JP2019178372A - 無方向性電磁鋼板およびその製造方法、並びにモータコアおよびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
Description
一方で、窒化により形成したAlN析出物は、鋼板を硬質化させるため打ち抜き金型の摩耗を促進してしまう懸念はあるものの、硬質化は鋼板表層のみにとどまり金型の摩耗への影響は小さい。むしろ鋼板表層のみが硬質化することで、打ち抜き時のダレやバリの発生を顕著に抑制することが期待できる。
<1>
質量%で、
C :0.0010〜0.0050%、
Si:2.5〜5.0%、
Al:0.02〜2.00%、
Mn:0.10〜2.00%、
N :0.0010〜0.0050%、
P :0.0200%以下、
S :0.0050%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有し、かつNd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種を合計量で0.0010〜0.1000%含有する化学組成を有し、
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域において、すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比
(針状のAlN析出物の個数密度)/(すべてのAlN析出物の個数密度)
が、0.50以上である無方向性電磁鋼板。
<2>
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度が、30〜500個/μm2である<1>に記載の無方向性電磁鋼板。
<3>
鋼板の表面からの深さが20〜40μmの内層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度が、30個/μm2未満である<1>又は<2>に記載の無方向性電磁鋼板。
<4>
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、前記針状のAlN析出物の平均径が10〜300nmである<1>〜<3>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<5>
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、平均結晶粒径が0.1〜10μmである<1>〜<4>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
<6>
スラブを1180〜1280℃に加熱した後、仕上げ圧延時の最終圧延温度950〜1280℃で熱延する熱延工程と、
熱延後の熱延板を、巻き取り温度700〜1000℃で巻き取る巻き取り工程と、
巻き取り後の熱延板を、熱延板焼鈍を実施することなく、圧下率70〜90%で冷延する冷延工程と、
均熱温度950〜1050℃、冷延板に付与する張力1〜5MPaで、かつ少なくとも750℃以上の温度域の雰囲気を露点0〜50℃および窒素分率80〜90%とし、冷延後の冷延板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と、
を有する<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。
<7>
<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
<8>
<1>〜<5>のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る打ち抜き工程と、
前記打ち抜き部材を積層する積層工程と、
を有するモータコアの製造方法。
なお、本明細書中において、「〜」を用いて表される数値範囲は、特に断りがない場合、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
化学組成の元素の含有量は、元素量(例えば、C量、Si量等)と表記する。
本実施形態に係る無方向電磁鋼板(以下、「電磁鋼板」又は「鋼板」とも称する)は、質量%で、C :0.0010〜0.0050%、Si:2.5〜5.0%、Al:0.02〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、N :0.0010〜0.0050%、P :0.0200%以下、S :0.0050%以下、並びに残部:Feおよび不純物を含有し、かつNd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種を合計量で0.0010〜0.1000%含有する化学組成を有する。
