図1は、本発明が適用される車両10に備えられた車両用動力伝達装置12(以下、動力伝達装置12という)の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。図1において、車両10は、エンジン14と第1回転機MG1と第2回転機MG2とを備えたハイブリッド車両である。動力伝達装置12は、エンジン14と第1回転機MG1と第2回転機MG2とが各々複数の回転要素(回転部材)の何れかに動力伝達可能に連結された差動機構としての動力分配機構16と、動力分配機構16と駆動輪18との間に配設された自動変速機(AT)20とを備えている。動力伝達装置12において、エンジン14や第2回転機MG2から出力される動力(特に区別しない場合にはトルクや力も同義)は、自動変速機20へ伝達され、その自動変速機20から差動歯車装置22等を介して駆動輪18へ伝達される。尚、動力分配機構16や自動変速機20等は中心線(軸心RC)に対して略対称的に構成されており、図1ではその軸心RCの下半分が省略されている。又、図1中の軸心RCはエンジン14や動力分配機構16などの回転軸心である。
エンジン14は、車両10の主動力源であり、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。このエンジン14は、後述する電子制御装置50によってスロットル弁開度θth或いは吸入空気量、燃料供給量、点火時期等の運転状態が制御されることによりエンジントルクTeが制御される。
第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、駆動トルクを発生させる電動機(モータ)としての機能及び発電機(ジェネレータ)としての機能を有する所謂モータジェネレータである。これら第1回転機MG1及び第2回転機MG2は、各々、車両10に備えられたインバータ24を介して、車両10に備えられたバッテリ26に接続されており、後述する電子制御装置50によってインバータ24が制御されることにより、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々の出力トルク(力行トルク又は回生トルク)であるMG1トルクTg及びMG2トルクTmが制御される。バッテリ26は、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の各々に対して電力を授受する蓄電装置である。
動力分配機構16は、サンギヤSと、そのサンギヤSに対して同心円上に配置されたリングギヤRと、それらサンギヤS及びリングギヤRに噛み合うピニオンギヤPを自転且つ公転自在に支持するキャリアCAとを三つの回転要素として備える公知のシングルピニオン型の遊星歯車装置から構成されており、差動作用を生じる差動機構として機能する。動力伝達装置12において、キャリアCAには不図示のダンパ等を介してエンジン14が動力伝達可能に連結され、サンギヤSには第1回転機MG1が動力伝達可能に連結され、リングギヤRには第2回転機MG2が動力伝達可能に連結されている。動力分配機構16において、キャリアCAは入力要素として機能し、サンギヤSは反力要素として機能し、リングギヤRは出力要素として機能する。
動力分配機構16における各回転要素の回転速度の相対的関係は、図2の共線図により示される。この共線図において、縦軸S(g軸)、縦軸CA(e軸)、及び縦軸R(m軸)は、サンギヤSの回転速度、キャリアCAの回転速度、及びリングギヤRの回転速度をそれぞれ表す軸であり、縦軸S、縦軸CA、及び縦軸Rの相互の間隔は、縦軸Sと縦軸CAとの間隔を1としたとき、縦軸CAと縦軸Rとの間隔がρ(すなわち動力分配機構16のギヤ比(歯車比)ρ=サンギヤSの歯数Zs/リングギヤRの歯数Zr)となるように設定されたものである。
図2中の実線と二点鎖線とは、自動変速機20の変速段(ギヤ段)がローギヤ(例えば第1速ギヤ段)のとき(実線参照)とハイギヤ(例えば第2速ギヤ段)のとき(二点鎖線参照)とを同じ車速Vにて比較した一例を示している。又、図2の実線及び二点鎖線は、各々、少なくともエンジン14を駆動源として走行するエンジン走行が可能なハイブリッド走行モードにおける各回転要素の相対速度を示している。このハイブリッド走行モードでは、動力分配機構16において、キャリアCAに入力されるエンジントルクTeに対して、第1回転機MG1による負トルクである反力トルクが正回転にてサンギヤSに入力されると、リングギヤRには正回転にて正トルクとなるエンジン直達トルクTd(=Te/(1+ρ)=−(1/ρ)×Tg)が現れる。そして、要求駆動力に応じて、エンジン直達トルクTdとMG2トルクTmとの合算トルクが車両前進方向の駆動力として自動変速機20を介して駆動輪18へ伝達される。このとき、第1回転機MG1は正回転にて負トルクを発生する発電機として機能する。第1回転機MG1の発電電力Wgは、バッテリ26に充電されたり、第2回転機MG2にて消費される。第2回転機MG2は、発電電力Wgの全部又は一部を用いて、或いは発電電力Wgに加えてバッテリ26からの電力を用いて、MG2トルクTmを出力する。第2回転機MG2の消費電力Wmが、発電電力Wgの全部を消費した電力であって、バッテリ26から持ち出された電力を消費した電力を含まない場合には、バッテリ26の充放電電力収支はゼロとなる。
