JP3661762B2 - 筒内噴射型内燃機関の始動装置 - Google Patents

筒内噴射型内燃機関の始動装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、筒内に直接燃料を噴射可能な筒内噴射型の内燃機関(以下、エンジンという)に用いる始動装置に関するものである。
【0002】
【関連する背景技術】
近年、エミッション低減や燃費向上を達成すべく、筒内に直接燃料を噴射する筒内噴射型エンジンが実用化されている。この種のエンジンでは、吸気行程で燃料を噴射して筒内に均一な混合気を形成する均一燃焼と、圧縮行程で燃料を噴射することで、点火プラグの周囲に理論空燃比近傍の混合気を形成した上で超リーンな全体空燃比を実現する層状燃焼とを切換可能に構成されている。層状燃焼が可能な運転領域は一般に低回転低負荷に限られているが、例えば特開平10−30468号公報に記載のエンジンでは、始動当初から圧縮行程噴射にて層状燃焼を実行している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように公報記載のエンジンが始動時に層状燃焼を実行するのは、層状燃焼によるエミッションや燃費上の利点を始動時から得ることを目的としたものである。従って、始動時の制御手順は通常のエンジンと同様であり、まず、クランキング開始により気筒判別を行い、その気筒判別の完了後に何れかの気筒が圧縮行程に至ると、その気筒に対して所定噴射量及び噴射時期をもって燃料噴射を実行している。つまり、公報記載のエンジンは始動所要時間の短縮化については何ら考慮されておらず、この点の要望を満足させることができなかった。
【0004】
そこで、本出願人は、筒内に直接燃料を噴射可能な筒内噴射型エンジンにおいて、圧縮行程で停止している気筒に対して燃料噴射して直ちに初爆させる早期始動制御を提案した(特願平11−73362)。この早期始動制御は、クランキングにより圧縮行程の気筒のピストンが上昇したときに筒内圧力及び温度が上昇して点火可能な条件が整うことを利用したものであるが、エンジンの運転状態によっては、圧縮行程の気筒に噴射した燃料が正常な火花着火以前に自着火を生じる場合、もしくは前駆反応の進行により燃焼速度が速くなる場合がある。そして、このような状況下では、エンジン振動の増大やノック音の発生、或いは筒内に露出している燃料噴射弁の噴口内にカーボンが進入する等の不具合が生じるという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、速やかに始動を完了できると共に、始動時に正常な火花着火を確実に行って、自着火や急激な燃焼により引き起こされる不具合を未然に防止することができる筒内噴射型内燃機関の始動装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の発明では、筒内に直接燃料を噴射可能な筒内噴射型内燃機関の始動装置において、停止中の内燃機関の圧縮行程気筒のピストン位置を検出するピストン位置検出手段と、内燃機関の始動時に、圧縮行程気筒の残りの圧縮行程に対して燃料噴射を実行する始動時噴射制御手段と、始動時噴射制御手段による圧縮行程気筒への燃料噴射時において、ピストン位置検出手段により検出された圧縮行程気筒のピストン位置に応じて当該気筒への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つを自着火や燃焼速度を抑制する方向に可変させる制御量可変手段とを備えた。従って、始動のためにクランキングが開始されると、内燃機関の圧縮行程気筒の残りの圧縮行程に対して燃料噴射が実行されて点火により速やかに初爆が行われる。そして、このときの燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つが自着火や燃焼速度を抑制する方向に設定されることから、正常な火花着火が確実に行われる。
請求項2の発明では、圧縮行程気筒に対する燃料噴射に続いて後続の吸気行程気筒(吸気行程で停止していた気筒)が圧縮行程に至ったときに、始動時噴射制御手段が吸気行程気筒に対して燃料噴射を実行すると共に、制御量可変手段が吸気行程気筒のピストン位置に応じて当該気筒への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つを自着火もしくは燃焼速度を抑制する方向に可変させるものである。従って、圧縮工程気筒に続いて吸気行程気筒に対して燃料噴射が実行されたときにも、燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つが自着火や燃焼速度を抑制する方向に設定されて正常な火花着火が行われる。
