JP3784111B2 - 抗原濃度測定方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、抗原濃度測定方法に関するものである。さらに詳しくは、この発明は、単一抗体(免疫グロブリン)の分子内相互作用を利用して検体中の抗原濃度を簡便かつ高感度で測定するための新しい方法に関するものである。この発明の方法は、例えばサンドイッチELISA法などとして実施することができ、生体試料(血液、尿、体液等)中の各種抗原濃度を測定する臨床診断に有用である。また、抗体が抗原として認識しうるあらゆる天然・非天然物質の特異的検出に幅広く応用することができ、研究用あるいは工業用センサーとしても利用可能な方法である。
【0002】
【従来の技術とその課題】
従来より、各種の方法による抗原濃度の測定法が知られており、いくつかの方法は、臨床診断においても用いられている。
これらの抗原濃度測定法のうちでは、特にいわゆるサンドイッチELISA法(あるいはサンドイッチRIA法)が注目されているが、この方法は、ある抗原蛋白質を測定する際に、認識するエピトープが各々異なる2種類のモノクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体とポリクローナル抗体を用いて測定を行うことを特徴としている。すなわち第一段階として一次抗体と呼ばれるモノ/ポリクローナル抗体を吸着させた測定用プレートに抗原を含む検体を注ぎ一定時間おく。この間に抗体に結合した抗原以外の夾雑物を、第二段階として洗浄液で洗浄して取り除く。次に第三段階として、予め酵素あるいはラジオアイソトープなどのレポーター分子を結合した標識抗体溶液を注ぎ一定時間おく。この間に一次抗体によって補足された抗原に標識抗体が結合するので次に洗浄液で余分の標識抗体を充分洗い流した後に、測定用プレートに残ったレポーター分子の量を酵素活性あるいは液体シンチレーションカウンターなどで測定することにより検体中の抗原量を推定している。
【0003】
以上のような操作手順からなる従来のサンドイッチELISA法は、必要な抗体さえ得られればほとんどあらゆる蛋白性抗原を測定できるというメリットはあるが、一方で、最低二回ずつの反応と洗浄を必要とするその測定手順は煩雑であり、そのため測定に時間がかかり自動化のための設備も高価になるという欠点がある。
【0004】
一方、この発明の発明者等は、抗体の抗原認識部位であるFv領域の安定性が、抗原との結合の有無によって変化する現象に注目し、単一抗体のFv領域を構成するVH分子とVL分子とを用いたサンドイッチELISA法を提案している。
この発明は、この発明者等がすでに提案した単一抗体のVH分子とVL分子とを用いたサンドイッチELISA法をさらに発展させ、優れた感度と信頼性を有し、しかも測定手順を簡便かつ迅速化することのできる新しい抗原濃度測定法を提供することを目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決するための第1の手段として、抗原を特異的に認識する抗体のVH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドを調製し、一方のポリペプチドをレポーター分子で標識して標識化ポリペプチドとし、他方のポリペプチドを固相に固定して固定化ポリペプチドとし、抗原含有試料および標識化ポリペプチドを固相に接触させ、固定化ポリペプチドに結合した標識化ポリペプチドのレポーター分子の量を測定する方法において、レポーター分子が酵素または蛍光色素であることを特徴とする抗原濃度測定方法(第1方法)を提供する。
【0006】
この第1の方法においては、固定化ポリペプチドを、ビオチンまたはタグ配列とアビジンまたはストレプトアビジンとの結合を介して固相に固定することを好ましい態様としている。また、レポーター分子である酵素が大腸菌アルカリフォスファターゼまたはその変異体であり、蛍光色素がフルオレセインまたはその誘導体であることを別の好ましい態様としてもいる。
【0007】
さらにこの発明は、第2の手段として、抗原を特異的に認識する抗体のVH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドを調製し、VH領域ポリペプチドを第1レポーター分子で標識し、VL領域ポリペプチドを第2レポーター分子で標識し、抗原含有試料と標識化VH領域ポリペプチドおよび標識化VL領域ポリペプチドを混合し、第1レポーター分子と第2レポーター分子との相互作用の変化量を測定することを特徴とする抗原濃度測定方法(第2方法)を提供する。
【0008】
