本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
<実施の形態1>
はじめに、本実施の形態に係る防音室の概要について説明する。なお、本実施の形態において、音の発生源に近い側(部屋の中心側)を「前方」、遠い側を「後方」という。
図1および図2を参照して、防音室9は、床91、側壁92〜95、および天井96によって囲まれた部屋である。本実施の形態では、たとえば1つの側壁92が、室内で発生した音を吸収するための吸音構造1を有している。吸音構造1は、後方面部材21と、前方面部材22と、音を吸収するための吸音材3とを備えている。
後方面部材21は、矩形形状であり、上下方向および横幅方向に長さを有している。後方面部材21は、防音室9の側壁93,95と直交している。前方面部材22は、後方面部材21と平行かつ後方面部材21から前方に離れて配置されている。前方面部材22も、矩形形状であり、上下方向および横幅方向に長さを有している。図2の矢印A1は、横幅方向を示している。
後方面部材21および前方面部材22は剛性を有しており、前方面部材22と後方面部材21とで二重壁を構成している。つまり、後方面部材21および前方面部材22の両方が、側壁92を構成している。
ただし、前方面部材22の横幅は、横幅が後方面部材21よりも短い。そのため、後方面部材21の前方であって前方面部材22と横幅方向に隣接した位置には、開口部23が形成されている。すなわち、後方面部材21の前方領域は、開口部23の背後に位置する第1領域24と、前方面部材22の背後に位置する第2領域25とで構成されている。
吸音材3は、開口部23から露出する第1領域24に設けられており、かつ、後方面部材21と前方面部材22とに挟まれる第2領域25にまで延在している。つまり、吸音材3は、第1領域24内に位置し、部屋内に露出する部分(以下「露出吸音部」という)31と、第2領域25内に位置し、前方面部材22に隠された部分(以下「背後吸音部」という)32とで構成されている。
なお、吸音材3は、グラスウールやロックウールなど一般的な吸音体で構成されてもよいし、図3に示されるような、複数の層部材からなる層状の吸音体で構成されてもよい。図3では、露出吸音部31および背後吸音部32の双方とも、厚み方向に層が形成されるように、複数の層部材が配置されている。個々の層部材は、たとえば、PET(Polyethyleneterephthalate:ポリエチレンテレフタレート)繊維が複雑に絡め合わせられて形成されており、その密度はたとえば30kg/m3である。
本実施の形態によれば、部屋(防音室9)内には、前方面部材22の表面と、吸音材3の一部(露出吸音部31)の表面とが露出しているため、部屋内で発生した音の一部は、前方面部材22において反射され、他の一部は、開口部23から吸音材3の露出吸音部31に入射して吸音される。
ここで、本実施の形態では、吸音材3は、露出吸音部31と横幅方向に隣接する背後吸音部32を有しているため、高音域の音(以下、単に「高音」ともいう)は露出吸音部31において吸収し、低音域の音(以下、単に「低音」ともいう)は、第2領域25に回折させて、背後吸音部32において吸収することができる。したがって、吸音材3の厚みを抑えたままで、吸音材3において、幅広い音域の音を吸音することができる。
次に、吸音材3において低音を適切に吸音でき、かつ、低音から高音までバランスよく吸音できる吸音構造1の構成(サイズまたは比率)について説明する。図4は、本実施の形態に係る吸音構造1の構成例を示す図である。
図4に示されるように、本実施の形態では、開口部23の開口寸法D1は、0.5Pであり、前方面部材22の横幅寸法(以下「反射壁寸法」ともいう)D2は、1.5Pである。1Pは、建物の設計上の1モジュールを表わしており、910mmまたは1000mmを示す。開口部23の開口寸法(D1)は、第1領域24の横幅寸法(所定方向における第1領域24の長さ寸法)と読み替え、前方面部材22の横幅寸法(D2)は、第2領域25の横幅寸法(所定方向における第2領域25の長さ寸法)と読み替えてもよい。
吸音材3の厚み寸法D3は、たとえば100mmである。厚み寸法D3は、第1領域24および第2領域25の奥行き寸法にも等しい。なお、図4では、便宜上、厚みを大きく示している。本実施の形態では、露出吸音部31と背後吸音部32とは同じ厚みであるものとするが、露出吸音部31は、前方面部材22の板厚分だけ前方に張り出していてもよい。また、露出吸音部31の表面には、化粧パネル(図示せず)が取り付けられてもよい。