図2の各破線A,Bに示すように、エンジン14を停止させると共に第2回転機MG2を駆動源として走行するモータ走行が可能なモータ走行モードでの共線図では、動力分配機構16において、キャリアCAはゼロ回転とされ、リングギヤRには正回転にて正トルクとなるMG2トルクTmが入力される。このとき、サンギヤSに連結された第1回転機MG1は、無負荷状態とされて負回転にて空転させられる。つまり、モータ走行モードでは、エンジン14は駆動されず、エンジン回転速度Neはゼロとされ、MG2トルクTm(ここでは正回転の力行トルク)が車両前進方向の駆動力として自動変速機20を介して駆動輪18へ伝達される。
動力伝達装置12では、エンジン14が動力伝達可能に連結された第1回転要素RE1としてのキャリアCAと、差動用電動機(差動用回転機)としての第1回転機MG1が動力伝達可能に連結された第2回転要素RE2としてのサンギヤSと、中間伝達部材28に連結された第3回転要素RE3としてのリングギヤRとの3つの回転要素を有する動力分配機構16を備えて、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式無段変速部としての電気式無段変速機30(図1参照)が構成される。つまり、エンジン14が動力伝達可能に連結された動力分配機構16と動力分配機構16に動力伝達可能に連結された第1回転機MG1とを有して、第1回転機MG1の運転状態が制御されることにより動力分配機構16の差動状態が制御される電気式変速機構(電気式差動機構)としての電気式無段変速機30が構成される。電気式無段変速機30は、変速比γ0(=エンジン回転速度Ne/MG2回転速度Nm)を変化させる電気的な無段変速機として作動させられて、エンジン14の動力を駆動輪18側へ伝達する無段変速部である。中間伝達部材28は、電気式無段変速機30の出力回転部材である。第2回転機MG2は、中間伝達部材28に動力伝達可能に連結された走行用電動機(走行用回転機)である。
図1に戻り、自動変速機20は、中間伝達部材28と駆動輪18との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式有段変速部としての機械式変速機構である。従って、動力伝達装置12は、電気式無段変速機30と自動変速機20とを直列に備えている。自動変速機20は、例えば複数組の遊星歯車装置と複数の係合装置とを有し、複数の係合装置の何れかの掴み替えにより(すなわち係合装置の係合と解放との切替えにより)変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う公知の遊星歯車式自動変速機である。つまり、自動変速機20は、係合装置の係合と解放とにより変速が実行されて、変速比(ギヤ比)γat(=AT入力軸回転速度Ni/AT出力軸回転速度No)が異なる複数のギヤ段が選択的に形成される有段変速部である。中間伝達部材28は、リングギヤRと一体的に連結されていると共に、自動変速機20の入力回転部材である変速機入力軸(AT入力軸)32と一体的に連結されている。従って、AT入力軸回転速度Niは、中間伝達部材28の回転速度と同値であり、又、第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nmと同値である。中間伝達部材28の回転速度は、AT入力軸回転速度Ni又はMG2回転速度Nmで表すことができる。
前記複数の係合装置はそれぞれ、エンジン14や第2回転機MG2からの動力を受けるAT入力軸32と、自動変速機20の出力回転部材である、駆動輪18に動力を伝達する変速機出力軸(AT出力軸)34との間で回転とトルクとを伝達する油圧式の摩擦係合装置である。これら係合装置は、自動変速機20に備えられた油圧制御回路36内のソレノイドバルブ等による係合油圧(クラッチ油圧)の調圧によりそれぞれのトルク容量(クラッチトルク)が変化させられることで、それぞれ係合と解放とが制御される。本実施例では、便宜上、前記複数の係合装置をクラッチCと称すが、クラッチCはクラッチ以外にも公知のブレーキ等を含むものとする。