【0007】
又、請求項の発明では、上記制御量可変手段を、停止中のピストン位置が下死点に近付くに連れ燃料噴射量を増加するように構成した。例えば圧縮行程で停止中の気筒については、ピストン位置が下死点に近いほど圧縮したときの圧力上昇が大きくなることから自着火や急激な燃焼をし易くなり、又、吸気行程で停止中の気筒については、ピストン位置が下死点に近いほど筒内の残留ガス量が増加し吸気ポートからの吸気量が減少することから自着火し易くなる。そして、これらの傾向に合わせて燃料噴射量が増加されるため、燃料冷却により自着火が防止される。
【0008】
更に、請求項の発明では、上記制御量可変手段を、停止中のピストン位置が下死点に近付くに連れ点火時期をリタードするように構成した。例えば圧縮行程で停止中の気筒については、ピストン位置が下死点に近いほど圧縮したときの圧力上昇が大きくなることから燃焼速度(クランク角に対する燃焼速度)が速くなり、又、吸気行程で停止中の気筒については、ピストン位置が下死点に近いほど筒内の残留ガス量が多く吸気ポートからの吸気量が少ないことから、圧縮時の筒内温度が高く燃焼速度が速くなる。そして、これらの傾向に合わせて点火時期がリタードされるため、点火後の筒内圧が低下して燃焼速度が抑制される。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をアイドルストップ車両に用いる筒内噴射型エンジンの始動装置に具体化した一実施形態を説明する。
図1の全体構成図において、1は筒内噴射型ガソリンエンジンであり、180°CA毎に等間隔爆発する4サイクル直列4気筒として構成されている。エンジン1の燃焼室や吸気系等は筒内噴射専用に設計され、その各気筒には点火プラグ2が取り付けられると共に、筒内に直接燃料を噴射可能なように燃料噴射弁3が取り付けられている。
【0010】
エンジン1には手動式の変速機4が連結され、この変速機は図示しないディファレンシャルギアを介して車両の駆動輪に接続されている。エンジン1と変速機4との間にはクラッチ5が設けられ、このクラッチ5は運転者によるクラッチ操作に応じて、エンジン1側から変速機4側への動力伝達を制御する。エンジン1には常時噛合い式のスタータ6が設けられ、スタータ6のピニオンギア6aはエンジン1のフライホイール1aに対して常に歯合している。フライホイール1aには図示しないワンウエイクラッチが設けられ、このワンウエイクラッチは、始動時にスタータ6の駆動力をエンジン1側に伝達してクランキングを行い、且つ、始動完了後に空転することでエンジン1にてスタータ6が逆駆動されるのを防止するようになっている。
【0011】
スタータ6は図示しないイグニションスイッチを介してバッテリ11に接続されると共に、スタータ制御用コントローラ12のリレー接点12aを介してバッテリ11に接続されている。従って、スタータ6は通常のものと同様にイグニションスイッチの操作に応じて通電する他に、スタータ制御用コントローラ12のリレーコイル12bの励磁によりリレー接点12aが閉じられたときも通電する。
【0012】
車室内には、図示しない入出力装置、制御プログラムや制御マップ等の記憶に供される記憶装置(ROM,RAM,BURAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えたECU21(エンジン制御ユニット)が設置されている。ECU21の入力側には、エンジン1の温度Tを検出するエンジン温度センサ22、エンジン1のクランクシャフトの回転に伴ってクランク角信号を出力するクランク角センサ23、カムシャフトの回転に伴ってTOP信号を出力するカム角センサ24、車速Vを検出する車速センサ25、クラッチ5の操作状態を検出するクラッチセンサ26、アクセル操作量Accを検出するアクセルセンサ27、変速機4のシフト位置を検出するシフト位置センサ28、及びその他の各種スイッチやセンサ類が接続されている。
【0013】
