JP2026083473A - 絶縁性樹脂 - Google Patents

絶縁性樹脂

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Abstract

【課題】フィルム全体に均一に絶縁破壊電界向上効果が発揮でき、加熱によるフィルムの劣化が抑制された絶縁性樹脂を提供する。
【解決手段】絶縁性樹脂は、(A)ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種である熱可塑性樹脂と、(B)エーテル結合によって架橋された、配位子としてβ-ジケトンを1つ以上含む金属ジケトン錯体と、を含む。
【選択図】図1

Description

本開示は、絶縁性樹脂に関する。詳しくは、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を含む絶縁性樹脂に関する。
フィルムコンデンサは種々の電子機器に搭載され、絶縁材料、誘電材料として、樹脂製フィルムが用いられている。近年、電子機器の小型化、高機能化などにより、電子部品の使用環境が高温化している。これらの電子部品には、高温の環境下でも長時間にわたり安定な電気的特性が得られる耐熱性が要求されている。フィルムコンデンサの小型化を図る手段としては、誘電体フィルムの薄層化や、誘電体フィルムの積層数や巻回数の低減が挙げられるが、誘電体フィルムを薄層化するためには、誘電体フィルムの耐電圧を向上させる必要がある。耐電圧を向上させる方法として、例えば、特許文献1では、誘電体フィルムの耐電圧を高めるために、熱可塑性樹脂に、添加剤として金属ジケトン錯体を含む絶縁性樹脂を用いることが提案されている。
国際公開第2021/131654号
上記特許文献1の従来技術では、添加剤として従来の金属ジケトン錯体を含む絶縁性樹脂は、絶縁破壊電界が向上するが、その効果がフィルム全体に均一に発揮できないという問題がある。また、加熱により誘電体フィルムの主成分である高分子の分子鎖が分解されて誘電体フィルムの劣化が進行するという問題がある。
したがって、フィルム全体に均一に絶縁破壊電界が向上され、加熱によっても誘電体フィルムの劣化を抑制することができる絶縁性樹脂が求められている。
本開示の熱可塑性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体と、を含む。
本開示によれば、フィルム全体に均一に絶縁破壊電界向上効果が発揮でき、加熱によってもフィルムの劣化が抑制される絶縁性樹脂を提供することができる。
従来の金属ジケトン錯体をエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体に替えたときの、熱可塑性樹脂フィルム中での金属ジケトン錯体の中心金属の位置を示す概念図である。 ポリアリレート樹脂が金属ジケトン錯体により分解される過程を示す化学式である。 誘電体フィルムの加熱時間に対する重量平均分子量の変化を示すグラフである 平板電極法によるフィルムBDEの測定結果のグラフである。
本実施形態の絶縁性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂と、(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体と、を含む。
(A)熱可塑性樹脂
本発明において用いられる熱可塑性樹脂としては、好ましくはポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂の1種であるポリアリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。また、これら複数種類の樹脂の何れかを含む共重合体、混合樹脂であってもよい。これらの樹脂は、耐熱性に優れており、これらの樹脂を用いることで、耐熱性に優れた絶縁性樹脂とすることができる。
上記の各樹脂について、たとえば、ポリカーボネート樹脂であれば一般式(1)、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂であれば一般式(2)または(3)で表される繰り返し単位を有するポリマーが、一例として挙げられる。
一般式(1)中、Xは、脂肪族の2価基または環状脂肪族の2価基、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示し、一般式(2)または(3)中、Xは、一般式(4)で表される2価基から選ばれる少なくとも1種を示す。一般式(3)中、Yは、置換もしくは無置換のアリーレン(arylene)基を示す。
一般式(4)中、R1、R2は、それぞれ独立して置換もしくは無置換のアルキル基、アリール基、またはハロゲン原子を示す。Aは、単結合、炭素原子数1~12の直鎖状、分岐状、または環状のアルキレン基を示す。
上記一般式(1)、(2)、(3)中のXの具体例としては、たとえば一般式(5a)~(5n)で表される2価基が挙げられる。
(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体
本発明におけるエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体とは、2つ以上の金属ジケトン錯体がエーテル結合によって架橋された構造を有するオリゴマー型の金属ジケトン錯体である。架橋される前の金属ジケトン錯体(以下、単に金属ジケトン錯体という場合は、架橋される前の金属ジケトン錯体をいう)は、中心金属に対して、少なくともジケトンを含む配位子が、1または複数配位した錯体である。ジケトンとは、分子内のβ位に2つのカルボニル基を有するβ-ジカルボニル化合物であり、金属ジケトン錯体はこの2つのカルボニル基によって、中心金属との配位結合が生じる。
