以下、本発明の実施形態に係る希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物、蛍光体及び当該蛍光体を用いた発光装置について詳細に説明する。なお図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
まず、一般的に「鉱物」とは、天然に産出する固体無機物質であり、その組成が化学式によって記述でき、構成元素の配列が規則的、つまり結晶質であって、物理的な性質が狭い範囲に収まるものをいう。これに対応する用語として、人造鉱物(man−made mineral)とも呼ばれる人工鉱物(artificial mineral)がある。人工鉱物は、天然に産出する鉱物と同一の成分、構造及び組織を、化学的・物理的手法で達成したものをいう。なお人工鉱物には、構造及び基本組成が天然鉱物と同一で、成分又は組成が異なる無機固体を含める場合があり、加えて、さらに広く一般の無機固体も含める場合がある。
一方、電荷又はイオン半径が類似の元素同士は、同じ結晶構造を保ったまま、互いに置換可能であることから、相似的な化学式を持った一群の鉱物をつくることが知られている。類似した化学組成を持つ物質が同一の結晶構造を取ることを、岩石学や鉱物学の分野では、「類質同像」という。そのため、柘榴石のグループに属する鉱物種同士は、互いに類質同像の化合物である。
また、結晶構造中の特定のサイトに異種のイオンが置き換えて入り、鉱物種が幅広い組成変化を見せることも知られている。その鉱物の組成は、組成変化の両端の組成を持つ鉱物の混合比率をもって容易に表現することができる。このような鉱物は、固体でありながら溶液を混合するような均一な相を生ずることから、「固溶体」という。
そして本明細書では、柘榴石構造を持つ化合物であり、かつ、少なくとも希土類元素とアルミニウムと酸素とを主成分として含む化合物を、「希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物」という。また、蛍光体として機能する希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物を、「希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体」という。
[希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物]
まず、本発明の実施形態に係る希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物を説明する。
本実施形態に係る希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物は、天然の鉱物を参考にして人為的に創作した無機の化学物質である。そして、当該無機酸化物は、一般式(1)で示される組成を有し、結晶構造が柘榴石構造である。
M2LnX2(AlO4)3 (1)
式中、Mはカルシウム(Ca)を含有し、Lnはテルビウム(Tb)を含有し、Xはジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)の少なくともいずれか一方を含有する。このような一般式(1)で表される本実施形態の無機酸化物は、後述するように新規な蛍光特性を発揮することができる。
さらに、本実施形態の無機酸化物において、一般式(1)におけるTbの原子数は0.1個以上1個以下であることを特徴とする。Tbの原子数をこの範囲とした無機酸化物を蛍光体として用いた場合、後述するようにTbが発光中心又はEuにエネルギーを伝達する媒体として機能する。そのため、当該蛍光体は、緑色光及び/又は赤色光を効率的に放出することが可能となる。
詳述すると、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物は、高濃度のTbを含むことにより、蛍光鉱物、つまり、無機の蛍光体として機能する。そして、一般式(1)におけるTbの原子数を、0.1個以上1個以下に限定することによって、当該機能を発揮することが可能となる。なお、「一般式(1)におけるTbの原子数が、0.1個以上1個以下」との表現は、「一般式(1)で表される無機酸化物1モル中におけるTbのモル数が、0.1モル以上1モル以下」と表現することも可能である。
ここで、一般に無機化合物は、数多くの変形例を持つものである。さらに上述のように、柘榴石構造を持つ鉱物も数多くの変形例を持つ。このため、本実施形態に係る希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物も、柘榴石構造を損ねない範囲で、一般式(1)とは若干異なる数多くの変形例を包含するものである。つまり、本実施形態に係る無機酸化物の基本組成は、例えばCa2TbX2(AlO4)3である。しかし、本実施形態に係る無機酸化物は、Ca2TbX2(AlO4)3と類質同像であり、固溶体の端成分となる変形例を含むものとして解される。なお、「端成分」は岩石学の用語であり、固溶体の組成の極限をなす成分のことである。
そして、上述のように、一般式(1)における元素Mは、少なくともカルシウム(Ca)を含有する。しかし、カルシウムは、カルシウム以外の二価のイオンと成り得る元素で部分置換し得るものである。そのため、一般式(1)における元素Mは、Caと、アルカリ土類金属、Fe(II)、Mn、Zn、Cd、Co及びCuからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素とを含有するものであってもよい。また、アルカリ土類金属としては、特にMg、Sr及びBaが好ましい。
本実施形態の無機酸化物において、一般式(1)における元素Mの過半数をカルシウム(Ca)で占めることが好ましい。ここで、元素Mの過半数をCaで占めるとは、元素Mを占める原子群の中の過半数をCa原子が占めることを意味する。このような組成にすることで、より高効率の蛍光体の母体又は蛍光体自体として機能し得るものとなる。なお、元素Mはカルシウムのみで占められていてもよい。
また、上述のように、一般式(1)における元素Lnは、少なくともテルビウム(Tb)を含有する。しかし、テルビウムは、テルビウム以外の三価のイオンと成り得る元素、特に希土類元素で部分置換し得るものである。三価のイオンと成り得る元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、In、Sb及びBiなどが挙げられる。好ましくは、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuから選ばれる少なくとも一つである。そのため、一般式(1)における元素Lnは、Tbと、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、In、Sb及びBiからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素とを含有するものであってもよい。
上述と同様に、本実施形態の無機酸化物において、一般式(1)における元素Lnの過半数をテルビウム(Tb)で占めることが好ましい。ここで、元素Lnの過半数をTbで占めるとは、元素Lnを占める原子群の中の過半数をTb原子が占めることを意味する。このような組成にすることで、Tb自体が発光中心となるため、より高効率の蛍光体の母体又は蛍光体自体として機能し得るものになる。
また、一般式(1)における元素Lnが、Tbだけでなく、Euも含むようにした場合には、Euの周囲に数多くのTbが存在することになる。そのため、TbからEuにエネルギーを伝達する効率が高まり、Euの発光強度を増加させることが可能となる。なお、元素Lnはテルビウムのみで占められていてもよい。
さらに上述のように、一般式(1)における元素Xはジルコニウム(Zr)及びハフニウム(Hf)の少なくともいずれか一方を含有する。しかし、ジルコニウム及びハフニウムは、これらの元素以外の四価のイオンと成り得る元素で部分置換し得るものである。四価のイオンと成り得る元素としては、Si、Ge、Ti、Sn及びPbなどが挙げられるが、好ましくはSnである。そのため、一般式(1)における元素Xは、Zr及びHfの少なくともいずれか一方と、Si、Ge、Ti、Sn及びPbからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素とを含有するものであってもよい。
上述と同様に、前記無機酸化物において、一般式(1)における元素Xの過半数をジルコニウム(Zr)及び/又はハフニウム(Hf)で占めることが好ましい。ここで、元素Xの過半数をZr及び/又はHfで占めるとは、元素Xを占める原子群の中の過半数をZr原子及び/又はHf原子が占めることを意味する。このような組成にすることで、より高効率の蛍光体の母体又は蛍光体自体として機能し得るものになる。なお元素Xは、Zr及び/又はHfのみで占められていてもよい。
なお、本実施形態の無機酸化物に係る一般式(1)において、元素MはCaであり、元素LnはTbであってもよい。また、一般式(1)において、元素MはCaであり、元素LnはTbであり、元素XはZr又はHfのいずれか一方であってもよい。
蛍光物質として好ましく、本実施形態の無機酸化物と類質同像の化合物としては、Ca2(Tb,Ce)Zr2(AlO4)3、Ca2(Y,Tb)Zr2(AlO4)3などが例示される。また、Ca2(La,Tb)Hf2(AlO4)3、(Ca,Sr)2(Y,Tb)(Zr,Hf)2(AlO4)3、(Ca,Mg)2TbZr2(AlO4)3、Ca2(Tb,Pr)Zr2(AlO4)3なども例示される。さらに、Ca2(Tb,Ce,Eu)Zr2(AlO4)3、Ca2(Tb,Eu)Zr2(AlO4)3なども例示される。
本実施形態の無機酸化物は、当該無機酸化物と固溶し、かつ、無機酸化物とは組成が異なる無機化合物と固溶体を形成してもよい。そして、この固溶体は、本実施形態の無機酸化物と同様に、柘榴石構造であることが好ましい。このような固溶体も新規な蛍光特性を持つ希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体と成り得る。
なお、上述のように、当該固溶体に含まれるTbを発光中心として機能させるためには、前記固溶体1モル中におけるTbのモル数は、0.1モル以上3モル未満であることが好ましい。
ここで、本実施形態の無機酸化物に被固溶する無機化合物としては、柘榴石構造を持つ化合物が好ましく、特に前記無機酸化物と類質同像の化合物であることがより好ましい。これにより、無機化合物の持つ性質が無機酸化物と類似することとなるため、柘榴石構造を持つ本実施形態の固溶体を容易に形成することが可能となる。
なお、被固溶する無機化合物としては、一般式(2):Ca2EuX2(AlO4)3で示される組成を有するユーロピウム化合物が好ましい。このような無機化合物が上記無機酸化物と固溶することにより、Eu3+の蛍光成分を放出する固溶体に成り得る。なお、一般式(2)の元素Xは、一般式(1)の元素Xと同じである。
また、被固溶する無機化合物としては、一般式(3):M3Zr2(AlO4)2(SiO4)で示される組成を有する化合物も好ましい。このような無機化合物が上記無機酸化物と固溶することにより、励起スペクトルや発光スペクトルのピーク波長を、数nm〜数10nm程度移動させることが可能となる。なお、一般式(3)の元素Mは、一般式(1)の元素Mと同じである。
上述のように、天然の柘榴石は、通常、端成分となる複数種の柘榴石の固溶体として存在することが知られている。また、本実施形態の無機酸化物におけるCa2TbZr2(AlO4)3やCa2TbHf2(AlO4)3などは、端成分とみなすことができる。そのため、本実施形態の無機酸化物と、当該無機酸化物とは別の柘榴石構造を持ち、かつ、端成分と成り得る無機化合物との固溶体は、数多くの種類を得ることが可能である。
そして、上述のように、本実施形態の固溶体も柘榴石構造であることから、当該固溶体は、一般式(4)で示される組成を有するものになる。
A3D2(EG4)3 (4)
式中、元素Aは、Ca及びTbを含有する。また、元素A中のCa及びTbの少なくとも一方は、二価又は三価のイオンと成り得る元素と部分置換することができる。さらに、元素A中のCa及びTbの少なくとも一方は、二価又は三価のイオンと成り得る元素以外の元素とも置換することができる。
Ca及びTbと部分置換できる元素としては、一般式(1)中の元素X及び(AlO4)四面体以外の四面体の少なくとも一方による電荷補償を伴いながら、一〜三価のイオンと成り得る元素が好ましい。加えて、イオン半径が0.6Å以上1.7Å未満、特に0.8Å以上1.4Å未満である元素が好ましい。
Ca及びTbと部分置換でき、イオン半径が0.6Å以上1.7Å未満となる元素としては、Li、Na、K、Rb及びCsなどのアルカリ金属、並びにMg、Ca、Sr及びBaなどのアルカリ土類金属を挙げることができる。さらに、このような元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb,Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuなどの希土類元素、並びにMn、Fe、Co、Cu及びZnなどの遷移金属元素も挙げられる。なお、本明細書において、「イオン半径」はAhrensのイオン半径を意味する。
そのため、一般式(4)における元素Aは、Ca及びTbと、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類元素から選ばれる少なくとも一つの元素とを含有することが好ましい。
