本発明の歯科用接着性組成物は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、(B)第4族元素イオン及び(C)重合禁止剤を含んでなる。以下、これらの各成分について、順次説明する。
〔(A)重合性単量体〕
本発明において重合性単量体は、分子中に重合性不飽和基が存在する公知の有機化合物が制限なく使用される。このうち分子中に存在する重合性不飽和基は、アクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基、ビニル基、アリル基、エチニル基、スチリル基のようなものを挙げることができる。特に硬化速度の点からアクリロイル基、メタクリロイル基、アクリルアミド基、メタクリルアミド基が好ましく、アクリロイル基、メタクリロイル基が最も好ましい。
本発明では、こうした重合性単量体の少なくとも一部として、酸性基含有重合性単量体を含有させる。酸性基含有重合性単量体の酸性基としては、公知のものを使用することができ、例えばリン酸基、カルボン酸基、硫酸基などが挙げられる。中でもリン酸基は、歯質の脱灰作用が強いばかりでなく、歯質との本質的な結合力も高く、さらに、第4族元素イオンとのイオン架橋の形成能にも優れており、接着強度が高くなり好ましい。こうした酸性基含有重合性単量体の好適例を示せば、
等が挙げられる。但し、上記化合物中、R1は水素原子またはメチル基を表す。これらの化合物は単独で又は二種以上を混合して用いることができる。
その他の、酸性基含有重合性単量体として好適に利用できる化合物を例示すれば、ホスフィン酸基を有するものとしてビス(2−メタクリルオキシ)ホスホン酸、ビス(メタクリルオキシプロピル)ホスフィン酸、ビス(メタクリルオキシブチル)ホスフィン酸等が、またホスホン酸基を有するものとして3−メタクリルオキシプロピルホスホン酸、2−メタクリルオキシエトキシカルボニルメチルホスホン酸、4−メタクリルオキシブトキシカルボニルメチルホスホン酸、6−メタクリルオキシヘキシルオキシカルボニルメチルホスホン酸、2−(2−エトキシカルボニルアリルオキシ)エチルホスホン酸等が、またホスホン酸水素モノエステル基を有するものとしては2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノ(メタクリルオキシエチル)エステル、2−メタクリルオキシエチルホスホン酸モノフェニルエステル等が挙げられる。
酸性基含有重合性単量体の配合量は特に制限はなく、重合性単量体成分全体が酸性基含有重合性単量体のみからなってもよいが、接着材の歯質に対する浸透性を調節したり、硬化体の強度を向上させたりする観点からは、酸性基を有しない重合性単量体(以下、「非酸性モノマー」と略する)と併用するのが好適である。非酸性モノマーと併用する場合においても、エナメル質及び象牙質の双方に対する接着強度の高さから酸性基含有重合性単量体は、全重合性単量体成分中において5質量%以上含有させるのが好適であり、5〜80質量%含有させるのがより好適であり、10〜60質量%含有させるのが最も好適である。酸性基含有重合性単量体の配合量が少ないと、エナメル質に対する接着強度が低下する傾向があり、逆に多いと象牙質に対する接着強度が低下する傾向がある。
非酸性モノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート(メチルアクリレート又はメチルメタアクリレートの意である。以下も同様に表記する。)、エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−シアノメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリセリルモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリルオキシエチルアセチルアセテート等のモノ(メタ)アクリレート系単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス[4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシエトキシフェニル]プロパン、2,2'−ビス{4−[3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ]フェニル}プロパン、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート系単量体等を挙げることができる。
更に、非酸性モノマーとして、(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いることも可能である。これらの他の非酸性モノマーを例示すると、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物;スチレン、ジビニルベンゼン、α−メチルスチレン、α−メチルスチレンダイマー等のスチレン、α−メチルスチレン誘導体;ジアリルフタレート、ジアリルテレフタレート、ジアリルカーボネート、アリルジグリコールカーボネート等のアリル化合物等を挙げることができる。
非酸性モノマーも、単独で又は二種以上を混合して用いることができる。なお、疎水性の高い重合性単量体を用いる場合には、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の両親媒性の重合性単量体を使用するのが好ましい。両親媒性重合性単量体を用いることにより、水の分離が防止でき組成の均一性を高めることができる。こうした両親媒性重合性単量体の配合量は、吸水性を増加させない観点から重合性単量体100質量部中において55質量部以下に抑えるのが好ましく、特に50質量部以下に抑えるのがより好ましい。
〔(B)第4族元素イオン〕
本発明の歯科用接着性組成物は、(B)第4族元素イオンを含有している。(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体に、該第4族元素イオン、さらに後述する(C)特定の配合量の重合禁止剤が共存することにより、接着強度が大きく向上し、且つ長期間保存してもゲル化し難いものになる。