このような構成の吸音構造1の吸音性能について、比較例を用いた実験結果を参照しながら説明する。なお、実験では、吸音材3として、図3に示したような層状の吸音体が用いられている。
まず、図5〜図8を参照して、吸音構造1の低音の吸音性能(吸音力)について説明する。図5には、本実施の形態に係る吸音構造1と他の壁構造とを比較した、低音域の音の吸音性についての実験結果が示されている。図6〜8には、比較例の壁構造101〜103の構成がそれぞれ示されている。この実験では、後方面部材21の横幅を2Pに固定して、開口部23の開口寸法D1のみを変えている。
本実施の形態に係る吸音構造1は、開口寸法D1が0.5Pであるため、「1/4吸音」の壁構造である。図6に示される壁構造101では、開口寸法D1が1Pであるため、「1/2吸音」の壁構造である。図7に示される壁構造102は、前方面部材22が設けられておらず、開口寸法D1が2Pであるため、「全吸音」の壁構造である。図8に示される壁構造103は、開口部23が設けられていないため、「吸音無し」の壁構造である。
図5のグラフには、図8の「吸音無し」の壁構造103と比較して、吸音構造1および壁構造101,102それぞれについて、低音から中音(125〜1000Hz)の音響の大きさが音圧レベル(単位:dB)として示されている。
図7の「全吸音」の壁構造102では、低音の吸音率が中音の吸音率よりもかなり低い。また、図6の「1/2吸音」の壁構造101では、壁構造102に比べて、低音の吸音率が若干向上しているが、依然として、中音の吸音率の方が高い。これに対し、本実施の形態に係る「1/4吸音」の吸音構造1は、さらに低音の吸音率が向上しており、中音の吸音率と同程度となっている。
以上の結果より、開口寸法D1が0.5Pである吸音構造1は、優れた低音の吸音性能を有していることが分かる。
次に、図8〜図11を参照して、吸音構造1の吸音バランスについて説明する。図9には、本実施の形態に係る吸音構造1と他の壁構造とを比較した、低音から高音までの吸音特性についての実験結果が示されている。図10および図11には、比較例の壁構造104,105の構成がそれぞれ示されている。上記した低音の吸音性についての実験結果より、開口寸法D1は0.5Pが望ましいことが判明しているため、この実験では、開口寸法D1を0.5Pに固定して、開口寸法D1と反射壁寸法D2との比率のみを変えている。
本実施の形態に係る吸音構造1では、開口寸法D1と反射壁寸法D2との比は、1:3である。図10に示される壁構造104では、開口寸法D1と反射壁寸法D2との比は、1:1であり、前方面部材22の両横に、開口寸法0.5Pの開口部23がそれぞれ設けられている。図11に示される壁構造105では、開口寸法D1と反射壁寸法D2との比は、1:2である。
図9のグラフには、図8の「吸音無し」の壁構造103と比較して、吸音構造1および壁構造104,105それぞれについて、低音から高音まで(125〜4000Hz)の音響の大きさが音圧レベル(単位:dB)として示されている。
図10の「吸音1:反射1」の壁構造104では、高音になるほど音圧レベルが低下しており、吸音バランスがよくない。また、図11の「吸音1:反射2」の壁構造105では、壁構造101に比べて、吸音バランスは向上しているが、依然として、高音の音圧レベルの方が低い。これに対し、本実施の形態に係る「吸音1:反射3」の吸音構造1では、低音から高音まで、ほぼ一定の音圧レベルを示しており、平坦な吸音特性を有している。
以上の結果より、開口寸法D1と反射壁寸法D2との比が1:3である吸音構造1は、低音から高音までバランス良く吸音できることが分かる。
なお、第2領域25内(背後吸音部32)に、横幅方向に音を通すためには、後方面部材21と前方面部材22とを支持する下地部材は、横幅方向に貫通する部分を有している必要がある。具体的には、たとえば、図12に示されるような下地部材4、あるいは、図13に示されるような下地部材4Aが採用され得る。なお、図12および図13では、吸音材3の図示を省略している。
下地部材4は、上下方向に間隔をあけて、横幅方向に貫通する複数の切欠き40を有している。図12では、前方面部材22側に切欠き40が向いているが、後方面部材21側に切欠き40が向いていてもよい。
下地部材4Aは、図13(B)に示されるように、複数の縦桟41と複数の横桟42とを有し、すのこ状に形成されている。この場合、図13(A)に示されるように、たとえば前方面部材22に縦桟41が当接し、後方面部材21に横桟42が当接するように設置される。
