JP4097737B2 - 鼻口腔用抗炎症散布剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鼻口腔用抗炎症散布剤に関するものであり、さらに詳しくは、鼻腔粘膜及び口腔粘膜に投与され、花粉症や口内炎等の鼻腔及び口腔内の各種炎症症状に対して効果的な抗炎症作用を有する鼻口腔用抗炎症散布剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、鼻腔及び口腔内投与を目的とした製剤としては、軟膏、ゼリー、点鼻液剤、噴霧剤が知られている。
しかし、軟膏やゼリーは、上甲介のような鼻腔の奥深い部分に塗布することは困難であり、効果を十分に発現させることが困難である。また、点鼻薬、従来のスプレーは、その中に含まれる活性医薬を鼻腔内に長時間保持するのは困難である。
鼻腔及び口腔領域に投与される抗炎症剤としては、例えば、鼻腔用ではプロピオン酸ベクロメタゾン製剤(商品名:リノコート,帝人株式会社製)が知られている。しかし、これらの薬剤は鼻腔と口腔に共通して使用できるものではなく、それぞれの投与部位により異なった薬剤を使用しなければならず、使い分けに不便である。また、薬効成分がステロイド剤であり、取り扱いには注意を要するため、安心して使えるものではなく、改良が求められている。
一方、キチン又はその誘導体の粉末を鼻孔粘膜に塗布して使用する方法が、特表平7−507303号公報に記載されている。しかし、該公報ではキチンは医薬の担体としての役割を果たすのみであり、かつ担体の少なくとも10%は非イオン系セルロースエーテル誘導体であり、キチン単独で鼻粘膜に良好な付着性を示し、粘膜の炎症を防ぐというものではなく、したがって、キチン単独で、他の薬剤を含有させなくても同等の効果が得られるというものではない。
また、特開昭58−135805号公報には、アレルギー性鼻炎の治療や予防に有効な、薬物を含まない、粉末状鼻腔粘膜被覆保護剤が記載されている。
しかし、上記保護剤は、匂い及び刺激に敏感な鼻粘膜への投与に対し、匂い及び刺激を実質的に持たない、鼻粘膜上で水分を吸収して鼻粘膜上を次第に流動する流動体を形成するというものであり、発明の効果も、鼻腔内粘膜を被覆保護することによりある程度の効果があると記載されているのみである。さらに、実施例において記載されている効果も格別のものではない。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、鼻腔及び咽喉内の粘膜を保護するのみでなく、粘膜上の各種炎症に対して優れた抑制効果及び治療効果を示す鼻口腔用抗炎症散布剤を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、キチンからなる鼻口腔用抗炎症散布剤が、鼻腔及び口腔内の各種炎症症状に対して効果的であることを見いだし、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は、キチンを溶剤に溶解させたドープから成形されたキチン成形体を粉砕して得られる、脱アセチル化度が10%以下であるキチンの粉末を有効成分とする鼻口腔用抗炎症散布剤を要旨とするものである。
【0005】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるキチンとは、甲殻類又は甲虫類等の外骨格や、イカの軟甲等を塩酸ならびにカ性ソーダで処理し、脱石灰及び脱蛋白することにより得られるポリ−N−アセチル−D−グルコサミン及びポリ−N−アセチル−D−グルコサミンのアセチル基が一部脱離している脱アセチル化キチンをいう。
【0006】
キチンが炎症抑制作用を有することはよく知られており、本発明者等は既にキチンを不織布状に加工した創傷被覆保護材(商品名:ベスキチンW,ユニチカ株式会社製)を開発しており、熱傷や採皮創等の皮膚欠損創の治療に広く用いられている。ベスキチンWの症例報告では、その特徴として疼痛の緩和、密着性の良さ、表皮形成の良さ、良質な肉芽の形成等が挙げられているが、その中に炎症細胞の誘導が少ないという結果やベスキチンWを被覆した創ではキチンの抗炎症効果により、炎症の鎮静化が観察されることが報告されている(新薬と臨牀,第41巻8号,1991年、他)。
【0007】
本発明におけるキチンの脱アセチル化度は10%以下であり、最も好ましくは5%以下である。
