JP2017141222A - パーキンソン病に併発した認知障害の治療剤及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

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利明 石井
Toshiaki Ishii
利明 石井
健一 木下
Kenichi Kinoshita
健一 木下
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Abstract

【課題】パーキンソン病に併発した認知障害に対して有用な治療剤及びそのスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】パーキンソン病に併発した認知障害の治療剤は、ホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼ活性化薬又はcAMP誘導体を有効成分とする。
【選択図】図3

Description

本発明は、パーキンソン病に併発した認知障害の治療剤及びそのスクリーニング方法に関する。
パーキンソン病は黒質の変性を主病変とする神経変性疾患の1つであり、脳内のドパミン不足とアセチルコリンの相対的増加とを病態とする。パーキンソン病はアルツハイマー病についで頻度の高い疾患であり、有病率は10万人あたり100人である。症状としては振戦、固縮、無動、姿勢反射障害等を認めるとともに、様々な全身症状や精神症状も合併する。症状がゆっくりと進行するため、本人の自覚症状がないまま症状が悪化することもある。パーキンソン病の約95%は孤発例であり、遺伝的な影響は低いとされている。パーキンソン病患者の約40%に認知症が併発するといわれている。
パーキンソン病の治療法としては、ドパミンの前駆物質であるレボドパ等の投与、運動療法、脳の一定の部位に電極を埋め込む脳深部刺激療法などが試みられており、iPS細胞による再生医療にも期待が寄せられているが、現在のところ根本的な治療法は確立されていない。
ドパミンは精神運動機能を調節する神経伝達物質であり、ドパミン情報伝達系においては、cAMP/PKAシグナルが中心的役割を担う。
そこで、cAMP濃度を上昇させるホスホジエステラーゼ阻害剤を用いた神経性疾患の治療方法が、いくつか報告されている。
特許文献1には、ホスホジエステラーゼ4型(PDE4)のインヒビターを用いて神経系の再生及び修復を刺激するための方法が記載されている。特許文献1には、PDE4のインヒビターとしてロリプラムが例示され、神経変性疾患として、筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンティングトン病等が例示されている。
非特許文献1には、スコポラミンにより空間認識障害を発症したラットに対する標記薬物(RO)による治療効果を迷路試験及び受動回避試験を用いて評価したことが記載され、ROの学習及び記憶改善作用は、ホスホジエステラーゼ4の阻害作用に伴うcAMPの増加により間接的に中枢のコリン系及びノルアドレナリン系を増強した結果と推定されたと記載されている。
非特許文献2には、cAMPに特異的なホスホジエステラーゼ阻害剤であるロリプラムが、ラットの走行試験及びマウスの受動回避試験で、記憶障害に起因する誤りの増加を減少させたことが記載され、この結果はロリプラムがcAMP濃度を上昇させて学習及び記憶障害を改善することを示唆したとされている。
非特許文献3には、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)の選択的阻害剤であるロリプラムを恐怖関連記憶想起直後に背側海馬に投与した場合に、記憶増強が可能であることが記載されている。
特表2004−532809号公報
EGAWA T et.al,Rolipram and Its Optical Isomers,Phosphodiesterase 4 Inhibitors,Attenuated the Scopolamine−Induced Impairments of Learning and Memory in Rats.Jpn J PharmacolVol.75,No.3,Page.275−281(1997.11) IMANISHI T,et.al,Ameliorating effects of rolipram on experimentally induced impairments of learning and memory in rodents.Eur J Pharmacol Vol.321,No.3, Page.273−278(1997.03.05) ROESLER Rafael et.al,A phosphodiesterase 4−controlled switch between memory extinction and strengthening in the hippocampus,Front Behav Neurosci Vol.2014,No.Mar,Page.WEB ONLY(2014.03)