上述のように、本実施の形態の吸音構造1によれば、背後吸音部32において低音を吸収させる構成であるため、吸音材3の厚みを抑えることができる。したがって、防音室9内の空間を広く使用することができるため、実用性および意匠性を向上させることができる。また、簡易な構造で、優れた吸音性能を実現することができる。その結果、吸音構造1を備えた防音室9において、心地良い音響を作り出すことができるため、防音室9を快適なオーディオルームとして提供することができる。
なお、防音室9に備えられる吸音構造1の構成(サイズまたは比率)は、次のような構成であってもよい。
開口部23の開口寸法D1と反射壁寸法D2との比は、1:2としてもよい。つまり、開口寸法D1を1とした場合、反射壁寸法D2は2以上であれば望ましい。図9に示した実験結果において、「吸音1:反射2」の壁構造105であっても、比較的バランスの良い吸音特性を示していたからである。あるいは、反射壁寸法D2が、開口寸法D1よりも単に長いだけであってもよい。
なお、吸音材3の材料や密度によって、各音域の吸音率にバラつきがあるとも考えられるが、背後吸音部32の横幅寸法、すなわち反射壁寸法D2は、低音域(125Hz)の音波の1/2波長以上あればよい。図14には、その長さ(1/2波長)W1が示されており、具体的には略1.5Pである。また、背後吸音部32の厚み寸法(D3)、すなわち第2領域25の奥行き寸法は、100mm以上であることが望ましい。
ただし、第2領域25(および第1領域24)の奥行き寸法が、100mmより大きい場合でも、低音を吸収する背後吸音部32の横幅寸法、すなわち反射壁寸法D2は、少なくとも、高音を吸収する露出吸音部31の厚み寸法D3、すなわち第1領域24(および第2領域25)の奥行き寸法よりも長い。
<実施の形態2>
次に、本発明の実施の形態2に係る防音室の吸音構造について説明する。本実施の形態では、吸音構造が、低音域の音響を可変とする機能を有している。
図15(A),(B)は、実施の形態2に係る吸音構造1Aを模式的に示す断面図である。吸音構造1Aの基本的な構成は、実施の形態1で示した吸音構造1と同様である。したがって、以下に、実施の形態1の吸音構造1と異なる点のみ説明する。
吸音構造1Aは、低音音響可変機構5を備えている。低音音響可変機構5は、第1領域24から第2領域25内へ向かう低音域の音の通路の開口面積(以下「通路面積」という)を調整することで、低音の吸音率を変化させることができる。つまり、低音域の音響を可変とすることができる。
低音音響可変機構5は、典型的には、板状の仕切り部材51によって実現可能である。仕切り部材51は、たとえば、第1領域24および第2領域25の奥行き寸法以上の幅を有し、それらの高さ寸法(図2に示す床91から天井96までの高さ)と略同じ長さを有している。このような仕切り部材51が、開口部23の前方面部材22側の端部から、第1領域24と第2領域25との境界面26またはその付近に、吸音材3を分断するように差し込まれることで、低音の通路面積を小さくすることができる。この場合、吸音材3には、仕切り部材51を厚み方向に挿入するための切り込み、または、隙間が設けられているものとする。
図15(A)の状態では、仕切り部材51が境界面26に差し込まれていないため、低音の通路面積は最大であり、全開状態である。この場合、実施の形態1で示したように、低音は高音と同様に十分に吸音される。一方、図15(B)の状態では、仕切り部材51が境界面26に完全に差し込まれているため、低音の通路面積はゼロ(最小)であり、全閉状態である。この場合、低音の吸音率が低下するため、室内では低音の音響が大きくなる。なお、仕切り部材51を容易に抜き差し可能とするために、たとえば防音室9の床91および天井96にレール(図示せず)が設けられてもよい。あるいは、仕切り部材51の抜き差しを容易にするために、仕切り部材51は上下方向において複数個に分割されていてもよい。
仕切り部材51によって第2領域25への低音の通過を効果的に遮断または低減するためには、仕切り部材51は剛性を有する板状部材であることが望ましい。このことについては、図16に示す実験結果を参照しながら説明する。
図16は、仕切り部材51の材料と吸音効果との関係を示すグラフである。この実験では、仕切り部材51の材料を変えて、図15(B)に示すように仕切り部材51を完全に差し込んだ状態で行われた。
図16の実験結果から、剛性の無いビニールシートでは、さほど低音の吸音率は低下しないが、剛性の有る合板やスチレンボードでは、狙い通り、低音の吸音率が低くなっていることが分かる。なお、この実験結果から、仕切り部材51が剛性を有しているか否かに関わらず、仕切り部材51によって低音の通路を全閉状態としても、1000Hz以上の高音の吸音性に影響しないことも明らかとなっている。