(B)第4族元素イオンの具体例を示すと、チタニウムイオン、ジルコニウムイオン、及びハフニウムイオン等が挙げられる。このうち、接着強度の向上効果に優れることからチタニウムイオンが特に好ましい。これら第4族元素イオンは2種以上を混合して用いることができる。
歯科用接着性組成物における第4族元素イオンの含有量は、酸性基含有重合性単量体の酸性基に対して、モル比で0.05〜0.5になる量が好ましく、より好ましくは0.06〜0.3になる量である。ここで、第4族元素イオンの含有量が、酸性基含有重合性単量体の酸性基に対して、モル比で0.05以上になると、第4族元素イオンと酸性基含有重合性単量体の酸性基とのイオン結合による架橋密度が高まり、接着性が向上する。一方、この第4族元素イオンの上記含有量が0.5以下となると、酸性基含有重合性単量体に対して該第4族元素イオンが適量に調整され、接着性が良好となる。第4族元素イオンの上記含有量が0.5を超えると、酸性基含有重合性単量体に対して該第4族元素イオンが多くなるため、一つの第4族元素イオンにイオン結合する酸性基含有重合性単量体の数が少なくなり、架橋密度の低下と共に、接着性が低下する傾向がある。
歯科用接着性組成物中における、第4族元素イオンの種類および含有量は、固体成分を除いた後、誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析装置を用いて測定することにより確認することができる。具体的な方法を示すと、接着性組成物を水溶性有機溶媒で濃度1質量%まで希釈し、得られた希釈液をシリンジフィルター等で用いて濾過し、固体成分を除去する。その後、得られた濾液のイオン種および濃度をICP発光分析装置で測定し、接着性組成物中の多価金属イオン種と量を算出する。なお、多価金属イオン以外の金属イオン種およびその含有量も、同様な方法によって測定することができる。
また、歯科用接着性組成物中における酸性基の種類の測定は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより組成物中から酸性基含有重合性単量体を単離し、単離した酸性基含有重合性単量体の質量分析からその分子量を測定し、また、核磁気共鳴分光(NMR)測定して、構造を決定することにより決定する。化学シフト値は、同条件(希釈溶媒、濃度、温度)で既知の化合物のNMRを測定し、それを標準とすることで決定することができる。また、酸性基含有重合性単量体の含有量は、分取用高速液体クロマトグラフィーにより単離した該酸性基含有重合性単量体を用いて、上出の標準物質との検量線を作成し、前出の濾液の一部に内標準物質を添加して高速液体クロマトグラフィーで測定することで求めることができる
なお、本発明の接着性組成物には、上記特定量の第4族元素イオンの他に、その他の金属イオンが含有されていても良い。こうしたその他の金属イオンとしては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の1価および2価の金属イオンが挙げられ、さらにアルミニウム(III)、鉄(III)、ルテニウム(III)、コバルト(III)、ランタン(III)等の3価の金属イオンが挙げられる。第4族元素イオンによるイオン架橋を良好に発達させる観点からは、これらその他の金属イオンの全量における総イオン価数が、含有されている全金属イオンの総イオン価数に対して0.5以下、より好ましくは0.2以下の割合であるのが好適である。
上記したように接着性組成物中において、第4族元素イオンを含む金属イオンの存在量が多くなってくると、重合性単量体成分における、酸性基含有重合性単量体の酸性基は、これとイオン結合し中和されてしまう。したがって、「全金属イオンの総イオン価数」/「酸性基含有重合性単量体全量における酸の総価数」が1以上になると、通常、接着性組成物は酸性を呈さなくなり、その場合、該接着性組成物は、エッチング機能(歯質の脱灰機能)を有さなくなり、別途歯質に対するエッチング操作を施した方が好適なものになる。よって、本発明では、このように「全金属イオンの総イオン価数」が多すぎる場合には、組成物に脱灰機能を持たせるため、組成物の酸性が保持されるように、その他の酸性物質を含有させるのが好適である。
この場合、本発明の接着性組成物の酸性度は、以下の方法で測定したpH値が4.8未満であれば良い。すなわち、接着性組成物の酸性度は、該接着性組成物を10質量%の濃度でエタノールに混合し、その混合液のpHを測定することにより実施する。pHの測定は、従来公知の方法で測定可能であるが、25℃において、中性リン酸塩pH標準液(pH6.86)とフタル酸塩pH標準液(pH4.01)で校正したpH電極を用いたpHメーターで測定する方法が簡便で好ましい。希釈するのに用いるエタノールは純度が99.5%以上であり、該エタノール単独のpH値が下記に示す方法で測定したときに4.8〜5.0であれば特に問題ない。接着性組成物は、歯質の脱灰性の強さから、この方法で測定したpHが、0.5〜4.0の範囲であるのが好ましく、1.0〜3.0の範囲であるのがより好ましい。
本発明の接着性組成物において、組成物中に第4族元素イオンを存在させる方法は、特に制限されるものではなく、接着性組成物を調整する際に、重合性単量体成分に、上記第4族元素イオンのイオン源となる物質を配合または接触させて、組成物中に該第4族元素イオンを前記量で溶出させれば良い。第4族元素イオン源としては、第4族元素単体、第4族元素イオン溶出性フィラー、または第4族元素化合物が挙げられる。
ここで、第4族元素化合物としては、金属塩、金属ハロゲン化物、金属アルコキシドを用いることができる。金属塩としては、1,3−ジケトンのエノール塩、クエン酸塩、酒石酸塩、フッ化物、マロン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、フタル酸塩、イソフタル酸塩、テレフタル酸塩、酢酸塩、メトキシ酢酸塩等が挙げられ、金属ハロゲン化物としてはフッ化チタン、塩化チタン、フッ化ジルコニウム、フッ化ハフニウム等が挙げられる。また、金属アルコキシドとしては、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポキシド、ジルコニウムメトキシド、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムイソプロポキシド等が挙げられ、チタニウムメトキシド、チタニウムエトキシド、チタニウムプロポキシド、チタニウムイソプロポイシド等が特に好ましい。これらの第4族元素化合物の中でも、炭素数4以下、さらに好ましくは3以下の低級アルコキシドは、金属イオンの溶出が速く、副生物がアルコールであるため、接着強度に影響がなく除去容易であり、また取り扱いが容易な点からより好ましい。なお、これらの第4族元素化合物中には、溶解性が著しく低いものがあるため、予め予備実験等で確認したうえで用いればよい。
