JP2019183231A - 無方向性電磁鋼板、ステータコア、ロータコア及びこれらの製造方法 - Google Patents

無方向性電磁鋼板、ステータコア、ロータコア及びこれらの製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】鉄損の低下が抑制され、耐食性にも優れたロータコア及びステータコア並びにこれらの製造方法を提供する。【課題手段】無方向性電磁鋼板からなるモータ用のステータコアであって、無方向性電磁鋼板が、C:0〜0.005%、Si:1.5〜5.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0〜0.005%、P:0.03〜0.15%、S:0〜0.005%、N:0〜0.005%、Sn:0〜0.01%を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であるステータコアを採用する。【選択図】なし

Description

本発明は、無方向性電磁鋼板、モータ用のステータコア、モータ用のロータコア及びこれらの製造方法に関する。
近年、地球環境問題に対する取り組みへの高まりから、例えば、自動車(ハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車など)や家電製品(エアコン、冷蔵庫など)の分野では、消費エネルギーの少ない製品の普及が進んでいる。これらの製品には、高速回転する高効率モータが使用されており、高効率モータのモータコアの材料として無方向性電磁鋼板が使用されている。
モータ用のモータコアには、ステータコアと、その内側に配置されるロータコアがある。なお、本明細書でモータコアと言う場合、ステータコアとロータコアの両方を指す。
ステータコアは、無方向性電磁鋼板を環状に切り出し、切り出し後の複数の板片を積層して一体化することで構成される。あるいは、ステータコアの別の例として、組み合わせて環状となる部分的な形状の板片(通常、略T字形となるものが多い)を無方向性電磁鋼板から切り出し、積層したのち、これを繋げることで環状のステータコアを形成する、いわゆる分割型のコアと呼ばれるものもある。
また、ロータコアは、無方向性電磁鋼板を所定の形状に切り出し、切り出し後の板片を積層して一体化することで構成される。
環状に切り出した板片を積層して一体型または分割型のステータコアとする場合、無方向性電磁鋼板からこれらモータコア用の部材を切り出す際の配置(板取り)としては、環状のステータコアの中央部から切り出される円板をロータコアの部材として用いることが材料歩留りの観点で好ましく、一般的にはこのような配置で部材が切り出される(以後、「一体打ち抜き」と呼ぶことがある)。
無方向性電磁鋼板からモータコア用の板片を切り出す際は、主に、パンチとダイを用いた打ち抜き法が適用される。打ち抜き時に板片に導入される加工ひずみは,モータコアの鉄損を劣化させることが知られている。この加工ひずみを解放するため、各板片を積層してステータコアまたはロータコアとしたのち、これらのコアに対して熱処理(歪取り焼鈍)が実施される。歪取り焼鈍の実施により、鋼板の結晶粒が粗大化されるので、モータコアの低鉄損化も実現される。
モータコアのうちロータコア用の電磁鋼板には、モータの小型化を目的としたロータの高速回転化を背景に高強度が要求されるようになっている。特に近年利用が拡大しているロータコアに強力な永久磁石を埋め込む形式のロータコアにおいては、永久磁石がロータコアの最外周寄りに配置されるため、ロータを構成する電磁鋼板内を通過する磁束が相対的に少なくなっており、鉄損の重要性は低下している。むしろ、最外周に配置される永久磁石をロータ回転の遠心力に抗して固定するため、材料強度が必要となっている。一方、ステータコアは低鉄損が要求されている。
このようにステータコアとロータコアにはそれぞれ異なる特性が求められる状況で、ステータコア用の板片とロータコア用の板片を同一の素材(電磁鋼板)から切り出すことを前提として、低鉄損と高強度を両立するモータコアの製造技術の確立が求められている。
この課題を解決するものとして,低温で最終仕上げ焼鈍を施すことで、結晶粒径を40μm以下と微細にした無方向性電磁鋼板を素材として、ステータコア、ロータコアを製造した後,ステータコアだけに歪取り焼鈍を施すことで、結晶粒を粒成長させて鉄損を低減させ、一方、ロータコアは焼鈍せずに打ち抜き加工時の歪および微細結晶粒による強度を維持させる技術が、例えば特許文献1に記載されている。
また、Alを含む電磁鋼板は、歪取り焼鈍時にAlNが析出して結晶粒の粒成長が抑制されるおそれがあることから、Alをほとんど含まないAl無添加の電磁鋼板が期待されている。しかし、Al無添加の電磁鋼板を歪取り焼鈍する際には、雰囲気中の窒素が鋼板内部に侵入し、鋼板中においてSi窒化物(Si)が形成し、Si窒化物が鉄損を大きく増大させることが問題になっている。これを解決する技術として、例えば特許文献2には、P含有量が比較的高い鋼板に対し、仕上げ焼鈍の冷却を酸化雰囲気で実施することでPを鋼板表面に偏析させ、これにより、窒化を抑制してSiの形成を回避する技術が記載されている。しかし、特許文献2の技術では、酸化雰囲気での焼鈍により鋼板表面に少なからざる酸化物が形成し、この酸化物の鉄損への悪影響を避けることができないことに加え、Pの表面偏析が鋼板の耐食性を低下させることが問題になる。
国際公開第2016/017263号 国際公開第2016/132753号
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鉄損の増大が抑制され、耐食性にも優れたロータコア及びステータコア並びにこれらの製造方法を提供することを課題とする。更には、これらロータコア及びステータコアの素材となる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であることを特徴とする、無方向性電磁鋼板。
[2] 平均結晶粒径が40μm以下である、[1]に記載の無方向性電磁鋼板。
[3] 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のステータコアであって、
前記無方向性電磁鋼板が、質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であり、
鋼板中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が1.00nm未満(存在しない場合、つまりゼロを含む)であることを特徴とする、ステータコア。
[4] 前記鋼板中に含まれる前記シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20個/μm未満である、[3]に記載のステータコア。
[5] 前記鋼板における平均結晶粒径が70〜120μmである、[3]または[4]に記載のステータコア。
[6] 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のロータコアであって、
前記無方向性電磁鋼板が、質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であり、
組織中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が50nm以下であり、シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20〜100個/μmであることを特徴とする、ロータコア。
[7] 組織中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が1〜50nmであることを特徴とする、[6]に記載のロータコア。
[8] 平均結晶粒径が40μm以下である、[6]乃至[7]の何れか一項に記載のロータコア。
[9] 無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなる鋼を熱間圧延してから、熱延板焼鈍、冷間圧延を行い、
続いて、窒素雰囲気中で、10〜30℃/秒の加熱速度で加熱し、800〜1200℃の均熱温度で1〜60秒間の均熱時間を維持する仕上げ焼鈍を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
[10]
無方向性電磁鋼板からなるモータ用のステータコアの製造方法であって、
質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満である仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ステータコア形状に加工後に、加熱速度10℃/s以上、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下の条件で歪取り焼鈍を行うことを特徴とするステータコアの製造方法。
[11]
無方向性電磁鋼板からなるモータ用のロータコアの製造方法であって、
質量%で、
C:0〜0.005%、
Si:1.5〜5.0%、
Mn:0.1〜3.0%、
Al:0〜0.005%、
P:0.03〜0.15%、
S:0〜0.005%、
N:0〜0.005%、
Sn:0〜0.01%
を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満である仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ロータコア形状に加工後に、加熱速度0.2〜10℃未満/s、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下、かつ均熱温度が前記仕上げ焼鈍の焼鈍温度以下である条件で歪取り焼鈍を行うことを特徴とするロータコアの製造方法。
本発明によれば、鉄損の増大が抑制され、耐食性にも優れたロータコア及びステータコア並びにこれらの製造方法を提供できる。また、ロータコア及びその製造方法によれば、鋼板の強度も十分に高めることができる。更には、これらロータコア及びステータコアの素材となる無方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供できる。
本発明の実施形態に係るロータコアの一例を示す斜視図。 本発明の実施形態に係るステータコアの一例を示す斜視図。
ステータコア及びロータコアに求められる特性として、低鉄損で耐食性に優れることが求められる。このような特性を有する素材としては、無方向性電磁鋼板を挙げることができる。
本発明では、ステータコア及びロータコアの素材となる無方向性電磁鋼板にPを含有させ、更に、仕上焼鈍の条件を最適化することで、表面へのPの偏析による耐食性低下を抑制して耐食性を向上させるようにした。
また、無方向性電磁鋼板にAlをなるべく含有させないようにすることで、歪取り焼鈍時の粗大なAlNの析出を予防して低鉄損化を阻害しないようにした。
更に、ステータコアについては、仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を所定の形状に加工したのち、加工歪みを除去する歪取り焼鈍を行う際に、Si窒化物を析出させずに結晶粒の粒成長を促進する条件で焼鈍することで、更なる低鉄損化を図るようにした。
また、ロータコアには、低鉄損であることの他に、回転による遠心力に対抗するために強度確保が求められる。無方向性電磁鋼板の強度向上の手段の一つに、鋼板を焼鈍して介在物を析出させることで、析出強化を図ることが考えられる。その一方で、無方向性電磁鋼板において介在物を析出させると、結晶粒の粒成長が阻害され、鉄損の低減が十分に進まなくなり、ロータコアとして十分な特性を発揮できなくなる。
そこで、本発明のロータコアについては、仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を所定の形状に加工したのち、加工歪みを除去する歪取り焼鈍を行う際に、窒化を促進する条件で焼鈍することで、Si窒化物を析出させて析出強化を図ることにした。このSi窒化物を活用したロータコアについては、低鉄損を維持したままさらなる高強度化が実現できる。
また、ロータコアについては、無方向性電磁鋼板に含有させるPによる固溶強化を利用することで、更なる高強度化を図るようにした。
このように、本発明によれば、ロータコアおよびステータコアにとっての最適な設計が可能となる。つまり、ステータコアとして分割コアを採用する場合を含め、ロータコア用の板片とステータコア用の板片を別々の素材(無方向性電磁鋼板)から打ち抜く場合はもちろん、一体打ち抜きにより所定の形状のロータコア用の板片とステータコア用の板片を同一の素材から切り出す場合においても、ロータコア、ステータコアの各々について適切な条件によって歪取り焼鈍を行うことで、ロータコア、ステータコアとしてそれぞれ最適な特性を有するものを得ることができるようになる。
以下、本発明の実施形態について説明する。
まず、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板について説明する。本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、質量%で、C:0〜0.005%、Si:1.5〜5.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0〜0.005%、P:0.03〜0.15%、S:0〜0.005%、N:0〜0.005%、Sn:0〜0.01%を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.02未満である。
