JP2017118841A - 免疫療法の効果予測マーカー - Google Patents

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Abstract

【課題】技術的に簡単で、コストが安く、しかも感度および精度が優れた、癌の免疫療法の臨床効果予測方法を開発する。【解決手段】癌の免疫療法の臨床効果を予測するための方法およびキットであって、対象から得られた試料中のシンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、癌の免疫療法の臨床効果が高いと予測する方法およびキット。【選択図】なし

Description

本発明は、癌の免疫療法の臨床効果を予測する方法およびそのためのキットに関する。
近年、癌の免疫療法は標準的な治療の選択肢となってきている。免疫療法の有効性を高めるためには、生物学的な活性を高めるだけでなく、接種前に有効無効を予測する指標(バイオマーカー)が重要である。
癌の免疫療法には癌抗原ペプチドがよく用いられる。癌抗原ペプチドの1つであるWT1ペプチドは、WT1遺伝子(Wilms' tumor gene 1)によってコードされるWT1タンパク質の一部分である。現在、WT1ペプチドを用いて種々の癌の免疫療法が行われている。これまで、WT1ペプチドを用いる癌の免疫療法(WT1ワクチン)の臨床効果を予測することに関し、いくつかの報告がある。高WT1発現レベルを有する悪性神経膠芽腫患者は、低WT1発現レベルの者より長く生存したことが報告されている(非特許文献1)。より高いWT1特異的CTL(細胞障害性Tリンパ球)の頻度がWT1ワクチンが奏功することの指標であることが報告されている(非特許文献2〜4)。WT1ワクチン接種の繰り返し治療の際に、WT1特異的CTLを維持するために重要であるエフェクターメモリーサブセット(EMs)の頻度の増加もまた、WT1ワクチンが有効であることの予測因子であることが報告されている(非特許文献4)。末梢血リンパ球数および免疫後の腫瘍抗原に対する遅延型過敏反応(DTH)もまた、様々な免疫療法で報告されているように臨床効果に関する予後因子であることが報告されている(非特許文献5)。しかし、上記報告に基づいて臨床効果を予測するためには、技術的難易度、コストおよび予測感度の面で問題のある場合があった。
Chiba Y. et al. Brain tumor pathology, 27(1), 29-34 (2010) Oka Y TA. et al. Proc Natl Acad Sci U.S.A., 101(38), 13885-13890 (2004) Hashii Y. et al. Leukemia, 26(3), 530-532 (2012) Nishida S. et al. Journal of immunotherapy (Hagerstown, Md. : 1997), 37(2), 105-114 (2014) Ogi C. et al. Immunotherapy, 6(10), 1025-1036 (2014)
本発明の解決すべき課題は、技術的に簡単で、コストが安く、しかも感度および精度が優れた、癌の免疫療法の臨床効果を予測する方法を開発することであった。具体的には、本発明の解決すべき課題は、癌の免疫療法が有効と予想される患者を選択するための適切なバイオマーカーを見出すことであった。
本発明者らは、癌抗原ペプチドの一例としてWT1ペプチドを用いた癌の免疫療法を受けた脳腫瘍患者の末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析を行ったところ、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの低発現が臨床効果と相関することを見出し、本発明を完成するに至った。かくして本発明は以下のものを提供する。
(1)癌の免疫療法の臨床効果を予測するための方法であって、対象から得られた試料中のシンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定することを特徴とし、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、臨床効果が高いと予測する方法。
(2)シンデカン−4遺伝子の発現レベルを内部標準遺伝子の発現レベルと比較することを特徴とする、(1)記載の方法。
(3)内部標準遺伝子がベータアクチンであり、シンデカン−4遺伝子の発現レベルが、ベータアクチンの発現レベルを1とした場合に、0.001以下である場合に臨床効果が高いと予測する、(2)記載の方法。
(4)試料が末梢血試料である(1)〜(3)のいずれか記載の方法。
