JP3847511B2 - 連続鋳造用鋳型 - Google Patents

連続鋳造用鋳型

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶鋼の連続鋳造設備に用いる連続鋳造用鋳型に係り、特に凝固した鋳片による磨耗損耗並びにスラグ、鋳造潤滑パウダー、及びスプレー冷却水による腐食損耗更に鋳片との焼きつきを防止できる連続鋳造用鋳型に関する。
【0002】
【従来の技術】
溶鋼の連続鋳造用鋳型においては、製造する鋳片の品質向上や、鋳型に使用するモールド銅板の寿命延長を目的として、鋳型内面に表面皮膜を形成させている。従来、表面皮膜として、ニッケルめっきが行なわれていたが、更なる鋳片の品質向上と鋳型に使用する銅板の寿命延長を目的に、耐磨耗性と潤滑性に優れるニッケル−コバルト合金めっきが、鋳型下部に耐磨耗用めっきとして使用されるようになっている。
【0003】
また、めっき以外の鋳型内面への表面皮膜形成法として、ニッケル−クロム自溶性合金溶射が行なわれている。しかし、ニッケル−クロム自溶性合金溶射は、大気中で溶射を行なうため、溶射中に溶射粒子表面に酸化層が形成されて溶射皮膜が脆くなり、母材との密着強度も鋳型の表面皮膜として要求される値より低くなる。そこで、スラグ形成成分である硼素、珪素を溶射材料中に添加して溶射皮膜を形成し、その後溶射皮膜を1000℃近傍で熱処理することにより、スラグを生成させて溶射粒子表面の酸化層の除去を行い、溶射皮膜の機械的特性の向上と母材との密着性を向上させている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ニッケル−コバルト合金めっきは耐磨耗性と潤滑性に優れるものの耐食性が低いため、実使用では磨耗試験結果から予測される鋳型寿命より少ない耐用回数で使用が終了してしまうという問題が生じている。
一方、ニッケル−クロム自溶性合金溶射では、1000℃近傍の温度で熱処理を行なうと母材の銅板が軟化することから、母材銅板に1〜2重量%以下のクロムとジルコニウムを含有する析出硬化型銅板を使用し、1000℃近傍での熱処理時に溶体化したものを急冷した後、450℃で焼き戻し処理(析出硬化処理)を行ない、母材銅板の強度を回復させている。このため、鋳型の製造コストが高くなるという問題が生じている。また、急冷処理時に変形歪が発生するため、鋳型面積の大きな長辺鋳型への適用は困難で、面積の小さな短辺鋳型で実用化されているに留まっている。更に、溶射皮膜中にスラグ成分が含有されることから、溶射皮膜と鋳片との凝着反応(鋳片焼きつき)が起りやすいという問題も有してる。特に、凝着反応が激しい場合は、鋳片の凝固シェルが破壊されて鋳型直下で鋳片内部の未凝固な溶鋼が漏れ出すというブレークアウト事故が発生することになり、鋳造作業の停止に到ることがある。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、耐磨耗性、潤滑性、及び耐食性を有すると共に、鋳片と凝着反応しない特性を併せ持つ安価な連続鋳造用鋳型を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
【0007】
【0008】
前記目的に沿う第の発明に係るの連続鋳造用鋳型は、1対の平行に配置された長辺モールド銅板とその間に平行に配置された1対の短辺モールド銅板を備えた連続鋳造用鋳型において、
前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを30〜50重量%含有するコバルト−タングステン合金めっきが形成されている。
【0009】
モールド銅板にコバルト−タングステン合金めっき皮膜を形成することにより、耐磨耗性、潤滑性、及び耐食性を有すると共に、鋳片と凝着反応しない特性を併せ持つ連続鋳造用鋳型を製作できる。タングステン含有量を30重量%未満にすると、コバルト−タングステン合金めっき皮膜の耐食性が低下する。一方、タングステン含有量が50重量%を超えると、コバルト−タングステン合金めっき皮膜の耐磨耗性、硬度低下にともなう潤滑性の低下が生じる。このため、コバルト−タングステン合金めっきにおいては、タングステン含有量を30重量%以上、50重量%以下とした。また、タングステンは高融点金属のため、凝固途中の溶鋼シェルとは容易に反応しにくいため、鋳片焼きつきが生じない。
【0010】