他方、第4族元素イオン溶出性フィラーは、歯科用接着性組成物中で、上記第4族元素イオンを溶出させることができるものである。通常は、歯科用接着性組成物が酸性を呈している場合に溶出させ易い。第4族元素イオン溶出性フィラーは、公知のものが制限なく使用できるが、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類において、その骨格の隙間に第4族元素イオンを保持したものが好適に使用される。具体的には、鎖状、層状、網様構造の骨格を有するガラス類としては、酸化物ガラス、フッ化物ガラス等を挙げることができる。酸化物ガラスとしては、チタニアシリケートガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス等からなるものがあげられ、フッ化物ガラスとしてはフッ化チタニウムガラス等からなるものを挙げることができる。なお、これらのガラス類からなる第4族元素イオン溶出性フィラーは、第4族元素イオンを溶出させた後は、凝集粒子や、粒径の大きいものについて、沈降したものを濾別する等して少なくとも一部を除去しても良いが、そのまま多孔性の粒子として歯科用接着性組成物中に残留させておくと、充填材として硬化体の強度の向上に寄与することもできる。
〔(C)重合禁止剤〕
本発明の歯科用接着性組成物は、(C)重合禁止剤を含有している。重合禁止剤を特定量配合することにより、該歯科用接着性組成物が高い接着性を示すと同時に、長期間保存してもゲル化が生じにくく、高い保存安定性を発現する。本発明において、酸性基含有重合性単量体、第4族元素イオン、特定量の重合禁止剤を含有させることにより、高い接着強度と高い保存安定性を発現する理由は必ずしも定かではないが、次のように推定している。すなわち、本願発明のように比較的多目の重合禁止剤を配合することにより、長時間保存してゲル化を高度に抑制し、高い保存安定性を発現するものと考えられる。さらに、該組成物を重合硬化させた時に、一部で未重合となるが、一方で、酸性基含有重合性単量体と第4族元素イオンによって形成されるイオン結合体が重合することで高度に架橋された重合体を形成するために、高い接着強度を発現すると考えられる。また、ゲル化を抑制することにより、接着強度低下も防ぐことが可能と考えられる。
本発明において重合禁止剤は、公知の重合禁止剤が制限なく使用される。このうち、フェノール系重合禁止剤が好ましく、レスヒンダードフェノール類、セミヒンダードフェノール類、ヒンダードフェノール類が好適に用いられる。
レスヒンダードフェノール類はラジカル捕捉速度に優れるが、補足したラジカルを放出しやすい特徴を持つ。一方ヒンダードフェノール類はラジカル捕捉速度は遅いが、補足したラジカルを保持して放出しにくい特徴を持つ。セミヒンダードフェノール類はラジカル捕捉速度とラジカル保持性が両者の中間のものを指す。
レスヒンダードフェノール類としては、ヒドロキノンモノメチルエーテル、4,4´−チオビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、大内新興化学工業社のノクラック300)、1,1,3−トリス−(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−ターシャリーブチルフェニル)ブタン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−30)、4,4´−ブチリデンビス(3−メチル−6−ターシャリーブチル)フェノール(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−40)が挙げられる。
セミヒンダードフェノール類としては、3,9−ビス[2−{3−(3−ターシャリーブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1−ジメチルエチル]−2、4−8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−80)、エチレンビス(オキシエチエレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート](例えば、チバスペシャルティケミカルズ社のイルガノックス245)、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート(例えば、アデカ社のアデカスタブAO−70)が挙げられる。
ヒンダードフェノール類としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,6−ジシクロヘキシル−4−メチルフェノール、2,6−ジイソプロピル−4−エチルフェノール、2,6−ジ−tert−アミル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−オクチル−4−n−プロピルフェノール、2,6−ジシクロヘキシル−4−n−オクチルフェノール、2−イソプロピル−4−メチル−6−tert−ブチルフェノール、2−tert−ブチル−2−エチル−6−tert−オクチルフェノール、2−イソブチル−4−エチル−6−tert−ヘキシルフェノール、2−シクロヘキシル−4−n−ブチル−6−イソプロピルフェノール、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4,4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリス(2,6−ジメチル−3−ヒドロキシ−4−tert−ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス[(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル]イソシアヌレート、トリス(4−tert−ブチル−2,6−ジメチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、テトラキス[メチレン(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)ヒドロシンナメート]メタン、ビス[(3,3−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)ブチリックアシッド)グリコールエステル、N,N’−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、2,2’−オギザミドビス[エチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ビス[2−tert−ブチル−4−メチル−6−(3−tert−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)フェニル]テレフタレート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス[1,1−ジメチル2−{β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、2,2−ビス[4−(2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシシンナモイルオキシ))エトキシフェニル]プロパン、β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、テトラキス−[メチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、チオジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコール−ビス−[−3−(3’−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)]プロピオネート、1,1,3−トリス[2−メチル−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−5−tert−ブチルフェニル]ブタンなどを挙げることができる。
該重合禁止剤は1種類、または2種類以上を組み合わせて配合しても良い。2種類以上を組み合わせる場合は、レスヒンダードフェノール類とヒンダードフェノール類の組み合わせがゲル化を防止し、長期間保存後においても高い接着強度を維持できるため好ましい。中でも、ヒドロキノンモノメチルエーテルと2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールの組み合わせがより好ましい。
レスヒンダードフェノール類とヒンダードフェノール類の組み合わせが好ましい理由は定かではないが、レスヒンダードフェノール類が発生したラジカルを瞬時に捕捉し、その後ヒンダードフェノール類にラジカルが移動するために、長期間にわたりラジカルが安定的に捕捉されるためにゲル化を有効に防止できると考えられる。すなわち、本発明のように、酸性基含有重合性単量体及び第4族元素共存下において生じ易いゲル化は、特定量の重合禁止剤の配合によりかなり抑制できるものの、それでも、目視できないレベルでのゲル化、およびゲル化に基づく接着強度の低下は生じると考えられ、上記のように、特定の種類の重合禁止剤を組み合わせ使用することで、目視できないレベルでのゲル化も有効に抑制され、長期保存後も接着強度が高く維持できるものと推察される。
重合禁止剤の配合量は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体100質量部に対して0.8〜8質量部であり、さらにより高い保存安定性と接着強度を両立させるために、1〜4質量部が好ましい。重合禁止剤の配合量が0.8質量部未満では保存安定性が満足せず、一方8質量部を越えると組成物の硬化性が低下して高い接着強度が得られない。
また、重合禁止剤を2種以上用いる場合の配合比は、レスヒンダードフェノールとヒンダードフェノールの重量比が1:5〜1:100であることが好ましく、さらにより高い保存安定性と接着強度を両立させるために1:10〜1:30であることがより好ましい。
〔(D)重合開始剤〕
本発明の歯科用接着性組成物は、(D)重合開始剤を含有する。このような重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができる。重合開始剤は、化学重合型と光重合型に分類され、目的に応じて適宜選定すればよい。また、光重合開始剤と化学重合開始剤を併用し、光重合と化学重合のどちらによっても重合を開始させることの出来るデュアルキュアタイプとすることも可能である。
代表的な光重合開始剤としては、ジアセチル、アセチルベンゾイル、ベンジル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、4,4'−ジメトキシベンジル、4,4'−オキシベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等のα−ジケトン類、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体、ベンゾフェノン、p,p'−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p'−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド誘導体、さらには、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤からなる系が挙げられる。これらの中でも特に好ましいのは、α−ジケトン系の光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系の光重合開始剤、及びアリールボレート化合物/色素/光酸発生剤を組み合わせた系からなる光重合開始剤である。
