以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
[第1実施形態]
図1〜図4を参照して第1実施形態を説明する。まず図1を参照して、第1実施形態に係る温度計測装置1の構成について説明する。
温度計測装置1は、測定対象物10の内部に存在する被測定部11の温度T0を計測するための装置である。被測定部11は、例えば図1に示すようにその周囲を伝熱材12によって被覆される、または、筐体によって包囲される、などの測定対象物10の構造上の都合により外部から温度T0を直接計測することができない。
このような測定対象物10として、特に本実施形態では圧力センサを想定している。圧力センサは、その内部に被測定部11としての受圧部を備え、この受圧部を含む内部空間を他部品により包囲して構成される。このような圧力センサは、例えば歪ゲージ式、薄膜式などのダイアフラムゲージが挙げられる。ダイアフラムゲージは、受圧部の隔膜(ダイアフラム)に加わる圧力を、隔膜の変形量に応じた電圧値として検出することができる。
このような圧力センサは、周囲の温度環境によって隔膜の変形量が変わるため、温度に応じてセンサ出力が変わるという温度特性を有する。この温度特性は、センサの形状やサイズなどによって決まるものである。したがって、圧力センサは、予め温度特性を調べ、温度特性に応じた出力補正を設定しておくことによって(温度特性調整工程)、同一圧力に対するセンサ出力を温度特性の影響を受けずに一定にすることができる。
第1実施形態の温度計測装置1は、このような圧力センサの温度特性調整工程に適用することができる。この工程では、圧力センサ(測定対象物10)の内部に設けられる受圧部(被測定部11)が高温や低温などの所定の温度帯となるようセンサが加温または冷却され、このときのセンサ出力に基づき、温度に基づく出力補正などの各種調整が行われる。温度計測装置1は、直接計測できない圧力センサ内部の受圧部の温度を推定することができるので、圧力センサの温度特性調整工程に温度計測装置1を適用することによって、受圧部の温度が所定の温度帯に入っているか否かを高精度に判定できる。
図1に示すように、温度計測装置1は、熱流センサ2(熱流検出部)と、温度センサ3(温度検出部、治具温度検出部)と、制御部4と、治具5と、温度印加機構6(温度調節部)と、を備える。
熱流センサ2は、測定対象物10の内部に存在する被測定部11の温度T0を計測する際に、測定対象物10の表面10aに接触し、被測定部11と表面10aとの間の熱流W1を検出する。熱流センサ2が計測する熱流W1は、(1)被測定部11の温度T0が表面10aの温度T1より高温の場合には、測定対象物10の内部から表面10aへ放出される熱流であり、また、(2)測定対象物10の表面10aの温度T1が被測定部11の温度T0より高温の場合には、測定対象物10の表面10aから内部へ吸収される熱流である。熱流センサ2は、相互に対向する一対の主面2a,2bを有し、測定対象物10の熱流W1を検出する際には、一対の主面2a,2bのうち一方の主面2aが測定対象物10の表面10aに密着して取り付けられる。
温度センサ3は、測定対象物10の被測定部11の温度T0を計測する際に、熱流センサ2の温度を検出する。温度センサ3は、例えば、抵抗測温体や熱電対などの温度測定系を適用することができる。温度検出部3は、熱流センサ2の一対の主面2a,2bのうち、測定対象物10と接触していない側の他方の主面2bの表面温度T2を検出する。
なお、本実施形態では、測定対象物10の表面10aと接触する熱流センサ2の一方の主面2aの表面温度(すなわち測定対象物10の表面10aの温度T1)と、その反対側に位置する他方の主面2bの表面温度T2とは略同一となるとの前提のもとで、温度センサ3が熱流センサ2の主面2bの表面温度を検出する構成をとる。つまり、温度センサ3の温度計測位置は主面2bに限られず、主面2a、側面部、内部などの熱流センサ2の他の部位とすることもできる。また、温度センサ3は、図1の例では、熱流センサ2の主面2b上には設けられず、熱流センサ2や治具5から離間して配置されているが、他の形態でもよく、例えば熱流センサ2と治具5との間に温度センサ3を挟持する構成としてもよい。