この第2の方法の一つの態様は、第1レポーター分子と第2レポーター分子が別種の蛍光色素であり、両レポーター分子間のエネルギー移動により生じる蛍光量によって複合体の量を測定することである。この場合において、別種の蛍光色素は、それぞれ、フルオレセインまたはその誘導体と、ローダミンまたはその誘導体とするのが好ましい。
【0009】
なお、これら第1方法および第2方法においては、VH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドを、それぞれをコードする遺伝子配列を組み込んだベクターの発現産物として、あるいはそれぞれの遺伝子配列を別個に組み込んだ2種類のベクターの発現産物として調製することができる。このようにして抗体ポリペプチドを調製する場合には、レポーター分子との融合蛋白質またはキメラ蛋白質として標識化ポリペプチドを発現させることもできる。
【0010】
以上のとおりの構成からなるこの発明の測定方法は、サンドイッチELISA法と同等以上の感度と信頼性をもちながらその測定手順を簡便化かつ迅速化することに成功した新しいELISA法を提供するものである。
そしてさらにこの発明は、標識化ポリペプチドと、標識化ポリペプチドのセット、およびこれらの標識化ポリペプチドを含有する抗原濃度測定キットをも提供する。
【0011】
以下、この発明についてその実施の形態をさらに詳しく説明するが、以下の説明のおいては、VH領域ポリペプチドをVHと記載し、VL領域ポリペプチドをVLと記載することがある。
【0012】
【発明の実施の形態】
この発明の方法においては、測定対象となる任意の抗原に特異的に結合する抗体を使用する。このような抗体は、例えば、ハイブリドーマ技術により作成されたモノクローナル抗体から選択することができる。次に、このような抗体からVH領域とVL領域のポリペプチド断片を別々に調製する。各々のポリペプチドは、それらが対合した状態で対象抗原を結合することのできる長さであれば、抗体のVH領域およびVL領域よりも長くても短くてもよい。これらのポリペプチドは、あらゆる抗原を認識する抗体を対象として、例えば以下のようにして調製することができる。
【0013】
すなわち、任意の抗原を特異的に結合するモノクローナル抗体を公知の方法 (Kohler, G. and Milstein, C. Nature 256, 495-496, 1975)によって作成し、この抗体の可変領域をコードする遺伝子をcDNAライブラリーとハイブリダイゼーションを用いる方法 (Sambrook, Frisch, and Maniatis, Monecular Cloning 2nd ed., 1989)、またはPCRを用いる方法(larrick et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 160, 1250-1256, 1989; Jones, S. and Bendig, M., Bio/Technology 9, 88-89, 1991)により特定し、この遺伝子をベクターにクローニングする。そして、この組換え体ベクターからVHおよび/またはVL領域をコードする配列を得、この断片を発現ベクターにサブクローニングし、この遺伝子を宿主細胞内で発現させることにより、必要量のVHおよび/またはVLを得ることができる。抗体遺伝子からVH/VLコード配列を得るためには、所望の配列領域を制限酵素で切り出し、これをクローニングベクターで増幅させてもよく、あるいは所望の配列をPCR法で増幅してもよい。VHおよび/またはVLを宿主細胞で発現させる場合には、任意のレポーター分子をコードする遺伝子をも発現ベクターにクローニングし、VHおよび/またはVLをレポーター分子との融合蛋白またはキメラ蛋白として発現させることができる。
【0014】
VHおよび/またはVLは、以上の方法によらず、抗体分子を蛋白質分解酵素によって分解することによっても得ることもできる。この場合には、断片の精製や標識反応には工夫を要するものの、遺伝子クローニングの手間を省くことができるという利点を有している。
この発明の第1の方法では、このようにして調製したポリペプチドの一方を固相に固定し、他方をレポーター分子で標識する。VHおよびVLは、いずれも標識化ポリペプチドとして、あるいは固定化ポリペプチドとして用いることができる。また、ポリペプチドの固定化方法および標識方法は、公知の方法を採用することができる。レポーター分子としては、酵素または蛍光色素を用いる。酵素(例えば、アルカリフォスファターゼ)で標識する場合には、VHまたはVLが酵素との融合蛋白として発現するようにその遺伝子をベクターに組み込み、酵素との融合蛋白質として標識化ポリペプチドを調製する。また、蛍光色素(例えば、フルオレセインまたはその誘導体)を用いる場合には、VHまたはVLのアミノ末端を選択的に蛍光色素で標識することにより、抗原結合能およびFv形成能に影響を与えることなく標識化ポリペプチドを調製することができる。ただし、この発明においてはそれぞれのポリペプチドの調製はこれらの方法に特定されるものではなく、最終的な目的を達成できればどんな方法を用いても良い。