しかしながら、パーキンソン病に併発する認知障害に対して有効な治療剤については報告がなされていなかった。
発明者らは、ホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼ活性化薬又はcAMP誘導体によって、パーキンソン病に起因する認知障害を治療できることを新たに見出したことにより、本発明を完成させた。本発明は、パーキンソン病に併発した認知障害に対して有用な治療剤及びそのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤は、ホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼ活性化薬又はcAMP誘導体を有効成分とする。
例えば、ロリプラム又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分とする。
本発明の第2の観点に係るパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤のスクリーニング方法は、
候補物質を被検動物に投与する工程と、
前記被検動物の海馬歯状回におけるcAMPレベル上昇の度合を測定する工程と、
を含む。
本発明によれば、パーキンソン病に併発した認知障害に対して有用な治療剤及びそのスクリーニング方法を提供することができる。
消去トレーニング後の海馬、扁桃体及び前頭前皮質におけるc−fos陽性細胞数の測定結果を示す図である。 消去トレーニング後の海馬歯状回における活性型リン酸化CREB陽性細胞数の測定結果を示す図である。 パーキンソン病モデルマウス(PDマウス)における認知障害に対するロリプラムによる治療効果を示すグラフ図である。 PDマウスの記憶消失前後における海馬のcAMPレベルを測定した結果を示すグラフ図である。 PDマウスの海馬歯状回の活性型リン酸化CREBの発現を調べた結果を示すグラフ図である。
まず、本実施形態によるパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤について詳細に説明する。
本実施形態によるパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤は、ホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼ活性化薬又はサイクリックAMP(cAMP)誘導体を有効成分とする。
本発明は、パーキンソン病に併発した認知障害、つまりパーキンソン病に起因する認知障害に治療効果を有するものであって、パーキンソン病自体には治療効果を有しない。本明細書において、認知障害とは、主に学習、記憶、理解、問題解決に障害をきたしている状態であり、記憶障害、記憶消去亢進、認知症、せん妄、意識障害、過度の眠気、抑うつ、不安、アパシー(無気力、無感動)等を包含する概念である。
ホスホジエステラーゼ阻害薬としては、ロリプラム(4−(3−シクロペンチルオキシ−4−メトキシフェニル)ピロリジン−2−オン)、テオフィリン、イソブチルメチルキサンチン、パパベリン、8−メトキシメチル−イソブチルメチルキサンチン、ミルリノン、クアジノン、トレキンジン、ジピリダモール、イソブチルメチルキサンチン、アミノフィリン、ジプロフィリン、プロキシフィリン、コリンテオフィリン、アムリノン、オルプリノン、ピモベンダン、シロスタゾール等又はそれらの薬学的に許容可能な塩を例示することができる。ホスホジエステラーゼ阻害薬は好ましくは、ホスホジエステラーゼ(特にPDE−IVB)の選択的阻害薬であるロリプラム又はその薬学的に許容可能な塩である。
ロリプラムの構造式を以下に示す。
アデニル酸シクラーゼ活性化薬としては、コルホルシンダロパート等又はそれらの薬学的に許容可能な塩を例示することができる。
cAMP(サイクリックAMP)誘導体としては、ブクラデシン(ジブチリルサイクリックAMP)等又はそれらの薬学的に許容可能な塩を例示することができる。
