JP4237449B2 - アデノウィルスベクター - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、対象の細胞に対して目的の遺伝子を導入する際に使用されるアデノウィルスベクターに関する。
【0002】
【従来技術】
アデノウィルスは、1953年、小児の扁桃腺やアデノイド組織培養液中から分離され、現在までにヒト、トリ、ウシ、サル、イヌ、マウス或いはブタを宿主とする80以上の血清型の存在が明らかにされている。ヒトを宿主とするアデノウィルスについては、これまで50種類以上の血清型が発見されており、その中でも2型と5型とが遺伝子治療用ベクターとして用いられている。
【0003】
5型アデノウィルスはエンベロープを持たず、252個のカプソメアよりなる正20面体構造をしている。そのうち頂点にある12個のカプソメアは突起構造を持ったペントン(ペントンベースとファイバーから成る)と呼ばれ、他の240個はヘキソンと呼ばれる。ウィルスの細胞内への侵入(感染)は、ファイバーが受容体のCARに結合し(詳細については、Bergelson J M ら、Isolation of a common receptor for Coxsackie B viruses and adenoviruses 2 and 5. Science 275:1320-1323, 1997を参照されたい)、その後ペントンベースのRGDモチーフが細胞表面上のインテグリンに結合することによって起こる(Bai M, Harfe B, Freimuth P、Mutations that alter an Arg-Gly-Asp (RGD) sequence in the adenovirus type 2 penton base protein abolish its cell-rounding activity and delay virus reproduction in flat cells. J. Virol. 67: 5198-5205, 1993;Wickham T Jら、Integrins αvβ3 and αvβ5 promote adenovirus internalization but not virus attachment. Cell 73:309-319, 1993)。エンドソームに達したウィルスは酸性条件下でカプシド蛋白質の構造変化を起こし、エンドソームを破壊して、細胞質内に侵入する。従って、細胞表面上の受容体であるCARに、ウィルスのファイバーが結合するのが感染の第一ステップであり、ファイバーを修飾することにより、ベクターの感染域を変えることができると考えられる(Paillard, F.,Dressing up adenoviruses to modify their tropism. Hum. Gene Ther. 10:2575-2576, 1999)。
一方、35型のアデノウィルスは、当初、腎臓移植患者、骨髄移植患者、AIDS患者等の尿中から発見され、その感染により急性出血性膀胱炎を引き起こし、腎臓に感染すると言われている。35型アデノウィルスの感染受容体は現在のところ不明である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、外来遺伝子を目的の細胞に導入する際に用いられるベクターとしては、ヒトを宿主とする2型、5型及び7型アデノウィルス、ヒト以外を宿主とするアデノウィルスでは、サルアデノウィルス、マウスアデノウィルス、イヌアデノウィルス、ヒツジアデノウィルス及びトリアデノウィルス等が知られている。
【0005】
ところが、上述したようなアデノウィルスを用いたベクターには、目的とする細胞の種類によっては感染力が十分でなく、或いは遺伝子導入効率が十分でないため、所期の目的を達成することができないといった問題があった。
そこで本発明は、特定の細胞系統、特に造血細胞に対して優れた遺伝子導入活性を示すアデノウィルスベクターを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成した本発明は、以下を包含する。
(1) 少なくとも、35型アデノウィルスゲノムのE1領域を欠損させてなるE1欠損領域を有する35型アデノウィルスゲノムを含み、当該E1欠損領域を、外来塩基配列の挿入部位とすることを特徴とするアデノウィルスベクター。
【0007】
(2) 少なくとも35型アデノウィルスゲノムのE1領域を欠損させてなるE1欠損領域を含むアデノウィルスベクターを準備する工程と、上記35型アデノウィルスゲノムのE1欠損領域に、外来塩基配列を挿入する工程とを含む組換えアデノウィルスベクターの作製方法。
【0008】