次に、鋼板の化学成分について説明する。
C:0〜0.005%
Cは、含有量が多いと、炭化物の析出量が増加することにより、鉄損に悪影響を及ぼすので少ないほどよい。したがって、Cの含有量は0.005%以下とすることがよい。
Cの含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0%である。しかし、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはCの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
Si:1.5〜5.0%
Siは鋼板の電気抵抗を高めて渦電流損を減少させ、鉄損を低減する作用がある。さらに、鋼板の集合組織を電磁鋼板に好ましいものとして磁束密度を向上させる。また鋼板の強度を高めるためにも利用される。
これらの効果を得るために、Siの含有量は、1.5%以上とする。Siの含有量は2.0%以上であることがより好ましい。
Siの含有量が多すぎると、鋼板の飽和磁束密度が低下する。また、冷間圧延時の鋼板の割れが発生し易い。そのため、Siの含有量は5.0%以下とする。Siの含有量は4.0%以下であることが好ましく、3.6%以下であることがより好ましい。
Mn:0.1〜3.0%
Mnは、Siと同様に鋼の電気抵抗を高め、鉄損を低減する作用がある。さらに、鋼板の集合組織を電磁鋼板に好ましいものとして磁束密度を向上させる。しかも、Mnは鋼板の飽和磁束密度低下量が小さい点も有利である。また鋼板の強度を高めるためにも利用される。そのため、Mnの含有量は0.1%以上とする。Mnの含有量は0.2%以上であることが好ましく、0.5%以上であることがより好ましい。
Mnの含有量が多すぎると、合金コストが上昇するため、Mnの含有量は3.0%以下とする。Mnの含有量は2.0%以下であることが好ましく、1.8%以下であることがより好ましい。
Al:0〜0.005%
Alは、歪取り焼鈍時にAlNを形成して、結晶粒の粒成長を阻害し、特にステータコアの鉄損を低減できなくなる。従ってAlは極力含有しないことが好ましい。従って、Al量は0.005%以下に制限する。Alは0%であることが最も好ましい。
P:0.03〜0.15%
Pは、鋼の磁束密度を低下させることなく強度を高める作用がある。このため、Pの含有量は、0.03%以上に限定する。本発明の効果をより効果的に得る点で、Pの含有量は、好ましくは0.04%以上、さらに好ましくは0.05%以上である。他方、Pを過剰に含有させると鋼の靱性を損ない、鋼板に破断が生じやすくなる。そのため、Pの含有量は0.15%以下とするのが好ましい。より好ましくは0.12%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
S:0〜0.005%
Sは、含有量が多いと、硫化物の増加により、鉄損に悪影響を及ぼすので少ないほどよい。したがって、Sの含有量は0.005%以下とすることがよい。
Sの含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0%である。しかし、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはSの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
N:0〜0.005%
Nは、含有量が多いと、窒化物の増加により、鉄損に悪影響を及ぼすので少ないほどよい。したがって、Nの含有量としては0.005%以下とすることがよい。
Nの含有量の下限は特に限定されず、好ましくは0%である。しかし、工業的な純化技術を考慮すると実用的にはNの含有量は0.0001%以上であり、製造コストも考慮すると0.0005%以上となる。
Sn:0〜0.01%
Snは、選択的に含有させればよく、Snを含有させた場合は鉄損の改善に有効である。このため、Snを含有させる場合の下限は、0.001%以上であり、好ましくは0.002%以上である。しかし、Sn含有量が0.01%を超えると、脆性が著しく劣化する。このため、Sn含有量は、0.01%以下であり、好ましくは0.008%以下である。また、Snは0%でもよい。
(Feおよび不純物)
鋼板の残部は、Feおよび不純物である。不純物とは、原材料に含まれる成分、または、製造の過程で混入する成分であって、意図的に鋼板に含有させたものではない成分を指す。さらにFeに代えて任意元素として、Cr、Cu、Ni、Ti、Nb、Ca、Mg、REMなどを、無方向性電磁鋼板において公知の範囲で含有することは本発明の効果を失わせるものではない。
次に、無方向性電磁鋼板におけるPの偏析について説明する。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板は、0.03%以上のPを含有するが、Pが鋼板表面に偏析すると鋼板の耐食性が低下する。ロータコアやステータコアは、表面にワニス等の絶縁被膜が形成される場合があり、耐食性が低下するとモータ内で腐食が進行するおそれがある。そのため、本実施形態の無方向性電磁鋼板では、Pを鋼板表面に偏析させないことが望ましい。具体的には、結晶粒の結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であることが好ましい。P120/Fe700が0.020未満であれば、鋼板表面へのPの偏析が少なくなり、鋼板の耐食性を向上させることが可能になる。鋼板表面へのPの偏析を抑制するには、無方向性電磁鋼板を製造する際の仕上焼鈍の条件を最適化するとよい。
ここでオージェ電子分光法によるPのピーク高さの測定方法について説明する。粒界P120、粒界Fe700は次の方法で測定される。無方向性電磁鋼板を圧延方向に垂直な断面で切断し、18mmL×4mmW(Lは圧延方向長さ、Wは板幅を意味する)の粗試料片を複数採取する。粗試料片に対して長さ方向中央に切り欠き加工してオージェ電子分光ピーク測定用試験片を作製する。作製されたオージェ電子分光ピーク測定用試験片をオージェ電子分光装置内に入れて液体窒素にて試料を冷却し、試料を破断させる。試料の粒界破壊した破面を探し出し、その粒界面におけるP量及びFe量を目安として、10か所分析する。そして、各測定箇所において、120eVにおけるPのピーク「P120」の、700eVにおけるFeのピーク「Fe700」に対する比(P120/Fe700)を求め、平均値を算出する。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径は、特に限定する必要はない。当業者が通常実施しているように、コアとして歪取り焼鈍を実施する場合は歪取り焼鈍の条件も考慮したうえで、コア用素材として必要な結晶粒径を選択すれば良い。