一般式(4)中の元素Dに相当する元素は、一般式(1)中の元素Xである。上述のように、元素XはZr及びHfの少なくともいずれか一方を含有する。そして、元素Dは、四価のイオンと成り得る元素と部分置換することができる。さらに元素Dは、四価のイオンと成り得る元素以外の元素とも置換することができる。元素Dと部分置換できる元素としては、Ca、Tb及び(AlO4)四面体以外の四面体の少なくともいずれかによる電荷補償を伴いながら、二価又は三価のイオンと成り得る元素が好ましい。加えて、イオン半径が0.4Å以上0.95Å未満、特に0.5Å以上0.8Å未満である元素が好ましい。
イオン半径が0.4Å以上0.95Å未満となる元素としては、Mg、Sc及びYなどの希土類元素、並びにTi、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Ga及びInなどの遷移金属や典型元素金属が挙げられる。
そのため、一般式(4)における元素Dは、一般式(1)中の元素Xと、Mg、Sc、Y、Ti、V、Zr、Hf、Zn、Al、Ga、In、Ge及びSnから選ばれる少なくとも一つの元素とを含有することが好ましい。
一般式(4)中の四面体(EG4)に相当するのが、一般式(1)で示される無機酸化物中の(AlO4)四面体である。そして、前記四面体(EG4)は、(AlO4)四面体以外の四面体と部分置換することができる。前記(AlO4)四面体以外の四面体としては、(SiO4)、(GeO4)、(SiO3N)、(ZnO4)、(FeO4)、(VO4)及び(PO4)などの四面体が挙げられる。なお、固溶体の形態に応じて四面体の価数が、(AlO4)四面体の価数、つまりマイナス5価からずれる場合には、Ca、Tb又は元素Xのいずれかによる電荷補償を伴って固溶体を構成することになる。
そのため、一般式(4)における元素Eは、Alと、Zn、Al、Si、Ge及びPから選ばれる少なくとも一つの元素とを含有し、元素GはOを含有することが好ましい。
なお、一般式(4)で示される固溶体において、A、D及び(EG4)の部分置換の目安は、被置換元素1つに対して半数以下であることが好ましく、また(AlO4)四面体1つに対して半数以下であることが好ましい。言い換えると、一般式(4)における元素Aの過半数をCa及びTbで占めることが好ましく、元素Dの過半数を元素Xで占めることが好ましく、さらに(EG4)の過半数を(AlO4)で占めることが好ましい。
このように、本実施形態に係る無機酸化物は、無機酸化物と類質同像の化合物と固溶体を形成することが可能である。そして、上述のように、固溶体1モル中におけるTbのモル数は、0.1モル以上3モル未満であることが好ましい。しかし、発光効率を向上させる観点から、前記固溶体1モル中のTbのモル数は、0.2モル以上2モル未満であることがより好ましく、0.4モル以上1モル以下が特に好ましい。
このように本実施形態に係る無機酸化物と固溶体を形成する無機化合物としては、Y3Al2(AlO4)3、Tb3Al2(AlO4)3、Y3Ga2(AlO4)3を挙げることができる。また、Ca2YZr2(AlO4)3、Ca2EuZr2(AlO4)3、Ca2YHf2(AlO4)3、Ca3Zr2(AlO4)2(SiO4)も挙げることができる。さらに、Ca2LaZr2(AlO4)3、Ca2LuZr2(AlO4)3、Ca2LuHf2(AlO4)3、Ca2YSn2(AlO4)3、Ca2LaSn2(AlO4)3なども挙げることができる。ただ、固溶体を形成する無機化合物はこれらに限定されるものではない。
本実施形態の固溶体は、上述の元素のほかに、H、B、C、S、F及びClなどから選ばれる少なくとも一つの元素を含有してもよい。また、本実施形態の固溶体は、窒素を含有してもよい。つまり、一般式(4)中の四面体(EG4)における元素Gは酸素の他に窒素を含有し、固溶体が酸窒化物であっても構わない。
ここで、本実施形態の固溶体は、少なくとも二種類の化合物を端成分としてなる柘榴石構造の固溶体であることが好ましい。端成分となる第一の化合物(無機酸化物)は、例えば一般式(1A):Ca2TbX2(AlO4)3で表されるテルビウム化合物を使用することができる。そして、端成分となる第二の化合物(無機化合物)は、例えば一般式(2):Ca2EuX2(AlO4)3で表されるユーロピウム化合物を使用することができる。なお、元素Xは、一般式(1)の元素Xと同じである。
また、本実施形態の固溶体は、少なくとも三種類の化合物を端成分としてなる柘榴石構造の固溶体であることも好ましい。端成分となる第一の化合物(無機酸化物)は、例えば、一般式(1A):Ca2TbX2(AlO4)3で表されるテルビウム化合物を使用することができる。また、端成分となる第二の化合物(無機化合物)は、例えば一般式(2):Ca2EuX2(AlO4)3で表されるユーロピウム化合物を使用することができる。そして、端成分となる第三の化合物(無機化合物)は、例えば一般式(2A):Ca2Ln’X2(AlO4)3で表される希土類化合物を使用することができる。ここで、元素Ln’は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一つの元素である。また、元素Xは、一般式(1)の元素Xと同じである。
さらに、本実施形態の固溶体は、少なくとも次の三種類の化合物を端成分としてなる柘榴石構造の固溶体であることも好ましい。端成分となる第一の化合物(無機酸化物)は、例えば一般式(1A):Ca2TbX2(AlO4)3で表されるテルビウム化合物を使用することができる。端成分となる第二の化合物(無機化合物)は、例えば一般式(2):Ca2EuX2(AlO4)3で表されるユーロピウム化合物を使用することができる。端成分となる第三の化合物(無機化合物)は、例えば一般式(3):M3Zr2(AlO4)2(SiO4)で表されるジルコニウム化合物を使用することができる。なお、元素X及びMは、一般式(1)の元素X及びMと同じである。
なお、固溶体が、上記テルビウム化合物、ユーロピウム化合物及びジルコニウム化合物からなる場合、固溶体は一般式(5):M2+xLn1−xZr2(AlO4)3−x(SiO4)xで表すことができる。ここで、元素Lnは、Tb及びEuと、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一つの希土類であることが好ましい。特に元素Lnは、TbとEuとCeとであることが好ましい。また、前記xは0≦x<1を満足する数値、特に0≦x<0.3を満足する数値であることが好ましい。
なお、上記固溶体中のテルビウム化合物はCa2TbZr2(AlO4)3であることが好ましく、ユーロピウム化合物はCa2EuZr2(AlO4)3であることが好ましい。そして、このような固溶体は、Ceを含むことができる。そのため、当該固溶体は、Ce3+の電子エネルギー遷移に由来する励起帯を持つようになり、蛍光を放つことが可能となる。
本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物及び固溶体の形状は、特に限定されるものではない。つまり、従来のYAGなどと同様に、単結晶、薄膜状、厚膜状、塊状、粒状、粉末状、ナノ粒子状、セラミックス状、透光性セラミックス状など、様々な形状の化合物とすることが可能である。また、本実施形態の無機酸化物及び固溶体は、天然の柘榴石同様に、人造宝石や研磨剤、セラミックス材料、電子材料など新しい工業材料として多岐にわたる用途に利用することが可能である。
本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物は、公知の手法により製造することが可能である。具体的には、YAGと同様に、公知の固相反応を用いて合成することができる。
まず、普遍的なセラミックス原料粉末である希土類酸化物(Sc2O3、Y2O3、La2O3、CeO2、Pr6O11、Eu2O3、Gd2O3、Tb4O7、Lu2O3)を準備する。さらに、アルカリ土類炭酸塩(CaCO3)、Al2O3、Ga2O3、ZrO2、HfO2などを準備する。次に、所望の無機酸化物の化学量論的組成又はこれに近い組成となるように原料粉末を調合し、乳鉢やボールミルなどを用いて十分に混合する。その後、アルミナるつぼなどの焼成容器を用いて、電気炉などにより混合原料を焼成することで、本実施形態の無機酸化物を調製することができる。なお、混合原料を焼成する際には、大気中又は弱還元雰囲気下、1500〜1700℃の焼成温度にて数時間加熱することが好ましい。
[希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体]
次に、本発明の実施形態に係る希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体を説明する。
本実施形態に係る蛍光体は、希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物又は固溶体を含有している。そして、当該蛍光体は、希土類アルミニウムガーネットタイプ無機酸化物又は固溶体を結晶の主骨格をなしていることが好ましい。つまり、上述の無機酸化物は、後述するように無機酸化物自体が蛍光を放つ機能を有するため、本実施形態の蛍光体は当該無機酸化物の性質を専ら利用するものである。換言すると、本実施形態の蛍光体は、上記無機酸化物又は固溶体を主体にしてなり、蛍光を放つ化合物である。
一般に蛍光体は、化合物の結晶を構成する元素の一部を、蛍光を放つイオンとなる元素で置換した化合物を指す。このような特性を持つイオンは、通常「発光中心」と呼ばれる。そして上述のように、本実施形態の無機酸化物は、少なくともカルシウム(Ca)と、所定量以上のテルビウム(Tb)と、ジルコニウム(Zr)及び/又はハフニウム(Hf)と、アルミニウム(Al)と、酸素(O)とを結晶の構成元素として含む。Tbは、緑色光を放つ発光中心として知られるTb3+を形成し得る元素である。またTb3+は、高濃度にしても消光しにくく、濃度消光の小さな発光中心として知られるイオンである。さらに、Tb3+はEu3+へとエネルギーを伝達し、Eu3+の発光を可能にする増感剤としての機能を持つイオンである。そのため、本実施形態の無機酸化物及びそれを含有する固溶体は、無機酸化物自体が蛍光を放つ機能を有している。つまり、本実施形態の蛍光体は、少なくともTb3+又はEu3+が発光中心となり、Tb3+又はEu3が蛍光成分を放つ特性を有する。
従来より発光装置用として広く利用され、Tb3+を付活した緑色蛍光体としては、Y3Ga2(AlO4)3:Tb3+、Y2SiO5:Tb3+などが存在する。また緑色蛍光体としては、(La,Ce)PO4:Tb3+、CeMgAl11O19:Tb3+、(Gd,Ce)MgB5O10:Tb3+なども存在する。そして、本実施形態の蛍光体におけるTb3+が発光中心として機能する場合には、従来のTb3+付活緑色蛍光体などと同等の発光スペクトルを有する緑色蛍光体を実現することが可能となる。
また、従来より発光装置用として広く利用され、Eu3+を付活した赤色蛍光体としては、Y2O3:Eu3+、Y2O2S:Eu3+、Y(P,V)4:Eu3+などが存在する。そして、本実施形態の蛍光体におけるEu3+が発光中心として機能する場合には、従来のEu3+付活赤色蛍光体などと同等の発光スペクトルを有する赤色蛍光体を実現することが可能となる。
このように、本実施形態の無機酸化物は、それ自体が少なからず蛍光を放つ機能を備えている。しかしながら、より高効率の蛍光体を得る観点から、次のように改変することが好ましい。
例えば、Fe、Co、Ni、V、Cu、Cr及びTiなどの遷移金属は、蛍光体の発光強度の低下を誘引するイオンを形成する元素として知られている。そして、このようなイオンは通常キラーセンターと呼ばれている。そのため、本実施形態の蛍光体では、これら遷移金属を含まないことが好ましい。
また、本実施形態の蛍光体は、前記無機酸化物又は固溶体に発光中心となるイオンを含ませることがより好ましい。つまり、本実施形態の無機酸化物及びそれを含有する固溶体は、発光中心又は増感剤としてのTb3+を少なくとも含むものである。ただ、蛍光体をより高効率に発光させる場合、又は発光色を変える場合には、Tb3+に加え、他の発光中心を添加することが好ましい。また、仮にTb3+が蛍光を放射しない場合であっても、Tb3+以外の発光中心イオンが蛍光を放射するのであれば、本発明の技術的範囲に包含される。
Tb3+以外の発光中心としては、蛍光体の母体として機能する化合物、すなわち上記無機酸化物及び固溶体の結晶中で、電子エネルギー遷移によって蛍光を放ち得るイオンであればよい。具体的には、ns2形イオン発光中心と呼ばれるSn2+、Sb3+、Tl+、Pb2+及びBi3+や、遷移金属イオン発光中心と呼ばれるCr3+,Mn4+,Mn2+及びFe3+の少なくとも一つを使用することが好ましい。また、希土類イオン発光中心と呼ばれるCe3+、Pr3+、Nd3+、Sm3+、Eu3+、Gd3+、Dy3+、Ho3+、Er3+、Tm3+、Yb3+、Sm2+、Eu2+及びYb2+の少なくとも一つを使用することも好ましい。
なお、本実施形態の蛍光体における発光中心は、Tb3+並びにMn4+、Mn2+、Ce3+、Pr3+及びEu3+から選ばれる少なくとも一つのイオンであることがより好ましい。この場合、用途が多い可視光成分、すなわち青、青緑、緑、黄、橙、赤、白を放つ蛍光体を容易に得ることが可能となる。発光中心は、Tb3+並びにMn2+、Ce3+、Pr3+及びEu3+から選ばれる少なくとも一つのイオンであることが特に好ましい。この場合、表示装置や照明装置用としての用途がより多い、青緑色光、緑色光、橙色光、赤色光又は白色光を放つ蛍光体を得ることが可能となる。