(3) 上記アデノウィルスベクターを準備する工程では、上記E1欠損領域を含む35型アデノウィルスゲノムの一部を準備し、上記外来塩基配列を挿入する工程では、上記35型アデノウィルスゲノムの一部に上記外来塩基配列を挿入し、その後、上記外来塩基配列を挿入した上記35型アデノウィルスゲノムの一部を、35型アデノウィルスゲノムの残りの領域と連結することを特徴とする(2)記載の組換えアデノウィルスベクターの作製方法。
【0009】
(4) 少なくとも35型アデノウィルスゲノムのE1領域を欠損させてなるE1欠損領域を含むアデノウィルスベクターを準備する工程と、上記35型アデノウィルスゲノムのE1欠損領域に、外来塩基配列を挿入し、組換え35型アデノウィルスベクターを調製する工程と、上記組換え35型アデノウィルスベクターを、導入対象の細胞に感染させる工程とを含む遺伝子導入方法。
【0010】
(5) 上記導入対象の細胞は、造血細胞であることを特徴とする(4)記載の遺伝子導入方法。
(6) 上記導入対象の細胞は、CD34+細胞であることを特徴とする(4)記載の遺伝子導入方法。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のアデノウィルスベクターは、少なくとも、35型アデノウィルスゲノムのE1領域を欠損させてなるE1欠損領域を有する35型アデノウィルスゲノムを含むものである。すなわち、本発明のアデノウィルスベクターは、E1欠損領域を有するものであれば、35型アデノウィルスゲノムの一部からなるものであっても良い。また、本発明のアデノウィルスベクターは、E1欠損領域を有する35型アデノウィルスゲノムの全部からなるものであっても良い。
【0012】
E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムの一部からなるアデノウィルスベクターは、例えば、35型アデノウィルスゲノムのE1領域を含む断片を制限酵素で切り出し、当該断片におけるE1領域を欠損させて得たE1欠損領域を所定のベクターに連結することによって得ることができる。具体的には、例えば、35型アデノウィルスゲノムの一部からなるアデノウィルスベクターは、35型アデノウィルスゲノムの塩基配列における400〜2900番目を欠損し(E1欠損領域)、35型アデノウィルスゲノムの塩基配列における1〜8400番目からなるものが挙げられる。
【0013】
ここで、35型アデノウィルスゲノムのE1領域とは、一般に知られているアデノウィルスの増殖に必須なタンパク質であるE1タンパク質をコードする領域を意味する。具体的に、35型アデノウィルスゲノムのE1領域とは、35型アデノウィルスゲノムの塩基配列における400〜2900番目に相当し、制限酵素AccIとPacIとで35型アデノウィルスゲノムを処理したときに生ずる約2.5kbpの断片に存在する。また、E1領域は、35型アデノウィルスゲノムの塩基配列における400〜3400番目に相当し、35型アデノウィルスゲノムを制限酵素AccIとBamHIとで処理したときに生ずる約3.0kbpの断片に存在する。
【0014】
特に、E1欠損領域とは、E1タンパク質をコードする領域を機能的に欠損させた領域を意味する。機能的に欠損させるとは、例えば、宿主細胞内で機能するかたちでE1タンパク質を発現させないことを意味する。したがって、本発明に係るアデノウィルスベクターは、E1領域の全体を欠失している必要はなく、E1領域の一部を有するものであっても良い。すなわち、本発明に係るアデノウィルスベクターは、宿主細胞内で機能するE1タンパク質を発現しなければ、35型アデノウィルスゲノムE1領域の一部を有するものであってもよい。
【0015】
なお、本発明に係るアデノウィルスベクターは、E1欠損領域の他に、E3領域を欠損させた35型アデノウィルスゲノムの一部又は全部であっても良い。35型アデノウィルスゲノムにおけるE3領域は、35型アデノウィルスゲノムをEcoRI及びBamHIで処理し、28300〜30300番目に相当する部位を除くことで欠損させることができる。E1欠損領域の他に、E3領域を欠損させた35型アデノウィルスゲノムを用いることで、サイズが大きい外来塩基配列をE1欠損領域に挿入することができる。
【0016】
さらに、本発明に係るアデノウィルスベクターは、E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムに存在する遺伝子の一部を欠損させることにより免疫反応を減弱させたものであってもよい。言い換えると、本発明に係るアデノウィルスベクターは、E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムの一部からなる、いわゆるgutted(gutless)アデノウィルスベクターであってもよい。