前記目的に沿う第の発明に係るの連続鋳造用鋳型は、1対の平行に配置された長辺モールド銅板とその間に平行に配置された1対の短辺モールド銅板を備えた連続鋳造用鋳型において、
前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを20〜50重量%含有するニッケル−コバルト−タングステン合金めっきが形成されている。
【0011】
モールド銅板にニッケル−コバルト−タングステン合金めっき皮膜を形成することにより、耐磨耗性、潤滑性、及び耐食性を有すると共に、鋳片と凝着反応しない特性を併せ持つ連続鋳造用鋳型を製作できる。タングステン含有量を20重量%未満にすると、ニッケル−コバルト−タングステン合金めっき皮膜の耐磨耗性、耐食性、及び硬度が低下し、硬度低下にともなって凝着磨耗が起りやすくなり潤滑性が低下する。一方、タングステン含有量が50重量%を超えると、ニッケル−コバルト−タングステン合金めっき皮膜の耐磨耗性、硬度低下にともなう潤滑性低下が生じる。このため、ニッケル−コバルト−タングステン合金めっきにおいては、タングステン含有量を20重量%以上、50重量%以下とした。また、タングステンは高融点金属のため、凝固途中の溶鋼シェルとは容易に反応しにくいため、鋳片焼きつきが生じない。
【0012】
ここで、前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板には、傾斜めっき又は部分等厚めっきを形成することもできる。傾斜めっき又は部分等厚めっきを形成させることにより、モールド銅板の磨耗、腐食等による損耗量を均一にできる。
【0013】
本発明者等は、連続鋳造用鋳型について鋭意、実用機の観察調査と実験結果の検討、解析を重ねた結果、次のような知見を得るに到った。
すなわち、工業的に実用化されている連続鋳造用鋳型11は、1対の平行に配置された長辺モールド銅板17とその間に平行に配置された1対の短辺モールド銅板20を備えており、図6に示すような状態(但し、図6は説明上1対の長辺モールド銅板17のうち一方側を省略している)で使用されるが、使用後の内面損耗は、図7(A)に示す弱い腐食磨耗痕跡12、あるいは図7(B)に示す強い腐食磨耗痕跡13のような状態が観察され、弱い腐食磨耗痕跡12及び強い腐食磨耗痕跡13とも、冷却水スプレー14の配置と対応した損耗であることが判った。この現象は、鋳片15による磨耗損耗とは別の磨耗損耗の存在を示すものと考えられる。
なお、図6又は図7中の符号16は長辺モールド水箱を、符号18は長辺モールド銅板17の表面に施されためっき皮膜を、符号19は短辺モールド水箱を表している。
【0014】
次に、本発明者等は、タングステン含有ニッケル系合金めっき(Ni−W)、タングステン含有コバルト系合金めっき(Co−W)、及びタングステン含有ニッケル−コバルト系合金めっき(Ni−Co−W)におけるタングステン含有率が耐磨耗性に及ぼす影響を磨耗試験によって確認した。
磨耗試験で使用する供試材は、タングステンを最大で55重量%まで含有するニッケル系、コバルト系、及びニッケル−コバルト系の各合金めっきを厚さ2mmの銅板に形成した後、マイクロカッターで30mm×30mmのサイズに切り出し、600番の研磨紙で表面研磨して作製した。摩耗試験には、リングオンプレート型の摺動摩耗試験機を用い、試験温度は連続鋳造鋳型における実機モールド下部での磨耗を想定して試験温度を300℃とした。摩耗試験は、300℃で5分間加熱した供試材を300℃に設定した摺動摩耗試験機に30mm×30mmのめっき皮膜が形成された面が摺動面となるように固定し、S45C製の外径25.6mm、肉厚2.8mmのリングを20kgfの力で合金めっき皮膜表面に押しつけ、周速50mm/秒にて20分間回転させる条件で行なった。摩耗試験後の供試材の合金めっき皮膜及びリングの各表面を光学顕微鏡及びEPMA(電子プローブ微小分析装置)を用いて観察した。
【0015】
図8に各合金めっき皮膜の耐磨耗性とタングステン含有率の関係を示す。いずれの合金めっき皮膜も、その磨耗量はタングステン含有率の増加に伴い減少し、タングステン含有率30〜40重量%の領域で最も少なくなり、50重量%を超えるとやや増加してくる。なお、供試材に押しつけているリング(S45C)側の磨耗量は、いずれも供試材の磨耗量より少なく、合金めっき皮膜中のタングステン含有率が10重量%以上ではほぼ零となっている。
