以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
本発明者らは、方向性電磁鋼板の一次被膜と鋼板との密着性をさらに向上させつつ、方向性電磁鋼板の製造コストを安価化するために、方向性電磁鋼板の製造方法について鋭意検討を行った結果、以下の知見を見出した。
具体的には、本発明者らは、焼鈍分離剤がTi化合物およびB化合物を含有することで、希土類金属の化合物の含有量を制限しても、一次被膜と鋼板との密着性を向上させることができることを見出した。さらに、この密着性向上効果は、インヒビターの耐熱性を強化して磁束密度を向上させるべく溶鋼にBiを添加した際に不可避的に発生していた一次被膜と鋼板との密着性劣化に対しても非常に好ましく作用することを確認した。一方、Ti化合物、B化合物または希土類金属化合物のいずれかが焼鈍分離剤に含有されない場合、一次被膜と鋼板との密着性は向上しなかった。
このような現象が生じる詳細な理由は明らかではないが、焼鈍分離剤が希土類金属化合物、Ti化合物およびB化合物を含有すると、仕上焼鈍の昇温過程において、希土類金属化合物は分解して希土類金属元素が鋼中に浸入する。また、Ti化合物およびB化合物も分解してTiおよびBが鋼中に浸入する。鋼中に侵入した希土類金属元素、TiおよびBが、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、一次被膜と鋼板の界面構造の複雑化に寄与して、アンカー効果を発揮するものと推察される。ここで、希土類金属元素とTiは、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、硫化物を形成するが、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍における硫黄の量によって、希土類金属化合物およびTi化合物の分解は制限されてしまう。そのため、焼鈍分離剤が希土類金属化合物、Ti化合物およびB化合物を多量に含有しても含有量に見合う効果が発揮できないと推察される。
本発明者らは、以上の知見を考慮することで、本発明を想到するに至った。本発明の一実施形態は、以下の構成を備える方向性電磁鋼板の製造方法である。
質量%で、C:0.02%以上0.10%以下、Si:2.5%以上4.5%以下、Mn:0.01%以上0.15%以下、SおよびSeのうち1種または2種:合計で0.001%以上0.050%以下、酸可溶性Al:0.01%以上0.05%以下、およびN:0.002%以上0.015%以下を含有し、残部がFeおよび不純物を含むスラブを、1280℃以上に加熱して、熱間圧延を施すことで、熱延鋼板とする熱間圧延工程と、前記熱延鋼板に熱延板焼鈍を施した後、一回の冷間圧延または中間焼鈍を挟む二回以上の冷間圧延を施すことで、冷延鋼板とする冷間圧延工程と、前記冷延鋼板に一次再結晶焼鈍を施す一次再結晶焼鈍工程と、前記一次再結晶焼鈍工程後の前記冷延鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施す仕上焼鈍工程と、前記仕上焼鈍工程後の鋼板の表面に、絶縁被膜を塗布した後、平坦化焼鈍を施す平坦化焼鈍工程と、を含み、前記焼鈍分離剤は、前記焼鈍分離剤に含有されるMgOに対して、質量%で、TiO2を0.5%以上10%以下、Tiの化合物を、含有されるTi換算でA%として0.3%以上10.0%以下、Bの化合物を、含有されるB換算で0.03%以上1.60%以下、希土類金属の化合物を、含有される希土類金属換算でB%として0.1%以上7.5%以下、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物を、含有される前記アルカリ土類金属換算で0.3%以上5.8%以下含有し、前記焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌条件が、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間であり、前記焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量が3.5g/m2以上10.0g/m2以下であり、前記仕上焼鈍における1000℃から1150℃における滞留時間が10時間以上100時間以下であり、以下の式(1)を満足する、方向性電磁鋼板の製造方法。
0.4 ≦(A+B)≦ 12.0 ・・・式(1)
[方向性電磁鋼板の製造方法]
以下、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法について具体的に説明する。
(スラブの化学組成)
まず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の各工程の説明に先立ち、本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブの成分組成について説明する。なお、以下では特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。また、以下で説明する元素以外のスラブの残部は、Feおよび不純物を含有する。
C(炭素)の含有量は、0.02%以上0.10%以下である。Cには、種々の役割があるが、Cの含有量が0.02%未満である場合、スラブの加熱時に結晶粒径が過度に大きくなることで、最終的な方向性電磁鋼板の鉄損値を増大させるため好ましくない。一方、Cの含有量が0.10%超である場合、冷間圧延後の脱炭時に、脱炭時間が長時間になり、製造コストが増加するため好ましくない。また、Cの含有量が0.10%超である場合、脱炭が不完全になり易く、最終的な方向性電磁鋼板において磁気時効を起こす可能性があるため好ましくない。したがって、Cの含有量は、0.02%以上0.10%以下とする。Cの含有量は、好ましくは、0.05%以上0.09%以下である。
Si(ケイ素)の含有量は、2.5%以上4.5%以下である。Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の原因の一つである渦電流損失を低減する。Siの含有量が2.5%未満である場合、最終的な方向性電磁鋼板の渦電流損失を十分に抑制することが困難になるため好ましくない。一方、Siの含有量が4.5%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。したがって、Siの含有量は、2.5%以上4.5%以下とする。Siの含有量は、好ましくは、2.7%以上4.0%以下である。
Mn(マンガン)の含有量は、0.01%以上0.15%以下である。Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSおよびMnSeなどを形成する。Mnの含有量が0.01%未満である場合、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため、好ましくない。一方、Mnの含有量が0.15%超である場合、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になるため、好ましくない。また、Mnの含有量が0.15%超である場合、インヒビターであるMnSおよびMnSeの粒子の析出サイズが粗大化し易く、インヒビターとしての最適なサイズ分布が損なわれるため、好ましくない。したがって、Mnの含有量は、0.01%以上0.15%以下とする。Mnの含有量は、好ましくは、0.03%以上0.13%以下である。
S(硫黄)およびSe(セレン)の含有量は、合計で0.001%以上0.050%以下である。SおよびSeは、上述したMnと共にインヒビターを形成する。SおよびSeは、2種ともスラブに含有されていてもよいが、少なくともいずれか1種がスラブに含有されていればよい。SおよびSeの含有量の合計が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため好ましくない。したがって、SおよびSeの含有量は、合計で0.001%以上0.050%以下とする。SおよびSeの合計含有量は、好ましくは、0.001%以上0.040%以下である。
酸可溶性Al(酸可溶性アルミニウム)の含有量は、0.01%以上0.05%以下である。酸可溶性Alは、高磁束密度の方向性電磁鋼板を製造するために必要なインヒビターを構成する。酸可溶性Alの含有量が0.01%未満である場合、酸可溶性Alが量的に不足し、インヒビター強度が不足するため、好ましくない。一方、酸可溶性Alの含有量が0.05%超である場合、インヒビターとして析出するAlNが粗大化し、インヒビター強度を低下させるため、好ましくない。したがって、酸可溶性Alの含有量は、0.01%以上0.05%以下とする。酸可溶性Alの含有量は、好ましくは、0.01%以上0.04%以下である。