キチンのアセチル基が一部脱離している場合にはキチンのアミノ基をアセチル化することにより脱アセチル化度を低くすることが可能である。アセチル化は、例えば、苛性ソーダ60gを溶解させたメタノール11.25Lにキチン1kgと無水酢酸1kgを入れ、60℃で約2時間反応させることにより実施できる。アセチル化したキチンは水に分散し、希苛性ソーダで中和濾過し、水道水及びイオン交換水で洗浄後、十分加圧脱水した後、風乾すればよい。
この反応は、後に述べる各種形状の成形体の作製前でも作製後でも適当な工程で行うことができる。
【0008】
ここで、脱アセチル化度とは以下に示す方法で測定した値をいう。
試料約2gを2N−塩酸水溶液 200ml中に投入し、室温で30分間撹拌する。次にガラスフィルターで濾過し、塩酸水溶液を除去した後、 200mlのメタノール中に投入して30分間撹拌し、ガラスフィルターで濾過後、フレッシュなメタノール 200ml中に投入し、30分間撹拌する。このメタノールによる洗浄操作を4回繰り返した後、風乾及び真空乾燥する。乾燥後、約 0.2gを精秤し、 100mlの三角フラスコに取り、イオン交換水40mlを加えて30分間撹拌する。次いで、この溶液をフェノールフタレインを指示薬として 0.1N−カ性ソーダ水溶液で中和滴定する。脱アセチル化度(A)は次式によって求められる。
【0009】
A(%)=〔(2.03×f×b×10-2)/(a+0.055 ×f×b×10-2)〕×100
【0010】
ただし、aは試料の重量(g) 、fは 0.1N−カ性ソーダ水溶液の力価、bは 0.1N−カ性ソーダ水溶液の滴定量(ml)である。
【0011】
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤に用いるキチンの形状としては、鼻口腔内への分散性及び鼻口腔粘膜への付着性の点から粉末である必要がある。
また、粉末の有効粒子径が20〜250μmの粘度分布を持つものは、例えば、鼻孔を通して鼻腔内に投与されたとき、鼻粘膜に付着する割合が大きく、特に下鼻甲介、鼻中隔および下鼻道によく付着するので、特に好ましい。
【0012】
有効粒子径約20μmより小さな粒子が約10重量%より多い量を占めるものでは、肺まで到達したり、噴霧した際に鼻孔外へ散逸したりするものが多くなることがあり、一方有効粒子径約 250μmを超える粒子が約10重量%より多い量を占めるものでは、鼻粘膜上に付着しても粘膜から水分を吸収する際に粘膜から離れやすくなることがある。
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤としては、約90重量%以上の粒子が有効粒子径約30〜約 150μmの間にあるものが特に好ましい。
【0013】
本発明に用いるキチンの粉末は、キチンを他の形状のキチン成形体に一度成形した後、該キチン成形体を粉末にしたものである
他の形状のキチン成形体から粉末を得る場合、原料となるキチン成形体の形状は、繊維、フィブリル、スポンジ、顆粒等いかなるものでもよい。
これらの成形体から粉末を成形するには、キチンを溶剤に溶解してドープとなし、一度所要の成形体にした後、成形体を粉砕すればよい。このような工程をとることにより、微細で多孔性の成形体を作製することができる。これは、キチンが溶剤を包含したまま繊維、フィブリル、スポンジ、顆粒等に成形され、次いで凝固液により溶剤が流出する際に生じた微孔が成形体に残存するためである。上記方法で作製されたキチン粉末は、水分等の吸収性が極めて良好である。
【0014】
以下、各形状ごとにキチン成形体を成形する方法を説明する。
キチン繊維は、例えば、キチンを溶剤に溶かしてドープとなし、ドープを紡糸し、凝固液により溶剤を脱離させることによって成形することができる。ドープ作製に使用する溶剤として、キチン又はキチン誘導体の脱アセチル化度が低い場合には、トリクロロ酢酸とハロゲン化炭化水素との混合溶液やジメチルアセトアミド又はN−メチルピロリドンと塩化リチウムとの混合溶液が用いられ、キチン又はキチン誘導体の脱アセチル化度が高い場合には、酢酸等の希酸の水溶液が用いられる。
ドープからキチン繊維を成形するためには、例えば、ドープをステンレスネットで濾過し、未溶解分や異物を除いた後、ギヤーポンプ等で輸送、計量し、所要のノズルから水、メタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等からなる凝固液中に押し出し、凝固させればよい。凝固した糸条は、例えば、回転ローラ等で2〜50m/min 程度の速度で引き取り、ワインダー等によって巻き取り、さらに洗浄を行なって糸条中に含まれる溶剤を十分に除去し、乾燥すればよい。
