以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
以下では、本開示の実施の形態に係る二次電池システムが電動車両に搭載される構成を例に説明する。電動車両とは、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)であってもよいし、電気自動車であってもよいし、燃料電池車であってもよい。また、電動車両は、燃料電池と二次電池とを組み合わせたハイブリッド車であってもよい。ただし、本開示に係る「二次電池システム」の用途は車両用に限定されるものではなく、定置用であってもよい。
[実施の形態1]
<二次電池システムの構成>
図1は、実施の形態1に係る二次電池システムが搭載された電動車両の全体構成を概略的に示す図である。図1を参照して、車両9は、ハイブリッド車両であって、モータジェネレータ91,92と、エンジン93と、動力分割装置94と、駆動軸95と、駆動輪96と、二次電池システム10とを備える。二次電池システム10は、バッテリ4と、監視ユニット6と、パワーコントロールユニット(PCU:Power Control Unit)8と、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)100とを備える。
モータジェネレータ91,92の各々は、交流回転電機であり、たとえば、ロータに永久磁石が埋設された三相交流同期電動機である。モータジェネレータ91は、主として、動力分割装置94を経由してエンジン93により駆動される発電機として用いられる。モータジェネレータ91が発電した電力は、PCU8を介してモータジェネレータ92またはバッテリ4に供給される。
モータジェネレータ92は、主として電動機として動作し、駆動輪96を駆動する。モータジェネレータ92は、バッテリ4からの電力およびモータジェネレータ91の発電電力の少なくとも一方を受けて駆動され、モータジェネレータ92の駆動力は駆動軸95に伝達される。一方、車両の制動時や下り斜面での加速度低減時には、モータジェネレータ92は、発電機として動作して回生発電を行なう。モータジェネレータ92が発電した電力は、PCU8を介してバッテリ4に供給される。
エンジン93は、空気と燃料との混合気を燃焼させたときに生じる燃焼エネルギーをピストンやロータなどの運動子の運動エネルギーに変換することによって動力を出力する内燃機関である。
動力分割装置94は、たとえば、サンギヤ、キャリア、リングギヤの3つの回転軸を有する遊星歯車機構(図示せず)を含む。動力分割装置94は、エンジン93から出力される動力を、モータジェネレータ91を駆動する動力と、駆動輪96を駆動する動力とに分割する。
バッテリ4は、複数のセル(単電池)61を含んで構成された組電池である。本実施の形態における各セル5は、リチウムイオン二次電池である。各セル5の構成については図2にて説明する。
バッテリ4は、モータジェネレータ91,92を駆動するための電力を蓄え、PCU8を通じてモータジェネレータ91,92へ電力を供給する。また、バッテリ4は、モータジェネレータ91,92の発電時にPCU8を通じて発電電力を受けて充電される。
監視ユニット6は、電圧センサ71と、電流センサ72と、温度センサ73とを含む。電圧センサ71は、組電池であるバッテリ4に含まれる各セル5の電圧を検出する。電流センサ72は、バッテリ4に入出力される電流を検出する。温度センサ73は、セル5毎の温度を検出する。各センサは、その検出結果をECU100に出力する。
なお、電圧センサ71は、たとえば直列接続された複数のセル5を監視単位として電圧VBを検出してもよい。また、温度センサ73は、互いに隣接して配置された複数のセル5を監視単位として温度TBを検出してもよい。このように、本実施の形態では、監視単位は特に限定されない。よって、以下では説明の簡略化のため、単に「バッテリ4の電圧VBを検出する」あるいは「バッテリ4の温度TBを検出する」と記載する。電位、OCVおよびSOCについても同様に、バッテリ4を各処理の実行単位として記載する。
PCU8は、ECU100からの制御信号に従って、バッテリ4とモータジェネレータ91,92との間で双方向の電力変換を実行する。PCU8は、モータジェネレータ91,92の状態をそれぞれ別々に制御可能に構成されており、たとえば、モータジェネレータ91を回生状態(発電状態)にしつつ、モータジェネレータ92を力行状態にすることができる。PCU8は、たとえば、モータジェネレータ91,92に対応して設けられる2つのインバータと、各インバータに供給される直流電圧をバッテリ4の出力電圧以上に昇圧するコンバータ(いずれも図示せず)とを含んで構成されている。
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)100Aと、メモリ(より具体的にはROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))100Bと、各種信号を入出力するための入出力ポート(図示せず)とを含んで構成されている。ECU100は、監視ユニット6の各センサから受ける信号ならびにメモリ100Bに記憶されたプログラムおよびマップに基づいて、バッテリ4の状態を推定する。ECU100により実行される主要な処理として、バッテリ4の正極電位V1および負極電位V2を含む様々な電位成分を算出する「電位算出処理」が挙げられる。ECU100は、「電位算出処理の結果に応じて、バッテリ4のSOCを推定したりバッテリ4の充放電を制御したりする。
なお、正極電位V1とは、バッテリ4が通電状態にあるときの正極(図2参照)の電位である。負極電位V2とは、バッテリ4が通電状態にあるときの負極の電位である。一方、バッテリ4が非通電状態(無負荷状態)にあるとき、正極の電位を正極開放電位(OCP:Open Circuit Potential)U1と言い、負極の電位を負極開放電位U2と言う。これらの電位(および後述する他の電位)の基準となる電位(0V)は任意に設定可能であるが、本実施の形態では金属リチウムの電位が基準に定められる。
図2は、各セル5の構成をより詳細に説明するための図である。図2におけるセル5は、その内部を透視して図示されている。
図2を参照して、セル5は、角型(略直方体形状)の電池ケース51を有する。電池ケース51の上面は蓋体52によって封じられている。正極端子53および負極端子54の各々の一方端は、蓋体52から外部に突出している。正極端子53および負極端子54の他方端は、電池ケース51内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ接続されている。電池ケース51の内部には電極体55が収容されている。電極体55は、正極と負極とがセパレータを介して積層され、その積層体が捲回されることにより形成されている。電解液は、正極、負極およびセパレータ等に保持されている。
正極、セパレータおよび電解液には、リチウムイオン二次電池の正極、セパレータおよび電解液として従来公知の構成および材料をそれぞれ用いることができる。一例として、正極には、コバルト酸リチウムの一部がニッケルおよびマンガンにより置換された三元系の材料を用いることができる。セパレータには、ポリオレフィン(たとえばポリエチレンまたはポリプロピレン)を用いることができる。電解液は、有機溶媒(たとえばDMC(dimethyl carbonate)とEMC(ethyl methyl carbonate)とEC(ethylene carbonate)との混合溶媒)と、リチウム塩(たとえばLiPF6)と、添加剤(たとえばLiBOB(lithium bis(oxalate)borate)またはLi[PF2(C2O4)2])等を含む。
なお、セルの構成は特に限定されず、電極体が捲回構造ではなく積層構造を有するものであってもよい。また、角型の電池ケースに限らず、円筒型またはラミネート型の電池ケースも採用可能である。
<SOC−OCVカーブのヒステリシス>
従来、リチウムイオン二次電池の典型的な負極活物質は、グラファイト等の炭素系材料であった。これに対し、本実施の形態では、シリコン系材料(SiまたはSiO)が負極活物質として採用されている。シリコン系材料を用いることでバッテリ4のエネルギー密度が増加し、それによりバッテリ4の満充電容量を増大させることができるためである。その一方で、シリコン系材料を用いると、バッテリ4のSOC−OCVカーブにヒステリシスが顕著に現れ得る。
図3は、本実施の形態におけるバッテリ4のSOC−OCVカーブの一例を示す図である。図3において、横軸はバッテリ4のSOCを表し、縦軸はバッテリ4のOCVを表す。なお、本明細書において、OCVとは、二次電池の電圧が十分に緩和した状態、すなわち、活物質内の電荷担体の濃度(本実施の形態ではリチウム濃度)が緩和した状態での電圧を意味する。
図3には、バッテリ4の充電カーブCHGと放電カーブDCHとが示されている。充電カーブCHGは、バッテリ4を完全放電状態にしてから充電と休止(充電停止)とを繰り返すことで取得される。放電カーブDCHは、バッテリ4を満充電状態にしてから放電と休止(放電停止)とを繰り返すことで取得される。
詳細には、充電カーブCHGは、以下のように取得することができる。まず、完全放電状態のバッテリ4を準備し、たとえば5%のSOCに相当する電気量を充電する。その電気量の充電後には充電を停止し、充電により生じた分極が解消されるまでの時間(たとえば30分間)、バッテリ4を放置する。その放置時間の経過後にバッテリ4のOCVを測定する。そして、充電後のSOC(=5%)と、測定されたOCVとの組合せ(SOC,OCV)を図中にプロットする。
続いて、次の5%のSOCに相当する電気量のバッテリ4の充電(SOC=5%から10%までの充電)を開始する。充電が完了すると、同様に放置時間の経過後にバッテリ4のOCVを測定する。そして、OCVの測定結果から、バッテリ4の状態(SOCとOCVとの組合せ)を再びプロットする。その後、バッテリ4が満充電状態に至るまで同様の手順を繰り返す。このような測定を実施することによって充電カーブCHGを取得することができる。
同様に、バッテリ4が満充電状態から完全放電状態に至るまで、今度はバッテリ4の放電と放電停止とを繰り返しながら、5%刻みのSOCにおけるバッテリ4のOCVを測定する。このような測定を実施することによって放電カーブDCHを取得することができる。取得された充電カーブCHGおよび放電カーブDCHは、ECU100のメモリ100Bに格納されている。
充電カーブCHG上のOCVを「充電OCV」とも称し、放電カーブDCH上のOCVを「放電OCV」とも称する。充電OCVは各SOCにおけるOCVの最高値を示し、放電OCVは各SOCにおけるOCVの最低値を示している。バッテリ4の状態は、充電OCV上、放電OCV上、および、充電OCVと放電OCVとにより囲まれた領域(以下、「中間領域A」とも称する)内のいずれかにプロットされることとなる(後述する図10および図11参照)。充電OCVと放電OCVとの乖離(たとえば150mV程度の電圧差が生じること)がバッテリ4におけるヒステリシスの存在を表している。
<局所リチウム量>
次に、本実施の形態におけるバッテリ4の劣化状態推定の概要について説明する。まず、この劣化推定の考え方においては、ある活物質モデル(電池モデル)が用いられる。この活物質モデルでは、正極活物質を1粒子として模式的に表すとともに、負極活物質を別の粒子として模式的に表される。
図4は、本実施の形態における活物質モデルを説明するための図である。図4を参照して、本実施の形態における活物質モデルでは、バッテリ4の正極を1つの活物質(1粒子)により代表して表すとともに、負極を1つの活物質(1粒子)により代表して表す電池モデルが採用される。前者の粒子を「正極粒子1」と記載し、後者の粒子を「負極粒子2」と記載する。
図4にはバッテリ4の放電時の様子が示されている。バッテリ4の放電時には、負極粒子2からリチウムイオン(Li+で示す)が脱離する一方で、正極粒子1にリチウムイオンが挿入される。このとき、バッテリ4には総電流ITが流れる。(図示しないが、バッテリ4の充電時には、電流(総電流IT)の向きが図4に示した向きとは逆になる。なお、本明細書では、充電時の電流は負とし、放電時の電流を正としている。
