JP2020031573A - 微生物においてプラスミドを維持する方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】微生物においてプラスミドを維持する方法を提供する。【解決手段】糖の資化能の低下とプラスミドによるその補完とを組み合わせることにより、糖が選択圧として機能し、以て微生物においてプラスミドを維持することができる。【選択図】なし

Description

本発明は、微生物においてプラスミドを維持する方法およびその利用に関する。
生命工学の分野では、プラスミドを微生物に導入することにより微生物に所望の表現型を付与する技術が広く用いられている。
導入したプラスミドを微生物において維持するためには、選択圧として、典型的には抗生物質が利用されている。しかしながら、抗生物質の利用は、コスト等の観点で問題がある。
そのため、抗生物質に代わる選択圧により微生物においてプラスミドを維持する技術が望まれている。そのような技術としては、例えば、栄養要求性等の表現型の欠陥をプラスミド上の遺伝子により補完する方法(特許文献1〜6)や、亜リン酸を唯一リン源として含有する培地で亜リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を含むプラスミドを導入した微生物を培養する方法(特許文献7)が知られている。
また、Escherichia coliやCorynebacterium glutamicum等の細菌において、PTS(phosphotransferase system)や解糖系の酵素をコードする遺伝子を破壊することにより、糖を炭素源とする生育が低下することが知られている(非特許文献1〜6)。
特開平6-086669 特開平7-067685 特表2004-517624 特表2004-524817 特開2006-067884 特表2008-509677 特開2017-195907
Lovingshimer MR, et al., Construction of an inducible, pfkA and pfkB deficient strain of Escherichia coli for the expression and purification of phosphofructokinase from bacterial sources. Protein Expr Purif. 2006 Apr;46(2):475-82. Siedler S, et al., Reductive whole-cell biotransformation with Corynebacterium glutamicum: improvement of NADPH generation from glucose by a cyclized pentose phosphate pathway using pfkA and gapA deletion mutants. Appl Microbiol Biotechnol. 2013 Jan;97(1):143-52. Fong SS, et al., Latent pathway activation and increased pathway capacity enable Escherichia coli adaptation to loss of key metabolic enzymes. J Biol Chem. 2006 Mar 24;281(12):8024-33. Lindner SN, et al., Phosphotransferase system-independent glucose utilization in corynebacterium glutamicum by inositol permeases and glucokinases. Appl Environ Microbiol. 2011 Jun;77(11):3571-81. Lindner SN, et al., Cg2091 encodes a polyphosphate/ATP-dependent glucokinase of Corynebacterium glutamicum. Appl Microbiol Biotechnol. 2010 Jun;87(2):703-13. Moon MW, et al., Analyses of enzyme II gene mutants for sugar transport and heterologous expression of fructokinase gene in Corynebacterium glutamicum ATCC 13032. FEMS Microbiol Lett. 2005 Mar 15;244(2):259-66.
本発明は、微生物においてプラスミドを維持する方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記のような抗生物質に代わる選択圧を利用する技術は、培地組成の厳密な制御を要求し、例えば、半合成培地や天然培地を利用する培養系においては上首尾には機能しづらいことを見出した。一方、本発明者らは、炭素源として用いられる糖を微生物においてプラスミドを維持するための選択圧として利用できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の通り例示できる。
[1]
微生物においてプラスミドを維持する方法であって、
糖を含有する培地でプラスミドを有する微生物を培養する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列を含む、方法。
[2]
目的物質の製造方法であって、
糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該目的物質を生成する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
[3]
前記培地が、さらに、前記目的物質の前駆体を含む、前記方法。
[4]
目的物質の製造方法であって、
糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該プラスミドを有する菌体を生成する工程、および
前記菌体を利用して前記目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
[5]
さらに、前記目的物質を回収することを含む、前記方法。
[6]
前記資化能が、前記糖の資化に関与するタンパク質P1の活性が低下することにより、低下した、前記方法。
[7]
前記タンパク質P1の活性が、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または該遺伝子を破壊することにより、低下した、前記方法。
[8]
前記タンパク質P1の活性が、該タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の欠失に
より、低下した、前記方法。
[9]
前記第1の塩基配列が、前記糖の資化に関与するタンパク質P2をコードする遺伝子である、前記方法。
[10]
前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、前記糖の取り込み系および前記糖の代謝酵素から選択されるタンパク質である、前記方法。
[11]
前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、解糖系の酵素から選択されるタンパク質である、前記方法。
[12]
前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、6−ホスホフルクトキナーゼである、前記方法。
[13]
前記6−ホスホフルクトキナーゼが、それぞれ、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、前記方法:
(a)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
(b)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、6−ホスホフルクトキナーゼ活性を有するタンパク質;
(c)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、6−ホスホフルクトキナーゼ活性を有するタンパク質。
[14]
前記第2の塩基配列が、活性の増大により目的物質生産能を付与または増強できるタンパク質をコードする遺伝子および前記目的物質をコードする遺伝子から選択される遺伝子である、前記方法。
[15]
前記活性の増大により目的物質生産能を付与または増強できるタンパク質が、前記目的物質の生合成酵素である、前記方法。
[16]
前記第2の塩基配列が、芳香族カルボン酸レダクターゼをコードする遺伝子である、前記方法。
[17]
前記目的物質が、SAM依存性代謝物、アルデヒド、L−アミノ酸、核酸、有機酸、γ−グルタミルペプチド、スフィンゴイド、タンパク質、RNAから選択される、前記方法。
[18]
前記目的物質が、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、バニリン酸、メラトニン、エルゴチオネイン、ムギネ酸、フェルラ酸、ポリアミン、グアイアコール、4−ビニルグアイアコール、4−エチルグアイアコール、クレアチン、L−メチオニンから選択される、前記方法。
[19]
前記前駆体が、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、バニリン酸、安息香酸、桂皮酸、L−トリプトファン、L−ヒスチジン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−アルギニン、L−オルニチン、グリシンから選択される、前記方法。
[20]
前記目的物質がバニリン酸である、前記方法。
[21]
前記目的物質がバニリンであり、前記前駆体がバニリン酸である、前記方法。
[22]
前記糖が、グルコースまたはスクロースである、前記方法。
[23]
前記微生物が、細菌または酵母である、前記方法。
[24]
前記微生物が、コリネ型細菌または腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌である、前記方法。
[25]
前記微生物が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌またはエシェリヒア(Escherichia)属細菌である、前記方法。
[26]
前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)またはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、前記方法。
[27]
前記培地が、抗生物質を実質的に含有しない、前記方法。
本発明により、微生物においてプラスミドを維持することができる。また、一態様においては、本発明により、微生物においてプラスミドを維持し、目的物質を製造することができる。
プラスミドpBS4SΔrncの構築手順を示す図。 rnc遺伝子欠損確認のためのアガロースゲル電気泳動図(写真)。 プラスミドpVC7-sacBの構築手順を示す図。 プラスミドpBS4SΔpfkAの構築手順を示す図。 pfkA遺伝子欠損確認のためのアガロースゲル電気泳動図(写真)。 プラスミドpVC7-Pf1-Hv-iapの構築手順を示す図。 プラスミドpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの構築手順を示す図。 プラスミドpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Pbl-pfkA、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-PmsrA-pfkA、およびpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Plac-pfkAの構築手順を示す図。 抗生物質無添加培養系におけるdsRNAの生産結果を示す電気泳動図(写真)。 プラスミドpPK4-Pbl-pfkA-dGFPおよびpPK4-Plac-pfkA-dGFPの構築手順を示す図。 抗生物質無添加培養系におけるGFPの生産結果を示す図(写真)。
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書に記載の方法においては、糖を選択圧として微生物においてプラスミドを維持することができる。すなわち、本明細書に記載の方法は、糖を選択圧として微生物においてプラスミドを維持する方法である。
「微生物においてプラスミドが維持される」とは、プラスミドを有する微生物の培養の際に微生物においてプラスミドが維持されることを意味する。すなわち、「微生物においてプラスミドが維持される」とは、言い換えると、プラスミドを保持したまま微生物が生育(増殖)することを意味してよく、また、培養によりプラスミドを有する菌体が生成することを意味してよい。プラスミドの維持は、例えば、プラスミドを保持したままの細胞が、プラスミドの脱落した細胞よりも優先的に生育できることによるものであってよい。微生物においてプラスミドが維持されることを、「プラスミドの安定化」ともいう。プラスミドの維持の程度は、培養の目的等の諸条件に応じて許容可能な限り、特に制限されな
い。「微生物においてプラスミドが維持される」とは、具体的には、例えば、プラスミドを有する微生物を培養した際に、培養後の菌体の内のプラスミドを保持する菌体の比率が50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上であることを意味してもよい。また、「微生物においてプラスミドが維持される」とは、具体的には、例えば、プラスミドを有する微生物を培養した際に、培養後の菌体における菌体当たりのプラスミドの平均コピー数が、培養前の菌体(すなわち植菌時の菌体)における菌体当たりのプラスミドの平均コピー数の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上であることを意味してもよい。
「糖を選択圧として微生物においてプラスミドが維持される」とは、糖の存在に依拠して微生物においてプラスミドが維持されることを意味する。すなわち、「糖を選択圧として微生物においてプラスミドが維持される」とは、具体的には、糖の存在下で微生物を培養した場合にプラスミドが維持されることを意味してよい。「糖を選択圧として微生物においてプラスミドが維持される」とは、より具体的には、糖の非存在下で微生物を培養した場合にはプラスミドが維持されない(すなわち、「微生物においてプラスミドが維持される」という条件を満たさない)が、糖の存在下で微生物を培養した場合にはプラスミドが維持されることを意味してもよい。「糖を選択圧として微生物においてプラスミドが維持される」とは、さらに具体的には、糖の非存在下で微生物を培養した場合には他の選択圧を使用しないとプラスミドが維持されない(すなわち、「微生物においてプラスミドが維持される」という条件を満たさない)が、糖の存在下で微生物を培養した場合には他の選択圧を使用しなくてもプラスミドが維持されることを意味してもよい。
本明細書に記載の方法においては、具体的には、糖の資化能の低下とプラスミドによるその補完とを組み合わせることにより、糖が選択圧として機能し、以て微生物においてプラスミドを維持することができる。すなわち、微生物としては、糖の資化能が低下するように改変されたものを用いることができる。また、プラスミドとしては、低下した糖の資化能を補完する塩基配列(第1の塩基配列)を有するもの用いることができる。
すなわち、本明細書に記載の方法は、具体的には、下記の方法であってよい:
微生物においてプラスミドを維持する方法であって、
糖を含有する培地でプラスミドを有する微生物を培養する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列を含む、方法。
また、微生物が目的物質生産能を有する場合、本明細書に記載の方法を利用して目的物質を製造することもできる。すなわち、微生物が目的物質生産能を有する場合、上記のようにして培養を実施することにより、または上記のような培養により得られる菌体を利用することにより、目的物質を製造することができる。すなわち、本明細書に記載の方法の一態様は、目的物質の製造方法である。目的物質の生産に目的物質を製造する場合、プラスミドとしては、目的物質の生産に有効な塩基配列(第2の塩基配列)をさらに有するもの用いることができる。
すなわち、目的物質の製造方法の一態様は、下記の方法であってよい:
目的物質の製造方法であって、
糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該目的物質を生成する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
また、目的物質の製造方法の一態様は、下記の方法であってもよい:
目的物質の製造方法であって、
糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該プラスミドを有する菌体を生成する工程、および
前記菌体を利用して前記目的物質を生成する工程を含み、
前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
上記微生物を、「本明細書に記載の微生物」ともいう。上記プラスミドを、「本明細書に記載のプラスミド」ともいう。
<1>微生物
本明細書に記載の微生物は、糖の資化能が低下するように改変された、本明細書に記載のプラスミドを有する微生物である。
本明細書に記載の微生物は、糖を選択圧としてプラスミドを維持できる限り、さらに、その他の任意の性質(例えば改変)を有していてよい。微生物は、例えば、目的物質生産能を有していてもよく、いなくてもよい。また、微生物は、例えば、アミノ酸要求性等の栄養要求性を有していてもよく、いなくてもよい。また、微生物は、例えば、他のプラスミド(すなわち、本明細書に記載のプラスミド以外のプラスミド)を有していてもよく、いなくてもよい。
本明細書に記載の微生物は、下記のような微生物に対し糖の資化能の低下や本明細書に記載のプラスミドの導入等の改変を実施することにより、構築することができる。すなわち、本明細書に記載の微生物は、下記のような微生物に由来する改変株であってよい。微生物を構築するための改変は、任意の順番で実施することができる。例えば、糖の資化能が低下するように微生物を改変し、その後、本明細書に記載のプラスミドを導入してよい。なお、本明細書に記載の微生物またはそれを構築するための親株を、「宿主」ともいう。
<1−1>親株として用いられる微生物
本明細書に記載の微生物を構築するための親株として用いられる微生物は、特に制限されない。微生物としては、細菌や酵母が挙げられる。
細菌としては、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)に属する細菌やコリネ型細菌が挙げられる。
腸内細菌科に属する細菌としては、エシェリヒア(Escherichia)属、エンテロバクター(Enterobacter)属、パントエア(Pantoea)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、セラチア(Serratia)属、エルビニア(Erwinia)属、フォトラブダス(Photorhabdus)属、プロビデンシア(Providencia)属、サルモネラ(Salmonella)属、モルガネラ(Morganella)等の属に属する細菌が挙げられる。具体的には、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/Browser/wwwtax.cgi?id=91347)で用いられている分類法により腸内細菌科に分類されている細菌を用いることができる。
エシェリヒア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエシェリヒア属に分類されている細菌が挙げられる。エシェリヒア属細菌とし
ては、例えば、Neidhardtらの著書(Backmann, B. J. 1996. Derivations and Genotypes
of some mutant derivatives of Escherichia coli K-12, p. 2460-2488. Table 1. In F. D. Neidhardt (ed.), Escherichia coli and Salmonella Cellular and Molecular Biology/Second Edition, American Society for Microbiology Press, Washington, D.C.)に記載されたものが挙げられる。エシェリヒア属細菌としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)が挙げられる。エシェリヒア・コリとして、具体的には、例えば、W3110株(ATCC 27325)やMG1655株(ATCC 47076)等のエシェリヒア・コリK-12株;エシェリヒア・コリK5株(ATCC 23506);BL21(DE3)株等のエシェリヒア・コリB株;およびそれらの派生株が挙げられる。
エンテロバクター属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりエンテロバクター属に分類されている細菌が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・アグロメランス(Enterobacter agglomerans)やエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)が挙げられる。エンテロバクター・アグロメランスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アグロメランスATCC12287株が挙げられる。エンテロバクター・アエロゲネスとして、具体的には、例えば、エンテロバクター・アエロゲネスATCC13048株、NBRC12010株(Biotechonol Bioeng. 2007 Mar 27; 98(2) 340-348)、AJ110637株(FERM BP-10955)が挙げられる。また、エンテロバクター属細菌としては、例えば、欧州特許出願公開EP0952221号明細書に記載されたものが挙げられる。なお、Enterobacter agglomeransには、Pantoea agglomeransと分類されているものも存在する。
パントエア属細菌としては、特に制限されないが、微生物学の専門家に知られている分類によりパントエア属に分類されている細菌が挙げられる。パントエア属細菌としては、例えば、パントエア・アナナティス(Pantoea ananatis)、パントエア・スチューアルティ(Pantoea stewartii)、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)、パントエア・シトレア(Pantoea citrea)が挙げられる。パントエア・アナナティスとして、具体的には、例えば、パントエア・アナナティスLMG20103株、AJ13355株(FERM BP-6614)、AJ13356株(FERM BP-6615)、AJ13601株(FERM BP-7207)、SC17株(FERM BP-11091)、SC17(0)株(VKPM B-9246)、及びSC17sucA株(FERM BP-8646)が挙げられる。なお、エンテロバクター属細菌やエルビニア属細菌には、パントエア属に再分類されたものもある(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345(1989); Int. J. Syst. Bacteriol., 43, 162-173 (1993))。例えば、エンテロバクター・アグロメランスのある種のものは、最近、16S rRNAの塩基配列分析等に基づき、パントエア・アグロメランス、パントエア・アナナティス、パントエア・ステワルティイ等に再分類された(Int. J. Syst. Bacteriol., 39, 337-345(1989))。パントエア属細菌には、このようにパントエア属に再分類された細菌も包含されてよい。
エルビニア属細菌としては、エルビニア・アミロボーラ(Erwinia amylovora)、エルビニア・カロトボーラ(Erwinia carotovora)が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、クレブシエラ・プランティコーラ(Klebsiella planticola)が挙げられる。
コリネ型細菌としては、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、およびミクロバクテリウム(Microbacterium)属等の属に属する細菌が挙げられる。
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような種が挙げられる。
コリネバクテリウム・アセトアシドフィラム(Corynebacterium acetoacidophilum)
コリネバクテリウム・アセトグルタミカム(Corynebacterium acetoglutamicum)
コリネバクテリウム・アルカノリティカム(Corynebacterium alkanolyticum)
コリネバクテリウム・カルナエ(Corynebacterium callunae)
コリネバクテリウム・クレナタム(Corynebacterium crenatum)
コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)
コリネバクテリウム・リリウム(Corynebacterium lilium)
コリネバクテリウム・メラセコーラ(Corynebacterium melassecola)
コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(コリネバクテリウム・エフィシエンス)(Corynebacterium thermoaminogenes (Corynebacterium efficiens))
コリネバクテリウム・ハーキュリス(Corynebacterium herculis)
ブレビバクテリウム・ディバリカタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・フラバム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium
flavum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・イマリオフィラム(Brevibacterium immariophilum)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(コリネバクテリウム・グルタミカム)(Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum))
ブレビバクテリウム・ロゼウム(Brevibacterium roseum)
ブレビバクテリウム・サッカロリティカム(Brevibacterium saccharolyticum)
ブレビバクテリウム・チオゲニタリス(Brevibacterium thiogenitalis)
コリネバクテリウム・アンモニアゲネス(コリネバクテリウム・スタティオニス)(Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis))
ブレビバクテリウム・アルバム(Brevibacterium album)
ブレビバクテリウム・セリナム(Brevibacterium cerinum)
ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム(Microbacterium ammoniaphilum)
コリネ型細菌としては、具体的には、下記のような菌株が挙げられる。
Corynebacterium acetoacidophilum ATCC 13870
Corynebacterium acetoglutamicum ATCC 15806
Corynebacterium alkanolyticum ATCC 21511
Corynebacterium callunae ATCC 15991
Corynebacterium crenatum AS1.542
Corynebacterium glutamicum ATCC 13020, ATCC 13032, ATCC 13060, ATCC 13869, FERM BP-734
Corynebacterium lilium ATCC 15990
Corynebacterium melassecola ATCC 17965
Corynebacterium efficiens (Corynebacterium thermoaminogenes) AJ12340 (FERM BP-1539)
Corynebacterium herculis ATCC 13868
Brevibacterium divaricatum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 14020
Brevibacterium flavum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13826, ATCC 14067, AJ12418(FERM BP-2205)
Brevibacterium immariophilum ATCC 14068
Brevibacterium lactofermentum (Corynebacterium glutamicum) ATCC 13869
Brevibacterium roseum ATCC 13825
Brevibacterium saccharolyticum ATCC 14066
Brevibacterium thiogenitalis ATCC 19240
Corynebacterium ammoniagenes (Corynebacterium stationis) ATCC 6871, ATCC 6872
Brevibacterium album ATCC 15111
Brevibacterium cerinum ATCC 15112
Microbacterium ammoniaphilum ATCC 15354
なお、コリネバクテリウム属細菌には、従来ブレビバクテリウム属に分類されていたが、現在コリネバクテリウム属に統合された細菌(Int. J. Syst. Bacteriol., 41, 255(1991))も含まれる。また、コリネバクテリウム・スタティオニスには、従来コリネバクテリウム・アンモニアゲネスに分類されていたが、16S rRNAの塩基配列解析等によりコリネバクテリウム・スタティオニスに再分類された細菌も含まれる(Int. J. Syst. Evol. Microbiol., 60, 874-879(2010))。
酵母は出芽酵母であってもよく、分裂酵母であってもよい。酵母は、一倍体の酵母であってもよく、二倍体またはそれ以上の倍数性の酵母であってもよい。酵母としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属、ピチア・シフェリイ(Pichia ciferrii)、ピチア・シドウィオラム(Pichia sydowiorum)、ピチア・パストリス(Pichia pastoris)等のピヒア属(ウィッカーハモマイセス(Wickerhamomyces)属ともいう)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)等のキャンディダ属、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)等のハンゼヌラ属、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属に属する酵母が挙げられる。
これらの菌株は、例えば、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(住所12301 Parklawn Drive, Rockville, Maryland 20852 P.O. Box 1549, Manassas, VA 20108, United States of America)より分譲を受けることが出来る。すなわち各菌株に対応する登録番号が付与されており、この登録番号を利用して分譲を受けることが出来る(http://www.atcc.org/参照)。各菌株に対応する登録番号は、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクションのカタログに記載されている。また、これらの菌株は、例えば、各菌株が寄託された寄託機関から入手することができる。
<1−2>糖の資化能の低下
本明細書に記載の微生物は、糖の資化能が低下するように改変されている。微生物は、具体的には、糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されている。「糖の資化能」とは、糖を利用して生育する能力を意味してよい。微生物においては、1種の糖の資化能が低下していてもよく、2種またはそれ以上の糖の資化能が低下していてもよい。微生物においては、少なくとも、選択圧として用いる糖の資化能が低下していればよい。
糖の資化能の低下の程度は、糖を選択圧としてプラスミドを維持できる限り、特に制限されない。糖の資化能は、完全に欠損してもよく、そうでなくてもよい。糖の資化能の低下は、例えば、糖を唯一炭素源として微生物を培養した際の生育の低下として測定することができる。「糖の資化能が低下する」とは、具体的には、例えば、糖を唯一炭素源とする液体最少培地で培養した際の改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変した後の株)の比増殖速度が、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)の50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下、5%以下、2%以下、または1%以下であることを意味してもよい。また、「糖の資化能が低下する」とは、具体的には、例えば、糖を唯一炭素源とする最少培地(例えば、液体最少培地または固体最少培地)で培養した際に、非改変株は生育(すなわち増殖)できるが、改変株は生育(すなわち増殖)できないことを意味してもよい。なお、低下した糖の資化能は本明細書に記載のプラスミドにより補完されるため、糖の資化能が低下しているか否かは同プラスミドを有さない状態で判断される。すなわち、「糖の資化能が低下する」という場合の「糖の資化能」とは、本明細書に記載のプラスミドを有さない状態での糖の資化能を意味する。言い換えると、「糖の資化能が低下する」という形質は、本明細書に記載のプラスミドを有さない状態での宿主の形質である。
糖の資化能を低下させる方法は、所望の程度に糖の資化能が低下する限り、特に制限さ
れない。糖の資化能は、例えば、糖の資化に関与するタンパク質の活性を低下させることにより、低下させることができる。すなわち、微生物は、例えば、糖の資化に関与するタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。微生物は、具体的には、非改変株と比較して糖の資化に関与するタンパク質の活性が低下するように改変されていてよい。タンパク質の活性を低下させる手法については後述する。糖の資化に関与するタンパク質の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊等することにより、低下させることができる。糖の資化に関与するタンパク質を、「糖資化タンパク質」ともいう。糖の資化に関与するタンパク質をコードする遺伝子を、「糖資化遺伝子」ともいう。糖の資化能を低下させるために活性を低下させる糖資化タンパク質を、後述するタンパク質P2(第1の塩基配列がコードする糖資化タンパク質)との区別の便宜のため、「タンパク質P1」ともいう。微生物においては、1種の糖資化タンパク質の活性が低下していてもよく、2種またはそれ以上の糖資化タンパク質の活性が低下していてもよい。
以下、糖資化遺伝子および糖資化タンパク質について説明する。なお、以下の説明は、糖の資化能を低下させるために改変される遺伝子またはタンパク質の説明に加えて、低下した糖の資化能を補完するために利用される遺伝子またはタンパク質の説明を兼ねる。微生物において活性が低下するタンパク質は、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)が有するタンパク質から選択される。非改変株が有するタンパク質としては、非改変株の染色体上に存在する遺伝子にコードされるタンパク質が挙げられる。
糖資化遺伝子および糖資化タンパク質としては、上記例示した微生物等の各種生物のものが挙げられる。すなわち、糖資化遺伝子および糖資化タンパク質として、具体的には、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌(例えば、E. coli等のEscherichia属細菌)やコリネ型細菌(例えば、C. glutamicum等のCorynebacterium属細菌)のものが挙げられる。また、糖資化遺伝子および糖資化タンパク質としては、以下に個別に例示する生物のものも挙げられる。各種生物由来の糖資化遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされる糖資化タンパク質のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。
糖資化タンパク質としては、糖の資化経路を構成するタンパク質が挙げられる。すなわち、糖の資化経路を構成するタンパク質の活性を低下させることにより、糖の資化経路を弱化することができ、以て糖の資化能を低下させることができる。微生物が或る糖について2種またはそれ以上の資化経路を有する場合、その糖の資化能を低下させるためには、それら資化経路から選択される1種の資化経路を弱化してもよく、それら資化経路から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)の資化経路を弱化してもよい。或る資化経路が2種またはそれ以上のタンパク質で構成される場合、その資化経路を弱化するためには、それらタンパク質から選択される1種のタンパク質の活性を低下させてもよく、それらタンパク質から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)のタンパク質の活性を低下させてもよい。
糖の資化経路を構成するタンパク質としては、糖の取り込み系や糖の代謝酵素が挙げられる。
糖の取り込み系としては、PTS(phosphotransferase system)が挙げられる。「PTS(phosphotransferase system)」とは、PEP(phosphoenolpyruvate)をリン酸供与体として糖をリン酸化し細胞内に輸送する活性を有するシステムを意味してよい。同活性を、「PTS活性」ともいう。例えば、グルコース、スクロース、フルクトースは、それぞれ、グルコース−6−リン酸、スクロース−6−リン酸、フルクトース−1−リン酸に変換されて細胞内に輸送されてよい。PTSは、3種のタンパク質:Enzyme I(EI)、Histidine-phosp
horylatable protein(HPr)、Enzyme II(EII)から構成されてよい。すなわち、PTSとしては、EI、HPr、EIIが挙げられる。PTSにおいて、具体的には、PEPに由来するリン酸基がEI、HPr、EIIへと順に転移し、EIIが糖をリン酸化して細胞内に輸送してよい。PTSの活性を低下させるためには、例えば、EI、HPr、EIIから選択される1種のタンパク質の活性を低下させてもよく、EI、HPr、EIIから選択される2種またはそれ以上(例えば全て)のタンパク質の活性を低下させてもよい。
EIは、糖の種類に依らず共通に用いられ得る。EIとしては、ptsI遺伝子にコードされるPtsIタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のptsI遺伝子(NCgl1858)の塩基配列を配列番号1に、同遺伝子がコードするPtsIタンパク質のアミノ酸配列を配列番号2に示す。E. coli K-12 MG1655株のptsI遺伝子の塩基配列を配列番号15に、同遺伝子がコードするPtsIタンパク質のアミノ酸配列を配列番号16に示す。
HPrは、糖の種類に依らず共通に用いられ得る。HPrとしては、ptsH遺伝子にコードされるPtsHタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のptsH遺伝子(NCgl1862)の塩基配列を配列番号3に、同遺伝子がコードするPtsHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号4に示す。E. coli K-12 MG1655株のptsH遺伝子の塩基配列を配列番号17に、同遺伝子がコードするPtsHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号18に示す。
EIIとしては、それぞれの糖に特異的なEIIが挙げられる。EIIとして、具体的には、グルコース特異的EII(EIIGlc)、スクロース特異的EII(EIIScr)、フルクトース特異的EII(EIIFru)が挙げられる。EIIは、例えば、3種のコンポーネント:EIIA、EIIB、EIICから構成されてよい。これらのコンポーネントは、単独で、あるいは適宜組み合わせて、遺伝子にコードされていてよい。EIIAを、「Enzyme III(EIII)」ともいう。EIIGlcとしては、ptsGおよびcrr遺伝子にそれぞれコードされるPtsGおよびCrrタンパク質が挙げられる。EIIScrとしては、ptsS、scrA、およびcrr遺伝子にそれぞれコードされるPtsS、ScrA、およびCrrタンパク質が挙げられる。EIIFruとしては、ptsF、fruA、およびfruB遺伝子にそれぞれコードされるPtsF、FruA、およびFruBタンパク質が挙げられる。
例えば、C. glutamicum等のコリネ型細菌の場合、ptsG遺伝子はグルコース特異的EIIBCA(EIIBCAGlc)を、ptsS遺伝子はスクロース特異的EIIBCA(EIIBCAScr)を、ptsF遺伝子はフルクトース特異的EIIBCA(EIIBCAFru)を、それぞれコードし得る。C. glutamicum ATCC 13869株のptsG遺伝子(NCgl1305)の塩基配列を配列番号5に、同遺伝子がコードするPtsGタンパク質のアミノ酸配列を配列番号6に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のptsS遺伝子(NCgl2553)の塩基配列を配列番号7に、同遺伝子がコードするPtsSタンパク質のアミノ酸配列を配列番号8に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のptsF遺伝子(NCgl1861)の塩基配列を配列番号9に、同遺伝子がコードするPtsFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号10に示す。
例えば、E. coli等の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌の場合、ptsG遺伝子はグルコース特異的EIIBC(EIIBCGlc)を、crr遺伝子はグルコースとスクロースの両方に特異的なEIIA(EIIAGlc,Scr)を、scrA遺伝子はスクロース特異的EIIBC(EIIBCScr)を、fruA遺伝子はフルクトース特異的EIIBC(EIIBCFru)を、fruB遺伝子はフルクトース特異的EIIAとHPrの融合タンパク質(fused EIIAFru/HPr)を、それぞれコードし得る。E. coli K-12 MG1655株のptsG遺伝子の塩基配列を配列番号19に、同遺伝子がコードするPtsGタンパク質のアミノ酸配列を配列番号20に示す。E. coli K-12 MG1655株のcrr遺伝子の塩基配列を配列番号21に、同遺伝子がコードするCrrタンパク質のアミノ酸配列を配列番号22に示す。Salmonella entericaにおいて見出されたプラスミドpUR400に搭載されたscrA遺伝子の塩基配列を配列番号23に、同遺伝子がコードするScrAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号24に示す。E. coli K-12 MG1655株のfruA遺伝子の塩基配列を配列番号
25に、同遺伝子がコードするFruAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号26に示す。E.