(5)癌の免疫療法の臨床効果を予測するためのキットであって、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定するための試薬を含み、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、臨床効果が高いと予測するキット。
(6)内部標準遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含む、(5)記載のキット。
(7)内部標準遺伝子がベータアクチンであり、シンデカン−4遺伝子の発現レベルが、ベータアクチンの発現レベルを1とした場合に、0.001以下である場合に臨床効果が高いと予測する、(6)記載のキット。
(8)試料が末梢血試料である(5)〜(7)のいずれか記載のキット。
本発明によれば、癌の免疫療法の臨床効果を治療前に予測することができる。本発明の方法は、1個の遺伝子またはタンパクの発現を調べるだけで臨床効果を予測できるので、技術的に非常に簡単、安価である。本発明の方法は予測感度および予測精度も高い。
図1は、DNAマイクロアレイ分析による候補遺伝子の選択について説明する図である。図1aは、本発明のバイオマーカーを見出すための方法を説明する図式である。先ず、発現に差のある遺伝子(DEGs)をcDNAマイクロアレイによってスクリーニングし、スクリーニングされた遺伝子の発現レベルが異なる測定方法でも成り立つことを、ディスカバリーセットの30人の神経膠芽腫患者を用いる定量的RT−PCRによって確認した。次に、確認されたDEGsを、バリデーションセットの23人の神経膠芽腫患者(ディスカバリーセットの患者とは異なる)を用いて検証した。最終的にシンデカン−4をバイオマーカーとして選択した。図1bは、ボルカノプロットを示す。各ドットは1個の遺伝子に対応する。X軸およびY軸は、それぞれ、個々の遺伝子の長期生存者と短期生存者間のシグナル強度の変化倍率の対数値(log[short/long])、および長期生存者と短期生存者間の個々の遺伝子のシグナル強度の相違の統計学的有意差の対数値(−log10[P value])を示す。破線は y=|x|−1,y=1 および |x|=0.5を示す。図1cは、実施例にて説明するように抽出した32個の候補DEGsに関するボルカノプロットである。遺伝子名と統計学的評価を表3に示す。 図2は、本発明のバイオマーカーとしてのシンデカン−4(SDC−4)の効果を示す図である。図2aはAUC(曲線下面積)を最大化するようにOS(全生存期間)の閾値を選んだときのROC曲線を示す。SDC−4発現レベルのカットオフ値0.001により、長期生存者(OS≧256日)と短期生存者(OS<256日)は最もよく弁別できる。長期生存者のSDC−4発現レベルは0.001以下である。バイオマーカーとしての性能は、70.4%の感度、76.0%の特異度、76.0%の陽性適中率、70.4%の陰性適中率、および73.1%の精度であり、カイ二乗検定では有意差が認められた(P<0.001)。この解析ではディスカバリーセットおよびバリデーションセット中のすべての患者を用いた。 図2bは、SDC−4低発現(0.001以下)患者とSDC−4高発現(0.001より大きい)患者のOS(日)のカプラン−マイヤー曲線を示す。ログランク検定を用いて2群間の比較を行ったところ、2群間でOSに統計学的有意差が認められた(p<0.001)。一年生存率は、SDC−4低発現患者とSDC−4高発現患者で、それぞれ、64.0%と18.5%であった。 図3は、本発明のバイオマーカーとしてのシンデカン−4(SDC−4)の末梢血単核球中のタンパクの発現を示す図である。MFIは平均蛍光強度である。黒いバーは長期生存者、白いバーは短期生存者のMFIを示す。
本発明は、第1の態様において、癌の免疫療法の臨床効果を予測するための方法であって、対象から得られた試料中のシンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定することを特徴とし、シンデカン−4(SDC−4)遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、臨床効果が高いと予測する方法に関するものである。癌の免疫療法は、いかなる癌抗原を用いるものであってもよく、一例としてWT1ペプチドを用いる癌の免疫療法が挙げられる。
本発明により臨床効果が予測される癌の免疫療法に用いられる標的抗原を投与する場合、抗原となる遺伝子産物の部分アミノ酸を含むペプチド、あるいはその改変ペプチドであって、免疫原として対象に投与した場合に抗癌作用を有するものであればいずれのペプチドであってもよい。癌の免疫療法に用いることのできる様々なペプチド(癌抗原ペプチド)が公知であり、一例としてWT1ペプチドが挙げられる。そのようなWT1ペプチドとしては、改変型WT1235ペプチド(配列番号:1)、WT1235ペプチド(配列番号:2)、WT1126ペプチド(配列番号:3)、WT1187ペプチド(配列番号:4)、WT1332ヘルパーペプチド(配列番号:5)などが挙げられるがこれらに限定されない。