【0017】
また、本発明の組換えアデノウィルスベクターは、E1欠損領域に外来塩基配列を有し、且つ、E1欠損領域を除く35型アデノウィルスゲノムの全部を含むベクターである。この組換えアデノウィルスベクターは、本発明のアデノウィルスベクターを用いて作製することができる。すなわち、E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムの一部を有するアデノウィルスベクター、或いは、E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムの全部を有するアデノウィルスベクターいずれからも作製することができる。
【0018】
E1欠損領域を有し、35型アデノウィルスゲノムの一部を有するアデノウィルスベクターを用いて本発明の組換えアデノウィルスベクターを作製する際には、先ず、アデノウィルスベクターにおけるE1欠損領域に外来塩基配列を挿入した後、35型アデノウィルスゲノムの残りの部分と連結する。これによって、上記外来塩基配列を有する組換えアデノウィルスベクターを作製することができる。また、E1欠損領域を有する35型アデノウィルスゲノムの全部からなるアデノウィルスベクターの場合は、E1欠損領域に外来塩基配列を挿入することによって、上記塩基配列を有する組換えアデノウィルスベクターとすることができる。
【0019】
一般に、アデノウィルスにおいてE1領域を欠損させると、E1タンパク質を発現している細胞(例えば、293細胞)以外で増殖することができない。例えば、遺伝子導入ベクターとして使用されている5型アデノウィルスのE1領域欠損型は、293細胞では増殖することができるが、遺伝子導入標的細胞では増殖できない。
【0020】
35型アデノウィルスにおいてE1領域を欠損させると、5型アデノウィルスのE1タンパク質及びE4タンパク質を発現する細胞において増殖することができるが、E1タンパク質を発現し、E4タンパク質を発現しない細胞では増殖することができない。すなわち、5型アデノウィルスのE1領域欠損型と、E1領域を欠損させてなる35型アデノウィルスとは、増殖の特性が異なっている。
【0021】
E1欠損領域に挿入する外来塩基配列としては、何ら限定されないが、例えば、タンパク質或いはペプチドをコードする塩基配列、所定の遺伝子の制御領域に存在する塩基配列、所定のタンパク質が結合できる塩基配列等、如何なる塩基配列であってもよい。特に、外来塩基配列としては、いわゆる遺伝子治療に効果が認められる、或いは効果があるとされる遺伝子を使用することが好ましい。更に好ましくは、遺伝子治療としては、造血細胞に関する疾患或いは疾病の治療或いは予防、及び、造血細胞に起因する症状の改善を目的とした遺伝子治療を挙げることができる。
【0022】
また、外来塩基配列として、発現を制御するプロモーター配列、ルシフェラーゼをコードする遺伝子及びポリA配列をこの順で有する塩基配列とした場合、遺伝子導入標的細胞における導入効率を、ルシフェラーゼ活性を測定して評価できる。また、ルシフェラーゼをコードする遺伝子に代えて、グリーン蛍光タンパク質(いわゆるGFP)をコードする遺伝子を用いた場合には、遺伝子導入標的細胞におけるグリーン蛍光を測定することで、遺伝子導入標的細胞における導入効率を評価できる。
【0023】
ここで、遺伝子導入標的細胞としては、CD34+細胞或いは造血幹細胞等の造血細胞を使用することが好ましい。造血細胞において、35型アデノウィルスに対する感染受容体は未知である。ルシフェラーゼ遺伝子やGFP遺伝子等の外来塩基配列を有する組換えアデノウィルスベクターは、外来塩基配列の導入量を測定できるため、造血細胞における感染受容体を探求する際に有用なものとなる。
【0024】
なお、35型アデノウィルスがヒトCD34+細胞に対して高い親和性を示し、5型アデノウィルスのキャプシドに35型アデノウィルスのファイバー領域の一部を含むキメラベクター(Ad5/F35)がヒトCD34+細胞に対して高い効率で遺伝子を導入することが知られている(Shayakhmetov, D. M., Papayannopoulou, T., Stamatoyannopoulos, G. & Lieber, A. (2000). Efficient gene transfer into human CD34(+) cells by a retargeted adenovirus vector. J. Virol. 74, 2567-2583.)。
【0025】