上述のように、本実施形態の蛍光体においては、Tb3+だけでなくTb3+とは別の発光中心、特にCe3+、Pr3+、Eu3+及びMn2+から選ばれる少なくとも一つのイオンを付活剤として含むことが好ましい。例えば、Ce3+は発光中心として作用するだけでなく、Tb3+の増感剤としても作用し、輝線状の緑色成分を持つTb3+の発光強度を増すことができる。また、Ce3+は前記無機酸化物及び固溶体の結晶格子中に存在する場合、短波長可視光を吸収する機能も持つ。そのため、本実施形態の蛍光体では、Tb3+だけでなく、さらにCe3+を含ませることがより好ましい。これにより、蛍光体の励起スペクトルは、Ce3+による励起帯を持つようになる。そして、短波長可視光をCe3+が吸収し、Ce3+が吸収した光エネルギーを効率よくTb3+に移動させるため、短波長可視光を輝線状の緑色光へ波長変換することが可能となる。
また、Ce3+はPr3+の増感剤としても作用し、輝線状の赤色成分を持つPr3+の発光強度を増すことができる。そのため、本実施形態の蛍光体では、Tb3+及びCe3+だけでなく、Pr3+を含ませることも好ましい。これにより、Tb3+だけでなく、Pr3+の発光成分も放つ蛍光体を得ることが可能となる。つまり、短波長可視光を、Tb3+による輝線状の緑色光とPr3+による輝線状の赤色光とに効率よく波長変換することが可能となる。
さらに、Ce3+はMn2+の増感剤としても作用し、スペクトル幅の広い橙色成分を持つMn2+の発光強度を増すことができる。そのため、本実施形態の蛍光体では、Tb3+及びCe3+だけでなく、Mn2+を含ませることも好ましい。これにより、Tb3+だけでなくMn2+の発光成分も放つ蛍光体を得ることが可能となる。
一方で、Tb3+は発光中心として作用するだけでなく、Eu3+にエネルギーを伝達する媒体、つまりEu3+の増感剤としても作用する。そのため、本実施形態の蛍光体では、Tb3+とは別の発光中心となる共付活剤として、Eu3+をさらに含有することも好ましい。これにより、蛍光体を構成する無機酸化物又は固溶体に含まれるTb3+だけでなく、Eu3+の発光成分も放つことが可能となる。
また、Tb3+からEu3+へのエネルギー伝達は効率よく行われるため、少量のEu3+の添加によって、輝線状の赤色成分を含有する発光を得ることができる。そして、例えば、蛍光体1モル中のEuの原子数がTbの原子数よりも少ない組成物であっても、実質的にEu3+だけの蛍光成分を放出させることが可能となる。つまり、本実施形態の蛍光体は、少なくともEu3+が発光中心となり、Eu3+が蛍光成分を放つ特性を有するものとすることもできる。
なお、上述のように、本実施形態の蛍光体において、Tb3+だけでなくCe3+を含有させた場合、短波長可視光をCe3+が吸収し、Ce3+が吸収した光エネルギーを効率よくTb3+に移動させることができる。このため、Tb3+とEu3+を含む蛍光体において、さらにCe3+を含ませると、短波長可視光をCe3+が吸収し、Ce3+が吸収した光エネルギーを効率よくTb3+に移動させることができる。加えて、Tb3+に移動させた当該光エネルギーを、効率よくEu3+にも移動させることができる。このため、Ce3+が吸収した短波長可視光を、Tb3+を介してEu3+に移動させることによって、輝線状の赤色光へ波長変換することが可能となる。そして、この場合でも、Eu3+による輝線状の赤色光を放つ蛍光体の励起スペクトルは、Ce3+による励起帯を持つ形状となる。
このように、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体は、Tbを含む前記無機酸化物又は固溶体に、上述の発光中心を含有することが好ましい。これにより、前記無機酸化物及び固溶体は、外部刺激、例えば粒子線(α線、β線、電子線)や電磁波(γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光線)の照射などによって容易に励起され、蛍光を放つことが可能となる。なお、本実施形態の蛍光体から放出される蛍光は、紫外線、可視光線及び赤外線から選ばれるいずれかの電磁波であれは、後述する発光装置用として用いることができるが、実用面で好ましい蛍光は可視光である。放出される蛍光が可視光であれば、表示装置や照明装置用の発光装置として広範囲に利用できるものになる。
そして、上述のように、本実施形態の蛍光体は、Tb以外の希土類元素として、結晶格子中にCe、Pr、Eu、Mnを含むことが好ましい。これにより、紫〜青色光の短波長可視光を照射した場合、Tb3+の発光成分に、Ce3+、Pr3+、Eu3+及びMn2+の少なくとも一つの発光成分が加わった光を放つ蛍光体を得ることができる。その結果、本実施形態の蛍光体では、発光色の色調を任意に制御することが可能となる。
なお、Ce3+を含む蛍光体は、程度の差こそあれ、通常Ce3+の発光成分が認められることが多い。本実施形態の蛍光体がCeを含有する場合、Ce3+による蛍光成分の主体は、430nm以上550nm未満の波長領域にある。そして、当該蛍光体の発光スペクトルにおける、例えば波長520nmの強度は、発光スペクトルの強度最大値の30%より小さくすることができ、特に10%よりも小さくすることができる。このことは、当該蛍光体では、Ce3+による青緑色蛍光成分の割合が低く、Tb3+による緑色蛍光成分の割合又はEu3+による赤色蛍光成分の割合を多くすることができることを意味している。
また、本実施形態の蛍光体がEuを含有する場合、Tb3+の発光成分が実質的に認められないことがある。このことは、当該蛍光体では、Tb3+からEu3+へのエネルギー伝達が効率よく行われることを意味する。
上述のように、蛍光体となる無機酸化物1モルあたり、Tbのモル数は0.1モル以上1個未満の原子数である。そして、前記付活剤として蛍光体中に含ませる元素のモル数は、無機酸化物のモル数よりも少なく、無機酸化物1モルあたり、0.01モル以上0.3モル未満であることが好ましい。
上述のように、本実施形態の蛍光体は、短波長可視光によって励起可能であることが好ましい。当該短波長可視光としては、380nm以上470nm未満の範囲内にある光が好ましい。特に、短波長可視光としては、380nm以上420nm未満の範囲内に分光分布の最大値を持つ紫色光、又は420nm以上470nm未満の範囲内に分光分布の最大値を持つ青色光のいずれかであることが好ましい。これによって、後述するように、固体発光素子と組み合わせた発光装置の提供が容易になる。
また、本実施形態の蛍光体は、放出する光の発光スペクトルが535nm以上560nm未満、特に540nm以上555nm未満の範囲内に最大値を持つことが好ましい。光の見た目の明るさは視感度に依存し、人の目の視感度は555nmに最大値を持つ。そして、光のエネルギー強度が等しくとも上記範囲内にある緑色光は相対的に明るく感じることから、この範囲内に最大値を持つことにより視認性のよい蛍光体を得ることができる。
さらに本実施形態の蛍光体は、535nm以上560nm未満の範囲内における発光スペクトルの半値幅(FWHM)が、3nm以上30nm未満であることが好ましい。特に、535nm以上560nm未満の範囲内における発光スペクトルの1/5スペクトル幅が3nm以上30nm未満であることがより好ましく、1/10スペクトル幅が3nm以上30nm未満であることが特に好ましい。また当該蛍光体は、535nm以上560nm未満の範囲内における発光スペクトルの半値幅が10nm以上20nm未満であることが好ましく、発光スペクトルの1/5スペクトル幅又は1/10スペクトル幅も15nm以上25nm未満であることが好ましい。このような発光スペクトルは、輝線状の緑色光成分を有するものであり、視感度の高い波長領域に光成分が集中している。そのため、このような蛍光体は、緑色の色純度が良好で明るさが際立つ光成分を放つことが可能となる。なお、1/5スペクトル幅及び1/10スペクトル幅は、発光スペクトルの強度最大値を1として、その強度が、各々1/5及び1/10の強度となる位置における前記発光スペクトルの幅を指す。
ここで、本実施形態の蛍光体において、発光スペクトルにおける波長575nmの強度は、発光スペクトルの強度最大値の10%、特に5%よりも小さいことが好ましい。さらに、当該蛍光体がCe3+及びTb3+を含有し、Ce3+及びTb3+の両方の発光成分を放出する場合、発光スペクトルは、450nm以上500nm未満の範囲内の最大強度が、Tb3+による主輝線の最大強度の50%よりも小さいという特徴を有する。ここで、Tb3+による主輝線とは、535nm以上560nm未満の範囲内に最大値を持つ輝線をいう。
一方で、本実施形態の蛍光体は、発光スペクトルが600nm以上628nm未満、特に600nm以上620nm未満の範囲内に最大値を持つことも好ましい。赤色光成分の割合の多い光は、暖色系の光となることから、この範囲内に最大値を持つことにより、従来から好まれてきた白熱電球に近い光を放つ蛍光体を得ることができる。
ここで、本実施形態の蛍光体は、柘榴石構造を持ち、テルビウム(Tb)とセリウム(Ce)とを含有する、単相の化合物からなる蛍光体とすることができる。また、本実施形態の蛍光体は、柘榴石構造を持ち、テルビウム(Tb)とセリウム(Ce)とユーロピウム(Eu)とを含有する、単相の化合物からなる蛍光体とすることができる。そして、Ce3+を含有する本実施形態の蛍光体において、励起スペクトルはCe3+の吸収によるブロードな励起帯を有し、当該励起帯は400nm以上460nm未満の範囲内にピークを持つものになる。
また、本実施形態の蛍光体において、Tb3+とCe3+とを含有する蛍光体、又はTb3+とCe3+とEu3+とを含有する蛍光体の発光スペクトルは、Tb3+及びEu3+の少なくともいずれか一方による蛍光成分を有するものになる。そして、当該発光スペクトルにおける、例えば波長575nmの強度は、発光スペクトルの強度最大値の10%、特に5%よりも小さいことが好ましい。さらに、当該発光スペクトルにおける、例えば波長520nmの強度は、発光スペクトルの強度最大値の30%、特に10%よりも小さいことが好ましい。このような蛍光体は、紫色又は青色光を放出する固体発光素子と組み合わせることにより、Tb3+に由来する輝線状の緑色蛍光成分及び/又はEu3+に由来する輝線状の赤色蛍光成分を放出する光源を提供することが可能となる。
このように本実施形態の蛍光体は、発光中心として、少なくともCe3+とTb3+とを含有する蛍光体とすることができる。そして、当該蛍光体の励起スペクトルはCe3+の吸収によるブロードな励起帯を有し、前記励起帯は400nm以上460nm未満の範囲内にピークを有することが好ましい。さらに、前記蛍光体の発光スペクトルは、Tb3+による緑色蛍光成分を放出し、前記発光スペクトルにおける波長520nmの発光強度は、発光スペクトルの最大値の30%よりも小さいことが好ましい。
また本実施形態の蛍光体は、発光中心として、少なくともCe3+とTb3+とEu3+とを含有する蛍光体とすることができる。そして、当該蛍光体の励起スペクトルはCe3+の吸収によるブロードな励起帯を有し、前記励起帯は400nm以上460nm未満の範囲内にピークを有することが好ましい。さらに前記蛍光体の発光スペクトルは、Tb3+による緑色蛍光成分及び/又はEu3+による赤色蛍光成分を放出し、前記発光スペクトルにおける波長520nmの発光強度は、発光スペクトルの最大値の30%よりも小さいことが好ましい。
なお、上記蛍光体の発光スペクトルは、Tb3+及び/又はEu3+による蛍光成分と、Ce3+による蛍光成分とが重なり合った形状を有するものになることもある。この場合、Ce3+による蛍光成分の主体は、430nm以上550nm未満の波長領域に位置するものとなる。
また、Tb3+とEu3+とを含有する上記蛍光体は、Tb及びEuの含有量を調整することにより、Tb3+の蛍光成分を放出し、Eu3+の蛍光成分を放出しない蛍光体とすることもできる。さらに、当該蛍光体は、Tb3+とEu3+の両方の蛍光成分を放出する蛍光体とすることもできる。そして、Tb3+とEu3+とを含有する上記蛍光体は、Eu3+の蛍光成分を放出し、さらにTb3+の蛍光成分における強度最大値は、Eu3+の蛍光成分における強度最大値の10%未満とすることもできる。また、Tb3+とEu3+とを含有する上記蛍光体において、発光スペクトルは、Tb3+による緑色蛍光成分又はEu3+による赤色蛍光成分が発光スペクトルの最大値となるようにすることも可能である。
上述のように、ユーロピウムを含み、Eu3+の蛍光成分を放つ本実施形態の蛍光体では、Tb3+からEu3+へのエネルギー伝達が効率よく生じる。そのため、蛍光体に含有されるユーロピウムの原子数がテルビウムの原子数よりも少ない場合であっても、輝線状の赤色蛍光成分を効率よく発光することができる。
本実施形態の蛍光体は、上記無機酸化物が蛍光体として機能することを特徴としている。そして、前記テルビウム化合物と前記ユーロピウム化合物の少なくとも二種類の化合物を端成分とする固溶体からなる蛍光体では、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する蛍光成分を少なくとも放出することができる。さらに、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する蛍光成分を放出することもできる。
なお、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する蛍光成分に関し、Eu3+に由来する蛍光成分の主輝線は、600nm以上628nm未満の波長範囲内にあることが好ましい。そして、700nm以上720nm未満の波長範囲内にある輝線の最大高さは、前記主輝線の最大高さの60%未満、特に40%未満とすることが好ましい。なお、前記Eu3+の電子エネルギー遷移は、Eu3+の4f6電子による5D0→7Fj遷移をいう。
上述のように、本実施形態の蛍光体は、発光中心として少なくともテルビウムイオン(Tb3+)を含有している。ただ、発光中心としては、テルビウムイオン(Tb3+)だけでなく、セリウムイオン(Ce3+)も含有することが好ましく、必要に応じてユーロピウムイオン(Eu3+)を含有していることが好ましい。この場合、当該蛍光体の発光スペクトルは、後述の図10,図11及び図13に示す特徴的な形状を有する。ここで本実施形態の蛍光体が図10,図11及び図13の特徴的なスペクトルを示すメカニズムについて説明する。