そして、本実施形態に係る電磁鋼板は、鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域において、すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比、(針状のAlN析出物の個数密度)/(すべてのAlN析出物の個数密度)、が、0.50以上である。
AlN析出物による鉄損の悪化が生じる電磁鋼板を調べたところ、AlN析出物の形状は、球状であった。また、球状のAlN析出物は、鋼板内部深くまで確認された。
このうち、鋼板板厚の中心領域に存在するAlN析出物は、本発明者らが注目する窒化とは別に、スラブ時点で含有していたAlとNが結合して形成されるものと考えられる。
本実施形態に係る電磁鋼板は、C、Si、Al、Mn、N、P、およびSと、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種と、を含有し、残部:Feおよび不純物からなる化学組成を有することがよい。
Cは、鋼中に固溶Cとして存在して、温間圧延時の動的ひずみ時効による集合組織改善効果を発現することにより、磁束密度を向上させる。その効果を得るために、C量は0.0010%以上とする。一方、C量は0.0050%を超えると微細な炭化物が析出して磁気特性が劣化する。従って、C量は0.0010%以上、0.0050%以下とする。C量は、好ましくは0.0010%以上0.0040%以下である。
Siは、鋼板の固有抵抗を増加させ、渦電流損を低減する作用を呈する。また、Siは、ヒステリシス損を低減する作用も有する。このため、Siを積極的に含有させることが望ましく、Si量は2.5%以上が必要である。一方、Si量が5.0%を超えると、温間圧延での圧延性、および打抜き加工性が低下する。従って、Si量は2.5%以上、5.0%以下とする。Si量は、好ましくは3.0%以上4.5%以下である。
Alは、製鋼工程において脱酸材として一般的に使用される元素であるが、AlN析出物を形成し、その形態を制御する必須の元素である。この効果を得るために、Al量は0.02%以上とする。また、Alは、Siと同様に鋼の固有抵抗を増加させ鉄損を低減させる。さらに比較的多量に含有させれば、本実施形態の特徴的な製法でもある窒化により形成させる鋼板の表層領域のAlN析出物の存在とは無関係に、窒化よりも前の工程で鋼板内層領域に形成されるAlN析出物を粗大にして無害化することもできる。これらの作用を得るためには、Al量は0.10%以上が好ましい。一方、Al量が過剰になると酸洗の能率低下、ヒステリシス損増加という悪影響が顕著になるため、2.00%以下とする。Al量は、好ましくは0.20%以上1.50%以下である。
なお、Al量は、sol.Al量を意味する。
Mnは、鋼の固有抵抗を高め、硫化物を粗大化して無害化する作用を呈する。この作用を得るため、Mn量は0.10%以上が必要である。一方、Mn量が2.00%を超えると、磁束密度の低下及びコストの上昇を招く。従って、Mn量は0.10%以上2.00%以下とする。Mn量は、好ましくは0.20%以上1.50%以下である。
最終製品(鋼板)におけるN量は、表層領域へのAlN析出物の形成手段の一つでもある窒化に伴い増加するN量を含めた含有量で規定する。また窒化に伴い鋼板の板厚方向にはN量の少なからざる変化が生じ、表層領域のN量が高くなる。このため、例えば表層領域のAlN析出物の制御を考慮してN量を決定する場合、表層領域のN量だけが重要となる。一方で鋼板全体でのAlN析出物による鉄損への悪影響を考慮する場合は、内層領域のN量を含めた検討が必要となる。これらの影響を別々に考慮すること自体は、一般的に窒化を意識(活用または抑制)して鋼板を製造している当業者において、日常業務ともいえる程度のものであり、困難なものではない。つまり、表層領域および内層領域におけるAlN析出物の形成を考慮したN量の制御自体は、特別な配慮が必要な事項ではない。
このような事情から本実施形態に係る鋼板の実現において、これらを分けて規定することにさほど大きな意味はないと判断し、本実施形態では、Nの影響を表層領域と内層領域に分けることなく、N量を全板厚の平均により規定する。
一方、N量は0.0050%を超えるとAlN析出物の量が過剰となり磁気特性の劣化を避けることが困難となる。よって、N量は0.0050%以下とする。
ここで、例えば、窒化により表層領域のAlN形成が制御されている場合、板厚平均でN量0.0050%であるとすると、表層領域ではN量0.0055%、内層領域ではN量0.0045%というような状況が考えられる。この場合は、N量0.0050%超えとなる表層領域では過剰なAlN析出物が析出されることなる。しかし、表層領域及び内層領域を含む鋼板全体としては、過剰なAl析出物の析出が抑えられており、鉄損の低下が抑制される。