下記に、本発明の一実施形態のエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の化学構造式を示す。
(化3)

X-〔Zr(AcAc)2-CH2CH2OCH2CH2O-〕n(Zr(AcAc)2)-Y ・・・ (6)
ここで、nは1~5である。末端は、H、-OCH2CH2OCH2CH2OH、またはアセチルアセトンのいずれかである。
式(6)においては、具体例として、中心金属として4価のZrが用いられ、それぞれのZrに2つのアセチルアセトンが配位され、残りの2つがエーテル結合によって結合されており、金属ジケトン錯体がエーテル結合により架橋されている。
たとえば、nが1のときZrが2個の2量体である。nが2のときZrが3個の3量体である。また、上記化学式では表せていないが、両末端がアセチルアセトンの場合もある。
nが1以上であると絶縁破壊電界向上効果が得られる。nが5以下であると熱可塑性樹脂への分散性が良好である。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は、金属ジケトン錯体の中心金属がエーテル結合で架橋された構造であれば特に限定はない。たとえば、2つの中心金属が、上記のように-O-R-O-(Rはエチレン、プロピレン、ブチレン基などのアルキレン基、内部にエーテル結合を有するアルキレン基)で結合された構造の金属ジケトン錯体が挙げられる。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は、金属ジケトン錯体が2つ以上結合した線状のものであるが、分岐状に結合していてもよい。また、これらの混合物であってもよい。好ましいのは、熱可塑性樹脂中への溶解性、絶縁破壊電界向上効果の点から、線状であり、2~5量体である。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体において、中心金属は、Zr、Mo、V、Zn、Ti、よびAlから選ばれる少なくとも1種である。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に分散し、中心金属による酸素の捕捉によって、絶縁性樹脂の耐電圧性が向上する。中心金属として、上記以外にも、例えば、Cu、Fe、Ni、Ca、Co、Mn、Mg、Ir、In、CrまたはLaなどが存在していてもよい。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体において、ジケトンは、上記の中心金属に配位するものであれば、特に限定されない。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子は、架橋される前の金属ジケトン錯体の配位子と同じであり、配位子としてはβ-ジケトンを1つ以上含んでいてもよい。ジケトンとしては、上記のように、分子内のβ位に2つのカルボニル基を有するβ-ジカルボニル化合物であり、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体において、結合により元の金属ジケトン錯体の配位子の数が結合に費やされる分だけ減少する。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を上記の熱可塑性樹脂に配合することによって、下記の2つの効果が得られる。
(1)絶縁破壊電界向上効果がフィルム全体に均一に発揮でき、熱可塑性樹脂フィルムの絶縁破壊電界を向上させることができる。従来の金属ジケトン錯体の添加剤は熱可塑性樹脂中で凝集しやすかったので、金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中でばらつき、絶縁破壊電界向上効果が熱可塑性樹脂フィルム全体に均一に発揮できなかった。そのため、結果として誘電体フィルムの絶縁破壊電界が低下した。従来の金属ジケトン錯体に代えてエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を用いると、金属ジケトン錯体がオリゴマー化しているため、中心金属が無秩序でなく、ある一定の距離で分散できることになり、中心金属の凝集、過疎部が減少することで、局所的な電界集中が減少し、その結果全体として絶縁破壊電界を向上させることができる。
図1は、従来の金属ジケトン錯体をエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体に代えたときの、熱可塑性樹脂フィルム中での金属ジケトン錯体の中心金属の位置を示す概念図である。
図1において、左側の図は従来の金属ジケトン錯体を用いたときの状態を示し、右側の図はエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を用いたときの状態を示している。黒丸は1個の中心金属を示す。左側の図では、中心金属はばらついて存在しており、熱可塑性樹脂中で中心金属の密な部分と疎な部分があり、金属ジケトン錯体の分散性が良くないことが示されている。右側の図では、中心金属が2つセットになった2量体が記載されており、中心金属は一定の距離で離れて存在し、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中でより均一な配置になることが示されている。その結果、左側の図に示される従来局所的な電界集中を防ぐことができ、絶縁破壊電界を向上させることができる。