上記α−ジケトンとしてはカンファーキノン、ベンジルが好ましく、また、アシルホスフォンオキサイドとしては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイドが好ましい。なお、これらα−ジケトン及びアシルホスフォンオキサイドは単独でも光重合活性を示すが、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ラウリル、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミン化合物と併用することがより高い重合活性を得られて好ましい。また、アリールボレート化合物/色素/光酸発生剤系の光重合開始剤としては、テトラフェニルホウ素ナトリウム塩等のアリールボレート化合物を、色素として3,3'−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3,3'−カルボニルビス(4−シアノ−7−ジエチルアミノクマリン等のクマリン系の色素を、光酸発生剤として、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等のハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体、またはジフェニルヨードニウム塩化合物を用いたものが特に好適に使用できる。
一方代表的な化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン類の組み合わせ、有機過酸化物類、アミン類及びスルフィン酸塩類の組み合わせ、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせ、バルビツール酸、アルキルボラン等の化学重合開始剤等が挙げられる。
該化学重合開始剤に使用される各化合物として好適なものを以下に例示すると、有機過酸化物類としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、過酸化ジt−ブチル、過酸化ジクミル、過酸化アセチル、過酸化ラウロイル、過酸化ベンゾイル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を配合して使用することができる。
アミン類としては、第二級又は第三級アミン類が好ましく、具体的に例示すると、第二級アミンとしてはN−メチルアニリン、N−メチル−p−トルイジン等が挙げられ、第三級アミンとしてはN,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N,N−ジ−n−ブチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン、m−クロロ−N,N−ジメチルアニリン、p−ジメチルアミノベンズアルデヒド、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−ジメチルアミノ安息香酸、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミルエステル、N,N−ジメチルアンスラニリックアシッドメチルエステル、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチル−p−トルイジン、p−ジメチルアミノフェネチルアルコール、p−ジメチルアミノスチルベン、N,N−ジメチル−3,5−キシリジン、4−ジメチルアミノピリジン、N,N−ジメチル−α−ナフチルアミン、N,N−ジメチル−β−ナフチルアミン、トリブチルアミン、トリプロピルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N,Nジメチルヘキシルアミン、N,N−ジメチルドデシルアミン、N,N−ジメチルステアリルアミン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2,2'−(n−ブチルイミノ)ジエタノール等が挙げられる。
アリールボレート類としては、1分子中に少なくても1つのホウ素―アリール結合を有していれば、公知のものを使用することができるが、保存安定性が高いことや取り扱いの容易さ、入手のし易さから、1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートが最も好ましい。1分子中に4つのホウ素−アリール結合を有するアリールボレートの具体例としては、テトラフェニルホウ素、テトラキス(p―クロロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―フルオロフェニル)ホウ素、テトラキス(3,5−ビストリフルオロメチル)フェニルホウ素、テトラキス[3,5−ビス(1,1,1,3,3,3―ヘキサフルオロ―2―メトキシ―2―プロピル)フェニル]ホウ素、テトラキス(p―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ニトロフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルフェニル)ホウ素、テトラキス(p―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―ブチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(p―オクチルオキシフェニル)ホウ素、テトラキス(m―オクチルオキシフェニル)ホウ素などのホウ素化合物の塩を挙げることができる。ホウ素化合物と塩を形成する陽イオンとしては、金属イオン、第3級または第4級アンモニウムイオン、第4級ピリジニウムイオン、第4級キノリニウムイオン、または第4級ホスホニウムイオンを使用することができる。
上記化学重合開始剤の中でも、酸性化合物及びアリールボレート類の組み合わせに、+IV価及び/又は+V価のバナジウム化合物を併用した化学重合開始剤は、重合活性が高いことから、特に好適に使用できる。さらに、上記の有機過酸化物を併用することにより、重合活性をさらに高めることができるため、最も好ましい。
上記バナジウム化合物の具体例としては、四酸化二バナジウム(IV)、シュウ酸バナジル(IV)、硫酸バナジル(IV)、オキソビス(1―フェニル―1,3―ブタンジオネート)バナジウム(IV)、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)、五酸化バナジウム(V)、メタバナジン酸ナトリウム(V)、メタバナジン酸アンモン(V)等を挙げることができる。