また、別の例としては、表層領域ではN量0.0080%、内層領域ではN量0.0005%と、板厚方向に顕著なN量の変動が形成され、板厚平均でN量0.0050%となっているような状況が考えられる。この場合は、N量0.0010%以下となる内層領域にはAlN析出物はほとんど形成されないが、N量0.050%超えとなる表層領域に多量に形成されるAlN析出物が鋼板の鉄損を低下させていることになる。しかし、表層領域及び内層領域を含む鋼板全体としては、過剰なAl析出物の析出が抑えられており、鉄損の低下が抑制される。
なお、N量は、好ましくは0.0010%以上0.0040%以下である。
P量が0.0200%超では、冷間圧延時に破断を生じる可能性がある。したがって、P量は、0.0200%以下とする。P量の下限値は、特に制限はないが、脱Pのコスト及び生産性の観点から、0.0100%とすることが好ましい。
S量が0.0050%を超えるとMnS等の硫化物量が多くなり、鉄損が増加する。従って、S量は0.0050%以下とする。S量の下限値は、特に制限はないが、脱Sのコスト及び生産性の観点から、0.0010%以上とすることが好ましい。
Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgは、MnS硫化物を粗大化し、無害化する作用を呈する。そのため、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種の合計量は、0.0010%以上とする。Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種の合計量が過度に多すぎると、磁性に影響をもたらさない適切なAlN析出物の粒径を保つことができなくなる。そのため、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種の合計量は、0.1000%以下とする。従って、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種の合計量は、0.0010〜0.10%とする。Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種の合計量は、好ましくは0.0010%〜0.0050%である。
Ca量は、0.0010〜0.030%が好ましく、0.0010〜0.0200%がより好ましい。
Mg量は、0.0010〜0.0300%が好ましく、0.0010〜0.0200%がより好ましい。
ここで、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgは、少なくとも1種含有すればよいので、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgのうち、1種を含めば、他の元素量は0%であってもよい。
鋼板の残部は、Feおよび不純物元素である。ここで、不純物元素とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。
本実施形態に係る電磁鋼板は、次の元素の少なくとも1種を含有していてもよい。
Cu:0〜0.20%(好ましくは0超え〜0.20%、より好ましくは0.05〜0.20%)
Ni:0〜0.2%(好ましくは0超え〜0.2%、より好ましくは0.05〜0.2%)
Cr:0〜0.3%(好ましくは0超え〜0.3%、より好ましくは0.05〜0.2%)
Sn:0〜0.20%(好ましくは0超え〜0.20%、より好ましくは0.1〜0.20%)
Ti:0〜0.005%(好ましくは0超え〜0.005%、より好ましくは0.001〜0.003%)
Mo:0〜0.20%(好ましくは0超え〜0.10%、より好ましくは0.005〜0.05%)
Sb:0〜0.20%(好ましくは0超え〜0.15%、より好ましくは0.010〜0.10%)
無方向性電磁鋼板の絶縁皮膜等を除去する方法としては、例えば、次の方法が挙げられる。
まず、絶縁皮膜等を有する無方向性電磁鋼板を、水酸化ナトリウム水溶液(NaOH:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で15分間、浸漬する。次いで、硫酸水溶液(H2SO4:10質量%+H2O:90質量%)に、80℃で3分間、浸漬する。その後、硝酸水溶液(HNO3:10質量%+H2O:90質量%)によって、常温(25℃)で1分間弱、浸漬して洗浄する。最後に、温風のブロアーで1分間弱、乾燥させる。これにより、絶縁皮膜等が除去された鋼板を得ることができる。
本実施形態に係る電磁鋼板は、鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域(以下、単に「表層領域」とも称する。)に、針状のAlN析出物が存在する。
