、Ca等と結合して硫化物系介在物を形成する。硫化物系介在物のうち、伸展して粗大化した(高アスペクト比化した)MnSが水素割れに対して特に悪影響を及ぼす。そこで硫化物系介在物の粗大化を抑制するには、溶鋼中のS量を低減すればよく、S量を低減することによって硫化物系介在物自体の個数が少なくなり、更に成長も抑制されるため、微細化する(低アスペクト比化する)。
溶鋼中のS量を低減する方法は特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、溶製時のスラグ組成を制御する方法が挙げられる。上記スラグ組成は、スラグ中のCaO量とSiO2量に基づいて算出される塩基度(CaO/SiO2)を高めに設定すればよく、塩基度は、例えば、5〜10の範囲に設定することが推奨される。
また、上記溶鋼とスラグとの反応を一層促進するには、真空脱ガス処理を実施することが好ましい。真空脱ガス処理を行うことによって、溶鋼中にスラグを積極的に巻込ませることができるため、溶鋼とスラグとの反応を促進でき、溶鋼中のS量を低減できる。
また、硫化物系介在物を小さく、低アスペクト比化するには、Caを添加してもよい。Caは、硫化物系介在物を球状化する作用を有している元素である。
また、上述したように、熱間鍛造後の供試材を、Ac3点+120℃以上の温度に加熱して保持することが好ましい。Ac3点+120℃以上の温度に加熱することによって、マクロ偏析部に濃化した元素を拡散、均一化できる。その結果、マクロ偏析部における硫化物系介在物(例えば、MnSなど)を微細化できる。
上記Ac3点は、下記式(a)を用いて求めることができる[例えば、「レスリー鉄鋼材料学」丸善、(1985)参照]。下記式中、[ ]は、各元素の含有量(質量%)を示す。なお、各項に示した元素を含有しない場合は、その項がないものとして計算する。
Ac3点(℃)=910−203×[C]1/2+44.7×[Si]−30×[Mn]+700×[P]+400×[Al]+400×[Ti]+104×[V]−11×[Cr]+31.5×[Mo]−20×[Cu]−15.2×[Ni] ・・・(a)
また、酸化物系介在物の生成量を低減するには、溶鋼中のO量を低減すればよい。即ち、鋼中のOは、Al、Mg等と結合して酸化物系介在物を形成する。酸化物系介在物は、通常、上記硫化物系介在物のように粗大化し難いため、耐水素割れ性に悪影響は及ぼし難いが、酸化物系介在物の生成量が多くなり、互いに凝集すると、上記硫化物系介在物のように水素割れに悪影響を及ぼすようになる。そこで溶鋼中のO量を低減することによって、酸化物系介在物の生成量を低減することが推奨される。
酸化物系介在物の生成量を低減することによって、酸化物系介在物と硫化物系介在物が複合した介在物の生成量を低減できるため、耐水素割れ性を一層向上できる。硫化物は、酸化物系介在物を生成核としてその周りに形成しやすく、酸化物系介在物と硫化物系介在物が複合した介在物も、水素割れに悪影響を及ぼすからである。
上記溶鋼中のO量を低減する方法は特に限定されず、公知の方法を採用でき、例えば、溶製時に真空脱ガスを充分に行なえばよい。
次に、室温まで自然冷却した後は、鍛鋼品を均質化するために、焼戻し処理を行えばよい。焼戻し処理は、例えば、600〜900℃に加熱して、この温度域で1〜20時間保持した後、室温まで自然冷却(平均冷却速度は、例えば、5℃/分以下)すればよい。
上述した熱処理は、表面からの深さがD/4の位置付近における温度を制御すれば良いが、大型鋼塊ではこの位置での温度を実測することは困難である。そのため例えば表面温度を基準に温度制御して鍛鋼品を製造し、その組織観察の結果をフィードバックして温度制御を適宜実施すればよい。
