JP3605548B2 - 梅仁の処理方法及び食用梅仁 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、梅仁に含まれるシアン化合物を効率的に除去可能な梅仁の処理方法及びその方法によって得られる食用梅仁に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
梅の果実は、一般に果肉(梅肉)と呼ばれる中果皮の内方に、一般に種と呼ばれる核を有している。核は、内果皮が硬化したもので、やや扁平で両端が尖った楕円球状をなしている。
【0003】
梅の核を割ると、中から仁が出てくる。梅の仁(以下「梅仁」という)はアーモンドを丸くしたような形状をなし、茶色ないし薄茶色の、薄くて柔軟な種皮に包まれている。梅仁それ自体は、白色ないし黄白色である。
【0004】
なお、「仁」とは胚及び胚乳の総称であり、種皮に包まれた梅仁が本来の意味での「梅の種子」であるが、本明細書では前記のように一般に種と呼ばれる核との混同を避けるために、これを「種皮付き梅仁」と呼ぶことにする。
【0005】
ところで、梅仁は古くから「天神さま」等と呼ばれ、興味の持たれる食品素材であるが、従来、梅仁が食品として工業的に利用されることは稀であった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
それは、梅仁にはシアン配糖体であるアミグダリンやシアン化水素といったシアン化合物が含まれているからである。
【0007】
より詳しく説明すると、梅仁に含まれる配糖体アミグダリン自体は無毒であるが、同じく梅仁に含まれる酵素エムルシンによって、ベンズアルデヒド,グルコース,及びシアン化水素に加水分解される。例えば、外的ショックを受けてキズが入った梅仁では、エムルシンによってアミグダリンが分解された結果、1000〜2000ppmという高濃度のシアン化水素を含有していることがある。また、アミグダリンは体内に摂取された場合、腸内細菌や胃酸によっても前記と同様に加水分解され、シアン化水素を発生させる。シアン化水素は、ごく微量の摂取であれば人体組織の新陳代謝を促進する等の薬効も期待されるが、周知のとおり猛毒であるので、梅仁を多量に食すると中毒を起こすおそれがある。
【0008】
したがって、食用とするためには、梅仁に含まれるアミグダリン及びシアン化水素(以下「シアン化合物」と総称する)を、人体に危険を及ぼさない程度にまで除去する必要があるが、従来は、梅仁から前記シアン化合物を効率的に除去する方法が知られていなかったため、梅仁の食品としての利用は難しかったのである。
【0009】
また、梅の核は、その内部の梅仁にシアン化合物が含まれるために焼却することができず、その処理方法も問題となっている。例えば、梅及び梅加工食品の代表的産地である和歌山県田辺市周辺では、年間700トン前後の梅核が産業廃棄物として埋め立て等に用いることで処理されており、特に昨今では、梅肉加工食品の生産量増加に伴い、梅肉を取ったあとに残る核の量も増加の一途を辿っていて、その処理に苦慮しているのが実情である。
【0010】
因みに、例えば、梅仁をすり潰して液状(ピューレ状)としたのち、これにアミグダリン分解酵素を加えて、アミグダリンを完全に分解させ、さらにこれを加熱して、揮発性のシアン化水素を蒸発させるというようなシアン除去方法は考えられる。本発明者らの実験でも、この方法で梅仁のシアン化合物を除去することができた。
【0011】
しかしながら、梅仁のアミグダリン含有量は多く、それを完全に分解させるために、前記方法では、高価なアミグダリン分解酵素を多量に使用しなければならず、処理コストがかかり過ぎて、採算性に問題があった。また、梅仁を液状としているため、その液状物からの水分の除去が困難で、処理効率が悪かった、さらに、梅仁が固形状の場合とは異なり、食品としての用途が限定されるという欠点もあった。さらにまた、処理過程で気化したシアン化水素が空気中に放出されると危険であるという問題もあった。
【0012】
