JP2017148222A - 光音響波診断装置用精度管理ファントム - Google Patents

光音響波診断装置用精度管理ファントム Download PDF

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Abstract

【課題】光伝播特性及び音響伝播特性を生体組織に近似させつつ、経時的にも安定である、光音響波診断装置に応答する光音響波診断装置用ファントムを提供する。
【解決手段】熱硬化ウレタン樹脂を有する母材11と、母材11中に少なくとも一つ備えられるターゲット12、13と、を有し、前記ターゲットが、SP値が8(cal/cm31/2以下又は10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である高分子化合物と、色素と、を有することを特徴とする、光音響波診断装置用精度管理ファントム1。
【選択図】図1

Description

本発明は、光音響波診断装置に関する精度管理に係る技術であり、特に、装置の精度管理に用いられるファントムに関するものである。
光音響波診断装置は、被検部となる生体に対して光を照射した際に、観測対象の熱膨張に起因する音響波(典型的には超音波)の検出信号に基づいて画像を表示する装置である。この診断装置により被検部内の光を吸収する観測対象、例えば、血液中に含まれるグルコースやヘモグロビン等の検査が行われる。
ところで生体組織では、癌等の腫瘍が成長する場合、新生血管の形成や酸素消費量の増大といった現象が生体組織内で発生することが知られている。このような新生血管の形成や酸素消費量の増大を評価する方法として、オキシヘモグロビン(HbO2)とデオキシヘモグロビン(Hb)との光吸収係数をそれぞれ利用する方法がある。
例えば、光音響波診断装置は、少なくとも二つの波長におけるHbO2とHbとの吸収係数比から酸素飽和度を算出することにより、酸素消費量が増大している領域、即ち、腫瘍が存在していると考えられる領域を判別することができる。例えば、腫瘍領域における酸素飽和度は70%程度となることが知られおり、腫瘍の悪性度と酸素飽和度との間には相関があることが示唆されている。
上述した光音響波診断装置の性能や精度を管理するものとして、ファントムが用いられている。例えば、光音響波診断装置にファントムを設置して観測した際に、照射した光に応答して発生する音響波信号から診断装置自体の性能が維持されているか否かを判断する。またファントムは、光を吸収して音響波信号を発生する部材であるターゲットと呼ばれる部材を有している。
光音響波診断装置に用いられるファントムとしては、その構成材料が、光伝播特性及び音響伝播特性が生体組織に近似している材料であることが求められる。例えば、特許文献1及び2では、ポリアルキレングリコールとポリイソシアネートとからなる熱硬化ウレタン樹脂中にフタロシアニン化合物や可塑剤が含まれている、吸収係数及び酸素飽和度を血液に模擬させた血液モデルが開示されている。特許文献1及び2にてそれぞれ開示されている血液モデルをファントムのターゲットに利用することで、生体の吸収係数及び酸素飽和度を良好に模擬したファントムを提供することができる。
特開2011−209691号公報 特開2015−2978号公報
ところで、光音響波診断装置にて装置自体の精度を管理するために用いられるファントムは、長期間にわたりその性能を維持させる必要がある。しかしながら、特許文献1又は2の血液モデルをターゲットとして内部に有するファントムを作製してから長期間経過すると、ファントム内部に設けられるターゲットから発せられる光音響信号の劣化が発生するという問題があることが明らかとなった。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、光伝播特性及び音響伝播特性を生体組織に近似させつつ、経時的にも安定である、光音響波診断装置に応答する光音響波診断装置用ファントムを提供することにある。
本発明の光音響波診断装置用精度管理ファントムは、熱硬化ウレタン樹脂を有する母材と、前記母材中に少なくとも一つ備えられるターゲットと、を有し、
前記ターゲットが、SP値が8(cal/cm31/2以下又は10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である高分子化合物と、色素と、を有することを特徴とする。
本発明によれば、光伝播特性及び音響伝播特性を生体組織に近似させつつ、経時的にも安定である、光音響波診断装置に応答する光音響波診断装置用ファントムを提供することができる。
本発明におけるファントムの実施形態の例を示す模式図である。 音響信号変動率の計測の際に使用した光音響装置の例を示す模式図である。 実施例及び比較例にて作製したファントムの構成を示す模式図である。
以下、本発明の実施形態について説明する。尚、以下に説明する実施形態は、あくまでも本発明における光音響波診断装置用ターゲットの実施形態の例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
[精度管理ファントム]
本発明の光音響波診断装置用精度管理ファントムは、熱硬化ウレタン樹脂を有する母材と、前記母材中に少なくとも一つ備えられるターゲットと、を有する。本発明において、ターゲットは、SP値が8(cal/cm31/2以下又は10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である高分子化合物と、色素と、を有する。以下、光音響波診断装置用精度管理ファントム及びこの光音響波診断装置用精度管理ファントムを構成する部材について詳細に説明する。尚、以下の説明において、「光音響波診断装置用精度管理ファントム」を、「精度管理ファントム」又は単に「ファントム」と呼ぶことがある。また以下の説明において、特に説明がない限り、診断装置は、「光音響波診断装置」をいうものである。
(1)精度管理ファントムの構成
まず精度管理ファントムについて説明する。本発明の光音響波診断装置用精度管理ファントムは、母材と、この母材中に少なくとも一つ備えられる光を吸収して超音波を発生させる吸収体であるターゲットと、を有する。母材中に上述のターゲットを配置したファントムは、光音響波診断装置の精度管理に用いることができる。また、このファントムを光音響波診断装置に設置して計測することで、ターゲットから発信された音響信号に基づき、音圧分布の評価、酸素飽和度の評価、視野角の評価、解像度の評価、分解能の評価等に用いることができる。例えば、音圧分布を評価する場合、音圧の大きさはターゲットの吸収係数や診断装置とターゲットとの距離に依存するので、診断装置内にファントムを設置し、この診断装置を用いてターゲットの吸収係数及び位置を計測しておく。そして、その計測値を元に診断装置の校正を行うことが可能である。
図1は、本発明におけるファントムの実施形態の例を示す模式図である。尚、図1(a)は、第一の実施形態であり、図1(b)は、第二の実施形態であり、図1(c)は、第三の実施形態である。尚、図1において、同一の部材については、同一の符号が付されている。
図1の光音響波診断装置用精度管理ファントム1は、母材11と、この母材11の中に配置されている第一のターゲット12及び第二のターゲット13と、を有する。図1において、二つのターゲット(12、13)は、光を吸収して超音波を発生する吸収体である。本発明において、ターゲット(12、13)の形状は、例えば、図1に示されるワイヤ状(円柱状)が挙げられるが、光音響波診断装置の制度を管理する際に支障が生じない形状であれば特に限定されるものではない。ターゲット(12、13)の形状としては、ワイヤ状の他に、球状、リング状等が挙げられる。ターゲット(12、13)の形状がワイヤ状である場合、そのワイヤの系、即ち、ターゲット(12、13)の直径は、診断装置の精度管理に必要な解像度により適宜設定する。尚、ターゲット(12、13)に含まれる材料の詳細については、後述する。
本発明において、ファントム1の形状として、例えば、図1(a)に示される直方体状、図1(b)に示される円柱状、図1(c)の示される円柱と半球とが円柱の底面にて組み合わさった形状等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。またファントム1のサイズ及び形状は、光音響波診断装置の構成に合わせて適切なものを選択することができる。少なくとも二枚の平板で対象を挟み測定する場合やハンドヘルド型の診断装置の精度管理に用いる場合には、図1(a)のような直方体状及び立方体状のファントムが好ましい。また、検出器が円柱状や半球状に配置されている診断装置の場合には、検出器の配置形態に沿った形状をした図1(b)や図1(c)のような形状のファントムが好ましい。
ファントム1を構成する母材11は、熱硬化ウレタン樹脂と可塑剤とを有しているが、音響物性及び光学物性において、生体に近似していることが好ましい。尚、母材11に含まれる熱硬化ウレタン樹脂及び可塑剤の詳細については、後述する。
また、ファントム1には、診断装置へ設置するための固定冶具部位やハンドリングを向上するための把手をさらに具備させてもよい。また、診断装置によっては、計測対象を水に浸漬した状態で計測することがあるため、ファントム1のうち水に接触し得る面には、防水コートや防水フィルムをさらに設けてもよい。また、ファントム1の表面を損傷や汚染から保護することを目的として保護膜を設けてもよい。
(2)母材
次に、本発明の光音響波診断装置用精度管理ファントムを構成する母材について説明する。上述したように、この母材は、熱硬化ウレタン樹脂を有している。
(2a)熱硬化ウレタン樹脂
熱硬化ウレタン樹脂は、母材の大半を占める部材であり、生体組織に近似した光学物性と音響物性とを有するのが好ましい。熱硬化ウレタン樹脂は、樹脂の原料であるポリオールの構造、可塑剤の添加、架橋密度の調整等により、好適な音響物性を発現することができるため、母材の構成材料として好適である。
熱硬化ウレタン樹脂は、ポリオールとイソシアネートとの重合体である。本発明において熱硬化ウレタン樹脂は、好ましくは、ポリアルキレングリコールとイソシアネートとの重合体である。尚、ポリオール及びイソシアネートの詳細については、後述する。
熱硬化ウレタン樹脂の化学構造は、ポリオールの構成ユニット及び硬化剤の種類より特定することができる。ここでポリオールや硬化剤の構造は、熱分解ガスクロマトグラフ質量分析装置(Pyr GC−MS)、核磁気共鳴スペクトル(NMR)等を使用して特定することができる。また熱硬化ウレタン樹脂の分子量は、この熱硬化ウレタン樹脂を加水分解させた際に得られる加水分解物の分子量から求めることができる。尚、加水分解物の分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)やガス浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いれば測定可能である。またこの加水分解物を分取GPCにより分子量の異なる成分ごとに取り出し、各成分ごとに水素及び炭素のNMRを測定し、その測定結果を分析することにより、熱硬化ウレタン樹脂の化学構造をより詳細に特定することが可能である。