制御部4は、熱流センサ2により検出される測定対象物10の熱流W1と、温度センサ3により検出される熱流センサ2の温度T2とに基づいて、被測定部11の温度T0を算出する。温度T0の算出方法の詳細については図2を参照して後述する。制御部4は、熱流センサ2及び温度センサ3と電気的に接続され、熱流センサ2及び温度センサ3から熱流W1及び温度T2に関する情報を取得する。制御部4は、さらに、温度印加機構6を制御して治具5の温度を調節する。治具5の温度制御についても図2及び図3を参照して後述する。また、制御部4は、測定対象物10の被測定部11の温度T0を計測する際に、熱流センサ2を測定対象物10の表面10aに取り付けるよう熱流センサ2の位置制御を行うこともできる。
制御部4は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などを有するコンピュータである。図2及び図3を参照して後述する制御部4の各機能の全部または一部は、ROMに保持されるアプリケーションプログラムをRAMにロードしてCPUで実行することによって、RAMやROMにおけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。
治具5は、被測定部11の温度T0を計測する際に、測定対象物10の表面10aに接触した状態の熱流センサ2に接触するよう設けられる。治具5は、測定対象物10の表面10aと測定対象物10の内部の被測定部11との間の熱抵抗、図1の例では伝熱材12の熱抵抗値Cに対して相対的に低い熱抵抗を有する材質(例えば金属)で形成される。治具5は、被測定部11の温度T0を計測する際に、熱流センサ2の一対の主面2a,2bのうち、測定対象物10と接触していない側の他方の主面2bと密着して取り付けられる。
なお、第1実施形態では、熱流センサ2の温度を検出するための温度センサ3は、上述のとおり熱流センサ2の主面2bの表面温度T2を計測するよう設置されている。このため、温度センサ3は、同じく主面2bと密着して取り付けられる治具5の先端部の温度も同時に計測するよう兼用することができる。したがって、第1実施形態では、温度センサ3は、治具5の温度を検出する「治具温度検出部」としても機能する。つまり、温度センサ3により検出される温度T2は、熱流センサ2の温度だけでなく、治具5の温度としても取り扱われる。
温度印加機構6は、治具5を加熱又は冷却する装置である。温度印加機構6は、制御部4から出力される制御指令に基づいて治具5を加熱又は冷却する動作を行い、これにより治具5の温度を適宜調整することができる。
次に、図2及び図3を参照して、温度計測装置1が行う被測定部11の温度推定手法について説明する。図2に示すフローチャートの処理が、第1実施形態に係る温度計測方法に相当する。なお、図2のフローチャートは、上述の圧力センサ(測定対象物10)の温度特性調整工程に温度計測装置1を適用する場合の、圧力センサ内部の受圧部(被測定部11)の温度を推定する手順を、温度計測方法の一例として例示するものである。図2に示す処理は、制御部4によって例えば所定周期ごとに実行される。
ステップS101では、測定対象物10が所定温度帯に調整される。上述のように、圧力センサの温度特性調整工程では、圧力センサの内部に設けられる受圧部が高温や低温などの所定の温度帯となるようセンサが加温または冷却され、このときのセンサ出力に基づき、温度に基づく出力補正などの各種調整が行われる。本ステップでは、このうちの任意の1つの温度帯となるように測定対象物10の温度が調整される。本ステップの処理は、測定対象物10を室温より高温に調整する場合には、例えば、内部温度が所定の温度帯に維持されている炉の中に測定対象物10を投入し、所定時間経過後に炉から取り出すことによって実施することができる。また、測定対象物10を室温より低温に調整する場合には、例えば冷却装置に測定対象物10を投入することによって実施することができる。ステップS101の処理が完了すると、ステップS102に進む。
ステップS102(調節ステップ)では、治具5の温度を制御する「治具温度制御」が実施される。「治具温度制御」の具体的な処理は、図3に示すサブルーチン処理におけるステップS201〜S203である。
ステップS201では、温度センサ3により治具5の温度T2が計測される。上述のとおり、第1実施形態では、温度センサ3により計測される熱流センサ2の主面2bの表面温度T2を、この主面2bに接触する治具5の温度としても取り扱う。ステップS201の処理が完了するとステップS202に進む。