本発明は以上のような問題点に鑑みてなされたものであって、梅仁に含まれるシアン化合物の除去を、梅仁を固形状に保ったままで効率良く行うことが可能な梅仁の処理方法、及び、食品として幅広い用途に使用可能な食用梅仁の提供を目的とするものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため、本発明に係る梅仁の処理方法は、種皮付き梅仁から種皮を剥離する工程と、剥離された種皮と梅仁との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に浸し、この水溶液内の上方に浮いた梅仁を取り出す工程と、種皮が剥離された梅仁を水晒しする工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
本発明で用いる梅仁は、梅の果実の核から取り出したものである。
なお、核と梅肉との分離を、梅果実がどのような状態のときに行うのかは、特に限定されない。すなわち、梅仁は、青梅(梅果実)の核から取り出したものであっても、梅干(梅果実)の核から取り出したものであっても構わない。こうした梅仁から種皮を剥離した後、梅仁を水に晒すと、梅仁と水とが直接的に接触するため、水溶性を有するシアン化水素及びアミグダリンが水に溶け出し、梅仁から除去される。
なお、梅仁を種皮付きのまま水に晒すと、種皮が梅仁と水との接触を妨げるために、シアン化合物(アミグダリン及びシアン化水素)の効率的な除去は行えない。また、種皮と梅仁とを分離することは困難であり、例えば手で選り分けたりすると多大な労力を要する。
【0015】
また、種皮の剥離を容易且つ効率的に行うためには、種皮付き梅仁から種皮を剥離する
工程の前に、種皮付き梅仁に吸水させる工程を備えることが望ましい。
【0016】
本発明に係る別の梅仁の処理方法は、種皮付き梅仁を適宜な大きさに破砕する工程と、破砕された種皮付き梅仁を水晒しする工程と、水晒しを行った後の吸水した種皮付き破砕梅仁から種皮を剥離する工程と、剥離された種皮と破砕梅仁との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に浸し、この水溶液内の上方に浮いた破砕梅仁を取り出す工程とを備えることを特徴としている。
【0017】
核から取り出した梅仁を種皮付きのまま、一粒の梅仁が複数個に分割されるように破砕すると、各破砕梅仁(梅仁の破砕片のこと:以下同意である)には種皮に覆われずに露出した破断面(分割面)が生じることになる。破砕梅仁を水に晒すと、前記破断面において梅仁組織と水とが直接的に接触し、アミグダリン及びシアン化水素は前記破断面から水に溶け出す。これにより、種皮剥離後の梅仁を水晒しした場合と同様に効率良くシアン化合物を除去することができる。また、剥離された種皮と破砕梅仁との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に浸し、この水溶液内の上方に浮いた破砕梅仁を取り出すことにより、種皮と破砕梅仁とを効率良く分離することができる。
【0018】
なお、以上の処理方法において、種皮を剥離した梅仁又は種皮付き破砕梅仁を水に晒す場合、その前に熱水に浸漬する等の手段により梅仁を加熱しておくと、シアン化合物の除去効率がより一層向上する。
【0019】
また、梅仁を水晒しする工程において、常温の水ではなく、温水又は熱水を用いて梅仁を晒すようにすると、シアン化合物の除去効率がより一層向上する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態に係る梅仁の処理方法を説明する。先ず、本発明方法に用いる梅仁を得るため、梅の核を割って梅仁を取り出す。核を割る方法は任意であり、例えばアンズ用の核割り器(杏仁を取り出すためのもの)を利用して割ってもよく、また、多量に処理する場合には、適宜な間隙を介して平行に配した一対のローラを回転させながら、前記間隙に梅の核を通すことにより、核を割る方法も考えられる。
【0021】
こうして梅の核を割った後は、割れた核(梅の内果皮の部分:以下「殻」という)と梅仁とを分離する。
ここでの分離方法も任意であるが、例えば殻と梅仁(この時点では種皮に包まれている)との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に入れ、水溶液内の上方に浮いた梅仁のみを集めるようにすれば、効率的な分離が可能である。
なお、この際、水溶液の塩分濃度が高すぎると殻と梅仁とが両方とも浮き上がってしまい、反対に塩分濃度が低すぎると殻と梅仁とが両方とも沈んでしまうので、梅仁は浮き、殻は沈むように、塩分濃度を調整する。好ましい塩分濃度は核の状態によって異なるが、概ね20〜26重量%の範囲内である。
【0022】