【0015】
次に、この第1の方法における操作手順の例を図1に沿って説明する。この図1においては、VHを酵素(アルカリフォスファターゼ:AP)標識化ポリペプチドとし、VLを固定化ポリペプチドとしている。
まず、VLを測定用プレートに固定する。VLを効率よく測定用プレートに固定するためには、VLは精製してビオチン化するとよい。これによりストレプトアビジンを吸着させた測定用プレートに容易に固定することが出来る。あるいはストレプトアビジンと結合しうるアミノ酸配列をそのカルボキシ末端に結合させた形でVLを調製する方法もある。この場合、VLを特に精製せずに培養上清をストレプトアビジンプレートと反応させるだけで固定化が完了する。
【0016】
そして、この発明では、続く一段階の反応と洗浄のみで原理的に抗原濃度の測定を可能とする。
すなわち、VLが固定されたプレートに抗原を含む測定サンプルとVH−APを同時に注入し、混合した後一定時間おく。抗原非存在下でのVH−VL相互作用は弱いので、抗原が存在しない場合にはVH−APのプレートへの結合は見られない。これに対し、抗原存在下ではVHおよびVLが抗原を介して強固に結合するのでVH−APはプレートに固定され、洗浄後にプレートに残った酵素活性を公知の方法で測定すればそれはサンプル中の抗原濃度と非常によい相関関係を示す。
【0017】
この発明の第1の測定方法は、任意の抗体から予め調製した固定化ポリペプチドおよび標識化ポリペプチドの組み合わせによって実施することができる。そしてこのような組み合わせは、固定化ポリペプチドを有する固相と、標識化ポリペプチドを含有する試薬からなるキットとして構成することもできる。このようなキットの場合、固定化ポリペプチドおよび標識化ポリペプチドは上記第1の測定方法と同様のものを用いることができる。
【0018】
さらに、この抗原測定キットにおいては、ポリペプチドを繊維状ファージで標識してもよい。例えば、VHをこの繊維状ファージで標識する場合には、VHが繊維状ファージのコート蛋白質g3pとの融合蛋白質として発現される様にVH遺伝子をベクタープラスミドに組み込み、次に、発現したVH−g3p融合蛋白質をM13ファージの上に提示させる(VHファージ)。これはファージディスプレイと呼ばれる公知の技術(McCafferty, J. et al., Nature 348, 552-554, 1990 )を用いることで可能である。すなわち、融合蛋白質発現ベクタープラスミドを持つ大腸菌にM13ファージを感染させ、融合蛋白質の発現を誘導する培養条件で菌を培養することにより、培養上清中に当該ファージを得ることが出来る。また、ファージ自体を予め酵素または色素により標識しておくこともできる。
【0019】
なお、この測定用キットには、様々な既知濃度の抗原を含有した標準溶液またはそれに基づく標準曲線を加えておくこともできる。これにより、サンプル中の未知濃度の抗原を簡便に測定することが可能となる。さらに、このキットは、レポーター分子が酵素の場合には酵素の基質を、また必要に応じて洗浄液を加えることもできる。
【0020】
次に、この発明の第2の方法について説明する。この第2の測定方法は、第1レポーター分子で標識したVHおよび第2レポーター分子で標識したVLを抗原含有試料と混合し、第1レポーター分子と第2レポーター分子との相互作用の変化量を指標として両断片によるFv形成量を測定する方法である。この方法では、固相への固定化ポリペプチドを調製する必要はない。また、Fv形成後の余分な標識化ポリペプチドを洗浄する必要もない。
【0021】
第1レポーター分子と第2レポーター分子は、例えば、各々の蛍光波長と励起波長が異なる別種の蛍光色素(例えば、フルオレセインとローダミンX)を用いることができる。すなわち、このような蛍光色素の組合せが一定距離(約4nm)以内に近づくと、色素間に「蛍光共鳴エネルギー移動」という現象が起こり、一方の蛍光が他方の色素の励起に用いられて結果的により長い波長の蛍光を発するようになる。具体的には、フルオレセインは490nmで励起され、530nmの蛍光を発するが、この近傍にローダミンXが存在すると、530nm付近の蛍光エネルギーがローダミンXに移動して、より長い波長の蛍光(603nm)を発するようになる。現在までにX線構造解析等により知られている抗体分子のVH鎖とVL鎖の各々のアミノ末端間の距離は約3.5nmであり、蛍光共鳴エネルギー移動を十分に検出することのできる距離である。