これに対して、本発明の組換えアデノウィルスベクターは、ヒトCD34+細胞等の造血細胞に対して高い親和性を持って感染することができるだけでなく、造血細胞に外来ペプチドをコードする塩基配列を効率よく導入することができる。
また、本発明の組換えアデノウィルスベクターは、繰り返し投与時に有用である。一般に用いられている5型アデノウィルスベクターで対象動物に繰り返し投与を行った場合には、対象動物内における抗原抗体反応の結果、投与回数を重ねるに従って遺伝子導入効率が低下してしまうことが知られている。
【0026】
したがって、例えば、一般に用いられている5型アデノウィルスベクターで対象動物に単回投与を行った後、本発明の組換えアデノウィルスベクターで当該対象動物に複数回目の投与を行うことによって、優れた効率で複数回目の投与による遺伝子導入を行うことができる。
【0027】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
〔実施例1〕
35型アデノウィルスベクターの作製
・プラスミドの作製
先ず、35型アデノウィルスゲノムの両末端に、SbfI認識配列及びNotI認識配列を付加したプラスミド(pAdMS1)を作製した。作製手順を図1に示す。
pAdMS1を作製する際には、先ず、35型アデノウィルスをATCC(American Type Culture Collection)から入手した(ATCC番号:VR-718)。入手した35型アデノウィルスをHeLa細胞で増殖させ、CsCl2密度勾配法で精製した。次に35型アデノウィルスをプロテイナーゼKで処理して、35型アデノウィルスのゲノムDNAを単離した。次に、単離したゲノムDNAの5'末端にSbfI部位を付加した後、ゲノムDNAをPacIで処理し、生じた約2.9〜3kbの断片をpFS2ベクターのSbfI/PacI部位にクローニングした。約2.9〜3kbの断片をクローニングしたpFS2ベクターをpFS2-Ad35-5とした。クローニングした約2.9〜3kbの断片は35型アデノウィルスゲノムの5'側のITRを含んでいた。また、単離したゲノムDNAの3'末端にNotI部位を付加した後、ゲノムDNAをEcoRIで処理し、生じた約7kbの断片をpHM15ベクターのEcoRI/NotI部位にクローニングした。約7kbの断片をクローニングしたpHM15ベクターをpHM15-Ad35-1とした。クローニングした約7kbの断片は35型アデノウィルスゲノムの3'側のITRを含んでいた。
【0028】
なお、pFS2ベクターは、pGEM7Zf(+)(プロメガ社製)のXbaI/XhoI/EcoRI/KpnI/SmaI/Csp45I/ClaI/HindIII/BamHI/SacI部位をSbfI/SwaI/PacI/AscI/SgfI/NotI部位に変えたベクターである。pHM15ベクターは、pHM5 (Mizuguchi, H. and Kay, M.A. A simple method for constructing E1 and E1/E4 deleted recombinant adenovirus vector. Hum. Gene Ther., 10, 2013-2017 (1999))のI-CeuI/HindIII/SphI部位をXbaI/AvrII/NheI/SpeI/NotI部位に、PI-SceI部位をPvuII/ApaI/SpeI/NheI/AvrII/XbaI部位に変えたベクターである。
【0029】
次に、これらpFS2-Ad35-5及びpHM15-Ad35-1をそれぞれ、BamHI及びNotIで消化した。これによりpFS2-Ad35-5は、ゲノムDNA由来の領域に存在するBamHI認識部位で切断されて直鎖状となった。一方、定法に従ってpHM15-Ad35-1からは、ゲノムDNA由来の領域を含むBamHI-NotI断片を切り出した。直鎖状となったpFS2-Ad35-5と切り出されたBamHI-NotI断片とを連結することによって得られたベクターをpFS2-Ad35-6とした。
【0030】
次に、得られたpFS2-Ad35-6をBamHIで消化して直鎖状とした。直鎖状としたpFS2-Ad35-6と35型アデノウィルスゲノムのゲノムDNAとを用いて大腸菌BJ5183株に形質転換した。これにより、大腸菌BJ5183株内でpFS2-Ad35-6と35型アデノウィルスゲノムのゲノムDNAとの間で相同組換えが起こる。その後、定法に従って大腸菌BJ5183株からプラスミドを抽出することによりプラスミドpAdMS1を作製した。
【0031】
