JP2017207302A - 侵入水素量測定方法および侵入水素量測定装置 - Google Patents

侵入水素量測定方法および侵入水素量測定装置 Download PDF

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Abstract

【課題】温度が変化する腐食環境においても、不働態保持電流の影響を取り除いて正確かつ連続的に侵入水素量を測定することができる侵入水素量測定方法を提供する。【解決手段】金属材料からなる試験片の一方の面を腐食環境に晒して水素侵入面とし、前記試験片の他方の面を、めっき皮膜を備える水素検出面とし、前記水素検出面に設置した電気化学セルでアノード電流密度:iaを測定し、試験環境の温度:Tを測定し、予め求めた、下記(1)式で表される不働態保持電流密度:ipと試験環境の温度:T(K)との関係に基づいて、前記試験環境の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、侵入水素量を算出する、侵入水素量測定方法。ip=A×e−B/T…(1)【選択図】図1

Description

本発明は、腐食によって金属内部に侵入する水素量(侵入水素量)を電気化学的水素透過法により測定する侵入水素量測定方法に関し、特に、温度が変化する腐食環境(変温環境)においても、温度によって変動するバックグラウンドとしての不働態保持電流の影響を取り除いて、正確に侵入水素量を測定することができる侵入水素量測定方法に関する。また本発明は、前記侵入水素量測定方法を実施するための侵入水素量測定装置に関する。
近年、省資源、省エネルギーの観点から、あらゆる分野で高強度鋼の使用が拡大している。しかし、高強度鋼の使用には弊害もあり、材料強度が増加するほど水素脆化の発生リスクが高まることが知られている(非特許文献1)。特に自動車分野では、引張強度1180MPa級の超高強度鋼板が使用され始めており、このような鋼板は大気環境でも水素脆化の発生が懸念されている。大気環境では腐食反応に伴って鋼中に水素が侵入し、温度、湿度、飛来塩分等の環境因子が変化することで侵入水素量も変化する。よって、大気環境での水素侵入挙動を把握するためには、侵入水素量を連続的にモニタリングする技術が望まれる。
非特許文献2には、電気化学的水素透過法に基づき、試験片である金属の一方の面を大気腐食環境にさらし、鋼中に侵入、透過してきた水素を前記試験片の反対側の検出面でアノード電流としてモニタリングした結果が報告されている。ここで、電気化学的水素透過法で測定されるアノード電流には、鋼中を透過してきた水素原子を検出面でイオン化する際に測定される水素透過電流に加えて、バックグラウンドとしての不働態保持電流が含まれる。この不働態保持電流は、温度に依存することが知られているが(非特許文献3)、非特許文献2に記載された方法においては、この温度依存性が考慮されていないため、水素侵入量を正確に評価することができない。
そこで、特許文献1では、電気化学的水素透過法による侵入水素量の測定において、不働態保持電流の影響を補正する方法が提案されている。具体的には、同一試験片に対して2つ以上の測定セルを設置し、そのうち一つの測定セルの水素侵入面に保護膜を設けて水素の侵入を防ぐことで不働態保持電流測定用の基準セルとし、通常の測定セルで測定されたアノード電流から基準セルで測定された不働態保持電流を差し引くことによって、温度によって変動する不働態保持電流の影響を取り除いている。
特開2014−89207号公報
松山晋作、「遅れ破壊」、日刊工業新聞社、1989年 大村ら、鉄と鋼、2005年、Vol.91、No.5、p.478−484 柴田俊夫、材料と環境、2011年、Vol.60、p.374−379 武藤ら、材料と環境、1998年、Vol.47、p.519−527 櫛田隆弘、材料と環境、2000年、Vol.49、p.195−200