上述のように、本実施の形態によれば、低音の音響を可変とすることができるため、低音の吸音率をわざと下げることで、吸音構造1Aをウーファーあるいはサブウーファーのように機能させることもできる。したがって、使用する楽器の種類などに応じて、快適な音響を作り出すことができる。
なお、仕切り部材51の上下方向の長さは、境界面26の高さ寸法と略同じであることとしたが、それよりも短くてもよい。つまり、仕切り部材51は、全閉状態においても、一部、低音の通路を開放するような構成であってもよい。
また、低音音響可変機構5は、他の構成であってもよい。低音音響可変機構5の変形例について説明する。
(変形例)
図17は、実施の形態2の変形例に係る吸音構造1Bを模式的に示す断面図である。吸音構造1Bは、低音音響可変機構5Aを備えている。低音音響可変機構5Aは、上記低音音響可変機構5と同様に仕切り部材51を含んでいるが、その配置位置、および、通路面積の調整の仕方が、低音音響可変機構5とは異なる。
低音音響可変機構5Aでは、仕切り部材51は、第2領域25に内蔵されている。この場合、仕切り部材51を回転させることによって、低音の通路面積を調整可能である。つまり、仕切り部材51は、横幅方向に対する角度が可変となるように設けられている。なお、仕切り部材51は、第2領域25の入り口付近(上記した境界面26付近)に設けられることが望ましい。
この場合、低音の通路を開閉するためには、仕切り部材51は、その中心線を回転軸として、90°回転可能であればよい。仕切り部材51の向きが横幅方向に対し90°の状態(図15(B)のように、厚み方向に平行に配置された状態)が、全閉状態である。これに対し、図17に示すように、仕切り部材51の向きが横幅方向に対して0°の状態が、全開状態である。
図18は、仕切り部材51の角度変化と低音の吸音性との関係を示すグラフである。なお、この実験には、仕切り部材51として、板厚2.5mmの合板が用いられている。図18の実験結果から、仕切り部材51を第2領域25の入り口付近に内蔵したとしても、吸音構造1Bは、仕切り部材51の角度変化に比例した吸音特性を示すことが分かる。
なお、低音音響可変機構5Aにおいては、仕切り部材51を第2領域25内で回転可能とするために、仕切り部材51の回転範囲には、吸音材3を設けなくてもよい。つまり、図17に示すように、第2領域25の空洞部250内に配置されてもよい。空洞部250は、たとえば、その両横が、上下方向に間隔をあけて設けられた仕切り桟52によって区切られた領域である。
また、仕切り部材51の回転を室内側から容易に行うために、低音音響可変機構5Aは、仕切り部材51の回転軸に連結された操作レバー53を含んでもよい。この場合、前方面部材22のうち、空洞部250の前方に位置する部分に、一部、操作レバー53の先端部を露出させるための操作用開口220が設けられてもよい。
なお、本変形例のように、第2領域25に空洞部250を設けるような場合には、全開状態における低音の吸音力が若干低下してしまうのを避けるために、空洞部250の横幅分、後方面部材21および前方面部材22の横幅寸法を大きくしてもよい。そうすることで、背後吸音部32の横幅寸法を、上記実施の形態2での寸法と同じにすることができる。
<実施の形態3>
上記実施の形態2では、第1領域24から第2領域25へ向かう低音の通路面積を調整することで、低音の音響を可変とした。これに対し、本実施の形態では、第2領域25の横幅方向端部から入る音の吸音率を変化させることで、音響を可変とする。
図19には、本実施の形態における低音音響可変機構5Bが示される。低音音響可変機構5Bは、変位部材54を含む。変位部材54は、上記した仕切り部材51と同様に、剛性を有する板状部材であり、第2領域25内の吸音材3(背後吸音部32)を仕切る(分断する)ように配置される。
変位部材54は、第1領域24との境界面(第2領域25の横幅方向端部)から離れた位置において、第1位置(初期位置)と第2位置(仕切り位置)との間で位置変更可能となるように設けられている。変位部材54の位置によって、第2領域25内の吸音材3(背後吸音部32)の吸音領域の大きさ(体積)が変化する。「吸音領域」とは、第2領域25内に配置された吸音材3(背後吸音部32)のうち、第1領域24側から入ってくる音の吸音に資する領域を示す。
本実施の形態において、変位部材54は、前方面部材22の挿入孔221から引き出された引出位置(実線で示す位置)と、挿入孔221に挿入され、吸音材3を横幅方向において完全に仕切る挿入位置(想像線で示す位置)との間で変位可能である。この場合、引出位置が第1位置(初期位置)に相当し、挿入位置が第2位置(仕切り位置)に相当する。変位部材54は挿入位置において、たとえば第2領域25の横幅方向中央位置に配置される。
