JP4136465B2 - 潤滑剤組成物、その調製方法および分子錯合体 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械的摩擦摺動部に供給される潤滑剤組成物およびその調製方法の技術分野に属し、より詳細には、極圧下における低摩擦特性および耐摩耗性、ならびにその効果の持続性に優れる潤滑剤組成物およびその調製方法の技術分野に属する。さらに、本発明は、摩擦係数低減剤、極圧剤、および磨耗防止剤として有用な分子錯合体にも関する。
【0002】
【従来の技術】
潤滑剤に求められる性能は、広い温度範囲および広い圧力範囲において、機械的摩擦摺動部の摩擦係数を低下することができ、さらにその効果ができるだけ持続することである。また、潤滑剤には、摩擦摺動部材間の潤滑性を向上させるという効果だけでなく、それによって摩擦摺動部材自体に耐磨耗性が付与できることも望まれる。エンジンオイル等の潤滑油の、摩擦摺動部における摩擦係数の低減効果およびその長寿命化は、機械駆動のための燃費の向上、すなわちエネルギーの節約に直結する。エンジンオイルの長寿命化は、廃オイル量の低減のみならず、CO2排出量の低減をも可能とするので、近年注目されている環境適合性の面でも好ましい。また、産業機械系の摺動部の中でも、特に苛酷な摩擦条件で摺動する軸受やギヤなどでは、従来の潤滑油やグリースなどの潤滑剤を用いた場合、潤滑条件が苛酷になると、潤滑剤が膜切れや焼付けを起こし、摩耗傷のために、所望の低摩擦係数を得られなくなる場合がある。その結果、装置の信頼性を損ねることがあり、特に装置を小型化した場合に、摺動部の摩擦条件が過酷化する傾向になり、装置の小型化の妨げにもなっていた。従って、苛酷な条件においても、摩耗や焼付きを生じず、装置の信頼性を向上させることができ、さらに装置の小型化に寄与することができるような省エネルギーな潤滑剤が望まれている。
【0003】
さらに、近年では、高密度磁気記録媒体の表面、マイクロマシンにおける摺動部および回転部等に供給される潤滑剤については、極少量で前記性能が維持できることが要求される。即ち、潤滑剤には、必要最小限度の量で摩擦面を覆い、摺動面の摩擦係数を低減するとともに、耐磨耗性を向上させ、その効果をできるだけ長く持続できる効果を有するものが望まれている。この要望に応えるには、必然的に、容易に均質かつ平滑な薄膜が形成可能な性質が、潤滑剤に要求される。
【0004】
ところで、従来、潤滑剤としては、一般的には、潤滑剤基油を主成分とし、これに有機化合物等の潤滑助剤を配合したものが用いられる。潤滑助剤の代表的なものとしては、ジオルガノジチオカルバミン酸が挙げられ、その金属塩が潤滑剤用の抗酸化剤や抗磨耗剤や腐食抑制添加剤等の多数の機能を示すことが知られている。例えば、米国特許第4278587号明細書に開示されている亜鉛塩、米国特許第4290202号明細書に開示されているアンチモン塩、米国特許第460438号明細書に開示されているモリブデン塩、および特表平9−508156号公報に開示されている、ニッケル、銅、コバルト、鉄、カドミウム、マンガンなどの金属塩は、苛酷な条件においても、摺動部の低摩擦性および低磨耗性が維持できるという顕著な効果を有している。特に近年では、有機モリブデン化合物が、潤滑助剤として注目されている。有機モリブデン化合物は、機械装置の摺動部が、高温、高速または低速、高負荷、小型軽量化など、苛酷な摩擦条件で運動している場合も、なお耐摩耗性、極圧性(耐荷重性)、低摩擦特性などの性能に優れ、通常圧での流体潤滑条件より高圧下、即ち境界潤滑条件において効果的に潤滑性能を発揮できる素材として注目されている。
【0005】
しかし、この有機モリブデン化合物は単独で使用するより、ジチオリン酸亜鉛との併用での効果が大きいことが知られている。村木正芳らは、トライボロジスト 38巻、10頁(1993年)において、ジチオリン酸亜鉛が摩擦面に薄膜形成されることにより、モリブデンジチオカルバメートまたはモリブデンジチオリン酸がそれに吸着・反応・分解して、硫化モリブデンと酸化モリブデンの混合被膜を形成するという機構を報告している。新井克矢らは、トライボロジスト 44巻、46頁(1999年)において、摩擦摺動面の深さ方向の元素構成をX線光電子分光法(XPS)を用いて行い、表面からモリブデンジチオカルバメートに由来するモリブデン、硫黄、酸素が次第に減少し、逆に鉄元素が増加することを確かめ、摺動面の金属鉄がモリブデンと反応した複合被膜の形成により、低摩擦係数と耐磨耗性が生じていると説明している。また、菊池隆司らは、ジチオリン酸亜鉛以外に、硫化油脂、硫化オレフィンおよび硫化フェネートのような硫黄化合物もモリブデンジチオカルバメートの低摩擦性に相乗効果があると、JSAE Paper 9537538(1995年)で述べている。
【0006】
モリブデンジチオカルバメートは、激しい摩擦条件下でも優れた潤滑効果を奏する、優れた素材ではあるが、潤滑油中にはモリブデンおよび亜鉛といった重金属、容易に酸化されて潤滑油のみならず摺動部材そのもの、さらには環境にも悪影響を及ぼす硫黄酸化物のもととなる硫化物、および河川や海を富栄養化してしまうリン酸がかなり含まれていて、環境適合性の点からは明らかに好ましくない。さらに、摺動面に形成される酸化/硫化モリブデン被膜は、摩擦で徐々に削り取られ、新たな被膜を形成するため、その元となる有機モリブデン化合物や有機亜鉛化合物のいずれかが不足すると急激にその効果を失う。しかし、有機モリブデン化合物および有機亜鉛化合物を増量すると、その皮膜が削られることによって副生される副生物が系内に増え、摺動機械そのものに悪影響を及ぼすため、増量することは有効ではなく、前記有機モリブデン化合物を利用した系では、潤滑剤の長寿命化による燃費改善等の効果はあまり期待できないのが実状である。この様に、従来の潤滑剤は、重金属元素、リン酸化合物および硫化物等の環境有害物質または環境汚染物質を含むことなく、潤滑剤としての優れた性能を示すとともに、その性能を長期的に維持できる材料は、未だに提供されていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記諸問題に鑑みなされたものであって、従来の潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することを課題とする。また、本発明は、摺動面において低摩擦性および耐磨耗性を長期的に維持できる、特に極圧下においても、低摩擦性および耐磨耗性を長期的に維持できる潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することを課題とする。また、本発明は、均質な薄膜を容易に形成可能であり、磁気記録媒体の表面およびマイクロマシン等にも適用可能な潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、環境適合性に乏しい重金属元素、燐酸基および硫化物を排除することにより、長寿命化および環境適合性を両立し得る潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することを課題とする。また、本発明は摩擦係数の低減剤、極圧剤または磨耗防止剤として有用な分子錯合体を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を解決するため鋭意研究した結果、特定のケト−エノール互変異性可能な部分構造を有する化合物を構成要素とする分子錯合体は、優れた潤滑性能を有することを見出し、この知見に基づいて、本発明を完成するに至った。さらに、前記分子錯合体のうち、平面的錯合体を形成可能な官能基の組合せからなる錯合体は、特に優れた潤滑性能を示すことを見出した。
【0009】
即ち、前記課題を解決するため、本発明の潤滑剤組成物は、1種類以上のケト−エノール互変異性可能な化合物の分子間相互作用によって形成された分子錯合体を含有する潤滑剤組成物であって、前記分子錯合体は、下記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、下記一般式(TAM)で表される化合物を除く)の少なくとも1種を構成要素として含むことを特徴とする。
【0010】
【化14】
Figure 0004136465
【0011】
式中、Q11は酸素原子、硫黄原子またはN(R13)を表す。R11〜R13は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R11とR12、およびR11とR13は互いに結合して、環構造を形成していてもよい。
【0012】
【化15】
Figure 0004136465
【0013】
式中、R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表し、x、yおよびzは各々独立に1〜5のいずれかの整数を表す。
【0014】
本発明の潤滑剤組成物において、前記分子錯合体は、その構成要素が幾何学的に相補的な位置関係で分子間相互作用を発現する官能基の組合せを有することにより平面的錯合体を形成可能であるのが好ましい。
【0015】
前記一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(II)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)であるのが好ましい。
【0016】
【化16】
Figure 0004136465
【0017】
式中、Q21およびQ22はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはN(R24)を表す。R21〜R24は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R21とR22、R22とR23およびR21とR24はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0018】
前記一般式(I)で表される化合物は、下記一般式(III)〜(XI)のいずれかで表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)であるのがより好ましい。
【0019】
【化17】
Figure 0004136465
【0020】
式中、R31〜R33は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q31およびQ32は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表す。R31とR32およびR32とR33はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0021】
【化18】
Figure 0004136465
【0022】
式中、R41〜R44は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q41は酸素原子または硫黄原子を表す。R41とR42、R41とR43およびR42とR44はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0023】