[発明の実施の形態1]
さて、この実施の形態1では、前記のようにして殻と分離した種皮付き梅仁から種皮を剥離するのであるが、一般的に種皮は梅仁表面に密着していて、容易には剥離しない。特に、梅仁が梅干の核から取り出されたものである場合には、種皮及び梅仁が乾燥して、互いに強固に固着しているため、種皮の剥離はとりわけ困難である。
【0023】
そこで、必要に応じ、剥離工程の前に、種皮付き梅仁に吸水させる工程を実施する。すなわち、例えば、適宜な容器に水を入れ、その水に種皮付き梅仁を浸漬して吸水させる。
浸漬時間は特に限定されないが、例えば梅干から得た梅仁の場合は、24〜48時間程度浸漬すれば、種皮が軟らかくなるとともに種皮と梅仁との密着が緩み、種皮の剥離が極めて容易に行える状態となる。
また、この工程で梅仁に吸水させて梅仁の組織を軟化させておくことは、後の水晒し工程でのシアン化合物の除去効率向上にも寄与する。
【0024】
次いで、吸水した種皮付き梅仁から種皮を剥離する。ここで、剥離する方法は特に限定されないが、前記のとおり吸水によって極めて剥離容易な状態となっているので、種皮付き梅仁を適宜に押圧しながら、梅仁を相互に擦り合わせるか、あるいは若干の凹凸を有する固定面上で梅仁を転動させて、種皮と梅仁との間にずれ作用を生じさせることにより、種皮を梅仁から剥離させることができる。
【0025】
具体的には、例えば内面に凹凸を有する「すり鉢」等の容器に、予め吸水させた適量の種皮付き梅仁を入れ、この梅仁を手の平で押さえながら擦り混ぜるように動かすと、種皮は剥離する。また、例えば麻袋等の、内面が余り滑らかでない袋内に、予め吸水させた適量の種皮付き梅仁を入れて袋口を閉じ、この袋を手で揉み動かすようにしても、種皮は剥離する。もちろん、これら以外にも、例えばブラシで種皮付き梅仁の表面を擦る等の、種々の剥離方法を採用し得る。
【0026】
梅仁から種皮を剥離すると、剥離された種皮と梅仁とが混ざり合った状態となるため、次いで、この混合物から種皮を分離・除去する。梅仁を食品として利用する際、ほとんどの場合、種皮は邪魔になるからである。種皮の分離は、後述する水晒し工程の後でも構わないが、水に晒す際、剥離した種皮が梅仁に混入していると、その種皮が梅仁からのシアン化合物除去の妨げとなるおそれ等もあるため、通常は水晒し工程の前に種皮を分離することが望ましい。
【0027】
ここでの種皮と梅仁との分離は、適宜な塩分濃度の水溶液を容器に入れ、この水溶液に種皮と梅仁との混合物を投入し、水溶液の上方に浮いた梅仁のみを、例えば網で掬い取ることにより行う。もちろん、水溶液の塩分濃度が高すぎると種皮と梅仁とが両方とも浮き上がってしまい、反対に塩分濃度が低すぎると種皮と梅仁とが両方とも沈んでしまう。したがって、本発明にいう適宜な塩分濃度とは、互いの比重差により、梅仁は浮き種皮は沈むような塩分濃度という意味である。なお、この工程で用いる水溶液の塩分濃度は、種皮及び梅仁の状態によって異なるが、概ね8〜15重量%の範囲内とするのが良く、より好ましくは10〜13重量%の塩分濃度とする。また、水溶液としては食塩水に限られず、例えば梅干の製造過程で生じる梅酢を適宜に塩分調整して使用することも考えられる。
【0028】
次いで、以上のように種皮が分離・除去された梅仁を加熱する。加熱工程は、本発明方法において必須要件ではないが、加熱することによって、梅仁に含まれるアミグダリン分解酵素であるエムルシンを失活させることができるとともに、梅仁の組織を軟化させて、その後の水晒し工程において梅仁内のシアン化合物が梅仁外へ浸出しやすい状態とすることができる。なお、梅仁に対する加熱は、水晒し工程の前であれば、どの段階で行っても構わないが、種皮を除去した後に行うと最も効率が良いことは言うまでもない。
【0029】
加熱の方法は特に限定されず、例えば電子レンジによる高周波誘電加熱でも構わないし、高温の水蒸気で蒸すことにより加熱しても構わない。ただし、最も簡便で且つ好ましいのは、熱水に浸漬して煮沸することであり、例えば100℃の熱水中で約10分間煮沸すれば、梅仁の組織を充分に軟化させ、且つエムルシンを完全に失活させることができる。もっとも、この工程では、必ずしも100℃まで温度上昇させる必要はなく、例えば70〜80℃程度に温度保持された温水又は熱水に梅仁を適宜時間浸漬してもよい。因みに、エムルシンは約70℃程度まで加熱すると失活すると考えられる。
【0030】
