JP2018186802A - 植物中のフェノール性化合物の増量方法 - Google Patents

植物中のフェノール性化合物の増量方法 Download PDF

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Abstract

【課題】ポリフェノールのようなフェノール性化合物の量を効果的/効率的に増加させることのできる方法を提供すること。【解決手段】本発明は、植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とする植物中のフェノール性化合物の増量方法又はフェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法が提供される。【選択図】図2

Description

本発明は、植物中のフェノール性化合物の増量方法及びフェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法に関する。
植物中のフェノール性化合物(例えば、ポリフェノール)は、抗酸化活性、抗菌活性、血圧上昇抑制活性のような種々の生理活性を有することが明らかとなり、近年の健康志向の高まりと相俟って、大いに注目されている。
そこで、植物に含まれるフェノール性化合物を増量させる技術が開発されている。なかでも、植物が太陽光に含まれる紫外光の影響を回避するために紫外領域に極大吸収を有するフラボノイドを合成していると考えられることに起因して、紫外光照射により植物中のフラボノイドを増量させる技術に関心が集まっている。
例えば、特許文献1は、特定波長域(240nm以上320nm以下又は300nm以上400nm以下)の紫外光を照射することにより、「収穫後」の植物においてポリフェノール含有量を増加させる方法に関する。特許文献1において、適切な紫外光照射量は、1日当たり0.5J/cm2以上50J/cm2以下とされている。収穫後の植物に照射する紫外光の波長は、目的とするポリフェノールの極大吸収に合わせて選択すべきことを記載している。
特許文献2は、波長域が280〜380nmで、かつ波長312nm付近にピークを有する紫外光を、単子葉栽培植物(特に芽ネギ)に照射することにより、当該植物中のアスコルビン酸及び/又はポリフェノール含量を増加させる方法に関する。特許文献2において、適切な紫外光強度は、0.1〜1.0mW・cm-2とされている。
また、非特許文献1は、シロイヌナズナにおけるUVBストレスの影響を調べることを目的として、狭帯域UV-B(280〜320nm;ピーク波長312nm;830mW/m2/S)の1日間又は4日間連続照射した結果、1日以上の紫外光照射によりアントシアニンやフラボノールの増加が観察されたことを記載している。
特開2004−121228 特開2008−086272
Kusano et al., The Plant Journal, 2011, 67, 354-369
上記のとおり、植物を紫外光(UVA又はUVB)に曝露することにより当該植物におけるフェノール性化合物の量が増加することは知られている。しかし、他方で、紫外光は植物に限らず生物一般に有害であることも知られている。そして、従来技術においては、紫外光として、波長域が比較的幅広な光が用いられており、非特許文献1において用いられているようなUVランプの発光スペクトルは、例えば図9に示すように、312nmにピーク波長を有するものの幅広い波長域にわたるものである。
よって、紫外光のうち、フェノール性化合物の増量に真に寄与する波長域を特定することができれば、植物において、紫外光への曝露による悪影響を低減しつつ、フェノール性化合物を効率的に増量させることができる。
このように、植物における、ポリフェノールのようなフェノール性化合物の量を効果的/効率的に増加させることのできる方法が依然として望まれている。
本発明者らは、フェノール性化合物の増量に寄与する波長及び照射量を鋭意検討した結果、従来知られていた波長域より短い特定の波長域の紫外光がフェノール性化合物の増量に有効である一方、従来用いられていた紫外光にはフェノール性化合物の増量に寄与せず、むしろ存在量の低下をもたらし得る波長域の光が含まれていることを見出し、本発明を完成させた。
本発明によれば、植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とする植物中のフェノール性化合物の増量方法が提供される。
本発明によれば、また、植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となる一方、310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とするフェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法が提供される。
本発明によれば、また、波長域270〜290nmの光を発することができ、且つ波長域300nm〜400nmの発光量が波長域270〜290nmの発光量の50%未満で、波長域200nm以上270nm未満の発光量が波長域270〜290nmの発光量の10%未満である光源と、植物に対する波長域270〜290nmの光の照射量が1500〜50000μmol/m2となるように光源を制御する制御部とを備え、植物中のフェノール性化合物を増量させるために用いることを特徴とする照明装置が提供される。
本発明の方法によれば、専ら有害な紫外光への曝露による悪影響を回避できるので、植物中のフェノール性化合物を効率的に増加させることができ、フェノール性化合物を多く含む植物を効率的に生産することができる。