coli K-12 MG1655株のfruB遺伝子の塩基配列を配列番号27に、同遺伝子がコードするFruBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号28に示す。
また、糖の取り込み系としては、非PTS取り込み系も挙げられる。「非PTS取り込み系」とは、糖をリン酸化せずに細胞内に輸送する活性を有するシステムを意味してよい。同活性を、「非PTS取り込み活性」ともいう。糖の非PTS取り込み系としては、グルコースの非PTS取り込み系やスクロースの非PTS取り込み系が挙げられる。
グルコースの非PTS取り込み系としては、galP遺伝子にコードされるGalPタンパク質が挙げられる。GalPタンパク質は、ガラクトースパーミアーゼとして知られている。E. coli K-12 MG1655株のgalP遺伝子の塩基配列を配列番号29に、同遺伝子がコードするGalPタンパク質のアミノ酸配列を配列番号30に示す。グルコースの非PTS取り込み系としては、iolT1およびiolT2遺伝子にそれぞれコードされるIolT1およびIolT2タンパク質も挙げられる。IolT1およびIolT2タンパク質は、ミオイノシトールトランスポーターとして知られている。C. glutamicum ATCC 13032株のiolT1遺伝子(NCgl0178)の塩基配列を配列番号11に、同遺伝子がコードするIolT1タンパク質のアミノ酸配列を配列番号12に示す。C. glutamicum ATCC 13032株のiolT2遺伝子(NCgl2953)の塩基配列を配列番号13に、同遺伝子がコードするIolT2タンパク質のアミノ酸配列を配列番号14に示す。
スクロースの非PTS取り込み系としては、cscB遺伝子にコードされるCscBタンパク質が挙げられる。CscBタンパク質は、スクロースパーミアーゼとして知られている。E. coli EC3132株のcscB遺伝子の塩基配列を配列番号31に、同遺伝子がコードするCscBタンパク質のアミノ酸配列(NCBI ACCESSION P30000)を配列番号32に示す。
糖の代謝酵素としては、解糖系の酵素が挙げられる。解糖系としては、糖またはリン酸化糖をアセチルCoAとCO2に変換する一連の代謝経路が挙げられる。解糖系として、具体的には、エムデン・マイヤーホフ経路(EM経路)、エントナー・ドウドロフ経路(ED経路)、ペントースリン酸経路(PP経路)が挙げられる。解糖系の酵素として、具体的には、例えば、グルコキナーゼ(glucokinase)、ホスホグルコースイソメラーゼ(phosphoglucose isomerase)、6−ホスホフルクトキナーゼ(6-phosphofructokinase)、フルクトース−1,6−ビスリン酸アルドラーゼ(fructose 1,6-bisphosphate aldolase)、トリオースリン酸イソメラーゼ(triose phosphate isomerase)、グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(phosphoglycerate kinase)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(phosphoglycerate mutase)、エノラーゼ(enolase)、ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate dehydrogenase)、スクロース−6−リン酸ヒドロラーゼ(sucrose-6-phosphate hydrolase)、1−ホスホフルクトキナーゼ(1-phosphofructokinase)、インベルターゼ(invertase)、フルクトキナーゼ(fructokinase)が挙げられる。解糖系の酵素としては、特に、6-phosphofructokinaseが挙げられる。
「グルコキナーゼ(glucokinase)」とは、PEPをリン酸供与体としてグルコースをリン酸化し、グルコース−6−リン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.1.2)。同活性を、「glucokinase活性」ともいう。glucokinaseをコードする遺伝子を、「glucokinase遺伝子」ともいう。glucokinaseとしては、glk遺伝子にコードされるGlkタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のglk遺伝子の塩基配列を配列番号33に、同遺伝子がコードするGlkタンパク質のアミノ酸配列を配列番号34に示す。E. coli K-12 MG1655株のglk遺伝子の塩基配列を配列番号67に、同遺伝子がコードするGlkタンパク質のアミノ酸配列を配列番号68に示す。
「ホスホグルコースイソメラーゼ(phosphoglucose isomerase)」とは、グルコース−6−リン酸を異性化してフルクトース−6−リン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 5.3.1.9)。同活性を、「phosphoglucose isomerase活性」ともいう。phosphoglucose isomeraseをコードする遺伝子を、「phosphoglucose isomerase遺伝子」ともいう。phosphoglucose isomeraseとしては、pgi遺伝子にコードされるPgiタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のpgi遺伝子の塩基配列を配列番号35に、同遺伝子がコードするPgiタンパク質のアミノ酸配列を配列番号36に示す。E. coli K-12 MG1655株のpgi遺伝子の塩基配列を配列番号69に、同遺伝子がコードするPgiタンパク質のアミノ酸配列を配列番号70に示す。
「6−ホスホフルクトキナーゼ(6-phosphofructokinase)」とは、ATPをリン酸供与体としてフルクトース−6−リン酸をリン酸化してフルクトース−1,6−ビスリン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.1.11)。同活性を、「6-phosphofructokinase活性」ともいう。6-phosphofructokinaseをコードする遺伝子を、「6-phosphofructokinase遺伝子」ともいう。6-phosphofructokinaseとしては、pfk遺伝子(例えばpfkA遺伝子やpfkB遺伝子)にコードされるPfkタンパク質(例えばPfkAタンパク質やPfkBタンパク質)が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のpfk遺伝子(pfkA遺伝子ともいう)の塩基配列を配列番号37に、同遺伝子がコードするPfkタンパク質のアミノ酸配列を配列番号38に示す。E. coli K-12 MG1655株のpfkA遺伝子の塩基配列を配列番号71に、同遺伝子がコードするPfkAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号72に示す。E. coli K-12 MG1655株のpfkB遺伝子の塩基配列を配列番号73に、同遺伝子がコードするPfkBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号74に示す。6-phosphofructokinaseの活性を低下させるためには、例えば、PfkAタンパク質およびPfkBタンパク質の一方または両方の活性を低下させてよい。
「フルクトース−1,6−ビスリン酸アルドラーゼ(fructose 1,6-bisphosphate aldolase)」とは、フルクトース−1,6−ビスリン酸を分解してジヒドロキシアセトンリン酸とグリセルアルデヒド−3−リン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.1.2.13)。同活性を、「fructose 1,6-bisphosphate aldolase活性」ともいう。fructose 1,6-bisphosphate aldolaseをコードする遺伝子を、「fructose
1,6-bisphosphate aldolase遺伝子」ともいう。fructose 1,6-bisphosphate aldolaseとしては、fbaA遺伝子にコードされるFbaAタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のfbaA遺伝子の塩基配列を配列番号39に、同遺伝子がコードするFbaAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号40に示す。E. coli K-12 MG1655株のfbaA遺伝子の塩基配列を配列番号75に、同遺伝子がコードするFbaAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号76に示す。
「トリオースリン酸イソメラーゼ(triose phosphate isomerase)」とは、ジヒドロキシアセトンリン酸を異性化してグリセルアルデヒド−3−リン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 5.3.1.1)。同活性を、「triose phosphate isomerase活性」ともいう。triose phosphate isomeraseをコードする遺伝子を、「triose phosphate isomerase遺伝子」ともいう。triose phosphate isomeraseとしては、tpiA遺伝子にコードされるTpiAタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のtpiA遺伝子の塩基配列を配列番号41に、同遺伝子がコードするTpiAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号42に示す。E. coli K-12 MG1655株のtpiA遺伝子の塩基配列を配列番号77に、同遺伝子がコードするTpiAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号78に示す。
「グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)」とは、リン酸および電子受容体の存在下でグリセルアルデヒド−3−リン酸をリン酸化および酸化して1,3−ビスホスホグリセリン酸を生成する反応を触媒す
る活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.2.1.12, EC 1.2.1.13, EC.1.2.1.59等)。同活性を、「glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase活性」ともいう。glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseをコードする遺伝子を、「glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase遺伝子」ともいう。電子受容体としては、NAD+やNADP+が挙げられる。glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseは、例えば、これらの電子受容体の少なくとも1つを利用できるものであってよい。glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenaseとしては、gapA遺伝子にコードされるGapAタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のgapA遺伝子の塩基配列を配列番号43に、同遺伝子がコードするGapAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号44に示す。E. coli K-12 MG1655株のgapA遺伝子の塩基配列を配列番号79に、同遺伝子がコードするGapAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号80に示す。
「ホスホグリセリン酸キナーゼ(phosphoglycerate kinase)」とは、1,3−ビスホスホグリセリン酸とADPから3−ホスホグリセリン酸とATPを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.2.3)。同活性を、「phosphoglycerate kinase活性」ともいう。phosphoglycerate kinaseをコードする遺伝子を、「phosphoglycerate kinase遺伝子」ともいう。phosphoglycerate kinaseとしては、pgk遺伝子にコードされるPgkタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のpgk遺伝子の塩基配列を配列番号45に、同遺伝子がコードするPgkタンパク質のアミノ酸配列を配列番号46に示す。E. coli K-12 MG1655株のpgk遺伝子の塩基配列を配列番号81に、同遺伝子がコードするPgkタンパク質のアミノ酸配列を配列番号82に示す。
「ホスホグリセリン酸ムターゼ(phosphoglycerate mutase)」とは、3−ホスホグリセリン酸を異性化して2−ホスホグリセリン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 5.4.2.11またはEC 5.4.2.12)。同活性を、「phosphoglycerate mutase活性」ともいう。phosphoglycerate mutaseをコードする遺伝子を、「phosphoglycerate mutase遺伝子」ともいう。phosphoglycerate mutaseとしては、gpm遺伝子(例えばgpmA遺伝子やgpmM遺伝子)にコードされるGpmタンパク質(例えばGpmAタンパク質やGpmMタンパク質)が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のgpmA遺伝子の塩基配列を配列番号47に、同遺伝子がコードするGpmAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号48に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のgpmM遺伝子の塩基配列を配列番号49に、同遺伝子がコードするGpmMタンパク質のアミノ酸配列を配列番号50に示す。E. coli K-12 MG1655株のgpmA遺伝子の塩基配列を配列番号83に、同遺伝子がコードするGpmAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号84に示す。E. coli K-12 MG1655株のgpmM遺伝子の塩基配列を配列番号85に、同遺伝子がコードするGpmMタンパク質のアミノ酸配列を配列番号86に示す。phosphoglycerate mutaseの活性を低下させるためには、例えば、GpmAタンパク質およびGpmMタンパク質の一方または両方の活性を低下させてよい。
「エノラーゼ(enolase)」とは、2−ホスホグリセリン酸を脱水してPEPを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.1.11)。同活性を、「enolase活性」ともいう。enolaseをコードする遺伝子を、「enolase遺伝子」ともいう。enolaseとしては、eno遺伝子にコードされるEnoタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のeno遺伝子(NCgl0935)の塩基配列を配列番号51に、同遺伝子がコードするEnoタンパク質のアミノ酸配列を配列番号52に示す。E. coli K-12 MG1655株のeno遺伝子の塩基配列を配列番号87に、同遺伝子がコードするEnoタンパク質のアミノ酸配列を配列番号88に示す。
「ピルビン酸キナーゼ(pyruvate kinase)」とは、PEPとADPからピルビン酸とATPを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.1.40)。同活性を、「pyruvate kinase活性」ともいう。pyruvate kinaseをコードする遺伝子を、「pyru
vate kinase遺伝子」ともいう。pyruvate kinaseとしては、pyk遺伝子(例えばpykA遺伝子やpykF遺伝子)にコードされるPykタンパク質(例えばPykAタンパク質やPykFタンパク質)が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のpykA遺伝子の塩基配列を配列番号53に、同遺伝子がコードするPykAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号54に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のpykF遺伝子の塩基配列を配列番号55に、同遺伝子がコードするPykFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号56に示す。E. coli K-12 MG1655株のpykA遺伝子の塩基配列を配列番号89に、同遺伝子がコードするPykAタンパク質のアミノ酸配列を配列番号90に示す。E. coli K-12 MG1655株のpykF遺伝子の塩基配列を配列番号91に、同遺伝子がコードするPykFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号92に示す。pyruvate kinaseの活性を低下させるためには、例えば、PykAタンパク質およびPykFタンパク質の一方または両方の活性を低下させてよい。
「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate dehydrogenase)」とは、ピルビン酸を酸化的に脱炭酸してアセチルCoAを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「pyruvate dehydrogenase活性」ともいう。pyruvate dehydrogenaseをコードする遺伝子を、「pyruvate dehydrogenase遺伝子」ともいう。pyruvate dehydrogenaseは、3種のサブユニット:ピルビン酸デヒドロゲナーゼ/デカルボキシラーゼ(pyruvate dehydrogenase/decarboxylase;E1;EC 1.2.4.1)、ジヒドロリポイルトランスアセチラーゼ(dihydrolipoyl acetyltransferase;E2;EC 2.3.1.12)、ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ(dihydrolipoyl dehydrogenase;E3;EC 1.8.1.4)から構成されてよい。すなわち、pyruvate dehydrogenaseとしては、E1、E2、E3が挙げられる。pyruvate dehydrogenaseにおいて、具体的には、E1がピルビン酸の脱炭酸とE2へのアセチル基の転移を、E2がアセチルCoAの生成を、E3がNADHの生成を、それぞれ担ってよい。pyruvate dehydrogenaseの活性を低下させるためには、例えば、E1、E2、E3から選択される1種のタンパク質の活性を低下させてもよく、E1、E2、E3から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)のタンパク質の活性を低下させてもよい。E1としては、aceE遺伝子にコードされるAceEタンパク質が挙げられる。E2としては、aceF遺伝子にコードされるAceFタンパク質が挙げられる。E3としては、lpd遺伝子にコードされるLpdタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のaceE遺伝子の塩基配列を配列番号57に、同遺伝子がコードするAceEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号58に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のaceF遺伝子の塩基配列を配列番号59に、同遺伝子がコードするAceFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号60に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のlpd遺伝子の塩基配列を配列番号61に、同遺伝子がコードするLpdタンパク質のアミノ酸配列を配列番号62に示す。E. coli K-12 MG1655株のaceE遺伝子の塩基配列を配列番号93に、同遺伝子がコードするAceEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号94に示す。E. coli K-12 MG1655株のaceF遺伝子の塩基配列を配列番号95に、同遺伝子がコードするAceFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号96に示す。E. coli K-12 MG1655株のlpd遺伝子の塩基配列を配列番号97に、同遺伝子がコードするLpdタンパク質のアミノ酸配列を配列番号98に示す。
「スクロース−6−リン酸ヒドロラーゼ(sucrose-6-phosphate hydrolase)」とは、スクロース−6−リン酸を加水分解してグルコース−6−リン酸とフルクトースを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 3.2.1.B3)。同活性を、「sucrose-6-phosphate hydrolase活性」ともいう。sucrose-6-phosphate hydrolaseをコードする遺伝子を、「sucrose-6-phosphate hydrolase遺伝子」ともいう。sucrose-6-phosphate hydrolaseとしては、scrB遺伝子にコードされるScrBタンパク質が挙げられる。C.
glutamicum ATCC 13869株のscrB遺伝子(NCgl2554)の塩基配列を配列番号63に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号64に示す。Salmonella entericaにおいて見出されたプラスミドpUR400に搭載されたscrB遺伝子の塩基配列を配列番号99に、同遺伝子がコードするScrBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号100に示す。なお、sucrose-6-phosphate hydrolaseは、さらに、invertase活性を有していてもよい。
「1−ホスホフルクトキナーゼ(1-phosphofructokinase)」とは、ATPをリン酸供与体としてフルクトース−1−リン酸をリン酸化してフルクトース−1,6−ビスリン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.1.56)。同活性を、「1-phosphofructokinase活性」ともいう。1-phosphofructokinaseをコードする遺伝子を、「1-phosphofructokinase遺伝子」ともいう。1-phosphofructokinaseとしては、fruK遺伝子にコードされるFruKタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のfruK遺伝子(NCgl1860)の塩基配列を配列番号65に、同遺伝子がコードするFruKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号66に示す。E. coli K-12 MG1655株のfruK遺伝子の塩基配列を配列番号101に、同遺伝子がコードするFruKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号102に示す。
「インベルターゼ(invertase)」とは、スクロースを加水分解してグルコースとフルクトースを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 3.2.1.26)。同活性を、「invertase活性」ともいう。invertaseをコードする遺伝子を、「invertase遺伝子」ともいう。invertaseとしては、cscA遺伝子にコードされるCscAタンパク質が挙げられる。E. coli EC3132株のcscA遺伝子の塩基配列を配列番号103に、同遺伝子がコードするCscAタンパク質のアミノ酸配列(NCBI ACCESSION P40714)を配列番号104に示す。なお、invertaseは、さらに、sucrose-6-phosphate hydrolase活性を有していてもよい。
「フルクトキナーゼ(fructokinase)」とは、ATPをリン酸供与体としてフルクトースをリン酸化してフルクトース−6−リン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.7.1.4)。同活性を、「fructokinase活性」ともいう。fructokinaseをコードする遺伝子を、「fructokinase遺伝子」ともいう。fructokinaseとしては、cscK遺伝子にコードされるCscKタンパク質が挙げられる。E. coli EC3132株のcscK遺伝子の塩基配列を配列番号105に、同遺伝子がコードするCscKタンパク質のアミノ酸配列(NCBI ACCESSION P40713)を配列番号106に示す。
すなわち、糖資化遺伝子は、例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列を有する遺伝子であってよい。また、糖資化タンパク質は、例えば、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。なお、「(アミノ酸または塩基)配列を有する」という表現は、特記しない限り、当該「(アミノ酸または塩基)配列を含む」ことを意味してよく、当該「(アミノ酸または塩基)配列からなる」場合も包含してよい。
糖資化遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した糖資化遺伝子(例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列を有する遺伝子)のバリアントであってもよい。同様に、糖資化タンパク質は、元の機能が維持されている限り、上記例示した糖資化タンパク質(例えば、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を有するタンパク質)のバリアントであってもよい。なお、そのような元の機能が維持されたバリアントを「保存的バリアント」という場合がある。また、上記遺伝子名で特定される遺伝子および上記タンパク質名で特定されるタンパク質には、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質に限られず、それらの保存的バリアントも包含されてよい。すなわち、例えば、「pfk遺伝子」という用語は、上記例示したpfk遺伝子(例えば、配列番号37、71、または73に示す塩基配列を有する遺伝子)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。同様に、例えば、「Pfkタンパク質」という用語は、上記例示したPfkタンパク質(例えば、配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列を有するタンパク質)に加えて、それらの保存的バリアントを包含してよい。保存的バリアントとしては、例えば、上記例示した遺伝子やタンパク質のホモログや人為的な改変体が挙げられる。
「元の機能が維持されている」とは、遺伝子またはタンパク質のバリアントが、元の遺伝子またはタンパク質の機能(例えば、活性や性質)に対応する機能(例えば、活性や性質)を有することを意味する。遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが、元の機能が維持されたタンパク質をコードすることを意味してよい。すなわち、糖資化遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが対応する糖資化タンパク質をコードすることを意味してよい。また、糖資化タンパク質についての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが対応する糖資化タンパク質の活性を有することを意味してよい。例えば、6-phosphofructokinase遺伝子についての「元の機能が維持されている」とは、遺伝子のバリアントが6-phosphofructokinaseをコードすることを意味してよい。また、6-phosphofructokinaseについての「元の機能が維持されている」とは、タンパク質のバリアントが6-phosphofructokinase活性を有することを意味してよい。
糖資化タンパク質の機能(例えば、活性や性質)は、いずれも、例えば、公知の手法により測定することができる。すなわち、糖の代謝酵素等の酵素の活性は、例えば、酵素を対応する基質とインキュベートし、酵素および基質依存的な対応する産物の生成を測定することにより、測定することができる。具体的には、例えば、6-phosphofructokinase活性は、ATPの存在下で酵素を対応する基質(すなわち、フルクトース−6−リン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な対応する産物(すなわち、フルクトース−1,6−ビスリン酸)の生成を測定することにより、測定することができる。また、糖の取り込み系の活性は、例えば、タンパク質を発現する菌体を糖とインキュベートし、同タンパク質依存的な菌体内への糖の取り込みを測定することにより、測定することができる。糖資化タンパク質は、少なくとも1つの適切な条件下で測定される糖資化タンパク質の機能(例えば、活性や性質)を有していればよい。なお、本明細書に記載の他の全てのタンパク質についても、少なくとも1つの適切な条件下で測定される対応する機能(例えば、活性や性質)を有していればよい。
以下、保存的バリアントについて例示する。
糖資化遺伝子のホモログまたは糖資化タンパク質のホモログは、例えば、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列または上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列を問い合わせ配列として用いたBLAST検索やFASTA検索によって公開データベースから容易に取得することができる。また、糖資化遺伝子のホモログは、例えば、コリネ型細菌等の生物の染色体を鋳型にして、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いたPCRにより取得することができる。
糖資化遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードするものであってもよい。例えば、コードされるタンパク質は、そのN末端および/またはC末端が、延長または短縮されていてもよい。なお、上記「1又は数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置や種類によっても異なるが、具体的には、例えば、1〜50個、1〜40個、1〜30個、1〜20個、1〜10個、1〜5個、または1〜3個であってよい。
上記の1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、および/または付加は、タンパク質の元の機能が維持される保存的変異である。保存的変異の代表的なものは、保存的置換である。保存的置換とは、置換部位が芳香族アミノ酸である場合には、Phe、Trp、Tyr間で、置換部位が疎水性アミノ酸である場合には、Leu、Ile、Val間で、極性アミノ酸で
ある場合には、Gln、Asn間で、塩基性アミノ酸である場合には、Lys、Arg、His間で、酸性アミノ酸である場合には、Asp、Glu間で、ヒドロキシル基を持つアミノ酸である場合には、Ser、Thr間でお互いに置換する変異である。保存的置換とみなされる置換としては、具体的には、AlaからSer又はThrへの置換、ArgからGln、His又はLysへの置換、AsnからGlu、Gln、Lys、His又はAspへの置換、AspからAsn、Glu又はGlnへの置換、CysからSer又はAlaへの置換、GlnからAsn、Glu、Lys、His、Asp又はArgへの置換、GluからGly、Asn、Gln、Lys又はAspへの置換、GlyからProへの置換、HisからAsn、Lys、Gln、Arg又はTyrへの置換、IleからLeu、Met、Val又はPheへの置換、LeuからIle、Met、Val又はPheへの置換、LysからAsn、Glu、Gln、His又はArgへの置換、MetからIle、Leu、Val又はPheへの置換、PheからTrp、Tyr、Met、Ile又はLeuへの置換、SerからThr又はAlaへの置換、ThrからSer又はAlaへの置換、TrpからPhe又はTyrへの置換、TyrからHis、Phe又はTrpへの置換、及び、ValからMet、Ile又はLeuへの置換が挙げられる。また、上記のようなアミノ酸の置換、欠失、挿入、または付加等には、遺伝子が由来する生物の個体差、種の違いに基づく場合などの天然に生じる変異(mutant又はvariant)によって生じるものも含まれる。
また、糖資化遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。
また、糖資化遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列から調製され得るプローブ、例えば上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列の全体または一部に対する相補配列、とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする遺伝子、例えばDNA、であってもよい。「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味してよい。一例を示せば、同一性が高いDNA同士、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより同一性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC、0.1% SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC、0.1% SDS、より好ましくは68℃、0.1×SSC、0.1% SDSに相当する塩濃度および温度で、1回、好ましくは2〜3回洗浄する条件を挙げることができる。
上述の通り、上記ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、遺伝子の相補配列の一部であってもよい。そのようなプローブは、上記例示した塩基配列等の公知の塩基配列に基づいて作製したオリゴヌクレオチドをプライマーとし、上述の遺伝子を含むDNA断片を鋳型とするPCRによって作製することができる。例えば、プローブとしては、300 bp程度の長さのDNA断片を用いることができる。プローブとして300 bp程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗いの条件としては、50℃、2×SSC、0.1% SDSが挙げられる。
また、宿主によってコドンの縮重性が異なるので、糖資化遺伝子は、任意のコドンをそれと等価のコドンに置換したものであってもよい。すなわち、糖資化遺伝子は、遺伝コードの縮重による上記例示した糖資化遺伝子のバリアントであってもよい。例えば、糖資化遺伝子は、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。
なお、アミノ酸配列間の「同一性」とは、blastpによりデフォルト設定のScoring Parameters(Matrix:BLOSUM62;Gap Costs:Existence=11, Extension=1;Compositional Adjustments:Conditional compositional score matrix adjustment)を用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味する。また、塩基配列間の「同一性」とは、blastnによ
りデフォルト設定のScoring Parameters(Match/Mismatch Scores=1,-2;Gap Costs=Linear)を用いて算出される塩基配列間の同一性を意味する。
なお、上記の遺伝子やタンパク質の保存的バリアントに関する記載は、糖資化遺伝子および糖資化タンパク質以外の任意の遺伝子およびタンパク質にも準用できる。
糖の資化能を低下させるために活性を低下させる糖資化タンパク質(タンパク質P1)は、例えば、糖の種類や糖の資化経路の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。例えば、PTSを介したグルコースの資化能を低下させるためには、EI、HPr、EIIGlc、phosphoglucose isomerase、6-phosphofructokinase、fructose 1,6-bisphosphate aldolase、triose phosphate isomerase、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、phosphoglycerate kinase、phosphoglycerate mutase、enolase、pyruvate kinase、pyruvate dehydrogenaseから選択される1種またはそれ以上の活性を低下させてよい。また、例えば、PTSを介したスクロースの資化能を低下させるためには、EI、HPr、EIIScr、phosphoglucose isomerase、6-phosphofructokinase、fructose 1,6-bisphosphate aldolase、triose phosphate isomerase、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、phosphoglycerate kinase、phosphoglycerate mutase、enolase、pyruvate kinase、pyruvate dehydrogenase、sucrose-6-phosphate hydrolase、fructokinaseから選択される1種またはそれ以上の活性を低下させてよい。微生物においては、例えば、解糖系の酵素から選択される1種またはそれ以上のタンパク質の活性が低下していてよい。微生物においては、特に、6-phosphofructokinaseの活性が低下していてよい。
<1−3>目的物質生産能
本明細書に記載の微生物は、目的物質生産能を有していてもよい。
「目的物質生産能」とは、目的物質を生産する能力を意味する。すなわち、「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を生産することができる微生物を意味してよい。
「目的物質生産能を有する微生物」とは、微生物が発酵法に用いられる場合にあっては、目的物質を発酵により生産することができる微生物を意味してよい。すなわち、「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を糖から生産することができる微生物を意味してよい。「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、培地(例えば、糖を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培養液中(例えば、培地中、菌体表層、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に蓄積することができる微生物を意味してよい。
「目的物質生産能を有する微生物」とは、微生物が生物変換法に用いられる場合にあっては、目的物質を生物変換により生産することができる微生物を意味してよい。すなわち、「目的物質生産能を有する微生物」とは、目的物質を該目的物質の前駆体から生産することができる微生物を意味してよい。「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、培地(例えば、糖と目的物質の前駆体を含有する培地)で培養したときに、目的物質を生産し、回収できる程度に培養液中(例えば、培地中、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に蓄積することができる微生物を意味してよい。また、「目的物質生産能を有する微生物」とは、具体的には、反応液中で目的物質の前駆体に作用させたときに、目的物質を生産し、回収できる程度に反応液中(例えば、液画分、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に蓄積することができる微生物を意味してよい。「液画分」とは、反応液から菌体を除いた残部を意味してよい。
目的物質生産能を有する微生物は、例えば、0.01 g/L以上、0.05 g/L以上、0.1 g/L以上、0.5 g/L以上、または1.0 g/L以上の量の目的物質を培地または反応液に蓄積すること
ができてもよい。
微生物は、1種の目的物質を生産することができてもよく、2種またはそれ以上の目的物質を生産することができてもよい。また、微生物は、1種の目的物質前駆体から目的物質を生産することができてもよく、2種またはそれ以上の目的物質前駆体から目的物質を生産することができてもよい。
目的物質は、微生物を利用して生産できるものであれば特に制限されない。目的物質としては、SAM依存性代謝物、アルデヒド、L−アミノ酸、核酸、有機酸、γ−グルタミルペプチド、スフィンゴイド、タンパク質、RNAが挙げられる。
「SAM依存性代謝物」とは、生合成にS−アデノシルメチオニン(S-adenosylmethionine;SAM)を要求する代謝物を意味してよい。SAM依存性代謝物としては、バニリン(vanillin)、バニリン酸(vanillic acid)、メラトニン(melatonin)、エルゴチオネイン(ergothioneine)、ムギネ酸(mugineic acid)、フェルラ酸(ferulic acid)、ポリアミン(polyamine)、グアイアコール(guaiacol)、4−ビニルグアイアコール(4-vinylguaiacol)、4−エチルグアイアコール(4-ethylguaiacol)、クレアチン(creatine)が挙げられる。ポリアミンとしては、スペルミジン(spermidine)やスペルミン(spermine)が挙げられる。
アルデヒドとしては、芳香族アルデヒドが挙げられる。芳香族アルデヒドとしては、バニリン(vanillin)、ベンズアルデヒド(benzaldehyde)、シンナムアルデヒド(cinnamaldehyde)が挙げられる。
L−アミノ酸としては、L−リジン、L−オルニチン、L−アルギニン、L−ヒスチジン、L−シトルリン等の塩基性アミノ酸、L−イソロイシン、L−アラニン、L−バリン、L−ロイシン、グリシン等の脂肪族アミノ酸、L−スレオニン、L−セリン等のヒドロキシモノアミノカルボン酸であるアミノ酸、L−プロリン等の環式アミノ酸、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−トリプトファン等の芳香族アミノ酸、L−システイン、L−シスチン、L−メチオニン等の含硫アミノ酸、L−グルタミン酸、L−アスパラギン酸等の酸性アミノ酸、L−グルタミン、L−アスパラギン等の側鎖にアミド基を持つアミノ酸が挙げられる。「アミノ酸」とは、特記しない限り、L−アミノ酸を意味してよい。
核酸としては、プリン系物質が挙げられる。プリン系物質としては、プリンヌクレオシドおよびプリンヌクレオチドが挙げられる。プリンヌクレオシドとしては、イノシン、グアノシン、キサントシン、およびアデノシンが挙げられる。プリンヌクレオチドとしては、プリンヌクレオシドの5’−リン酸エステルが挙げられる。プリンヌクレオシドの5’−リン酸エステルとしては、イノシン酸(イノシン−5’−リン酸エステル;IMP)、グアニル酸(グアノシン−5’−リン酸エステル;GMP)、キサンチル酸(キサントシン−5’−リン酸エステル;XMP)、およびアデニル酸(アデノシン−5’−リン酸エステル;AMP)が挙げられる。
有機酸としては、ジカルボン酸が挙げられる。ジカルボン酸としては、炭素数が3つから8つのジカルボン酸(C3−C8ジカルボン酸)が挙げられる。ジカルボン酸として、具体的には、α−ケトグルタル酸(α−KG;別名2−オキソグルタル酸)、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、イタコン酸、マロン酸、アジピン酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸が挙げられる。
γ−グルタミルペプチドとしては、γ−グルタミルジペプチドやγ−グルタミルトリペプチドが挙げられる。γ−グルタミルジペプチドとしては、γ-Glu-Valが挙げられる。γ
−グルタミルトリペプチドとしては、γ-Glu-Val-Gly(CAS 38837-70-6、Gluvalicineともいう)が挙げられる。
スフィンゴイドとしては、スフィンゴイド塩基やスフィンゴ脂質が挙げられる。スフィンゴイド塩基としては、フィトスフィンゴシン(phytosphingosine;PHS)が挙げられる。スフィンゴ脂質としては、フィトセラミド(phytoceramide;PHC)が挙げられる。
タンパク質としては、微生物を宿主として発現可能な任意のタンパク質が挙げられる。タンパク質は、宿主由来のタンパク質であってもよく、異種由来のタンパク質(異種タンパク質)であってもよい。「異種タンパク質」(heterologous protein)とは、同タンパク質を生産する宿主(すなわち本明細書に記載の微生物)にとって外来性(exogenous)であるタンパク質をいう。タンパク質は、例えば、天然に存在するタンパク質であってもよく、それらを改変したタンパク質であってもよく、人工的にアミノ酸配列をデザインしたタンパク質であってもよい。タンパク質は、例えば、微生物由来のタンパク質であってもよく、植物由来のタンパク質であってもよく、動物由来のタンパク質であってもよく、ウイルス由来のタンパク質であってもよい。タンパク質は、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。タンパク質は、分泌性タンパク質であってもよく、非分泌性タンパク質であってもよい。なお、「タンパク質」には、オリゴペプチドやポリペプチド等の、ペプチドと呼ばれるものも包含される。
タンパク質として、具体的には、酵素、生理活性タンパク質、レセプタータンパク質、抗原タンパク質、その他のタンパク質が挙げられる。
酵素としては、セルラーゼ、トランスグルタミナーゼ、プロテイングルタミナーゼ、イソマルトデキストラナーゼ、プロテアーゼ、エンドペプチダーゼ、エキソペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、コラゲナーゼ、およびキチナーゼが挙げられる。
生理活性タンパク質としては、成長因子(増殖因子)、ホルモン、サイトカイン、抗体関連分子が挙げられる。