そして、最後に梅仁を水晒しする工程を実施する。この水晒し工程は、適宜容量の容器に入れた水に梅仁を浸漬した状態で晒し、前記容器内の水を適宜時間ごとに新しい水に交換する方式(以下「バッチ式」という)で行っても、また、例えば網袋等の通水性を有する容器に梅仁を入れた状態で、この容器ごと流水で晒す方式(以下「流水式」という)で行っても構わない。
【0031】
ここで水晒しを行うことにより、前記のとおり水と梅仁とが直接的に(種皮を介さずに)接触するため、シアン化合物(アミグダリン及びシアン化水素)を梅仁内部から浸出させて、効率良く除去することができる。なお、水に晒す所要時間は、梅仁が元来含んでいたシアン化合物の量や、事前の吸水及び/又は加熱の有無等による梅仁の状態(例えば含水率や、組織の軟化され加減)等の条件によって異なり、また、バッチ式で処理する場合は水の交換頻度、流水式で処理する場合は水の流量によっても異なるが、概ね24〜72時間程度の水晒しで、梅仁のシアン化合物含有量(濃度)を1ppm以下に低下させることができて、梅仁を食品衛生上も安全な食用梅仁とすることができる。
【0032】
また、前記従来技術に記載した方法のように梅仁をすり潰す必要がなく、梅仁を固形状に保ったまま処理できるので、処理後の食用梅仁は、種々の食品に幅広く利用可能なものとなる。例えば、食用梅仁を炒って、アーモンドやココナッツ等の菓子様のものが製造できる。
もちろん、本発明の食用梅仁を微粉砕又は乳化して、豆腐などに混入し、杏仁豆腐様の食品をつくることも考えられる。
【0033】
なお、前記で梅仁から種皮を剥離した後、この梅仁を適宜な大きさ(例えば粒径2〜8mm程度)に破砕し、これを水に晒すようにすると、原形(丸のままの状態)で晒す場合に比べて、梅仁の表面積(すなわち梅仁と水との接触面積)が大きくなるので、シアン化合物の除去効率は、より一層向上する。
【0034】
また、前記の水晒し工程で、常温の水(例えば水道水)の代わりに、温水又は熱水を用いて晒すと、梅仁の組織の軟化が進みやすくなって、シアン化合物の除去効率が、より一層向上する。なお、シアン化水素の沸点は約26℃と低く、このことも、温水又は熱水に晒すと除去効率が向上する理由の一つであると考えられる。
【0035】
因みに、水に晒す前の段階で、エムルシンの作用によりアミグダリンが分解されて梅仁内に生じているベンズアルデヒドは、水に溶け難いので、水晒し工程において除去されにくい。しかし、ベンズアルデヒドは無毒であり、且つ、梅特有の芳香の元となっている物質であるので、強いて除去する必要はなく、むしろ、多少残存していたほうが好ましいと言える。
【0036】
また、水晒し工程で用いる「水」としては、水道水や地下水(井戸水)をそのまま用いるのが最も一般的であるが、それに限定されず、例えば食塩等の調味料や、着色料や、水酸化ナトリウム,炭酸ナトリウム等のアルカリ性化合物や、アルコールや、その他の物質の、水溶液を用いても構わない。
【0037】
[発明の実施の形態2]
この実施の形態2で原料として用いる梅仁も、前記実施の形態1で用いたものと同様に、適宜の方法で梅果実の核から取り出した後に殻と分離した、種皮付き梅仁である。
【0038】
ただし、前記実施の形態1では、先ず種皮付き梅仁から種皮を除去したのに対し、この実施の形態2では種皮を除去せず、種皮付きのまま梅仁を適宜な大きさに破砕する。ここで、梅仁をどの程度の大きさに破砕するかは任意であるが、細かく破砕するほど後述する水晒し工程でのシアン化合物の除去効率が向上する反面、梅仁の食品としての用途は狭くなる。また、あまり細かく破砕すると、その後の工程で、梅仁の破砕片(破砕梅仁)から種皮を除去するのが困難となる。したがって、一粒の梅仁が3〜4個の破砕梅仁に分割される程度に破砕するのが最も好ましい。(その場合、各破砕梅仁の粒径は概ね4〜8mm程度となる。)破砕する手段は任意であり、例えば一般的な食品用の破砕機を使用できる。
【0039】
次いで、以上のようにして得られた「種皮付き破砕梅仁」を加熱するとともに水に晒す。この加熱工程及び水晒し工程については、前記実施の形態1とほぼ同様に行って良い。 ただし、前記実施形態では、種皮の剥離を容易にするために梅仁に吸水させたので、加熱及び/又は水晒しする時点では梅仁の含水率がある程度高くなっていたのに対し、この実施形態では、特に梅干から得た梅仁を破砕した場合、破砕後の種皮付き破砕梅仁も含水率のかなり低い、乾燥したものである。したがって、そうした乾燥状態(梅仁の組織が硬く締まっている状態)のまま種皮付き破砕梅仁を加熱したり水晒ししたりしても、直ちに効率良くエムルシンを失活させたりシアン化合物を除去したりすることはできない。
