本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧縮比を変更することが可能な可変圧縮比内燃機関において、該内燃機関の停止前に、該内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となるべき気筒に燃料を供給しておくとともに、次回の始動時には該気筒に対して着火し燃焼させる停止始動制御を行う場合に、前記内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となる気筒に供給された燃料が、前記内燃機関の停止中に該気筒から漏れ出ることを抑制できる技術を提供することである。
上記目的を達成するための本発明は、可変圧縮比内燃機関の停止前に、該内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となるべき気筒に燃料を供給しておくとともに、次回の始動時にはその気筒に着火し燃焼させる停止始動制御を行う場合に、前記内燃機関の停止中においては、圧縮比を所定の低圧縮比である停止時圧縮比とすることにより、前記燃
料が供給された気筒の筒内圧を低減させることを最大の特徴とする。
より詳しくは、内燃機関の圧縮比を変更可能な圧縮比変更機構と、
前記内燃機関の停止前に、前記内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となるべき気筒に対して燃料を供給するとともに、前記内燃機関の始動時に、前記燃料が供給された気筒に着火し燃焼させる始動時着火手段と、
を備えた可変圧縮比内燃機関において、
前記内燃機関の停止中の少なくとも一部の期間においては、前記圧縮比変更機構によって、圧縮比が所定の停止時圧縮比とされることを特徴とする。
ここで、上記の可変圧縮比内燃機関において、機関停止指令が出された場合には、まず、各気筒の点火栓の作動が停止される。そして、次回の始動開始時において圧縮行程または膨張行程となるべき気筒(以下、「始動時密閉気筒」)に対しては、燃料噴射弁から燃料噴射が行われる。そうすると、該始動時密閉気筒において混合気が形成される。但し、点火栓の作動が既に停止されているため、形成された混合気は燃焼しない。
その後、クランク軸の回転が停止して内燃機関が停止する。この際には、前記始動時密閉気筒は既に圧縮行程または膨張行程となっており、該気筒内に未燃の混合気が封入された状態となる。その後、機関の始動指令が出された時には、始動時密閉気筒の点火栓を作動させて、始動時密閉気筒内に封入されている未燃混合気を燃焼させる。
このように始動時密閉気筒において混合気が燃焼すると、その際に発生する燃焼圧力が機関出力軸を回転させるよう作用するため、前記内燃機関をクランキングさせる際に必要となるトルクが低減される。この結果、スタータモータやモータジェネレータ等のような始動装置にかかる負荷が低減される。
このような停止始動制御(以下、「着火併用停止始動制御」という。)を行う場合において、前記内燃機関が停止する際には、始動時密閉気筒内に、クランクなどの慣性力と釣り合うだけの筒内圧が残ることになる。そうすると、前記内燃機関の停止中は、前記始動時密閉気筒の筒内圧が高い状態が継続することとなり、前記内燃機関の停止時間が長時間になった場合などには、前記始動時密閉気筒に供給された燃料が、ピストンとボアの間の隙間などからクランクケース側に漏れ出る量が多くなる場合があった。
そうすると、始動時密閉気筒内に残存する燃料量が減少し、次回の始動開始時に始動時密閉気筒の点火栓を点火したとしても、充分な燃焼を起すことができず、内燃機関の始動性が悪化する場合があった。また、前記始動時密閉気筒から漏れ出た燃料によってエミッションが悪化する場合があった。
そこで、本発明においては、前記内燃機関の停止中は、前記内燃機関の圧縮比を所定の低圧縮比である停止時圧縮比とすることにより、前記始動時密閉気筒の筒内圧を低下させることとした。そうすれば、前記始動時密閉気筒から燃料が漏れ出る量を抑制することができ、次回の始動時における前記内燃機関の始動性の悪化を抑制できるとともに、前記始動時密閉気筒から漏れ出た燃料によるエミッションの悪化を抑制することができる。
ここで、所定の停止時圧縮比とは、前記内燃機関の圧縮比をこの圧縮比とすれば、前記始動時密閉気筒から漏れ出る燃料の量が減少することによって、次回の始動時における前記内燃機関の始動性の悪化や、エミッションの悪化が問題とならなくなる圧縮比であり、予め実験的に求められるようにしてもよい。
またここで、前記内燃機関の停止前とは、前記内燃機関において機関停止指令が出され