(2b)可塑剤
可塑剤は、熱硬化ウレタン樹脂の硬さや音響特性を制御するために、母材中に添加されることがある。生体に近似した音響減衰係数を再現するためには、母材に含まれる熱硬化ウレタン樹脂の原料であるポリオール及びイソシアネートの配合量だけでなく、可塑剤の量を適切に調整することが重要である。生体に近似した音響物性を再現するためには、熱硬化ウレタン樹脂100部に対して50部以下含有していることが好ましい。ただし、可塑剤の量が多すぎる場合、可塑剤が外部へと染み出す現象(ブリードアウト)が発生するため、30部以下含有していることがより好ましい。
母材に含まれる可塑剤として、公知の可塑剤を使用することができる。公知の可塑剤としては、フタル酸エステル、トリメリット酸エステル、ピロメリット酸エステル、脂肪族一塩基酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル、リン酸エステル、多価アルコールのエステル等が挙げられる。これら可塑剤は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
可塑剤として使用できるフタル酸エステルとして、例えば、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジイソプロピル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジアミル、フタル酸ジ−n−ヘキシル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジウンデシル、フタル酸ジトリデシル、フタル酸ジフェニル、フタル酸ジ(2−エチルヘキシル)、フタル酸ジ(2−ブトキシエチル)、フタル酸ベンジル2−エチルヘキシル、フタル酸ベンジルn−ブチル、フタル酸ベンジルイソノニル、イソフタル酸ジメチル等が挙げられる。
可塑剤として使用できるトリメリット酸エステルとして、例えば、トリメリット酸トリブチル、トリメリット酸トリヘキシル、トリメリット酸トリ−n−オクチル、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル、トリメリット酸トリイソデシル等が挙げられる。
可塑剤として使用できるピロメリット酸エステルとして、例えば、ピロメリット酸テトラブチル、ピロメリット酸テトラヘキシル、ピロメリット酸テトラ−n−オクチル、ピロメリット酸テトラ−2−エチルヘキシル、ピロメリット酸テトラデシル等が挙げられる
可塑剤として使用できる脂肪族一塩基酸エステルとして、例えば、オレイン酸ブチル、オレイン酸メチル、オクタン酸メチル、オクタン酸ブチル、ドデカン酸メチル、ドデカン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸ブチル、リノール酸メチル、リノール酸ブチル、イソステアリン酸メチル、イソステアリン酸ブチル、メチルアセチルリシノレート、ブチルアセチルリシノレート等が挙げられる。
可塑剤として使用できる脂肪族二塩基酸エステルとして、例えば、アジピン酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジ−n−プロピル、アジピン酸ジイソプロピル、アジピン酸ジイソブチル、アジピン酸ジ−n−オクチル、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジイソノニル、アジピン酸ジイソデシル、アジピン酸ジ(2−ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(ブチルジグリコール)、アジピン酸ヘプチルノニル、アジピン酸−1,3ブチレングリコール系ポリエステル、アジピン酸−1,2プロピレングリコール系ポリエステル、アゼライン酸ジメチル、アゼライン酸ジ−n−オクチル、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、コハク酸ジエチル、セバシン酸ジメチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジ−n−オクチル、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)、フマル酸ジブチル、フマル酸ジ(2−エチルヘキシル)、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ−n−ブチル、マレイン酸ジ(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。
可塑剤として使用できるリン酸エステルとして、例えば、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、リン酸トリ−n−アミル、リン酸トリフェニル、リン酸トリ−o−クレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸ジフェニル2−エチルヘキシル、リン酸ジフェニルクレジル、リン酸トリス(2−ブトキシエチル)、リン酸トリス(2−エチルヘキシル)等が挙げられる。
可塑剤として使用できる多価アルコールのエステルとして、例えば、ジエチレングリコールジアセチレート、ジエチレングリコールジベンゾエート、グリセロールモノオレイエート、グリセロールトリブチレート、グリセロールトリアセテート、グリセリル−トリ(アセチルリシノレート)、トリエチレングリコールジアセテート等が挙げられる。
以上列挙した可塑剤として使用することができる化合物の溶解度パラメータ(SP値)は、8(cal/cm31/2より大きく、10(cal/cm31/2未満であるものが多い。例えば、下記表1に示される、可塑剤として使用できる化合物は、いずれもSP値が、8(cal/cm31/2より大きく、10(cal/cm31/2未満である。ここで母材に可塑剤を添加した場合、本発明での課題である色素の拡散が生じやすくなるため、可塑剤を含有する熱硬化ウレタン樹脂を用いた場合に特に顕著な効果を示す。顕著な効果が得られる範囲としては、熱硬化ウレタン樹脂100部に対して1部以上50部以下であり、より効果がある範囲は、熱硬化ウレタン樹脂100部に対して10部以上50部以下である。
Figure 2017148222
(2c)母材の好適な音響物性
以下、本発明のファントムを構成する母材の好適な音響物性について説明する。本発明において、母材は、生体組織に近似した音響物性を有していることが好ましい。
生体を検査する際に光音響波診断装置を使用する場合、主に、生体の生体軟組織を伝搬してきた音響信号を診断に用いる。このため、母材の音響物性は、生体軟組織の音響物性に近似していることが好ましい。生体軟組織とは、一般的には、血管、血液、皮膚、乳腺、脂肪、筋肉、臓器といった、容易に変形ができる生体組織をいう。一方、骨、歯のような変形が難しい組織は、一般に生体硬組織と呼ばれる。本発明のファントムは、主に、生体軟組織を模擬するためのものである。
母材を生体軟組織に近似させるためには、母材の音速は、好ましくは、1300m/s以上1600m/s以下である。また母材の音響減衰係数は、好ましくは、0.1dB/MHz/cm以上1.5dB/MHz/cm以下である。
乳房を診断する光音響波診断装置に用いられるファントムは、乳房全体の平均的な音響物性を再現していることがより好ましい。このため、母材の音速は、1350m/s以上1500m/s以下であることがより好ましい。また母材の音響減衰係数は、0.2dB/MHz/cm以上1.0dB/MHz/cm以下であることがより好ましい。
(2d)母材の好適な光学物性
以下、母材の好適な光学物性について説明する。尚、母材の好適な光学物性とは、母材の大半を占める熱硬化ウレタン樹脂に好適な光学物性と同意である。母材の光学物性は、具体的には、上述した生体軟組織の光学物性に近似していることが好ましい。より具体的には、母材の光学物性は、生体軟組織の光学物性を模擬する観点から、吸収係数が0.001/mm以上0.05/mm以下であり、かつ等価散乱係数が0.2/mm以上2.0/mm以下であることが好ましい。
例えば、乳房を診断する装置で用いられるファントムの場合、乳房等の生体の脂肪の光学物性を忠実に再現する必要がある。このため、母材の光学物性は、吸収係数が0.001/mm以上0.01/mm以下であり、かつ等価散乱係数が0.6以上1.5/mm以下であることがより好ましい。
(3)ターゲット
本発明のファントムを構成するターゲットは、SP値が8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下の高分子化合物と、色素と、を有する。
本発明者らは、従来の課題である、ターゲットから発せられる光音響信号の経時的な劣化の原因を検討した。その結果、ターゲットの吸収係数を制御する目的で添加した色素がファントムの母材である熱硬化ウレタン樹脂に溶出することが判明し、この母材への色素の流出が、上述の光音響信号の経時的な劣化の原因であることがわかった。この劣化は、高温条件下でファントムを保管した場合に生じやすいことが発明者らにより判明した。
本発明のファントムを構成する母材には可塑剤が含まれている。この可塑剤は、本発明のファントムの音響物性を生体に近似させる目的で母材中に添加されるものであるが、当該可塑剤のSP値がターゲットを構成する高分子化合物のSP値に近接していると、当該可塑剤が上記高分子化合物になじみやすい状態になる。その結果、ターゲットに含まれる色素が母材へ溶出しやすくなる。そこで、ターゲットに含まれる高分子化合物のSP値を上述した範囲に設定することにより、高分子化合物のSP値は、母材に含まれる可塑剤のSP値から1以上離れることになる。これにより、ターゲットに含まれる色素が母材へ溶出するのを抑制することができる。ターゲットに含まれる高分子化合物のSP値の範囲は、好ましくは、7(cal/cm31/2以下又は11(cal/cm31/2以上14(cal/cm31/2以下である。
ところで、高分子化合物のSP値が高くなると、水(SP値:23.4)や消毒用エタノール(SP値:15.2、エタノールが75質量%含有)にSP値が近づくため、ファントムの洗浄・消毒時に悪い影響を及ぼす可能性がある。このため、本発明において、今分子化合物のSP値の上限を16(cal/cm31/2以下とするのが望ましく、14(cal/cm31/2以下であることが好ましい。
(3a)SP値(溶解度パラメータ)