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板をロータコア用素材として適用するのであれば、平均結晶粒径は40μm以下であることが好ましい。ロータコア用の電磁鋼板には高強度が要請されており、素材の平均結晶粒径が40μmを超えると結晶粒径微細化による高強度化の効果を得ることが困難となるためである。
また、平均結晶粒径が40μm以下の鋼板は、歪取り焼鈍により結晶粒径を粗大化することが可能であるため、低鉄損化のため粗大な結晶粒が必要とされるステータコア用素材としての使用にも問題はない。一体打ち抜きを前提とするなら、一つの素材でロータコアの結晶粒微細化による高強度化とステータコアの結晶粒粗大化による低鉄損化の両立が可能となる。
ここで平均結晶粒径の測定方法について説明する。長手方向と板厚方向の断面における金属組織を100倍で6視野撮影し、トータルで写真画像(7000μm×1000μm)を得る。得られた写真画像に対して長手方向に線を引き,結晶粒界の交点数を数え、長手方向の線の長さを交点数で除する。以上の方法により、平均結晶粒径が得られる。
次に、本実施形態のステータコアについて説明する。本実施形態のステータコアは、質量%で、C:0〜0.005%、Si:1.5〜5.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0〜0.005%、P:0.03〜0.15%、S:0〜0.005%、N:0〜0.005%、Sn:0〜0.01%を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満の無方向性電磁鋼板からなり、鋼板中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が1.00nm未満(存在しない場合、つまりゼロを含む)である。
また、本実施形態のステータコアは、鋼板中に含まれるシリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20個/μm未満であってもよい。
更に、本実施形態のステータコアは、鋼板の平均結晶粒径が70〜120μmであってもよい。
本実施形態のステータコアは、コアを構成する無方向性電磁鋼板が、上述した無方向性電磁鋼板のP偏析特性に加えて、鋼板中のSi窒化物の析出が少ないことが望ましい。鋼板中のSi窒化物の平均粒子径としては、好ましくは1.00nm未満である。更には、鋼板中にSi窒化物が析出されていなくてもよい。この場合、Si窒化物の平均粒子径としては、0nmになる。また、Si窒化物の単位面積当たりの個数密度としては、好ましくは20個/μm未満である。また、Si窒化物の単位面積当たりの個数密度の下限は0個/μmである。すなわち、Si窒化物がなくてもよい。Si窒化物の析出量が多いと、結晶粒の成長が阻害され、歪取り焼鈍後に平均結晶粒径を70〜120μmの範囲にすることが困難になる。また、磁壁の移動を妨げるのでステータコアの鉄損が増加する。
また、本実施形態のステータコアを構成する無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が70〜120μmの範囲であることが好ましい。ステータコアを構成する無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径をこの範囲にすることで、ステータコアとして最適な鉄損を発現させることができる。より具体的には、例えば、板厚0.25mmで、200Hz、1.0Tにおける鉄損W10/200が5.0W/kg以下の低鉄損を実現することができる。
ここでSi窒化物の平均粒子径と個数密度の測定方法について説明する。まず鋼板の板面からレプリカ抽出し、SEMで金属組織を100000倍で観察し、SEM−EDSで析出物がSi窒化物であるか同定する。次にそれぞれのSi窒化物の粒子径と1視野あたりのSi窒化物の個数を測定する。これを異なる視野で10か所観察し、トータルで写真画像(200nm×150nm×10視野)を得る。10視野におけるSi窒化物の粒子径の平均をSi窒化物の平均粒子径とする。Si窒化物の個数密度は、得られたSi窒化物のトータル個数をトータル写真画像面積で除して求める。
上述のステータコアを得るためには、仕上げ焼鈍後に所定の形状に切り出した無方向性電磁鋼板または鋼板を積層して構成されたコアに対して、後述する焼鈍条件よって歪取り焼鈍を行うことが望ましい。
次に、本実施形態のロータコアについて説明する。本実施形態のロータコアは、質量%で、C:0〜0.005%、Si:1.5〜5.0%、Mn:0.1〜3.0%、Al:0〜0.005%、P:0.03〜0.15%、S:0〜0.005%、N:0〜0.005%、Sn:0〜0.01%を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満の無方向性電磁鋼板からなり、鋼板中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が50nm以下であり、シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20〜100個/μmである。
また、鋼板中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径は、1〜50nmであってもよい。
更に、本実施形態のロータコアは、鋼板の平均結晶粒径が40μm以下であってもよい。
本実施形態のロータコアは、コアを構成する無方向性電磁鋼板が、上述した無方向性電磁鋼板のP偏析特性に加えて、鋼板中にSi窒化物が適度に存在することが好ましい。Si窒化物の平均粒子径としては、50nm以下の範囲にあることが好ましく、1〜50nmの範囲であることがより好ましい。さらに、単位面積当たりの個数密度としては、20〜100個/μmの範囲にあることが好ましい。
鋼板中のSi窒化物をこの範囲で制御することで、析出強化により鋼板強度を高めることができる。より具体的には、鋼板のビッカース硬さを250以上にすることができる。粒子径が50nmを超えると、析出強化が発現しにくくなり、高速回転するロータコアの変形を抑制する効果を十分に得ることができなくなる。また、鉄損がさほど重要視されないロータコアにおいても磁気特性への悪影響が大きくなる。