【化19】
Figure 0004136465
【0024】
式中、R51〜R54は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R51とR52およびR51とR53はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0025】
【化20】
Figure 0004136465
【0026】
式中、R61〜R63は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q61は酸素原子または硫黄原子を表す。R61とR62は互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0027】
【化21】
Figure 0004136465
【0028】
式中、Q71〜Q73は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表し、Xは−C(=R71)−または−C(R72)(R73)−を表す。R71は置換基を表し、R72およびR73は各々独立に水素原子または置換基を表し、R71〜R73のうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R72とR73は互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0029】
【化22】
Figure 0004136465
【0030】
式中、Q81〜Q83は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R82)を表す。R81およびR82は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q83がN(R82)の場合、R81とR82が互いに結合して環構造を形成してもよい。
【0031】
【化23】
Figure 0004136465
【0032】
式中、Q91およびQ92は、各々独立に、単結合、N(R94)基(R94は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組合せからなる二価の連結基を表す。R91およびR92は各々独立に水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。R93はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。
【0033】
【化24】
Figure 0004136465
【0034】
式中、Q101〜Q103は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R103)を表す。R101〜R103は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。
【0035】
【化25】
Figure 0004136465
【0036】
式中、Q111およびQ112は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R115)を表す。R111〜R115は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R111とR113、R113とR114、R113とR115、R112とR114およびR114とR115はそれぞれ互いに結合して環構造を形成してもよい。
【0037】
本発明の潤滑剤組成物において、前記分子錯合体は前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能なn種類(nは1以上の整数)の化合物A1〜An(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)からなる分子錯合体であるのが好ましい。
【0038】
本発明の好ましい態様として、前記分子錯合体が、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)とともに、下記一般式(XII)で表される化合物の少なくとも1種を含む分子錯合体である上記潤滑剤組成物が提供される。
【0039】
【化26】
Figure 0004136465
【0040】
式中、R121は置換基を表し、Q121およびQ122は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表す。
【0041】
本発明の潤滑剤組成物において、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物は、エノール型となったときにそのpKaが2〜12であるのが好ましい。
【0042】
本発明の潤滑剤組成物において、前記分子錯合体の示差走査熱量測定(DSC)法における熱的相転移温度パターンが、その構成要素の化合物の熱的相転移温度パターンとは互いに異なるのが好ましい。また、本発明の潤滑剤組成物は、見かけ粘度が40℃で1000mPa・s以下でありかつ120℃で20mPa・s以上あるのが好ましい。
【0043】
本発明の潤滑剤組成物には、前記分子錯合体とともに潤滑剤基油を含有する態様、および潤滑剤基油を含有しない態様の双方が含まれる。前者の態様では、潤滑剤基油を50質量%以上含有するのが好ましい。後者の態様では、前記分子錯合体を50質量%以上含有するのが好ましい。
【0044】
また、前記課題を解決するため、本発明の潤滑剤組成物の製造方法は、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)のn種類(nは1以上の整数)を添加し、前記n種類のケト−エノール互変異性可能な化合物を構成要素とする分子錯合体を生成する工程を有することを特徴とする。また、前記課題を解決するため、本発明の潤滑剤組成物は、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)の少なくとも1種と、前記一般式(XII)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物の少なくとも1種とを添加し、双方の化合物を構成要素とする分子錯合体を生成する工程を有することを特徴とする。
【0045】
また別の観点から、本発明によって、1種類以上のケト−エノール互変異性可能な化合物の分子間相互作用によって形成された分子錯合体であって、該分子錯合体が前記一般式(IX)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)を構成要素として含む分子錯合体が提供される。
【0046】
さらに、本発明によって、前記一般式(I)で表される化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)を摺動面に供給し、該摺動面上に前記一般式(I)で表される化合物を少なくとも構成要素として含む分子諾合体を形成する工程を含む、摺動面の摩擦係数の低減方法;および前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)を少なくとも構成要素として含み、1種以上のケト−エノール互変異性可能な化合物の分子間相互作用によって形成された分子錯合体からなる摩擦係数低減剤、極圧剤または磨耗防止剤;が提供される。
【0047】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本発明の潤滑剤組成物は、1種類以上のケト−エノール互変異性可能な化合物の分子間相互作用によって形成された分子錯合体を含有する潤滑剤組成物であって、前記分子錯合体は、下記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、下記一般式(TAM)で表される化合物を除く)の少なくとも1種を構成要素として含むことを特徴とする。
【0048】
【化27】
Figure 0004136465
【0049】
式中、Q11は酸素原子、硫黄原子またはN−R13を表す。R11〜R13は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R11とR12、およびR11とR13は互いに結合して、環構造を形成していてもよい。
【0050】
【化28】
Figure 0004136465
【0051】
式中、R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表し、x、yおよびzは各々独立に1〜5のいずれかの整数を表す。
【0052】
前記一般式(I)および(TAM)中、R11〜R13およびR1〜R3でそれぞれ表される置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基を含む)、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、複素環基、シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、複素環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ、アミノ基(アニリノ基を含む)、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、複素環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基、アルキルおよびアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリールおよび複素環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、シリル基が例として挙げられる。さらに、置換基R11〜R13には、これらの置換基から選ばれる1種類以上の置換基によって置換されたこれらの置換基も含まれる。
【0053】