実施例(実験1)で用いた紫外光LEDの発光スペクトルを示す。 実験1において、紫外光を照射した植物(シロイヌナズナ)におけるアントシアニン量を示すHPLCクロマトグラム(500nm検出)。照射した紫外光のピーク波長は280nm(B〜D)又は310nm(F〜H)であり、照射時間は15分間(B,F)、4時間(C,G)又は4日間(D,H)である。A及びEは紫外光非照射コントロールである。 実施例(実験2)で用いた紫外光LEDの発光スペクトルを示す。ピーク波長280nm及び310nmの発光スペクトルは実験1で用いたものである。 実施例(実験2)において、紫外光を照射した植物(シロイヌナズナ)におけるフェノール性化合物量を示すHPLCクロマトグラム(500nm検出)。照射した紫外光のピーク波長を図において左側に示す。照射時間は0(すなわち、紫外光非照射コントロール;最左側欄)、15分間(左から2番目の欄)、4時間(左から3番目の欄)又は4日間(最右側欄)である。ピーク波長280nm及び310nmの結果は実験1のものである。 実施例(実験3)において、紫外光を照射した植物(スダチ(果皮)、ポドフィルム(根)、チャノキ(葉)及びダイズ(果皮))におけるフェノール性化合物量を示すHPLCクロマトグラム(258nm検出)。照射した紫外光のピーク波長は280nmであり、照射時間は、0(すなわち、紫外光非照射コントロール;最左側欄)、15分間(左から2番目の欄)又は4時間(左から3番目の欄)である。最右側欄は矢印で示したピークの吸収スペクトルを示す。 実施例(実験4)において、紫外光を照射したブドウ(果皮)におけるアントシアニン量を示すHPLCクロマトグラム(520nm検出)。照射した紫外光のピーク波長は280nmであり、照射時間は、0(すなわち、紫外光非照射コントロール;最左側欄)、15分間(左から2番目の欄)又は4時間(最右側欄)である。 実施例(実験5)において、紫外光照射後、12、24、48、72、92又は288時間暗置した植物(シロイヌナズナ)におけるアントシアニン量を示すHPLCクロマトグラム(500nm検出)。照射した紫外光のピーク波長は280nmであり、照射時間は15分間である。 植物におけるフェノール性化合物(アントシアニン)の生合成経路。 非特許文献1で用いられた紫外線ランプ(CSL-30B,COSMO BIO)の発光スペクトルを示す。
本発明は、1つの観点からは、植物中のフェノール性化合物の増量方法であって、植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とする方法である。
本発明は、別の1つの観点からは、フェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法であって、植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とする方法である。
本明細書において、数値範囲「a〜b」(a、bは具体的数値)は、両端の値「a」及び「b」を含む範囲を意味する。換言すれば、「a〜b」は「a以上b以下」と同義である。
本発明は、後記の実施例により示されるとおり、波長域約270〜290nm付近の紫外光が植物におけるフェノール性化合物の増量に有効である一方、波長域約310〜400nm付近の紫外光がフェノール性化合物の増量に寄与しないばかりか、悪影響すら及ぼすという新たな知見に基づく。よって、本発明の方法によれば、紫外光への曝露による悪影響(結果としてフェノール性化合物の存在量の低下をもたらす影響)を低減しつつ、植物におけるフェノール性化合物の増量に有効な特定の波長域の紫外光を照射することが可能になるため、植物中のフェノール性化合物を効率的に増量させることができる。
本発明において、紫外光は、遠紫外光に比べて大気中で吸収され難い近紫外光を用いることが好ましく、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように植物に照射する。
270〜290nmの波長域の紫外光の照射量が1500μmol/m2未満である場合、おそらくはフェノール性化合物合成系を有意に活性化するに至らないため、植物中のフェノール性化合物の有意な増量を達成できない。一方、270〜290nmの波長域の光の照射量が50000μmol/m2を超える場合、植物の損傷が大きくなるため、フェノール性化合物が増量した状態の植物を得ることができない。好ましくは、270〜290nmの波長域の光の照射量は2000〜40000μmol/m2である。この範囲の照射量を用いることで、フェノール性化合物が増量した植物をより効率的に得ることができる。
他方、310nm〜400nmの波長域の紫外光は、植物におけるフェノール性化合物の増量には寄与せず、むしろ植物の損傷に作用するため、その照射量が270〜290nmの波長域の紫外光の照射量の50%以上となると、フェノール性化合物が増量した状態の植物を効率的に得ることができなくなる。310nm〜400nmの波長域の光の照射量は、植物への悪影響を回避する観点から、270〜290nmの波長域の光の照射量の30%未満であることが好ましく、20%未満であることがより好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることが最も好ましい。
1つの実施形態においては、300nm〜400nmの波長域の光の照射量は、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満であり、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。別の1つの実施形態においては、290nmを超え400nm以下の波長域の光の照射量は、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満であり、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。
DNAやRNAの吸収極大波長が260nm付近であるため、波長が260nm以下の光は植物への悪影響(例えば細胞損傷)が大きいことが懸念される。よって、波長が200nm〜260nmの光の照射量は、270〜290nmの波長域の光の照射量の20%未満であることが好ましく、10%未満であることがより好ましく、5%未満であることがさらに好ましく、1%未満であることが最も好ましい。