なお、ロータコアのシリコン窒化物の平均粒子径、シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度及び平均結晶粒径は、ステータコアと同様にして測定すればよい。
また、本実施形態のロータコアを構成する無方向性電磁鋼板は、平均結晶粒径が40μm以下であることが好ましい。コアを構成する無方向性電磁鋼板の平均結晶粒径を40μm以下にすることで、鋼板強度を十分に高め、高速回転するロータコアの変形を抑制する効果を得ることができる。
上述のロータコアを得るためには、仕上げ焼鈍後に所定の形状に切り出した無方向性電磁鋼板または鋼板で構成されたコアに対して、後述する焼鈍条件よって歪取り焼鈍を行うことが望ましい。
次に、本実施形態の無方向性電磁鋼板、ステータコア及びロータコアの製造方法の一例を説明する。本実施形態では、無方向性電磁鋼板を製造し、得られた無方向性電磁鋼板を素材として、ステータコア及びロータコアを製造する。
まず、上述の化学成分を有するとともに、結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満である無方向性電磁鋼板の製造方法を説明する。
本実施形態の無方向性電磁鋼板は、上記の化学組成のスラブを加熱した後、熱間圧延する熱間圧延工程と、熱間圧延後の鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、焼鈍後の鋼板を冷間圧延する冷間圧延工程と、冷間圧延後の鋼板を仕上げ焼鈍する仕上げ焼鈍工程とを経ることで製造される。仕上げ焼鈍工程は、10〜30℃/秒の加熱速度で加熱し、800〜1200℃の均熱温度で1〜60秒間の均熱時間を維持する条件とする。また、仕上げ焼鈍工程の雰囲気は窒素雰囲気とする。
(熱間圧延工程)
熱間圧延工程は、例えば、上記の化学組成を有するスラブを加熱した後、熱間圧延する工程である。具体的には、上記の化学組成を有する鋼を、連続鋳造法又は鋼塊を分塊圧延する方法等の一般的な方法により得られたスラブとし、加熱炉に装入して熱間圧延を施す。なお、スラブ温度が高い場合には加熱炉に装入しないで熱間圧延を施してもよい。この工程によって、熱間圧延板が得られる。
熱間圧延を施すときのスラブ加熱温度は特に限定されるものではないが、コストおよび熱間圧延性の観点から1000℃〜1300℃とすることが好ましい。スラブ加熱温度は、より好ましくは1050℃〜1250℃である。
熱間圧延を施すときの各条件は特に限定するものではないが、例えば、仕上げ温度は800℃〜1100℃、巻き取り温度は500℃〜750℃で行うことがよい。
(熱延板焼鈍工程)
熱延板焼鈍工程は、熱間圧延工程後の鋼板(熱間圧延板)を焼鈍する工程である。熱延板焼鈍は、箱焼鈍および連続焼鈍のいずれの方法で実施してもよい。
熱延板焼鈍を施す条件は特に限定されないが、例えば、設備への負荷や製造コストの観点から、焼鈍温度は800℃〜1250℃(好ましくは900℃〜1100℃)とし、焼鈍時間は1秒〜2時間(好ましくは20秒〜1時間)とすることがよい。
なお、必要に応じて、焼鈍する前の鋼板(熱間圧延板)、又は熱間圧延板を焼鈍した後の鋼板(焼鈍鋼板)を酸洗する酸洗工程を設けてもよい。
(冷間圧延工程)
冷間圧延工程は、熱延板焼鈍工程で得た鋼板(焼鈍鋼板)を、冷間圧延する工程である。冷間圧延工程では、焼鈍鋼板を1回の冷間圧延により、所定の板厚の冷間圧延板としてもよく、又は、焼鈍鋼板に中間焼鈍を介して2回以上の冷間圧延により、所定の板厚の冷間圧延板としてもよい。最終の冷間圧延における圧下率(最終冷間圧下率)は78%以上とすることがよい。また、冷間圧延終了後の冷間圧延板の板厚は、目的とする板厚にすればよいが、例えば、0.15mm〜0.50mmの範囲とするのがよい。
(仕上げ焼鈍工程)
仕上げ焼鈍工程は、冷間圧延工程後の鋼板(冷間圧延板)を仕上げ焼鈍する工程である。仕上げ焼鈍工程における条件を調整することで、鋼板表面へのPの偏析を抑制する。そのための焼鈍条件としては、10〜30℃/秒の加熱速度で加熱し、800〜1200℃の均熱温度で1〜60秒間の均熱時間を維持する条件とすることが好ましい。また、仕上げ焼鈍工程の雰囲気は窒素雰囲気とすることが好ましい。この仕上げ焼鈍によって、結晶粒界における比P120/Fe700が0.020未満になる。また、例えばロータコア用素材として、平均結晶粒径を高強度化効果が期待できる40μm以下とするには、均熱温度を900℃以下とすることが好ましい。一方、結晶粒微細化による高強度化を指向しないのであれば、例えば焼鈍温度をより高温化して平均結晶粒径を大きくすることも可能である。
(その他の工程)
本実施形態に係る無方向性電磁鋼板の製造方法は、例えば、必要に応じて、仕上げ焼鈍工程後の鋼板(無方向性電磁鋼板)の表面に絶縁膜を設ける絶縁膜形成工程を有していてもよい。絶縁膜は、例えば、有機成分のみ、無機成分のみ、又は有機成分と無機成分との混合物からなる絶縁被膜が挙げられる。また、絶縁膜は、加熱・加圧することにより接着能を発揮する絶縁膜であってもよい。接着能を発揮する絶縁膜の材料としては、アクリル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、又はメラミン樹脂などが挙げられる。
以上のようにして、本実施形態の無方向性電磁鋼板を製造する。なお、本実施形態の無方向性電磁鋼板は、Pの表面偏析が抑制されて比P120/Fe700が0.020未満であれば、その製造方法は、特に限定されるものでないことは言うまでもない。
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板からステータコアを製造する方法について説明する。
まず、製造された仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ステータコア形状に加工してステータコア用の部材とする。この加工工程は、例えば、ダイとパンチを用いた打ち抜き成形加工によって無方向性電磁鋼板から複数の板片を切り出し、これら複数の板片を積層し、かしめ加工または溶接により一体化する工程を例示できる。
次いで、加工後のステータコア用の板材またはこれを積層して一体化したコアに対して、加熱速度10℃/s以上、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下の条件で歪取り焼鈍を行う。歪取り焼鈍によって、加工時に生じた加工ひずみを低減させて鉄損を低減させるとともに、Si窒化物を形成させずに結晶粒の粒成長を促進する。また、結晶粒界における比P120/Fe700が0.020未満になる。