(2)誘電体フィルムを加熱しても、誘電体フィルムの主成分である高分子の分子鎖が分解されにくい。従来の添加剤は、主成分である高分子鎖(たとえば、ポリアリレート樹脂)の官能基と反応しやすい分子構造であった。誘電体フィルムの加熱により、誘電体フィルムの主成分である高分子の分子鎖が分解されて、誘電体フィルムの劣化が進行した。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は液体であるため、熱可塑性樹脂中に分散しやすく、分散助剤としてアセチルアセトンの添加が必要なくなる。そのため、アセチルアセトンによる高温時のポリアリレート樹脂の分解を減少させることができる。また、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体であるため、分子構造の立体障害が大きく高分子鎖に接近しにくくなり、高分子鎖の分解反応の進行が抑制される。これらの結果、誘電体フィルムの耐性が強くなったと考えられる。
図2は、ポリアリレート樹脂が金属ジケトン錯体により分解される過程を示す化学式である。ポリアリレート樹脂が分解する過程を式8~10で示す。金属ジケトン錯体の中心金属がポリアリレート樹脂のカルボニル基に接近し(式8)、Zrがカルボニル基と結合し、アセチルアセトンが脱落する(式9)。さらに、この箇所のポリアリレート樹脂が水でカルボン酸とOHに分解している(式10)。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は架橋されているので、立体障害があるため中心金属がポリアリレート樹脂のカルボニル基に接近しにくくなり、その結果ポリアリレート樹脂の分解が阻害される。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は、金属ジケトン錯体の加熱による配位子交換反応、紫外線照射による配位子交換反応、弱塩基による求核置換反応、マイクロ波及び超音波による配位子交換反応などによって製造することができるが、どのような方法で得られても上記のような構造であれば製造法の限定はないが、配位子交換効率が高いので金属ジケトン錯体の加熱による配位子交換反応が好ましい。
以下に金属ジケトン錯体の加熱による配位子交換反応よって、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を得る方法について記載する。この方法は、金属ジケトン錯体に存在するジケトンを、ジオールなどのポリオールと交換する方法である。
用いられる金属ジケトン錯体は、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体のところで記載した中心金属、配位子と同じものである。すなわち、中心金属は、Zr、Mo、V、Zn、Ti、よびAlから選ばれる少なくとも1種である。中心金属として、上記以外にも、例えば、Cu、Fe、Ni、Ca、Co、Mn、Mg、Ir、In、CrまたはLaなどが存在していてもよい。
配位子は、上記の中心金属に配位するものであれば、特に限定されない。配位子としてはβ-ジケトンを1つ以上含んでいてもよい。ジケトンとしては、上記のように、分子内のβ位に2つのカルボニル基を有するβ-ジカルボニル化合物であり、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
金属ジケトン錯体は、全て同じジケトンが配位していてもよく、複数種類のジケトンが配位していてもよい。例えば、中心金属がZrの場合は、4つのジケトンが配位されて金属ジケトン錯体となる。その化学構造式を式11に示した。
式11において、Zrの4つの配位子全てがアセチルアセトナートであり、金属ジケトン錯体は、Zrアセチルアセトナートである。複数種類のジケトンが配位する場合、一部のアセチルアセトナートが別のジケトンに置換されていてもよい。例えば、4つのアセチルアセトナートのうちひとつがジベンゾイルメタンに置換されていてもよい。
ポリオールとしては、金属ジケトン錯体と配位子交換してエーテル結合ができれば限定はないが、ジオール、トリオールなどが挙げられる。好ましくは炭素数2~6のジオールである。具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、n-ブチレングリコールなどのアルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールなどの内部にエーテル結合を有するアルキレングリコールが挙げられる。
エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は、上記の原料を用いて、以下の条件で反応するのが好ましい。
1.ジルコニウムテトラアルコキシドなどの金属アルコキシド錯体1モルに対してアセチルアセトンなどのジケトンを1.5モルと配合する。
2.加熱して80~95℃で24~48時間攪拌してアルコキシドをジケトンに交換する配位子交換反応を行う。さらに配位子交換反応を促進するために同温度で-0.06~-0.02MPaの減圧下で気泡(アルコール)が出なくなるまで脱気する。これによって、上記の金属ジケトン錯体が得られる。
3.気泡が出なくなれば、ジエチレングリコールなどのジオールを1.5モル添加して攪拌し、100~120℃まで昇温して同温度で24~48時間攪拌を続けて、ジケトンをジオールに交換する配位子交換反応を行う。さらに配位子交換反応(架橋反応)を促進するために同温度-0.06~-0.02MPaの減圧下で気泡(ジケトン)が出なくなるまで脱気する。
4.さらに昇温して170~220℃(架橋完結温度という)で30分~1時間静置して架橋反応を完結させて、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が得られる。