得られた繊維を粉砕機等で粉砕することにより粉末を成形することができる。
【0015】
キチンのフィブリルを成形するには、キチン溶液と水を高速で撹拌混合し、凝固洗浄すればよい。この際、凝固液として働く水の温度が高いほど大きなフィブリルが作製でき、低いほど凝固時間が長くなり、細片で均一な大きさのフィブリルが成形できる。混合する際、例えば、日本精機社製のマルチブレンダーミルBL4型等を用いればよい。また、混合速度は、300rpm以上が好ましい。
キチン溶液と水の混合比はキチン溶液1に対して水が 0.5〜2、より好ましくは1〜1.5 である。洗浄には濾過又は遠心分離、温水又は煮沸の1つ以上を組み合わせて行うことができる。
得られたフィブリルを粉砕機等で粉砕することにより粉末を成形することができる。
【0016】
キチンのスポンジを成形するには、キチンドープと、好ましくは粉末状の水溶性高分子を混合し、水溶性高分子をキチンドープ中に分散して凝固した後、得られた成形体から水溶性高分子を除去することにより成形できる。
水溶性高分子とは、常温で固体であって、水に溶解可能な天然高分子又は合成高分子のことをいい、本発明では、例えば、ポリビニルアルコール、寒天が好ましく用いられる。ポリビニルアルコールとしては、低温又は高温の水に溶解可能であるけん化度が60モル%以上で、重合度が50〜20,000のものが好ましく用いられるが、さらには高温、例えば、60℃以上の水に溶解可能で、けん化度が95モル%以上のものが好ましく用いられる。寒天とは、テングサ等紅藻類中に細胞膜成分として存在する粘質物又はそれを凍結乾燥したもの、及びそれから分離したアガロース、アガロペクチン及びその誘導体を意味する。ポリプロピレングリコールやポリエチレングリコールとしては、分子量が1000以上のものが好ましく用いられる。
キチンドープと水溶性高分子の混合割合は重量比でキチンドープ/水溶性高分子=1/5〜5/1の範囲が好ましい。水溶性高分子を含むキチンドープの凝固液としては、キチン繊維を成形したときと同様の液体を用いることができる。
上記のようにして得られたキチンスポンジを洗浄し、スポンジ中に含まれる溶剤を十分に除去した後、乾燥すればよい。
得られたスポンジを粉砕機等で粉砕することにより粉末を成形することができる。
【0017】
キチンの顆粒は、キチンドープを凝固浴中に滴下し凝固させることにより成形できる。ここにいう顆粒とは、球状、米粒状、円筒状、扁平な球状、その他不定形等の形状を意味する。滴下とは、キチンドープがノズルあるいはチューブ等の先端から押し出され一滴ずつ不連続に凝固浴中に落下することを意味する。キチンドープの凝固液としては、キチン繊維を成形したときと同様の液体を用いることができる。また、顆粒の大きさはドープの液滴の大きさにより規定される。すなわち、ドープを吐出するノズルの径及びドープの粘度により成形される顆粒の大きさをコントロールすることができる。
上記のようにして得られたキチン顆粒を洗浄し、顆粒中に含まれる溶剤を十分に除去した後、乾燥すればよい。
得られた顆粒を粉砕機等で粉砕することにより粉末を成形することができる。
【0018】
上記のごとく得られた粉末は、ドープを凝固浴にて凝固させる工程において、各成形体から溶剤が脱離した際に生じた微孔が残存し、キチンが親水性であるという性質と相まって、鼻腔及び口腔粘膜へ投与した際、粘膜上で水分を吸収しやすく、早期にかつ強固に付着することができるので、成形体を成形せず原料キチンを直接粉砕することにより成形した粉末と比較して、付着性の点で優れている。その結果、キチンの抗炎症効果による炎症反応の抑制とともに、粘膜への抗原の接触も阻害することができるので、特に好ましい。
【0019】
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は、キチン以外に、製剤の物性・外観やにおいを改良する等のために、必要に応じて、公知の滑沢剤、結合剤、希釈剤、着色剤、矯臭剤、保存剤、界面活性剤等の1種または2種以上を含んでいても良い。
滑沢剤としては、例えば、タルク、ステアリン酸及びその塩、ワックス類等が挙げられる。
結合剤としては、例えば、デンプン、デキストリン、トラガント、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
希釈剤としては、例えば、デンプン、結晶セルロース、デキストリン、乳精、マンニトール、ソルビトール、無水リン酸カルシウム等が挙げられる。