タングステン含有率が2重量%と38重量%のタングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜が形成された供試材において、摩耗試験後の合金めっき皮膜表面の観察を行なった。タングステン含有量が2重量%の供試材では、供試材の合金めっき皮膜表面、リング表面とも、起伏の激しい荒れた凹凸外観を呈している。また、EPMAによるニッケル、鉄の特性X線像観察から、供試材の合金めっき皮膜表面には鉄の付着が、リング側にはニッケルの付着が認められた。このことから、タングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜とリング表面が凝着摩耗を起こして合金めっき皮膜表面、リング表面共に微小剥離が生じ、微小剥離片は接触している相手側に移行していると考えられる。
【0016】
これに対して、タングステン含有率が38重量%の供試材では、供試材の合金めっき皮膜表面、リング表面とも比較的平滑なままであった。供試材の合金めっき皮膜表面の鉄の特性X線像観察ではほとんど鉄が検出されないことから、タングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜とリング表面とは凝着摩耗が起こりにくくなっていると考えられる。また、リング側には若干のニッケルの付着が認められていることから、合金めっき皮膜が一部リング側に移行していることが判る。その結果、供試材表面のタングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜とタングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜に覆われたリング表面との摩耗、すなわち、硬質の合金めっき皮膜同士が接触した摩耗が生じていることになり、凝着摩耗が抑制されていると考えられる。なお、供試材を押しつけているリング側の摩耗量がタングステン含有率が10重量%以上ではほぼ零となっているのは、リング表面にタングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜が一部移行し、リング表面を保護しているためと考えられる。
【0017】
タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜、タングステン含有ニッケル−コバルト系合金めっき皮膜についても、タングステン含有率の違いにより同様な結果が得られた。従って、タングステン含有のニッケル系合金めっき、コバルト系合金めっき、及びニッケル−コバルト系合金めっきにおいては、耐摩耗性はタングステン含有率により変化し、タングステン含有率が30〜40重量%の範囲で最も良好になり、その理由は凝着摩耗が抑制されるためと考えられる。
【0018】
耐摩耗性に及ぼすめっき皮膜の因子については、従来より、めっき皮膜の硬さ、めっき皮膜表面の潤滑性等が報告されている。そこで、これらの因子と各合金めっき皮膜のタングステン含有率の関係を調査した。図9に各合金めっき皮膜のビッカース硬度とタングステン含有率の関係を示す。各合金めっき皮膜の硬度はいずれもタングステン含有率の増加に伴い上昇し、タングステン含有率40重量%前後で最大となり、タングステン含有率が50重量%を超えるとやや低下してくる。これは、図8に示した各合金めっき皮膜の摩耗量とタングステン含有率の関係とよく一致しており、個々の合金めっき皮膜においては、その硬度が高くなる程摩耗量は減少していることがわかる。
【0019】
摩耗試験の結果から、タングステンを含有するニッケル系合金めっき皮膜、コバルト系合金めっき皮膜、及びニッケル−コバルト系合金めっき皮膜の摩耗形態は、凝着摩耗が主体であることが判明しているので、タングステンを含有する各合金めっき皮膜の潤滑性、すなわち摩擦係数とタングステン含有率の関係を調査した。図10に各合金めっき皮膜の摩擦係数とタングステン含有率の関係を示す。タングステンを含有するニッケル系合金めっき皮膜とニッケル−コバルト系合金めっき皮膜においては、摩擦係数に及ぼすタングステン含有率の影響はほとんど認められない。一方、タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜ではタングステン含有率が20重量%未満になると摩擦係数は明らかに低下している。コバルト系合金めっき皮膜では、コバルト含有率が高くなる程、酸化皮膜が厚く形成されるため潤滑性が向上すると報告されており、タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜においても同様の理由で、コバルト含有量が多くなると、すなわちタングステン含有率が低下すると、摩擦係数が低下すると考えられる。
