本実施形態に係る燃料推定装置は、図1に示す電子制御装置(ECU80)により提供される。ECU80は、マイクロコンピュータ(マイコン80a)およびメモリ80b等を備える。マイコン80aは、所定のプログラムを実行することで、内燃機関10が備える燃料噴射弁15、燃料ポンプ15pおよびEGRバルブ17a等の作動を制御する。これらの制御により、内燃機関10の燃焼室11aで生じる燃料の燃焼状態は所望の状態に制御される。これらの内燃機関10およびECU80は車両に搭載されたものであり、当該車両は、内燃機関10の出力を駆動源として走行する。
内燃機関10は、シリンダブロック11、シリンダヘッド12、ピストン13、吸気バルブ14in、排気バルブ14ex、および燃料噴射弁15等を備える。燃料タンク内の燃料は、燃料ポンプ15pによりコモンレール15cへ圧送される。ECU80が燃料ポンプ15pの作動を制御することで、コモンレール15c内の燃料は、目標圧力Ptrgに維持された状態でコモンレール15cに蓄えられる。コモンレール15cは、蓄圧された燃料を各気筒の燃料噴射弁15へ分配する。
燃料噴射弁15はシリンダヘッド12に取り付けられている。燃料噴射弁15から噴射された燃料は、燃焼室11aで吸気と混合して混合気を形成し、混合気はピストン13により圧縮されて自着火する。要するに、内燃機関10は圧縮自着火式のディーゼルエンジンであり、燃料には軽油が用いられている。
燃料噴射弁15は、電磁アクチュエータおよび弁体をボデー内部に収容して構成されている。電磁アクチュエータへの通電をECU80がオンさせると、電磁アクチュエータの電磁吸引力により図示しない背圧室のリーク通路が開弁し、背圧低下に伴い弁体が開弁作動し、ボデーに形成されている噴孔が開弁されて噴孔から燃料が噴射される。上記通電をオフさせると、弁体が閉弁作動して燃料噴射が停止される。
シリンダヘッド12に形成されている吸気ポート12inおよび排気ポート12exには、吸気管16inおよび排気管16exが接続されている。吸気管16inおよび排気管16exにはEGR管17が接続されており、排気の一部(EGRガス)がEGR管17を通じて吸気管16inへ流入(還流)する。EGR管17にはEGRバルブ17aが取り付けられている。ECU80がEGRバルブ17aの作動を制御することで、EGR管17の開度が制御され、EGRガスの流量が制御される。
ECU80には、筒内圧センサ21、酸素濃度センサ22、レール圧センサ23、クランク角センサ24およびアクセルペダルセンサ25等、各種センサによる検出信号が入力される。
筒内圧センサ21は、シリンダヘッド12に取り付けられ、燃焼室11aの圧力(筒内圧)に応じた検出信号を出力する。筒内圧センサ21は、圧力検出素子に加えて温度検出素子21aを有しており、燃焼室11aの温度(筒内温度)に応じた検出信号も出力する。酸素濃度センサ22は、吸気管16inに取り付けられ、吸気中の酸素濃度に応じた検出信号を出力する。検出対象となる吸気は、新気とEGRガスが混合したものである。レール圧センサ23はコモンレール15cに取り付けられており、蓄圧されている燃料の圧力(レール圧)に応じた検出信号を出力する。クランク角センサ24は、ピストン13により回転駆動するクランク軸の回転速度(エンジン回転数)に応じた検出信号を出力する。アクセルペダルセンサ25は、車両運転者により踏み込み操作されるアクセルペダルの踏込量(エンジン負荷)に応じた検出信号を出力する。
ECU80は、これらの検出信号に基づき、燃料噴射弁15、燃料ポンプ15pおよびEGRバルブ17aの作動を制御することで、燃料の噴射開始時期、噴射量、噴射圧、EGRガス流量を制御する。燃料噴射弁15の作動を制御している時のマイコン80aは、噴射制御手段83に相当する。燃料ポンプ15pの作動を制御している時のマイコン80aは、燃圧制御手段84に相当する。EGRバルブ17aの作動を制御している時のマイコン80aは、EGR制御手段85に相当する。