低音音響可変機構5Bにおいて、第2領域25内の吸音材3の吸音領域の変化について、図20を参照して説明する。図20(A)に示す矢印A3は、第2領域25の厚み方向である。紙面上において、音の伝搬方向は、第2領域25の右側から左側へ向かう方向である。図20においては、第2領域25の全体に吸音材3が配置されているものとする。なお、第2領域25のうち、変位部材54の挿入範囲には、空洞部(隙間)251が設けられていてもよいし、吸音材3に切り込みが設けられていてもよい。
図20(A)は、変位部材54が引出位置のときの吸音領域27を模式的に示す横断面図である。この場合、第2領域25内に変位部材54がないため、吸音領域27は第2領域25全体である。したがって、この場合、低音の吸音率は最大である。
図20(B)は、変位部材54が挿入位置のときの吸音領域27aを模式的に示す横断面図である。この場合、変位部材54によって吸音材3が左右に仕切られている。したがって、第2領域25内の吸音材3のうち、変位部材54よりも紙面右側(音の入口側)に位置する領域が吸音領域27aとなり、変位部材54よりも紙面左側に位置する領域は非吸音領域28となる。これにより、低音の吸音率が引出位置のときよりも下がる。
なお、変位部材54は、引出位置と挿入位置との中間位置に変位させることも可能である。図20(C)は、変位部材54が中間位置のときの吸音領域27bを模式的に示す横断面図である。変位部材54は、第2領域25内に、厚み方向一端側(前方側)から挿入され、第2領域25の厚みの半分程度まで挿入されている。この場合、第2領域25のうち変位部材54が存在しない厚み範囲においては、第2領域25の右端から左端までの全領域が吸音領域27bに含まれ得るため、吸音領域27bは、挿入位置のときの吸音領域27aよりも大きくなる。このように、変位部材54の挿入度合を調整することで、吸音領域の大きさを段階的に変化させてもよい。
変位部材54は、図21(A)に示すように、1つの板状部材により構成されていてもよいし、図21(B)に示すように、上下方向に互いに間隔をあけて配置された複数の板状部材540により構成されていてもよい。後者の場合、複数の挿入孔221は上下方向一列に設けられる。複数の板状部材540は、それぞれの挿入孔221に対して抜き差し可能となる。この場合、全ての板状部材540を挿入する使用形態、全ての板状部材540を引き出す使用形態の他、一部の板状部材540だけを挿入する使用形態が可能である。この場合においても、吸音領域の大きさを段階的に変化させることができる。
なお、ここでは、初期位置としての第1位置が第2領域25外である形態について説明したが、第1位置も第2領域25内であってもよい。具体的には、たとえば、実施の形態2の変形例で示した低音音響可変機構5Aと同様に、変位部材54を第2領域25内で回転させることによって、第1位置と第2位置とを変位させてもよい。この場合、横幅方向に沿う角度が0度のときの変位部材54の位置(以下「平行位置」という)が第1位置であり、横幅方向に沿う角度が90度のときの変位部材54の位置(以下「直交位置」という)が第2位置である。
この場合における吸音領域の変化について、図22を参照して説明する。図22においても、音の伝搬方向は、第2領域25の右側から左側へ向かう方向であるものとする。
図22(A)は、変位部材54が平行位置のときの吸音領域27cを模式的に示す横断面図である。この場合、非吸音領域28の体積は非常に小さく、第2領域25の略全体が吸音領域27cとなる。変位部材54が直交位置に位置するときの吸音領域の大きさは、先に示した図20(B)の吸音領域27aと同じである。
図22(B)は、変位部材54が斜め位置のとき、たとえば横幅方向に沿う角度が約45度のときの吸音領域27dを模式的に示す横断面図である。この場合においても、第2領域25のうち変位部材54が存在しない厚み範囲においては、第2領域25の右端から左端までの全領域が吸音領域27dに含まれ得るため、吸音領域27dは、直交位置のときの吸音領域27aよりも大きくなる。
(変形例1)
実施の形態3の変形例1においては、複数の変位部材54が、音の伝搬方向に沿って互いに間隔をあけて設けられる。この場合、複数の変位部材54のなかから第2位置(仕切り位置)に変位させる変位部材54を選択することで、吸音材3を仕切る位置を変えることができる。つまり、吸音領域の大きさを段階的に変化させることができる。
図23に示す低音音響可変機構5Cにおいては、前方面部材22に複数の挿入孔221が設けられている。複数の挿入孔221は、横幅方向において互いに離れて配置される。また、第2領域25には、変位部材54を受け入れるための複数の空洞部(隙間)251が設けられる。
