JP4209145B2 - 曲げ加工性に優れた高強度りん青銅条 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は端子・コネクタ等の電子部品用に用いられる、高い強度および良好な曲げ加工性を兼ね備えたりん青銅条、さらにそれらを用いた端子・コネクタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子部品の軽薄・短小化の進展は著しく、これに対応し、電子部品用の銅合金条として、より薄い材料が要求されている。材料が薄くなるとコネクタの接圧は低下する。この接圧低下を補うために、材料を高強度化する必要がある。また、電子部品の小型化に伴い、材料に、より微細な加工が施されるため、加工性の向上も必要である。加工性としては、とくに曲げ加工性が重視される。これは、携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ等の高密度実装化の進展に伴い、端子・コネクタ等の金属部材に、より過酷な曲げ成形が行われるためである。
以上のように、端子・コネクタ等で用いられる銅合金条は、高強度化と曲げ性向上という矛盾する課題に直面している。
【0003】
この要求に対し、ベリリウム銅、チタン銅等の高強度型銅合金、また、導電性が要求される部位では、コルソン合金(Cu-Ni-Si)系、クロム銅系(Cu-Cr、Cu-Cr-Zr、Cu-Cr-Sn)等の中強度高導電型銅合金が使用されている。しかし、これら銅合金は電子部品用銅合金として比較的新しいため、市場での需給や流通に制限があり、例えばグローバルスタンダード重視の市場では敬遠される傾向にある。また、その価格はりん青銅、黄銅等の従来型銅合金と比較して高価である。このため、従来銅合金のなかでも比較的優れた機械的強度と加工性を有するりん青銅に対して、強度および加工性のさらなる改良が求められるようになった。
【0004】
りん青銅条は、そのSn濃度に応じ、JIS H3110によってC5210(8%Sn)、C5212(8%Sn)、C5191(6%Sn)、C5102(5%Sn)、C5111(4%Sn)が規格化され、さらにASTMによってC52400(10%Sn)等も規格化されている。一般的に、金属の高強度化の機構として、固溶強化、析出強化、転位強化、粒界強化などがある。りん青銅は固溶強化型銅合金であり、規格化された成分範囲で強度を改善することを前提とすると、転位強化または粒界強化を利用することになる。この観点から、冷間圧延条件または焼鈍条件の最適化による高強度化が図られてきたものの、近年の急速な電子部品の軽薄・短小化の進展のニーズに遅れを取っているのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高い強度と良好な曲げ加工性をあわせ持つりん青銅を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
製造プロセスにより、りん青銅を高強度化するためには、圧延加工度を高くすればよい。しかし、加工度を高くすると曲げ性が低下する。とくに、りん青銅の圧延材の曲げ加工性は、曲げの方向によって異なり、曲げ軸が圧延方向と平行になる方向(Bad Way)の曲げ性が最も悪く、この方向の曲げ加工性の改善が最大の課題である。図1はその様子を示したものであり、通常の8%Snを含有するりん青銅(C5210)における引張強さ(σB)と曲げ性との関係を○のデータで示してある。
【0007】
ここで、曲げ加工性の評価は、日本伸銅協会技術標準“銅および銅合金薄板の曲げ加工性評価方法”(JBMA、T307(1999年))に準じ、Bad way方向に採取した厚み(t)が0.2 mm、幅が10 mm、長さが50 mmの試料に、各種曲げ半径にてW曲げを施し、割れが発生しない最小の曲げ半径(MBR)を求め、MBR/tの値を算出している。また、引張強さは圧延方向に平行に測定したものである。
加工度を高くし高強度化すると曲げ性が低下し、特にσBが750 MPaを超えたところから曲げ性が急激に劣化していることがわかる。σBが850 MPaを超えた材料は極めて脆く、MBR/t=5でも割れが生じている。
【0008】
本発明者らは、8%Snを含有するりん青銅においてσB≧750 MPaにおける曲げ性の急激な劣化を改善すべく、圧延加工度の上昇に伴う組織変化を調査した。その結果、結晶方位の変化に顕著な特徴を見出した。面心立方格子から構成される金属材料を圧延すると、通常は加工度の増加とともに引張強さが上昇し、結晶方位に関しては圧延面における(220)面の集積度が増加する。ところが、図1に●で示すように、従来のりん青銅の場合、引張強さが750 MPaを超えるところから(220)面の集合度が低下した。なお、図1の(220)面の集合度は、銅合金圧延材での主要4面((220)、(111)、(200)、(311))に対する構成比率で定義している。
r(220)= I(220)/(I(220)+I(111)+I(200)+I(311))×100
ここで、I(hkl)は、X線ディフラクトメータでCo管球を使用して測定した(hkl)面のX線回折強度の積分値である。