SP値は、Fedorsの推算法に基づき計算されるものであり、凝集エネルギー密度とモル分子容とを基に計算されるものである(Robert F.Fedors,Polymer Engineering & Science、14(2)p.147−154(1974)参照)。また、凝集エネルギー密度及びモル分子容の値については、公知の文献(上記Fedorsの非特許文献、Ye et al,BioResources 9(2)3417−3427(2014)、特開2015−152755号公報等参照)の値を用いることができる。以下の説明において、SP値は、上述したFedorsの推算法に基づく値を利用するものとする。またSP値は、25℃における値を使用するものとする。
尚、ターゲットに含まれる高分子化合物が、複数の構成成分を有する場合、各構成成分の質量組成比を各構成成分のSP値に乗じた値の総和を全体(添加剤を含む)のSP値とする。ここでいう質量組成比は、i成分の質量をWiとした場合、Wi/ΣWiで算出することができる。
ただし、Fedorsの推算法により計算できない場合においては、Smallの計算法(以下スモールの計算法)(「Properties of Polymers D.W.van Krevelen、Klaas,K.te Nijenhuis共著、エルゼビア(ELSEVIER)社、2009年発行)、あるいは、溶解度パラメーターが既知の溶媒に対し溶解するか否かの判定による実験法(以下、実験法)(「Polymer Handbook Fourth Edition」 J・ブランダップ(J.Brandup)編、ワイリー(Wiley)社、1998年発行)により、SP値を算出してもよい。
(3b)高分子化合物
上述したように、ターゲットに含まれる高分子化合物は、SP値が8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である。このSP値の範囲を満たす高分子化合物の中でも、精度管理ファントムに用いられるターゲットに求められる細線化が容易である点から、押し出し成形で細線化が容易な熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂として、好ましくは、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエチレンテレフタラート樹脂から選択される熱可塑性樹脂である。ただし、本発明において、ターゲットに含まれる高分子化合物として使用可能な熱可塑性樹脂は、上述したものに限定されるものではない。下記表2は、上述した熱可塑性樹脂のSP値を示す表であるが、これらSP値は、Fedorsの推算法により求めたSP値である。
Figure 2017148222
精度管理ファントムに含まれるターゲットに要求される細線化、具体的には、直径が50μm乃至5mmの範囲のワイヤ状ターゲットを製造することが可能である点から、ターゲットに含まれる高分子化合物として、より好ましくは、ポリアミド樹脂である。
尚、高分子化合物の化学構造は、上述した熱硬化ウレタン樹脂と同様の方法で構造を特定することが可能である。高分子化合物が熱可塑性樹脂である場合、当該高分子化合物を重溶媒に溶解させた後、水素及び炭素のNMRを測定することで、その化学構造を明らかにすることができる。
(ポリアミド樹脂)
ポリアミド樹脂は、SP値及び押出成形による細線化が可能である点で、本発明のファントムに含まれるターゲットの構成材料の一つとして好適に用いることができる。ポリアミド樹脂の中でも、SP値の観点から、ポリアミド樹脂を製造する際に用いられる合成原料(モノマー)の炭素数は10以下であることが好ましい。例えば、ナイロン12ではSP値が9.9(cal/cm31/2となり、本発明の効果を得ることが困難となる。また、共縮重合反応により得られるポリアミド樹脂の場合は、原料であるジカルボン酸として、芳香環を含むジカルボン酸、具体的には、テレフタル酸、イソフタル酸等を使用する。すると、得られる高分子化合物のSP値は高くなり、母材に含まれる可塑剤のSP値との差が大きくなるので、好ましい。
ポリアミド樹脂として、好ましくは、下記表3に示されるものが挙げられる。尚、これらの共重合体や混合物も好適に用いられる。
Figure 2017148222
尚、ポリアミド樹脂として、共重合体や二成分以上の混合物を使用する場合、各成分の質量組成比を各成分のSP値に乗じた値の総和を混合物全体のSP値とする。そして得られたSP値が、8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下の範囲であれば、ターゲットに含まれる高分子化合物として用いることができる。尚、上記質量組成比とは、i成分の質量をWiとした場合、Wi/ΣWiで算出することができる。
ポリアミド樹脂は、半結晶性の高分子であり光を散乱する。一般に、光音響波診断装置で使用される、生体の窓と呼ばれる波長600nm以上1100nm以下の近赤外領域において、ポリアミド樹脂の等価散乱係数は0.1乃至0.5であり、この範囲は血液等の生体の等価散乱係数に近い数値範囲である。このため、ターゲットの構成材料として好適である。
(高分子化合物に含ませることができる添加剤)
ターゲットに含まれる高分子化合物には、適時添加材を加えてもよい。添加剤を加える場合、添加剤のSP値も8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下であることが好ましい。ただし、単体ではSP値が8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下の範囲に入らない材料(上述以外の高分子化合物や可塑剤等)を、高分子化合物に添加してもよい。この場合、各成分の質量組成比を各成分のSP値に乗じた値の総和を全体(添加剤を含む)のSP値としたときに、得られたSP値が8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下の範囲にあればよい。ここでいう質量組成比は、i成分の質量をWiとした場合、Wi/ΣWiで算出することができる。
尚、後述する色素は、ターゲット全体に対する含有量がごく微量であることから、ターゲットの構成材料である高分子化合物のSP値にはほぼ影響を及ぼさない。よって、本発明において、高分子化合物に含ませることができる添加剤には、後述する色素は含まれない。
(3c)色素
ターゲットに含まれる色素は、一般に、光音響波診断装置で使用される、生体の窓と呼ばれる波長600nm以上1100nm以下の近赤外領域における吸収を有する物質のことである。本発明のファントムを構成するターゲットは、上記色素を有することで、波長600nm以上1100nm以下の近赤外領域の光を吸収することができる。また、ターゲットに上記色素を含有させることで、生体に近似した吸収係数やヘモグロビンに起因する血液の酸素飽和度の変化を模擬することができる。
ここで、ターゲットの酸素飽和度を求める方法の一例を説明する。まず600nm以上1100nm以下の任意の2波長(λ1、λ2、λ1<λ2)におけるターゲットの吸収係数を計測する。そしてその比率から下記一般式(1)に基づいて、酸素飽和度を算出することができる。
Figure 2017148222
(式(1)において、HbO2[λ1]は、波長λ1におけるオキシヘモグロビンの吸収係数である。HbO2[λ2]は、波長λ2におけるオキシヘモグロビンの吸収係数である。Hb[λ1]は、波長λ1におけるデオキシヘモグロビンの吸収係数である。Hb[λ2]は、波長λ2におけるデオキシヘモグロビンの吸収係数である。μ[λ1]は、波長λ1におけるターゲットの吸収係数である。μ[λ2]は、波長λ2におけるターゲットの吸収係数である。)
式(1)において、デオキシヘモグロビンとオキシヘモグロビンの吸収係数は、公知の文献資料(S.J.Matcher et al.,Analytical Biochemistry 227,p54−68(1995)等)の値を利用することができる。よって、ある所定の酸素飽和度を再現するためには、当該所定の二波長(λ1、λ2)におけるターゲットの吸収係数の比率が所定の比率になっている必要がある。
このような吸収特性を持つ色素としては、以下の色素を好適に用いることができる。ここで、これら色素のうち一種類を単独で使用する、又は二種類以上を組み合わせて使用することで、ターゲットの吸収係数や酸素飽和度を適宜制御することができる。ただし、複数種類の色素を添加した場合、各色素の母材への溶出速度の違いから、ファントム作製時における色素の配合比がターゲット作製時のものとずれる可能性がある。そうすると、使用する波長における吸収係数比が経時で変化してしまい、各波長でのターゲットの吸収係数の比によって定まる酸素飽和度が変動を起こしてしまう。よって、ターゲットに添加する色素は一種類にするのが好ましい。
ターゲットに含ませることができる青色色素としては、フタロシアニン系、アントラキノン系が挙げられる。また、これら以外にも、金属置換もしくは無置換のフタロシアニン化合物も使用することができる。ターゲットに含ませることができる赤色色素としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、アゾレーキ系、ベンズイミダゾロン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系、縮合アゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系等が挙げられる。ターゲットに含ませることができる緑色色素としては、青色色素同様にフタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系が挙げられる。ターゲットに含ませることができる黄色着色剤としてはモノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、アントラキノン系等が挙げられる。ターゲットに含ませることができる黒色色素としては、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ、Pigment Black 7やカーボンブラック等が挙げられる。また、紫、オレンジ、茶色の色素もターゲットに含ませることができる。これら色素の中でも、特に、カーボンブラック及び金属置換したフタロシアニン化合物が好ましい。
カーボンブラックは、経時での安定性に優れ、吸収係数の精度管理に好適に用いることができる。色素としてカーボンブラックを含ませると、ターゲットの酸素飽和度は一定となるが、生体で想定される70%の酸素飽和度(静脈相当)と同様の酸素飽和度を示すため、酸素飽和度の管理にも好適に用いることができる。このように、ターゲットに含ませる色素としてカーボンブラックを使用すると、吸収係数及び静脈相当の酸素飽和度が長期間にわたり安定に模擬することができる。尚、カーボンブラックの平均一次粒子径が増大すると、光の散乱が増加すると、カーボンブラックの配合量によってはターゲットの等価散乱係数が変化することがある。ここで、光音響波診断装置で利用される波長は600nm程度であるため、カーボンブラックの平均一次粒子径は、当該波長の1/4以下である150nm以下とするのが好ましい。またカーボンブラックの平均一次粒子径が30nm以下であると、カーボンブラックの配合時の等価散乱係数の変化が0.1未満となるため、より好ましい。
