本発明は、絶縁性プラスチックフィルム表面に金属導体層を形成した金属とプラスチックフィルムの積層するフレキシブルプリント基板及びその製造方法に関するものである。
従来のフレキシブルプリント基板の多くは金属導体層に銅を用い、プラスチックフィルムとしてポリイミドを用いている。銅とポリイミドは密着性が悪いために、銅とポリイミドの間に接着材を用いて密着性を高めたフレキシブルプリント基板が多く市販されている。またその他のプレキシブルプリント基板としては、ポリイミドとの密着性が比較的良いニッケルやクロムなどの金属をポリイミド上に形成し、ニッケル、クロム上に銅を形成したフレキシブルプリント基板も市販されている。さらに、プラスチックフィルム上に金属を直接形成するフレキシブルプリント基板の製造方法としてポリイミド上に金属イオンを打ち込みポリイミド表面に0.1μm以上の厚みの改質層を形成し、改質層上に金属導体層を形成するフレキシブルプリント基板の製造方法が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)
また、ポリイミドフィルムの一方の面に酸素を含むプラズマによりプラズマ処理を行い、ポリイミドフィルムの表面粗さを5nmから100nmとしたフレキシブルプリント基板の記載がある。(特許文献2参照)
また近年、液晶ポリマーやフッ素樹脂といった低誘電率の材料が、高周波信号用途のフレキシブルプリント基板材料として用いられているが、ポリイミド同様に銅などの金属との密着性が悪く、高い密着性が得られる基板上への金属膜の形成方法が求められている。
またフレキシブルプリント基板用途以外でも電池の集電体材料として金属粒子または薄膜を形成したプラスチックフィルムが必要とされており、金属とプラスチックフィルムは高い密着性を持っていることが望ましい。
特開2003−49013号公報(第24−30頁、第1図、第2図)
特開平9−51163号公報
しかしながら、接着材を用いる従来の構成では、金属導体層を必要な電気回路パターンに加工した場合、上記金属導体層を構成する金属成分が接着材内に拡散しやすいため、接着剤部分で電気抵抗が低下し、電気回路パターンの中で絶縁される必要がある部分で絶縁不良を引き起こすという問題があった。またニッケルやクロムなどの比較的ポリイミドとの密着性に優れた金属上に、上記金属導体層を形成する従来の構成では、金属導体層を所望の電気回路パターンにエッチング加工する時にニッケルやクロムが残渣として残る。ニッケルやクロムは電気導電性があるため、電気回路パターン内に残ったニッケルやクロムの残渣により、電気回路パターンの絶縁不良を生じるという問題がある。残渣の問題はニッケルやクロムの残渣を除去するエッチング加工を行うことで解決できるが、追加の工程が必要になるため余分な加工コストが必要な上、ニッケルやクロムの残渣の除去時に金属導体層の電気回路パターンが余分に加工されるという問題がある。金属導体層の電気回路パターンが余分に加工されると必要な配線寸法が得られなくなるという問題を生じる。
また特許文献1の製造方法ではポリイミド表面に銅が打ち込まれた深い改質層を形成するため、打ち込まれた銅によりポリイミド表面の電気抵抗が低下し、電気回路パターンの絶縁不良を生じるという可能性があった。
また特許文献2記載の方法では、比較的高い剥離強度を得ることができるが、望ましい条件として記載されている酸素を用いた表面処理では、ポリイミド表面に多量の酸素が入り込み、ポリイミド表面上に形成された金属導体層を時間経過とともに徐々に酸化し、剥離強度を低下させる可能性があった。また、特許文献2の方法で製品に要求される程度の高い剥離強度を安定して得るには表面を表面粗さRMSの値で5nm以上に粗化する必要があった。ポリイミド表面の表面粗さが粗いと表面上に形成する金属導体層が前記ポリイミド表面の凹凸形状に沿った形状で形成されるため、金属導体層をエッチング加工して、電気回路パターンを作成した場合、電気回路パターンを構成する金属導体層はポリイミドとの界面で凹凸形状を有することになる。電気回路パターン内を伝わる電気信号の周波数が高くなるのに比例して、電気信号は表皮効果により表面だけを伝わるため、金属導体層表面が凹凸形状を有していると、電気信号の伝達中に電気的なノイズを生じることになる。電気的なノイズは凹凸形状のサイズに比例して大きくなるため、プラスチックフィルム表面の粗さが粗いほど大きなノイズを生じることになる。つまり、特許文献2記載のようにポリイミド表面を粗化した場合、ポリイミドと金属導体層の密着性は改善できるが、高周波電気信号に対しては電気的ノイズが発生し、電気回路基板としての性能が低下するという問題があった。