一般に、Ce3+付活蛍光体は吸収した光を長波長の光に変換し、その変換光は幅の広い分光分布を持つことが知られている。それに対して、Tb3+付活蛍光体又はEu3+付活蛍光体は吸収した光を長波長の光に変換するが、その変換光は複数の輝線からなる。Tb3+付活蛍光体の場合は、発光スペクトルにおける540nm以上560nm未満の波長領域に強度最大値を持つことが知られている。また、Eu3+付活蛍光体の場合は、発光スペクトルにおける580nm以上650nm未満の波長領域に強度最大値を持つことが知られている。
また、例えばCe3+とTb3+の両方を付活した蛍光体では、共鳴伝達と呼ばれるメカニズムによって、Ce3+が吸収したエネルギーの少なくとも一部がTb3+へ移動することも知られている。共鳴伝達によるエネルギー移動が生じるためには、通常、Ce3+の発光スペクトルとTb3+の吸収スペクトルが重なっている必要がある。そして従来より、このCe3+からTb3+へのエネルギー伝達を利用して、ランプ用の緑色蛍光体が開発されている。このような緑色蛍光体としては、例えば、(La,Ce,Tb)PO4、(Ce,Tb)MgAl11O19、及び(Gd,Ce,Tb)MgB5O10が挙げられる。ただし、当該ランプ用の緑色蛍光体の場合、励起スペクトルのピークは254nm付近にあり、Ce3+の発光成分のピークは450nm未満の波長域に位置する。
なお、Ce3+からTb3+への共鳴伝達については、Ce3+が波長450nm以上500nm以下の青乃至青緑色光を放つときであっても、Ce3+の発光スペクトルとTb3+の吸収スペクトルとは重なりを持つことができる。そのため、原理的にCe3+からTb3+へのエネルギー伝達が可能である。つまり、450nm以上500nm以下の範囲に発光ピークを持つCe3+付活蛍光体にTb3+を共付活した場合であっても、Ce3+の発光スペクトルとTb3+の吸収スペクトルとが重なりを持つため、Ce3+からTb3+への共鳴伝達が生じる。さらにTb3+の濃度が高い場合には、Tb3+とCe3+の間のイオン間距離が近くなるため、Ce3+が吸収したエネルギーの殆ど全てがTb3+に移動し、Tb3+に起因する線状の発光が主体として現れる。また、Tb3+の濃度が低い場合であっても、Ce3+が吸収したエネルギーの多くがTb3+に移動する。そのため、Ce3+に起因する450nm以上500nmにピークを有するブロードな発光成分と、Tb3+に起因する540nm以上560nm未満の線状の発光成分とが認められるようになる。
一方で、例えば、Tb3+とEu3+の両方を付活した蛍光体でも、共鳴伝達によってTb3+からEu3+へとエネルギー移動することが知られている。なお、一般に、Tb3+の発光スペクトルとEu3+の吸収スペクトルとの重なりは小さいことが知られている。そこで、Tb3+からEu3+へのエネルギー伝達確率を上げるには、Tb3+とEu3+の距離が短くなるように、いずれか一方の蛍光体中の含有量を高める必要が生じる。
このようにCe3+からTb3+へは共鳴伝達が生じ、Tb3+からEu3+へも共鳴伝達が生じる。このために、Ce3+とTb3+とEu3+とを一緒に付活した蛍光体においては、Ce3+からTb3+、さらにはTb3+からEu3+へのエネルギー伝達によって、Tb3+を媒体としてCe3+からEu3+へのエネルギー伝達が生じることになる。
本実施形態の蛍光体の場合では、このメカニズムにより、450nm以上500nm未満にピークを有し、比較的強度が小さいCe3+のブロードな発光成分にTb3+及び/又はEu3+の発光成分が重畳する。その結果、535nm以上560nm未満及び/又は580nm以上650nm未満の波長領域に、線状の発光ピークを有する特徴的な発光スペクトルを示す。
さらにCe3+は発光中心として作用するだけでなく、Tb3+の増感剤としても作用し、輝線状の緑色成分を持つTb3+の発光強度を増すことができる。また、Tb3+は発光中心として作用するだけでなく、Eu3+の増感剤としても作用し、輝線状の赤色成分を持つEu3+の発光強度を増すことができる。一方で、Ce3+は、無機酸化物の結晶格子中に存在する場合、短波長可視光を吸収する機能も持つ。そのため、本実施形態の蛍光体では、Ce3+とTb3+と、必要に応じてEu3+とを共存させることにより、短波長可視光をCe3+が吸収し、Ce3+が吸収した光エネルギーを効率よくTb3+及び/又はEu3+に移動させる。その結果、短波長可視光を輝線状の緑色光及び/又は輝線状の赤色光へ波長変換することが可能となる。
本実施形態の蛍光体は、上記した発光メカニズムによって発光することを特徴とする蛍光体であり、従来に無かった新たな機能を持つ蛍光体である。ここで、前記新たな機能とは、短波長可視の波長域、特に400nm以上460nm未満の波長域にCe3+によるブロードな励起ピークを持ち、Tb3+による緑色蛍光成分及び/又はEu3+による赤色蛍光成分を主発光成分として放出する機能を指す。
本実施形態の蛍光体は、380nm以上420nm未満の範囲内にある紫色光、及び420nm以上470nm未満の範囲内にある青色光の少なくともいずれか一方の光を吸収することが好ましい。これにより、470nm以上780nm以下の範囲内に発光スペクトルの最大値を持つ光に波長変換することができる。
なお、本実施形態の蛍光体は、水、有機溶剤、樹脂などの溶媒や水ガラスなどと適宜混合して、スラリー状、ペースト状、ゾル状、ゲル状としたものとして利用することができる。
上述のように、一般的な蛍光体は、母体として機能する化合物中に発光中心としての元素を少量添加し、その少量添加した元素が蛍光を放つものである。しかし、本実施形態に係る、例えばCa2(Tb,Ce)Zr2(AlO4)3やCa2(Tb,Ce,Eu)Zr2(AlO4)3等は、母体として機能する無機酸化物中に特定のイオンを少量添加してなる点は、一般的な蛍光体と類似している。しかし、本実施形態の蛍光体は、少量添加した特定のイオン(Ce3+イオン)によって、母体の結晶格子を形成するイオン(例えばTb3+イオン)が蛍光を放つようになるという従来にはない特性を有するものである。
[発光装置]
次に、本発明の実施形態に係る発光装置を説明する。本実施形態の発光装置は、上記希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体を備えることを特徴とする。上述のように、本実施形態の蛍光体は、短波長可視光で励起可能であり、かつ、狭帯域性の発光スペクトルの光を放出する。このため、本実施形態の発光装置では、短波長可視光を放つ発光素子と、上記蛍光体とを組み合わせることによって、狭帯域性の発光スペクトル成分を持つ光を出力することが可能となる。
本実施形態に係る発光装置は、発光する機能を備えた電子装置を広く包含するものであり、何らかの光を発する電子装置であれば特に限定されない。つまり、本実施形態の発光装置は、少なくとも本実施形態の蛍光体を利用しており、さらに当該蛍光体が放つ蛍光を少なくとも出力光として利用する発光装置である。
より詳細に説明すると、本実施形態の発光装置は、短波長可視光を放つ固体発光素子と、上記蛍光体とを組み合わせている。そして、当該蛍光体は、固体発光素子が放つ短波長可視光を吸収し、吸収した短波長可視光をそれよりも長波長の光に波長変換するものである。
さらに、蛍光体の励起スペクトルは、380nm以上470nm未満、特に400nm以上460nm未満の短波長可視域に極大値を持つことが好ましい。詳細には、220nm以上470nm未満、特に300nm以上470nm未満の範囲内で励起スペクトルを測定した場合、380nm以上470nm未満、特に400nm以上460nm未満の短波長可視域に励起スペクトルの最大値を持つことが好ましい。
また、蛍光体の発光スペクトルは、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分を含むことが好ましい。さらに、前記蛍光体の発光スペクトルは、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の半値幅、好ましくは1/5スペクトル幅、より好ましくは1/10スペクトル幅が3nm以上30nm未満であることが好ましい。そして、450nm以上500nm未満の発光スペクトル成分の最大強度が、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の最大強度の50%、特に40%よりも小さいことが好ましい。なお、Tb3+の電子エネルギー遷移は、Tb3+の4f8電子による5D4→7Fj遷移をいう。
一方、蛍光体の発光スペクトルは、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分を含むことも好ましい。また、前記蛍光体の発光スペクトルは、600nm以上628nm未満の範囲に発光スペクトルの最大値を有することもできる。つまり、蛍光成分の主輝線が、600nm以上628nm未満の波長範囲内にある赤色光とすることもできる。なお、Eu3+の電子エネルギー遷移は、Eu3+の4f6電子による5D0→7Fj遷移をいう。
従来より、蛍光体を利用する発光装置は数多くあり、例えば蛍光灯や電子管、プラズマディスプレイパネル(PDP)、白色LED、さらには蛍光体を利用する検出装置などがこれに該当する。広義には、蛍光体を利用する照明光源や照明装置、表示装置なども発光装置であり、レーザーダイオードを備えるプロジェクターやLEDバックライトを備える液晶ディスプレイなども発光装置とみなされる。ここで、本実施形態の発光装置は、蛍光体が放つ蛍光の種別によって分類できるため、この分類について説明する。
電子装置に利用される蛍光現象は、学術的に幾つかに区分されており、フォトルミネッセンス、カソードルミネッセンス、エレクトロルミネッセンスなどの用語で区別されている。
フォトルミネッセンス(photoluminescence)とは、蛍光体に電磁波を照射したときに蛍光体が放つ蛍光をいう。なお、「電磁波」という用語は、X線、紫外線、可視光及び赤外線などを総称して指す。カソードルミネッセンス(Cathodeluminescence)とは、蛍光体に電子線を照射したときに蛍光体が放つ蛍光をいう。また、エレクトロルミネッセンス(electroluminescence)とは、蛍光体に電子を注入したり電界をかけたりしたときに放つ蛍光をいう。原理的にフォトルミネッセンスに近い蛍光として、サーモルミネッセンス(thermoluminescence)という用語もあるが、これは蛍光体に熱を加えたときに蛍光体が放つ蛍光をいう。また、原理的にカソードルミネッセンスに近い蛍光として、ラジオルミネッセンス(radioluminescence)という用語もあるが、これは蛍光体に放射線を照射したときに蛍光体が放つ蛍光をいう。
先に説明したように、本実施形態の発光装置は、上述の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体が放つ蛍光を少なくとも出力光として利用するものである。そして、ここでいう蛍光は少なくとも上述のように区分することができるから、当該蛍光は、上記ルミネッセンスから選ばれる少なくとも一つの蛍光現象として置き換えることができる。
なお、蛍光体のフォトルミネッセンスを出力光として利用する発光装置の典型例としては、X線イメージインテンシファイア、蛍光灯、白色LED、蛍光体とレーザーダイオードを利用する半導体レーザープロジェクター及びPDPが挙げられる。また、カソードルミネッセンスを出力光とする発光装置の典型例としては、電子管、蛍光表示管及びフィールドエミッションディスプレイ(FED)が挙げられる。さらに、エレクトロルミネッセンスを出力光とする発光装置の典型例としては、無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(無機EL)、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)及び有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)が挙げられる。そして、本実施形態の蛍光体からのエレクトロルミネッセンスを利用する発光装置としては、例えば無機エレクトロルミネッセンスディスプレイを挙げることができる。
以下、図面を参考に本実施形態の発光装置を説明する。図1は、本実施形態に係る発光装置の概略を示す。図1(a)及び(b)において、励起源1は、本実施形態の蛍光体2を励起するための一次光を生成する光源である。励起源1は、α線、β線、電子線などの粒子線や、γ線、X線、真空紫外線、紫外線、可視光(特に紫色光や青色光などの短波長可視光)などの電磁波を放つ放射装置を用いることができる。また励起源1としては、各種の放射線発生装置や電子ビーム放射装置、放電光発生装置、固体発光素子、固体発光装置なども用いることができる。励起源1の代表的なものとしては、電子銃、X線管球、希ガス放電装置、水銀放電装置、発光ダイオード、半導体レーザーを含むレーザー光発生装置、無機又は有機のエレクトロルミネッセンス素子などが挙げられる。
また、図1(a)及び図1(b)において、出力光4は、励起源1が放つ励起線、又は励起光3によって励起された蛍光体2が放つ蛍光である。そして出力光4は、発光装置において照明光や表示光として利用されるものである。
図1(a)では、励起線又は励起光3を蛍光体2に照射する方向に、蛍光体2からの出力光4が放出される構造の発光装置を示す。なお、図1(a)に示す発光装置としては、白色LED光源や蛍光ランプ、電子管などが挙げられる。一方、図1(b)では、励起線又は励起光3を蛍光体2に照射する方向とは逆の方向に、蛍光体2からの出力光4が放出される構造の発光装置を示す。図1(b)に示す発光装置としては、プラズマディスプレイ装置や反射板付き蛍光体ホイールを利用する光源装置、プロジェクターなどが挙げられる。