てからクランク軸が停止するまでの期間をいう。また、前記内燃機関の始動開始時とは、始動時密閉気筒において着火燃焼されるか、スタータモータまたはモータジェネレータなどの始動装置に通電されることによってクランク軸の回転が開始する時点をいう。また、前記内燃機関の停止中とは、クランク軸が停止した後、次回の始動開始時までの期間をいう。さらに、前記内燃機関の始動時とは、前記内燃機関の始動開始時を含む前後の期間であって、前記内燃機関が停止している状態から自発運転可能になるまでの一連の期間をいう。
また、本発明においては、前記停止時圧縮比は、始動時密閉気筒における筒内圧と、前記内燃機関におけるクランクケースの内圧とが同等となる圧縮比としてもよい。そうすれば、前記始動時密閉気筒の筒内圧とクランクケースの内圧との差圧が無くなるので、前記始動時密閉気筒からクランクケース側へ漏れ出る燃料の量は大幅に減少する。
この場合、具体的には、始動時密閉気筒における筒内圧及び、クランクケースの内圧をモニターしておき、両者が同等になるまで圧縮比を変化させてもよい。あるいは、前記内燃機関の停止前の所定時期における圧縮比(例えば、始動時密閉気筒に燃料を供給した後、始動時密閉気筒が圧縮行程となる時点での圧縮比)と、クランク軸の停止後に始動時密閉気筒の筒内圧をクランクケースの内圧と同等にすべき停止時圧縮比との関係を格納したマップを予め作成しておき、前記内燃機関の停止前の所定時期における圧縮比を検出した上で、該マップから停止時圧縮比の値を読み出すようにしてもよい。この場合、さらにクランク軸が停止した時点におけるクランク角を検出し、検出されたクランク角によって、前記マップから読み出された停止時圧縮比の値を最適化するようにしてもよい。
また、特に前記内燃機関の圧縮比変更機構による圧縮比の変更範囲が、前記始動時密閉気筒における筒内圧と、クランクケースの内圧とが同等となる圧縮比を含んでいない場合などには、前記停止時圧縮比は、前記圧縮比変更機構によって変更可能な最低の圧縮比としてもよい。そうすれば、始動時密閉気筒の筒内圧とクランクケースの内圧との差圧によって、始動時密閉気筒からクランクケース側へ漏れ出る燃料の量を可及的に減少させることができる。
また、本発明においては、前記内燃機関の停止前の所定期間において、前記圧縮比変更機構によって、圧縮比が前記停止時圧縮比より高い所定の停止前圧縮比とされるようにしてもよい。
ここで、前記内燃機関の停止前の所定期間とは、始動時密閉気筒に燃料を供給した後、始動時密閉気筒が圧縮行程となる時点を含む期間をいう。すなわち、この期間における圧縮比を常に同一の停止前圧縮比とし、停止時圧縮比の値をこの停止前圧縮比との対応において、始動時密閉気筒の筒内圧がクランクケースの内圧と同等となる圧縮比として予め決定しておけば、前記内燃機関の停止毎に圧縮比を検出したり、マップから読み出したりする必要がなくなり、簡単な制御によって、前記内燃機関の停止中に始動時密閉気筒から漏れ出る燃料の量を減少させることができる。
この場合においても、さらにクランク軸が停止した時点におけるクランク角を検出し、検出されたクランク角によって停止時圧縮比の値を最適化するようにしてもよい。
あるいは、前記内燃機関の停止時におけるクランク軸の停止位置も一定となるようにしてもよい。すなわち、前記内燃機関の停止時においては、前記スタータモータまたはモータジェネレータによって、クランク軸が必ず一定の場所で停止するようにしてもよい。そうすれば、前記内燃機関の停止時における始動時密閉気筒の筒内圧を略完全に一定値とすることができ、前記停止時圧縮比の値を停止前圧縮比との関係において予め一定値として
設定することにより、簡単な制御で、より正確に、前記内燃機関の停止中における始動時密閉気筒の筒内圧をクランクケースの内圧と等しくすることができる。
また、前記停止前圧縮比の値は、前記圧縮比変更機構によって変更可能な圧縮比の範囲の中で、中圧縮比から高圧縮比の範囲で設定するようにしてもよい。そうすれば、前記内燃機関の停止前圧縮比が、前記圧縮比変更機構によって変更可能な最低の圧縮比に近い圧縮比であり、前記内燃機関の停止中において、圧縮比をそれ以上低く出来ないという事態を避けることができる。
また、本発明においては、前記内燃機関の始動時の所定期間において、前記圧縮比変更機構によって、圧縮比が前記停止時圧縮比より高い始動時圧縮比とされるようにしてもよい。
すなわち、前記内燃機関の始動時においては前記内燃機関に要求される運転状態が低負荷の状態であることが多いので、前記内燃機関の圧縮比が過度に低い場合には、前記内燃機関の始動性を向上させることが困難となる場合や、暖機を促進することが困難となる場合がある。このような事態を避けるために、前記内燃機関の始動時の所定期間において圧縮比を前記停止時圧縮比より高い始動時圧縮比とするようにしてもよい。