又、ECU21の出力側には前記した点火プラグ2及び燃料噴射弁3が接続されると共に、スタータ制御用コントローラ12のリレーコイル12bが接続されている。ECU21は上記した各検出情報に基づき燃料噴射制御や点火時期制御を始めとするエンジン1を運転するための各種制御を実行すると共に、信号待ち等の停車時にエンジン1の自動停止始動処理を実行する。更に、ECU21はエンジン始動時には、始動専用の制御を実行して早期始動を図る。
【0014】
以上のように構成された筒内噴射型エンジン1では、通常の吸気行程で燃料を噴射して筒内に均一な混合気を形成する均一燃焼に加えて、圧縮行程で燃料を噴射して超リーンな全体空燃比で燃焼させる層状燃焼を可能としている。層状燃焼は一般に低回転低負荷の運転領域で実行され、ECU21はアクセルセンサ27にて検出されたアクセル操作量Acc等から求めた目標平均有効圧Pe(エンジン負荷を表す)、及びクランク角センサ23のクランク角信号から求めたエンジン回転速度Neが比較的低い領域で圧縮行程噴射を実行して、エミッション低減や燃費向上を達成し、それ以上の領域で吸気行程噴射を実行して、要求されるエンジントルクを確保する。
【0015】
次に、アイドルストップ車両特有のエンジン1の自動停止始動処理を説明する。
ECU21は、走行中の車両が信号待ち等で停車したときに、予め設定されたエンジン停止条件の成立によりエンジン1を自動停止し、同じく予め設定されたエンジン始動条件の成立によりエンジン2を自動始動し、これにより停車中におけるエミッション排出や燃料消費を防止する。エンジン停止条件としては、車速センサ25にて検出された車速Vがゼロであること、クラッチセンサ26にてクラッチ5の踏込み操作が検出されていないこと(クラッチ接続状態)、及びシフト位置センサ28にて検出されたシフト位置がN(ニュートラル)位置であることが設定され、これらの条件が満たされたときに、ECU21はエンジン停止条件が成立したと判断し、燃料噴射制御及び点火時期制御を中止してエンジン1を停止させる。
【0016】
又、エンジン始動条件としては、クラッチセンサ26にてクラッチ5の踏込み操作が検出されたこと(クラッチ遮断状態)、及びシフト位置センサ28にて検出されたシフト位置がN位置であることが設定され、これらの条件が満たされたときに、ECU21はエンジン始動条件が成立したと判断し、スタータ制御用コントローラ12のリレーコイル12bを励磁すると共に、燃料噴射制御及び点火時期制御を再開する。リレーコイル12bの励磁によりリレー接点12aが閉じられるため、スタータ6が通電してクランキングが行われ、エンジン1の始動により発進可能となる。
【0017】
尚、以上の制御によるエンジン自動停止、及び通常のイグニションスイッチのOFF操作による手動停止の何れの場合でも、ECU21は図示しないエンジン停止ルーチンに従って、まず燃料噴射制御を中止し、その後にエンジン1の作動サイクルで2行程が経過して、既に筒内に噴射されている燃料を燃焼させた後に点火時期制御を中止している。
【0018】
次に、上記のように構成された筒内噴射型エンジン1の始動装置により実行される始動制御を説明する。
ECU21は信号待ち等でのエンジン自動停止中に始動条件が成立した場合、及び運転者にてイグニションスイッチがST操作されてクランキングが開始される場合に、図2に示すエンジン始動ルーチンを実行する。まず、ECU21はステップS2で停止中のエンジン1の圧縮行程にある気筒(以下、圧縮行程気筒という)の情報、及びその気筒のピストン位置Pに関する情報を記憶装置から読み込む。4サイクル直列4気筒では常に何れかの気筒が圧縮行程に位置するため、このとき必ず圧縮行程気筒が特定され、且つ、圧縮上死点では圧縮反力を受けることから、ピストン位置Pは高い確率でBTDC90°CA前後に集中する。
【0019】
尚、これら圧縮行程気筒及びピストン位置Pに関する情報は、エンジン停止直前にクランク角センサ23にて検出されたクランク角信号とカム角センサ24にて検出されたTOP信号とに基づいて算出されたものであり、エンジン自動停止中は無論のこと、イグニションスイッチがOFF操作された駐車時であっても記憶装置内に保持され続けている。そして、本実施形態では、クランク角センサ23、カム角センサ24、及びステップS2の処理を実行するときのECU21がピストン位置検出手段として機能する。
【0020】