癌の免疫療法は、治療および予防を包含する。したがって、対象は、癌を有しているヒトであってもよく、癌を有するおそれのあるヒトであってもよく、あるいは健常なヒトであってもよい。癌の免疫療法を予定している対象において、癌の免疫療法が有効かどうかを本発明により予測してもよい。他の癌治療を受けている対象において、癌の免疫療法が有効であるかどうかを本発明により予測してもよい。あるいは、対象において免疫療法によって癌を予防することが有効であるかどうかを本発明により予測してもよい。
癌抗原ペプチドが対象において癌の治療または予防効果を発揮するかどうかは、癌抗原ペプチドが対象のHLA型に対応するかどうかによる。多くの癌抗原ペプチドに関して、どのHLA型に適合するのか知られているので、本発明に用いる癌抗原ペプチドを、対象のHLA型に応じて選択することができる。かかる観点から、癌抗原ペプチドによる癌の免疫療法が適用される対象はいずれのHLA型を有する者であってもよい。
免疫療法の対象となる癌はいずれの種類の癌であってもよく、例えば、慢性骨髄性白血病などの白血病、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫などの造血器腫瘍、または食道癌、胃癌、大腸癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、胚細胞癌、肝癌、胆道癌、頭頸部癌、皮膚癌、肉腫、腎臓癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、カルチノイド、肺芽腫、肝芽腫、脳腫瘍あるいは胸腺癌などの固形癌などが例示されるが、これらに限定されない。
本発明の実施に際して、対象から得られた試料中のSDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを調べる。試料は、対象のいずれの組織、部位から採取されたものであってもよく、好ましくは末梢血試料であり、その中のリンパ球または単核球におけるSDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを調べることが好ましい。
SDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを調べるために、ノーザンブロット法やPCR法、ウェスタンブロット法やフローサイトメトリー、ELISAなどの公知の遺伝子・タンパク発現レベルの測定方法を用いることができる。好ましくは定量的PCR法、特に好ましくは定量的リアルタイムPCR(RT−PCR)法を用いる。定量的RT−PCR法は、当業者に広く用いられており、感度、特異度が高く、微量の遺伝子発現レベルでも定量できる。
本発明において、対象から得られた試料中のシンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、癌抗原ペプチドによる癌の免疫療法の臨床効果が高いと予測する。好ましくは、SDC−4遺伝子の発現レベルを内部標準遺伝子の発現レベルと比較することにより、シンデカン−4遺伝子の発現レベルが低いかどうかを決定する。
内部標準遺伝子としては、組織や実験処理あるいは発生段階によって発現レベルが変動せず安定している遺伝子を用いる。内部標準遺伝子としては、ベータアクチンやグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)などのハウスキーピング遺伝子が例示されるが、これらの遺伝子に限定されない。
例えば、対象の末梢血由来の試料中のSDC−4遺伝子の発現レベルを測定するための内部標準遺伝子としてベータアクチンを用いる場合、ベータアクチンの発現レベルを1とすると、SDC−4の発現レベルが0.001以下である場合に、対象においてWT1ペプチドによる癌の免疫療法が有効であると予測することができる。当業者は、内部標準遺伝子や試料の種類に応じて、本発明におけるカットオフ値を適切に定めうる。
本発明は、もう1つの態様において、癌の免疫療法の臨床効果を予測するためのキットであって、SDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定するための試薬を含むキットに関するものである。好ましくは定量的RT−PCR法を用いて、とりわけ好ましくは定量的RT−PCR法を用いてSDC−4遺伝子の発現レベルを測定する。