図5は、活物質モデルに使用されるパラメータ(変数および定数)を説明するための図である。図6は、活物質モデルに使用される添字(下付き添字)を説明するための図である。図5および図6に示すように、添字iは、正極粒子1と負極粒子2とを互いに区別するためのものであり、i=1,2のいずれかに定められる。i=1の場合には正極粒子1における値であることを意味し、i=2の場合には負極粒子2における値であることを意味する。また、活物質モデルに使用されるパラメータのうち、添字eが付されたものは電解液中の値であることを意味し、添字sが付されたものは活物質中の値であることを意味する。
以下に説明するように、本実施の形態における活物質モデルでは、正極粒子1および負極粒子2の各々の内部におけるリチウム濃度分布が算出される。
図7は、正極粒子1および負極粒子2の内部におけるリチウム濃度分布の算出手法を説明するための図である。図7を参照して、本実施の形態では、球状の正極粒子1の内部において、極座標の周方向のリチウム濃度分布は一様と仮定され、極座標の径方向のリチウム濃度分布のみが考慮される。言い換えると、正極粒子1の内部モデルは、リチウムの移動方向を径方向に限定した1次元モデルである。
正極粒子1は、その径方向にN個(N:2以上の自然数)の領域に仮想的に分割される。各領域は、添字k(k=1〜N)により互いに区別される。領域kにおけるリチウム濃度c1kは、正極粒子1の径方向における領域kの位置r1kと、時間tとの関数として表される(下記式(1)参照)。
詳細な算出手法については後述するが、本実施の形態では、各領域kのリチウム濃度cs1kが算出され(すなわちリチウム濃度分布が算出され)、さらに、算出されたリチウム濃度c1kが規格化される。具体的には、下記式(2)に示すように、リチウム濃度の最大値(以下、「限界リチウム濃度」と称する)c1,maxに対するリチウム濃度c1kの算出値の比率が領域k毎に算出される。限界リチウム濃度c1,maxは、正極活物質の種類に応じて定まる濃度であり、文献により既知である。
以下では、規格化後の値であるθ1kを領域kの「局所リチウム量」と称する。局所リチウム量θ1kは、正極粒子1の領域kに含まれるリチウム量に応じて0〜1の範囲内の値を取る。また、k=Nである最外周領域N(すなわち正極粒子1の表面)における局所リチウム量θ1Nを「表面リチウム量」と称し、θ1_surfで表す。さらに、下記式(3)に示すように、領域k(k=1〜N)の体積ν1kと局所リチウム量θ1kとの積の合計を求め、その合計を正極粒子1の体積(正極活物質の体積)で割った値を「平均リチウム量」と称し、θ1_aveで表す。
図7では正極活物質を表す粒子(正極粒子1)を例に説明したが、負極活物質を表す粒子(負極粒子2)の内部におけるリチウム濃度分布および局所リチウム量(の分布)の算出手法も同等である。なお、正極粒子1と負極粒子2との間で領域分割数が異なってもよいが、本実施の形態では、説明の簡易化のため、分割数がいずれもNであるとしている。
図8は、正極粒子1のリチウム量θ1と正極開放電位U1との関係、および、負極粒子2のリチウム量θ2と負極開放電位U2との関係を模式的に示す図である。図8に示されたリチウム量θ1と正極開放電位U1との関係は、バッテリ4の初期状態(たとえばバッテリ4の製造直後など、バッテリ4の劣化が生じていない状態)におけるものである。リチウム量θ2と負極開放電位U2との関係も同様に、バッテリ4の初期状態のものである。
正極開放電位U1と負極開放電位U2との差がバッテリ4のOCVに相当する。図6に示されるように、正極開放電位U1と負極開放電位U2との差は、リチウム量θ2が図中右方向(バッテリ4の充電方向)に向かうにつれて大きくなる。
二次電池は、一般に、その使用条件および使用時間により劣化し、その満充電容量が減少することが知られている。二次電池の満充電容量の減少は、主に、正極および負極における「単極容量の減少」と、正極と負極との間の「組成対応ずれ」とによって発生する。本実施形態では、3つの劣化パラメータを活物質モデルに導入することにより、上記2つの劣化現象がモデル化される。3つの劣化パラメータとは、正極容量維持率k1、負極容量維持率k2、および、ずれ量ΔQsである。以下、これらの劣化パラメータについて説明する。なお、正極容量維持率k1、負極容量維持率k2、および、ずれ量ΔQsは、本開示に係る「第1〜第3の劣化パラメータ」にそれぞれ相当する。
<単極容量の減少>
単極容量の減少とは、正極および負極の各々におけるリチウムイオンの受け入れ能力の減少である。言い換えると、単極容量の減少とは、正極活物質(正極粒子1)中での限界リチウム濃度cs1N,maxの減少と、負極活物質(負極粒子2)中での限界リチウム濃度cs2N,maxの減少とを表わす。
図9は、単極容量の減少を説明するための図である。図9において、横軸は正極容量および負極容量を表し、縦軸は電位を表す。図9には、バッテリ4の劣化に伴う正極容量に対する正極開放電位U1の変化と、バッテリ4の劣化に伴う負極容量に対する負極開放電位U2の変化とが模式的に示されている。
正極容量の横軸を参照して、Q10は、バッテリ4の初期状態における、正極粒子1のリチウム量θ1=0に対応する正極容量である。Q1Aは、バッテリ4の初期状態における、リチウム量θ1=1に対応する正極容量である。バッテリ4が劣化し、正極活物質のリチウムイオンの受け入れ能力が低下すると、リチウム量θ1=1に対応する正極容量は、Q1AからQ1Bに減少する。
また、負極容量の横軸を参照して、Q20は、バッテリ4の初期状態における、負極粒子2のリチウム量θ2=0に対応する負極容量である。Q2Aは、バッテリ4の初期状態における、リチウム量θ2=1に対応する負極容量である。負極側においても同様に、バッテリ4が劣化して負極活物質のリチウムイオンの受け入れ能力が低下すると、リチウム量θ2=1に対応する容量がQ2AからQ2Bに減少する。
その一方で、バッテリ4が劣化しても、リチウム量θ1と正極開放電位U1との関係(図8参照)は変化しない。このため、リチウム量θ1と正極開放電位U1との関係を、正極容量と正極開放電位U1との関係に変換すると、バッテリ4の劣化状態での正極容量と正極開放電位U1との関係を示す曲線(U1Bで表す)は、バッテリ4の初期状態での曲線(U1Aで表す)と比べて、バッテリ4が劣化した分だけ図中左方向(バッテリ4の放電方向)に縮むこととなる。負極側についても同様に、バッテリ4の劣化状態での負極容量と負極開放電位U2との関係を示す曲線(U2Bで表す)は、初期状態での曲線(U2Aで表す)と比べて、バッテリ4が劣化した分だけ図中左方向に縮む。
正極容量維持率k1とは、バッテリ4の初期状態での正極容量に対する、バッテリ4の劣化状態での正極容量の割合であり、下記式(4)により表される。正極容量維持率k1は、バッテリ4の初期状態では1であり、バッテリ4が劣化するに従って1から低下する(0<k<1)。
ここで、バッテリ4が劣化することによる正極容量の減少量をΔQ1で表す。したがって、式(4)の分母は、バッテリ4が劣化状態となったときの正極容量Q1B=(Q1_ini−ΔQ1)である。なお、初期状態での正極容量Q1Aは、正極活物質の理論容量および仕込み量などから予め求めておくことができる。
負極容量維持率k2とは、バッテリ4の初期状態での負極容量に対する、バッテリ4の劣化状態での負極容量の割合であり、下記式(5)により表される。負極容量の特徴は正極容量の特徴と同様であるため、負極容量の詳細な説明は繰り返さない。
<組成対応ずれ>
組成対応ずれとは、正極粒子1のリチウム量θ1(いわば正極の組成)と負極粒子2のリチウム量θ2(負極の組成)との対応関係(組み合わせ)がバッテリ4の初期状態での対応関係からずれることをいう。バッテリ4が初期状態である場合には、正極および負極のうちの一方から放出されるリチウムイオンの量と、他方で受け取られるリチウムイオンの量とは、互いに等しい。この場合には、リチウム量θ1とリチウム量θ2とは正確に対応している。しかし、バッテリ4が劣化すると、以下の2つの要因により、リチウム量θ1とリチウム量θ2との対応関係がずれる可能性がある。
第1の要因は、負極から放出されたリチウムイオンにより負極表面に被膜が形成されることである。被膜形成に用いられたリチウムイオンは、不活性になり、その後の充放電に寄与しなくなる。第2の要因は、正極から放出されたリチウムイオンが負極に取り込まれずに負極表面に金属リチウムとして析出することである(いわゆるリチウム析出)。この場合にも、金属リチウムとして析出したリチウムイオンも、その後の充放電に寄与しなくなる。第1および第2の要因による劣化が進行すると、負極からのリチウムイオンの放出に伴い、負極粒子2のリチウム量θ2が低下する一方で、放出されたリチウムイオンは正極に取り込まれないため、正極粒子1のリチウム量θ1は増加しない。その結果、リチウム量θ1とリチウム量θ2との対応関係がバッテリ4の初期状態での対応関係からずれる。すなわち、組成対応ずれが生じる。
これら2つの要因により組成対応ずれが生じると、バッテリ4の容量が変化する。この容量変化量を前述のようにずれ量ΔQsで表す。なお、初期状態のバッテリ4では、ずれ量ΔQs=0である。
図10は、正極と負極との間の組成対応ずれを説明するための図である。図10において、縦軸は電位を表す。横軸は、上から順に、正極粒子1のリチウム量θ1、初期状態における負極粒子2のリチウム量θ2、および、劣化後の負極粒子2のリチウム量θ2を表す。
バッテリ4が劣化すると、バッテリ4の初期状態と比べて、負極粒子2のリチウム量θ2を表す横軸が図中右方向(正極粒子1のリチウム量θ1が小さくなる方向)にΔθ2だけシフトする。そうすると、劣化後の負極粒子2のリチウム量θ2と負極開放電位U2との関係を示す曲線(U2Bで表す)も、初期状態での負極粒子2のリチウム量θ2と負極開放電位U2との関係を示す曲線(U2Aで表す)と比べて、図中右方向にΔθ2だけシフトすることとなる。その結果、正極粒子1のリチウム量θ1=θ1Pに対応する負極粒子2のリチウム量θ2は、バッテリ4が初期状態にあるときにはθ2=θ2Pであるが、バッテリ4の劣化後にはθ2=θ2Qとなる。なお、バッテリ4が劣化して正極と負極との間の組成対応ずれが生じた場合であっても、正極粒子1のリチウム量θ1を表す横軸はシフトしない。
ずれ量ΔQsとは、負極粒子2のリチウム量θ2のシフト量Δθ2に対応する容量変化量である。また、バッテリ4の劣化後において、負極粒子2のリチウム量θ2が1である場合の負極容量Q2Bは、(Q2A−ΔQ2)である(上記式(5)参照)。これらのパラメータの間には下記式(6)に示す比例関係が成り立つ。
式(5)と式(6)とを連立させて、ずれ量ΔQsについて解くと、下記式(7)が導かれる。
次に、バッテリ4の劣化後における負極粒子2のリチウム量θ2=θ2Qがどのように表されるかを説明する。劣化状態のバッテリ4が充電され、正極粒子1からリチウムイオンが放出されると、正極粒子1のリチウム量θ1は、1から減少する。リチウム量θ1が1からθ1Pまで減少した場合に、リチウム量θ1の減少量は(1−θ1P)である。また、劣化状態のバッテリ4の正極容量は、(k1×Q1B)と表される。そのため、正極粒子1から放出されるリチウムの量は、(1−θ1P)×k1×Q1Bと表される。一方、劣化状態のバッテリ4の負極容量は、(k2×Q2B)と表される。したがって、正極粒子1から放出されたリチウムがすべて負極粒子2に取り込まれるとすると(つまり、正極と負極との間に組成対応ずれが生じていないとすると)、負極粒子2のリチウム量θ2=θ2Pは、下記式(8)のように表される。
正極と負極との間に組成対応ずれが存在する場合には、劣化後の負極粒子2のリチウム量θ2=θ2Qは、式(8)をΔθ2だけシフトさせて下記式(9)のように表される。
シフト量Δθ2は、上記式(7)のようにずれ量ΔQsを用いて表すことができる。したがって、式(7)および式(9)より、劣化後の負極粒子2のリチウム量θ2=θ2Qは、下記式(10)のように表すことができる。
<負極開放電位の特定>