次いで、ECU21はステップS4でエンジン温度センサ22にて検出されたエンジン温度Tを読み込み、ステップS6で現在の圧縮行程気筒に対して早期始動制御を実行可能か否かを判定する。以下に述べるように早期始動制御とは、圧縮行程気筒等に対して燃料噴射して点火することで直ちに初爆させる処理であるが、これを実現するには、燃料を気化させるための温度と着火を成功させるための圧力とを必要とし、例えば、圧縮行程気筒に残留するガスの温度が低かったり、或いはピストン位置Pが上死点付近でほとんど圧縮できなかったりした場合には、失火により初爆を得ることができない。そこで、ステップS6では、例えば図3のマップに従って筒内ガス温と相関するエンジン温度T、及びピストン位置Pが着火可能領域内にあるか否かに基づいて判定を下している。尚、同一条件下であっても、使用ガソリンのオクタン価に応じて着火し易さが相違するため、使用ガソリンに応じて特性の異なるマップを使い分けてもよい。
【0021】
ここで、信号待ち等でエンジン1を自動停止したときには、直前までの運転によってエンジン自体の温度が上昇しているため、シリンダ壁面等からの熱伝達により筒内ガス温は十分に上昇しており、又、上記のようにエンジン停止時のピストン位置Pが高い確率でBTDC90°CA前後に集中することから、ほとんどのケースでは着火可能領域内に入るとして、ステップS6の判定がYESとなる。
【0022】
ステップS6の判定がNOのときには、ステップS8で始動モードとして、通常のエンジンと同じく吸気行程で燃料噴射する通常始動制御を設定し、ステップS10でエンジン1の冷却水温等に基づいて燃料噴射量を決定し、ステップS12で同じく冷却水温等に基づいて噴射時期を決定し、ステップS14で点火時期を設定し、これらの情報に基づいてステップS16で始動制御を実行する。このとき、自動始動の場合にはクランキングを開始し(運転者のST操作による始動の場合には既にクランキングが開始されているため必要なし)、クランキング後に最初に吸気行程に至る気筒に対して燃料噴射及び点火を実行する。
【0023】
次いで、ステップS18でエンジン回転速度Neが予め設定された完爆判定値N0以上か否かを判定し、NOのときには未だ始動完了していないと見なしてステップS6に戻って処理を繰り返し、ステップS18の判定がYESになると、このルーチンを終了する。その後は通常のエンジン制御に移行して、目標平均有効圧Pe及びエンジン回転速度Neに基づいて圧縮行程噴射か吸気行程噴射かを選択し、例えば、アイドル運転を継続する場合には圧縮行程噴射に、急加速の場合には吸気行程噴射に設定し、それぞれの運転状態に応じた燃料噴射量及び噴射時期や点火時期を決定して制御を行う。
【0024】
又、前記ステップS6の判定がYESのときには、ステップS20で始動モードとして早期始動制御を設定し、ステップS22で燃料噴射量を、ステップS24で噴射時期を、ステップS26で点火時期をそれぞれ決定し、これらの情報に基づいて前記ステップS16で圧縮行程気筒を対象として始動制御を実行する。このときの燃料噴射量及び噴射時期や点火時期は、上記した通常の始動制御の場合とは相違し、以下のように決定される。
【0025】
まず、燃料噴射量及び噴射時期の決定について述べる。前提として、上記のようにエンジン温度T及びピストン位置Pが着火可能領域内にある場合であっても、点火プラグ2で着火される以前に圧縮圧力により噴射燃料の前駆反応が進行して自着火した場合には、有効なトルクを発生しないばかりかエンジン振動やノック音の要因になってしまう。図4乃至図7は、各ピストン位置P(BTDC180°CA,BTDC120°CA,BTDC90°CA,BTDC60°CA)で起動したときの圧縮行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。各図の比較から明らかなように、ピストン位置Pが下死点(BTDC180°CA)に近いほど自着火の傾向が顕著となる。これは、圧縮したときの圧力上昇が大きくなることや点火までの時間が長くなること等により、前駆反応が進行し易い条件が揃うためである。
【0026】
そして、燃料噴射量については、例えば図4から明らかなように、燃料冷却を奏するように比較的増加させた方が正常な火花着火が行われ易いことがわかる。又、噴射時期については、図4乃至図7から明らかなように、ピストン位置Pにより適切な噴射時期が異なることがわかる。この特徴はエンジンにより異なるため、各種エンジンに対応したマップを予め設定する。
【0027】