上記の方法で得られたエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の中心金属は、ジケトンとエーテル結合の両方に結合する。ジケトンとエーテル結合の数、すなわち架橋の状態は、中心金属の価数によって異なるが、金属ジケトン錯体に添加するポリオールの種類や量および反応温度によってある程度制御することができる。配位子交換した数が1個であると、2量体が主に生成するが、2コであると主に線状の3量体が生成する。3~4個であると分岐状に架橋する。
また、上記4における架橋完結反応における温度によっても、架橋度が異なり、架橋状態が異なってくる。それによって熱可塑性樹脂への分散性にも影響を与える。好ましい架橋完結温度は170~190℃の温度である。この温度であると、架橋度と熱可塑性樹脂への分散性のバランスがとれ、絶縁破壊電界が最も向上する効果が得られる。
本実施形態の絶縁性樹脂は、(A)熱可塑性樹脂に、(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を配合して得られる。
絶縁性樹脂において、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の含有量は、(A)熱可塑性樹脂に対して、0.1~10質量%である。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の含有量が、0.1質量%以上、10質量%以下であると絶縁破壊電界が向上する。
本実施形態の絶縁性樹脂は、使用目的、使用する電子部品の種類などに応じて、さらに各種成分を添加してもよい。例えば、絶縁性樹脂を、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムとして用いる場合に、さらに添加剤として、(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含んでいてもよい。添加剤(C)は、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果を向上させることができる。
(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸
誘電体フィルムは、例えば、溶媒中に、熱可塑性樹脂およびエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を溶解させ、樹脂溶液を成膜することで得られる。ここで、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体は、熱可塑性樹脂が可溶な溶媒に対して難溶性を示すために、分散性が低下する場合がある。ジケトン、アルコールまたはカルボン酸を添加することで、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することで、中心金属による酸素の捕捉確率が高くなり、熱可塑性樹脂の酸化抑制効果が向上して、誘電体フィルムの絶縁破壊電界が向上する。以下では、本開示の絶縁性樹脂の用途として誘電体フィルムを一例として説明するが、用途はこれに限定されない。
(C-1)ジケトン
添加剤であるジケトンは、上記エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子であるジケトンとは、別に添加されてもよい。添加剤であるジケトンは、樹脂溶液中および誘電体フィルム中で単独の化合物として存在していてもよい。添加剤の一部のジケトンが、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の一部の配位子として錯体を形成してもよい。
添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同様のものを用いることができる。ジケトンは、例えば、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルを用いてもよい。β-ジケトンとしては、例えば、アセチルアセトナート(アセチルアセトン)またはジベンゾイルメタンの少なくともいずれかを用いることができる。ケト酢酸エステルとしては、例えば、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれかを用いることができる。添加剤であるジケトンは、上記の配位子であるジケトンと同一の化合物を用いてもよく、異なる化合物を用いてもよい。例えば、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体のジケトンにアセチルアセトンを用いた場合でも、添加剤として同一の化合物であるアセチルアセトンを用いてもよいし、異なる化合物であるジベンゾイルメタンを用いてもよい。異なる化合物を用いた場合、樹脂溶液中および誘電体フィルム中で、添加剤のジケトンが、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換されてもよい。
本実施形態の誘電体フィルムにおいて、ジケトンの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
(C-2)アルコール
アルコールはモノアルコールである。アルコールを添加剤として用いることで、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が熱可塑性樹脂中に高分散することが可能となる。アルコールは、樹脂溶液中において、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子の一部と置換される。アルコール置換金属ジケトン錯体は、未置換の錯体よりも溶媒への可溶性が高くなる。