全ての変位部材54を引出位置にすると、吸音領域は第2領域25内の吸音材3全体となる。その状態から挿入位置に位置変更させられた変位部材54の横幅方向における位置が、音の入口側に近い程、低音の吸音率が下がる。
なお、最も第1領域24(音の入口側)に近い変位部材54は、第1領域24との境界位置付近に配置されてもよい。この場合、当該変位部材54が第1位置から第2位置に変位させられると、第2領域25に入ってくる音は入口付近で遮断されるため、第2領域内の吸音材3の吸音領域はほぼゼロに等しい。したがって、この場合、低音の音響を最大とすることができる。
なお、変位部材54が音の伝搬方向に沿って位置変更可能に設けられる場合、変位部材54が1つであったとしても、吸音領域の大きさを段階的に変更可能である。たとえば、変位部材54を抜き差しするための挿入孔221が音の伝搬方向(横幅方向)に沿って複数個設けられていてもよい。
(変形例2)
上記では、板状部材である変位部材54が垂直に(上下方向に沿って)配置されることとしたが、変位部材54は傾いて配置されてもよいし、水平に(横幅方向に沿って)配置されてもよい。図24には、変位部材54が、上下方向中央位置において、水平に配置された例が示されている。この場合、変位部材54によって、第2領域25内の吸音材3が上下方向に仕切られる。
第2領域25の第1領域24側の端部から入ってくる音(音波)は、横幅方向(音の伝搬方向)に沿って真っすぐ進むわけではなく、上方向や下方向、あるいは厚み方向にも進んでいく。そのため、図25(B)に示されるように、第2領域25内に変位部材54を横幅方向に沿って配置させた場合においても、変位部材54付近に非吸音領域28ができる。したがって、図25(A)に示す初期状態、すなわち変位部材54が第2領域25内に位置しない状態における吸音領域27よりも、その吸音領域27eが小さくなる。したがって、このような形態においても、変位部材54を抜き差しすることにより、低音の吸音率を可変とすることができる。なお、図25(A)に示す矢印A4は、上下方向を示している。
なお、2つの変位部材54を、上下方向と横幅方向とにクロスして配置させてもよい。
(変形例3)
図10に示したように、前方面部材22の両横に開口部23を設ける場合においても、低音音響可変機構を採用してもよい。この場合、変位部材54の配置位置を変更することで、一方の開口部23から入射する低音の吸音率と、他方の開口部23から入射する低音の吸音率とを変化させることができる。
たとえば、図26(A)に示すように、変位部材54を、第2領域25の中央位置よりも若干、紙面上左寄りに配置させたとする。この場合、左側の開口部23から入射する低音の吸音率と、右側の開口部23から入射する低音の吸音率とは、前者の方がやや小さくなる。
図26(B)に示すように、変位部材54を、第2領域25の中央位置よりもさらに紙面上左寄りに配置させたとする。この場合、左側の開口部23から入射する低音の吸音率がかなり小さくなるため、右側の開口部23から入射する低音の吸音率は図26(A)のケースよりも大きくなる。
なお、変位部材54の配置位置の変更は、上記変形例2と同様の方法で実現可能である。
このように、第2領域25の両側から低音を吸収する形態において、変位部材54を、第2領域25の左右端部からの距離を異ならせて配置することにより、左右で異なる周波数域の音を吸収する構法を実現することができる。この場合、音源との位置関係に応じて、変位部材54の配置位置を調整することもできる。
なお、本実施の形態では、変位部材54が板状部材であることとしたが限定的ではない。変位部材54を抜き差しする形態の場合、たとえば、変位部材54の先端形状を半円状とし、第2領域25内の吸音材3に突き当てながら押し込む(吸音材3を圧縮変形させる)ことにより、吸音領域の大きさを変化させてもよい。
また、変位部材54以外の部材を用いて、第2領域25内における吸音材の吸音領域の大きさを変化させてもよい。
<実施の形態4>
次に、本発明の実施の形態4に係る防音室の吸音構造について説明する。本実施の形態では、吸音構造が、全音域の音響を可変とする機能を有している。
図27は、実施の形態4に係る吸音構造1Cを模式的に示す図である。吸音構造1Cの基本的な構成も、実施の形態1の吸音構造1と同様である。したがって、ここでも、実施の形態1の吸音構造1と異なる点のみ説明する。
吸音構造1Cは、音響可変機構6を備えている。音響可変機構6は、開口部23から露出する吸音面(すなわち、露出吸音部31の表面または化粧パネルの表面)の露出面積を調整することで、音全体の吸音率を変化させることができる。