【0040】
そのため、この実施形態での加熱工程及び/又は水晒し工程は、実質的には、その初期段階が種皮付き破砕梅仁に吸水させる工程を兼ねることになる。
すなわち、例えば乾燥した種皮付き破砕梅仁を水晒ししてゆくと、水晒しの開始当初は破砕梅仁に吸水させる作用が主となり、梅仁内のシアン化合物はさほど浸出して行かないが、そのまま水晒しを続行して破砕梅仁の組織が軟化してゆくにつれ、シアン化合物の浸出・除去の効率も次第に向上してくるのである。
【0041】
最も効率良く処理するためには、乾燥した種皮付き破砕梅仁を熱水に浸漬するとともに、そのまま煮沸を適宜時間(例えば10分程度)続行して、破砕梅仁の吸水による組織軟化と加熱によるエムルシンの失活とを同時に行わせた後、その破砕梅仁を、前記したバッチ式又は流水式のいずれかで水晒しする処理方法が望ましい。
【0042】
いずれにしても、こうした水晒しを行うことにより、前記のとおり種皮付きの各破砕梅仁は、種皮に覆われていない破断面において直接的に水と接触する。したがって、梅仁内のシアン化合物は主として前記破断面から水に浸出し、効率良く除去される。
【0043】
そして、シアン化合物を除去した後は、種皮付き破砕梅仁から種皮を剥離・除去する。ここでの剥離方法は任意であるが、水晒し工程における吸水で種皮が軟らかくなり、且つ種皮と梅仁との固着が緩んでいるので、前記実施の形態1と同様、例えば破砕梅仁を押圧しながら、破砕梅仁を相互に、又は別の物と擦り合わせるというような方法で、容易に剥離できる。
また、剥離された種皮と破砕梅仁との混合物から種皮を分離することも、前記実施の形態1と同様、適宜な塩分濃度の水溶液に混合物を浸漬し、水溶液内の上方に浮いた破砕梅仁のみを取り出す方法により、容易且つ効率的に行うことができる。
【0044】
この実施の形態2の処理方法では、先ず種皮付き梅仁を破砕するので、前記実施の形態1のように梅仁の原形(丸のままの状態)を保った食用梅仁を得ることはできないが、前記従来技術に記載した方法のように梅仁をピューレ状にすり潰す必要はなく、少なくとも固形状(粒状)の食用梅仁を得ることができる。したがって、得られた食用梅仁は、例えば菓子やケーキのトッピング等、種々の用途に利用可能である。
【0045】
また、前記実施の形態1,実施の形態2とも、従来技術に記載した方法のように高価なアミグダリン分解酵素を用いる必要がなく、低コストで処理可能であるという効果を有している。したがって、本発明方法によれば、従来産業廃棄物として梅核ごと廃棄処理されていた梅仁を食品化することが容易にできて、資源の有効利用が図れるとともに、梅仁を取り出した後の核(殻)は焼却等によって容易に処理できるため、梅加工業者が梅肉を取ったあとに残る核の処理コストの低減も図れるという、種々の利点が得られる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明者らが行った種々の実験の工程及びデータの一部を紹介して、発明の理解に供する。なお、以下の記載が本発明の技術的範囲を限定するものでないことは言うまでもない。
【0047】
[実施例1]
実施例1では、主としてバッチ式及び流水式での、水晒し時間の経過に伴うシアン化合物の除去状況を調べた。
【0048】
先ず準備段階として、梅干から梅肉を取ったあとに残った核を割って、種皮付き梅仁を取り出した。そして、図1のように、適宜な容器1に塩分濃度23重量%に調製した食塩水2を入れ、これに前記で割った核の殻3と、種皮付き梅仁4との混合物5を投入した。すると、図のように殻3は沈み、種皮付き梅仁4は浮いたので、この浮いた種皮付き梅仁4を掬い取った。
【0049】
次いで、図2に示すように容器6に水(常温の水道水)7を入れ、これに前記種皮付き梅仁4を投入して、この状態で24時間静置し、種皮付き梅仁4に吸水させた。
その後、容器6から取り出して水切りした種皮付き梅仁4を、図3のように、すり鉢8に入れ、その上から手9により種皮付き梅仁4を押圧しながら擦り動かして、種皮付き梅仁4から種皮を剥離させた。これにより、剥離された種皮12と種皮剥離済みの梅仁13との混合物14が得られた。
【0050】