1つの実施形態において、200nm以上270nm未満(好ましくは100nm以上270nm未満、より好ましくは10nm以上270nm未満、さらに好ましくは1nm以上270nm未満)の波長域の光の照射量は、270〜290nmの波長域の光の照射量の20%未満であり、好ましくは10%未満であり、より好ましくは5%未満であり、最も好ましくは1%未満である。
270〜290nmの波長域の紫外光は、例えば0.01〜100μmol/m2/sの光子量束密度で照射される。0.01μmol/m2/s未満の場合には、植物におけるフェノール性化合物の増量を効率的に達成できないことがある。100μmol/m2/sを超える場合には、植物の損傷を早期に誘導することがある。270〜290nmの波長域の紫外光は、好ましくは0.1〜20μmol/m2/s、より好ましくは1〜5μmol/m2/sの光子量束密度で照射される。
紫外光の光源としては、270〜290nmの波長域の光を照射できるものであれば特に制限されず、例えば、UVランプなどの一般に使用される紫外光光源を用いることができる。UVランプとしては、例えば、SrSiO3:Pb蛍光体を用いたキセノンランプを用いることが好ましい。また、紫外光として、太陽光から光学フィルターなどにより取り出したものを用いてもよい。
用いる光源が、270〜290nmの波長域の光とともに310nm〜400nmの波長域又は300nm〜400nmの波長域又は290nmを超え400nm以下の波長域の光を、270〜290nmの波長域の光の光子量束密度の50%以上で発するものである場合には、270〜290nmの波長域の光に対する透過率がそれぞれ310nm〜400nmの波長域又は300nm〜400nmの波長域又は290nmを超え400nm以下の波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを併せて用いてもよい。また、270〜290nmの波長域の光とともに200nm〜260nmの波長域又は270nm未満の波長域(例えば、200nm以上270nm未満、又は100nm以上270nm未満、又は10nm以上270nm未満、又は1nm以上270nm未満の波長域)の光を、270〜290nmの波長域の光の光子量束密度の10%以上で発するものである場合には、270〜290nmの波長域の光に対する透過率がそれぞれ200nm〜260nmの波長域又は270nm未満の波長域の光に対する透過率より大きいフィルターを併せて用いてもよい。
エネルギー効率の観点から、270〜290nmの波長域の光は、主ピーク波長を、例えば280±5nm内に、より好ましくは280±2nm内に有する光として照射される。第2ピークは存在しないか、存在してもその強度が主ピークの1/10以下であることが好ましい。
主ピーク(ピーク波長270〜290nm内)の半値幅は5〜15nmであることが好ましい。主ピークの半値幅が15nm以下であることにより、植物中のフェノール性化合物の増量に寄与しない(専ら有害であり得る)波長域の光の植物への照射を回避しつつ、植物中のフェノール性化合物の増量に有効な波長域の光の照射(すなわち、選択的照射)が可能となることに加え、エネルギー効率も更に向上する。主ピークの半値幅が5nm未満の光も、本発明の方法に使用可能であるが、費用対効果の観点から、主ピークの半値幅が5nm以上の光を用いることが現時点では好ましい。1つの好適な具体的実施形態においては、植物に照射される紫外光はピーク波長280±5nm及び半値幅5〜15nmの波長スペクトルを有する光である。
紫外光の光源としては、発光スペクトルにおいてシングルピークを有する発光ダイオード(LED)が特に好ましい。光源としてLEDを用いる場合、植物中のフェノール性化合物の増量に寄与しない(専ら有害であり得る)波長域の光の植物への照射を回避しつつ、植物中のフェノール性化合物の増量に有効な波長域の光の照射(すなわち、選択的照射)が容易に実現可能となる。また、LEDの使用は、低発熱性、低消費電力や長寿命に起因して、エネルギー効率及び経済性の観点からも好ましい。加えて、照射量及び/又は光子量束密度の制御/管理が容易になる。
270〜290nmの紫外光を発することができるLEDは、例えばAlGaN系材料やInAlGaN系材料を用いたものであり得る。このようなLEDの具体例としては、Deep UV-LED/型式 NCSU234BU280(中心波長280nm;日亜化学工業)が挙げられる。
270〜290nmの波長域の光の植物への照射量は、例えば、光源の点灯及び消灯の制御により(例えば、植物が閉鎖空間内に静置されている場合)、又は、植物が照射領域を通過するに要する時間の制御により(例えば、植物が搬送装置上を移動している場合)、1500〜50000μmol/m2に設定し得る。
本明細書において、植物は、特に限定されないが、草本が好ましい。植物は、例えば、被子植物、特に双子葉植物であり得る。本発明の方法に好適な双子葉植物には、例えばアブラナ科(特にアブラナ属、ダイコン属)、ナス科(特にナス属)、メギ科(特にミヤオソウ属)、ツバキ科(特にツバキ属)、マメ科(特にダイズ属)、ミカン科(特にミカン属)、ブドウ科(特にブドウ属)、バラ科(特にオランダイチゴ属)、キク科(特にアキノゲシ属)、シソ科(特にシソ属)の植物が含まれる。本発明に用いることができる植物の具体例としては、シロイヌナズナ、ポドフィルム、チャノキ、ダイズ、スダチ、ブドウ、キャベツ、ブロッコリー、コマツナ、チンゲンサイ、ダイコン、カブ、トマト、ナス、イチゴ、レタス及びシソなどが挙げられる。
本明細書において、植物は、UVR8光受容体を有する植物であり得る。
理論には拘束されないが、後述する遺伝子発現解析の結果によれば、270〜290nmの波長域の光は、植物のUVR8光受容体を介して、フェノール性化合物(例えば、フェニルプロパノイド、フラボノイド、アントシアニンなど)の生合成経路に関与する酵素や転写因子の遺伝子の発現をアップレギュレートし、その結果として、植物中のフェノール性化合物の生合成を活性化すると考えられる。