特許文献1に記載された方法によれば、侵入水素量の測定精度を向上させることができる。しかし、本発明者らの検討の結果、同一の試験片であっても、位置によって不働態保持電流が異なり、その結果、特許文献1記載の方法ではバックグラウンドの補正が困難となる場合があることが分かった。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、温度が変化する腐食環境においても、不働態保持電流の影響を取り除いて正確かつ連続的に侵入水素量を測定することができる侵入水素量測定方法およびそのための測定装置を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、予めバックグラウンド電流である不働態保持電流の温度依存性を数式化しておき、測定の際に、前記数式を用いて試験環境の温度から不働態保持電流値を算出して補正を行うことで、温度が変動する環境においても正確に侵入水素量を測定できることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨構成は次のとおりである。
1.温度が変化する腐食環境において、腐食によって金属内部に侵入する水素量を電気化学的水素透過法により測定する侵入水素量測定方法であって、
金属材料からなる試験片の一方の面を腐食環境に晒して水素侵入面とし、
前記試験片の他方の面を、めっき皮膜を備える水素検出面とし、
前記水素検出面に設置した電気化学セルでアノード電流密度:iaを測定し、
試験環境の温度:Tを測定し、
予め求めた、下記(1)式で表される不働態保持電流密度:ipと試験環境の温度:Tとの関係に基づいて、測定された前記試験環境の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、
前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、
前記水素透過電流密度:iHから侵入水素量を算出する、侵入水素量測定方法。

p = A×e−B/T …(1)
(ここで、A、Bは、前記めっき皮膜の性状に依存する定数である)
2.前記試験環境の温度:Tとして、前記試験片の温度を測定する、上記1に記載の侵入水素量測定方法。
3.前記腐食環境が、直射日光の照射を受ける屋外暴露環境である、上記1または2に記載の侵入水素量測定方法。
4.上記2に記載の侵入水素量測定方法を実施するための侵入水素量測定装置であって、
前記試験片の水素検出面に設置される電気化学セルと、
前記試験片の温度を測定する温度測定手段と、
前記電気化学セルおよび前記温度測定手段と接続された制御手段とを有し、
前記制御手段が、
前記電気化学セルによるアノード電流密度:iaの測定と、前記温度測定手段による試験片の温度:Tの測定を同時に行い、
予め求めた前記(1)式の関係に基づいて測定された前記試験片の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、
前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、
前記水素透過電流密度:iHから侵入水素量を算出するよう構成されている、侵入水素量測定装置。
本発明によれば、温度が変化する腐食環境においても、不働態保持電流の影響を取り除いて正確かつ連続的に侵入水素量を測定することができる。
本発明の一実施形態における侵入水素量測定装置を示す模式図である。 測定セルと基準セルにおける不働態保持電流の温度依存性を示すグラフである。 測定セルと基準セルにおけるアノード電流と試験片温度の経時変化を示すグラフである。 実施例および比較例の方法で得られた水素透過電流密度の経時変化を示すグラフである。
本発明の一実施形態である侵入水素量測定方法においては、腐食によって金属内部に侵入する水素量が、電気化学的水素透過法により測定される。その際、金属材料からなる試験片の一方の面を腐食環境に晒して水素侵入面とし、前記試験片の他方の面を水素検出面とした状態で、試験体中の水素透過流束を前記水素検出面に設置した電気化学セルを用いてアノード電流密度として測定する。
上記アノード電流密度:iaには、試験片中を透過してきた水素原子のイオン化電流である水素透過電流密度:iHに加えて、バックグラウンド電流である不働態保持電流密度:ipが含まれており、前記不働態保持電流密度は温度に依存する(非特許文献3)。よって、温度が変動する環境で正確な水素透過電流を測定するためには、不働態保持電流の温度変化を加味した上でバックグラウンド補正を行う必要がある。