ステップS202では、治具5の温度T2が設定範囲内か否かが判定される。この設定範囲は、ステップS101における「測定対象物10の所定温度帯」に応じて設定される。より詳細には、治具5の温度T2の設定範囲は、測定対象物10の被測定部11と表面10aとの間の熱流の流れが、図1に矢印で示すように、被測定部11から熱流センサ2を介して治具5へ向かう方向となるように、測定対象物10の所定温度帯に応じて設定される。具体的には、測定対象物10の温度が所定温度帯にある場合に、治具5の温度T2が測定対象物10の温度より常に低温となるように設定される。例えば、測定対象物10の所定温度帯が135±5℃の場合には、治具5の温度の設定範囲を120±5℃とすれば、この条件を満たすことができる。
さらに言えば、治具5の温度T2の設定範囲は、治具5と接触する熱流センサ2の温度T2と、測定対象物10及び被測定部11の温度T0との間の温度差ΔTが所定範囲に入るように設定されるのが好ましい。例えば、上記の温度設定の例の場合、温度差ΔTは5〜25℃の範囲となるので、測定対象物10の所定温度帯が上記以外のものに変わった場合でも、この温度差ΔTの範囲に収まるように治具5の温度T2の設定範囲を設定すればよい。ステップS202の判定の結果、治具5の温度T2が設定範囲内である場合(ステップS202のYES)にはメインフローに戻る。一方、治具5の温度T2が設定範囲から外れている場合(ステップS202のNO)にはステップS203に進む。
ステップS203では、温度印加機構6により治具5の温度が制御される。具体的には、ステップS201にて計測された治具5の温度T2が設定範囲より低い場合には、温度印加機構6が治具5を加熱することにより治具5の温度T2を上昇させる。一方、治具5の温度T2が設定範囲より高い場合には、温度印加機構6が治具5を冷却することにより治具5の温度T2を下降させる。ステップS203の処理が完了するとステップS201に戻る。
すなわち、図3に示すサブルーチンの処理は、治具5の温度T2が設定範囲内に収まるまで繰り返し実行される。
図2に戻り、ステップS103(接触ステップ)では、ステップS101にて所定温度帯に調整された測定対象物10の表面10aに、熱流センサ2と治具5が取り付けられる。本ステップの処理は、制御部4が熱流センサ2を測定対象物10に取り付ける位置制御を行うことにより実施することができるし、または、作業者が手動または機器操作によって取り付けることもできる。ステップS103の処理が完了するとステップS104に進む。
ステップS104(熱流検出ステップ)では、ステップS103にて測定対象物10に取り付けられた熱流センサ2により、測定対象物10の内部の被測定部11と、測定対象物10の表面10aとの間の熱流W1が計測される。熱流センサは、計測した熱流W1の情報を制御部4に出力する。ステップS104の処理が完了するとステップS105に進む。
ステップS105(温度検出ステップ)では、温度センサ3により、熱流センサ2の主面2bの表面温度T2が計測される。温度センサ3は、予め熱流センサ2に取り付けられていてもよいし、ステップS103にて熱流センサ2が測定対象物10に取り付けられた後に熱流センサ2に取り付けられてもよい。温度センサ3は、計測した表面温度T2の情報を制御部4に出力する。ステップS105の処理が完了するとステップS106に進む。
ステップS106(温度算出ステップ)では、制御部4により、ステップS104,S105にて取得された熱流W1及び表面温度T2を用いて、被測定部11の温度T0が算出される。制御部4は、熱流センサ2により検出される測定対象物10の熱流値W1に、測定対象物10の表面10aと測定対象物10の内部の被測定部11との間の熱抵抗値Cを乗算し、さらに、温度センサ3により検出される熱流センサ2の温度値T2を加算することにより、測定対象物10の内部に設けられる被測定部11の温度T0を算出する。具体的には、制御部4は下記の(1)式を用いて被測定部11の温度T0を算出することができる。
T0=T2+C×W1 ・・・(1)
ここで熱抵抗値Cは、測定対象物10の表面10aに取り付けられた状態の熱流センサ2と、測定対象物10の内部の被測定部11との間に介在する領域の構成に依存して決まる固定値である。図1に示す本実施形態の構成では、熱抵抗値Cは、熱流センサ2と被測定部11との間の領域を占めている伝熱材12の材質等によって決まる。また、熱流値W1は、図1に矢印で示すように、測定対象物10の内部から表面10aに向かって流れる場合を正の値とし、図1とは反対に測定対象物10の表面10aから内部側に向かって流れる場合を負の値とする。制御部4は、算出した被測定部11の温度T0を出力する。ステップS106の処理が完了すると本制御フローを終了する。