成長因子(増殖因子)としては、上皮成長因子(Epidermal growth factor;EGF)、インスリン様成長因子-1(Insulin-like growth factor-1;IGF-1)、トランスフォーミング成長因子(Transforming growth factor;TGF)、神経成長因子(Nerve growth factor;NGF)、脳由来神経栄養因子(Brain-derived neurotrophic factor;BDNF)、血管内皮細胞増殖因子(Vesicular endothelial growth factor;VEGF)、顆粒球コロニー刺激因子(Granulocyte-colony stimulating factor;G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(Granulocyte-macrophage-colony stimulating factor;GM-CSF)、血小板由来成長因子(Platelet-derived growth factor;PDGF)、エリスロポエチン(Erythropoietin;EPO)、トロンボポエチン(Thrombopoietin;TPO)、酸性線維芽細胞増殖因子(acidic fibroblast growth factor;aFGFまたはFGF1)、塩基性線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor;bFGFまたはFGF2)、角質細胞増殖因子(keratinocyto growth
factor;KGF-1またはFGF7, KGF-2またはFGF10)、肝細胞増殖因子(Hepatocyte growth factor;HGF)が挙げられる。
ホルモンとしては、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン(somatostatin)、ヒト成長ホルモン(human growth hormone;hGH)、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)、カルシトニン(calcitonin)、エキセナチド(exenatide)が挙げられる。
サイトカインとしては、インターロイキン、インターフェロン、腫瘍壊死因子(Tumor
Necrosis Factor;TNF)が挙げられる。
また、生理活性タンパク質は、タンパク質全体であってもよく、その一部であってもよい。タンパク質の一部としては、例えば、生理活性を有する部分が挙げられる。生理活性を有する部分として、具体的には、例えば、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone;PTH)の成熟体のN末端34アミノ酸残基からなる生理活性ペプチドTeriparatideが挙げられる。
「抗体関連分子」とは、完全抗体を構成するドメインから選択される単一のドメインまたは2もしくはそれ以上のドメインの組合せからなる分子種を含むタンパク質を意味してよい。完全抗体を構成するドメインとしては、重鎖のドメインであるVH、CH1、CH2、およびCH3、ならびに軽鎖のドメインであるVLおよびCLが挙げられる。抗体関連分子は、上述の分子種を含む限り、単量体タンパク質であってもよく、多量体タンパク質であってもよい。なお、抗体関連分子が多量体タンパク質である場合には、単一の種類のサブユニットからなるホモ多量体であってもよく、2またはそれ以上の種類のサブユニットからなるヘテロ多量体であってもよい。抗体関連分子として、具体的には、完全抗体、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fc、重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)からなる二量体、Fc融合タンパク質、重鎖(H鎖)、軽鎖(L鎖)、単鎖Fv(scFv)、sc(Fv)2、ジスルフィド結合Fv(sdFv)、diabody、VHHフラグメント(nanobody(登録商標))が挙げられる。抗体関連分子として、より具体的には、トラスツズマブが挙げられる。
レセプタータンパク質としては、生理活性タンパク質やその他の生理活性物質に対するレセプタータンパク質が挙げられる。その他の生理活性物質としては、ドーパミン等の神経伝達物質が挙げられる。なお、レセプタータンパク質は、対応するリガンドが知られていないオーファン受容体であってもよい。
抗原タンパク質は、免疫応答を惹起できるものであれば特に制限されない。抗原タンパク質は、例えば、想定する免疫応答の対象に応じて適宜選択できる。抗原タンパク質は、例えば、ワクチンとして使用することができる。
その他のタンパク質としては、Liver-type fatty acid-binding protein(LFABP)、蛍光タンパク質、イムノグロブリン結合タンパク質、アルブミン、フィブロイン様タンパク質、細胞外タンパク質が挙げられる。蛍光タンパク質としては、Green Fluorescent Protein(GFP)が挙げられる。イムノグロブリン結合タンパク質としては、Protein A、Protein G、Protein Lが挙げられる。アルブミンとしては、ヒト血清アルブミンが挙げられる。フィブロイン様タンパク質としては、WO2017/090665やWO2017/171001に開示されたものが挙げられる。細胞外タンパク質としては、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、オステオポンチン、ラミニン、それらの部分配列が挙げられる。部分配列としては、ラミニンのE8断片であるラミニンE8が挙げられる。
タンパク質は、例えば、上記のようなタンパク質のアミノ酸配列を有するタンパク質であってよい。また、タンパク質は、例えば、上記のようなタンパク質のアミノ酸配列のバリアント配列を有するタンパク質であってもよい。バリアント配列については、糖資化タンパク質のバリアントについての記載を準用できる。
RNAとしては、微生物を宿主として発現可能な任意のRNAが挙げられる。RNAは、宿主由来のRNAであってもよく、異種由来のRNA(異種RNA)であってもよい。「異種RNA」(heterologous RNA)とは、同RNAを生産する宿主(すなわち本明細書に記載の微生物)にとって外来性(exogenous)であるRNAをいう。RNAは、例えば、天然に存在するRNAであってもよく、それらを改変したRNAであってもよく、人工的に塩基配列をデザインしたRNAであっ
てもよい。RNAは、例えば、微生物由来のRNAであってもよく、植物由来のRNAであってもよく、動物由来のRNAであってもよく、ウイルス由来のRNAであってもよい。RNAは、例えば、mRNA(messenger RNA)であってもよく、rRNA(ribosomal RNA)、tRNA(transfer RNA)、miRNA(micro RNA)、siRNA(small interfering RNA)、リボザイム(ribozyme)、RNAアプタマー等のノンコーディングRNAであってもよい。mRNAは、例えば、何らかの機能を有するタンパク質をコードするものであってもよく、それ自体は機能を有さないタンパク質をコードするものであってもよい。mRNAがコードするタンパク質としては、目的物質として例示したタンパク質が挙げられる。
RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列を有するRNAであってよい。また、RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列の部分配列を有するRNAであってもよい。また、RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列やそれらの部分配列の相補配列を有するRNAであってもよい。また、RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列、それらの部分配列、またはそれらの相補配列のバリアント配列を有するRNAであってもよい。バリアント配列については、糖資化遺伝子のバリアントについての記載を準用できる。また、RNAは、例えば、上記のようなRNAの塩基配列、それらの部分配列、それらの相補配列、およびそれらのバリアント配列から選択される2つまたはそれ以上の塩基配列を組み合わせて有していてもよい。RNAとして、具体的には、ニジュウヤホシテントウのアポトーシス阻害因子のmRNAの部分配列や、コロラドポテトビートルの液胞中のATPアーゼを構成するサブユニットAとEのmRNAの部分配列が挙げられる。
RNAは、例えば、一本鎖RNA(1分子のRNA鎖からなるRNA)であってもよく、二本鎖RNA(2分子のRNA鎖からなるRNA)であってもよい。二本鎖RNAは、単一の種類のRNA分子からなる二本鎖(ホモ二本鎖)であってもよく、2種の異なるRNA分子からなる二本鎖(ヘテロ二本鎖)であってもよい。二本鎖RNAとして、具体的には、或るRNA鎖とその相補鎖からなる二本鎖RNAが挙げられる。また、RNAは、例えば、1分子のRNA鎖と1分子のDNA鎖からなる二本鎖であってもよい。RNAは、一本鎖の領域と二本鎖の領域の両方を含んでいてもよい。すなわち、例えば、一本鎖RNAは、分子内で部分的に二本鎖構造(例えば、ステムループ構造)を形成していてもよい。また、例えば、二本鎖RNAは、部分的に一本鎖構造を含んでいてもよい。
目的物質が塩の形態を取り得る化合物である場合、目的物質は、フリー体として生産されてもよく、塩として生産されてもよく、それらの混合物として生産されてもよい。すなわち、「目的物質」とは、特記しない限り、フリー体の目的物質、もしくはその塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。目的物質の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
本明細書に記載の微生物は、本来的に目的物質生産能を有するものであってもよく、目的物質生産能を有するように改変されたものであってもよい。目的物質生産能を有する微生物は、例えば、上記のような微生物に目的物質生産能を付与することにより、または、上記のような微生物の目的物質生産能を増強することにより、取得できる。本明細書に記載のプラスミドが第2の塩基配列(目的物質の生産に有効な塩基配列)を有する場合、プラスミドの導入により目的物質生産能を向上させることができる。すなわち、目的物質生産能は、プラスミドの導入により付与または増強されたものであってもよい。微生物は、例えば、プラスミドの導入により、またはプラスミドの導入と他の改変の組み合わせにより、目的物質生産能を獲得したものであってもよい。
目的物質生産能を付与または増強する方法は、特に制限されない。目的物質生産能を付与または増強する方法としては、例えば、公知の方法を利用できる。SAM依存性代謝物の
生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2018/079687、WO2018/079686、WO2018/079685、WO2018/079684、WO2018/079683に開示されている。アルデヒドの生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2017/073701、WO2018/079705、WO2017/122747に開示されている。L−アミノ酸の生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2015/060391やWO2018/030507に開示されている。核酸の生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2015/060391に開示されている。有機酸の生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2016/104814に開示されている。γ−グルタミルペプチドの生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2015/133547やWO2017/039001に開示されている。スフィンゴイドの生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2017/033463やWO2017/033464に開示されている。タンパク質の生産能を付与または増強する方法は、例えば、WO2018/074578やWO2018/074579に開示されている。
以下、目的物質生産能を付与または増強する方法について具体的に例示する。なお、以下に例示するような目的物質生産能を付与または増強するための改変は、いずれも、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
目的物質は、目的物質の生合成に関与する酵素の作用により生成し得る。そのような酵素を、「目的物質生合成酵素」ともいう。よって、微生物は、目的物質生合成酵素を有していてよい。言い換えると、微生物は、目的物質生合成酵素をコードする遺伝子を有していてよい。そのような遺伝子を、「目的物質生合成遺伝子」ともいう。微生物は、本来的に目的物質生合成遺伝子を有するものであってもよく、目的物質生合成遺伝子が導入されたものであってもよい。遺伝子を導入する手法については後述する。
また、目的物質生合成酵素の活性の増大により、微生物の目的物質生産能を向上させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、目的物質生合成酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、目的物質生合成酵素の活性が増大するように改変されていてよい。微生物においては、1種の目的物質生合成酵素の活性が増大していてもよく、2種またはそれ以上の目的物質生合成酵素の活性が増大していてもよい。タンパク質(酵素等)の活性を増大させる手法については後述する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。
目的物質生合成遺伝子および目的物質生合成酵素としては、上記例示した微生物等の各種生物のものが挙げられる。目的物質生合成遺伝子および目的物質生合成酵素として、具体的には、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌(例えば、E. coli等のEscherichia属細菌)やコリネ型細菌(例えば、C. glutamicum等のCorynebacterium属細菌)のものが挙げられる。また、目的物質生合成遺伝子および目的物質生合成酵素としては、以下に個別に例示する生物のものも挙げられる。各種生物由来の目的物質生合成遺伝子の塩基配列およびそれらにコードされる目的物質生合成酵素のアミノ酸配列は、例えば、NCBI等の公開データベースや特許文献等の技術文献から取得できる。目的物質生合成遺伝子および目的物質生合成酵素以外の、目的物質生産能の付与または増強に利用される遺伝子およびタンパク質についても同様である。
目的物質は、例えば、糖および/または該目的物質の前駆体から、生成し得る。よって、目的物質生合成酵素としては、例えば、糖および/または前駆体の目的物質への変換を触媒する酵素が挙げられる。例えば、3−デヒドロシキミ酸(3-dehydroshikimic acid)は、シキミ酸経路の一部によって生産され得る。当該シキミ酸経路の一部は、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)、3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)、および3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydro
quinate dehydratase)により触媒されるステップを含んでいてよい。3−デヒドロシキミ酸は、3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)の作用によりプロトカテク酸(protocatechuic acid)へと変換され得る。プロトカテク酸は、O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)または芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR)ともいう)の作用により、それぞれ、バニリン酸(vanillic acid)またはプロトカテクアルデヒド(protocatechualdehyde)へと変換され得る。バニリン酸またはプロトカテクアルデヒドは、それぞれ、ACARまたはOMTの作用により、バニリンへと変換され得る。また、ベンズアルデヒドおよびシンナムアルデヒドは、それぞれ、ACARの作用により安息香酸(benzoic acid)およびケイ皮酸(cinnamic acid)から生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素として、具体的には、例えば、DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate dehydratase、DHSD、OMT、ACARが挙げられる(WO2018/079687、WO2018/079686、WO2018/079685、WO2018/079684、WO2018/079683、WO2017/073701、WO2018/079705)。
「3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabino-heptulosonic acid 7-phosphate synthase;DAHP synthase)」とは、D−エリトロース4−リン酸とホスホエノールピルビン酸をD−アラビノ−ヘプツロン酸−7−リン酸(DAHP)とリン酸に変換する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.5.1.54)。同活性を、「DAHP synthase活性」ともいう。DAHP synthaseをコードする遺伝子を、「DAHP synthase遺伝子」ともいう。DAHP synthaseとしては、aroF、aroG、aroH遺伝子にそれぞれコードされるAroF、AroG、AroHタンパク質が挙げられる。これらの内、AroGタンパク質が主要なDAHP synthaseとして機能し得る。E. coli K-12 MG1655株のaroG遺伝子の塩基配列を配列番号107に、同遺伝子がコードするAroGタンパク質のアミノ酸配列を配列番号108に示す。
DAHP synthase活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、D−エリトロース4−リン酸とホスホエノールピルビン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、DAHP)の生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase)」とは、DAHPを脱リン酸化して3−デヒドロキナ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.3.4)。同活性を、「3-dehydroquinate synthase活性」ともいう。3-dehydroquinate synthaseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate synthase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate synthaseとしては、aroB遺伝子にコードされるAroBタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のaroB遺伝子の塩基配列を配列番号109に、同遺伝子がコードするAroBタンパク質のアミノ酸配列を配列番号110に示す。
3-dehydroquinate synthase活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、DAHP)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、3−デヒドロキナ酸)の生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase)」とは、3−デヒドロキナ酸を脱水して3−デヒドロシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.1.10)。同活性を、「3-dehydroquinate dehydratase活性」ともいう。3-dehydroquinate dehydrataseをコードする遺伝子を、「3-dehydroquinate dehydratase遺伝子」ともいう。3-dehydroquinate dehydrataseとしては、aroD遺伝子にコードされるAroDタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655株のaroD遺伝子の塩基配列を配列番号111に、同遺伝子がコードするAroDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号112に示す。
3-dehydroquinate dehydratase活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、3−デヒドロキナ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、3−デヒドロシキミ酸)の生成を測定することにより、測定できる。
「3−デヒドロシキミ酸デヒドラターゼ(3-dehydroshikimate dehydratase;DHSD)」とは、3−デヒドロシキミ酸を脱水してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 4.2.1.118)。同活性を、「DHSD活性」ともいう。DHSDをコードする遺伝子を、「DHSD遺伝子」ともいう。DHSDとしては、asbF遺伝子にコードされるAsbFタンパク質が挙げられる。DHSDとして、具体的には、Bacillus thuringiensis、Neurospora crassa、Podospora pauciseta等の各種生物のものが挙げられる。Bacillus thuringiensis BMB171株のasbF遺伝子の塩基配列を配列番号113に、同遺伝子がコードするAsbFタンパク質のアミノ酸配列を配列番号114に示す。
DHSD活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、3−デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、プロトカテク酸)の生成を測定することにより、測定できる。
シキミ酸経路の酵素(DAHP synthase、3-dehydroquinate synthase、3-dehydroquinate
dehydratase等)をコードする遺伝子の発現は、tyrR遺伝子にコードされるチロシンリプレッサーTyrRにより抑制される。よって、シキミ酸経路の酵素の活性は、チロシンリプレッサーTyrRの活性を低下させることによっても、増大させることができる。E. coli K-12
MG1655株のtyrR遺伝子の塩基配列を配列番号115に、同遺伝子がコードするTyrRタンパク質のアミノ酸配列を配列番号116に示す。
「O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)」とは、メチル基供与体の存在下で基質の水酸基をメチル化する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 2.1.1.68等)。同活性を、「OMT活性」ともいう。OMTをコードする遺伝子を、「OMT遺伝子」ともいう。OMTは、本明細書に記載の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有していてよい。例えば、プロトカテク酸からバニリン酸への変換を介して目的物質を生産する場合、少なくともプロトカテク酸を基質とするOMTを用いることができる。また、例えば、プロトカテクアルデヒドからバニリンへの変換を介して目的物質を生産する場合、少なくともプロトカテクアルデヒドを基質とするOMTを用いることができる。すなわち、「O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)」とは、具体的には、メチル基供与体の存在下でプロトカテク酸および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してバニリン酸および/またはバニリンを生成する反応(すなわちメタ位の水酸基のメチル化)を触媒する活性を有するタンパク質を意味してもよい。OMTは、通常はプロトカテク酸とプロトカテクアルデヒドの両方に特異的であってよいが、それには限られない。メチル基供与体としては、S−アデノシルメチオニン(SAM)が挙げられる。
OMTとしては、各種生物のOMT、例えば、Homo sapiens(Hs)のOMT(GenBank Accession
No. NP_000745, NP_009294)、Arabidopsis thalianaのOMT(GenBank Accession No. NP_200227, NP_009294)、Fragaria x ananassaのOMT(GenBank Accession No. AAF28353)、その他WO2013/022881A1に例示されている哺乳動物、植物、微生物の各種OMTが挙げられる。Homo sapiensのOMT遺伝子には4つの転写バリアントおよび2種のOMTアイソフォームが知られている。それら4つの転写バリアント(transcript variant 1-4;GenBank Accession No. NM_000754.3, NM_001135161.1, NM_001135162.1, NM_007310.2)の塩基配列を配列番号117〜120に、長いOMTアイソフォーム(MB-COMT;GenBank Accession No. NP_000745.1)のアミノ酸配列を配列番号121に、短いOMTアイソフォーム(S-COMT;
GenBank Accession No. NP_009294.1)のアミノ酸配列を配列番号122に、それぞれ示す。配列番号122は、配列番号121のN末端50アミノ酸残基を欠くアミノ酸配列に相当する。OMTとしては、さらに、Bacteroidetes門細菌(すなわちBacteroidetes門に属する細菌)のOMTが挙げられる。Bacteroidetes門細菌としては、Niastella属、Terrimonas属、またはChitinophaga属等に属する細菌が挙げられる(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology (2007), 57, 1828-1833)。Niastella属細菌としては、Niastella koreensisが挙げられる。Niastella koreensisのOMT遺伝子の塩基配列を配列番号123に、同遺伝子がコードするOMTのアミノ酸配列を配列番号124に示す。
また、OMTは、副反応として、プロトカテク酸および/またはプロトカテクアルデヒドをメチル化してイソバニリン酸および/またはイソバニリンを生成する反応(すなわちパラ位の水酸基のメチル化)を触媒し得る。OMTは、メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒してよい。「メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒する」とは、プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成すること、および/または、プロトカテクアルデヒドからバニリンを選択的に生成することを意味してよい。「プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテク酸に作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリン酸の3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリン酸を生成することを意味してよい。また、「プロトカテク酸からバニリン酸を選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテク酸に作用させた際に、例えば、モル比で、バニリン酸とイソバニリン酸の総量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のバニリン酸を生成することを意味してもよい。この比率、すなわちバニリン酸とイソバニリン酸の総量に対するバニリン酸の量を、「VA/(VA+iVA)比」ともいう。また、「プロトカテクアルデヒドからバニリンを選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテクアルデヒドに作用させた際に、例えば、モル比で、イソバニリンの3倍以上、5倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、または30倍以上のバニリンを生成することを意味してよい。また、「プロトカテクアルデヒドからバニリンを選択的に生成する」とは、OMTをプロトカテクアルデヒドに作用させた際に、例えば、モル比で、バニリンとイソバニリンの総量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上のバニリンを生成することを意味してもよい。この比率、すなわちバニリンとイソバニリンの総量に対するバニリンの量を、「Vn/(Vn+iVn)比」ともいう。メタ位の水酸基のメチル化を選択的に触媒するOMTとしては、本明細書に記載の「特定の変異」を有するOMTが挙げられる。
「特定の変異」を有するOMTを、「変異型OMT」ともいう。また、変異型OMTをコードする遺伝子を、「変異型OMT遺伝子」ともいう。
「特定の変異」を有さないOMTを、「野生型OMT」ともいう。また、野生型OMTをコードする遺伝子を、「野生型OMT遺伝子」ともいう。なお、ここでいう「野生型」とは、「野生型」のOMTを「変異型」のOMTと区別するための便宜上の記載であり、天然に得られるものには限定されず、「特定の変異」を有さないあらゆるOMTを包含してよい。野生型OMTとしては、例えば、上記例示したOMTが挙げられる。また、上記例示したOMTの保存的バリアントは、「特定の変異」を有さない限り、いずれも野生型OMTに包含される。
「特定の変異」としては、WO2013/022881A1に記載の変異型OMTが有する変異が挙げられる。すなわち、「特定の変異」としては、野生型OMTの198位のロイシン残基(L198)が、ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基に置換される変異や、野生型OMTの199位のグルタミン酸残基(E199)が、pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基(amino acid residue having either a neutral
or positive side-chain charge at pH 7.4)に置換される変異が挙げられる。変異型OMTは、これらの変異のいずれか一方を有していてもよく、両方を有していてもよい。
「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、Ala, Arg, Asn, Asp, Cys, Glu, Gln, Gly, His, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrが挙げられる。「ロイシン残基よりも疎水性インデックス(hydropathy index)が低いアミノ酸残基」としては、特に、Ala, Arg, Asn, Asp, Glu, Gln, Gly, His,
Lys, Met, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyrから選択されるアミノ酸残基が挙げられ、さらに特には、Tyrが挙げられる。
「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、Ala, Arg,
Asn, Cys, Gln, Gly, His, Ile, Leu, Lys, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr, Valが挙げられる。「pH7.4において側鎖が無電荷または正電荷となるアミノ酸残基」としては、特に、AlaまたはGlnが挙げられる。
任意の野生型OMTにおける「L198」および「E199」とは、それぞれ、「配列番号122に示すアミノ酸配列の198位のロイシン残基に相当するアミノ酸残基」および「配列番号122に示すアミノ酸配列の199位のグルタミン酸残基に相当するアミノ酸残基」を意味してよい。これらのアミノ酸残基の位置は相対的な位置を示すものであって、アミノ酸の欠失、挿入、付加などによってその絶対的な位置は前後することがある。例えば、配列番号122に示すアミノ酸配列において、X位よりもN末端側の位置で1アミノ酸残基が欠失した、または挿入された場合、元のX位のアミノ酸残基は、それぞれ、N末端から数えてX−1番目またはX+1番目のアミノ酸残基となるが、「配列番号122に示すアミノ酸配列のX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」とみなされる。また、「L198」および「E199」は、それぞれ、通常はロイシン残基およびグルタミン酸残基であるが、そうでなくてもよい。すなわち、「特定の変異」には、「L198」および「E199」がそれぞれロイシン残基およびグルタミン酸残基でない場合に、当該アミノ酸残基を上述した変異後のアミノ酸残基に置換する変異も包含されてよい。
任意のOMTのアミノ酸配列において、どのアミノ酸残基が「L198」または「E199」であるかは、当該任意のOMTのアミノ酸配列と配列番号122に示すアミノ酸配列とのアライメントを行うことにより決定できる。アライメントは、例えば、公知の遺伝子解析ソフトウェアを利用して行うことができる。具体的なソフトウェアとしては、日立ソリューションズ製のDNASISや、ゼネティックス製のGENETYXなどが挙げられる(Elizabeth C. Tyler et al., Computers and Biomedical Research, 24(1), 72-96, 1991;Barton GJ et al.,
Journal of molecular biology, 198(2), 327-37. 1987)。
「特定の変異」としては、さらに、以下のアミノ酸残基における変異が挙げられる(WO2018/079683):D21、L31、M36、S42、L67、Y90、P144。「特定の変異」は、1つのアミノ酸残基における変異であってもよく、2つまたはそれ以上のアミノ酸残基における変異の組み合わせであってもよい。すなわち、「特定の変異」は、例えば、以下のアミノ酸残基の1つまたはそれ以上における変異を含んでいてよい:D21、L31、M36、S42、L67、Y90、P144。
アミノ酸残基を特定するための上記表記において、数字は配列番号124に示すアミノ酸配列における位置を、数字の左側の文字は配列番号124に示すアミノ酸配列における各位置のアミノ酸残基(すなわち、各位置の改変前のアミノ酸残基)を、各々示す。すなわち、例えば、「D21」とは、配列番号124に示すアミノ酸配列における21位のD(Asp)残基を示す。任意の野生型OMTにおいて、これらのアミノ酸残基は、それぞれ、「配列番号124に示すアミノ酸配列における当該アミノ酸残基に相当するアミノ酸残基」を示
す。すなわち、例えば、任意の野生型OMTにおける「D21」とは、配列番号124に示すアミノ酸配列における21位のD(Asp)残基に相当するアミノ酸残基を示す。
上記各変異において、改変後のアミノ酸残基は、改変前のアミノ酸残基以外のいずれのアミノ酸残基であってもよい。改変後のアミノ酸残基として、具体的には、K(Lys)、R(Arg)、H(His)、A(Ala)、V(Val)、L(Leu)、I(Ile)、G(Gly)、S(Ser)、T(Thr)、P(Pro)、F(Phe)、W(Trp)、Y(Tyr)、C(Cys)、M(Met)、D(Asp)、E(Glu)、N(Asn)、Q(Gln)の内、改変前のアミノ酸残基以外のものが挙げられる。改変後のアミノ酸残基としては、目的物質の生産に有効なもの(例えば、OMTのVA/(VA+iVA)比および/またはVn/(Vn+iVn)比を増大させるもの)を選択してよい。
「特定の変異」として、具体的には、以下の変異が挙げられる:D21Y、L31H、M36(K, V)、S42C、L67F、Y90(A, C, G, S)、P144(E, G, S, V, Y)。すなわち、D21、L31、M36、S42、L67、Y90、およびP144のアミノ酸残基における変異は、例えば、それぞれ、D21Y、L31H、M36(K, V)、S42C、L67F、Y90(A, C, G, S)、およびP144(E, G, S, V, Y)であってよい。「特定の変異」は、例えば、以下の変異の1つまたはそれ以上を含んでいてよい:D21Y、L31H、M36(K, V)、S42C、L67F、Y90(A, C, G, S)、P144(E, G, S, V, Y)。
変異を特定するための上記表記において、数字およびその左側の文字の意味は前記と同様である。変異を特定するための上記表記において、数字の右側の文字は、各位置の改変後のアミノ酸残基を示す。すなわち、例えば、「D21Y」とは、配列番号124に示すアミノ酸配列における21位のD(Asp)残基がY(Tyr)残基に置換される変異を示す。また、例えば、「M36(K, V)」とは、配列番号124に示すアミノ酸配列における36位のM(Met)残基がK(Lys)残基またはV(Val)残基に置換される変異を示す。任意の野生型OMTにおいて、これらの変異は、それぞれ、「配列番号124に示すアミノ酸配列における当該変異に相当する変異」を示す。「配列番号124に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基における変異に相当する変異」とは、「配列番号124に示すアミノ酸配列におけるX位のアミノ酸残基に相当するアミノ酸残基における変異」と読み替えるものとする。すなわち、例えば、任意の野生型OMTにおいて、「D21Y」とは、配列番号124に示すアミノ酸配列における21位のD(Asp)残基に相当するアミノ酸残基がY(Tyr)残基に置換される変異を示す。
変異の組み合わせは特に制限されない。変異の組み合わせとして、具体的には、D21Y/M36K/L67F、D21Y/M36K/L67F/Y90A、L31H/M36K/L67F/P144V、L31H/L67F/Y90A、M36K/S42C/L67F、M36K/L67F、M36K/L67F/Y90A、M36K/L67F/Y90A/P144E、M36K/L67F/Y90C、M36K/L67F/Y90C/P144V、M36K/L67F/Y90G、M36K/L67F/Y90S/P144G、M36K/L67F/P144S、M36K/L67F/P144Y、M36K/Y90A/P144V、M36K/P144E、M36V/L67F/P144Sが挙げられる。すなわち、「特定の変異」は、例えば、これらのいずれかの組み合わせを含んでいてよい。
組み合わせを特定するための上記表記において、数字およびその左側と右側の文字の意味は前記と同様である。組み合わせを特定するための上記表記において、「/」で区切られた2またはそれ以上の変異の併記は、二重変異またはそれ以上の多重変異を示す。すなわち、例えば、「M36K/P144E」は、M36KとP144Eの二重変異を示す。
「L198」および「E199」における変異に関する記載(例えば、絶対的な位置を特定するための記載)は、他の「特定の変異」(例えば、D21、L31、M36、S42、L67、Y90、およびP144に相当するアミノ酸残基における変異)にも準用できる。ただし、これら他の「特定の変異」については、配列番号124に示すアミノ酸配列を野生型OMTの参照配列とする。
変異型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を、コードされるOMTが「特定の変異」を有するよう改変することにより取得できる。改変の元になる野生型OMT遺伝子は、例えば、野生型OMT遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、取得できる。あるいは、変異型OMT遺伝子は、野生型OMT遺伝子を介さずに取得することもできる。変異型OMT遺伝子は、例えば、変異型OMT遺伝子を有する生物からのクローニングにより、または、化学合成により、直接取得してもよい。取得した変異型OMT遺伝子は、そのまま、あるいはさらに改変して利用してよい。改変の元になる野生型OMT遺伝子または変異型OMT遺伝子は、本明細書に記載の微生物が由来する微生物等の、宿主に由来するものであってもよく、そうでなくてもよい。
遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に目的の変異を導入することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel,
T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。
OMT活性は、例えば、SAMの存在下で酵素を基質(例えば、プロトカテク酸またはプロトカテクアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(例えば、バニリン酸またはバニリン)の生成を測定することにより、測定できる(WO2013/022881A1)。また、同様の条件下での副生物(例えば、イソバニリン酸またはイソバニリン)の生成を測定し、産物の生成と比較することにより、OMTが産物を選択的に生成するかどうかを決定できる。
「芳香族アルデヒドオキシドレダクターゼ(aromatic aldehyde oxidoreductase)(芳香族カルボン酸レダクターゼ(aromatic carboxylic acid reductase;ACAR))」とは、電子供与体とATPの存在下で芳香族カルボン酸を還元して対応する芳香族アルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.2.99.6等)。同活性を、「ACAR活性」ともいう。ACARをコードする遺伝子を、「ACAR遺伝子」ともいう。ACARは、本明細書に記載の方法において目的物質が生産される生合成経路の種類に応じて、必要な基質特異性を有していてよい。例えば、バニリン酸からバニリンへの変換を介して目的物質を生産する場合には、少なくともバニリン酸を基質とするACARを用いることができる。また、例えば、プロトカテク酸からプロトカテクアルデヒドへの変換を介して目的物質を生産する場合には、少なくともプロトカテク酸を基質とするACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下でバニリン酸および/またはプロトカテク酸を還元してバニリンおよび/またはプロトカテクアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してもよい。ACARは、バニリン酸とプロトカテク酸の両方に特異的であってよいが、それには限られない。また、例えば、ベンズアルデヒドを製造する場合には、少なくとも安息香酸を基質とするACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下で安息香酸を還元してベンズアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してもよい。また、例えば、シンナムアルデヒドを製造する場合には、少なくともケイ皮酸を基質とするACARを用いることができる。すなわち、「ACAR」とは、具体的には、電子供与体とATPの存在下でケイ皮酸を還元してシンナムアルデヒドを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してもよい。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。ACARは、例えば、これらの電子供与体の少なくとも1つを利用できるものであってよい。
ACARとしては、Nocardia sp. NRRL 5646株、Actinomyces sp.、Clostridium thermoace
ticum、Aspergillus niger、Corynespora melonis、Coriolus sp.、Neurospora sp.等の各種生物のACARが挙げられる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。Nocardia sp. NRRL 5646株は、Nocardia iowensisに分類されている。ACARとしては、さらに、Nocardia brasiliensisやNocardia vulneris等の、他のNocardia属細菌のACARも挙げられる。Nocardia brasiliensis ATCC 700358株のACAR遺伝子の塩基配列を配列番号125に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号126に示す。また、Nocardia
brasiliensis ATCC 700358株のバリアントACAR遺伝子の一例の塩基配列を配列番号127に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号128に示す。また、ACARとしては、Gordonia effusa等のGordonia属細菌、Novosphingobium malaysiense等のNovosphingobium属細菌、Coccomyxa subellipsoidea等のCoccomyxa属微生物のACARも挙げられる(WO2018/079705A1)。Gordonia effusaのACAR遺伝子の塩基配列を配列番号129に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号130に示す。Novosphingobium malaysienseのACAR遺伝子の塩基配列を配列番号131に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号132に示す。Coccomyxa subellipsoidea C-169株のACAR遺伝子の塩基配列を配列番号133に、同遺伝子がコードするACARのアミノ酸配列を配列番号134に示す。
ACAR活性は、例えば、ATPおよびNADPHの存在下で酵素を基質(例えば、バニリン酸またはプロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHの酸化を測定することにより、測定できる(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485に記載の手法を改変)。
ACARは、ホスホパンテテイニル化されることにより活性型酵素となり得る(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, p478-485)。よって、タンパク質のホスホパンテテイニル化を触媒する酵素(「ホスホパンテテイニル化酵素」ともいう)の活性を増大させることにより、ACARの活性を増大させることができる。すなわち、目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、ホスホパンテテイニル化酵素の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、ホスホパンテテイニル化酵素の活性が増大するように改変されていてよい。ホスホパンテテイニル化酵素としては、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)が挙げられる。
「ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(phosphopantetheinyl transferase;PPT)」とは、ホスホパンテテイニル基供与体の存在下でACARをホスホパンテテイニル化する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「PPT活性」ともいう。PPTをコードする遺伝子を、「PPT遺伝子」ともいう。ホスホパンテテイニル基供与体としては、補酵素A(CoA)が挙げられる。PPTとしては、entD遺伝子にコードされるEntDタンパク質が挙げられる。PPTとして、具体的には、Nocardia brasiliensisのPPT、Nocardia farcinica IFM10152のPPT(J. Biol. Chem. 2007, Vol. 282, No.1, pp.478-485)、Corynebacterium glutamicumのPPT(App. Env. Microbiol. 2009, Vol.75, No.9, pp.2765-2774)、E. coliのEntDタンパク質等の各種生物のものが挙げられる。Corynebacterium
glutamicum ATCC 13032株のPPT遺伝子の塩基配列を配列番号135に、同遺伝子がコードするPPTのアミノ酸配列を配列番号136に、それぞれ示す。E. coli K-12 MG1655株のentD遺伝子の塩基配列を配列番号137に、同遺伝子がコードするEntDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号138に、それぞれ示す。
PPT活性は、例えば、CoAの存在下で酵素をACARとインキュベートし、ACAR活性の増強を指標として測定することができる(J. Biol. Chem. 2007, Vol.282, No.1, pp.478-485)。
メラトニンは、L−トリプトファンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素と
しては、例えば、L−トリプトファン生合成酵素や、L−トリプトファンからメラトニンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−トリプトファン生合成酵素としては、3−デオキシ−D−アラビノ−ヘプツロソン酸−7−リン酸シンターゼ(3-deoxy-D-arabinoheptulosonate-7-phosphate synthase;aroF, aroG, aroH)、3−デヒドロキナ酸シンターゼ(3-dehydroquinate synthase;aroB)、3−デヒドロキナ酸デヒドラターゼ(3-dehydroquinate dehydratase;aroD)、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase;aroE)、シキミ酸キナーゼ(shikimate kinase;aroK, aroL)、5−エノールピルビルシキミ酸−3−リン酸シンターゼ(5-enolpyruvylshikimate-3-phosphate synthase;aroA)、コリスミ酸シンターゼ(chorismate synthase;aroC)等の芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、アントラニル酸シンターゼ(anthranilate synthase;trpED)、トリプトファンシンターゼ(tryptophan synthase;trpAB)が挙げられる。酵素名の後ろの括弧内には、各酵素をコードする遺伝子名の一例を示す(以下、同じ)。L−トリプトファンは、トリプトファン−5−ヒドロキシラーゼ(tryptophan 5-hydroxylase;EC 1.14.16.4)、5−ヒドロキシトリプトファンデカルボキシラーゼ(5-hydroxytryptophan decarboxylase;EC 4.1.1.28)、アラルキルアミン−N−アセチルトランスフェラーゼ(aralkylamine N-acetyltransferase;AANAT;EC 2.3.1.87)、およびアセチルセロトニン−O−メチルトランスフェラーゼ(acetylserotonin O-methyltransferase;EC 2.1.1.4)の作用により、順に、ヒドロキシトリプトファン(hydroxytryptophan)、セロトニン(serotonin)、N−アセチルセロトニン(N-acetylserotonin)、およびメラトニンへと変換され得る。すなわち、L−トリプトファンからメラトニンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、acetylserotonin O-methyltransferaseは、SAMをメチル基供与体としてN−アセチルセロトニンをメチル化してメラトニンを生成するOMTの一例である。
エルゴチオネインは、L−ヒスチジンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−ヒスチジン生合成酵素や、L−ヒスチジンからエルゴチオネインへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−ヒスチジン生合成酵素としては、ATPホスホリボシルトランスフェラーゼ(ATP phosphoribosyltransferase;hisG)、ホスホリボシルAMPシクロヒドロラーゼ(phosphoribosyl-AMP cyclohydrolase;hisI)、ホスホリボシルATPピロホスホヒドロラーゼ(phosphoribosyl-ATP pyrophosphohydrolase;hisI)、ホスホリボシルホルムイミノ−5−アミノイミダゾールカルボキシアミドリボタイドイソメラーゼ(phosphoribosylformimino-5-aminoimidazole carboxamide ribotide isomerase;hisA)、アミドトランスフェラーゼ(amidotransferase;hisH)、ヒスチジノールリン酸アミノトランスフェラーゼ(histidinol phosphate aminotransferase;hisC)、ヒスチジノールホスファターゼ(histidinol phosphatase;hisB)、ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ(histidinol dehydrogenase;hisD)が挙げられる。L−ヒスチジンは、egtB、egtC、egtD、およびegtE遺伝子にそれぞれコードされるEgtB、EgtC、EgtD、およびEgtEタンパク質の作用により、順に、ヘルシニン(hercynine)、ヘルシニル−γ−L−グルタミル−L−システインスルホキシド(hercynyl-gamma-L-glutamyl-L-cysteine
sulfoxide)、ヘルシニル−L−システインスルホキシド(hercynyl-L-cysteine sulfoxide)、およびエルゴチオネインへと変換され得る。また、ヘルシニンは、egt1遺伝子にコードされるEgt1タンパク質の作用により、ヘルシニル−L−システインスルホキシドへと変換され得る。すなわち、L−ヒスチジンからエルゴチオネインへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、EgtDは、SAMをメチル基供与体としてヒスチジンをメチル化してヘルシニンを生成するSAM依存的ヒスチジン−N,N,N−メチルトランスフェラーゼ(S-adenosyl-l-methionine (SAM)-dependent histidine N,N,N-methyltransferase)である。
グアイアコールは、バニリン酸から生成し得る。よって、グアイアコールに対する目的物質生合成酵素については、上述したバニリン酸に対する目的物質生合成酵素についての
記載を準用できる。バニリン酸は、バニリン酸デカルボキシラーゼ(vanillic acid decarboxylase;VDC)の作用により、グアイアコールへと変換され得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、VDCも挙げられる。
フェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、および4−エチルグアイアコールは、L−フェニルアラニンまたはL−チロシンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−フェニルアラニン生合成酵素、L−チロシン生合成酵素、およびL−フェニルアラニンまたはL−チロシンからフェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、または4−エチルグアイアコールへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−フェニルアラニン生合成酵素としては、上記例示した芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;pheA)、プレフェン酸デヒドラターゼ(prephenate dehydratase;pheA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドラターゼは、二機能酵素としてpheA遺伝子にコードされてよい。L−チロシン生合成酵素としては、上記例示した芳香族アミノ酸に共通の生合成酵素や、コリスミ酸ムターゼ(chorismate mutase;tyrA)、プレフェン酸デヒドロゲナーゼ(prephenate dehydrogenase;tyrA)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(tyrosine amino transferase;tyrB)が挙げられる。コリスミ酸ムターゼおよびプレフェン酸デヒドロゲナーゼは、二機能酵素としてtyrA遺伝子にコードされてよい。L−フェニルアラニンは、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(phenylalanine ammonia lyase;PAL;EC 4.3.1.24)の作用により桂皮酸(cinnamic acid)へ、次いで桂皮酸−4−ヒドロキシラーゼ(cinnamic acid 4-hydroxylase;C4H;EC 1.14.13.11)の作用によりp−クマル酸(p-coumaric acid)へと変換され得る。また、L−チロシンは、チロシンアンモニアリアーゼ(tyrosine ammonia lyase;TAL;EC 4.3.1.23)の作用により、p−クマル酸へと変換され得る。p−クマル酸は、ヒドロキシ桂皮酸−3−ヒドロキシラーゼ(hydroxycinnamic acid 3-hydroxylase;C3H)、O−メチルトランスフェラーゼ(O-methyltransferase;OMT)、フェルラ酸デカルボキシラーゼ(ferulic acid decarboxylase;FDC)、およびビニルフェノールレダクターゼ(vinylphenol reductase;VPR)の作用により、順に、コーヒー酸(caffeic acid)、フェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、および4−エチルグアイアコールへと変換され得る。すなわち、L−フェニルアラニンまたはL−チロシンからフェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、または4−エチルグアイアコールへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。フェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、または4−エチルグアイアコールを生産するためには、少なくともコーヒー酸を利用するOMTを用いることができる。
ポリアミンは、L−アルギニンまたはL−オルニチンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−アルギニン生合成酵素、L−オルニチン生合成酵素、およびL−アルギニンまたはL−オルニチンからポリアミンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−オルニチン生合成酵素としては、N−アセチルグルタミン酸シンターゼ(N-acetylglutamate synthase;argA)、N−アセチルグルタミン酸キナーゼ(N-acetylglutamate kinase;argB)、N−アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(N-acetylglutamyl phosphate reductase;argC)、アセチルオルニチントランスアミナーゼ(acetylornithine transaminase;argD)、アセチルオルニチンデアセチラーゼ(acetylornithine deacetylase;argE)が挙げられる。L−アルギニン生合成酵素としては、上記例示したL−オルニチン生合成酵素や、カルバモイルリン酸シンターゼ(carbamoyl phosphate synthetase;carAB)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ornithine carbamoyl transferase;argF, argI)、アルギニノコハク酸シンターゼ(argininosuccinate synthetase;argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argininosuccinate lyase;argH)が挙げられる。L−アルギニンは、アルギニンデカルボキシラーゼ(arginine decarboxylase;speA;EC 4.1.1.19)の作用によりアグマチン(agmatine)へ、次いでアグマチンウレオヒドロラーゼ(agmatine ureohydrolase;speB;EC 3.5.3.11)の作用によりプトレ
シン(putrescine)へと変換され得る。また、L−オルニチンは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ornithine decarboxylase;speC;EC 4.1.1.17)の作用によりプトレシンへと変換され得る。プトレシンは、スペルミジンシンターゼ(spermidine synthase;speE;EC 2.5.1.16)の作用によりスペルミジンへ、次いでスペルミンシンターゼ(spermine synthase;EC 2.5.1.22)の作用によりスペルミンへと変換され得る。アグマチンは、また、アグマチン/トリアミンアミノプロピルトランスフェラーゼ(agmatine/triamine aminopropyl transferase)の作用によりアミノプロピルアグマチン(aminopropylagmatine)へ、次いでアミノプロピルアグマチンウレオヒドロラーゼ(aminopropylagmatine ureohydrolase)の作用によりスペルミジンへと変換され得る。すなわち、L−アルギニンまたはL−オルニチンからポリアミンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。なお、spermidine synthase、spermine synthase、およびagmatine/triamine aminopropyl transferaseは、いずれも、SAMの脱炭酸によって生じ得る脱炭酸SAM(decarboxylated S-adenosyl methionine;dcSAM)からプロピルアミン基を対応する基質へと転移する反応を触媒する。
クレアチンは、L−アルギニンおよびグリシンから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−アルギニン生合成酵素、グリシン生合成酵素、およびL−アルギニンおよびグリシンからクレアチンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−アルギニンおよびグリシンは、アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(arginine:glycine amidinotransferase;AGAT;EC 2.1.4.1)の作用により、結合してグアニジノ酢酸(guanidinoacetate)およびオルニチン(ornithine)を生成し得る。グアニジノ酢酸は、グアニジノ酢酸−N−メチルトランスフェラーゼ(guanidinoacetate N-methyltransferase;GAMT;EC 2.1.1.2)の作用により、SAMをメチル基供与体としてメチル化されクレアチンを生成し得る。すなわち、L−アルギニンおよびグリシンからクレアチンへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。
ムギネ酸は、SAMから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、SAMからムギネ酸への変換を触媒する酵素も挙げられる。ニコチアナミンシンターゼ(nicotianamine synthase;EC 2.5.1.43)の作用により、3分子のSAMから1分子のニコチアナミンが合成され得る。ニコチアナミンは、ニコチアナミンアミノトランスフェラーゼ(nicotianamine aminotransferase;EC 2.6.1.80)、3”−デアミノ−3”−オキソニコチアナミンレダクターゼ(3"-deamino-3"-oxonicotianamine reductase;EC 1.1.1.285)、および2’−デオキシムギネ酸−2’−ジオキシゲナーゼ(2'-deoxymugineic-acid 2'-dioxygenase;EC 1.14.11.24)の作用により、順に、3”−デアミノ−3”−オキソニコチアナミン(3"-deamino-3"-oxonicotianamine)、2’−デオキシムギネ酸(2'-deoxymugineic-acid)、およびムギネ酸へと変換され得る。すなわち、SAMからムギネ酸への変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。
L−メチオニンは、L−システインから生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−システイン生合成酵素や、L−システインからL−メチオニンへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−システイン生合成酵素としては、本明細書に記載の、CysIXHDNYZタンパク質、Fpr2タンパク質、CysKタンパク質が挙げられる。L−システインからL−メチオニンへの変換を触媒する酵素としては、シスタチオニン−γ−シンターゼ(cystathionine-gamma-synthase)やシスタチオニン−β−リアーゼ(cystathionine-beta-lyase)が挙げられる。
また、上述したように、ベンズアルデヒドおよびシンナムアルデヒドは、例えば、それぞれ、ACARの作用により安息香酸およびケイ皮酸から生成し得る。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、ACARに加えて、安息香酸生合成酵素やケイ皮酸生合成酵素も挙げられる。具体的には、ケイ皮酸は、例えば、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(
phenylalanine ammonia lyase;PAL;EC 4.3.1.24)の作用によりL−フェニルアラニンから生成し得る。すなわち、ケイ皮酸生合成酵素としては、例えば、L−フェニルアラニン生合成酵素やPALが挙げられる。
また、ベンズアルデヒドは、例えば、L−フェニルアラニンからも生成し得る(WO2017/122747)。すなわち、目的物質生合成酵素としては、例えば、L−フェニルアラニン生合成酵素や、L−フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換を触媒する酵素も挙げられる。L−フェニルアラニンは、アミノ酸デアミナーゼ(amino acid deaminase;AAD;EC 1.4.3.2)、4−ヒドロキシマンデル酸シンターゼ(4-hydroxymandelate synthase;HMAS;EC 1.13.11.46)、(S)−マンデル酸デヒドロゲナーゼ((S)-mandelate dehydrogenase;SMDH;EC 1.1.99.31)、およびベンゾイル蟻酸デカルボキシラーゼ(Benzoylformate decarboxylase;BFDC;EC 4.1.1.7)の作用により、順に、フェニルピルビン酸、(S)−マンデル酸、ベンゾイル蟻酸、およびベンズアルデヒドへと変換され得る。すなわち、L−フェニルアラニンからベンズアルデヒドへの変換を触媒する酵素としては、これらの酵素が挙げられる。
また、目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、目的物質以外の物質(例えば、目的物質の生産中に中間体として生成する物質や、目的物質の前駆体として利用される物質)の取り込み系の活性を増大させる方法が挙げられる。すなわち、微生物は、そのような取り込み系の活性が増大するように改変されていてよい。「物質の取り込み系」とは、物質を細胞外から細胞内へ取り込む機能を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「物質の取り込み活性」ともいう。そのような取り込み系をコードする遺伝子を、「取り込み系遺伝子」ともいう。そのような取り込み系としては、バニリン酸取り込み系やプロトカテク酸取り込み系が挙げられる。バニリン酸取り込み系としては、vanK遺伝子にコードされるVanKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のvanK遺伝子(NCgl2302)の塩基配列を配列番号139に、同遺伝子がコードするVanKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号140に、それぞれ示す。プロトカテク酸取り込み系としては、pcaK遺伝子にコードされるPcaKタンパク質が挙げられる(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)。C. glutamicum ATCC 13869株のpcaK遺伝子(NCgl1031)の塩基配列を配列番号141に、同遺伝子がコードするPcaKタンパク質のアミノ酸配列を配列番号142に、それぞれ示す。
物質の取り込み活性は、例えば、公知の手法(M. T. Chaudhry, et al., Microbiology, 2007. 153:857-865)により測定することができる。
また、目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させる方法が挙げられる。そのような目的物質以外の物質を、「副生物」ともいう。そのような酵素を、「副生物生成酵素」ともいう。副生物生成酵素としては、例えば、目的物質の資化に関与する酵素や、目的物質の生合成経路から分岐して目的物質以外の物質を生成する反応を触媒する酵素が挙げられる。タンパク質(酵素等)の活性を低下させる手法については後述する。タンパク質(酵素等)の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊等することにより、低下させることができる。例えば、コリネ型細菌において、バニリンは、バニリン→バニリン酸→プロトカテク酸の順に代謝され、資化されることが報告されている(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、バニリンからプロトカテク酸への変換を触媒する酵素や、プロトカテク酸のさらなる代謝を触媒する酵素が挙げられる。そのような酵素としては、バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ(protocatechuate 3,4-dioxygenase)、およびプロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼによる反応産物をスクシニルCoAとアセ
チルCoAまでさらに分解する各種酵素(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)が挙げられる。また、バニリンは、アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase;ADH)の作用により、バニリルアルコールへと変換され得る(Kunjapur AM. et
al., J. Am. Chem. Soc., 2014, Vol.136, p11644-11654.; Hansen EH. et al., App. Env. Microbiol., 2009, Vol.75, p2765-2774.)。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、ADHも挙げられる。また、バニリン生合成経路の中間体である3−デヒドロシキミ酸は、シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)の作用によりシキミ酸へと変換され得る。すなわち、副生物生成酵素として、具体的には、shikimate dehydrogenaseも挙げられる。
「バニリン酸デメチラーゼ(vanillate demethylase)」とは、バニリン酸を脱メチル化してプロトカテク酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「バニリン酸デメチラーゼ活性」ともいう。バニリン酸デメチラーゼをコードする遺伝子を、「バニリン酸デメチラーゼ遺伝子」ともいう。バニリン酸デメチラーゼとしては、vanAB遺伝子にコードされるVanABタンパク質が挙げられる(Current Microbiology, 2005, Vol.51, p59-65)。vanA遺伝子およびvanB遺伝子は、それぞれ、バニリン酸デメチラーゼのサブユニットAおよびサブユニットBをコードする。バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させる場合、例えば、vanAB遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13869株のvanAB遺伝子の塩基配列を配列番号143と145に、同遺伝子がコードするVanABタンパク質のアミノ酸配列を配列番号144と146に、それぞれ示す。なお、vanAB遺伝子は、通常、vanK遺伝子とvanABKオペロンを構成している。よって、バニリン酸デメチラーゼ活性を低下させるためにvanABKオペロンをまとめて破壊等(例えば、欠損)してもよい。その場合、改めて宿主にvanK遺伝子を導入してもよい。例えば、菌体外に存在するバニリン酸を利用する場合であって、vanABKオペロンをまとめて破壊等(例えば、欠損)した場合は、改めてvanK遺伝子を導入するのが好ましい。
バニリン酸デメチラーゼ活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、バニリン酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な産物(すなわち、プロトカテク酸)の生成を測定することにより、測定できる(J Bacteriol, 2001, Vol.183, p3276-3281)。
「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ」とは、プロトカテク酸を酸化してβ−カルボキシルcis,cis-ムコン酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい。同活性を、「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性」ともいう。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子を、「プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ遺伝子」ともいう。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼとしては、pcaGH遺伝子にコードされるPcaGHタンパク質が挙げられる(Appl. Microbiol. Biotechnol., 2012, Vol.95, p77-89)。pcaG遺伝子およびpcaH遺伝子は、それぞれ、プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼのαサブユニットおよびβサブユニットをコードする。プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性を低下させる場合、例えば、pcaGH遺伝子の両方を破壊等してもよく、片方のみを破壊等してもよい。C. glutamicum ATCC 13032株のpcaGH遺伝子の塩基配列を配列番号147と149に、同遺伝子がコードするPcaGHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号148と150に、それぞれ示す。
プロトカテク酸3,4−ジオキシゲナーゼ活性は、例えば、酵素を基質(すなわち、プロトカテク酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的な酸素消費を測定することにより、測定できる(Meth. Enz., 1970, Vol.17A, p526-529)。
「アルコールデヒドロゲナーゼ(alcohol dehydrogenase;ADH)」とは、電子供与体の存在下でアルデヒドを還元してアルコールを生成する反応を触媒する活性を有するタンパ
ク質を意味してよい(EC 1.1.1.1、EC 1.1.1.2、EC 1.1.1.71等)。同活性を、「ADH活性」ともいう。ADHをコードする遺伝子を、「ADH遺伝子」ともいう。ADHの基質となるアルデヒドとしては、目的物質として例示したアルデヒド、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒドが挙げられる。すなわち、「ADH活性」の説明において言及されるアルデヒドとアルコールの組み合わせとしては、バニリンとバニリルアルコールの組み合わせ、ベンズアルデヒドとベンジルアルコールの組み合わせ、シンナムアルデヒドとシンナミルアルコールの組み合わせ等の、芳香族アルデヒドと芳香族アルコールの組み合わせが挙げられる。芳香族アルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒドを基質とするADHを、それぞれ、「芳香族アルコールデヒドロゲナーゼ(aromatic alcohol dehydrogenase)」、「バニリルアルコールデヒドロゲナーゼ(vanillyl alcohol dehydrogenase)」、「ベンジルアルコールデヒドロゲナーゼ(benzyl alcohol dehydrogenase)」、「シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(cinnamyl alcohol dehydrogenase)」ともいう。また、芳香族アルデヒド、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒドを基質とするADH活性を、それぞれ、「芳香族アルコールデヒドロゲナーゼ(aromatic alcohol dehydrogenase)活性」、「バニリルアルコールデヒドロゲナーゼ(vanillyl alcohol dehydrogenase)活性」、「ベンジルアルコールデヒドロゲナーゼ(benzyl alcohol dehydrogenase)活性」、「シンナミルアルコールデヒドロゲナーゼ(cinnamyl alcohol dehydrogenase)活性」ともいう。ADHは、1種のアルデヒドを基質としてもよく、2種またはそれ以上ののアルデヒドを基質としてもよい。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。ADHは、例えば、これらの電子供与体の少なくとも1つを利用できるものであってよい。
ADHとしては、yqhD遺伝子、NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子にそれぞれコードされるYqhDタンパク質、NCgl0324タンパク質、NCgl0313タンパク質、NCgl2709タンパク質、NCgl0219タンパク質、NCgl2382タンパク質が挙げられる。yqhD遺伝子およびNCgl0324遺伝子は、いずれも、vanillyl alcohol dehydrogenaseをコードする。yqhD遺伝子は、例えば、E. coli等の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌に見出され得る。NCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子、NCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子は、例えば、C. glutamicum等のコリネ型細菌に見出され得る。E. coli K-12 MG1655のyqhD遺伝子の塩基配列を配列番号151に、同遺伝子がコードするYqhDタンパク質のアミノ酸配列を配列番号152に示す。C. glutamicum ATCC 13869株のNCgl0324遺伝子、NCgl0313遺伝子、NCgl2709遺伝子の塩基配列を配列番号153、155、157に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号154、156、158に、それぞれ示す。また、C. glutamicum ATCC 13032株のNCgl0219遺伝子、NCgl2382遺伝子の塩基配列を配列番号159、161に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号160、162に、それぞれ示す。
微生物においては、1種のADHの活性を低下させてもよく、2種またはそれ以上のADHの活性を低下させてもよい。例えば、NCgl0324タンパク質、NCgl2709タンパク質、およびNCgl0313タンパク質から選択される1種またはそれ以上、例えば全て、のADHの活性を低下させてよい。また、少なくとも、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、少なくともNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよく、さらにNCgl2709タンパク質の活性を低下させてもよい。あるいは、少なくともNCgl2709タンパク質の活性を低下させてもよく、さらにNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよい。ADHと目的物質の組み合わせは、コリネ型細菌においてADHの活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する限り、特に制限されない。例えば、少なくとも、目的物質として生産されるアルデヒドを基質とするADHの活性を低下させてよい。すなわち、例えば、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド等の芳香族アルデヒドの生産のためには、それぞれ、vanillyl alcohol dehydrogenase、benzyl alcohol dehydrogenase、cinnamyl alcohol dehydrogenase等のaromatic alcohol deh
ydrogenaseの活性を低下させてよい。例えば、バニリンを生産する場合、YqhDタンパク質の活性を低下させてもよい。また、例えば、バニリンを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl0313タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよく、少なくともNCgl0324タンパク質の活性を低下させてもよい。また、例えば、ベンズアルデヒドを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。また、例えば、シンナムアルデヒドを生産する場合、NCgl0324タンパク質およびNCgl2709タンパク質の一方または両方の活性を低下させてもよい。YqhDタンパク質は、vanillyl alcohol dehydrogenase活性を有していてよい。NCgl0324タンパク質は、vanillyl alcohol dehydrogenase活性、benzyl alcohol dehydrogenase活性、およびcinnamyl
alcohol dehydrogenase活性の全てを有していてよい。NCgl2709タンパク質は、benzyl alcohol dehydrogenase活性およびcinnamyl alcohol dehydrogenase活性の両方を有していてよい。
ADH活性は、例えば、NADPHまたはNADHの存在下で酵素を基質(例えば、バニリン等のアルデヒド)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADPHまたはNADHの酸化を測定することにより、測定できる。
「シキミ酸デヒドロゲナーゼ(shikimate dehydrogenase)」とは、電子供与体の存在下で3−デヒドロシキミ酸を還元してシキミ酸を生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 1.1.1.25)。同活性を、「shikimate dehydrogenase活性」ともいう。shikimate dehydrogenaseをコードする遺伝子を、「shikimate dehydrogenase遺伝子」ともいう。電子供与体としては、NADHやNADPHが挙げられる。shikimate dehydrogenaseは、例えば、これらの電子供与体の少なくとも1つを利用できるものであってよい。shikimate dehydrogenaseとしては、aroE遺伝子にコードされるAroEタンパク質が挙げられる。E. coli K-12 MG1655のaroE遺伝子の塩基配列を配列番号163に、同遺伝子がコードするAroEタンパク質のアミノ酸配列を配列番号164に示す。
shikimate dehydrogenase活性は、例えば、NADHまたはNADPHの存在下で酵素を基質(すなわち、3−デヒドロシキミ酸)とインキュベートし、酵素および基質依存的なNADHまたはNADPHの酸化を測定することにより、測定できる。
また、SAM依存性代謝物やL−メチオニン等の目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、L−システイン生合成酵素の活性を増大させる方法が挙げられる(WO2018/079687)。
「L−システイン生合成酵素」とは、L−システインの生合成に関与するタンパク質を意味してよい。L−システイン生合成酵素をコードする遺伝子を、「L−システイン生合成遺伝子」ともいう。L−システイン生合成酵素としては、硫黄の利用に関与するタンパク質が挙げられる。硫黄の利用に関与するタンパク質としては、cysIXHDNYZ遺伝子およびfpr2遺伝子にそれぞれコードされるCysIXHDNYZタンパク質およびFpr2タンパク質が挙げられる。CysIXHDNYZタンパク質は、特に、硫酸塩や亜硫酸塩等の無機硫黄化合物の還元に関与する。Fpr2タンパク質は、特に、亜硫酸塩の還元のための電子伝達に関与してよい。L−システイン生合成酵素としては、O−アセチルセリン(チオール)リアーゼ(O-acetylserine (thiol)-lyase)も挙げられる。O-acetylserine (thiol)-lyaseとしては、cysK遺伝子にコードされるCysKタンパク質も挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のcysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、およびcysK遺伝子(NCgl2473)の塩基配列を配列番号165、167、169、171、173、175、177、179、181に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号166、168、170、172、174、176、178、180、182に、それぞれ示す。1種のL−システイン生合成酵素の活性を増大させてもよく、2種またはそれ以上のL−システイン生合成酵素の活性を増大
させてもよい。例えば、CysIXHDNYZタンパク質、Fpr2タンパク質、およびCysKタンパク質の内の1種またはそれ以上の活性を増大させてもよく、CysIXHDNYZタンパク質およびFpr2タンパク質の内の1種またはそれ以上の活性を増大させてもよい。
L−システイン生合成酵素の活性は、例えば、L−システイン生合成酵素をコードする遺伝子(すなわち、cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、cysK遺伝子等のL−システイン生合成遺伝子)の発現を増大させることにより、増大させることができる。
L−システイン生合成遺伝子の発現は、例えば、同遺伝子の発現制御因子の活性を改変(例えば、増大または低下)することにより、増大させることができる。すなわち、L−システイン生合成遺伝子の発現は、例えば、同遺伝子の正の発現制御因子(例えば、アクチベーター)の活性を増大させることにより、増大させることができる。また、L−システイン生合成遺伝子の発現は、例えば、同遺伝子の負の発現制御因子(例えば、リプレッサー)の活性を低下させることにより、増大させることができる。そのような制御因子を、「制御タンパク質」ともいう。そのような制御因子をコードする遺伝子を、「制御遺伝子」ともいう。
上記のようなアクチベーターとしては、cysR遺伝子およびssuR遺伝子にそれぞれコードされるCysRタンパク質およびSsuRタンパク質が挙げられる。CysRタンパク質の活性の増大により、cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、およびssuR遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現が増大し得る。また、SsuRタンパク質の活性の増大により、有機硫黄化合物の利用に関与する遺伝子の発現が増大し得る。C. glutamicum ATCC 13869株のcysR遺伝子(NCgl0120)およびssuR遺伝子の塩基配列を配列番号183と185に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号184と186に、それぞれ示す。CysRタンパク質およびSsuRタンパク質の一方または両方の活性を増大させてよい。例えば、少なくとも、CysRタンパク質の活性を低下させてもよい。そのようなアクチベーターの活性は、例えば、同アクチベーターをコードする遺伝子の発現を増大させることにより、増大させることができる。
上記のようなリプレッサーとしては、mcbR遺伝子にコードされるMcbRタンパク質が挙げられる。McbRタンパク質の活性の低下により、cysR遺伝子およびssuR遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現が増大し得る、また、それにより、cysIXHDNYZ遺伝子およびfpr2遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現が増大し得る。そのようなリプレッサーの活性は、例えば、同リプレッサーをコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または同リプレッサーをコードする遺伝子を破壊することにより、低下させることができる。
すなわち、具体的には、L−システイン生合成酵素の活性は、例えば、cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、cysR遺伝子、およびssuR遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現を増大させることにより、増大させることができる。すなわち、「L−システイン生合成酵素の活性が増大する」とは、例えば、cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、cysR遺伝子、およびssuR遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現が増大することを意味してよい。例えば、少なくとも、cysR遺伝子の発現を増大させてもよい。また、例えば、これらの遺伝子の全ての発現を増大させてもよい。cysIXHDNYZ遺伝子、fpr2遺伝子、およびssuR遺伝子の内の1種またはそれ以上の発現は、cysR遺伝子の発現を増大させることにより増大してもよい。
また、SAM依存性代謝物やL−メチオニン等の目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、NCgl2048タンパク質の活性を低下させる方法が挙げられる(WO2018/079686)。
「NCgl2048タンパク質」とは、NCgl2048遺伝子にコードされるタンパク質を意味してよ
い。C. glutamicum ATCC 13869株のNCgl2048遺伝子の塩基配列を配列番号187に、同遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列を配列番号188に示す。なお、保存的バリアントに関して、NCgl2048タンパク質の「元の機能」とは、配列番号188のアミノ酸配列を有するタンパク質の機能を意味してよく、微生物において活性を低下させることにより目的物質の生産が増大する性質を意味してもよい。
また、SAM依存性代謝物やL−メチオニン等の目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、エノラーゼ(enolase)の活性を低下させる方法が挙げられる(WO2018/079684)。enolaseについては、上述した通りである。なお、糖の資化能の低下および補完のためにenolaseの活性を低下および増大させる場合は、目的物質生産能の付与または増強のために、補完後のenolaseの活性を非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)より低くなるように制限してもよい。
また、SAM依存性代謝物やL−メチオニン等の目的物質生産能を付与または増強するための方法としては、S−アデノシル−L−ホモシステインヒドロラーゼ(S-adenosyl-L-homocysteine hydrolase)の活性を増大させる方法が挙げられる(WO2018/079684)。