【0020】
一方、タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜のタングステン含有量が20重量%以上の領域では、3種類の合金めっき皮膜ともほぼ同一の摩擦係数となっている。一般に、硬度が高くなると凝着摩耗が起こりにくくなって潤滑性が向上し、その結果として摩擦係数が低下すると考えられる。また、タングステン含有量が20重量%以上になるとタングステン含有コバルト系合金めっき皮膜の硬度は上昇し、各合金めっき皮膜の硬度はほぼ同程度の値を示すことが判っている。従って、3種類の合金めっき皮膜ともほぼ同一の摩擦係数となっているのは、3種類の合金めっき皮膜の硬度がほぼ同程度の値を示すことによると考えられる。以上の検討から、各合金めっき皮膜の潤滑性を最適とするタングステン含有率の範囲は、各合金めっき皮膜の硬度が高くなるタングステン含有率の範囲と一致すると考えられる。
【0021】
更に、本発明者等は、実際に使用された連続鋳造用鋳型の観察結果から、耐食性に及ぼすタングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜、タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜、及びタングステン含有ニッケル−コバルト系合金めっき皮膜におけるタングステン含有率の影響に着目した腐食実験を行なった。
本試験で用いた供試材は、摩耗試験で使用した供試材と同様、タングステンを最大で55重量%まで含有するニッケル系、コバルト系、及びニッケル−コバルト系の各合金めっき皮膜を2mm厚さの銅板に形成した後、マイクロカッターで30mm×30mmのサイズに切り出し、600番の研磨紙で表面研磨して作製した。その後、各供試材の合金めっき表面に開口部が形成されるように供試材を樹脂に埋め込んだ。
【0022】
凝固した鋳片15は、連続鋳造用鋳型11の下端から引き抜かれる際に冷却水スプレー14によって冷却水が吹きつけられる。この際、冷却水は鋳片15の表面のスラグや潤滑パウダーを起源とするガラス相の溶融生成物と反応して、硫酸、塩酸、ふっ酸、硝酸等が混在した酸性の腐食溶液となり、鋳型内面のめっき皮膜は腐食性環境下にさらされると推察される。
硫酸、塩酸、フッ酸、硝酸の中で、硝酸は酸化作用を有するため最も強い腐食性を有する。硫酸は、硫酸基が安定で水素の還元にともなう酸化作用を有するだけなので腐食性はさほど強くない。塩酸とフッ酸は多くの金属と反応物を形成するので硝酸に次いで腐食性は強いが、フッ酸はガラスを溶解するという特徴も有する。また、連続鋳造用鋳型の腐食にはガラス相の溶融生成物が関与していることが判明しているので、腐食実験では腐食溶液として硫酸、硝酸、及びフッ酸を選択した。
【0023】
腐食実験は、30重量%に調整された硫酸、硝酸、及びフッ酸の各腐食溶液100ccの中に供試材を室温で浸漬する方法を用いて行なった。供試材を腐食溶液に浸漬すると、当初無色の状態であった腐食溶液は浸漬時間の経過と共に徐々に着色してくる。腐食溶液の着色状態を目視で観察してある程度着色したところで1回目のサンプリングとして腐食溶液を1cc採取した。その後も浸漬を継続して、着色状態の変化に応じて腐食溶液の採取を繰り返し行なった。採取した腐食溶液を試料として、誘導結合高周波プラズマ(ICP)分析装置を用いて、ニッケル、コバルト、及びタングステンの各成分の定量分析を行なった。連続して採取した試料における各成分の定量値の増分値を、採取するまで浸漬した時間の差で除して溶出速度を求めた。図11〜図13に求めた溶出速度タングステン含有率との関係を示す。
【0024】
図11に示すように、非酸化性の酸である硫酸溶液に対しては、いずれの合金めっき皮膜とも、タングステンの溶解は全く認められず、ニッケル、コバルトの溶解量も非常に少ない。また、ニッケル、コバルトの各溶解量は、タングステン含有率が高くなる程減少している。
【0025】
これに対して、酸化性の酸である硝酸溶液に対しては図12に示すように、ニッケル、コバルトはかなり溶解している。しかし、その溶解量は、タングステン含有率が高くなる程激減し、タングステン含有率が60重量%前後では硫酸に対する溶解量とほぼ同じレベルにまで低下している。タングステン含有率が高くなるにつれてニッケル、コバルトの溶解量が低下してくるのは、タングステン含有率が高くなると合金めっき皮膜が非晶質化して、強固な不働態特性を示すようになるためと考えられる。