「針状のAlN析出物」とは、AlN析出物のアスペクト比(長径/短径)を測定したとき、アスペクト比が5〜10の範囲にあるAlN析出物を意味する。針状のAlN析出物のアスペクト比が5未満であると、AlN析出物による鉄損の悪化が生じるとともに打ち抜き加工時のバリ発生の抑制効果が小さくなる。AlN析出物のアスペクト比が10を超えると、鉄損に悪影響を及ぼし始めることがある。
測定対象の鋼板から、圧延方向かつ板厚方向に沿って切断した切断面(以下「L断面」とも称する)を有する試料を採取し、L断面を鏡面研磨する。
次に、走査型顕微鏡(SEM)又は透過型顕微鏡(TEM)により、試料の鏡面研磨されたL断面のうち、鋼板の表面から深さ20μm、幅20μmに相当する領域(つまり、鋼板の表面を一辺とする20μm×20μmの領域)を1000〜50000倍率で観察する。
次に、観察画像において、AlN析出物の析出物を識別する。AlN析出物の識別は、SEM又はTEM付属機能のEDS(エネルギー分散型X線分光器)の点分析にて実施する。観察される析出物内の中央部に電子線を照射し、得られるスペクトルでAlとNが同時に検出されるものをAlN析出物と判定する。
また、状況によっては複数の析出物が観察方向に重なった状態で観察されることもあるが、基本的に1個の析出物は略円形〜略四角形(略長円形〜略長方形)であるものとして、分離して1個の析出物として計測を行うものとする。
次に、AlN析出物の長径及び短径を測定し、アスペクト比を算出する。ここで、長径は、AlN析出物の最大長とする。短径は、長径に沿った方向(つまり長軸)に直交する方向に沿ったAlN析出物の長さのうち、最も大きい長さとする。そして、このアスペクト比の算出を、上記の観察領域内のすべてのAlN析出物について行う。
そして、長径と短径の平均を個々のAlN析出物の径とするとともに、観察視野の面積および観察個数から、AlN析出物の個数密度を計算する。
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域において、すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比、(針状のAlN析出物の個数密度(個/μm2))/(すべてのAlN析出物の個数密度(個/μm2))、は、0.50以上とする。
これは、表層領域においては、AlN析出物の過半数が針状となっていることを意味する。すべてのAlN析出物の析出量および個数密度が同じである前提で比較すると、この比が0.50未満では、AlN析出物による鉄損への悪影響が大きくなるとともに打ち抜き加工時のバリ発生の抑制効果を十分に得ることができない。
すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比は、好ましくは0.70以上、さらに好ましくは0.90以上である。表層領域に存在するすべてのAlN析出物が針状であることが好ましいが、後述するようにAlN析出物を特定の熱処理で制御することを前提とすると、窒化よりも前の工程、溶解〜凝固〜熱延工程で形成されたAlN析出物は球状の形態となりやすく、窒化後もこの球状のAlN析出物が少なからず残存することが考えられる。さらに基本的には窒化は抑制することが好ましいことも考慮すると、窒化により新たに形成されるAlN析出物の量にもよるが、実用的には上記比の上限は0.99程度となる。
AlN析出物が鉄損に悪影響を及ぼすことは良く知られており、鉄損の観点からAlN析出物の個数密度が低いことが好ましいことは当業者においては常識とも言える。つまり、AlN析出物の個数密度が低い領域では本発明の課題のひとつである鉄損の悪化抑制が達成されることは自明であり、課題自体が存在しなくなる。また、本発明のもう一つの課題である窒化物を活用して打ち抜き性を改善することが困難となる。これらを考慮し、本発明においては、表層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度の下限を30個/μm2と設定することがよい。50個/μm2以上、さらには80個/μm2以上であれば、発明効果をより顕著に得ることが可能となる。
一方、AlN析出物の析出量が多すぎると、その大部分が針状であったとしても鉄損の悪化を避けることは困難となるため、すべてのAlN析出物の個数密度の上限を500個/μm2とすることがよい。好ましくは300個/μm2以下である。