本実施形態の発光装置の具体例として好ましいものは、蛍光体を利用して構成した半導体発光装置、照明光源、照明装置、LEDバックライト付き液晶パネル、LEDプロジェクター、レーザープロジェクターなどである。そして特に好ましい発光装置は、短波長可視光によって蛍光体を励起する構造を持ち、短波長可視光は固体発光素子が放つようにした構造を有するものである。
以下、本実施形態に係る発光装置としての半導体発光装置、及びプロジェクター用の光源装置の具体例を詳細に説明する。
<半導体発光装置>
図2は、本実施形態に係る発光装置の具体例である半導体発光装置を模式的に示す断面図である。図2は断面図であるが、図面の見易さを考慮して透光性樹脂10の断面を示すハッチングは省略している。
図2において、基板5は、固体発光素子6を固定するための基台となるものである。そして、基板5は、Al2O3及びAlNなどのセラミックス、Al及びCuなどの金属、並びにガラス、シリコーン樹脂及びフィラー入りシリコーン樹脂などの樹脂から構成される。
また、基板5上には配線導体7が設けられ、固体発光素子6の給電電極8と配線導体7とを、金線などを用いて電気的に接続することによって、固体発光素子6に給電している。
一次光を生成する光源である固体発光素子6は、直流、交流及びパルスの中から選ばれる少なくともいずれかの電圧を印加する電力供給によって、電気エネルギーを近紫外線、紫色光又は青色光などの光エネルギーに変換する電光変換素子である。固体発光素子6としては、LED、LD、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機EL素子などを用いることができる。特に、高出力かつ狭スペクトル半値幅の一次光を得るためには、固体発光素子6はLED又はLDが好ましい。なお、図2は、固体発光素子6を、InGaN系化合物を発光層とするLEDとした場合の構成を示している。
波長変換層9は、蛍光物質からなる蛍光体2を含み、固体発光素子6が放つ一次光を、相対的に長波長側に移動した光に波長変換する。また、図2に示すように、波長変換層9は、側壁11により囲まれており、さらに本実施形態に係る蛍光体の粒子が透光性樹脂10中に分散している。なお、本実施形態の半導体発光装置における波長変換層9としては、樹脂蛍光膜、透光性蛍光セラミックス、蛍光ガラスなどに蛍光体を含ませて構成することもできる。
波長変換層9には、蛍光体2として本実施形態に係る蛍光体を単独で使用することもできるが、必要に応じて、本実施形態に係る蛍光体とは異なる蛍光体を含むようにしてもよい。また、発光色又は組成のいずれかの面で異なる希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体を複数種組み合わせて用いるようにしてもよい。
波長変換層9に用いることができる、本実施形態の蛍光体とは異なる蛍光体としては、固体発光素子6が放つ一次光を吸収して相対的に長波長側に移動した光に波長変換する蛍光体であれば、特に限定されない。発光色として、青色光、緑青光、青緑色光、緑色光、黄色光、橙色光、赤色光を放つ各種の蛍光体から適宜選択して、半導体発光装置が所望の色の出力光を放つようにすることができる。
固体発光素子6をLED又はLDとした場合の半導体発光装置用の蛍光体としては、本実施形態の蛍光体のみならず、Eu2+又はCe3+の少なくともいずれかで付活した酸化物や酸ハロゲン化物などの酸化物系蛍光体を用いることができる。また、蛍光体としては、Eu2+又はCe3+の少なくともいずれかで付活した窒化物や酸窒化物などの窒化物系蛍光体、又は硫化物や酸硫化物などの硫化物系蛍光体を用いることができる。
具体的には、青色蛍光体として、BaMgAl10O17:Eu2+、CaMgSi2O6:Eu2+、Ba3MgSi2O8:Eu2+、Sr10(PO4)6Cl2:Eu2+などが挙げられる。緑青又は青緑色蛍光体として、Sr4Si3O8Cl4:Eu2+、Sr4Al14O24:Eu2+、BaAl8O13:Eu2+、Ba2SiO4:Eu2+が挙げられる。さらに緑青又は青緑色蛍光体として、BaZrSi3O9:Eu2+、Ca2YZr2(AlO4)3:Ce3+、Ca2YHf2(AlO4)3:Ce3+、Ca2YZr2(AlO4)3:Ce3+,Tb3+が挙げられる。緑色蛍光体として、(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+、Ca8Mg(SiO4)4Cl2:Eu2+、Ca8Mg(SiO4)4Cl2:Eu2+,Mn2+が挙げられる。また、緑色蛍光体として、BaMgAl10O17:Eu2+,Mn2+、CeMgAl11O19:Mn2+、Y3Al2(AlO4)3:Ce3+、Lu3Al2(AlO4)3:Ce3+が挙げられる。さらに緑色蛍光体として、Y3Ga2(AlO4)3:Ce3+、Ca3Sc2Si3O12:Ce3+、CaSc2O4:Ce3+、β−Si3N4:Eu2+、SrSi2O2N2:Eu2+が挙げられる。緑色蛍光体として、Ba3Si6O12N2:Eu2+、Sr3Si13Al3O2N21:Eu2+、YTbSi4N6C:Ce3+、SrGa2S4:Eu2+が挙げられる。緑色蛍光体として、Ca2LaZr2(AlO4)3:Ce3+、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+,Pr3+が挙げられる。黄又は橙色蛍光体として、(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+、(Y,Gd)3Al5O12:Ce3+、α−Ca−SiAlON:Eu2+が挙げられる。黄又は橙色蛍光体として、Y2Si4N6C:Ce3+、La3Si6N11:Ce3+、Y3MgAl(AlO4)2(SiO4):Ce3+が挙げられる。赤色蛍光体としては、Sr2Si5N8:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、SrAlSi4N7:Eu2+、CaS:Eu2+、La2O2S:Eu3+、Y3Mg2(AlO4)(SiO4)2:Ce3+が挙げられる。
なお、利用する蛍光体を全て酸化物とすることで、低コストな半導体発光装置を実現することができる。
上述のように、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体は、380nm以上470nm未満の波長領域内に励起スペクトルのピーク又は最大値を持つ。そのため、本実施形態に係る発光装置は、380nm以上470nm未満の波長領域内に発光ピークを持つ紫又は青色光を発する固体発光素子6と、本実施形態の蛍光体2を少なくとも含む波長変換層9とを備えることが好ましい。
なお、固体発光素子と蛍光体の好ましい組み合わせとしては、次のようなものが挙げられる。例えば、紫色固体発光素子に対して、青色蛍光体と緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせ、青緑色蛍光体と緑色蛍光体と黄色蛍光体との組み合わせ、青緑色蛍光体と緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせ、緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせが好ましい。また、紫色固体発光素子に対して、青緑色蛍光体と黄色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせ、黄色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせが好ましい。さらに、青色固体発光素子に対して、緑色蛍光体と黄色蛍光体との組み合わせ、緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせ、緑色蛍光体との組み合わせ、黄色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせなどが好ましい。
そして、これらの組み合わせのいずれかを用いて半導体発光装置を構成するか、又はこれらの組み合わせに基づく出力光を最終的に放つようにすることが好ましい。なお、本実施形態の半導体発光装置では、緑色蛍光体、青緑色蛍光体又は赤色蛍光体として、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体を用いるものである。
ただ、本実施形態の蛍光体は、少なくとも緑色光成分と赤色光成分とを共に放出する蛍光体とすることもできる。そのため、本実施形態の半導体発光装置では、上記した緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせを、本実施形態の蛍光体で置き換えることもできる。また、緑色蛍光体と赤色蛍光体との組み合わせの代わりに、本実施形態の蛍光体を単独で用いることもできる。なお、本実施形態の蛍光体を単独で用いる場合には、複数の蛍光体を使用する必要性がなくなるので、半導体発光装置の製造工程の簡略化を図ることが可能となる。
ここで、図2に示す半導体発光装置の製造方法の一例を説明する。まず、配線導体7を形成した基板5上に実装技術を用いて固体発光素子6を固定する。次に、ワイヤーボンディング技術等を用いて、固体発光素子6の給電電極8と配線導体7とを電気的に接続する。
一方で、シリコーン樹脂などの透光性樹脂10と蛍光体2とを十分に混合し、所定の粘度となるように調整した蛍光体ペーストを作製する。蛍光体ペースト中の蛍光体2の重量割合は、数%〜数10%程度となるようにする。その後、固体発光素子6上に蛍光体ペーストを滴下するなどして、固体発光素子6の光取り出し面を蛍光体ペーストで覆って、蛍光体ペーストを乾燥させるなどして固化する。これにより、波長変換層9が形成された半導体発光装置を得ることができる。
このようにして形成された半導体発光装置では、固体発光素子6に通電して所定の電力を供給すると、固体発光素子6が短波長可視光の一次光を発光する。つまり、固体発光素子6は、380nm以上420nm未満の範囲内に発光ピークを有する紫色光、又は420nm以上470nm未満の範囲内に発光ピークを有する青色光を発光する。この一次光は、蛍光体2によって、高い変換効率で青緑、緑色及び赤色の少なくともいずれか一つの光に波長変換される。
一次光は波長変換層9に含まれた蛍光体2に照射され、一部が蛍光体2に吸収される。蛍光体2に吸収された一次光は、蛍光体2によって、相対的に長波長側(低エネルギー側)に移動した光に波長変換される。そして、蛍光体2によって波長変換された光が透光性樹脂10を通り抜けて半導体発光装置から出射する。一方、蛍光体2に吸収されなかった一次光も、透光性樹脂10を通り抜けて半導体発光装置から出射される。この結果、半導体発光装置からは、蛍光体2による波長変換光と、蛍光体2に吸収されなかった一次光の両方が出射することになる。つまり、半導体発光装置からは、これら双方が加色混合された光成分が出力される。
なお、波長変換層9の厚みや光透過率、波長変換層9に含まれる蛍光体2の種類や混合割合、固体発光素子が放つ一次光の波長などは適宜調整できるものである。そのため、所望とする光源色や白色などの照明光が得られるように光源設計すればよい。なお一次光が全て蛍光体に吸収されて波長変換される場合もあり、この場合には半導体発光装置からの出射光は蛍光体で波長変換された光のみとなる。
ここで図3乃至6では、本実施形態の半導体発光装置が放つ出力光の分光分布の一例を示す。本実施形態の半導体発光装置は、上述の通り、固体発光素子によって、380nm以上470nm未満の波長領域内に発光ピークを有する紫又は青色の光成分を放出することが好ましい。さらに、当該半導体発光装置は、蛍光体によって535nm以上560nm未満、特に540nm以上555nm未満の波長領域内に発光ピークを有する緑色の光成分を放出することが好ましい。このため、図3乃至6に示される半導体発光装置では、380nm以上420nm未満の波長領域内に発光ピークを有する紫色の光成分12と、420nm以上470nm未満の波長領域内に発光ピークを有する青色の光成分13とを示している。さらに図3乃至6では、535nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色の光成分14を示している。
図3及び4は、昼光色相当となる相関色温度6700Kの三波長形の白色系出力光を放つようにした場合の分光分布を示している。そして、この分光分布では、固体発光素子として、紫色光を放つInGaN系化合物を発光層とするInGaN紫色LEDを用いている。なお、InGaN紫色LEDの出力ピーク波長は405nmである。さらに蛍光体として、Tb3+による緑色光を放つ希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体と、赤色蛍光体とを用いている。なお、図3及び図4は、赤色蛍光体として、各々Eu3+付活蛍光体を用いた場合とEu2+付活蛍光体を用いた場合とを示している。
図3に示す実線aは、InGaN紫色LEDと、青色光成分を放つEu2+付活蛍光体と、緑色光成分を放つ本実施形態の蛍光体と、赤色光成分を放つEu3+付活蛍光体(La2O2S:Eu3+)を組み合わせた場合の分光分布を示す。なお、青色光成分を放つEu2+付活蛍光体としては、BaMgAl10O17:Eu2+を用いており、450nm付近に発光ピークを持つ。また、本実施形態の蛍光体としては、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+を用いており、545nm付近に主発光ピークを持つ。さらに、赤色光成分を放つEu3+付活蛍光体としては、La2O2S:Eu3+を用いており、625nm付近に発光ピークを持つ。