本発明に用いる植物は、シュート(茎及び葉)及び根系を含む植物体全体の形態であってもよいし、シュートのみのような植物体の一部分からなる形態であってもよい。
植物は、植物体全体の形態である場合、栽培状態にあってもよいし、非栽培状態(根を通じた栄養供給がない状態)であってもよい。ここで、栽培は土壌栽培であってもよいし、養液栽培(例えば、水耕栽培や固形培地耕)であり得る。養液栽培は無菌下で行うことができる。
栽培は制御環境下で行われてもよい。制御される環境条件には、例えば、明暗周期、温度、湿度、自然光及び/又は人工光の照射量、二酸化炭素濃度が含まれる。これら条件は、用いる植物の栽培/成長に適するものであれば特に制限されない。
明暗周期は、栽培する植物及び生育段階に応じて適切に選択することができる(例えば明期14〜18時間の長日条件、又は例えば明期6〜10時間の短日条件)。人工光の光源としては、従来使用されている白熱電灯、蛍光灯、白色灯、高圧ナトリウムランプ、メタルハライドランプ、LEDなどを用いることができる。人工光は、栽培する植物及び成長段階などに応じて適宜設定される光合成光子量束密度で照射される。光合成光子量束密度は、例えば100〜500μmol/m2/sであり得る。
温度は例えば20〜30℃であり得、湿度は例えば50〜80%であり得る。
二酸化炭素濃度は例えば約1000〜1500ppmであり得る。
肥料/液肥は、栽培する植物に応じて適切に選択することができる。一般には、肥料/液肥は、窒素、リン、カリウムを含む。
植物は、非栽培状態である場合、自然光下に又は暗所で、常温(例えば15〜30℃)下又は低温(例えば0〜15℃)下で貯蔵されているものであり得る。
本発明による紫外光照射時の植物は、いずれの生育段階のものであってもよい。1つの実施形態において、照射時の植物は栄養成長相であり、別の1つの実施形態においては、照射時の植物は非栽培状態(すなわち、収穫後のもの[収穫物])である。
植物は、幼植物体であっても、成植物体であってもよい。幼植物体はスプラウトであり得る。スプラウトは、発芽植物とも呼ばれ、種子発芽後、本葉展開前の幼植物体をいう。スプラウトは、例えば、温度20〜25℃の暗所で7日〜10日間栽培することにより得ることができる。
植物が栽培状態にある場合、本発明による紫外光の照射は、明期及び暗期のいずれに行なってもよい。
本発明の方法は、270〜290nmの波長域の光(紫外光)の照射後、植物を12時間以上暗置することを更に含んでいてもよい。本明細書において、「暗置」とは、植物を暗所又は暗室(光合成光量子束密度が当該植物において光合成を起こさせないレベル。より具体的には、光合成光量子束密度≦10μmol/m2/s)に置くことをいう。暗置時間は、好ましくは24時間以上、より好ましくは36時間以上、より好ましくは48時間以上、更に好ましくは72時間以上であり得る。暗置時間の上限は、当該植物中のフェノール性化合物の含有量を非照射植物に対して増加させる限り特に限定されないが、例えば300時間であり得、より具体的には288時間(未満)であってもよい。
暗置は、例えば、常温下又は低温下であり得る。
紫外光の照射後に植物を12時間以上暗置することにより、当該植物中のフェノール性化合物の量(含有量)が更に増加する。
本明細書において、フェノール性化合物は、用いる植物において天然に合成され得るものであれば特に制限されないが、例えばフェニルプロパノイド及びポリフェノールであり得る。ポリフェノールには例えばフラボノイド、タンニン、リグナンが含まれる。フラボノイドとしては例えばアントシアニン、フラバン(例えばカテキン)、フラボン、イソフラボン、フラボノールが挙げられる。
アントシアニンは、アントシアニジンに糖鎖(例えば、グルコース、ガラクトース、ラムノース)が結合した配糖体である。植物に含まれる一般的なアントシアニジンとしては、ペラルゴニジン、シアニジン、ペオニジン、デルフィニジン、ペチュニジン、マルビジンが挙げられる。アントシアニンは、赤〜紫〜青色を呈する、植物界に広く存在する色素であり、植物性着色料として(例えば食品に)利用されており、抗酸化物質としても知られるため、本発明により植物中で増量させるに好適なフェノール性化合物の1つである。
例えば、シロイヌナズナに含まれるアントシアニンの1つの例としては下記の化学式で表されるものが挙げられる。
(線で囲まれた部分がアントシアニジン部分であり、この場合、ペオニジン部分である。)
本明細書において、「フェノール性化合物の増量」又は「フェノール性化合物の含有量の増加」とは、本発明による紫外光照射を行っていない植物と比較して、フェノール性化合物の量が増加していること、例えば10%以上、好ましくは20%以上、より好ましくは50%以上、より好ましくは100%以上増加していることをいう[ブドウにおける15分間照射(2250μmol/m2)の結果を考慮して追加しました]。なお、「フェノール性化合物の増量」又は「フェノール性化合物の含有量の増加」には、照射前には合成されていなかったフェノール性化合物が照射後に新たに合成されるようになることも含まれる。
フェノール性化合物の定量は、公知の方法のいずれを用いて行ってもよく、例えばクロマトグラフィーにより行うことができる。クロマトグラフィーとしては液体クロマトグラフィー(例えばHPLC)が挙げられる。液体クロマトグラフィーは逆相クロマトグラフィーであり得る。
本発明に従う紫外光照射により、非照射のものと比較して、フェノール性化合物の量が1.1倍以上、好ましくは1.2倍以上、より好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、例えば3倍以上高い植物を生産することができる[同上]。よって、本発明の方法によれば、生産された植物を高付加価値食物として安価に提供することができる。
本発明の方法により生産された植物は、当該植物中の含有量が増加したフェノール性化合物を生産するための原料として好適である。
したがって、本発明は、フェノール性化合物の生産方法であって、