SDC−4遺伝子の発現レベルを測定するための試薬としては、例えば、定量的PCRを用いる場合には、SDC−4遺伝子増幅用プライマーおよび/または定量的RT−PCRを行うための酵素類などが挙げられるが、これらに限らない。好ましくは、本発明のキットは、SDC−4遺伝子増幅用プライマーのほかに内部標準遺伝子増幅用プライマーおよび/または定量的PCRを行うための酵素類などを含んでいてもよい。SDC−4増幅用のプライマーは、当業者が公知のSDC−4ヌクレオチド配列に基づいて設計することができる。定量的TR−PCRを用いるSDC−4増幅用プライマーの例として、GGCAGGAATCTGATGACTTTG(フォワード、配列番号:52)およびGCCGATCATGGAGTCTTCC(リバース、配列番号:53)が挙げられるが、これらに限定されない。また、内部標準遺伝子としてベータアクチンを用いる場合には、定量的TR−PCRを用いるベータアクチン増幅用プライマーの例として、CCAACCGCGAGAAGATGA(フォワード、配列番号:70)およびCCAGAGGCGTACAGGGATAG(リバース、配列番号:71)が挙げられるが、これらに限定されない。SDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定するための試薬としては、ノーザンブロット法や他のPCR法、ウェスタンブロット法やフローサイトメトリー、ELISAなどの公知の遺伝子・タンパク発現レベルの測定方法に用いる試薬であってもよい。このような試薬は、当業者が適宜選択して用いることができる。
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、本発明の範囲が実施例に限定されると解すべきではない。
1.材料および方法
(1)WT1ペプチドワクチン
WT1ペプチドワクチンは、WT1−CTLエピトープペプチドとモンタナイドISA51アジュバントから構成される。本研究で用いられたこのペプチドは改変型9量体WT1ペプチド(235-243 CYTWNQMNL(配列番号:1);mWT1235)であり、天然WT1235ペプチド(235-243 CMTWNQMNL(配列番号:2);WT1235)のHLA−A24:02に対するアンカー位置である、第二のアミノ酸位置のYがMに置き換わっている。HLA−A24:02分子へのmWT1235の結合親和性はWT1235よりも高く、mWT1235はWT1235よりもWT1を発現する腫瘍細胞に対する非常に強力なCTL応答を誘導することが実証されている。GMPグレードのWT1ペプチドは、Multiple Peptide Systems(San Diego,California)およびPeptide Institute(大阪、日本)から購入した。
(2)患者
悪性神経膠芽腫(GBM)に対するWT1ペプチドワクチンの第II相試験に60人の患者が登録された。再発または進行GBM患者は、その病気が従来の化学療法や放射線療法に抵抗性であった場合に、第II相試験に登録される対象であった。他の選択基準は本発明者らの以前の研究と同様であった。簡単には、1)年齢が16歳から80歳の間、2)免疫組織化学的解析によって決定された神経膠腫細胞におけるWT1の発現、3)HLA−A2402陽性、4)推定生存が3ヶ月以上、5)ECOGパフォーマンスステータスグレード0−2、6)重篤な臓器機能障害がない、および7)患者の書面によるインフォームドコンセント。すべての登録患者は、WHOの基準に基づいて、GBM(グレード4)を有すると組織学的に証明されていた。
第II相試験に登録されていた60人の患者のうち53人から、WT1ワクチン接種の前にPBMCサンプルが入手可能であった。53人の患者のうち、15人の患者が全生存期間(OS)≧460日(中央値:1133日、範囲:480から2678日)である長期生存者として、他の15人の患者がOS<460日(中央値:216日、範囲:138−458日)として、無作為に選択された、ここで、OSは、再発または疾患の進行から死亡または評価時点(censored time)までの日と定義した。これら30人の患者(15人の長期生存者および15人の短期生存者)がディスカバリーセット(discovery set)の患者と定義され、残りの23人の患者がバリデーションセット(validation set)の患者と定義された。
WT1ペプチドワクチン接種と血液サンプルのcDNAマイクロアレイ解析の第II相試験は、大阪大学医学部附属病院の倫理審査委員会によって承認された。
(3)WT1ペプチドワクチン接種スケジュール
インフォームドコンセントを得た後、3.0mgのモンタナイドISA51アジュバントで乳化したHLA−A24:02拘束性mWT1235ペプチドの皮内注射を開始した。スケジュールとしては週1回の接種を12週連続で行うこととした。応答は、RECIST(固形腫瘍における応答評価基準)の基準に従って、初期ワクチン接種後12週で、磁気共鳴イメージング(MRI)を使用して、完全寛解(CR)、部分寛解(PR)、安定(SD)及び増悪(PD)として評価した。臨床応答が明らかになった場合、WT1ワクチン接種を次の数ヶ月間、2週間間隔で、次いで1〜3ヶ月間隔で、明白な腫瘍の進行や患者の健康状態の悪化が観察されるまで継続した。