本発明の鍛鋼品は、特に、大型鍛鋼品として有用に利用される。大型とは、重さが20トン以上であることを意味する。本発明の鍛鋼品は、例えば、クランクジャーナルまたはクランクスローとして好適に用いることができる。上記クランクジャーナルおよび/または上記クランクスローを用いれば、組立型クランク軸を製造でき、この組立型クランク軸は、例えば、ディーゼル機関の主要部品として用いることができる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限を受けるものではなく、上記・下記の趣旨に適合しうる範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術範囲に包含される。
電極アーク加熱機能を備える溶鋼処理設備によって、下記表1に示す成分組成の鋼(残部は鉄および不可避不純物)をそれぞれ溶製し、40トンクラス(全高3m、直径1.5m)の鋳型を用いて鋳造した。なお、溶湯段階での水素量は、ハイドリス測定で3ppmであった。溶製時のスラグ組成は、スラグ中の塩基度(CaO/SiO2)が5〜10となるように調整した。また、溶製時には、真空脱ガス処理も行なった。下記表1には、鋼の成分組成および上記式(1)に基づいて、([Mn]×[S])/([Al]×[O])の値を算出した結果を示す。
凝固した鋼塊を1000℃付近で脱型した後、約1200℃まで加熱し、同温度で熱間鍛造を施し、断面直径150mmの鍛鋼品に仕上げた。熱間鍛造は、鋼塊本体をプレス機により伸ばした後、専用工具を用いて丸断面に成形した。得られた鍛鋼品を930℃(表面温度)で2時間保持し、この温度から、室温までゆっくりと自然冷却(平均冷却速度は約0.5℃/分)した後、再度約600℃程度まで加熱した後、室温までゆっくりと自然冷却(平均冷却速度は約0.5℃/分)した。なお、下記表2に示すNo.2は、得られた鍛鋼品を930℃(表面温度)で保持する代わりに、850℃で保持する以外は同じ条件とした。下記表2には、鋼の成分組成および上記式(a)に基づいて算出したAc3点を示す。また、下記表2にはAc3点+120℃の値も併せて示す。
室温まで冷却して得られた鍛鋼品について、深さD/4の位置における鋼断面の金属組織を観察した。金属組織の観察は、深さD/4の位置から試料を採取し、残留オーステナイトの変態を防ぐために電解研磨を行った後、EBSP(Electron Back Scatter diffraction Pattern;結晶方位解析)検出器を備えたFE−SEMで、金属組織の種類およびその面積率を測定した。なお、EBSPは、試料表面に電子線を入射させ、この時に発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定するものである。電子線を試料表面に二次元で走査させ、所定のピッチ毎に結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定できる。
上記FE−SEMの鏡筒内にセットした試料について、鋼断面の5cm×5cmの領域において、前述の金属組織観察で比較的明度が高く(白色)写っている箇所のうち、あらかじめ健全部の可能性が高い500μm×500μmの測定範囲にて1μm間隔で電子線を照射し、スクリーン上に投影されるEBSP画像を高感度カメラで撮影し、コンピューターに画像として取込んでコンピューターで画像解析を行い、既知の結晶系を用いたシミュレーションによるパターンと比較することによって、各色相(各組織)をカラーマップした。このようにしてマッピングされた各組織(領域)の面積率を求めた。なお、上記解析に係るハードウェアおよびソフトとして、TexSEM LaboratoriesInc.のOIM(Orientation Imaging MicroscopyTM)システムを用いた。その結果、表面から深さD/4の位置における組織は、いずれもフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部が、鋼断面に対して90面積%以上であり、残部のマクロ偏析部の組織は、パーライト主体であった。