次に、第1実施形態に係る温度計測装置1及び温度計測方法の効果について説明する。
第1実施形態の温度計測装置1は、測定対象物10の内部に存在する被測定部11の温度T0を計測する際に、測定対象物10の表面10aに接触し、被測定部11と表面10aとの間の熱流W1を検出する熱流センサ2と、被測定部11の温度T0を計測する際に、測定対象物10の表面10aに接触した状態の熱流センサ2に接触するよう設けられる治具5と、熱流センサ2の温度T2を検出すると共に治具5の温度T2を検出する温度センサ3と、治具5を加熱又は冷却する温度印加機構6と、温度センサ3により検出される治具5の温度T2に基づいて、熱流W1の流れが被測定部11から熱流センサ2へ向かう方向となるように、温度印加機構6を制御して治具5の温度T2を調節すると共に、熱流センサ2により検出される測定対象物10の熱流W1と、温度センサ3により検出される熱流センサ2の温度T2とに基づいて、被測定部11の温度T0を算出する制御部4と、を備える。
同様に、第1実施形態に係る温度計測方法は、測定対象物10の内部に存在する被測定部11の温度T0を計測する温度計測方法であって、温度計測装置1の制御部4が、温度センサ3により検出される治具5の温度T2に基づいて、熱流センサ2が測定対象物10の表面10aに接触し、かつ、治具5が熱流センサ2に接触した状態のときに、被測定部11と表面10aとの間の熱流W1の流れが、被測定部11から熱流センサ2へ向かう方向となるように、温度印加機構6を制御して治具5の温度T2を調節するステップS102(調節ステップ)と、温度計測装置1の熱流センサ2が、測定対象物10の表面10aに接触するステップS103(接触ステップ)と、治具5を取り付けられた熱流センサ2が、被測定部11と表面10aとの間の熱流W1を検出するステップS104(熱流検出ステップ)と、温度計測装置1の温度センサ3が、熱流センサ2の温度T2を検出するステップS105(温度検出ステップ)と、制御部4が、ステップS104(熱流検出ステップ)にて熱流センサ2により検出された測定対象物10の熱流W1と、ステップS105(温度検出ステップ)にて温度センサ3により検出された熱流センサ2の温度T2とに基づいて、被測定部11の温度T0を算出するステップS106(温度算出ステップ)と、を含む。
熱流センサ2により検出される熱流W1は、測定対象物10の内部にある被測定部11の温度T0と、測定対象物10の表面10aの温度T1との温度差と相関する。両者の温度差が大きいほど熱流W1は増加し、温度差が小さいほど熱流W1は減少する傾向にある。測定対象物10の表面10aの温度T1は、温度センサ3により検出される熱流センサ2の温度T2と略同一である。したがって、熱流センサ2の温度T2を基準として、測定対象物10の被測定部11と表面10aとの間の温度差と相関する熱流W1を考慮することにより、被測定部11の温度T0を精度良く推定することができる。また、被測定部11の温度T0の推定に用いる熱流W1は、被測定部11の温度T0と、測定対象物10の表面10aの温度T1との相対的な偏差に基づくパラメータであるので、被測定部11の温度T0が定常状態であることを要しない。したがって、制御部4は、被測定部11の実際の温度T0が逐次変動する環境下においても、熱流W1と温度T2に基づき、その瞬間の温度T0を精度良く算出することができる。これにより、測定対象物10や温度計測装置1の温度が全体に亘り安定化しなくても被測定部11の温度T0の算出を行えるので、熱流センサ2を測定対象物10に接触した後に即座に温度T0の推定を実施できる。以上より、第1実施形態に係る温度計測装置1及び温度計測方法は、測定対象物10への接触後に迅速に被測定部11の温度推定を行うことができる。
また、熱流センサ2に治具5を取り付けることにより、測定対象物10から熱流センサ2への熱流W1の流れを促進できる。特に、被測定部11の温度T0が表面10aの温度T1より高温であり、測定対象物10の内部から表面10aへ放出される熱流W1が発生する場合には、治具5の熱抵抗が伝熱材12の熱抵抗Cより小さいため、被測定部11と表面10aとの間で発生している熱流を治具5に進入するように集約させることができる。これにより、測定対象物10の内部から熱流センサ2に向かう熱量が大きくなり、S/N比を大きくすることができる。この結果、さらに高精度な被測定部11の温度T0の計測が可能となる。