マイコン80aは、燃焼に関する物理量の検出値(燃焼特性値)を取得する燃焼特性取得手段81としても機能する。本実施形態に係る燃焼特性値とは、図2に示す着火遅れ時間TDのことである。図2の上段は、マイコン80aから出力されるパルス信号を示す。パルス信号にしたがって燃料噴射弁15への通電が制御される。具体的には、パルスオンのt1時点で通電が開始され、パルスオン期間Tqに通電オンが継続される。要するに、パルスオンのタイミングにより噴射開始時期が制御される。また、パルスオン期間Tqにより噴射期間が制御され、ひいては噴射量が制御される。
図2の中段は、パルス信号にしたがって弁体が開弁作動および閉弁作動した結果生じる、噴孔からの燃料の噴射状態の変化を示す。具体的には、単位時間あたりに噴射される燃料の噴射量(噴射率)の変化を示す。図示されるように、通電開始のt1時点から、実際に噴射が開始されるt2時点までにはタイムラグが存在する。また、通電終了時点から実際に噴射が停止されるまでにもタイムラグが存在する。実際に噴射が為されている期間Tq1は、パルスオン期間Tqで制御される。
図2の下段は、噴射された燃料の、燃焼室11aでの燃焼状態の変化を示す。具体的には、噴射された燃料と吸気の混合気が自着火燃焼することに伴い生じる、単位時間あたりの熱量(熱発生率)の変化を示す。図示されるように、噴射開始のt2時点から、実際に燃焼が開始されるt3時点までにはタイムラグが存在する。本実施形態では、通電開始のt1時点から燃焼開始のt3時点までの時間を着火遅れ時間TDと定義する。
燃焼特性取得手段81は、筒内圧センサ21で検出される筒内圧の変化に基づき、燃焼開始のt3時点を推定する。具体的には、ピストン13が上死点に達してからクランク角が所定量だけ回転する期間において、筒内圧が急上昇した時期を燃焼開始時期(t3時点)と推定する。この推定結果に基づき、着火遅れ時間TDは燃焼特性取得手段81により算出される。さらに燃焼特性取得手段81は、燃焼時の各種状態(燃焼条件)を、燃焼毎に取得する。具体的には、筒内圧、筒内温度、吸気酸素濃度および噴射圧力を、燃焼条件として取得する。
これらの燃焼条件は、燃料の燃えやすさを表わすパラメータであり、燃焼直前での筒内圧が高いほど、燃焼直前での筒内温度が高いほど、吸気酸素濃度が高いほど、噴射圧力が高いほど、混合気が自着火しやすく燃えやすいと言える。燃焼直前での筒内圧および筒内温度として、例えば、燃料噴射弁15への通電を開始するt1時点で検出された値を用いればよい。筒内圧は筒内圧センサ21により検出され、筒内温度は温度検出素子21aにより検出され、吸気酸素濃度は酸素濃度センサ22により検出され、噴射圧力はレール圧センサ23により検出される。燃焼特性取得手段81は、取得した着火遅れ時間TDを、その燃焼に係る上記パラメータ(燃焼条件)と関連付けてメモリ80bに記憶させる。
マイコン80aは、異なる燃焼条件で検出された複数の燃焼特性値に基づき、燃料に含まれている各種成分の混合割合を推定する、混合割合推定手段82としても機能する。例えば、異なる燃焼条件毎の着火遅れ時間TDを図3に示す行列式に代入することで、各種成分の混合量を算出する。なお、算出された各々の混合量を総量で除算することで、各種成分の混合割合が算出される。
図3の左辺にある行列は、x行1列でありx個の数値から構成される。これらの数値は、各種成分の混合量を表わす。各種成分とは、分子構造の種類の違いにより分類される成分である。分子構造の種類には、直鎖パラフィン類、側鎖パラフィン類、ナフテン類および芳香族類が含まれている。