【0026】
一方、フッ酸に対しては、タングステン含有ニッケル系合金めっき皮膜を供試材とした場合の結果を図13に示す。ニッケルとタングステンの溶解量は硫酸浸漬の場合より多い程度であるが、タングステン自体の溶解が認められるという特徴がある。これは、タングステンがフッ化物イオンと錯体を生成することによるものと思われる。また、ニッケルの溶解量はタングステン含有率が高くなる程減少している。なお、タングステン含有コバルト系合金めっき皮膜、タングステン含有ニッケル−コバルト系合金めっき皮膜についても、同様な結果が得られた。
【0027】
各合金めっき皮膜の腐食試験結果を要約すると、実用域の条件と比べて過酷過ぎる硝酸を使用した腐食試験では、タングステン含有率が高くなる程、急速に合金めっき皮膜の耐食性は向上するが、特にタングステン含有率が20〜30重量%以上では急激に耐食性は向上する。また、比較的腐食効果の穏やかなフッ酸、硫酸による腐食試験においても、タングステン含有率が20〜30重量%以上となると耐食性は向上する。
従って、以上の腐食試験結果から、連続鋳造用鋳型の内面の合金めっき皮膜に関して、耐食性の観点から、タングステン含有率は20重量%以上、好ましくは30重量%以上が望ましいことが判る。
【0028】
本発明者等は、以上の実験結果等を総合して、溶鋼の連続鋳造用鋳型の内面めっきとして、タングステンを20〜50重量%含有するニッケル系合金めっき、タングステンを30〜50重量%含有するコバルト系合金めっき、タングステンを20〜50重量%含有するニッケル−コバルト系合金めっきが、耐磨耗性、潤滑性、及び耐食性を有すると共に、鋳片と凝着反応しない特性を併せ持ち、鋳型の耐用回数を増加させるのに有効であることを見いだした。
【0029】
【発明の実施の形態】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1〜図5を参照して、本発明の第1〜第5の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型をその製造方法と共に説明する。
(1)第1の実施の形態
図1に示すように、鋳型の長辺モールド銅板の内側全面を斜めに切削して、傾斜めっき処理用の長辺モールド銅板を準備する。準備した長辺モールド銅板の内側全面に、ニッケル系、又はコバルト系、又はニッケル−コバルト系のタングステン含有合金めっき10を上端で0.1〜0.5mm、下端で0.5〜1mmの厚みとなるように施す。その結果、タングステン含有合金めっき10が傾斜状に施された長辺モールド銅板が得られる。
【0030】
(2)第2の実施の形態
図2に示すように、鋳型の長辺モールド銅板の内側全面を斜めに切削して、傾斜めっき処理用の長辺モールド銅板を準備する。準備した長辺モールド銅板の内側全面に、アンダーコート部分として厚さ0.1〜0.2mmのニッケルめっきを施し、その上にトップコート部分としてニッケル系、又はコバルト系、又はニッケル−コバルト系のタングステン含有合金めっき10を上端で0.1〜0.5mm、下端で0.5〜1mmの厚みとなるように施す。その結果、ニッケルめっき上にタングステン含有合金めっき10が傾斜状に施された長辺モールド銅板が得られる。
【0031】
(3)第3の実施の形態
図3に示すように、鋳型の長辺モールド銅板の内側で銅板の高さHの1/3〜2/3に相当する下部を段付き(切り欠き)状に切削して、部分等厚めっき処理用のモールド銅板を準備する。準備した長辺モールド銅板の内側全面に、ニッケル系、又はコバルト系、又はニッケル−コバルト系のタングステン含有合金めっき10を上部は0.1〜0.5mm、下部は0.5〜1mmの厚みとなるように施す。その結果、長辺モールド銅板の上部と下部のタングステン含有合金めっき10のめっき厚さが異なる長辺モールド銅板が得られる。
(4)第4の実施の形態
図4に示すように、鋳型の長辺モールド銅板の内側で銅板の高さHの1/3〜2/3に相当する下部を段付き(切り欠き)状に切削して、部分等厚めっき処理用のモールド銅板を準備する。準備した長辺モールド銅板に対して、上部に厚さ0.1〜0.5mmのニッケルめっき、下部に厚さ0.5〜1mmのニッケル系、又はコバルト系、又はニッケル−コバルト系のタングステン含有合金めっき10をそれぞれ施す。その結果、長辺モールド銅板の上部はニッケルめっき、下部はタングステン含有合金めっき10が施された長辺モールド銅板が得られる。