本発明は、Nd、Pr、La、Ce、CaおよびMgを添加した際に不可避的に生ずる窒化によるAlN析出物の形成を背景とし、表層領域のAlN析出物による悪影響を回避するとともに積極的に活用するものであることは前述の通りである。発明鋼は、鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域の特徴で規定できることは既に説明した。これによる効果は、鋼板の表面からの深さが20μm超となる領域のAlN析出物の状態によらず得られるものではあるが、窒化によるAlN析出物の形成領域が20μmを超えて鋼板の内部にまで及ぶことにメリットはなく、特に磁気特性にとっては好ましいものではない。本発明ではこれを考慮し、鋼板の表面からの深さが20μm超となる領域のAlN析出物の状態を規定する。これは、鋼板の表面からの深さが20μm超となる領域にまでは窒化により鋼板表面から侵入した窒素原子が十分には到達していない状態を想定するものである。つまり、鋼板の表面からの深さが20μmである位置よりも鋼板の中心側の領域(内層領域)では、鋼中の窒素濃度は表層領域の窒素濃度よりも有意に低く、AlN析出物の析出量(個数密度および析出径)は十分に小さな値となる。また、窒化によるAlN析出物がほとんど存在しないことから、形態についても針状であるものは少なく、AlN析出物の大部分がアスペクト比5未満の球状の形態を有するものとなる。
本発明は、このような状況を代表するものとして、鋼板の表面からの深さが20〜40μmの内層領域(つまり、鋼板の表面からの深さが20μmを超え40μm以内の内層領域)における、AlN析出物の個数密度が、30個/μm2未満であることを好ましい形態として規定する。好ましくは15個/μm2未満、さらに好ましくは5個/μm2未満である。AlN析出物の個数密度の下限は、0個/μm2が最も好ましいが、製造上の観点から、0.5個/μm2が現実的である。
なお、本発明では定量的な規定はしないが、鋼板の表面からの深さが40μmである位置よりもさらに鋼板の中心側の任意の領域についても同様の状況にあることは言うまでもない。
表層領域における針状のAlN析出物の平均径は、10〜300nmが好ましく、70〜300nmがより好ましく、100〜250nmがより好ましい。
「表層領域における針状のAlN析出物の平均径」とは、表層の20μm×20μmの領域内の針状のAlN析出物について前述のように測定した個々のAlN析出物の径(長径と短径の平均値)を、領域内のすべての針状のAlN析出物について平均したものである。注意を要するのは、平均の対象となるのは「針状」のものだけであり、球状(アスペクト比が5未満)またはアスペクト比が10超のAlN析出物は平均の対象ではないことである。
針状のAlN析出物の平均径が小さすぎると、鉄損が悪くなることがある。一方、針状のAlN析出物の平均径が大きすぎると、表層領域の硬質化が不十分となり打ち抜き加工性が十分に向上しないことがある。よって、針状のAlN析出物の平均径は、上記範囲が好ましい。
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における平均結晶粒径は0.1〜10μmが好ましい。
本実施形態に係る鋼板は焼鈍での窒化に伴う表層領域でのAlN析出物の形成のため、表層領域の粒成長が少なからず抑制され表層領域に微細結晶粒が残存することがある。一般的に微細な結晶粒は磁気特性、特に鉄損にとっては好ましからざる状態であるが、微細結晶粒の残存範囲は極表層に限定されるため、この悪影響は比較的小さい。むしろ、本実施形態に係る鋼板においては、上述のAlN析出物の形態の異方性と相まって、打ち抜き性に有利に作用する。
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域おける平均結晶粒径が上記範囲であると、打ち抜き加工時のバリの発生が抑制され易くなる。
測定対象の鋼板から、圧延方向及び板厚方向に沿って切断した切断面(以下「L断面」とも称する)を有する試料を採取する。
次に、試料のL断面を鏡面研磨の後、ナイタールエッチングし、L断面の粒界を腐食させて発現させる。
次に、光学顕微鏡又は走査型顕微鏡(SEM)により、試料のL断面のうち、鋼板の表面から深さ20μm、幅1000μmに相当する領域(つまり、鋼板の表面を一辺とする20μm×1000μmの領域)を観察する。
次に、次に、線分法により、観察画像の深さ方向中央(深さ10μmの位置)で圧延方向に沿った試験線を引き、結晶粒内を横切る試験線の長さを測定する。
同様の観察を、結晶粒内を横切る試験線の測定数の合計が100以上、つまり結晶粒径の測定データが100以上となるような視野数で実施する。そして、得られたすべての試験線の長さの平均値を、表層領域における平均結晶粒径とする。
本実施形態に係る電磁鋼板を得るための製造方法は、特に制限はないが、次の(1)〜(4)の工程を有する製造方法が好ましい。次の(1)〜(4)の工程を有する製造方法によれば、上記特性を有する針状のAlN析出物が表層領域に存在する電磁鋼板が得られる。