ここで、始動時圧縮比とは、前記内燃機関の停止前に始動時密閉気筒に供給された燃料が、充分に始動時密閉気筒内に残存していると仮定した場合に、前記内燃機関において充分な始動性が確保され、または暖機を促進できる圧縮比であり、予め実験的に求めるようにしてもよい。
そうすれば、次回の内燃機関の始動時における始動性をより確実に向上させることができる。
またここで、前記内燃機関の始動時の所定期間とは、少なくとも始動時密閉気筒への最初の着火が行われる時期を含む期間としてもよい。また、他の複数の気筒への着火が行われる期間を含む期間としてもよい。さらに、前記内燃機関の始動開始後、自発運転可能となるまでの期間としてもよい。
また、本発明においては、前記内燃機関の出力軸と機械的に連動する出力軸を有する駆動用モータジェネレータと、
前記内燃機関の始動時の第1所定期間において、前記内燃機関の気筒への吸入空気量を低減する吸入空気量低減手段と、
をさらに備え、
前記第1所定期間と重複期間を有する第2所定期間において、前記圧縮比変更機構によって、圧縮比が前記停止時圧縮比より高い第2始動時圧縮比とされるようにしてもよい。
ここで、前記内燃機関の出力軸とモータジェネレータの出力軸が機械的に連動しており、クラッチを備えない構成について考える。その場合は、前記内燃機関の始動時において、前記モータジェネレータの負荷が大きくなり、また回転体全体の質量が大きいために共振が生じるなどして、前記内燃機関の振動が大きくなる場合があった。
そのことへの対策として、前記内燃機関の始動時における第1所定期間において、前記内燃機関の気筒への吸入空気量を低減することにより、前記モータジェネレータの負荷を低減し、共振を抑える制御が行われる場合がある。具体的には、例えば可変動弁機構(以下「VVT(Variable valve timing)機構」という。)によって吸気弁の開弁時期を遅らせて吸入空気量を低減する制御などが挙げられる。
しかし、そのような場合は、モータジェネレータの始動時の回転数を高回転数としない限り、前記内燃機関の各気筒における筒内圧を、該気筒において着火可能な最低の筒内圧である着火可能限界圧力まで上昇させることが困難となる場合がある。その結果、モータジェネレータの始動時における回転数を高回転数とすることにより内燃機関を含めたシステム全体の効率が低下したり、安定した始動が困難になったりする場合があった。
一方、内燃機関の始動時における筒内圧を上昇させる場合に、吸入空気量を増加させて筒内圧と上昇させた場合と比較して、圧縮比を増加させて筒内圧を増加させた場合の方が、始動時における内燃機関の振動を抑えられる場合があることが実験的に判っている。
そこで、本発明における前記内燃機関が上記のような構成である場合には、前記第1所定期間と重複期間を有する第2所定期間において、前記内燃機関の圧縮比を、前記停止時圧縮比より高い第2始動時圧縮比とすれば、モータジェネレータの始動時における回転数を過度に高回転にさせることなく、前記内燃機関の始動時における筒内圧を前記着火可能限界圧力まで上昇させることができる。
その結果、前記内燃機関の始動時における振動を抑制しつつ、内燃機関を含むシステム全体における始動時の効率を向上させ、安定した始動を可能とすることができる。
ここで、前記内燃機関の始動時の第1所定期間とは、前記内燃機関の始動開始時から自発運転可能となるまで期間としてもよい。また、前記第2所定期間とは、前記第1所定期間と重複する期間を少なくとも有する期間である。例えば、少なくとも始動時密閉気筒への最初の着火が行われる時期を含む期間としてもよい。また、他の複数の気筒への着火が行われる期間を含む期間としてもよい。さらに、前記内燃機関の始動開始後、自発運転可能となるまでの期間としてもよい。
また、第2始動時圧縮比とは、前記内燃機関の停止前に始動時密閉気筒に供給された燃料が、充分に始動時密閉気筒内に残存していると仮定した場合に、前記内燃機関において充分な始動性が確保され、または暖機を促進できる圧縮比であり、且つ、前記VVT機構によって前記内燃機関の始動時における吸入空気量を減少させた場合に、モータジェネレータの始動時における回転数を充分高い効率と安定性をもって内燃機関が始動可能な範囲とした上で、前記内燃機関の気筒の筒内圧を着火可能限界圧力以上に高めることができる圧縮比としてもよい。この第2始動時圧縮比は予め実験的に求めるようにしてもよい。
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
本発明にあっては、圧縮比を変更することが可能な可変圧縮比内燃機関において、該内燃機関の停止前に、該内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となるべき気筒に燃料を供給しておくとともに、次回の始動時には該気筒に対して着火し燃焼させる停止始動制御を行う場合に、前記内燃機関の始動開始時に圧縮行程または膨張行程となる気筒に供給された燃料が、前記内燃機関の停止中に該気筒から漏れ出ることを抑制できる。