さらに詳しくは、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、アルキル基〔直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルキル基を表す。アルキル基(好ましくは炭素数1〜30のアルキル基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル、エイコシル、2−クロロエチル、2−シアノエチル、2―エチルヘキシル)、シクロアルキル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換または無置換のシクロアルキル基、例えば、シクロヘキシル、シクロペンチル、4−n−ドデシルシクロヘキシル)、ビシクロアルキル基(好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルキル基、つまり、炭素数5〜30のビシクロアルカンから水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[1,2,2]ヘプタン−2−イル、ビシクロ[2,2,2]オクタン−3−イル)、さらに環構造が多いトリシクロ構造なども包含する。以下に説明する置換基の中のアルキル基(例えばアルキルチオ基のアルキル基)もこのような概念のアルキル基を表す。〕、アルケニル基[直鎖、分岐、環状の置換もしくは無置換のアルケニル基を表す。アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、プレニル、ゲラニル、オレイル)、シクロアルケニル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシクロアルケニル基、つまり、炭素数3〜30のシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、2−シクロペンテン−1−イル、2−シクロヘキセン−1−イル)、ビシクロアルケニル基(置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、好ましくは、炭素数5〜30の置換もしくは無置換のビシクロアルケニル基、つまり二重結合を一個持つビシクロアルケンの水素原子を一個取り去った一価の基である。例えば、ビシクロ[2,2,1]ヘプト−2−エン−1−イル、ビシクロ[2,2,2]オクト−2−エン−4−イル)]、アルキニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキニル基、例えば、エチニル、プロパルギル、トリメチルシリルエチニル基)、
【0054】
アリール基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリール基、例えばフェニル、p−トリル、ナフチル、m−クロロフェニル、o−ヘキサデカノイルアミノフェニル)、複素環基(好ましくは5または6員の置換もしくは無置換の、芳香族もしくは非芳香族の複素環化合物から一個の水素原子を取り除いた一価の基であり、さらに好ましくは、炭素数3〜30の5もしくは6員の芳香族の複素環基である。例えば、2−フリル、2−チエニル、2−ピリミジニル、2−ベンゾチアゾリル)、
【0055】
シアノ基、ヒドロキシル基、ニトロ基、カルボキシル基、アルコキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、t−ブトキシ、n−オクチルオキシ、2−メトキシエトキシ)、アリールオキシ基(好ましくは、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、2−メチルフェノキシ、4−t−ブチルフェノキシ、3−ニトロフェノキシ、2−テトラデカノイルアミノフェノキシ)、シリルオキシ基(好ましくは、炭素数3〜20のシリルオキシ基、例えば、トリメチルシリルオキシ、t−ブチルジメチルシリルオキシ)、複素環オキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換の複素環オキシ基、1−フェニルテトラゾールー5−オキシ、2−テトラヒドロピラニルオキシ)、アシルオキシ基(好ましくはホルミルオキシ基、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルオキシ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルオキシ基、例えば、ホルミルオキシ、アセチルオキシ、ピバロイルオキシ、ステアロイルオキシ、ベンゾイルオキシ、p−メトキシフェニルカルボニルオキシ)、カルバモイルオキシ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイルオキシ基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイルオキシ、N,N−ジエチルカルバモイルオキシ、モルホリノカルボニルオキシ、N,N−ジ−n−オクチルアミノカルボニルオキシ、N−n−オクチルカルバモイルオキシ)、アルコキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルオキシ基、例えばメトキシカルボニルオキシ、エトキシカルボニルオキシ、t−ブトキシカルボニルオキシ、n−オクチルカルボニルオキシ)、アリールオキシカルボニルオキシ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルオキシ基、例えば、フェノキシカルボニルオキシ、p−メトキシフェノキシカルボニルオキシ、p−n−ヘキサデシルオキシフェノキシカルボニルオキシ)、
【0056】
アミノ基(好ましくは、アミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアニリノ基、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、アニリノ、N-メチル−アニリノ、ジフェニルアミノ)、アシルアミノ基(好ましくは、ホルミルアミノ基、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルカルボニルアミノ基、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニルアミノ基、例えば、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ピバロイルアミノ、ラウロイルアミノ、ベンゾイルアミノ、3,4,5−トリ−n−オクチルオキシフェニルカルボニルアミノ)、アミノカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアミノカルボニルアミノ、例えば、カルバモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノカルボニルアミノ、N,N−ジエチルアミノカルボニルアミノ、モルホリノカルボニルアミノ)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニルアミノ基、例えば、メトキシカルボニルアミノ、エトキシカルボニルアミノ、t−ブトキシカルボニルアミノ、n−オクタデシルオキシカルボニルアミノ、N−メチルーメトキシカルボニルアミノ)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニルアミノ基、例えば、フェノキシカルボニルアミノ、p−クロロフェノキシカルボニルアミノ、m−n−オクチルオキシフェノキシカルボニルアミノ)、スルファモイルアミノ基(好ましくは、炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイルアミノ基、例えば、スルファモイルアミノ、N,N−ジメチルアミノスルホニルアミノ、N−n−オクチルアミノスルホニルアミノ)、アルキルおよびアリールスルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルスルホニルアミノ、炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールスルホニルアミノ、例えば、メチルスルホニルアミノ、ブチルスルホニルアミノ、フェニルスルホニルアミノ、2,3,5−トリクロロフェニルスルホニルアミノ、p−メチルフェニルスルホニルアミノ)、
【0057】
メルカプト基、アルキルチオ基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のアルキルチオ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n−ヘキサデシルチオ)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールチオ、例えば、フェニルチオ、p−クロロフェニルチオ、m−メトキシフェニルチオ)、複素環チオ基(好ましくは炭素数2〜30の置換または無置換の複素環チオ基、例えば、2−ベンゾチアゾリルチオ、1−フェニルテトラゾール−5−イルチオ)、
【0058】
スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30の置換もしくは無置換のスルファモイル基、例えば、N−エチルスルファモイル、N−(3−ドデシルオキシプロピル)スルファモイル、N,N−ジメチルスルファモイル、N−アセチルスルファモイル、N−ベンゾイルスルファモイル、N−(N’−フェニルカルバモイル)スルファモイル)、スルホ基、アルキルおよびアリールスルフィニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルフィニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルフィニル基、例えば、メチルスルフィニル、エチルスルフィニル、フェニルスルフィニル、p−メチルフェニルスルフィニル)、アルキルおよびアリールスルホニル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換または無置換のアルキルスルホニル基、6〜30の置換または無置換のアリールスルホニル基、例えば、メチルスルホニル、エチルスルホニル、フェニルスルホニル、p−メチルフェニルスルホニル)、
【0059】
アシル基(好ましくはホルミル基、炭素数2〜30の置換または無置換のアルキルカルボニル基、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールカルボニル基、例えば、アセチル、ピバロイル、2−クロロアセチル、ステアロイル、ベンゾイル、p−n−オクチルオキシフェニルカルボニル)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは、炭素数7〜30の置換もしくは無置換のアリールオキシカルボニル基、例えば、フェノキシカルボニル、o−クロロフェノキシカルボニル、m−ニトロフェノキシカルボニル、p−t−ブチルフェノキシカルボニル)、アルコキシカルボニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換アルコキシカルボニル基、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、n−オクタデシルオキシカルボニル)、カルバモイル基(好ましくは、炭素数1〜30の置換もしくは無置換のカルバモイル、例えば、カルバモイル、N−メチルカルバモイル、N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジ−n−オクチルカルバモイル、N−(メチルスルホニル)カルバモイル)、
【0060】