(5)第5の実施の形態
図5に示すように、鋳型の長辺モールド銅板の内側で銅板の高さHの1/3〜2/3に相当する下部を段付き(切り欠き)状に切削して、部分等厚めっき処理用のモールド銅板を準備する。準備した長辺モールド銅板の内側全面に、ニッケルめっきを0.1〜0.5mmの厚さに施し、次いで下部のみにニッケル系、又はコバルト系、又はニッケル−コバルト系のタングステン含有合金めっき10を0.5〜1mmの厚みとなるように施す。その結果、長辺モールド銅板の上部はニッケルめっき、下部はニッケルめっき上にタングステン含有合金めっき10が施された長辺モールド銅板が得られる。
【0032】
前記それぞれの実施の形態において、各タングステン含有合金めっき10を施すために使用するめっき浴には、ニッケル系合金めっきの場合はスルファミン酸ニッケル、パラタングステン酸アンモン、及びクエン酸からなる塩浴、コバルト系合金めっきの場合はスルファミン酸コバルト、パラタングステン酸アンモン、及びクエン酸からなる塩浴、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合はスルファミン酸ニッケル、スルファミン酸コバルト、パラタングステン酸アンモン、及びクエン酸からなる塩浴をそれぞれ用いた。なお、塩浴中のニッケル、コバルト、タングステンの合計の濃度を0.3mol/リットル、pHを6.5に調整し、クエン酸濃度も0.3mol/リットルに調整した。また、各合金めっきは、陽極に白金、陰極に銅を用いて、めっき浴温度を50℃、電流密度1000〜5000A/m2の範囲で行なった。
このようにして、各合金めっきが施された1対の長辺モールド銅板を平行に配置し、その間に平行に1対の短辺モールド銅板を配置して連続鋳造用鋳型を製造することによって、内面の銅板の摩耗や腐食損耗の少ない連続鋳造用鋳型が得られ、長期間の使用を可能にし、コスト低減を達成できる。
【0033】
【実施例】
次に、実用確認試験結果について表1〜表5を参照して説明する。
【0034】
【表1】
Figure 0003847511
【0035】
(実施例1)
表1は、ニッケル含有率5重量%のコバルト−ニッケルめっきを施して使用した連続鋳造用鋳型(従来例)と、タングステンを38重量%含有するニッケル系、コバルト系、ニッケル−コバルト系(ニッケルとコバルトの組成比は3:7)の各合金めっきを、上端で0.3mm、下端で0.7mmとなるように傾斜状にそれぞれ形成させた連続鋳造用鋳型(本実施例)を使用した場合の耐用回数(モールド寿命)を示したものである。
従来例では、平均2200〜2800チャージの耐用回数が、本実施例の連続鋳造用鋳型では、ニッケル系合金めっきの場合で3300、コバルト系合金めっきの場合で3000、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合で3100チャージの連続使用に耐えた。
【0036】
【表2】
Figure 0003847511
【0037】
(実施例2)
表2は、ニッケル含有率5重量%のコバルト−ニッケルめっきを施して使用した連続鋳造用鋳型(従来例)と、0.2mmのニッケルめっき上にタングステンを38重量%含有するニッケル系、コバルト系、ニッケル−コバルト系(ニッケルとコバルトの組成比は3:7)の各合金めっきを、上端で0.3mm、下端で0.7mmの厚みとなるように傾斜状にそれぞれ形成させた連続鋳造用鋳型(本実施例)を使用した場合の耐用回数を示したものである。
従来例では、平均2200〜2800チャージの耐用回数が、本実施例の連続鋳造用鋳型ではニッケル系合金めっきの場合で3700、コバルト系合金めっきの場合で3200、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合で3300チャージの連続使用に耐えた。
【0038】
【表3】
Figure 0003847511
【0039】
(実施例3)
表3は、ニッケル含有率5重量%のコバルト−ニッケルめっきを施して使用した連続鋳造用鋳型(従来例)と、タングステンを38重量%含有するニッケル系、コバルト系、ニッケル−コバルト系(ニッケルとコバルトの組成比は3:7)の各合金めっきを、上部で0.3mm、下部で0.7mmの厚みとなるように部分等厚状にそれぞれ形成させた連続鋳造用鋳型(本実施例)を使用した場合のそれぞれの耐用回数を示したものである。