N(窒素)の含有量は、0.002%以上0.015%以下である。Nは、上述した酸可溶性Alと共にインヒビターであるAlNを形成する。Nの含有量が上記範囲を外れる場合、十分なインヒビター効果が得られないため、好ましくない。したがって、Nの含有量は、0.002%以上0.015%以下とする。Nの含有量は、好ましくは、0.002%以上0.012%以下である。
本発明の効果は、スラブにBiを含有させる製法を採用した鋼板において、特に有用なものとなる。
一般的にスラブ成分にBi(ビスマス)を含有させると、一次被膜と鋼板との密着性が劣化する。このメカニズムについて、詳細は明らかとなっていないが、一次被膜と鋼板の界面構造が平滑化しやすくなって、アンカー効果が減少して密着性が劣化しやすくなると推察される。しかしながら、本発明を適用すると、Bi含有鋼でも平滑化が抑制され、より一層密着性が向上する。
この場合のBiの含有量は、0.0005%以上0.0500%以下であることが好ましい。Biは、インヒビターであるMnSやAlNの耐熱性を強化して、二次再結晶温度を高温化し、磁束密度を向上する効果があると推察される。Biの含有量が、0.0005%以上0.0500%以下である場合、より一層インヒビター耐熱性強化効果を得ることができる。Biの含有量が0.0005%未満である場合、十分なインヒビター耐熱性強化効果が得られない場合がある。Biの含有量が0.0500%超である場合、熱延における鋼板の脆性が劣化して通板が困難となり、生産性が低下する場合がある。したがって、Biの含有量は、好ましくは、0.0005%以上0.0500%以下とする。Biの含有量は、より好ましくは、0.0010%以上0.0200%以下である。なお、Biは、鋼材において必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板に用いられるスラブの残部は、先立って説明したように、Feおよび不純物を含む。ここで、不純物とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるもの、または、純化焼鈍において完全に純化されずに鋼中に残存する下記の元素等であって、本発明の方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
上記で説明した成分組成に調整された溶鋼を鋳造することで、スラブが形成される。なお、スラブの鋳造方法は、特に限定されない。また、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成されても、上記成分について、スラブが形成された場合と同様の効果が確認できる。続いて、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法の各工程を説明する。
(熱間圧延工程)
上記の組成を有するスラブが1280℃以上に加熱されることで、スラブ中のインヒビター成分が固溶する。スラブの加熱温度が1280℃未満である場合、MnS、MnSe、およびAlN等のインヒビター成分を充分に溶体化することが困難になるため、好ましくない。なお、このときのスラブの加熱温度の上限値は、特に定めないが、設備保護の観点から1450℃が好ましく、例えば、スラブの加熱温度は、1300℃以上1450℃以下であることが好ましい。
次に、加熱されたスラブは、熱間圧延されて熱延鋼板に加工される。熱間圧延は、公知の方法で行うことができる。加工後の熱延鋼板の板厚は、例えば、1.8mm以上3.5mm以下であることが好ましい。熱延鋼板の板厚を1.8mm以上3.5mm以下とすることで、二次再結晶をより安定化することができ、最終的に得られた方向性電磁鋼板において、優れた磁気特性を維持することが可能となる。一方で、熱延鋼板の板厚が1.8mm未満である場合、熱間圧延後の鋼板温度が低温化し、鋼板中のAlNの析出量が増加することで二次再結晶が不安定となって、磁気特性が低下する場合がある。熱延鋼板の板厚が3.5mm超である場合、冷間圧延の工程での圧延負荷が大きくなる場合がある。
(冷間圧延工程)
続いて、加工された熱延鋼板は、熱延板焼鈍が施された後、1回の冷間圧延、または中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延されることで、冷延鋼板に加工される。熱延板焼鈍、冷間圧延および中間焼鈍は、それぞれ公知の方法で行うことができる。なお、中間焼鈍を挟んだ複数回の冷間圧延にて圧延する場合、前段の熱延板焼鈍を省略することも可能である。ただし、熱延板焼鈍を施す場合、鋼板形状がより良好になるため、冷間圧延にて鋼板が破断する可能性を軽減することができる。
また、冷間圧延のパス間、圧延ロールスタンド間、または圧延中に、鋼板は、300℃程度以下で加熱処理されてもよい。このような場合、最終的な方向性電磁鋼板の磁気特性を向上させることができる。なお、熱延鋼板は、3回以上の冷間圧延によって圧延されてもよいが、多数回の冷間圧延は、製造コストを増大させるため、熱延鋼板は、1回または2回の冷間圧延によって圧延されることが好ましい。冷間圧延をゼンジミアミルなどのリバース圧延で行う場合、それぞれの冷間圧延におけるパス回数は、特に限定されないが、製造コストの観点から、9回以下が好ましい。
(一次再結晶焼鈍工程)
次に、冷延鋼板は、脱炭焼鈍される。昇温過程で、急速加熱することも、磁気特性の向上に有効である。かかる過程は、一次再結晶焼鈍とも称され、急速加熱する場合は、脱炭焼鈍と連続して行われることが好ましい。脱炭焼鈍は、公知の方法で行うことができるが、水素および窒素含有の湿潤雰囲気中において、例えば、900℃以下の温度で実施されることが好ましい。なお、一次再結晶焼鈍の工程では、冷延鋼板に対して、磁気特性および被膜特性向上を目的として、脱炭焼鈍に続く還元焼鈍が施されてもよい。
(焼鈍分離剤塗布工程)
その後、一次再結晶焼鈍後の冷延鋼板に、引き続く仕上焼鈍における鋼板間の焼き付き防止や、一次被膜形成、二次再結晶挙動制御などを目的として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤が塗布される。ここでいう「主成分」とは、ある物質に50質量%以上含まれている成分をいう。例えば、MgOは、焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量対して50.0質量%以上含まれる。MgOの含有量は、好ましくは、焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量に対して、50.0質量%以上99.27質量%以下であり、より好ましくは、70.0質量%以上98.5質量%以下である。焼鈍分離剤には、MgOの他、Ti化合物および希土類金属の化合物が含有され、さらにアルカリ土類金属の化合物やAl化合物、Fe化合物、Si化合物などが含有されてもよい。前記焼鈍分離剤は、水に含有され、スラリーの状態で鋼板表面に塗布、乾燥されるが、静電塗布法などを用いて塗布されてもよい。ここで、焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、特に焼鈍分離剤が高価な化合物を含有する場合、製造コストに大きく影響する。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は3.5g/m2以上10.0g/m2以下とする。3.5g/m2未満の場合、仕上焼鈍中に鋼板同士が焼き付くので好ましくない。10.0g/m2超の場合、製造コストが増大するので好ましくない。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、好ましくは、3.7g/m2以上9.5g/m2以下であり、より好ましくは、4.0g/m2以上9.0g/m2以下である。また、焼鈍分離剤の含有物は、特に一次被膜と鋼板の密着性や二次再結晶挙動に大きな影響を及ぼす。以下に、焼鈍分離剤の含有物の含有量および効果を記載する。ここで、焼鈍分離剤が含有する以下の各化合物の含有量は、特段の記載がない限り、焼鈍分離剤の主成分であるMgO100%に対する含有物の質量%とする。
本実施形態に係る焼鈍分離剤は、MgOに加え、Ti化合物、希土類金属化合物、B化合物、および、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物(以下では、単に「アルカリ土類金属化合物」ということもある。)を含有する。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法において、上記焼鈍分離剤におけるTi化合物の含有量は、Ti換算で、0.3%以上10.0%以下である。Ti化合物は、一次被膜と鋼板との密着性に大きな影響を及ぼす。Ti化合物の含有量がTi換算で0.3%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、また、Ti化合物の含有量がTi換算で10.0%超である場合、仕上焼鈍過程において鋼板へTiが固溶し、後に鋼中においてTiCなどの微細析出物を形成して磁性を劣化させる(磁気時効)ことがあるので、好ましくない。したがって、Ti化合物の含有量は、Ti換算で0.3%以上10.0%以下とする。Ti化合物の含有量は、好ましくは、Ti換算で1.0%以上8.0%以下である。