金属導体層表面の平坦化のためには金属導体層に接触するポリイミド表面を平坦にする必要があり、金属導体層とポリイミドとの密着性の低下を生じることになる。つまり、ポリイミド表面の平坦化による電気ノイズの低減と金属導体層とポリイミドとの密着性向上は相反する要求になる。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、金属導体層とプラスチックフィルムとの間に接着剤や異種金属を介在させず、またプラスチックフィルム表面を大きく粗化することなく、金属導体層とプラスチックフィルムの間に高い密着性を得られるフレキシブルプリント基板の製造方法を提供することを目的とする。また、集電体用途においてはプラスチックフィルムとしてフッ素樹脂が使われ、金属としては白金が使われる場合があるが、フッ素樹脂上に固定した白金の剥離により、集電体素子の性能が低下するため、白金をフッ素樹脂上に強固に固定する必要があったが、フッ素樹脂はほとんどの金属に対して密着性が悪いため、白金をフッ素樹脂上に強固に固定することは困難であった。
前記従来の課題を解決するために、本発明のフレキシブルプリント基板は、ポリイミドからなるプラスチックフィルム上に銅からなる金属導体層を形成するフレキシブルプリント基板において、前記金属導体層形成前の前記プラスチックフィルム面上に平均深さが2nmから4nmである微細凹凸を形成し、当該微細凹凸の凸部間の間隔若しくは凹部間の間隔の平均的な間隔が前記プラスチックフィルムの表面に近接する前記金属導体層の銅結晶の大きさとほぼ等しい10nmから80nmであることを特徴としたものである。
また、本発明のフレキシブルプリント基板の製造方法は、プラスチックフィルム上に金属導体層を形成するフレキシブルプリント基板製造方法において、ポリイミドからなるプラスチックフィルム上に銅からなる金属導体層を形成するフレキシブルプリント基板の製造法において、前記プラスチックフィルム面上に凸部間の間隔若しくは凹部間の平均的な間隔が前記プラスチックフィルムの表面に近接する前記金属導体層の銅結晶の大きさとほぼ等しい10nmから80nmである平均深さが2nmから4nmである微細凹凸を形成した後、引き続き前記微細凹凸の表面に前記銅からなる金属導体層を形成することを特徴としたものである。
本発明のフレキシブルプリント基板及びフレキシブルプリント基板の製造方法によれば、ニッケルやクロムなどの金属や接着剤を用いずに、金属導体層とプラスチックフィルムとの間に高い密着性を得ることができる。フレキシブルプリント基板用途では、接着剤やニッケル、クロムなどの金属がないために、金属の拡散やエッチング不良による電気配線パターンの絶縁不良を生じにくい製品を作製可能である。さらに、ニッケルやクロムを用いる従来のフレキシブルプリント基板と比較すると、電気回路パターンの絶縁不良をなくすための追加のエッチング加工を必要としないため、電気回路パターンの加工費用も安価にできる。また、集電体用途では強固にプラスチックフィルム上に金属を固定できるため、金属のプラスチックフィルムからの剥離による集電体素子の寿命を改善できる。
以下に、本発明の金属とプラスチックフィルムからなるフレキシブルプリント基板及びフレキシブルプリント基板の製造方法について、図面ともに詳細に説明する。本発明で用いられるフレキシブルプリント基板のプラスチックフィルム材料としては、ポリイミド、ポリエステル、ポリカボネート、ポリアミド、エポキシ樹脂液晶ポリマーなどを使用することができる。また、本発明で用いられる金属導体層用の金属材料としては、銅、金、銀、アルミニューム、ニッケル、クロム、チタン、亜鉛などを使用することができる。実施例においては、ポリイミドフィルムと銅金属を用いた場合を説明する。
図1は、本発明の実施例1におけるフレキシブルプリント基板の構成図を示す。
図1において1はプラスチックフィルムであり、本実施例ではポリイミドフィルムを用いた。ポリイミドフィルムとしては具体的に宇部興産製の商品名ユーピレックスやデュポン製の商品名カプトンや鐘淵化学の商品名アピカルなどが使用可能である。本実施の形態では宇部興産製のユーピレックスを使用した。また2は金属導体層であり、本実施の形態では銅を使用した。
図2は図1に示すフレキシブルプリント基板の製造手順を示している。また図2に示す製造手順において使用するフレキシブルプリント基板の製造装置を図3に示す。