右辺の左側にある行列は、x行y列でありx・y個の数値から構成される。これらの数値は、予め実施した試験に基づき定められた定数である。右辺の右側にある行列は、y行1列でありy個の数値から構成される。これらの数値は、燃焼特性取得手段81により取得された着火遅れ時間TDである。例えば、1行1列目の数値は、パラメータの所定の組み合わせからなる燃焼条件iの時に取得された着火遅れ時間TD(i)であり、2行1列目の数値は、燃焼条件jの時に取得された着火遅れ時間TD(j)である。燃焼条件iと燃焼条件jとでは、全てのパラメータが異なる値に設定されている。なお、図3中の符号P(i)、T(i)、O2(i)、Pc(i)の各々は、燃焼条件iに係る筒内圧、筒内温度、吸気酸素濃度および噴射圧力を示し、符号P(j)、T(j)、O2(j)、Pc(j)の各々は、燃焼条件jに係る各パラメータを示す。
次に、図4、図5および図6を用いて、図3の行列式に燃焼条件毎の着火遅れ時間TDを代入することで各分子構造種の混合量が算出できる理屈を説明する。
図4に示すように、燃焼に係る混合気に含まれる酸素の濃度(筒内酸素濃度)が高いほど自着火しやすくなるので、着火遅れ時間TDが短くなる。図中の3本の実線(1)(2)(3)は、筒内酸素濃度と着火遅れ時間TDとの関係を示す特性線である。但し、この特性線は燃料に応じて異なる。厳密には、燃料に含まれている各々の分子構造種の混合割合に応じて異なる。したがって、筒内酸素濃度がO2(i)の場合の着火遅れ時間TDを検出すれば、いずれの分子構造種であるかを推測できる。特に、筒内酸素濃度がO2(i)の場合とO2(j)の場合とで着火遅れ時間TDを比較すれば、より高精度で混合割合を推定できる。
同様にして、図5に示すように、筒内温度が高いほど自着火しやすくなるので、着火遅れ時間TDが短くなる。図中の3本の実線(1)(2)(3)は、筒内温度と着火遅れ時間TDとの関係を示す特性線である。但し、この特性線は燃料に応じて異なる。厳密には、燃料に含まれている各々の分子構造種の混合割合に応じて異なる。したがって、筒内温度がB1の場合の着火遅れ時間TDを検出すれば、いずれの分子構造種であるかを推測できる。特に、筒内温度がT(i)の場合とT(j)の場合とで着火遅れ時間TDを比較すれば、より高精度で混合割合を推定できる。
また、筒内酸素濃度に係る特性線(図4参照)に対する影響度の高い分子構造種と、筒内温度に係る特性線(図5参照)に対する影響度の高い分子構造種とは異なる。このように、複数の燃焼条件の各々に係る特性線に対して影響度の高い分子構造種は異なる。したがって、複数のパラメータ(燃焼条件)を異なる値にして取得された着火遅れ時間TDの組み合わせに基づけば、例えば図6の如くいずれの分子構造種の混合割合が多いのかを高精度で推定できる。
図6に例示する分子構造種Aは、筒内酸素濃度(第1パラメータ)に係る特性線(第1特性線)に対する影響度が高い分子構造種である。また、分子構造種Bは、筒内温度(第2パラメータ)に係る特性線(第2特性線)に対する影響度が高い分子構造種であり、分子構造種Cは、第3パラメータに係る特性線(第3特性線)に対する影響度が高い分子構造種である。第1パラメータの変化に対して着火遅れ時間TDの変化が大きく現れるほど、分子構造種Aが多く混合していると言える。同様にして、第2パラメータの変化に対して着火遅れ時間TDの変化が大きく現れるほど分子構造種Bが多く混合しており、第3パラメータの変化に対して着火遅れ時間TDの変化が大きく現れるほど分子構造種Cが多く混合していると言える。したがって、異なる燃料(1)(2)(3)の各々に対し、分子構造種A、B、Cの混合割合を推定できる。
図7は、燃焼特性取得手段81が実行するプログラムの処理手順を示すフローチャートである。この処理は、以下に説明するパイロット噴射が指令される毎に実行される。1燃焼サイクル中に同一の燃料噴射弁15から複数回噴射(多段噴射)させるように噴射制御する場合がある。これら複数回の噴射のうち、最も噴射量が多く設定された噴射をメイン噴射と呼び、その直前の噴射をパイロット噴射と呼ぶ。
先ず、図7のステップS10において、上述した通り複数のパラメータを取得する。次に、ステップS11において、上述した通り筒内圧センサ21の検出値に基づき燃焼開始のt3時点を推定して、パイロット噴射に係る着火遅れ時間TDを算出する。次に、ステップS12において、ステップS10で取得した複数のパラメータ(燃焼条件)と関連付けて、ステップS11で算出した着火遅れ時間TDをメモリ80bに記憶させる。