従って、各ピストン位置Pから始動する場合には、対応する図に示された火花着火の領域中の例えばポイントAに、燃料噴射量と噴射時期を設定する。但し、噴射時期に関するポイントAの条件としては、図4に示すように吸気弁の閉弁タイミング(例えば、BTDC140°CA)より遅角側に定める必要がある。これは、譬え火花着火の領域が閉弁タイミングより進角側まで拡大されていたとしても同様であり、実質的な圧縮が開始されるのが吸気弁の閉弁以後であること、及び閉弁以前に燃料噴射すると噴射燃料が逆流する不具合が生じることから定められた条件である。尚、上記のようにピストン位置PはBTDC90°CA前後に集中することから、図6のBTDC90°CAのピストン位置P等が頻発し、逆に、先行する気筒が圧縮上死点で圧縮反力を受ける図4のBTDC180°CAのピストン位置P等はほとんど発生しない。
【0028】
一方、同一ピストン位置Pであってもエンジン温度Tが高いほど自着火し易いため、図4乃至図7の特性はエンジン温度Tに応じて相違してくる。従って、例えばエンジン温度Tが高い場合には、ポイントAを燃料噴射量については増加側にずらし、噴射時期についてはエンジンの特性に応じた方向にずらす等して対処する必要がある。
【0029】
同様に、同一ピストン位置Pであっても使用ガソリンのオクタン価が低いほど自着火し易いため、図4乃至図7の特性は使用ガソリンに応じて相違してくる。従って、例えば自着火し易いレギュラガソリン使用時には、ポイントAを燃料噴射量の増加側に、噴射時期の遅角側にずらす等して対処する必要がある。
よって、燃料噴射量及び噴射時期は、以上のピストン位置P、エンジン温度T、及び使用ガソリンGに応じて決定する必要があり、ステップS22とステップS24では、これらの特性(例えば、図4乃至図7の特性)に基づいて設定したマップから燃料噴射量及び噴射時期を決定する。尚、必ずしもこれら3種の要素を全て考慮する必要はなく、例えば使用ガソリンGに応じた設定を省略してもよい。
【0030】
一方、点火時期について述べると、図8はクランク角速度及びエンジン振動に対する点火時期の影響を示しているが、この図のように、圧縮上死点より遅角側ではエンジン振動が急激に抑制されると共に、比較的高いクランク角速度が得られ、燃焼圧が効率良くクランクの回転に変換されることがわかる。よって、例えば点火時期をATDC0°〜15°CA程度の範囲に定めて、上記した3種の要素(ピストン位置P、エンジン温度T、使用ガソリンG)と関連付けたマップを作成し、ステップS26では、急速燃焼し易い状況(ピストン位置Pが低く通常の点火時期では筒内圧が高くなり急速燃焼し易い状況)では、筒内圧が低下したATDC15°CA側に点火時期をリタードさせる。逆に急速燃焼し難い状況(ピストン位置Pが高く通常の点火時期でも筒内圧がそれほど高くない状況)ほど、点火時期をATDC0°CA側に設定する。尚、下死点近傍もしくは吸気行程から起動する気筒に対しては、ATDC側に設定することが好ましい。
【0031】
そして、これらの情報に基づきステップS16で圧縮行程気筒に対して始動制御が実行され、ステップS18の判定がYESになると、このルーチンを終了して通常のエンジン制御に移行する。尚、始動制御から通常制御に移行した直後には、運転状態に関わらず一時的に圧縮行程噴射を実行するように設定して、エンジン1の無駄な吹け上がりを防止するようにしてもよい。
【0032】
又、ステップS18の判定がNOで始動が完了していないときには、前記ステップS6及びステップS20を経てステップS22乃至ステップS26の処理で、上記のように初爆させた圧縮行程気筒に続く2番目の気筒、つまりエンジン停止時に吸気行程にあった気筒(以下、吸気行程気筒という)に対して同様の制御を実行する。但し、この吸気行程気筒については、圧縮行程気筒に比較して以下の点が相違しているため、その相違点を考慮した上で設定されたマップに従って、燃料噴射量、噴射時期、点火時期を決定している。
【0033】
圧縮行程の途中から圧縮を開始する圧縮行程気筒に対して、吸気行程気筒では常に下死点より圧縮が開始される。従って、圧縮行程気筒のようにピストン位置Pに応じた圧縮状態の相違により自着火の領域が変化する(図4乃至図7のように)現象は発生せず、その点では燃料噴射量や噴射時期の設定のためにピストン位置Pを考慮する必要はないと言える。しかしながら、エンジン停止時の吸気行程気筒は吸気行程の途中であることから、既に筒内に存在する残留ガスに、吸気ポート内の低温の吸気を混合させた状態で燃焼が行われる。そして、混合後の筒内ガス温はエンジン停止時の残留ガスの量、換言すれば吸気行程気筒のピストン位置Pに応じて変化し、それに伴い自着火や急速な燃焼のし易さが変化する。