本明細書において「薬学的に許容可能な塩」とは、開示された化合物の誘導体を意味し、そこにおいて、親化合物は、塩にするために、酸又は塩基部分の交換によって修飾される。薬学的に許容可能な塩の例は、非限定的ではあるが、アミン、アルカリのような塩基性残基の鉱物若しくは有機酸塩、又はカルボキシル酸などのような酸性残基の有機塩が含まれる。本明細書において、薬学的に許容可能な塩は、例えば非中毒性の無機又は有機酸から形成される親化合物の従来の非中毒性塩を含む。本明細書において、薬学的に許容可能な塩は、従来の化学的方法によって塩基性又は酸性部分を含む親化合物から合成されることがある。通常、このような塩は、水中又は有機溶媒中または2つの混合溶液中において適切な塩基又は酸の化学量論的な量で、これらの化合物の遊離酸又は遊離塩基を反応させることで調製されることがある。一般的には、エーテル、酢酸エチル、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル(ACN)等のような非水系媒体が好適である。適当な塩のリストは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、17th ed.、Mack Publishing Company、Easton、Pa.、1985、p.1418及びJournal of Pharmaceutical Science、66、2(1977)に記載されている。
本実施形態による治療剤の投与方法は、経口投与、局所投与(例えば、脳への局所投与、特には海馬歯状回への局所投与)、静脈内投与、腹腔内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。投与剤型も任意であってよく、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤、注射剤などの非経口用液体製剤等に適宜調製することができる。また、適切なドラッグデリバリーシステム(DDS)(例えば、脳血液関門を通過するためのDDS)を用いてもよい。
本実施形態による治療剤の投与量は、患者の年齢、体重、適応症状等によって適宜設定することができるが、例えば、ロリプラム又はその薬学的に許容可能な塩である場合、経口投与で、例えば0.02〜200mg/日、例えば0.1〜2.0mg×3/kg/日であってもよい。また、本実施形態による治療剤の投与量は、食事中投与、食後投与、食前投与、食間投与、就寝前投与等のいずれも可能である。
本実施形態による治療剤は、海馬歯状回におけるcAMP濃度を上昇させることにより、パーキンソン病に併発した認知障害に対して治療効果を奏するものと考えられる。パーキンソン病の原因は黒質ドパミン性神経細胞の変性で、それによる線条体ドパミン低下がほとんどの症状の責任病巣と考えられているのに対し、本発明者らは、パーキンソン病に併発した認知障害において、海馬歯状回のcAMP濃度を上昇させることで認知障害が改善されることを見出した。本実施形態による治療剤がパーキンソン病自体に治療効果を有しないのは、該治療剤が(パーキンソン病患者の破壊された)中脳黒質及び黒質−線条体のドパミン神経に影響を与えないからである。従来のロリプラムをはじめとするホスホジエステラーゼ阻害薬による認知障害の治療は、血流促進等を意図したものであり、海馬歯状回をターゲットとする本実施形態による治療剤とは異なるものである。
次に、本実施形態によるパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤のスクリーニング方法について説明する。
本実施形態によるパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤のスクリーニング方法は、
(a)候補物質を被検動物に投与する工程と、
(b)前記被検動物の海馬歯状回におけるcAMPレベル上昇の度合を測定する工程と、
を含む。
上記工程(a)において、候補物質は、パーキンソン病に併発した認知障害の治療剤の候補物質であり、例えば、化合物、タンパク質、ペプチド、これらの混合物等である。
上記工程(a)において、被検動物は、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ等である。候補物質の投与方法は、例えば、腹腔内投与、局所投与(例えば、脳への局所投与、特には海馬歯状回への局所投与)、経口投与、静脈内投与、皮内投与、舌下投与等、適宜選択され得る。
上記工程(b)において、被検動物の海馬歯状回におけるcAMPレベルを測定する方法としては、被検動物の海馬歯状回由来の試料を作製し、該試料中のcAMP濃度を、例えばcAMP定量EIAキットを用いて測定する方法等が例示されるが、海馬歯状回におけるcAMPレベルを測定することができる限り、測定方法は限定されない。