以下に説明する内燃機関1は、可変圧縮比内燃機関であり、シリンダ2を有するシリンダブロック3を、ピストンが連結されたクランクケース4に対してシリンダ2の中心軸方向に移動させることによって圧縮比を変更するものである。
先ず、図1を用いて、本実施例に係る可変圧縮比内燃機関及び圧縮比変更機構の構成について説明する。図1に示されるように、シリンダブロック3の両側下部に複数の隆起部が形成されており、この各隆起部に軸受収納孔5が形成されている。軸受収納孔5は、円形をしており、シリンダ2の軸方向に対して直角に、かつ複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。軸受収納孔5はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側の軸受収納孔5の一対の軸線は平行である。
クランクケース4には、上述した軸受収納孔5が形成された複数の隆起部の間に位置するように、立壁部が形成されている。各立壁部のクランクケース4外側に向けられた表面には、半円形の凹部が形成されている。また、各立壁部には、ボルト6によって取り付けられるキャップ7が用意されており、キャップ7も半円形の凹部を有している。また、各立壁部にキャップ7を取り付けると、円形のカム収納孔8が形成される。カム収納孔8の形状は、上述した軸受収納孔5と同一である。
複数のカム収納孔8は、軸受収納孔5と同様に、シリンダブロック3をクランクケース4に取り付けたときにシリンダ2の軸方向に対して直角に、且つ、複数のシリンダ2の配列方向に平行になるようにそれぞれ形成されている。これらの複数のカム収納孔8も、シリンダブロック3の両側に形成されることとなり、片側の複数のカム収納孔8はすべて同一軸線上に位置している。そして、シリンダブロック3の両側のカム収納孔8の一対の軸線は平行である。また、両側の軸受収納孔5の間の距離と、両側のカム収納孔8との間の距離は同一である。
交互に配置される二列の軸受収納孔5とカム収納孔8には、それぞれカム軸9が挿通される。カム軸9は、図1に示されるように、軸部9aと、軸部9aの中心軸に対して偏心された状態で軸部9aに固定された正円形のカムプロフィールを有するカム部9bと、カム部9bと同一外形を有し軸部9aに対して回転可能に取り付けられた可動軸受部9cとが交互に配置されている。一対のカム軸9は鏡像の関係を有している。また、カム軸9の端部には、後述するギア10の取り付け部9dが形成されている。軸部9aの中心軸と取り付け部9dの中心とは偏心しており、カム部9bの中心と取り付け部9dの中心とは一致している。
可動軸受部9cも、軸部9aに対して偏心されておりその偏心量はカム部9bと同一である。また、各カム軸9において、複数のカム部9bの偏心方向は同一である。また、可動軸受部9cの外形は、カム部9bと同一直径の正円であるので、可動軸受部9cを回転させることで、複数のカム部9bの外表面と複数の可動軸受部9cの外側面とを一致させることができる。
各カム軸9の一端にはギア10が取り付けられている。一対のカム軸9の端部に固定された一対のギア10には、それぞれウォームギア11a、11bがかみ合っている。ウォームギア11a、11bは単一のモータ12の一本の出力軸にとりつけられている。ウォームギア11a、11bは、互いに逆方向に回転する螺旋溝を有している。このため、モータ12を回転させると、一対のカム軸9は、ギア10を介して互いに逆方向に回転する。モータ12は、シリンダブロック3に固定されており、シリンダブロック3と一体的に移動する。
次に、上述した構成の内燃機関1において圧縮比を制御する方法について詳しく説明す
る。図2(a)から図2(c)にシリンダブロック3と、クランクケース4と、これら両者の間に構築されたカム軸9との関係を示した断面図を示す。図2(a)から図2(c)において、軸部9aの中心軸をa、カム部9bの中心をb、可動軸受部9cの中心をcとして示す。図2(a)は、軸部9aの延長線上から見て全てのカム部9b及び可動軸受部9cの外周が一致した状態である。このとき、ここでは一対の軸部9aは、軸受収納孔5及びカム収納孔8の中で外側に位置している。
図2(a)の状態から、モータ12を駆動して軸部9aを矢印方向に回転させると、図2(b)の状態となる。このとき、軸部9aに対して、カム部9bと可動軸受部9cの偏心方向にずれが生じるので、クランクケース4に対してシリンダブロック3を上死点側にスライドさせることができる。そして、そのスライド量は図2(c)のような状態となるまでカム軸9を回転させたときが最大となり、カム部9bや可動軸受部9cの偏心量の2倍となる。カム部9b及び可動軸受部9cは、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で回転し、それぞれカム収納孔8及び軸受収納孔5の内部で軸部9aの位置が移動するのを許容している。