図3で7は真空チャンバーであり、8はポリイミドフィルムを固定するための導体で構成された基板ホルダーであり、9は導電体で構成された基板ホルダー8に高周波電力を印加する高周波電源であり、10は真空チャンバー7を真空に排気する排気装置であり、11は真空チャンバー7と排気装置10を接続するメインバルブであり、12は金属を加熱蒸発させる蒸着用ボートであり、13は蒸着用金属であり、14は真空チャンバー内に所定のガスを導入するガス導入管であり、15はポリイミドフィルムであり、16は前記ポリイミドフィルムを加熱脱水するための加熱機構であり具体的にはタングステンボートを用いた抵抗加熱機構や赤外線ランプが使用可能である。また17は電気的な接地部である。
図2、図3を用いて図1に示した本発明の構成のフレキシブルプリント基板の製造手順について詳しく説明する。
図2において、最初、ステップ3において、真空チャンバー7内を真空引きする。真空チャンバー7内の圧力は1.0×10-3Pa以下にする。ポリイミドフィルム15は図3に示すように基板ホルダー8に接して固定しておく。
次に図2のステップ4において、ポリイミドフィルム15の脱水を行う。脱水は加熱機構16を用いてポリイミドフィルム15を140℃で3時間加熱した。加熱後に真空チャンバー7内の温度が30℃以下になるまで冷却し、さらに真空チャンバー7内の圧力が1.0×10-4Pa以下になるまで真空引きを行う。
次に図2のステップ5に示すようにポリイミド表面をプラズマ処理する。このプラズマ処理はポリイミド表面を粗化するものである。プラズマ処理時には真空チャンバー7内に純度99.9%以上の窒素ガスを導入し、圧力を5.0×10-2Paにし、安定放電手段によりポリイミドフィルム15を支持する基板ホルダー8に高周波電力を印加する。高周波電力の印加により、真空チャンバー7内にグロー放電が生じ、窒素プラズマが発生する。窒素プラズマの発生とともにポリイミドフィルム15の極近傍に第1の負のバイアス電圧が誘起され、ポリイミドフィルム15が窒素プラズマ処理される。ポリイミド表面は負のバイアスで加速された窒素イオンが表面に衝突することにより物理的にエッチングされるとともに、ポリイミド表面が化学的にもエッチングされる。
物理的エッチングは、ポリイミドフィルム15の近傍に発生する負のバイアス電圧により加速されたイオンがポリイミド表面に衝突することにより、ポリイミド表面の分子結合を切断する効果を利用している。つまり、イオンの持つ運動エネルギーを利用したエッチングである。ポリイミド表面おいて衝突するイオンの量にばらつきがなければ、ポリイミド表面はほぼ均一にエッチングされることになる。本実施の形態では、プラズマの均一な範囲内にポリイミドフィルムを固定したため、物理的なエッチングのばらつきはほとんどない。これに対して化学的なエッチングでは、ポリイミド表面に到達したイオンがポリイミド表面から電子を引き抜くことで分子結合を切断するが、イオンの到達した近傍の最も結合力の弱い結合箇所から電子が引き抜かれるため、つまり選択的に分子結合が切断される。さらに窒素プラズマでポリイミド表面を処理した場合には、窒素イオンがポリイミド表面の水素原子や酸素原子と反応して化合物を作り、ポリイミド表面から水素原子や酸素原子を取り去る可能性が考えられる。そのため窒素プラズマ処理では、ポリイミド表面の水素原子や酸素原子などの除去効果も加わり、ポリイミド表面が選択的にエッチングされて微細な凹凸を生じる可能性が考えられる。
本実施例では第1の負のバイアス電圧を400Vにして10分間のプラズマ処理を行ったが、第1の負のバイアス電圧として、基板ホルダー8に印加する高周波電力を調整することにより200Vから1000Vの値に制御することが可能であり、本実施例の効果と同程度の効果を得ることができる。
次に図3のステップ6において、銅成膜を行った。手順及び条件は以下のとおりである。まず真空チャンバー7内の圧力を1.0×10-4Pa以下まで真空引きする。次に、蒸着用ボート8から銅を蒸発させ、銅をポリイミドフィルム上に真空蒸着した。
本実施例では銅薄膜を形成させる速度を0.1nm/sec〜2.0nm/secの間で制御した。0.1nm/sec以下の成膜速度では、作製に時間がかかりすぎ、コスト高になるため現実的でない。また2.0nm/sec以上の成膜速度でも0.1nm/sec〜2.0nm/secの条件で成膜した場合と同程度の剥離強度を有するフレキシブルプリント基板を作製可能と思われるが、本実施例で使用した装置では、2.0nm/sec以上の速度で成膜すると、銅の蒸発用ボートから溶融した銅材料が溢れでるため、2.0nm/sec以上に成膜速度をあげるのは困難であった。銅の蒸発機構を改良することにより、この点は改善可能である。