(2)熱延後の熱延板を、巻き取り温度700〜1000℃で巻き取る巻き取り工程
(3)巻き取り後の熱延板を、熱延板焼鈍を実施することなく、圧下率70〜90%で冷延する冷延工程
(4)均熱温度950〜1050℃、冷延板に付与する張力1〜5MPaで、かつ少なくとも750℃以上の温度域の雰囲気を露点0〜50℃および窒素分率80〜90%とし、冷延後の冷延板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程
熱延工程では、スラブを1180〜1280℃(好ましくは1200〜1260℃)に加熱する。
なお、スラブは、次の方法により製出する。まず、転炉、電気炉等により溶製し、さらに必要に応じて真空脱ガス処理して、溶鋼を得る。そして、得られた溶鋼を、連続鋳造または造塊後分塊圧延し、30〜400mm程度の厚さのスラブを製出する。
ここで、スラブの厚さが30〜70mmの範囲である薄いスラブ(いわゆる薄スラブ)であれば、以降の熱延工程において、仕上げ圧延前の粗圧延を省略できる。
最終圧延温度を950〜1280℃と高温にすることは、後述の熱延板焼鈍を実施しないことと合わせることで、打ち抜き加工性に有利に作用する。この理由は明確ではないが以下のように推測している。最終圧延温度を高温として熱延板焼鈍を実施しない場合、冷延および仕上げ焼鈍後の鋼板の、特に表層領域の結晶方位のランダム化が進行する。針状のAlN析出物は、AlN析出物が仕上げ焼鈍で再結晶した結晶粒の特定の結晶面に沿った方向に優先的に成長することで針状の形態を持つようになると考えられる。表層領域の結晶方位がランダムになることで、表層領域でのAlN析出物の鋼板面に対する相対的方位もランダムとなる。これにより、打ち抜き加工性時の応力が様々な方向に適度に分散され、母鋼板の破断が容易に進行するものと考えられる。
巻き取り工程では、例えば、熱延後の熱延板を、コイラーにより巻き取る。
巻き取り温度は、巻き取り温度700〜1000℃(好ましくは800〜950℃)とする。
巻き取り温度を700〜1000℃と高温にすると、後述の熱延板焼鈍を実施しないことと合わせることで、上記同様に、冷延および仕上げ焼鈍後の鋼板の、特に表層領域の結晶方位のランダム化が進行し、打ち抜き加工性に有利に作用する。
本実施形態に係る鋼板の製造においては、上記のように、熱延の最終圧延温度を高温とし、巻き取り温度を高温とし、さらに熱延板焼鈍を実施しないことで、冷延および仕上げ焼鈍後の鋼板の、特に表層領域の結晶方位のランダム化が進行し、打ち抜き加工性に有利に作用する。
また、さらに再加熱工程となる熱延板焼鈍を必要としないことは、エネルギーコストの観点でも有利となる。
冷延工程では、巻き取り後の熱延板を、熱延板焼鈍を実施することなく冷延する。
冷延の圧下率は、70〜90%(好ましくは75〜89%)とする。
冷延の圧下率を70〜90%にすると、粒成長に望ましい集合組織の発達が調整される。
仕上げ焼鈍工程では、冷延後の冷延板を焼鈍する。具体的には、冷延板を昇温し、目的とする温度で均熱した後、冷却する。
このような仕上げ焼鈍条件において、AlN析出物が本発明にとって好ましい形態になる理由は明確ではないが、この仕上げ焼鈍条件とすると、低温域(例えば850℃以下)から乾燥状態で鋼板の表面の酸化が抑制された状況で早期に窒化が進行するため、AlN析出物の形成初期段階で特定方向への優先的な選択成長が起きやすくなり、最終的に針状のAlN析出物の比率が増加するものと思われる。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、電気機器の各種コア材料、特に、回転機、中小型変圧器、電装品等のモータのコア材料として好適に適用できる。
以下、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板をモータコアに適用する場合について説明する。
本実施形態に係るモータコアは、本実施形態に係る電磁鋼板が積層された形態が挙げられる。この場合、モータコアを構成する鋼板は、打ち抜き前に本実施形態に係る電磁鋼板の特徴を有したものである必要はない。言い換えれば、モータコア用に使用する素材としての鋼板は、本実施形態に係る電磁鋼板の特徴を有したものである必要はなく、最終的にモータコアを構成する鋼板が本実施形態に係る電磁鋼板であればよい。つまり、素材としての鋼板の打ち抜き、積層一体化、さらにコア製造工程において歪取り焼鈍などの必要に応じた熱処理を実施し、最終的にモータコアを構成する鋼板が、本実施形態に係る電磁鋼板として表層領域のAlN析出物に関する規定の範囲内となる特徴を有していれば良い。最終的にモータコアを構成する鋼板が本実施形態に係る電磁鋼板に相当する特徴を有していれば、少なくとも表層領域のAlN析出物に起因する鉄損に関しての工業的なメリットを得ることが可能である。