矯臭剤としては、例えば、メントール、柑橘香料等が挙げられる。
これらは、通常全重量当たり最大限約10重量%まで含有させることができる。
【0020】
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤の投与方法としては、種々の方法が挙げられる。例えば、日本薬局方に収載のカプセル(ゼラチン製の硬カプセル)等の容器に散布剤を充填し、カプセル内の散布剤を噴霧器により鼻腔内に散布投与するという公知方法が挙げられる。この方法は、例えば、キチンの粉末40mgを、日本薬局方に収載のカプセル(大きさ:カプセル番号3,基剤:ゼラチン)に充填し、このカプセルを鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットすればよい。鼻腔用噴霧器は、空気を送るためのゴム球と散布剤を噴霧するためのノズルのついたスプレー用具と、カプセルに穴を開けるための針の付いたキャップからなる。上記カプセルをスプレー用具にセットした後、針(直径 0.8mm)の付いたキャップをかぶせることにより、針がカプセルを貫通し、カプセルの両端に孔を開けることができる。キャップをはずし、鼻腔用噴霧器の先端を鼻腔内に挿入し、次いでゴム球を押して空気を送れば、スプレー用具のノズル先端からキチンの粉末を噴出することができる。
上記方法で投与すると、外部への飛散が少なく、鼻内炎症部位に確実に一様に投与することができる。
【0021】
また、本発明の散布剤は、液体に分散させて点鼻液や噴霧剤として投与したり、気体と共にスプレー管に封入して噴霧剤として投与することが可能である。
液体に分散させる場合は、例えば、水、エチルアルコール等に分散させればよい。また、気体と共にスプレー缶に封入する場合は、噴射剤として、例えば、空気、炭酸ガス等を用いればよい。
液体に分散させて投与する場合、従来の点鼻液剤と異なり、有効成分が液体に溶解していないため、過剰量の投与となりにくい。また、散布剤が粘膜に付着しやすい状態で存在しているので、鼻口腔粘膜に長時間付着させることができ、効果を長時間持続させることが可能である。
【0022】
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は花粉症、アレルギー性鼻炎、口内炎等の鼻科、咽喉科、口腔外科領域の疾患に伴う炎症部位に用いることが可能である。本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤を上記の炎症部位に散布すると、キチンの有する抗炎症作用と、粉末形状のキチンによる粘膜の被覆との相乗効果により、粘膜の誘導が効果的に行なわれ、また厚く形成された粘膜が炎症の治癒に良好な環境を生成し、炎症を治癒する。
【0023】
また、本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は、経鼻粘膜的に感作されるアレルギー症状の発症の予防に用いることもできる。例えば、花粉症は、花粉により感作された人間の体内に抗体が産生され、再び花粉を吸入した際に抗体が急激に、かつ多量に産生され、結果として炎症反応が発生することにより生じる疾患である。くしゃみ、鼻水、目のかゆみ等が主な症状である。
この感作は生後から学童期にかけて成立するといわれている。この年代の間、花粉の飛散期に本剤を用いて鼻腔粘膜を被覆し、花粉の鼻腔への付着を防止し、花粉による感作を抑えることにより、将来花粉症を発症する可能性を減少させることができる。
【0024】
本発明では、キチンを粘膜に適用するものであるが、既に上市されているキチンからなるスポンジ(商品名:ベスキチンF,ユニチカ株式会社製)は、鼻内手術後等の粘膜欠損部に対し、止血や治癒促進の目的で充填貼付して使用されている。キチンは生体分解性であり、粘膜との接触面において常に表層から分解更新され、粘膜と癒着することがないので、適用3〜4日後、キチンからなるスポンジの抜去時に患者の痛みがほとんどなく、高い評価を得て使用されている。また、一般的にタンパク質等と比較して、糖類の一種であるキチンは、抗原性も低いと考えられ、実際、後述するように、動物を用いた皮内反応試験により、生体に対する刺激性がほとんどないことが確認されている。これらのことから、キチンの粘膜への適用の際の安全性が示唆される。
【0025】
【実施例】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
【0026】
実施例1