「S−アデノシル−L−ホモシステインヒドロラーゼ(S-adenosyl-L-homocysteine hydrolase)」とは、S−アデノシル−L−ホモシステイン(S-adenosyl-L-homocysteine;SAH)を加水分解してL−ホモシステインとアデノシンを生成する反応を触媒する活性を有するタンパク質を意味してよい(EC 3.3.1.1)。同活性を、「S-adenosyl-L-homocysteine hydrolase活性」ともいう。S-adenosyl-L-homocysteine hydrolaseは、「アデノシルホモシステイナーゼ(adenosylhomocysteinase)」ともいう。S-adenosyl-L-homocysteine hydrolaseをコードする遺伝子を、「S-adenosyl-L-homocysteine hydrolase遺伝子」ともいう。S-adenosyl-L-homocysteine hydrolaseとしては、sahH遺伝子にコードされるSahHタンパク質が挙げられる。S-adenosyl-L-homocysteine hydrolaseとして、具体的には、酵母、Streptomyces属細菌、コリネ型細菌等の各種生物のものが挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のsahH遺伝子(NCgl0719)の塩基配列を配列番号189に、同遺伝子がコードするSahHタンパク質のアミノ酸配列を配列番号190に示す。
S-adenosyl-L-homocysteine hydrolase活性は、例えば、酵素を基質(例えば、S−アデノシル−L−ホモシステイン)およびDTNB(5,5'-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid))とインキュベートし、産物(例えば、ホモシステイン)依存的なTNB(5-Mercapto-2-nitrobenzoic acid)の生成を412 nmの吸光度に基づいて測定することにより、測定できる(J
Mol Microbiol Biotechnol 2008, 15: 277-286)。
活性を改変するタンパク質は、例えば、目的物質の種類、目的物質が生産される生合成経路の種類、および微生物が本来的に有するタンパク質の種類や活性等の諸条件に応じて適宜選択できる。例えば、バニリンをプロトカテク酸からの生物変換により製造する場合は、特に、OMT、ACAR、PPT、およびプロトカテク酸取り込み系の1種またはそれ以上の活性を増大させてよい。また、例えば、バニリンをバニリン酸からの生物変換により製造する場合は、特に、ACAR、PPT、およびバニリン酸取り込み系の1種またはそれ以上の活性を増大させてよい。また、バニリンをプロトカテクアルデヒドからの生物変換により製造する場合は、特に、OMTの活性を増大させてよい。
目的物質が遺伝子の発現産物(例えば、タンパク質やRNA)である場合、本明細書に記載の微生物は、少なくとも目的物質をコードする遺伝子を有することに依拠して目的物質生産能を有する。目的物質をコードする遺伝子を、「目的物質遺伝子」ともいう。すなわち、微生物は、目的物質遺伝子を有していてよい。微生物は、例えば、目的物質遺伝子を有することにより、あるいは目的物質遺伝子を有することと他の性質との組み合わせによ
り、目的タンパク質生産能を有していてよい。また、目的物質生産能を付与または増強する方法としては、目的物質遺伝子を微生物に導入する方法が挙げられる。遺伝子を導入する手法については後述する。
タンパク質は、例えば、菌体外(例えば、培地中または菌体表層)に分泌生産されてもよく、菌体内に蓄積してもよい。例えば、シグナルペプチドを利用することにより、タンパク質を分泌生産することができる。目的のタンパク質をコードする遺伝子(目的タンパク質遺伝子)は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、例えば、5’から3’方向に宿主で機能するプロモーター配列、宿主で機能するシグナルペプチドをコードする塩基配列、および目的のタンパク質をコードする塩基配列を含むタンパク質の発現ユニットを宿主に保持させ、目的のタンパク質を発現することにより、目的のタンパク質を分泌生産することができる。目的のタンパク質をコードする塩基配列は、シグナルペプチドをコードする塩基配列の下流に、シグナルペプチドとの融合タンパク質として目的のタンパク質が発現するよう連結されていればよい。すなわち、目的タンパク質遺伝子としては、このような融合タンパク質をコードする遺伝子も挙げられる。タンパク質の分泌生産には、例えば、コリネ型細菌を宿主として用いることができる。タンパク質の分泌生産に用いるコリネ型細菌としては、例えば、細胞表層タンパク質の活性が低下した株が挙げられる。そのような株としては、C. glutamicum AJ12036 (FERM BP-734) の細胞表層タンパク質PS2の欠損株であるC. glutamicum YDK010株(WO2004/029254)やその改変株が挙げられる。また、コリネ型細菌についてタンパク質の分泌生産能を付与または増強するための方法としては、細胞表層タンパク質の活性を低下させる方法(WO2013/065869、WO2013/065772、WO2013/118544、WO2013/062029)、ペニシリン結合タンパク質の活性を低下させる方法(WO2013/065869)、メタロペプチダーゼをコードする遺伝子の発現を増大させる方法(WO2013/065772)、変異型リボソームタンパク質S1遺伝子(変異型rpsA遺伝子)を有するように宿主を改変する方法(WO2013/118544)、変異型phoS遺伝子を有するように宿主を改変する方法(WO2016/171224)、RegX3タンパク質の活性を低下させる方法(WO2018/074578)、HrrSAシステムの活性を低下させる方法(WO2018/074579)、Gln-Glu-Thrを含むアミノ酸配列をシグナルペプチドと目的のタンパク質の間に挿入して目的のタンパク質を発現する方法(WO2013/062029)、Tat系分泌装置等のタンパク質の分泌系を増強する方法(特許第4730302号)が挙げられる。
RNAは、例えば、菌体内に蓄積してよい。目的のRNAをコードする遺伝子(目的RNA遺伝子)は、発現可能に宿主に保持されていればよい。具体的には、例えば、5’から3’方向に宿主で機能するプロモーター配列および目的のRNAをコードする塩基配列(目的RNA遺伝子)を含むRNAの発現ユニットを宿主に保持させ、目的のRNAを発現することにより、目的のRNAを生産することができる。RNAの生産には、例えば、コリネ型細菌を宿主として用いることができる。目的RNA遺伝子の転写態様は、目的のRNAが得られる限り、特に制限されない。目的RNA遺伝子は、例えば、一方向に(すなわち二本鎖の片方のストランドのみを鋳型として)転写されてもよく、双方向に(すなわち二本鎖のそれぞれのストランドを鋳型として)転写されてもよい。目的RNA遺伝子を双方向に転写することは、同遺伝子を挟んで逆向きに配置されたプロモーター(すなわち二本鎖のそれぞれのストランドにおいて同遺伝子の5’側に配置されたプロモーター)から同遺伝子を転写することにより実施できる。すなわち、RNAの発現ユニットは、そのような2つのプロモーターを含んでいてもよい。その場合、両プロモーターは同一であってもよく、なくてもよい。目的RNA遺伝子を一方向に転写することにより、典型的には、一本鎖RNAが得られる。目的RNA遺伝子を双方向に転写することにより、典型的には、二本鎖RNAが得られる。また、二本鎖RNAのそれぞれのストランドを個別の発現ユニットから転写することによっても、二本鎖RNAが得られる。
また、RNAの生産能を付与または増強するための方法としては、リボヌクレアーゼIII(
ribonuclease III;RNaseIII)の活性を低下させる方法が挙げられる。
「リボヌクレアーゼIII(RNaseIII)」とは、二本鎖RNA等の特定のRNAを切断する反応を触媒する活性を有するタンパク質をいう(EC 3.1.26.3)。同活性を、「RNaseIII活性」ともいう。また、RNaseIIIをコードする遺伝子を、「RNaseIII遺伝子」ともいう。RNaseIIIとしては、rnc遺伝子にコードされるRncタンパク質が挙げられる。C. glutamicum ATCC 13869株のrnc遺伝子の塩基配列を配列番号191に、同遺伝子がコードするRncタンパク質のアミノ酸配列を配列番号192に示す。
リボヌクレアーゼIII活性は、酵素をその基質となるRNA(例えば二本鎖RNA)とインキュベートし、酵素依存的なRNAの開裂を測定することにより測定できる。具体的には、リボヌクレアーゼIIIの活性測定は、通常、以下のようにして行われる(Methods Enzymol. 2001;342:143-58.)。一つの方法は、3Hで標識されたポリ(A−U)の合成基質(二本鎖状態)に対して、酵素(例えば、細胞(菌体)からの粗抽出液またはそれを部分精製した酵素)を加えて、35℃にて反応させ、その反応液をトリクロロ酢酸処理し、沈殿画分(高分子量の核酸が含まれる)にある放射能(ラジオアクティビティー)の反応時間に伴う減少度合いを測定するという方法である。すなわち、放射能の減少度合いを基質の開裂の指標としてリボヌクレアーゼIIIの活性を算出できる。また、別法は、32Pで放射能標識した二本鎖RNAを基質にして、それを、酵素を含む反応液(30 mM Tris-HCl (pH8.0), 250 mM グルタミン酸カリウムまたは160 mM NaCl、5 mM スペルミジン、0.1 mM EDTA, 0.1 mM DTT)にいれ、37℃で5分間の保温の後に、最終濃度10mMのMgCl2を加えてRNA分解反応を開始させ、適宜、反応させた後に、そこへ等量のEDTA-電気泳動用マーカー色素混液(EDTAの終濃度が20mM以上となるような濃度)を加えて、反応を停止させるという方法である。次いで、反応後のサンプルを、7 M尿素を含むTBE緩衝液(89 mM Tris/Tris-borate, 2 mM EDTA)での15%(w/v)変性ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供し、そのゲルを放射線画像解析装置にかけて、分解されたRNAの断片を解析することで、リボヌクレアーゼIIIの活性を検出できる。
目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、例えば、上記例示した塩基配列およびアミノ酸配列等の公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有していてよい。また、目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子およびタンパク質は、それぞれ、上記例示した遺伝子およびタンパク質(例えば、上記例示した塩基配列およびアミノ酸配列等の公知の塩基配列およびアミノ酸配列を有する遺伝子およびタンパク質)の保存的バリアントであってもよい。具体的には、例えば、目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子は、元の機能(すなわち、酵素活性やトランスポーター活性等)が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列において、1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。また、例えば、目的物質生産能を有する微生物の育種に使用される遺伝子は、元の機能が維持されている限り、上記例示したアミノ酸配列等の公知のアミノ酸配列全体に対して、例えば、50%以上、65%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、または99%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子であってもよい。遺伝子およびタンパク質の保存的バリアントについては、糖資化遺伝子および糖資化タンパク質の保存的バリアントに関する記載を準用できる。
<1−4>プラスミド
本明細書に記載の微生物は、本明細書に記載のプラスミドを有する。
本明細書に記載のプラスミドは、本明細書に記載の方法に従って微生物において維持される。よって、プラスミドとしては、微生物において自律複製可能なものを用いることが
できる。
本明細書に記載のプラスミドは、低下した糖の資化能を補完する塩基配列(「第1の塩基配列」ともいう)を有する。
本明細書に記載のプラスミドは、糖を選択圧として維持される限り、さらに、その他の任意の性質を有していてよい。プラスミドは、例えば、目的物質の生産に有効な塩基配列(「第2の塩基配列」ともいう)を有していてもよく、いなくてもよい。また、プラスミドは、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子を有していてもよく、いなくてもよい。
本明細書に記載のプラスミドについては、上記のような性質を有すること以外は、「タンパク質の活性を増大させる手法」における遺伝子の導入に用いるベクターに関する記載を準用できる。
本明細書に記載のプラスミドは、例えば、後述するようなベクターに第1の塩基配列や第2の塩基配列等の塩基配列を導入することにより、構築することができる。また、本明細書に記載のプラスミドは、例えば、全合成により直接構築することもできる。
<1−4−1>第1の塩基配列
第1の塩基配列は、低下した糖の資化能を補完する塩基配列である。補完を、「相補」または「回復」ともいう。「低下した糖の資化能が補完される」とは、低下した糖の資化能が向上することを意味する。すなわち、本明細書に記載の微生物は、本明細書に記載のプラスミドを有することにより、低下した糖の資化能が向上している。本明細書に記載の微生物は、具体的には、プラスミドを有さない場合と比較して、低下した糖の資化能が向上している。第1の塩基配列は、1種の糖の資化能の低下を補完してもよく、2種またはそれ以上の糖の資化能の低下を補完してもよい。第1の塩基配列は、少なくとも、糖の資化能の低下を補完すればよい。
低下した糖の資化能の補完の程度は、糖を選択圧としてプラスミドを維持できる限り、特に制限されない。プラスミドによる補完後の糖の資化能は、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)と同一であってもよく、そうでなくてもよい。プラスミドによる補完後の糖の資化能は、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)と比較して低くてもよく、高くてもよい。低下した糖の資化能の補完は、例えば、糖を唯一炭素源として微生物を培養した際の生育の向上として測定することができる。「低下した糖の資化能が補完される」とは、具体的には、例えば、糖を唯一炭素源とする液体最少培地で培養した際のプラスミドを有する改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変され、且つプラスミドが導入された株)の比増殖速度が、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)の50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上であることを意味してもよい。また、「低下した糖の資化能が補完される」とは、具体的には、例えば、糖を唯一炭素源とする液体最少培地で培養した際のプラスミドを有する改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変され、且つプラスミドが導入された株)の比増殖速度が、プラスミドを有さない改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変されているが、プラスミドが導入されていない株)の2倍以上、3倍以上、5倍以上、10倍以上、20倍以上、50倍以上、または100倍以上であることを意味してもよい。また、「低下した糖の資化能が補完される」とは、具体的には、例えば、糖を唯一炭素源とする最少培地(例えば、液体最少培地または固体最少培地)で培養した際に、プラスミドを有する改変株は生育(すなわち増殖)できるが、プラスミドを有さない改変株は生育(すなわち増殖)できないことを意味してもよい。
第1の塩基配列は、低下した糖の資化能を所望の程度に補完できるものであれば、特に制限されない。低下した糖の資化能は、例えば、糖の資化に関与するタンパク質(糖資化タンパク質)の活性を増大させることにより、補完することができる。糖資化タンパク質の活性は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子(糖資化遺伝子)のコピー数を増大させることにより、増大させることができる。糖資化遺伝子のコピー数は、例えば、同遺伝子を搭載したプラスミドを微生物に導入することにより、増大させることができる。すなわち、第1の塩基配列としては、糖資化遺伝子が挙げられる。すなわち、第1の塩基配列として糖資化遺伝子を有するプラスミドを微生物に導入することにより、糖資化タンパク質の活性を増大させることができ、以て低下した糖の資化能を補完することができる。第1の塩基配列がコードする糖資化タンパク質を、上述したタンパク質P1(糖の資化能を低下させるために活性を低下させる糖資化タンパク質)との区別の便宜のため、「タンパク質P2」ともいう。第1の塩基配列の利用により、1種の糖資化タンパク質の活性が増大してもよく、2種またはそれ以上の糖資化タンパク質の活性が増大してもよい。すなわち、第1の塩基配列としては、1種の糖資化遺伝子(具体的には、1種の糖資化タンパク質をコードする遺伝子)を用いてもよく、2種またはそれ以上の糖資化遺伝子(具体的には、2種またはそれ以上の糖資化タンパク質をコードする遺伝子)を用いてもよい。また、第1の塩基配列としては、或る遺伝子について、1コピーで用いてもよく、2コピーまたはそれ以上で用いてもよい。
糖資化遺伝子および糖資化タンパク質については、上述した通りである。すなわち、糖資化タンパク質としては、上記例示したような糖の資化経路を構成するタンパク質が挙げられる。すなわち、糖の資化経路を構成するタンパク質の活性を増大させることにより、糖の資化経路を強化することができ、以て糖の資化能を補完することができる。或る糖について2種またはそれ以上の資化経路が存在する場合、その糖の資化能を補完するためには、それら資化経路から選択される1種の資化経路を強化してもよく、それら資化経路から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)の資化経路を強化してもよい。或る資化経路が2種またはそれ以上のタンパク質で構成される場合、その資化経路を強化するためには、それらタンパク質から選択される1種のタンパク質の活性を増大させてもよく、それらタンパク質から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)のタンパク質の活性を増大させてもよい。
第1の塩基配列として用いる糖資化遺伝子は、例えば、糖の種類、糖の資化経路の種類、糖の資化能を低下させるために活性を低下させた糖資化タンパク質(タンパク質P1)の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。
第1の塩基配列がコードする糖資化タンパク質(タンパク質P2)は、例えば、糖の資化能を低下させるために活性を低下させた糖資化タンパク質(タンパク質P1)と同種のタンパク質であってよい。「或るタンパク質と同種のタンパク質」とは、当該或るタンパク質と同一の機能を有するタンパク質を意味してよい。同一の機能としては、糖の資化経路における同一のステップを担う(例えば触媒する)機能が挙げられる。すなわち、例えば、糖の資化能を低下させるために糖の資化経路における或るステップを担うタンパク質の活性を低下させた場合、同ステップを担うタンパク質をコードする遺伝子を第1の塩基配列として用いてよい。具体的には、例えば、糖の資化能を低下させるためにEI、HPr、EIIGlc、EIIScr、EIIFru、グルコースの非PTS取り込み系、スクロースの非PTS取り込み系、glucokinase、phosphoglucose isomerase、6-phosphofructokinase、fructose 1,6-bisphosphate aldolase、triose phosphate isomerase、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、phosphoglycerate kinase、phosphoglycerate mutase、enolase、pyruvate kinase、pyruvate dehydrogenase、sucrose-6-phosphate hydrolase、1-phosphofructokinase、invertase、および/またはfructokinaseの活性を低下させた場合、それぞれ、EI、H
Pr、EIIGlc、EIIScr、EIIFru、グルコースの非PTS取り込み系、スクロースの非PTS取り込み系、glucokinase、phosphoglucose isomerase、6-phosphofructokinase、fructose 1,6-bisphosphate aldolase、triose phosphate isomerase、glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase、phosphoglycerate kinase、phosphoglycerate mutase、enolase、pyruvate kinase、pyruvate dehydrogenase、sucrose-6-phosphate hydrolase、1-phosphofructokinase、invertase、および/またはfructokinaseをコードする遺伝子を第1の塩基配列として用いてよい。より具体的には、例えば、糖の資化能を低下させるために6-phosphofructokinaseの活性を低下させた場合、第1の塩基配列として6-phosphofructokinase遺伝子を用いてもよい。なお、糖の資化能を低下させるために2種またはそれ以上のタンパク質の活性を低下させた場合、低下した糖の資化能を所望の程度に補完できる限り、それらタンパク質から選択される1種のタンパク質と同種のタンパク質の活性を増大させてもよく、それらタンパク質から選択される2種またはそれ以上(例えば全て)のタンパク質とそれぞれ同種のタンパク質の活性を増大させてもよい。糖の資化能を低下させるために2種またはそれ以上のタンパク質の活性を低下させた場合、典型的には、それらタンパク質の全てとそれぞれ同種のタンパク質の活性を増大させてよい。
また、第1の塩基配列がコードする糖資化タンパク質(タンパク質P2)は、例えば、糖の資化能を低下させるために活性を低下させた糖資化タンパク質(タンパク質P1)と同種ではないタンパク質であってもよい。すなわち、例えば、或る糖について2種またはそれ以上の資化経路が存在する場合、それら資化経路から選択される少なくとも1種の資化経路を弱化し、それら資化経路から選択される別の少なくとも1種の資化経路を強化してもよい。すなわち、そのような別の資化経路を構成するタンパク質をコードする遺伝子を第1の塩基配列として用いてもよい。具体的には、例えば、PTSを介してグルコースを資化する微生物においてEI、HPr、および/またはEIIGlcの活性を低下させ、グルコースの非PTS取り込み系をコードする遺伝子を第1の塩基配列として用いてもよい。ここで強化される資化経路は、非改変株(すなわち、糖の資化能が低下するように改変する前の株)が本来的に有する経路であってもよく、そうでなくてもよい。
また、第1の塩基配列がコードする糖資化タンパク質(タンパク質P2)としては、例えば、糖の資化能を低下させるために活性を低下させた糖資化タンパク質(タンパク質P1)と同種であるタンパク質と同種ではないタンパク質を組み合わせて採用してもよい。
第1の塩基配列として用いる糖資化遺伝子としては、宿主で機能するタンパク質をコードするものを選択することができる。第1の塩基配列として用いる糖資化遺伝子は、例えば、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよく、それらのバリアントであってもよい。例えば、糖の資化能を低下させるために6-phosphofructokinaseの活性を低下させた場合、第1の塩基配列として、宿主由来の6-phosphofructokinase遺伝子を用いてもよく、異種由来の6-phosphofructokinase遺伝子を用いてもよく、それらのバリアントである6-phosphofructokinase遺伝子を用いてもよい。
糖資化遺伝子は、プラスミドが導入された宿主において発現可能となるようにプラスミドに搭載されていればよい。具体的には、糖資化遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するようにプラスミドに搭載されていればよい。プラスミドによる遺伝子の発現(例えば、遺伝子の取得や発現可能な構成も含む)については、「タンパク質の活性を増大させる手法」における遺伝子の導入に関する記載を準用できる。
<1−4−2>第2の塩基配列
第2の塩基配列は、目的物質の生産に有効な塩基配列である。目的物質の生産に有効な塩基配列としては、目的物質の生産を増大させる塩基配列が挙げられる。すなわち、プラスミドが第2の塩基配列を有する場合、プラスミドを微生物に導入することにより、同微
生物の目的物質生産能を向上させることができる、すなわち、同微生物による目的物質の生産を増大させることができる。また、プラスミドが第2の塩基配列を有する場合、微生物においてプラスミドが維持されることにより、プラスミドが維持されない場合と比較して、同微生物の目的物質生産能を向上させることができる、すなわち、同微生物による目的物質の生産を増大させることができる。目的物質の生産の増大としては、目的物質の生産量の増大、目的物質の生産速度の増大、目的物質の収率の増大が挙げられる。目的物質の生産量の増大としては、菌体重量当たりの目的物質の生産量の増大や、培養液量当たりの目的物質の生産量の増大が挙げられる。第2の塩基配列は、1種の目的物質生産能を向上させてもよく、2種またはそれ以上の目的物質生産能を向上させてもよい。
第2の塩基配列は、目的物質の生産に有効なものであれば、特に制限されない。第2の塩基配列は、目的物質の生産に必須であってもよく、そうでなくてもよい。すなわち、本明細書に記載の微生物は、少なくとも第2の塩基配列を有するプラスミドを有することに依拠して目的物質生産能を有していてもよい。
第2の塩基配列としては、活性の増大が目的物質の生産に有効であるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。すなわち、第2の塩基配列としては、活性の増大により目的物質生産能を付与または増強できるタンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。すなわち、第2の塩基配列としてそのような遺伝子を有するプラスミドを微生物に導入することにより、そのようなタンパク質の活性を増大させることができ、以て目的物質生産能を付与または増強することができる。そのような遺伝子およびタンパク質については、上述した通りである。すなわち、そのようなタンパク質としては、目的物質生合成酵素や、その他上述したものが挙げられる。第2の塩基配列の利用により、1種のタンパク質の活性が増大してもよく、2種またはそれ以上のタンパク質の活性が増大してもよい。すなわち、第2の塩基配列としては、1種の遺伝子(具体的には、1種のタンパク質をコードする遺伝子)を用いてもよく、2種またはそれ以上の遺伝子(具体的には、2種またはそれ以上のタンパク質をコードする遺伝子)を用いてもよい。
また、目的物質が遺伝子の発現産物(例えば、タンパク質やRNA)である場合、第2の塩基配列としては、目的物質をコードする遺伝子(目的物質遺伝子)も挙げられる。そのような遺伝子については、上述した通りである。第2の塩基配列からは、1種の目的物質が発現してもよく、2種またはそれ以上の目的物質が発現してもよい。すなわち、第2の塩基配列としては、1種の遺伝子(具体的には、1種の目的物質をコードする遺伝子)を用いてもよく、2種またはそれ以上の遺伝子(具体的には、2種またはそれ以上の目的物質をコードする遺伝子)を用いてもよい。
また、第2の塩基配列としては、活性の増大が目的物質の生産に有効であるタンパク質をコードする遺伝子と目的物質をコードする遺伝子を組み合わせて用いてもよい。また、第2の塩基配列としては、或る遺伝子について、1コピーで用いてもよく、2コピーまたはそれ以上で用いてもよい。
上記のような遺伝子は、プラスミドが導入された宿主において発現可能となるようにプラスミドに搭載されていればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するようにプラスミドに搭載されていればよい。プラスミドによる遺伝子の発現(例えば、遺伝子の取得や発現可能な構成も含む)については、「タンパク質の活性を増大させる手法」における遺伝子の導入に関する記載を準用できる。
<1−4−3>プラスミドの導入
プラスミドを微生物に導入する手法は、特に制限されない。微生物にプラスミドを導入する手法については、「タンパク質の活性を増大させる手法」における形質転換の記載を
準用できる。
<1−5>タンパク質の活性を増大させる手法
以下に、タンパク質の活性を増大させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が増大する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「タンパク質の活性が増大する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株に対して増大していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が増大するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち本明細書に記載の微生物が属する種の基準株)と比較して増大してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して増大してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して増大してもよい。なお、「タンパク質の活性が増大する」ことを、「タンパク質の活性が増強される」ともいう。「タンパク質の活性が増大する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が増加していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が増大していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が増大する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。また、「タンパク質の活性が増大する」ことには、もともと標的のタンパク質の活性を有する菌株において同タンパク質の活性を増大させることだけでなく、もともと標的のタンパク質の活性が存在しない菌株に同タンパク質の活性を付与することも包含される。また、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、宿主が本来有する標的のタンパク質の活性を低下または消失させた上で、好適な標的のタンパク質の活性を付与してもよい。
タンパク質の活性の増大の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して増大していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、非改変株が標的のタンパク質の活性を有していない場合は、同タンパク質をコードする遺伝子を導入することにより同タンパク質が生成されていればよいが、例えば、同タンパク質はその活性が測定できる程度に生産されていてよい。
タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を上昇させることによって達成できる。「遺伝子の発現が上昇する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して増大することを意味してよい。「遺伝子の発現が上昇する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が増大すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が増大することを意味してよい。なお、「遺伝子の発現が上昇する」ことを、「遺伝子の発現が増強される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。また、「遺伝子の発現が上昇する」ことには、もともと標的の遺伝子が発現している菌株において同遺伝子の発現量を上昇させることだけでなく、もともと標的の遺伝子が発現していない菌株において、同遺伝子を発現させることも包含される。すなわち、「遺伝子の発現が上昇する」とは、例えば、標的の遺伝子を保持しない菌株に同遺伝子を導入し、同遺伝子を発現させることを意味してもよい。
遺伝子の発現の上昇は、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることにより達成できる。
遺伝子のコピー数の増加は、宿主の染色体へ同遺伝子を導入することにより達成できる。染色体への遺伝子の導入は、例えば、相同組み換えを利用して行うことができる(Miller, J. H. Experiments in Molecular Genetics, 1972, Cold Spring Harbor Laboratory)。相同組み換えを利用する遺伝子導入法としては、例えば、Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))等の直鎖状DNAを用いる方法、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法、ファージを用いたtransduction法が挙げられる。遺伝子は、1コピーのみ導入されてもよく、2コピーまたはそれ以上導入されてもよい。例えば、染色体上に多数のコピーが存在する配列を標的として相同組み換えを行うことで、染色体へ遺伝子の多数のコピーを導入することができる。染色体上に多数のコピーが存在する配列としては、反復DNA配列(repetitive DNA)、トランスポゾンの両端に存在するインバーテッド・リピートが挙げられる。また、目的物質の生産に不要な遺伝子等の染色体上の適当な配列を標的として相同組み換えを行ってもよい。また、遺伝子は、トランスポゾンやMini-Muを用いて染色体上にランダムに導入することもできる(特開平2-109985号公報、US5,882,888、EP805867B1)。
染色体上に標的遺伝子が導入されたことの確認は、同遺伝子の全部又は一部と相補的な配列を持つプローブを用いたサザンハイブリダイゼーション、又は同遺伝子の配列に基づいて作成したプライマーを用いたPCR等によって確認できる。
また、遺伝子のコピー数の増加は、同遺伝子を含むベクターを宿主に導入することによっても達成できる。例えば、標的遺伝子を含むDNA断片を、宿主で機能するベクターと連結して同遺伝子の発現ベクターを構築し、当該発現ベクターで宿主を形質転換することにより、同遺伝子のコピー数を増加させることができる。標的遺伝子を含むDNA断片は、例えば、標的遺伝子を有する微生物のゲノムDNAを鋳型とするPCRにより取得できる。ベクターとしては、宿主の細胞内において自律複製可能なベクターを用いることができる。ベクターは、マルチコピーベクターであってよい。ベクターのコピー数は、例えば、5コピー/cell以上、10コピー/cell以上、20コピー/cell以上、30コピー/cell以上、50コピー/cell以上、70コピー/cell以上、100コピー/cell以上、150コピー/cell以上、200コピー/cell以上、300コピー/cell以上、500コピー/cell以上、または1000コピー/cell以上であってもよく、2000コピー/cell以下、1500コピー/cell以下、1000コピー/cell以下、500コピー/cell以下、または300コピー/cell以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。また、形質転換体を選択するために、ベクターは抗生物質耐性遺伝子などのマーカーを有していてよい。また、ベクターは、挿入された遺伝子を発現するためのプロモーターやターミネーターを備えていてもよい。ベクターは、例えば、細菌プラスミド由来のベクター、酵母プラスミド由来のベクター、バクテリオファージ由来のベクター、コスミド、またはファージミド等であってよい。エシェリヒア・コリ等の腸内細菌科の細菌において自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pUC19、pUC18、pHSG299、pHSG399、pHSG398、pBR322、pSTV29(いずれもタカラバイオ社より入手可)、pACYC184、pMW219(ニッポンジーン社)、pTrc99A(ファルマシア社)、pPROK系ベクター(クロンテック社)、pKK233‐2(クロンテック社)、pET系ベクター(ノバジェン社)、pQE系ベクター(キアゲン社)、pCold TF DNA(TaKaRa)、pACYC系ベクター、広宿主域ベクターRSF1010が挙げられる。コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pHM1519(Agr
ic. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));pAM330(Agric. Biol. Chem., 48, 2901-2903(1984));これらを改良した薬剤耐性遺伝子を有するプラスミド;pCRY30(特開平3-210184);pCRY21、pCRY2KE、pCRY2KX、pCRY31、pCRY3KE、およびpCRY3KX(特開平2-72876、米国特許5,185,262号);pCRY2およびpCRY3(特開平1-191686);pAJ655、pAJ611、およびpAJ1844(特開昭58-192900);pCG1(特開昭57-134500);pCG2(特開昭58-35197);pCG4およびpCG11(特開昭57-183799);pPK4(米国特許6,090,597号);pVK4(特開平No. 9-322774);pVK7(特開平10-215883);pVK9(WO2007/046389);pVS7(WO2013/069634);pVC7(特開平9-070291)が挙げられる。また、コリネ型細菌で自律複製可能なベクターとして、具体的には、例えば、pVC7のバリアントであるpVC7H2も挙げられる。
遺伝子を導入する場合、遺伝子は、宿主により発現可能であればよい。具体的には、遺伝子は、宿主で機能するプロモーターによる制御を受けて発現するように保持されていればよい。「宿主において機能するプロモーター」とは、宿主においてプロモーター活性を有するプロモーターを意味してよい。プロモーターは、宿主由来のプロモーターであってもよく、異種由来のプロモーターであってもよい。プロモーターは、導入する遺伝子の固有のプロモーターであってもよく、他の遺伝子のプロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、本明細書に記載するようなより強力なプロモーターを利用してもよい。
遺伝子の下流には、転写終結用のターミネーターを配置することができる。ターミネーターは、宿主において機能するものであれば特に制限されない。ターミネーターは、宿主由来のターミネーターであってもよく、異種由来のターミネーターであってもよい。ターミネーターは、導入する遺伝子の固有のターミネーターであってもよく、他の遺伝子のターミネーターであってもよい。ターミネーターとして、具体的には、例えば、T7ターミネーター、T4ターミネーター、fdファージターミネーター、tetターミネーター、およびtrpAターミネーターが挙げられる。
各種微生物において利用可能なベクター、プロモーター、ターミネーターに関しては、例えば「微生物学基礎講座8 遺伝子工学、共立出版、1987年」に詳細に記載されており、それらを利用することが可能である。
また、2またはそれ以上の遺伝子を導入する場合、各遺伝子が、発現可能に宿主に保持されていればよい。例えば、各遺伝子は、全てが単一の発現ベクター上に保持されていてもよく、全てが染色体上に保持されていてもよい。また、各遺伝子は、複数の発現ベクター上に別々に保持されていてもよく、単一または複数の発現ベクター上と染色体上とに別々に保持されていてもよい。また、2またはそれ以上の遺伝子でオペロンを構成して導入してもよい。「2またはそれ以上の遺伝子を導入する」場合、例えば、2またはそれ以上のタンパク質(例えば、酵素)をそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、単一のタンパク質複合体(例えば、酵素複合体)を構成する2またはそれ以上のサブユニットをそれぞれコードする遺伝子を導入する場合、またはそれらの組み合わせを導入してよい。
導入される遺伝子は、宿主で機能するタンパク質をコードするものであれば特に制限されない。導入される遺伝子は、宿主由来の遺伝子であってもよく、異種由来の遺伝子であってもよい。導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて設計したプライマーを用い、同遺伝子を有する生物のゲノムDNAや同遺伝子を搭載するプラスミド等を鋳型として、PCRにより取得することができる。また、導入される遺伝子は、例えば、同遺伝子の塩基配列に基づいて全合成してもよい(Gene, 60(1), 115-127 (1987))。取得した遺伝子は、そのまま、あるいは適宜改変して、利用することができる。すなわち、遺伝子を改変することにより、そのバリアントを取得することができる。遺伝子の改変は公知の手法により行うことができる。例えば、部位特異的変異法により、DNAの目的部位に
目的の変異を導入することができる。すなわち、例えば、部位特異的変異法により、コードされるタンパク質が特定の部位においてアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むように、遺伝子のコード領域を改変することができる。部位特異的変異法としては、PCRを用いる方法(Higuchi, R., 61, in PCR technology, Erlich, H. A. Eds., Stockton press (1989);Carter, P., Meth. in Enzymol., 154, 382 (1987))や、ファージを用いる方法(Kramer, W. and Frits, H. J., Meth. in Enzymol., 154, 350 (1987);Kunkel, T. A. et al., Meth. in Enzymol., 154, 367 (1987))が挙げられる。あるいは、遺伝子のバリアントを全合成してもよい。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が増大する限り、それらのサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、遺伝子の発現を上昇させることによりタンパク質の活性を増大させる場合、それらのサブユニットをそれぞれコードする遺伝子の全ての発現を増強してもよく、一部の発現のみを増強してもよい。通常は、それらのサブユニットをコードする遺伝子の全ての発現を増強するのが好ましい。また、複合体を構成する各サブユニットは、複合体が標的のタンパク質の機能を有する限り、1種の生物由来であってもよく、2種またはそれ以上の異なる生物由来であってもよい。すなわち、例えば、複数のサブユニットをコードする、同一の生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよく、それぞれ異なる生物由来の遺伝子を宿主に導入してもよい。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の転写効率を向上させることにより達成できる。また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の翻訳効率を向上させることにより達成できる。遺伝子の転写効率や翻訳効率の向上は、例えば、発現調節配列の改変により達成できる。「発現調節配列」とは、遺伝子の発現に影響する部位の総称であってよい。発現調節配列としては、例えば、プロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、およびRBSと開始コドンとの間のスペーサー領域が挙げられる。発現調節配列は、プロモーター検索ベクターやGENETYX等の遺伝子解析ソフトを用いて決定することができる。これら発現調節配列の改変は、例えば、温度感受性ベクターを用いた方法や、Redドリブンインテグレーション法(WO2005/010175)により行うことができる。
遺伝子の転写効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより強力なプロモーターに置換することにより達成できる。「より強力なプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも向上するプロモーターを意味してよい。より強力なプロモーターとしては、例えば、公知の高発現プロモーターであるT7プロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、thrプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、tetプロモーター、araBADプロモーター、rpoHプロモーター、msrAプロモーター、Bifidobacterium由来のPm1プロモーター、PRプロモーター、およびPLプロモーターが挙げられる。また、コリネ型細菌で利用できるより強力なプロモーターとしては、例えば、人為的に設計変更されたP54-6プロモーター(Appl. Microbiol. Biotechnol., 53, 674-679(2000))、コリネ型細菌内で酢酸、エタノール、ピルビン酸等で誘導できるpta、aceA、aceB、adh、amyEプロモーター、コリネ型細菌内で発現量が多い強力なプロモーターであるcspB、SOD、tuf(EF-Tu)プロモーター(Journal of Biotechnology 104 (2003) 311-323, Appl Environ Microbiol. 2005 Dec;71(12):8587-96.)、P2プロモーター(WO2018/079684)、P3プロモーター(WO2018/079684)、lacプロモーター、tacプロモーター、trcプロモーター、F1プロモーターが挙げられる。また、より強力なプロモーターとしては、各種レポーター遺伝子を用いることにより、在来のプロモーターの高活性型のものを取得してもよい。例えば、プロモーター領域内の-35、-10領域をコンセンサス配列に近づけることにより、プロモーターの活性を高めることができる(国際公開第00/18935号)。高活性型プロモーターとしては、各種tac様プロモーター(Katashkina JI et
al. Russian Federation Patent application 2006134574)が挙げられる。プロモーターの強度の評価法および強力なプロモーターの例は、Goldsteinらの論文(Prokaryotic promoters in biotechnology. Biotechnol. Annu. Rev., 1, 105-128 (1995))等に記載されている。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、染色体上の遺伝子のシャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)をより強力なSD配列に置換することにより達成できる。「より強力なSD配列」とは、mRNAの翻訳が、もともと存在している野生型のSD配列よりも向上するSD配列を意味してよい。より強力なSD配列としては、例えば、ファージT7由来の遺伝子10のRBSが挙げられる(Olins P. O. et al, Gene,