上述したような機構を用いることによって、シリンダブロック3をクランクケース4に対して、シリンダ2の軸線方向に相対移動させることが可能となり、圧縮比を可変制御することができる。
次に、図3を用いて本実施例における内燃機関1の詳細について説明する。図3において、シリンダブロック3の上側には、その一部が燃焼室の天面を形成するシリンダヘッド15が取り付けられている。シリンダヘッド15には、点火栓29の他、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されており、吸気ポート16及び排気ポート17の、燃焼室への開口部には、それぞれ吸気弁18及び、排気弁19が往復運動可能に備えられている。
そして、吸気弁18及び排気弁19の各々の上方には、クランク軸26の回転に同期して回転することにより、吸気弁18及び排気弁19の上端部を押圧して開弁させるための吸気弁用カム20、排気弁用カム21が設けられている。また、シリンダヘッド15における、燃焼室の天面を形成する部分には、気筒2の筒内圧を検出する筒内圧センサ22が備えられており、シリンダブロック3には、クランクケース4側の内圧を検出する内圧センサ23が備えられている。
また、内燃機関1のクランク軸26には、ベルト27を介して、モータジェネレータ28の出力軸が連結されている。このモータジェネレータ28は、例えば、内燃機関1が減速運転状態にあるとき等にはジェネレータとして作動する。この場合、クランクシャフト26の回転トルクがベルト27を介してモータジェネレータ28の出力軸に伝達される。モータジェネレータ28は、出力軸の運動エネルギを電気エネルギに変換することにより発電を行う。
一方、内燃機関1の始動時などには、モータジェネレータ28はモータとして作動する。この場合、モータジェネレータ28が出力軸を回転駆動することにより、回転トルクがベルト27を介してクランクシャフト26へ伝達される。
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)35が併設されている。このECU35は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態等を制御する他、内燃機関1の圧縮比の制御を行うユニットである。
ECU35には、筒内圧センサ22、内圧センサ23の他、内燃機関1の運転状態の制
御に係るセンサ類が電気配線を介して接続され、それらの出力信号がECU35に入力されるようになっている。一方、ECU35には、内燃機関1内の図示しない燃料噴射弁等が電気配線を介して接続される他、本実施例における圧縮比の制御のためのモータ12やモータジェネレータ28が電気配線を介して接続されており、ECU35によって制御されるようになっている。
また、ECU35には、CPU、ROM、RAM等が備えられており、ROMには、内燃機関1の種々の制御を行うためのプログラムや、データを格納したマップが記憶されている。本実施例において後述する圧縮比の制御を行うためのプログラムも、ECU35のROMに記憶されているプログラムの一つである。
次に、図4を用いて、内燃機関1の停止時及び始動時における従来の制御について説明する。図4は、内燃機関1において始動時のモータジェネレータ28への負荷を低減するための着火併用停止始動制御を説明するための図である。図4の時点t1において、内燃機関1の停止指令がECU35によって出されたとする。その場合、本実施例における着火併用停止始動制御においては内燃機関1の各気筒における点火栓29の点火動作のみが停止する。そうすると、内燃機関1において燃焼が行われなくなるので、内燃機関1の回転数は減少する。
内燃機関1の回転数が減少する過程において、次回の内燃機関1の始動開始時において圧縮工程または膨張行程にあると予測される気筒2(以下、「始動時密閉気筒2a」という。)に対しては燃料噴射が行われ、図4(a)に示すように吸気行程において燃料が気筒内に供給される。そうすると、時点t1以降、始動時密閉気筒2aには燃料が封入されたまま内燃機関1の回転数は減少する。そして、始動時密閉気筒2aの圧縮行程において、筒内圧が増大し、ピストン及びクランクなどの慣性力と筒内圧とが同等となった時点t2で、図4(b)に示すようにクランク軸26は完全に停止する。