初期状態における正極容量Q1Aおよび負極容量Q2Bは、活物質の理論容量や仕込み量から予め求めておくことができる。そのため、式(10)によれば、3つの劣化パラメータ(正極容量維持率k1、負極容量維持率k2、および、ずれ量ΔQs)が特定されると、正極粒子1のリチウム量θ1=θ1Pに対応する負極粒子2のリチウム量θ2=θ2Qを一意に特定可能であることが分かる。バッテリ4が劣化しても、負極粒子2のリチウム量θ2と負極開放電位U2との関係(負極開放電位U2を表す曲線形状)は、変化しない。したがって、劣化状態のリチウム量θ1とリチウム量θ2との相対的な位置関係が特定されれば、負極開放電位U2も特定される。具体的には、劣化状態のリチウム量θ2の1と0の間の範囲内に負極開放電位U2の曲線を描けばよい。
詳細は後述するが、実施の形態1では、3つの劣化パラメータをある値に設定し、劣化状態における負極開放電位U2を算出する。また、負極開放電位U2を別の手法により測定する。3つの劣化パラメータから算出された負極開放電位U2と、測定された負極開放電位U2とを比較する。より詳細には、両者が略一致するまで、3つの劣化パラメータを変化させて収束演算を実行する。そうすると、この収束演算が完了したときの劣化パラメータを、バッテリ4の劣化状態を表すパラメータとして採用することができる。
<負極活物質の表面応力>
図8〜図10では、負極開放電位U2が1本の曲線により表される一般的な系(たとえば炭素系)の例に、3つの劣化パラメータの概念について説明した。しかし、図3にて説明したように、負極活物質にシリコン系材料(SiまたはSiO)を用いた場合、バッテリ4の充放電にヒステリシスが存在する。このヒステリシスの影響は、単極容量の減少および組成対応ずれに起因する劣化パラメータを算出する際にも現れ得る。
図11は、ヒステリシスが単極電位の減少および組成対応ずれに及ぼす影響を模式的に示す図である。図11ならびに後述する図23および図24の縦軸は電位を表し、横軸は容量(正極容量または負極容量)を表す。図11に示すように、負極開放電位U2は、単極容量の減少および組成対応ずれの影響を受けるとともに、充放電のヒステリシスの影響を受ける。そこで、実施の形態1においては、上記3つの劣化パラメータに基づいてバッテリ4の劣化状態を推定する際に、ヒステリシスの影響を考慮して負極開放電位U2を算出する。
ヒステリシスが生じる要因としては、充放電に伴う負極活物質(負極粒子2)の体積変化が考えられる。負極活物質は、リチウムの挿入に伴い膨張し、リチウムの脱離に伴い収縮する。このような負極活物質の体積変化に伴い、負極活物質の表面および内部に応力が発生し、負極活物質内のリチウム濃度が緩和した状態においても負極表面に応力が残留する。負極表面に残留する応力とは、負極活物質の内部で発生した応力と、負極活物質の体積変化に伴って負極活物質の周辺部材(バインダ、導電助剤など)から負極活物質に働く反作用力などとを含む様々な力が系全体で釣り合った状態での応力であると考えられる。以下、この応力のことを「表面応力σsurf」と記載する。
リチウムの挿入または脱離に伴うシリコン系材料の体積変化量は、グラファイトの体積変化量よりも大きい。具体的には、リチウムが挿入されていない状態での最小体積を基準とした場合に、リチウムの挿入に伴うグラファイトの体積変化量(膨張率)が1.1倍程度であるのに対して、シリコン系材料の体積変化量は最大で4倍程度である。そのため、負極活物質がシリコン系材料である場合には、負極活物質がシリコン系材料でない場合(負極活物質がグラファイトである場合)と比べて、表面応力σsurfが大きくなる。
なお、表面応力σsurfは、薄膜評価を通じて測定する(見積もる)ことができる。表面応力σsurfの測定手法の一例を簡単に説明する。まず、表面応力σsurfにより変形した薄膜である負極の曲率κの変化が測定される。たとえば市販の曲率半径測定システムを用いることによって曲率κを光学的に測定することができる。そして、測定された曲率κと、負極(負極活物質および周辺部材)の材料および形状に応じて定まる定数(ヤング率、ポアソン比、厚みなど)とをストーニーの式に代入することにより、表面応力σsurfを算出することができる(応力測定の詳細については、たとえば非特許文献1を参照)。
図12は、バッテリ4の充放電に伴う表面応力σsurfの変化の一例を模式的に示す図である。図12において、図4において、横軸は負極活物質におけるリチウム量θ2を表し、縦軸は表面応力σsurfを表す。
図12には、まず、リチウム量θ2が最小であるθ2,min(たとえばθ2,min=0)の状態からリチウム量θ2が最大であるθ2,max(たとえばθ2,max=1)の状態まで、バッテリ4が充電され、その後、θ2,maxの状態からθ2,minの状態までバッテリ4が放電された場合の表面応力σsurfの変化の一例が模式的に示されている。なお、表面応力σsurfについては、負極活物質の収縮時(バッテリ4の放電時)に発生する引っ張り応力σtenを正方向で表し、負極活物質の膨張時(バッテリ4の充電時)に発生する圧縮応力σcomを負方向で表している。
リチウム量がθ2,minである状態からの充電開始直後には、表面応力σsurfの大きさが線形に変化する。この充電中のリチウム量θ2の領域(θ2,min≦θ2≦Xの領域)では、負極活物質表面の弾性変形が起こっていると考えられる。これに対し、それ以降の領域(X<θ2≦θ2,maxの領域)においては、表面応力σsurfの大きさは、ほぼ一定である。このとき、負極活物質の表面が弾性変形を超えて塑性変形に至っていると考えられる。一方、バッテリ4の放電時においては、リチウム量がθ2,maxである状態からの放電開始直後の領域(Y≦θ2≦θ2,maxの領域)では負極活物質の表面で弾性変形が起こり、それ以降の領域(θ2,min≦θ2<Yの領域)では負極活物質の表面の塑性変形が起こっていると考えられる。
なお、図12では、表面応力σsurfのすべての変化が直線で示されているが、これは、表面応力σsurfの変化を模式的に示すものに過ぎない。実際には、降伏後の塑性領域(塑性変形が起こるリチウム量θ2の領域)でも表面応力σsurfの非線形的な変化が生じる(たとえば非特許文献1の図2参照)。図12に模式的に示す平行四辺形の外周は、図3に示したSOC−OCVカーブに挟まれた領域(中間領域A)の外周と対応している。
<ΔOCP算出処理の機能ブロック>
実施の形態1では、バッテリ4の劣化状態の推定に先立ち、ヒステリシスによる開放電位変化量ΔOCPが算出される。この処理を「ΔOCP算出処理」と称する。
図13は、実施の形態1におけるΔOCP算出処理に関するECU100の機能ブロック図である。図13を参照して、ECU100は、パラメータ設定部110と、交換電流密度算出部121と、反応過電圧算出部122と、濃度分布算出部131と、リチウム量算出部132と、表面応力算出部133と、ΔOCP算出部134と、開放電位算出部135と、塩濃度差算出部141と、塩濃度過電圧算出部142と、収束条件判定部151と、電流設定部152とを含む。
パラメータ設定部110は、他の機能ブロックによる演算に用いられるパラメータを出力する。具体的には、パラメータ設定部110は、電圧センサ71からバッテリ4の電圧VBを受けるとともに、温度センサ73から電池モジュール(図示せず)の温度TBを受ける。パラメータ設定部110は、電圧VBをバッテリ4の測定電圧Vmeasとして設定するとともに、温度TBを絶対温度T(単位:ケルビン)に換算する。測定電圧Vmeasおよび絶対温度T(または温度TB)は、他の機能ブロックに出力される。なお、絶対温度Tは多くの機能ブロックにより出力されるので、図面が煩雑になるのを防ぐため、絶対温度Tの伝達を示す矢印の図示は省略されている。
それに加えて、パラメータ設定部110は、拡散係数Ds1,Ds2を濃度分布算出部131に出力する。拡散係数Ds1,Ds2としては、それぞれ、局所リチウム量θ1,θ2に応じて異なる値(平均リチウム量であってもよいし表面リチウム量であってもよい)を設定することが好ましい。
詳細は後述するが、収束条件判定部151および電流設定部152により実行される反復法による演算処理では、可変に設定されるパラメータとして総電流ITが用いられる。パラメータ設定部110は、前回演算時に電流設定部152により設定された総電流ITを受け、この電流を今回演算時に使用するパラメータとして他の機能ブロックに出力する。
交換電流密度算出部121は、パラメータ設定部110から絶対温度Tを受けるとともに、リチウム量算出部132から、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfおよび負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを受ける。交換電流密度算出部121は、他の機能ブロックから受けたパラメータに基づいて、正極粒子1の交換電流密度i0_1および負極粒子2の交換電流密度i0_2を算出する。
より詳細には、交換電流密度i0_1とは、正極粒子1における酸化反応に対応するアノード電流密度と、正極粒子1における還元反応に対応するカソード電流密度とが等しくなるときの電流密度である。交換電流密度i0_1は、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfおよび絶対温度Tに依存する特性を有する。したがって、交換電流密度i0_1と表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、リチウム量算出部132により算出される表面リチウム量θ1_surf(後述)と、絶対温度Tとから、交換電流密度i0_1を算出することができる。負極粒子2の交換電流密度i0_2も同様であるため、説明は繰り返さない。
反応過電圧算出部122は、パラメータ設定部110から絶対温度Tを受けるとともに、パラメータ設定部110から総電流ITを受ける。また、交換電流密度算出部121から交換電流密度i0_1,i0_2を受ける。そして、反応過電圧算出部122は、バトラー・ボルマー(Butler-Volmer)の関係式から導かれる下記式(11)および式(12)に従って、正極粒子1の反応過電圧(正極過電圧)η1と、負極粒子2の反応過電圧(負極過電圧)η2とをそれぞれ算出する。なお、反応過電圧とは、活性化過電圧とも呼ばれ、電荷移動反応(リチウムの挿入/脱離反応)に関連する過電圧である。算出された各反応過電圧η1,η2は、収束条件判定部151に出力される。
濃度分布算出部131は、パラメータ設定部110から正極粒子1におけるリチウムの拡散係数Ds1を受ける。濃度分布算出部131は、正極活物質(正極粒子1)を球として扱った極座標系の拡散方程式である下記式(13)を時間発展的に解くことによって、正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。正極粒子1の表面(位置r1=R1)におけるリチウム濃度の変化量は総電流ITに比例することから、拡散方程式(13)の境界条件は、式(14)のように設定される。
一方、負極粒子2についての極座標系の拡散方程式は、下記式(15)のように表される。式(15)は、表面応力σsurfにより生じる負極粒子2内でのリチウムの拡散を考慮するための拡散項を右辺第2項に含む点において、正極粒子1についての拡散方程式(式(13))と異なる。
より詳細には、表面応力σsurfに由来する拡散項は、電解液中での負極粒子2の静水圧応力σh(r)を用いて下記式(16)のように表される。式(16)では、負極活物質(負極粒子2)が塑性変形しないと仮定し、弾性限界内での負極粒子2のヤング率およびポアソン比をEおよびνでそれぞれ表している。また、負極粒子2が周辺部材から受ける合計応力がFexにより表されている。
静水圧応力σh(r)を表す式(16)を拡散方程式である上記式(15)に代入すると、式(15)は以下のように変形される(下記式(17)参照)。