(4)血液サンプル
患者から末梢血を得、続いてLymphocyte Separation Solution(ナカライテスク、京都、日本)を用いる密度勾配遠心分離でPBMCを分離した。分離したPBMCは使用するまで液体窒素中で保存した。
(5)PBMCからのRNA単離およびcDNAマイクロアレイ解析
凍結したPBMCを融解し、TRIzol試薬(Life technologies, Carlsbad, California)を用いて総RNAを単離し、クロロホルムを用いて精製し、次いでイソプロパノールおよびエタノール沈殿を行った。精製した総RNAの量を、nanoDrop ND−1000(Thermo Fisher Scientific,Waltham,Massachusetts)を用いて測定した。
ディスカバリーセット(discovery set)の患者のPBMCからのRNAを外部メーカー(Toray Industries,Tokyo,Japan)に送付し、RNAベースのcDNAマイクロアレイ解析を、Human oligo chip 25k ver1.00(Toray Industries,Tokyo,Japan)を用いてそこで実施した。
マイクロアレイ解析データを、global normalization、続いてquantile normalizationを用いて変換した(Shippy R. et al. Nature biotechnology, 24(9), 1123-1131 2006))。最初に、[(ブランクスポットの平均強度)+10×(ブランクスポットの強度の標準偏差)]未満の強度を有する遺伝子を除外した。長期生存者および短期生存者の間で発現に差のある遺伝子(Differentially Expressed Gene, DEG)を同定するために、log(2群間の比すなわちfold−change)(x軸)および二群間のWelchのt検定の−log10(p値)(y軸)で構成されるvolcano plotを作成した(Allison DB. et al. Nature reviews. Genetics, 7(1), 55-65 (2006))。二群間の比の対数値は、以下の式によって計算した:log[(長期生存者における平均シグナル強度)/(短期生存者における平均シグナル強度)]。DEGは、このvolcano plotを用いて以下の条件により選択した:y>|x|−1、|x|>0.5、およびy>1.0。DEGの偽陽性の確率を下げるために、個々の遺伝子の発現強度と、無増悪生存期間(PFS)またはRECIST基準に従った治療効果判定のいずれかの間の相関を、それぞれ、PearsonおよびSpearmanの相関係数によって調べた。有意なp値を示さなかった遺伝子(ここでは偽陰性を避けるためにアルファレベルは、Pearsonの相関係数について0.1、かつSpearmanの相関係数について0.2と厳格ではない閾値を設けた)をさらなる解析から除外した。最終的に、以下の6つの条件を満たした遺伝子で次のステップの解析を行った;1) 個々の遺伝子の平均強度≧[(ブランクスポットの平均強度)+10×(ブランクスポットの強度の標準偏差)];2)−log10(長期OS群および短期OS群間のt検定による差のp値)=|log2(倍差(fold−difference))|−1;3)|log2(倍差)|>0.5;4)−log10(長期OS群および短期OS群間のt検定による差のp値)>1.0;5)PFSとマイクロアレイのシグナル強度間のPearsonの相関係数のp値が<0.1;かつ治療効果判定およびマイクロアレイのシグナル強度間のSpearmanの相関係数のp値<0.2。
(6)定量的RT−PCR
PBMCからのRNAをSuperScript VILO cDNA Synthesis KitおよびMaster Mix (Life technologies,Carlsbad,California)を用いて一本鎖cDNA(first−strand cDNA)へ逆転写した。RT−PCRのためのプライマー配列を表1に列挙した。標的配列は、NCBIヌクレオチドデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore)において入手可能である。サンプルcDNAを、BioMark 48.48 dynamic array nanofluidic chip (Fluidigm Corporation,San Francisco,California)にロードする前に、希釈プライマー混合物と共に15サイクル、事前に増幅を行った。次いで、BioMark HD (Fluidigm Corporation,San Francisco,California)を用いて製造業者のプロトコルに従ってRT−PCRを行った。ベータアクチン(ACTB)を内部コントロールとして使用し、ΔCTを[(各遺伝子のCT値)−(ACTBのCT値)]として計算した。遺伝子発現レベルに関するデータはすべて、log(1+2−ΔCT)に変換し、統計学的解析を行った。