本発明の製造方法で得られるフレキシブルプリント基板は、銅成膜前にポリイミド表面を窒素プラズマ処理し、ポリイミド表面に微細な凹凸を形成しているために、従来の方法に比較して高い剥離強度が得られると発明者らは考量している。
つまり、物理的な結合により剥離強度が得られていると考えている。物理的な結合とは、1)銅薄膜とポリイミドの剥離時に生じる摩擦抵抗と2)銅薄膜とポリイミドの剥離時に銅薄膜表面の微細凹凸がポリイミド表面を掘り起こす動作をすることにより生じる抵抗力のことである。1)の摩擦抵抗は微細な凹凸の存在により接触面積が増えるため、比例して増加すると考えられる。また2)の掘り起こしの効果も多くの凹凸が存在するほど高くなると考えられる。この検証のために銅薄膜形成前のポリイミドフィルム表面の微細凹凸のサイズを変更したサンプルを作成し、剥離強度を評価した。また、従来から金属とプラスチックフィルム材料の密着には物理的な結合要因以外に、化学的な結合要因(つまり、官能基)も影響することが示されているため、微細凹凸形成に用いた窒素プラズマ処理により形成される窒素官能基の密着性への影響も調べた。ここで化学的な結合とは、窒素プラズマ処理により形成されるシアノ基と銅原子が結合することにより発生する結合力のことである。発明者らは、シアノ基と銅原子がシアノ基の不対電子対を介して配位結合していると考量している。
微細凹凸の間隔と剥離強度の比較結果を評価結果を図4に示す。ポリイミド表面の微細凹凸の間隔が10nmから80nmの間で従来のフレキシブルプリント基板と同程度以上の剥離強度0.7N/mm以上を得られることが分かった。つまりポリイミド表面の微細凹凸が剥離強度に大きく寄与していることが判明した。微細凹凸の間隔が30nm程度の場合に最も高い剥離強度が得られる傾向がある。本発明の条件で作製したフレキシブルプリント基板の銅薄膜の結晶の大きさを電子顕微鏡で観察した結果、結晶の大きさはポリイミド表面の混合層に近接する部分で30nm程度であったことから、銅結晶の大きさと凹凸サイズが近い場合に、ポリイミド表面の微細凹凸形状への銅結晶の食い込みによる密着性改善効果が大きくなっている考量する。
具体的には以下のようなことが推測される。銅結晶の大きさがポリイミド表面の凹凸形状より十分小さい場合には、ポリイミド表面の一つの凹部分に複数の結晶が結合して形成されることになる。この場合、銅薄膜に対してポリイミドから引き剥がすように力が加わると、ポリイミド表面の凹部内に形成された複数の銅結晶からなる銅薄膜表面の凸部分がポリイミドを掘り起こすような動作をするため、引き剥がしに対して抵抗力を示すが、銅薄膜表面の凸部分の銅結晶間には結晶間の結合が弱い部分も存在するため、銅薄膜表面の凸部分の一部ではポリイミドを掘り起こすより弱い力で結晶間の結合が破壊される。そのため、期待される抵抗力よりも弱い抵抗力しか得られない。またポリイミド表面の凹部の大きさより銅結晶の大きさが十分に大きい場合には、銅結晶がポリイミド表面の凹部に入り込まないため、銅薄膜の引き剥がし時に、銅結晶の食い込みに起因した抵抗力が発生せず、剥離強度が低下することが考えられる。
本実施例で記述している微細凹凸とは、図5に示すポリイミド表面の凸部間または凹部間の間隔のことである。実際のフィルムにおいては、図5のような規則的な凹凸形状が形成されることはなく、円錐が組合せまたは重ね合わせられた形状になっている。(微細凹凸は基本的に円錐形状である。)円錐のサイズには大小幅があり、円錐のサイズや分布はポリイミドの分子の分布と窒素プラズマによる化学的なエッチング効果との関係で決定される。そのため単純に形状測定しても定量的に微細凹凸の間隔を測定することは不可能であるので、本実施の形態では、微細凹凸形状を測定範囲1μm四方程度で原子間力顕微鏡(AFM)により測定し、微細凹凸の形状を高さ及び位置データとして数値化し、測定された前記データをフーリエ変換することで微細凹凸の平均的な繰り返し周期を求めることで平均的な凸部または凹部の間隔を求めた。即ち、振幅(高さ)の周波数表示をすることにより(平均的な)微細凹凸の間隔の分布を求めることができる。具体的にはDigital instrument製のAFMが使用可能であり、フーリエ変換後に図6に示すような結果が得られる。図6の場合には、微細凹凸サイズが30nmということになる。
また、本実施例の条件で窒素プラズマ処理したポリイミドフィルム表面をAFMを用いて測定した場合、1μm四方の測定範囲で算術平均粗さ2nmから4nmであった。
即ち、本発明の微細凹凸の形成においては、凹凸の間隔つまり、凹部間或いは凸部間の間隔が30nm、凹凸の平均の深さが2nmから4nm程度の非常に浅い表面における粗化で、強固な剥離強度が得られた。