植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となる一方、310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射する工程
該植物からフェノール性化合物を取得する工程
を含んでなることを特徴とする方法も提供する。
本発明はまた、フェノール性化合物の生産方法であって、
植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となる一方、300nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満、200nm以上270nm未満の波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の10%未満となるように照射する工程
該植物からフェノール性化合物を取得する工程
を含んでなることを特徴とする方法も提供する。
植物からのフェノール性化合物の取得工程は、例えば、抽出により行うことができる。抽出は、公知の方法のいずれかにより行なうことができ、例えば溶媒抽出又は超臨界抽出による。
溶媒抽出に用いる溶媒には、公知の溶媒から適宜選択することができる。溶媒は、例えば、水(常温のもの〜沸騰水)、水と混和性の有機溶媒、又はこれらの混合溶媒(水と1以上の水と混和性の有機溶媒との混合溶媒、2以上の水と混和性の有機溶媒の混合溶媒)を用いることが可能である。水と混和性の有機溶媒は、極性有機溶媒であり得、例えば、メタノール、エタノール、n-若しくはイソ-プロパノール、アセトニトリル、アセトン、ジオキサン、酢酸エチル、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エチレングリコール、テトラヒドロフランが挙げられる。水は熱水又は沸騰水として用いてもよい。
抽出は加温(例えば80〜90℃)及び/又は加圧下で行なってもよい。抽出は還流抽出であってもよい。抽出時間は特に制限されず、抽出効率の観点から適切に決定できる。
抽出には、生育段階を問わず、植物の葉及び/又は茎を用いることができるが、好ましくは植物全体を用いる。植物は、そのまま抽出に用いてもよいが、粉砕して用いてもよい。抽出又は粉砕の前に、植物を乾燥及び/又は凍結させてもよい。
抽出液は、例えば、夾雑物を除去するため、適切なフィルターにより濾過してもよく、遠心分離に供されてもよい。
目的のフェノール性化合物がアントシアニンである場合、抽出には、例えば、極性有機溶媒を用いることができる。極性有機溶媒には酸が加えられていてもよい。酸は、例えば、塩酸、硫酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸又は過塩素酸であり得る。酸は、有機溶媒に、例えば0.1〜10%、好ましくは1〜3%の重量比で含まれ得る。抽出溶媒の具体例として、トリフルオロ酢酸、ギ酸又は酢酸/メタノールの混合溶媒、アセトン/メタノール/ギ酸又は酢酸の混合溶媒、塩酸/メタノール混合溶媒を挙げることができる。
得られた抽出物から、フェノール性化合物を精製してもよい。
精製は、例えばクロマトグラフィーにより行なうことができる。クロマトグラフィーは例えばカラムクロマトグラフィー(特にHPLC)であり得、逆相モードで行うことが好ましい。
カラムクロマトグラフィーに用いるカラムは、分離モードに応じて公知のものから適宜選択できる。逆相クロマトグラフィーには、一般にはオクタデシル化シリカゲル(ODS)カラム(C18カラムとも呼ばれる)が用いられるがこれに限定されず、例えばC30カラムを用いることもできる。
クロマトグラフィーでは、溶離液として、水、極性有機溶媒、又はこれらの混合溶媒(水と1以上の極性有機溶媒との混合溶媒、2以上の極性有機溶媒の混合溶媒)を用いることができる。極性有機溶媒は上記のとおりである。溶離液には、トリフルオロ酢酸、ギ酸、酢酸、リン酸、トリクロロ酢酸などの酸を、例えば0.01〜10M加えてもよい。
クロマトグラフィーでは、グラジエント法を採用できる。この場合、溶離液Aとして、任意に0.01〜10Mの酸を含む、極性溶媒と水との混合溶媒(例えば混合比0:100〜10:90)を用い、溶離液Bとして、任意に0.01〜10Mの酸を含む、混合極性溶媒(例えば混合比50:50)又は極性溶媒と水との混合溶媒(例えば混合比50:50〜100:0)を用い、グラジエントを、例えば30〜60分間で、A:B=100:0〜0:100の間とすることができる。
流速は特に限定されないが、例えば0.2〜2ml/分であり得る。
フェノール性化合物の検出は、例えば250〜300nmでの吸光度を測定することにより行うことができる。アントシアニンの検出は、500〜550nmでの吸光度を測定することにより行うことができる。
本発明の方法により生産されたフェノール性化合物は、機能性食品(特定保健用食品や栄養機能食品)、医薬品その他の工業製品の原料として用いることができる。よって、本発明の方法によれば、生産されたフェノール性化合物を機能性食品、医薬品その他の工業製品の原料として安価に提供することができる。
1つの実施形態において、植物はシロイヌナズナである。シロイヌナズナは比較的短期間で成長し、育成が容易であるため、本発明の方法によるフェノール性化合物(例えば、アントシアニン)の生産に好適である。
本発明はまた、波長域270〜290nmの光を発することができ、且つ波長域300nm〜400nmの発光量が波長域270〜290nmの発光量の50%未満で、波長域200nm以上270nm未満の発光量が波長域270〜290nmの発光量の10%未満である光源と、植物に対する波長域270〜290nmの光の照射量が1500〜50000μmol/m2となるように光源を制御する制御部とを備え、植物中のフェノール性化合物を増量させるために用いることを特徴とする照明装置に関する。