さらに、図4に示すように、適宜な容器10に塩分濃度11.5重量%に調製した食塩水11を入れ、前記工程で得た種皮12と梅仁13との混合物14を投入した。すると、図のように種皮12は沈み、梅仁13は浮いたので、この浮いた梅仁13を掬い取った。
【0051】
次いで、前記梅仁13を熱水に入れて10分間約100℃に保持(煮沸)した後、熱水から取り出し、その梅仁を以下に記載する各方法(実施例1−1,実施例1−2,及び実施例1−3に示す)で水晒しして、時間経過に伴うシアン化合物含有量の変化を調べた(表1参照)。なお、参考のため、前記で核を割って取り出した時点の梅仁、前記で種皮と分離した時点の梅仁(すなわち、図4で食塩水11から掬い取った直後の梅仁13)、及び前記で10分間煮沸して熱水から取り出した時点の梅仁についても、それぞれシアン化合物含有量を測定し、その結果を表1に示した。
【0052】
〈実施例1−1〉
容器に水(常温の水道水)を6リットル入れ、その水に前記10分間煮沸した梅仁1kgを浸漬して、水晒しを行った。水は表1に示した時間経過時(水晒し開始から8時間後,15時間後,24時間後,30時間後,及び96時間後)ごとに、それぞれ新しい水と交換する(すなわち、前記「バッチ式」で水晒しする)とともに、前記水の交換時点ごとに試料(梅仁)を採取し、各試料のシアン化合物含有量を測定した。
【0053】
〈実施例1−2〉
前記10分間煮沸した梅仁1kgを網袋に入れ、この網袋ごと、流量300ml/分の流水(常温の水道水)に晒すことにより、梅仁の水晒しを行った(すなわち、前記「流水式」で水晒しを行った)。そして、前記実施例1−1で試料を採取したのと同じ各時点で、それぞれ網袋から試料(梅仁)を採取し、各試料のシアン化合物含有量を測定した。
【0054】
〈実施例1−3〉
前記10分間煮沸した梅仁1kgを平均3mm角程度の粒径に破砕し、この破砕した梅仁1kgを網袋に入れ、この網袋ごと、流量300ml/分の流水(常温の水道水)に晒すことにより、梅仁の水晒しを行った(すなわち、前記「流水式」で水晒しを行った)。そして、前記実施例1−1で試料を採取したのと同じ各時点で、それぞれ網袋から試料(破砕梅仁)を採取し、各試料のシアン化合物含有量を測定した。
【0055】
なお、シアン化合物含有量の測定試験は、衛生試験法・注解(日本薬学会編,1990年)の天然有害物質試験法(シアン化合物の酵素微量拡散法)に準じて行った。
すなわち、試料10gに4倍量の0.01N水酸化ナトリウム溶液を加えて18000rpmで5分間ホモジナイズし試料溶液とする。次に、予め、コンウェイ拡散器(標準型,柴田科学器工業(株)製)のすり合わせ部分に真空グリースを塗っておき、外室に0.5N水酸化ナトリウム溶液5mlを正確に入れる。次に、内室に上記試料溶液0.5ml、0.1%酵素液(β−グルコシダーゼ,アーモンド由来,5.3ユニット/mg)0.5ml、及び0.5Nクエン酸緩衝液(pH5.2)2.5mlを加えて直ちに蓋をし、金具で止める。これを50℃のふらん器中で90分間インキュベーションを行ったのち、室温で3時間放置する。その後、外室の溶液を3ml分取し、2N酢酸溶液0.8mlを加えてpHを5〜6にする。続いて、リン酸塩緩衝液(pH6.8)1ml及び0.2%クロラミンT溶液を加え、直ちに密栓し静かに混和したのち、25℃で50分間放置する。次に、ピリジン・ピラゾロン溶液(0.1%1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン溶液:0.1%ビス−(1−フェニル−3−メチル−5−ピラゾロン)ピリジン溶液=5:1)1mlを加えてよく混和したのち、25℃で50分間放置する。ここに得た呈色液について、波長620nmの吸光度を測定する。別にシアン標準溶液として0.017%アミグダリン溶液を用い同様に操作して検量線を作成し、これにより試料溶液中のシアン濃度を算出した。さらに希釈倍数を乗じて試料中のシアン化合物濃度(含有量)とした。(なお、以下の各実施例でも同様の方法で測定した。)
【0056】
【表1】
Figure 0003605548
【0057】
この実施例の結果を示した表1から明らかなように、食塩水に浸漬して種皮と分離した梅仁は、核から取り出した直後の梅仁に比べて、シアン化合物の量が約1/10に減少していた。