加熱速度が10℃/s未満では、Si窒化物の個数密度が増加し、かつSi窒化物の粒子径が粗大化するため鉄損改善効果が得られない。また、加熱速度を100℃/s以下にすると、ステータコア内で加熱が不十分な領域が生じることがなく、局所的なひずみが残らず、ステータコアの鉄損が改善される。よって、加熱速度の上限は100℃/s以下であることが好ましい。
均熱温度が700℃以上にすると、加工ひずみが十分除去され、結晶粒成長が進み、十分な鉄損改善効果が得られる。このため均熱温度の下限は700℃以上であることが好ましい。一方、均熱温度が850℃を超えると、P120/Fe700が高くなり、鋼板の耐食性が得られなくなり、ステータコアの鉄損が改善されないので、均熱温度の上限は850℃以下とする。
均熱時間が1秒以上にすると、加工ひずみが除去されやすくなり、ステータコアの鉄損の改善効果が得られる。このため、均熱時間の下限は1秒以上であることが好ましい。一方、均熱時間が600秒を超えると、Si窒化物の個数密度が増加し、かつSi窒化物の粒子径が粗大化するため鋼板の耐食性が得られなくなり、ステータコアの鉄損が改善されない。従って、均熱時間の上限は600秒以下にする。また、歪取り焼鈍の雰囲気は、窒素雰囲気とすることが好ましい。
なお、コアを加熱する場合は、コアの表面と内部で熱履歴(加熱速度と到達温度)に差が生じることが考えられる。本発明の効果は特に熱処理雰囲気と接触する鋼板部位における窒化に注目するものであることを考慮すれば、上記熱処理条件は、雰囲気と接触するコア表面の温度にて管理すべきものである。
以上の歪取り焼鈍を行うことで、本実施形態に係るステータコアを製造できる。
次に、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板からロータコアを製造する方法について説明する。
まず、製造された仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ロータコア形状に加工してロータコア用の部材とする。この加工工程は、例えば、ダイとパンチを用いた打ち抜き成形加工によって無方向性電磁鋼板から複数の板片を切り出し、これら複数の板片を積層し、かしめ加工または溶接により一体化する工程を例示できる。なお、ロータコアの製造に供する板片は、ステータコアに供する環状の板片の切り出し時に発生した環状中心部に相当する板片を利用してもよい。これにより、材料の歩留まりを向上できる。
次いで、加工後のロータコア用の部材に対して、加熱速度0.2〜10℃未満/s、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下の条件で歪取り焼鈍を行う。また、均熱温度は、仕上げ焼鈍の焼鈍温度以下とする。歪取り焼鈍によって、粒径50nm以下のSi窒化物を析出させて析出強化を行う。
加熱速度が0.2℃/s未満では、Si窒化物粒子径が粗大化し十分な強化が得られないことに加え、加熱中の温度領域で長時間保持されるため大量のSi窒化物が形成し、鉄損がさほど重要視されないロータコアにおいても磁気特性への悪影響が大きくなる。また、10℃/s以上になると、Si窒化物の析出が不十分なため十分な強化が得られない。
均熱温度が650℃以上であれば、Si窒化物の析出が十分になり、十分な強化量が得られるようになる。このため均熱温度の下限は650℃以上であることが好ましい。一方、均熱温度が850℃を超えると、Si窒化物が粗大化し十分な強化が得られない。このため均熱温度の上限は850℃以下とする。また、均熱温度が、仕上げ焼鈍の焼鈍温度を超えると、結晶粒径が粗大化し強度が低下するため、結晶粒微細化によるロータ強度の上昇を期待した設計とする場合には注意すべきである。
均熱時間が1秒以上であれば、Si窒化物の析出が十分になり、十分な強化量が得られるようになる。このため均熱時間の下限は1秒以上であることが好ましい。一方、均熱時間が600秒を超えると、Si窒化物が粗大化し十分な強化が得られない。このため均熱時間の上限は600秒以下にする。また、歪取り焼鈍の雰囲気は、窒素雰囲気とすることが好ましい。
以上の歪取り焼鈍を行うことで、本実施形態に係るロータコアを製造できる。
本実施形態に係るステータコアは、Si窒化物の平均粒径を0〜1.00nm未満とし、好ましくはSi窒化物の個数密度を0〜20個/μm未満とする。
また、実施形態に係るロータコアは、Si窒化物の平均粒径を50nm以下とし、Si窒化物の個数密度を20〜100個/μmとし、好ましくはSi窒化物の平均粒径を1〜50nmとする。
一方、従来のモータ用のコアは、平均粒径50nm超のSi窒化物を含み、その存在量は100個/μm超である。従来のモータ用のコアに対して、本実施形態のステータコアはSi窒化物が比較的少なく、また、本実施形態のロータコアは、Si窒化物に関して、ステータコアと従来のモータ用コアとの間に位置するものとなる。このような本実施形態のステータコア及びロータコアは、所定の化学成分を有し、P120/Fe700が0.020未満である無方向性電磁鋼板を素材とし、所定形状に加工後の歪み取り焼鈍を行うことで製造される。歪み取り焼鈍の焼鈍条件を調整してSi窒化物の個数密度を制御することで、ステータコアまたはロータコアとして適正な強度及び鉄損が得られるようになる。
なお、本実施形態のステータコア及びロータコアは、P120/Fe700が0.020未満であるので、耐食性が向上し、ステータコア及びロータコアの表面に発生する錆を少なくすることができる。
また、本実施形態のロータコアの鉄損は、特に限定するものではないが、例えば、板厚0.25mmで、2500Hz、0.3Tにおける鉄損W3/2500が28.0W/kg以下であるとよい。
本実施形態に係るステータコア及びロータコアは、本実施形態に係る無方向性電磁鋼板から切り出して焼鈍したステータコア及びロータコアをそのまま用いてもよいし、複数のステータコア及びロータコアを積層して積層体としたものでもよい。図1には、積層型のロータコアを示し、図2には積層型のステータコアを示す。図1(a)に示す積層型のロータコア100は、無方向性電磁鋼板からなるロータコア10を積層したものであり、また、図1(b)に示す積層型のロータコア120は、無方向性電磁鋼板からなるロータコア20を積層したものである。更に、図2に示す積層型のステータコア140は、無方向性電磁鋼板からなるロータコア30を積層したものである。図1及び図2に示すロータコア及びステータコアの形状はあくまで一例であって、これらの形状に限定されるものではない。
表1に示す成分の鋼を真空溶解し、1000℃〜1300℃の加熱温度で、800℃〜1100℃の仕上げ温度で熱間圧延し、500℃〜750℃で巻き取って板厚2.0mmの熱延板を得た。この熱延板を1000℃で60s焼鈍したのち、板厚0.25mmまで冷間圧延した。この冷延板を窒素雰囲気下で、20℃/秒の加熱速度で850℃まで加熱し、850℃で30sの仕上焼鈍し、絶縁被膜を塗布して、無方向性電磁鋼板を得た。