【0009】
圧延による塑性変形は主としてすべり変形によるものであり、この変形によって圧延面における(220)の集積度が増加する。しかし、加工度が高くなるとすべり変形が困難となり、せん断帯が生じる。せん断帯とは、せん断変形により圧延面と約35°の角度で板幅方向に平行に現われる不均一変形組織であり、結晶方位とは無関係に結晶粒を貫いて生じる。上述した8%Snを含有するりん青銅においてσB≧750 MPaの領域におけるr(220)の低下は、せん断帯の発生によるものであると考えられる。
【0010】
本発明者らは、せん断帯の発達を抑制すると曲げ性が改善されると推定し、圧延条件を適性化することにより、図1の▲で示す方位のりん青銅を得た。すなわち、8%Snを含有するりん青銅においてσB≧750 MPaの範囲において、r(220)を70%以上のレベルに保つことに成功した。図1に△で示すように、このりん青銅の曲げ加工性は、従来の様式で圧延加工したりん青銅と比較し明らかに優れていた。なお、せん断帯の発達を抑制する圧延条件については以下の要因が考えられ、
・圧延油:粘性の低いものがよい
・圧延温度:高い方がよい
・各通板での加工度:低い方がよい
・圧延ロール:直径が小さい方がよい
等により可能である。
【0011】
本発明者らはSn濃度が異なるりん青銅についても同様のデータを採取し、このデータを解析した。その結果、Snが3.5〜11.0 質量%のりん青銅に対し、せん断帯が発達しr(220)の低下が著しい曲げ性の劣化を引き起こすσB の範囲は、Snの質量%濃度([%Sn])を用い、
σB≧550+25 [%Sn]
の関係で与えられることを見出した。また、8%Snの場合と同様に、r(220) を70%以上に制御すれば、従来のりん青銅より優れた曲げ性が得られることを知見した。
【0012】
本発明は以上の知見に基づいて成されたものである。
(1)圧延により厚さ0.4mm以下に加工され、Sn:9.0〜11.0 質量%、P:0.03〜0.35 質量%、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、引張強さ(σB (MPa))がSnの質量%濃度([%Sn])との関係で、
σB ≧550+25[%Sn]
の範囲にある銅合金条において、次式で定義する(220)面の構成比率(r(220)(%))が70%以上であることを特徴とするりん青銅条、
r(220)=I(220)/(I(220)+I(111)+I(200)+I(311))×100
(I(hkl)はCo管球を用いて測定した場合の(hkl)面のX線回折強度の積分値)。
(2)冷間圧延により加工された後、最後に歪取り焼鈍が行われたことを特徴とする(1)のりん青銅条。
(3)(1)、(2)のりん青銅条を用いた端子・コネクタ。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の詳細を以下に説明する。
圧延面における (200) 面の集合度
本発明のりん青銅は、σB≧550+25 [%Sn]の範囲で、(220)面の集合度r(220)が70%以上であることを特徴とする。この場合のr(220)値は、せん断帯の発生度合いの指標である。r(220)が70%より低くなると、曲げ加工性が改善されないため、r(220)を70%以上に規定する。
【0014】
Sn 濃度
上記の関係はSn濃度が3.5〜11.0%の範囲で成り立つ。この範囲でSn濃度が高いほど、同じ曲げ加工性で、より高い強度を得ることができる。したがって、曲げ性を低下させずに強度を改善する手段としてSn濃度を高くすることは有効であるが、原料コストが高くなる、導電率が低下する、鋳塊のSn偏析が顕著になり製造性が低下する等の問題がある。したがって、素材に要求される諸特性、許容できるコスト等を考慮し、Sn濃度が決定されることになる。
Sn濃度が3.5〜11.0 質量%の範囲で、りん青銅はSn濃度に応じて分類され、JISやASTMにより規格化されている。例えば、それぞれのりん青銅に対して、本発明が有効となるσBの範囲を示すと次のようになる。
▲1▼C5111(JIS):[%Sn]=4とおくとσB≧650
▲2▼C5102(JIS):[%Sn]=5とおくとσB≧675
▲4▼C5191(JIS):[%Sn]=6とおくとσB≧700
▲5▼C5210、C5212(JIS):[%Sn]=8とおくとσB≧750
▲6▼C52400(ASTM):[%Sn]=10とおくとσB≧800
【0015】
P 濃度
P濃度は、JISやASTMに規格に従い、0.03〜0.35 質量%の範囲とする。P濃度が低すぎると、りん青鋳塊を溶製する際に、溶湯の脱酸が不十分となり、溶湯の粘度が高くなって、健全な鋳塊を製造しにくくなる。また、条を製造できたとしても、粗大な酸化物介在物が発生し、曲げ性が劣化する。一方、P濃度が高すぎると、導電率が低下する。
【0016】
微量合金元素を含有するりん青銅への適用