特許文献1では、同一の試験片上に通常の測定セルと基準セルとを設け、測定セルにおいて測定されたアノード電流から前記基準セルで測定された不働態保持電流を差し引くことによって、補正を行うことが提案されている。しかし、上述したように、同一の試験片であっても、位置によって不働態保持電流が異なるため、前記方法ではバックグラウンドの補正が困難となる場合があることが分かった。
ここで、電気化学的水素透過法において用いられる試験片の水素検出面には、Ni、Pd、またはそれらの合金等のめっき皮膜が被覆されることが一般的であるが、一つの試験体の表面であっても均一にめっき皮膜を形成することは困難であり、したがって、試験片表面上の位置によってめっき皮膜の性状に違いがある。このめっき皮膜の性状の違いが、不働態保持電流の温度依存性に影響するものと考えられる。
そこで本発明では、不働態保持電流の温度依存性を予め測定して数式化しておき、前記数式を用いて測定時のバックグラウンド補正を行うこととした。これにより、測定用の基準セルを別途設けることなしに、試験環境の温度測定結果に基づいて補正を行うことが可能となる。
以下、本発明における補正の方法について、具体的に説明する。
不働態保持電流密度:ipは、その対数値が温度の逆数に対して直線関係を示す、アレニウスの式を満足することが知られている。よってまず、水素が侵入しない環境、すなわち試験片が腐食しない環境において、試験環境の温度を変化させて不働態保持電流密度を測定し、不働態保持電流密度を下記(1)式のように温度の関数として数式化する。
p = A×e−B/T …(1)
ここで、(1)式中のA、Bは、めっき皮膜の性状等に依存する定数であり、Tは試験環境の絶対温度(K)である。
ここで、前記数式化、すなわち、A、Bの決定は、試験片が腐食しない環境であれば任意の環境で行うことができる。試験片が腐食しない環境の例としては、水素侵入面に塩の付着がなく、低湿度の環境が挙げられる。この場合、湿度を30%RH以下とすることが好ましい。また、低湿度とすることに代えて、試験片の水素侵入面に該試験片の腐食を防止する保護膜を設けることもできる。前記保護膜は、試験片の水素侵入面の表面状態を変化させることなく、剥離できるものが好ましい。前記保護膜としては、例えば、樹脂からなる保護膜を用いることができ、前記樹脂としてはエポキシ樹脂系塗料等を用いることができる。
実際の水素侵入量の測定においては、試験環境の温度:Tを測定し、得られた試験環境の温度:Tの値と、上記(1)式から、当該温度における不働態保持電流密度:ipを計算し、電気化学的水素透過法で測定されるアノード電流密度:iaから不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、正味の水素透過電流密度:iHを求めることが出来る(下記(2)式)。なお、iH、ia、およびipの単位は特に限定されず、同じ単位であれば(2)式の計算が成り立つが、例えば、A/cmとすることができる。
H=ia−ip …(2)
前記試験環境の温度としては、試験片が置かれている環境の温度を用いることができる。しかし、例えば、屋外暴露環境で侵入水素量を測定する場合などでは、直射日光や放射冷却等の影響により試験環境の温度と試験片の温度が異なる場合がある(非特許文献4)。そのため、前記試験環境の温度として、試験片の温度を測定することにより、より正確な水素透過電流密度の測定が可能となる。
上記のようにして得た水素透過電流密度から、侵入水素量を算出することができる。ここで、電気化学的水素透過法における侵入水素量は表面水素濃度(水素侵入面上における吸着水素濃度):Cabとして計算され、水素透過電流:iHを用いて下記(3)式により算出される。
ab=(iH×L×MH)/(D×F×d)×10 …(3)
ab:表面水素濃度(質量ppm)
H:水素透過電流密度(A/cm
L:試験片の板厚(cm)
D:試験片の金属材料中における水素拡散係数(cm/s)
F:ファラデー定数(C/mol)
H:水素原子のモル質量(g/mol)
d:試験片の金属材料の密度(g/cm
なお、温度が変化する環境では材料中の水素拡散係数:Dが変化する。水素拡散係数も不働態保持電流同様、その対数値が温度の逆数に対して直線関係を示す、アレニウスの式を満足することが知られており、本発明の装置を用いることで、予め水素拡散係数の温度依存性を数式化しておけば、試験体の物温から水素拡散係数の温度変化を計算し、より精度良く侵入水素量を算出することが可能である。