1988, 73, 227-235)。さらに、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域、特に開始コドンのすぐ上流の配列(5’-UTR)における数個のヌクレオチドの置換、あるいは挿入、あるいは欠失がmRNAの安定性および翻訳効率に非常に影響を及ぼすことが知られており、これらを改変することによっても遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。
遺伝子の翻訳効率の向上は、例えば、コドンの改変によっても達成できる。例えば、遺伝子中に存在するレアコドンを、より高頻度で利用される同義コドンに置き換えることにより、遺伝子の翻訳効率を向上させることができる。すなわち、導入される遺伝子は、例えば、使用する宿主のコドン使用頻度に応じて最適なコドンを有するように改変されてよい。コドンの置換は、例えば、DNAの目的部位に目的の変異を導入する部位特異的変異法により行うことができる。また、コドンが置換された遺伝子断片を全合成してもよい。種々の生物におけるコドンの使用頻度は、「コドン使用データベース」(http://www.kazusa.or.jp/codon; Nakamura, Y. et al, Nucl. Acids Res., 28, 292 (2000))に開示されている。
また、遺伝子の発現の上昇は、遺伝子の発現を上昇させるようなレギュレーターを増幅すること、または、遺伝子の発現を低下させるようなレギュレーターを欠失または弱化させることによっても達成できる。
上記のような遺伝子の発現を上昇させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
また、タンパク質の活性が増大するような改変は、例えば、タンパク質の比活性を増強することによっても達成できる。比活性の増強には、フィードバック阻害の脱感作(desensitization to feedback inhibition)も包含されてよい。すなわち、タンパク質が代謝物によるフィードバック阻害を受ける場合は、フィードバック阻害が脱感作されるよう遺伝子またはタンパク質を宿主において変異させることにより、タンパク質の活性を増大させることができる。なお、「フィードバック阻害の脱感作」には、特記しない限り、フィードバック阻害が完全に解除される場合、および、フィードバック阻害が低減される場合が包含されてよい。また、「フィードバック阻害が脱感作されている」(すなわちフィードバック阻害が低減又は解除されている)ことを「フィードバック阻害に耐性」ともいう。比活性が増強されたタンパク質は、例えば、種々の生物を探索し取得することができる。また、在来のタンパク質に変異を導入することで高活性型のものを取得してもよい。導入される変異は、例えば、タンパク質の1若しくは数個の位置での1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、及び/又は付加されるものであってよい。変異の導入は、例えば、上述したような部位特異的変異法により行うことができる。また、変異の導入は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。また、in vitroでDNAを直接ヒドロキシルアミンで処理し、
ランダム変異を誘発してもよい。比活性の増強は、単独で用いてもよく、上記のような遺伝子の発現を増強する手法と任意に組み合わせて用いてもよい。
形質転換の方法は特に限定されず、従来知られた方法を用いることができる。例えば、エシェリヒア・コリ K-12について報告されているような、受容菌細胞を塩化カルシウムで処理してDNAの透過性を増す方法(Mandel, M. and Higa, A., J. Mol. Biol. 1970, 53, 159-162)や、バチルス・ズブチリスについて報告されているような、増殖段階の細胞からコンピテントセルを調製してDNAを導入する方法(Duncan, C. H., Wilson, G. A. and Young, F. E., 1997. Gene 1: 153-167)を用いることができる。あるいは、バチルス・ズブチリス、放線菌類、及び酵母について知られているような、DNA受容菌の細胞を、組換えDNAを容易に取り込むプロトプラストまたはスフェロプラストの状態にして組換えDNAをDNA受容菌に導入する方法(Chang, S. and Choen, S. N., 1979. Mol. Gen. Genet. 168: 111-115; Bibb, M. J., Ward, J. M. and Hopwood, O. A. 1978. Nature 274: 398-400; Hinnen, A., Hicks, J. B. and Fink, G. R. 1978. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 75: 1929-1933)も応用できる。あるいは、コリネ型細菌について報告されているような、電気パルス法(特開平2-207791)を利用することもできる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が増大したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が上昇したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が上昇したことは、同遺伝子の転写量が上昇したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が上昇したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が上昇したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を野生株または親株等の非改変株と比較することによって行うことができる。mRNAの量を評価する方法としてはノーザンハイブリダイゼーション、RT-PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Sambrook, J., et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual/Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001)。mRNAの量は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
タンパク質の量が上昇したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことができる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、1.2倍以上、1.5倍以上、2倍以上、または3倍以上に上昇してよい。
上記したタンパク質の活性を増大させる手法は、任意のタンパク質の活性増強や任意の遺伝子の発現増強に利用できる。
<1−6>タンパク質の活性を低下させる手法
以下に、タンパク質の活性を低下させる手法について説明する。
「タンパク質の活性が低下する」とは、同タンパク質の活性が非改変株と比較して低下することを意味してよい。「タンパク質の活性が低下する」とは、具体的には、同タンパク質の細胞当たりの活性が非改変株と比較して減少していることを意味してよい。ここでいう「非改変株」とは、標的のタンパク質の活性が低下するように改変されていない対照株を意味してよい。非改変株としては、野生株や親株が挙げられる。非改変株として、具
体的には、各微生物種の基準株(type strain)が挙げられる。また、非改変株として、具体的には、微生物の説明において例示した菌株も挙げられる。すなわち、一態様において、タンパク質の活性は、基準株(すなわち本明細書に記載の微生物が属する種の基準株)と比較して低下してよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13869株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、C. glutamicum ATCC 13032株と比較して低下してもよい。また、別の態様において、タンパク質の活性は、E. coli K-12 MG1655株と比較して低下してもよい。なお、「タンパク質の活性が低下する」ことには、同タンパク質の活性が完全に消失している場合も包含されてよい。「タンパク質の活性が低下する」とは、より具体的には、非改変株と比較して、同タンパク質の細胞当たりの分子数が低下していること、および/または、同タンパク質の分子当たりの機能が低下していることを意味してよい。すなわち、「タンパク質の活性が低下する」という場合の「活性」とは、タンパク質の触媒活性に限られず、タンパク質をコードする遺伝子の転写量(mRNA量)または翻訳量(タンパク質の量)を意味してもよい。なお、「タンパク質の細胞当たりの分子数が低下している」ことには、同タンパク質が全く存在していない場合も包含されてよい。また、「タンパク質の分子当たりの機能が低下している」ことには、同タンパク質の分子当たりの機能が完全に消失している場合も包含されてよい。タンパク質の活性の低下の程度は、タンパク質の活性が非改変株と比較して低下していれば特に制限されない。タンパク質の活性は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより達成できる。「遺伝子の発現が低下する」とは、同遺伝子の発現が野生株や親株等の非改変株と比較して低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、具体的には、同遺伝子の細胞当たりの発現量が非改変株と比較して減少することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」とは、より具体的には、遺伝子の転写量(mRNA量)が低下すること、および/または、遺伝子の翻訳量(タンパク質の量)が低下することを意味してよい。「遺伝子の発現が低下する」ことには、同遺伝子が全く発現していない場合も包含されてよい。なお、「遺伝子の発現が低下する」ことを、「遺伝子の発現が弱化される」ともいう。遺伝子の発現は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子の発現の低下は、例えば、転写効率の低下によるものであってもよく、翻訳効率の低下によるものであってもよく、それらの組み合わせによるものであってもよい。遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のプロモーター、シャインダルガノ(SD)配列(リボソーム結合部位(RBS)ともいう)、RBSと開始コドンとの間のスペーサー領域等の発現調節配列を改変することにより達成できる。発現調節配列を改変する場合には、発現調節配列は、1塩基以上、2塩基以上、または3塩基以上が改変される。遺伝子の転写効率の低下は、例えば、染色体上の遺伝子のプロモーターをより弱いプロモーターに置換することにより達成できる。「より弱いプロモーター」とは、遺伝子の転写が、もともと存在している野生型のプロモーターよりも弱化するプロモーターを意味してよい。より弱いプロモーターとしては、例えば、誘導型のプロモーターが挙げられる。より弱いプロモーターとしては、例えば、P4プロモーター(WO2018/079684)やP8プロモーター(WO2018/079684)も挙げられる。すなわち、誘導型のプロモーターは、非誘導条件下(例えば、誘導物質の非存在下)でより弱いプロモーターとして機能し得る。また、発現調節配列の一部または全部を欠失させてもよい。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、発現制御に関わる因子を操作することによっても達成できる。発現制御に関わる因子としては、転写や翻訳制御に関わる低分子(誘導物質、阻害物質など)、タンパク質(転写因子など)、核酸(siRNAなど)等が挙げられる。また、遺伝子の発現の低下は、例えば、遺伝子のコード領域に遺伝子の発現が低下するような変異を導入することによっても達成できる。例えば、遺伝子のコード領域のコドンを、宿主においてより低頻度で利用される同義コドンに
置き換えることによって、遺伝子の発現を低下させることができる。また、例えば、本明細書に記載するような遺伝子の破壊により、遺伝子の発現自体が低下し得る。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、同タンパク質をコードする遺伝子を破壊することにより達成できる。「遺伝子が破壊される」とは、正常に機能するタンパク質を産生しないように同遺伝子が改変されることを意味してよい。「正常に機能するタンパク質を産生しない」ことには、同遺伝子からタンパク質が全く産生されない場合や、同遺伝子から分子当たりの機能(例えば、活性や性質)が低下又は消失したタンパク質が産生される場合も包含されてよい。
遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子を欠失(欠損)させることにより達成できる。「遺伝子の欠失」とは、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域の欠失を意味してよい。さらには、染色体上の遺伝子のコード領域の前後の配列を含めて、遺伝子全体を欠失させてもよい。タンパク質の活性の低下が達成できる限り、欠失させる領域は、N末端領域(すなわちタンパク質のN末端側をコードする領域)、内部領域、C末端領域(すなわちタンパク質のC末端側をコードする領域)等のいずれの領域であってもよい。通常、欠失させる領域は長い方が確実に遺伝子を不活化し得る。欠失させる領域は、例えば、遺伝子のコード領域全長の10%以上、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、または95%以上の長さの領域であってよい。また、欠失させる領域の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、欠失させる領域の下流でフレームシフトが生じ得る。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域にアミノ酸置換(ミスセンス変異)を導入すること、終止コドン(ナンセンス変異)を導入すること、または1〜2塩基の付加または欠失(フレームシフト変異)を導入すること等によっても達成できる(Journal of Biological Chemistry 272:8611-8617(1997), Proceedings of the National Academy of Sciences, USA 95 5511-5515(1998), Journal of Biological Chemistry 26 116, 20833-20839(1991))。
また、遺伝子の破壊は、例えば、染色体上の遺伝子のコード領域に他の塩基配列を挿入することによっても達成できる。挿入部位は遺伝子のいずれの領域であってもよいが、挿入する塩基配列は長い方が確実に遺伝子を不活化し得る。また、挿入部位の前後の配列は、リーディングフレームが一致しないことが好ましい。リーディングフレームの不一致により、挿入部位の下流でフレームシフトが生じ得る。他の塩基配列としては、コードされるタンパク質の活性を低下又は消失させるものであれば特に制限されないが、例えば、抗生物質耐性遺伝子等のマーカー遺伝子や目的物質の生産に有用な遺伝子が挙げられる。
遺伝子の破壊は、特に、コードされるタンパク質のアミノ酸配列が欠失(欠損)するように実施してよい。言い換えると、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、タンパク質のアミノ酸配列(アミノ酸配列の一部または全部の領域)を欠失させることにより、具体的には、アミノ酸配列(アミノ酸配列の一部または全部の領域)を欠失したタンパク質をコードするように遺伝子を改変することにより、達成できる。なお、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の領域の欠失を意味してよい。また、「タンパク質のアミノ酸配列の欠失」とは、タンパク質において元のアミノ酸配列が存在しなくなることを意味してよく、元のアミノ酸配列が別のアミノ酸配列に変化する場合も包含されてよい。すなわち、例えば、フレームシフトにより別のアミノ酸配列に変化した領域は、欠失した領域とみなしてよい。アミノ酸配列の欠失により、典型的にはタンパク質の全長が短縮されるが、タンパク質の全長が変化しないか、あるいは延長される場合もあり得る。例えば、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領
域の欠失により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該欠失した領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域への終止コドンの導入により、コードされるタンパク質のアミノ酸配列において、当該導入部位より下流の領域がコードする領域を欠失させることができる。また、例えば、遺伝子のコード領域におけるフレームシフトにより、当該フレームシフト部位がコードする領域を欠失させることができる。アミノ酸配列の欠失における欠失させる領域の位置および長さについては、遺伝子の欠失における欠失させる領域の位置および長さの説明を準用できる。
染色体上の遺伝子を上記のように改変することは、例えば、正常に機能するタンパク質を産生しないように改変した破壊型遺伝子を作製し、該破壊型遺伝子を含む組換えDNAで宿主を形質転換して、破壊型遺伝子と染色体上の野生型遺伝子とで相同組換えを起こさせることにより、染色体上の野生型遺伝子を破壊型遺伝子に置換することによって達成できる。その際、組換えDNAには、宿主の栄養要求性等の形質にしたがって、マーカー遺伝子を含ませておくと操作がしやすい。破壊型遺伝子としては、遺伝子のコード領域の一部又は全部の領域を欠失した遺伝子、ミスセンス変異を導入した遺伝子、ナンセンス変異を導入した遺伝子、フレームシフト変異を導入した遺伝子、トランスポゾンやマーカー遺伝子が挿入された遺伝子が挙げられる。破壊型遺伝子によってコードされるタンパク質は、生成したとしても、野生型タンパク質とは異なる立体構造を有し、機能が低下又は消失する。このような相同組換えを利用した遺伝子置換による遺伝子破壊は既に確立しており、「Redドリブンインテグレーション(Red-driven integration)」と呼ばれる方法(Datsenko, K. A, and Wanner, B. L. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 97:6640-6645 (2000))、Redドリブンインテグレーション法とλファージ由来の切り出しシステム(Cho, E. H., Gumport, R. I., Gardner, J. F. J. Bacteriol. 184: 5200-5203 (2002))とを組み合わせた方法(WO2005/010175号参照)等の直鎖状DNAを用いる方法や、温度感受性複製起点を含むプラスミドを用いる方法、接合伝達可能なプラスミドを用いる方法、宿主内で機能する複製起点を持たないスイサイドベクターを用いる方法などがある(米国特許第6303383号、特開平05-007491号)。
また、タンパク質の活性が低下するような改変は、例えば、突然変異処理により行ってもよい。突然変異処理としては、X線の照射、紫外線の照射、ならびにN−メチル−N'−ニトロ−N−ニトロソグアニジン(MNNG)、エチルメタンスルフォネート(EMS)、およびメチルメタンスルフォネート(MMS)等の変異剤による処理が挙げられる。
なお、タンパク質が複数のサブユニットからなる複合体として機能する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それらのサブユニットの全てを改変してもよく、一部のみを改変してもよい。すなわち、例えば、それらのサブユニットをそれぞれコードする遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。また、タンパク質に複数のアイソザイムが存在する場合、結果としてタンパク質の活性が低下する限り、それらのアイソザイムの全ての活性を低下させてもよく、一部のみの活性を低下させてもよい。すなわち、例えば、それらのアイソザイムをそれぞれコードする遺伝子の全てを破壊等してもよく、一部のみを破壊等してもよい。
上記のようなタンパク質の活性を低下させる手法は、単独で用いてもよく、任意の組み合わせで用いてもよい。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質の活性を測定することで確認できる。
タンパク質の活性が低下したことは、同タンパク質をコードする遺伝子の発現が低下したことを確認することによっても、確認できる。遺伝子の発現が低下したことは、同遺伝
子の転写量が低下したことを確認することや、同遺伝子から発現するタンパク質の量が低下したことを確認することにより確認できる。
遺伝子の転写量が低下したことの確認は、同遺伝子から転写されるmRNAの量を非改変株と比較することによって行うことが出来る。mRNAの量を評価する方法としては、ノーザンハイブリダイゼーション、RT−PCR、マイクロアレイ、RNA-seq等が挙げられる(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。mRNAの量は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
タンパク質の量が低下したことの確認は、抗体を用いてウェスタンブロットによって行うことが出来る(Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor (USA), 2001))。タンパク質の量(例えば、細胞当たりの分子数)は、例えば、非改変株の、50%以下、20%以下、10%以下、5%以下、または0%に低下してよい。
遺伝子が破壊されたことは、破壊に用いた手段に応じて、同遺伝子の一部または全部の塩基配列、制限酵素地図、または全長等を決定することで確認できる。
上記したタンパク質の活性を低下させる手法は、任意のタンパク質の活性低下や任意の遺伝子の発現低下に利用できる。
<2>プラスミドを維持する方法
本明細書に記載の方法は、糖を選択圧として微生物においてプラスミドを維持する方法である。本明細書に記載の方法は、具体的には、糖を含有する培地で本明細書に記載の微生物を培養する工程を含む、微生物においてプラスミドを維持する方法であってよい。同工程を、「培養工程」ともいう。
本明細書に記載の方法は、任意の目的の培養に適用することができる。培養の目的は、特に制限されない。培養の目的としては、微生物の継代培養、微生物菌体の製造、目的物質の製造が挙げられる。
使用する培地は、糖を含有し、微生物が増殖でき、プラスミドが維持される限り、特に制限されない。また、特定の目的のために培養を実施する場合、使用する培地は、当該目的が達成されるように設定できる。培地としては、例えば、液体培地または固体培地を用いることができる。培地として、具体的には、例えば、糖を含有すること以外は、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の培地をそのまま、あるいは適宜改変して用いることができる。培地は、糖に加えて、炭素源、窒素源、リン酸源、硫黄源、その他の各種有機成分や無機成分等の培地成分を必要に応じて含有してよい。培地成分の種類や濃度は、使用する微生物の種類や培養の目的等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
選択圧として用いる糖は、特に制限されない。糖としては、グルコース、フルクトース、スクロース、ラクトース、ガラクトース、キシロース、アラビノースが挙げられる。糖としては、特に、グルコースやスクロースが挙げられる。糖として、さらに特には、グルコースが挙げられる。選択圧としては、1種の糖を用いてもよく、2種またはそれ以上の糖を組み合わせて用いてもよい。
糖は、炭素源として用いられる。糖は、唯一炭素源(sole carbon source)として用いられてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、糖に加えて、他の炭素源を併用してもよい。他の炭素源は、微生物が資化できる限り、特に制限されない。他の炭素源としては、
酢酸、フマル酸、クエン酸、コハク酸等の有機酸類、グリセロールやエタノール等のアルコール類、脂肪酸類が挙げられる。また、他の炭素源としては、選択圧として採用しなかった糖も挙げられる。なお、単に「糖」と記載する場合、選択圧として採用した糖を意味するものとする。他の炭素源としては、1種の炭素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の炭素源を組み合わせて用いてもよい。他の炭素源を併用する場合、総炭素源に対する糖の比率は、プラスミドを維持できる限り、特に制限されない。総炭素源に対する糖の比率は、例えば、重量比で、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上であってよい。例えば、初発培地における総炭素源に対する糖の比率を、上記例示した範囲に設定してよい。また、例えば、流加培地における総炭素源に対する糖の比率を、上記例示した範囲に設定してよい。
糖としては、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、そうでなくてもよい。糖としては、例えば、糖を含有する混合物を用いてもよい。例えば、糖を含有する混合物としては、廃糖蜜、澱粉の加水分解物、バイオマスの加水分解物が挙げられる。混合物は、例えば、糖と他の炭素源を含有する混合物であってもよい。すなわち、糖と他の炭素源は、例えば、そのような混合物の形態で併用されてもよい。
糖は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「糖を含有する培地で微生物を培養する」とは、糖が培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。糖が培地に含有されている期間は、プラスミドを維持できる限り、特に制限されない。糖が培地に含有されている期間は、例えば、培養の全期間の内の、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上の期間であってよい。例えば、糖は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。プラスミドを確実に維持するために、糖は、通常、培養開始時から培地に含有されていてよい。糖が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に糖を添加する。添加のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。また、糖は、例えば、少なくとも、微生物が所望の程度に生育するまで培地に含有されていてよい。糖は、具体的には、例えば、少なくとも、対数増殖期の終了時まで培地に含有されていてよい。また、培養により目的物質を製造する場合、糖は、例えば、少なくとも、目的物質が所望の程度に生産されるまで培地に含有されていてもよい。いずれの場合にも、適宜、培地に糖を添加してよい。例えば、培養の進行に伴う糖の減少または枯渇に応じて培地に糖を添加してもよい。糖を培地に添加する手段は特に制限されない。例えば、糖を含有する流加培地を培地に流加することにより、糖を培地に添加することができる。糖が培地に含有されていない期間においては、例えば、他の炭素源が培地に含有されていてよい。すなわち、培養は、炭素源が枯渇しないように、あるいは炭素源が枯渇した状態が継続しないように、実施してよい。培地中の糖の濃度は、プラスミドを維持できる限り、特に制限されない。培地中の糖の濃度は、例えば、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、20 g/L以上、50 g/L以上、または100 g/L以上であってもよく、300 g/L以下、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの矛盾しない組み合わせであってもよい。培地中の糖の濃度は、具体的には、例えば、50〜300 g/L、または100〜200 g/Lであってもよい。糖は、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。糖は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に添加されてもよい。また、糖は、例えば、上記例示した期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよい。糖の濃度は、例えば、糖を唯一炭素源として用いる場合に、上記例示した範囲に設定されてよい。また、糖の濃度は、例えば、糖と他の炭素源を併用する場合に、上記例示した範囲に設定されてよい。なお、前培養後に本培養が実施される場合、糖は、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または
本培養の一部の期間に、培地に含有されていればよい。すなわち、糖は、前培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば、「培養期間(培養の期間)」や「培養開始」)は、本培養についてのものとして読み替えることができる。
窒素源として、具体的には、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩、ペプトン、酵母エキス、肉エキス、大豆タンパク質分解物等の有機窒素源、アンモニア、ウレアが挙げられる。pH調整に用いられるアンモニアガスやアンモニア水を窒素源として利用してもよい。窒素源としては、1種の窒素源を用いてもよく、2種またはそれ以上の窒素源を組み合わせて用いてもよい。
リン酸源として、具体的には、例えば、リン酸2水素カリウム、リン酸水素2カリウム等のリン酸塩、ピロリン酸等のリン酸ポリマーが挙げられる。リン酸源としては、1種のリン酸源を用いてもよく、2種またはそれ以上のリン酸源を組み合わせて用いてもよい。
硫黄源として、具体的には、例えば、硫酸塩、チオ硫酸塩、亜硫酸塩等の無機硫黄化合物、システイン、シスチン、グルタチオン等の含硫アミノ酸が挙げられる。硫黄源としては、1種の硫黄源を用いてもよく、2種またはそれ以上の硫黄源を組み合わせて用いてもよい。
その他の各種有機成分や無機成分として、具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類;鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム等の微量金属類;ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ビタミンB12等のビタミン類;アミノ酸類;核酸類;これらを含有するペプトン、カザミノ酸、酵母エキス、大豆タンパク質分解物等の有機成分が挙げられる。その他の各種有機成分や無機成分としては、1種の成分を用いてもよく、2種またはそれ以上の成分を組み合わせて用いてもよい。
また、生育にアミノ酸等の栄養素を要求する栄養要求性変異株を使用する場合には、培地は、好ましくは、そのような栄養素を含有していてよい。
また、培地は、培養の目的等の諸条件に応じて、適当な成分を含有していてよい。培地は、例えば、目的物質の生産に利用される成分を含有していてよい。そのような成分として、具体的には、例えば、メチル基供与体(例えば、SAM)やそれらの前駆体(例えば、メチオニン)が挙げられる。また、そのような成分として、具体的には、例えば、目的物質の前駆体も挙げられる。
本明細書に記載の方法においては、糖を選択圧とすることにより、他の選択圧なしにプラスミドを維持することができる。しかしながら、このことは、他の選択圧の使用を排除するものではない。すなわち、培地は、例えば、糖以外の選択圧として機能する成分を含有していてもよく、いなくてもよい。糖以外の選択圧として機能する成分としては、抗生物質が挙げられる。糖以外の選択圧として機能する成分としては、具体的には、本明細書に記載のプラスミドが抗生物質耐性遺伝子を有する場合における、同遺伝子により耐性となる抗生物質が挙げられる。通常、培地は、糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しなくてよい。培地は、例えば、培養の全期間において、糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しなくてよい。「培地が糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しない」とは、例えば、培地における当該成分の濃度が、当該成分を単独で選択圧とした場合にプラスミドを維持できない濃度であることを意味してよい。「培地が糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しない」とは、具体的には、例えば、培地における当該成分の濃度が、プラスミドの維持に通常使用される濃度の1/10以下
、1/100以下、1/1000以下、または1/10000以下であることを意味してもよい。また、「培地が糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しない」とは、具体的には、例えば、培地における当該成分の濃度が、10mg/L以下、1mg/L以下、0.1mg/L以下、0.01mg/L以下、または0.001mg/L以下であることを意味してもよい。「培地が糖以外の選択圧として機能する成分を実質的に含有しない」ことには、培地が当該成分を全く含有しない場合も包含される。他の選択圧の使用の有無によらず、糖は、単独で選択圧とした場合にプラスミドを維持できる態様(たとえば、濃度や期間)で使用されればよい。また、微生物が他のプラスミド(すなわち、本明細書に記載のプラスミド以外のプラスミド)を有する場合、同プラスミドの維持のために選択圧として機能する成分を使用してもよい。
培養条件は、微生物が増殖でき、プラスミドが維持される限り、特に制限されない。また、特定の目的のために培養を実施する場合、培養条件は、当該目的が達成されるように設定できる。培養は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件で行うことができる。培養条件は、使用する微生物の種類や培養の目的等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
培養は、適当な培養容器を用いて実施することができる。培養容器としては、シャーレ、マルチウェルプレート、マイクロチューブ、試験管、フラスコ、ジャーファーメンターが挙げられる。
培養の際には、まず、微生物を培地に植菌することができる。微生物は、例えば、乾燥菌体やグリセロールストック等の保存品から培地に接種してもよく、予備的に培養したものを培地に接種してもよい。このような予備的な培養を、「前培養」ともいう。また、前培養後の培養を、「本培養」ともいう。このような場合、本明細書に記載の方法における「培養」とは、本培養を意味するものとする。前培養と本培養の培養条件は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、本培養を液体培地で実施する場合、微生物を寒天培地等の固体培地で前培養したものを液体培地に接種してもよく、微生物を液体培地で前培養したものを本培養用の液体培地に接種してもよい。微生物の植菌量は、特に制限されない。例えば、OD660=4〜100の前培養液を、培養開始時に、本培養用の培地に対して0.1質量%〜100質量%、または1質量%〜50質量%、植菌してよい。
培養は、回分培養(batch culture)、流加培養(Fed-batch culture)、連続培養(continuous culture)、またはそれらの組み合わせにより実施することができる。流加培養または連続培養は、特に、液体培地を用いて実施することができる。なお、培養開始時の培地を、「初発培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系(例えば、発酵槽)に添加する培地を、「流加培地」ともいう。また、流加培養または連続培養において培養系に流加培地を添加することを、「流加」ともいう。なお、前培養後に本培養が実施される場合、前培養と本培養の培養形態は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。例えば、前培養と本培養を共に回分培養で実施してもよく、前培養を回分培養で実施し、本培養を流加培養または連続培養で実施してもよい。
糖等の各種成分は、初発培地、流加培地、またはその両方に含有されていてよい。すなわち、培養の過程において、糖等の各種成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、培地に添加してもよい。これらの成分は、いずれも、1回または複数回添加されてもよく、連続的に添加されてもよい。初発培地に含有される成分の種類は、流加培地に含有される成分の種類と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、初発培地に含有される各成分の濃度は、流加培地に含有される各成分の濃度と、同一であってもよく、そうでなくてもよい。また、含有する成分の種類および/または濃度の異なる2種またはそれ以上の流加培地を用いてもよい。例えば、複数回の流加が間欠的に行われる場合、各流加培地
に含有される成分の種類および/または濃度は、同一であってもよく、そうでなくてもよい。
培養は、例えば、好気条件、微好気条件、または嫌気条件で実施してよい。培養は、特に、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、培地中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上、または1.5ppm以上である条件を意味してよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1〜50%、または5%程度に制御されてよい。培養は、例えば、通気培養または振盪培養で行うことができる。培地のpHは、例えば、pH 3〜10、またはpH 4.0〜9.5であってよい。培養中、必要に応じて培地のpHを調整することができる。培地のpHは、アンモニアガス、アンモニア水、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等の各種アルカリ性または酸性物質を用いて調整することができる。培養温度は、例えば、20〜45℃、または25℃〜37℃であってよい。培養期間は、例えば、10時間〜120時間であってよい。培養は、例えば、培地中の炭素源(特に糖)が消費されるまで、あるいは微生物の活性がなくなるまで、継続してもよい。また、培養は、例えば、所望の程度に微生物が生育するまで継続してもよい。また、培養により目的物質を製造する場合、培養は、例えば、目的物質が所望の程度に生産されるまで継続してもよい。
培地中に存在する各種成分の濃度は、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により決定することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NMRが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。これらの手法は、後述する目的物質の製造方法において目的物質の生成を確認するためにも用いることができる。
このようにして培養工程を実施することにより、プラスミドを保持したまま微生物が生育する。言い換えると、このようにして培養工程を実施することにより、プラスミドを有する菌体が生成する。すなわち、培養工程は、糖を含有する培地で本明細書に記載の微生物を培養してプラスミドを有する菌体を生成する工程であってもよい。同工程を、「菌体生成工程」ともいう。すなわち、本明細書に記載の方法を利用してプラスミドを有する微生物菌体を製造することもできる。すなわち、本明細書に記載の方法の一態様は、プラスミドを有する微生物菌体の製造方法であってもよい。本明細書に記載の方法の一態様は、具体的には、菌体生成工程を含む、プラスミドを有する微生物菌体の製造方法であってよい。生成した菌体は、適宜回収することができる。すなわち、本明細書に記載の方法は、さらに、菌体を回収する工程を含んでいてもよい。
本明細書に記載の方法は、単独で実施されてもよく、そうでなくてもよい。すなわち、複数回の培養を実施する場合、本明細書に記載の方法は、例えば、複数回の培養の内のいずれかの培養に適用されてよい。その場合、複数回の培養の内の残りの培養には、本明細書に記載の方法を適用してもよく、しなくてもよい。言い換えると、本明細書に記載の方法は、例えば、複数回の培養の内の1回またはそれ以上の培養に適用されてよい。具体的には、例えば、本明細書に記載の方法における培養(本培養)の前に前培養が実施される場合、前培養には、本明細書に記載の方法を適用してもよく、しなくてもよい。本明細書に記載の方法が複数回の培養の内の1回またはそれ以上の培養に適用される場合、本明細書に記載の方法の実施態様は、各回の培養についてそれぞれ独立に設定することができる。本明細書に記載の方法を適用しない培養の際には、例えば、他の選択圧を使用することによりプラスミドを維持してよい。
<3>目的物質の製造方法
本明細書に記載の微生物が目的物質生産能を有する場合、本明細書に記載の方法を利用して目的物質を製造することができる。すなわち、本明細書に記載の方法の一態様は、目
的物質の製造方法である。
具体的には、上述したプラスミドを維持する方法に従って培養を実施することにより、または上述したプラスミドを維持する方法に従って培養を実施することにより得られる菌体を利用することにより、目的物質を製造することができる。すなわち、目的物質の製造方法の一態様は、糖を含有する培地で微生物を培養して目的物質を生成する工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。また、目的物質の製造方法の一態様は、糖を含有する培地で微生物を培養してプラスミドを有する菌体を生成する工程、および前記菌体を利用して前記目的物質を生成する工程を含む、目的物質の製造方法であってもよい。目的物質は、例えば、糖および/または該目的物質の前駆体から製造することができる。すなわち、目的物質の製造方法においては、例えば、糖をプラスミドの維持および目的物質の生産の両方に利用してもよい。また、目的物質の製造方法においては、例えば、糖をプラスミドの維持に利用し、目的物質の前駆体を目的物質の生産に利用してもよい。いずれの場合も、培養の際に微生物においてプラスミドが維持されることにより、プラスミドが(具体的には、プラスミドに搭載された第2の塩基配列が)目的物質の生産に寄与してよい。
<3−1>発酵法
目的物質は、例えば、本明細書に記載の微生物を利用した発酵により製造することができる。すなわち、目的物質の製造方法の一態様は、微生物を利用した発酵による目的物質の製造方法であってよい。この態様を、「発酵法」ともいう。また、微生物を利用した発酵により目的物質を製造する工程を、「発酵工程」ともいう。すなわち、発酵法は、発酵工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。
発酵工程は、上述したプラスミドを維持する方法に従って本明細書に記載の微生物を培養することにより実施できる。具体的には、発酵工程において、目的物質は、糖から製造することができる。すなわち、発酵工程は、例えば、糖を含有する培地で微生物を培養して目的物質を生成する工程であってよい。発酵工程は、特に、糖を含有する培地で微生物を培養して糖から目的物質を生成する工程であってよい。すなわち、発酵法は、例えば、糖を含有する培地で微生物を培養して目的物質を生成する工程、特に、糖を含有する培地で微生物を培養して糖から目的物質を生成する工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。発酵工程は、具体的には、糖を含有する培地で微生物を培養し、目的物質を培養液中(例えば、培地中、菌体表層、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に生成蓄積する工程であってもよい。また、言い換えると、発酵工程は、例えば、微生物を利用して糖から目的物質を製造する工程であってよい。
発酵法における培養については、発酵法においては目的物質が生産されること以外は、上述したプラスミドを維持する方法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。すなわち、使用する培地は、糖を含有し、プラスミドを保持したまま微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養条件は、プラスミドを保持したまま微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。発酵法における培養は、例えば、液体培地を用いて実施してよい。また、発酵法における培養は、例えば、好気条件で実施してよい。なお、前培養後に本培養が実施される場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。
このような条件下で微生物を培養することにより、目的物質が生成する、すなわち、目的物質を含有する培養液が得られる。目的物質は、具体的には、例えば、培地中、菌体表層、菌体内、またはそれらの組み合わせに蓄積してよい。
目的物質が生成したことは、化合物の検出または同定に用いられる公知の手法により確認することができる。そのような手法としては、例えば、HPLC、UPLC、LC/MS、GC/MS、NM
Rが挙げられる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。これらの手法は、培地中に存在する各種成分の濃度を決定するためにも用いることができる。
生成した目的物質は、適宜回収することができる。すなわち、発酵法は、さらに、目的物質を回収する工程を含んでいてよい。同工程を、「回収工程」ともいう。回収工程は、培養液から、具体的には培地、菌体表層、菌体、またはそれらの組み合わせから、目的物質を回収する工程であってよい。目的物質の回収は、化合物の分離精製に用いられる公知の手法により行うことができる。そのような手法としては、例えば、イオン交換樹脂法、膜処理法、沈殿法、抽出法、蒸留法、および晶析法が挙げられる。目的物質は、具体的には、例えば、酢酸エチル等の有機溶媒での抽出により、または蒸気蒸留により、回収することができる。目的物質を回収する手法は、目的物質の種類等の諸条件に応じて適宜選択できる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
また、目的物質が培地中に析出する場合は、例えば、遠心分離または濾過により回収することができる。また、培地中に析出した目的物質は、培地中に溶解している目的物質を晶析した後に、併せて単離してもよい。
また、目的物質が菌体内に蓄積する場合は、例えば、菌体を超音波等により破砕し、遠心分離等によって菌体を除去して得られる上清から、上記のような化合物の分離精製に用いられる手法により目的物質を回収することができる。
尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、水分、微生物の代謝副産物等の他の成分を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<3−2>生物変換法
目的物質は、例えば、本明細書に記載の微生物を利用した生物変換により製造することもできる。すなわち、目的物質の製造方法の別の態様は、微生物を利用した生物変換による目的物質の製造方法であってよい。この態様を、「生物変換法」ともいう。また、微生物を利用した生物変換により目的物質を製造する工程を、「生物変換工程」ともいう。すなわち、生物変換法は、生物変換工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。