また、図3に示す破線bは、参考例として、相関色温度6700Kの擬似白色の出力光を放つようにした場合の分光分布である。そして、この分光分布では、固体発光素子として、InGaN青色LED(出力ピーク波長:450nm)を用いている。さらに蛍光体として、555nm付近に発光ピークを持つ黄緑色光成分を放つYAG:Ce系蛍光体を用いている。
図3中に実線aとして示した白色系出力光は、平均演色評価数Raが87であるのに対し、破線bとして示した参考例の擬似白色の出力光はRaが77である。そのため、図3中に実線aで示した白色系出力光は、Raの数値が十分高く、自然光に近い照明光として利用できる。なお、図3中の実線aの白色系出力光は、高演色性と高効率を両立する光源として高い実績を持つ三波長形の蛍光ランプが放つ分光分布に類似している。そのため、本実施形態によれば、三波長形の蛍光ランプと遜色のない照明光を得ることができる。
一方、図4中の実線cは、InGaN紫色LEDと、青色光成分を放つEu2+付活蛍光体と、緑色光成分を放つ本実施形態の蛍光体と、赤色光成分を放つEu2+付活蛍光体とを組み合わせた場合の分光分布を示している。なお、青色光成分を放つEu2+付活蛍光体としては、BaMgAl10O17:Eu2+を用いており、450nm付近に発光ピークを持つ。また、本実施形態の蛍光体としては、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+を用いており、545nm付近に主発光ピークを持つ。さらに、赤色光成分を放つEu2+付活蛍光体としては、CaAlSiN3:Eu2+を用いており、650nm付近に発光ピークを持つ。なお、参考のため、図4中にも相関色温度が6700Kである擬似白色の出力光の分光分布(破線b)を示している。
図4中に実線cとして示した白色系出力光は、平均演色評価数Raが85であるのに対し、破線bとして示した参考例の擬似白色の出力光はRaが77である。そのため、図4中に実線cで示した白色系出力光は、Raの数値が十分高く、自然光に近い照明光として利用できる。
図5及び6の半導体発光装置は、固体発光素子として、紫色光を放つInGaN系化合物を発光層とするInGaN紫色LEDと、青色光を放つInGaN系化合物を発光層とするInGaN青色LEDの二つを備えている。ここで、InGaN紫色LEDの出力ピーク波長は405nmであり、InGaN青色LEDの出力ピーク波長は450nmである。そして、図5及び6は、Tb3+による緑色光を放つ本実施形態の蛍光体と赤色蛍光体とを用いて、昼光色相当となる相関色温度6700Kの三波長形の白色系出力光を放つようにした場合の分光分布を示している。なお、図5及び図6は、赤色蛍光体として、各々Eu3+付活蛍光体を用いた場合とEu2+付活蛍光体を用いた場合を示している。
図5に示す実線dは、InGaN紫色LEDと、InGaN青色LEDと、緑色光成分を放つ本実施形態の蛍光体と、赤色光成分を放つEu3+付活蛍光体とを組み合わせた場合の分光分布を示す。なお、本実施形態の蛍光体としては、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+を用いており、545nm付近に主発光ピークを持つ。また、赤色光成分を放つEu3+付活蛍光体としては、La2O2S:Eu3+を用いており、625nm付近に発光ピークを持つ。なお、参考のため、図5中にも相関色温度が6700Kである擬似白色の出力光の分光分布(破線b)を示している。
図5中に実線dとして示した白色系出力光は、平均演色評価数Raが86である。そのため、破線bとして示した参考例の擬似白色の出力光に比べてRaの数値が十分高いことから、図5中に実線dで示した白色系出力光は、自然光に近い照明光として利用できる。なお、図5中の実線dの白色系出力光も、三波長形の蛍光ランプが放つ分光分布に類似している。そのため、本実施形態によれば、三波長形の蛍光ランプと遜色のない照明光を得ることができる。
一方、図6中の実線eは、InGaN紫色LEDと、InGaN青色LEDと、緑色光成分を放つ本実施形態の蛍光体と、赤色光成分を放つEu2+付活蛍光体とを組み合わせた場合の分光分布を示している。なお、本実施形態の蛍光体としては、Ca2TbZr2(AlO4)3:Ce3+を用いており、545nm付近に主発光ピークを持つ。また、赤色光成分を放つEu2+付活蛍光体としては、CaAlSiN3:Eu2+を用いており、650nm付近に発光ピークを持つ。なお、参考のため、図6中にも相関色温度が6700Kである擬似白色の出力光の分光分布(破線b)を示している。
図6中実線eとして示した白色系出力光は、平均演色評価数Raが85である。そのため、破線bとして示した参考例の擬似白色の出力光に比べてRaの数値が十分高いことから、図6中に実線eで示した白色系出力光は、自然光に近い照明光として利用できる。
なお、図3乃至6中に実線で示した本実施形態に係る半導体発光装置の白色系出力光は、450nm付近の青色の波長領域と、540nm付近の緑色の波長領域と、620nm又は650nm付近の赤色の波長領域に各々ピークを持つ三波長形となる。そのため、赤緑青の強い光成分を利用して、広色域で高光出力の多色表示用光源として利用することができる。
また、図3及び5中に実線a及びdで示す白色系出力光は、450nmと550nmと620nm付近に、狭い分光分布の光成分を持つため、高出力化の面で有利である。つまり、図3及び5中に実線a及びdで示す白色系出力光は、図4及び図6中に実線c及びeで示す白色系出力光に対して、約25%の光束向上効果を持つ。なお、この光束向上効果は、総光子数が一定となるように調整した図3乃至6の分光分布に、視感度を考慮した算出式を用いることによって算出することができる。
このように、本実施形態の発光装置は、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体と、Eu3+付活蛍光体とを少なくとも用いることによって、一層高効率の発光装置とすることができる。
なお、図4及び6に係る半導体発光装置に用いられる、650nm付近に発光ピークを持つEu2+付活蛍光体としては、上述のようにCaAlSiN3:Eu2+を用いることができる。また、Eu2+で付活したニトリドシリケート系蛍光体(Sr2Si5N8:Eu2+など)や、Eu2+で付活したニトリドアルミノシリケート系蛍光体((Sr,Ca)AlSiN3:Eu2+、SrAlSi4N7:Eu2+など)も用いることができる。
また、図3及び5に係る半導体発光装置に用いられる、Eu3+付活赤色蛍光体としては、La2O2S:Eu3+を用いることができる。また、Eu3+の赤色蛍光成分を放出する本実施形態の蛍光体や、これ以外のEu3+付活赤色蛍光体も用いることができる。
ここで、先に説明したように、本実施形態の蛍光体は、Tb3+及びEu3+の蛍光成分を併せ持つものとすることもできる。このため、図3及び5に係る半導体発光装置に用いられる、Tb3+による緑色光を放つ蛍光体とEu3+付活蛍光体との組み合わせを、Tb3+及びEu3+の蛍光成分を併せ持つ本実施形態の蛍光体に置換することもできる。
このように、本実施形態の発光装置は、本実施形態の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体、特にTb3+及びEu3+の少なくともいずれか一方による蛍光を放つアルミニウムガーネットタイプ蛍光体を利用している。しかし、図3乃至6に示した分光分布を得る手段については、特に限定されるものではない。
つまり、図3及び4に示す分光分布は、紫色LEDと蛍光膜とを組み合わせ、蛍光膜が複数の蛍光体を含むようにした半導体発光装置により得ることができる。なお、当該蛍光体としては、例えば、青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体を組み合わせたものや、青色蛍光体と緑色蛍光成分及び赤色蛍光成分を放出する蛍光体とを組み合わせたものを使用することができる。また、図3及び4に示す分光分布は、紫色LEDと蛍光膜とで構成し、蛍光膜に含有される蛍光体が互いに異なる半導体発光装置を組み合わせることにより得ることができる。前者は構成の面で単純な半導体発光装置になり、後者は色調制御が容易な半導体発光装置になる。
また、図5及び6に示す分光分布は、紫色LEDと青色LEDと蛍光膜とを組み合わせ、さらに紫色LEDと青色LEDとが同時に蛍光膜中の蛍光体を励起するようにした半導体発光装置により得ることができる。なお、当該蛍光膜は、例えば、緑色蛍光体と赤色蛍光体とを組み合わせたものや、緑色蛍光成分と赤色蛍光成分とを放出する蛍光体を使用することができる。また、図5及び6に示す分光分布は、紫色LEDと蛍光膜とで構成した半導体発光装置、及び青色LEDと蛍光膜とで構成した半導体発光装置を予め準備し、これらの半導体発光装置を組み合わせることにより得ることができる。前者は製造が容易な半導体発光装置になり、後者は色調制御が容易な半導体発光装置になる。
以上説明したように、本実施形態に係る半導体発光装置は、紫色及び/又は青色の光を発する固体発光素子と、当該光を吸収して輝線状の緑色光成分及び/又は赤色光成分の光を放つ蛍光体とを組み合わせている。そのため、535nm以上560nm未満に発光ピークを有する輝線状の緑色光成分、又は600nm以上628nm未満に発光ピークを有する輝線状の赤色光成分のいずれかを少なくとも放つものになる。
ここで、前記輝線状の緑色光成分は、視感度が高い。そして、本実施形態の半導体発光装置は高光束の光と高出力の緑色光成分を放出できることから、表示装置における緑色画素の高輝度化を促すものになる。
一方、前記輝線状の赤色光成分は、赤色光の中でも比較的視感度が高い波長領域にスペクトルが集中している。そして、本実施形態の半導体発光装置は高光束の光と高出力の赤色光成分とを放出できることから、表示装置における赤色画素の高輝度化を促すものとなる。また、暖色系の光を放つ照明装置における高光束化を促すものにもなる。
なお、本実施形態の半導体発光装置は、照明光源用や液晶ディスプレイのバックライト用、表示装置用の光源など広く利用可能である。つまり上述のように、本実施形態の蛍光体は、従来における固体照明などで専ら利用する緑色蛍光体や赤色蛍光体とは異なり、輝線状の緑色光成分や赤色光成分を持つ光を放ち得る。そのため、当該蛍光体を照明光源等に用いた場合、高演色性かつ高効率の照明光源や、高輝度画面の広色域表示が可能な表示装置を提供することができる。
このような照明光源としては、本実施形態の半導体発光装置と、当該半導体発光装置を動作させる点灯回路と、口金など照明器具との接続部品とを組み合わせて構成することができる。また、必要に応じて照明器具を組み合わせれば、照明装置や照明システムを構成することにもなる。
表示装置としては、マトリックス状に配置した本実施形態の半導体発光装置と、これら半導体発光装置をON−OFFする信号回路とを組み合わせて構成することができる。また、表示装置としては、LEDバックライト機能付き液晶パネルを挙げることができる。つまり、当該表示装置は、本実施形態の半導体発光装置をライン状又はマトリックス状に配置してバックライトとして利用する。そして、バックライトと、バックライトを点灯する点灯回路又はバックライトをON−OFF制御する制御回路と、液晶パネルとを組み合わせて構成されるものである。
<光源装置>
図7は、本実施形態に係る発光装置の具体例である光源装置100を模式的に示す図である。図7において、蛍光板15は、本実施形態の蛍光体2を使用した蛍光板である。つまり蛍光板15は、基材16の片面に蛍光体2の層を形成してなるものである。また第一光源17aは、当該蛍光体を励起するための光源であり、例えば380nm以上470nm未満に発光ピークを持つ固体発光素子6である。そして、光源装置100では、図7に示すように、第一光源17aが放つ短波長可視光を、蛍光板15に形成した蛍光体2に直接又は間接的に照射するようにする。そして、蛍光体2によって波長変換された緑色又は赤色の光成分を出力する。
図7では第一光源17aを複数設けている。そして、第一光源17aが放つ短波長可視光は、反射ミラー18によって反射され、第一レンズ19aで集光された後、蛍光板15の片面に形成した蛍光体2に照射される。また、蛍光板15の蛍光体2を設けていない面には反射面20を設けられている。反射面20により、蛍光体2が放つ光成分(例えば、輝線状の緑色又は赤色の光成分)は、第一光源17aが放つ短波長可視光が照射する向きとは逆向きに反射する。
光源装置100の場合、反射面20によって反射された蛍光体2が放つ光成分は、第一集光レンズ20aによって集光される。その後、光成分は、第一光軸変換ミラー21a、第二レンズ19b、第二光軸変換ミラー21b、第三レンズ19c及び第三光軸変換ミラー21cによって、光軸変換と集光の繰り返しがなされる。そして当該光成分は、入射レンズ22への入射を経て、光源装置100から出射される。
蛍光体2は、膜の厚みを厚くするなどして、第一光源17aが放つ紫色光が蛍光体2に十分吸収されるようにすることが好ましい。これにより、色純度の良好な緑色又は赤色の光成分が光源装置100から出射されることとなる。
一方で、多色表示のための光源装置100とするには、入射レンズ22を通して、青色の光成分及び赤色又は緑色の光成分を出射するようにすればよい。具体的には、青色光成分は、次のようにして光源装置100から出射させることができる。まず、第一光源17aを紫色LDと青色LDに分けた上で、青色LDが放つ青色光成分が、蛍光板15を透過するようにする。そして、青色光成分を第二集光レンズ20b、第四光軸変換ミラー21d及び第四レンズ19dにより集光と光軸変換を行った後、入射レンズ22から出射されるようにすればよい。