式(17)は、下記式(18)により定義される実効拡散係数Ds2 effを用いて下記式(19)のように変形される。実効拡散係数Ds2 effは正の値であることから、式(19)により、表面応力σsurfが負極粒子2内でのリチウムの拡散を速める方向に作用することが分かる。また、表面応力σsurfの影響が負極粒子2内の各点(拡散方程式が演算される各格子点)におけるリチウム濃度cs2に応じて定まることも分かる。
なお、上記式(19)の拡散方程式の境界条件は、下記式(20)のように静水圧応力σh(r)に依存する項をさらに含む点において、正極粒子1についての境界条件(式(14)参照)と異なる。
このように、濃度分布算出部131は、2粒子(正極粒子1および負極粒子2)の各々の内部におけるリチウム濃度分布を別々に算出する。算出されたリチウム濃度分布は、リチウム量算出部132に出力される。
リチウム量算出部132は、濃度分布算出部131から2粒子の各々の内部におけるリチウム濃度分布(cs1,cs2)を受け、各種リチウム量を算出して他の機能ブロックに出力する。
具体的には、リチウム量算出部132は、正極粒子1のリチウム濃度分布cs1に基づいて正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfを算出する(上記式(2)参照)。同様に、リチウム量算出部132は、負極粒子2のリチウム濃度分布に基づいて負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを算出する。算出された表面リチウム量θ2_surfは、開放電位算出部135に出力される。
また、リチウム量算出部132は、上記式(3)に従い、正極粒子1のリチウム濃度分布cs1に基づいて平均リチウム量θ1_aveを算出する。同様に、リチウム量算出部132は、負極粒子2のリチウム濃度分布cs_Siに基づいて負極粒子2の平均リチウム量θ2_aveを算出する。算出された平均リチウム量θ1_ave,θ2_aveは、表面応力算出部133に出力される。
表面応力算出部133は、リチウム量算出部132からの平均リチウム量θ2_aveに基づいて表面応力σsurfを算出する。表面応力σsurfの算出手法については後に詳細に説明する。算出された表面応力σsurfは、ΔOCP算出部134に出力される。
ΔOCP算出部134は、表面応力算出部133からの表面応力σsurfに基づいて、ヒステリシスによる開放電位変化量ΔOCPを算出する。開放電位変化量ΔOCPとは、表面応力σsurfによる負極粒子2の開放電位の変化量であるとも言える。また、表面応力σsurfが発生していない状態を「理想状態」と呼び、理想状態での負極粒子2の開放電位を「理想開放電位U2_sta」と呼ぶことにすると、開放電位変化量ΔOCPとは、理想開放電位U2_staを基準とした、表面応力σsurfによる負極粒子2の開放電位のずれ量であるとも言い換えられる。開放電位変化量ΔOCPは、リチウム1モル当たりのシリコン系化合物(SiまたはSiO)の体積変化量Ωと、ファラデー定数Fとを用いて、下記式(21)に従って表面応力σsurfから算出される。算出された開放電位変化量ΔOCPは、開放電位算出部135に出力される。
開放電位算出部135は、リチウム量算出部132からの正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfに基づいて正極粒子1の開放電位(正極開放電位)U1を算出する。より具体的には、正極粒子1は、その径方向にN個の領域に仮想的に分割されているが、正極粒子1の開放電位U1は、最外周領域Nである正極粒子1の表面における局所リチウム量θ1N(表面リチウム量θ1_surf)に応じて定まる(下記式(22)参照)。そのため、開放電位U1と表面リチウム量θ1_surfとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を事前実験により作成することによって、表面リチウム量θ1_surfから開放電位U1を算出することができる。
一方、負極粒子2の開放電位(負極開放電位)U2を算出する際には、表面応力σsurfの影響が考慮される。開放電位U2は、下記式(23)に示すように、表面応力σsurfが発生していない状態(理想状態)での負極粒子2の開放電位(理想開放電位)U2_staに開放電位変化量ΔOCPを加算することにより算出される。式(22)および式(23)に従ってそれぞれ算出された開放電位U1,U2は、収束条件判定部151に出力される。
バッテリ4の充放電に伴い電解液中のリチウムイオンの濃度ceが変化し、電解液中にリチウムイオンの濃度勾配が生じ得る。そうすると、正極活物質(正極粒子1)と負極活物質(負極粒子2)との間にリチウムイオンの濃度勾配に起因する塩濃度過電圧ΔVeが生じ、正極電位V1および負極電位V2に影響を与える可能性がある。
塩濃度差算出部141は、正極活物質と負極活物質との間のリチウムイオンの濃度差Δceを算出する。リチウムイオンの濃度差Δceは、電解液の拡散係数De、電解液の体積分率εe、リチウムイオンの輸率t+ 0および電流(総電流IT)に依存するため、たとえば以下の式(24)〜式(26)に従って算出することができる。漸化式である式(17)が所定の演算周期毎に繰り返し解かれるところ、式(24)〜式(26)では、その演算周期をΔτで表している。なお、肩(右上)にtが付されたパラメータは今回の演算時のものであることを示し、肩に(t−Δτ)が付されたパラメータは前回の演算時のものであることを示す。算出された濃度差Δceは、塩濃度過電圧算出部142に出力される。
塩濃度過電圧算出部142は、下記式(27)に従い、塩濃度差算出部141により算出されたリチウムイオンの濃度差Δceから塩濃度過電圧ΔVeを算出する。算出された塩濃度過電圧ΔVeは、収束条件判定部151に出力される。
収束条件判定部151および電流設定部152は、バッテリ4の各種電位成分を算出するための反復法の演算処理を実行する。本実施の形態では、代表的な反復法の1つであるニュートン法が用いられる。ただし、反復法の種類はこれに限定されるものではなく、2分法または割線法などの他の非線形方程式の解法を用いてもよい。
前述した各機能ブロックによる演算では、前回演算時に電流設定部152により設定された総電流ITが用いられている。収束条件判定部151は、総電流ITに基づく各種電位成分の算出結果を他の機能ブロックから受ける。より詳細には、収束条件判定部151は、反応過電圧算出部122から反応過電圧η1,η2を受け(式(11)および式(12)参照)、開放電位算出部135から開放電位U1,U2を受け(式(23)および式(24)参照)、パラメータ設定部110から測定電圧Vmeas(バッテリ4の電圧の測定値)を受け、塩濃度過電圧算出部142から塩濃度過電圧ΔVeを受ける(式(20)参照)。また、図示しないが、収束条件判定部151は、パラメータ設定部110から直流抵抗Rdを受ける(詳細は後述)。
収束条件判定部151は、電圧と電流との間に成立する下記関係式(28)に従って、正極電位V1と、負極電位V2と、直流抵抗Rdによる電圧降下量(=ITRd)と、塩濃度過電圧ΔVeとから、バッテリ4の電圧を算出する。算出された電圧を測定電圧Vmeas(電圧センサ71による測定値)と区別して「演算電圧Vcalc」と記載する。
式(28)における正極電位V1は、下記式(29)により算出される。負極電位V2は、下記式(30)により算出される。
そして、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとを比較することによって、反復法の収束条件が満たされているかどうかを判定する。具体的には、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとがほぼ一致しているか(これら電圧間の誤差が所定値PD未満であるか)どうかを判定する。演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差(=|Vcalc−Vmeas|)が所定値PD以上である場合には、収束条件判定部151は、反復法の収束条件が満たされていないとする判定結果を電流設定部152に出力する。
電流設定部152は、収束条件が満たされていない旨の判定結果を収束条件判定部151から受けると、総電流ITを次回演算時に使用するための値に更新する。より詳細には、電流設定部152は、ニュートン法のアルゴリズムを用いて、前回演算時および今回演算時に使用された総電流ITから、次回演算時に使用される総電流ITを設定する。このようにして更新された総電流ITは、パラメータ設定部110に出力され、次回演算時に用いられることとなる。
このようにして、収束条件判定部151および電流設定部152は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差が所定値PD未満になるまで反復的に演算処理を行なう。上記誤差が、所定値PD未満になると、反復演算処理が収束したとして、収束条件判定部151は、バッテリ4の劣化状態の推定に必要なパラメータ(正極開放電位U1、負極開放電位U2、開放電位変化量ΔOCP)を後段の処理に出力する。
<表面応力の算出>
続いて、シリコン活物質の表面応力σsurfの算出手法について詳細に説明する。以下では、シリコン材料のリチウム量θSi(たとえば平均リチウム量θSi_ave)とシリコン開放電位USiとの組合せ(θSi,USi)としてシリコン材料のリチウム量−シリコン開放電位特性図上に表される状態を「状態P」と記載する。特に、m(mは自然数)回目の演算時における状態Pを「P(m)」と表す。本実施の形態では、状態Pの遷移に着目することによって表面応力σsurfが算出される。
図14は、シリコン負極リチウム量−シリコン負極開放電位特性図上における状態Pの遷移を説明するための概念図である。図14Aでは、バッテリ4が充電され、状態P(m)が充電曲線(破線で示す)上にプロットされる例が示されている。
状態P(m)から充電が継続された場合、(m+1)回目の演算周期における状態P(m+1)は、図14Bに示すように充電曲線上に維持される。
一方、図14Aに示す状態P(m)からバッテリ4が放電された場合には、図14Cに示すように、(m+1)回目の演算周期における状態P(m+1)は、充電曲線から外れ、充電曲線と放電曲線(1点鎖線で示す)との間の領域内にプロットされる。放電が継続されると、たとえば(m+2)回目の演算周期において、状態P(m+2)が放電曲線に到達する(図14D参照)。その後も放電が継続された場合、状態P(m+3)は、放電曲線上に維持される(図14E参照)。
図15は、シリコン活物質の表面応力σsurfの算出手法を説明するための図である。図15には、状態P(1)〜P(8)の順に充放電が行なわれた例が示されている。
より詳細には、まず、放電曲線上の状態P(1)からバッテリ4が放電され、その放電が状態P(3)まで継続される。この間の状態P(2),P(3)は、放電曲線上に維持される。そして、状態P(3)において、放電から充電への切り替えが行なわれる。充電が開始されてからの状態P(4),P(5)は、充電曲線と放電曲線との間の領域内を遷移する。その後、状態P(6)が充電曲線上にプロットされる。充電がさらに継続されている間、状態Pは、充電曲線上に維持される(状態P(7),P(8)参照)。
放電曲線上にプロットされる状態P(1)〜P(3)において、表面応力σsurfは、塑性変形域(図4参照)内で降伏しており、下記式(31)に示すように引っ張り降伏応力σtenと等しい。
一方、充電曲線上の状態P(6)〜P(8)における表面応力σsurfは、圧縮降伏応力σcomにて降伏している(下記式(32)参照)。
これに対し、状態Pが充電曲線上にも放電曲線上にもプロットされていない場合、すなわち、状態Pが充電曲線と放電曲線との間の領域内にプロットされる場合(状態P(4),P(5)参照)の表面応力σsurfをどのように算出するかが問題となる。本実施の形態においては、このような領域内の表面応力σsurfの算出に、充放電方向が切り替えられたときのシリコン単体の負極粒子2内の平均リチウム濃度cSi_aveと、そのときの表面応力σsurfとが用いられる。以下では、充放電方向が切り替えられたときの状態Pにおける平均リチウム濃度cSi_aveを「基準リチウム濃度cREF」と記載し、当該状態Pにおける表面応力σsurfを「基準表面応力σREF」と記載する。