ここで、クラッチCのクラッチトルクは、例えばクラッチCの摩擦材の摩擦係数や摩擦板を押圧するクラッチ油圧によって決まる。クラッチCを滑らすことなく(すなわちクラッチCに差回転速度を生じさせることなく)AT入力軸32とAT出力軸34との間でトルク(例えばAT入力軸32に入力されるトルクであるAT入力トルクTi)を伝達する為には、そのトルクに対してクラッチCの各々にて受け持つ必要があるクラッチ伝達トルク分(すなわちクラッチCの分担トルク)が得られるクラッチトルクが必要になる。但し、クラッチ伝達トルク分が得られるクラッチトルクにおいては、クラッチトルクを増加させてもクラッチ伝達トルクは増加しない。つまり、クラッチトルクは、クラッチCが伝達できる最大のトルクに相当し、クラッチ伝達トルクは、クラッチCが実際に伝達するトルクに相当する。従って、クラッチCに差回転速度が生じている状態では、クラッチトルクがクラッチ伝達トルクに相当する。尚、クラッチトルク(或いはクラッチ伝達トルク)とクラッチ油圧とは、例えばクラッチCのパック詰めに必要なクラッチ油圧を供給する領域を除けば、略比例関係にある。
自動変速機20は、第1遊星歯車装置38及び第2遊星歯車装置39の各回転要素(サンギヤS1,S2、キャリアCA1,CA2、リングギヤR1,R2)が、直接的に或いはクラッチC(クラッチC1,C2、ブレーキB1,B2)やワンウェイクラッチF1を介して間接的(或いは選択的)に、一部が互いに連結されたり、AT入力軸32、非回転部材としてのケース40、或いはAT出力軸34に連結されている。そして、クラッチCのそれぞれの係合解放制御により、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて、図3の係合作動表に示すように前進4段の各ギヤ段が成立させられる。図3の「1st」から「4th」は前進ギヤ段としての第1速ギヤ段(AT_1速)から第4速ギヤ段(AT_4速)を意味している。図3の係合作動表は、上記各ギヤ段とクラッチCの各作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「△」はエンジンブレーキ時に係合、空欄は解放をそれぞれ表している。第1速ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列にワンウェイクラッチF1が設けられているので、発進時(加速時)にはブレーキB2を係合させる必要は無い。
図1に戻り、車両10は、例えば車両10の制御装置を含む電子制御装置50を備えている。よって、図1は、電子制御装置50の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン14の出力制御、第1回転機MG1及び第2回転機MG2の回生制御を含む各出力制御、自動変速機20の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、回転機制御用、油圧制御用(変速制御用)等に分けて構成される。
電子制御装置50には、車両10が備える各種センサ(例えばエンジン回転速度センサ60、レゾルバ等の回転機回転速度センサ62,64、車速センサ66、アクセル開度センサ68、スロットル弁開度センサ70、バッテリセンサ72など)により検出された検出信号に基づく各種実際値(例えばエンジン14の回転速度であるエンジン回転速度Ne、第1回転機MG1の回転速度であるMG1回転速度Ng、AT入力軸32の回転速度であるAT入力軸回転速度Niに対応する第2回転機MG2の回転速度であるMG2回転速度Nm、車速Vに対応するAT出力軸34の回転速度であるAT出力軸回転速度No、運転者の加速要求量としてのアクセルペダルの操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、バッテリ26のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbatなど)が、それぞれ供給される。又、電子制御装置50からは、エンジン14を制御する為のエンジン制御指令信号Se、第1回転機MG1及び第2回転機MG2を制御するインバータ24を作動させる為の回転機制御指令信号Smg、自動変速機20の変速に関連するクラッチCを制御する為の油圧制御指令信号Satなどが、それぞれ出力される。この油圧制御指令信号Satは、例えばクラッチCの各々の油圧アクチュエータへ供給される各クラッチ油圧を調圧する各ソレノイドバルブを駆動する為の指令信号(油圧指令値)であり、油圧制御回路36へ出力される。
電子制御装置50は、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいてバッテリ26の充電状態(充電容量)SOCを算出する。又、電子制御装置50は、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ26の充電容量SOCに基づいて、バッテリ26の入力電力の制限を規定する充電可能電力(入力可能電力)Win、及びバッテリ26の出力電力の制限を規定する放電可能電力(出力可能電力)Woutを算出する。充放電可能電力Win,Woutは、例えばバッテリ温度THbatが常用域より低い低温域ではバッテリ温度THbatが低い程低くされ、又、バッテリ温度THbatが常用域より高い高温域ではバッテリ温度THbatが高い程低くされる。又、充電可能電力Winは、例えば充電容量SOCが大きな領域では充電容量SOCが大きい程小さくされる。又、放電可能電力Woutは、例えば充電容量SOCが小さな領域では充電容量SOCが小さい程小さくされる。