上記工程(b)において、海馬歯状回のcAMPレベルを測定し、そのcAMPレベルを、候補物質投与前のcAMPレベル又はcAMP濃度の標準値と比較することで、海馬歯状回のcAMPレベル上昇の度合を測定することができる。海馬歯状回のcAMP濃度が、候補物質投与前のcAMP濃度の値又は標準値より高い場合には、候補物質がパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤として使用可能であることが判明する。
なお、他の実施形態による治療剤のスクリーニング方法では、MPTP誘発性パーキンソン病モデルマウス(下記の実施例にて詳述)から作製された急性海馬スライス標本が使用される。より具体的には、上記の急性海馬スライス標本に候補物質を添加し、電気生理学的に長期抑圧(Long Term Depression:LTD)、長期増強(Long Term Potentiation:LTP)等を評価して、候補物質の添加によってこれらの改善がみられる場合、その候補物質がパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤として使用可能であることが判明する。
以上説明したように、本実施形態による治療剤は、パーキンソン病に併発した認知障害に対して特異的に治療効果を発揮することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
パーキンソン病モデルマウス(以下、「PDマウス」と称する)を用いて、文脈的恐怖条件付けテストによって、パーキンソン病に併発した認知障害に対するロリプラムの治療効果について検証した。
PDマウスは、中脳黒質のドパミン神経細胞を特異的に破壊する1−methyl−4−phenyl−1,2,3,6−tetrahydropyridine(MPTP)を腹腔内投与することで作出した。より具体的には、8週令のc57BL/6Jマウスに、生理食塩水に溶解したMPTP(20mg/Kg[100μL])を4回(2時間の投与間隔)腹腔内に投与することで作出した。なお、MPTPによる病態はほぼ黒質線条体に限局され、海馬等の神経細胞に直接的な毒性は示さないとされている。PDマウスの作製については、Kinoshita et al.(2015)Life Sci.137:28−36を参照した。なお、図1−5において、「Control」とは、MPTPの代わりに生理食塩水を投与した正常c57BL/6Jマウスを表す。
文脈的恐怖条件付けテストについて以下に説明する。このテストは、装置にマウスを入れ(条件刺激:CS)、嫌悪刺激となる電気刺激を与える(無条件刺激:US)ことで、その装置内に置かれた環境に対する恐怖を学習・記憶させるテストである。近年、獲得後固定された記憶は想起とともに一度不安定な状態となり、再固定という過程を経て長期記憶となることや、不安定な記憶は他の記憶と塗り替えられることで記憶の消去につながることが示唆されている。このテストでは、記憶の固定(装置にマウスを入れ(条件刺激:CS)、嫌悪刺激となる電気刺激を与える(無条件刺激:US))の後、30分間のCS暴露(消去トレーニング)を再度行い、記憶の消去を誘導する。記憶の評価は、マウスの恐怖行動の指標であるフリージング行動を測定することで行った。フリージング行動の割合が低いほど、記憶の消去が亢進していることを表す。
まず、ロリプラムの治療効果の検証に先立ち、上記のPDマウスにおいて、MPTP投与後7日目に、記憶の消去学習を誘導した際に活性化する脳領域を特定するため、神経活性のマーカーであるc−fosの発現量を調べた。より具体的には、記憶の固定(0日目)後、1〜2日目の間、毎日、30分間CS暴露(消去トレーニング)を行い、消去トレーニング30分後の各脳領域(海馬、扁桃体及び前頭前皮質)におけるc−Fos陽性細胞数を測定した(各群n=3)。
c−fosの発現量の評価を、免疫染色により行った。以下に免疫染色の方法を説明する。
(1)4%パラホルムアルデヒドにて固定した脳を40μmの厚さで薄切した。海馬はブレグマ後方1.58,1.70,1.82,1.94,2.06,2.18mm、扁桃体はブレグマ後方1.58,1.70,1.82,1.94mm、前頭頭前皮質はブレグマ前方1.94,1.82,1.70,1.58,1.34mmの切片を用いた。
(2)0.5% TritonX添加phosphate−buffered saline(以下T−PBS)にて切片を1時間反応させた。
(3)PBSにて100倍希釈した過酸化水素に40分間反応させた。
(4)T−PBSにて100倍希釈したヤギ血清に1時間反応させた。
(5)T−PBSにて5000倍希釈した一次抗体anti−c−fos rabbit polyclonal抗体(Merck Millipore社)を24時間反応させた。
(6)T−PBSにて500倍希釈した2次抗体ビオチン化anti−rabbit IgG(Vector laboratories社)に2時間反応させた。