本発明の(D)重合開始剤はそれぞれ単独で配合するのみならず、必要に応じて複数の種類を組み合わせて配合することもできる。これらの配合量は、重合性単量体を100質量部としたときに、0.01〜10質量部の範囲であるのが好ましい。0.01質量部未満では接着材の硬化性が低下する傾向にあり、逆に10質量部を超えると、接着材の硬化体強度が低下する傾向にある。重合開始剤の上記配合量は、0.1〜8質量部の範囲であるのがより好ましい。
〔水〕
本発明の接着性組成物には、水が配合されても良い。水を含有させることで、歯科用接着性組成物の歯質に対する親和性が向上する。こうした水は、本発明の接着性組成物を歯面に塗付した際に、該接着性組成物を硬化させる前にエアブローにより除去られるのが一般的であり、そのため重合性単量体成分100質量部あたりの水の配合量は0.01〜50質量部が好ましく、0.1〜25質量部がより好ましい。
〔揮発性有機溶媒〕
本発明の接着性組成物には、揮発性有機溶媒が配合されても良い。ここで、揮発性有機溶媒は、室温で揮発性を有し、水溶性を示すものが使用できる。なお、揮発性とは、760mmHgでの沸点が100℃以下であり、且つ20℃における蒸気圧が1.0KPa以上であることを言う。また、水溶性とは、20℃での水への溶解度が20g/100ml以上であり、好ましくは該20℃において水と任意の割合で相溶することを言う。
このような揮発性の水溶性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。これら有機溶媒は必要に応じ複数を混合して用いることも可能である。生体に対する毒性を考慮すると、エタノール、イソプロピルアルコール及びアセトンが好ましい。
なお、これらの揮発性有機溶媒も、前記水と同様に、本発明の接着性組成物を歯面に塗布した後の、該接着性組成物を硬化させる前にエアブロー等することにより除去される。
本発明において揮発性有機溶媒の配合量は、通常、(A)重合性単量体100質量部に対して2〜400質量部の範囲、より好ましくは5〜300質量部である。
〔フィラー〕
本発明の歯科用組成物には、必要に応じてフィラーを含有させてもよい。ここでフィラーとは、特に制限なく従来公知のシリカ系無機フィラー、有機フィラー、無機有機複合フィラーが何等制限なく利用できる。
ここで、シリカ系無機フィラーとは、シリカ、或いはシリカと結合可能な周期表第2〜14族の金属酸化物及びシリカを主成分とする複合酸化物粒子のことをいう。複合酸化物粒子の場合、シリカ成分は、少なくとも10mol%以上、好適には50mol%以上含有するのが良好である。
シリカ系無機フィラーを具体的に例示すると、石英、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等が挙げられる。上記シリカは、湿式シリカであっても良いが、ヒュームドシリカと呼ばれる乾式シリカが好ましい。また、フルオロアルミノシリケートガラス等の多価金属イオン溶出性フィラーも好適に使用することができる。中でもX線造影性を有するシリカ−ジルコニア、バリウムガラス等が好適に利用できる。
これらシリカ系無機フィラーの粒径、形状は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている、球状や不定形の、平均粒子径0.01μm〜100μmの粒子を目的に応じて適宜使用すればよい。シリカ系無機フィラーの製造法は何ら制限されず、溶射法、ゾルゲル法、火炎溶融法等が利用できる。本発明の歯科用接着性組成物を歯科用接着材に適用する場合には、火炎溶融法によるフィラーが好ましい。また本発明の歯科用接着性組成物を歯科用接着性コンポジットレジンに適用する場合には、ゾルゲル法によるフィラーが好ましく、球状フィラーがより好ましい。
このようなシリカ系無機フィラーは、シランカップリング処理されたものが好適に利用できる。シランカップリング剤の具体例を示すと、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ヘキサメチルジシラザン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、11−メタクリルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11−メタクリルオキシウンデシルメチルジメトキシシラン等である。
有機フィラーとしては、ポリアルキルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体、架橋型ポリアルキルメタクリレート、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等の有機高分子からなる粒子が挙げられ、特にポリアルキルメタクリレートが好適に用いられる。
また、有機−無機複合フィラーとしては、これら無機粒子と重合性単量体を予め混合し、ペースト状にした後、重合させ、粉砕して得られる粒状の有機−無機複合フィラーが挙げられる。
歯科用接着材に用いる場合のこれらフィラーの配合量は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して2〜100質量部の範囲、より好ましくは5〜50質量部である。2質量部未満では強度向上効果が十分に得られず、30質量部を超えると粘度が上昇し、歯質への浸透性が阻害され歯質接着強度の向上効果が十分に得られなくなる。
また、本発明の接着性組成物が歯科用接着性コンポジットレジンとして用いられる場合のフィラーの配合量は、(A)重合性単量体成分100質量部に対して100〜2000質量部の範囲である。ここで歯科用接着性コンポジットレジンとは、上記歯質へ接着させるための重合性単量体組成物をコンポジットレジンに含有させて、ボンディング材を使用しなくても、歯牙と直に接着するコンポジットレジンであり、その場合フィラーの配合量が100重量部未満ではコンポジットレジンとして十分な強度が得られない。
さらに、本発明の接着性組成物には、用途に関わらずに必要に応じて、その性能を低下させない範囲で、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物などの有機増粘材を添加することが可能である。また、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤を必要に応じて選択して使用することもできる。