添加剤であるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、2-エチルヘキサノールおよびオクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態の誘電体フィルムにおいて、アルコールの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
(C-3)カルボン酸
添加剤であるカルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ラウリン酸、トリデシル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、クエン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、安息香酸、フタル酸から選ばれる少なくとも1種を用いることができる。本実施形態の誘電体フィルムにおいて、アルコールの含有量は、例えば、0.05~10質量%である。
本実施形態の誘電体フィルムは、例えば以下のようにして得ることができる。熱可塑性樹脂を溶媒に溶解し、さらに、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体を添加し、樹脂溶液を得る。必要に応じて、さらに添加剤を添加してもよい。この樹脂溶液を用いて、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製基材の上に誘電体フィルムを成膜すればよい。成膜法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、ドクターブレード法、ダイコータ法およびナイフコータ法等から選ばれる成形法を用いることができる。
本実施形態の誘電体フィルムは、例えば、厚さが0.1~10μmである。また、フィルムコンデンサ用誘電体フィルムの絶縁破壊電界強度は、JIS-C2151 17.2.2項の平板電極法およびJIS C2110-2に準拠する測定方法で測定すれば、添加剤なしフィルム(365V/μm)、一般的なフィルムコンデンサ用ポリプロピレンフィルム(316V/μm)に対して、405~430V/μmである。
溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノプロピルエーテル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、キシレン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルアセトアミド、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン又は、これらから選択された2種以上の混合物を含んだ有機溶剤を用いる。
樹脂溶液における熱可塑性樹脂の濃度(樹脂濃度)は、例えば1~25質量%である。樹脂溶液におけるエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の濃度は、例えば0.015~3質量%である。ジケトン、モノアルコールまたはカルボン酸の濃度は、例えば0.005~3質量%である。
上記では、絶縁性樹脂の用途の一例として、誘電体フィルムについて説明したが、これに限らず、絶縁性樹脂は種々の用途に用いることができる。例えば、電線ケーブル被覆樹脂、電子部品の封止樹脂、絶縁性塗料および絶縁性接着剤などとして用いることができる。電線ケーブル被覆樹脂の場合、例えば、本開示の絶縁性樹脂を帯状またはシート状に成型し、ケーブル表面に巻き付けて使用することができる。また、チューブ状に成型し、これにケーブルを挿通させて使用することもできる。封止樹脂の場合、例えば、コイル、トランスの全体を絶縁性樹脂に埋め込んで使用することができる。配線基板などに実装された半導体素子、電子部品を絶縁性樹脂で被覆したり、接続端子間に絶縁性樹脂を充填して使用することができる。絶縁性塗料の場合、例えば、溶剤系塗料、粉体塗料など各種塗料の樹脂成分として、着色剤などその他必要となる成分とともに使用することができる。絶縁性接着剤の場合、例えば、溶剤に絶縁性樹脂を溶解させた溶剤系接着剤として使用することができる。
(実施例)
以下、本開示の絶縁性樹脂について、実施例に基づき詳細に説明する。なお、絶縁性樹脂を用いた誘電体フィルムを実施例とした。
(製造例1)
ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド 23.02g(0.06モル)と、アセチルアセトン 9.01g(0.09モル)を配合して攪拌する。80℃まで加熱して同温度で24時間攪拌した。さらに同温度で-0.06~-0.02MPaの減圧下n―ブタノールの気泡が出なくなるまで脱気した。気泡が出なくなれば、ジエチレングリコール 9.55g(0.09モル)を加えて攪拌混合しながら、100℃まで昇温した。同温度で24時間攪拌した後、同温度で-0.06~-0.02MPaに減圧してアセチルアセトンの気泡が出なくなるまで脱気した。気泡が出なくなった後、さらに200℃に昇温して30分間静置して架橋反応を完結させて、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体(KZ-1)を得た。
(製造例2)