本発明の照明装置は、上述した、本発明に係る植物中のフェノール性化合物の増量方法、フェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法、及びフェノール性化合物の生産方法(まとめて、「本発明の方法」)における使用に有用である。
光源は、本発明の方法に関して上述したものと同様である。
光源は、好ましくは、200nm以上270nm未満(より好ましくは100nm以上270nm未満、より好ましくは10nm以上270nm未満、さらに好ましくは1nm以上270nm未満)の波長域の光の照射量が、270〜290nmの波長域の光の照射量の5%未満であり、より好ましくは1%未満である光源である。
光源はまた、好ましくは、300〜400nmの波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の30%未満、より好ましくは20%未満、さらに好ましくは10%未満である光源である。1つのより具体的な実施形態においては、光源は、290nmを超え400nm以下の波長域の光の照射量は、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満であり、好ましくは30%未満、より好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満である。
上記の観点から、光源の好適な具体例としては、LED又は(必要なフィルター(上記参照)を備えた)キセノンランプ(例えば、SrSiO3:Pb蛍光体を用いるもの)が挙げられるが、LEDがより好ましい。
本発明の照明装置は、光源を1つのみ有するものであってもよく、複数有するものであってもよい。
制御部は、光源の点灯及び消灯のタイミング並びに/又は調光を制御する。制御部は、例えば、タイマー及び/又はパルス幅変調回路であり得る。
本発明の照明装置は、植物を栽培及び/又は保管するための閉鎖空間内に設置され得る。閉鎖空間は、植物を栽培及び/又は保管することが可能である限り、形状、大きさについて制限されず、例えば、植物栽培施設、植物工場、倉庫、コンテナ、冷蔵庫などであり得る。
閉鎖空間内において、照明装置は、植物の上方及び/又は側方及び/又は下方に配置され得る。
閉鎖空間内には、内部の温度及び/又は湿度を所定値に制御する空調装置が設置されていてもよい。
1つの好適な実施形態において、閉鎖空間の光合成光量子束密度は、照明装置からの波長域270〜290nmの光の照射量が1500〜50000μmol/m2に達した後12時間以上の間、10μmol/m2/s以下(すなわち、「暗所」又は「暗室」状態)に保たれる。暗所状態は、より好ましくは24時間以上、より好ましくは36時間以上、より好ましくは48時間以上、更に好ましくは72時間以上継続される。暗所状態の継続時間の上限は、当該植物中のフェノール性化合物の含有量を非照射植物に対して増加させる限り特に制限されないが、例えば300時間であり得、288時間(未満)であってもよい。
(実験1)
シロイヌナズナをMS(Murashige-Skoog)寒天培地にて無菌的に栄養育成した。具体的には、滅菌処理した種子をMS寒天培地に播種し、温度22〜23℃にて、植物インキュベータ(BMS-PS08RGB2、バイオメディカルサイエンス)中で、長日条件(明期16時間/暗期8時間;光合成有効光量子束密度200μmol/m2/s)下、播種から14日間育成した。
14日間の育成後、シロイヌナズナに、LEDを用いて、ピーク波長280nm(半値幅10nm;Deep UV-LED/型式:NCSU234BU280)又はピーク波長310nm(半値幅10nm;Deep UV-LED/型式:NCSU234BU310)の紫外光を、光量子数2.5μmol/m2/sの照度にて、15分間、4時間又は4日間連続で照射した(積算光量子数:2250、36000及び864000μmol/m2)。用いたLEDの発光スペクトルを図1に示す。
その後、アントシアニンの測定まで暗所に静置した。コントロールとして、紫外光を照射することなく暗所に24時間静置したものを用いた。
紫外光照射の24時間後、シロイヌナズナ(乾燥重量約30mg)を凍結粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。
得られた抽出液のアントシアニン量を下記の条件により高速液体クロマトグラフィー(LC-10、島津製作所)で分析した。
HPLC条件
・カラム:ODSカラム(Kinetex 5u C18 100 A、Phenomenex)
・カラム温度:40℃
・流速:2ml/分
・注入量:10μl
・移動相:溶離液A 0.1%ギ酸水溶液
溶離液B 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
リニアグラジエント 49分間かけてB:1%〜99%
・検出:210〜750nm
結果を図2に示す。
ピーク波長280nmの紫外光を15分間又は4時間照射したシロイヌナズナでは、アントシアニンの量(ピーク高)がコントロール(A)に対してそれぞれ3倍以上(B)又は2倍近く(C)に増加した。4日間照射後の植物では、アントシアニンは検出できなかった(D)。
一方、ピーク波長310nmの紫外光を15分間、4時間又は4日間照射したシロイヌナズナでは、アントシアニンの量はコントロール(E)に対していずれも低下していた(F〜H)。
この結果から、シロイヌナズナにおけるアントシアニン量の増加には、280nm付近の紫外光の照射が有効である一方、310nm付近の紫外光の照射は寄与しないどころか、アントシアニン量の低下を引き起こす何らかの負の影響をもたらすことが示された。
(実験2)
用いたLEDのピーク波長が270nm(半値幅10nm;Deep UV-LED/型式:NCU234BU270)又は300nm(半値幅10nm;Deep UV-LED/型式:NCU234BU300)であり、照射時間がピーク波長270nmについては15分間(積算光量子数:2250μmol/m2)、ピーク波長300nmについては15分間若しくは4時間(積算光量子数:それぞれ2250及び36000μmol/m2)であること以外は実験1と同様の実験を行った。用いたLEDの発光スペクトルを図3に示す。なお、図3において、比較のために、ピーク波長280nm及び310nmの発光スペクトルも示した。