このような光源装置100では、モーター23などを利用して、蛍光板15を回転可能なものとすることが好ましい。そして蛍光板15には、第一光源17aが放つ短波長可視光を蛍光体2に照射する領域と、当該短波長可視光を蛍光体2に照射することなく、蛍光板15を通過する領域とに分けることが好ましい。さらに、紫色LDと青色LDに分けた第一光源17aを、紫色光と青色光を交互に放つように制御する。そして、これら交互の光と二つの領域とを同期させ、紫色光は蛍光体2に照射し、青色光は蛍光板15を通過するように、蛍光板15を回転させる。これにより、青色光と、蛍光体2に起因する緑色光又は赤色光とを光源装置100から出射させることができる。
上記以外にも赤色光成分は、次のようにして光源装置100から出射させることができる。まず、図7に示すように、赤色光を放つ赤色LEDなどの第二光源17bを設ける。次に、第二光源17bが放つ赤色光成分を、第二レンズ19b、第二光軸変換ミラー21b、第三レンズ19c、第三光軸変換ミラー21cによって、集光と光軸変換との繰り返しがなされる。そして、当該赤色光成分は、光源装置100から出射される。
このように、第一光源17aの出力、第二光源17bの出力、及び蛍光板15の回転速度を制御することによって、光の三原色となる赤・緑・青の光成分が各々制御されて放射される多色表示用の光源装置になる。
このような光源装置は、プロジェクタータイプの表示装置(LEDプロジェクターやレーザープロジェクター)に利用可能である。つまり、光源装置100から出射された光を、図示しない光変調素子(デジタルマイクロミラーデバイス:DMD)と呼ばれるマイクロミラー表示素子や液晶板などに集光する。そして、光変調した光を図示しないスクリーンなどに投影することにより、変調信号に同期した表示画像を得ることができる。このような表示装置は、視感度が大きな緑色光成分又は赤色光成分の割合が多いので、明るく視認性に優れる画像を表示することが可能となる。
なお、本実施形態の光源装置は、図7の光源装置に限定されない。具体的には、第一光源17aは短波長可視光を放つLEDとして構成することもできるし、第二光源17bは赤色LDとして構成することもできる。
また、蛍光板15には、蛍光体を備える領域と、短波長可視光が当該蛍光体に照射されることなく通過する領域とに分け、蛍光板15を回転可能なものとする。そして、第一光源17aは短波長可視光を放つLDとする。これにより、当該短波長可視光が蛍光体に照射されることで緑色光及び赤色光が放射され、さらに青色LDから青色光が放射されるため、各々制御された赤・緑・青の光成分を放つことが可能となる。
さらに、第一光源17aは紫色LDとし、蛍光板15には、青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体を備える領域を設けてもよい。これにより、紫色LDが放つ紫色光が青色蛍光体、緑色蛍光体及び赤色蛍光体に照射されることで、青色光、緑色光及び赤色光を放射することが可能となる。
このように、本実施形態の発光装置は、緑色又は赤色光成分の視感度や視認性の面で良好な特性を有するため、上述の半導体発光装置や光源装置以外にも広く利用することができる。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
固相反応を利用する調製手法を用いて、実施例及び比較例の希土類アルミニウムガーネットタイプ蛍光体を合成し、その特性を評価した。なお本実施例では、以下の化合物粉末を原料として使用した。
酸化イットリウム(Y2O3):純度3N、信越化学工業株式会社製
酸化セリウム(CeO2):純度4N、信越化学工業株式会社製
酸化ユーロピウム(Eu2O3):純度3N、信越化学工業株式会社製
酸化テルビウム(Tb4O7):純度4N、信越化学工業株式会社製
酸化アルミニウム(θ−Al2O3):純度4N5、住友化学株式会社製
炭酸カルシウム(CaCO3):純度2N5、関東化学株式会社製
酸化ジルコニウム(ZrO2):純度3N、関東化学株式会社製
酸化ハフニウム(HfO2):純度98.5%、第一稀元素化学工業株式会社製
原料同士の反応性を高める目的で、上記酸化アルミニウムとしては、住友化学株式会社製のAKP−G008を使用した。
また本実施例では、反応促進剤として、以下の化合物粉末を使用した。
フッ化アルミニウム(AlF3):純度3N、株式会社高純度化学研究所製
炭酸カリウム(K2CO3):純度2N5、関東化学株式会社製
[実施例1,実施例2]
まず、表1に示す割合で、各原料及び反応促進剤を秤量した。次に、ボールミルを用いて、これらの原料及び反応促進剤を適量の純水と共に、十分に湿式混合した。そして、混合後の原料を容器に移し、乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の混合原料を乳鉢と乳棒を用いて粉砕し、焼成原料とした。その後、焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて、1600℃の大気中で4時間焼成した。このようにして、実施例1及び2の化合物を調製した。
比較例として、公知のYAG(Y3Al2(AlO4)3)を、実施例1及び2と同様に調製した。
次に、実施例1及び2の化合物並びにYAGの結晶構造解析を行った。図8は、実施例1及び2の化合物、並びに比較例たるYAGのX線回折(XRD)パターンを示す。なお、XRDパターンは、X線回折装置(製品名:MultiFlex、株式会社リガク製)を用いて評価した。
図8において、実施例1のXRDパターンを(a)、実施例2のXRDパターンを(b)として示す。また、比較例のXRDパターンを(c)、PDF(Power Diffraction Files)に登録されているAl5Y3O12のパターン(PDF No.33−0040)を(d)として示す。
図8より、(a)及び(b)と、(c)及び(d)とを比べると、実施例1及び2のXRDパターンは、比較例としたYAGのXRDパターン及びAl5Y3O12のパターンと、形状面での特徴が一致している。すなわち、実施例1及び2の化合物のXRDパターンは、回折ピークの強度比が比較例及びAl5Y3O12と異なっているものの、回折ピークの数に過不足がない。また、実施例1及び2のXRDパターンの形状は、比較例及びAl5Y3O12のXRDパターンにおける各々の回折ピークが、全体的に低角側に移動した形状となっている。なお、図8では、回折ピークの対応関係を矢印で示した。
このようなXRDパターンの一致は、実施例1及び2の化合物が、Y3Al2(AlO4)3と同じ柘榴石構造を有する化合物であることを示す。そして、実施例1の化合物がCa2TbZr2(AlO4)3で表される化合物であり、実施例2の化合物がCa2TbHf2(AlO4)3で表される化合物であることを示すものである。
なお、実施例1及び実施例2の化合物に紫外線(波長365nm)を照射したところ、いずれも明るい緑色の蛍光が目視観察された。
さらに、実施例1の化合物の励起特性と発光特性を、分光蛍光光度計(FP−6500(製品名:日本分光株式会社製)と、瞬間マルチ測光システム(QE−1100:大塚電子株式会社製)とを併用して評価した。なお、測定精度を高める目的で、発光スペクトル(24a’)の測定には瞬間マルチ測光システムを利用し、励起スペクトル(25a’)の測定には分光蛍光光度計を利用した。そして、発光スペクトル測定時の励起波長は250nmとし、励起スペクトル測定時のモニタ波長については発光ピーク波長とした。
図9は、実施例1の化合物(Ca2TbZr2(AlO4)3)の励起スペクトル25a’と発光スペクトル24a’とを示す。図9より、実施例1の化合物は、250nm付近の光によって励起されることが分かる。さらに、550nm付近の主輝線と、480nm付近と590nm付近と620nm付近とに副輝線を持つ、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する発光を放つ緑色蛍光体であることも分かる。なお、図9において、発光スペクトル及び励起スペクトルは、いずれも最大強度を100として示している。また、都合上、実施例2の化合物(Ca2TbHf2(AlO4)3)の励起スペクトルと発光スペクトルについては省略したが、実施例1の化合物と同様のスペクトルを示した。
[実施例3,実施例4]
まず、表2に示す割合で、各原料及び反応促進剤を秤量した。次に、実施例1及び2と同様にこれら原料及び反応促進剤を混合し、焼成することにより、実施例3及び実施例4の化合物を調製した。
次に、実施例1及び2と同様に、実施例3及び4の化合物の結晶構造解析を行った。その結果、実施例3及び4の化合物は、実施例1及び2と同様のXRDパターンを示した。そのため、実施例3の化合物がCa2(Tb0.98Ce0.02)Zr2(AlO4)3で表される化合物であり、実施例4の化合物がCa2(Tb0.98Ce0.02)Hf2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。
さらに、実施例3及び実施例4の化合物の励起特性と発光特性を、実施例1と同様に評価した。図10は、実施例3の化合物(Ca2(Tb0.98Ce0.02)Zr2(AlO4)3)の発光スペクトル24aと励起スペクトル25aと示している。図11は、実施例4の化合物(Ca2(Tb0.98Ce0.02)Hf2(AlO4)3)の発光スペクトル24bと励起スペクトル25bと示している。なお、発光スペクトル測定時の励起波長については励起ピーク波長とし、励起スペクトル測定時のモニタ波長については発光ピーク波長とした。また、図10及び11において、発光スペクトル及び励起スペクトルは、いずれも最大強度を100として示している。
図10及び11から分かるように、実施例3及び実施例4の化合物の励起スペクトルは、400nm以上420nm未満の紫色の波長領域に最長波長側の励起ピークを持つ。具体的には、実施例3の化合物の励起スペクトルは417nmに励起ピークを有し、実施例4の化合物の励起スペクトルは412nmに励起ピークを有する。
さらに図10及び11から、実施例3及び実施例4の化合物の発光スペクトルは、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分を含んでいることが分かる。また、実施例3及び実施例4の化合物の発光スペクトルは、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する発光スペクトルを主体にしてなる形状である。この形状は、従来より三波長形の蛍光ランプで実用化されている(La,Ce)PO4:Tb3+、CeMgAl11O19:Tb3+、(Gd,Ce)MgB5O10:Tb3+などの典型的なランプ用緑色蛍光体と類似である。つまり、本実施形態の蛍光体は、従来、照明光源用として最適とされてきたスペクトル形状の緑色光を、短波長可視光で励起できるという顕著な効果を有するものである。
図10及び11より、実施例3及び実施例4の化合物の発光スペクトルは、発光ピーク波長が544nmである。さらに、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の半値幅は、3nm以上30nm未満である。また、この範囲にあるスペクトル成分の1/5スペクトル幅及び1/10スペクトル幅も3nm以上30nm未満である。加えて、450nm以上500nm未満のスペクトル成分の最大強度は、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の最大強度の40%未満である。このことは、実施例3及び実施例4の化合物が、415nm付近の紫又は青色光を効率よく吸収して、視感度の高い緑色輝線を含む緑色光へと波長変換できることを示すものである。
上述のように、実施例3及び4では、化合物中にセリウム(Ce)が含まれている。ここで、励起スペクトルにおける短波長可視光領域のスペクトル強度は、Ce3+の電子エネルギー遷移(4f1→5d1電子エネルギー遷移)による光吸収が関与することが知られている。そして、当該光吸収は蛍光体中のCe3+の含有量によって増減し、Ce3+の含有量が増すと励起スペクトルの強度も増すことも知られている。そのため、本実施例の化合物においてもCe3+の含有量を増すことによって、短波長可視光の波長領域における励起スペクトル強度が増すと推測される。
実施例3及び4の化合物は、少なくともCaと、Tbと、Zr又はHfと、Alと、酸素とを含有し、化合物1モル中Tbが0.98モルの化合物である。さらに、実施例3及び4の化合物は、各々実施例1及び2の化合物を端成分として、柘榴石構造を持つ化合物である。また、実施例3の化合物は、実施例1の化合物(Ca2TbZr2(AlO4)3)と、これと組成が異なり、柘榴石構造を持つ類質同像の化合物Ca2CeZr2(AlO4)3との固溶体といえるものである。実施例4の化合物も、実施例2の化合物(Ca2TbHf2(AlO4)3)と、これと組成が異なり、柘榴石構造を持つ、類質同像の化合物Ca2CeHf2(AlO4)3との固溶体といえるものである。そして、このような実施例3及び4の化合物は、蛍光体として機能する人造蛍光鉱物である。
ここで見方を変えると、実施例3及び4の化合物は、Ceを含有し、少なくともTb3+の発光成分を放つものであり、さらに短波長可視光によって励起可能な蛍光体である。また、より俯瞰的に見ると、実施例3及び4の化合物は、希土類元素を化合物の主骨格とする希土類化合物の蛍光体である。そして、前記希土類化合物を構成する元素の一部は、蛍光補助イオン(Ce3+イオン)によって置換されている。蛍光補助イオンは、前記希土類化合物が元々含む3価の希土類イオン(Tb3+イオン)のエネルギー遷移に基づく複数の輝線からなる蛍光を増強する。そして、前記蛍光補助イオンの数は、希土類化合物が元々含む3価の希土類イオンの数よりも少ない。さらに、最も強度が大きな輝線は、1/5スペクトル幅が3nm以上30nm未満であり、短波長可視光で励起される蛍光体である。