図14に示す例では、充放電方向が切り替えられたときの状態Pとは、放電から充電への切り替え時の状態P(3)である。状態P(4),P(5)を算出する際には、状態P(3)の時点での平均リチウム濃度cSi_aveが上記式(8)〜式(10)により既に算出されている。したがって、状態P(3)における算出済みの平均リチウム濃度cSi_aveが基準リチウム濃度cREFとされる。また、状態P(3)における基準表面応力σREFは、引っ張り降伏応力σtenである(上記式(31)参照)。
中間領域A内の状態Pでは、平均リチウム濃度cSi_aveから基準リチウム濃度cREFを差し引いたリチウム濃度差(cSi_ave−cREF)と表面応力σsurfとの間に、式(33)のように表される線形関係が存在する。
この線形関係は、充放電方向が切り替えられたときの状態Pを基準とした場合に、表面応力σsurfの変化量がシリコン単体の負極粒子2内のリチウム含有量の変化量(負極粒子2へのリチウム挿入量または負極粒子2からのリチウム脱離量)に比例することを表すと理解される。
比例定数αcは、負極活物質であるシリコン系化合物および周辺部材の機械的特性に応じて定まるパラメータであり、実験により求めることができる。より詳細には、比例定数αcは、負極活物質の温度(≒温度TB)と、シリコン活物質内のリチウム含有量(言い換えれば平均リチウム濃度cSi_ave)とに応じて変化し得る。そのため、温度TBおよび平均リチウム濃度cSi_aveの様々な組合せ毎に比例定数αcが求められ、温度TBと平均リチウム濃度cSi_aveと比例定数αcとの相関関係を示すマップ(または関係式)が準備される。温度TBおよび平均リチウム濃度cSi_aveのうちのいずれか一方と比例定数αcとの相関関係を示すマップを準備してもよい。
バッテリ4の温度TBおよび平均リチウム濃度cs2_aveと比例定数αc(または比例定数αθ)との相関関係を示すマップが準備され、ECU100のメモリ100Bに予め格納されている。そのため、当該マップを参照することにより、温度TB(温度センサ72による測定値)と平均リチウム濃度cs2_ave(前回演算時における推定値)とから比例定数αcを算出することができる。そして、比例定数αc、平均リチウム濃度cs2_ave、基準リチウム濃度cREFおよび基準表面応力σREFを上記式(33)に代入することによって、上記領域内での表面応力σsurfを算出することができる。なお、表面応力σsurfの算出フローについては図19において詳細に説明する。
なお、リチウム濃度とリチウム量とは上記式(2)のように置き換え可能であるため、シリコン単体の負極粒子2の平均リチウム量θSi_aveを用いて上記式(33)を下記式(34)のように変形してもよい。
<処理フロー>
図16は、実施の形態1において実行される処理全体の流れを説明するためのフローチャートである。このフローチャートは、たとえば所定周期が経過する度にメインルーチン(図示せず)から呼び出され、ECU100により繰り返し実行される。これらのフローチャートに含まれる各ステップ(以下「S」と略す)は、基本的にはECU100によるソフトウェア処理によって実現されるが、ECU100内に作製された専用のハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
図16に示すように、ECU100は、ΔOCPを算出するためのΔOCP算出処理を実行する。また、ECU100は、ΔOCP算出処理と並行して、OCV測定処理と、それに続く劣化推定処理とを実行する。
<ΔOCP算出処理>
図17は、実施の形態1におけるΔOCP算出処理を示すフローチャートである。図17を参照して、まず、S101において、ECU100は、電圧センサ71からバッテリ4の電圧VBを取得するとともに、温度センサ73からバッテリ4の温度TBを取得する。この電圧VBが測定電圧Vmeasとして用いられるとともに、温度TBが絶対温度Tに換算される。なお、絶対温度Tは、現時刻(今回演算時)の温度TBから算出されてもよいし、予め定められた直近の所定期間内(たとえば30分間)の温度TBの加重平均から算出されてもよい。
S102において、ECU100は、正極粒子1の交換電流密度i0_1を算出する。図13にて説明したように、交換電流密度i0_1は、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとに依存する。したがって、ECU100は、交換電流密度i0_1と表面リチウム量θ1_surfと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することにより、前回演算時に算出された表面リチウム量θ1_surf(図18のS203参照)と、絶対温度Tとから、交換電流密度i0_1を算出する。ECU100は、負極粒子2の交換電流密度i0_2についても同様に、負極粒子2に対応するマップ(図示せず)を参照することにより算出する。
S103において、ECU100は、バッテリ4の直流抵抗Rdを算出する。直流抵抗Rdとは、リチウムイオンおよび電子が正極活物質と負極活物質との間を移動するときの抵抗成分である。直流抵抗Rdは、絶対温度Tに依存して変化する特性を有する。したがって、温度毎の直流抵抗Rdの測定結果に基づき、直流抵抗Rdと絶対温度Tとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を予め準備しておくことにより、絶対温度Tから直流抵抗Rdを算出することができる。
S104において、ECU100は、電解液中における正極活物質と負極活物質との間のリチウムイオンの濃度差Δceを算出する(上記式(24)〜式(26)参照)。さらに、ECU100は、上記式(27)に従い、リチウムイオンの濃度差Δceから塩濃度過電圧ΔVeを算出する(S105)。これらの処理については図13にて詳細に説明したため、説明は繰り返さない。
そして、S106において、ECU100は、正極粒子1および負極粒子2を流れる総電流ITを決定するための収束演算処理を実行する。
図18は、収束演算処理(図17のS106の処理)を示すフローチャートである。図18を参照して、S201において、ECU100は、上記式(11)に従って、正極粒子1の交換電流密度i0_1および絶対温度Tから正極粒子1の反応過電圧η1を算出する。また、ECU100は、上記式(12)に従って、負極粒子2の交換電流密度i0_2および絶対温度Tから負極粒子2の反応過電圧η2を算出する。
S202において、ECU100は、正極粒子1について、拡散方程式である上記式(13)に正極粒子1におけるリチウムの拡散係数Ds1を代入し、総電流ITに応じて定まる境界条件(上記式(14)参照)下で解くことによって、正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。なお、拡散係数Ds1は、正極粒子1のリチウム量θ1および絶対温度Tに依存する。よって、予め準備されたマップ(図示せず)を用いて、前回演算時のリチウム量θ1および絶対温度Tから拡散係数Ds1を算出することができる。
さらに、ECU100は、実効拡散係数Ds2 eff(上記式(18)参照)が代入された拡散方程式(19)を境界条件(上記式(20)参照)下で解くことによって、負極粒子2の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。
S203において、ECU100は、S202にて算出された正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布に基づいて、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfを算出する(上記式(22)参照)。同様に、ECU100は、負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfを算出する。
S204において、ECU100は、正極粒子1の開放電位U1とリチウム量θ1との対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、S203にて算出された表面リチウム量θ1_surfから開放電位U1を算出する(式(22)参照)。
S205において、ECU100は、表面応力σsurf=0である理想状態における負極粒子2の開放電位U2とリチウム量θ2との対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、表面リチウム量θ2_surfから理想状態における負極開放電位U2_staを算出する。
S206において、ECU100は、表面応力σsurfを算出するための「表面応力算出処理」を実行する。
図19は、表面応力算出処理(図18のS206の処理)を示すフローチャートである。図19を参照して、S301において、ECU100は、シリコン単体の負極粒子2の平均リチウム量θSi_aveを算出する。平均リチウム量θSi_aveは、全領域k(k=1〜N)についてリチウム濃度cSikから局所リチウム量θSikを算出し、算出された局所リチウム量θSikの加重平均により算出される(正極粒子1に関する上記式(3)参照)。
S302において、ECU100は、前回演算時までにメモリ100Bに格納された基準リチウム量θREFおよび基準表面応力σREFを読み出す(後述するS313の処理を参照)。
S303において、ECU100は、マップ(図示せず)を参照することによって、バッテリ4の温度TBおよびSOC(前回演算時のSOC)から比例定数αθを算出する。なお、負極活物質および周辺部材の物性値(ヤング率など)から比例定数αθを算出(シミュレーション予測)することも可能である。ただし、比例定数αθを可変とすることは必須ではなく、予め定められた固定値を比例定数αθとして用いてもよい。
S304において、ECU100は、上記式(34)に従って、比例定数αθおよび平均リチウム量θSi_aveから表面応力σsurfを算出する。この表面応力σsurfは、負極活物質の降伏を考慮せずに仮に算出されたものであり、以降の処理により、負極活物質の降伏を考慮した表面応力σsurfが決定(本算出)される。
S305において、ECU100は、S304にて仮算出された表面応力σsurfと、圧縮降伏応力σcomとを比較する。図12に示したような表面応力σsurfの符号を考慮した上での表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcom以下である場合、すなわち、表面応力σsurfの大きさが圧縮降伏応力σcomの大きさ以上である場合(S444においてYES)、ECU100は、負極活物質が降伏しているとして、表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcomに等しい(σsurf=σcom)と判定する(S306)。つまり、S304にて仮算出された表面応力σsurfは採用されず、それに代えて圧縮降伏応力σcomが採用される。そして、ECU100は、圧縮降伏応力σcomを新たな基準表面応力σREFとして設定することにより、基準表面応力σREFを更新する。さらに、ECU100は、S301にて算出された平均リチウム量θSi_aveを基準リチウム量θREFとして設定することにより、基準リチウム量θREFを更新する(S307)。
一方、符号を考慮した上での表面応力σsurfが圧縮降伏応力σcomよりも大きい場合(表面応力σsurfの大きさが圧縮降伏応力σcomの大きさ未満である場合)(S305においてNO)には、ECU100は、処理をS308に進め、表面応力σsurfと引っ張り降伏応力σtenとを比較する。
表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σten以上である場合(S308においてYES)、ECU100は、負極活物質が降伏しており、表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σtenに等しくなっていると判定する(S309)。そして、ECU100は、基準表面応力σREFを引っ張り降伏応力σtenにより更新するとともに、基準リチウム量θREFをS301にて算出された平均リチウム量θSi_aveにより更新する(S310)。