一方、金属置換したフタロシアニン化合物は、例えば、特開2013−108060号公報にあるように、置換する金属や化学構造を変えることで、近赤外領域でのスペクトル形状を変化させることができる。よって、二波長(λ1、λ2)でのターゲットの吸収係数比を所望の値にすることができ、幅広い酸素飽和度を再現することができるため、金属置換したフタロシアニン化合物が、ターゲットに含ませる色素として好ましい。中でも、銅置換したフタロシアニン化合物である銅フタロシアニン、バナジウム置換したフタロシアニン化合物であるフタロシアニンバナジウム錯体は、入手しやすく、かつ、近赤外領域でのスペクトル形状も酸素飽和度0%から100%(デオキシヘモグロビンのみの状態からオキシヘモグロビンのみの状態)まで自在に再現できるため、より好ましい。このように、ターゲットに含ませる色素としてフタロシアニン化合物を使用すると、動脈相当の酸素飽和度を長期間にわたり安定に模擬することができる。
本発明において、ターゲットに含ませる色素がフタロシアニン化合物である場合、色素であるフタロシアニン化合物は、ターゲットに含まれる高分子化合物に対して0.000001質量%以上5質量%以下含まれるのが好ましい。一方、ターゲットに含ませる色素がカーボンブラックである場合、色素であるカーボンブラックは、ターゲットに含まれる高分子化合物に対して0.000001質量%以上1質量%以下含まれるのが好ましい。ここで、フタロシアニン化合物が上記高分子化合物に対して0.00001質量%以上5質量%以下含まれる場合、装置の設置位置の管理から生体の吸収係数の模擬まで行えるため、より好ましい。また、カーボンブラックが上記高分子化合物に対して0.00005質量%以上0.5質量%以下含まれる場合も同様に、装置の設置位置の管理から生体の吸収係数の模擬まで行うことができる。
以上説明したように、ターゲットに含まれる色素の含有量を適宜制御することで、ターゲット自体の所定の波長における吸収係数を、生体を模擬した光音響応答を再現させるのに必要な範囲である0.001/mm以上0.5/mm以下に制御することができる。ここで当該所定の波長における吸収係数が生体よりも低い場合は、当該所定の波長の光の一部がターゲットによって吸収されていることが装置にて検出することができないためノイズの要因となる。また当該所定の波長における吸収係数が上述した範囲から大きく外れると、装置の探触子の検出限界を超えてしまい、検出される信号の定量性が損なわれてしまう。
また、フタロシアニン化合物又はカーボンブラックを、上述した範囲でターゲットに含ませると、ターゲット自体の所定の波長における吸収係数を、ファントムの設置位置の管理等に必要となる強い信号を発する範囲に制御することができる。具体的には、上記吸光係数を0.5/mm以上5/mm以下に制御することができる。
ファントムの設置位置の管理に用いるターゲットの場合、精度管理用のターゲットの信号判別の障害となるため、吸収係数や酸素飽和度を管理するターゲットよりも、深い位置(探触子から遠い位置)に配置しなくてはならない。よってファントムの設置位置の管理に用いるターゲットにおいては、深い位置からも信号が明瞭に検出できる大きな吸収係数、具体的には、0.5/mm以上5/mm以下であることを要する。上記吸光係数が0.5/mm以上5/mm以下であることで、光を照射したときにターゲットの設置位置の管理に用いる深い位置(探触子から遠い位置)に配置した場合にも、明瞭な信号が得られる。
ここで色素としてフタロシアニン化合物を用いる場合、高分子化合物に対する色素の含有量を0.05質量%以上5質量%以下とするのが好ましい。これにより、ファントムの設置位置の管理に用いるターゲットとして適切な吸収係数範囲を得ることができる。同様に、色素としてカーボンブラックを用いる場合、高分子化合物に対する色素の含有量を0.01質量%以上0.5質量%以下とするのが好ましい。ファントムの設置位置の管理に用いるターゲットとして適切な吸収係数範囲を得ることができるからである。
特に、生体の血液の吸収係数の範囲に近い0.05/mm以上0.5/mm以下の範囲を模擬するために、ターゲットに含ませる色素としては、近赤外領域での吸収が大きいフタロシアニンバナジウム錯体やカーボンブラックが好ましい。この範囲の吸収係数を模擬するためには、色素としてフタロシアニンバナジウム錯体を使用する場合は、高分子化合物に対して0.001質量%以上0.05質量%以下の範囲で色素を含ませるのがより好ましい。色素としてカーボンブラックを使用する場合は、高分子化合物に対して0.00005質量%以上0.01質量%以下の範囲で色素を含ませるのがより好ましい。
尚、ターゲットに含まれるカーボンブラックの含有量は、公知のゴム−カーボンブラックの定量−熱分解法及び化学分解法(JIS K6227(1998))等を用いて定量することができる。またターゲットに含まれるフタロシアニン化合物の含有量は、ソックスレー抽出装置を用いて含有されるフタロシアニン化合物を抽出し、その後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析、核磁気共鳴スペクトル、熱重量分析等を用いることで含有量を定量することができる。
[精度管理ファントムの製造方法]
精度管理ファントムは、例えば、ファントムを構成するターゲットを形成し、次いでこのターゲットを内包する態様で母材を形成することにより作製される。
(1)ターゲットの作製
ターゲットに含まれる高分子化合物が熱可塑性樹脂の場合、熱溶融混練法、染色法、共通の有機溶剤に溶解させたのち混合する方法等の公知の方法を用いることで、高分子化合物中に色素を含ませてなるターゲットを作製することができる。これらの方法のうち、高分子化合物中に安定に、かつ低コストで色素を導入できる点から、熱溶融混練法を用いて、高分子化合物と色素とを有する顆粒状の固形物を最初に作製する方法が好ましい。また、この固形物から所望の形状のターゲットを作製する場合、熱プレス法、射出成形法、押出成形法、溶融紡糸法等の公知の方法を用いることができる。
一方、ターゲットに含まれる高分子化合物が熱硬化性樹脂の場合、硬化前の溶液状態で色素を溶解させ、その後、型に注ぎ込み、型内で硬化させることで所望の形状のターゲットを得ることができる。また、ある程度以上の硬さを有する熱硬化樹脂の場合、切削加工などを用いてターゲットを所望の形状に成型してもよい。
(2)母材の作製
熱硬化ウレタン樹脂で母材を作製する場合、まず原料のポリオールに各種添加剤を添加し、均一に混合する。その後、主にイソシアネートからなる硬化剤を添加し、さらに混合する。そして、混合物の流動性が失わないうちに、液状の混合物を所定のファントム形状を有する型に注ぎ硬化させることで母材は作成される。尚、上記液状の混合物を型に注ぐ前に、ターゲットの位置精度を保つために、ターゲットを事前に型内の所定の位置に配置させておくことが好ましい。
熱硬化ウレタン樹脂を硬化させる際に、硬化温度としては、20℃以上150℃以下が好ましい。このとき熱硬化ウレタン樹脂中にあるターゲットが、硬化時の加熱により変形する可能性があるため、硬化温度として、20℃以上100℃以下がより好ましい。
(ポリオール)
母材を作製する際に用いられるポリオールとしては、分子中に水酸基を2個以上有するものであれば特に限定されない。本発明において使用できるポリオールとしては、分子中に水酸基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリオールを採用し得る。例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリアクリルポリオール等が挙げられる。これらは一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
母材を作製する際に用いられるポリオールとなるポリエーテルポリオールとしては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1−メチル−1,3−ブチレングリコール、2−メチル−1,3−ブチレングリコール、1−メチル−1,4−ペンチレングリコール、2−メチル−1,4−ペンチレングリコール、1,2−ジメチル−ネオペンチルグリコール、2,3−ジメチル−ネオペンチルグリコール、1−メチル−1,5−ペンチレングリコール、2−メチル−1,5−ペンチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンチレングリコール、1,2−ジメチルブチレングリコール、1,3−ジメチルブチレングリコール、2,3−ジメチルブチレングリコール、1,4−ジメチルブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等の繰り返し単位を有しているものが挙げられる。これら繰り返し単位のうち一種類を単独で、又は二種類以上を組み合わせて公知の方法で重合することで、ポリエーテルポリオールを得ることができる。
母材を作製する際に用いられるポリオールとなるポリエステルポリオールは、例えば、多塩基酸成分とポリオール成分とを反応させることにより得られる。この反応で用いられる多塩基酸成分として、例えば、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1、4−ナフタレンジカルボン酸、2、5−ナフタレンジカルボン酸、2、6−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、テトラヒドロフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸、酒石酸、アルキルコハク酸、リノレイン酸、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の脂肪族ジカルボン酸;ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、1、3−シクロヘキサンジカルボン酸、1、4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;あるいは、これらの酸無水物、アルキルエステル、酸ハライド等の反応性誘導体等が挙げられる。これら化合物は一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。またポリオール成分としては、上記ポリエーテルポリオールを合成する際に用いられるジオール類が挙げられる。
母材を作製する際に用いられるポリオールとなる、ポリカーボネートポリオールは、例えば、炭酸又は炭酸エステルと、多価アルコールとを反応させることにより得られる。この反応で用いられる多価アルコールとしては、例えば、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。これらポリカーボネートポリオールは、一種類を単独で用いてもよいし二種類以上を併用して用いてもよい。