電子制御装置50は、車両10における各種制御を実現する為に、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部52、及び変速制御手段すなわち変速制御部54を備えている。
ハイブリッド制御部52は、エンジン14の作動を制御するエンジン作動制御手段すなわちエンジン作動制御部としての機能と、インバータ24を介して第1回転機MG1及び第2回転機MG2の作動を制御する回転機作動制御手段すなわち回転機作動制御部としての機能を含んでおり、それら制御機能によりエンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2によるハイブリッド駆動制御等を実行する。具体的には、ハイブリッド制御部52は、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された(すなわち予め定められた)関係(例えば駆動力マップ)にアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで要求駆動トルクTdem(すなわちそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPdem)を算出する。ハイブリッド制御部52は、エンジン最適燃費点、伝達損失、補機負荷、自動変速機20のギヤ比γat、バッテリ26の充放電可能電力Win,Wout等を考慮して、その要求駆動パワーPdemを実現するように、エンジン14、第1回転機MG1、及び第2回転機MG2を制御する指令信号(エンジン制御指令信号Se及び回転機制御指令信号Smg)を出力する。この制御の結果として、電気式無段変速機30の変速比γ0が制御される。エンジン制御指令信号Seは、エンジン14のパワー指令値である。回転機制御指令信号Smgは、例えばエンジントルクTeの反力トルク(MG1トルクTg)を出力する第1回転機MG1の発電電力Wgの指令値であり、又、MG2トルクTmを出力する第2回転機MG2の消費電力Wmの指令値である。
ハイブリッド制御部52は、走行モードとして、モータ走行モード或いはハイブリッド走行モードを走行状態に応じて選択的に成立させる。例えば、ハイブリッド制御部52は、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、モータ走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。又、ハイブリッド制御部52は、要求駆動パワーPdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ26の充電容量SOCが予め定められた閾値未満となる場合には、ハイブリッド走行モードを成立させる。
ハイブリッド制御部52は、モータ走行モードからハイブリッド走行モードへ切り替えるときには、運転が停止されているエンジン14を始動させる。その為、ハイブリッド制御部52は、第1回転機MG1を用いてエンジン14を回転駆動する(すなわちクランキングする)ことでエンジン14を始動する始動制御を実行するエンジン始動制御手段すなわちエンジン始動制御部56を機能的に備えている。
変速制御部54は、予め定められた関係(変速マップ)に従って自動変速機20の変速を実行すべきか否かを判断する。変速制御部54は、自動変速機20の変速を実行すべきと判断した場合には、その判断したギヤ段を形成するように、自動変速機20の変速に関与するクラッチCを係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号Satを油圧制御回路36へ出力して、自動変速機20の変速制御を実行する。