キチン粉末(三栄工業株式会社製)をジメチルアセトアミドと塩化リチウムよりなる溶媒に溶解し、キチン濃度8重量%の溶液を得た。得られた溶液を1400メッシュのステンレスネットで濾過し、放置脱泡のうえタンクに入れ、加圧下でギヤーポンプにて輸送し、1000ホールのノズル(直径0.04mm)から70℃の熱水中に吐出して湿式紡糸を実施した。得られた糸条を水で洗浄後、乾燥することにより 0.8単糸デニールの繊維を得た。得られた繊維を洗浄、乾燥し、長さ5mmに細断した後、ボールミルにより粉砕してキチンの粉末を得た。得られたキチン粉末をメッシュで分級して直径が45〜 120μmである粉末状の鼻口腔用抗炎症散布剤を得た。このキチン粉末の脱アセチル化度は4%であった。
【0027】
100mlのエタノールに食用青色色素(食用青色1号)0.05gを溶解した液体に上記キチン粉末を浸漬し、乾燥することを繰り返し、キチン粉末を着色した。着色した粉末を色素が脱離しなくなるまでエタノールで洗浄した後、乾燥し、食用青色色素を含有するキチン粉末を得た。
【0028】
得られたキチン粉末30mgをゼラチン製の硬カプセルに充填し、鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットし、被験者の下鼻甲介の下部に直接投与し、投与後時間を追って、噴霧された散布剤の状態変化を内視鏡により観察した。
その結果、 2.5時間後までは鼻腔粘膜を被覆し、3時間後から徐々に深部に流れていく様子が観察された。 4.5時間経過後、キチン粉末は下鼻甲介下部先端には存在していなかった。
【0029】
〔発熱性物質試験〕
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤の発熱性の有無を試験するため、以下の方法で発熱性物質試験を行なった。
実施例1の方法で得た直径が45〜 120μmのキチン粉末12gに日本薬局方に収載の生理食塩水(大塚製薬)120ml を加え、室温で72時間放置して抽出液を得た。抽出液を 0.8μmのフィルターで濾過後、37℃に加温したものを試験液とした。
日本白色種ウサギの雄について、1時間間隔で3回体温を測定し、体温の変動の少ない検体3羽を試験に使用した。投与前の体温を対照体温として、対照体温測定後15分以内に、ウサギの体重1kg当たり10ml相当量の試験液を耳静脈より投与し、1時間ごとに3時間後までの体温の変化を観察した。その値と対照体温との差の最大値をその試験動物の体温上昇とした。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】
Figure 0004097737
【0031】
以上の結果より、注射後の体温上昇が発熱性物質陽性又は再試験の基準となる 0.6℃以上の試験動物がいなかったため、本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は発熱性物質陰性と判定された。
【0032】
〔刺激性試験〕
実施例1の方法で得られた散布剤の鼻粘膜に対する刺激性試験を鼻腔内連続投与により実施した。すなわち、鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にエッペンドルフピペット用チップを装着し、投与時に固定器に固定したウサギの左側鼻腔に噴霧した。噴霧量は1回につき8mg/kg で、1日2回の投与を30日間連続して行った。その結果、実施例1の散布剤を投与した鼻腔では鼻粘膜は影響を受けず、かつ体重増加抑制や副腎重量の減少はみられなかった。
一方、検体体重1kg当たりベクロメタゾンジプロピオネート5μgとヒドロキシプロピルセルロース8mgの混合粉剤をウサギの右側鼻腔内に1日2回、30日間連続して投与した。その結果、鼻粘膜に影響はみられなかったが、ステロイド剤によると思われる軽度の体重増加抑制並びに副腎重量の軽度の減少が認められた。
【0033】
実施例2
両鼻腔に花粉アレルギーを有する雑種成犬(体重5kg)の左鼻腔に実施例1で得られた散布剤を散布した。右鼻腔には処置を行わなかった。その結果、本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤を散布した方の左鼻腔では炎症の鎮静化がみられたが、右鼻腔では炎症の鎮静化がみられなかった。
【0034】
実施例3