製造例1において、最後の架橋反応の温度200℃に替えて、180℃で実施する以外は製造例1と同様にして、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体(KZ-2)を得た。
(実施例1)
熱可塑性樹脂として、ポリアリレートを用い、金属ジケトン錯体として、製造例1で製造したエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体KZ-1を用いた。ポリアリレートをトルエンに溶解させ、さらに、KZ-1を溶解させ、熱可塑性樹脂濃度が12質量%である樹脂溶液を得た。KZ-1の濃度を0.3質量%、3.0質量%の樹脂溶液を得た。
(実施例2)
実施例1と同様にして、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体KZ-1に替えて、製造例2で製造したエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体KZ-2を用いる以外は、実施例1と同様にして、KZ-2の濃度を0.3質量%、3.0質量%の樹脂溶液を得た。
(比較例1)
熱可塑性樹脂として、ポリアリレートを用い、熱可塑性樹脂濃度が12質量%である樹脂溶液を得た。
(比較例2)
実施例1と同様にして、エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体KZ-1に替えて、ジルコニウムアセチルアセトン錯体を用いる以外は、実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂濃度が12質量%、ジルコニウムアセチルアセトン錯体の濃度が3.0質量%の樹脂溶液を得た。
(評価1)
上記の樹脂溶液を、コータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に塗布し、125℃で3時間乾燥して溶媒を除去し、厚さが2.0μmの誘電体フィルムを作製した。これらの誘電体フィルムを減圧下160℃で加熱し、0時間、48時間、140時間後に取り出し、重量平均分子量を測定して、加熱時間に対する重量平均分子量の変化を調べた。その結果を図3に示した。
図3は、誘電体フィルムの加熱時間に対する重量平均分子量の変化を示すグラフである。横軸は加熱時間(hrs)、縦軸に重量平均分子量の値を示した。なお、重量平均分子量は
ゲル浸透クロマトグラフィー分析法で測定した。
無添加のものは徐々に重量平均分子量が低下しているが、KZ-1,KZ-2を0.3wt%添加したものは、加熱時間によってほとんど変化していない。また、ジルコニウムアセチルアセトンを3.0wt%添加したものは加熱直後に重量平均分子量が約86000から約65000に低下し、加熱時間48時間で約42000程度、140時間で約39000程度にまで低下している。これに対し、KZ-1,KZ-2を3.0wt%添加したものは、加熱直後に重量平均分子量が約86000から約60000に低下しているものの、加熱時間48時間で約53000程度、140時間で49000程度にしか低下していない。すなわち、KZ-1,KZ-2を3.0wt%添加したものは、ジルコニウムアセチルアセトンを3.0wt%添加したものより、重量平均分子量の低下が大幅に少なくなり、KZ-1,KZ-2が熱可塑性樹脂の分解を抑制する効果があることが確認できた。
(実施例3)
実施例1と同様にして、熱可塑性樹脂として、ポリアリレートを用い、金属ジケトン錯体として、製造例1、2で製造したエーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体KZ-1、KZ-2を用いた。ポリアリレートをトルエンに溶解させ、さらに、KZ-1、KZ-2を溶解させ、熱可塑性樹脂濃度が12質量%である樹脂溶液を得た。KZ-1、KZ-2の濃度を各種替えた樹脂溶液を得た。
(評価2)
上記の各種樹脂溶液を、コータを用いてポリエチレンテレフタレート(PET)基材上に塗布し、125℃で3時間乾燥して溶媒を除去し、厚さが2.0μmの誘電体フィルムを作製した。
その誘電体フィルムのBDE(絶縁破壊電界強度)を測定した。
測定方法は、JIS-C2151 17.2.2項の平板電極法およびJIS C2110-2に準拠して、各フィルムについて24点を測定した。
試験雰囲気は、露点-30℃程度のドライエア中で実施した。その結果を図4に示す。
図4は、平板電極法によるフィルムBDEの測定結果のグラフである。左側のグラフは、KZ-1を含むフィルム、右側のグラフはKZ-2を含むフィルムに関する。横軸にKZ-1,2のポリアリレート樹脂に対する添加量(wt%)、縦軸にBDE(V/μm)を示す。
いずれも10.0wt%以下に添加したものは、無添加のものより高いBDE値を示した。フィルム24点測定した結果であり、フィルム全体に均一に絶縁破壊電界向上効果が発揮できていた。また、このグラフには示されていないが、ジルコニウムアセチルアセトン3.0wt%添加したもののBDE値は392V/μmであった。グラフより、KZ-2(430V/μm弱)、KZ-1(405V/μm)がそれよりも高いBDE値を示した。エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体が、架橋されていない金属ジケトン錯体よりも高い絶縁破壊電界向上効果を示すことがわかる。
また、上記のように、KZ-2(430V/μm弱)がKZ-1(405V/μm)よりも高いBDE値を示しているが、架橋完結温度がKZ-2(180℃)の方がKZ-1(200℃)よりも低いので、温度が高すぎると架橋が進みすぎ熱可塑性樹脂中での分散性が低下するのではないかと考えられる。180℃がバランスのとれた架橋完結温度であることがわかる。