本発明の歯科用接着性組成物の使用方法を例示すると、歯科用接着性組成物の用途が歯科用接着材の場合、う蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に、本発明の接着性組成物を塗布、5〜60秒程度放置後にエアブローによって圧縮空気を軽く吹きつけて揮発成分を揮発させる。次いで歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。この硬化させた接着性組成物面に、さらに、充填器具を用いてコンポジットレジン等の充填修復材料を充填する。なお、本発明の歯科用接着性組成物は、上記の使用方法から明らかなように、前処理不要でも高い接着力が得られる接着材として良好に使用できるが、必要により予め、エッチングやプライミング等の前処理を施してから使用することも可能である。さらに、歯科用接着性組成物の用途が歯科用接着性コンポジットレジンの場合、う蝕部を取り除くなどした被着体となる歯質に、本発明の接着性組成物を塗布、5〜60秒程度放置後に歯科用照射器を用いて可視光を照射し重合、硬化させればよい。
歯科用接着性組成物の用途が歯科用接着材の場合、好ましい組成は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、(B)第4族元素イオン、(C)重合禁止剤、(D)重合開始剤、水、揮発性有機溶媒、及びフィラーを含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体100質量部に対して、(B)第4族元素イオン0.1〜50質量部であり、(C)重合禁止剤0.8〜8質量部であり、(D)重合開始剤0.1〜5質量部であり、水1〜30質量部であり、揮発性有機溶媒10〜200質量部であり、フィラー5〜50質量部であるのが好適である。
歯科用接着性組成物の用途が歯科用接着性コンポジットレジンの場合、好ましい組成は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体、(B)第4族元素イオン、(C)重合禁止剤、(D)重合開始剤、及びフィラーを含有する組成になる。各成分の配合割合は、(A)酸性基含有重合性単量体を少なくとも一部として含んでなる重合性単量体100質量部に対して、(B)第4族元素イオン0.1〜50質量部であり、(C)重合禁止剤0.8〜8質量部であり、(D)重合開始剤0.01〜5質量部であり、フィラー50〜1000質量部であるのが好適である。
以下、本発明を具体的に説明するために、実施例、比較例を挙げて説明するが、本発明はこれらにより何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した、略称、略号については以下の通りである。
[酸性基を有する重合性単量体]
SPM:2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェートとビス(2−メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートのモル比1:1の混合物
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
MHP:6−メタクリロイルオキシへキシルジハイドロジェンホスフェート
[酸性基を含有しない重合性単量体]
BisGMA:2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリルオキシプロポキシ)フェニル)プロパン
3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
[第4族元素イオン源]
Ti(O−iPr)4:チタニウムテトライソプロポキシド
W(O−iPr)4:タングステン(VI)テトライソプロポキシド
[第4族元素以外のイオン源]
Al(O−iPr)3:アルミニウムトリイソプロポキシド
[重合禁止剤]
BHT:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
HQME:ヒドロキノンモノメチルエーテル
[重合開始剤]
CQ:カンファーキノン
DMBE:p−N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル
[揮発性の水溶性有機溶媒]
IPA:イソプロピルアルコール
[フィラー]
FS:火炎溶融法によるシリカ粒子。平均1次粒径7nm、ジメチルジクロロシラン処理物。
MSa:ゾルゲル法によるシリカ−チタニア球状粒子、平均1次粒径0.07μm。γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
MSb:ゾルゲル法によるシリカ−ジルコニア球状粒子、平均1次粒径0.4μm。γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン処理物。
MS1:MSaとMSbの1:1の混合物
また、以下の実施例および比較例において、各種の測定は以下の方法により実施した。
(1)接着試験片の作製方法
(a)接着試験片の作成方法I(歯科用接着性組成物が歯科用接着材の場合に適用)
屠殺後24時間以内に牛前歯を抜去し、往水下、#600のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質および象牙質平面を削り出した。次に、これらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、エナメル質および象牙質のいずれかの平面に直径3mmの孔の開いた両面テープを固定し、ついで厚さ0.5mm直径8mmの孔の開いたパラフィンワックスを上記円孔上に同一中心となるように固定して模擬窩洞を形成した。この模擬窩洞内に本発明の一液型歯科用接着材を塗布し、10秒間放置後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射した。更にその上に歯科用コンポジットレジン(エステライトΣ、トクヤマデンタル社製)を充填し、可視光線照射器により30秒間光照射して、接着試験片IIを作製した。
(b)接着試験片の作成方法II(歯科用接着性組成物が歯科用接着性コンポジットレジンの場合に適用)