また、上記深さD/4の位置から採取した試料に対し、塩酸水溶液を用いてエッチング処理を行ってマクロ偏析部の分布を観察した。上記マクロ偏析部を上述した手順で自動EPMAにて観察し、マクロ偏析部に観察される長径が1μm以上の硫化物系介在物または長径が1μm以上の酸化物系介在物について、円相当直径およびアスペクト比を測定し、夫々、平均値を求めた。また、観察視野面積に対する長径が1μm以上の硫化物系介在物または長径が1μm以上の酸化物系介在物について、数密度も算出した。また、マクロ偏析部における硫化物系介在物の数密度に対して、酸化物系介在物の数密度比(酸化物系介在物の数密度/硫化物系介在物の数密度)を算出し、下記表2に併せて示す。
次に、深さD/4の位置から採取した試料について以下に示す手順で耐水素割れ性を評価した。耐水素割れ性の評価は、水素割れ感受性の比較試験法に基づいて行った。水素割れ感受性の比較試験には、図3に示す装置を用いた。図3中、1は試験片、2は容器、3は試験用水溶液、4は対極(白金電極)、5は電流制御装置、6はクロスヘッド、7は固定台、8はパーソナルコンピューター、9は応力−歪制御装置、を夫々示している。
水素割れ感受性の比較試験は、図3に示すように、長さ150mm、両端のつかみ具部分を直径8mmにして長さ15mmにわたってねじを設け、標線間距離を10mmのダンベル状に加工し、中央部分を直径4mmとし、この部分にマクロ偏析部が位置するように作製した試験片1を用いて行った。この試験片1を試験装置に装着し、0.1mol/LのH2SO4+0.01mol/LのKSCNである試験用水溶液3に囲まれるように、前記水溶液中に完全に浸漬させ、電流密度を0.1mA/mm2にて4時間陰極電解して試験片中の水素分布を均一化した。そして、そのままの電流密度を印加、即ち、陰極電解しながらSSRT(低歪み速度試験:一定、もしくは一定範囲の振幅ではなく応力増加型の試験)により、試験片に長軸方向の引張り負荷を与えてその応力(S1)を測定した。このときの試験装置のクロスヘッド6の引張り速度は2×10-3mm/分とした。一方、上記水溶液への浸漬を省略した状態、即ち、大気中で、上記と同じ引張り条件にてSSRT試験を実施し、試験片の破断応力(S0)を測定した。そして、以上の各測定値から水素割れ感受性指数(S1/S0)を求め、各鋼材の耐水素割れ性を評価した。結果を表2に示す。本発明では、水素割れ感受性指数(S1/S0)が0.50以上のものを耐水素割れ性に優れると評価した。
下記表1、表2から次のように考察できる。No.1、3〜8、14〜18は、いずれも本発明で規定する要件を満足している例であり、フェライト−パーライト混合組織で構成されている健全部と、硫化物系介在物および酸化物系介在物の形態と数密度が所定の範囲を満足しているマクロ偏析部で構成されているため、水素割れ感受性指数(S1/S0)が0.50以上となり、耐水素割れ性に優れることが分かる。特に、鋼種G、鋼種O、鋼種P、または鋼種Qを用いたNo.8、16〜18によれば、鋼中のS量を0.0030%以下(30ppm以下)に抑えることによって、水素割れ感受性指数(S1/S0)が0.67以上となり、耐水素割れ性が一段と優れることが分かる。
一方、No.2、9〜13は、本発明で規定する要件を満足していない例であり、水素割れ感受性指数(S1/S0)が0.50未満となり、耐水素割れ性を改善できていないことが分かる。即ち、No.2は、No.1と同じ鋼種Aを用いた例であるが、熱間鍛造後の保持を850℃で行ったため、保持温度が低過ぎ、MnSやSの拡散が不充分となり、MnやSはマクロ偏析部に濃化してマクロ偏析部に粗大な硫化物系介在物が析出した。また、硫化物系介在物の平均アスペクト比も大きくなった。その結果、耐水素割れ性を改善できなかった。
No.9は、Sを過剰に含有する例であり、マクロ偏析部に粗大な硫化物系介在物が多数析出すると共に、平均アスペクト比も大きくなった。また、硫化物系介在物の数密度も高くなった。また、酸化物系介在物の平均アスペクト比も大きくなった。従って、耐水素割れ性を改善できなかった。No.10は、Mnを過剰に含有する例であり、マクロ偏析部に粗大な硫化物系介在物が多数析出すると共に、平均アスペクト比も大きくなった。また、硫化物系介在物の数密度も高くなった。また、酸化物系介在物の平均アスペクト比も大きくなった。従って、耐水素割れ性を改善できなかった。No.11は、Oを過剰に含有する例であり、マクロ偏析部における酸化物系介在物の平均アスペクト比が大きくなり、また酸化物系介在物(例えば、Al23)が多数析出した。そのため、析出した酸化物系介在物が凝集し、粗大な硫化物系介在物と類似の作用を及ぼしたため、耐水素割れ性を改善できなかった。