S308にて表面応力σsurfが引っ張り降伏応力σten未満である場合(S308においてNO)には、表面応力σsurfは、圧縮降伏応力σcomと引っ張り降伏応力σtenとの間の中間領域A内にあり(σcom<σsurf<σten)、負極活物質は降伏していない。よって、S304にて仮算出された表面応力σsurfが採用される(S311)。この場合には、基準表面応力σREFは更新されず、前回演算時(あるいは、それよりも前の演算時)に設定された基準表面応力σREFが維持される。また、基準リチウム量θREFの更新も行なわれない(S312)。
S307,S310,S312の処理のうちのいずれかの処理が実行されると、基準リチウム量θREFおよび基準表面応力σREFがメモリ100Bに格納される(S313)。その後、収束演算処理のS207(図18参照)に処理が戻される。
図18を再び参照して、S207において、ECU100は、負極粒子2の開放電位U2における表面応力σsurfの影響を考慮に入れるべく、上記式(21)に従って表面応力σsurfから開放電位変化量ΔOCPを算出する。
S208において、ECU100は、上記式(2)に従い、正極粒子1の反応過電圧η1と正極開放電位U1との和を正極電位V1として算出する。また、ECU100は、開放電位変化量ΔOCPを負極粒子2の理想開放電位U2_staに加算することによって負極開放電位U2を算出し(上記式(23)参照)、さらに、負極粒子2の反応過電圧η2と負極開放電位U2との和を負極電位V2として算出する(上記式(30)参照)。
S209において、ECU100は、上記式(28)に従い、正極電位V1と、負極電位V2と、直流抵抗Rdによる電圧降下量(=ITRd)と、塩濃度過電圧ΔVeとから演算電圧Vcalcを算出する。
S210において、ECU100は、収束演算処理における反復演算が収束する条件(収束条件)が成立したか否かを判定する。具体的には、収束条件とは、S209にて算出された演算電圧Vcalcと、S101にて電圧センサ71から取得された測定電圧Vmeasとの差の絶対値(=|Vcalc−Vmeas|)が所定値PD未満であるとの条件である(|Vcalc−Vmeas|<PD)。収束条件が成立していない場合(S210においてNO)、ECU100は、ニュートン法のアルゴリズムに従って総電流ITを更新し(S211)、S201に処理を戻す。これにより、S201〜S209の一連の処理が再び実行される。収束条件が成立すると(S210においてYES)、ECU100は、処理をメインルーチン(図示せず)へと戻す。
<OCV測定処理>
図20は、OCV測定処理を示すフローチャートである。図20を参照して、S401において、ECU100は、バッテリ4を流れる電流の積算を開始する。ECU100は、車両9の走行中に電流積算を開始してもよい。あるいは、車両9が車両外部から供給される電力によりバッテリ4を充電(いわゆる外部充電)することが可能に構成されている場合には、たとえば、外部充電を開始するタイミングで電流積算を開始することができる。
ある時刻t1において、ECU100は、バッテリ4のOCVを測定する(S402)。より詳細には、ECU100は、バッテリ4の充放電が停止された後、所定期間待機する。所定期間が経過すると、ECU100は、バッテリ4の分極が解消されたとして、そのときのバッテリ4の電圧VBの測定値をバッテリ4のOCVとして取得する。このようにして取得さされたOCVを「OCV1」と記載する。OCV1は、ECU100のメモリ100Bに保存される。
S403において、ECU100は、ΔOCP算出処理により算出された、時刻t1における開放電位変化量ΔOCPである「ΔOCP1」をメモリ100Bに保存する。さらに、ECU100は、時刻t1よりも後の時刻t2においてもS402,S403の処理と同様の処理を実行する(S404,S405)。
S406において、ECU100は、時刻t1から時刻t2までの期間の長さが所定時間以下であったか否かを判定する。時刻t1から時刻t2までの期間の長さが所定時間よりも長かった場合(S406においてNO)、電流センサ72の誤差が蓄積されることによる影響が懸念される。したがって、ECU100は、S402にて開始された電流積算を一旦リセットし(S409)、処理をS401に戻す。これにより、電流積算が再び開始される。
一方、時刻t1から時刻t2までの期間の長さが所定時間以下であった場合(S406においてYES)、その期間中の電流センサ72の誤差蓄積の影響は十分に小さいと考えられる。この場合、ECU100は、時刻t1から時刻t2までの電流積算値ΔAhを算出する(S407)。
バッテリ4の劣化推定の精度(後述)を担保するためには、OCVを2回取得する間の電流積算値ΔAhは、ある程度大きいことが望ましい。そのため、ECU100は、電流積算値ΔAhが所定値以上であるか否かを判定する(S408)。所定値とは、バッテリ4の劣化推定精度を担保可能な値であり、実験またはシミュレーションにより予め定められている。電流積算値ΔAhが所定値未満である場合(S408においてNO)には、バッテリ4の劣化推定精度を担保できない可能性があるとして電流積算値がリセットされ(S409)、電流積算が再び開始される。電流積算値ΔAhが所定値以上である場合(S408においてYES)に、ECU100は、S407にて算出された電流積算値ΔAhをメモリ100Bに保存する(S410)。
<劣化推定処理>
図21は、実施の形態1における劣化推定処理を示すフローチャートである。図21を参照して、S501において、ECU100は、S402にて測定されたOCV1とS404にて測定されたOCV2とからOCVカーブを特定する。以下、このOCVカーブを「測定OCVカーブ」とも記載する。バッテリ4のOCVカーブの典型的な形状は既知である。そのため、OCV1,OCV2が典型的形状のOCVカーブから外れている場合には、その外れ度合いに応じて典型的形状のOCVカーブを補正することで、測定OCVカーブを特定できる。ただし、OCVの測定を2点にすることは必須ではなく、より多くのOCVを測定することで、より高精度に測定OCVカーブを特定できる。なお、測定OCVカーブは、本開示に係る「第1のOCV曲線」に相当する。
S502において、ECU100は、3つの劣化パラメータ(正極容量維持率k1、負極容量維持率k2および、ずれ量ΔQs)の候補値を設定する。ずれ量ΔQsの候補値は、所定の探索範囲内で所定値刻みに設定することができる。正極容量維持率k1および負極容量維持率k2は、いずれも探索範囲である0と1との間で変化するので、たとえば、0.05刻みに20個ずつ正極容量維持率k1および負極容量維持率k2の候補値を設定することができる。
S503において、ECU100は、S501にて設定された劣化パラメータに基づき、負極開放電位U2を算出する(詳細は特許文献1参照)。この負極開放電位U2には開放電位変化量ΔOCPの影響が考慮されていない。
S504において、ECU100は、S504にて算出した負極開放電位U2を開放電位変化量ΔOCP(S403にて取得したΔOCP1およびS405にて取得したΔOCP2)により補正する。そして、ECU100は、正極開放電位U1と、補正後の負極開放電位U2との電位差としてバッテリ4のOCVを算出する。これにより、「推定OCVカーブ」が特定される。推定OCVカーブは、本開示に係る「第2のOCV曲線」に相当する。
図22は、開放電位変化量ΔOCPによる負極開放電位U2の補正手法を説明するための図である。図22において、横軸はバッテリ4の容量(単位:Ah)を表し、縦軸は負極開放電位U2を表す。図22を参照して、この例では、時刻t1から時刻t2までの間、バッテリ4が充電されており、バッテリ4の容量がQ1からQ2に増加したとする。
S503にて算出された負極開放電位U2には、負極活物質(負極粒子2)内で発生する表面応力σsurfの影響が考慮されていない。この負極開放電位U2は、表面応力σsurfが発生しない理想的な状態における電位であるとも言える。そのため、以下では、この負極開放電位U2を「理想OCP」とも称する(実線参照)。しかし、実際の負極開放電位U2は、表面応力σsurfの影響により理想OCPから乖離している。この乖離量が開放電位変化量ΔOCPである。したがって、本実施の形態では、理想OCPをS403,S405にて取得されたΔOCP(ΔOCP1またはΔOCP2)により補正することで、表面応力σsurfの影響を考慮した負極開放電位U2を求める。より具体的には、理想OCPに開放電位変化量ΔOCP(符号を含む)を加算し、加算後の値を補正後の負極開放電位U2とする(1点鎖線参照)。
図12にて説明したように、バッテリ4の充電時には表面応力σsurf<0であるため、開放電位変化量ΔOCP<0である(上記式(21)参照)。したがって、バッテリ4の補正後の負極開放電位U2は、理想OCPと比べて、開放電位変化量ΔOCP(の絶対値)だけ低くなる。逆に、バッテリ4の放電時には、表面応力σsurf>0であるため、開放電位変化量ΔOCP>0である。したがって、補正後の負極開放電位U2は、理想OCPと比べて、開放電位変化量ΔOCP(の絶対値)だけ高くなる。
理想OCPの曲線形状は、実験またはシミュレーションによって予め求められている。そのため、理想OCPからの外れ度合いを表すΔOCPに応じて理想OCPを変形させる(たとえば、理想OCPの形状を表す関数をΔOCPに応じて平行移動させつつ、関数に含まれる係数を微修正する)ことで、負極開放電位U2を補正できる。なお、ここでも一例として、2点のΔOCP(OCP1,OCP2)を用いた最適化例を示した。しかし、より高精度に劣化パラメータを同定するには、より多くのΔOCPに基づいて負極開放電位U2を補正することが好ましい。
S505において、ECU100は、測定OCVカーブと推定OCVカーブとを比較することによって、電圧誤差ΔVと容量誤差ΔQを算出する。電圧誤差ΔVは、特定の容量における2つのOCVカーブ間の電圧誤差であってもよいし、上記2つのOCVカーブ間における電圧誤差の平均値であってもよい。
一方、容量誤差ΔQは以下のように算出される。すなわち、S504にて特定された推定OCVカーブを用いて、バッテリ4のOCVがOCV1からOCV2まで変化する際の容量変化量から容量Qestiが算出される。また、S407にて算出された電流積算値ΔAhから容量Qmeasが算出される。そして、容量Qestiと容量Qmeasとの差を求めることにより、容量誤差ΔQ(=|Qesti−Qmeas|)が算出される。
S506において、ECU100は、電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQに対する評価関数f(ΔV,ΔQ)を算出する。評価関数f(ΔV,ΔQ)としては、たとえば、電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQに対して重み付け加算した値を用いることができる。一例として、評価関数f(ΔV,ΔQ)は、重み付け係数p,qを用いて、f(ΔV,ΔQ)=p×ΔV+q×ΔQと表される。
S507において、ECU100は、今回設定された劣化パラメータから算出される評価関数f(ΔV,ΔQ)が、前回設定された劣化パラメータから算出される評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも小さいか否かを判定する最小値判定処理を実行する。具体的には、ECU100は、今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)が前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも小さければ、今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)をメモリ100Bに格納する。今回の評価関数f(ΔV,ΔQ)が前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)よりも大きければ、前回の評価関数f(ΔV,ΔQ)が維持される。