具体的には、音響可変機構6は、開口部23に設けられ、たとえば、ガラリのように、複数の羽板61で構成されている。各羽板61は、横幅方向に延び、上下方向に角度を変えることができる。そのため、羽板61の角度を変えることで、吸音材3の吸音面の露出面積を調整可能である。すなわち、羽板61で吸音面の全体または一部を閉鎖すると、音全体の吸音率が下がるため、全音域の音響が大きくなる。
したがって、本実施の形態においても、使用する楽器の種類などに応じて、快適な音響を作り出すことができる。
なお、音響可変機構6は、図27のような構成に限定されず、1または複数の扉によって構成されてもよい。
<実施の形態5>
上記実施の形態1〜4では、横幅2Pの側壁を有する防音室を例に説明したが、それ以外の横幅の側壁に囲まれた防音室にも、上記したような吸音構造を適用可能である。この場合の防音室の構成例について説明する。
図28は、実施の形態5に係る防音室9Aを模式的に示す図である。防音室9Aは、横幅3Pの側壁92,94と横幅4Pの側壁93,95とを有している。
4Pの各側壁93,95では、たとえば実施の形態1で示した吸音構造1を1ユニットとし、横幅方向に2つの吸音構造1が並べられている。本実施の形態では、前方面部材22と開口部23との左右の位置関係が同じになるように、2つのユニットが並べられている。この場合、ユニット間には、音の通過を遮断するための仕切り材71が設けられてもよい。
あるいは、開口部23が防音室9Aのコーナー部付近に配置されるように、前方面部材22と開口部23との位置関係が左右対称となるように、2つの吸音構造1が並べられてもよい。いずれの場合であっても、後方面部材21は一続きであってよい。
また、3Pの側壁92は、たとえば、吸音構造1Dによって構成されている。吸音構造1Dは、横幅3Pの後方面部材21の中央部前方に、開口寸法0.5Pの開口部23を有し、その両横に、一対の前方面部材22が設けられている。この場合も、吸音材3の厚み寸法D3は、100mm以上あればよい。
このように、側壁の横幅が2Pよりも大きい場合には、前方面部材22の横幅寸法D2を、1.5Pより大きくしてもよい。
<他の実施の形態>
上記各実施の形態の吸音構造では、前方面部材22と開口部23とが横幅方向に隣接するように配置されることとしたが、これらは上下方向に隣接して配置されてもよい。この場合、図29に示される側壁92のように、上下方向中央部に開口部23が設けられてもよい。
また、上記各実施の形態では、吸音構造の後方面部材21および前方面部材22は、防音室の側壁を構成することとしたが、図29に示されるように、これらは防音室の床91あるいは天井96を構成してもよい。つまり、吸音構造の後方面部材21および前方面部材22は、防音室の側壁92〜95、床91および天井96のうちの少なくともいずれかを構成していればよい。
あるいは、吸音構造の後方面部材21のみが、防音室の側壁92〜95、床91および天井96のうちの少なくともいずれかを構成してもよい。つまり、前方面部材22は、防音室の構成面(後方面部材21)の前方に、単に反射パネルとして配置されてもよい。
あるいは、各実施の形態に示した吸音構造は、防音室に予め組み込まれていなくてもよい。つまり、吸音構造は、図30に示すような、可搬式の吸音装置として実現されてもよい。
図30を参照して、吸音装置10は、たとえば、実施の形態2の変形例の吸音構造1Bと実施の形態4の吸音構造1Cとを組み合わせた、吸音構造1Eを有している。そのため、吸音装置10は、一例として、低音音響可変機構5A(図17)と、音響可変機構6とを有している。そのため、吸音装置10によって、音域別(周波数別)に音響を変更することができる。なお、図30では、音響可変機構6が全閉の状態が示されている。
この場合、後方面部材21および前方面部材22は、吸音装置10の筐体の一部を構成する。吸音装置10は、後方面部材21および前方面部材22の他、吸音材3の上端面、下端面、および両側面をそれぞれ塞ぐ面部材81〜84によって囲まれていてもよい。
吸音装置10においても、後方面部材21および前方面部材22の形状はいずれも矩形形状である。図30の矢印A2で示す所定方向(前方面部材22と開口部23とが隣接する方向)を一方方向とすると、後方面部材21の一方方向の長さは2Pであり、前方面部材22の一方方向の長さは1.5Pであることが望ましい。後方面部材21および前方面部材22の他方方向(一方方向に直交する方向)の長さは、1P以上であることが望ましい。