[実施例5〜11]
まず、表3に示す割合で、各原料及び反応促進剤を秤量した。次に、実施例1及び2と同様にこれら原料及び反応促進剤を混合し、焼成することにより、実施例5〜11の化合物を調製した。なお、参考例として、赤色蛍光体となるCa2EuZr2(AlO4)3で表される化合物も、表3に示す割合で調整した。
次に、実施例1及び2と同様に、実施例5〜11の化合物の結晶構造解析を行った。その結果、実施例5〜11の化合物は、実施例1及び2と同様のXRDパターンを示した。そのため、実施例5の化合物がCa2(Tb0.99Eu0.01)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。また、実施例6の化合物がCa2(Tb0.98Eu0.02)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。実施例7の化合物がCa2(Tb0.96Eu0.04)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。実施例8の化合物がCa2(Tb0.92Eu0.08)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。実施例9の化合物がCa2(Tb0.75Eu0.25)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。実施例10の化合物がCa2(Tb0.5Eu0.5)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。実施例11の化合物がCa2(Tb0.25Eu0.75)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。
さらに、実施例5〜11の化合物の励起特性と発光特性を、実施例1と同様に評価した。図12(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)及び(i)は、それぞれ参考例、実施例11、実施例10、実施例9、実施例8、実施例7、実施例6、実施例5及び実施例1の化合物の発光スペクトル及び励起スペクトルを示している。なお図12において、発光スペクトルは符号24c〜24j及び24a’であり、励起スペクトルは符号25c〜25j及び25a’である。
また、発光スペクトル測定時の励起波長は254nmとし、励起スペクトル測定時のモニタ波長については発光ピーク波長(610nm)とした。また、図12において、発光スペクトル及び励起スペクトルは、いずれも最大強度を100として示している。
図12より、実施例5〜11の発光スペクトルは、実施例5(24j)から実施例11(24d)へとTbに対するEuの置換量が増すにつれて、550nm付近の蛍光成分が急激に減少し、580〜620nmの波長範囲内の蛍光成分が優勢となっている。なお、550nm付近の蛍光成分は緑色輝線を示し、580〜620nmの波長範囲内の蛍光成分は赤色輝線を示している。
また、図12から分かるように、Euの置換量が1〜2原子%の実施例5及び6の発光スペクトル(24j及び24i)には、緑色輝線と赤色輝線が明らかに混在している。しかし、Euの置換量が4〜8原子%の実施例7及び8の発光スペクトル(24h及び24g)では、緑色輝線が殆ど観察されなくなっている。さらに、Euの置換量が8原子%を超える実施例9〜11の発光スペクトル(24g〜24d)では、緑色輝線は実質的に消失している。つまり、テルビウムの一部を、テルビウムの原子数の10原子%に満たないユーロピウムで置換することによって、テルビウムによる蛍光成分が観察されなくなった。
なお、図12中の緑色輝線は、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分だとみなすことができる。また、赤色輝線は、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分だとみなすことができる。
一方、実施例5〜11の励起スペクトル(25d〜25j)に注目すると、実施例9、10及び11の励起スペクトル(25f、25e、25d)は、参考例としたCa2EuZr2(AlO4)3の励起スペクトル(25c)と類似している。これに対し、実施例5、6、7及び8の励起スペクトル(25j、25i、25h、25g)は、実施例1の励起スペクトル(25a’)と類似しており、260nm付近、310nm付近及び375nm付近にピークを持っている。
このように、実施例5〜8の蛍光体は、多量のテルビウムを含有するにも関わらず、少量のEu3+に由来する発光が優勢であった。そして、Eu3+に由来する発光が優勢であるにも関わらず、その励起スペクトルの形状(25g〜25j)は、参考例の励起スペクトル(25c)よりも、むしろ実施例1の励起スペクトル(25a’)に近いものであった。そして、図12に示す励起スペクトルと発光スペクトルの形状変化は、TbからEuへのエネルギー伝達が、特にテルビウム含有量が多くユーロピウム含有量が少ない組成領域において、効率よく生じていることを裏付けるものである。
なお、TbからEuのエネルギー伝達は、蛍光体1モル中におけるTbのモル数が0.5を超え、かつ、Euのモル数が0.25未満となる組成物において効率よく生じている。このため、本実施形態の蛍光体はこのような組成物にすることが好ましい。
一方で、図12の発光スペクトルは、本実施形態の蛍光体が、従来、照明光源用として最適とされてきた緑色のスペクトル成分と、赤色のスペクトル成分の少なくとも一方を含む蛍光を放つことができるという顕著な効果を有することも示している。
[実施例12]
まず、表4に示す割合で、各原料及び反応促進剤を秤量した。次に、実施例1及び2と同様にこれら原料及び反応促進剤を混合し、焼成することにより、実施例12の化合物を調製した。
次に、実施例1及び2と同様に、実施例12の化合物の結晶構造解析を行った。その結果、実施例12の化合物は、実施例1及び2と同様のXRDパターンを示した。そのため、実施例12の化合物がCa2(Tb0.93Ce0.06Eu0.01)Zr2(AlO4)3で表される化合物であることが分かった。
さらに、実施例12の化合物の励起特性と発光特性を、実施例1と同様に評価した。図13は、実施例12の化合物の発光スペクトル24kと励起スペクトル25k及び25k’と示している。なお、発光スペクトル測定時の励起波長は、254nmとした。また、励起スペクトル測定時のモニタ波長は、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する緑色のスペクトル成分の発光ピーク波長(543nm)と、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する赤色のスペクトル成分の発光ピーク波長(610nm)の二つとした。そして、図13において、モニタ波長が543nmの励起スペクトルと、モニタ波長が610nmの励起スペクトルを、それぞれ符号25k及び25k’として示した。
また、図13において、発光スペクトル24kは最大強度を100として示している。さらに、モニタ波長が610nmの励起スペクトル25k’は、最大強度を100として示している。そして、モニタ波長が543nmの励起スペクトル25kは、励起スペクトル25k’における420nm付近の励起ピークの強度が同じ値になるように示している。
図13から分かるように、実施例12の化合物の励起スペクトルは、400nm以上430nm未満の紫青色の波長領域に最長波長側の励起ピークを持つ。具体的には、モニタ波長が543nmの励起スペクトル25kは、419nmに最長波長側の励起ピークを有する。さらに、モニタ波長が610nmの励起スペクトル25k’は、421nmに最長波長側の励起ピークを有する。測定誤差を考慮すると、最長波長側の励起ピークは420nmとなる。
なお、実施例12における最長波側の励起ピークは、Ce3+の電子エネルギー遷移に由来する励起帯であり、Ce3+の光吸収による励起帯である。Ce3+の電子エネルギー遷移に由来する励起帯は、組成を若干変えることによって、励起ピーク波長を数nmから数10nmの範囲内で移動させることができる。
さらに図13から、実施例12の発光スペクトルは、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分と、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分とを含んでいることが分かる。
また、実施例12の発光スペクトルは、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する発光スペクトルと、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分とを併せ持つ形状である。この形状は、従来より三波長形の蛍光ランプで実用化されている緑色蛍光体のスペクトル形状と赤色蛍光体のスペクトル形状とが重なり合った形状である。そして、緑色光成分と赤色光成分の加法混色によって、見た目の蛍光色は黄色となる。また、照らしたものが黄ばむ原因となる黄色の波長域の、例えば波長575nmの発光成分の強度は、発光強度の最大値の10%未満である。そのため、被照明物の黄ばみが目立たない黄色光になる。
つまり、本実施形態の蛍光体は、複数の蛍光体を混合することなく、従来、照明光源用として最適とされてきたスペクトル形状の緑色と赤色の混色光を、短波長可視光での励起によって得ることができるという顕著な効果を有するものである。
また、図13より、実施例12の化合物の発光スペクトルは、発光ピーク波長が543nmである。さらに、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の半値幅は、3nm以上30nm未満である。また、この範囲にあるスペクトル成分の1/5スペクトル幅及び1/10スペクトル幅も3nm以上30nm未満である。加えて、450nm以上500nm未満のスペクトル成分の最大強度は、535nm以上560nm未満の範囲にあるスペクトル成分の最大強度の40%未満である。
そして、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来するスペクトル成分の主輝線(以下、Eu主輝線ともいう。)は、600nm以上628nm未満の波長範囲内にある。さらに、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する700nm以上720nm未満の波長範囲内にある輝線の最大高さは、Eu主輝線の最大高さの60%未満、特に40%以下である。このことは、実施例12の化合物が、420nm付近の紫又は青色光を効率よく吸収して、視感度の高い緑色輝線と色調のよい赤色輝線とを含む、緑色光成分と赤色光成分との混色光へと波長変換できることを示すものである。
なお、実施例12では、希土類原子の総数(Tbの原子数+Ceの原子数+Euの原子数)を100としたときのCeの原子数とEuの原子数とを、それぞれ6個と1個とした例を説明した。そして、この組成物では、図13に示すように、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する緑色のスペクトル成分が、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する赤色のスペクトル成分よりも優勢な黄色光であった。
しかし、本実施形態の蛍光体では、Tb3+からEu3+へのエネルギー伝達は効率よく生じる。そのため、Euの原子数を増すことによって、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する赤色のスペクトル成分が、Tb3+の電子エネルギー遷移に由来する緑色のスペクトル成分よりも優勢な光(黄、橙又は赤色光)を放出する蛍光体にすることもできる。また、実質的に、Eu3+の電子エネルギー遷移に由来する赤色のスペクトル成分だけを持つ赤色光を放出する蛍光体にすることも可能である。
また、上述のように、実施例12は、化合物中にセリウム(Ce)が含まれている。ここで、励起スペクトルにおける短波長可視光領域のスペクトル強度は、Ce3+の電子エネルギー遷移(4f1→5d1電子エネルギー遷移)による光吸収が関与することが知られている。そして、当該光吸収は蛍光体中のCe3+の含有量によって増減し、Ce3+の含有量が増すと励起スペクトルの強度も増すことも知られている。そのため、本実施例の化合物においてもCe3+の含有量を増すことによって、短波長可視光の波長領域における励起スペクトル強度が増すと推測される。
なお、実施例12の化合物は、少なくとも二種類の化合物を端成分としてなる、柘榴石構造を持つ固溶体である。つまり、端成分となる第一の化合物は、Ca2TbZr2(AlO4)3で表されるテルビウム化合物である。また、端成分となる第二の化合物は、Ca2EuZr2(AlO4)3で表されるユーロピウム化合物である。そして、当該固溶体は、Ceを含んでいる。そのため、前記固溶体は、Ce3+の電子エネルギー遷移に由来する励起帯を持つようになり、蛍光を放つようになる。
特願2012−278132号(出願日:2012年12月20日)及び特願2013−094497号(出願日:2013年4月26日)の全内容は、ここに援用される。
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。また、上述の実施例は本発明の一例に過ぎず、上述したメカニズムに基づく、変形例としての蛍光体が数多く存在することは、当業者が容易に推察できることである。今後の技術進展に伴い、数多くの当該変形例が見つけ出されることと予想できる。