S508において、ECU100は、3つの劣化パラメータをすべての探索範囲で変化させたか否かを判定する。劣化パラメータをすべての探索範囲で変化させていなければ(S508においてNO)、劣化パラメータが変更され(S509)、処理がS503に戻る。そうすることで、ECU100は、3つの劣化パラメータを探索範囲の全体で変化させるまでS503〜S507の処理を繰り返し実行する。その結果、測定OCVカーブと推定OCVカーブとが略一致するように、劣化パラメータが探索される。そして、全ての探索が終了すると(S508においてYES)、ECU100は、処理をS510に進める。
S510において、ECU100は、最小値となる評価関数f(ΔV,ΔQ)が得られたOCVカーブと、そのOCVカーブを規定する3つの劣化パラメータとをメモリ100Bに格納する。そして、ECU100は、劣化パラメータに基づいて、バッテリ4の劣化状態を推定する。具体的には、ECU100は、バッテリ4の満充電容量を推定してもよいし、劣化後のバッテリ4のSOC−OCVカーブを推定してもよい。また、ECU100は、バッテリ4の劣化がリチウム析出による劣化なのか、摩耗による劣化(経年劣化)なのかを推定してもよい(詳細は特許文献1参照)。
以上のように、実施の形態1においては、負極粒子2に発生する表面応力σsurfが算出され、表面応力σsurfによる負極開放電位U2のずれ量である開放電位変化量ΔOCPが算出される(上記式(21)参照)。さらに、劣化パラメータから算出される負極開放電位U2が開放電位変化量ΔOCPを用いて補正される。そして、実際に測定されたOCVカーブ(測定OCVカーブ)と、補正後の負極開放電位U2から求められたOCVカーブ(推定OCVカーブ)との一致が最も良くなるように、劣化パラメータの探索が行なわれる。探索の結果、得られる劣化パラメータは、表面応力σsurfの影響が考慮されたものであるので、その劣化パラメータに基づいてバッテリ4の劣化状態を高精度に推定することができる。
[実施の形態2]
実施の形態1では、負極活物質がシリコン系材料である構成を例に説明した。実施の形態2においては、複数の負極活物質を含む負極(いわゆる複合負極)が採用される例について説明する。具体的には、実施の形態2では、リチウムイオン二次電池の負極として、ナノ炭素またはカーボンナノチューブなどの炭素系材料と、シリコン系材料とが用いられる。なお、実施の形態2に係る二次電池システムの構成は、図1に示した構成と同様であるため、説明は繰り返さない。
図23は、複合負極において、ヒステリシスが単極電位の減少および組成対応ずれに及ぼす影響を模式的に示す図である。図23を参照して、複合負極では、特に低SOC領域において、負極開放電位U2が単極容量の減少および組成対応ずれの影響を受けるとともに、充放電のヒステリシスの影響を受ける。
図24は、複合負極の各構成要素(炭素系材料およびシリコン系材料)の容量と電位との関係を模式的に示す図である。複合負極の総容量は、シリコン系材料の容量と炭素系材料の容量との和であるが、図24には、一例として、シリコン系材料の容量が炭素系材料の容量よりも小さい例が示されている。なお、図24では、図面が煩雑になるのを防ぐため、シリコン系材料のヒステリシスの挙動は図示していない。
バッテリ4の充放電に伴うヒステリシスの発生領域やヒステリシスの大きさ(充電時の負極開放電位と放電時の負極開放電位との差)は、シリコン系材料の容量と炭素系材料(この例ではグラファイト)の容量との比に応じて変化する。そのため、複合負極の劣化状態を高精度に推定するためには、シリコン系材料の容量劣化と、炭素系材料の容量劣化とを別々に推定することが望ましい。
そこで、実施の形態2においては、炭素系材料とシリコン系材料とを区別する「3粒子モデル」が採用されるとともに、実施の形態1にて説明した3つの劣化パラメータに代えて、4つの劣化パラメータが採用される。4つの劣化パラメータとは、具体的に、正極容量維持率k1、シリコン容量維持率k2Si、グラファイト容量維持率k2gra、および、ずれ量ΔQsである。シリコン容量維持率k2Siとは、バッテリ4の初期状態でのシリコン系材料の容量に対する、バッテリ4の劣化状態でのシリコン系材料の容量の割合である。グラファイト容量維持率k2graとは、バッテリ4の初期状態での炭素系材料の容量に対する、バッテリ4の劣化状態での炭素系材料の容量の割合である(詳細は後述)。なお、正極容量維持率k1、シリコン容量維持率k2Si、グラファイト容量維持率k2gra、および、ずれ量ΔQsは、本開示に係る「第1〜第4の劣化パラメータ」にそれぞれ相当する。
<3粒子モデル>
図25は、3粒子モデルを説明するための図である。図25を参照して、実施の形態1における3粒子モデルでは、バッテリ4の正極が活物質(1粒子)で代表して表される。この粒子は、実施の形態1と同様に「正極粒子1」と記載する。
一方、負極は、2種類の活物質(2粒子)で代表して表される。一方の粒子(第1の活物質モデル)は負極活物質内のシリコン系材料からなり、他方の粒子(第2の活物質モデル)は負極活物質内の炭素系材料(この例ではグラファイト)からなる。簡単のため、前者の粒子を「シリコン粒子21」と称し、後者の粒子を「グラファイト粒子22」と称する。シリコン粒子21の電位を「シリコン電位VSi」と記載し、グラファイト粒子22の電位を「グラファイト電位Vgra」と記載する。
バッテリ4の放電時には、シリコン粒子21と電解液との界面、および、グラファイト粒子22と電解液との界面でリチウムイオン(Li+で示す)が放出される。リチウムイオンの放出に伴いシリコン粒子21を流れる電流を「シリコン電流ISi」と称し、リチウムイオンの放出に伴いグラファイト粒子22を流れる電流を「グラファイト電流Igra」と称する。また、バッテリ4を流れる総電流をITで表す。図5から理解されるように、本実施の形態における3粒子モデルでは、総電流ITがシリコン電流ISiとグラファイト電流Igraとに分配されている。
なお、バッテリ4の充電時には、電流の向きが図25に示した向きとは逆になるが(図示せず)、総電流ITがシリコン電流ISiとグラファイト電流Igraとに分配される関係は同等である。
<機能ブロック>
図26は、実施の形態2におけるΔOCP算出処理に関するECU100の機能ブロック図である。図26を参照して、実施の形態2におけるECU100の機能ブロックは、実施の形態1における対応する機能ブロックと同様である。以下では、実施の形態1との相違点について説明する。
反応過電圧算出部122は、バトラー・ボルマーの関係式から導かれる下記式(35)および式(36)に従って、シリコン粒子21の反応過電圧(シリコン過電圧)ηSiおよびグラファイト粒子22の反応過電圧(グラファイト過電圧)ηgraをそれぞれ算出する。
濃度分布算出部131は、グラファイト粒子22についても正極粒子1と同様に、下記式(38)に示す境界条件下で式(37)を時間発展的に解くことによって、グラファイト粒子22の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。
また、濃度分布算出部131は、下記式(39)により定義される実効拡散係数Ds_Si effを用いて式(40)のように表される拡散方程式を境界条件(式(41)参照)下で解くことによって、シリコン粒子21の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。
開放電位算出部135は、所定のマップ(図示せず)を参照することによって、グラファイト粒子22の表面リチウム量θgra_surfから開放電位Ugraを算出する(下記式(42)参照)。また、開放電位算出部135は、シリコン粒子21の開放電位USiを算出する際には、表面応力σsurfの影響を考慮し、表面応力σsurfが発生していない状態でのシリコン粒子21の開放電位USi_staに開放電位変化量ΔOCPを加算することによって開放電位USi算出を算出する(下記式(43)参照)。なお、開放電位USi_staは、本開示に係る「基準電位」に相当する。
収束条件判定部151は、反応過電圧算出部122から反応過電圧η1,ηSi,ηgraを受け、開放電位算出部135から開放電位U1,USi,Ugraを受け、パラメータ設定部110から測定電圧Vmeas(バッテリ4の電圧の測定値)を受け、塩濃度過電圧算出部142から塩濃度過電圧ΔVeを受ける。そして、収束条件判定部151は、電圧と電流との間に成立する下記関係式(44)に従って、正極電位V1と、負極電位V2と、直流抵抗Rdによる電圧降下量(=ITRd)と、塩濃度過電圧ΔVeとから、バッテリ4の電圧(演算電圧Vcalc)を算出する。
式(44)において、負極電位V2は、式(45)に示すシリコン電位VSiと、式(46)に示すグラファイト電位Vgraとに等しいとして算出される(V2=VSi=Vgra)。
そして、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとを比較するとともに、シリコン電位VSiとグラファイト電位Vgraとを比較することによって、反復法の収束条件が満たされているかどうかを判定する。具体的には、収束条件判定部151は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとがほぼ一致しており(これら電圧間の誤差が第1の所定値PD1未満であり)、かつ、シリコン電位VSiとグラファイト電位Vgraとがほぼ一致しているか(これら電圧間の誤差が第2の所定値PD2未満であるか)どうかを判定する。演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差(=|Vcalc−Vmeas|)が第1の所定値PD1以上である場合、または、シリコン電位VSiとグラファイト電位Vgraとの間の誤差(=|VSi−Vgra|)が第2の所定値PD2以上である場合には、収束条件判定部151は、反復法の収束条件が満たされていないとする判定結果を電流設定部152に出力する。
電流設定部152は、収束条件が満たされていない旨の判定結果を収束条件判定部151から受けると、3粒子を流れる電流(IT,ISi,Igra)を次回演算時に使用するための値に更新する。より詳細には、電流設定部152は、ニュートン法(2分法、割線法などであってもよい)のアルゴリズムを用いて、前回演算時および今回演算時に使用されたシリコン電流ISiおよび総電流ITから、次回演算時に使用されるシリコン電流ISiおよび総電流ITを設定する。残るグラファイト電流Igraは、下記式(47)に示す電流間の関係により、シリコン電流ISiおよび総電流ITから算出される。算出された各電流は、パラメータ設定部110に出力される。そうすると、更新後の各電流値が次回演算時に用いられることとなる。
収束条件判定部151および電流設定部152は、演算電圧Vcalcと測定電圧Vmeasとの間の誤差が第1の所定値PD1未満になり、かつ、シリコン電位VSiとグラファイト電位Vgraとの間の誤差が第2の所定値PD2未満になるまで反復的に演算処理を行なう。上記2つの誤差が、いずれも対応する所定値(PD1,PD2)未満になると、収束条件判定部151は、反復演算処理が収束した判定する。残りの機能ブロックにより実行される処理は、実施の形態1における対応する処理と同等であるため、詳細な説明は繰り返さない。
<処理フロー>
実施の形態2においてECU100により実行される各処理フローのうち実施の形態1と異なる処理フロー、具体的には収束演算処理および劣化推定処理について説明する。ΔOCP算出処理(図17参照)、表面応力算出処理(図19参照)およびOCV測定処理(図20参照)の各処理フローは、実施の形態1における対応する処理フローと同様である。