ここで、特許文献1に記載されるような従来の測定対象物の内部温度計測手法(以下「従来手法」という)に対する本実施形態の手法の利点についてさらに説明する。上述のとおり、従来手法では、温度計測装置内部の温度精度を上げるために、測定対象物への接触後に、ある程度の時間をかけて装置全体の温度を安定化させる必要があるため、実際に被測定部の温度を算出するまでに時間がかかるという問題があった。この問題は、従来は重要なものではなかった。従来手法の主な測定対象は、人体などの生体の深部体温であり、被測定部の温度が一定であることが前提だったため、上記のように装置温度が安定化するまで待ってから計測を開始したとしても、装置が算出する内部温度への影響は少なかったからである。
ここで、従来手法の測定対象を拡張すべく、本実施形態で例示したように、圧力センサの温度特性調整工程において温度計測装置を適用することを考える。この工程では、圧力センサの内部に設けられる受圧部が高温や低温などの所定の温度帯となるようセンサが加温または冷却され、このときのセンサ出力に基づき、温度に基づく出力補正などの各種調整が行われる。つまり、測定対象物や被測定部の温度が不安定な状態で、被測定部の温度推定を行う必要がある。
このような適用の場面では、測定対象物(圧力センサ)の加温や冷却が完了した後に、被測定部(受圧部)の実際の温度が所定の温度帯から外れる前までに、温度計測装置を測定対象物に接触させた後にできるだけ早く被測定部の温度推定を行うことが望ましい。しかしながら、従来手法では、上述のとおり装置を測定対象物へ接触した後にある程度の待ち時間が必要であるため、充分な精度で被測定部の温度推定ができない場合が起こり得る。
これに対して、本実施形態の手法は、本実施形態で例示した圧力センサの温度特性調整工程のように、被測定部11の実際の温度T0が逐次変動する環境下においても、熱流W1と温度T2に基づき、その瞬間の温度T0を精度良く算出することができる。つまり、測定対象物10や温度計測装置1の温度が全体に亘り安定化しなくても被測定部11の温度T0の算出を行うことができるので、従来手法に対して内部温度を計測する測定対象物の対象を拡張できるという利点がある。
また、第2実施形態の温度計測装置1では、被測定部11の温度T0を計測する前に、測定対象物10及び被測定部11の温度T0が所定温度帯に入るよう調整される。制御部4は、治具5と接触する熱流センサ2の温度T2と、測定対象物10及び被測定部11の温度T0との間の温度差ΔTが所定範囲に入るように、温度印加機構6を制御して治具5の温度を調節する。
この構成により、測定対象物10の温度や、外気温との温度差によらず、常に安定した条件下で被測定部11の温度推定を行うことが可能となり、被測定部11の温度推定を高精度に行うことができる。
ここで、図4を参照して、第1実施形態において被測定部11の温度T0と熱流センサ2の温度T2との温度差ΔT(以下では「内外温度差」とも表記する)を均一化させることの利点についてさらに説明する。図4の横軸は、設備可能時間(H(時間))を表し、図4の縦軸は、被測定部11及び熱流センサ2の温度を表す。図4中の太線のグラフAは、第1実施形態の温度計測装置1を適用したときの熱流センサ2の温度推移を示し、細線のグラフBは、比較例としての治具5及び温度印加機構6を備えない構成を適用したときの熱流センサ2の温度推移を示す。比較例の場合、熱流センサ2の主面2bは治具5と接触しておらず、外部に露出した状態となっている。
図4に示す例は、量産設備などで繰り返し製造物の温度測定を行うような環境を想定している。横軸に示すC1は設備稼働開始時、C2は量産設備の昼休憩などによる設備停止時、C3は設備異常による停止時、C4は量産設備の稼働終了時を示す。また、図4に示す例は、上述した圧力センサの温度特性調整工程のように、測定対象物10及び被測定部11が室温RTに対して高い温度T0に調整されたときの温度推定を想定している。
まず本実施形態の比較例として、治具5及び温度印加機構6を備えない構成、すなわち治具5の温度制御を行わない構成について考える。この構成では、図4のグラフBに示すように、量産設備などで繰り返し温度測定を行うと、熱流センサ2のうち測定対象物10に当たらない側(主面2bなど)が、測定対象物10から流入する熱量により加熱もしくは冷却されてしまい、測定する毎に環境が異なってしまう。例えば、毎日の生産開始当初における熱流センサ2の温度は室温RTであると考えられる。しかし、何度も高温T0の測定対象物10に接触させて測定を繰り返すことで、図4の区間C1〜C2に示すように、熱流センサ2自体も熱を帯び、熱流センサ2の温度も徐々に測定対象物10の温度T0に近い状態になる。そのため、生産開始当初と繰り返し生産中では、測定対象物10の内外の温度差ΔTBが大きく異なることになり、熱流センサ2で測定する熱流量W1の絶対値も大きく異なることとなる。同様の現象が、図4に区間C2として示す生産中の休憩時間や、区間C3として示す設備の異常停止による不稼働時間の発生によっても起こることとなる。