上記のような吸音装置10を部屋内の所望の位置に設置することで、その部屋をオーディオルームのように使用することができる。また、吸音装置10は、音域別に音響を変更することもできるため、オーディオチューンとしても機能させることができる。吸音装置10は、所定方向が部屋の側壁の横幅方向に一致するように設置されてもよいし、所定方向が部屋の上下方向に一致するように設置されてもよい。
なお、図30の吸音装置10の例では、後方面部材21および前方面部材22の形状は矩形形状としたが、このような形状に限定されない。後方面部材21および前方面部材22は、少なくとも所定方向に長さを有し、所定方向に前方面部材22と開口部23とが隣接して配置されていればよい。
また、上記実施の形態2,3において、低音音響可変機構を設ける場合に、吸音材3が隙間や空洞部を介して分断されていてもよい旨説明したが、低音音響可変機構の有無に関わらず、吸音材3は分断されていてもよい。つまり、後方面部材21の前方領域を構成する第1領域24と第2領域25との双方に、吸音材3が設けられていればよく、吸音材3は、第1領域24から第2領域25にまで延在していなくてもよい。たとえば、第2領域25内に1つまたは複数の空洞部が設けられていてもよい。
なお、第2領域25内において、水平方向に延在するように空洞部が設けられる場合、上下長さの短い変位部材54(または仕切り部材51)が、当該空洞部に沿ってスライド可能に配置されてもよい。
さらに、上記各実施の形態では、所定方向(たとえば横幅方向)に沿う前方面部材22の長さが後方面部材21よりも短く、開口部23は所定方向において前方面部材22に隣接するものとして説明した。しかしながら、後方面部材21と前方面部材22との所定方向に沿う長さを同じにして、前方面部材22に部分的に開口部23を設けてもよい。この場合、前方面部材22のうち開口部23を除く部分(反射壁部)の背後に位置する領域が、上記した第2領域に相当する。第1領域は、上記各実施の形態と同様に、開口部23の背後に位置する領域である。
前方面部材22が開口部23を有する場合においても、開口部23は、たとえば、前方面部材22の所定方向における一方の端部に配置され、かつ、所定方向に交差(直交)する方向に延在することが望ましい。より具体的には、所定方向を横幅方向とすると、開口部23は、前方面部材22の上端位置から下端位置にまで延在していてもよい。
図31に示すように、前方面部材22Aは複数の開口部23を有していてもよい。この場合、所定方向に沿って前方面部材22Aの反射壁部222と開口部23とが交互に配置される。上記した開口寸法D1は、全ての開口部23(または第1領域24)の所定方向に沿う長さ寸法の合計に相当するとみなしてもよい。反射壁寸法D2もまた、全ての反射壁部222(または第2領域25)の所定方向に沿う長さ寸法の合計に相当するとみなしてもよい。
また、上記各実施の形態では、吸音材3が第1領域24と第2領域25との双方に設けられることとしたが、図32の吸音構造1Gに示されるように、第2領域25にのみ設けられてもよい。つまり、吸音材3は、少なくとも、前方面部材22の背後に配置されていればよい。
吸音構造1Gにおいては、開口部23から第1領域に入射した音の一部は後方面部材21で反射され、残りの一部が第2領域25に至る。この場合、高音の大半が反射され、低音が第2領域25に設けられた吸音材3に、その側面側から入射して吸収される。つまり、吸音構造1Gにおいては、吸音材3の側面が吸音面となる。このような吸音構造1Gによれば、実施の形態1の吸音構造1と比較すると、低音の吸音性能を維持したまま、高音の音圧レベルを上げることができる。したがって、吸音構造1Gを採用することで、高音の吸収は僅かとし、低音を効果的に吸収する構法を実現することができる。なお、吸音構造1Gにおいて、開口部23を閉鎖可能にするための開閉機構(たとえば扉)を設けた場合、開閉機構の開閉により低音の吸音率を変えることもできる。
吸音材3が第2領域25内にのみ設けられる場合、図33の吸音構造1Hのように、前方面部材22の横幅方向両端部に開口部23を設けて、吸音材3の両側面から低音を吸音できるようにしてもよい。
あるいは、図30に示したような吸音装置にこのような吸音構造を採用する場合には、横幅方向における前方面部材22の長さ寸法を後方面部材21と同じにしてもよい。この場合、たとえば、吸音材3の両側面を塞ぐ面部材83,84を無くし、吸音材3の両側面を吸音面としてもよいし、吸音材3の上端面を塞ぐ面部材81を無くし、吸音材3の上端面を吸音面としてもよい。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、上記各実施の形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。