上述したように、表面の凹凸のサイズが銅結晶のサイズより小さいと、ポリイミドへの銅結晶の食い込み効果が小さくなるため剥離強度が低下すると考えられる。また表面に大きな凹凸を形成するために、プラズマ処理を長時間行うとまたは強いプラズマ処理を行うと、ポリイミド表面がプラズマ処理によるダメージを受けるため、銅薄膜をポリイミドから引き剥がすように力が作用した場合に、ポリイミドの表面が破壊する可能性が考えられる。また1つ1つの凹部分のサイズが銅結晶サイズより大きくなると、ポリイミド表面の
一つの凹部分に複数の銅結晶が結合して形成されることになる。この場合、銅薄膜に対してポリイミドから引き剥がすように力が加わると、ポリイミド表面の凹部内に形成された複数の銅結晶からなる銅薄膜表面の凸部分がポリイミドを掘り起こすような動作をするため、引き剥がしに対して抵抗力を示すが、銅薄膜表面の凸部分の銅結晶間には結晶間の結合が弱い部分も存在するため、銅薄膜表面の凸部分の一部ではポリイミドを掘り起こすより弱い力で結晶間の結合が破壊される可能性もある。そのため、発明者らは凹凸の間隔には、剥離強度を高い値に保てる最適な範囲が存在すると考えている。本発明では、凹凸の面内方法の寸法に対して剥離強度との相関を発見できた。
表面粗さが同じで、凹凸の間隔が異なるポリイミド表面に銅薄膜を形成した場合は、表面粗さが同じであるために従来の文献等の報告から剥離強度は同程度になると推測されるが、本実施の形態で作製したサンプルでは表面粗さが同じサンプルで剥離強度に差があった。つまり、表面粗さで剥離強度の変化を説明することはできなかった。そのため、本発明者らは表面粗さよりも表面の凹凸の間隔が剥離強度に強く影響していることを見出した。
次に窒素官能基の影響を調べるため、表面の微細凹凸のサイズを同じにし、窒素官能基の量を変化させた場合の剥離強度の変化を調べた。官能基はX線光電子分光分析法(XPS)により測定した。微細凹凸形状の凸部分の間隔を30nmにし、本実施の形態1に記載の窒素ボンバード条件で表面処理したサンプルに比較して窒素官能基を半分にしたサンプルを作製して剥離強度を測定した。剥離強度は0.88N/mmであった。つまり、窒素官能基の量に倍の違いがあったとしても、微細凹凸の凸部分の間隔が30nmのサンプルでは、剥離強度は0.9N/mmと0.88N/mmであり、ほぼ一定であった。つまり窒素官能基の影響は小さいと言える。また窒素官能基以外の官能基の効果をみるために、ポリイミド表面をアルゴンボンバードした後、銅薄膜を形成して剥離強度を測定したが、剥離強度は0.2N/mm以下であった。アルゴンボンバード後の表面をXPSで測定した結果、酸素や窒素などの官能基が確認されたが、剥離強度は0.2N/mm以下と小さかった。つまり、本実施の形態で作製されたフレキシブルプリント基板において密着性に影響する主な要因は物理的な結合力であると考えられる。つまり、微細凹凸に金属が食い込むことにより密着性が向上しているといえる。微細凹凸への銅の食い込みが密着性に大きく寄与しているというメカニズムであるため、本実施の形態で用いた材料以外の材料でも、具体的には、フッ素樹脂や液晶ポリマーなどの材料でも、金属薄膜形成面に微細凹凸を形成することができれば同様の効果が期待できる。
本実施例においてポリイミド表面のプラズマ処理に窒素プラズマを用いたのは、ポリイミド表面への微細凹凸の形成に窒素プラズマ処理が有効なためである。窒素ガスは不活性だが、プラズマ化するとポリイミドと化学的な反応性を示し、ポリイミド表面を選択的にエッチング加工する。そのため短時間で必要な微細凹凸をポリイミド表面に形成可能である。比較のために表面処理に通常用いられるアルゴンプラズマ処理と窒素プラズマ処理の表面処理後のポリイミド表面の形状を比較した。アルゴンプラズマ処理では窒素プラズマ処理のようにポリイミド表面に微細凹凸が形成されていない。アルゴンプラズマにはポリイミドに対して化学的なエッチング効果がないため、アルゴンプラズマに曝されたポリイミド表面は深さ方向に均一に削られ、微細凹凸が形成されないと考えられる。窒素プラズマ以外でもポリイミドに対して化学的なエッチング効果を有するプラズマであれば、窒素プラズマと同様の微細凹凸形成効果が期待できることは容易に推測できる。
従来法で高い剥離強度を得る方法として例えば特許文献1の方法があるが、ポリイミド表面から0.1μm以上の深さまで銅とポリイミドの混合層を形成する必要があるため、銅薄膜のエッチング加工時に混合層中の銅がエッチング残渣として残りやすく、電気回路パターン内において絶縁不良を生じる可能性があった。しかし、本実施の形態では銅薄膜形成を真空蒸着で行うため銅結晶がポリイミド内部に打ち込まれて形成されることがなく、特許文献1のような混合層が発生しない。そのため、銅薄膜のエッチング加工後に電気配線の絶縁不良を生じないという特徴がある。