上記焼鈍分離剤において、希土類金属化合物の含有量は、希土類金属換算で0.1%以上7.5%以下である。希土類金属化合物は、仕上焼鈍中に酸素を放出し、一次被膜と鋼板の嵌入構造形成を促進することで、一次被膜と鋼板の密着性を向上させる。しかし、希土類金属化合物の含有量が0.1%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、また、希土類金属化合物の含有量が7.5%超である場合、製造コストが増大するため、好ましくない。したがって、希土類金属化合物の含有量は、希土類金属換算で0.1%以上7.5%以下とする。希土類金属化合物の含有量は、好ましくは、0.2%以上7.5%以下である。焼鈍分離剤に含まれる希土類金属化合物は、希土類元素からなる群より選択される1種または2種以上の元素が含まれる。希土類金属化合物は、特に限定されるものではなく、各種の希土類金属元素の酸化物、硫化物、硫酸塩、ケイ化物、リン酸塩、水酸化物、炭酸塩、ホウ素化物、塩化物、フッ化物の1種または2種以上を混合すればよい。希土類金属化合物は、入手のしやすさ、コストの観点から、La、Ce、Yの化合物の使用がより好ましい。
ここで、化合物の種は、化学式によって定義されてもよく、化学式が異なれば別種の化合物としてもよい。含有される希土類金属の量の換算値は、焼鈍分離剤に含有される希土類金属化合物の化学式から、各元素の原子量を用いて、当該化合物に含まれる希土類金属元素の割合を算出し、これを焼鈍分離剤における当該化合物の含有量に乗じることで計算できる。2種以上の希土類金属を含有する場合は、各当該化合物より計算した値を合算しても良い。なお、化学式における各元素の組成量論比が定まらない場合などは、焼鈍分離剤を誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)などの成分分析装置を用いて、希土類金属の含有量を測定してもよい。また、Ti、Bおよびアルカリ土類金属の換算値も、同様に計算あるいは測定されてもよい。さらに、化合物種の同定は、一般的な装置であるX線回折装置や透過型電子顕微鏡などを用いて実施してもよい。
上記焼鈍分離剤において、B化合物の含有量は、B換算で0.03%以上1.60%以下である。B化合物の含有量がB換算で0.03%未満である場合、密着性改善の効果が十分ではなく、また、B化合物の含有量がB換算で1.60%超である場合、密着性改善の効果が飽和してコストが増加するので好ましくない。したがって、B化合物の含有量は、B換算で0.03%以上1.60%以下とする。B化合物の含有量は、好ましくは、B換算で0.05%以上1.60%以下である。
上記焼鈍分離剤において、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物の含有量は、アルカリ土類金属換算で0.3%以上5.8%以下とする。アルカリ土類金属化合物は、さらなる磁気特性向上および被膜密着性向上に有効である。アルカリ土類金属化合物の含有量が、アルカリ土類金属換算で0.3%未満である場合、磁気特性向上効果および被膜密着性向上効果が十分に得られないので好ましくない。アルカリ土類金属化合物の含有量が、アルカリ土類金属換算で5.8%超である場合、二次再結晶が不安定となり、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度であるB8値が劣化するので好ましくない。なお、磁束密度などの方向性電磁鋼板の磁気特性は、公知の方法により測定することができる。例えば、方向性電磁鋼板の磁気特性は、JIS C 2550:2011に規定されるエプスタイン試験に基づく方法、またはJIS C 2556:2015に規定される単板磁気特性試験法(Single Sheet Tester:SST)などを用いることにより測定することができる。なお、研究開発において、真空溶解炉などで鋼塊が形成された場合では、実機製造と同等サイズの試験片を採取することが困難となる。この場合、例えば、幅60mm×長さ300mmとなるように試験片を採取して、単板磁気特性試験法に準拠した測定を行っても構わない。さらに、エプスタイン試験に基づく方法と同等の測定値が得られるように、得られた結果に補正係数を掛けても構わない。本実施形態では、単板磁気特性試験法に準拠した測定法により測定する。
なお、Ca、SrおよびBaからなる群より選択される1種または2種以上のアルカリ土類金属元素を含む1種または2種以上のアルカリ土類金属化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物、塩化物および酸化物等が挙げられ、具体的には、CaSO4・0.5H2O、CaCO3、SrSO4、Sr(OH)2、BaSO4、SrCO3等を挙げることができる。
上記焼鈍分離剤は、S(硫黄)を、例えば、0.01%以上5.00%以下含有してもよい。焼鈍分離剤にSが含有されることで、母材鋼板と一次被膜との密着性を向上させることが可能となる。ここで、S(硫黄)の含有量は、MgO100%に対する、硫黄の化合物の含有量の、含有される硫黄換算値とした。好ましくは、Sの含有量は、0.03%以上3.50%以下である。なお、Sは、焼鈍分離剤において必須ではないことから、含有量の下限値は0%である。
本実施形態に係る焼鈍分離剤は、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物を少なくとも含有するが、希土類金属化合物は比重が大きく、一方、B化合物は比重が小さいため、水スラリーを作製する場合、沈殿や浮遊を抑制して均一に混合されるように撹拌する必要がある。前記焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌は、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間、実施する。水スラリーの温度が0℃未満となると、氷が形成され、均一な混合が困難になり、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。水スラリーの温度が30℃超である場合、スラリーの粘度が高くなってスラリーに含有される化合物が均一に混合されず、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。撹拌時間が5分未満である場合、添加物の混合が十分でなく、焼鈍分離剤に含まれる化合物が均一に分散したスラリーが得られないので好ましくない。撹拌時間が300分超である場合、生産性を低下させるので好ましくない。焼鈍分離剤の水スラリー作製における撹拌は、0℃以上30℃以下の温度で、5分以上300分以下の時間、実施する。
例えば、水スラリーの状態における焼鈍分離剤を構成する材料の合計質量は、塗布工程の作業性に影響を及ぼさなければ特段制限されず、例えば、焼鈍分離剤の全体の質量に対して、5質量%以上30質量%以下とすることができる。
また、焼鈍分離剤に含有される、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物の粒径は、水中に均一に分散可能であれば特段制限されず、例えば、0.1μm以上50μm以下である。焼鈍分離剤に含有される、MgO、Ti化合物、希土類金属化合物、およびB化合物の粒径は、好ましくは、0.5μm以上25μm以下である。粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いて体積基準分布で測定した平均粒径とする。
なお、スラリーの撹拌に使用する撹拌機は、均一な混合が可能であれば特段制限されず、種々の形状の撹拌槽と撹拌翼とを適宜組み合わせることができる。均一な混合を達成するために、撹拌槽の内部に邪魔板を有していてもよいことはいうまでもない。
焼鈍分離剤に希土類金属化合物、Ti化合物およびB化合物を含有させることによって、一次被膜と鋼板との密着性が改善される。このメカニズムについて、詳細は明らかではないが、焼鈍分離剤が希土類金属化合物、Ti化合物およびB化合物を含有すると、仕上焼鈍の昇温過程において、希土類金属化合物は分解して希土類金属元素が鋼中に浸入することで、またTi化合物およびB化合物も分解してTiおよびBが鋼中に浸入することで、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、一次被膜と鋼板の界面構造の複雑化に寄与して、アンカー効果を発揮するものと推察される。