キチン粉末(三栄工業株式会社製)をジメチルアセトアミドと塩化リチウムよりなる溶媒に溶解し、キチン濃度8重量%の溶液を得た。得られた溶液を1400メッシュのステンレスネットで濾過してキチンドープを得た。このキチンドープ 100gにポリビニルアルコール顆粒(ユニチカケミカル株式会社製, UMR-10M)50gを加えて十分に混合し、ガラス板上に流延した。2時間放置し、流延物がある程度平坦化したところでガラス板と共に沸騰水に入れ、キチンドープを硬化させると共にポリビニルアルコールを溶解除去した。得られたスポンジを蒸留水で十分に洗浄した後、凍結乾燥し、ミキサーである程度細かくした後、ボールミルを用いてさらに細粉化し、キチンの微粉末を作製した。得られた粉末の直径を万能投影機(株式会社ニコン製,PROFILE PROJECTOR V-12,測定倍率 200倍)によりサンプル数 100個で測定したところ、粒径の平均及び標準偏差は各々 115μm、27.8μmであった。また、この粉末を構成するキチン繊維の脱アセチル化度は7%であった。
【0035】
このようにして得られた鼻口腔用抗炎症散布剤の効果を以下に示す実験により確かめた。
アレルギー性鼻炎を有する体重 8.3kgの雑種成犬の鼻内に本剤を散布した。鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にエッペンドルフピペット用チップを装着し、投与時に固定器に固定した雑種成犬の左側鼻腔に噴霧した。右側鼻腔は処置を行わなかった。その結果、本発明の散布剤を投与した鼻では炎症が鎮静化していたのに対し、本剤を用いなかった鼻の内部を内視鏡で観察したところ、炎症が続いていた。
【0036】
〔皮内反応試験〕
実施例3で得られたキチンの粉末 1.5gに生理食塩水 150mlを加え、85℃で1時間抽出し、室温になるまで放置した。この抽出液を日本産白色種雄ウサギ2匹に皮内注射し、皮内反応試験を行なったところ、紅斑、浮腫、出血、壊死は認められず陰性と判定され、安全性が確認された。
【0037】
実施例4
花粉症を発症している志願患者15名に対して、臨床試験を行なった。実施例3の方法で得られたキチンの粉末30mgを日本薬局方に収載のカプセル(大きさ:カプセル番号3,基剤:ゼラチン)に入れ、鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットし、起床時と就寝時に各1カプセル、連続1週間の投与を行なった。くしゃみ、鼻汁、鼻閉感の改善度を観察し、著明改善、改善、やや改善、不変、悪化に分けて判定したところ、著明改善と改善が合わせて60%、やや改善以上が80%となり、副作用もなく、本剤が鼻腔粘膜被覆保護剤として有効であることが臨床的に示された。
【0038】
実施例5
キチン粉末(三栄工業株式会社製)をジメチルアセトアミドと塩化リチウムよりなる溶媒に溶解し、キチン濃度8重量%の溶液を得た。得られた溶液を1400メッシュのステンレスネットで濾過した。キチン溶液 1.5Lと水 2.0LをマルチブレンダーミルBL4型(日本精機社製)に入れ、25℃、4000rpm で撹拌混合し、凝固洗浄することによりキチンのフィブリルを得た。得られたキチンのフィブリルを実施例1及び実施例3と同様にボールミルにより微粉末化し、鼻口腔用抗炎症散布剤を得た。
【0039】
得られた鼻口腔用抗炎症散布剤をアレルギー性鼻炎を有する体重 5.8kgの雑種成犬の鼻内に散布した。その結果、本発明の散布剤を投与した鼻では炎症が鎮静化していたのに対し、本剤を用いなかった鼻の内部を内視鏡で観察したところ、炎症が続いていた。
【0040】
実施例6
実施例5で得られたキチン粉末を用いて、鼻腔内に投与したときの官能的な性質を明らかにするため以下の試験を行なった。
90%以上の粒子が 20 〜 200μmの有効粒子経を有するキチン粉末40mgをとり、日本薬局方に収載のカプセル(大きさ:カプセル番号3,基剤:ゼラチン)に充填し、このカプセルを鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットした。セットされたカプセルに直径 0.8mmの針を貫通させてカプセルの両端に孔を開け、次いでゴム球を押して空気を送り、スプレー用具のノズル先端からキチンの粉末を噴出させた。このノズル先端を10名の花粉症の志願患者の鼻腔に差し込み、左右4回ずつ交互に噴射して40mg(全量)のキチンを鼻腔内に噴射投与し、その匂い、刺激性、粘膜への粘着性及び水分を吸収した後の鼻腔内異物感について官能検査を行なった。
その結果、全員が、本発明の鼻腔内噴射用製剤は匂い及び刺激性がほとんどないため継続使用してもよいと答えた。また、粘膜への粘着性、鼻腔内異物感についても、すべての例において良好で、特に問題はなかった。