本発明では、微細凹凸の深さが0.1ミクロン以下と非常に浅くしても、凹凸間の間隔つまり、凹部間或いは凸部間の間隔を10〜80nmとすることにより、強固な剥離強度を得ることができた。
実施例1に記載のように微細凹凸を形成したポリイミドフィルム上に銅を真空蒸着するだけでも十分な剥離強度を得ることが可能であるが、銅薄膜形成時に銅をイオン化し、基板に負の電圧を印加して銅イオンを基板に打ち込みながら銅薄膜を形成することでより高い剥離強度を得ることが可能である。本実施例では実施例1の方法を更に改良し、より高い剥離強度を得られる方法について詳細に説明する。
図7は、本発明の第2の実施例におけるフレキシブルプリント基板の構成図を示す。
図7において19はプラスチックフィルムであり、18は金属導体層であり、本実施例では銅を使用した。また20はポリイミドフィルム表面に形成された銅を打ち込んだ混合層である。
図8は図7に示すフレキシブルプリント基板の製造手順を示している。また図8に示す製造手順において使用するフレキシブルプリント基板の製造装置を図3に示す。
図3で7は真空チャンバーであり、8はポリイミドフィルムを固定するための導体で構成された基板ホルダーであり、9は導電体で構成された基板ホルダー8に高周波電力を印加する高周波電源であり、10は真空チャンバー7を真空に排気する排気装置であり、11は真空チャンバー7と排気装置10を接続するメインバルブであり、12は金属を加熱蒸発させる蒸着用ボートであり、13は蒸着用金属であり、14は真空チャンバー内に所定のガスを導入するガス導入管であり、15はポリイミドフィルムであり、16は前記ポリイミドフィルムを加熱脱水するための加熱機構であり具体的にはタングステンボートを用いた抵抗加熱機構や赤外線ランプが使用可能である。また17は電気的な接地部である。
図3、図8を用いて図7に示した本発明の構成のフレキシブルプリント基板の製造手順について詳しく説明する。
図8において、最初、ステップ21において、真空チャンバ7内を真空引きする。真空チャンバー7内の圧力は1.0×10-3Pa以下にする。ポリイミドフィルム15は図3に示すように基板ホルダー8に接して固定しておく。
次に図8のステップ22において、ポリイミドフィルム15の脱水を行う。脱水は加熱機構16を用いてポリイミドフィルム15を140℃で3時間加熱した。加熱後に真空チャンバー7内の温度が30℃以下になるまで冷却し、さらに真空チャンバー7内の圧力が1.0×10-4Pa以下になるまで真空引きを行う。
次に図8のステップ23に示すようにポリイミド表面をプラズマ処理する。このプラズマ処理はポリイミド表面を粗化するものである。プラズマ処理時には真空チャンバー7内に純度99.9%以上の窒素ガスを導入し、圧力を5.0×10-2Paにし、安定放電手段によりポリイミドフィルム15を支持する基板ホルダー8に高周波電力を印加する。高周波電力の印加により、真空チャンバー7内にグロー放電が生じ、窒素プラズマが発生する。
図3に示すフレキシブルプリント基板において、窒素プラズマの発生とともにポリイミドフィルム15の極近傍に第1の負のバイアス電圧が誘起され、ポリイミドフィルム15が窒素プラズマ処理される。ポリイミド表面は負のバイアスで加速された窒素イオンが表面に衝突することにより物理的にエッチングされるとともに、窒素プラズマにはポリイミドに対する化学反応性があるため、ポリイミド表面が化学的にもエッチングされる。化学的なエッチング効果によりポリイミドの高分子の一部分が選択的にエッチングされるため、ポリイミド表面には窒素プラズマによりエッチングされやすい部分とエッチングされにくい部分の差に起因した微細な凹凸が形成される。本実施例では第1の負のバイアス電圧を400Vにして10分間のプラズマ処理を行ったが、第1の負のバイアス電圧として基板ホルダー8に印加する高周波電力を調整することにより200Vから1000Vに制御することが可能であり、本実施例の効果と同程度の効果を得ることができる。