次に、プラスミドpAdMS1を用いてGFPを発現する組換えアデノウィルスベクターを作製した。作製手順を図2に示す。先ず、35型アデノウィルスのゲノムDNAをPacI及びAscIで消化して当該ゲノムDNAの約2900〜8400番目に相当するPacI/AscI断片を切り出した。次に、pFS2-Ad35-5をAccI及びPacIで消化して35型アデノウィルスのゲノムDNAにおける約400〜2900番目に相当するAccI/PacI断片を除去するとともにAccI認識部位をPacI認識部位に変換した。これを、さらにPacI及びAscIで消化した後、35型アデノウィルスのゲノムDNAの約2900〜8400番目に相当するPacI/AscI断片を連結することにより、当該ゲノムDNAの約1〜8400番目の塩基配列における約400〜2900番目が欠失するとともにAccI認識部位がPacI認識部位に変換された塩基配列を有するプラスミドを構築した。このプラスミドをpFS2-Ad35-7とした。
【0032】
次に、サイトメガロウィルスプロモーター(CMV)、GFP遺伝子及びウシ成長ホルモン(BGH)ポリA配列がこの順で連結されてなるGFP発現カセットを、pFS2-Ad35-7のPacI認識部位に組み込みクローニングした。このプラスミドをpFS2-Ad35-7-GFP1とした。次に、このpFS2-Ad35-7-GFP1及びpAdMS1(図1)を、それぞれSbfI及びAscIで消化し、pFS2-Ad35-7-GFP1におけるGFP発現カセットを含む断片と、pAdMS1におけるSbfI/AscI断片(ゲノムDNAにおける約1〜8400番目に相当)を除いた断片とを連結した。その結果、E1欠損領域にGFP発現カセットを組み込んだ35型アデノウィルスのゲノムDNAを有するプラスミドpAdMS1-GFP1を構築できた。
一方、E1欠損領域にルシフェラーゼ発現カセットを組み込んだ35型アデノウィルスのゲノムDNAを有するプラスミドpAdMS1-L2は、pAdMS1-GFP1と同様にして構築した。
【0033】
・組換えアデノウィルスベクターの構築
得られたpAdMS1-GFP1及びpAdMS1-L2は、以下のように組換えアデノウィルスベクターとして構築した。すなわち、先ず、これらpAdMS1-GFP1及びpAdMS1-L2を、それぞれSbfI及びNotIで消化し、E1遺伝子とともにE4遺伝子を発現する293細胞(VK10-9)へトランスフェクトした。トランスフェクト後、10〜14日で細胞変性効果が観測され、各プラスミド由来のウィルスが増幅していることを確認した。各プラスミド由来のウィルスは、定法(Lieber, A.ら、J. Virol. 70, 8944-8960(1996))に従って精製した。
【0034】
その結果、pAdMS1-GFP1由来のウィルス(Ad35GFP)の収量は、1011ウィルス粒子/mlの濃度で約1.5ml得られた。これは、5型アデノウィルスの場合とほぼ同等又はやや低い収量であった。なお、pAdMS1-L2由来のウィルス(Ad35L)も同様に精製した。以上により、GFP発現カセットが組み込まれた35型アデノウィルスベクター及びルシフェラーゼ発現カセットが組み込まれた35型アデノウィルスベクターを構築することができた。
【0035】
なお、比較のために、通常の5型アデノウィルスベクター(Ad5)及びファイバー領域を35型のファイバーに置換した5型アデノウィルスベクター(Ad5F35)を用いて、GFP発現カセット又はルシフェラーゼ発現カセットを組み込んだベクター(Ad5GFP及びAd5F35GFP)を構築した。
【0036】
Ad35GFPに関してプラーク形成単位(PFU)とウィルス粒子力価との比率は1:133であり、Ad5F35GFPに関して当該比率は1:24であり、Ad5GFPに関して当該比率は1:56であり、Ad35Lに関して当該比率は1:225であり、Ad5F35Lに関して当該比率は1:13であり、Ad5Lに関して当該比率は1:13であった。なお、PFUの測定は、Kanegae Y et al Jpn. J. Med. Sci. Biol. 1994;47:157-166に記載された方法に準じて行った。ウィルス粒子力価の測定は、Maizel Jv et al Virology. 1968;36:115-125に記載された方法に準じて行った。
【0037】
・血球細胞に対する遺伝子導入実験
上記で構築された組換えアデノウィルスベクター(Ad35GFP及びAd35L)を用いて血球細胞への遺伝子導入を行った。血球細胞としては、ヒトCD34+細胞(バイオホイッタカー社より入手)を用いた。製造元の取扱説明書によれば、95%以上の細胞がCD34陽性であった。
【0038】