Figure 2017118841
(7)フローサイトメトリーによるタンパク発現の定量
上記GBM患者と同様に、WT1ペプチドワクチン第II相臨床試験に参加した卵巣癌の患者のうち、ワクチン接種後の生存期間が最も長かった患者3名、最も短かった患者3名の末梢血単核球で解析を行った。抗体はFITC標識抗シンデカン4抗体(5G9)(Santa Cruz, Dallas, Texas, USA)を用いた。タンパク発現はmean fluorescent intensity (MFI)で評価し、染色されていない検体のMFIを減算した値を解析に用いた。
(8)統計解析
RT−PCRの統計解析は、WT1ワクチン接種の開始の日から死亡または打ち切り時点までの生存時間と定義したOSを用いて実施した。Jarque−Bera検定を用いて変数の正規分布を評価し、かつF検定を用いて等分散性(homogeneity of variance)を確認した。
ディスカバリーセット(discovery set)とバリデーションセット(validation set)における長期生存者および短期生存者の間の患者の特性の違いを評価するために、年齢、性別、カルノフスキーパフォーマンスステータス(KPS)、放射線療法での総吸収線量、外科治療歴の有無、化学療法歴の有無をCox比例ハザードモデルで解析した。
OSと定量的RT−PCRによって測定された個々の遺伝子発現レベル間の相関を調べるために、個々の遺伝子が正規性(normality)の要件を満たすように、対数、平方根、立方根、または四乗根変換を含む適切な変換を実施した。全ての正規分布した変数を等分散性(homogeneity of variance)について確認し、Studentのt検定により解析した。正規分布ではない変数はMann−WhitneyのU検定を用いて解析した。
治療の有効群・無効群を予測するためのSDC−4発現レベルのカットオフ値を、Youden’s index(Youden’s J statistic=感度+特異度−1として定義される)が最大になるように、ROC曲線を用いて決定した。感度、特異度、陽性および陰性適中率、ならびにSDC−4の発現レベルによるOSの予測の精度は、公式を用いて計算した。ROC曲線によって求められたSDC−4発現レベルのカットオフ値で有効群・無効群の2群に分け、Kaplan−Meier曲線と両側log−rank検定を用いて、評価した。統計解析は、MP Pro 10.0(SAS Institute,Inc. Cary,NC)およびR−commanderなどの、統計用ソフトウェアを使用して実行した。
2.結果
(1)ディスカバリーセット(discovery set)を用いて、WT1ワクチン接種の前にPBMCにおいて発現に差のある遺伝子を同定するための探索的cDNAマイクロアレイ解析を行った。
WT1ペプチドワクチンを投与された再発性または従来治療抵抗性の悪性神経膠芽腫患者を、この解析のためのコホートとして選択した。WT1ワクチン接種前のPBMCを、このワクチンの臨床試験にエントリーした53人から採取した。治療効果の予測に有用なバイオマーカーを探索するためのストラテジーの概略を図1aに示した。53人の患者のうち、30人を無作為にディスカバリーセット(discovery set)に登録し、23人をバリデーションセット(validation set)に登録した。ディスカバリーセット(discovery set)では、OS≧460日(中央値:1133日、範囲:480から2678日)である15人の患者が長期生存者として、OS<460日(中央値:216日、範囲:138−458日)である15人の患者が短期生存者として、選択された(表2)。コックスハザードモデルを用いた解析では、年齢、性別、脳腫瘍に対する外科治療の既往の有無、または脳腫瘍に対する放射線療法の総吸収線量において、治療効果との関連は認められなかったが、パフォーマンスステータスが低いことと化学療法の既往は治療効果を落とすリスクが高い傾向にあった。尚、すべての短期生存者は解析時の打ち切り時点で原病の悪化により死亡している(表3)。
Figure 2017118841
KPS, カルノフスキーのパフォーマンスステータス; RT, 放射線療法 (全照射線量) ;
SD, 標準偏差; OS, 全生存期間; PFS, 無増悪生存期間
Figure 2017118841
†OSの起算日は腫瘍再発もしくは増悪した日
‡OSの起算日はワクチン接種を開始した日