次に図8のステップ24において、銅の打ち込みを行うが、本実施例ではステップ25の銅成膜とステップ24の銅の打ち込みを連続して行った。手順及び条件は以下のとおりである。前述の窒素プラズマ処理後に、まず真空チャンバー7内の圧力を1.0×10-4Pa以下まで真空引きする。真空引き後にアルゴンガスを導入し、真空チャンバー7内の圧力を1.0×10-2Paとし、蒸着用ボート12から銅を蒸発させると同時にポリイミドフィルム15を支持する基板ホルダー8に高周波電力を印加する。高周波電圧の印加により真空チャンバー7内にグロー放電が生じ、アルゴンと銅のプラズマがチャンバー内に発生する。アルゴンと銅のプラズマの発生とともにポリイミドフィルム15の極近傍には第2の負のバイアス電圧が誘起されるため、プラズマ中のアルゴンイオンおよび銅イオンは前記第2の負のバイアス電圧で加速されてポリイミドフィルム表面に衝突する。本実施例では第2の負のバイアス電圧を400Vにして銅成膜を行った。銅イオンがポリイミドフィルム表面に衝突して銅薄膜を形成する効果とイオン化していない銅が真空蒸着される効果によりポリイミドフィルム表面に銅薄膜が形成される。
本実施例では銅薄膜を形成させる速度を0.1nm/sec〜1.0nm/secの間で制御した。上記の操作により銅薄膜が形成されるが、銅成膜の初期においてはポリイミド表面にイオン化した銅の一部が打ち込まれることから上記の手順及び条件によりポリイミドの表面に銅の打ち込まれた混合層20が形成され、成膜を続けることで混合層20上に銅薄膜を形成している。
発明者は以下のような銅薄膜の形成メカニズムのために本実施の形態で高い剥離強度を得られると推定している。銅薄膜形成の初期で、第2の負のバイアス電圧により加速された銅イオンはポリイミド表面に衝突し、一部は銅薄膜として表面に付着し、一部はポリイミド内部に打ち込まれ、一部は表面に衝突後反射される。ポリイミド内部に打ち込まれる銅イオンに関して、銅イオンの打ち込まれる深さはフィルムに誘起される第2の負のバイアス電圧の大きさに比例する。第2の負のバイアス電圧が大きいほど銅イオンの打ち込まれる深さは深くなる。銅薄膜形成の過程において初期では前述したように、ポリイミド内部に銅イオンが打ち込まれながらポリイミド表面には銅薄膜が形成される。さらに成膜を続けるとポリイミド表面に打ち込まれた銅イオンの総量が増えて打ち込まれた銅イオンが結合して結晶成長する。ポリイミド表面の銅薄膜は膜厚が厚くなっていく。またポリイミド内部で成長した銅結晶の一部はポリイミド表面の銅薄膜と結合する。ポリイミド内部で成長した銅結晶とポリイミド表面の銅薄膜が結合することで銅薄膜の一部がポリイミド内部に食い込んだ構造になるため、アンカー効果により銅薄膜とポリイミドの密着性が向上する。銅結晶がポリイミド内部の深い部分まで形成されているほど密着性が向上するため、高い密着性を得るためにはポリイミドフィルム15に誘起される第2の負のバイアス電圧を大きな値にすることが効果的である。
しかし銅結晶がポリイミド内部の深い部分にまで形成された構造のフレキシブルプリント基板をエッチング加工して電気回路パターンを形成すると、ポリイミド内部の深い部分の銅結晶はエッチングされにくいため残渣として残りやすくなる。エッチングされずにポリイミド内部に残った銅結晶はポリイミドの絶縁性を低下させ、電気回路パターンの絶縁不良を引き起こす要因となる。そのため剥離強度を向上させながら、電気回路基板としての絶縁性を保つためには、ポリイミド内部への銅結晶の食い込み深さを電気回路パターン作製時のエッチング加工で残渣を残さずにエッチング除去できる一定の深さ範囲に制御する必要がある。
電気回路パターン作成時のエッチング加工で残渣を残さないためには、浅いほうが良く、また、アンカー効果により銅薄膜とポリイミドの密着性を向上させるためには深い方がよく、それぞれの相反する要求より、一定の深さ範囲に制御する。
本実施例の方法で作製したフレキシブルプリント基板では、電子顕微鏡により断面を10万倍の倍率で観察した結果、銅結晶は深さ0.01μm以下の表面付近に形成することにより所望の性能が得られることが判明した。
本実施例の方法で作製した基板では、銅結晶は深さ0.01μm以下の表面付近に形成されていた。本実施の形態の方法で作製されたフレキシブルプリント基板の剥離強度をJIS C6471に示される剥離強度試験法で評価した結果、1.2N/mmである。従来のニッケルやクロムを中間層として使用するフレキシブルプリント基板の剥離強度を同様の方法で評価した場合、剥離強度は0.7N/mmであるため、本発明の方法により従来のフレキシブルプリント基板以上の剥離強度を得られることが分かった。また実施の形態1の方法で作製されたフレキシブルプリント基板と比較しても高い剥離強度が得られている。銅薄膜とポリイミドフィルムの間に混合層を形成したために、アンカー効果により剥離強度が向上したものと考えられる。