従来例では、平均2200〜2800チャージの耐用回数が、本実施例の連続鋳造用鋳型ではニッケル系合金めっきの場合で3500、コバルト系合金めっきの場合で3100、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合で3200チャージの連続使用に耐えた。
【0040】
【表4】
Figure 0003847511
【0041】
(実施例4)
表4は、ニッケル含有率5重量%のコバルト−ニッケルめっきを施して使用した連続鋳造用鋳型(従来例)と、上部に厚さ0.3mmのニッケルめっきを施し、下部にはタングステン含有率38重量%のニッケル系合金めっき、コバルト系合金めっき、ニッケル−コバルト系合金めっき(ニッケルとコバルトの組成比は3:7)の各合金めっきを厚さ0.7mmとなるように部分等厚状にそれぞれ形成させた連続鋳造用鋳型(本実施例)を使用した場合の耐用回数を示したものである。
従来例では、平均2200〜2800チャージの耐用回数が、本実施例の連続鋳造用鋳型ではニッケル系合金めっきの場合で3100、コバルト系合金めっきの場合で2900、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合で3000チャージの連続使用に耐えた。
【0042】
【表5】
Figure 0003847511
【0043】
(実施例5)
表5は、ニッケル含有率5重量%のコバルト−ニッケルめっきを施して使用した連続鋳造用鋳型(従来例)と、上部に厚さ0.3mmのニッケルめっきを形成し、下部には厚さ0.3mmのニッケルめっき上にタングステン含有率38重量%のニッケル系合金めっき、コバルト系合金めっき、ニッケル−コバルト系合金めっき(ニッケルとコバルトの組成比は3:7)の各合金めっきを厚さ0.7mmとなるように部分等厚状にそれぞれ形成させた連続鋳造用鋳型(本実施例)を使用した場合の耐用回数を示したものである。
従来例では、平均2200〜2800チャージの耐用回数が、本実施例の連続鋳造用鋳型ではニッケル系合金めっきの場合で3200、コバルト系合金めっきの場合で3000、ニッケル−コバルト系合金めっきの場合で3100チャージの連続使用に耐えた。
【0044】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、例えば、タングステンを含有するニッケル系、コバルト系、及びニッケル−コバルト系の各合金めっき皮膜を長辺モールド銅板に施工することを述べたが、これらの合金めっきを短辺モールド銅板に施工することもできる。また、長辺モールド銅板及び短辺モールド銅板に同様の施工を行うこともできる。あるいは、長辺モールド銅板と短辺モールド銅板にそれぞれ施工するタングステンを含有する合金めっきの種類を変えることも可能である。また、タングステン含有の各合金めっきに使用するめっき浴において、ニッケルとコバルトについてはスルファミン酸塩浴の代わりに、硫酸ニッケル、硫酸コバルトからなる硫酸塩浴を用いることもできる。また、タングステンについてはパラタングステン酸アンモンの代わりに、タングステン酸、タングステン酸ナトリウムも使用することができる。塩浴中のニッケル、コバルト、タングステンの合計の濃度を0.3mol/リットルとしたが、0.3mol/リットルに限定する必要はない。また、クエン酸濃度も0.3mol/リットルに調整したが、タングステン濃度に応じて変化させてもよい。めっき浴内の陽極には、白金の代わりにニッケル、コバルトを使用することもできる。
【0045】
【発明の効果】
請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、長辺モールド銅板及び/又は短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを30〜50重量%含有するコバルト−タングステン合金めっきが形成されているので、請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、長辺モールド銅板及び/又は短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを20〜50重量%含有するニッケル−コバルト−タングステン合金めっきが形成されているので、凝固鋳片との摩耗、及び冷却水スプレーによる腐食環境下においても、モールドの銅板の摩耗及び腐食損耗が少なく、鋳片と焼きつきの生じない連続鋳造用鋳型を提供することができる。
【0046】