次に、時点t3において、ECU35から内燃機関1の始動指令が出された場合には、まず、モータジェネレータ28が駆動を始め、図4(c)に示すようにクランク軸26が回転を再開することにより、始動時密閉気筒2aのピストンが上昇する。そして、そのまま圧縮上死点を通過する。そして、始動時密閉気筒2aにおいて圧縮上死点を通過した後の時点t4において、図4(d)に示すように始動時密閉気筒2aの点火栓29が点火され、燃焼が行われる。そうすると、始動時密閉気筒2aにおいてクランク軸26を回転させる駆動力が発生し、モータジェネレータ28の駆動力を併用しながら内燃機関1が始動される。
以上、説明したような着火併用停止始動制御によれば、内燃機関1の始動時におけるモータジェネレータ28の負荷を大幅に低減することができ、消費電力を低減することができる。なお、本実施例における始動時着火手段は、上記の着火併用停止始動制御を実行するECU35を含んで構成される。
また、上記の着火併用停止始動制御において、内燃機関1の停止時に回転数が減少する過程においては、始動時密閉気筒2aのみに対して燃料噴射が行われるのでなく、他の気筒2に対しても同様に燃料噴射が行われるようにしてもよい。そうすれば、内燃機関1の停止時に始動時密閉気筒2aを予測する必要がなくなり、制御を簡略化することができる。
ここで、時点t2と時点t3との間の、内燃機関1のクランク軸26が完全に停止した期間においては、始動時密閉気筒2aの筒内圧がクランクケース4側の内圧(略大気圧)に対して高い状態が継続される。そうすると、始動時密閉気筒2aに封入された燃料が、
ピストンとボアの隙間などからクランクケース4側に漏れ出ることとなり、始動時密閉気筒2a中に残存する燃料の量が徐々に減少する。
そうすると、時点t4において始動時密閉気筒2aの点火栓29が点火されて燃焼が行われた場合にも、充分な駆動力を得ることができず、内燃機関1の始動性が悪化したり、モータジェネレータ28の消費電力を充分に低減できなかったりする場合があった。さらには、t2からt3までの期間において、始動時密閉気筒2aから漏れ出た燃料によって内燃機関1のエミッションが悪化する場合があった。
そこで、本実施例においては、内燃機関1のクランク軸26が停止している期間においては内燃機関1の圧縮比を低減することにより、始動時密閉気筒2aからの燃料が漏れ出ることを抑制することにした。
本実施例における圧縮比の制御について図5に示す。本実施例においては、時点t1においてECU35によって内燃機関1の停止指令が出た際には、それまで継続していた、内燃機関1の運転状態に応じた圧縮比に変更する制御は停止される。従って、時点t1以降は、時点t1における内燃機関1の運転状態に対応した圧縮比が維持される。次に、時点t2においてクランク軸26が停止した直後に、内燃機関1の圧縮比を、始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等になる圧縮比まで低減する。具体的には、筒内圧センサ22の出力と、内圧センサ23の出力とをECU35に読み込み、両者から得られる圧力の値が等しくなるまで圧縮比を低減するべくモータ12に通電する。
そして、時点t3において、ECU35によって内燃機関1の始動指令が出された際には、モータジェネレータ28の駆動が開始されると同時に、圧縮比を始動時圧縮比まで上昇させる。この始動時圧縮比は、内燃機関1の始動時において、内燃機関1の停止前に始動時密閉気筒2aに供給された燃料が略全量残存していると仮定した場合に、内燃機関1の充分な始動性と暖機の促進が期待できる圧縮比であり、予め実験的に求められたものである。
以上のように、本実施例において説明した圧縮比の制御によれば、内燃機関1の停止前に始動時密閉気筒2aに供給された燃料が、内燃機関1の停止中において始動時密閉気筒2aに封入された状態では、内燃機関1の圧縮比を、始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等になるまで低下させる。このことにより、内燃機関1の停止中において始動時密閉気筒2aから燃料が漏れ出ることを抑制できる。その結果、次回の内燃機関1の始動時における始動性を向上させることができ、内燃機関1の停止中におけるエミッションの悪化を抑制することができる。
なお、上記における、始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等になる圧縮比は、本実施例における停止時圧縮比に相当する。また、上記の実施例においては、時点t2においてクランク軸26が停止した直後に、内燃機関1の圧縮比を、始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等になる圧縮比まで低減したが、この時期についてはこれに限られるものではない。例えば、始動時密閉気筒2aに燃料が供給され圧縮行程となることにより、供給された燃料が封入された直後に、内燃機関の圧縮比を始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等になる圧縮比に変更してもよい。