ここで、温度計測装置1の測定系(例えば熱流センサ2の起電圧を測定するデータロガー等)に於ける電圧の測定分解能及び精度は、測定レンジによって異なる傾向がある。例えば、測定レンジが0.4V以下では測定精度は±0.4mVであり、測定レンジが4V以下では測定精度は±4.0mVとなる。また、測定対象物10の内外温度差ΔTの大きさと熱流W1との相関は、僅かながら直線性から外れているとの知見も実験により得られている。このため、図4のグラフBのように、測定対象物10の内外温度差ΔTの大きさが測定毎に異なると、測定対象物10の内部温度T0の測定精度に影響がでるという問題が存在する。
このような問題に対して、第1実施形態の温度計測装置1では、図1に示すように、熱流センサ2の主面のうち測定対象物10に当たらない側の温度T2を、温度印加機構6によって常に一定にする構成を追加している。これにより、図4にグラフAで示すように、量産開始時C1と終了時C4、もしくは区間C2、C3などの途中停止前後においても、熱流センサ2の温度を略一定に保持できる。なお、図4中の二点鎖線はグラフAで示す本実施形態による熱流センサ2の温度推移の平均値である。したがって、第1実施形態の温度計測装置1を適用する場合、設備稼働時間の時間経過や非稼働時間発生などの要因に依存せず、測定対象物10の内外の温度差ΔTAを測定毎に略同一に保持することができ、同一条件下で温度計測を行うことが可能となる。
このように第1実施形態の温度計測装置1では、同じ条件下で測定を可能にできるため、より高精度な内部温度T0の測定が可能になる。熱流センサ2の保持温度T2や保持温度の制御精度に関しては、求める測定対象物10の内部温度の絶対値や、求める温度測定精度などにより異なるが、例えば内部温度T0が135℃±5℃程度である場合、熱流W1の方向を常にあわせることも考慮して(被測定部11から熱流センサ2に向かう方向に維持)、熱流センサ2の保持温度T2を120℃±5℃程度に設定することで、内外温度差ΔTの値を+25〜+5℃以内にすることが出来、熱流W1の方向と温度差ΔTの絶対値を常に近い状態で測定できる。なお、更に高精度を求める場合、この保持温度T2のバラツキを小さくするよう、例えば保持温度T2や内部温度T0の測定レンジを小さくするなど、制御部4の温度制御フィードバック機構を高精度化すれば対応可能である。
このように、第1実施形態の温度計測装置1は、治具5の温度を設定範囲内に制御することによって熱流センサ2の温度T2を一定に保持する点に特徴がある。測定対象物10の所定温度帯が同一である限りは、熱流センサ2の温度T2を変動させる必要がないため、測定対象物10への接触後に迅速に被測定部11の温度推定を行うことができる。これに対して、特許文献2などに記載される従来の内部状態判定手法では、蒸発管内の内部状態を判定するためには、熱流束センサの温度を意図的に変動させて、その間の熱流束の変化量を計測する必要があるため、動作開始後に内部状態を判定するまでに時間がかかる。この点において、第1実施形態の温度計測装置1は特許文献2に対して有利である。
また、特許文献2の手法では、設備稼働時間が長くなるにつれて熱流束センサの温度が被測定部の温度に近づいた状況であっても、熱流束センサの温度を温度調節装置によって意図的に変動させるため、温度調節装置によって付与される熱量は常に略一定のものが必要である。一方、本実施形態の温度計測装置1では、設備稼働時間が長くなるにつれて熱流センサ2の温度T2が被測定部11の温度T0に近づいた状況では、熱流センサ2の温度T2をT0に近い所定範囲に入るように制御すればよいので、必要な温度上昇量が少なくなり、温度印加機構6によって与えられる熱量を少なくできる。