上記焼鈍分離剤において、Ti化合物および希土類金属化合物の含有量は、以下の式(1)を満たすように含有される。
0.4 ≦(A+B)≦ 12.0 ・・・式(1)
ここで、上記式(1)において、A(質量%)は、MgO100%に対するTi化合物の含有量の、含有されるTi換算値であり、B(質量%)は、MgO100%に対する、希土類金属の化合物の含有量の、含有される希土類金属換算値である。焼鈍分離剤が2種以上の希土類金属化合物を含有する場合、上記B(%)は、含有される希土類金属元素それぞれの換算値の合計値である。
上記AおよびBの関係が、(A+B)<0.4の式で表される場合、密着性改善の効果が十分ではなく、12.0<(A+B)の式で表される場合、製造コストが増大するため、好ましくない。
本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法において、上記の効果をより確実に発現させるために、焼鈍分離剤におけるTi化合物、B化合物および希土類金属化合物の含有量は、好ましくは0.4≦(A+B)≦10.0の式を満たす。
本発明者らは、上記焼鈍分離剤が、Ti化合物、B化合物と希土類金属化合物を同時に含有した場合、一次被膜と鋼板との密着性が著しく向上するが、多量含有しても含有量に見合う効果が発揮できないことを見出した。このメカニズムは、必ずしも明らかではないが、焼鈍分離剤に含有されたTi化合物、B化合物および希土類金属化合物が、仕上焼鈍の昇温過程において互いに影響を及ぼし合って、互いの分解を制限していると推察される。本発明者らは、仕上焼鈍後の一次被膜を詳細に解析した結果、一次被膜に含まれる希土類金属元素の含有量は、Ti化合物の含有量が増加するに伴って、減少することを見出した。
焼鈍分離剤に含有される希土類金属化合物は、仕上焼鈍昇温過程において分解し、分解した希土類金属元素は、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、酸化物や硫化物を形成する。ここで、焼鈍分離剤にTi化合物およびB化合物が同時に含有されると、仕上焼鈍昇温過程において、Ti化合物およびB化合物の方が希土類金属化合物よりも早期に分解し、分解したTiは一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、酸化物、硫化物や窒化物を形成すると考えられる。この過程において一次被膜と鋼板の界面構造を複雑化することで、一次被膜と鋼板の密着性向上に寄与すると推察される。ここで、Bは、一次被膜中のTiの拡散を促進することで、一次被膜と鋼板の界面構造を複雑化し、一次被膜と鋼板の密着性向上に寄与していると考えられる。一方、希土類金属元素とTiが、硫化物形成反応において競合すると、Tiが希土類金属元素に先んじて一次被膜中を拡散していた場合、希土類金属化合物の分解が制限されると推察される。焼鈍分離剤において、分解しないで残存する希土類金属化合物は、密着性向上に寄与しないため、製造コストを増大するのみである。
(仕上焼鈍工程)
続いて、上記の焼鈍分離剤が一次再結晶焼鈍後の冷延鋼板に塗布された後、一次被膜形成および二次再結晶を目的として仕上焼鈍が施される。仕上焼鈍は、例えば、バッチ式加熱炉等を用いて、1000℃〜1150℃の温度にて、コイル状の鋼板が10時間以上100時間以下の範囲で滞留される。滞留時間が10時間未満の場合、焼鈍分離剤に含有されるTi化合物、B化合物および希土類金属化合物が十分に分解しないので好ましくない。滞留時間が100時間超の場合、製造コストが増大するので好ましくない。ここで、コイル状の鋼板は、特定の温度で保持されてもよい。さらに、最終的な方向性電磁鋼板の鉄損値をより低減するためには、コイル状の鋼板を1200℃程度の温度まで昇温させた後に保持する純化処理が施されてもよい。
仕上焼鈍の昇温過程における平均昇温速度については、特に限定されず、一般的な仕上焼鈍の条件を用いることが可能である。例えば、二次再結晶焼鈍を含む仕上焼鈍の昇温過程における平均昇温速度は、生産性および一般的な設備制約の観点から5℃/h〜100℃/hとすることが好ましい。また、仕上焼鈍の昇温過程は、他の公知のヒートパターンで行ってもよい。
仕上焼鈍における雰囲気ガス組成は、特に限定されない。二次再結晶進行過程では、窒素と水素の混合ガスであってもよい。乾燥雰囲気でもよいし、湿潤雰囲気でも構わない。純化焼鈍の雰囲気ガス組成は、乾燥水素ガスであってもよい。以上の技術により、本発明者らは、焼鈍分離剤におけるTi化合物、B化合物および希土類金属化合物の含有量を厳密に制御し、かつ、仕上焼鈍工程の1000℃から1150℃の滞留時間を厳密に制御することで、低コストで一次被膜と鋼板の密着性を著しく向上させることに成功した。
(平坦化焼鈍工程)
続いて、仕上焼鈍の後、鋼板へ絶縁性および/または張力付与を目的として、例えば、リン酸アルミニウムまたはコロイダルシリカなどを主成分とした絶縁被膜が鋼板の表面に塗布される。その後、絶縁被膜の焼付、および仕上焼鈍による鋼板形状の平坦化を目的として、平坦化焼鈍が施される。なお、鋼板に対して絶縁性および/または張力が付与されるのであれば、絶縁被膜の成分は特に限定されない。また、平坦化焼鈍は、公知の方法で実施することができる。なお、本実施形態では、需要家の目的によっては、方向性電磁鋼板に磁区制御処理が施されてもよいことは言うまでもない。
以上の工程により、最終的な方向性電磁鋼板を製造することができる。本実施形態に係る製造方法によれば、製造コストの増大を抑制しつつ、磁気特性に優れ、一次被膜と鋼板の密着性に優れた方向性電磁鋼板が製造される。
こうして得られた方向性電磁鋼板は、変圧器に加工される際に、例えば、巻鉄心変圧器では、所定の大きさに巻き取られた後、金型などにより形状矯正される。ここで、特に、鉄心内周側では非常に曲率半径の小さい加工が施されることになる。このような加工でも一次被膜と鋼板の剥離を十分に防止するには、10mmφの曲げ加工密着性試験で、被膜剥離面積率が、好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であることが良い。
ここで、10mmφの曲げ加工密着性試験(10mmφ曲げ試験)とは、円筒型マンドレル屈曲試験機を用いて、サンプル鋼板を試験機に設置して曲げ試験を行い、曲げ試験後のサンプル鋼板の表面を観察することで実施される。また、被膜剥離面積率とはサンプル鋼板の全面積に対して、一次被膜が剥離した領域の面積の割合である。
[方向性電磁鋼板]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板は、所定の成分を含む母材鋼板と母材鋼板の表面上に形成されており、Mg2SiO4を主成分として含有する一次被膜と、絶縁被膜と、を備えるものである。
[母材鋼板の成分組成]
本実施形態に係る方向性電磁鋼板において、高磁束密度化とともに低鉄損化するためには、方向性電磁鋼板の母材鋼板に含有される成分組成のうち、下記元素の含有量を制御することが重要である。なお、特に断りのない限り、「%」との表記は「質量%」を表わすものとする。
Cは、製造工程における脱炭焼鈍工程の完了までの組織制御に有効な元素である。しかし、C含有量が0.0050%超である場合、磁気時効を引き起こして磁気特性が低下する。したがって、C含有量は、0.0050%以下である。一方、C含有量は低いほうが好ましいが、C含有量を0.0001%未満に低減しても、組織制御の効果は飽和し、製造コストが嵩むだけとなる。したがって、C含有量は、0.0001%以上としてもよい。C含有量は、より好ましくは、0.0001%以上0.0030%以下である。
Siは、鋼板の電気抵抗を高めることで、鉄損の一部を構成する渦電流損失を低減する。Siは、質量%で、2.5%以上4.5%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Siの含有量が2.5%未満である場合、方向性電磁鋼板の渦電流損失を抑制することが困難になるため好ましくない。Siの含有量が4.5%超である場合、方向性電磁鋼板の加工性が低下するため好ましくない。Siの含有量は、より好ましくは、2.7%以上4.0%以下である。
Mnは、二次再結晶を左右するインヒビターであるMnSやMnSeを形成する。Mnは、質量%で、0.01%以上0.15%以下の範囲で母材鋼板に含有される。Mnの含有量が0.01%未満である場合、その母材鋼板は、二次再結晶を生じさせるMnSおよびMnSeの絶対量が不足するため好ましくない。Mnの含有量が0.15%超である場合、その母材鋼板は、スラブ加熱時にMnの固溶が困難になり、かつインヒビターの析出サイズが粗大化することで、インヒビターの最適サイズ分布が損なわれたものであるため好ましくない。Mnの含有量は、より好ましくは、0.03%以上0.13%以下である。