結果を図4に示す。なお、図には、比較のために、実験1の結果も示した。
ピーク波長270nmの紫外光を15分間、又はピーク波長300nmの紫外光を15分間若しくは4時間照射したシロイヌナズナでは、アントシアニンの量(ピーク高)がコントロールに対していずれも低下していた。
この結果から、270nm未満の紫外光の照射も300nm付近の紫外光の照射も、シロイヌナズナにおけるアントシアニン量の増加には寄与しないどころか、むしろアントシアニン量の低下を引き起こす何らかの負の影響をもたらすことが示された。
実験1及び2に用いたLEDの波長成分比を示す。
(実験3)
採取又は購入したスダチ(果皮)、ポドフィルム(根)、チャノキ(葉)及びダイズ(果皮)に、LED(Deep UV-LED/型式:NCSU234BU280)を用いて、ピーク波長280nm(半値幅10nm)の紫外光を、光量子数5μmol/m2/sの照度にて、15分間連続照射した(積算光量子数:4500μmol/m2)。葉や茎に対しては、乾燥及び老化を防ぐため純水に軽く浸した状態で紫外線を照射した。
その後、フェノール性化合物の測定まで暗所に静置した。コントロールとして、紫外光を照射することなく暗所に24時間静置したものを用いた。なお、葉や茎については、乾燥及び老化を防ぐため純水に軽く浸した状態で暗置した。
紫外光照射の24時間後、各植物の部位(乾燥重量約30mg)を凍結粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。
得られた抽出液のフェノール性化合物量を下記の条件により高速液体クロマトグラフィー(Prominence、島津製作所)で分析した。
HPLC条件
・カラム:ODSカラム(Triart C18 (150×4.6mm, S-5μm)、YMC)
・カラム温度:40℃
・流速:1ml/分
・注入量:10μl
・移動相:溶離液A 0.1%ギ酸水溶液
溶離液B 0.1%ギ酸アセトニトリル溶液
リニアグラジエント 30分間かけてB:1%〜100%
・検出:190〜800nm
結果を図5に示す。
ピーク波長280nmの紫外光を15分間又は4時間照射したスダチ(果皮)、ポドフィルム(根)、チャノキ(葉)及びダイズ(果皮)で、フェノール性化合物の特徴である250〜300nm付近に吸収を有するピークの増加が確認できた。
この結果から、280nm付近の紫外光の照射は、スダチ、ポドフィルム、チャノキ及びダイズにおけるフェノール性化合物の増加に有効であることが示された。
(実験4)
購入したブドウの個々の実(果皮)に、LED(Deep UV-LED/型式:NCSU234BU280)を用いて、ピーク波長280nm(半値幅10nm)の紫外光を、光量子数2.5μmol/m2/sの照度にて、15分間又は4時間連続照射した(積算光量子数:それぞれ2250又は36000μmol/m2)。その後、フェノール性化合物の測定まで暗所に静置した。コントロールとして、紫外光を照射することなく暗所に24時間静置したものを用いた。
紫外光照射の24時間後、果皮(乾燥重量約40〜100mg)を凍結粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。得られた抽出液のフェノール性化合物量を、実験3と同条件により高速液体クロマトグラフィー(Prominence、島津製作所)で分析した。
結果を図6に示す。
ピーク波長280nmの紫外光を15分間又は4時間照射したブドウ(果皮)で、アントシアニンの特徴である520nm付近に吸収を有するピークの総面積の増加が確認できた(非照射コントロールに対して1.2〜1.9倍増加)。
この結果から、280nm付近の紫外光の照射は、非照射状態でアントシアニン含有量が多いブドウにおいても、アントシアニンの更なる増加に有効であることが示された。
(実験5)
実験1に記載の方法に従って、シロイヌナズナに、ピーク波長280nmの紫外光を15分間連続照射した(積算光量子数:2250μmol/m2)。
その後、アントシアニンの測定まで12、24、48、72、96又は288時間暗所に静置した。
暗置後、シロイヌナズナ(乾燥重量約30mg)を凍結粉砕し、80%メタノールを用いる溶媒抽出に供した。
得られた抽出液のアントシアニン量は、実験1に記載の方法に従って分析した。
結果を図7に示す。図中に示す倍数(例えば、「×0.4」や「×4.0」)は、紫外光照射後24時間暗置したときの量(基準値)に対するものである。なお、紫外線照射後に24時間暗置したときには、アントシアニン量が、非照射コントロールに対して3倍増加していること留意されたい[図1を参照]。すなわち、紫外光照射後24時間暗置時に対する「0.4倍」及び「4倍」は、非照射コントロールに対してはそれぞれ「1.2倍」及び「12倍」を意味する。
この結果から、紫外光照射後24時間以上暗置すると、紫外線照射植物におけるフェノール化合物の量が更に増加することが示された。
(実験6)
遺伝子発現解析
トータルRNAの調製
トータルRNAは、ピーク波長280nm(半値幅10nm;Deep UV-LED/型式:NCSU234BU280)の紫外光を45分間照射したシロイヌナズナから、照射後すぐに、RNeasy mini kit (Qiagen)を用い、取扱説明書に従って調製した。

発現解析
調製したトータルRNAについてRNA-seq解析を行った(タカラバイオ株式会社)。シーケンス解析には、HiSeq2500システム(イルミナ社)を用い、参照配列データとしてTAIR10.37を用いた。
表2に、発現量(FPKM;Fragments Per Kilobase of exon per Million mapped reads)が2倍以上となった遺伝子を示す。
表中、「*」が付された遺伝子は、フェノール化合物の生合成経路(図8)に関与する酵素の遺伝子であることを示す。