【0022】
従って、VHおよびVLのそれぞれのアミノ末端を別種の蛍光色素で標識し、蛍光波長の変化を指標としてVH−VL複合体の量を測定することができる。先に述べたように、VH−VL複合体量は抗原濃度に依存するため、その検出により抗原濃度を正確に測定することができる。
この第2の測定方法は、第1レポーター分子で標識したVHと、第2レポーター分子で標識したVLのセットによって実施することができ、このようなセットは、標識化VHを含有する第1試薬と、標識化VLを含有する第2試薬とからなるキットとして構成することができる。このようなキットは、標準溶液または標準曲線を備えるようにしてもよい。
【0023】
【実施例】
以下、参考例および実施例を示し、さらに詳しくこの発明の実施の形態について説明する。
参考例
繊維状ファージをレポーター分子として、サンプル中のニワトリ卵白リゾチーム(HEL) 濃度を測定した。
(a)HEL に対する抗体HyHEL−10のVL領域ポリペプチドの調製
抗体HyHEL−10のVH鎖とVL鎖の構造遺伝子およびそれぞれの上流にpelBシグナルペプチドシーケンスをコードするベクタープラスミドpKTN2(Tsumoto, K. et al., J. Biol. Chem. 269, 28777-28782, 1994 )より、pelB、VLおよびssi転写終結配列をコードする部分670bpを制限酵素NhelおよびEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動で精製した。このDNA断片と、T7プロモーターを持つベクターpET20b(Novagen Inc.)を制限酵素XbaIとEcoRIで切断したDNA断片とをライゲーションさせ、VL発現ベクターpETVLhelを作成した。このプラスミドでT7ポリメラーゼをゲノム上に持つ大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、LB培地で30℃で培養した。1l培地で飽和菌体濃度に達した菌体を遠心で集め、0.5mMIPTGを含む新鮮なLB培地で懸濁したのち更に24時間培養を続けた。菌体を遠心集菌したのち上清に硫酸アンモニウムを66%飽和になるまで加え、上清中の蛋白質を沈殿させた。遠心により集めた沈殿を少量の水にとかし、10mMリン酸緩衝液(pH7.0)に透析したのちDEAE−セルロースを1/4volume加えて培地中のVL以外の蛋白質を吸着させた。この処理を2回繰り返すことにより95%以上の純度のVLポリペプチドを得た。
(b)HEL に対する抗体HyHEL−10のVH領域ポリペプチドを提示したM13ファージの調製
pelBシグナルペプチド配列の下流にHyHEL−10のVHの構造遺伝子とVL構造遺伝子の一部、c−mycタグ、M13ファージgene3蛋白質(g3p)のC末端部分、M13複製起点、アンピシリン耐性遺伝子、およびpUCプラスミド由来の複製起点を持つベクタープラスミド pluck2001〔 pluck2000(特願平7−129516号公報)のベクター部分がpTZ18UでなくpTZ19Uであるプラスミド〕から、余分なVL構造遺伝子部分を除くために以下の操作を行った。g3pシグナル配列とVH構造遺伝子を下流のc−mycタグおよびg3pC末端配列とコドンの読み枠を合わせて結合させるために、配列表の配列番号1および2にそれぞれの塩基配列を示した二個のプライマーそれぞれ50pmolを用い、1ngの pluck2001を鋳型として2.5ユニットのPfuDNAポリメラーゼ(Stratagene)、終濃度0.2mMのdNTPs、10μlの10倍濃度反応液からなる100μlの反応液でPCR反応を行った。この結果得られた380bpのDNA断片を、制限酵素SfiIおよびNotIで消化し、同じくSfiIとNotIで消化した pluck2001のベクター断片とライゲーションさせた。制限酵素切断により目的のプラスミドが出来ていることを確認し、これを pluck2010と名付けた。大腸菌XL−1Blue(Δ(lac)、endA1、gyrA96、hsdR17(rk- 、mk+ ),recA1,relA1,supE44,thi1,〔F' ,lacIq,lacZΔM15,proAB,Tn10(tetr )〕)を pluck2010で形質転換し、できたコロニーを12.5mg/lのテトラサイクリンおよび1%グルコースを含む5mlのLB培地で37℃で一夜培養した。そのうち50μlを25μlのM13VCSファージ(StratageneSC200251,>1011pfu/ml)と混合し、37℃で20分おいた後5mlの100mg/lアンピシリン、70mg/lカナマイシンを含むLB培地に移して37℃で16時間振とう培養した。培養液は遠心分離して菌体を除き、上清をファージ液として使用するまで4℃で保存した。