アリールおよび複素環アゾ基(好ましくは炭素数6〜30の置換もしくは無置換のアリールアゾ基、炭素数3〜30の置換もしくは無置換の複素環アゾ基、例えば、フェニルアゾ、p−クロロフェニルアゾ、5−エチルチオ−1,3,4−チアジアゾール−2−イルアゾ)、イミド基(好ましくは、N−スクシンイミド、N−フタルイミド)、ホスフィノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィノ基、例えば、ジメチルホスフィノ、ジフェニルホスフィノ、メチルフェノキシホスフィノ)、ホスフィニル基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニル基、例えば、ホスフィニル、ジオクチルオキシホスフィニル、ジエトキシホスフィニル)、ホスフィニルオキシ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルオキシ基、例えば、ジフェノキシホスフィニルオキシ、ジオクチルオキシホスフィニルオキシ)、ホスフィニルアミノ基(好ましくは、炭素数2〜30の置換もしくは無置換のホスフィニルアミノ基、例えば、ジメトキシホスフィニルアミノ、ジメチルアミノホスフィニルアミノ)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜30の置換もしくは無置換のシリル基、例えば、トリメチルシリル、t−ブチルジメチルシリル、フェニルジメチルシリル)を表す。
【0061】
上記の置換基中で、水素原子を有するものは、これを取り去りさらに上記の置換基の1種以上で置換されていてもよい。そのような置換基の例としては、アルキルカルボニルアミノスルホニル基、アリールカルボニルアミノスルホニル基、アルキルスルホニルアミノカルボニル基、アリールスルホニルアミノカルボニル基が挙げられる。より具体的には、メチルスルホニルアミノカルボニル、p−メチルフェニルスルホニルアミノカルボニル、アセチルアミノスルホニル、ベンゾイルアミノスルホニル基が挙げられる。
【0062】
但し、置換基R11〜R13のうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。置換基R11〜R13そのものが総炭素数4以上のアルキル基等であってもよいし、総炭素数4以上のアルキル鎖等が前記例示した置換基にさらに置換していてもよい。
前記総炭素数4以上のアルキル鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。前記総炭素数4以上のアルキル鎖を含む置換基としては、好ましくは、n−オクチル基、n−オクチルオキシ基、n−オクチルチオ基、n−オクチルアミノ基、n−ノニル基、n−ノニルオキシ基、n−デシル基、n−デシルオキシ基、n−ウンデシル基、n−ウンデシルオキシ基、n−ドデシル基、n−ドデシルオキシ基、n−ドデシルチオ基、n−ドデシルアミノ基、n−ペンタデシル基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシル基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘキサデシルチオ基、n−ヘキサデシルアミノ基が挙げられる。また、総炭素数4以上の分岐状のアルキル鎖を含む置換基としては、2−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルチオ基、2−エチルヘキシルアミノ基、2−ヘキシルデシル基、2−ヘキシルデシルチオ基、2−ヘキシルデシルアミノ基、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシル基、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシルオキシ基、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシルチオ基、3,7,11,15−テトラメチルヘキサデシルアミノ基が挙げられる。
【0063】
前記オリゴアルキレンオキシ鎖のアルキル部分は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。オリゴアルキレンオキシ鎖を含む置換基としては、ジエチレンオキシ基、トリエチレンオキシ基、テトラエチレンオキシ基、ジプロピレンオキシ基、ヘキシルオキシエチレンオキシエチレンオキシ基が挙げられる。
【0064】
前記総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。分枝鎖状のパーフルオロアルキル鎖を含む置換基としては、好ましくは、ペンタデシルフルオロヘプチル基、ペンタデシルフルオロヘプチルカルボニルオキシ基、ヘプタデシルフルオロオクチル基、ペンタデシルフルオロオクチルスルホニル基が挙げられる。前記パーフルオロアルキルエーテル鎖のアルキル部分は、直鎖状であっても分枝鎖状であってもよい。前記パーフルオロアルキルエーテル鎖を含む置換基としては、イソプロピレンオキシド、メチレンオキサイド、エチレンオキサイドおよびその混合系、ならびにプロピレンオキサイドのアルキル部分がフッ素置換された置換基が挙げられる。
【0065】
前記有機ポリシリル鎖とは、ケイ素原子を含む原子団が長鎖置換基の側鎖に存在しているもの(例えば、ポリ(p−トリメチルシリルスチレン)、ポリ(1−トリメチルシリル−1−プロピン)等)、あるいは長鎖置換基の主鎖中にケイ素原子を含むものである。好ましくは、長鎖置換基の主鎖中にケイ素原子を含むものである。主鎖中にケイ素を含む例としては、下式(s)で示される構造の繰り返し単位を有する直鎖状、分岐鎖状、環状あるいは多環状の長鎖置換基が挙げられる。
【0066】
【化29】
Figure 0004136465
【0067】
式中、Rs1およびRs2は各々独立に置換基を表し、Rs1とRs2は互いに結合して、環構造を形成してもよい。具体的には、前述の一般式(I)中の置換基R11〜R13で例示した置換基が挙げられる。中でも、アルキル基が好ましい。Xは、酸素原子、窒素原子、アルキレン基、フェニレン基、ケイ素原子、金属原子、またはこれらの組合せからなる原子団を表す。Xは好ましくは、酸素原子、または酸素原子とアルキレン基との組合せからなる原子団であり、特に好ましくは、酸素原子である。pは1〜200の整数を表し、好ましくは3〜30である。前記有機ポリシリル鎖の具体例としては、ポリシロキサン、ポリシラザン、ポリシルメチレン、ポリシルフェニレン、ポリシラン、ポリメタロシロキサン等が挙げられる。
【0068】
前記一般式(I)において、R11とR12およびR11とR13はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成していてもよい。R11とR12とが連結して形成可能な環構造としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環等の複素環、およびこれらのベンゾ縮合環、プリン環、ナフチリジン環、プテリジン環等の複素芳香族縮合環が挙げられる。また、R11とR13とが連結して形成可能な環構造としては、ピロリジン環、チアゾリジン環、ピペリジン環等が挙げられる。
【0069】
前記一般式(I)で表される化合物には、下記一般式(II)で表される化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)が含まれる。
【0070】
【化30】
Figure 0004136465
【0071】
式中、Q21およびQ22はそれぞれ独立に、酸素原子、硫黄原子またはN(R24)を表す。R21〜R24は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R21とR22、R22とR23およびR21とR24はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0072】
前記一般式(II)において、R21〜R24がそれぞれ表す置換基について、前記一般式(I)中のR11〜R13がそれぞれ表す置換基の例と同様であり、好ましい範囲も同様である。総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖および有機ポリシリル鎖を含む置換基についても、一般式(I)の各々と同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0073】
前記一般式(II)において、R21とR22とが連結して形成可能な環構造としては、イミダゾール環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、ピリミジン環、トリアジン環等の複素環、およびこれらのベンゾ縮合環(キナゾリン環等)、プリン環、ナフチリジン環、プテリジン環等の複素芳香族縮合環;等が挙げられる。また、R22とR23およびR21とR24がそれぞれ連結して形成可能な環構造としては、ピロリジン環、チアゾリジン環、ピペリジン環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環等が挙げられる。
【0074】
前記一般式(I)で表される化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)は、環構造を有していると、摺動面を効率的に被覆する平面的錯合体の形成が可能となるので好ましく、特に、前記一般式(I)中の窒素原子を含む環構造を有しているのが好ましい。環構造を有する化合物の好ましい例としては、下記一般式(III)〜(XI)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、一般式(TAM)で表される化合物を除く)が挙げられる。中でも、前記一般式(II)で表される化合物の範囲に含まれる、下記一般式(III)〜(IX)のいずれかで表される化合物が好ましい。
【0075】
【化31】
Figure 0004136465
【0076】
式中、R31〜R33は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q31およびQ32は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表す。R31とR32およびR32とR33はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0077】
【化32】
Figure 0004136465
【0078】
式中、R41〜R44は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q41は酸素原子または硫黄原子を表す。R41とR42、R41とR43およびR42とR44はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0079】
【化33】
Figure 0004136465
【0080】
式中、R51〜R54は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R51とR52およびR51とR53はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0081】
【化34】
Figure 0004136465
【0082】
式中、R61〜R63は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q61は酸素原子または硫黄原子を表す。R61とR62は互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0083】