具体的には、生物変換工程において、目的物質は、該目的物質の前駆体から製造することができる。すなわち、生物変換工程は、微生物を利用して目的物質の前駆体から該目的物質を生成する工程であってよい。すなわち、生物変換法は、微生物を利用して目的物質の前駆体から該目的物質を生成する工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。より具体的には、生物変換工程において、目的物質は、微生物を利用して該目的物質の前駆体を該目的物質に変換することにより製造することができる。すなわち、生物変換工程は、微生物を利用して目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程であってもよい。すなわち、生物変換法は、微生物を利用して目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程を含む、目的物質の製造方法であってもよい。
目的物質の前駆体を、単に、「前駆体」ともいう。前駆体としては、目的物質への変換にSAMが要求される物質が挙げられる。前駆体として、具体的には、目的物質の生合成経路における中間体(例えば、目的物質生合成酵素の記載に関連して言及したもの)であって、目的物質への変換にSAMが要求されるものが挙げられる。前駆体として、より具体的には、例えば、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、バニリン酸、安息香酸、桂皮酸、L−トリプトファン、L−ヒスチジン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−
アルギニン、L−オルニチン、グリシンが挙げられる。プロトカテク酸は、例えば、バニリン、バニリン酸、またはグアイアコールを生産するための前駆体として用いてよい。プロトカテクアルデヒドおよびバニリン酸は、いずれも、例えば、バニリンを生産するための前駆体として用いてよい。安息香酸およびL−フェニルアラニンは、例えば、ベンズアルデヒドを生産するための前駆体として用いてよい。桂皮酸およびL−フェニルアラニンは、いずれも、例えば、シンナムアルデヒドを生産するための前駆体として用いてよい。L−トリプトファンは、例えば、メラトニンを生産するための前駆体として用いてよい。L−ヒスチジンは、例えば、エルゴチオネインを生産するための前駆体として用いてよい。L−フェニルアラニンおよびL−チロシンは、いずれも、例えば、フェルラ酸、4−ビニルグアイアコール、または4−エチルグアイアコールを生産するための前駆体として用いてよい。L−アルギニンおよびL−オルニチンは、いずれも、例えば、ポリアミンを生産するための前駆体として用いてよい。L−アルギニンおよびグリシンは、いずれも、例えば、クレアチンを生産するための前駆体として用いてよい。前駆体としては、1種の前駆体を用いてもよく、2種またはそれ以上の前駆体を組み合わせて用いてもよい。前駆体が塩の形態を取り得る化合物である場合、前駆体は、フリー体として用いてもよく、塩として用いてもよく、それらの混合物として用いてもよい。すなわち、「前駆体」とは、特記しない限り、フリー体の前駆体、もしくはその塩、またはそれらの混合物を意味してよい。塩としては、例えば、硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。前駆体の塩としては、1種の塩を用いてもよく、2種またはそれ以上の塩を組み合わせて用いてもよい。
前駆体としては、市販品を用いてもよく、適宜製造して取得したものを用いてもよい。すなわち、生物変換法は、さらに、前駆体を製造する工程を含んでいてもよい。前駆体の製造方法は特に制限されず、例えば、公知の方法を利用できる。前駆体は、例えば、化学合成法、酵素法、生物変換法、発酵法、抽出法、またはそれらの組み合わせにより製造することができる。すなわち、例えば、目的物質の前駆体は、そのさらなる前駆体から該目的物質の前駆体への変換反応を触媒する酵素(「前駆体生成酵素」ともいう)を利用して、そのようなさらなる前駆体から製造することができる。また、例えば、目的物質の前駆体は、前駆体生産能を有する微生物を利用して、炭素源から、あるいはそのようなさらなる前駆体から、製造することができる。「前駆体生産能を有する微生物」とは、目的物質の前駆体を、炭素源から、またはそのようなさらなる前駆体から、生成することができる微生物を意味してよい。例えば、酵素法または生物変換法によるプロトカテク酸の製造法としては、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KS-0180を用いてパラクレゾールをプロトカテク酸に変換する方法(特開平7-75589号公報)、NADH依存性パラヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼを用いてパラヒドロキシ安息香酸をプロトカテク酸に変換する方法(特開平5-244941号公報)、テレフタル酸からプロトカテク酸を生成する反応に関与する遺伝子が導入された形質転換体をテレフタル酸が添加された培地で培養することによりプロトカテク酸を製造する方法(特開2007-104942号公報)、プロトカテク酸生産能を有し且つプロトカテク酸5位酸化酵素活性が低下または欠損した微生物を用いてプロトカテク酸をその前駆体から製造する方法(特開2010-207094号公報)が挙げられる。また、発酵法によるプロトカテク酸の製造法としては、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する細菌を用いて酢酸を炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(特開昭50-89592号公報)や、3−ジヒドロシキミ酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が導入されたエシェリヒア(Escherichia)属またはクレブシエラ(Klebsiella)属に属する細菌を用いてグルコースを炭素源としてプロトカテク酸を製造する方法(米国特許第5,272,073号明細書)が挙げられる。また、バニリン酸は、プロトカテク酸を前駆体として、OMTを利用した酵素法またはOMTを有する微生物を利用した生物変換法(J. Am. CHm. Soc., 1998, Vol.120)により、あるいはフェルラ酸を前駆体として、Pseudomonas sp. AV10株を利用した生物変換法(J. App. Microbiol., 2013, Vol.116, p903-910)により、製造することができる。また、プロトカテクアルデヒドは、プロトカテク酸を前駆体として、AC
ARを利用した酵素法またはACARを有する微生物を利用した生物変換法により製造することができる。製造された前駆体は、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、生物変換法に利用できる。すなわち、前駆体としては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、前駆体を含有する素材を用いてもよい。前駆体を含有する素材は、微生物が前駆体を利用できる限り特に制限されない。前駆体を含有する素材として、具体的には、例えば、前駆体生産能を有する微生物を培養して得られた培養液、該培養液から分離した培養上清、それらの濃縮物(例えば、濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
一態様において、生物変換工程は、上述したプラスミドを維持する方法に従って本明細書に記載の微生物を培養することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第1の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、糖と目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養して目的物質を生成する工程であってよい。生物変換工程は、特に、糖と目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養して前駆体から目的物質を生成する工程であってよい。すなわち、生物変換法の第1の態様は、例えば、糖と目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養して目的物質を生成する工程、特に、糖と目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養して前駆体から目的物質を生成する工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。生物変換工程は、具体的には、目的物質の前駆体を含有する培地で微生物を培養し、目的物質を培養液中(例えば、培地中、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に生成蓄積する工程であってもよい。
生物変換法の第1の態様における培養については、同態様においては培地がさらに目的物質の前駆体を含有し、且つ目的物質が生産されること以外は、上述したプラスミドを維持する方法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。すなわち、使用する培地は、糖と目的物質の前駆体を含有し、プラスミドを保持したまま微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。培養条件は、プラスミドを保持したまま微生物が増殖でき、目的物質が生産される限り、特に制限されない。生物変換法の第1の態様における培養は、例えば、液体培地を用いて実施してよい。また、生物変換法の第1の態様における培養は、例えば、好気条件で実施してよい。なお、前培養後に本培養が実施される場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。
前駆体は、培養の全期間において培地に含有されていてもよく、培養の一部の期間にのみ培地に含有されていてもよい。すなわち、「前駆体を含有する培地で微生物を培養する」とは、前駆体が培養の全期間において培地に含有されていることを要しない。前駆体が培地に含有されている期間は、目的物質が生産される限り、特に制限されない。前駆体が培地に含有されている期間は、例えば、培養の全期間の内の、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、97%以上、99%以上、99.5%以上、99.7%以上、または99.9%以上の期間であってよい。例えば、前駆体は、培養開始時から培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。前駆体が培養開始時に培地に含有されていない場合は、培養開始後に培地に前駆体を添加する。添加のタイミングは、培養時間等の諸条件に応じて適宜設定できる。例えば、微生物が十分に生育してから培地に前駆体を添加してもよい。また、前駆体は、例えば、少なくとも、目的物質が所望の程度に生産されるまで培地に含有されていてよい。また、いずれの場合にも、適宜、培地に前駆体を添加してよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて培地に前駆体を添加してもよい。前駆体を培地に添加する手段は特に制限されない。例えば、前駆体を含有する流加培地を培地に流加することにより、前駆体を培地に添加することができる。また、例えば、本明細書に記載の微生物と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を培地中に生成させ、以て前駆体を培地に添加することもできる。「或る成分を培地に添加する」という場合の「成分」には、培地中で生成ま
たは再生するものも包含されてよい。これらの添加手段は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用してもよい。培地中の前駆体濃度は、微生物が前駆体を目的物質の原料として利用できる限り、特に制限されない。培地中の前駆体濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。前駆体は、培養の全期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、そうでなくてもよい。前駆体は、例えば、培養開始時に上記例示した濃度で培地に含有されていてもよく、培養開始後に上記例示した濃度となるように培地に添加されてもよい。また、前駆体は、例えば、上記例示した期間において上記例示した濃度で培地に含有されていてもよい。なお、前培養後に本培養が実施される場合、目的物質は、少なくとも本培養の期間に生産されればよい。よって、前駆体は、少なくとも本培養の期間に、すなわち本培養の全期間または本培養の一部の期間に、培地に含有されていればよい。すなわち、前駆体は、種培養の期間には培地に含有されていてもよく、いなくてもよい。このような場合、培養についての記載(例えば、「培養期間(培養の期間)」や「培養開始」)は、本培養についてのものとして読み替えることができる。
別の態様において、生物変換工程は、上述したプラスミドを維持する方法に従って本明細書に記載の微生物を培養することにより得られた菌体を利用することにより実施できる。この態様を、「生物変換法の第2の態様」ともいう。すなわち、生物変換工程は、例えば、そのような菌体を利用して目的物質の前駆体を目的物質に変換する工程であってよい。生物変換工程は、言い換えると、そのような菌体を利用して目的物質の前駆体から目的物質を生成する工程であってもよい。また、生物変換工程は、言い換えると、そのような菌体を目的物質の前駆体に作用させ目的物質を生成する工程であってもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様は、例えば、糖を含有する培地で微生物を培養してプラスミドを有する菌体を生成する工程、および前記菌体を利用して目的物質の前駆体を目的物質に変換する工程を含む、目的物質の製造方法であってよい。生物変換工程は、具体的には、そのような菌体を反応液中の目的物質の前駆体に作用させ、目的物質を反応液中(例えば、液画分中、菌体内、またはそれらの組み合わせ)に生成蓄積する工程であってもよい。このような菌体を利用して実施する生物変換工程を、「変換反応」ともいう。
生物変換法の第2の態様における培養については、上述したプラスミドを維持する方法における培養についての記載(例えば、培地や培養条件についての記載)を準用できる。生物変換法の第2の態様における培養は、例えば、液体培地を用いて実施してよい。また、生物変換法の第2の態様における培養は、例えば、好気条件で実施してよい。生物変換法の第2の態様における培養においては、前駆体は、培地に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。生物変換法の第2の態様における培養においては、目的物質は、生産されてもよく、されなくてもよい。
菌体は、培養液(具体的には培地)に含まれたまま変換反応に用いてもよく、培養液(具体的には培地)から回収して変換反応に用いてもよい。また、菌体は、適宜処理を行ってから変換反応に用いてもよい。すなわち、菌体としては、菌体を含有する培養液、該培養液から回収した菌体、それらの処理物が挙げられる。言い換えると、菌体としては、微生物の培養液に含まれる菌体、該培養液から回収した菌体、それらの処理物に含まれる菌体が挙げられる。処理物としては、菌体を処理に供したものが挙げられる。処理物として、具体的には、菌体を含有する培養液を処理に供したものや、該培養液から回収した菌体を処理に供したものが挙げられる。これらの態様の菌体は、適宜組み合わせて利用してもよい。
菌体を培養液から回収する手法は特に制限されず、例えば、公知の手法を利用できる。
そのような手法としては、例えば、自然沈降、遠心分離、濾過が挙げられる。また、凝集剤(flocculant)を利用してもよい。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて利用することができる。回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜洗浄することができる。また、回収した菌体は、適当な媒体を用いて適宜再懸濁することができる。洗浄や懸濁に利用できる媒体としては、例えば、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
菌体の処理としては、例えば、希釈、濃縮、アクリルアミドやカラギーナン等の担体への固定化処理、凍結融解処理、膜の透過性を高める処理が挙げられる。膜の透過性は、例えば、界面活性剤または有機溶媒を利用して高めることができる。これらの処理は、適宜組み合わせて利用してもよい。
変換反応に用いられる菌体は、本明細書に記載のプラスミドと目的物質生産能を有していれば特に制限されない。菌体は、代謝活性が維持されているのが好ましい。「代謝活性が維持されている」とは、菌体が炭素源(特に糖)を資化して目的物質の生産に必要な物質を生成または再生する能力を有していることを意味してよい。そのような物質としては、ATP、NADHやNADP等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体が挙げられる。菌体は、生育する能力を有していてもよく、有していなくてもよい。
変換反応は、適切な反応液中で実施することができる。変換反応は、具体的には、菌体と前駆体とを適切な反応液中で共存させることにより実施することができる。変換反応は、バッチ式で実施してもよく、カラム式で実施してもよい。バッチ式の場合は、例えば、反応容器内の反応液中で、微生物の菌体と前駆体とを混合することにより、変換反応を実施できる。変換反応は、静置して実施してもよく、撹拌や振盪して実施してもよい。カラム式の場合は、例えば、固定化菌体を充填したカラムに前駆体を含有する反応液を通液することにより、変換反応を実施できる。反応液としては、水や水性緩衝液等の水性媒体(水性溶媒)が挙げられる。
反応液は、前駆体に加えて、前駆体以外の成分を必要に応じて含有してよい。前駆体以外の成分としては、ATP、NADHやNADPH等の電子供与体、SAM等のメチル基供与体、金属イオン、緩衝剤、界面活性剤、有機溶媒、炭素源(特に糖)、リン酸源、その他各種培地成分が挙げられる。すなわち、例えば、前駆体を含有する培地を反応液として用いてもよい。反応液は、例えば、糖を含有していてもよく、いなくてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における反応液については、反応液が糖を含有していてもよく、いなくてもよいこと以外は、生物変換法の第1の態様における培地についての記載を準用できる。反応液に含有される成分の種類や濃度は、用いる前駆体の種類や、用いる菌体の態様等の諸条件に応じて適宜設定してよい。
変換反応の条件(溶存酸素濃度、反応液のpH、反応温度、反応時間、各種成分の濃度等)は、目的物質が生成する限り特に制限されない。変換反応は、例えば、静止菌体等の微生物菌体を利用した物質変換に用いられる通常の条件で行うことができる。変換反応の条件は、使用する微生物の種類等の諸条件に応じて適宜設定してよい。変換反応は、例えば、好気条件で実施してよい。「好気条件」とは、反応液中の溶存酸素濃度が、0.33ppm以上、または1.5ppm以上である条件を意味してよい。酸素濃度は、具体的には、例えば、飽和酸素濃度に対し、1〜50%、または5%程度に制御されてよい。反応液のpHは、例えば、通常6.0〜10.0、または6.5〜9.0であってよい。反応温度は、例えば、通常15〜50℃、15〜45℃、または20〜40℃であってよい。反応時間は、例えば、5分〜200時間であってよい。カラム法の場合、反応液の通液速度は、例えば、反応時間が上記例示した反応時間の範囲となるような速度であってよい。また、変換反応は、例えば、細菌や酵母等の微生物の培養に用いられる通常の条件等の培養条件で行うこともできる。変換反応においては、菌
体は、生育してもよく、しなくてもよい。すなわち、生物変換法の第2の態様における変換反応については、同態様においては菌体が生育してもしなくてもよいこと以外は、生物変換法の第1の態様における培養についての記載を準用できる。そのような場合、菌体を取得するための培養条件と、変換反応の条件は、同一であってもよく、なくてもよい。反応液中の前駆体の濃度は、フリー体の重量に換算して、例えば、0.1 g/L以上、1 g/L以上、2 g/L以上、5 g/L以上、10 g/L以上、または15 g/L以上であってもよく、200 g/L以下、100 g/L以下、50 g/L以下、または20 g/L以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。反応液中の菌体の濃度は、例えば、600nmにおける光学密度(OD)に換算して、1以上であってもよく、300以下であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。
変換反応の過程において、菌体、前駆体、およびその他の成分を単独で、あるいは任意の組み合わせで、反応液に添加してもよい。例えば、目的物質の生成に伴う前駆体の減少または枯渇に応じて反応液に前駆体を添加してもよい。これらの成分は、1回または複数回添加されてもよく、連続的に添加されてもよい。
前駆体等の各種成分を反応液に添加する手段は特に制限されない。これらの成分は、いずれも、反応液に直接添加することにより、反応液に添加することができる。また、例えば、本明細書に記載の微生物と前駆体生産能を有する微生物を共培養することにより、前駆体生産能を有する微生物に前駆体を反応液中に生成させ、以て前駆体を反応液に添加することもできる。また、例えば、ATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分は、いずれも、反応液中で生成または再生されてもよく、微生物の菌体内で生成または再生されてもよく、異菌体間共役により生成または再生されてもよい。例えば、微生物の菌体において代謝活性が維持されている場合、炭素源(特に糖)を利用して微生物の菌体内でATP、電子供与体、メチル基供与体等の成分を生成または再生することができる。例えば、具体的には、微生物はSAMを生成または再生する増強された能力を有していてもよく、同微生物により生成または再生されたSAMが変換反応に用いられてもよい。SAMの生成または再生は、SAMを生成または再生する他の手法との組み合わせによってさらに増強され得る。また、ATPを生成または再生する方法としては、例えば、コリネバクテリウム属細菌を利用して炭素源(特に糖)からATPを供給させる方法(Hori, H et al., Appl. Microbiol. Biotechnol. 48(6): 693-698 (1997))、酵母菌体とグルコースを利用してATPを再生する方法(Yamamoto, S et al., Biosci. Biotechnol. Biochem. 69(4): 784-789 (2005))、ホスホエノールピルビン酸とピルビン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(C. Aug’e and Ch. Gautheron, Tetrahedron Lett. 29:789-790 (1988))、ポリリン酸とポリリン酸キナーゼを利用してATPを再生する方法(Murata, K et al., Agric. Biol. Chem. 52(6):
1471-1477 (1988))が挙げられる。「或る成分を反応液に添加する」という場合の「成分」には、反応液中で生成または再生するものも包含されてよい。
また、反応条件は、変換反応の開始から終了まで均一であってもよく、変換反応の過程において変化してもよい。「反応条件が変換反応の過程において変化する」ことには、反応条件が時間的に変化することに限られず、反応条件が空間的に変化することも包含されてよい。「反応条件が空間的に変化する」とは、例えば、カラム式で変換反応を実施する場合に、反応温度や菌体密度等の反応条件が流路上の位置に応じて異なっていることを意味してよい。
このようにして生物変換工程を実施することにより、目的物質が生成する、すなわち、目的物質を含有する培養液または反応液が得られる。目的物質は、具体的には、例えば、培地中、菌体内、またはそれらの組み合わせに蓄積してよい。また、目的物質は、具体的には、例えば、反応液の液画分中、菌体内、またはそれらの組み合わせに蓄積してよい。目的物質が生成したことの確認や目的物質の回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に
実施することができる。すなわち、生物変換法は、さらに、回収工程(例えば、培養液(具体的には培地、菌体、またはそれらの組み合わせ)または反応液(具体的には液画分、菌体、またはそれらの組み合わせ)から目的物質を回収する工程)を含んでいてよい。尚、回収される目的物質は、目的物質以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、反応液成分、水分、及び微生物の代謝副産物等の他の成分を含んでいてもよい。回収された目的物質の純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
<3−3>バニリンおよび他の目的物質の製造法
本明細書に記載の方法を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)目的物質が製造される場合、製造された目的物質をさらに他の目的物質に変換することができる。すなわち、本発明は、本明細書に記載の方法を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)第1の目的物質を製造する工程、および製造された第1の目的物質を第2の目的物質に変換する工程を含む、第2の目的物質を製造する方法を提供する。
例えば、本明細書に記載の方法を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)バニリン酸が製造される場合、製造されたバニリン酸をさらにバニリンに変換することができる。すなわち、本発明は、本明細書に記載の方法を利用して(すなわち発酵法または生物変換法により)バニリン酸を製造する工程、および製造されたバニリン酸をバニリンに変換する工程を含む、バニリンを製造する方法を提供する。同方法を、「バニリン製造法」ともいう。
微生物を利用して製造されたバニリン酸は、そのまま、あるいは、適宜、濃縮、希釈、乾燥、溶解、分画、抽出、精製等の処理に供してから、バニリンへの変換に利用できる。すなわち、バニリン酸としては、例えば、所望の程度に精製された精製品を用いてもよく、バニリン酸を含有する素材を用いてもよい。バニリン酸を含有する素材は、変換を触媒する成分(例えば、微生物や酵素)がバニリン酸を利用できる限り特に制限されない。バニリン酸を含有する素材として、具体的には、例えば、バニリン酸を含有する培養液または反応液、該培養液または反応液から分離した上清、それらの濃縮物(例えば、濃縮液)や乾燥物等の処理物が挙げられる。
バニリン酸をバニリンに変換する手法は特に制限されない。
バニリン酸は、例えば、ACARを有する微生物を利用した生物変換法によりバニリンに変換することができる。ACARを有する微生物は、糖の資化能が低下するように改変されていてもよく、いなくてもよい。また、ACARを有する微生物は、本明細書に記載のプラスミドを有していてもよく、いなくてもよい。ACARを有する微生物については、同微生物がACARを有しており、糖の資化能が低下するように改変されていてもよく、いなくてもよく、且つ本明細書に記載のプラスミドを有していてもよく、いなくてもよいこと以外は、本明細書に記載の微生物に関する記載を準用できる。ACARを有する微生物は、ACAR、PPT、およびバニリン酸取り込み系の1種またはそれ以上の活性が増大するように改変されていてもよい。また、ACARを有する微生物を利用してバニリン酸をバニリンに変換する生物変換法については、微生物を利用して目的物質を製造する生物変換法に関する記載を準用できる。なお、ACARを有する微生物の培養は、上述したプラスミドを維持する方法に従って実施してもよく、しなくてもよい。
また、バニリン酸は、例えば、ACARを利用した酵素法によりバニリンに変換することができる。
ACARは、ACAR遺伝子を有する宿主にACAR遺伝子を発現させることにより製造することが
できる。また、ACARは、無細胞タンパク質合成系を利用して製造することができる。
ACAR遺伝子を有する宿主を、「ACARを有する宿主」ともいう。ACAR遺伝子を有する宿主は、本来的にACAR遺伝子を有するものであってもよく、ACAR遺伝子を有するように改変されたものであってもよい。本来的にACAR遺伝子を有する宿主としては、上記例示したACARが由来する生物が挙げられる。ACAR遺伝子を有するように改変された宿主としては、ACAR遺伝子が導入された宿主が挙げられる。また、本来的にACAR遺伝子を有する宿主を、ACAR遺伝子の発現が増大するように改変してもよい。ACAR遺伝子の発現に利用する宿主は、機能するACARを発現できる限り、特に制限されない。宿主としては、例えば、細菌や酵母(真菌)等の微生物、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞が挙げられる。
ACAR遺伝子は、ACAR遺伝子を有する宿主を培養することにより発現させることができる。培養方法は、ACAR遺伝子を有する宿主が増殖してACARを発現できる限り、特に制限されない。ACAR遺伝子を有する宿主の培養については、発酵法の培養に関する記載を準用できる。必要により、ACAR遺伝子の発現を誘導できる。培養により、ACARを含有する培養液が得られる。ACARは、宿主細胞および/または培地中に蓄積し得る。
宿主細胞や培地中に存在するACARは、そのまま酵素反応に用いてもよく、そこから精製して酵素反応に用いてもよい。精製は、所望の程度に実施することができる。すなわち、ACARとしては、精製されたACARを用いてもよく、ACARを含有する画分を用いてもよい。そのような画分は、ACARがバニリン酸に作用できるように含有される限り、特に制限されない。そのような画分としては、ACAR遺伝子を有する宿主(すなわちACARを有する宿主)の培養液、同培養物から回収した菌体、同菌体の処理物(例えば、菌体破砕物、菌体溶解物、菌体抽出物、アクリルアミドやカラギーナン等で固定化した固定化菌体)、同培養物から回収した培養上清、それらの部分精製物(すなわち粗精製物)、それらの組み合わせが挙げられる。これらの画分は、単独で、あるいは精製されたACARと組み合わせて、利用できる。
酵素反応は、ACARをバニリン酸に作用させることにより実施できる。酵素反応条件は、バニリンが生成する限り、特に制限されない。酵素反応は、例えば、酵素や微生物菌体(例えば、静止菌体)を利用した物質変換に用いられる通常の条件で実施することができる。バニリン製造法における酵素反応については、例えば、生物変換法の第2の態様における変換反応に関する記載を準用できる。
このようにして変換を実施することにより、バニリンを含有する反応液が得られる。バニリンが生成したことの確認やバニリンの回収は、いずれも、上述した発酵法と同様に実施することができる。すなわち、バニリン製造法は、さらに、反応液からバニリンを回収する工程を含んでいてよい。尚、回収されるバニリンは、バニリン以外に、例えば、微生物菌体、培地成分、反応液成分、ACAR、水分、及び微生物の代謝副産物等の他の成分を含んでいてもよい。回収されたバニリンの純度は、例えば、30%(w/w)以上、50%(w/w)以上、70%(w/w)以上、80%(w/w)以上、90%(w/w)以上、または95%(w/w)以上であってよい。
バニリン酸は、例えば、VDCを有する微生物を利用した生物変換法により、またはVDCを利用した酵素法により、グアイアコールに変換することもできる。フェルラ酸は、例えば、FDCを有する微生物を利用した生物変換法により、またはFDCを利用した酵素法により、4−ビニルグアイアコールに変換することができる。4−ビニルグアイアコールは、例えば、VPRを有する微生物を利用した生物変換法により、またはVPRを利用した酵素法により、4−エチルグアイアコールに変換することができる。フェルラ酸は、これらの方法の組み合わせにより、4−エチルグアイアコールに変換することもできる。具体的には、フェ
ルラ酸は、例えば、FDCまたはそれを有する微生物とVPRまたはそれを有する微生物とを、同時に、または個別に、組み合わせて利用することにより、あるいはFDCとVPRの両方を有する微生物を利用することにより、4−エチルグアイアコールに変換することができる。上述したバニリン製造法に関する記載は、他の目的物質を製造する方法にも準用できる。
以下、実施例によって、本発明をさらに具体的に説明する。
<1>Corynebacterium glutamicumのリボヌクレアーゼIII遺伝子欠損株の取得
C. glutamicum 2256株(ATCC 13869株;以下、2256株もいう)のリボヌクレアーゼIII(RNaseIII)ホモログ遺伝子(以下、rnc遺伝子ともいう)の破壊株を以下のようにして構築した。
まず、既知のRNaseIIIとのアミノ酸配列の相同性をもとに、遺伝子データベース(GenBank)にて、C. glutamicum 2256(Accession No. AP017557)のゲノム配列情報におけるREGION: 2115207..2115950に存在する領域がrnc遺伝子であると推定した。そこで、その遺伝子を欠損させるために必要な情報として、そのORF(オープンリーディングフレーム)領域と、その上流領域と下流領域の各々約1,000塩基(1kb)ずつのDNA塩基配列情報を遺伝子データベース(GenBank)から取得した。
次に、2256株の菌体から、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN製)を用いてゲノムDNAを取得し、これを鋳型として、配列番号193と194のプライマーを用いてrnc遺伝子の上流約1kb分のDNA断片を、また、配列番号195と196のプライマーを用いてrnc遺伝子の下流約1kb分のDNA断片を、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてそれぞれPCR増幅して取得した。なお、PCR条件はメーカー推奨プロトコルに準じた。続いて、これらのDNA断片を、sacB遺伝子を搭載するプラスミドpBS4S(WO2005/113745及びWO2005/113744;C. glutamicumにおいては複製能を持たない)に以下の手順で連結した。具体的には、pBS4Sを鋳型とし、配列番号197と198のプライマーを用いて、PrimeSTAR GXL DNA PolymeraseにてPCR増幅を行い、pBS4Sの増幅断片を取得した。次いで、上記で取得したrnc遺伝子上流域と下流域の両DNA断片とpBS4Sの増幅断片とを混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)を使用してそれら3つの断片の連結を行った(図1)。そして、その反応液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布した。37℃で一晩、培養後、寒天培地上に出現したコロニーから単一コロニーを分離し、カナマイシン耐性となった形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを常法により抽出し、構造解析により、rnc遺伝子の上流域と下流域のDNA断片を含むプラスミドを確認した。そして、これをpBS4SΔrncと命名した(図1)。
このプラスミドはコリネ型細菌内で自律複製できないため、本プラスミドをコリネ型細菌へ導入した場合、極めて低頻度であるが、本プラスミドが遺伝的相同組換え反応により染色体に組み込まれ、カナマイシン耐性を示す形質転換株が出現する。そこで、2256株を電気パルス法により高濃度の上記プラスミドpBS4Δrncを用いて形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含むCM-Dex寒天培地(グルコース 5g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラクト 10g/L、KH2PO4 1g/L、MgSO4・7H2O 0.4g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、MnSO4・7H2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し30℃で一晩培養した。その結果、数コロニーが出現した。この培地上に生育してきた株は、該プラスミドのrnc遺伝子の近傍(上流域かあるいは下流域)のDNA配列断片と2256株のゲノム上の同遺伝子近傍の領域との間で相同組換えを起こした結果、同ゲノム中に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されている株、いわゆる一回組み換え株となる。
次に、これらの一回組換え体を、カナマイシンを含まないCM-Dex液体培地(寒天を含まないこと以外はCM-Dex寒天培地と同一の組成)にて30℃で一晩培養し、適当に希釈した後に、カナマイシンを含まない10%(w/v)スクロース含有Dex-S10寒天培地(スクロース 10g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラクト 10g/L、KH2PO4 1g/L、MgSO4・7H2O 0.4g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、MnSO4・4H2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、ビオチン 10μg/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し、30℃にて一晩培養した。その結果、数個のコロニーが出現したが、これらは、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落することでスクロース非感受性となった株と考えられた。この様にして得られた株の中には、そのrnc遺伝子が欠損型に置き換わったものと野生型に戻ったものが含まれる。そこで、出現したコロニーをKOD FX NEO(TOYOBO製)を使用したコロニーPCR反応に供し、rnc遺伝子欠損株の選別を行った。配列番号199と200のプライマーを用いて、それらの株のrnc遺伝子領域の長さをPCR増幅にて分析した結果、2256株(野生型)のゲノムDNAを鋳型にしたものよりもPCR増幅でのDNA断片の長さが短いものがあった。そこで、その内の一つの株をrnc遺伝子欠損株として選抜し、2256Δrnc株と命名した。なお、野生型のままのrnc遺伝子である場合のPCR増幅DNA断片の長さは約3 kbpであり、一方、rnc遺伝子欠損の場合のPCR増幅DNA断片の長さは約2 kbpである(図2)。
<2>内在性プラスミドのキュアリング
2256株は、内在性プラスミドとしてpAM330を有する(Yamaguchi, Ryuji, et al. "Determination of the complete nucleotide sequence of Brevibacterium lactofermentum plasmid pAM330 and analysis of its genetic information." Agricultural and biological chemistry 50.11 (1986): 2771-2778.)。pAM330とエシェリヒア・コリ用汎用ベクターであるpHSG399(TAKARA BIO製)とのコンポジットプラスミドpVC7(特開1997-070291)にsacB遺伝子を搭載したpVC7-sacBを作製した。具体的には、pBS4Sプラスミドを鋳型として、配列番号201と202のプライマーを使用し、PrimeSTAR GXL DNA PolymeraseにてPCR増幅し、sacB遺伝子の増幅断片を得た。また、pVC7プラスミドを鋳型として、配列番号203と204のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7ベクターの増幅断片を得た。このようにして得た増幅断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)使用して互いに連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離した。こうして得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出し、DNA配列の解読により目的とするプラスミドを確認し、これをpVC7-sacBと命名した(図3)。2256株及び2256Δrnc株にpVC7-sacBを電気パルス法により導入し、クロラムフェニコール5μg/mlを含むCM-Dex寒天培地に塗布し30℃で一晩培養後、2256/pVC7-sacB株及び2256Δrnc/pVC7-sacB株の形質転換体をそれぞれ複数個取得した。続いて、その中から、内在性プラスミドpAM330が除去された、2256ΔpAM330/pVC7-sacB株及び2256ΔrncΔpAM330/pVC7-sacB株を取得した。さらに、これらの株をDex-S10寒天培地に塗布し、30℃にて一晩培養することで、pVC7-sacBが脱落しスクロース非感受性となった、2256ΔpAM330株(以下、2256LΔrnc株ともいう)及び2256ΔrncΔpAM330株(以下、2256L株ともいう)を取得した。
<3>Corynebacterium glutamicumのpfkA遺伝子欠損株の構築
C. glutamicum 2256ΔrncΔpAM330株およびC. glutamicum 2256ΔpAM330株のpfkA遺伝子の破壊株を以下のようにして構築した。
まず、遺伝子データベース(GenBank)にて、C. glutamicum 2256(Accession No. AP017557)のゲノム配列情報におけるREGION: 1421394..1422434に存在する領域がpfkA遺伝子であり、その遺伝子を欠損させるために必要な情報として、そのORF(オープンリーデ
ィングフレーム)領域と、その上流領域と下流領域の各々約1,000塩基(1 kb)ずつのDNA塩基配列情報を遺伝子データベース(GenBank)から取得した。
次に、2256株の菌体から、DNeasy Blood & Tissue Kit(QIAGEN製)を用いてゲノムDNAを取得し、これを鋳型として、配列番号205と206のプライマーを用いてpfkA遺伝子の上流約1 kb分のDNA断片を、また、配列番号207と208のプライマーを用いてpfkA遺伝子の下流約1 kb分のDNA断片を、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてそれぞれPCR増幅して取得した。なお、PCR条件はメーカー推奨プロトコルに準じた。続いて、これらのDNA断片を、sacB遺伝子を搭載するプラスミドpBS4S(WO2005/113745及びWO2005/113744;C. glutamicumにおいては複製能を持たない)に以下の手順で連結した。具体的には、pBS4Sを制限酵素BamHI及びPstIにより切断した後、上記で取得したpfkA遺伝子上流域と下流域の両DNA断片とpBS4Sの増幅断片とを混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)を使用してそれら3つの断片の連結を行った(図4)。そして、その反応液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布した。37℃で一晩、培養後、寒天培地上に出現したコロニーから単一コロニーを分離し、カナマイシン耐性となった形質転換体を得た。得られた形質転換体よりプラスミドを常法により抽出し、構造解析により、pfkA遺伝子の上流域と下流域のDNA断片を含むプラスミドを確認した。そして、これをpBS4SΔpfkAと命名した(図4)。
このプラスミドはコリネ型細菌内で自律複製できないため、本プラスミドをコリネ型細菌へ導入した場合、極めて低頻度であるが、本プラスミドが遺伝的相同組換え反応により染色体に組み込まれ、カナマイシン耐性を示す形質転換株が出現する。そこで、2256LΔrnc株および2256L株を電気パルス法により高濃度の上記プラスミドpBS4SΔpfkAを用いて形質転換し、カナマイシン25μg/mlを含むCM-Dex寒天培地(グルコース 5g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラクト 10g/L、KH2PO4 1g/L、MgSO4・7H2O 0.4g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、MnSO4・7H2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し30℃で一晩培養した。その結果、数コロニーが出現した。この培地上に生育してきた株は、該プラスミドのpfkA遺伝子の近傍(上流域かあるいは下流域)のDNA配列断片と2256株のゲノム上の同遺伝子近傍の領域との間で相同組換えを起こした結果、同ゲノム中に該プラスミドに由来するカナマイシン耐性遺伝子およびsacB遺伝子が挿入されている株、いわゆる一回組み換え株となる。
次に、これらの一回組換え体を、カナマイシンを含まないCM-Dex液体培地(寒天を含まないこと以外はCM-Dex寒天培地と同一の組成)にて30℃で一晩培養し、適当に希釈した後に、カナマイシンを含まない10%(w/v)スクロース含有Dex-S10寒天培地(スクロース 10g/L、ポリペプトン 10g/L、イーストエキストラクト 10g/L、KH2PO4 1g/L、MgSO4・7H2O 0.4g/L、FeSO4・7H2O 0.01g/L、MnSO4・4H2O 0.01g/L、尿素 3g/L、大豆加水分解物 1.2g/L、ビオチン 10μg/L、pH7.5(KOHにて調整)、寒天20g/L)に塗布し、30℃にて一晩培養した。その結果、数個のコロニーが出現したが、これらは、2回目の相同組み換えによりsacB遺伝子が脱落することでスクロース非感受性となった株と考えられた。この様にして得られた株の中には、そのpfkA遺伝子が欠損型に置き換わったものと野生型に戻ったものが含まれる。そこで、出現したコロニーをKOD FX NEO(TOYOBO製)を使用したコロニーPCR反応に供し、pfkA遺伝子欠損株の選別を行った。配列番号209と210のプライマーを用いて、それらの株の遺伝子領域の長さをPCR増幅にて分析した結果、2256株(野生型)のゲノムDNAを鋳型にしたものよりもPCR増幅でのDNA断片の長さが短いものがあった。そこで、その内のそれぞれ一つの株をpfkA遺伝子欠損株として選抜し、2256LΔrncΔpfkA株および2256LΔpfkA株と命名した。なお、野生型のままのpfkA遺伝子である場合のPCR増幅DNA断片の長さは約3 kbpであり、一方、pfkA遺伝子欠損の場合のPCR増幅DNA断片の長さは約2 kbpである(図5)。
<4>pfkA遺伝子およびdsRNAの共発現プラスミドの構築
<4−1>双方向転写用プラスミドpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの構築
ニジュウヤホシテントウ由来のアポトーシス阻害因子IAPをコードするiap遺伝子由来cDNAの部分配列であるHv-iap(配列番号211)のDNA断片を、WO2010/140675に記載の情報をもとに、人工遺伝子合成により取得した。F1プロモーターを含む配列番号212のDNA断片を、人工遺伝子合成により取得した。F1プロモーターは、コリネ型細菌に感染するバクテリオファージBFK20由来のプロモーター配列である(Koptides, M., et al., (1992).