長期生存者および短期の生存者との間で発現に差のある候補遺伝子を発見するために、WT1ワクチン接種の前にPBMCを用いてcDNAマイクロアレイ解析を実施した。log(2群間の比すなわちfold−change)をx軸、統計的有意性の対数値(−log10p値)をy軸としてvolcano plot(ここでは、ドットは合計25,000遺伝子のそれぞれ1つを示す)を図1bに示した。次いで、発現に差のある遺伝子(DEG)を以下のように抽出した。最初に、[(ブランクスポットの平均強度)+10×(ブランクスポットの強度の標準偏差)]未満の強度を有する遺伝子を除外し、次いで、残りの3,037遺伝子を3つの基準、y>|x|−1、|x|>0.5、およびy>1.0に従って、74個に絞り込んだ。さらに候補遺伝子を絞り込むために、個々の遺伝子のシグナル強度とPFSまたは臨床応答のいずれかとの間の相関を、それぞれ、PearsonおよびSpearmanの順位相関解析によって評価し、前者の解析について0.1以上のp値、かつ後者の解析について0.2以上のp値を有する遺伝子を除外した。最後に、32遺伝子を候補遺伝子(表4および図1c)として選択した。これらの32個の候補遺伝子のうち、11個は長期生存者において高発現し(表4、上段)、21個は短期生存者において高発現していた(表4、下段)。
Figure 2017118841
† log2(長期/短期),‡ two-tailed Welch's t-test
(2)定量的RT−PCRによるcDNAマイクロアレイで選択された候補遺伝子の検証
30人のディスカバリーセット(discovery set)患者由来のPBMCにおける、cDNAマイクロアレイ解析によって選択された32個の候補遺伝子の発現レベルを、定量的RT−PCRによって確認した。
厳密な統計解析を行うために、定量的RT−PCRにより得られた個々の遺伝子の発現レベルを、正規性(normality)の要件を満たすように適切に変換し、Jarque−Bera検定によって正規分布について、F検定によって等分散性(homogeneity of variance)について、片側Studentのt検定によって有意性の同一傾向(same trend of significance)について確認した(表5)。正規分布に変換できなかった場合には、片側Mann−Whitney U検定を使用した。これらの統計解析の結果、32個の候補遺伝子のうち、15個の遺伝子が長期生存者と短期生存者の間で差があることが再度確認され(表5でVerifiedと表記)、17個が除外された(表5でExcludedと表記)。
Figure 2017118841
†log2(長期生存/短期生存)
(3)バリデーションセット(validation set)患者を用いる15個の候補遺伝子の検証
さらに異なる患者集団でもこれらの候補遺伝子が長期生存者・短期生存者間で差があるか再現性を確認するために、ディスカバリーセット(discovery set)における患者と同じプロトコルでWT1ペプチドワクチンを投与された他の悪性神経膠芽腫の患者23名をバリデーションセット(validation set)として検証を行った。バリデーションセット(validation set)における患者の特徴を表6に示した。OSと年齢、性別、パフォーマンスステータス、外科治療の有無もしくは化学療法の有無、および先の放射線療法の総吸収線量との間に交絡は認めなかった。バリデーションセット(validation set)患者を用いて、これらの15遺伝子の発現レベルがOSに相関したかどうかを確認した(表7)。これらの解析は、ディスカバリーセット(discovery set)で使用されたものと同一の統計的手法によって行った。結果として、SDC−4遺伝子発現レベルがOSに対して有意かつ負の相関を有していた(表7)。
Figure 2017118841
KPS, カルノフスキーのパフォーマンスステータス; RT, 放射線療法 (全照射線量) ; SD, 標準偏差; OS, 全生存期間; PFS, 無増悪生存期間
Figure 2017118841
†log2(長期/短期)
‡表5に示したのと同じ統計学的方法を用いた。
(4)SDC−4の発現レベルによるWT1ペプチドワクチンで処置されたGBM患者の予後の予測
WT1ワクチン接種前のPBMCにおけるSDC−4の発現レベルを用いる、WT1ペプチドワクチンで処置されたGBM患者の予後を予測する能力を調べた。
まず、受信者動作特性(ROC)曲線をディスカバリーセット(discovery set)およびバリデーションセット(validation set)の合計53人の患者を用いて描いた(図2a)。OSのカットオフ値として、256日と設定したとき「有効群」および「無効群」を最も的確に予測でき、そのときのROC曲線下面積(AUC)は0.72と最大値となった。有効群(OSが256日以上)と無効群(OSが256日未満)を予測するための最適なカットオフ値は、Youden’s indexにより0.001と求められ、有効群では0.001以下、無効群では0.001より大きかった。治療効果予測の性能は、70.4%の感度、76.0%の特異度、76.0%の陽性適中率、70.4%の陰性適中率、および73.1%の精度であり、カイ二乗検定では有意差が認められた(P<0.001)。