(c)VLのマイクロタイタープレートへの固定と、VH−ファージを用いたELISA
VLあるいはHEL をマイクロタイタープレートに固定化するために、先ず、ビオチン−NHS(Pierce)を用いて添付マニュアルに従ってそれぞれをビオチン化した。一方、PBS中に10mg/lに溶解したストレプトアビジン(Wako)をマイクロタイタープレート(Falcon 3912)にウェルあたり100μl注いで4℃一晩吸着させたのち、これを除いて200μlの結合バッファ(2%スキムミルク/PBS)で室温1時間ブロッキングを行った。こうして得られたストレプトアビジンプレートを0.1%のTween20 を含むPBS(PBS−T)で二回洗浄した後、ビオチン化リゾチームを10mg/lとなるようにPBSで薄めてウェルあたり100μl注いで室温で一時間おき、これを除いて二回PBS−Tで洗浄した。この中に、PBS中に0、1、10mg/lのVLを含むサンプル10μlと、あらかじめ30分前に等量の結合バッファと混合しておいたVH−ファージ溶液90μlを加え、37℃で一時間インキュベートした。その後二回の洗浄ののち100μlの1/5000希釈ペルオキシダーゼ標識抗M13抗体(Pharmacia) を加え、37℃で1時間おき五回の洗浄を行ったのちに常法に従いortho-phenylenediamineを用いた呈色法により490nmの吸光度を測定してプレートに固定されたM13ファージの定量を行った。ビオチン化リゾチームの代わりにビオチン化VLを、サンプル中のVLの代わりにリゾチームを用いた実験も同様に行い、結果を比較した。
【0024】
結果は、図2に示したとおりである。この図2において、VL1−0は、ビオチン化VLのバッチ1(350μl 0.1mol/1 NaHCO3 pH8.3, 150mmol/1 NaCl 中の500μg の精製VLと、3.5μlのDMSO中の 100μg のビオチン−NHSを混合し、室温で30分間反応させた後、0.02%アジ化ナトリウムを含むPBSに透析したもの)をプレートに固相化し、VHファージと共に0μg/ml濃度のHELを添加してインキュベーションしたことを意味する。従って、VL1についてはHEL濃度0、1および10μg/mlの各々のサンプルについて測定を行った。また、ビオチン化VLのバッチ2(VL2、VL1の3.5μlのビオチン−NHS溶液の代わりに1μlのビオチン−NHS溶液を用いて作成したもの)を固定化した場合についても同様に測定した。さらに、HEL−0は、ビオチン化HELをプレートに固相化し、VH−ファージおよびVL断片と共に0μg/ml濃度のHELを添加してインキュベーションしたことを意味する。HEL濃度は、0、1および10μg/mlである。また、VH−ファージについては、独立のコロニーから培養を行って作成した3種類(phage 1,2,3)についてそれぞれ測定した。この図2から明らかなように、プレートにVLを固相化した場合も、HELを固相化した場合も、サンプル中の共存タンパク質(HELまたはVL)の濃度の増大に応じてM13ファージの結合量が増大することが確認された。
(d)VH−ファージを用いたELISAによるサンプル中のHEL 濃度の測定
上記(c)と同様の方法により、ビオチン化VLをプレートに固相化し、サンプル中のHEL濃度を様々に変えてVH−ファージの結合量を測定し、検量線を作成した。結果は、図3に示したとおりであり、この発明の方法によって、終濃度で0.015μg(15ng)/ml以上の抗原物質を高感度で、再現性よく測定できることが確認された。この測定感度は、従来のサンドイッチELISA法とほぼ同程度の感度である。
実施例1
アルカリホスファーゼをレポーター分子として、サンプル中のHEL 濃度を測定した。
(a)大腸菌アルカリホスファターゼ発現プラスミドの作成
大腸菌 XL1-blue の染色体DNAを、Molecular Cloning 第2版(Sambrook, Fritsh, Maniatis, 1989)の手法に従って抽出し、アルカリホスファターゼ(遺伝子名:PhoA, EC3.1.3.1.)をコードする部分1450bpをPCR法により増幅した。その際に、PCR産物の両端に制限酵素NotI部位を付加するため、配列表の配列番号3および4に塩基配列を示したオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いた。具体的には、それぞれのプライマーを各50pmolと2.5 ユニットのTaqDNAポリメラーゼとを添加した100μlの反応液中で、大腸菌 XL1-blue の染色体DNA 1ngを鋳型として35サイクルのPCR反応を行った。得られたアルカリホスファターゼ遺伝子断片を制限酵素NotIで切断し、アガロース電気泳動で切り出し、精製した。一方、T7プロモーター、ポリヒスチジン配列等を有する大腸菌発現ベクターpET20b(Novagen Inc.)を制限酵素NotIで切断し、ウシ小腸ホスファターゼで処理した後に上記のアルカリホスファターゼ遺伝子断片とライゲーションさせた。制限酵素切断により目的のプラスミドを確認し、これをpAPと名付けた。