Characterization of bacteriophage BFK20 from Brevibacterium flavum. Microbiology, 138(7), 1387-1391.)。F1プロモーターの塩基配列を、配列番号213に示す。そして、F1プロモーターの直後にHv-iap配列を連結したDNA配列を含むプラスミドの構築を以下のように実施した(6)。まず、pVC7を鋳型として配列番号214と215のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7ベクター領域のDNA断片を得た。また、配列番号212のDNA断片を鋳型とし、配列番号216と217のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、F1プロモーター配列を含むDNA断片を得た。また、配列番号211のDNA断片を鋳型として、配列番号218と219のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、Hv-iap配列のDNA断片を得た。そして、これら3種の断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)にて、DNA断片を連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlの耐性株を取得し、得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。それらのDNA配列を解読し、目的とするプラスミドであることを確認し、そのうちの一つをpVC7-Pf1-Hv-iapと命名した(図6)。
pVC7を鋳型とし配列番号214と220のプライマーを使用し、KOD FX NEO(TOYOBO製)にてPCR増幅し、pVC7ベクターのDNA断片を得た。また、配列番号212のDNA断片を鋳型とし、配列番号221と222のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、F1プロモーター配列の増幅断片を得た。このようにして得た両DNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)にて連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離し、得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。DNA配列決定により目的とするプラスミドであることを確認し、これをpVC7-Pf1revと命名した(図7)。
次に、pVC7-Pf1revのF1プロモーターの下流に制限酵素サイトKpnIサイトおよびXhoIサイトを導入する為、pVC7-Pf1revを鋳型として、配列番号214と223のプライマーを使用し、KOD-Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO製)を用いてインバースPCRを実施後に、DpnI処理、リン酸化反応、およびセルフライゲーション反応を実施して増幅DNA断片を環状化し、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)に導入した。それらの菌体をクロラムフェニコール25μg/mlを含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養した。その後、出現したコロニーから単一コロニーを分離し、得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。DNA配列決定により目的とするプラスミドであることを確認し、これをpVC7-KpnI-XhoI-Pf1revと命名した(図7)。
続いて、pVC7-Pf1-Hv-iapを鋳型として、配列番号224と225のプライマーを使用し、PrimeSTAR HS(TAKARA BIO製)にてPCRを行い、KpnI制限酵素サイト―F1プロモーター領域―Hv-iap領域―XhoI制限酵素サイトの並びとなるDNA断片を取得した。そして、本DNA断片と、pVC7-KpnI-XhoI-Pf1revの各々に対し、制限酵素KpnI及びXhoIによる切断を行った後、MinElute PCR Purification Kit(キアゲン製)で精製を行い、両精製産物を混
合し、Ligation high Ver.2(TOYOBO製)でライゲーション反応を実施することで、両DNA断片を連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlの耐性菌株を取得した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出し、DNA配列決定により目的とするプラスミドであることを確認し、これをpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revと命名した(図7)。同プラスミドによれば、Hv-iap由来のdsRNAが転写される。
<4−2>高コピー数化プラスミドの構築
pVC7およびpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revの高コピー数化版プラスミドを、以下の手順で構築した。具体的には、pVC7またはpVC7-Pf1-Hv-iap-Pf1revを鋳型として、配列番号226と227のプライマーを使用し、KOD -Plus- Mutagenesis Kit(TOYOBO製)によるインバースPCRを実施した。その後、DpnI処理そしてリン酸化反応、セルフライゲーション反応により各DNA断片を環状化し、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換した。クロラムフェニコール(25μg/ml)を含むLB寒天培地上に塗布して37℃で一晩培養し、出現したコロニーから単一コロニーを分離して形質転換体を得た。得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出し、DNA配列決定により目的とするプラスミドを確認し、それぞれ、pVC7H2およびpVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1revと命名した。pVC7H2は、プラスミドのコピー数を高めるC1172T変異を有する。C1172T変異は、pVC7の全塩基配列6679 bpのうち、1172番目(制限酵素HindIIIの切断認識部位の5’末端から2つ目の塩基Aを+1とする)の塩基がシトシン(C)からチミン(T)に置換される変異である。pVC7H2-Pf1-Hv-iap-Pf1revも、pVC7部分にC1172T変異を有する。
<4−3>pfkA遺伝子発現カセットの導入
プロモーター配列の異なる3種のpfkA遺伝子発現カセットを含む配列番号228〜230のDNA断片を、人工遺伝子合成により取得した。配列番号228のDNA断片(Pbl-pfkAともいう)は、blプロモーター(Bifidobacterium longum株のxfp遺伝子(アクセッション番号AY518215)のプロモーター領域を参考とした)−pfkA遺伝子(ATCC 13869株由来)−T7ターミネーター配列を含む。配列番号229のDNA断片(PmsrA-pfkAともいう)は、msrA遺伝子由来プロモーター(ATCC 13869株由来)−pfkA遺伝子(ATCC 13869株由来)−T7ターミネーター配列を含む。配列番号230のDNA断片(Plac-pfkAともいう)は、lacプロモーター(pHSG299(タカラバイオ)プラスミド上の配列を参考とした)−pfkA遺伝子(ATCC 13869株由来)−T7ターミネーター配列を含む。
pfkA発現カセット配列とpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1revプラスミドを連結したDNA配列を含むプラスミドの構築を以下のように実施した(図8)。まず、Pbl-pfkA(配列番号228)を鋳型として配列番号231と232のプライマーを使用し、PmsrA-pfkA(配列番号229)を鋳型として配列番号231と233のプライマーを使用し、Plac-pfkA(配列番号230)を鋳型として配列番号231と234のプライマーを使用し、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、プロモーター配列の異なる3種のpfkA発現カセットのDNA断片を得た。また、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1revを鋳型とし、配列番号235と236のプライマーを使用し、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、ベクターDNA断片を得た。各々のDNA断片に対し、MinElute PCR Purification Kit(キアゲン製)で精製を行い、制限酵素DpnIによる鋳型DNA切断を行った後、再びMinElute PCR Purification Kitで精製を行った。pfk遺伝子発現カセットの精製DNA断片3種各々に対して精製ベクターDNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)でライゲーション反応を実施することで、DNA断片を連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、クロラムフェニコール25μg/mlの耐性株を取得した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。それらのDNA配列を解読して目的とするプラスミドであることを確認し、そのうちのそれぞれ一つをpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Pbl-pfkA、pVC7H2-Pf1
-Hviap-Pf1rev-PmsrA-pfkA、およびpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Plac-pfkAと命名した(図8)。
<5>目的RNA生産
C. glutamicum 2256LΔrncΔpfkA株に、pVC7H2、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Pbl-pfkA、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-PmsrA-pfkAおよびpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Plac-pfkAの各々のプラスミドを電気パルス法により導入し、クロラムフェニコール5μg/mlを含むCM-Dex寒天培地上に塗布して、30℃で一晩培養を行った。そして、形質転換体をそれぞれ取得した。
上記で得られた各形質転換体のコロニーを、CM-Dex寒天培地(クロラムフェニコール5μg/mlを含む)にて広げ、30℃で約16時間培養した。次いで、菌体の一部を、試験管培養へと移し、抗生物質を含まないCM-Dex液体培地(2 ml)にて30℃で20時間振とう培養を行った。次いで、培養液200 μlをRNAprotect Bacteria Reagentにより処理し、上清を除去した。次に、そこへ15 mg-リゾチーム(シグマ製)/ml-TE緩衝液225 μlを添加し室温で30分間反応し、更に20 mg/mL proK(TAKARA BIO製) 25 μlを添加して室温で30分間反応した後、TRIzol LS(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いてRNA抽出を行い、それをRNaseフリー水50 μlで溶解し、トータルRNA溶液を調製した。得られたトータルRNA溶液について、Novex TBE Gels, 6%(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を用いてトータルRNA分析を実施した。すなわち、各トータルRNA溶液1 μlを、ゲルのレーンへアプライし、非変性条件下でのポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)を実施した。
その結果、pfkA遺伝子を搭載していないpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev形質転換体から抽出されたHviap-dsRNAバンドと比較し、pfkA遺伝子を搭載したpVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Pbl-pfkA形質転換体、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-PmsrA-pfkA形質転換体、pVC7H2-Pf1-Hviap-Pf1rev-Plac-pfkA形質転換体から抽出されたHviap-dsRNAバンドは明瞭に観察され、Hviap-dsRNAが多量蓄積していることが分かった(図9)。このことから、抗生物質無添加培養系において目的RNAを生産するために、pfkA遺伝子の欠損とプラスミドによる補完を利用することは有効であることが示された。
<6>pfkA遺伝子およびGFPの共発現プラスミドの構築
<6−1>pPK4-dGFPの構築
タンパク質の発現例として、緑色蛍光タンパク質dasher GFP(dGFPともいう、ATUM製)発現ベクターを採用した。まずは、cspB遺伝子プロモーター配列とpfkA遺伝子配列とpPK4プラスミドを連結したDNA配列を含むプラスミドの構築を以下のように実施した(図10)。具体的には、2256株のゲノムDNA配列を鋳型として配列番号237と238のプライマーを使用しcspB遺伝子プロモーター配列を、dasher GFP発現ベクターを鋳型として配列番号239と240のプライマーを使用し、pPK4を鋳型として配列番号241と242のプライマーを使用し、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、3種のDNA断片を得た。各々のDNA断片に対し、MinElute PCR Purification Kit(キアゲン製)で精製を行い、3種の精製DNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)でライゲーション反応を実施することで、DNA断片を連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlの耐性株を取得した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。それらのDNA配列を解読して目的とするプラスミドであることを確認し、そのうちの一つをpPK4-dGFPと命名した(図10)。
<6−2>pfkA遺伝子発現カセットの導入
Pbl-pfkA(配列番号228)を鋳型として配列番号243と244のプライマーを使用
し、Plac-pfkA(配列番号230)を鋳型として配列番号243と245のプライマーを使用し、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、プロモーター配列の異なる2種のpfkA発現カセットのDNA断片を得た。また、pPK4-dGFPプラスミドを鋳型とし、配列番号242と246のプライマーを使用し、PrimeSTAR Max DNA Polymerase(TAKARA BIO製)にてPCR増幅し、ベクターDNA断片を得た。各々のDNA断片に対し、MinElute PCR Purification Kit(キアゲン製)で精製を行い、制限酵素DpnIによる鋳型DNA切断を行った後、再びMinElute PCR Purification Kitで精製を行った。pfk遺伝子発現カセットの精製DNA断片2種各々に対して精製ベクターDNA断片を混合し、In-Fusion HD Cloning Kit(クロンテック製)でライゲーション反応を実施することで、DNA断片を連結した。次に、この反応溶液を用いて、エシェリヒア・コリJM109株のコンピテントセル(TAKARA BIO製)を形質転換し、カナマイシン50μg/mlの耐性株を取得した。得られた形質転換体から常法によりプラスミドDNAを抽出した。それらのDNA配列を解読し、目的とするプラスミドであることを確認し、そのうちのそれぞれ一つをpPK4-Pbl-pfkA-dGFPおよびpPK4-Plac-pfkA-dGFPと命名した(図10)。
<7>目的タンパク質生産
C. glutamicum 2256LΔpfkA株に、pPK4-dGFP、pPK4-Pbl-pfkA-dGFP、およびpPK4-Plac-pfkA-dGFPの各々のプラスミドを電気パルス法により導入し、カナマイシン25μg/mlを含むCM-Dex寒天培地上に塗布して、30℃で一晩培養を行った。そして、形質転換体をそれぞれ取得した。
上記で得られた各形質転換体のコロニーを、CM-Dex寒天培地(カナマイシン25μg/mlを含む)にて広げ、30℃で約16時間培養した。次いで、菌体の一部を、試験管培養へと移し、抗生物質を含まないCM-Dex液体培地(2 ml)にて30℃で18時間振とう培養を行った。次いで、培養液500 μlを回収し、遠心分離(14,400 xg, 2 min, 4°C)し上清除去し集菌した。氷冷した20 mM Tris-HCl (pH8.0)で一回洗浄し、800 μlの20 mM Tris-HCl (pH8.0)で懸濁し、0.1 mmガラスビーズによるマルチビーズショッカー(安井器械、2,500 rpm, (ON : OFF = 30s : 30s)×10サイクル、4°C)で破砕処理を実施した。その破砕液を、遠心分離(5,000 xg, 5 min, 4°C)し、上清画分を粗抽出液とした。粗抽出液の総タンパク質濃度は、Pierce BCA Protein Assay Kit(サーモフィッシャー)により決定し、本キット付属のBSAを標準物質として使用した。調製した粗抽出液を、透過型LED光源CyanoView(ATTO製、励起波長505±25 nm)で照射し、オレンジカバー(ATTO製、製品番号2006122)で遮光した蛍光画像を撮影した。また、調製した粗抽出液50 μlを、蛍光測定用白色96穴プレート(Nunc製、FluoroNunc Maxisorp plate)にロードし、マイクロプレートリーダーSpectraMax Me2(モレキュラーデバイス)を使用し、蛍光測定を行った。20 mM Tris-HCl (pH8.0)をブランクとして使用した。プレートリーダー測定条件は、励起波長485 nm、検出波長538 nm(カットオフ 530 nm)とした。その結果、pfkA遺伝子を搭載していないpPK4-dGFP形質転換体からの抽出液と比較し、pfkA遺伝子を搭載したpPK4-Plac-pfkA-dGFP形質転換体およびpPK4-Pbl-pfkA-dGFP形質転換体からの抽出液の緑色蛍光強度は高く、dGFP発現量が高まっていることが分かった(図11)。このことから、抗生物質無添加培養系において目的タンパク質を生産するために、pfkA遺伝子の欠損とプラスミドによる補完を利用することは有効であることが示された。
<配列表の説明>
配列番号1:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のptsI遺伝子の塩基配列
配列番号2:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPtsIタンパク質のアミノ酸配列
配列番号3:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のptsH遺伝子の塩基配列
配列番号4:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPtsHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号5:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のptsG遺伝子の塩基配列
配列番号6:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPtsGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号7:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のptsS遺伝子の塩基配列
配列番号8:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPtsSタンパク質のアミノ酸配列
配列番号9:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のptsF遺伝子の塩基配列
配列番号10:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPtsFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号11:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のiolT1遺伝子の塩基配列
配列番号12:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のIolT1タンパク質のアミノ酸配列
配列番号13:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のiolT2遺伝子の塩基配列
配列番号14:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のIolT2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号15:Escherichia coli MG1655のptsI遺伝子の塩基配列
配列番号16:Escherichia coli MG1655のPtsIタンパク質のアミノ酸配列
配列番号17:Escherichia coli MG1655のptsH遺伝子の塩基配列
配列番号18:Escherichia coli MG1655のPtsHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号19:Escherichia coli MG1655のptsG遺伝子の塩基配列
配列番号20:Escherichia coli MG1655のPtsGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号21:Escherichia coli MG1655のcrr遺伝子の塩基配列
配列番号22:Escherichia coli MG1655のCrrタンパク質のアミノ酸配列
配列番号23:Salmonella entericaのscrA遺伝子の塩基配列
配列番号24:Salmonella entericaのScrAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号25:Escherichia coli MG1655のfruA遺伝子の塩基配列
配列番号26:Escherichia coli MG1655のFruAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号27:Escherichia coli MG1655のfruB遺伝子の塩基配列
配列番号28:Escherichia coli MG1655のFruBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号29:Escherichia coli MG1655のgalP遺伝子の塩基配列
配列番号30:Escherichia coli MG1655のGalPタンパク質のアミノ酸配列
配列番号31:Escherichia coli EC3132のcscB遺伝子の塩基配列
配列番号32:Escherichia coli EC3132のCscBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号33:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のglk遺伝子の塩基配列
配列番号34:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のGlkタンパク質のアミノ酸配列
配列番号35:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpgi遺伝子の塩基配列
配列番号36:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPgiタンパク質のアミノ酸配列
配列番号37:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpfk遺伝子の塩基配列
配列番号38:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPfkタンパク質のアミノ酸配列
配列番号39:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のfbaA遺伝子の塩基配列配列番号40:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のFbaAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号41:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のtpiA遺伝子の塩基配列配列番号42:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のTpiAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号43:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のgapA遺伝子の塩基配列配列番号44:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のGapAタンパク質のアミ
ノ酸配列
配列番号45:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpgk遺伝子の塩基配列
配列番号46:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPgkタンパク質のアミノ酸配列
配列番号47:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のgpmA遺伝子の塩基配列配列番号48:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のGpmAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号49:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のgpmM遺伝子の塩基配列配列番号50:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のGpmMタンパク質のアミノ酸配列
配列番号51:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のeno遺伝子の塩基配列
配列番号52:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のEnoタンパク質のアミノ酸配列
配列番号53:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpykA遺伝子の塩基配列配列番号54:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPykAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号55:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpykF遺伝子の塩基配列配列番号56:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPykFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号57:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のaceE遺伝子の塩基配列配列番号58:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のAceEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号59:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のaceF遺伝子の塩基配列配列番号60:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のAceFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号61:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のlpd遺伝子の塩基配列
配列番号62:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のLpdタンパク質のアミノ酸配列
配列番号63:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のscrB遺伝子の塩基配列配列番号64:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のScrBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号65:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のfruK遺伝子の塩基配列配列番号66:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のFruKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号67:Escherichia coli MG1655のglk遺伝子の塩基配列
配列番号68:Escherichia coli MG1655のGlkタンパク質のアミノ酸配列
配列番号69:Escherichia coli MG1655のpgi遺伝子の塩基配列
配列番号70:Escherichia coli MG1655のPgiタンパク質のアミノ酸配列
配列番号71:Escherichia coli MG1655のpfkA遺伝子の塩基配列
配列番号72:Escherichia coli MG1655のPfkAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号73:Escherichia coli MG1655のpfkB遺伝子の塩基配列
配列番号74:Escherichia coli MG1655のPfkBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号75:Escherichia coli MG1655のfbaA遺伝子の塩基配列
配列番号76:Escherichia coli MG1655のFbaAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号77:Escherichia coli MG1655のtpiA遺伝子の塩基配列
配列番号78:Escherichia coli MG1655のTpiAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号79:Escherichia coli MG1655のgapA遺伝子の塩基配列
配列番号80:Escherichia coli MG1655のGapAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号81:Escherichia coli MG1655のpgk遺伝子の塩基配列
配列番号82:Escherichia coli MG1655のPgkタンパク質のアミノ酸配列
配列番号83:Escherichia coli MG1655のgpmA遺伝子の塩基配列
配列番号84:Escherichia coli MG1655のGpmAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号85:Escherichia coli MG1655のgpmM遺伝子の塩基配列
配列番号86:Escherichia coli MG1655のGpmMタンパク質のアミノ酸配列
配列番号87:Escherichia coli MG1655のeno遺伝子の塩基配列
配列番号88:Escherichia coli MG1655のEnoタンパク質のアミノ酸配列
配列番号89:Escherichia coli MG1655のpykA遺伝子の塩基配列
配列番号90:Escherichia coli MG1655のPykAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号91:Escherichia coli MG1655のpykF遺伝子の塩基配列
配列番号92:Escherichia coli MG1655のPykFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号93:Escherichia coli MG1655のaceE遺伝子の塩基配列
配列番号94:Escherichia coli MG1655のAceEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号95:Escherichia coli MG1655のaceF遺伝子の塩基配列
配列番号96:Escherichia coli MG1655のAceFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号97:Escherichia coli MG1655のlpd遺伝子の塩基配列
配列番号98:Escherichia coli MG1655のLpdタンパク質のアミノ酸配列
配列番号99:Salmonella entericaのscrB遺伝子の塩基配列
配列番号100:Salmonella entericaのScrBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号101:Escherichia coli MG1655のfruK遺伝子の塩基配列
配列番号102:Escherichia coli MG1655のFruKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号103:Escherichia coli EC3132のcscA遺伝子の塩基配列
配列番号104:Escherichia coli EC3132のCscAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号105:Escherichia coli EC3132のcscK遺伝子の塩基配列
配列番号106:Escherichia coli EC3132のCscKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号107:Escherichia coli MG1655のaroG遺伝子の塩基配列
配列番号108:Escherichia coli MG1655のAroGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号109:Escherichia coli MG1655のaroB遺伝子の塩基配列
配列番号110:Escherichia coli MG1655のAroBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号111:Escherichia coli MG1655のaroD遺伝子の塩基配列
配列番号112:Escherichia coli MG1655のAroDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号113:Bacillus thuringiensis BMB171のasbF遺伝子の塩基配列
配列番号114:Bacillus thuringiensis BMB171のAsbFタンパク質のアミノ酸配列
配列番号115:Escherichia coli MG1655のtyrR遺伝子の塩基配列
配列番号116:Escherichia coli MG1655のTyrRタンパク質のアミノ酸配列
配列番号117〜120:Homo sapiensのOMT遺伝子の転写バリアント1〜4の塩基配列
配列番号121:Homo sapiensのOMTアイソフォーム(MB-COMT)のアミノ酸配列
配列番号122:Homo sapiensのOMTアイソフォーム(S-COMT)のアミノ酸配列
配列番号123:Niastella koreensisのOMT遺伝子の塩基配列
配列番号124:Niastella koreensisのOMTタンパク質のアミノ酸配列
配列番号125:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号126:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号127:Nocardia brasiliensisのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号128:Nocardia brasiliensisのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号129:Gordonia effusaのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号130:Gordonia effusaのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号131:Novosphingobium malaysienseのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号132:Novosphingobium malaysienseのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号133:Coccomyxa subellipsoideaのACAR遺伝子の塩基配列
配列番号134:Coccomyxa subellipsoideaのACARタンパク質のアミノ酸配列
配列番号135:Escherichia coli MG1655のentD遺伝子の塩基配列
配列番号136:Escherichia coli MG1655のEntDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号137:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPPT遺伝子の塩基配列
配列番号138:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPPTタンパク質のアミノ酸配列
配列番号139:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanK遺伝子の塩基配列
配列番号140:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号141:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のpcaK遺伝子の塩基配列
配列番号142:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のPcaKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号143:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanA遺伝子の塩基配列
配列番号144:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanAタンパク質のアミノ酸配列
配列番号145:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のvanB遺伝子の塩基配列
配列番号146:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のVanBタンパク質のアミノ酸配列
配列番号147:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のpcaG遺伝子の塩基配列
配列番号148:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPcaGタンパク質のアミノ酸配列
配列番号149:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のpcaH遺伝子の塩基配列
配列番号150:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のPcaHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号151:Escherichia coli MG1655のyqhD遺伝子の塩基配列
配列番号152:Escherichia coli MG1655のYqhDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号153:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0324遺伝子の塩基配列
配列番号154:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0324タンパク質のアミノ酸配列
配列番号155:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0313遺伝子の塩基配列
配列番号156:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl0313タンパク質のアミノ酸配列
配列番号157:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2709遺伝子の塩基配列
配列番号158:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2709タンパク質のアミノ酸配列
配列番号159:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl0219遺伝子の塩基配列
配列番号160:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl0219タンパク質のアミノ酸配列
配列番号161:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl2382遺伝子の塩基配列
配列番号162:Corynebacterium glutamicum ATCC 13032のNCgl2382タンパク質のアミノ酸配列
配列番号163:Escherichia coli MG1655のaroE遺伝子の塩基配列
配列番号164:Escherichia coli MG1655のAroEタンパク質のアミノ酸配列
配列番号165:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysI遺伝子の塩基配列
配列番号166:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysIタンパク質のアミノ酸配列
配列番号167:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysX遺伝子の塩基配列
配列番号168:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysXタンパク質のアミノ酸配列
配列番号169:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysH遺伝子の塩基配列
配列番号170:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号171:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysD遺伝子の塩基配列
配列番号172:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysDタンパク質のアミノ酸配列
配列番号173:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysN遺伝子の塩基配列
配列番号174:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysNタンパク質のアミノ酸配列
配列番号175:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysY遺伝子の塩基配列
配列番号176:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysYタンパク質のアミノ酸配列
配列番号177:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysZ遺伝子の塩基配列
配列番号178:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysZタンパク質のアミノ酸配列
配列番号179:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のfpr2遺伝子の塩基配列
配列番号180:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のFpr2タンパク質のアミノ酸配列
配列番号181:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysK遺伝子の塩基配列
配列番号182:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysKタンパク質のアミノ酸配列
配列番号183:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のcysR遺伝子の塩基配列
配列番号184:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のCysRタンパク質のアミノ酸配列
配列番号185:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のssuR遺伝子の塩基配列
配列番号186:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のSsuRタンパク質のアミノ酸配列
配列番号187:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2048遺伝子の塩基配列
配列番号188:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のNCgl2048タンパク質のアミノ酸配列
配列番号189:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のsahH遺伝子の塩基配列
配列番号190:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のSahHタンパク質のアミノ酸配列
配列番号191:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のrnc遺伝子の塩基配列
配列番号192:Corynebacterium glutamicum 2256 (ATCC 13869)のRncタンパク質のアミノ酸配列
配列番号193〜210:プライマー
配列番号211:Hv-iapの塩基配列
配列番号212:F1プロモーターを含むDNA断片の塩基配列
配列番号213:F1プロモーターの塩基配列
配列番号214〜227:プライマー
配列番号228〜230:pfkA遺伝子発現ユニットの塩基配列
配列番号231〜246:プライマー

Claims (27)

  1. 微生物においてプラスミドを維持する方法であって、
    糖を含有する培地でプラスミドを有する微生物を培養する工程を含み、
    前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
    前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列を含む、方法。
  2. 目的物質の製造方法であって、
    糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該目的物質を生成する工程を含み、
    前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
    前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
  3. 前記培地が、さらに、前記目的物質の前駆体を含む、請求項2に記載の方法。
  4. 目的物質の製造方法であって、
    糖を含有する培地で目的物質生産能とプラスミドを有する微生物を培養して該プラスミドを有する菌体を生成する工程、および
    前記菌体を利用して前記目的物質の前駆体を該目的物質に変換する工程を含み、
    前記微生物が、前記糖の資化能が非改変株と比較して低下するように改変されており、
    前記プラスミドが、前記低下した資化能を補完する第1の塩基配列と前記目的物質の生産に有効な第2の塩基配列を含む、方法。
  5. さらに、前記目的物質を回収することを含む、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. 前記資化能が、前記糖の資化に関与するタンパク質P1の活性が低下することにより、低下した、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記タンパク質P1の活性が、該タンパク質をコードする遺伝子の発現を低下させることにより、または該遺伝子を破壊することにより、低下した、請求項6に記載の方法。
  8. 前記タンパク質P1の活性が、該タンパク質のアミノ酸配列の一部または全部の欠失により、低下した、請求項6または7に記載の方法。
  9. 前記第1の塩基配列が、前記糖の資化に関与するタンパク質P2をコードする遺伝子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. 前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、前記糖の取り込み系および前記糖の代謝酵素から選択されるタンパク質である、請求項9に記載の方法。
  11. 前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、解糖系の酵素から選択されるタンパク質である、請求項9または10に記載の方法。
  12. 前記タンパク質P1およびP2が、それぞれ、6−ホスホフルクトキナーゼである、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
  13. 前記6−ホスホフルクトキナーゼが、それぞれ、下記(a)、(b)、または(c)に記載のタンパク質である、請求項12に記載の方法:
    (a)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列を含むタンパク質;
    (b)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、および/または付加を含むアミノ酸配列を含み、且つ、6−ホスホフルクトキナーゼ活性を有するタンパク質;
    (c)配列番号38、72、または74に示すアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を含み、且つ、6−ホスホフルクトキナーゼ活性を有するタンパク質。
  14. 前記第2の塩基配列が、活性の増大により目的物質生産能を付与または増強できるタンパク質をコードする遺伝子および前記目的物質をコードする遺伝子から選択される遺伝子である、請求項2〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記活性の増大により目的物質生産能を付与または増強できるタンパク質が、前記目的物質の生合成酵素である、請求項14に記載の方法。
  16. 前記第2の塩基配列が、芳香族カルボン酸レダクターゼをコードする遺伝子である、請求項2〜15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 前記目的物質が、SAM依存性代謝物、アルデヒド、L−アミノ酸、核酸、有機酸、γ−グルタミルペプチド、スフィンゴイド、タンパク質、RNAから選択される、請求項2〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記目的物質が、バニリン、ベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、バニリン酸、メラトニン、エルゴチオネイン、ムギネ酸、フェルラ酸、ポリアミン、グアイアコール、4−ビニルグアイアコール、4−エチルグアイアコール、クレアチン、L−メチオニンから選択される、請求項2〜17のいずれか1項に記載の方法。
  19. 前記前駆体が、プロトカテク酸、プロトカテクアルデヒド、バニリン酸、安息香酸、桂皮酸、L−トリプトファン、L−ヒスチジン、L−フェニルアラニン、L−チロシン、L−アルギニン、L−オルニチン、グリシンから選択される、請求項3〜18のいずれか1項に記載の方法。
  20. 前記目的物質がバニリン酸である、請求項2〜19のいずれか1項に記載の方法。
  21. 前記目的物質がバニリンであり、前記前駆体がバニリン酸である、請求項3〜19のいずれか1項に記載の方法。
  22. 前記糖が、グルコースまたはスクロースである、請求項1〜21のいずれか1項に記載の方法。
  23. 前記微生物が、細菌または酵母である、請求項1〜22のいずれか1項に記載の方法。
  24. 前記微生物が、コリネ型細菌または腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌である、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
  25. 前記微生物が、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属細菌またはエシェリヒア(Escherichia)属細菌である、請求項1〜24のいずれか1項に記載の方法。
  26. 前記微生物が、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)またはエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項1〜25のいずれか1項に
    記載の方法。
  27. 前記培地が、抗生物質を実質的に含有しない、請求項1〜26のいずれか1項に記載の方法。
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