特許文献1に記載されている従来の方法では十分な剥離強度を得るためには、0.1μm以上の銅が打ち込まれたポリイミドフィルム表面が改質された混合層が必要であるが、本願発明のフレキシブルプリント基板は、0.01μmという薄い混合層で1.2N/mmの剥離強度が得られる。
本発明の製造方法で得られるフレキシブルプリント基板は、銅成膜前にポリイミド表面を窒素プラズマ処理し、ポリイミド表面に10nmから80nmの間隔を有する多数の微細凹凸を形成しているために特許文献1の条件より薄い改質された混合層でも高い剥離強度が得られている。またさらに、銅イオンを微細凹凸を形成した表面に打ち込んでポリイミドフィルムと銅薄膜の間に両者の材料の混合した混合層領域を形成しているために、アンカー効果により高い剥離強度が得られていると考えられる。
本実施例の方法で作製したフレキシブルプリント基板と本実施例と同じ窒素プラズマ処理後に成膜時のバイアス電圧を1000Vにし0.05μmの深さまで銅イオンを打ち込んだフレキシブルプリント基板に、同じ電気回路パターンをエッチングで形成し、エッチング部の混合層を観察した結果、本実施例の方法で作製したフレキシブルプリント基板では5分で混合層内の銅がエッチング除去されたのに対して、0.05μmの深さまで銅イオンを打ち込んだサンプルでは10分のエッチング時間が必要であった。エッチングには液温40℃の塩化第二鉄液を用いた。
つまり本実施例で作製したフレキシブルプリント基板は混合層を0.1μm以上形成する特許文献1記載の製造方法で作製されたフレキシブルプリント基板に比較して短時間で電気回路パターンをエッチング加工可能であると言える。そのため加工コストが安くなる。さらにエッチング時間が短いため、混合層内の銅をエッチングする間に、エッチング加工が完了している電気回路パターン部の過剰なエッチングによる寸法変化も小さく抑えられる。また容易に混合層内の銅をエッチング除去でき、混合層内に銅がほとんど残留しないため、絶縁性低下による不良も生じにくい。
以上のようにして作製したポリイミド上に銅薄膜を形成した基板を電気回路パターン加工して使用するには銅薄膜の厚みを10μm程度にする必要がある。本実施例では、5000Åの銅薄膜を図3の装置で形成し、その後に電気めっきにより銅薄膜を厚く形成した。電気めっきの銅薄膜形成速度は図3のような真空成膜装置に比較して10倍程度早いために短時間で製品を作製できる。そのため安価に製品作製が可能である。
以上説明したように、本発明のフレキシブルプリント基板は、プラスチックフィルムと金属導体層から形成され、プラスチックフィルムと金属導体層の間に密着性を高めるための接着層や中間層を設けず、窒素プラズマ処理でプラスチックフィルム表面に10nmから80nmの間隔で微細な凹凸形状を設けることにより、プラスチックフィルムに対して所望の密着性を有する金属導体層を形成可能である。そしてプラスチックフィルム表面に改質された混合層の厚さが0.01μm以内の浅い混合層を形成することでさらに高い密着性を得ることが可能であり、エッチング加工後の混合層での絶縁不良をなくすことができるフレキシブルプリント基板を実現することができる。
即ち、所定の剥離強度を有するとともに、混合層が薄いため、エッチング加工後の混合層での絶縁不良をなくすることができるフレキシブルプリント基板を実現することができる。
本発明にかかるフレキシブルプリント基板及びフレキシブル基板の製造方法により、絶縁性に優れ、剥離強度も十分なフレキシブルプリント基板を提供することができ、電子機器内部の電気配線用材料として有用であり、特に微細な電気回路パターンを持つ電子機器内部の電気配線用材料として有用である。
本発明の実施例1におけるフレキシブルプリント基板の断面図
本発明の実施例1におけるフレキシブルプリント基板の製造方法を示すフロー図
本発明の実施例1及び実施例2におけるフレキシブルプリント基板の製造装置を模式的に示す図
本発明の実施例1におけるポリイミドフィルム表面の表面粗さと剥離強度の関係を示す図
本発明の実施例1におけるポリイミドフィルム表面の表面粗さを模式的に示す図
本発明の実施例1におけるポリイミドフィルム表面の表面粗さの分布を示すための図
本発明の実施例2におけるフレキシブルプリント基板の断面図
本発明の実施例2におけるフレキシブルプリント基板の製造方法を示すフロー図
符号の説明
1 プラスチックフィルム
2 金属導体層
7 真空チャンバー
8 基板ホルダー
9 高周波電源
10 排気装置
11 メインバルブ
12 蒸着用ボート
13 蒸着用金属
14 ガス導入管
15 ポリイミドフィルム
16 加熱機構
17 電気的な接地部