(b)VH−アルカリホスファターゼ発現プラスミドの作製
抗体HyHEL-10のVHとVLの構造遺伝子、およびそれぞれの上流にpelBシグナルペプチド配列をコードするベクタープラスミドpKTN2(Tsumoto. K. et al., J. Biol. Chem., 269, p28777-28782, 1994)よりpelBおよびVHをコードする部分480bp をPCR法により増幅して目的とするDNA断片を得た。その際に、PCR産物の5’末端にT7プロモーター配列を、3’末端に制限酵素HindIII切断部位を付加するため、配列表の配列番号5および6に塩基配列を示したオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして用いた。具体的には、それぞれのプライマーを各50pmolと2.5 ユニットのPfuDNAポリメラーゼとを添加した100μlの反応液中で、pKTNを鋳型としてPCR反応を行った。得られた断片を制限酵素EcoRVおよびHindIIIで切断し、アガロース電気泳動で精製した後、同様に制限酵素EcoRVおよびHindIIIで切断してアガロース電気泳動で精製した上記のpAPとライゲーションさせることによりVH−アルカリホスファターゼ(VH−AP)発現プラスミドを作製した。制限酵素切断により目的のプラスミドでありことを確認し、これをpVHAP と名付けた。
(c)VH−APキメラ蛋白質の大腸菌での発現と精製
T7ポリメラーゼをゲノム上に持つ大腸菌BL21(DE3)LysS を、塩化カルシウム法によりpVHAP で形質転換し、抗生物質(50mg/l アンピシリン、34mg/lクロラムフェニコール) を含む1.5%寒天入りLB培地で37℃1夜培養してコロニーを形成させた。このコロニーを、抗生物質(50mg/l アンピシリン、34mg/lクロラムフェニコール) を加えた5ml のLB培地に移し、28℃で更に1夜培養した。飽和菌体濃度に達した菌体を遠心で集め、抗生物質(50mg/l カルベニシリン、34mg/lクロラムフェニコール) を含む新鮮なLB培地50mlに懸濁した後、更に28℃で3−4時間培養し、培地を1lにスケールアップした。菌体濃度がOD600=0.3-0.4 に達したところでIPTG0.1ml により誘導してVH−APキメラ蛋白質を発現させた。一夜培養し、培養液20μl をそのまま用いてSDS-ポリアクリルアミド電気泳動により目的蛋白質の発現を確認した後、菌体を遠心で集め、培養上清と菌体とを分離した。上清に、硫酸アンモニウムを65% 飽和になるまで加え、上清中の蛋白質を沈殿させた。遠心により集めた沈殿をソニケーションバッファー(50mM NaH2PO4、10mM Tris-HCl:pH8.0)に溶かした。菌体については、1mM DTT を含むソニケーションバッファーに懸濁した後、フレンチプレスを用いて細胞膜を破壊し、超遠心(32000rpm 、1時間)で不溶画分を除くことによりライセートを作製した。
【0025】
精製は、VH−APキメラ蛋白質のC末端にコードされている6 ×His 配列を利用したTALONTM Metal Chelating Column による精製と、陰イオン交換カラムによる精製の2段階で行った。先ず、TALONTM Metal Chelating Resin (Clontech Laboratories Inc.、カラムヘッド分2ml)と蛋白質溶液20mlを50mlチューブ中で4℃、1時間ゆっくり攪拌し、ポリヒスチジン配列を有する蛋白質を吸着させ、5ml 容カラムに移し、20mM MES-Na バッファーで溶出した。得られた画分のうち、蛋白質を含むものを回収して透析チューブに入れ、外側から適量のPEG6000 をまぶす方法で濃縮した後、20mM Tris-Cl溶液(pH8.0) に透析し、陰イオン交換カラム(MonoQ HR5/5, Pharmacia Biotech Co.)にアプライした。得られた画分をSDS ポリアクリルアミド電気泳動で確認して目的のVH−APキメラ蛋白質のみが含まれている画分のみを回収し、濃縮の後、トリス溶液(0.1M Tris-Cl, 0.1M NaCl, pH8.0)に透析した。この一連の操作により、培養上清および菌体ライセートからSDS ポリアクリルアミド電気泳動において1本のバンドとして特定されるまでにキメラ蛋白質を精製することができた。得られた蛋白質は、BCA プロテインアッセイ(Pierce)を用いて濃度を測定した後、測定に使用するまで4℃で保存した。