母材を作製する際に用いられるポリオールとなるポリブタジエンポリオールは、ポリブタジエンの両末端に水酸基を有するものであり、経時的な着色防止の観点から、水素化物を用いるのが好ましい。
母材を作製する際に用いられるポリオールとなるポリアクリルポリオールは、代表的には、(メタ)アクリル酸エステルと、水酸基を有する単量体とを共重合させることにより得られる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。水酸基を有する単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシペンチル等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;グリセリン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールの(メタ)アクリル酸モノエステル;N−メチロール(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。これら化合物は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
上記ポリアクリルポリオールは、上記単量体成分に加えて、他の単量体を共重合させてもよい。他の単量体としては、共重合可能な限り、任意の適切な単量体を採用し得る。具体的には、(メタ)アクリル酸等の不飽和モノカルボン酸;マレイン酸等の不飽和ジカルボン酸、ならびにその無水物及びモノ又はジエステル類;(メタ)アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の不飽和アミド類;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類;エチレン、プロピレン等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化α、β−不飽和脂肪族単量体;スチレン、α−メチルスチレン等のα、β−不飽和芳香族単量体等が挙げられる。これら化合物は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
以上説明したポリオールのうち、柔軟性が高く、生体に近似した音速や音響減衰係数を再現できることから、ポリエーテルポリオールが特に好ましい。またポリエーテルポリオールの中でも、結晶性が低いことから、プロピレングリコールとエチレングリコールとの共重合体を用いることがより好ましい。これは、ポリオールの結晶性が高い場合、結晶化により光が散乱するため光学物性の制御が困難になるからである。さらに、結晶性が高い場合、熱硬化ウレタン樹脂の硬さが増し、音速や音響減衰係数が生体よりも高くなるので問題となる。また、ファントムは吸水性が低いことを要するため、プロピレングリコールとエチレングリコールとからなるブロック共重合体をポリオールとして用いることがより好ましい。これは、プロピレングリコールとエチレングリコールとからなるランダム共重合体はブロック共重合体に比べ吸水性が高いからである。また水と接触した状態で使用される可能性があるファントムでは、母材の吸水性が低くないと、吸水によりファントムの膨張が発生したり、ファントムの音響物性の変動が生じたりすることで、装置の精度管理の信頼性を損なう可能性があるためである。
また、複数種のポリオールを組み合わせることで、音速や音響減衰係数を再現することもできる。具体的には、音響減衰係数及び音速が高い、非晶質のポリカーボネートポリオール(例えば、ヘキサンジオールとペンタンジオールとの共重合体)とポリエーテルポリオールとの組み合わせは好適に用いることができる。これは、ヘキサンジオールとペンタンジオールのような鎖長の異なる繰り返し単位からなるポリカーボネートポリオールの場合、非晶質となり、光学物性の制御が容易になるためである。また、非晶質であることで、上記ポリカーボネートポリオールの音速や音響減衰係数はポリエーテルポリオールに比べると高いものの、ポリエーテルポリオールと組み合わせることで生体軟組織に近似した音響物性の範囲に入る。そのため、本発明のファントムに含まれる母材が有する熱硬化ウレタン樹脂の原材料であるポリオールとして好適に用いることができる。ポリオールを調製する際に用いられる非晶質のポリカーボネートポリオールは、ポリエーテルポリオール100部に対して、0部以上50部以下含まれているのが好ましく、15部以上40部以下含まれているのがより好ましい。非晶質のポリカーボネートポリオールの含有量が50部を超えると、上記ポリカーボネートポリオールの影響で、音響物性が生体軟組織の範囲を超えてしまう。これに対して、非晶質のポリカーボネートポリオールの含有量が15部以上40部以下とすることで、得られる熱硬化ウレタン樹脂の音速や音響減衰係数は、脂肪等の生体軟組織に近似した値となる。また、ポリエーテルポリオールのみからなる熱硬化ウレタン樹脂に比べ、ポリカーボネートポリオールを添加した熱硬化ウレタン樹脂は、耐水性の点で優れている。
熱硬化ウレタン樹脂を調製する際に用いられるポリオールの分子量は、入手の容易性の点から、数平均分子量500以上7000以下が好ましく、粘度が低くハンドリング性が高いことから、数平均分子量1000以上5000以下がより好ましい。尚、ポリオールの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定できる。
(イソシアネート)
熱硬化性樹脂の一種である熱硬化ウレタン樹脂は、例えば、ポリオールとイソシアネートとを反応させることにより得られる。本発明において、母材に含まれる熱硬化ウレタンを調製する際に用いられるイソシアネートとしては、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、任意の適切なものを採用し得る。このとき用いられるイソシアネートは一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。以下、熱硬化ウレタンを調製する際に用いられるイソシアネートについて説明するが、使用可能なイソシアネートは、これに限られるものではない。
熱硬化ウレタンを調製する際に用いられるイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、1,4−ブタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート、3−メチルペンタン−1,5−ジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4'−シクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等の脂環族ジイソシアネート;トリレンジイソシアネート、2,2'−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、4、4'−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、4,4'−ジベンジルジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α−テトラメチルキシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート等が挙げられる。これら化合物は一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
また使用されるイソシネート化合物としては、本発明の効果を阻害しない範囲において、変性体も含まれる。ポリイソシアネート変性体として、例えば、多量体(ダイマー(例えば、ウレトジオン変性体等)、トリマー(例えば、イソシアヌレート変性体、イミノオキサジアジンジオン変性体等)等)、ビュレット変性体(例えば、水との反応により生成するビュレット変性体等)、アロファネート変性体(例えば、モノオールまたは低分子量ポリオールとの反応より生成するアロファネート変性体等)、ポリオール変性体(例えば、低分子量ポリオールまたは高分子量ポリオールとの反応より生成するポリオール変性体等)、オキサジアジントリオン変性体(例えば、炭酸ガスとの反応により生成するオキサジアジントリオン等)、カルボジイミド変性体(脱炭酸縮合反応により生成するカルボジイミド変性体等)等が挙げられるが、これらに限られるものではない。
熱硬化ウレタン樹脂の調製に用いられるイソシアネートとして、熱硬化ウレタン樹脂が形状維持性を有し、かつ生体に近似した音響物性を有するために、イソシアネート基を1分子中に3個以上有する多官能性のイソシアネートを使用することがより好ましい。入手の容易性に鑑み、ヘキサメチレンジイソシアネートの三量体(イソシアヌレート変性体)を含有する硬化剤を使用することがより好ましい。これは、二量体の場合、硬化後に定まった形状を維持するために、硬化剤を多量に添加する必要があり、この場合、ポリオールの含有量が減少し、音響物性を生体に近似させることが困難になるためである。
(ウレタン化触媒)
本発明においては、熱硬化ウレタン樹脂を調製する際に、ポリオールが有する水酸基とイソシアネートが有するイソシアネート基との反応を促進する触媒であるウレタン化触媒を適量加えてもよい。ウレタン化触媒としては、公知のウレタン化触媒を用いることができ、具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジラウレート等の有機金属化合物や、トリエチレンジアミンやトリエチルアミン等の有機アミンやその塩を選択して用いることができる。これらウレタン化触媒は、一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を併用して用いてもよい。
(光学物性調整材)
光音響波診断装置用ファントムの場合、光の散乱及び吸収特性をより生体に近似させる目的で、光散乱体及び光吸収体を光学物性調整材として上記熱硬化ウレタン樹脂に添加することができる。
光散乱体は、光散乱性を有する化合物であり、生体組織の光伝播特性に近似させるために、添加することで熱硬化ウレタン樹脂の等価散乱係数を調整することができる。