上記変速マップは、例えば車速V(AT出力軸回転速度No)及びアクセル開度θaccを変数とする二次元座標上に、自動変速機20の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。この変速マップにおける各変速線は、アップシフトが判断される為のアップ線、及びダウンシフトが判断される為のダウン線である。この各変速線は、あるアクセル開度θaccを示す線上において実際の車速Vが線を横切ったか否か、又は、ある車速Vを示す線上において実際のアクセル開度θaccが線を横切ったか否か、すなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点)を横切ったか否かを判定する為のものであり、この変速点の連なりとして予め定められている。例えば、現在のギヤ段(以下、現在ギヤ段という)から1段ロー側のギヤ段へのダウンシフトを判断するダウン線において、アクセル開度θaccがθy[%]とされたときに設定される変速点としてのダウンシフト点は、次回ダウン車速Vxとなる。特に、アクセルオフの減速走行となる惰性走行中においては、次回ダウン車速Vxを次回コーストダウン車速Vxcと称する。そして、現在の車速(以下、現在車速という)Vがその次回ダウン車速Vxよりも高い場合には、ダウンシフトを実行すべきとは判断されない一方で、現在車速Vがその次回ダウン車速Vxよりも低い場合には、ダウンシフトを実行すべきと判断される。
ところで、電気式無段変速機30と自動変速機20とを直列に備えた動力伝達装置12では、エンジン14の運転が停止されたモータ走行モードにおいて自動変速機20がダウンシフトされると、AT入力軸回転速度Ni(=MG2回転速度Nm)が上昇させられるので、電気式無段変速機30の差動作用によってMG1回転速度NgもMG2回転速度Nmに比例して上昇させられる(図2の各破線A,B参照)。一方で、第1回転機MG1を用いたエンジン14の始動制御においては、第1回転機MG1によるクランキングパワーが必要である。このクランキングパワーは、所定の正トルクであるクランキングパワーと負回転速度であるMG1回転速度Ngとの積で表される第1回転機MG1の発電電力Wg(=クランキングトルク×Ng)であるので、MG2回転速度Nmが高い程、始動制御に必要なクランキングパワーが高くされる(図2の各破線A,B及び各一点鎖線C,D参照)。他方で、第1回転機MG1を用いたエンジン14の始動制御は、バッテリ26の入力電力の制限を守って(すなわち充電可能電力Winの範囲内で)実行することが望ましい。そうすると、充電可能電力Win又は必要なクランキングパワーに因っては、実際に出力可能なクランキングパワーが不足し、第1回転機MG1を用いたエンジン14の始動制御が制限される(例えばエンジン始動ができなくなる)可能性がある。その為、自動変速機20のダウンシフトによってMG2回転速度Nmが高くされるとクランキングパワーが不足してしまうような場合には、エンジン始動が制限されることを回避する為に、そのダウンシフト中にエンジン14の始動制御を実行することが考えられる。しかしながら、エンジン14の始動制御が自動変速機20の変速制御に影響を及ぼすなどする為、ダウンシフト中に始動制御が実行されるとショックが発生し易くなる。尚、アクセルオンに伴って、自動変速機20のダウンシフトが判断され、且つ、モータ走行モードからハイブリッド走行モードへの切替えが判断された場合には、ショックの抑制よりも加速応答性を優先して、ダウンシフト制御と始動制御とを重ねて実行する態様を採用することが好適である。従って、本実施例では、アクセルオフの減速走行となる、エンジン14の運転が停止された惰性走行中における自動変速機20のダウンシフト(すなわちコーストダウンシフト)を実行した際に、ショックが発生することやエンジン始動が制限されることを回避する制御作動を提案する。
そこで、電子制御装置50は、次回のコーストダウンシフト(次回コーストダウンシフト)においてクランキングパワーが不足することに起因するエンジン始動を行う必要があるときには(すなわち、次回コーストダウンシフトとエンジン始動とが重ねて実行されることが予想されるときには)、近い将来、次回コーストダウンシフトが実行されると判断した時点で、次回コーストダウンシフトの実行開始に先立って、予めエンジン14の始動制御を実行する。
具体的には、電子制御装置50は、自動変速機20のダウンシフトとエンジン始動とが重なることでのショックの発生を回避し、又、充電可能電力Winによってエンジン始動が制限されることを回避する制御を実現する為に、車両状態判定手段すなわち車両状態判定部58、及び閾値設定手段すなわち閾値設定部59を更に備えている。
車両状態判定部58は、惰性走行中において、自動変速機20の次回のダウンシフト(すなわち次回コーストダウンシフト)が実行されるとMG2回転速度Nmが閾値Nmcrよりも高くなるか否か(すなわち次回コーストダウンシフトにおいてエンジン始動を行う必要があるか否か)を判定する。この閾値Nmcrは、例えばこの値を超えるとMG1回転速度Ngが高回転となる為にクランキングパワーが不足することになるMG2回転速度Nmであって、現在の充電可能電力Win(以下、現在Winという)にて第1回転機MG1を用いたエンジン14のクランキングか可能となるMG2回転速度Nmの上限値(最大値)である。