具体的には、各パラメータが取り得る数値範囲を複数の領域に区分けしておき、複数のパラメータの領域の組み合わせ予め設定しておく。例えば図3に示す着火遅れ時間TD(i)は、P(i)、T(i)、O2(i)、Pc(i)の領域の組み合わせ時に取得された着火遅れ時間TDを表わす。同様に、着火遅れ時間TD(j)は、P(j)、T(j)、O2(j)、Pc(j)の領域の組み合わせ時に取得された着火遅れ時間TDを表わす。ステップS12では、ステップS10で取得した複数のパラメータの組み合わせ(燃焼条件)が、予め設定した組み合わせ(燃焼条件)のいずれに該当するかを判別する。そして、該当する燃焼条件に対応する着火遅れ時間TDとして、ステップS11で算出した着火遅れ時間TDを記憶させる。つまり、該当する燃焼条件と関連付けて着火遅れ時間TDを記憶させる。
なお、予め設定した複数の燃焼条件の中に、ステップS10で取得した燃焼条件に該当するものが存在しない場合がある。この場合には、着火遅れ時間TDをメモリ80bに記憶させることなく図7の処理を終了する。また、ステップS10で取得した燃焼条件と同じ燃焼条件に係る着火遅れ時間TDが既にメモリ80bに記憶されている場合には、今回算出された着火遅れ時間TDを書き換えて記憶更新させる。
図8は、混合割合推定手段82が実行するプログラムの処理手順を示すフローチャートである。この処理は、内燃機関10の運転期間中、所定周期で繰返し実行される。先ず、図8のステップS20において、ユーザが給油することに起因して、燃料タンクに貯留されている燃料に別の燃料が混合した可能性が高い場合に、分子構造種の混合割合が変化したとみなし、リセット条件が成立したと判定する。例えば、内燃機関10の運転停止時に、燃料タンクの燃料残量を検出するセンサにより燃料残量の増大が検出された場合に、リセット条件が成立したと判定する。
リセット条件が成立したと判定された場合、続くステップS21において、推定されていた混合量の値をリセットする。このリセットでは、後述するステップS23で推定された最新の混合量の値をリセットするとともに、図7の処理にて記憶させた着火遅れ時間TDの値もリセットする。したがって、前回リセット条件が成立してから次のリセット条件が成立するまでの期間、メモリ80bに記憶される着火遅れ時間TDが蓄積されていくこととなる。
続くステップS22では、メモリ80bに記憶されている着火遅れ時間TDの数(サンプリング数)が、分子構造種の混合割合を推定するのに十分な数だけ蓄積されているか否かを判定する。具体的には、メモリ80bに蓄積されているサンプル数が、予め設定された数以上である場合に、サンプリング数が十分であると判定する。或いは、記憶対象となる領域の組み合わせ(燃焼条件)のうち、予め設定しておいた複数の燃焼条件に対して着火遅れ時間TDが記憶されている場合に、サンプリング数が十分であると判定する。
サンプリング数が十分であると判定された場合、続くステップS23において、サンプリングされた着火遅れ時間TDを図3の行列式に代入して、分子構造種毎の混合量を算出する。なお、サンプリング数、つまり行列式の右辺右側の行列の行数に応じて、定数を表わす行列の列数を変更する。或いは、取得されていない着火遅れ時間TDについては、予め設定しておいたノミナル値を着火遅れ時間TDの行列に代入する。このように算出された分子構造種毎の混合量に基づき、分子構造種毎の混合割合を算出する。
先述した通り、マイコン80aは、噴射制御手段83、燃圧制御手段84およびEGR制御手段85としても機能する。
噴射制御手段83は、噴射開始時期、噴射量および噴射段数が目標値となるように図2のパルス信号を設定することで、噴射開始時期、噴射量および噴射段数を制御(噴射制御)する。上記噴射段数とは、先述した多段噴射に係る噴射回数のことである。