光散乱性を有する化合物としては、上記熱硬化ウレタン樹脂と屈折率が異なる無機粒子を好適に用いることができる。無機粒子としては、酸化ケイ素、金属酸化物、複合金属酸化物、金属硫化物、金属化合物半導体、金属、ダイヤモンド等からなる粒子が好ましい。上記無機粒子の構成材料となる金属酸化物として、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化テルル、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化インジウム錫等が挙げられる。上記無機粒子の構成材料となる複合金属酸化物として、例えば、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等が挙げられる。上記無機粒子の構成材料となる金属化合物半導体として、例えば、硫化亜鉛、硫化カドミウム等の金属硫化物、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム等が挙げられる。上記無機粒子の構成材料となる金属として、例えば、金等が挙げられる。また無機粒子として、一種類の無機粒子に他の無機成分を被覆した、いわゆるコア−シェル型無機粒子を使用することもできる。また使用される無機粒子の形状としては、球状、楕円状、扁平状、ロッド状等が挙げられるが、いずれの形状であってもよい。
光学物性調整剤として用いられる無機粒子は、光音響波診断装置の使用波長域において吸収が小さいものを適時選択することができる。また、光を散乱するために、上記熱硬化ウレタン樹脂と屈折率が異なっていることが望ましい。また無機粒子の散乱を得るために、平均一次粒子径は10nm以上100μm以下であることが好ましい。さらに、光音響波の診断に用いる波長の光を効果的に散乱するために、平均一次粒子径は100nm以上10μm以下がより好ましい。このような無機粒子としては、酸化チタン等の無機酸化物が挙げられるが、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等の高屈折率の無機材料からなる無機粒子を用いることが好ましい。特に、酸化チタンは屈折率が高く、ごく少量の添加で、音響物性に影響を及ぼすことなく、生体に近似した等価散乱係数を再現できるためより好ましい。
また、これら無機粒子は、表面を修飾してもよい。無機粒子として酸化チタンを用いる場合、酸化チタンが光による活性を有するため、シリカやアルミナ等の無機成分によって表面を被覆する修飾処理を行うことが望ましい。また、有機物である熱硬化ウレタン樹脂への分散性を向上するため、無機粒子の表面を有機成分を有する分散助剤で処理してもよい。熱硬化ウレタン樹脂への分散性が良好である点から、分散助剤としては、メチルハイドロジェンポリシロキサンが好ましい。
光吸収体としては、光音響波診断装置で使用する光の波長範囲において光吸収を有する化合物であれば、本発明の効果を損なわない範囲で、特に限定されず用いることができる。一般に、光音響波診断装置では、生体の窓と呼ばれる波長600nm以上1100nm以下の近赤外領域を使用するため、使用される光吸収体はこの範囲の光を吸収することが望ましい。
光吸収体の具体例としては、以下に列挙する公知の顔料を挙げることができる。青色顔料としては、フタロシアニン系、アントラキノン系が挙げられる。また、これら以外にも、金属置換もしくは無置換のフタロシアニン化合物も青色顔料として使用することができる。赤色顔料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、アゾレーキ系、ベンズイミダゾロン系、ペリレン系、ジケトピロロピロール系、縮合アゾ系、アントラキノン系、キナクリドン系等が挙げられる。緑色顔料としては、青色顔料同様にフタロシアニン系、アントラキノン系、ペリレン系が挙げられる。黄色着色剤としてはモノアゾ系、ジスアゾ系、縮合アゾ系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリノン系、アントラキノン系等が挙げられる。さらに、黒色顔料としては、Pigment Black 7やカーボンブラック等が挙げられる。その他、紫、オレンジ、茶色顔料も、適時必要な光吸収特性に合わせて使用することもできる。これら顔料のうち、経時での暗転性の観点ではカーボンブラックが好ましく、吸収スペクトルの多様性の観点ではフタロシアニン化合物が好ましい。
[光診断装置用精度管理ファントム]
以上、本発明の光音響波診断装置用精度管理ファントムについて説明したが、光音響波診断装置用精度管理ファントムにおいて、ターゲットが有する色素が経時的にターゲットから母材へ溶出することにより、ターゲットの吸収係数が劣化する。これにより、ファントムの信号劣化が生じる。よって、例えば、光診断装置用精度管理ファントムにおいても、母材への色素の溶出はターゲットの吸収係数の劣化を招く。このため、本発明のファントムは、光音響波診断装置と同様に光診断装置にも適用できる。
以下、実施例にて本発明を詳しく説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。尚、実施例及び比較例で用いた測定方法及び評価方法を以下に説明する。
1.SP値
SP値は、Fedorsの推算法に基づき算出した。この方法は、凝集エネルギー密度及びモル分子容を基にSP値を計算する方法である(Robert F.Fedors、Polymer Engineering & Science,14(2)p.147−154(1974)参照)。SP値を計算する際に用いられる凝集エネルギー密度及びモル分子容の値については、公知の文献の値を用いることができる。混合物や共重合体の場合、各成分の質量組成比を各成分のSP値に乗じた値の総和を混合物全体のSP値とした。ここで質量組成比は、i成分の質量をWiとした場合、Wi/ΣWiで算出することができる。また、SP値は25℃における値を使用するものとする。
2.吸収係数、等価散乱係数及び酸素飽和度の算出方法
後述する実施例及び比較例にて得られたファントムに対して行った吸収係数及び等価散乱係数の評価方法を以下に説明する。まず、ターゲットに見立てた熱可塑性樹脂及び母材に見立てた熱硬化性樹脂を、以下に説明する方法で作製した。
(1)熱可塑性樹脂
射出成型により、50mm×50mm、厚み2mm(光路長)の試験片を作製した。
(2)熱硬化性樹脂
50mm×50mm、光路長5mmの石英セル内に、硬化剤を添加した顔料分散液状ポリオールを注入し、90℃にて1時間加熱することによる樹脂を硬化させ、試験片を調整した。
これら試験片について分光光度計(日本分光株式会社製、V−670)を用いて拡散透過率及び拡散反射率を求めた。また、別途用意した試験片(3mm×3mm×2mm)について、屈折率計(アントンパール株式会社製、Abbemat−MW)を用いて屈折率を求めた。これらの結果を逆モンテカルロシミュレーションにより、測定値と計算値との差が最小となるように変数設定の最適化を行うことで、各波長における吸収係数及び等価散乱係数を算出した。酸素飽和度は、式(1)より算出した。それぞれの結果は、表1に示す。尚、吸収係数及び等価散乱係数を求める際に使用した波長は760nmであり、酸素飽和度は760nm及び800nmの吸収係数を用いて算出した。
3.音響信号変動率の計測
実施例及び比較例にて得られたファントムについて音響信号言動率を測定・評価した。具体的には、後述する光音響装置を用いて、800nmの光を照射した際のファントム中に配置したターゲットから発生する音響の変動を測定した。音響信号変動率(%)は、下記式から求めた。
[加熱処理後の音響信号の音圧]/[初期の音響信号の音圧]×100
尚、加熱処理後の音響信号の音圧を測定する際には、80℃で1週間加熱処理したファントムを使用した。
図2は、音響信号変動率の計測の際に使用した光音響装置の例を示す模式図である。尚、図2(a)は、光音響装置のうちファントムを保持する部分の構成を示した断面図であり、図2(b)は、図2(a)に示される半球容器21の上面図である。尚、図2(b)には、ファントム25の配置位置も示されている。光音響装置20を構成する超音波探触子22は、半球容器21上に半球面に沿う位置でスパイラル状に512個配置されている。保持部材24は凹みがある中央部24aと、縁部24bと、を有し、ファントム25は、中央部24aの上に配置されている。
図2では図示されていないが、実際に測定を行う際には、半球容器21と保持部材24との間には水等の整合層が介在している。また図2(a)に示されるように、ファントム25は保持部材24の上に配置されているが、ファントム25に空気が入らないように必要に応じて水等の整合層(不図示)を保持部材24内に導入してもよい。図2の光音響装置20において、保持部材24はポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料で形成される部材である。さらに図2の光音響装置20において、半球容器21には、光照射部23からの計測光が通過する空間、具体的には、符号21aに示される空間が設けられている。そして光照射部23は、ファントム25に向けてz軸の負の方向から計測光23aを照射させることができる。図2の光音響装置20において、半球容器21の位置はXYステージ(不図示)により変えることができる。測定の際には、XYステージを走査しながら被検体(ファントム25)にパルス光(計測光23a)を照射し、発生した音響波を超音波探触子22で検出する。そのデータを再構成することによって三次元の光超音波画像を得ることができる。
光照射部23は、被検体であるファントム25に照射する計測光23aとなるパルス光を照射する装置である。光源としては、大出力を得るためにレーザー光源であることが望ましい。ただしこれに限られず、レーザーの代わりに発光ダイオード、フラッシュランプ等を用いることができる。尚、計測光23aとしてレーザーを用いる場合、固体レーザー、ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザーなど様々なものが使用できる。
光音響波を効果的に発生させるためには、被検体の熱特性に応じて十分短い時間に光を照射させなければならない。被検体が生体である場合、光源である光照射部23から発生するパルス光のパルス幅は10ナノ秒以上50ナノ秒以下が好ましい。またパルス光の波長は、被検体内部まで光が伝播する波長であることが望ましい。具体的には、生体の場合、600nm以上1100nm以下である。ここでは、光照射部23には、固体レーザーであるチタンサファイアレーザーを用い、酸素飽和度を測定するために760nm及び800nmの波長を使用する。
超音波探触子22は、光音響波を受信するための部材である。超音波探触子22としては、マイクロマシン技術(半導体プロセス)による容量性の超音波送受信素子(cMUT:capacitive Micro−machined Ultrasonic Transducers)、圧電セラミック振動子等の公知のものを用いることができる。
図2の光音響装置20を使用し、三次元の光音響波画像から、ターゲットの初期音圧を定量し、加熱処理前後の音圧の違いから、音響信号の変動率を算出した。
4.ファントム