(d)VH−アルカリホスファターゼを用いたHEL の測定
参考例と同様にして作製したVLプレートを用い、PBS 中に各濃度のHEL を含むサンプル10μl と、上記のVH−APキメラ蛋白質溶液(4μg/ml in 0.1M Tris HCl pH8.0)90μl をそれぞれウェルに加え、室温で2時間インキュベートそした。各ウェルを0.1% Tweenを含むPBS(PBS-T)で4回洗浄し、ウェル当たり100 μl の基質(1mM 4-nitro phenylphosophate, Wako)を加え、反応後30分および1時間の呈色(黄色)を410nm の吸光度で測定した。
【0026】
結果は図4に示したとおりである。この図4は、反応1時間簿の吸光度をHEL の終濃度に対してプロットしたものであり、プロットした値は2回の測定値の平均である。この図4からも明らかなとおり、この発明の方法によって終濃度1ng/ml以上の抗原物質を高感度で、再現性よく測定できることが確認された。なお、このアルカリホスファターゼをレポーター分子として用いた場合の測定感度は、繊維上ファージを用いた実施例1におけるそれの約10倍である。
実施例2
フルオレセイン化VHとローダミンX化VLとの会合(association)を、蛍光エネルギー移動で検出した。
(a)VHおよびVLの調製
HELに対する抗体Hy-HEL-10 のVHとVLの構造遺伝子およびそれぞれの上流にpelBシグナルペプチド配列をコードするベクタープラスミドpKTN2(Tsumoto, K.et al., J. Bio. Chem., 269, p28777-28782, 1994)を用い、公知の方法に従ってHyHEL-10のFv断片を調製した。すなわち、大腸菌BL21(DE3) をpKTN2 で形質転換し、30℃で、50mg/lのアンピシリン含有LB培地5ml で培養し、同培地で50ml、1lと植え次いで飽和菌体濃度に達するまで培養した。1回の集菌の後、0.4mM のIPTG を含む同培地で24時間培養し、遠心上清を66%飽和硫酸アンモニウムで塩析して沈殿を50mMリン酸(pH7.2) 、0.2M NaCl に透析した。1回の遠心(10krpm, 10min.)の後、同じ緩衝液で平衡化されたHEL アフィニティーカラム( ファルマシア製CNBr活性化セファーロース4Bに、添加マニュアルに従い10mg/ml のHEL を固定化したもの) にサンプルを吸着させ、100ml の0.1Mトリス塩酸(pH8.5) 、0.5M NaCl で洗浄した後、10mlの0.1Mグリシン緩衝液(pH2.0) で溶出した。溶出後はすぐに等量の1Mトリス塩酸(pH7.5) で中性にした。
【0027】
得られたFv断片約10mgは50mMトリス塩酸(pH8.8) に透析した後、陰イオン交換クロマトグラフィーカラム(MonoQ HR5/5, Pharmacia Co.)でVHとVLとに分離した。すなわち、VLはこのクロマトグラフィー条件ではほとんどカラムに結合しないので、非結合画分をVLとし、結合画分をVHとして比較的容易に両者を分離することができた。分離後のそれぞれのポリペプチドの純度をSDSポリアクリルアミド電気泳動で確認したところ、90%以上であった。
(b)VHとVLの蛍光色素標識
精製VH(0.5ml) を、0.2Mリン酸ナトリウム(pH7.0) および0.1M NaCl で透析し、この透析物に、ジメチルスルホキシド中10mM( 約5mg/ml) のフルオレセインサクシンイミドエステル(Molecular Probes Inc., Eugene, USA)を4.5 μl 加え、良く混ぜて4℃10時間反応させた。同時に、同じ緩衝液に透析した235 μl の精製VL(0.5ml) に、ジメチルスルホキシド中10mM( 約6mg/ml) のローダミンXサクシンイミドエステル(Molecular Probes Inc., Eugene, USA)を4μl 加え、良く混ぜて4℃10時間反応させた。この時の蛋白:色素のモル比は1:2であった。等量の1Mトリス塩酸(pH7.5)を加えて反応を停止させ、予め0.2Mリン酸ナトリウム(pH7.0) および0.1M NaCl で平衡化したPD-10 カラム(Pharmacia Co.) でゲル濾過を行い、未反応の色素を除去した。
(c)HEL濃度の測定