燃圧制御手段84は、燃料ポンプ15pに吸入される燃料の流量を制御する調量弁の作動を制御する。具体的には、レール圧センサ23で検出された実レール圧と目標圧力Ptrg(目標値)との偏差に基づき、調量弁の作動をフィードバック制御する。その結果、燃料ポンプ15pによる単位時間当りの吐出量が制御され、実レール圧が目標値となるように制御(燃圧制御)される。また、EGR制御手段85は、EGR量が目標値となるようにEGRバルブ17aのバルブ開度を制御(EGR制御)する。
さらにマイコン80aは、以下に説明する燃料カット指令手段86およびカット時取得手段87としても機能する。
燃料カット指令手段86は、内燃機関10の運転中に所定条件を満たした場合に、燃料の噴射を一時的に停止させるように指令して省燃費化を図る。具体的には、エンジン回転数がアイドル回転数以上に設定された所定値以上であり、かつ、アクセルペダル踏込量がゼロであれば、上記所定条件を満たすと判定する。例えば、エンジンブレーキが発揮された状態で走行している場合に上記所定条件が満たされ、燃料カット指令により燃料の噴射が一時的に停止される。
カット時取得手段87は、燃料カット指令手段86による燃料カット指令期間中に、所望の燃焼条件で燃焼(学習用燃焼)させるように内燃機関10の作動を制御する。所望の燃焼条件は、着火遅れ時間TDが未だ取得されていない領域の燃焼条件に設定される。学習用燃焼での燃料噴射量は、車両乗員がトルク変動を体感しない程度の微小量に設定される。また、学習用燃焼での噴射段数は1段に設定される。さらにカット時取得手段87は、学習用燃焼時に、燃焼特性取得手段81と同様にして着火遅れ時間TD(燃焼特性値)およびパラメータ(燃焼条件)を取得し、取得した燃焼特性値を燃焼条件と関連付けてメモリ80bに記憶する。
図9は、噴射制御手段83、燃圧制御手段84およびEGR制御手段85が実行するプログラムの処理手順を示すフローチャートである。この処理は、内燃機関10の運転期間中、所定周期で繰返し実行される。先ず、図9のステップS30において、エンジン回転数、エンジン負荷およびエンジン冷却水温度等を取得する。続くステップS31では、噴射制御手段83による噴射制御、燃圧制御手段84による燃圧制御、およびEGR制御手段85によるEGR制御に係る先述した各種目標値を、ステップS30で取得した各種値に基づき設定する。
続くステップS32では、図8の処理で分子構造種毎の混合割合がリセットされずに推定されているか否かを判定する。混合割合が推定されていると判定された場合、続くステップS33において、ステップS31で設定した各種目標値を、その混合割合に応じて補正する。例えば、図6に示す燃料(1)(2)(3)のいずれであるかに応じて、噴射制御、燃圧制御およびEGR制御に係る各種目標値の少なくとも1つを補正する。続くステップS34では、ステップS31で設定された目標値、またはステップS33による補正後の目標値にしたがって、噴射制御、燃圧制御およびEGR制御を実行するための指令信号を出力する。
以上により、本実施形態に係る燃料推定装置(ECU80)は、燃焼特性取得手段81および混合割合推定手段82を備える。燃焼特性取得手段81は、内燃機関10の燃焼に関する物理量の検出値を燃焼特性値として取得する。混合割合推定手段82は、異なる燃焼条件で検出された複数の燃焼特性値に基づき、燃料に含まれている各種成分の混合割合を推定する。
ここで、全く同じ燃料を燃焼させても、その時の筒内圧や筒内温度等の燃焼条件が異なれば、着火遅れ時間や熱発生量等の燃焼特性値は異なってくる。例えば、図4の燃料(1)は、筒内酸素濃度が多いといった燃焼条件であるほど、着火遅れ時間TD(燃焼特性値)は短くなる。そして、燃焼条件の変化に対する燃焼特性値の変化の度合い、つまり図4の実線に示す特性線は、分子構造種の混合割合が互いに異なる燃料(1)(2)(3)の各々で、異なってくる。この点を鑑みた本実施形態では、異なる燃焼条件で検出された複数の着火遅れ時間TD(燃焼特性値)に基づき、燃料に含まれている分子構造種の混合割合を推定するので、燃料の性状をより正確に把握できるようになる。