本発明による方向性電磁鋼板の母材鋼板の化学組成の残部は、Feおよび不純物を含む。ここで、不純物とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入されるもの、または、純化焼鈍において完全に純化されずに鋼中に残存する下記の元素等であって、本発明の方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[一次被膜]
また、本発明者らは、Mg2SiO4を主成分とする一次被膜と鋼板の密着性と、一次被膜中もしくは一次被膜と鋼板の界面やその近傍に残存する希土類金属元素およびTi等の量に、密接な関係があることを見出した。すなわち、本発明による方向性電磁鋼板において、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を行ったときに得られる、深さ10μmの位置における発光強度に対する、深さ1〜10μmの範囲における最大発光強度のピーク強度比Iについて、Ti発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類金属元素発光強度のピーク強度比IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下である。なお、ここでいう深さは、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向への距離をいう。
ここで、元素分析の深さは、予め標準サンプルにおいて、例えば、200秒のグロー放電発光分析を行った後、サンプル表面に形成されたスパッタ痕の深さを計測することで、スパッタ時間から算出することができる。まず、ピーク強度として、例えば200秒のグロー放電発光分析を行った場合の、深さ1〜10μmにおける発光強度の最大値を測定する。ここで、ピーク強度比は、前記方法で測定したピーク強度を、例えば200秒のグロー放電発光分析を行って得た深さ10μmにおける発光強度で、除した値とする。ピーク強度比を用いて評価することで、サンプル間の測定ばらつきを抑制することが可能となる。なお、本発明におけるGDS法では、市販の高周波グロー放電発光分析装置を用いることができる。また、この測定は、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液等に浸漬することで絶縁被膜を除去して、水洗した後に実施してもかまわない。また、200秒のグロー放電発光分析におけるスパッタ痕の深さが10μm未満である場合は、スパッタ時間を長くしてもよい。
深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiは、5以上25以下とする。Tiは、焼鈍分離剤中のTi化合物が仕上焼鈍中に分解して、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、酸化物、硫化物や窒化物などを形成することで残存する。Ti発光強度のピーク強度比ITiは、焼鈍分離剤中のTi化合物の分解程度および一次被膜中のTiの拡散程度を強く反映していると推定される。ピーク強度比ITiが5未満である場合、Ti化合物の分解や一次被膜中のTiの拡散が十分でなく、希土類金属化合物による密着性改善効果を十分に代替できておらず、密着性改善に製造コストが増加するため、好ましくない。一方、ピーク強度比ITiが25超である場合、焼鈍分離剤のTi含有量が過剰であるため、製造コストの観点から好ましくない。深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiは、好ましくは、5.2以上22.0以下であり、より好ましくは、5.5以上20.0以下である。
深さ1〜10μmにおける希土類金属元素(REM)発光強度のピーク強度比IREMは、2以上8以下とする。希土類金属元素(REM)は、焼鈍分離剤中の希土類金属化合物が仕上焼鈍中に分解して、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、酸化物や硫化物などを形成することで残存する。よって、希土類金属元素(REM)発光強度のピーク強度比IREMは、焼鈍分離剤中の希土類金属化合物の分解程度および一次被膜中の希土類金属の拡散程度を反映していると推定される。ピーク強度比IREMが2未満である場合、密着性改善の効果が十分ではないため、好ましくない。一方、ピーク強度比IREMが8超である場合、焼鈍分離剤の希土類金属化合物含有量が過剰であるため、製造コストの観点から好ましくない。ここで、焼鈍分離剤が希土類金属化合物を2種以上、含有した場合は、それぞれの希土類金属元素におけるピーク強度比を合算した値をIREMとする。深さ1〜10μmにおける希土類金属元素(REM)発光強度のピーク強度比IREMは、好ましくは、2.1以上7.8以下であり、より好ましくは、2.2以上7.6以下である。
深さ1〜10μmにおけるAl発光強度のピーク強度比IAlは、10以上とする。Alは、母材鋼板に含有される酸可溶性Al(酸可溶性アルミニウム)が、仕上焼鈍中に、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍においてMgOと反応して、主にMgAl2O4(スピネル)を形成することで残存する。MgAl2O4(スピネル)が、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、分散して存在する場合、アンカー効果が十分でないために密着性が劣位となると考えられる。ここで、MgAl2O4(スピネル)が分散して存在する場合、ピーク強度比IAlは低下することとなる。ピーク強度比IAlが10未満である場合、密着性改善の効果が十分ではないため、好ましくない。一方、ピーク強度比IAlの上限は、特に制限する必要はないが、スラブの酸可溶性Al(酸可溶性アルミニウム)の含有量から、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において形成されるMgAl2O4(スピネル)は制限されるため、例えば、150としてもよい。深さ1〜10μmにおけるAl発光強度のピーク強度比IAlは、好ましくは、15以上135以下であり、より好ましくは、25以上125以下である。
深さ1〜10μmにおけるB発光強度のピーク強度比IBは、2.5以上15以下とする。Bは、焼鈍分離剤中のB化合物が仕上焼鈍中に分解して、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、窒化物などを形成することで残存する。よって、B発光強度のピーク強度比IBは、焼鈍分離剤中のB化合物の分解程度および一次被膜中のBの拡散程度を反映していると推定される。ピーク強度比IBが2.5未満である場合、B化合物の分解や一次被膜中のBの拡散が十分でなく、一次被膜中のTiの拡散促進効果が十分でないため、希土類金属化合物による密着性改善効果を十分に代替できておらず、密着性改善に製造コストが増加するため、好ましくない。一方、ピーク強度比IBが15超である場合、焼鈍分離剤のB化合物含有量が過剰であるため、製造コストの観点から好ましくない。深さ1〜10μmにおけるB発光強度のピーク強度比IBは、好ましくは、2.6以上12.0以下であり、より好ましくは、2.7以上10.0以下である。
深さ1〜10μmにおけるS発光強度のピーク強度比ISは、2.5以上10以下とする。Sは、焼鈍分離剤に含有される硫化物やスラブに含有されるSが、一次被膜中または一次被膜と鋼板の界面やその近傍において、仕上焼鈍中に硫化物を形成することで残存する。ここで、焼鈍分離剤にTi化合物や希土類金属化合物を含有させる場合、Tiや希土類金属元素は、Sと親和性が強いため、Tiや希土類金属元素の硫化物が形成される。よって、S発光強度のピーク強度比ISは、焼鈍分離剤中のTi化合物や希土類金属化合物の分解程度および一次被膜中の拡散程度を反映していると推定される。ピーク強度比ISが2.5未満である場合、Ti化合物や希土類金属化合物の分解や一次被膜中の拡散が十分でなく、密着性改善効果を十分に確保できないため好ましくない。一方、ピーク強度比ISが10超である場合、焼鈍分離剤のTi化合物含有量および/または希土類金属化合物の含有量が過剰であるため、製造コストの観点から好ましくない深さ1〜10μmにおけるS発光強度のピーク強度比ISは、好ましくは、2.6以上9.5以下であり、より好ましくは、2.6以上9.0以下である。