0.2Mリン酸ナトリウム(pH7.0) 、0.1M NaCl、1%ウシ血清アルブミンからなる溶液(2ml) に、上記のフルオレセイン化VHとローダミンX化VLをそれぞれ20μl と25μl づつ加え、キュベットに入れて、日立分光蛍光光度計850 型を用いて、4℃で、励起波長490nm 、蛍光波長500nm から650nm で蛍光強度を測定した。スターラーで攪拌しながらHEL を終濃度0.1 μg/mlから順次に1mg/mlまで加え、その蛍光スペクトルの変化を観察した。
【0028】
その結果、HEL濃度が上がるにつれて530nm の蛍光強度が下がり、エネルギー移動由来の603nm の蛍光強度が増加するのが観察された。この変化に要する時間は数秒以内であった。この実験を独立に3回行った結果から、図5に示したように、両者の蛍光強度の比の変化量をとることにより、抗原HEL濃度を再現性よく測定することが可能であった。
【0029】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、この発明によって、サンプル中の抗原濃度を、簡便かつ迅速に、しかも従来のサンドイッチELISA法と同程度の測定感度で行うことが可能となる。
【0030】
【配列表】
Figure 0003784111
Figure 0003784111

【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の測定手順を例示した模式図である。
【図2】プレートに固定したビオチン化VLまたはニワトリ卵白リゾチームへのVHファージの結合量を示した棒グラフである。
【図3】プレートに固定したビオチン化VLへのVH−ファージの結合量に基づき作成したニワトリ卵白リゾチーム濃度の検量線である。
【図4】プレートに固定したビオチン化VLへのアルカリホスファターゼ標識化VHの結合量を示す吸光度をニワトリ卵白リゾチーム濃度毎にプロットしたグラフである。
【図5】フルオレセイン化VHとローダミンX化VLの蛍光比をニワトリ卵白リゾチーム濃度毎にプロットしたグラフである。

Claims (8)

  1. (a)抗原特異的抗体のVH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドを調製する工程;
    (b)一方のポリペプチドをレポーター分子で標識して標識化ポリペプチドを形成し、他方のポリペプチドを固相に固定して固定化ポリペプチドを形成する工程;
    (c)抗原含有試料および標識化ポリペプチドを固相に接触させる工程;ならびに
    (d)固定化ポリペプチドに結合した標識化ポリペプチドのレポーター分子を測定する工程
    を含む、試料中の抗原濃度測定する方法。
  2. 固相に固定されるべきポリペプチドが予めビオチン化またはタグ配列で修飾され、固相がアビジンもしくはストレプトアビジンを吸収または化学的に結合し、それによりビオチン−アビジン結合、ビオチン−ストレプトアビジン結合またはタグ配列−ストレプトアビジン結合を介して固相上にポリペプチドを固定する請求項1記載の方法。
  3. (a)抗原特異的抗体のVH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドを調製する工程;
    (b)VH領域ポリペプチドを第1レポーター分子で標識し、VL領域ポリペプチドを第2レポーター分子で標識する工程;
    (c)抗原含有試料と標識化VH領域ポリペプチドおよび標識化VL領域ポリペプチドを混合する工程;ならびに
    (d)第1レポーター分子と第2レポーター分子との相互作用により誘導される第1レポーター分子または第2レポーター分子の変化指標値を測定する工程
    を含む、試料中の抗原濃度測定する方法。
  4. 抗原に特異的な抗体のVH領域ポリペプチドまたはVL領域ポリペプチドであり、ポリペプチドに融合される線維状ファージであるレポーター分子で標識された標識化ポリペプチド。
  5. 線維状ファージが酵素または蛍光色素で予め標識されている請求項4記載の標識化ポリペプチド
  6. 1レポーター分子標識されたVH領域ポリペプチドおよび第2レポーター分子で標識されたVL領域ポリペプチドからなる一組の標識化ポリペプチドであって、VH領域ポリペプチドおよびVL領域ポリペプチドが抗原に特異的な抗体由来である一組の標識化ポリペプチド。
  7. 固定化VL領域またはVH領域ポリペプチドを有する固相;および
    標識化VH領域またはVL領域ポリペプチドを含む試薬
    を含んでなる、試料中の抗原濃度を測定するためのキット。
  8. 標識化VH領域ポリペプチドを含有する第1試薬;および
    標識化VL領域ポリペプチドを含有する第2試薬
    を含んでなる、試料中の抗原濃度測定するためのキット。
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