280nm付近の紫外光を照射した植物におけるアントシアニンの増量は、280nm付近の紫外光が、光受容体UVR8の活性化(単量体化)を介して、UV-B光受容体媒介シグナル伝達系を刺激し(表2)、結果として、シキミ酸経路の律速の1つであるカルコンシンターゼの発現を増大させたことによるものと推察される。したがって、280nm付近の紫外光の照射により、植物中では、アントシアニンの量のみならず、シキミ酸経路を経て合成されるフェノール性化合物一般が増量すると考えられる(実験3及び4、図5及び6)。
また、光受容体UVR8、UV-B光受容体媒介シグナル伝達系及びシキミ酸経路は、シロイヌナズナのみならず植物界一般に存在するため、280nmの紫外光の照射により、植物一般において、フェノール性化合物の量が増加すると考えられる。

Claims (21)

  1. 植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となり、且つ310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270nm〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とする植物中のフェノール性化合物の増量方法。
  2. 前記310nm〜400nmの波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の10%未満である請求項1に記載の方法。
  3. 300〜400nmの波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満である請求項1に記載の方法。
  4. 前記270〜290nmの波長域の光が1〜5μmol/m2/sの光子量束密度で照射される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 200nm〜260nmの波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の20%未満である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 200nm以上270nm未満の波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の10%未満である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記紫外光がピーク波長280±5nm及び半値幅5〜15nmの波長スペクトルを有する光である請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記紫外光がLEDを光源とする光である請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
  9. 植物への紫外光照射が暗所で行われる請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 紫外光照射後、植物を12時間以上暗置することを更に含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
  11. 植物を48時間以上288時間未満暗置する請求項10に記載の方法。
  12. 前記植物がアブラナ科、メギ科、ツバキ科、マメ科、ミカン科又はブドウ科植物である請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記植物がシロイヌナズナ、ポドフィルム、チャノキ、ダイズ、スダチ、ブドウ、キャベツ、ブロッコリー、コマツナ、チンゲンサイ、ダイコン、カブ、トマト、ナス、イチゴ、レタス及びシソから選択される植物である請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
  14. 前記フェノール性化合物がポリフェノールである請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記ポリフェノールがフラボノイドである請求項14に記載の方法。
  16. 前記フラボノイドがアントシアニンである請求項15に記載の方法。
  17. 植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となる一方、310nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満となるように照射することを特徴とするフェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法。
  18. 植物に、紫外光を、270〜290nmの波長域の光の照射量が1500〜50000μmol/m2となる一方、300nm〜400nmの波長域の光の照射量が前記270〜290nmの波長域の光の照射量の50%未満、200nm以上270nm未満の波長域の光の照射量が、前記270〜290nmの波長域の光の照射量の10%未満となるように照射することを特徴とするフェノール性化合物の含有量が増加した植物を生産する方法。
  19. 植物がスプラウト状態である請求項17又は18に記載の方法。
  20. 植物が非栽培状態である請求項17又は18に記載の方法。
  21. 波長域270〜290nmの光を発することができ、且つ波長域300nm〜400nmの発光量が波長域270〜290nmの発光量の50%未満で、波長域200nm以上270nm未満の発光量が波長域270〜290nmの発光量の10%未満である光源と、
    植物に対する波長域270〜290nmの光の照射量が1500〜50000μmol/m2となるように光源を制御する制御部
    を備え、植物中のフェノール性化合物を増量させるために用いることを特徴とする照明装置。
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