車両状態判定部58は、次式(1)が成立するか否かに基づいて、次回コーストダウンシフトにおいてエンジン始動を行う必要があるか否か(すなわち次回コーストダウンシフトにおいてエンジン始動とダウンシフトとが重なって実行されるか否か)を判定する。次式(1)において、「Noc」は、変速マップ等において予め定められた次回コーストダウン車速Vxcに対応するAT出力軸回転速度Noであり、「γata」は、自動変速機20の次回コーストダウンシフト後のギヤ比γatであり、「Nmcr」は、閾値設定部59により設定された閾値Nmcrである。
Noc × γata > Nmcr …(1)
閾値設定部59は、現在Winに基づいて閾値Nmcrを設定する。具体的には、閾値設定部59は、現在Winを第1回転機MG1が出力可能な最大のクランキングパワーに設定し、現在Winにて可能な最大のMG1回転速度Ng(最大MG1回転速度Ngcr)(=現在Win/クランキングトルク)を算出する。閾値設定部59は、動力分配機構16における3つの回転要素の回転速度の相対的関係(ここでは、エンジン回転速度Neはゼロとした)に基づいて予め定められた次式(2)に、最大MG1回転速度Ngcrを適用することで閾値Nmcrを算出する。尚、クランキングトルクは、所定の値(例えばエンジン14をクランキングするのに必要なMG1トルクTgとして予め定められた一定値或いはエンジン14の温度等によって変化させられる値)であり、ρは、前述した動力分配機構16の歯車比ρである。このように、現在Winが低い程、最大MG1回転速度Ngcrが低くされて閾値Nmcrが小さくされる。つまり、閾値設定部59は、バッテリ26の充電可能電力(入力可能電力)Win(すなわち現在Win)が低い程、閾値Nmcrが小さくなるように設定する。
Nmcr = −ρ×Ngcr …(2)
車両状態判定部58は、惰性走行中において、現在の減速度(以下、現在減速度という)にて減速走行が継続されると次回コーストダウンシフトが実行されるか否か(すなわち近い将来次回コーストダウンシフトを実施するか否か)を判定する。車両状態判定部58は、次式(3)が成立するか否かに基づいて、近い将来次回コーストダウンシフトを実施するか否かを判定する。次式(3)において、「V」は、現在車速Vであり、「dV/dt」は、現在減速度であり、「TMcr」は、エンジン始動時間TMcrであり、「Vxc」は、次回コーストダウン車速Vxcである。このように、現在車速Vが次回コーストダウン車速Vxcに到達したか否かを判断するのではなく、現時点からエンジン始動時間TMcr分だけ経過したら車速Vが次回コーストダウン車速Vxcに到達するか否かを判断する。従って、この判断が肯定されたときにエンジン14の始動制御を開始することで、エンジン始動が完了後に次回コーストダウンシフトの制御が開始されるので、両者が重なって実行されることが回避又は抑制される。尚、エンジン始動時間TMcrは、例えば始動制御の開始時点からエンジン始動完了時点までに要する時間として予め定められた一定時間或いはエンジン14の温度等によって変化させられる時間である。
V − dV/dt × TMcr ≦ Vxc …(3)
エンジン始動制御部56は、惰性走行中において、車両状態判定部58により自動変速機20の次回コーストダウンシフトが実行されるとMG2回転速度Nmが閾値Nmcrよりも高くなると判定され、且つ、車両状態判定部58により現在減速度にて減速走行が継続されると次回コーストダウンシフトが実行されると判定された場合には、第1回転機MG1を用いてエンジン14の始動制御を実行する。
図4は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわち電気式無段変速機30と自動変速機20とを直列に備えた車両10において、エンジン始動と自動変速機20の変速(特にはコーストダウンシフト)とが重なることでのショックの発生を回避すると共に変速後にバッテリ26の充電可能電力Winの制限によってエンジン始動が制限されることを回避する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば惰性走行中に繰り返し実行される。図5は、図4のフローチャートに示す制御作動を実行した場合のタイムチャートの一例である。
図4において、先ず、車両状態判定部58及び閾値設定部59の機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、前記式(2)を用いて閾値Nmcrが算出されると共に、前記式(1)が成立するか否かに基づいて、次回コーストダウンシフトにおいてエンジン始動を行う必要があるか否が判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS10の判断が肯定される場合は車両状態判定部58の機能に対応するS20において、前記式(3)が成立するか否かに基づいて、近い将来次回コーストダウンシフトを実施するか否かが判定される。このS20の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられる。このS20の判断が肯定される場合はエンジン始動制御部56の機能に対応するS30において、エンジン14の始動要求が為され、第1回転機MG1を用いてエンジン14の始動制御が実行される。