そして、水晒しの開始後、梅仁を破砕して流水式で水晒しした実施例1−3では15時間で、種皮を除去した梅仁を原形のまま流水式で水晒しした実施例1−2では24時間で、種皮を除去した梅仁を原形のままバッチ式で水晒しした実施例1−1でも30時間で、それぞれシアン化合物含有量(濃度)が1ppm以下となり、食品衛生上も安全な食用梅仁となることがわかった。
【0058】
[実施例2]
実施例2では、種皮の有無及び加熱工程の有無がシアン化合物の除去効率に及ぼす影響を調べた。
なお、この実施例2では、前記実施例1で用いたものよりもシアン化合物を多量に含んでいる、比較的新しい梅干から得た梅仁を用いた。また、梅仁の核からの取り出し及び殻との分離は、前記実施例1と同様の方法で行った。この種皮付き梅仁を用いて、以下の各条件(実施例2−1,実施例2−2,及び比較例1)におけるシアン化合物含有量(濃度)の変化を調べた(表2参照)。
【0059】
〈実施例2−1〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、前記実施例1と同様の方法で種皮の剥離及び分離を行った。そして、この種皮除去済みの梅仁を網袋に入れて、流量300ml/分の流水(常温の水道水)による水晒しを行い、所定時間ごとに試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0060】
〈実施例2−2〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、前記実施例1と同様の方法で種皮の剥離及び分離を行った。そして、この種皮除去済みの梅仁を100℃の熱水中で10分間煮沸した後、網袋に入れて流量300ml/分の流水(常温の水道水)による水晒しを行い、所定時間ごとに試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0061】
〈比較例1〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、種皮付きのままで網袋に入れて、流量300ml/分の流水(常温の水道水)による水晒しを行い、所定時間ごとに試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0062】
以上の実施例2−1,実施例2−2,及び比較例1における、それぞれの測定結果を表2に示す。
【0063】
【表2】
Figure 0003605548
【0064】
この表から、種皮付きの梅仁を水晒しした比較例1ではシアン化合物の除去効率が低く、72時間水晒しした後でも相当量のシアン化合物が残留しているのに対し、種皮を除去した場合(実施例2−1及び実施例2−2)ではシアン化合物の除去効率が格段に向上していることがわかる。また、水晒しの前に梅仁を加熱(煮沸)した場合(実施例2−2)は、加熱しなかった場合(実施例2−1)に比べて、特に水晒し工程の中盤から終期にかけてのシアン化合物除去効率が良好となることがわかる。
【0065】
[実施例3]
実施例3では、主として水晒し工程で使用する水の温度がシアン化合物の除去効率に及ぼす影響を調べた。なお、この実施例3では、前記実施例2で用いたものと同じ、シアン化合物を多量に含んだ梅仁を用いた。また、梅仁の核からの取り出し及び殻との分離も実施例2と同様の方法で行った。この種皮付き梅仁を用いて、以下の各条件(実施例3−1,実施例3−2,及び比較例2)におけるシアン化合物含有量(濃度)の変化を調べた(表3参照)。
【0066】
〈実施例3−1〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、前記実施例1と同様の方法で種皮の剥離及び分離を行った。そして、この種皮除去済みの梅仁を100℃の熱水中で10分間煮沸した後、水晒し用の容器内で50℃に保持された温水に浸漬するとともに、容器内の温水を30分ごとに新しい温水(50℃)と交換するバッチ式により、梅仁の水晒しを行った。そして、水晒しの開始から1時間後と2時間後とにそれぞれ試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0067】
〈実施例3−2〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、前記実施例1と同様の方法で種皮の剥離及び分離を行った。そして、この種皮除去済みの梅仁を100℃の熱水中で10分間煮沸した後、水晒し用の容器内で約100℃に保持された熱水に浸漬して煮沸を続行するとともに、容器内の熱水を30分ごとに新しい熱水(約100℃)と交換するバッチ式により、梅仁の水晒しを行った。そして、水晒しの開始から1時間後と2時間後とにそれぞれ試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0068】