この無方向性電磁鋼板からステータコアを打ち抜き、窒素雰囲気の下、加熱速度15℃/sで加熱し、750℃で30s均熱し、室温まで冷却した。ただし、No.8とNo.9は窒素雰囲気の下、加熱速度15℃/sは同じだが、それぞれ800℃、830℃で30s均熱し、室温まで冷却した。また、No.5は、ステータコアを打ち抜き後の窒素雰囲気中での加熱条件を、加熱速度15℃/sで加熱し、870℃で30s均熱し、室温まで冷却した。
歪取り焼鈍前の無方向性電磁鋼板のP120/Fe700、ステータコアのP120/Fe700、Si窒化物の平均粒子径、Si窒化物の個数密度、平均結晶粒径、発錆率(ステータコアに発生した錆の面積率)、ステータコアの鉄損W10/200を測定した。鉄損W10/200は、磁束密度1.0T、周波数200Hzにおける鉄損であり、鉄損W10/200が5.0W/kg以下の場合を合格とした。また、耐食性を評価する発錆率は、10%未満を合格とした。結果を表1に示す。
120/Fe700は、無方向性電磁鋼板及びステータコアを圧延方向に垂直な断面で切断し、18mmL×4mmW(Lは圧延方向長さ、Wは板幅を意味する)の粗試料片を複数採取した。粗試料片に対して長さ方向中央に切り欠き加工してオージェ電子分光ピーク測定用試験片を作製した。作製されたオージェ電子分光ピーク測定用試験片をオージェ電子分光装置内に入れて液体窒素にて試料を冷却し、試料を破断させた。試料の粒界破壊した破面を探し出し、その粒界面におけるP量及びFe量を目安として、10か所分析した。そして、各測定箇所において、120eVにおけるPのピーク「P120」の、700eVにおけるFeのピーク「Fe700」に対する比(P120/Fe700)を求め、平均値を算出した。
ステータコアのSi窒化物の平均粒子径と個数密度の測定方法は、まず鋼板の板面からレプリカ抽出し、SEMで金属組織を100000倍で観察し、SEM−EDSで析出物がSi窒化物であるか同定した。次にそれぞれのSi窒化物の粒子径と1視野あたりのSi窒化物の個数を測定した。これを異なる視野で10か所観察し、トータルで写真画像(200nm×150nm×10視野)を得た。10視野におけるSi窒化物の粒子径の平均をSi窒化物の平均粒子径とした。Si窒化物の個数密度は、得られたSi窒化物のトータル個数をトータル写真画像面積で除して求めた。
平均結晶粒径は、長手方向と板厚方向の断面における金属組織を100倍で6視野撮影し、トータルで写真画像(7000μm×1000μm)を得た。得られた写真画像に対して長手方向に線を引き,結晶粒界の交点数を数え、長手方向の線の長さを交点数で除する。以上の方法により、平均結晶粒径を測定した。
発錆率は、歪み取り焼鈍後のステータコアを、温度50℃、湿度90%で5日間放置した後,表面に発生した錆の面積率を測定した。
No.2とNo.3はAl量が外れたため、AlNが析出しステータコアとしての鉄損が高かった。
No.4はP量が外れたためステータコアとしての鉄損が高かった。
No.5は均熱温度が高過ぎてP120/Fe700が外れたため、ステータコアの発錆率が高く、ステータコアとしての鉄損が高かった。
これらに対し、No.1、6〜9は成分、P120/Fe700が本発明で請求する範囲にあるため、ステータコアの鉄損が低いことが分かる。
Figure 2019183231
表2に示す成分の鋼を真空溶解し、1000℃〜1300℃の加熱温度で、800℃〜1100℃の仕上げ温度で熱間圧延し、500℃〜750℃で巻き取って板厚2.0mmの熱延板を得た。この熱延板を1000℃で60s焼鈍したのち、板厚0.25mmまで冷間圧延した。この冷延板を窒素雰囲気下で、20℃/秒の加熱速度で850℃まで加熱し、850℃で30sの仕上焼鈍し、絶縁被膜を塗布し、無方向性電磁鋼板を得た。
この無方向性電磁鋼板からロータコアを打ち抜き、窒素雰囲気の下、加熱速度1℃/sで加熱し、700℃で10s均熱し、室温まで冷却した。なお、No.8とNo.9は窒素雰囲気の下、加熱速度1℃/sは同じだが、それぞれ750℃、780℃で30s均熱し、室温まで冷却した。No.5は、ロータコアを打ち抜き後の窒素雰囲気中での加熱条件を、加熱速度1℃/sで加熱し、900℃で10s均熱し、室温まで冷却した。
歪取り焼鈍前の無方向性電磁鋼板のP120/Fe700、ロータコアのP120/Fe700、Si窒化物の平均粒子径、Si窒化物の個数密度、平均結晶粒径、発錆率(ロータコアに発生した錆の面積率)、ロータコアの鉄損W3/2500、ロータ外周部のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さHVが250以上の場合を合格とした。また、耐食性を評価する発錆率は、10%未満を合格とした。更に、ロータコアの鉄損W3/2500は28.0W/kg以下の場合を合格とした。結果を表2に示す。これらの評価方法は、実施例1と同様である。
No.2と3はAl量が外れ、AlNが析出し硬さが低かった。
No.4はP量が外れたため硬さが低かった。
No.5は均熱温度が高過ぎてP120/Fe700が外れたため、ロータコアの発錆率が高く、硬さが低かった。
これらに対し、No.1、6〜9は成分、P120/Fe700が本発明で請求する範囲にあるため、硬さが高いことが分かる。
Figure 2019183231
実施例1において製造した無方向性電磁鋼板のうち、表1に示した鋼No.1の無方向性電磁鋼板からステータコアを打ち抜き、窒素雰囲気の下、表3に示す条件で加熱速度、均熱温度、均熱時間をそれぞれ変えて、室温まで冷却した。P120/Fe700、Si窒化物の平均粒子径、Si窒化物の個数密度、平均結晶粒径、発錆率、ステータコアの鉄損W10/200を測定した。鉄損W10/200が5.0W/kg以下の場合を合格とした。耐食性を評価する発錆率は、10%未満を合格とした。結果を表3に示す。これらの評価方法は、実施例1と同様である。
プロセスAは、加熱速度、均熱時間が外れたため、P120/Fe700が外れ、発錆率が高くなり,さらにSi窒化物の平均粒子径が粗大となり、またSi窒化物の個数密度も高くなったためステータコアの鉄損が高かった。
プロセスBは、加熱速度が低すぎてSi窒化物の平均粒子径が粗大となり、また、Si窒化物の個数密度も高かったため、ステータコアとしての鉄損が高かった。
プロセスI、Jは均熱温度が高すぎて、P120/Fe700が高くなり、鋼板の発錆率が高くなり、ステータコアとしての鉄損が高かった。
また、プロセスO、Pは、均熱時間が600秒を超えたため、P120/Fe700が外れ、発錆率が高くなった。更にプロセスPにおいてはSi窒化物の平均粒子径が粗大となり、またSi窒化物の個数密度も高くなったため、ステータコアの鉄損が高かった。