(7)T−PBSにて500倍希釈したavidine−biotin−horseradish peroxide(Vector laboratories社)混合液に2時間反応させた。
(8)50mM TrisHCl緩衝液(pH 7.6)、0.025% 3,3−Diamminobenzidine、0.075%過酸化水素水を含む発色液にて発色させた。
(9)50%グリセロールにて封入後、光学顕微鏡下で観察、各脳領域における細胞数を測定した。海馬はCA1、歯状回(Dentate Gyrus:DG);扁桃体は外側核(Lateral Amygdala:LA)、外側基底核(Basolateral Amygdala:BLA);前頭前皮質は前辺縁皮質(Prelimbic Cortex:PL)、下辺縁皮質(Infralimbic Cortex:IL)において細胞数の計測を行った。全ての切片において左右c−fos陽性細胞数を計測し、合計数をグラフに示した。
結果を図1に示す。c−fosは海馬、扁桃体及び前頭前皮質の3つの脳領域のすべての領域で発現しており、これらの脳領域が記憶の消去に機能していることが分かったが、その発現量はPDマウスとcontrolマウス間で差はなかった。
また、上記のPDマウスにおいて、MPTP投与後7日目に、記憶形成に寄与する転写因子の1つとして知られているcAMP response element−binding protein(CREB)の活性型リン酸化CREBの発現量を調べた。より具体的には、記憶の固定(0日目)後、1〜2日目の間、毎日、30分間CS暴露(消去トレーニング)を行い、消去トレーニング30分後の海馬歯状回におけるリン酸化CREB陽性細胞数を測定した(各群n=5)。
活性型リン酸化CREBの発現量の評価を、蛍光免疫染色により行った。以下に蛍光免疫染色の方法を説明する。
(1)4%パラホルムアルデヒドにて固定した脳を40μmの厚さで薄切した。ブレグマ後方1.82,1.94,2.06mmの切片を用いた。
(2)T−PBSにて切片を1時間反応させた。
(3)T−PBSにて100倍希釈したヤギ血清に1時間反応させた。
(4)T−PBSにて500倍希釈した1次抗体anti−p−CREB rabbit polyclonal抗体(Cell Signaling Technology Inc社)を48時間反応させた。
(5)T−PBSにて5000倍希釈した2次抗体AlexaFluor(登録商標)568 goat anti−rabbit IgG(Thermo Fisher Scientific社)を2時間反応させた。
(6)VECTA SHILD mounting serumにて封入後、共焦点レーザー顕微鏡にて観察し、海馬歯状回領域の活性型リン酸化CREB陽性細胞数を評価した。3枚の切片において左右の活性型リン酸化CREB陽性細胞数を計測し、合計数をグラフに示した。
結果を図2に示す。活性型リン酸化CREBは、PDマウスの海馬歯状回でcontrolマウスと比べ有意な減少が認められた(p<0.05 vs.control)。
以上より、PDマウスの認知機能の低下において、海馬の特定機能に何らかの障害が生じている可能性が示唆された。
記憶消去誘導時に活性型リン酸化CREBの発現誘導が減少したPDマウスの海馬歯状回において、薬理学的手法を用いて活性型リン酸化CREBの発現誘導を促進すると、記憶障害が改善されることが予想されたため、以下の実験を行った。
上記のPDマウスにおいて、MPTP投与後7日目に、ホスホジエステラーゼを阻害するロリプラムの腹腔内投与を行い、PDマウスが示す記憶の消去亢進及び記憶の保持能力の低下が改善されるか否かについて解析した。記憶の保持能力は、記憶の固定(0日目)後、1〜3日目の間、毎日、30分間CS暴露(消去トレーニング)を行い、その際のフリージング行動を測定する(30分間のCS暴露中の、始めの3分間及び終わりの3分間)ことで、毎日の連続的な消去誘導後にどの程度記憶が保持されているのか、すなわち記憶の保持能力を解析した。
フリージング行動の測定について説明する。“フリージング”を、1秒間以上、呼吸以外のすべての動きが無いことと定義し、マウスをビデオカメラで撮影記録し、低速で再生しながらフリージングの総時間を計測した。図3の縦軸において、3分間内でフリージングした総時間(秒)を3分(180秒)で割り算して求めた割合を%で表した。
ロリプラムの腹腔内投与について以下に説明する。上記1〜3日目における30分間のCS暴露の2時間前に、1mg/kg、2mg/kg又は3mg/kgの用量で、1%DMSOに溶解したロリプラムをPDマウスに腹腔内投与した(図3)。なお、対照群には1%DMSOを投与した。