σB≧550+25 [%Sn]の範囲でr(220)を70%以上に制御することより曲げ性が向上する効果は、Fe、Ni、Co、Znなどの合金元素を微量に添加し、その特性を微調整したりん青銅でも認められる。ただし、合金元素の添加量が0.5質量%を超えると、σBおよびr(220)に無視できない変化が現われるため、本発明を適用できる合金元素量の範囲は0.5質量%以下である。
【0017】
歪取り焼鈍の効果
りん青銅の圧延材の曲げ加工性は、歪取り焼鈍を行なうことによって向上する。したがって、製造コストの増加が許されるのであれば、歪取り焼鈍を行なうことが望ましい。
【0018】
厚み
条の厚みが0.4 mmより厚くなると微細な曲げ加工が困難となるため、素材の厚みを0.4 mm以下に限定する。
【0019】
【実施例】
表1に示す各種りん青銅について、引張強さと曲げ加工性を評価した。これらりん青銅のP濃度は、Pが曲げ性に影響を及ぼさない0.10〜0.15 質量%の範囲に調整してある。引張強さの評価では、JIS Z2241に準じ、JIS5号引張試験片を用い、圧延方向と平行に引張試験を実施した。
【0020】
曲げ加工性の評価では、日本伸銅協会技術標準“銅および銅合金薄板の曲げ加工性評価方法”(JBMA、T307(1999年))に準じ、Bad way方向に採取した幅10 mm、長さ50 mmの試料に、各種曲げ半径にてW曲げを施した。ただし、図1では割れが発生しない最小の曲げ半径を求めたが、本評価では所定の曲げ半径比(曲げ半径/板厚:r/tで表示)のときの曲げ部外観を、図2に従いA〜Eでランク付けした。また、試料が破断し曲げ部表面を観察できなかった場合をFとした。
【0021】
r(220)評価のためのX線回折では、X線回折装置として(株)リガク製RINT2500を用い、Co管球(λ=17.899 nm)を使用して、管電圧:30 kv、管電流:100 mA、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.3°、発散縦制限スリット:10 mm、モノクロ受光スリット:0.8 mm、走査速度:7°/min、ステップ幅:0.02°の条件で測定を行なった。各面において回折強度を測定した2θの範囲(θは回折角度)は、(111):48.0〜53.0°、(200):56.0〜61.0°、(220):85.5〜90.5°、(311):106.0〜111.0°とし、回折強度の積分値を求めた。以上の条件は、図1の測定においても同じである。
【0022】
【表1】
Figure 0004209145
【0023】
各試料の評価結果を表1に示す。対応関係にあるデータをグループ1〜7に分けて表示している。各グループのなかで比較すると、本発明のりん青銅の曲げ加工性が、従来のりん青銅である比較例の曲げ性より優れていることが明らかである。また、歪取り焼鈍を行なうことにより曲げ性が向上することもわかる。
グループ1とグループ2を比較すると、引張強さが同じ場合には、Sn濃度が高い方が曲げ性が良好であることがわかる。また、グループ3とグループ5を比較すると、Sn濃度を高くすることにより、曲げ性を低下させることなく、引張強さを高めることが可能であることがわかる。このようにSnを増やせば曲げ性を損なうことなく強度を改善することができるが、Sn濃度の上昇とともに導電率が低下し、Snが本発明での上限値である11質量%を超えると導電率は10%IACSを下回る。
【0024】
【発明の効果】
圧延加工度を高くしてりん青銅を高強度化する場合、所定の強度を超えると曲げ性が著しく劣化する。この現象はせん断帯の発生に起因し、せん断帯が発生すると結晶方位に特徴的変化が現われる。以上の知見に基づき、結晶方位を制御することにより、高い強度と良好な曲げ性をあわせ持つりん青銅を得ることに成功した。本発明のりん青銅は、小型電子部品で使用される端子・コネクタ用の素材として好適である。また、本発明のりん青銅は、強度および曲げ性以外の特性が従来のりん青銅と同等であることから、工業的に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】りん青銅の引張り強度と(220)方位の集合度および曲げ加工性との関係を示す図である。
【図2】曲げ部外観の評価基準(日本伸銅協会技術標準T307(1999年))を示す図である。

Claims (3)

  1. 圧延により厚さ0.4mm以下に加工され、Sn:9.0〜11.0質量%、P:0.03〜0.35質量%、残部がCuおよび不可避的不純物よりなり、引張強さ(σB(MPa))がSnの質量%濃度([%Sn])との関係で、
    σB ≧550+25[%Sn]
    の範囲にある銅合金条において、次式で定義する(220)面の構成比率(r(220)(%))が70%以上であることを特徴とするりん青銅条、
    r(220)=I(220)/(I(220)+I(111)+I(200)+I(311))×100
    (I(hkl)はCo管球を用いて測定した場合の(hkl)面のX線回折強度の積分値)。
  2. 冷間圧延により加工された後、最後に歪取り焼鈍が行われたことを特徴とする請求項1のりん青銅条。
  3. 請求項1、2のりん青銅条を用いた端子・コネクタ。
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