更に、請求項1〜記載の連続鋳造用鋳型においては、各合金めっき皮膜の表面のタングステンは、実機で使用中に徐々に酸化されてタングステン酸化物となり昇華していくために、各合金めっき皮膜はセルフクリーニング性を有して、鋳片焼きつきの発生を更に防止することができる。また、各合金めっき皮膜には硼素、珪素等のスラグ形成成分が含まれないので、この点からも鋳片の焼きつき発生を低下させることができる。更に、合金めっき皮膜形成には高温熱処理を必要としないため、連続鋳造用鋳型の製造コストが安く、大型の鋳型への適用も容易となる。特に、請求項記載の連続鋳造用鋳型においては、長辺モールド銅板及び/又は短辺モールド銅板には、傾斜めっき又は部分等厚めっきを形成することによって、モールド銅板の損耗量を均一にできて、耐用回数が向上すると共に、モールドの補修も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型に傾斜めっきを施工する場合の施工要領図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型に傾斜めっきを施工する場合の施工要領図である。
【図3】本発明の第3の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型に部分等厚めっきを施工する場合の施工要領図である。
【図4】本発明の第4の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型に部分等厚めっきを施工する場合の施工要領図である。
【図5】本発明の第5の実施の形態に係る連続鋳造用鋳型に部分等厚めっきを施工する場合の施工要領図である。
【図6】冷却水スプレーを備えた連続鋳造用鋳型の斜視図である。
【図7】(A)、(B)はそれぞれ使用後の連続鋳造用鋳型の弱い腐食摩耗痕跡、強い腐食摩耗痕跡の説明図である。
【図8】タングステン含有の各合金めっき皮膜中のタングステン含有率と摩耗量の関係を示すグラフである。
【図9】タングステン含有の各合金めっき皮膜中のタングステン含有率とビッカース硬度の関係を示すグラフである。
【図10】タングステン含有の各合金めっき皮膜中のタングステン含有率と摩擦係数の関係を示すグラフである。
【図11】硫酸溶液にタングステン含有の各合金めっきを浸漬したの溶出速度とタングステン含有率との関係を示すグラフである。
【図12】硝酸溶液にタングステン含有の各合金めっきを浸漬したの溶出速度とタングステン含有率との関係を示すグラフである。
【図13】タングステン含有ニッケル系合金めっきをフッ酸溶液に浸漬したときのニッケルとタングステンの溶出速度とタングステン含有率との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
10:タングステン含有合金めっき、11:連続鋳造用鋳型、12:弱い腐食摩耗痕跡、13:強い腐食摩耗痕跡、14:冷却水スプレー、15:鋳片、16:長辺モールド水箱、17:長辺モールド銅板、18:めっき皮膜、19:短辺モールド水箱、20:短辺モールド銅板

Claims (3)

  1. 1対の平行に配置された長辺モールド銅板とその間に平行に配置された1対の短辺モールド銅板を備えた連続鋳造用鋳型において、
    前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを30〜50重量%含有するコバルト−タングステン合金めっきが形成されていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
  2. 1対の平行に配置された長辺モールド銅板とその間に平行に配置された1対の短辺モールド銅板を備えた連続鋳造用鋳型において、
    前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板の内側下部あるいは内側全面に、タングステンを20〜50重量%含有するニッケル−コバルト−タングステン合金めっきが形成されていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
  3. 請求項1及び2のいずれか1項に記載の連続鋳造用鋳型において、前記長辺モールド銅板及び/又は前記短辺モールド銅板には、傾斜めっき又は部分等厚めっきが形成されていることを特徴とする連続鋳造用鋳型。
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