さらに本実施形態では、混合割合の推定対象となる成分は、分子構造の種類の違いにより分類される成分である。ここで、同じセタン価の燃料であっても、分子構造種の混合割合が異なる燃料であれば、図4および図5に例示する着火遅れ時間TD(燃焼特性値)の特性線は異なってくる。よって、上記混合割合を、噴射制御、燃圧制御およびEGR制御に反映させる本実施形態によれば、例えばセタン価や燃料密度等の値を反映させる場合に比べて、所望の燃焼状態にすることを高精度で実現できる。
さらに本実施形態では、分子構造の種類に、直鎖パラフィン類、側鎖パラフィン類、ナフテン類および芳香族類の少なくとも1つが含まれている。これらの分子構造種は、燃焼状態に与える影響が大きいので、これらで分類される成分の混合割合を推定することは、燃焼に関する各種制御に混合割合を反映させる上で、有意義である。
さらに本実施形態では、燃焼条件は、複数種類のパラメータの組み合わせにより特定される条件である。つまり、複数種類のパラメータ各々について、パラメータの値が異なる燃焼時の燃焼特性値を取得する。これによれば、同一種類のパラメータについてそのパラメータの値が異なる燃焼時の燃焼特性値を取得し、それらの燃焼条件および燃焼特性値に基づき混合割合を推定する場合に比べて、混合割合を高精度で推定できる。
さらに本実施形態では、燃焼条件に係る複数種類のパラメータには、筒内圧、筒内温度、吸気酸素濃度および燃料噴射圧力の少なくとも1つが含まれている。これらのパラメータは、燃焼状態に与える影響が大きいので、これらの条件が異なる燃焼時の燃焼特性値を用いて混合割合を推定する本実施形態によれば、混合割合を精度良く推定できる。
さらに本実施形態では、燃焼特性値は、燃料噴射を指令してから自着火するまで着火遅れ時間TDであることを特徴とする。着火遅れ時間TDは、各種成分の混合割合の影響を大きく受けるので、着火遅れ時間TDに基づき混合割合を推定する本実施形態によれば、混合割合を精度良く推定できる。
さらに本実施形態では、燃焼特性取得手段81は、メイン噴射の前に噴射(パイロット噴射)された燃料の燃焼に関する燃焼特性値を取得する。メイン噴射の燃料が燃焼すると、筒内温度が高くなるので、メイン噴射後の燃料が燃焼しやすくなる。そのため、燃料の混合割合の違いに起因した燃焼特性値の変化が現れにくくなる。これに対し、メイン噴射の前に噴射(パイロット噴射)された燃料は、メイン燃焼の影響を受けないので、混合割合の違いに起因した燃焼特性値の変化が現れやすくなる。よって、燃焼特性値に基づき混合割合を推定するにあたり、その推定精度を向上できる。
さらに本実施形態では、燃料カット指令手段86およびカット時取得手段87を備える。燃料カット指令手段86は、内燃機関10の運転中に所定条件を満たした場合に、燃料の噴射を一時的に停止させるように指令する。カット時取得手段87は、燃料カット指令手段86による指令期間中に、所望の燃焼条件で燃焼させて燃焼特性値を取得する。これによれば、着火遅れ時間TDが未だ取得されていない領域の燃焼条件で学習用燃焼を実施するので、分子構造種の混合割合を推定するのに十分な数だけ着火遅れ時間TDの数(サンプリング数)を蓄積させるにあたり、その蓄積に要する期間を短くできる。よって、混合割合を内燃機関10の制御に反映させることを早期に実現できる。
(他の実施形態)
以上、発明の好ましい実施形態について説明したが、発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、以下に例示するように種々変形して実施することが可能である。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