図3は、実施例及び比較例にて作製したファントムの構成を示す模式図である。図3のファントム1aは、母材11と、この母材11内に設けられる1本のターゲット14と、から構成される。尚、図3のファントム1aにおいて、母材11の底面11aは、光音響測定における計側面であり、図2の光音響装置20を構成する保持部材24の中央部24aの曲面に合うようにその形状が設計されている。図3のファントム1aにおいて、ターゲット14は、計測面(母材11の底面11a)より上方20mmの位置に配置されており、その太さはφ1mmである。尚、実施例及び比較例において、ターゲット14はそれぞれ異なるため、ファントム1aはターゲットごとに個別に作製した。
ファントム1aを構成する母材11は、熱硬化ウレタン樹脂を有する部材である。またファントム1aは、人肌のゲル透明タイプ(株式会社エクシールコーポレーション製)に酸化チタン(SJR−405S、テイカ株式会社製)及びカーボンブラック(黒色顔料、株式会社エクシールコーポレーション製)を分散させることで作製した。尚、ファントム1aを作製する際に、波長800nmにおける吸収係数0.005/mm、等価散乱係数1.0/mmとなるように、酸化チタン及びカーボンブラックの量を調整した。作製したファントム1aの光学物性については、上述した逆モンテカルロシミュレーションから求めた。ところで、ファントム1aに含まれる熱硬化ウレタン樹脂は、ポリアルキレングリコールとイソシアネートと重合体である。また得られた熱硬化ウレタン樹脂の音速は1400m/sであり、音響減衰係数は0.35dB/MHz/cmであったため、この熱硬化性ウレタン樹脂を母材11として用いることで、生体の脂肪に近似した音響物性を得ることができた。
5.ターゲットの作製の際に用いられた材料
以下の実施例において、ターゲットを作製する際に用いられた材料を以下に列挙する。
(1)高分子化合物
ターゲットを作製する際に用いられた高分子化合物を以下に列挙する。尚、以下に列挙した高分子化合物のSP値については、Fedorsの方法により求めた。その結果を下記表1に示す。
(1a)ポリアミド樹脂A:ナイロン6/66樹脂とナイロン6との混合物(商品名:アミラン(R)非強化グレードCM6021M、東レ株式会社製)
(1b)ポリアミド樹脂B:ナイロン6(商品名:アミラン(R)非強化グレードCM1017、東レ株式会社製)
(1c)ポリアミド樹脂C:ナイロン66(商品名:アミラン(R)非強化グレードCM3001−N、東レ株式会社製)
(1d)PAN:ポリアクリロニトリル樹脂(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)
(1e)PE:ポリエチレン樹脂(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)
(1f)熱硬化ウレタン樹脂A:下記成分からなる組成物の重合体である熱硬化ウレタン樹脂(SP値は、個別のユニットについてSP値を求め、質量組成比に基づき算出。)
・デュラノール(TM)T5652(旭化成ケミカルズ株式会社製、ポリカーボネートオール):82質量%
・デュラネート(TM)TKA−100(旭化成ケミカルズ株式会社、硬化剤):13質量%
・ジイソノニルフタレート(東京化成工業株式会社製、可塑剤):5質量%
(1g)熱硬化ウレタン樹脂B:下記成分からなる組成物の重合体である熱硬化ウレタン樹脂(SP値は、個別のユニットについてSP値を求め、質量組成比に基づき算出。)
・アデカポリエーテル(TM)CM−252(アデカ株式会社製、ポリエチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとのブロック共重合体):82質量%
・デュラネート(TM)TKA−100(旭化成ケミカルズ株式会社製、硬化剤):3質量%
・ジイソノニルフタレート(東京化成工業株式会社、可塑剤):15質量%
(2)色素
ターゲットを作製する際に用いられた色素を以下に列挙する。
(2a)カーボンブラックA:アミラン(R)非強化グレードM040−B2(東レ株式会社製、カーボンブラックを含有するポリアミド樹脂)
(2b)カーボンブラックB:平均一次粒子径24nmのカーボンブラック(#45、三菱化学株式会社製)
(2c)銅フタロシアニン:FDR−003(山田化学工業株式会社製)
(2d)バナジウムフタロシアニン錯体A:FD−40(山田化学工業株式会社製)
(2e)バナジウムフタロシアニン錯体B:FD−16(山田化学工業株式会社製)
(3)ターゲットに含まれる色素の含有量
ターゲットに含まれる色素の含有量は、試験片を作製する際の材料の仕込み比率から算出した。
カーボンブラックを有する試験片については、以下の方法により色素であるカーボンブラックの含有量を算出した。まず500gの試験片を用意し、窒素気流下にした加熱炉で400℃まで加熱し、樹脂成分を熱分解した後、窒素気流下のまま室温まで冷却した。次に、残留した灰分を計量し、計量した灰分の量からカーボンブラックの含有量を求めた。この方法で求めたカーボンブラックの含有量は、試験片作製時におけるカーボンブラックの仕込み濃度とよく一致した。また試験片を作製する際に、高分子化合物及びカーボンブラックの他に当該高分子化合物を溶解する有機溶剤を使用する場合、この有機溶剤に試験片を溶解させた後、遠心分離を行うことで、カーボンブラックを沈殿物として得た。このとき沈殿物が少ない場合は、上澄みを捨て、さらに試験片を溶かした有機溶剤を加え、遠心分離を行うという手順を繰り返した。その後、有機溶剤で3回乃至5回洗浄を行った際に得られた沈殿物を乾燥し、秤量することで、試験片に含まれるカーボンブラックの含有量を求めた。この方法で求めたカーボンブラックの含有量は、試験片作製時におけるカーボンブラックの仕込み濃度とよく一致した。
フタロシアニン化合物を有する試験片については、以下の方法により色素であるフタロシアニン化合物の含有量を算出した。まず試験片を冷凍粉砕したものをソックスレー抽出器に入れ、アセトンを7時間還流させながら、試験片に含まれるフタロシアニン化合物を抽出した。次に、ロータリーエバポレーターを用いて、抽出した溶液に含まれる溶媒を留去した。尚、この手順によって得られたフタロシアニンの量が不足する場合は、この手順を複数回繰り返した。次に、得られた抽出物を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法にて分析し、抽出物中に含有される金属の量(バナジウムや銅)を定量した。この抽出物中の金属の量とフタロシアニン化合物に含有される金属の量とを用い、試験片中に含まれるフタロシアニン化合物の量を求めた。この方法で求めたフタロシアニン化合物の含有量は、試験片作成時におけるフタロシアニン化合物の仕込み濃度とよく一致した。
[製造例1]ターゲットの製造
下記に示される材料を配合し、溶融混練することで、マスターバッチを作製した。
ポリアミド樹脂A:10kg
フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16):10g
次に、ポリアミド樹脂Aを、ポリアミド樹脂A及びフタロシアニンバナジウム錯体Aを合わせてなる組成物全体に対する色素の含有量が0.003質量%となるように、上記マスターバッチに配合した。この後、再び溶融混練することで、組成物全体に対する色素の含有量が0.003質量%であるペレットを得た。次に、得られたペレットを押出成形することで、直径1mmのワイヤ状のターゲット得た。
[製造例2乃至10]ターゲットの製造
製造例1において、使用した高分子化合物及び色素、並びにペレットに含ませる色素の含有量を、下記表4の通りにすることを除いては、製造例1と同様の方法によりターゲットを得た。
Figure 2017148222
[製造例11]ターゲットの製造
下記に示される材料を配合し、溶融混練することで、マスターバッチを作製した。
ポリアミド樹脂A:10kg
カーボンブラックA:10g
次に、ポリアミド樹脂Aを、組成物全体に対する色素の含有量が0.002質量%となるように、上記マスターバッチに配合した後、再び溶融混練することで、組成物全体に対する色素の含有量が0.002質量%であるペレットを得た。次に、得られたペレットを押出成形することで、直径1mmのワイヤ状のターゲット得た。
[製造例12、13]ターゲットの製造
製造例11において、使用した高分子化合物及び色素、並びにペレットに含ませる色素の含有量を、下記表5の通りにすることを除いては、製造例11と同様の方法によりターゲットを得た。
[製造例14]ターゲットの製造
製造例11において、マスターバッチを作製する際に、カーボンブラックAに代えてカーボンブラックBを3g使用した。またペレットを作製する際に、組成物全体に対する色素の含有量が0.004質量%となるように、上記マスターバッチにポリアミド樹脂Aを配合した。これらを除いては、製造例11と同様の方法によりターゲットを得た。尚、本製造例(製造例14)において、マスターバッチを作製する際には、カーボンブラックBのポリアミド樹脂Aへの分散性を向上させる目的で溶融混練を2回行った。
Figure 2017148222
[製造例15]ターゲットの製造
熱硬化ウレタン樹脂Aのポリオール成分に、フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)を溶解させた。尚、フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)を溶解させる際には、製造されるターゲットに含まれる色素の含有量が0.002質量%となるように、上記ポリオール成分に溶解させるフタロシアニンバナジウム錯体Aの量を調整した。この後、上記ポリオール成分にジイソノニルフタレート(可塑剤)及び硬化剤を混合し、直径1mmの穴のあいた型に液を注ぎ込み、硬化させた。以上により、直径1mmとなるワイヤ状のターゲットを得た。
[製造例16]ターゲットの製造
製造例15において、フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)に代えてフタロシアニンバナジウム錯体B(FD−40)を使用した。また製造されるターゲットに含まれる色素の含有量が下記表6に示される通りになるように、上記ポリオール成分に溶解させるフタロシアニンバナジウム錯体Bの量を調整した。これらを除いては、製造例15と同じ方法により、ターゲットを得た。
Figure 2017148222
[製造例17]ターゲットの製造
実施例1において、ポリアミド樹脂Aに代えてポリアクリロニトリル樹脂を使用し、ペレットに含ませる色素の含有量を、下記表7の通りにすることを除いては、製造例1と同様の方法によりターゲットを得た。
[製造例18]ターゲットの製造
実施例1において、ポリアミド樹脂Aに代えてポリエチレン樹脂を、フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)に代えてフタロシアニンバナジウム錯体B(FD−40)を、それぞれ使用した。またペレットに含ませる色素の含有量を、下記表7の通りにすることを除いては、製造例1と同様の方法によりターゲットを得た。
Figure 2017148222
[製造例19]ターゲットの製造