以上より、本開示の絶縁性樹脂は、フィルム全体に均一に絶縁破壊電界向上効果が発揮でき、加熱によってもフィルムの劣化が抑制されることを確認できた。
本開示は、以下の態様(1)~(11)で実施可能である。
(1)(A)熱可塑性樹脂と、(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体と、を含む絶縁性樹脂。
(2)(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の中心金属が、Zr、Mo、V、Zn、TiおよびAlのいずれか1種である、上記態様(1)に記載の絶縁性樹脂。
(3)(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを1つ以上含む、上記態様(1)または(2)に記載の絶縁性樹脂。
(4)(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子は、アセチルアセトナート、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を含む、上記態様(3)に記載の絶縁性樹脂。
(5)(C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含む、上記態様(1)~(4)のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
(6)(C)ジケトンは、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルである、上記態様(5)に記載の絶縁性樹脂。
(7)前記β-ジケトンは、アセチルアセトナートまたはジベンゾイルメタンの少なくともいずれか1つを含み、前記ケト酢酸エステルは、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれか1つを含む、上記態様(6)に記載の絶縁性樹脂。
(8)(C)アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールおよび2-エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種である、上記態様(1)~(7)のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
(9)(A)熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が50℃以上である、上記態様(1)~(8)のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
(10)(A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種である、上記態様(1)~(9)のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。
(11)(D)トルエン又はテトラヒドロフランを溶剤として含む、上記態様(1)~(10)のいずれか1つに記載の絶縁性樹脂。

Claims (11)

  1. (A)熱可塑性樹脂と、(B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体と、を含む絶縁性樹脂。
  2. (B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の中心金属が、Zr、Mo、V、Zn、TiおよびAlのいずれか1種である、請求項1記載の絶縁性樹脂。
  3. (B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子は、β-ジケトンを1つ以上含む、請求項1または2記載の絶縁性樹脂。
  4. (B)エーテル結合によって架橋された金属ジケトン錯体の配位子は、アセチルアセトナート、ジベンゾイルメタン、アセト酢酸エチルおよびマロン酸ジエチルから選ばれる少なくとも1種を含む、請求項3に記載の絶縁性樹脂。
  5. (C)ジケトン、アルコールまたはカルボン酸の少なくともいずれか1つをさらに含む、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
  6. (C)ジケトンは、β-ジケトン、もしくはケト酢酸エステルである、請求項5に記載の絶縁性樹脂。
  7. 前記β-ジケトンは、アセチルアセトナートまたはジベンゾイルメタンの少なくともいずれか1つを含み、前記ケト酢酸エステルは、アセト酢酸エチルまたはマロン酸ジエチルの少なくともいずれか1つを含む、請求項6に記載の絶縁性樹脂。
  8. (C)アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノールおよび2-エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノールから選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
  9. (A)熱可塑性樹脂は、ガラス転移点が50℃以上である、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
  10. (A)熱可塑性樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
  11. (D)トルエン又はテトラヒドロフランを溶剤として含む、請求項1に記載の絶縁性樹脂。
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