【化35】
Figure 0004136465
【0084】
式中、Q71〜Q73は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表し、Xは−C(=R71)−または−C(R72)(R73)−を表す。R71は置換基を表し、R72およびR73は各々独立に水素原子または置換基を表し、R71〜R73のうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R72とR73は互いに結合して、環構造を形成してもよい。
【0085】
【化36】
Figure 0004136465
【0086】
式中、Q81〜Q83は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R82)を表す。R81およびR82は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q83がN(R82)の場合、R81とR82が互いに結合して環構造を形成してもよい。
【0087】
【化37】
Figure 0004136465
【0088】
式中、Q91およびQ92は、各々独立に、単結合、N(R94)基(R94は、水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組合せからなる二価の連結基を表す。R91およびR92は各々独立に水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表す。R93はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。
【0089】
【化38】
Figure 0004136465
【0090】
式中、Q101〜Q103は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R103)を表す。R101〜R103は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。
【0091】
【化39】
Figure 0004136465
【0092】
式中、Q111およびQ112は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R115)を表す。R111〜R115は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R111とR113、R113とR114、R113とR115、R112とR114およびR114とR115はそれぞれ互いに結合して環構造、例えばスピロ環を形成してもよい。
【0093】
前記式(III)〜(XI)中、R31〜R33、R41〜R44、R51〜R54、R61〜R68、R71〜R73、R81、R82、R101〜R103およびR111〜R115がそれぞれ表す置換基としては、前述の一般式(I)中のR11〜R13がそれぞれ表す置換基と同様であり、その具体例および好ましい範囲についても同様である。前記式(VII)中、=R71としては、炭素−炭素二重結合が形成されるメチレン基(=CH2)、イソプロピリデン基(=CMe2)、ノニリデン基(=CH(n)C817)、ベンジリデン基(=CHC65)など;炭素−窒素二重結合が形成されるイミノ基(=NH)、フェニルイミノ基(=NC65)、オクチルイミノ基(=N−(n)C817)など;炭素−酸素二重結合が形成されるオキソ基(=O);炭素−硫黄二重結合が形成されるチオキソ基(=S)等が挙げられる。前記式(III)〜(VIII)、(X)および(XI)で各々表される化合物は、分子内に総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を有する。これらの鎖については、前述の一般式(I)中のこれらの鎖の具体例と同様であり、好ましい範囲も同様である。前記式(XI)中、R91およびR92が各々表す置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基の具体例としては、前記一般式(I)中のR11〜R13が各々表す置換基として挙げた具体例と同様であり、また、好ましい範囲も同様である。
【0094】
前記式中、R31とR32、R32とR33、R41とR42、R41とR43、R42とR44、R51とR52、R51とR53、R61とR62、R72とR73、R81とR82、R111とR113、R113とR114、R113とR115、R112とR114およびR114とR115はそれぞれ互いに結合して環構造を形成してもよい。これらが形成可能な環構造としては、後述する一般式(XII)中のR121が表す環状構造を有する置換基として例示したアリール基および芳香族複素環基をそれぞれ構成している環が挙げられる。
【0095】
前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性が可能な化合物は、エノール型となったときにそのpKaが2〜12であるのが好ましい。
【0096】
前記一般式(I)で表される化合物を構成要素とする分子錯合体は、その構成要素が幾何学的に相補的な位置関係で分子間相互作用を発現する官能基の組合せを有し、そのことによって平面的錯合体を形成可能であるのが好ましい。ここで、「幾何学的に相補的な位置関係で分子間相互作用を発現する官能基の組合せ」とは、一般的には、以下の(1)〜(5)の要件を満たす官能基の組合せをいう。前記分子錯合体の構成要素である相互作用する二つの分子を、基質σとレセプターρとする。レセプター分子ρによる高度の分子認識は、相手である基質σとの結合自由エネルギーと、相互作用が相対的に小さいその他の基質との結合自由エネルギーとの大きな差に依存し、その差が統計分布から大きくずれるほど大きいのが好ましい。結合自由エネルギーに大きな差を出させるには、以下の(1)〜(5)の要件を満たす必要がある。
【0097】
(1) σとρとに立体(形と大きさ)相補性(steric complementarity)があること。即ち、σとρのそれぞれの適切な部位に凹凸が存在していること。ここで、凹凸は(2)でいう相補的結合部位(例えば、水素結合ドナー(凸)と水素結合アクセプター(凹))をいう。
(2) σとρとに相互作用相補性(interactional complementarity)があること。即ち、σとρが互いに結合可能な相補性のある部位に、相補的な電子と原子核(静電力、水素結合やvan der Waals 力)分布マップが得られるように、σとρ上に(好ましくは正しく配列された)相補的結合部位(+/−、電荷/双極子、双極子/双極子、水素結合ドナー/水素結合アクセプターなどのような静電的なもの)が存在していること。
(3) ρとσとの間に広い接触面(large contact area)が存在していること。このことは、以下に述べる複数の作用部位があることによって満足できる。
(4) ρとσに複数の相互作用部位(multiple interaction sites)が存在すること。非共有結合性相互作用は共有結合に比べて弱いため、複数の相互作用部位が求められる。例えば、水素結合による相互作用の場合は、双方に水素結合ドナー/水素結合アクセプターがあることが望ましい。
(5) ρとσとの結合は全体としては強い結合(strong overall binding)になること。理論上、高い安定性は必ずしも高い選択性を意味しないが、実際にはそうであることが多い。実際、結合自由エネルギーの差は、結合が強くなるほど大きくなる傾向がある。つまり、高い結合効率(遊離のσに比べて結合されたσの割合が大きい)には強い相互作用が必要である。効率よく認識する、即ち、高い安定性と高い選択性の両方を実現するためには、ρとσとの間には強い結合が必要である。
【0098】
また、「平面的錯合体」とは、分子錯合体が、摩擦摺動面に吸着または接触した場合に、分子錯合体を構成している分子の形状に応じた最も少ない数で前記摩擦摺動面の単位面積を覆うことができるように配列する状態にある分子錯合体のことをいう。従って、錯合体を形成する分子が略棒状の場合は、その分子を形成する骨格部分の慣性軸が摩擦摺動面とほぼ同一平面内に存在する、即ち、摩擦摺動面に平行に、また緻密に配列する状態をいう。また、錯合体を形成する分子を形成する骨格部分が略平板状の場合は、その分子平面が摩擦摺動面とほぼ同一平面内に存在する、即ち、摩擦摺動面に平行に、また緻密に配列する状態をいう。但し、本発明の一般式(I)中に存在する疎水性基であるアルキル基、アルコキシ基、パーフルオロアルキル基、ポリシリル基は上記骨格部分とはみなさないものとする。本発明において、「平面的錯合体を形成可能」としたのは、分子錯合体を摺動面に供給した際に、前記平面的錯合体を形成すればよいことを意味し、摺動面に供給する前には平面的構造を形成していないものも含まれることを意味する。本発明の潤滑剤組成物は、前記平面的錯合体が効率的に摩擦摺動面を被覆することによって、優れた潤滑効果を奏する。本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤基油と混合しない態様で用いた場合も、極めて優れた潤滑効果、摺動面の耐磨耗性向上効果を奏し、さらにそれらの効果を長期間にわたって維持し得る。また、極圧下でも、前記効果を奏することができる。
【0099】
本発明では、前記一般式(I)中のケト−エノール互変異性可能な官能基が、前述の「幾何学的に相補的な位置関係で分子間相互作用を発現する官能基の組合せ」を構成する官能基となる。前記一般式(I)で表される化合物中のケト−エノール互変異性可能な官能基と、「幾何学的に相補的な位置関係で分子間相互作用を発現する官能基の組合せ」を構成可能な他方の官能基としては、カルボン酸基、チオカルボン酸基、カルボアミド基、チオカルボアミド基、カルボン酸イミド基、チオカルボン酸イミド基またはウレイド基等の互変異性可能な官能基が挙げられる。
【0100】
前記一般式(I)で表される化合物と、(チオ)カルボン酸基、(チオ)カルボアミド基、(チオ)カルボン酸イミド基およびウレイド基とは、以下の式(XIII)〜(XVI)に示す様に、有機化学の古典的電子論で説明される電子の流れによって、共鳴構造的に相補的に分子間相互作用して、安定化する可能性が強く示唆される組合せである。なお、以下の式(XIII)および(XIV)においては、前記一般式(I)中、Q11がN(R13)を表す場合を示し、式中からR11、R12およびR13は省略した。また、以下の式(XV)および(XVI)においては、一般式(II)が2,4−ビスアミノ基置換ピリミジン誘導体を表す場合を示し、置換基は省略した。
【0101】
【化40】
Figure 0004136465
【0102】
【化41】
Figure 0004136465
【0103】