製造例15において、熱硬化ウレタン樹脂Aのポリオール成分に代えて、熱硬化ウレタン樹脂Bのポリオール成分を使用した。また製造されるターゲットに含まれる色素の含有量が下記表8に示される通りになるように、上記ポリオール成分に溶解させるフタロシアニンバナジウム錯体Aの量を調整した。これらを除いては、製造例15と同じ方法により、ターゲットを得た。
[製造例20]ターゲットの製造
製造例19において、フタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)に代えてフタロシアニンバナジウム錯体B(FD−40)を使用した。また製造されるターゲットに含まれる色素の含有量が下記表8に示される通りになるように、熱硬化ウレタン樹脂Bのポリオール成分に溶解させるフタロシアニンバナジウム錯体Bの量を調整した。これらを除いては、製造例19と同じ方法により、ターゲットを得た。
Figure 2017148222
[実施例1]ファントムの製造
図3に示されるファントム1aを作製する際に用意された型の所定の位置に、製造例1にて作製したターゲット14を配置した。その後、母材11を構成する熱硬化ウレタン樹脂を上記型に注ぎ、この熱硬化ウレタン樹脂を硬化することで、ファントム1aを得た。
得られたファントムを光音響装置にて初期の音響信号を測定した。その後、80℃に加熱した乾燥炉でファントムを1週間加熱し、加熱処理後のターゲットから発信される音響信号を測定した。そして、これらの測定結果から、音響信号変動率を求めた。結果を表9に示す。
[実施例2乃至18、比較例1、2]ファントムの製造
実施例1において、製造例1にて製造したターゲットに代えて、下記表9に示された製造例にて製造したターゲットを使用したこと以外は、実施例1と同様の方法により、ファントムを得た。また得られたファントムについて、実施例1と同様の方法により音響信号変動率を求めた。結果を表9に示す。
Figure 2017148222
[評価結果]
表9より、実施例1乃至実施例14、実施例17及び実施例18のファントムでは、加熱処理前後において音響信号変動は認められず、ターゲット内の色素が効果的に保持されていることがわかった。尚、実施例15及び実施例16のファントムでは、加熱処理前後において音響信号の変動が確認されたが、比較例(比較例1、比較例2)のファントムと比較して、加熱による音響信号の変動は効果的に抑制されているため、ファントムを構成するターゲット内に色素が効果的に保持されていることがわかった。
以上の結果から、ターゲットに含まれる高分子化合物のSP値が8(cal/cm31/2以下もしくは10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である場合、母材への色素の溶出による音響信号の劣化を抑制できることがわかった。
また表9より、実施例1乃至実施例14のファントムは、実施例15及び実施例16のファントムと比較して色素の保持力がより強いことがしめされた。このことから、ターゲットに含まれる高分子化合物のSP値は、11(cal/cm31/2以上14(cal/cm31/2以下がより好ましいことがわかった。
またターゲットに含まれる高分子化合物を熱可塑性樹脂であるポリアミド樹脂とした場合、ポリアミド樹脂A、ポリアミド樹脂B及びポリアミド樹脂Cの等価散乱係数は、それぞれ0.2/mm、0.25/mm、0.3/mmであった。これにより、ナイロン6/66、ナイロン6又はナイロン66を含有するポリアミド樹脂の等価散乱係数は生体に近似した値を示し、精度管理ファントム用ターゲットとして好適に用いることができることがわかった。またターゲットに含まれる高分子化合物をポリアミド樹脂とした場合において、押出成形によりワイヤ状のターゲットを作製した。その結果、直径0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.5mm、1mm、2mm、3mm及び5mmのワイヤ状ターゲットを作製することができため、ポリアミド樹脂が精度管理ファントム用ターゲットに含まれる高分子化合物として好ましいことがわかった。
実施例1乃至実施例5及び実施例17において、得られたファントムの酸素飽和度が95%乃至97%の範囲であった。このため、これらファントムに含まれる色素であるフタロシアニンバナジウム錯体A(FD−16)が、動脈の酸素飽和度に近似した吸収特性を示すことがわかった。
実施例6乃至実施例8及び実施例18にてそれぞれ得られたファントムに含まれる色素は、フタロシアニンバナジウム錯体B(FD−40)である。ここで、これら実施例にてそれぞれ得られたファントムの酸素飽和度は、80%乃至93%の範囲であった。
実施例9及び実施例10にてそれぞれ得られたファントムに含まれる色素は、フタロシアニン化合物である銅フタロシアニン(FDR−003)である。ここで、これら実施例にてそれぞれ得られたファントムの酸素飽和度は、36%乃至38%の範囲であった。
実施例11乃至実施例14において、得られたファントムの酸素飽和度が71%乃至73%の範囲であった。このため、これらファントムに含まれる色素であるカーボンブラックが、静脈の酸素飽和度に近似した吸収特性を示すことがわかった。
以上より、フタロシアニン化合物及びカーボンブラックのいずれかをターゲットに含まれる色素として添加することで、酸素飽和度を制御することができることがわかった。
実施例1乃至実施例10より、フタロシアニン化合物を0.000001質量%以上5質量%以下の範囲でターゲットに添加した場合、波長800nmにおけるターゲットの吸光係数を、0.5/mm以上5/mm以下の範囲で制御できることがわかった。つまり、波長800nmにおけるターゲットの吸収係数を装置管理に好適に制御できることがわかった。また実施例11乃至14より、カーボンブラックを0.000001質量%以上1質量%以下の範囲でターゲットに添加した場合、波長800nmにおけるターゲットの吸光係数を、0.5/mm以上5/mm以下の範囲で制御できることがわかった。つまり、波長800nmにおけるターゲットの吸収係数を装置管理に好適に制御できることがわかった。
実施例1乃至実施例8及び実施例15乃至実施例18にて使用したフタロシアニンバナジウム錯体は、実施例9及び実施例10にて使用した銅フタロシアニンと比較して、近赤外領域での吸収係数が高い。このため、フタロシアニンバナジウム錯体を少量、具体的には、0.001質量%以上0.05質量%以下の割合で添加するだけでも血液の吸収係数範囲に近い0.05/mm以上0.5/mm以下の範囲を再現できることがわかった。またカーボンブラックの場合でも、少量、具体的には、0.00005質量%以上0.01質量%以下の割合で添加するだけで、生体の血液の吸収係数の範囲に近い0.05/mm以上0.5/mm以下の範囲を再現できることがわかった。
以上の結果から、本発明の精度管理ファントムは、光音響波診断装置用精度管理ファントムとして好適に用いることができることがわかった。
本発明のファントムは、光音響波診断装置や光診断装置の精度管理や校正に用いる精度管理ファントムとして用いることができる。
1:ファントム、11:母材、12(13):ターゲット

Claims (14)

  1. 熱硬化ウレタン樹脂を有する母材と、前記母材中に少なくとも一つ備えられるターゲットと、を有し、
    前記ターゲットが、SP値が8(cal/cm31/2以下又は10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である高分子化合物と、色素と、を有することを特徴とする、光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  2. 前記高分子化合物が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  3. 前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂及びポリエチレンテレフタラート樹脂から選択される熱可塑性樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  4. 前記熱可塑性樹脂がポリアミド樹脂であることを特徴とする、請求項2又は3に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  5. 前記ポリアミド樹脂が、ナイロン6/66、ナイロン6又はナイロン66であることを特徴とする、請求項4に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  6. 前記色素がカーボンブラック又はフタロシアニン化合物であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  7. 前記色素がカーボンブラックであり、
    前記カーボンブラックが、前記高分子化合物に対して0.000001質量%以上1質量%以下含まれることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  8. 前記カーボンブラックの平均一次粒子径が150nm以下であることを特徴とする、請求項7に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  9. 前記色素がフタロシアニン化合物であり、
    前記フタロシアニン化合物が、前記高分子化合物に対して0.000001質量%以上5質量%以下含まれることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  10. 前記フタロシアニン化合物が、フタロシアニンバナジウム錯体又は銅フタロシアニンであることを特徴とする、請求項9に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  11. 前記熱硬化ウレタン樹脂が、ポリアルキレングリコールとイソシアネートとの重合体であることを特徴とする、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  12. 前記母材が、さらに可塑剤を有することを特徴とする、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の光音響波診断装置用精度管理ファントム。
  13. 熱硬化ウレタン樹脂を有する母材と、前記母材中に少なくとも一つ備えられるターゲットと、を有し、
    前記ターゲットが、SP値が8(cal/cm31/2以下又は10(cal/cm31/2以上16(cal/cm31/2以下である高分子化合物と、色素と、を有することを特徴とする、光診断装置用精度管理ファントム。
  14. 前記母材が、さらに可塑剤を有することを特徴とする、請求項13に記載の光診断装置用精度管理ファントム。
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