〈比較例2〉
種皮付き梅仁を24時間水に浸漬して吸水させた後、この梅仁を種皮付きのままで100℃の熱水中で10分間煮沸した。そして、この煮沸済みの種皮付き梅仁を、水晒し用の容器内で約100℃に保持された熱水に浸漬して煮沸を続行するとともに、容器内の熱水を30分ごとに新しい熱水(約100℃)と交換するバッチ式により、梅仁の水晒しを行った。そして、水晒しの開始から1時間後と2時間後とにそれぞれ試料(梅仁)を取り出して、そのシアン化合物含有量を測定した。
【0069】
以上の実施例3−1,実施例3−2,及び比較例2における、それぞれの測定結果を表3に示す。
【0070】
【表3】
Figure 0003605548
【0071】
この表3と、常温の水で晒した前記実施例1及び2での測定結果とを比較すると、水晒し工程で温水又は熱水を使用した場合にはシアン化合物の除去効率がより一層向上することがわかる。また、熱水を使用した場合でも、梅仁の種皮が除去されていなければ、シアン化合物の除去効率は低くなることがわかる。
【0072】
なお、参考のために、市販されている梅加工品のうち、梅干3点,梅エキス3点,梅酒2点,及び梅ドリンク1点について、前記と同様の方法で測定した。その結果を表4に示す。
【0073】
【表4】
Figure 0003605548
【0074】
この表から明らかなように、今般調査した市販の梅加工品には、梅ドリンクを除き、数ppm〜数10ppmのシアン化合物が含まれている。これらと比較して、本発明方法では、ほとんどシアン化合物が含まれていない、食品衛生上も安全な食用梅仁が得られると言える。
【0075】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明に係る梅仁の処理方法によれば、梅仁に含まれるシアン化合物を除去する処理が、梅仁を固形状に保ったまま、低コストで且つ効率的に行える。そして、これにより、原形もしくは適宜な大きさに破砕された粒状をなし、且つ、シアン化合物が食用しても危険のない、例えば1ppm以下というような濃度にまで除去されている、極めて幅広い用途に使用可能な食用梅仁を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】殻と梅仁との分離工程を説明する説明図である。
【図2】種皮付き梅仁に吸水させる工程を説明する説明図である。
【図3】種皮付き梅仁からの種皮の剥離工程を説明する説明図である。
【図4】種皮と梅仁との分離工程を説明する説明図である。
【符号の説明】
2 食塩水
4 種皮付き梅仁
11 食塩水
12 梅仁
13 種皮
14 種皮と梅仁との混合物

Claims (6)

  1. 種皮付き梅仁から種皮を剥離する工程と、剥離された種皮と梅仁との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に浸し、この水溶液内の上方に浮いた梅仁を取り出す工程と、種皮が剥離された梅仁を水晒しする工程とを備えることを特徴とする梅仁の処理方法。
  2. 種皮付き梅仁から種皮を剥離する工程の前に、種皮付き梅仁に吸水させる工程を備える請求項1に記載の梅仁の処理方法。
  3. 種皮付き梅仁を適宜な大きさに破砕する工程と、破砕された種皮付き梅仁を水晒しする工程と、水晒しを行った後の吸水した種皮付き破砕梅仁から種皮を剥離する工程と、剥離された種皮と破砕梅仁との混合物を適宜な塩分濃度の水溶液に浸し、この水溶液内の上方に浮いた破砕梅仁を取り出す工程とを備えることを特徴とする梅仁の処理方法。
  4. 梅仁を水晒しする工程の前に、梅仁を加熱する工程を備える請求項1乃至3のいずれかに記載の梅仁の処理方法。
  5. 梅仁を水晒しする工程において、梅仁を温水又は熱水に晒すようにする請求項1乃至4のいずれかに記載の梅仁の処理方法。
  6. 梅の果実の核から取り出した種皮付き梅仁を、請求項1乃至5のいずれかに記載の処理方法で処理してなる食用梅仁。
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