上記の結果から、本発明の鼻口腔粘膜用散布剤は、使用感が良好であることが明らかである。
【0041】
実施例7
実施例5で得られたキチン粉末を、以下の方法でヒトの口腔内に投与した。
130 μmの有効粒子経を有するキチン粉末40mgをとり、日本薬局方に収載のカプセル(大きさ:カプセル番号3,基剤:ゼラチン)に充填し、このカプセルを鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットした。セットされたカプセルに直径 0.8mmの針を貫通させてカプセルの両端に孔を開けた。パブライザーのノズル先端を口腔に差し込み、ゴム球を押して空気を送り、スプレー用具のノズル先端からキチンの粉末を噴出することにより、キチンを咽頭の炎症部位に投与した。その結果、咽頭の熱感は軽減した。
【0042】
実施例8
キチン粉末(三栄工業株式会社製)をジメチルアセトアミドと塩化リチウムよりなる溶媒に溶解し、キチン濃度8重量%の溶液を得た。得られた溶液を1400メッシュのステンレスネットで濾過してキチンドープを得た。このドープの25℃における粘度は410cpsであった。
上記キチンドープ 100gを、先端直径が 1.2mmのガラスピペットからメタノール 500mlの凝固浴中に滴下した。凝固浴はマグネティックスターラーで緩やかに撹拌した。ピペット先端から凝固浴までの距離は10cmで、メタノールの温度は20℃であった。凝固浴により凝固したキチン顆粒をそのままさらに約30分間凝固浴中にて撹拌した後、500ml のメタノール中に移して約30分間撹拌し、同様の操作をさらに2回繰り返し、キチン顆粒を得た。
得られたキチン顆粒は完全な球形をしており、直径は約3mmであった。このキチン顆粒を 500ml用ガラスビーカーに入れ、ビーカー上部をナイロンメッシュで覆い、圧搾空気を吹き付けて乾燥した後、さらに約12時間真空乾燥して 750mgの乾燥キチン顆粒を得た。この乾燥キチン顆粒の直径は約 0.6mmであった。これをボールミルに入れて約12時間粉砕し、分級して粒径が 30 〜120 μmのキチン粉末を得た。
【0043】
上記粉末の30mgを日本薬局方に収載のカプセル(大きさ:カプセル番号3,基剤:ゼラチン)に入れ、鼻腔用噴霧器(商品名:パブライザー,株式会社石川製作所製)にセットして直径 0.8mmの穴を開け、空気流によりキチン粉末を散布させた。散布の様子を観察したところ、繊維やスポンジを粉砕したときと同様の様相が見られた。また、鼻粘膜に熱感を有する志願患者3名の鼻腔内に投与したところ、鼻腔粘膜をよく被覆し、炎症の鎮静化がみられた。
【0044】
実施例9
実施例8で得られたキチン粉末 100mgをエチルアルコール10mlに分散した分散液を、容量15mlのポンプ式携帯用噴霧器に入れた。
上記分散液を、鼻腔用抗炎症散布剤として、アレルギー性鼻炎を有する患者の鼻腔内に噴霧したところ、実施例8と同等の効果を得た。
【0045】
実施例10
実施例8で得られたキチン粉末 100mgを炭酸ガスと共に容量30mlのスプレー缶に入れ、口腔用抗炎症散布剤を作製した。
得られた口腔用抗炎症散布剤を扁桃腺に炎症を有する患者の咽頭に向けて噴射投与した。1日2回の投与を2日間続けたところ、徐々に炎症が鎮静化した。
【0046】
【発明の効果】
本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は、花粉症等の各種アレルギー症状における炎症部位に対して優れた炎症鎮静効果及び治療効果を有し、短時間に炎症の鎮静化を行なうことが可能である。
また、本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は、アレルギー性鼻炎等の炎症の予防にも有効である。
さらに、本発明の鼻口腔用抗炎症散布剤は、ステロイド成分を含有していないので、ステロイド剤にみられるような副作用の心配がなく、安全に使用できる。

Claims (2)

  1. キチンを溶剤に溶解させたドープから成形されたキチン成形体を粉砕して得られる、脱アセチル化度が10%以下であるキチンの粉末を有効成分とする鼻口腔用抗炎症散布剤。
  2. キチンを溶剤に溶解させたドープから成形されたキチン成形体が、繊維、フィブリル、スポンジ又は顆粒のいずれかの形状である請求項1記載の鼻口腔用抗炎症散布剤。
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