【0034】
図9及び図10は、各ピストン位置P(圧縮行程気筒がBTDC180°CA,BTDC90°CA)で起動したときの吸気行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。図9のように吸気行程気筒のピストン位置Pが上死点のときには、概略で残留ガスが0%、吸気が100%となることから、結果として筒内ガス温が低くなって自着火や急速な燃焼は発生しない。又、吸気行程気筒のピストン位置Pが下死点に近付く連れて、残留ガスが増加方向に、吸気が減少方向に変化することから、筒内ガス温が上昇して自着火や急速な燃焼がし易くなる。例えば図10のように吸気行程気筒のピストン位置Pが吸気行程の中程のときには、筒内ガス温の上昇により自着火の領域が大半を占めることになる。
【0035】
つまり、この吸気行程気筒では筒内ガス温が単純にエンジン温度Tと相関せずにピストン位置Pの影響を受けることから、筒内ガス温を燃料噴射量や噴射時期に反映させるためにピストン位置Pを考慮する必要がある。よって、ステップS22とステップS24では、ピストン位置P(例えば図9及び図10の特性)、エンジン温度T、及び使用ガソリンGに基づいて設定したマップ(当然、圧縮行程気筒のマップとは特性が異なる)から燃料噴射量、噴射時期及び点火時期を決定する。
【0036】
そして、吸気行程気筒が圧縮行程に至ると、これらの情報に基づきステップS16で始動制御が実行される。以上の圧縮行程気筒及び吸気行程気筒の燃焼によりほとんどの場合は始動が完了し、ECU21はステップS18でYESの判定を下してルーチンを終了する。尚、それでも始動が完了しないときにはステップS6に戻るが、ステップS6で早期始動の条件が満たされている限り、ステップS20以降の処理により3番目、4番目の気筒に対して早期始動制御を実行され、継続して始動が試みられる。尚、これらの気筒では吸気100%となり、且つ、既にエンジン回転速度Neがある程度上昇しているため、自着火の可能性はより低くなる。そして、本実施形態では、以上のステップS16の処理を実行するときのECU21が始動時噴射制御手段として機能し、ステップS22乃至ステップS26の処理を実行するときのECU21が制御量可変手段として機能する。
【0037】
以上の説明から明らかなように、本実施形態のエンジン1の始動装置では、停止中のエンジン1の圧縮行程気筒や吸気行程気筒を対象として直ちに燃料噴射及び点火を実行することから、速やかに初爆を行って始動させることができる。従って、運転者の操作による始動の場合は無論のこと、信号待ち等で停止させたエンジン1を自動始動する際にも、ほとんど瞬時に始動を完了して速やかに発進することができ、ひいてはアイドルストップ車両の商品価値を向上させることができる。
【0038】
しかも、上記のように自着火し易さと相関するピストン位置P、エンジン温度T、及び使用ガソリンGに基いて、自着火し易い状況ほど燃料噴射量を増加側に、点火時期を遅角側に設定し、噴射時期はそのエンジン特有のマップで設定している。よって、正常な火花着火を確実に行ってエンジン1を始動でき、自着火により引き起こされる不具合、例えばエンジン振動の増大やノック音の発生、或いは燃料噴射弁3の噴口内へのカーボンの進入等を未然に防止することができる。
【0039】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、アイドルストップ車両に用いる筒内噴射型エンジン1の始動装置に具体化したが、通常の車両に用いる筒内噴射型エンジンの始動装置、或いはハイブリッド車両に用いる筒内噴射型エンジンの始動装置として具体化してもよい。
【0040】
又、上記実施形態では、直列4気筒の筒内噴射型ガソリンエンジン1として具体化したが、気筒配列はこれに限定されるものではなく、例えば直列3気筒エンジンやV型6気筒エンジンとして具体化してもよい。
更に、上記実施形態では、エンジン温度T及びピストン位置Pに基づいて着火可能領域か否かを判定した上で早期始動制御を実行したが、この判定は必ずしも行う必要はなく、例えば圧縮行程気筒や吸気行程気筒に対して無条件で早期始動制御を実行し、始動しない場合には通常の始動制御に切換えるようにしてもよい。