さらに、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材(鋼板ブランク)を作製し、この打ち抜き部材を積層一体化したモータコアが挙げられる。この場合は、モータコアの製造過程で熱処理が実施されなければ、素材の鋼板が有していた表層領域のAlN析出物に関する特徴は、モータコアを構成する鋼板にそのまま継承されることになる。結果として、モータコアにおいて表層領域のAlN析出物に起因する鉄損に関しての工業的なメリットを得ることが可能である。また、この例においては、モータコアの製造過程で必要に応じて熱処理を実施すると、素材の鋼板が有していた表層領域のAlN析出物に関する特徴が変化する状況が考えられる。熱処理を含めたモータコア製造工程を経て、最終的にモータコアを構成する鋼板が本実施形態に係る電磁鋼板の特徴の範囲内にとどまるものであれば、モータコアにおいて表層領域のAlN析出物に起因する鉄損に関しての工業的なメリットを得ることが可能である。モータコアの製造過程で実施する熱処理の条件次第では、最終的にモータコアを構成する鋼板は本実施形態に係る電磁鋼板の特徴を満たさないものにもなりうるが、モータコアを構成する鋼板の最終的な特徴によらず、モータコアの製造の打ち抜き工程において表層領域のAlN析出物に起因する打ち抜き性に関しての工業的なメリットを得ることが可能である。
図1は、分割コアの一例を表す模式図である。図1に示すように、モータコア100は、8枚の分割コア用の打ち抜き部材11を円環状に連結し、円環状に連結した打ち抜き部材11を8層に積層して一体化した積層体13として形成されている。分割コア用の打ち抜き部材11は、電磁鋼板に打ち抜き加工が施され、円弧上のヨーク部17と、ヨーク部17の内周面から径方向内側に向かって突出しているティース部15とを備えている。なお、モータコア100は、図1に示すモータコア100を形成する打ち抜き部材11の形状、個数、積層数などに限らず、目的に応じて設計すればよい。
本実施形態に係るモータコアの製造方法は、特に限定されず、通常工業的に採用されている製造方法によって製造すればよい。
以下、本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例について説明する。
本実施形態に係るモータコアの好ましい製造方法の一例は、本実施形態に係る電磁鋼板に、打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る打ち抜き工程と、打ち抜き部材を積層する積層工程と、を有する。
まず、本実施形態の電磁鋼板を、目的に応じて、ティース部とヨーク部とを有する所定の形状に打ち抜き、積層枚数等に応じて、所定の枚数の打ち抜き部材を作製する。電磁鋼板を打ち抜いて、打ち抜き部材を作成する方法は特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。
なお、打ち抜き部材は、所定の形状に打ち抜かれるときに、打ち抜き部材を積層して固定するための凹凸部を形成してもよい。
「本実施形態の電磁鋼板」を素材として使用することで、打ち抜きの際のバリ発生を十分に抑制することが可能となる。
打ち抜き工程で作成した打ち抜き部材を積層することによりモータコアが得られる。具体的には、ティース部とヨーク部とを有する所定の形状の分割コア用の打ち抜き部材を、所定枚数組み合わせて円環状に連結させ、これを積層する。
なお、積層した打ち抜き部材を固定する方法は、特に限定されず、従来公知のいずれの方法を採用してもよい。例えば、打ち抜き部材に、公知の接着剤を塗布して接着剤層を形成し、接着剤層を介して固定してもよい。また、かしめ加工を適用して、各々の打ち抜き部材に形成された凹凸部を機械的に相互に嵌め合わして固定してもよい。
注意を要するのは、この熱処理は鋼板中のAlN析出物の形態を変化させるのに十分なものである点である。この熱処理後にも、コアを構成する鋼板が、打ち抜き前の素材が有していた本実施形態に係る鋼板の特徴である「表層領域での針状AlN析出物」に関する特徴を維持していれば、表層領域に比較的多量のAlN析出物を有する鋼板で構成されたコアであっても、素材とした本実施形態に係る鋼板の磁気特性上の効果である低鉄損のメリットを享受することが可能である。一方、上記熱処理が高温長時間となると、針状AlN析出物は球状化してしまい、「針状AlN析出物であるメリット」は失われるが、同時に十分な粗大化も進行するため、鉄損への悪影響を問題とする必要がなくなる。
表1に示す化学組成のスラブを、表2に示す加熱温度で加熱し、厚みが40mmになるように粗熱延する。その後、粗熱延板を、表2に示す最終圧延温度、圧下率95.5%(板厚40mm→板厚1.8mm)で仕上げ熱延する。