遺伝子導入実験開始16〜20時間前に、ヒトCD34+細胞を凍結保存状態から回復させ、StemSpan(商標)2000(ステム・セル・テクノロジー社より入手)に溶解した。なお、StemSpan(商標)2000にサイトカインカクテルStemSpan(商標)CC100(ヒトflt-3リガンド(100ng/ml)、ヒト幹細胞因子(100ng/ml)、ヒトインターロイキン-3(20ng/ml)及びヒトインターロイキン-6(100ng/ml))を加えて実験に用いた。その後、ヒトCD34+細胞を、24ウェルプレートに1×105cell/wellとなるように播種した。そして、Ad35GFP、Ad5GFP及びAd5F35GFPをそれぞれ3、30及び300PFU/cellの濃度となるように希釈し、各濃度でAd35GFP、Ad5GFP及びAd5F35GFPを用いてヒトCD34+細胞に対して遺伝子導入を行った。
48時間後、ヒトCD34+細胞内におけるGFP遺伝子の発現を、CellQuestソフトフェア(ベクトン・ディキンソン社製)を用いたFACScaliburフローサイトメータでフローサイトメトリーによって解析した。結果を図3に示す。
【0039】
また、Ad35L、Ad5L及びAd5F35Lを用いる場合には、ヒトCD34+細胞を96ウェルプレートに1×104cell/wellとなるように播種し、Ad35L、Ad5L及びAd5F35Lそれぞれ3、30、100及び300PFU/cellの濃度、並びに300、3000、6000及び9000ベクター粒子/cellの濃度となるように希釈し、各濃度でAd35L、Ad5L及びAd5F35Lを用いてヒトCD34+細胞に対して遺伝子導入を行った。48時間後、ヒトCD34+細胞内におけるルシフェラーゼ遺伝子の発現を、ルシフェラーゼアッセイシステム(Pica gene LT2.0、東洋インキ社製)を用いて評価した。結果を図4に示す。なお、図4において「B-1」は各ウィルスを3、30、100及び300PFU/cellの濃度で用いたときの結果を示し、「B-2」は各ウィルスを300、3000、6000及び9000ベクター粒子/cellの濃度で用いたときの結果を示している。
【0040】
・各ウィルスによる血球細胞に対する遺伝子導入実験の評価
図3に示した結果から、Ad35GFPを用いた場合には、Ad5GFP及びAd5F35GFPを用いた場合と比較して、最も高い効率でGFP遺伝子を導入できることが判った。特に、Ad35GFPを300PFU/cell濃度で用いた場合には、59%のヒトCD34+細胞でGFP遺伝子を発現していた。同濃度でAd5GFPを用いた場合には5%のヒトCD34+細胞でGFP遺伝子を発現しており、同濃度でAd5F35GFPを用いた場合には52%のヒトCD34+細胞でGFP遺伝子を発現していた。Ad35GFPを用いた場合の蛍光強度平均値(MFI)は、Ad5GFPを用いた場合と比較して10〜70倍、Ad5F35GFPを用いた場合と比較して2〜3倍であった。
【0041】
また図4「B-1」に示した結果から、Ad35Lを用いた場合のルシフェラーゼ発現量は、Ad5Lを用いた場合と比較して1000〜3000倍、Ad5F35Lを用いた場合と比較して15〜100倍であった。なお、E4遺伝子産物を発現する293細胞は、5型アデノウィルスの場合とは異なり、35型アデノウィルスを完全に産生しないと考えられたため、図4「B-1」に示したように、PFU価による遺伝子導入効率は、Ad35Lについては過小評価される可能性がある。そこで、300、3000、6000及び9000ベクター粒子/cellの各濃度で遺伝子導入効率を評価した。その結果、Ad35Lは、図4「B-2」に示したように、3000ベクター粒子/cell以上の濃度でAd5L及びAd5F35Lと比較して、高い遺伝子導入効率を示した。
【0042】
以上の結果から、Ad35を用いたヒトCD34+細胞に対する遺伝子導入は、Ad5或いはAd5F35を用いた遺伝子導入と比較して、非常に優れた効率を達成することができた。このことから、Ad35を用いた遺伝子導入は、特に、造血幹細胞等の血球細胞に対して有効であることが示された。
【0043】
・Ad35を用いたin vivo繰り返し投与実験
本例では、1回目の投与としてAd5を用いた遺伝子導入及び続く2回目の投与としてAd35を用いた遺伝子導入からなるin vivo繰り返し投与実験を行い、Ad35の有用性を検討した。
実験動物としては、マウス(C57B6、日本SLCより入手)を用いた。また1回目の投与にはAd5Lを用いた。2回目の投与には、上述した手法に準じ、ヒト分泌性アルカリフォスファターゼ(SEAP)発現カセット(RSVSEAP1)を組み込んだAd35(Ad35RSVSEAP1)を用いた。RSVSEAP1は、ラウス肉腫ウィルス(RSV)プロモーター、SEAP遺伝子及びBGHポリA配列がこの順で連結されてなる。また、比較としては、2回目の投与にRSVSEAP1を組み込んだAd5(Ad5RSVSEAP1)を用いた。in vivo繰り返し投与実験は以下の手順で行った。