前記式中、Q131、Q132、Q141、Q151、Q152およびQ161は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表し、R131、R141、R142、R151、R152、R161およびR162は各々独立に置換基を表し、R141とR142、R151とR152、およびR161とR162Rはそれぞれ互いに結合して環を形成していてもよい。R131、R141、R142、R151、R152、R161およびR162がそれぞれ表す置換基は、前記一般式(I)中のR11〜R13がそれぞれ表す置換基と同様であり、具体例および好ましい範囲についても同様である。R141とR142、R151とR152、およびR161とR162は互いに結合して環を形成しているのが好ましい。特に、前記一般式(XVI)において、R161とR162は互いに結合して環を形成しているのが好ましい。このような環構造の例としては、ベンヅイミダゾリノン、インダゾリノン、ウラシル、チオウラシル、ベンヅオキサゾリノン、コハク酸イミド、フタル酸イミド、ビオルル酸、バルビツール酸、ピラゾロン、ヒダントイン、ローダニン、オロチン酸、ベンゾチアゾリノン、アンメリン、クマリン、マレイン酸ヒドラジド、イサチン、3−インダゾリノン、パラバン酸、フタラジノン、ウラゾール、アロキサン、メルドラム酸、ウラミル、カプロラクトン、カプロラクタム、チアペンジオン、テトラヒドロ−2−ピリミジノン、2,5−ピペラジンジオン、2,4−キナゾリンジオン、2,4−プテリジンジオール、葉酸、アセチレンウレア、グアニン、アデニン、シトシン、チミン、2,4−ジオキソヘキサヒドロ−1,3,5−トリアジンが挙げられる。
【0104】
以上の式(XIII)〜(XVI)によって、錯合体形成のための前述の相補的要件である(1)〜(5)を満足する具体例を示した。(1)の立体相補性について、(XV)を例として説明する。2,4−ジアミノトリアジン構造(σとする)および酸イミド(ρとする)は双方が凹凸を有する。σでは凸がアミノ基でトリアジン環の窒素が凹となる。一方、ρではカルボニル基が凹で、中央のアミノ基が凸となる。σは凸凹凸の順で並んだ構造を、ρは凹凸凹の順で並んだ構造を有する。このことにより、σとρは3箇所で同程度の距離で、無理なく水素結合可能となり、強い分子間結合を実現している。
【0105】
また、(2)の相互作用相補性に関しては、式(XIII)〜(XVI)では協奏的な電子の流れとして記載したが、式(XIII)の→の出発点をδ-、→の到着点をδ+として、下記式(XVIII)のように記載すると、静電的な電子の授受で説明することもできる。
【0106】
【化42】
Figure 0004136465
【0107】
再び、式(XIII)〜(XVI)で示される一連の電子の流れについて説明すると、前記電子の流れは、三次元的より、二次元(平面)的に流れるのが、エネルギー的に有利であり、好ましい。この点から、式(XIV)〜(XVI)中のRとR’は互いに結合して環を形成することが好ましく、共役していること、また芳香族環を形成していることが好ましい。また、式(XIII)中のRも環構造の基であることが好ましく、芳香族環基(アリール基および芳香族複素環基の双方を含む)であることが好ましい。
【0108】
前記式(XV)について説明すると、2,4−ジアミノトリアジン構造(A)と、酸イミド構造(B)は、3箇所で水素結合しているが、(A)ではアミノ基が凸でトリアジン環の窒素原子は凹となる。
【0109】
前記分子錯合体の好ましい態様としては、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能なn種類(nは1以上の整数)の化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)A1〜Anからなる分子錯合体が挙げられる。また、前記分子錯合体の好ましい態様としては、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物と(チオ)カルボン酸他のケト−エノール互変異性可能な化合物との組合せからなる分子錯合体が挙げられ、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物と下記一般式(XII)で表される(チオ)カルボン酸との組合せが特に好ましい。下記一般式(XII)で表される(チオ)カルボン酸は、前記一般式(I)で表される化合物とともに、前述の(1)〜(5)の要件を満たす相互作用によって分子錯合体を形成可能な化合物である。
【0110】
【化43】
Figure 0004136465
【0111】
式中、R121は置換基を表し、Q121およびQ122は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表す。R121が表す置換基としては、前述の一般式(I)中のR11〜R13がそれぞれ表す置換基と同様であり、その具体例および好ましい範囲についても同様である。式(XII)で表される化合物は、分子内に、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を有しているのが好ましい。これらの鎖の具体例については、前述の一般式(I)中のこれらの鎖の具体例と同様であり、好ましい範囲も同様である。
【0112】
前記一般式(XII)中、R121が表す置換基については、環状構造を有する置換基が好ましい。前記環状構造を有する置換基としては、アリール基および芳香族複素環基が好ましい。前記アリール基としては、フェニル基、インデニル基、α−ナフチル基、β−ナフチル基、フルオレニル基、フェナンスレニル基、アントラセニル基およびピレニル基等が挙げられる。中でも、フェニル基およびナフチル基が好ましい。これらのアリール基は、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基で置換されているのが好ましく、2以上置換されているのがより好ましい。これらの鎖を含む置換基の具体例については、前述と同様である。特に、前記アリール基は、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝鎖状のアルキル鎖を含む置換基、例えば、アルキル基(オクチル、デシル、ヘキサデシル、2−エチルヘキシル等)、アルコキシ基(ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ等)、スルフィド基(ヘキサデシルチオ等)、置換アミノ基(ヘプタデシルアミノ等)、オクチルカルバモイル基、オクタノイル基およびデシルスルファモイル基等で置換されているのが好ましい。また、前記アリール基には、炭素数8以上の直鎖状あるいは分枝鎖状のアルキル鎖を含む置換基が2以上置換しているのがより好ましい。前記前記アリール基は、上記の置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等で置換されていてもよい。
【0113】
前記芳香族複素環基としては、5〜7員環構造の複素環基が好ましく、5員環または6員環がより好ましく、6員環が最も好ましい。これらの骨格の具体的例は、岩波理化学辞典 第三版増補版 (岩波書店発行)の付録11章 有機化学命名法 表4.主要複素単環式化合物の名称 1606頁 および表5.主要縮合複素環式化合物の名称 1607頁 に記載される複素環が挙げられる。また、前記芳香族複素環基は、前記アリール基と同様に、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基で置換されているのが好ましく、2以上置換されているのがより好ましい。これらの鎖を含む置換基の具体例については、前述と同様である。前記芳香族複素環基は、これらの置換基の他にも、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、スルホ基等で置換されていてもよい。
【0114】
なお、前記一般式(I)で表される化合物と錯合体を形成可能な化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。また、前記分子錯合体は、前記一般式(I)で表される化合物と、2種類以上の化合物との分子錯合体であってもよい。
【0115】
これまで述べてきた錯合体形成のための要件から、平面的結合形成および平面すなわち環構造置換基を有する分子が好ましいことが分かるが、この因子は錯合体形成のためのみならず、以下に述べるように、摩擦摺動面との相互作用すなわち摩擦摺動面を効率的に被覆するためにも好ましい。摩擦摺動面は、一般的に無機物すなわち金属あるいはそれが酸化されてできる金属酸化物薄膜やセラミックによって成り立っているが、有機物間の一般的相互作用であるvan der Waals力より強く、極性な静電的相互作用が支配的である。このような面との強い相互作用を形成する有機化合物について前述の(1)〜(5)の要件に照らして考察すると(摺動面をσこれを被覆する有機化合物をρとして考察すると)、(1)に関しては、平面的構造が有利であり、(2)についてはvan der Waals力より強い極性な静電的相互作用を発揮する部位を分子内に有することであり、その点で水素結合で形成された錯合体の極性結合は極性な摺動面に好ましい。さらに(3)に関しては平面的構造であるのが好ましく、(4)に関しては、錯合体がトリアリールメラミンの場合相補的原子団が三方向から等価であり、二分子のみならず多分子間で錯合体を形成する可能性があり、非常に有利であり、それゆえに(5)に関しても本発明の錯合体が摺動面と強い相互作用するのに適していることは明白である。このような要因が、前記分子錯合体のみによる被覆でありながら、極めて高い耐磨耗性が極圧下でも得られるものと推定している。
【0116】
前記分子錯合体が、非極性または疎水性の基を有していると、双方の摺動面が接触するのをより防止することができ、またその応力を緩和することができる。前記非極性また疎水性の基としては、長鎖アルキル基、パーフルオロアルキル基、オリゴアルコキシ基、パーフルオロアルキルエーテル基または有機ポリシロキサン基等が挙げられる。これらの疎水性基は、非極性であるので、エネルギー安定化のため、極性な摺動面に反発するように配向する。前記分子錯合体を構成する前記一般式(I)で表される化合物(および他の構成要素となる化合物)の適切な位置に導入することによって、例えば、摺動面において図1に示すように配向可能な潤滑剤とすることができる。摺動面上において、図1に示す配向となる潤滑剤は、極めて低い摩擦係数を奏するものと推定される。
【0117】
分子間で強い相互作用を発揮する物質は、一般的に、高結晶性、高融点で難溶解性、難分散性で取り扱い性に劣る場合があるが、疎水性基を導入することにより、分子錯合体の潤滑剤基油への溶解性および分散性を向上させることができ、また難結晶性とすることができるので、取り扱い性が良好になる。さらに、潤滑剤基油と混合しない態様とした場合にも、摺動面上における薄膜形成性に優れ、特に、低温での低粘性を維持できる点が潤滑剤としての大きな利点となる。
【0118】