図2に示す上記実施形態では、通電開始のt1時点から燃焼開始のt3時点までの時間を着火遅れ時間TDと定義している。これに対し、噴射開始のt2時点から燃焼開始のt3時点までの時間を着火遅れ時間TDと定義してもよい。噴射開始のt2時点は、噴射開始に伴いレール圧等の燃圧に変化が生じた時期を検出し、その検出時期に基づき推定すればよい。
図1に示す燃焼特性取得手段81は、燃焼に関する物理量の検出値(燃焼特性値)として、着火遅れ時間TDを取得している。これに対し、熱発生率の変化を表わす波形や、該当する燃料の燃焼で発生した熱量(熱発生量)等を燃焼特性値として取得してもよい。また、着火遅れ時間TD、熱発生率の波形、および熱発生量等、複数種類の燃焼特性値に基づき、各種成分の混合割合を推定してもよい。例えば、図3の右辺左側の行列(定数)を、複数種類の燃焼特性値に対応した値に設定しておき、図3の右辺右側の行列に、複数種類の燃焼特性値を代入して混合割合を推定する。
図3の例では、複数の着火遅れ時間TDの各々について、全てのパラメータが異なるように燃焼条件が設定されている。つまり、パラメータの所定の組み合わせからなる燃焼条件i、j、k、l(図3参照)の各々について、筒内圧は全て異なる値P(i)、P(j)、P(k)、P(l)に設定されている。同様に、筒内温度T、吸気酸素濃度O2および噴射圧力Pcも全て異なる値に設定されている。これに対し、異なる燃焼条件の各々において、少なくとも1つのパラメータの値が異なっていればよい。例えば燃焼条件i、jの各々において、筒内温度T、吸気酸素濃度O2および噴射圧力Pcを同じ値に設定し、筒内圧だけを異なる値P(i)、P(j)に設定してもよい。
図3の例では、複数種類のパラメータの組み合わせにより特定される条件(燃焼条件)を複数設定し、各々の燃焼条件で燃焼した場合の燃焼特性値を取得する。これに対し、パラメータを1種類に設定し、パラメータの値が異なる燃焼条件で燃焼した場合の燃焼特性値を取得してもよい。
また、取得したい筒内温度になる時期(クランク角度)に噴射時期を変更して、積極的に所望の燃焼条件における燃焼特性値を取得してもよい。この場合、全気筒の噴射時期を変更させるのではなく、所定の気筒に特定して噴射時期を変更することが望ましい。但し、メイン噴射については、上記変更を禁止させることが望ましい。さらに、メイン燃焼への影響が大きいパイロット噴射についても、上記変更を禁止させることが望ましい。さらに、燃焼特性値を検出する専用の噴射を追加して、この専用の噴射について、所望の状態で燃焼させて燃焼特性値を取得してもよい。
上述した実施形態では、メイン噴射の直前に噴射(パイロット噴射)された燃料の燃焼に関する燃焼特性値を取得している。これに対し、メイン噴射の後に噴射された燃料の燃焼に関する燃焼特性値を取得してもよい。メイン噴射後の噴射の具体的例として、アフター噴射やポスト噴射が挙げられる。また、メイン噴射の前に複数回噴射する多段噴射を実施する場合には、初回に噴射された燃料の燃焼に関する燃焼特性値を取得すれば、メイン燃焼の影響を大きく受けずに済むので望ましい。
上述した実施形態では、筒内圧センサ21の検出値に基づき燃焼特性値を取得している。これに対し、筒内圧センサ21を備えていない構成において、回転角センサの回転変動(微分値)に基づき燃焼特性値を推定してもよい。例えば、パイロット燃焼に起因して微分値が既定の閾値を超えた時期をパイロット着火時期として推定できる。また、微分値の大きさからパイロット燃焼量を推定できる。
図1に示す実施形態では、筒内温度は温度検出素子21aにより検出されているが、筒内圧センサ21により検出された筒内圧に基づき推定してもよい。具体的には、筒内温度を、筒内圧力、シリンダ容積、シリンダ内のガス重量、ガス定数から演算して推定する。
ECU80(制御装置)が提供する手段および/または機能は、実体的な記憶媒体に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。例えば、制御装置がハードウェアである回路によって提供される場合、それは多数の論理回路を含むデジタル回路、またはアナログ回路によって提供することができる。