これに対し、プロセスC〜H、K〜Nは加熱速度、均熱温度、均熱時間が本発明で請求する範囲にあるため、ステータコアの鉄損が低いことが分かる。
Figure 2019183231
実施例2において製造した無方向性電磁鋼板のうち、表2に示した鋼No.1の無方向性電磁鋼板からロータコアを打ち抜き、窒素雰囲気の下、表4に示す条件で加熱速度、均熱温度、均熱時間をそれぞれ変えて、室温まで冷却した。P120/Fe700、Si窒化物の平均粒子径、Si窒化物の個数密度、平均結晶粒径、発錆率、ロータ外周部のビッカース硬さを測定した。ビッカース硬さHVが250以上の場合を合格とした。耐食性を評価する発錆率は、10%未満を合格とした。更に、ロータコアの鉄損W3/2500は28.0W/kg以下の場合を合格とした。結果を表4に示す。これらの評価方法は、実施例1と同様である。
プロセスaは加熱速度が遅いため、Si窒化物の平均粒子径が粗大化し、さらにP120/Fe700が外れたため発錆率が高くなり、十分な硬さが得られなかった。
プロセスeは加熱速度が速いため、Si窒化物の個数密度が少なく、十分な硬さが得られなかった。
プロセスh、iは、均熱温度が850℃を超え、仕上げ焼鈍の焼鈍温度を超えたため、Si窒化物の平均粒子径が粗大化し、さらにP120/Fe700が外れたため発錆率が高くなり、十分な硬さが得られなかった。
プロセスn、oは均熱時間が長すぎ、Si窒化物の平均粒子径が粗大化し、さらにP120/Fe700が外れたため発錆率が高くなり、十分な硬さが得られなかった。
これらに対し、プロセスb〜d、f、g、j〜mは加熱速度、均熱温度、均熱時間が本発明で請求する範囲にあるため、十分な硬さが得られていることが分かる。
Figure 2019183231

Claims (11)

  1. 質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
    結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であることを特徴とする、無方向性電磁鋼板。
  2. 平均結晶粒径が40μm以下である、請求項1に記載の無方向性電磁鋼板。
  3. 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のステータコアであって、
    前記無方向性電磁鋼板が、質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
    結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であり、
    鋼板中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が1.00nm未満(存在しない場合、つまりゼロを含む)であることを特徴とする、ステータコア。
  4. 前記鋼板中に含まれる前記シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20個/μm未満である、請求項3に記載のステータコア。
  5. 前記鋼板における平均結晶粒径が70〜120μmである、請求項3または請求項4に記載のステータコア。
  6. 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のロータコアであって、
    前記無方向性電磁鋼板が、質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
    結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満であり、
    組織中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が50nm以下であり、シリコン窒化物の単位面積当たりの個数密度が20〜100個/μmであることを特徴とする、ロータコア。
  7. 組織中に含まれるシリコン窒化物の平均粒子径が1〜50nmであることを特徴とする、請求項6に記載のロータコア。
  8. 平均結晶粒径が40μm以下である、請求項6乃至請求項7の何れか一項に記載のロータコア。
  9. 無方向性電磁鋼板の製造方法であって、
    質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなる鋼を熱間圧延してから、熱延板焼鈍、冷間圧延を行い、
    続いて、窒素雰囲気中で、10〜30℃/秒の加熱速度で加熱し、800〜1200℃の均熱温度で1〜60秒間の均熱時間を維持する仕上げ焼鈍を行うことを特徴とする無方向性電磁鋼板の製造方法。
  10. 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のステータコアの製造方法であって、
    質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
    結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満である仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ステータコア形状に加工後に、加熱速度10℃/s以上、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下の条件で歪取り焼鈍を行うことを特徴とするステータコアの製造方法。
  11. 無方向性電磁鋼板からなるモータ用のロータコアの製造方法であって、
    質量%で、
    C:0〜0.005%、
    Si:1.5〜5.0%、
    Mn:0.1〜3.0%、
    Al:0〜0.005%、
    P:0.03〜0.15%、
    S:0〜0.005%、
    N:0〜0.005%、
    Sn:0〜0.01%
    を含有し、残部が鉄及び不純物からなり、
    結晶粒界をオージェ電子分光法で測定した際の700eVにおけるFeのピーク高さFe700と、120eVにおけるPのピーク高さP120との比P120/Fe700が0.020未満である仕上げ焼鈍後の無方向性電磁鋼板を、ロータコア形状に加工後に、加熱速度0.2〜10℃未満/s、均熱温度850℃以下、均熱時間600秒以下、かつ均熱温度が前記仕上げ焼鈍の焼鈍温度以下である条件で歪取り焼鈍を行うことを特徴とするロータコアの製造方法。
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