結果を図3に示す。30分間のCS暴露によって、2日目及び3日目の始めの3分間、1日目及び2日目の終わりの3分間では、1日目の始めの3分間に比して、PDマウスのフリージング行動の顕著な減少、すなわち記憶の消去亢進が観察された。しかしながら、ロリプラムは、用量依存的に、PDマウスのフリージング行動の減少(記憶の消去亢進)をcontrolマウスのレベルにまで回復させた。このロリプラムによる記憶の消去亢進の回復効果について、ロリプラムは消去トレーニング(30分間のCS暴露)前に単回投与されたにすぎないので、黒質のドパミン神経細胞を補修したことに起因するとは考えられず、ロリプラムが記憶消去に関わる脳領域(特に海馬歯状回)のcAMP濃度を上昇させたことが、パーキンソン病に併発した認知障害の改善につながったものと考えられた。
次に、記憶消失前後における海馬のcAMPレベルを測定することで、ロリプラム投与によるPDマウスの恐怖記憶の消去改善効果を検討した。
上記のPDマウスにおいて、MPTP投与後7日目に、ロリプラムの腹腔内投与を行い、海馬のcAMPレベルを測定した。より具体的には、記憶の固定(0日目)後、1〜2日目における30分間のCS暴露(消去トレーニング)の2時間前に、3mg/kgの用量で1%DMSOに溶解したロリプラムをPDマウスに腹腔内投与した(対照群には1%DMSOを投与)。記憶の固定(0日目)後、毎日、30分間CS暴露(消去トレーニング)を行い、消去前群では消去トレーニングの前に海馬サンプルを摘出し、消去後群では消去トレーニングの直後に海馬サンプルを摘出した(各群n=6〜8)。海馬サンプルのcAMP濃度測定は、Cyclic AMP EIA kit(Cayman Chemical Company)を用いて行われ、タンパク質量の調整は、protein assay kit(Bio−Rad Laboratories)を用いて行われた。
結果を図4に示す。MPTPを投与したPDマウスでは恐怖記憶消去時、海馬におけるcAMPが減少していることが示された。一方で、ロリプラム3mg/kgを投与することで、PDマウスにおける海馬cAMP減少が改善された。以上より、ロリプラムは、記憶消去に関わる海馬のcAMP濃度を上昇させることによって、記憶消失を改善することが示唆された。
次に、海馬歯状回の活性型リン酸化CREBの発現を調べることで、ロリプラム投与によるPDマウスの恐怖記憶の消去改善効果を検討した。
上記のPDマウスにおいて、MPTP投与後7日目に、ロリプラムの腹腔内投与を行い、海馬歯状回の活性型リン酸化CREBの発現量を調べた。より具体的には、記憶の固定(0日目)後、1〜2日目における30分間のCS暴露(消去トレーニング)の2時間前に、3mg/kgの用量で1%DMSOに溶解したロリプラムをPDマウスに腹腔内投与した(対照群には1%DMSOを投与)。記憶の固定(0日目)後、1〜2日目の間、毎日、30分間CS暴露(消去トレーニング)を行い、消去トレーニング30分後の海馬歯状回におけるリン酸化CREB陽性細胞数を測定した(各群n=7〜9)。活性型リン酸化CREBの発現量の評価については、上述同様の蛍光免疫染色により行った。
結果を図5に示す。MPTPを投与したPDマウスの海馬歯状回において、controlマウスに比して、活性型リン酸化CREBの発現の有意な減少が認められた。一方で、ロリプラム3mg/kgを投与することで、PDマウスの海馬歯状回における活性型リン酸化CREBの発現の有意な増加がみられた。以上より、ロリプラムは、PDマウスにおける海馬歯状回のp−CREB発現減少を改善させることで、記憶消失を改善することが示唆された。
以上より、ロリプラムは、パーキンソン病に併発した認知障害に対して治療効果を有することが示された。

Claims (3)

  1. ホスホジエステラーゼ阻害薬、アデニル酸シクラーゼ活性化薬又はcAMP誘導体を有効成分とするパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤。
  2. ロリプラム又はその薬学的に許容可能な塩を有効成分とする、
    ことを特徴とする請求項1に記載の認知障害の治療剤。
  3. 候補物質を被検動物に投与する工程と、
    前記被検動物の海馬歯状回におけるcAMPレベル上昇の度合を測定する工程と、
    を含むパーキンソン病に併発した認知障害の治療剤のスクリーニング方法。
JP2017018172A 2016-02-09 2017-02-03 パーキンソン病に併発した認知障害の治療剤及びそのスクリーニング方法 Pending JP2017141222A (ja)

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