図27は、実施の形態2における収束演算処理を示すフローチャートである。図27を参照して、S601において、ECU100は、実施の形態1と同様に、正極粒子1の交換電流密度i0_1および絶対温度Tから正極粒子1の反応過電圧η1を算出する。また、ECU100は、上記式(35)に従って、シリコン粒子21の交換電流密度i0_Siおよび絶対温度Tからシリコン粒子21の反応過電圧ηSiを算出するとともに、上記式(36)に従って、グラファイト粒子22の交換電流密度i0_graおよび絶対温度Tからグラファイト粒子22の反応過電圧ηgraを算出する。
S602において、ECU100は、正極粒子1について、実施の形態1と同様に、拡散方程式(上記式(13))に正極粒子1におけるリチウムの拡散係数Ds1を代入し、境界条件(上記式(14)参照)下で解くことによって、正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。また、ECU100は、グラファイト粒子22についても、境界条件下(上記式(38)参照)で拡散方程式(37)を解くことによって、グラファイト粒子22の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。さらに、ECU100は、実効拡散係数Ds_Si eff(式(39)参照)が代入された拡散方程式(40)を境界条件(式(41)参照)下で解くことによって、シリコン粒子21の内部におけるリチウム濃度分布を算出する。
S603において、ECU100は、S602にて算出された正極粒子1の内部におけるリチウム濃度分布に基づいて、正極粒子1の表面リチウム量θ1_surfを算出する(上記式(2)参照)。同様に、ECU100は、シリコン粒子21の表面リチウム量θSi_surfを算出するとともに、グラファイト粒子22の表面リチウム量θgra_surfを算出する。
S604において、ECU100は、正極粒子1の開放電位U1と表面リチウム量θ1_surfとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、S603にて算出された表面リチウム量θ1_surfから開放電位U1を算出する(式(22)参照)。同様に、ECU100は、グラファイト粒子22の開放電位Ugraと表面リチウム量θgra_surfとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照して、表面リチウム量θgra_surfから開放電位Ugraを算出する(式(42)参照)。
S605において、ECU100は、表面応力σsurf=0である理想状態におけるシリコン粒子21の開放電位USi_surfと表面リチウム量θSi_surfとの対応関係を規定したマップ(図示せず)を参照することによって、表面リチウム量θSi_surfから開放電位USi_staを算出する。続く表面応力算出処理(S606)は、実施の形態1(図19参照)と同様である。
S607において、ECU100は、シリコン粒子21の開放電位USiにおける表面応力σsurfの影響を考慮に入れるべく、上記式(43)に従って表面応力σsurfから開放電位変化量ΔOCPを算出する。
S608において、ECU100は、上記式(29)に従い、正極粒子1の反応過電圧η1と正極開放電位U1との和を正極電位V1として算出する。また、ECU100は、開放電位変化量ΔOCPをシリコン粒子21の理想開放電位USi_staに加算することによってシリコン開放電位USiを算出し(上記式(43)参照)、さらに、シリコン粒子21の反応過電圧ηSiとシリコン開放電位USiとの和をシリコン電位VSiとして算出する(上記式(45)参照)。さらに、ECU100は、グラファイト粒子22の反応過電圧ηgraとグラファイト開放電位Ugraとの和をグラファイト電位Vgraとして算出する(上記式(46)参照)。
S609において、ECU100は、上記式(44)に従い、正極電位V1と、負極電位V2(シリコン電位VSiまたはグラファイト電位Vgra)と、直流抵抗Rdによる電圧降下量(=ITRd)と、塩濃度過電圧ΔVeとから演算電圧Vcalcを算出する。
S610において、ECU100は、収束演算処理における反復演算が収束する条件(収束条件)が成立したか否かを判定する。具体的には、収束条件は、第1および第2の条件を含む。第1の条件とは、S609にて算出された演算電圧Vcalcと、S101(図17参照)にて電圧センサ71により取得された測定電圧Vmeasとの差の絶対値(=|Vcalc−Vmeas|)が第1の所定値PD1未満であるか否かとの条件である(|Vcalc−Vmeas|<PD1)。第2の条件とは、S608にて算出されたシリコン電位VSiとグラファイト電位Vgraとの差の絶対値(=|VSi−Vgra|)が第2の所定値PD2未満であるか否かとの条件である(|VSi−Vgra|<PD2)。
ECU100は、第1および第2の条件の両方が成立した場合に収束条件が成立したと判定し、第1および第2の条件のうちの一方でも不成立の場合には収束条件は成立していないと判定する。収束条件が成立していない場合(S610においてNO)、ECU100は、ニュートン法のアルゴリズムに従って電流IT,ISi,Igraを更新し(S611)、S601に処理を戻す。一方、収束条件が成立すると(S610においてYES)、ECU100は、処理をメインルーチン(図示せず)へと戻す。
図28は、実施の形態2における劣化推定処理を示すフローチャートである。図28を参照して、まず、S701において、ECU100は、実際に測定された少なくとも2点のOCV(この例ではOCV1,OCV2)から測定OCVカーブを特定する。
S702において、ECU100は、4つの劣化パラメータ(正極容量維持率k1、シリコン容量維持率k2Si、グラファイト容量維持率k2gra、および、ずれ量ΔQs)の候補値を設定する。
4つの劣化パラメータが特定されると、以下に説明するように、正極開放電位U1と負極開放電位U2との電位差としてバッテリ4のOCVを算出することが可能になる。
シリコン粒子21とグラファイト粒子22とは等電位(VSi=Vgra)であるため、式(48)が成立する。
実施の形態2では簡易化のため、シリコン過電圧ηSiとグラファイト過電圧ηgraとは、互いに等しいと仮定する(下記式(49)参照)。
そうすると、反応過電圧(ηSi,ηgra)が打ち消し合い、上記式(48)が下記式(50)のように単純化される。
また、負極粒子2(シリコン粒子21とグラファイト粒子22とを併せて考えたもの)の表面リチウム量θ2_surfは、シリコン粒子21の表面リチウム量θSi_surfおよび限界リチウム濃度cSi,maxと、グラファイト粒子22の表面リチウム量θgra_surfおよび限界リチウム濃度cgra,maxとを用いて下記式(51)のように表される。
上記式(50)および式(51)に示す関係を用いると、前述の開放電位USiを示す曲線と開放電位Ugraを示す曲線とから、横軸を負極粒子2の表面リチウム量θ2_surfとするグラフ上に負極開放電位U2を示す曲線を求めることができる(S703)。
S704において、ECU100は、シリコン負極電位USiを開放電位変化量ΔOCP(ΔOCP1,ΔOCP2)により補正する。そして、ECU100は、複合負極開放電位を算出し、推定OCVカーブを特定する。
S705において、ECU100は、実施の形態1と同様に、測定OCVカーブと推定OCVカーブとを比較することによって、電圧誤差ΔVと容量誤差ΔQを算出する。電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQの算出手法の具体例も実施の形態1と同様である。
S706において、ECU100は、電圧誤差ΔVおよび容量誤差ΔQに対する評価関数f(ΔV,ΔQ)を算出する。
S707において、ECU100は、4つの劣化パラメータをすべての探索範囲で変化させたか否かを判定する。劣化パラメータをすべての探索範囲で変化させていなければ(S707においてNO)、ECU100は、劣化パラメータを変更して(S708)処理をS703に戻し、4つの劣化パラメータを探索範囲の全体で変化させるまでS703〜S706の処理を繰り返し実行する。そして、全ての探索が終了すると(S707においてYES)、ECU100は、処理をS709に進める。S709において、ECU100は、最小値となる評価関数f(ΔV,ΔQ)が得られたOCVカーブと、そのOCVカーブを規定する4つの劣化パラメータとをメモリ100Bに格納する。そして、ECU100は、劣化パラメータに基づいて、バッテリ4の劣化状態を推定する。
以上のように、実施の形態2においては、負極粒子2をシリコン粒子21とグラファイト粒子22とに分けることによって、主にシリコン粒子21の膨張・収縮に起因する表面応力σsurfを高精度に算出し、それにより、開放電位変化量ΔOCPについても高精度に算出する。そして、実施の形態1と同様に、4つの劣化パラメータから算出される負極開放電位U2を開放電位変化量ΔOCPを用いて補正する(推定OCVカーブ)。さらに、その推定OCVカーブと、実測される測定OCVカーブとの一致が最も良くなるように、劣化パラメータが探索される。探索の結果、得られる劣化パラメータは、実施の形態1と同様に、表面応力σsurfの影響が考慮されたものであるので、その劣化パラメータに基づいてバッテリ4の劣化状態を高精度に推定することができる。さらに、実施の形態2では、負極容量維持率k2をシリコン容量維持率k2Siとグラファイト容量維持率k2graとに分けることにより、負極容量減少に対するシリコン系材料の容量減少の寄与と炭素系材料の容量減少の寄与とが別々に算出されることになるので、バッテリ4の劣化状態の推定精度を一層向上させることができる。
[実施の形態2の変形例]
4つの劣化パラメータを用いる場合、3つの劣化パラメータを用いる場合と比べて、バッテリ4の劣化状態の推定精度を向上させることが可能である一方で、探索演算処理を実行する際のECU100の演算負荷が増大する可能性がある。そこで、ECU100の演算負荷を低減するため、以下に説明する3つの手法のいずれかにより、探索演算処理の簡素化を図ってもよい。
第1に、特許文献2を式(14)および式(15)に記載されているような電気化学反応式(Tafel式)を用いてずれ量ΔQsを算出することによって、探索する劣化パラメータを4つ(k1,k2Si,k2gra,ΔQs)から3つ(k1,k2Si,k2gra)に減らすことができる。
第2に、シリコン容量維持率k2Siと他のパラメータ(表面応力σsurf、温度TB、総電流ITなど)との相関関係を予め調べ、マップまたは関数を作成してもよい。これにより、他のパラメータからシリコン容量維持率k2Siを算出することができるので、探索する劣化パラメータを4つから3つ(k1,k2gra,ΔQs)に減らすことができる。
第3に、一般に、シリコン系材料の容量劣化と炭素系材料の容量劣化とを比べると、炭素系材料の容量劣化量は十分に小さい。したがって、炭素系材料の容量劣化は生じないと仮定して、グラファイト容量維持率k2gra=1に固定してもよい。この場合にも、探索する劣化パラメータを4つから3つ(k1,k2Si,ΔQs)に減らすことができる。
なお、実施の形態1,2では、充放電に伴う体積変化量が大きな活物質の一例として、負極活物質に用いられるシリコン系材料の例について説明した。しかし、充放電に伴う体積変化量が大きな活物質はこれに限定されるものではない。たとえば、リチウムイオン二次電池に用いられる負極活物質のうち「体積変化量が大きい」材料とは、充放電に伴うグラファイトの体積変化量(約10%)と比較して体積変化量が大きな材料であればよい。そのような材料としては、スズ系化合物(SnまたはSnOなど)、ゲルマニウム(Ge)系化合物または鉛(Pb)系化合物が挙げられる。
リチウムイオン二次電池は、液系に限らず、ポリマー系であってもよいし全固体系であってもよい。さらに、二次電池の種類は、リチウムイオン二次電池に限定されず、他の二次電池(たとえばニッケル水素電池)であってもよい。また、二次電池の種類によっては、充放電に伴う体積変化量が大きな活物質が負極活物質に限られず、正極活物質であってもよい。
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。