また、第1実施形態の温度計測装置1において、制御部4は、熱流センサ2により検出される測定対象物10の熱流値W1に、測定対象物10の表面10aと測定対象物10の内部の被測定部11との間の熱抵抗値Cを乗算し、さらに、温度センサ3により検出される熱流センサ2の温度値T2を加算することにより、測定対象物10の内部に設けられる被測定部11の温度T0を算出する。より詳細には、制御部4は、(1)式を用いて、熱流値W1及び温度値T2に基づき被測定部11の温度T0を算出する。
この構成により、熱流値W1が正の値の場合、すなわち、測定対象物10の内部から表面10aへ放出される熱流が生じる場合には、被測定部11の温度T0が表面10aの温度T1より高温となるよう、熱流センサ2の温度値T2に熱流値W1に応じた値が加算される。また、熱流値W1が負の値の場合、すなわち、測定対象物10の表面10aから内部へ吸収される熱流が生じる場合には、測定対象物10の表面10aの温度T1が被測定部11の温度T0より高温となるよう、熱流センサ2の温度値T2から熱流値W1に応じた値が減算される。これにより、測定対象物10の熱流値W1及び熱流センサ2の温度値T2に基づき、被測定部11の温度T0を精度良く推定できる。
また、第1実施形態の温度計測装置1において、熱流センサ2は、相互に対向する一対の主面2a,2bを有し、測定対象物10の熱流W1を検出する際には、一対の主面2a,2bのうち一方の主面2aが測定対象物10の表面10aに密着して取り付けられる。温度センサ3は、熱流センサ2の一対の主面2a,2bのうち他方の主面2bの表面温度T2を検出する。この構成により、熱流センサ2及び温度センサ3が、熱流値W1及び表面温度T2をそれぞれ好適に検出することができる。
また、第1実施形態の温度計測装置1において、温度センサ3は、熱流センサ2の温度T2を検出すると共に、熱流センサ2に接触した状態の治具5の温度T2を検出可能であるため、温度センサ3が、治具5の温度を検出する治具温度検出部としても用いられる。この構成により、治具5の温度を計測するために別のセンサを設置する必要がなくなり、装置の小型化や簡易化を図ることができる。
また、第1実施形態の温度計測装置1において、測定対象物10が、圧力センサであり、被測定部11が、圧力センサの内部に設けられる受圧部であるのが好ましい。
上述のとおり、圧力センサの受圧部の温度を計測する処理は、圧力センサの温度特性調整工程において実施される。この工程では、測定対象物10が所定温度帯に調整され、被測定部11が所定の温度帯に入っている短期間に被測定部11の温度T0を推定する必要がある。上述のように、温度計測装置1は、被測定部11の実際の温度T0が逐次変動する環境下においても被測定部11の温度T0を精度よく算出できるので、測定対象物10を圧力センサとする場合に特に有効と考えられる。
[第2実施形態]
図5及び図6を参照して第2実施形態を説明する。図5に示すように、第2実施形態に係る温度計測装置1Aは、温度センサ3に対して相対的に温度印加機構6側の治具5の温度T3を計測する第2温度センサ7(第2温度検出部)を備える点、及び、制御部4が、温度センサ3により検出される治具5の温度T2(第1温度)及び第2温度センサ7により検出される治具5の温度T3(第2温度)に基づいて温度印加機構6を制御して治具5の温度を調節する点、で第1実施形態の温度計測装置1と異なる。
温度センサ3が治具5の先端部の温度を計測する構成であるため、第2温度センサ7は治具5の任意の箇所に設置することができる。ただし、第2温度センサ7の設置位置は、温度センサ3からできる限り離れた位置、すなわち温度印加機構6にできるだけ近接した位置であることが好ましい。なお、以下の説明では、治具5のうち温度印加機構6に近い側を、温度印加機構6から印加される熱流の上流側、治具5のうち熱流センサ2に近い側を、温度印加機構6から印加される熱流の下流側として、第2温度センサ7により検出される治具5の温度T3を「上流側温度T3」、温度センサ3により検出される治具5の温度T2を「下流側温度T2」とも表記する。
第2実施形態では、温度センサ3と、第2温度センサ7とが、治具5の温度を検出する「治具温度検出部」として機能する。すなわち、温度センサ3により検出される治具5の温度T2と、第2温度センサ7により検出される治具5の温度T3との両方を考慮して、温度印加機構6を用いる治具5の温度の制御を行う。
第2実施形態の温度計測装置1Aは、基本的には第1実施形態と同様に図2のフローチャートに従って被測定部11の温度推定を行うが、ステップS102の「治具温度制御」の内容が第1実施形態とは異なる。第2実施形態における「治具温度制御」の具体的な処理は、図6に示すサブルーチン処理におけるステップS301〜S307である。