以上のように、本発明によれば、温度が変化する腐食環境においても、基準セルを別途設けることなしに不働態保持電流の影響を取り除いて正確かつ連続的に侵入水素量を測定することができる。そのため、腐食環境で刻一刻と変化する侵入水素量を精度良く測定することができる。
次に、本発明の侵入水素量測定装置について説明する。本発明の侵入水素量測定装置は、試験片の水素検出面に設置される電気化学セルと、前記試験片の温度を測定する温度測定手段と、前記電気化学セルおよび前記温度測定手段と接続された制御手段とを有している。
図1は、本発明の一実施形態における侵入水素量測定装置1を示す模式図である。試験片10の一方の面は腐食環境に晒されて水素侵入面11とされ、試験片の他方の面は水素検出面12とされている。水素検出面12には、図示されないめっき皮膜が備えられている。また、前記水素検出面12には、アノード電流を測定するための電気化学セル20が設置されている。
試験片10としては、金属材料からなる任意のものを用いることができるが、図1に示した例では、板状の鋼板が用いられている。試験片10の厚さは特に限定されず、任意の厚さとすることができる。しかし、試験片が過度に厚いと、腐食環境の変化と、測定される水素透過電流の変化との間の時間的遅れが増大し、その結果、環境因子と侵入水素量との関係が不明確となる場合がある。そのため、特に、試験片を構成する材料の水素拡散係数が小さい場合には板厚を薄くしたほうがよい。また、材料中の水素拡散が非定常であると正確な表面水素濃度の計算が出来ない点でも板厚は薄い方が良い。具体的には、試験片の板厚を1mm以下とすることが好ましく、0.5mm以下とすることがより好ましい。一方、試験片が過度に薄いと、短期間で腐食による穴あきが発生するため、試験片の板厚は0.2mm以上とすることが好ましい。
電気化学セル20としては、水素検出面12におけるアノード電流を測定できるものであれば任意のものを用いることができる。図1に示した例においては、電気化学セル20は、電解液21と、電解液21を収容する収容体22と、収容体21の内部に設置された参照電極23と、対極24とを備えている。
電解液21としては、アノード電流を測定できるものであれば任意のものを用いることができるが、通常は、電解質水溶液が用いられる。また、電解液21のpHが9未満であると、アノード電流測定時に水素検出面12における不働態を保持することが困難となる場合があるため、電解液21のpHは9以上とすることが好ましい。一方、pHが過度に高い、すなわち強アルカリ性であると、不慮の事故等により電解液が外部に漏洩した場合に、環境等へのダメージが大きいため、電解液のpHは13以下とすることが好ましい。前記条件を満たし、好適に用いることができる電解液としては、例えば、0.1〜1.0M(M=mol/L)程度のNaOH水溶液が挙げられる。また、電解液の漏洩防止や、取り扱いの容易さの観点からは、液体状の電解液に代えて、ゲル状の電解質を用いることも好ましい。
収容体22としては、電解液21等を収容できるものであれば任意のものを用いることができるが、通常は、絶縁性であるガラスや樹脂等からなる容器が用いられる。特に、加工性や取り扱いの容易さからは樹脂製とすることが好ましく、アクリル樹脂製とすることがより好ましい。
参照電極23は、電気化学セル20においてアノード電流を測定する際の電位の基準となる電極であり、基準電極とも称される。参照電極23としては、特に限定されることなく、一般的な電気化学測定に用いられるものなど現在実用化されている各種電極が使用可能である。好適に用いることができる参照電極の例としては、銀−塩化銀電極(SSE)が挙げられる。銀−塩化銀電極に用いる電解質水溶液としては、例えば、飽和KCl等を用いることができる。
対極24は、アノード電流の測定が可能であり、かつ水素検出面12における水素原子のイオン化反応を阻害しないものであれば、任意の不活性電極を用いることができる。好適に用いることができる対極の例としては、白金(Pt)電極が挙げられる。
参照電極23および対極24は、ポテンショスタット30に接続されている。また、試験片10もポテンショスタット30に接続されており、アノード電流測定時には作用電極となる。