生存率とSDC−4の発現レベルの間の相関をさらに実証するために、患者を2群、SDC−4−低発現(SDC−4≦0.001)群およびSDC−4−高発現(SDC−4>0.001)群に分けた(図2b)。その後、両群間のOSの差を、Kaplan−Meier曲線、次いでlog−rank検定により評価した。結果は、SDC−4−低発現群の患者がSDC−4−高発現群よりも有意に長く生存することを示した。一年OS率は、SDC−4−低発現患者とSDC−4−高発現患者で、それぞれ、64.0%と18.5%であった。
さらに、コックスハザードモデルを用いて患者特性との交絡を検討した。年齢やパフォーマンスステータスは悪性神経膠芽腫における既知の予後因子であり、またディスカバリーセットでは低いパフォーマンスステータスと化学療法の既往の存在が予後を短くするリスクである傾向にあったが、この解析によりこれらの予後因子との交絡を調整することができる。表8に示す結果からわかるように、SDC-4高発現は独立した臨床効果予測因子であり、有意に臨床効果を低下させていた。(ハザード比13.8、95%信頼区間1.35〜84.2、p=0.027)
Figure 2017118841
KPS, カルノフスキーのパフォーマンスステータス; RT, 放射線療法 (全照射線量)
†時間変数として免疫療法開始からのOSを用いるコックスハザードモデルを使用した。
(5)フローサイトメトリーによるタンパク発現の定量
WT1ペプチドワクチン第II相臨床試験に参加した卵巣癌の患者のうち、ワクチン接種後の生存期間が最も長かった患者3名、最も短かった患者3名の末梢血単核球で解析を行った。蛍光標識した抗CD3抗体、抗CD4抗体および抗CD8抗体で染色し、フローサイトメトリーで、CD3T細胞、CD4T細胞およびCD8T細胞のSDC−4タンパクの発現を解析した。SDC−4タンパクの検出にはFITC標識抗シンデカン4抗体(5G9)(Santa Cruz, Dallas, Texas, USA)を用いた。タンパク発現はmean fluorescent intensity (MFI)で評価し、染色されていない検体のMFIを減算した値を解析に用いた。マルチカラー解析では、CD3T細胞、CD4T細胞およびCD8T細胞において長期生存者ではSyndecan-4タンパクの発現が低く、SDC−4 mRNAデータと一致した。結果を図3に示す。
以上の実験および解析データから、SDC−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、癌の免疫療法の臨床効果が高いと予測できることが確認された。
本発明は、診断薬、検査薬、研究試薬等の分野において使用可能である。

Claims (8)

  1. 癌の免疫療法の臨床効果を予測するための方法であって、対象から得られた試料中のシンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定することを特徴とし、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、臨床効果が高いと予測する方法。
  2. シンデカン−4遺伝子の発現レベルを内部標準遺伝子の発現レベルと比較することを特徴とする、請求項1記載の方法。
  3. 内部標準遺伝子がベータアクチンであり、シンデカン−4遺伝子の発現レベルが、ベータアクチンの発現レベルを1とした場合に、0.001以下である場合に臨床効果が高いと予測する、請求項2記載の方法。
  4. 試料が末梢血試料である請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
  5. 癌の免疫療法の臨床効果を予測するためのキットであって、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルを測定するための試薬を含み、シンデカン−4遺伝子またはタンパクの発現レベルが低いほど、臨床効果が高いと予測するキット。
  6. 内部標準遺伝子の発現レベルを測定するための試薬を含む、請求項5記載のキット。
  7. 内部標準遺伝子がベータアクチンであり、シンデカン−4遺伝子の発現レベルが、ベータアクチンの発現レベルを1とした場合に、0.001以下である場合に臨床効果が高いと予測する、請求項6記載のキット。
  8. 試料が末梢血試料である請求項5〜7のいずれか1項記載のキット。
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