一次被膜は、先立って説明したように、母材鋼板の表面上に形成され、Mg2SiO4を主成分として含有する。一次被膜のMg2SiO4の含有量は、一次被膜を形成する酸化物に対して、好ましくは、50質量%以上であり、より好ましくは、70質量%以上である。一次被膜密着性や絶縁性の観点から、母材鋼板の表面上に形成されるMg2SiO4の含有量は、多い方が好ましいため、上限は特に定めない。一次被膜に含まれる成分としては、例えば、Al化合物や硫化物、Fe化合物などを含んでいてもよい。
一次被膜の主成分は、例えば、仕上焼鈍後の鋼板において、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置、または蛍光X線分析装置を用いて測定することができる。具体的には、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、表面に金蒸着を施し、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いた測定にて約0.005mm2の面積を定量分析して、一次被膜の主成分を測定することができる。定量分析結果が、Mg濃度が17質量%以上かつSi濃度が11質量%以上の場合、一次被膜には、Mg2SiO4が50質量%以上含まれると判断できる。なお、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液等に浸漬することで絶縁被膜を除去して、水洗した後に、分析を実施してもかまわない。
[絶縁被膜]
絶縁被膜は、先立って説明したように、リン酸アルミニウムまたはコロイダルシリカなどを主成分として含有する。しかしながら、鋼板に対して絶縁性および/または所定の張力が付与されるのであれば、絶縁被膜の成分は特に限定されない。
絶縁被膜の塗布量は、鋼板に対して絶縁性および/または所定の張力が付与されるのであれば、特に限定されず、適宜調整することができる。
以上、本実施形態に係る方向性電磁鋼板ついて説明した。なお、本発明では鋼板板厚を特に指定しないが、薄くなるほど渦電流損が低減して好ましいことは言うまでもない。本実施形態に係る方向性電磁鋼板は上述した本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法により製造することができる。ただし、その方法のみに限定されるものではない。
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤について、より具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤のあくまでも一例に過ぎず、本実施形態に係る方向性電磁鋼板の製造方法、および方向性電磁鋼板、ならびに焼鈍分離剤が以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊Aと、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊Bを作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、1000℃〜1150℃の範囲の滞留時間が10時間となるように昇温速度15℃/hで昇温し、1200℃の温度にて、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、質量%で、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で0.55%、残部は不可避的不純物と、表1に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表1に示す条件の化合物を加えた後、5℃にて60分とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は8.0g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。なお、上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、絶縁被膜および一次被膜を除去した後、母材鋼板のC、Si、Mnの含有量を分析した。Cの含有量は、炭素分析装置で分析し、Si、Mnの含有量は、誘導結合プラズマ発光分光分析法で分析した。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、断面を鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いて、一次被膜および絶縁被膜の有無を確認した。また、一次被膜の成分の分析は、以下の方法で測定した。すなわち、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した後、表面に金蒸着を施し、走査型電子顕微鏡に付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いた測定にて約0.005mm2の面積を定量分析し、Mg濃度が17質量%以上かつSi濃度が11質量%以上の場合、一次被膜の主成分がMg2SiO4であると判定した。本手法では、一次被膜下部のFeを検出することや、測定誤差が大きいことなどの懸念があるが、主成分の判定には本手法でも十分である。なお、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液等に浸漬することで絶縁被膜を除去して、水洗した後に、分析を実施してもかまわない。また、一次被膜の分析方法は、上記手法に限るものではなく、例えば、蛍光X線分析法を用いてもよい。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を行った。ここで、深さ1〜10μmにおける発光強度の最大値を深さ10μmにおける発光強度で除した値をピーク強度比とし、Ti発光強度のピーク強度比ITi、希土類金属元素発光強度のピーク強度比IREM、Al発光強度のピーク強度比IAl、B発光強度のピーク強度比IBおよびS発光強度のピーク強度比ISを測定した。なお、元素分析の深さは、予め標準サンプルにおいて、200秒のグロー放電発光分析を行った後、サンプル表面に形成されたスパッタ痕の深さを計測し、スパッタ時間とスパッタ痕の深さに基づいて算出した。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表1に示す。前記鋼塊にBiを含まない場合は、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が5%以下となる条件を良好と判定し、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が5%超となる条件を不可とした。前記鋼塊にBiを含む場合は、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定し、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件を不可と判定した。また、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下であるものの、焼鈍分離剤条件を変更しても被膜密着性改善効果が飽和しており製造コストに見合う効果が得られなかった場合を不可(飽和)と判定した。表1に示した条件A1〜A7は、鋼塊Aを用いた例であり、条件B1〜B28は、鋼塊Bを用いた例である。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0015%、Siを3.2%、Mnを0.08%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表1の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。また、焼鈍分離剤におけるTi化合物の含有量をTi換算で10.0%超とした場合、焼鈍分離剤における希土類金属化合物の含有量として希土類金属換算を7.5%超とした場合、またはTi化合物含有量のTi換算値A(質量%)と希土類金属化合物含有量の希土類金属換算値B(質量%)の合計を12.0%超とした場合、密着性改善の効果は飽和しており、製造コストが増大するだけであることがわかった。さらに、本実施形態の条件を満たす場合、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。なお、条件A1、A3、B1、B7、B13、B19、B24について、焼鈍分離剤にCeO2を添加していないものの、鋼塊または焼鈍分離剤に不可避的に含有される希土類元素の不純物により、希土類元素についてのGDSピークが検出され、希土類元素の発光強度のピーク強度比IREMが算出された。また、条件A1、A2、B1〜B6について、焼鈍分離剤にB化合物を添加していないものの、鋼塊または焼鈍分離剤に不可避的に含有されるBにより、BについてのGDSピークが検出され、Bの発光強度のピーク強度比IBが算出された。