前記一般式(I)で表される化合物が分子錯合体を形成しているか否かは、例えば、結晶が得られる場合には、該結晶を分析することによって錯合体形成の有無を判断することができる。また、結晶が得られない場合であっても、一般式(I)で表される化合物(ρ)と、ρと相互作用可能な官能基を有する化合物(σ)の錯合体形成による溶媒和も含めた分子間力(結合自由エネルギー)と、ρとσ各々単独の溶媒和による結合自由エネルギーが同程度であったり、後者のほうが大きい場合は、錯合体を形成しているものと推定できる。また、ρおよびσの各々の熱相転移温度パターンと、ρおよびσを化学量論的な整数比で混合した後の熱相転移温度パターンを比較し、ρおよびσの各々の熱相転移温度パターンと明瞭に異なる錯合体独自の熱物性を示すことを確認することによって、錯合体の形成の有無を判断することができる。ρとσが相互作用を及ぼさない単なる混合状態にある場合は、凝固点降下のように転移温度ピークが混合比に応じてずれるのみであるが、錯合体を形成する場合は、ほとんどの場合にその熱転移ピークが新たな温度域に発生する。さらに、錯合体と、ρおよびσのFT−IRスペクトルを各々比較し、相互作用する官能基の振動吸収スペクトルのシフトを確認することによって、錯合体形成の有無を判断することができる。
【0119】
以下に、前述の(1)〜(5)の要件を満たす組合せからなる、前記一般式(I)で表される化合物を構成要素とする分子錯合体の具体例を挙げるが、本発明は以下の具体例によってなんら制限されるものではない。
【0120】
【化44】
Figure 0004136465
【0121】
【化45】
Figure 0004136465
【0122】
【化46】
Figure 0004136465
【0123】
【化47】
Figure 0004136465
【0124】
【化48】
Figure 0004136465
【0125】
【化49】
Figure 0004136465
【0126】
【化50】
Figure 0004136465
【0127】
【化51】
Figure 0004136465
【0128】
【化52】
Figure 0004136465
【0129】
【化53】
Figure 0004136465
【0130】
【化54】
Figure 0004136465
【0131】
【化55】
Figure 0004136465
【0132】
【化56】
Figure 0004136465
【0133】
【化57】
Figure 0004136465
【0134】
【化58】
Figure 0004136465
【0135】
【化59】
Figure 0004136465
【0136】
【化60】
Figure 0004136465
【0137】
【化61】
Figure 0004136465
【0138】
【化62】
Figure 0004136465
【0139】
【化63】
Figure 0004136465
【0140】
【化64】
Figure 0004136465
【0141】
【化65】
Figure 0004136465
【0142】
【化66】
Figure 0004136465
【0143】
【化67】
Figure 0004136465
【0144】
【化68】
Figure 0004136465
【0145】
【化69】
Figure 0004136465
【0146】
【化70】
Figure 0004136465
【0147】
【化71】
Figure 0004136465
【0148】
【化72】
Figure 0004136465
【0149】
【化73】
Figure 0004136465
【0150】
【化74】
Figure 0004136465
【0151】
【化75】
Figure 0004136465
【0152】
【化76】
Figure 0004136465
【0153】
【化77】
Figure 0004136465
【0154】
【化78】
Figure 0004136465
【0155】
【化79】
Figure 0004136465
【0156】
【化80】
Figure 0004136465
【0157】
【化81】
Figure 0004136465
【0158】
【化82】
Figure 0004136465
【0159】
【化83】
Figure 0004136465
【0160】
【化84】
Figure 0004136465
【0161】
【化85】
Figure 0004136465
【0162】
【化86】
Figure 0004136465
【0163】
【化87】
Figure 0004136465
【0164】
【化88】
Figure 0004136465
【0165】
【化89】
Figure 0004136465
【0166】
【化90】
Figure 0004136465
【0167】
【化91】
Figure 0004136465
【0168】
【化92】
Figure 0004136465
【0169】
【化93】
Figure 0004136465
【0170】
【化94】
Figure 0004136465
【0171】
【化95】
Figure 0004136465
【0172】
前記一般式(I)で表される化合物および該化合物と錯合体を形成可能な化合物は、従来公知の製造方法を組み合わせることによって合成することができる。
【0173】
本発明の潤滑剤組成物に用いられる分子錯合体は、単独で潤滑剤として用いることができる。また、前記分子錯合体は、潤滑助剤として潤滑剤基油と混合した態様で、用いることもできる。双方の態様において、潤滑剤組成物の見かけ粘度は、40℃で1000mPa・s以下であり且つ120℃で20mPa・s以上あるのが好ましく、40℃で1000〜50mPa・sであり且つ120℃で25mPa・s以上あるのがより好ましく、40℃で800〜100mPa・sであり且つ120℃で25mPa・s以上あるのがさらに好ましい。
【0174】
前記潤滑剤基油としては、特に限定されるものではなく、一般に潤滑剤基油として用いられているものならばいずれも使用することができ、鉱油、合成油あるいはそれらの混合油が挙げられる。例えば、パラフィン系、中間基系またはナフテン系原油の常圧または減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート;潤滑油原料をシリカ−アルミナを担体とするコバルト、モリブデン等の水素化処理用触媒の存在下において、水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油;潤滑油原料を水素化分解触媒の存在下において、苛酷な分解反応条件下において異性化条件下で水素と接触させて得られる異性化油;潤滑油原料を溶剤精製工程および水素化処理工程、または水素化分解工程および異性化工程等を組み合わせて得られる潤滑油留分;等を挙げることができる。特に、水素化分解工程および異性化工程によって得られる高粘度指数鉱油が好適なものとして挙げられる。いずれの製造方法においても、脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程を任意に付加することができる。前記鉱油は、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油およびブライトストック等に分類することもでき、要求性能に応じて適宜混合することもできる。
【0175】
前記合成油としては、ポリα−オレフィン、α−オレフィンオリゴマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。これらの鉱油および合成油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。このような潤滑剤基油は、通常、温度100℃において、2〜20mm2/sの動粘度を有し、好ましくは3〜15mm2/sの動粘度を有する。本発明の潤滑剤組成物が用いられる機械的摩擦摺動部の潤滑条件に適するように、適宜、最適な動粘度を有した混合基油を選択することができる。
【0176】
本発明の潤滑剤組成物が、前記分子錯合体と前記潤滑剤基油との混合物である場合、好ましい配合量は、潤滑剤基油全質量を基準として、前記分子錯合体が0.01質量%以上であり、より好ましくは、錯合体化合物が0.01〜10質量%であり、最も好ましくは0.05〜2質量%である。また、潤滑剤基油の含有量は50質量%以上であるのが好ましい。潤滑剤基油を含まない態様では、前記分子錯合体を50質量%以上含有するのが好ましい。
【0177】
本発明の潤滑剤組成物は、前記分子錯合体を主成分として含有するものであるが、種々の用途に適応した実用性能を確保するため、さらに必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲内で、従来の潤滑剤、例えば軸受油、ギヤ油、動力伝達油などに用いられている各種添加剤、具体的には、摩耗防止剤、極圧剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、清浄分散剤、金属不活性化剤、腐食防止剤、防錆剤、消泡剤等を添加することもできる。
【0178】
本発明の潤滑剤組成物は、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)のn種類(nは1以上の整数)を添加し、前記n種類のケト−エノール互変異性可能な化合物を構成要素とする分子錯合体を生成する工程を経て製造することができる。例えば、潤滑剤基油と混合する態様の潤滑剤組成物では、前記一般式(I)で表されるn種類(nは1以上の整数)のケト−エノール互変異性可能な化合物を、潤滑剤基油に添加することにより、潤滑剤基油中で分子錯合体を生成し、製造することができる。また、あらかじめ分子錯合体を生成した後、潤滑剤基油に添加することもできる。潤滑剤基油を含まない態様では、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物を、2種類以上混合することによって分子錯合体を生成し、製造することができる。
【0179】
また、(チオ)カルボン酸と、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)との分子錯合体を含有する態様の潤滑剤組成物は、前記一般式(I)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、前記一般式(TAM)で表される化合物を除く)の少なくとも1種と、前記一般式(XII)で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物の少なくとも1種とを添加し、双方の化合物を構成要素とする分子錯合体を生成する工程を経て、製造することができる。潤滑剤基油と混合する態様では、(チオ)カルボン酸と、前記一般式(I)で表される化合物とをあらかじめ混合して双方の化合物を含む分子錯合体を生成してから、潤滑剤基油に添加してもよいし、個々に潤滑剤基油に添加し、添加後に潤滑剤基油中で双方の化合物を含む分子錯合体を生成してもよい。
【0180】