さらに、図1に示した例では、試験片10の温度を測定する温度測定手段としての熱電対40が、試験片10と接触するように設置されている。熱電対40としては、アルメル−クロメル(K熱電対)に代表されるような一般的熱電対など、任意のものを用いることができる。熱電対の設置方法は特に限定しないが、試験片と熱電対間の異種金属接触腐食を防ぐ観点からは、試験片と熱電対が接触している箇所を被覆しておくことが好ましい。
なお、本発明の侵入水素量測定装置は制御手段を備えており、前記制御手段は、前記電気化学セルによるアノード電流密度:iaの測定と、前記温度測定手段による試験片の温度:Tの測定を同時に行い、予め求めた前記(1)式の関係に基づいて測定された前記試験片の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、前記水素透過電流密度:iHから侵入水素量を算出するよう構成されている。図1に示した例では、ポテンショスタット30および温度ロガー50は、前記制御手段の一部と見なすこともできる。
また、本発明における測定条件は、水素検出面における水素のイオン化反応に十分な電位に保持した際に、鋼材の表面の不動態を保持できる溶液と電位の組み合わせであれば良く、特に限定されるものではない。一般的には、1NのNaOH水溶液中、−0.1〜0.3V vs. SCEの分極条件が広く用いられている(非特許文献3)。ここで、SCEとは、飽和カロメル電極のことであり、このSCEの標準水素電極(SHE)に対する電位は+0.244V(vs SHE,25℃)で示される。また、SSEを用いた場合には0Vで測定できる(非特許文献5)。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
試験片として板厚:1mmの軟鋼板を使用し、図1に示した構成の装置にて、以下に述べる条件で侵入水素量の測定を行った。前記試験片の水素検出面には、厚さ:約100nmのPdめっきを施した。電解液としては、1N NaOHを使用し、0V vs. SSEの条件でアノード分極した。
(比較例)
また、比較のために、特許文献1の方法を模擬して、上記実施例と同一の試験片の水素検出面にバックグラウンド補正用の基準セルを配置し、水素侵入面の前記基準セルに対応する位置を保護膜で被覆した。以降、上記実施例における電気化学セルを「測定セル」、比較例における電気化学セルを「基準セル」と呼ぶこととする。上記のように保護膜を設けたこと以外、基準セルにおける測定条件は測定セルと同条件とした。
[不働態保持電流密度の温度依存性]
侵入水素量の測定に先立って、上記測定セルと基準セルにおける、不働態保持電流密度の温度依然性を評価した。
不働態保持電流密度を測定するためには、水素侵入面における水素の侵入が生じない状態で電流の測定を行う必要がある。基準セルの水素侵入面は保護膜で被覆されているが、測定セルの水素侵入面には保護膜がないため、測定セルにおいて不働態保持電流密度を測定するには、測定セルの水素侵入面において腐食が生じないようにする必要がある。そこで、試験片の水素侵入面に塩の付着がなく、かつ低湿度環境(30%RH)で電流の測定を行った。この状態で測定される電流は、測定セル、基準セルのいずれにおいても水素透過電流を含まないため、不働態保持電流と見なすことができる。
図2は、上記の方法で測定された測定セルと基準セルにおける不働態保持電流の温度依存性を示すグラフである。ここでは、試験片の温度を20、30、40、50℃と変化させて不動態保持電流を測定した。図2より、不動態保持電流密度の対数値と、温度の逆数との間には直線関係があり、アレニウス式が成立することがわかる。上記の結果から、測定セルと基準セルにおける不動態保持電流密度の温度依存性を数式化すると、それぞれ以下のようになる。
測定セル:ip(nA/cm2)=1.124×1013×exp(-8.038×103/T)…(4)
基準セル:ip(nA/cm2)=2.455×1013×exp(-8.164×103/T)…(5)
また、各温度における不動態保持電流密度を基準セルと測定セルで比較すると、基準セルの不動態保持電流値密度の方が測定セルよりも大きく、同一試験体においても測定箇所が異なると不動態保持電流密度が異なることがわかる。
[水素透過電流密度の測定]
次に、前記試験片を屋外環境に暴露し、アノード電流と試験片の温度を同時に測定した。図3は、測定セルと基準セルにおけるアノード電流密度と試験片温度の経時変化を示すグラフである。測定結果より、基準セル、測定セルのいずれにおいても、アノード電流密度が温度変化の影響を受けて変動していることが分かる。