また、上記の実施例においては、時点t3において、ECU35によって内燃機関1の始動指令が出された際には、モータジェネレータ28の駆動が開始されると同時に、圧縮比を始動時圧縮比まで上昇させたが、この時期についてもこれに限られるものではない。要するに、始動時密閉気筒2aの点火栓29に点火される前に圧縮比が始動時圧縮比まで
上昇していればよいので、時点t3前後の時期において圧縮比が始動時圧縮比に適宜変更されればよい。
また、本実施例は、運転者の意思によって内燃機関1を停止始動する場合に適用してもよいし、内燃機関1の運転状態に応じて自動的に停止始動されるいわゆるエコラン制御が行われる場合に適用してもよい。
次に、本発明における圧縮比の制御の実施例2について説明する。本実施例は、実施例1において説明した圧縮比の制御をより簡略化したものである。具体的には、始動時密閉気筒2aの筒内圧及び、クランクケース4の内圧を検出することを不要とした実施例である。従って、本実施例における内燃機関1には、筒内圧センサ22及び内圧センサ23は備えられていない。
図6には、本実施例における圧縮比の制御について示した。本実施例においては、時点t1において内燃機関1の停止指令が出された際に、内燃機関1の運転状態に応じた圧縮比に変更する制御を停止し、その後、始動時密閉気筒2aが圧縮行程となる前の段階で、内燃機関1の圧縮比を中〜高圧縮比の一定値である停止前圧縮比に変更する。
そして、時点t2において、内燃機関1のクランク軸26が停止した直後に、内燃機関1の圧縮比を停止時圧縮比に変更する。本態様における停止時圧縮比は、予め定められた一定値である。この停止時圧縮比は、圧縮比を上述の停止前圧縮比とした状態において始動時密閉気筒2aに燃料及び空気を封入した場合に、クランク軸26が停止した後に圧縮比をこの圧縮比とすれば、始動時密閉気筒2aの筒内圧が低下し、クランクケース4の内圧と同等になると考えられる圧縮比の値であり、停止前圧縮比との関係において予め設定された一定値である。なお、この際、クランク軸26の停止時におけるクランク角は常に略一定であるという仮定をしている。時点t3以降の圧縮比の制御は実施例1と同様であるので説明を省略する。
以上、説明したように、本実施例においては、予め設定された停止前圧縮比と、圧縮比が停止前圧縮比とされた状態で始動時密閉気筒2aに燃料が密閉された場合に、その筒内圧がクランクケース4の内圧と同等となる圧縮比としての停止時圧縮比を予め実験的または理論的に求めておき、始動時密閉気筒2aに燃料が密閉される以前に内燃機関1の圧縮比を停止前圧縮比に変更するとともに、時点t2の直後において、内燃機関1の圧縮比を停止時圧縮比に変更した。
この制御を行うことにより、始動時密閉気筒2aの筒内圧及び、クランクケース4の内圧をモニターする必要もなくなり、より簡単な制御で、始動時密閉気筒2aから燃料が漏れ出ることを抑制することができる。
なお、この際、停止時圧縮比の値は、必ずしも始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とが同等となる圧縮比である必要はない。すなわち、時点t2における始動時密閉気筒2aの筒内圧より、始動時密閉気筒2aの筒内圧を低減できる圧縮比であればよい。例えば、モータ12に通電することによって変更可能な最低の圧縮比としたとしても始動時密閉気筒2aの筒内圧とクランクケース4の内圧とを同等にできないような場合には、停止時圧縮比を、モータ12に通電することによって変更可能な最低の圧縮比としてもよい。
また、上述の実施例においては、時点t2におけるクランク軸26の停止時のクランク角は、停止前圧縮比が一定であればほぼ一定であることを前提としているが、時点t2に
おけるクランク軸26のクランク角を、モータジェネレータ28を用いて常に一定値としてもよい。そうすれば、時点t2における始動時密閉気筒2aの筒内圧をより正確に一定値とすることができ、停止時圧縮比に変更した際の始動時密閉気筒2aの筒内圧の値をより正確に制御することができる。
次に、本発明の実施例3について説明する。本実施例においては、実施例1で説明した始動時圧縮比の設定の仕方を変更した場合についての例である。本実施例における内燃機関1と、実施例1で説明した図3における内燃機関1との相違点は、本実施例における内燃機関1は、吸気弁18の開弁時期を変更可能な図示しないVVT機構を備えている点である。また、本実施例における内燃機関1では、始動時においては、VVT機構によって吸気弁18の開弁時期を遅らせて内燃機関1の気筒への吸入空気量を減少させている。
以下、本実施例における圧縮比の制御の前提となる、内燃機関1の始動時における制御について説明する。