本発明の潤滑剤組成物は、接触して相対運動する摺動面に供給することもよって、摺動面の摩擦係数を低下させるとともに、摺動面の耐磨耗性を向上させる効果を有する。さらに、この効果を長期的に維持するという優れた効果をも有する。従来の潤滑油やグリースなどの潤滑剤を用いた場合に、油膜切れを生じるような苛酷な摩擦条件で運動する摺動面に供給した場合も、焼付きを軽減し、耐摩耗性を向上させ、低摩擦係数に維持することができる。例えば、苛酷な摩擦条件で運動する軸受やギヤなどにおいて、省エネルギーな潤滑剤として好適に使用することができる。さらに、摺動部装置の信頼性を向上させ、摺動部装置の小型化に寄与することができる。本発明の潤滑剤組成物は、苛酷な潤滑条件において、摩擦係数が低いこと、耐摩擦性と極圧性に優れていることなどの特徴を有している。本発明の潤滑剤組成物は、種々のケト−エノール互変異性可能な化合物を適切に混合することにより、−40℃でも十分に粘性を保つことが可能で、低温でも使用可能になり、実用的なものとできる。
【0181】
本発明の潤滑剤組成物は、潤滑剤基油を使用しない場合も優れた潤滑効果を奏するので、大量に潤滑剤を供給できない、例えば、マイクロマシンにも好ましく用いることができる。また、前記分子錯合体は、金属および金属酸化物等の表面に容易に皮膜を形成し、潤滑機能を発現するという性質を有するので、磁気記録媒体の表面と、磁気記録ヘッドとの摩擦を軽減するための潤滑剤として用いるのも好ましい。
【0182】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例に制限されるものではない。
【0183】
[実施例1〜8]
以下に示す錯合体(1)、(2)、(3)および(4)を、表1に示す様に、各々単独でまたは潤滑剤基油に溶解させて実施例1〜8の潤滑剤を調製した。なお、錯合体(1)、(2)、(3)および(4)が錯合体を形成していることは、DSC(示差走査熱量測定)が示す相転移点には、対応するカルボン酸あるいはバルビツール酸単独の相転移ピークが完全に消失して新たな錯合体の相転移ピークが現れたことにより確認することができた。また、錯合体(1)、(2)、(3)および(4)を構成しているケト−エノール互変異性可能な化合物のエノール型となったときのpkaはいずれも2〜12の範囲であった。
【0184】
[比較例1〜4]
表2に示す様に、通常の潤滑剤基油のみを用いて潤滑剤を調製した。
【0185】
得られた実施例1〜8および比較例1〜4の潤滑剤について、以下の条件で往復動型(SRV)摩擦摩耗試験を行い、摩擦係数および低摩耗性を各々評価した。
[往復動型(SRV)摩擦摩耗試験の試験条件および測定法]
試験条件
試験片(摩擦材): SUJ−2
プレート : 24mm径×7.9mm
シリンダー : 11mm径×15mm
温度 : 150℃
荷重 : 50N、400N
振幅 : 1.0mm
振動数 : 50Hz
試験時間 : 試験開始5分間
上記試験条件で、荷重50Nおよび400Nにおいて、摩擦係数を測定した。また、耐摩耗性については、表面粗さ計にて、摩耗痕の摩耗深さを測定し、評価した。実施例1〜8の結果を表1に、比較例1〜4の結果を表2に各々示した。
【0186】
【表1】
Figure 0004136465
【0187】
【表2】
Figure 0004136465
【0188】
【化96】
Figure 0004136465
【0189】
【化97】
Figure 0004136465
【0190】
これらの実施例と比較例の評価結果から、錯合体を潤滑剤に用いることにより、および潤滑剤の基油に錯合体を主成分として用いることにより、高荷重条件においても、耐摩耗性に優れ、かつ摩擦係数が低く、実用的な潤滑剤組成物が得られることが判明した。
【0191】
[実施例9〜14]
錯合体(5)〜(10)を用いて、SRV試験機を用いて摩擦試験を40℃および120℃でそれぞれ行い、摩擦係数を評価するとともに、それぞれの温度における見かけ粘度を測定した。
[試験条件]
試験条件はシリンダ−オンプレートの条件で行った。
試験片(摩擦材):SUJ−2
プレート:φ24×7.9mm
シリンダー:φ11×15mm
温度:40℃あるいは120℃
荷重:400N
振幅:1.0mm
振動数:50Hz
試験時間:試験開始5分間
上記試験条件で測定した結果を表3に各々示した。
【0192】
【表3】
Figure 0004136465
【0193】
【化98】
Figure 0004136465
【0194】
【化99】
Figure 0004136465
【0195】
これらの実施例の評価結果から、錯合体を潤滑剤に用いることにより優れた耐摩擦性の潤滑剤組成物が得られ、また、特定の粘度範囲にある本発明化合物はさらに優れた性能であることが判った。
【0196】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明によれば、従来の潤滑剤基油と混合した形態のみならず、潤滑剤基油を混合しない形態でも、優れた潤滑剤性能を示す潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することができる。また、本発明によれば、摺動面において低摩擦性および耐磨耗性を長期的に維持できる、特に極圧下においても、低摩擦性および耐磨耗性を長期的に維持できる潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することができる。また、本発明によれば、均質な薄膜を容易に形成可能であり、磁気記録媒体の表面およびマイクロマシン等にも適用可能な潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することができる。さらに、本発明によれば、環境適合性に乏しい重金属元素、燐酸基および硫化物を排除することにより、長寿命化および環境適合性を両立し得る潤滑剤組成物およびその調製方法を提供することができる。また、本発明によれば、摩擦係数の低減剤、極圧剤または磨耗防止剤として有用な分子錯合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の潤滑剤組成物の一配向例を示す模式図である。

Claims (7)

  1. 1種類以上のケト−エノール互変異性可能な化合物の分子間相互作用によって形成された分子錯合体を含有する潤滑剤組成物であって、前記分子錯合体は下記一般式( V )、( VIII )又は( IX で表される化合物(但し、下記一般式(TAM)で表される化合物を除く)と、下記一般式( VII )又は( XII )で表される化合物とを構成要素として含むことを特徴とする潤滑剤組成物。
    Figure 0004136465
    (式中、R 51 〜R 54 は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R 51 とR 52 およびR 51 とR 53 はそれぞれ互いに結合して、環構造を形成してもよい。)
    Figure 0004136465
    (式中、Q 81 〜Q 83 は各々独立に酸素原子、硫黄原子またはN(R 82 )を表す。R 81 およびR 82 は各々独立に水素原子または置換基を表し、そのうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。Q 83 がN(R 82 )の場合、R 81 とR 82 が互いに結合して環構造を形成してもよい。)
    Figure 0004136465
    (式中、Q 91 およびQ 92 は各々独立に単結合、N(R 94 )(R 94 は水素原子または炭素数が1〜30のアルキル基を表す)、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基またはこれらの組合せからなる二価の連結基を表す。R 91 およびR 92 は各々独立に水素原子、置換もしくは無置換の、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基または複素環基を表し、R 91 およびR 92 のうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む。R 93 はハロゲン原子、ヒドロキシ基、アミノ基、メルカプト基、シアノ基、スルフィド基、カルボキシ基もしくはその塩、ス ルホ基もしくはその塩、ヒドロキシアミノ基、ウレイド基またはウレタン基を表す。)
    Figure 0004136465
    (式中、R1、R2およびR3は各々独立に置換基を表し、x、yおよびzは各々独立に1〜5のいずれかの整数を表す。)
    Figure 0004136465
    (式中、Q 71 〜Q 73 は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表し、Xは−C(=R 71 )−または−C(R 72 )(R 73 )−を表す。R 71 は置換基を表し、R 72 およびR 73 は各々独立に水素原子または置換基を表し、R 71 〜R 73 のうち少なくとも1つは、総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基を表す。R 72 とR 73 は互いに結合して、環構造を形成してもよい。)
    Figure 0004136465
    (式中、R 121 は総炭素数4以上のアルキル鎖、オリゴアルキレンオキシ鎖、総炭素数2以上のパーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖または有機ポリシリル鎖を含む置換基で置換されているアリール基又は芳香族複素環基を表し、Q 121 およびQ 122 は各々独立に酸素原子または硫黄原子を表す。)
  2. 記ケト−エノール互変異性可能な化合物は、エノール型となったときにそのpKaが2〜12であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑剤組成物。
  3. 前記分子錯合体の示差走査熱量測定(DSC)法における熱的相転移温度パターンが、その構成要素の化合物の熱的相転移温度パターンとは互いに異なることを特徴とする請求項1又は2に記載の潤滑剤組成物。
  4. さらに潤滑剤基油を50質量%以上含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
  5. 請求項1中に記載の一般式(V)、( VIII )又は( IX で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、請求項1中に記載の一般式(TAM)で表される化合物を除く)と、請求項1中に記載の一般式( VII )又は( XII )で表される化合物とを 混合し、分子錯合体を生成する工程を有することを特徴とする潤滑剤組成物の調製方法。
  6. 見かけ粘度が40℃で1000mPa・s以下でありかつ120℃で20mPa・s以上あることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の潤滑剤組成物。
  7. 請求項1中に記載の一般式(V)、( VIII )又は( IX で表されるケト−エノール互変異性可能な化合物(但し、請求項1中に記載の一般式(TAM)で表される化合物を除く)と、請求項1中に記載の一般式( VII )又は( XII )で表される化合物とを構成要素とする分子錯合体。
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