【0041】
一方、上記実施形態では、圧縮行程気筒と吸気行程気筒の何れに対しても早期始動制御を実行したが、例えば圧縮行程気筒については何ら始動制御を実行せずに、続く吸気行程気筒に対して早期始動制御を実行するようにしてもよい。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように本発明の筒内噴射型内燃機関の始動装置によれば、速やかに始動を完了できると共に、始動時に正常な火花着火を確実に行って、自着火や急激な燃焼により引き起こされる不具合、例えばエンジン振動の増大やノック音の発生、或いは燃料噴射弁の噴口内へのカーボンの進入等を未然に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の筒内噴射型エンジンの始動装置を示す全体構成図である。
【図2】ECUが実行するエンジン始動ルーチンを示すフローチャートである。
【図3】着火可能領域を判定するためのマップを示す説明図である。
【図4】ピストン位置がBTDC180°CAで起動したときの圧縮行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【図5】ピストン位置がBTDC120°CAで起動したときの圧縮行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【図6】ピストン位置がBTDC90°CAで起動したときの圧縮行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【図7】ピストン位置がBTDC60°CAで起動したときの圧縮行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【図8】クランク角速度及びエンジン振動に対する点火時期の影響を示す説明図である。
【図9】圧縮行程気筒のピストン位置がBTDC180°CAで起動したときの吸気行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【図10】圧縮行程気筒のピストン位置がBTDC90°CAで起動したときの吸気行程気筒の燃焼状態を示す特性図である。
【符号の説明】
1 エンジン(内燃機関)
21 ECU(ピストン位置検出手段、制御量可変手段)
23 クランク角センサ(ピストン位置検出手段)
24 カム角センサ(ピストン位置検出手段)

Claims (4)

  1. 筒内に直接燃料を噴射可能な筒内噴射型内燃機関の始動装置において、
    停止中の内燃機関の圧縮行程気筒のピストン位置を検出するピストン位置検出手段と、
    上記内燃機関の始動時に、上記圧縮行程気筒の残りの圧縮行程に対して燃料噴射を実行する始動時噴射制御手段と、
    上記始動時噴射制御手段による圧縮行程気筒への燃料噴射時において、上記ピストン位置検出手段により検出された圧縮行程気筒のピストン位置に応じて当該気筒への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つを自着火もしくは燃焼速度を抑制する方向に可変させる制御量可変手段と
    を備えたことを特徴とする筒内噴射型内燃機関の始動装置。
  2. 上記圧縮行程気筒に対する燃料噴射に続いて後続の吸気行程気筒が圧縮行程に至ったときに、上記始動時噴射制御手段が該吸気行程気筒に対して燃料噴射を実行すると共に、上記制御量可変手段が上記吸気行程気筒のピストン位置に応じて当該気筒への燃料噴射量、燃料噴射時期、点火時期の少なくとも一つを自着火もしくは燃焼速度を抑制する方向に可変させることを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射型内燃機関の始動装置。
  3. 上記制御量可変手段は、停止中のピストン位置が下死点に近付くに連れ燃料噴射量を増加させたことを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射型内燃機関の始動装置。
  4. 上記制御量可変手段は、停止中のピストン位置が下死点に近付くに連れ点火時期をリタードさせたことを特徴とする請求項1に記載の筒内噴射型内燃機関の始動装置。
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