ここで、図3に示したような、内燃機関1のクランク軸26とモータジェネレータ28の出力軸が直接ベルト27を介して結合されており、クラッチを有さない構成について考える。このような場合、内燃機関1の始動時にいて、モータジェネレータ28の負荷が大きくなり、さらに、回転体全体の重量が大きくなるので、モータジェネレータ28及び内燃機関1における振動が大きくなる場合がある。
これは、先述した、着火併用停止始動制御を行って、モータジェネレータ28の負荷を低減させた場合においても問題となる場合がある。このような場合には、内燃機関1の始動時において、VVT機構によって吸気弁18の開弁時期を遅らせ、内燃機関1の気筒2に対する吸入空気量を減少させて、モータジェネレータ28の負荷をさらに低減させることで、図7に示すように、内燃機関1の始動時における筒内圧の変化を低減させることができ、結果として内燃機関1の始動時における振動を抑制することができる。なお、本実施例における吸入空気量低減手段は、VVT機構を含んで構成される。また、VVT機構によって吸気弁18の開弁時期を遅らせ、内燃機関1の気筒2に対する吸入空気量を減少させる制御は、内燃機関1の始動時において特にモータジェネレータ28及び内燃機関1における振動が大きくなる期間中に行われ、この期間は本実施例における第1所定時間に相当する。
しかし、気筒2への吸入空気量を減少させることによって内燃機関1の始動時における振動を抑制した場合、モータジェネレータ28の始動時の回転数をかなり高回転数にしないと、内燃機関1における気筒2の筒内圧を着火に必要な着火可能限界圧力まで上昇させることが困難になる場合がある。これは、内燃機関1の気筒2への吸入空気量が少なくなると、吸入された混合気の量に対する、ピストンの往復運動時にピストンとボアの間の隙間から漏れ出る混合気の量が相対的に増加するため、気筒2における筒内圧を上昇させるためには、モータジェネレータ28の始動時における回転数を高くすることにより内燃機関1の回転数を高くして、クランク軸26の一回転あたりにピストンとボアの隙間から漏れ出る混合気の量を相対的に減少させる必要があるからである。
そうすると、内燃機関1の始動時における吸入空気量を減少させた場合には、図8に示すようにモータジェネレータの始動時における回転数をN1程度まで高くしないと、始動時における筒内圧が着火可能限界圧力に到達しない場合があった。
このような場合、内燃機関1の始動時における振動は抑制できるものの、モータジェネレータ28の始動時における回転数を高くしなければならないため、内燃機関1を含めた
システムの効率が低下してしまい、安定した始動が困難となる場合があった。そこで、本実施例においては、このような内燃機関1の構成をとる場合、始動時圧縮比を、始動時におけるモータジェネレータ28の回転数を、内燃機関1が充分安定した始動が出来る程度の回転数N2まで低下できる圧縮比まで上昇させることとした。
なおここで、内燃機関1の圧縮比を上昇させることによって気筒2における筒内圧を上昇させた場合、吸入空気量を増加させることによって気筒2における筒内圧を上昇させた場合と比較して、内燃機関1の振動を抑制できることが実験的、理論的に判っている。
従って、VVT機構によって内燃機関1の気筒2への吸入空気量を減少し、気筒2における筒内圧を低減することにより、内燃機関1の始動時における振動を抑制する制御に加え、内燃機関1の始動圧縮比を、モータジェネレータ28の始動時における回転数を、内燃機関1が充分に安定して始動できる回転数であるN2程度まで低減できる値に設定する。そうすることによって、内燃機関1の始動時における振動を抑制したまま、気筒2における筒内圧を回復させることができ、内燃機関1の始動時の安定性を向上させることができる。
ここで、上述した、始動時におけるモータジェネレータ28の回転数を、内燃機関1が充分安定した始動が出来る程度の回転数N2まで低下できる圧縮比は、本実施例における第2始動時圧縮比に相当する。また、内燃機関1の圧縮比を始動時におけるモータジェネレータ28の回転数をN2まで低下できる圧縮比まで上昇させる期間については、VVT機構によって内燃機関1の気筒2に対する吸入空気量を減少させる制御が行われる期間の全てを含むことが望ましく、内燃機関1の始動開始後、自発運転に移行するまでの期間としてもよい。この期間は本実施例における第2所定期間に相当する。
なお、上記の実施例は、内燃機関1のクランク軸26とモータジェネレータ28の出力軸がベルト27で結合されている例について説明したが、本発明の実施例を、内燃機関1のクランク軸26とモータジェネレータ28の出力軸がギア列によって結合されている構成に適用してもよく、いわゆるハイブリッド車両に対して適用してもよい。さらに、モータジェネレータ28の代わりにスタータモータが結合された構成に適用してもよい。