【0044】
先ず、1回目の投与としてAd5Lを1.5×1010 ベクター粒子/Miceの投与量で尾静脈内投与した。一回目投与より14日後、Ad5RSVSEAP1もしくはAd35RSVSEAP1を1.5×1010 ベクター粒子/Miceの投与量で筋肉内投与した。二回目の投与より二日後、眼より採血し、血清中のヒト分泌性アルカリフォスファターゼ量(SEAP量)を測定した。SEAP量は、Great EscAPe SEAP Chemiluminescence Detection Kit (クロンテック社より入手)を用いて測定した。またコントロール群としては、一回目投与時には何も投与せず二回目投与時にAd5RSVSEAP1もしくはAd35RSVSEAP1を筋肉内投与した。
【0045】
結果を図5に示す。なお、図5の各データは、4回ずつ行った試験の平均値±S.D.として示している。縦軸に示すSEAP量はコントロール群のSEAP量を100%としたときの相対値である。図5に示すように、1回目投与及び2回目投与においてAd5を用いた場合には、1回目未投与群(コントロール群)と比較して、2回目の投与に起因するSEAP量が5%以下に低下している。これに対して、1回目投与においてAd5を用い、2回目投与においてAd35を用いた場合には、1回目未投与群(コントロール群)と比較して、2回目の投与に起因するSEAP量がほぼ同等であった。このように、1回目の投与による遺伝子導入を一般に用いられているAd5等のアデノウィルスベクターを用い、複数回目の投与による遺伝子導入をAd35を用いることによって、投与回数を重ねるに従って遺伝子導入効率が低下してしまう不都合を回避でき、優れた効率で複数回目の投与による遺伝子導入を行うことができることが示された。
【0046】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、特定の細胞系統、特に造血細胞に対して優れた遺伝子導入活性を示すアデノウィルスベクター、その作製方法及び遺伝子導入方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 35型アデノウィルスゲノムを有するプラスミドpAdMS1の構築過程を示す図である。
【図2】 GFP発現カセットを有するAd35GFPの構築過程を示す図である。
【図3】 Ad5GFP、Ad5F35GFP及びAd35GFPを用いた遺伝子導入の結果の蛍光強度を示す特性図である。
【図4】 Ad5L、Ad5F35L及びAd35Lを用いた遺伝子導入の結果のルシフェラーゼ活性を示す特性図である。
【図5】 Ad35を用いたin vivo繰り返し投与実験の結果を示す特性図である。

Claims (5)

  1. 少なくとも35型アデノウィルスゲノムのE1領域を欠損させてなるE1欠損領域を含むアデノウィルスベクターを準備する工程と
    上記35型アデノウィルスゲノムのE1欠損領域に、外来塩基配列を挿入し、組換え35型アデノウィルスベクターを調製する工程と、
    上記組換え35型アデノウィルスベクターを、ヒト生体内の細胞を除く、導入対象の細胞に感染させる工程と
    を含む遺伝子導入方法。
  2. 上記導入対象の細胞は、造血細胞であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入方法。
  3. 上記導入対象の細胞は、CD34+細胞であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入方法。
  4. 上記導入対象の細胞は、5型アデノウィルスベクターにより遺伝子が導入された細胞であることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入方法。
  5. 35型アデノウィルスゲノムからE1領域を欠損させた、或いは35型アデノウィルスゲノムからE1領域を欠損させるとともに当該領域に外来塩基配列を挿入した組換え35型アデノウィルスベクターを有するプラスミドを準備する工程と、
    上記プラスミドを、5型アデノウイルスのE1タンパク質及び5型アデノウイルスのE4タンパク質を発現した、ヒト生体内の細胞を除く細胞に導入し、上記細胞において組換え35型アデノウィルスベクターを増殖する工程と
    を含む組換え35型アデノウィルスベクターの作製方法。
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