図5において、t1時点は、4→3コーストダウンシフトが開始されたことを示している。この4→3コーストダウンシフトの開始前においては、次回コーストダウンシフトにおいてエンジン始動を行う必要があるか(すなわち次回コーストダウンシフトでエンジン始動するか)との判断が肯定されていないので、この4→3コーストダウンシフトの開始前において、近い将来コーストダウンシフトを実施するかとの判断が肯定されてもエンジン始動要求は為されない。t2時点は、4→3コーストダウンシフトの実行が終了した3→2コーストダウンシフトの開始前において、次回コーストダウンシフトが実行されるとMG2回転速度Nmが閾値Nmcrよりも高くなると判断された為に、次回コーストダウンシフトでエンジン始動するかとの判断が肯定されたことを示している。この状態で車速Vが低下していき、近い将来コーストダウンシフトを実施するかとの判断が肯定されると、エンジン始動要求が為される(t3時点参照)。そして、3→2コーストダウンシフトが開始されるt4時点では、エンジン始動が完了させられている。この結果、自動変速機20のダウンシフトとエンジン始動との同時制御(すなわちダウンシフトとエンジン始動との各制御の少なくとも一部が重なること)が回避される。尚、破線に示す比較例では、3→2コーストダウンシフトの実行中にMG2回転速度Nmが閾値Nmcrよりも高くなったことでエンジン14の始動制御が開始された為に、自動変速機20のダウンシフトとエンジン始動との同時制御が実行されたことを示している。
上述のように、本実施例によれば、惰性走行中において、自動変速機20の次回コーストダウンシフトが実行されるとMG2回転速度Nmが、バッテリ26の充電可能電力Winが低い程小さくなるように設定された閾値Nmcrよりも高くなると判定され、且つ、現在減速度にて減速走行が継続されると次回コーストダウンシフトが実行されると判定された場合には、第1回転機MG1を用いたエンジン14の始動制御が実行されるので、次回コーストダウンシフト実行中(又は次回コーストダウンシフト完了後)にエンジン14の始動制御を実行するとバッテリ26の充電可能電力Winの制限によってエンジン始動が制限されるような場合は、次回コーストダウンシフトが実行される前にエンジン14の始動制御が実行される。よって、エンジン始動と自動変速機20の変速とが重なることでのショックの発生を回避すると共に変速後にバッテリ26の充電可能電力Winの制限によってエンジン始動が制限されることを回避することができる。又、次回コーストダウンシフトが実行されてもバッテリ26の充電可能電力Winの制限に引っかからない場合は、次回コーストダウンシフト後にエンジン14の始動制御が実行されるので、不必要にエンジン始動する頻度が抑制される。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例では、中間伝達部材28と駆動輪18との間の動力伝達経路の一部を構成する機械式有段変速部として、前進4段の各ギヤ段が形成される遊星歯車式自動変速機である自動変速機20を例示したが、この態様に限らない。例えば、自動変速機20は、複数の係合装置の何れかが選択的に係合されることによりギヤ比が異なる複数のギヤ段が選択的に形成される遊星歯車式の多段変速機であれば良い。又、機械式有段変速部は、常時噛み合う複数対の変速ギヤを2軸間に備える公知の同期噛合型平行2軸式変速機であってアクチュエータによりドグクラッチ(すなわち噛合式クラッチ)の係合と解放とが制御されてギヤ段が自動的に切り替えられる同期噛合型平行2軸式自動変速機、その同期噛合型平行2軸式自動変速機であって入力軸を2系統備える公知のDCT(Dual Clutch Transmission)などの自動変速機であっても良い。
また、前述の実施例では、動力分配機構16は、3つの回転要素を有するシングルピニオン型の遊星歯車装置の構成であったが、この態様に限らない。例えば、動力分配機構16は、複数の遊星歯車装置が相互に連結されることで4つ以上の回転要素を有する差動機構であっても良い。又、動力分配機構16は、ダブルプラネタリの遊星歯車装置であっても良い。又、動力分配機構16は、エンジン14によって回転駆動されるピニオンと、そのピニオンに噛み合う一対のかさ歯車に第1回転機MG1及び中間伝達部材28が各々連結された差動歯車装置であっても良い。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。