No.12は、Alを過剰に含有する例であり、マクロ偏析部における酸化物系介在物の平均アスペクト比が大きくなり、また酸化物系介在物(例えば、Al23)が多数析出した。そのため、析出した酸化物系介在物が凝集し、粗大な硫化物系介在物と類似の作用を及ぼしたため、耐水素割れ性を改善できなかった。No.13は、Alが少な過ぎる例であり、S含有量は本発明で規定する範囲内であるが多めのため、酸化物系介在物を核として硫化物が巻き付いた複合酸化物を形成した。その結果、酸化物系介在物が粗大化したため、耐水素割れ性を改善できなかった。
1 試験片
2 容器
3 試験用水溶液
4 対極(白金電極)
5 電流制御装置
6 クロスヘッド
7 固定台
8 パーソナルコンピューター
9 応力−歪制御装置

Claims (8)

  1. C :0.15〜0.5%(質量%の意味。成分組成について以下同じ。)、
    Si:0.6%以下(0%を含まない)、
    Mn:0.5〜1.5%、
    Ni:0.01〜0.5%、
    Cr:0.01〜0.5%、
    Mo:0.01〜0.3%、
    Al:0.010〜0.1%、
    S :0.0002〜0.01%、
    O :0.002%以下(0%を含まない)を含有し、
    残部:鉄および不可避不純物からなる鍛鋼品であり、
    深さD/4(D:鍛鋼品断面の円相当直径)の位置における鋼断面を5cm×5cmの測定範囲にて観察したときに、フェライト組織またはフェライト−パーライト混合組織で構成される健全部と残部(以下、「マクロ偏析部」と記載する)で構成され、
    前記鋼断面に対する前記健全部の割合が90面積%以上であり、
    前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の硫化物系介在物は、平均円相当直径が200μm以下、平均アスペクト比が50以下、数密度が300個/cm2以下で、
    前記マクロ偏析部における長径が1μm以上の酸化物系介在物は、平均円相当直径が100μm以下、平均アスペクト比が20以下、数密度が300個/cm2以下であること
    を特徴とする耐水素割れ性に優れた鍛鋼品。
  2. 前記マクロ偏析部において、前記長径が1μm以上の酸化物系介在物の数密度が、前記長径が1μm以上の硫化物系介在物の数密度以上である請求項1に記載の鍛鋼品。
  3. 更に他の元素として、
    Cu:0.2%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1または2に記載の鍛鋼品。
  4. 更に他の元素として、
    V:0.2%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の鍛鋼品。
  5. 更に他の元素として、
    Ca:0.01%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の鍛鋼品。
  6. 更に他の元素として、
    Ti、Zr、およびHfよりなる群から選択されるいずれか1種以上の元素:合計で0.01%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1〜5のいずれかに記載の鍛鋼品。
  7. クランクジャーナルまたはクランクスローである請求項1〜6のいずれかに記載の鍛鋼品。
  8. 請求項7に記載のクランクジャーナルまたはクランクスローを有する組立型クランク軸。
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