ここで、鋼塊Bを用いた例において、焼鈍分離剤にB化合物がB換算値で0.03%以上1.60%以下含有される場合において、Ti化合物含有量として、Ti換算値A(%)を横軸に取り、希土類金属化合物の含有量として、希土類金属換算値B(%)を縦軸に取って、表1で示す結果をプロットしたグラフ図を図1に示す。図1に示すように、本発明例を丸点でプロットし、比較例を交差点でプロットすると、焼鈍分離剤におけるTi化合物の含有量A(%)と、焼鈍分離剤における希土類金属化合物の含有量として含有される希土類金属換算値B(%)との間には、本実施形態に係る条件にて規定される以下の式(101)の関係が成立していることがわかった。
0.4 ≦(A+B)≦ 12.0 ・・式(101)
このように、式(101)を満足するように、Ti化合物の含有量、および、希土類金属化合物の含有量を制御することで、より一次被膜と鋼板の密着性に優れる方向性電鋼板を著しい製造コストの増加なく製造することが可能であることが分かった。
(実施例2)
まず、質量%で、C:0.09%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.009%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、1000℃〜1150℃の範囲の滞留時間が10時間となるように昇温速度15℃/hで昇温し、1200℃の温度にて、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、質量%で、MgO100%に対して、CaCO3をCa換算で0.55%、残部は不可避的不純物と、表2に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表2に示す条件の化合物を加えた後、10℃にて60分とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、表2に示す条件とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。なお、上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板の成分を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜および絶縁被膜の有無ならびに一次被膜の成分の分析を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表2に示す。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定した。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件または剥離試験が行えなかった条件を不可と判定した。また、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下であるものの、焼鈍分離剤条件を変更しても被膜密着性改善効果が飽和しており製造コストに見合う効果が得られなかった場合を不可(飽和)と判定した。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0016%、Siを3.2%、Mnを0.08%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表2の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。条件C1〜C4では、焼き付きが発生した。また、焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量を10.0g/m2超とした場合、密着性改善の効果は飽和しており、製造コストが増大するだけであることがわかった。さらに、本実施形態の条件を満たす場合、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。
(実施例3)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.2%、Mn:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、昇温速度30℃/hで表3に示す高温保持温度まで昇温した。各高温保持温度にて、表3に示す時間保持した後、昇温速度30℃/hで1200℃の温度まで昇温し、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、質量%で、MgO100%に対して、SrSO4をSr換算で0.48%、残部は不可避的不純物と、表3に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表3に示す条件の化合物を加えた後、30℃にて40分とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、6.0g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板の成分を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜および絶縁被膜の有無ならびに一次被膜の成分の分析を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表3に示す。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定した。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件を不可と判定した。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0015%、Siを3.1%、Mnを0.08%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表3の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。さらに、判定が良好の場合、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。
(実施例4)
まず、質量%で、C:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部が表4に示す含有量のSiおよびMnと、Feおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、1000℃〜1150℃の範囲の滞留時間が10時間となるように昇温速度15℃/hで昇温し、1200℃の温度にて、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、CaCO3およびBaSO4をアルカリ土類金属換算で0.69%、残部は不可避的不純物と、表4に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表4に示す条件の化合物を加えた後、5℃にて20分とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、6.0g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板の成分を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜および絶縁被膜の有無ならびに一次被膜の成分の分析を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表4に示す。B8値が1.85T以上かつ10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定した。B8値が1.85T未満、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件または剥離試験が行えなかった場合を不可と判定した。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0016%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表4の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。さらに、判定が良好の場合、方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Siを2.5%以上4.5%以下、Mnを0.01%以上0.15%以下含有していることがわかった。さらに、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。