ステップS301では、第2温度センサ7により治具5の上流側温度T3が計測される。ステップS301の処理が完了するとステップS302に進む。
ステップS302では、治具5の上流側温度T3が設定範囲内か否かが判定される。この設定範囲は、第1実施形態と同様に、ステップS101における「測定対象物10の所定温度帯」に応じて設定される。ステップS302の判定の結果、治具5の上流側温度T3が設定範囲内である場合(ステップS302のYES)にはステップS304に進む。一方、治具5の上流側温度T3が設定範囲から外れている場合(ステップS302のNO)にはステップS303に進む。
ステップS303では、温度印加機構6により治具5の上流側温度T3が制御される。具体的には、ステップS301にて計測された治具5の上流側温度T3が設定範囲より低い場合には、温度印加機構6が治具5を加熱することにより治具5の上流側温度T3を上昇させる。一方、治具5の上流側温度T3が設定範囲より高い場合には、温度印加機構6が治具5を冷却することにより治具5の上流側温度T3を下降させる。ステップS303の処理が完了するとステップS301に戻る。
ステップS304では、温度センサ3により治具5の下流側温度T2が計測される。ステップS304の処理が完了するとステップS305に進む。
ステップS305では、治具5の下流側温度T2が設定範囲内か否かが判定される。この設定範囲は、例えば上流側温度T3の設定範囲より低温域とすることができる。ステップS305の判定の結果、治具5の下流側温度T2が設定範囲内である場合(ステップS305のYES)にはステップS307に進む。一方、治具5の下流側温度T2が設定範囲から外れている場合(ステップS305のNO)にはステップS306に進む。
ステップS306では、温度印加機構6により治具5の下流側温度T2が制御される。具体的には、ステップS304にて計測された治具5の下流側温度T2が設定範囲より低い場合には、温度印加機構6が治具5を加熱することにより治具5の下流側温度T2を上昇させる。一方、治具5の下流側温度T2が設定範囲より高い場合には、温度印加機構6が治具5を冷却することにより治具5の下流側温度T2を下降させる。ステップS306の処理が完了するとステップS304に戻る。
ステップS307では、下流側温度T2の制御が実施されたか否かが判定される。すなわち、今回の制御フローにおいて、上流側温度T3が設定範囲に入るように制御された後に、下流側温度T2が設定範囲から外れており、ステップS306の下流側温度T2の制御が実施されたか否かが判定される。下流側温度T2の制御が実施されなかった場合(ステップS307のNO)にはメインフローに戻る。一方、下流側温度T2の制御が実施された場合(ステップS307のYES)には、ステップS301に戻り、上流側温度T3が設定範囲に引き続き入っているかが再度確認され、必要に応じて上流側温度T3の制御が行われる。
すなわち、図6に示すサブルーチンの処理は、治具5の上流側温度T3及び下流側温度T2が共に設定範囲内に収まるまで繰り返し実行される。
このように、第2実施形態でも、第1実施形態と同様に、治具5の温度を検出する治具温度検出部として機能する温度センサ3及び第2温度センサ7を備え、制御部4が、治具温度検出部により検出された治具5の温度に基づいて温度印加機構6を制御して治具5の温度を調節する、という共通の特徴を備えるので、第1実施形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
さらに、治具温度検出部として複数の温度センサを用いて、治具5の複数の箇所の温度が設定範囲に収まるように温度制御を行うため、治具5の全体に亘って温度を所望のものにすることが可能となり、治具5の温度制御をより高精度に行うことができる。
なお、第2実施形態では、温度センサ3及び第2温度センサ7の両方を治具温度検出部として用いる構成を例示したが、温度センサを用いずに、治具5の任意の位置に設置される第2温度センサ7のみを治具温度検出部として用いる構成としてもよい。この場合、第1実施形態において図3を参照して説明した治具温度制御において、入力情報として用いた「温度センサ3により計測される治具5の温度T2」を「第2温度センサ7により計測される治具5の温度T3」に置き換えることにより、治具温度制御を実施することができる。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。