上記(a)接着試験片の作成方法Iと同様の方法により形成した模擬窩洞内に本発明の歯科用接着性コンポジットレジンを充填した。必要に応じて(使用した歯科用接着材の重合開始剤が光重合開始剤の場合において)歯科用可視光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマ社製)にて10秒間光照射して、接着試験片IVを作製した。
(2)接着試験方法
上記の方法で作製した試験片を熱衝撃試験器に入れ、4℃の水槽に1分間浸漬後、60℃の水槽に移し1分間浸漬し、再び4℃の水槽に戻す操作を、6000回繰り返した。
その後、上記試験片にステンレス製アタッチメントを接着し、引張り試験機(オートグラフ、島津製作所製)を用いてクロスヘッドスピード2mm/minにて引張り、エナメル質または象牙質とコンポジットレジンの引張り接着強度を測定した。1試験当り、4本の引張り接着強さを上記方法で測定し、その平均値を保存試験後の接着強度として測定し、保存安定性を評価した。
(3)保存時のゲル化試験方法
歯科用接着性組成物を摂氏45度に設定したインキュベータにて10週間保管して、ゲル化の有無を目視確認した。なお評価結果には、ゲル化が確認できない場合は「○」、ゲル化が確認できた場合は「×」として示した。
実施例1
重合性単量体として25gのSPM、30gのBisGMA、20gの3G及び25gのHEMAと、チタンイオン源として5.8gのチタニウムテトライソプロポキシド、重合禁止剤として1.0gのBHTと0.1GのHQME、光重合開始剤として2.0gのCQと2.0gのDMBE、揮発性有機溶媒として70gのIPA、フィラーとして10gのFSを用い、これらを均一になるまで撹拌混合したのち、10gの蒸留水を加えて再度均一になるまで撹拌混合して本発明の歯科用接着材を得た。
得られた歯科用接着材について、(1)接着試験片の作製方法および(2)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらに(3)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度10週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期と同様に保存後の歯科用接着材について接着強度を測定した。歯科用接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
実施例2〜12 、比較例1〜4
実施例1の方法に準じ、表1に示した組成の異なる歯科用接着材を調製した。(1)接着試験片の作製方法および(2)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらに(3)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度10週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期と同様に保存後の歯科用接着材について接着強度を測定した。接着材の組成を表1に、評価結果を表2に示した。
実施例1〜12は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯科用接着性組成物を用いたものであるが、いずれの場合においてもエナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は高く、保存試験後の歯科用接着性組成物のゲル化は見られなかった。なお、保存後の接着強度も良好に維持できていた。
これに対して、比較例1は重合禁止剤の配合量が本発明の範囲よりも少ない場合であり、エナメル質、象牙質双方に対して初期接着強度は高い値であったが、保存試験後の歯科用接着性組成物はゲル化しており、接着強度も著しく低下した。また比較例2は重合禁止剤の配合量が本発明の範囲よりも多い場合であり、初期接着強度、保存試験後の接着強度共に低い値を示した。比較例3,4は、第3族元素イオンであるアルミニウムイオンを配合した場合であり、初期接着強度、保存試験後の接着強度共に低い値を示した。
実施例13
重合性単量体として25gのSPM、40gのBisGMAおよび35gの3Gと、チタンイオン源として5.8gのチタンイソプロポキシド、重合禁止剤として1.0gのBHTと0.1GのHQME、光重合開始剤として0.5gのCQと0.5gのDMBE、フィラーとして150gのMS1を用い、これらを均一になるまで撹拌混合して本発明の歯科用接着性コンポジットレジンを得た。
得られた歯科用接着性コンポジットレジンについて、(1)接着試験片の作製方法および(2)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらに(3)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度10週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期と同様に保存後の歯科用接着性コンポジットレジンについて接着強度を測定した。歯科用接着性コンポジットレジンの組成を表3に、評価結果を表4に示した。
実施例14〜16、比較例5、6
実施例13の方法に準じ、表1に示した組成の異なる歯科用接着性コンポジットレジンを調製した。(1)接着試験片の作製方法および(2)接着試験方法に従いエナメル質および象牙質に対する接着強度を測定し初期接着強度とした。さらに(3)保存時のゲル化試験方法に従い、摂氏45度10週間保存後のゲル化の有無を確認し、初期と同様に保存後の歯科用接着性コンポジットレジンについて接着強度を測定した。歯科用接着性コンポジットレジンの組成を表3に、評価結果を表4に示した。
実施例13〜16は、各成分が本発明で示される構成を満足するように配合された歯科用接着性組成物を用いたものであるが、いずれの場合においてもエナメル質、象牙質双方に対して、初期接着強度は高く、保存試験後の歯科用接着性組成物のゲル化は見られなかった。なお、保存後の接着強度も良好に維持できていた。
これに対して、比較例5は、第3族元素イオンであるアルミニウムイオンを配合した場合であり、初期接着強度、保存試験後の接着強度共に低い値を示した。また、比較例6は重合禁止剤の配合量が本発明の範囲外である場合でありエナメル質、象牙質双方に対して初期接着強度は高い値であったが、保存試験後の歯科用接着性組成物はゲル化しており、接着強度も著しく低下した。