(実施例5)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.025%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.02%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1050℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に一次冷間圧延を施すことで、板厚1.8mmの一次冷間圧延板を得た。得られた一次冷間圧延板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に二次冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、1000℃〜1150℃の範囲の滞留時間が10時間となるように昇温速度15℃/hで昇温し、1200℃の温度にて、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、質量%で、MgO100%に対して、CaSO4・0.5H2OをCa換算で0.55%、残部は不可避的不純物と、表5に示す条件の化合物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表5に示す条件の化合物を加えた後、10℃にて40分とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は8.0g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板の成分を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜および絶縁被膜の有無ならびに一次被膜の成分の分析を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表5に示す。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定した。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件を不可と判定した。また、10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下であるものの、焼鈍分離剤条件を変更しても被膜密着性改善効果が飽和しており製造コストに見合う効果が得られなかった場合を不可(飽和)と判定した。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0014%、Siを3.2%、Mnを0.08%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表5の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。また、Ti化合物含有量のTi換算値A(質量%)と希土類金属化合物含有量の希土類金属換算値B(質量%)の合計を12.0%超とした場合、密着性改善の効果は飽和しており、製造コストが増大するだけであることがわかった。さらに、本実施形態の条件を満たす場合、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。
(実施例6)
まず、質量%で、C:0.08%、Si:3.2%、Mn:0.08%、S:0.024%、酸可溶性Al:0.03%、N:0.008%、Bi:0.03%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる鋼塊を作製した。該鋼塊を1350℃にて1時間焼鈍した後、熱間圧延を施すことで、板厚2.3mmの熱延鋼板を得た。得られた熱延鋼板を最高温度1100℃にて140秒間焼鈍し、酸洗を施した後に冷間圧延を施すことで、板厚0.23mmの冷延鋼板を得た。
続いて、得られた冷延鋼板を湿水素雰囲気かつ850℃で180秒の間、一次再結晶焼鈍を施した。次に、一次再結晶焼鈍後の鋼板の表面に、MgOを含む焼鈍分離剤を塗布した後、バッチ式加熱炉を用いて、1000℃〜1150℃の範囲の滞留時間が10時間となるように昇温速度15℃/hで昇温し、1200℃の温度にて、30時間保持して仕上焼鈍を施し、仕上焼鈍後の鋼板を水洗した。ここで、焼鈍分離剤の含有物は、MgO100%に対して、TiO2をTi換算で4.2%、Ce(OH)4をCe換算で2.04%、H3BO3をB換算で0.61%、SrSO4をSr換算で0.95%、残部は不可避的不純物を含むものとした。焼鈍分離剤の撹拌条件は、表6に示す条件とした。焼鈍分離剤の鋼板片面当たりの塗布重量は、7.0g/m2とした。その後、鋼板の表面に、リン酸アルミニウムおよびコロイダルシリカを主成分とする絶縁被膜を塗布した後、絶縁被膜の焼付および鋼板の平坦化を目的とする平坦化焼鈍を施した。この平坦化焼鈍は、850℃にて40秒間かけて実施した。
以上にて得られた方向性電磁鋼板の試料をせん断して歪取焼鈍した後、サンプルサイズが60mm×300mmの試料に対し、JIS C2556:2015に記載された単板測定法に準拠して、各本発明例および比較例に係る方向性電磁鋼板(歪取焼鈍後の試料)の磁束密度B8値を測定した。ここで、B8値とは、方向性電磁鋼板を50Hzにて800A/mで励起したときの鋼板の磁束密度である。本発明例では、サンプル5枚の平均値をB8値とした。上記試料は、せん断前の方向性電磁鋼板の長手方向と、試料の長手方向とが一致するように歪取焼鈍後の方向性電磁鋼板から切り出した。
さらに、上記試料を30mm幅にせん断して、10mmφの曲げ試験を施した。ここでは、3枚の試験片を曲げ試験して、剥離した部分の面積をそれぞれ測定し、各試料について、全面積に対する剥離部分の面積の割合を剥離面積率とし、各試料間での剥離面積率の平均値を求めた。
さらに、得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板の成分を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、最終工程後の方向性電磁鋼板において、一次被膜および絶縁被膜の有無ならびに一次被膜の成分の分析を、実施例1と同様の方法で行った。
さらに、絶縁被膜を塗布および焼付後の鋼板を、高温のアルカリ溶液に浸漬することで絶縁被膜を除去した後、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向に、グロー放電発光分析法(GDS法)による元素分析を、実施例1と同様の方法で行った。
以上の本発明例および比較例の製造条件、および測定結果を表3に示す。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%以下である条件を良好と判定した。10mmφ曲げ試験の剥離面積率が10%超となる条件を不可と判定した。
得られた方向性電磁鋼板における母材鋼板は、質量%で、Cを0.0016%、Siを3.2%、Mnを0.08%含んでいた。また、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜および絶縁被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
表6の結果を参照すると、本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、判定が良好となることがわかった。さらに、判定が良好の場合、一次被膜の表面から方向性電磁鋼板の板厚方向にグロー放電発光分析法による元素分析を行ったときに得られる深さ1〜10μmにおけるTi発光強度のピーク強度比ITiが5以上25以下であり、希土類元素の発光強度のピーク強度比の合算値IREMが2以上8以下であり、Al発光強度のピーク強度比IAlが10以上であり、B発光強度のピーク強度比IBが2.5以上15以下であり、S発光強度のピーク強度比ISが2.5以上10以下であることがわかった。
本実施形態の条件を満たす方向性電磁鋼板は、一次被膜を有しており、一次被膜中のMg2SiO4分析の結果、いずれもMg濃度は35質量%以上、Si濃度は13質量%であり、一次被膜は、Mg2SiO4を主成分として含むものであった。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。