そして、熱延板を、表2に示す巻取り温度で巻き取る。
次に、巻き取られた圧延板を、表2に示す圧下率で冷延する。
次に、冷延板を、昇温速度70℃/s、表2に示す均熱温度、均熱時間30s、冷却速度100℃/s、表2に示す雰囲気(露点、窒素分率、水素分率)、表2に示す張力(冷延板に付与する張力)で焼鈍する。なお、少なくとも750℃以上の温度域で表2に示す雰囲気とした。
以上の工程を経て、試験例No.1〜27の無方向性電磁鋼板を得た。
なお、得られた無方向性電磁鋼板のN量(表中「製品N量」と表記)を表3に示す。
得られた各無方向性電磁鋼板のAlN析出物について、次の測定を既述の方法に従って実施する。結果を表3に示す。
1)鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比(針状のAlN析出物の個数密度)/(すべてのAlN析出物の個数密度)(表中「AlN比(針状/全AlN)」と表記)
2)鋼板の表面からの深さが20〜40μmの内層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度(表中「全AlNの個数密度」と表記)
3)鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における平均結晶粒径
4)鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、針状のAlN析出物の平均径(表中「針状AlNの平均径」と表記)
5)鋼板の表面からの深さが20〜40μmの内層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度(表中「全AlNの個数密度」と表記)
Claims (8)
- 質量%で、
C :0.0010〜0.0050%、
Si:2.5〜5.0%、
Al:0.02〜2.00%、
Mn:0.10〜2.00%、
N :0.0010〜0.0050%、
P :0.0200%以下、
S :0.0050%以下、並びに
残部:Feおよび不純物を含有し、かつNd、Pr、La、Ce、CaおよびMgの少なくとも1種を合計量で0.0010〜0.1000%含有する化学組成を有し、
鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域において、すべてのAlN析出物に対する針状のAlN析出物の個数密度の比
(針状のAlN析出物の個数密度)/(すべてのAlN析出物の個数密度)
が、0.50以上である無方向性電磁鋼板。 - 鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度が、30〜500個/μm2である請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
- 鋼板の表面からの深さが20〜40μmの内層領域における、すべてのAlN析出物の個数密度が、30個/μm2未満である請求項1又は請求項2に記載の無方向性電磁鋼板。
- 鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、前記針状のAlN析出物の平均径が10〜300nmである請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- 鋼板の表面から深さ20μmまでの表層領域における、平均結晶粒径が0.1〜10μmである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板。
- スラブを1180〜1280℃に加熱した後、仕上げ圧延時の最終圧延温度950〜1280℃で熱延する熱延工程と、
熱延後の熱延板を、巻き取り温度700〜1000℃で巻き取る巻き取り工程と、
巻き取り後の熱延板を、熱延板焼鈍を実施することなく、圧下率70〜90%で冷延する冷延工程と、
均熱温度950〜1050℃、冷延板に付与する張力1〜5MPaで、かつ少なくとも750℃以上の温度域の雰囲気を露点0〜50℃および窒素分率80〜90%とし、冷延後の冷延板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程と、
を有する請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板を積層したモータコア。
- 請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の無方向性電磁鋼板に打ち抜き加工を施して打ち抜き部材を得る打ち抜き工程と、
前記打ち抜き部材を積層する積層工程と、
を有するモータコアの製造方法。
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