ここで、特許文献1の方法にならって、バックグラウンド電流である不動態保持電流を除去するため、測定セルで測定されたアノード電流密度から基準セルにおける電流密度を差し引いた結果を、図4に比較例(破線)として示す。前記比較例においては、測定期間のほとんどで水素透過電流値密度が負の値を示している。これは、測定セルと基準セルで不動態保持電流が異なるために、バックグラウンド電流が過剰に除去された結果であると考えられる。よって、同一の試験体であっても測定する箇所によって不動態保持電流の温度依存性が異なる場合には、特許文献1で提案されている方法での温度補正が困難であることが分かる。
一方、測定セルにおける不動態保持電流密度の温度依存性を表す上記(4)式と、図3に示した試験片温度の測定値から不動態保持電流密度を算出し、得られた不働態保持電流密度を、図3に実線で示した測定セルにおけるアノード電流密度から差し引くことによって、水素透過電流密度を求めた結果を、図4に本発明例(実線)として示す。図4に示した結果より、本発明によれば、温度が変化する腐食環境においても、不働態保持電流の影響を取り除いて正確かつ連続的に侵入水素量を評価できることがわかる。
このように、本発明によれば、温度が変動する腐食環境において、金属材料に侵入する水素量を高い精度でかつ連続的に測定することができる。したがって、本発明を用いることにより、環境因子と侵入水素量の相関を正確に把握することができ、超高強度鋼を始めとする金属材料の、大気環境への適用可否の判断に極めて有効である。
1 侵入水素量測定装置
10 試験片
11 水素侵入面
12 水素検出面
20 電気化学セル
21 電解液
22 収容体
23 参照電極
24 対極
30 ポテンショスタット
40 熱電対(温度測定手段)
50 温度ロガー

Claims (4)

  1. 温度が変化する腐食環境において、腐食によって金属内部に侵入する水素量を電気化学的水素透過法により測定する侵入水素量測定方法であって、
    金属材料からなる試験片の一方の面を腐食環境に晒して水素侵入面とし、
    前記試験片の他方の面を、めっき皮膜を備える水素検出面とし、
    前記水素検出面に設置した電気化学セルでアノード電流密度:iaを測定し、
    試験環境の温度:Tを測定し、
    予め求めた、下記(1)式で表される不働態保持電流密度:ipと試験環境の温度:T(K)との関係に基づいて、測定された前記試験環境の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、
    前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、
    前記水素透過電流密度:iHから侵入水素量を算出する、侵入水素量測定方法。

    p = A×e−B/T …(1)
    (ここで、A、Bは、前記めっき皮膜の性状に依存する定数である)
  2. 前記試験環境の温度:Tとして、前記試験片の温度を測定する、請求項1に記載の侵入水素量測定方法。
  3. 前記腐食環境が、直射日光の照射を受ける屋外暴露環境である、請求項1または2に記載の侵入水素量測定方法。
  4. 請求項2に記載の侵入水素量測定方法を実施するための侵入水素量測定装置であって、
    前記試験片の水素検出面に設置される電気化学セルと、
    前記試験片の温度を測定する温度測定手段と、
    前記電気化学セルおよび前記温度測定手段と接続された制御手段とを有し、
    前記制御手段が、
    前記電気化学セルによるアノード電流密度:iaの測定と、前記温度測定手段による試験片の温度:Tの測定を同時に行い、
    予め求めた前記(1)式の関係に基づいて測定された前記試験片の温度:Tから不働態保持電流密度:ipを算出し、
    前記アノード電流密度:iaから前記不働態保持電流密度:ipを差し引くことによって、水素透過電流密度:iHを求め、
    前記水素透過電流密度:iHから侵入水素量を算出するよう構成されている、侵入水素量測定装置。
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